説明

耐熱性粘着テープ用基材

【課題】 低吸湿性で厚み精度かつ層間剥離性、耐電性に優れた耐熱性粘着テープ用基材を提供する。
【解決手段】 全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布からなる耐熱性粘着テープ用基材。全芳香族ポリエステルで構成された不織布の25℃、90%RH条件下での吸湿率が0.1%以下であり、不織布の密度が0.1〜1.3g/cm3であり、また不織布の平均厚さをA(μm)とするとき、不織布の厚み精度がA±0.1A(μm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融異方性ポリエステル繊維で構成された不織布からなり、低吸湿性で厚み精度かつ耐電性に優れた耐熱性粘着テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘着テープ用基材として、紙、布帛、不織布、プラスチックフィルム等が用いられている。特にプリント基板製造時のマスキングテープやその他の電子部品の固定用に用いられている耐熱性粘着テープは、200℃を超える温度の半田浴や焼成工程で剥離しない程度の耐熱接着性能が求められる。こうした耐熱性粘着テープ用基材としては、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルムあるいは液晶ポリマーからなるフィルム等が用いられている。しかしながら、これらの耐熱性に優れた粘着テープ用基材は、一般的に粘着剤に対するアンカー性能が十分でなく、特に両面粘着テープにあっては十分な接着力を賦与することができないという問題があった。
【0003】
上記問題点を解決するために、耐熱性粘着テープ用基材として高強力アラミド繊維からなる不織布を使用した耐熱性粘着テープが提案されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。しかしながらアラミド繊維は吸湿性が高いためにロールが変形するなどの問題があったり、厚み斑が大きいことにより絶縁性能斑が生じる、あるいは厚み斑のため、外装材への挿入が出来なくなるなどの問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−265142号公報
【特許文献2】特開2002−080806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基材として高強力繊維からなる不織布を使用した場合において低吸湿性でしかも厚み斑の少ない、耐熱性に優れた粘着テープの開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく本願発明者等は鋭意検討を重ねた結果、溶融異方性を示す全芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布を用いることにより低吸湿性でしかも厚み斑の少ない、耐熱性に優れた粘着テープが得られることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布からなる耐熱性粘着テープ用基材であり、好ましくは全芳香族ポリエステル繊維が溶融異方性芳香族ポリエステル繊維である上記の耐熱性粘着テープ用基材であり、さらに本発明は溶融異方性芳香族ポリエステルを溶融紡出すると同時に紡出物を高温高速流体で吹き飛ばし、捕集面上に集積してウェブを形成し、該ウェブにカレンダー加工及び加熱処理を施して不織布を製造するに際し、不織布の表面温度が90℃以上で溶融異方性芳香族ポリエステルの融点以下、線圧1kg/cm以上200kg/cm以下でカレンダー加工を行い、<溶融異方性芳香族ポリエステルの融点−40℃>以上、<溶融異方性芳香族ポリエステルの融点+20℃>以下の温度で3時間以上加熱処理することにより製造されてなる全芳香族ポリエステル不織布である上記の耐熱性粘着テープ用基材である。
【0008】
そして本発明は、より好ましくは全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布の25℃、90%
RH条件下での吸湿率が0.1%以下である上記の耐熱性粘着テープ用基材であり、さらに好まし
くは全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布の密度が0.1〜1.3g/cmである上記
の耐熱性粘着テープ用基材であり、そして好ましくは全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織
布の平均厚さをA(μm)とするとき、該不織布の厚み精度がA±0.1A(μm)である上記の
耐熱性粘着テープ用基材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粘着テープ用基材からなる粘着テープは、低吸湿性かつ優れた層間剥離性、耐熱性、耐電性を有しており、例えば電気絶縁材、絶縁・耐熱などのテープ基材、FRP、ハニカム構造材等に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において使用される不織布を構成する繊維は、強度15cN/dtex以上、弾性率500cN/dtex以上の高強力・高弾性率繊維であることが必要である。高強力・高弾性率繊維としては、超高分子量ポリエチレン繊維、パラ系アラミド繊維、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などが挙げられるが、これらの中では低吸湿性、耐熱性などの理由から溶融異方性ポリエステル繊維を用いることが必要である。
【0011】
本発明にいう溶融異方性ポリエステルとは、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルであり、例えば試料をホットステージに載せ窒素雰囲気下で加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。溶融異方性ポリエステルは芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸の反復構成単位を主成分とするものであるが、上記化1および化2に示す反復構成単位群の組合せからなるものが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
特に好ましくは、化1および化2に示される反復構成単位の組合せのうち(5)、(6)、(7)および(9)からなるポリマーであり、より好ましくは下記の化3中、(Q)の成分が4〜45モル%である芳香族ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
本発明で好適に用いる溶融異方性芳香族ポリエステルの融点は250〜350℃であることが好ましく、より好ましくは260〜320℃である。ここでいう融点とは、JIS K7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、DSC装置にて測定する際、測定サンプルを10〜20mg取り、アルミ製パンへ封入した後、キャリアガスとして窒素を流量100cc/minで流し、20℃/minで昇温したときの吸収ピークを測定する。ポリマーの種類により上記の1st runで明確な吸収ピークが出現しない場合には、50℃/minの昇温速度で予想される流れ温度より50℃高い温度まで昇温し、その温度で3分間以上保持し、完全に溶解した後、80℃/minの速度で50℃まで冷却し、しかる後、20℃/minの昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0017】
溶融異方性芳香族ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等を添加してもよい。また、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0018】
溶融異方性芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布は、湿式法、乾式法いずれの方法でも製造可能であるが、コスト、耐溶剤性などの点からは乾式法が好ましく、中でもメルトブローン法により製造することがより好ましい。具体的には、溶融異方性芳香族ポリエステルを溶融紡出すると同時に紡出物を高温高速流体で吹き飛ばし、捕集面上に集積してウェブを形成し、該ウェブにカレンダー加工及び加熱処理を施して不織布を製造するに際し、不織布の表面温度が90℃以上で溶融異方性芳香族ポリエステルの融点以下、線圧1kg/cm以上200kg/cm以下でカレンダー加工を行い、<溶融異方性芳香族ポリエステルの融点−40℃>以上、<溶融異方性芳香族ポリエステルの融点+20℃>以下の温度で3時間以上加熱処理することにより製造される。より具体的には250〜350℃で溶融した樹脂はノズル径0.01〜0.02のノズルより押し出され、金網の上に供出される冷却固化の過程で繊維同士の融着および交絡によりシート化され、200℃〜350℃の温度で3時間以上の熱処理による固相重合が行われたのち、実用に供される。
【0019】
本発明の粘着テープに用いる溶融異方性芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布の吸湿率は25℃、90%RH条件下において0.1%以下であることが好ましい。不織布の吸湿率が0.1%よりも大きいと、粘着テープの形状が変形し、かつ粘着テープの絶縁性の低下が生じるという問題がある。より好ましくは0.07%以下である。
【0020】
本発明の粘着テープに用いる溶融異方性芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布の密度は0.1〜1.3g/cmであることが好ましい。不織布密度が0.1g/cmよりも小さい場合、取扱性に問題が生じる、一方1.3g/cmよりも大きい場合粘着テープとしての形態安定性が悪くなるといった問題がある。より好ましくは0.2〜1.0g/cmである。
【0021】
本発明の粘着テープに用いる溶融異方性芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布の厚み分布は、できるだけ均一であることが好ましく、具体的には不織布の平均厚みをA(μm)とするとき、該不織布の厚み精度がA±0.1A(μm)であることが好ましい。不織布の厚み精度が、この範囲を外れた場合、粘着テープとして用いた時に絶縁性能が低下する危険が増す、あるいは絶縁材が挿入される外装材に入らなくなるといった、設計上の問題が生じる恐れがある。より好ましくはA±0.08A(μm)である。
【0022】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、不織布の吸湿率、厚さ、絶縁破壊の強さは下記の方法により測定または評価したものを示す。
【0023】
[不織布の吸湿率 %]
25℃、90%R.H.条件下に3日間放置した後、処理前後の重量変化から吸湿率を算出した。
【0024】
[不織布の吸水後寸法変化率 %]
25℃、90%R.H.条件下に3日間放置した後、水中から取り出し、長さ方向の寸法変化率を測定した。
【0025】
[不織布の密度 g/cm
JIS−L1096に準拠し、測定した。
【0026】
[不織布の厚さ μm]
JIS−L1096に準拠し、16mmΦ、20g/cmの圧力下、目付サンプルの5箇所測定し、平均値とする。
【0027】
[テープロール変形性]
90%R.H.環境下で10日間放置し、テープ基材ロールの変形状態を目視観察した。
【0028】
[絶縁破壊の強さ kV/mm]
JISK6911試験法に準拠し、絶縁オイル中にて測定した。
【0029】
[実施例1〜2]
メルトブロー法で製造した全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布〔(株)クラレ製「ベクルス」、目付40g/m、50g/m〕を用い、線圧100kg/cm×130℃でカレンダー加工を行い、厚み精度、テープ変形性を評価した。結果を表1に示す。
【0030】
[比較例1]
湿式抄造法で製造したメタ系アラミド繊維からなる紙〔デュポン帝人アドバンスドペーパー(株)社製、「ノーメックス(登録商標)紙」、目付46g/m〕を用いて実施例と同様の方法にて試験を実施した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すとおり、本発明の全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布(実施例1〜2)は厚み精度がA±0.1A(μm)の範囲内で厚み分布が均一であり、さらに不織布の吸湿率は0%、吸水後の寸法変化率も0%であり、低吸湿性でしかも寸法安定性に優れているので、テープロールとした場合においても変形はみられず、優れた耐熱性粘着テープ用基材であった。一方、従来技術であるメタ系アラミド繊維からなる不織布(比較例1)は厚み精度がA±0.1A(μm)の範囲外で厚み分布にばらつきがあり、さらに不織布の吸湿率は9%と高く、しかも吸水後の寸法変化率も1.5%で寸法安定性に劣っているので、テープロールとした場合、ロールに歪がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の粘着テープ用基材は、低吸湿性かつ優れた層間剥離性、耐熱性、耐電性を有しており、例えば電気絶縁材、絶縁・耐熱などのテープ基材、FRP、ハニカム構造材等に使用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布からなる耐熱性粘着テープ用基材。
【請求項2】
全芳香族ポリエステル繊維が溶融異方性芳香族ポリエステル繊維である請求項1記載の耐熱性粘着テープ用基材。
【請求項3】
溶融異方性芳香族ポリエステルを溶融紡出すると同時に紡出物を高温高速流体で吹き飛ばし、捕集面上に集積してウェブを形成し、該ウェブにカレンダー加工及び加熱処理を施して不織布を製造するに際し、不織布の表面温度が90℃以上で溶融異方性芳香族ポリエステルの融点以下、線圧1kg/cm以上200kg/cm以下でカレンダー加工を行い、<溶融異方性芳香族ポリエステルの融点−40℃>以上、<溶融異方性芳香族ポリエステルの融点+20℃>以下の温度で3時間以上加熱処理することにより製造されてなる全芳香族ポリエステル不織布である請求項1または2記載の耐熱性粘着テープ用基材。
【請求項4】
全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布の25℃、90%RH条件下での吸湿率が0.1%
以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の耐熱性粘着テープ用基材。
【請求項5】
全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布の密度が0.1〜1.3g/cmである請求項1〜4のいずれか1項記載の耐熱性粘着テープ用基材。
【請求項6】
全芳香族ポリエステル繊維で構成された不織布の平均厚さをA(μm)とするとき、該不織布の厚み精度がA±0.1A(μm)である請求項1〜5のいずれか1項記載の耐熱性粘着テープ用基材。

【公開番号】特開2006−144141(P2006−144141A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332689(P2004−332689)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】