説明

耐熱性布帛および耐熱性防護服

【課題】重量を増加させることなく、蜂の巣構造の組織にて凹を大きく、つまり厚みを増すことでことで、遮熱性を向上させ、かつ肌に接触する布帛面積も減らすことができるため、着用感も良好な遮熱布帛を提供することができる。
【解決手段】布帛の組織が蜂の巣組織であって、厚みが2.0mm以上かつ、目付けが160g/m以下であり、布帛を構成する糸条が、綿番手20〜 60で、撚り数が600〜1600である紡績糸条である耐熱性布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アラミド繊維からなる耐熱性布帛、更に詳しくは効果的に熱遮断空気層を形成する耐熱性防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服を構成する繊維として、従来は不燃性のアスベスト繊維、ガラス繊維等が使われていたが、環境問題や、動き易さなどの観点から近年では、アラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリベンズイミダゾールなどの耐熱難燃性の有機繊維が主として用いられている。更には布帛に輻射熱を防止する目的から金属アルミニウム等をコーティングあるいは蒸着等により、表面加工したものが多く表地層として使用されている。これらの方法によりかなり輻射熱に対して遮熱性は向上した。
【0003】
しかしながら、近年、輻射熱かつ伝導熱にも注目した評価方法が確立され、消防服開発において重要な指標となっている。(試験法番号:ISO17492)。この評価方法による基準をクリアするには、主要因である熱伝導を遅延させるために、防護服内に大量の空気層を作ることが有用となる。
【0004】
その対策として、これまでは、表地層及び遮熱層に空気層を形成させ、遮熱性能を向上させようということが多く検討されてきた。国際公開WO2005/099426(特表2007−530819号)に示されるように火炎暴露時に表地層に凹凸を形成する布帛が提案されているが、確かに空気遮断効果はある程度向上するものの、効果は未だ十分ではないのが現状である。また特許第3768395号に示されているような布帛を遮熱層に用いることで熱防護性が高く、軽量で柔軟な耐熱性防護服を提供できるとあるが、本発明は更に軽量でかつ遮熱性能の高い耐熱布帛、耐熱性防護服を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3768395号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/099426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前期のような問題点を解決し、重量を大幅に増加させることなく効果的に空気層を形成して遮熱性を向上させ、更に通気性を損なうことのない柔軟な耐熱性布帛、耐熱性防護服を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、軽量かつ、空気層を十分に持たせた耐熱性布帛を提供でき、かつ、表地層、中間層、及び遮熱層からなる耐熱性防護服において、該布帛を遮熱層に用いることで充分な量の空気層が確保でき、所望の耐熱性防護服が得られることを究明した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐熱性布帛を布帛の組織が蜂の巣組織であって、厚みが2.0mm以上かつ、目付けが160g/m以下であり、布帛を構成する糸条が、綿番手20〜 60で、撚り数が600〜1600である紡績糸条である耐熱性布帛とすることで、表地層、中間層、遮熱層からなる3層構造の複合布帛で構成された耐熱性防護服の遮熱層に用いることで効率よく空気層を確保して熱伝導を遅延し、優れた遮熱性を発揮できる。また、該表地層が、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とから構成されることにより該表地層としての十分な強度と、耐火炎性及び熱防護性に優れた性能を得ることができ、また、該中間層が、透湿防水層を有することにより外部からの水の浸入を防ぎ、かつ汗を蒸散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の耐熱性布帛は、軽量でかつ通気性に優れ、柔軟であり、充分な量の空気層の確保ができることから、耐熱性防護服の遮熱層として用いるのが効果的である。
【0010】
本発明の耐熱防護服用布帛は、表地層、中間層、遮熱層の3層をこの順序に重ね合わせた構造からなり、これらの層はいずれもアラミド繊維を主成分とする耐熱性繊維の布帛から構成されている。ここでいうアラミド繊維としては、優れたLOI値を有するポリメタフェニレンイソフタルアミドを用いることが有用であるが、布帛強度を向上させる目的でパラ系のアラミド繊維、すなわち、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、あるいは、これに第3成分を共重合した繊維を混合させることがより好ましい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体の一例としては、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミドを挙げることができる。
【0011】
パラ系のアラミド繊維、メタ系アラミド繊維に混合使用できる耐熱性繊維として、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃レーヨン繊維、難燃ビニロン繊維、難燃ウール繊維が挙げられる。
【0012】
まず表地層について説明する。表地層はメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維からなる布帛により構成され、布帛の種類としては、織編物、及び、不織布が使用されるが、実用的には強度の点で布帛とすることが好ましい。
【0013】
また、該メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維は、フィラメント、混繊糸、紡績糸等の形で使用できるが、混紡して紡績糸の形態で使用するものが好ましい。該パラ系アラミド繊維の混合比率としては、表地層を構成する全繊維重量に対して、1〜70重量%であることが好ましい。該パラ系アラミド繊維の混合比率が、1重量%未満では、火炎に暴露された際に布帛が破壊、つまり穴があくおそれがあり、また、70重量%を超えると、該パラ系アラミド繊維がフィブリル化して耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0014】
該表地層に対しては、コーティング法、スプレー法、又は、浸漬法などの加工法により、フッ素系の撥水樹脂を付与して加工することが、より高い耐水性能や耐薬品性能を有する防護服を得るためには好ましい。
【0015】
また、該表地層には、耐熱性、遮熱性を向上させるために無機化合物が担持されているものが好ましく例示される。該無機化合物としては、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、ジルニウム、鉄、アンチモン、マグネシュウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、若しくは、複合酸化物が好ましく例示される。なかでも、酸化アルミニウムのように表面に水酸基を多く有し、化合物当りの結晶水の割合が大きいものが特に好ましく例示される。
【0016】
該無機化合物の担持量は、表地層の重量当たり、3〜20重量%の範囲で使用したものがよい。該担持量が3重量%未満では、遮熱の効果が少なく、また、20重量を超えると風合いを損ねるおそれがあるので衣服に使用するには好ましくない。
【0017】
該表地層への無機化合物の担持方法については、コーティング法、浸漬法などの公知の種々の加工方法が使用可能である。また、該担持の処理の際に使用するバインダーとしては、難燃性を確保するために、メタ系アラミドポリマーの有機系薬剤への溶解物を用いることが最も好ましい。該有機溶剤としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどが好ましく使用される。また、臭素、フッ素等のハロゲン系原子が共重合されたアクリル樹脂、ウレタン樹脂などに代表される難燃性樹脂を用いることも可能である。さらに、非難燃タイプの樹脂を使用する場合には、ヘキサブロモシクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドテカンなどに代表されるハロゲン化シクロアルカン化合物や、トリクロロエチルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェートに代表される含ハロゲンリン酸エステル、あるいは、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェートに代表される非ハロゲン化燐酸エステルなどの難燃剤を添加したものを使用することにより難燃性を確保することができる。
【0018】
また、該中間層にはメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維、もしくはメタ系アラミド繊維及びパラ系アラミド繊維を用い、該織布にポリテトラフルオロエチレンの透湿防水層膜フィルムをラミネート加工したものを用いることにより、優れた耐水性及びたい薬品性も付与することができる。
【0019】
本発明の遮熱層は、布帛の厚みが2.0mm以上、好ましくは、2.0mm〜4.0mmである。布帛の厚みが2.0mm未満である場合には、充分な遮熱効果が得られない。また、4.0mmよりも厚みがある場合には、着用の際の動作性に問題があり、かつ重量も増すため好ましくない。
【0020】
該布帛は綿番手20 〜 60が望ましい。好ましくは40〜50番手である。20番手よりも小さい番手の場合は、織物としては硬く、着用感が良くない。また、60番手よりも大きい場合は、糸が細くなり生産性が悪い。
【0021】
また撚り数は600〜1600T/mが望ましい。好ましくは1200〜1500T/mである。更に好ましくは1300〜1400T/mである。600T/m未満の際は強度が充分ではなく、また、撚り数が1600より大きい場合はビリなどが発生する可能性もある。
【0022】
該布帛の目付けは160g/m以下が望ましい。好ましくは140g/m〜160g/mである。140g/m未満の際は充分な空気量が得られず、また遮熱性能が充分でない。160g/mよりも目付けが大きいとき遮熱性能は向上するが、これまでにない軽量化という点では好ましくない。
【0023】
また該布帛の通気性は30−200cm/cm・sが望ましい。30未満の場合は、着衣した際に不快感を感じ、200よりも大きい場合は、着衣感は良いが、十分な遮熱性能を得られない場合がある。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、実施例に用いた評価項目の測定は下記の方法で行った。
(1)遮熱性
ISO17492に基づき、下記式に示すように、対流熱と放射熱の複合熱源からの暴露開始からの銅製のセンサーの温度上昇曲線と、第二度火傷曲線であるStoll曲線に至る時間(s)に、複合熱源の熱流束80kW/mをかけた値、TTIで示した。
TTI=二度火傷に達する時間(s)×80kW/m
(2)厚み
JIS L 1018の布帛の厚さ測定に基づき試験を実施した。
(3)通気性
JIS L 1096 A法 フラジール形法に基づき試験を実施した。
【0025】
[実施例1]
表地層には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が90:10 となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(番手:40/2)を用いて2/1の綾織に織成した布帛(目付:240g/m)を用いた。
【0026】
中間層には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が95:5となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(番手:40/―)平織りに織成した。織布の(目付:80g/ m2 )にポリテトラフルオロエチレン製の透湿防水性フィルム( ジャパンゴアテックス社製)をラミネートしたものを使用した。
【0027】
遮熱層には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維( 帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が95:5となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(番手:40/―)を蜂の巣組織にて製織し、精練後、拡布を100℃で30分リラックス加工し、目付を150g/mのものにした。密度は94.5本/inchであった。
これらの表地層、中間層、遮熱層の3層を積層した布帛を作成した。布帛の遮熱性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0028】
[比較例1]
実施例1において、遮熱層の撚り数を変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。撚数を低下させたために厚みが減少し、充分な空気層が確保されないため、充分な遮熱性能ではなかった。
【0029】
[比較例2]
実施例1において、遮熱層の撚り数を変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。遮熱性能は高いものの、ビリや織物に皺が発生し、外観が良くなかった。
【0030】
[実施例2]
実施例1において、遮熱層紡績糸番手を20/−を使用して製織した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0031】
[比較例3]
実施例2において、撚り数を変更した以外は実施例2と同様に実施した。結果を表1に示す。厚みが少ないと充分な空気層が確保されないため、充分な遮熱性能ではなかった。
遮熱性能を向上させるためには、密度を上げる、また蜂の巣組織の基本組織を変更するなどの手段がある。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、重量を増加することなく、遮熱性を向上させることのできる耐熱性布帛および耐熱性防護服を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の組織が蜂の巣組織であって、厚みが2.0mm以上かつ、目付けが160g/m以下であり、布帛を構成する糸条が、綿番手20〜 60で、撚り数が600〜1600である紡績糸条である耐熱性布帛。
【請求項2】
JIS L 1096(A法フラジール形法)にて測定した際、通気性が30−200cm/cm・sである請求項1に記載の耐熱性布帛。
【請求項3】
複合構造を有する防護服であって、総目付けが520g/m以下で該表地層、中間層、及び遮熱層が下記(a ) 〜 ( c ) の要件を同時に満足する耐熱性防護服。
( a )表地層が、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とからなる布帛。
( b )中間層が芳香族アラミド繊維布帛と透湿防水層とからなる布帛。
( c )遮熱層が請求項1−2に記載の耐熱性布帛。

【公開番号】特開2010−242239(P2010−242239A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90113(P2009−90113)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】