説明

耐熱性電磁波遮蔽紙

【課題】本発明の目的は、耐熱性や耐久性に優れ、かつ、難燃性、電磁波遮蔽効果が高い耐熱性電磁波遮蔽紙を提供することにある。
【解決手段】電磁波遮蔽材料を含有する芳香族ポリアミドポリマーからなる電磁波遮芳香族ポリアミドパルプを含む耐熱性電磁波遮蔽紙であり、該電磁波遮芳香族ポリアミドパルプ中の芳香族ポリアミドポリマーが電磁波遮蔽材料と接着されているか、もしくは電磁波遮蔽材料を被覆、包含している耐熱性電磁波遮蔽紙とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収材料に関し、特に耐熱性、難燃性に優れた耐熱性電磁波遮蔽紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の電気設備や電子応用設備の利用が増大し、これに伴い電磁気的なノイズの発生が多くなり、この影響を防止するために、電磁的に空間を絶縁する必要がある。このため、例えば電気機器から発生する電磁波 を遮蔽するには、通常該電気機器の筐体を金属体にしたり、金属板を張りつけたりしていたが、金属のみによらずに導電性プラスチックや金属繊維を用いてシート状のものを作製し、必要な箇所に貼りつけることにより、電磁波 をシールドする提案がなされている。
【0003】
また、最近は有機、無機の様々な機能性材料が開発され、これらを用いた産業用素材の製造が盛んに行われるようになってきた。中でも、有機材料である高分子の樹脂中に機能性材料を分散した状態で使用するものが多く見られ、中でも、高分子の樹脂中に無機材料を添加、混合、分散等をすることにより複合化させた材料は、高分子である樹脂の有する特性例えば加工に対する自由度と、軽量、電気絶縁性等と添加する無機材料の特性とで、それぞれ単独では得られない機能性材料が出現してきている。
【0004】
この中の一つとして金属粉末を添加配合することが提案されており、例えば特開2001−68889号に示されているように、軟磁性金属粉末をゴム又はプラスティックに分散させたものをシート状に成形したものが提案されている。このシート状電磁波シールド材は高分子樹脂中に分散された金属粉末の効果により、不要に輻射された電磁波すなわち電磁波ノイズを吸収または反射することで、電磁波を遮断するものである。
【0005】
一般にマトリックス材となるプラスチックとしては、成形性、加工性、コスト等の観点からポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等が使用されているが、これらのプラスチックは、燃焼した際の発熱量が非常に大きいため耐熱性能に問題がある。その対策として、耐熱性及び難燃性に優れた塩素化ポリエチレン等の材料がマトリックス材として現在も使用されている。
【0006】
これに対し、近年地球環境問題が注目され、人体に有害なダイオキシンの発生による問題が取り上げられている。ダイオキシンの発生原因としては、塩素化ポリエチレン等のハロゲン化物を含む製品の焼却処理が挙げられる。ハロゲン含有物質は、このように焼却処理等により結果として人体及び地球環境に悪影響を与えるため、社会的に大きな問題となっている。
さらに、これら熱可塑性樹脂はその特性から高温化では形態保持が困難であることはいうまでもない。
【0007】
電磁波遮蔽機シートは電磁波遮蔽機能を有する粒子をシート状に配置すればよく、耐熱性に優れた芳香族パラアラミドパルプ(商品名 トワロン 帝人トワロン社/ケブラー デュポン社)などにより、電磁波遮蔽機能を有する粒子を包含する紙を作れば、耐熱性・難燃性に優れたシートを得ることが可能であるが、優れた電磁波遮蔽機能を得るには、粒子含有量を高める必要があり、その場合、粉落ち、紙強力の低下という課題と、電磁波遮蔽機能を有する粒子そのものが単独で存在するために、状況によっては燃焼性を促進してしまうという課題が残る。また、パルプと電磁波遮蔽機能粒子を一体化するために一旦、電磁波遮蔽粒子を包含したアラミドパルプによって構成される紙に、難燃性エポキシ樹脂やフェノール樹脂など含浸する方法もあるが、この場合は相対的にシート中に占める電磁波遮蔽機能粒子の比率が低下してしまうという課題がある。
【0008】
又特開2003−152389号公報には金属めっきされた高強度有機合成繊維、特にパラ型アラミド繊維を含有する電磁波遮蔽材が提案されている。確かに耐熱性と金属めっきすることによる電磁波遮蔽性が備わる電磁波遮蔽材とすることができるが、金属と有機合成繊維の結合はカップリング剤等により強化したとしても強いものでなく、耐磨耗性が低下すること、めっきするため工程が増える歩留まりが低下する等の問題が生じる。
【0009】
更に特開2005−260214号公報ではカーボンナノファイバーのような導電性短繊維を含有する電磁波シールド材が提案されている。この場合も耐熱性や電磁波遮蔽性は向上するが、カーボンファイバーは剛性が高く柔軟性に劣るため屈曲耐久性が悪いという欠点がある。
【0010】
【特許文献1】特開2001−68889号公報
【特許文献2】特開2003−152389号公報
【特許文献3】特開2005−260214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、耐熱性や耐久性に優れ、かつ、難燃性、電磁波遮蔽効果が高い耐熱性電磁波遮蔽紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は電磁波遮蔽材料を含有する芳香族ポリアミドポリマーからなる電磁波遮芳香族ポリアミドパルプを含む耐熱性電磁波遮蔽紙であり、該電磁波遮芳香族ポリアミドパルプ中の芳香族ポリアミドポリマーが電磁波遮蔽材料と接着されているか、もしくは電磁波遮蔽材料を被覆、包含している耐熱性電磁波遮蔽紙とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電磁波遮蔽機能と耐熱性、難燃性、耐久性を併せ持ちかつ、電磁波遮蔽材の脱落のない耐熱性電磁波遮蔽紙を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明でいう芳香族ポリアミドとは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄又はアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロルキなどのハロゲン基等が含まれていてもよい。さらには、これらアミド結合は限定されず、パラ型、メタ型のどちらでもよい。
【0015】
このような芳香族ポリアミドの製造方法や特性については、例えば、英国特許第1501948号明細書、米国特許第3733964号明細書、同第3767756号明細書、同第3869429号明細書、特開昭49−100322号公報、特開昭47−10863号公報、特開昭58−144152号公報、特開平4−65513号公報などに記載されており、具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・フェニルベンゾイミダゾールテレフタルアミドなどが挙げられる。
【0016】
また、本発明に用いる電磁波遮蔽材料としては、扁平な軟磁性体金属粉、金属粉末、金属酸化物粉末、導電性カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維ミルド、カーボンナノチューブ、からなる群から選ばれる1種、もしくは2種以上が好ましく例示される。さらに好ましくは、扁平な軟磁性体金属粉である。
電磁波遮蔽材料の含有量は30〜90体積%が好ましい。30体積%未満では電磁波遮蔽効果が得られず、90体積%を超える場合は強度が低下するため好ましくない。好ましくは40〜80体積%である。
【0017】
上記耐熱性電磁波遮蔽芳香族ポリアミドパルプにおいて、芳香族ポリアミドポリマーは電磁波遮蔽材料と実質的に接着されているか、もしくは電磁波遮蔽材料を実質的に被覆、包含していることが必要である。ここで、芳香族ポリアミドが、電磁波遮蔽材料と実質的に接着されている、もしくは電磁波遮蔽材料を実質的に被覆、包含しているとは、例えば、溶融あるいは溶解状態にある芳香族ポリアミドポリマー中に電磁波遮材料が混合された状態のまま、固化およびパルプ化の工程を経て、芳香族ポリアミドポリマーと電磁波遮材料の少なくとも一部が強固に結合された状態又は電磁波遮材料表面を被覆及び又は包含する状態を言い、単に芳香族ポリアミドパルプと電磁波遮材料とを混合してスラリー化して抄紙した場合のように、単にパルプ中の芳香族ポリアミドポリマーと電磁波遮蔽材料が接触しているだけの状態を除くものである。
【0018】
本発明に係る電磁波遮芳香族ポリアミドパルプを得る方法としては、まず、アミド系の極性溶媒、例えばN−メチル−2−ピロリドンなどに芳香族ポリアミドを溶解して芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液を作成し、その中に電磁波遮蔽材料を混合した後、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報などに記載された方法により、該溶液を該溶液の沈澱剤と剪断力の存在する系において混合することにより、上記電磁波遮芳香族ポリアミドパルプを得ることができる。このときの芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液中における芳香族ポリアミドの濃度は、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。芳香族ポリアミドの濃度が0.1重量%未満の場合には、芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液を沈殿剤と剪断力の存在する系において混合してパルプを得る際に、芳香族ポリアミド中に電磁波遮蔽材料を十分に捕捉できず、一方、10重量%を超えると芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液の粘度が向上し、高濃度の電磁波遮蔽材料の充填が不可能となる。
【0019】
また、芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液中に電磁波遮材料を充填した後、溶液中に電磁波遮材料を均一に分散させるため、従来公知の工業的な混合方法、具体的には撹拌棒、ニーダー、ボールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ミキサーなどを用いて十分な混合を行うことが肝要である。
【0020】
このようにして得られた電磁波遮芳香族ポリアミドパルプから耐熱性電磁波遮紙を製造する方法は、従来公知のいかなる方法で製造してもよく、例えば、電磁波遮芳香族ポリアミドパルプの濃度が約0.15〜0.40重量%となるように水中に投入して均一分散、調整した水性スラリー中に、必要に応じて、分散剤や粘度調整剤を加えた後、長網式や丸網式などの抄紙機による湿式抄造法で湿紙を形成し、乾燥することにより得られる。
【0021】
さらに、紙密度を高める必要があれば、得られた乾燥紙を加熱加圧し、該電磁波遮芳香族ポリアミドパルプを部分的に軟化、および/または溶融させることにより得られる。
また、電磁波遮紙に放熱特性を付与するために熱伝導性材料(窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛 等)を添加してもかまわない。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の内容に限定されるものではない。なお、実施例中における%は重量基準である。また、実施例中における物性の評価方法は、以下のとおりである。
(1)坪量
JIS P8124に準拠して測定した。
(2)厚さ
JIS P8118に準拠して測定した。
(3)裂断長
JIS P8113に準拠して測定した。
(4)電磁波遮蔽材料の脱落
JIS P0849に記載の学振形摩擦試験機を用い、乾燥試験を行った。また、判定は下記のようにして行った。
○:白綿布の変色なし
△:白綿布に若干黒く変色
×:白綿布全体が黒く変色
(5)耐熱性
200度30分処理を行い、その前後での寸法変化を測定した。
(6)難燃性
JIS 1091 E法に準拠し酸素指数を測定した。
【0023】
[実施例1]
電磁波遮蔽材料として、扁平軟磁性体金属粉(古川テクノマテリアル製 商品名 フタバロイ、Fe−Si−Al系金属、平均粒径=55μ、平均アスペクト比=約20、比重=6.9)を用いた。
コパラフェニレン・3,4´−オキシジフェニレン・テレフタルアミドを濃度1%となるように、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に溶解し、その溶液中に芳香族ポリアミド/電磁波遮蔽材料=15/85の重量比となるように添加し、50℃で1時間攪拌混合し、電磁波遮蔽性芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0024】
次いで、この芳香族ポリアミド溶液を、NMPを10%混合した水中に吐出し、剪断をかけつつ凝固させた後、十分水洗を行ったあと遠心脱水を行い、電磁波遮蔽性芳香族ポリアミドパルプを得た。このときのパルプの水分率は約80%であった。本パルプを光学顕微鏡、および光学蛍光顕微鏡を用いて観察したところ、電磁波遮蔽材料が芳香族ポリアミド中に被覆、包含されていることを確認した。
さらに、この電磁波遮蔽性芳香族ポリアミドパルプを水中に離解分散し、繊維濃度0.2%の抄紙用スラリーを調整した。
【0025】
次に、タッピ式角型シートマシンを用いて、抄紙を行った。この時、芳香族ポリアミドパルプから、電磁波遮蔽材料の脱離は無く抄紙ワイヤーの下からの流出は観察されなかった。次いで、軽く加圧脱水を行った後に、温度120℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥し、紙状物を得た。
さらに、直径400mmの一対の硬質表面金属ロールからなるカレンダーを用い、温度300℃線圧200Kg/cmの条件で加熱加圧を行い、坪量200g/m厚さ0.11mmの耐熱性電磁波遮蔽紙を得た。
【0026】
[比較例1]
実施例1で用いた電磁波遮蔽材料と、芳香族ポリアミドパルプ(帝人トワロン製)を用い、芳香族ポリアミド/電磁波遮蔽材料=15/85の重量比となるように混合し、水中に離解分散し、繊維濃度0.2%の抄紙用スラリーを調整した。実施例1と同様の条件で抄紙、カレンダー加工を行い坪量194g/m厚さ0.12mmの耐熱性電磁波遮蔽紙を得た。得られた電磁波遮蔽紙を光学顕微鏡、および光学蛍光顕微鏡を用いて観察したところ、電磁波遮蔽材料は芳香族ポリアミドポリマー中には包含されていないことを確認した。
また、抄紙を行った時、抄紙ワイヤーの下から電磁波遮蔽材料の流出が観察され、芳香族ポリアミドパルプと電磁波遮蔽材料の分離が示唆された。
【0027】
実施例1、比較例1で得られた耐熱性電磁波遮蔽紙の諸特性を表1に示す。
表1に示すとおり、本発明の耐熱性電磁波遮蔽紙は、電磁波遮蔽性能を有する粒子を粒子脱落無く、高い熱安定を有する。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の電磁波遮蔽材は、耐熱性、難燃性、耐久性、柔軟性に優れており、かつ軽量であり、自動車部材、電子機器部材、さらに、基板材料として、ハンダリフロー工程を通過可能な材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波遮蔽材料を含有する芳香族ポリアミドポリマーからなる電磁波遮芳香族ポリアミドパルプを含む耐熱性電磁波遮蔽紙。
【請求項2】
電磁波遮蔽芳香族ポリアミドパルプ中の芳香族ポリアミドポリマーが電磁波遮蔽材料と接着されているか、もしくは電磁波遮蔽材料の少なくとも一部を被覆、包含していることを特徴とする耐熱性電磁波遮蔽紙。
【請求項3】
芳香族ポリアミドがポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・フェニルベンゾイミダゾールテレフタルアミドの群から選ばれた少なくとも1種類である請求項1〜2いずれか記載の耐熱性電磁波遮蔽紙。

【公開番号】特開2009−38249(P2009−38249A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202111(P2007−202111)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】