説明

耐熱性防曇膜及びその形成方法並びに耐熱性防曇膜形成用塗布剤

【課題】耐熱性に優れる防曇膜を形成できる耐熱性防曇膜形成用塗布剤及び耐熱性防曇膜を得ることを課題とする。
【解決手段】バインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を含有する耐熱性防曇膜形成用塗布剤であって、耐熱性防曇膜を形成した際にポリアクリル酸類由来の成分が吸水することにより防曇性が発現することを特徴とする耐熱性防曇膜形成用塗布剤を用いて基材上に耐熱性防曇膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、建築用等の防曇窓ガラス又は防曇鏡、レンズ、ディスプレー等各種用途に用いることが可能で、耐熱性と防曇性に優れる耐熱性防曇膜及びその形成方法並びに耐熱性防曇膜を得るための塗布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチック等の透明基材は、基材を挟んで内面と外面の温湿度の差により、一方の表面が露点以下になった場合、又は、基材に対して急激な温湿度変化が起こった場合(沸騰水蒸気が基材に接触した場合や、低温部から高温多湿の環境に移った場合等)に雰囲気中の水分が水滴として付着し、基材表面は結露する。その結果、結露した水滴により光の散乱が起こる、いわゆる「曇り」が発生することで、視界が妨げられ、一般的な窓ガラス、自動車や航空機のフロントガラス、反射鏡、眼鏡、サングラス等では、安全性が著しく損なわれる。
【0003】
特許文献1には、無機アルコキシド、無機アルコキシドの加水分解物および無機アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つ、ポリアクリル酸類およびポリビニルアルコールを配合してなる防曇性コーティング材料、および、無機アルコキシドの加水分解物の少なくとも重縮合反応をポリアクリル酸類およびポリビニルアルコールの存在下で生じせしめて得られる組成物を主成分とする防曇性塗膜が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、アセタール化度2〜40モル%のポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルフェニルアセトアセタール、ポリビニルベンズアセタール、ポリビニルブチラールなど)からなる防曇層が開示されている。
【0005】
防曇膜には、長期間に亘り防曇性及び視認性が維持できることが望まれており、例えば日射などの熱に長期間に亘って晒される用途においては防曇膜に耐熱性が要求される。しかし、上記のいずれの発明においても得られる防曇膜は長期間にわたって加熱された場合に黄変しやすく、外観上に問題が生じやすい傾向がある。
【特許文献1】特開平11−061029号公報
【特許文献2】特開平6−158031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性に優れる防曇膜を形成できる耐熱性防曇膜形成用塗布剤及び耐熱性防曇膜を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、バインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を含有する耐熱性防曇膜形成用塗布剤について、鋭意検討してなされたものである。
【0008】
本発明の耐熱性防曇膜形成用塗布剤は、バインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を含有するものであり、耐熱性防曇膜を形成した際にポリアクリル酸類由来の成分が吸水することにより防曇性が発現することを特徴とする。
【0009】
該耐熱性防曇膜の防曇性の発現には、ポリアクリル酸類由来の成分が吸水することが寄与する。また、前記ポリアクリル酸類由来の成分による吸水効果に加え、バインダー成分由来のシロキサン結合を有するバインダー基質中に水酸基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基等が含まれる場合は、それらの親水性により前記吸水効果が促進されるものであってもよい。また、前記ポリアクリル酸類、前記バインダー成分以外の成分として、水酸基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基等を有する第3の成分を添加することにより、該第3の成分の親水性により前記吸水効果が促進されるものであってもよい。
【0010】
また、前記ポリアクリル酸類は、バインダー成分と共重合することにより、ポリアクリル酸類由来の成分、及び、バインダー成分由来のシロキサン結合を有するバインダー基質成分を含有する複合膜を形成するため、水や溶剤に対する溶出が防げ、長期間に亘って防曇性を発現することができる。
【0011】
バインダー成分、及び、ポリアクリル酸類の総量に対して、ポリアクリル酸類が5〜60質量%であることが好ましい。5質量%未満では、防曇性が発現しない、または十分な防曇性が得られない傾向がある。60質量%超では、ポリアクリル酸類を固定化できず、吸水時にポリアクリル酸類が溶出する傾向がある。防曇性とポリアクリル酸類の固定化の観点から、より好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
【0012】
バインダー成分が、下記一般式[1]で表される化合物、または、それらが一部縮合した化合物、または上記のうち2種以上を混合したものであることが好ましい。
【0013】
SiX4−n [1]
ここで、Rは炭素数が1〜18の炭化水素基、または、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基などに置換した有機基である。また、Xはアルコキシ基、クロロ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基などであり、nは0〜3の整数である。
【0014】
また、前記バインダー成分が、炭素数が1〜18の炭化水素基で修飾されたアルコキシシランを1種以上、かつ、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基などに置換した有機基で修飾されたアルコキシシランを1種以上含有するもの、またはそれらが加水分解したもの、またはそれらが加水分解し一部縮合したもの、または上記のうち2種以上を混合したものであると、防曇性及び耐熱性に優れた耐熱性防曇膜が得られるため特に好ましい。
【0015】
ポリアクリル酸類の分子量が1,000〜250,000であることが好ましい。分子量が1,000未満の場合、防曇性が発現しない、または十分な防曇性が得られない傾向がある。分子量が250,000超の場合、塗布剤の粘度上昇が大きく、成膜性が低下する傾向がある。なお、本発明において分子量とは重量平均分子量である。
【0016】
ポリアクリル酸類としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、またはそれらのメチレン鎖の水素原子の一部がエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基と反応性を有する置換基に置換された化合物、または上記のうち2種以上を混合したものであることが好ましい。吸水性の観点から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などが特に好ましい。
【0017】
本発明の耐熱性防曇膜は、バインダー成分由来のバインダー基質成分、及び、ポリアクリル酸類由来の成分を含有する複合膜であって、ポリアクリル酸類由来の成分が吸水することにより防曇性が発現することが好ましい。該構成の複合膜とすることで、長期間に亘って優れた耐熱性及び防曇性を実現することが出来るためである。
【0018】
また、少なくともバインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を混合して耐熱性防曇膜形成用塗布剤を得る工程、前記塗布剤を基材表面上に塗布する工程、前記塗布剤を硬化させる工程によって基材に耐熱性防曇膜を形成することが好ましい。前記塗布剤を硬化させる工程において、加熱によって、バインダー成分とポリアクリル酸類を共重合させると効率的に硬化反応を進行できるため好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の耐熱性防曇膜形成用塗布剤から形成された耐熱性防曇膜は、耐熱性及び防曇性に優れるため、長期間に亘って熱に晒される部材や用途において使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の耐熱性防曇膜形成用塗布剤は、基材に耐熱性防曇膜を形成するための塗布剤であって、前記耐熱性防曇膜形成用塗布剤がバインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を含有する塗布剤である。
【0021】
バインダー成分としては、下記一般式[1]で表される化合物、または、それらが一部縮合した化合物、または上記のうち2種以上を混合したものを使用することができる。
【0022】
SiX4−n [1]
ここで、Rは炭素数が1〜18の炭化水素基、または、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基などに置換した有機基である。また、Xはアルコキシ基、クロロ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基などであり、nは0〜3の整数である。
【0023】
バインダー成分として、例えば、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、(クロロメチル)ジメチルイソプロポキシシラン、[ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−イル]トリエトキシシラン、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン、トリメトキシシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシ(プロピル)シラン、トリメトキシ(p−トリル)シラン、トリメトキシ(メチル)シラン、トリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシフルオロシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、N−[2−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、n−オクチルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ベンジルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピルクロリド、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、2−シアノエチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、(クロロメチル)トリエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3−ブロモプロピル)トリメトキシシラン、オルトけい酸テトラプロピル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)、オルトけい酸テトライソプロピル、オルトけい酸テトラエチル、オルトけい酸テトラブチル、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジ−p−トリルシラン、ジメトキシ(メチル)シラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ(メチル)フェニルシラン、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、シクロヘキシル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,5−ヘプタメチル−3−(3−グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、3−クロロプロピルジクロロメチルシラン、クロロメチル(ジクロロ)メチルシラン、ジ−tert−ブチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、ジクロロ(メチル)オクタデシルシラン、ジクロロ(メチル)フェニルシラン、ジクロロシクロヘキシルメチルシラン、ジクロロデシルメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロジヘキシルシラン、ジクロロジイソプロピルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジペンチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、ジクロロドデシルメチルシラン、ジクロロエチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロメチルシラン、n−オクチルメチルジクロロシラン、テトラクロロシラン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、ビス(トリクロロシリル)アセチレン、ブチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、1,1,2,2−テトラクロロ−1,2−ジメチルジシラン、イソブチルトリクロロシラン、n−オクチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、テキシルトリクロロシラン、トリクロロ(メチル)シラン、トリクロロ(プロピル)シラン、トリクロロ−2−シアノエチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロシラン、トリクロロテトラデシルシラン、(3−シアノプロピル)ジメチルクロロシラン、(ブロモメチル)クロロジメチルシラン、(クロロメチル)ジメチルクロロシラン、1,2−ジクロロテトラメチルジシラン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、α−(クロロジメチルシリル)クメン、ベンジルクロロジメチルシラン、ブチルクロロジメチルシラン、クロロ(デシル)ジメチルシラン、クロロ(ドデシル)ジメチルシラン、クロロジイソプロピルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロジメチルプロピルシラン、クロロジメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロトリメチルシラン、ジエチルイソプロピルシリルクロリド、ジメチル−n−オクチルクロロシラン、ジメチルエチルクロロシラン、ジメチルイソプロピルクロロシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジフェニルクロロシラン、トリイソプロピルシリルクロリド、トリフェニルクロロシランなどが挙げられる。
【0024】
また、前記バインダー成分が、炭素数が1〜18の炭化水素基で修飾されたアルコキシシランを1種以上、かつ、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基などに置換した有機基で修飾されたアルコキシシランを1種以上含有するもの、またはそれらが加水分解したもの、またはそれらが加水分解し一部縮合したもの、または上記のうち2種以上を混合したものであると、防曇性及び耐熱性に優れた耐熱性防曇膜が得られるため特に好ましい。
【0025】
ポリアクリル酸類としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、またはそれらのメチレン鎖の水素原子の一部がエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基と反応性を有する置換基に置換された化合物、または上記のうち2種以上を混合したものを使用することができる。
【0026】
前記反応性を有する置換基としてはアミノ基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアナート基、アルコキシ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。また、下記一般式[2]で示すようなポリアクリル酸と該反応性を有する置換基Yを有する部位が共重合した化合物であってもよい。
【0027】

ここで、Yはアミノ基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアナート基、アルコキシ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基などであり、sは10〜350、tは5〜200であることが好ましい。
【0028】
なお、一般式[2]の化合物はブロック共重合体でもよく、交互共重合体でもよく、ランダム共重合体でも良い。また、s及びtは、ブロック共重合体の場合にはそれぞれの繰り返し単位の数を表し、交互共重合体及びランダム共重合体の場合にはそれぞれの構造単位の総数を表す。
【0029】
ポリアクリル酸類として、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸−マレイン酸共重合体塩、アクリル酸−スルホン酸共重合体塩、ポリアクリル酸中和物の架橋物、自己架橋型ポリアクリル酸中和物などが挙げられる。
【0030】
防曇性に寄与する吸水性能の観点から、アクリル酸類はポリアクリル酸が特に好ましい。
【0031】
本発明の耐熱性防曇膜形成用塗布剤を用いて基材に耐熱性防曇膜を形成する方法は、少なくともバインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を混合して耐熱性防曇膜形成用塗布剤を得る工程、前記塗布剤を基材表面上に塗布する工程、前記塗布剤を硬化させる工程を有する。
【0032】
前記耐熱性防曇膜形成用塗布剤は溶媒を含有してもよい。溶媒としては前記塗布剤を溶解するものであれば特に限定されないが、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、シクロヘキサノール、及びそれらの混合溶媒などが挙げられる。相溶性、安全性の観点からエチルアルコールが好ましく、その他の溶媒を用いて混合溶媒としてもよい。
【0033】
また、耐熱性防曇膜形成用塗布剤には、前記ポリアクリル酸類、前記バインダー成分以外の成分として、本発明の目的を阻害しない範囲で、界面活性剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、難燃剤、加水分解防止剤、防黴剤等の第3の成分を添加しても良い。
【0034】
前記第3の成分が水酸基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基等を有する成分であると、前記ポリアクリル酸類由来の成分による吸水効果に加え、該第3の成分の親水性により前記吸水効果が促進されるため好ましい。
【0035】
また、耐熱性防曇膜形成用塗布剤のバインダー成分とポリアクリル酸類を共重合させる際の触媒を該塗布剤に添加しても良い。触媒としてスズ、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどの金属錯体が好適に用いられる。ここで、金属錯体は弗化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、アセチルアセトナート塩等を使用できる。
【0036】
前記耐熱性防曇膜形成用塗布剤を基材表面上に塗布する工程において、塗布手段としてはディップコート、フローコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、手塗り法、インクジェット法を採用できる。
【0037】
前記耐熱性防曇膜形成用塗布剤を得る工程、及び該塗布剤を基材表面上に塗布する工程は10〜50℃で行われることが好ましい。
【0038】
前記耐熱性防曇膜形成用塗布剤を硬化させる工程において、加熱によって、バインダー成分とポリアクリル酸類を共重合させると効率的に硬化反応を進行できるため好ましい。室温で放置することにより硬化させることは可能であるが、長時間を要する、または、硬化が不十分となり良好な耐熱性が得られない傾向がある。加熱温度は50〜200℃が好ましく、特に80〜150℃が好ましい。
【0039】
本発明の耐熱性防曇膜の膜厚は、該膜形成用塗布剤の硬化反応後において3〜100μm程度にするのが好ましい。3μm未満であると、充分な防曇性が得られない傾向があり、100μmを超えると成膜が困難になり、また外観品質において光学歪みが発生する等の不具合が生じやすい傾向がある。
【0040】
本発明の耐熱性防曇膜を形成する基材としては、代表的なものとしてはガラスが用いられる。そのガラスは自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等、銀引き法、あるいは真空成膜法により作製された鏡、さらには平板、曲げ板等各種ガラス製品を使用できる。板厚は特に制限されないが、1.0mm以上10mm以下が好ましく、車両用としては1.0mm以上5.0mm以下が好ましい。基材への耐熱性防曇膜の形成は、基材の片面だけであってもよいし、両面に行ってもよい。又、耐熱性防曇膜の形成は基材面の全面でも一部分であってもよい。
【0041】
加えて、本発明の耐熱性防曇膜形成用塗布剤を塗布する基材は、ガラスに限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、アクリルやポリカーボネート等の樹脂、金属(特には金属鏡)、セラミックス等も使用することができる。
【0042】
本発明の耐熱性防曇膜形成用塗布剤の使用用途としては、建築用には、屋内用鏡、浴室用、洗面所用等の鏡、窓ガラス等、車両、船舶、航空機等には、窓ガラスあるいは鏡、具体的にはルームミラー、ドアミラー等があげられ、その他に眼鏡やカメラ等のレンズ、ゴーグル、ヘルメットシールド、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、試験機、精密機器ケース等の開口部やのぞき窓、道路反射鏡、携帯電話等の移動通信体のディスプレー等があげられる。
【0043】
本発明の耐熱性防曇膜形成用塗布剤から形成された耐熱性防曇膜は、耐熱性及び防曇性に優れるため、長期間に亘って熱に晒されうる車両、船舶、航空機等の窓ガラス、鏡、道路反射鏡等、移動通信体のディスプレー等の外使いでの使用に特に奏効する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本実施例で得られた基材表面に耐熱性防曇膜を形成したサンプルの品質評価は以下に示す方法で行った。
【0045】
[膜厚測定]:触針式表面粗さ計(小坂研究所製、サーフコーダーET−4000A)を用いて、基材上に形成した耐熱性防曇膜の膜厚を測定した。
【0046】
[透視ヘーズ]:ヘーズメーター(日本電色工業製、NDH2000)を用いてサンプルのヘーズを測定し、1%未満のものを(○)、1%以上のものを(×)とした。
【0047】
[防曇性]:35℃飽和水蒸気で満たされた槽の上部に、耐熱性防曇膜面を前記槽に向けてサンプルを設置し、曇りが生じるまでの時間を測定し、30秒以上のものを(○)、30秒未満のもの、または外観上不具合が発生したものを(×)とした。
【0048】
[鉛筆硬度]:JISK5600に準拠し、鉛筆硬度を測定した。
【0049】
[耐熱性]:100℃で保持された恒温槽で200時間サンプルを保持し、外観及び防曇性に変化がなかったものを(○)、外観及び防曇性に変化があったものを(×)とした。
【0050】
実施例1
[基材の準備]
基材としては、厚さ3mm、100mm四方のフロートガラスを使用した。基材ガラス表面をセリア微粒子で研磨し、ブラッシング洗浄を行い乾燥した。
【0051】
[耐熱性防曇膜形成用塗布剤の調合]
エチルアルコール41.53g、イオン交換水10.13g、分子量25,000のポリアクリル酸(和光純薬工業製)10gを加え、溶解するまで攪拌混合した。その後、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下GPTMS)(信越シリコーン製、商品名:KBE−403)12.72g、メチルトリエトキシシラン(以下MTES)(信越シリコーン製、商品名:KBE−13)15.48g、1N硝酸を10.14g添加し、23℃で16時間攪拌し、耐熱性防曇膜形成用塗布剤100gを得た。
【0052】
[耐熱性防曇膜の形成]
前記塗布剤を、前記基材ガラスにスピンコーティング法により塗布した。塗布剤が塗布された基材ガラスを100℃に保持された電気炉に2時間入れ、硬化させることにより耐熱性防曇膜を形成させた。品質評価結果を表1に示す。この耐熱性防曇膜において、膜厚は35μmであり、透視ヘーズは0.5%で○、防曇性は120秒で○、鉛筆硬度はHB、耐熱性は外観及び防曇性ともに変化なく○であった。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例2
実施例1にて、MTESをテトラエトキシシラン(以下TEOS)20.78gとした以外は実施例1と同様の操作で耐熱性防曇膜を形成させた。この耐熱性防曇膜において、膜厚は35μmであり、透視ヘーズは0.3%で○、防曇性は40秒で○、鉛筆硬度は2H、耐熱性は外観及び防曇性ともに変化なく○であった。
【0055】
実施例3
実施例1にて、MTESをジメチルジエトキシシラン(以下DMDES)9.73gとした以外は実施例1と同様の操作で耐熱性防曇膜を形成させた。この耐熱性防曇膜において、膜厚は35μmであり、透視ヘーズは0.5%で○、防曇性は200秒で○、鉛筆硬度は3B、耐熱性は外観及び防曇性ともに変化なく○であった。
【0056】
実施例4
実施例1にて、ポリアクリル酸の分子量を5,000とした以外は実施例1と同様の操作で耐熱性防曇膜を形成させた。この耐熱性防曇膜において、膜厚は35μmであり、透視ヘーズは0.3%で○、防曇性は60秒で○、鉛筆硬度はF、耐熱性は外観及び防曇性ともに変化なく○であった。
【0057】
実施例5
実施例1にて、GPTMSを2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(以下EETMS)8.34gとした以外は実施例1と同様の操作で耐熱性防曇膜を形成させた。この耐熱性防曇膜において、膜厚は35μmであり、透視ヘーズは0.5%で○、防曇性は80秒で○、鉛筆硬度はF、耐熱性は外観及び防曇性ともに変化なく○であった。
【0058】
比較例1
実施例1にてポリアクリル酸10gのうち5gを、ポリアクリル酸類以外の吸水成分として分子量2,000のポリビニルアルコール(以下PVA)(キシダ化学製)とした以外は実施例1と同様の操作で耐熱性防曇膜を形成させた。この耐熱性防曇膜において耐熱性試験後に膜が黄変し×であった。
【0059】
比較例2
実施例1にて、GPTMSを4.24g、MTESを5.16g、ポリアクリル酸を20gとした以外は実施例1と同様の操作で耐熱性防曇膜を形成させた。この耐熱性防曇膜においては、防曇性試験中に膜が溶出し、外観上問題であり、×であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を含有する耐熱性防曇膜形成用塗布剤であって、耐熱性防曇膜を形成した際にポリアクリル酸類由来の成分が吸水することにより防曇性が発現することを特徴とする耐熱性防曇膜形成用塗布剤。
【請求項2】
バインダー成分、及び、ポリアクリル酸類の総量に対して、ポリアクリル酸類が5〜60質量%であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性防曇膜形成用塗布剤。
【請求項3】
バインダー成分が、下記一般式[1]で表される化合物、または、それらが一部縮合した化合物、または上記のうち2種以上を混合したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱性防曇膜形成用塗布剤。
SiX4−n [1]
ここで、Rは炭素数が1〜18の炭化水素基、または、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基などに置換した有機基である。また、Xはアルコキシ基、クロロ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基などであり、nは0〜3の整数である。
【請求項4】
バインダー成分が、炭素数が1〜18の炭化水素基で修飾されたアルコキシシランを1種以上、かつ、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基などに置換した有機基で修飾されたアルコキシシランを1種以上含有するもの、またはそれらが加水分解したもの、またはそれらが加水分解し一部縮合したもの、または上記のうち2種以上を混合したものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐熱性防曇膜形成用塗布剤。
【請求項5】
ポリアクリル酸類の分子量が1,000〜250,000であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性防曇膜形成用塗布剤。
【請求項6】
ポリアクリル酸類としてはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、またはそれらのメチレン鎖の水素原子の一部がエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基と反応性を有する置換基に置換された化合物、または上記のうち2種以上を混合したものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の耐熱性防曇膜形成用塗布剤。
【請求項7】
バインダー成分由来のバインダー基質成分、及び、ポリアクリル酸類由来の成分を含有する複合膜であって、ポリアクリル酸類由来の成分が吸水することにより防曇性が発現することを特徴とする耐熱性防曇膜。
【請求項8】
少なくともバインダー成分、及び、ポリアクリル酸類を混合して耐熱性防曇膜形成用塗布剤を得る工程、前記塗布剤を基材表面上に塗布する工程、前記塗布剤を硬化させる工程によって基材に耐熱性防曇膜を形成することを特徴とする請求項7に記載の耐熱性防曇膜の形成方法。

【公開番号】特開2011−153164(P2011−153164A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13621(P2010−13621)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】