説明

耐熱性導電糸及びその製造方法

【課題】合成繊維は、一般的に天然繊維に比べ摩擦によって静電気が発生しやすく、衣服が身体にまとわり付いたり、埃を吸着して汚れたり、着脱時に放電して不快感を与える等の問題があった。また、合成繊維は、天然繊維に比べ熱に弱く、用途によっては耐熱性を付与する必要があった。また、合成繊維に導電性能を付与したものは、付与していないものに比べ溶けやすく耐熱性に劣る傾向にあり、導電性と耐熱性とを兼ね備えた繊維が求められている。
【解決手段】 本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、耐熱性を有する糸の表面を導電性ポリマーで被覆することにより、糸の有する性能を損なわないで、耐熱性と導電性に優れた糸が得られることを見出し本発明に到達した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性と安定した導電性能の得られる耐熱性導電糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、一般的に天然繊維に比べ摩擦によって静電気が発生しやすく、衣服が身体にまとわり付いたり、埃を吸着して汚れたり、着脱時に放電して不快感を与える等の問題があった。また、合成繊維は、天然繊維に比べ熱に弱く、用途によっては耐熱性を付与する必要があった。また、合成繊維に導電性能を付与したものは、付与していないものに比べ溶けやすく耐熱性に劣る傾向にあり、導電性と耐熱性とを兼ね備えた繊維が求められている。
【0003】
合成繊維に導電性や耐熱性を付与する方法としては、繊維自体に導電成分や耐熱成分を含有させる方法と、後加工によって導電成分や耐熱成分を添加する方法に大別される。特許文献1においては、ハロゲン含有ビニル系単量体30〜70重量%を共重合してなるアクリロニトリル系共重合体に、該共重合体に対して5〜50重量%の導電性微粒子(カーボンブラック)を含有する、優れた導電性と難燃性を兼ね備えたアクリル系繊維を開示している。しかしながら、この方法では優れた導電性と耐熱性を得ようとすれば、ハロゲン含有ビニル系単量体や導電性微粒子の含有量を増やすことになり、製糸性や糸強度、伸縮性能等の低下の問題や、焼却時の環境問題等もあり、実施が困難なものになっていた。
【0004】
また、特許文献2においては、導電性を有する布帛の表面に、難燃剤(ハロゲン系化合物、リン系化合物、窒素系化合物、アンチモン系化合物等)を含む樹脂層を形成し、導電性と難燃性を備えた布帛を開示している。しかしながら、この方法は、布帛での加工方法で産業資材的用途では問題ないが、織編物等のもつ手触り感や、柔らかな風合の求められる分野では好適ではない。
【0005】
また、特許文献3では、画像形成装置用の導電ブラシとして、パイル糸を備えるパイル織物を使用し、パイル糸に導電性物質を練り込んだアラミド繊維を使用した導電ブラシを開示している。しかしながら、この方法では優れた導電性を得ようとすれば、導電性微粒子の含有量を増やさざるを得なくなり、製糸性や糸強度の低下の問題は残っていた。
【特許文献1】特開2006−348439
【特許文献2】特開2004−211247
【特許文献3】特開2004−93948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、耐熱性を有する糸の表面に導電加工を施し、糸の有する性能(例えば、伸縮性、強度、風合等)を損なわない、導電性能の劣化の少ない耐熱性導電糸を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、耐熱性を有する糸の表面を導電性ポリマーで被覆することにより、糸の有する性能を損なわないで、耐熱性と導電性に優れた糸が得られることを見出し本発明に到達した。前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1]耐熱性を有する糸に、前処理として、ドーパント、酸化剤、架橋剤及びバインダー樹脂を含有する水性処理液を前記糸の少なくとも表面に付着せしめる前処理工程と、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る重合工程と、後処理として、ドーパント、酸化剤、架橋剤及びバインダー樹脂を含有する水性処理液を、前記重合工程を経た糸の少なくとも表面に付着せしめる後処理工程を含むことを特徴とする耐熱性導電糸の製造方法。
【0009】
[2]前記水性処理液における、ドーパントの含有率が0.1〜10質量%、酸化剤の含有率が0.1〜10質量%、架橋剤の含有率が0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01〜2.0質量%であることを特徴とする前項1に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【0010】
[3]前記前処理工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめることを特徴とする前項1又は2に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【0011】
[4]前記重合工程において、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸100質量部に対してポリピロールを0.2〜5質量部の割合で付着せしめることを特徴とする前項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【0012】
[5]前記後処理工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめることを特徴とする前項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【0013】
[6]前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過流酸塩を用い、前記架橋剤としてメラミン樹脂を用いることを特徴とする前項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【0014】
[7]前項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で製造された耐熱性導電糸であって、表面抵抗率が1×10Ω/□未満である耐熱性導電糸。
【発明の効果】
【0015】
[1]の発明では、耐熱性を有する糸に、前処理として、ドーパント、酸化剤、架橋剤及びバインダー樹脂を含有する水性処理液を前記糸の少なくとも表面に付着せしめるので、次の工程で気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、ピロールモノマーが重合し、耐熱性を有する糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されて、導電性被膜を形成し、導電性能が付与される。さらに、その後、ドーパント、酸化剤、架橋剤及びバインダー樹脂を含有する水性処理液を、前記ポリピロールで被覆された糸の少なくとも表面に付着せしめるので、未反応のピロールモノマーの重合が進み、バインダー樹脂によって糸の表面にポリピロールの被膜がしっかりと固着され、ポリピロールの脱落が防止された耐熱性と導電性を兼ね備えた糸の製造方法とすることができる。
【0016】
[2]の発明では、前記水性処理液における、ドーパントの含有率が0.1〜10質量%、酸化剤の含有率が0.1〜10質量%、架橋剤の含有率が0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01〜2.0質量%であるので、耐熱性を有する糸の表面でピロールモノマーの酸化重合がすすみ、確実な導電性能をえることのできる導電性被膜を形成し、耐熱性と導電性を兼ね備えた糸の製造方法とすることができる。
【0017】
[3]の発明では、前記前処理工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布するので、水性処理液がムラなく適量に制御して塗布され、糸100質量部に対して水性処理液の固形分が0.2〜20質量部付着せしめられ、次の工程で気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、ピロールモノマーが重合し、耐熱性を有する糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されて、導電性被膜を形成し、確実な導電性能の得られる導電性被膜を形成し、耐熱性と導電性を兼ね備えた糸の製造方法とすることができる。
【0018】
[4]の発明では、前記重合工程において、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸100質量部に対してポリピロールを0.2〜5質量部の割合で付着せしめるので、確実な導電性能をえる導電性被膜を形成することができ、耐熱性と導電性を兼ね備えた糸の製造方法とすることができる。
【0019】
[5]の発明では、前記後処理工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布するので水性処理液がムラなく適量に制御して塗布され、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめられるので、未反応のピロールモノマーの重合が進み、バインダー樹脂によって糸の表面にポリピロールの被膜がしっかりと固着され、ポリピロールの脱落が防止された耐熱性と導電性を兼ね備えた糸の製造方法とすることができる。
【0020】
[6]の発明では、前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過流酸塩を用い、前記架橋剤としてメラミン樹脂を用いるので、ピロールモノマーの酸化重合が効果的にすすみ、確実な導電性能の得られる導電性被膜を形成し、耐熱性と導電性を兼ね備えた糸の製造方法とすることができる。
【0021】
[7]の発明では、前項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で製造された耐熱性導電糸であるので、表面抵抗率が1×10Ω/□未満となり、耐熱性と導電性を兼ね備えた耐熱性導電糸とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明における耐熱性を有する糸は、従来公知の耐熱性糸でよい。例えばアラミド繊維糸、ポリフェニレンサルファイド糸等を例示できる。アラミド繊維は、芳香族ポリアミドで構成され高耐熱性高強度のエンジニアリングプラスチックとして知られ、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、熱可塑性の結晶性プラスチックで、熱変形温度260℃以上の耐熱性があり、ほとんどの酸・アルカリ・有機溶剤に侵されることのない、耐薬品性に優れた樹脂である。
【0023】
前記水性処理液としては、ドーパント、酸化剤、架橋剤が水に溶解し、バインダー樹脂が分散媒である水とエマルジョンを形成してなる水性エマルジョン液が好ましく用いられる。
【0024】
前記ドーパントは、ポリピロールの導電性を向上させるための物質であり、特に限定されないが、例えばパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレン等の芳香族スルホン酸等が挙げられる。
【0025】
前記酸化剤は、ピロールモノマーを酸化重合させるための物質であり、特に限定されないが、例えば過硫酸アンモニウム、塩化鉄(3価)、硫酸鉄(3価)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(2価)等が挙げられる。また、ドーパントとして使用されるスルホン酸の第2鉄塩(例えばパラトルエンスルホン酸の第2鉄塩)も酸化剤として使用できる。
【0026】
前記架橋剤は、ポリマー同士を連結させるための物質であり、特に限定されないが、メチル化メラミン樹脂、メチル化尿素樹脂、エポキシ樹脂、N−N‘−メチレンビスアクリルアミド、ジメタクリル酸エチレングリコール等が挙げられる。
【0027】
前記バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等のホモポリマー又はコポリマーに代表されるビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、或いはこれらの変性樹脂等が挙げられる。
【0028】
前記水性処理液における、ドーパントの含有率は0.1〜10質量%、酸化剤の含有率は0.1〜10質量%、架橋剤の含有率が0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01〜2.0質量%に設定するのが好ましい。このような含有率範囲に設定することにより、後の重合工程において、ポリピロールの生成効率を高く維持し、かつポリピロールを糸に十分接着させることができる。
【0029】
前記水性処理液を耐熱性を有する糸の少なくとも表面に付着せしめる方法として、特に限定されるものではないが、例えばロールコーターやスプレーによる塗布等が挙げられる。中でも、ロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して処理液の固形分(ドーパント、酸化剤及びバインダー樹脂)を0.2〜20質量部付着せしめるのが好ましい。ロールコーターを用いることで、より少量の固形分を均一に且つ糸の表面領域に選択的に付着せしめることができるので、導電糸の柔らかさを確保しつつ、十分な導電性と耐熱性を得ることができる。
【0030】
次に、このようにして水性処理液を前記耐熱性を有する糸の少なくとも表面に付着せしめた糸に気相状態のピロールモノマーを接触させる。(重合工程)これにより、気相状態のピロールモノマーが糸の表面の水性処理液と接触して重合するので、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる耐熱性を有する導電糸を得ることができる。例えば、前記水性処理液が付着した糸を反応室に入れた後、反応室内にピロールモノマーの蒸気(気体)を充満させ、この状態で所定時間(例えば、酸化剤の全量がほぼ反応して重合反応が進行しなくなるまで)放置することによってピロールの気相重合を行い、耐熱性を有する糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る。
【0031】
ピロールモノマーの大気圧における沸点は130℃であるが、130℃以下の温度においても飽和蒸気圧に達するまで空気中で気化する。そのため、例えば反応室内に液体ピロールのエバポレーターを設置し気化したピロールと液体ピロールとを平衡状態に維持し、この平衡状態の雰囲気に前記水性処理液が付着した耐熱性を有する糸を配置する。或いは、液体ピロールを収容したエバポレーターを室外に設置し、窒素等の不活性キャリアーガスでバブリングを行うことによって、気化したピロールを不活性キャリアーガスと共に反応室内へ供給するようにしても良い。エバポレーターを反応室の内外のいずれに設置する場合でも、エバポレーターの液体ピロールの温度は通常5〜100℃に設定するのがよく、中でも20〜50℃に設定するのが好ましい。この重合工程において、ピロールの気相重合反応は、前記水性処理液が付着した糸において酸化剤が消費されるのに伴って自然に停止する。
【0032】
前記重合工程では、前記水性処理液が付着した耐熱性を有する糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸100質量部に対してポリピロールを0.2〜5質量部の割合で付着せしめるのが好ましい。0.2質量部以上とすることで表面抵抗率が1×1010Ω/□未満である導電性に優れた耐熱性導電糸を得ることができると共に、5質量部以下とすることで糸の柔らかさを十分に確保できる。中でも糸100質量部に対してポリピロールを0.5〜3質量部の割合で付着せしめるのが特に好ましい。
【0033】
前記ピロールモノマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ピロールを単独で用いてもよいし、或いはピロール及び該ピロールと共重合可能なピロール誘導体(N−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、2,2‘−ビピロール等の1種又は2種以上)の混合モノマーを用いても良い。即ち、ポリピロールとしては、ピロールのホモポリマーであっても良いし、或いはピロールと、ピロール誘導体との共重合体であっても良い。
【0034】
次に、前記重合工程を経て得られた耐熱性を有する導電糸に、さらに後処理として、ドーパント、酸化剤、架橋剤及びバインダー樹脂を含有する水性処理液を、前記重合工程を経た耐熱性を有する糸の少なくとも表面に付着せしめる。これによって、未反応のピロールモノマーの重合が進み、バインダー樹脂によって糸の表面にポリピロールの被膜がしっかりと固着され、ポリピロールの脱落が防止された耐熱性と導電性を兼ね備えた糸とすることができる。
【0035】
さらに、後処理工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて前記糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめることが好ましい。ロールコーターを用いることで、より少量の固形分を均一に且つ糸の表面領域に選択的に付着せしめることができるので、糸の柔らかさを確保しつつ、十分な導電性を得ることができる。
【0036】
次に、後処理工程を経て得られた耐熱性を有する導電糸を乾燥し、水等で洗浄することによって、残存しているフリーのドーパント等を除去し、次いで乾燥処理することによって、耐熱性と導電性を兼ね備えた糸を得ることができる。
【実施例】
【0037】
次に、この発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。なお、摩擦堅牢度と表面抵抗値の測定方法は以下の方法でおこなった。
【0038】
<摩擦堅牢度>JIS L0949−2004の2型(グレースケール判定)に準拠して導電糸の摩擦堅牢度を評価した。摩擦堅牢度の「級」の数値の大きいほど、耐摩擦性に優れていることを示す。3級以上を合格とした。
【0039】
<表面抵抗値>表面抵抗測定器(四探針法;JIS K7194)を用いて導電糸の表面抵抗率のレベルを評価した。評価結果の各数値の意味は下記のとおりである。
「10以上」・・・・・・1.0×1010Ω/□以上
「9」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×1010Ω/□未満
「8」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
「7」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
「6」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
「5」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
「4」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
「3」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
「2」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
「1」・・・・・・1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□未満
【0040】
<耐熱性試験>導電性を付与した糸を180℃のオーブン中に24時間放置し、表面抵抗率を測定し、表面抵抗率のレベルに変化がないか確認し、変化がないものを合格とした。
【0041】
<糸の柔らかさ(風合い)評価法耐熱性試験>導電糸に手で触れた際の感触で下記三段階で評価した。
「〇」・・・・・柔らかさが感じられた。
「△」・・・・・やや硬さが感じられた。
「×」・・・・・硬さ感があって感触が良くなかった。
【0042】
<実施例1>
167デシテックス/48fポリフェニレンサルファイド糸(東洋紡績株式会社製原着糸)の表面に水性の処理液をロールコーターを用いて塗布した。(前処理工程)前記水性処理液としては、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、メチル化メラミン樹脂(架橋剤)を1質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%含有した水系溶液を用いた。なお、この水性処理液では、過硫酸アンモニウム、パラトルエンスルホン酸、メチル化メラミン樹脂は水に溶解する一方、ポリエステル樹脂は、分散質であり、分散媒である水とエマルジョンを形成している。前記ロールコーターによる塗布でポリフェニレンサルファイド糸(原着)の100質量部当り水性処理液を10質量部付着せしめたので、ポリフェニレンサルファイド糸(原着)の100質量部当りの水性処理液の固形分(過硫酸アンモニウム、パラトルエンスルホン酸、メチル化メラミン樹脂、ポリエステル樹脂)の付着量は0.3質量部であった。
【0043】
次に、処理液の付着したポリフェニレンサルファイド糸をマングルで絞り反応室に入れた後、反応室内にピロールの蒸気(気体)を充満させ、この状態で10分間放置してピロールの気相重合を行い、ポリフェニレンサルファイドマルチフィラメント糸の表面の少なくとも一部にポリピロールを被覆せしめた。(重合工程)しかる後に、ポリピロールの付着したポリフェニレンサルファイド糸を反応室から取り出し、再び前記水性処理液をロールコーターによる塗布でポリフェニレンサルファイド糸(原着)の100質量部当り水性処理液を10質量部付着せしめ(後処理工程)、未反応のピロールモノマーの重合を進め、120℃で5分間乾燥した後、水洗して残存するフリーのドーパント等を除去し、さらに乾燥処理(120℃で5分間)することによって、耐熱性の導電糸を得た。
【0044】
次に、この耐熱性導電糸の表面抵抗値、摩擦堅牢度、耐熱性を測定し表1に記した。いずれも満足のいく数値で、摩擦に強く、耐熱性のある導電糸を得ることができた。
【0045】
<実施例2>
ロールコーターによる塗布でポリフェニレンサルファイド糸(原着)の100質量部当り水性処理液を50質量部付着せしめた(前処理工程及び後処理工程に付着せしめた)以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0046】
<実施例3>
ロールコーターによる塗布でポリフェニレンサルファイド糸(原着)の100質量部当り水性処理液を100質量部付着せしめた(前処理工程のみ、後処理工程は実施例1と同じ)以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0047】
<実施例4>
ロールコーターによる塗布でポリフェニレンサルファイド糸(原着)の100質量部当り水性処理液を5質量部付着せしめた(前処理工程及び後処理工程に付着せしめた)以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0048】
<実施例5>
ロールコーターによる塗布でポリフェニレンサルファイド糸(原着)の100質量部当り水性処理液を150質量部付着せしめた(前処理工程のみ、後処理工程は実施例1と同じ)以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0049】
<実施例6>
水性処理液として(前処理工程及び後処理工程とも)、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を2質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を2質量%、メチル化メラミン樹脂(架橋剤)を2質量%、ポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を2質量%含有した水系溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0050】
<比較例1>
実施例1において、水性処理液として(前処理工程及び後処理工程とも)、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を1質量%、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を1質量%、メチル化メラミン樹脂(架橋剤)を1質量%、含有した水系溶液を用いて処理し、後処理工程の後にポリエステル樹脂(バインダー樹脂)を1質量%分散含有した水系エマルジョン液に浸漬し、水切り後に130℃で15分間乾燥した以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0051】
<比較例2>
実施例1において、水性処理液の、過硫酸アンモニウム(酸化剤)を0とした以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0052】
<比較例3>
実施例1において、水性処理液の、パラトルエンスルホン酸(ドーパント)を0とした以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0053】
<比較例4>
実施例1において、水性処理液の、 メチル化メラミン樹脂(架橋剤)を0とした以外は、実施例1と同様にして耐熱性の導電糸を得た。
【0054】
<比較例5>
実施例1において、ポリフェニレンサルファイド糸をポリエステル糸とした以外は、実施例1と同様にして導電糸を得た。
【0055】
【表1】

【0056】
表から明らかなように、この発明の製造方法で製造された実施例1〜6の耐熱性の導電糸は、表面低効率が低く、導電性に優れていると共に高い耐熱性を示し、摩擦堅牢度も良好で十分な耐久性も具備していた。また、比較例1〜4に示すように、水性の処理液に酸化剤、ドーパント、架橋剤、バインダー樹脂のいずれか一つを欠く処理液で製造した耐熱性の導電糸では、十分な導電性と摩擦堅牢度を具備したものではなかった。また、ポリエステル糸に加工した比較例5では、耐熱性のある導電糸とならなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を有する糸に、前処理として、ドーパント、酸化剤、架橋剤及びバインダー樹脂を含有する水性処理液を前記糸の少なくとも表面に付着せしめる前処理工程と、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸の表面の少なくとも一部がポリピロールで被覆されてなる導電糸を得る重合工程と、後処理として、ドーパント、酸化剤、架橋剤及びバインダー樹脂を含有する水性処理液を、前記重合工程を経た糸の少なくとも表面に付着せしめる後処理工程を含むことを特徴とする耐熱性導電糸の製造方法。
【請求項2】
前記水性処理液における、ドーパントの含有率が0.1〜10質量%、酸化剤の含有率が0.1〜10質量%、架橋剤の含有率が0.1〜10質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01〜2.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【請求項3】
前記前処理工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程において、前記水性処理液が付着した糸を気相状態のピロールモノマーと接触させることによって、糸100質量部に対してポリピロールを0.2〜5質量部の割合で付着せしめることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【請求項5】
前記後処理工程において、前記水性処理液をロールコーターを用いて糸の少なくとも表面に塗布することによって、糸100質量部に対して水性処理液の固形分を0.2〜20質量部付着せしめることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【請求項6】
前記ドーパントとして芳香族スルホン酸を用い、前記酸化剤として過流酸塩を用い、前記架橋剤としてメラミン樹脂を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱性導電糸の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で製造された耐熱性導電糸であって、表面抵抗率が1×10Ω/□未満である耐熱性導電糸。

【公開番号】特開2011−1655(P2011−1655A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146130(P2009−146130)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】