説明

耐熱性樹脂組成物及び塗料並びにこれを用いたエナメル線

【課題】 密着性及びに可とう性に優れたポリアミドイミド系耐熱性樹脂組成物及びこの耐熱性樹脂組成物を塗膜成分とする塗料並びにこれを用いた密着性に優れたエナメル線を提供する。
【解決手段】 (a)酸無水物基を有する3価以上のポリカルボン酸又はその誘導体、(b)一般式(I)
【化1】


(式中、R及びRはH,アルキレン基又は芳香族基を示す)で表されるジオールおよび(c)芳香族ポリイソシアネートの混合物を反応させて得られたポリアミドイミド樹脂からなる耐熱性樹脂組成物及びこれを用いた塗料とエナメル線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル線用ワニス等として好適な、耐熱性樹脂組成物及び塗料並びにこれを用いたエナメル線に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れているため、各種の基材のコート剤として広く使用され、例えば、エナメル線用ワニス、耐熱塗料などとして使用されている。近年、エナメル線を使用する電気メーカーでは、機器の製造工程の合理化のため、自動高速巻線機を導入しているが、巻線加工時にエナメル線に対して伸長、摩擦、衝撃、屈曲等の厳しいストレスが加わるようになり、エナメル線に対してより機械的強度が要求されている。
【0003】
従来のポリアミドイミド線は、機械的強度が他のポリエステル、ポリエステルイミド線より優れるため、特に厳しい条件で作業される場合には、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸との反応により得られるポリアミドイミド樹脂が単層又は多層構造で適用されていた。しかし、近年、さらに巻線機の高速化及び巻線加工の複雑化が進み、上記ポリアミドイミド樹脂では充分に対応できなくなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−234866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、密着性及びに可とう性に優れたポリアミドイミド系耐熱性樹脂組成物及びこの耐熱性樹脂組成物を塗膜成分とする塗料並びにこれを用いた密着性に優れたエナメル線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)(a)酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体、(b)一般式(I)
【化1】

(式中、R及びRはH,アルキレン基又は芳香族基を示す)で表されるジオール及び(c)芳香族ポリイソシアネートの混合物を反応させて得られたポリアミドイミド樹脂からなる耐熱性樹脂組成物に関する。
【0007】
また本発明は、前記ポリアミドイミド樹脂が、数平均分子量9,000〜90,000のものである耐熱性樹脂組成物に関する。
【0008】
また本発明は、前記耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料に関する。
【0009】
さらに本発明は、前記塗料を用いて被膜を形成してなるエナメル線に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐熱性樹脂組成物及び塗料を用いれば、密着性及び可とう性の良好な塗膜を形成することができ、各種基材への絶縁皮膜、保護コートなどに有用であり、殊に、エナメル線等の近年の過酷な巻線、加工、組立作業にも好適に利用することができる。また本発明のエナメル線は、密着性および可とう性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリアミドイミド樹脂の製造に用いられる(a)酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体としては、例えば一般式(II)及び(III)で示す化合物を使用することができ、イソシアネート基又はアミノ基と反応する酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体であればよく、特に制限はない。耐熱性、コスト面等を考慮すれば、トリメリット酸無水物が特に好ましい。これらの酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体は、目的に応じて単独又は混合して用いられる。
【0012】
【化2】

【化3】

(ただし、両式中、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、Yは−CH2−、−CO−、−SO2−、又は−O−を示す。)
【0013】
また、これらのほかに必要に応じて、テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、m−タ−フェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等)、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸等)などを使用することができる。
【0014】
本発明における(b)一般式(I)で表されるジオールとしては、2,2−ビス(4‐ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンやジ(4‐ヒドロキシシクロヘキシル)メタンなどが挙げられ、これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0015】
本発明における(c)芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−[2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート等を使用することができる。これらを単独でもこれらを組み合わせて使用することもできる。必要に応じてこの一部としてヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族、脂環式イソシアネート及び3官能以上のポリイソシアネートを使用することもできる。
【0016】
また、経日変化を避けるために必要な場合ブロック剤でイソシアネート基を安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としてはアルコール、フェノール、オキシム等があるが、特に制限はない。
【0017】
耐熱性、溶解性、機械特性、コスト面等のバランスを考慮すれば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。
【0018】
本発明における(a)酸無水物基を有する3価以上のポリカルボン酸又はその誘導体と(b)一般式(I)で表されるジオールの混合物の配合割合(a)/(b)は、当量比で、0.99/0.01〜0.5/0.5とすることが好ましく、0.99/0.01〜0.7/0.3とすることがより好ましく、0.99/0.01〜0.8/0.2とすることが特に好ましい。0.99/0.01未満では、密着性が低下する傾向があり、0.5/0.5を超えると、耐熱性が低下する傾向がある。
【0019】
(a)のカルボキシル基及び酸無水物基と(b)の水酸基の総数に対する(b)ジア(c)芳香族ポリイソシアネートの配合割合は、(a)のカルボキシル基及び酸無水物基(b)水酸基の総数に対する(c)芳香族ポリイソシアネートの総数の比が0.6〜1.4となるようにすることが好ましく、0.7〜1.3となるようにすることがより好ましく、0.8〜1.2となるようにすることが特に好ましい。0.6未満又は1.4を超えると、樹脂の分子量を高くすることが困難となる傾向がある。
【0020】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂は例えば次の製造法で得ることができる。
(1)酸成分(a)及び(b)とイソシアネート成分(c)とを一度に使用し、反応させてポリアミドイミド樹脂を得る方法。
(2)酸成分(b)とイソシアネート成分(c)の過剰量とを反応させて末端にイソシアネート基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、酸成分(a)を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を得る方法。
(3)酸成分(a)の過剰量とイソシアネート成分(d)を反応させて末端に酸又は酸無水物基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、酸成分(b)とイソシアネート成分(c)を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を得る方法。
【0021】
このようにして得られたポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は9,000〜90,000のものであることが好ましい。数平均分子量が9,000未満であると、塗料としたときの造膜性が悪くなる傾向があり、90,000を超えると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解したときに粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、9,000〜70,000にすることがより好ましい。
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプリングして、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリエチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
【0022】
本発明の耐熱性樹脂組成物は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの溶媒に溶解され、適当な粘度に調整して塗料とことができる。塗料とする場合、一般に固形分は10〜50重量%とされる。
【0023】
得られた塗料を被塗物に塗布、硬化させて、被塗物表面に密着性及び可とう性に優れた塗膜を形成することができる。被塗物としては、銅線等の金属線が挙げられ、これに前記塗料を塗布、焼き付けを行うことにより密着性に優れたエナメル線が得られる。
【0024】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに(b)成分として2,2−ビス(4‐ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン24.0g(0.1モル)、(c)成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート50.1g(0.2モル)、N−メチル−2−ピロリドン111.2gを140℃/3h反応させる。さらに(a)成分として無水トリメリット酸172.9g(0.9モル)(c)成分としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート250.3g(1.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン1048.9gを仕込み、130℃まで昇温し、約3時間反応させて、不揮発分30重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【実施例2】
【0026】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに(b)成分として2,2−ビス(4‐ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン12.0g(0.05モル)、(c)成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート25.0g(0.1モル)、N−メチル−2−ピロリドン55.5gを130℃/4h反応させる。さらに(a)成分として無水トリメリット酸182.5g(0.95モル)(c)成分としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート250.3g(1.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン1040.7gを仕込み、130℃まで昇温し、約4時間反応させて、不揮発分30重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【実施例3】
【0027】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに(b)成分として2,2−ビス(4‐ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン48.1g(0.2モル)、(c)成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート100.1g(0.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン222.3gを140℃/4h反応させる。さらに(a)成分として無水トリメリット酸153.7g(0.8モル)(c)成分としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート200.2g(0.8モル)、N−メチル−2−ピロリドン949.3gを仕込み、130℃まで昇温し、約3時間反応させて、不揮発分30重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0028】
比較例1
(1)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに(a)成分としての無水トリメリット酸192.0g(1.00モル)、(c)成分としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン1047.7gを仕込み、130℃まで昇温し、4時間反応させて、不揮発分30重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0029】
比較例2
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに(b)成分として2,2−ビス(4‐ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン144.2g(0.6モル)、(c)成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート300.1g(1.2モル)、N−メチル−2−ピロリドン666.8gを130℃/4h反応させる。さらに(a)成分として無水トリメリット酸76.9g(0.4モル)N−メチル−2−ピロリドン549.9gを仕込み、130℃まで昇温し、約4時間反応させて、不揮発分30重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0030】
試験例
実施例1〜3及び比較例1、2で得られたポリアミドイミド樹脂溶液を用いて下記に示す。
焼付け条件に従って直径1.0mmの銅線に塗布し、焼付けを行い、エナメル線を製造した。
〔焼付条件〕
塗装回数:ダイス8回
焼付け炉:熱風式竪炉(炉長5m)
炉温:入口/出口=320℃/430℃
線速:14m/分
【0031】
得られたエナメル線皮膜は、いずれも外観上良好であった。各エナメル線皮膜の特性を下記の方法により試験し、結果を表1に示した。
(1)可撓性:JIS C 3003.8.1(1)に準じて調べた。
(2)ピンホール:JIS C 3003.36に準じて調べた。
(3)絶縁破壊電圧:JIS C 3003.11.(2)に準じて調べた。
(4)一方向式耐摩耗性:JIS C 3003.10に準じて行った。
(5)耐軟化温度:JIS C 3003.12(2)に準じて行った。
(6)密着性:密着性の評価は、急激切断法により行う。すなわち、適当な長さの両端を固定し、標線距離を250mmとして、約4m/sの引張速さで切断する。切断箇所において導体の露出部分(2ヶ所)の長さ(mm)を例えば、1.0+1.0のように表す。同様に、被膜が導体から剥離している部分(被膜の浮き)の長さを5.0+5.0のように表す。なお密着性の測定結果において、値が小さい方が被膜と導体との密着性が良好であることを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示した結果から、本発明のポリアミドイミド樹脂組成物を用いて得られたエナメル線(実施例1〜3)は、比較例1及び2と比べて、密着性及び可とう性に優れており、しかも耐軟化温度も良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸無水物基を有する3価以上のポリカルボン酸又はその誘導体、(b)一般式(I)
【化1】

(式中、R及びRはH,アルキレン基又は芳香族基を示す)で表されるジオールおよび(c)芳香族ポリイソシアネートの混合物を反応させて得られたポリアミドイミド樹脂からなる耐熱性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミドイミド樹脂が(a)と(b)の配合割合(a)/(b)が当量比で0.99/0.01〜0.5/0.5であり、(a)のカルボキシル基及び酸無水物基と(c)の水酸基の総数に対する((c)のイソシアネート基の比が0.6〜1.4である混合物を反応させて得られたポリアミドイミド樹脂である請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミドイミド樹脂が、数平均分子量9,000〜90,000のものである請求項1または2記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の耐熱性樹脂組成物を塗料成分としてなる塗料。
【請求項5】
請求項4記載の塗料を用いて被膜を形成してなるエナメル線。

【公開番号】特開2011−236384(P2011−236384A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111058(P2010−111058)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】