説明

耐熱性Ir基合金

【課題】短時間もしくは長時間、高温領域で酸素含有雰囲気下でも使用でき、粒界からの選択酸化を抑制したIr基合金を提供する。
【解決手段】Alを0.05〜1.5%を含有し残部がIrである合金。さらにRhを0.1〜49.95%、あるいはCr、Fe、Co、Niの少なくとの一種を0.1〜10%、あるいはPt、Ru、Ta、Nb、W、Re、Ti、Hf、Zr、Y、希土類元素の少なくとも一種を0.1〜20.0%含有した合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間もしくは長時間、高温領域で使用される耐熱性合金およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白金族系金属の中でPtやIrが耐熱材料として単体および合金で使用されている。
用途としてはガラス溶解用器具や単結晶育成用ルツボ等や、高温で使用される構造材料またはヒーター線、熱電対等の導電材料や車載等のスパークプラグに代表される電極がある。またタービンブレード等の基体を保護するための被覆材として用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PtやPt系合金の場合、真空雰囲気や不活性ガス中雰囲気、大気等の酸素含有雰囲気等、雰囲気を選ばず高温で使用が可能であるが、融点を越えるような温度、電極等で使用する際、火花放電により局所的に融点を瞬間的に越え一部溶融する場合があり、使用に耐えられないケースがある。
このような用途には、さらに融点が高いIrやIr系合金が使用される。
ただしIrの場合、真空雰囲気や不活性ガス中雰囲気での使用には問題ないが、大気等の酸素含有雰囲気下では酸化揮発が激しく、重量減少が激しい欠点がある。
【0004】
欠点である酸化揮発を抑えるため、Rhを添加し酸化揮発を抑えたIr合金が熱電対として規格化されている他、特許文献1ではIr表面にRhを被覆処理し、大気中での酸化揮発を抑えた製造方法が公開されている。
【特許文献1】特開平11−217683号公報
【0005】
酸化揮発に関しては、体積が大きく短時間での使用の場合、問題にならないことがあるが、別の欠点として、結晶粒界から優先的に酸化、特に大気中で1000℃以上の高温に曝された場合、酸化揮発により粒界が亀裂のような凹部を形成し、粒界から結晶粒の欠落や、高温応力負荷時に破壊の起点となることから、粒界の選択酸化を抑える、または均一に酸化揮発させ、粒界を起点とした破壊を抑制する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、粒界からの選択酸化を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、IrにAlを添加することにより、高温酸化雰囲気下に曝された際、表面に酸化アルミが形成、いったん酸化アルミの下にIrO2として蓄積、その後揮発させることにより、粒界からの優先的な酸化を抑制、亀裂のような凹部形成を減少させ、均一な酸化揮発となる。
また粒界が酸化揮発した場合でも、粒界近傍でAl濃度が濃くなる、またはAlが酸化し、粒界からの酸化揮発の進行を抑え、結晶粒の欠落を抑える。
さらにIrにAlおよびRhを添加すると酸化揮発自体を抑制したうえで、粒界からの選択酸化も抑制することを見出した。
【0007】
さらに上記の合金にCr,Fe,Ni,Coを添加することにより、酸化アルミ層が厚くなり、より安定した酸化アルミ層が形成される。
【0008】
また、さらにPt,Ru,Ta,Nb,W,Re,Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種を含有させると、Pt,Ru,Ta,Nb,Wは硬度が上昇、Reの場合はさらに融点が上昇、Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素は粒界で酸化し、粒界からの酸化揮発を表面近傍に留めることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の合金は、Ir基金合金であり、Alを0.05〜1.5mass%添加することにより、粒界からの選択酸化を抑制した合金を得ることができた。
【0010】
さらに、Rhを0.1〜49.95mass%添加し、Irを50mass%以上とすることにより、全体の酸化揮発自体を抑え、さらに粒界からの選択酸化を抑制した合金を得ることができた。
【0011】
これに加え、Cr,Fe,Co,Niの少なくとも一種を0.1〜10mass%を添加することにより、形成される酸化アルミ層を厚くし、より安定した層を形成させる合金を得ることができた。
【0012】
また、さらにPt,Ru,Ta,Nb,W,Re,Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種を0.1〜20.0mass%添加することにより、硬度を上昇させることができた。
【0013】
Alの範囲を0.05〜1.5mass%に限定した理由は、0.05mass%未満だと、表面に十分な酸化アルミ層が形成されず、また1.5mass%より上だと酸化アルミが剥離しやすくなるためである。
【0014】
Rhの範囲は、0.1mass%未満だと十分な酸化揮発の抑制効果が得られないためより多くの添加が望ましいが、Ir含有量が50mass%を下回ると融点が低下し、Ir基合金を使用する際に必要とする融点が得られないためである。
【0015】
Cr,Fe,Co,Niの少なくとも一種の範囲を0.1〜10mass%に限定した理由は、0.1mass%未満だと、酸化アルミ層への効果が十分得られず、また10mass%より上だと融点が低下し、Ir基合金を使用する際に必要とする融点が得られないためである。
【0016】
Pt,Ru,Ta,Nb,W,Re,Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種の範囲を0.1〜20.0mass%に限定した理由は、0.1mass%未満だと、添加効果が確認できず、また20mass%より上だと、熱間鍛造等の加工が困難になるためである。
【0017】
さらに好ましくは、Alが0.5〜1.5mass%添加することからなる。
【0018】
またさらに好ましくは、Rhを1.0〜40mass%添加し、Irを60mass%以上とすることからなる。
【0019】
また別にさらに好ましくは、Cr,Fe,Co,Niの少なくとも一種を0.5〜2.0mass%を添加することからなる。
【0020】
また別にさらに好ましくは、Pt,Ru,Ta,Nb,Wの少なくとも一種は、0.5〜10mass%、Reは、0.5〜15mass%、Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種は、0.1〜1.5mass%添加することからなる。
【0021】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例】
【0022】
表1に示すIrおよびIr基合金をアーク溶解にてインゴットを作製、ファインカッターで約5mm角、厚みが0.5〜1.5mmに切出し試験用試料とした。
【0023】
【表1】

【0024】
(酸化揮発試験)
酸化揮発試験として、表1の組成の試料を使用し、試験前の重量および表面積および厚み、表面積周囲長を測定後、アルミナ基板上に試料を置き、大気中1200℃および1500℃×20時間熱処理した後、再度重量を測定、アルミナ基板に接していない試験前の表面積から単位面積当りの酸化揮発重量を算出した。
【0025】
単位面積当りの酸化揮発重量は式1にて算出した。
式1:ΔW(g/mm2) [単位面積当りの酸化揮発重量 =(試験後の重量−試験前の重量)/ (アルミナ基板に接していない試験前の表面積)]
【0026】
表2に結果を示す。
【0027】
【表2】

【0028】
Al自体は、酸化揮発の抑制効果は小さいことから実施例1〜2は、比較例2よりも単位面積あたりの酸化揮発重量は大きくなっているが、比較例1のIrよりも一割程度小さくなっている。
【0029】
Ir−RhにAlを添加した実施例3〜8については、各温度での試験とも比較例2より2〜3割程度酸化揮発を抑えており、RhにAlを添加することにより、Rhの酸化揮発抑制効果をより高められていることがわかる。
【0030】
(X線回折試験)
酸化揮発試験後の表面の生成物をX線回折試験にて調査した。
アルミナ基板に接していない面を測定面としている。
【0031】
表3に結果を示す。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例1〜8については、1200℃、1500℃での試験ともにIr,IrO2,Al23のピークが同定された。
比較例1については、1200℃の試験ではIr,IrO2のピークが確認されたが、1500℃の試験ではIrのみ確認できた。
比較例2では、両温度ともIrのみのピークが確認され、Rhの酸化物については確認できなかった。
比較例3は1200℃では酸化Crのピークが確認できたが、1500℃の試験では、Ir,IrO2のみ確認でき、酸化Crのピークは確認できなかった。
【0034】
比較例3については傾向が違うが、実施例1〜8のようにAlを添加することにより、大気中1500℃×20時間熱処理後でもIrO2の形で留まっている。
一方、比較例1〜2は、1500℃の試験ではIrO2が確認できず、酸化揮発を妨げる形成物は確認できなかった。
【0035】
確認のため、実施例1〜3および比較例1〜3の試験後の表面をSEMで、断面をSEMおよびEPMAにて観察を行った。
【0036】
(表面のSEM観察)
図1Aおよび図1Bに、それぞれ実施例1〜3および比較例1〜3の試験後の粒界近傍の表面SEM観察結果を示す。
【0037】
実施例1〜3の1200℃×20hr熱処理後では、粒界近傍からの顕著な酸化揮発は確認できなかった。また比較例3でも同様に、粒界近傍からの顕著な酸化揮発は確認できなかった。一方、比較例1〜2では、粒界から熱腐食のような跡が認められた。
【0038】
また1500℃×20hr熱処理後では、実施例1〜3でも、熱腐食のような跡が認められたが、それほど顕著には現れなかった。比較例2については、粒界近傍でさらに熱腐食のような跡が広がっていた。比較例1および3は、粒界近傍がポーラス状になっており、酸化揮発が顕著に進んでいることが分かった。
【0039】
(断面のSEM観察)
図2Aおよび図2Bに、それぞれ実施例1〜3および比較例1〜3の試験後の表面近傍の断面のSEM観察結果を示す。
【0040】
実施例1の1500℃×20hrで一部に粒界からの熱腐食のような跡は見られたが、他の条件の実施例では、初期の酸化揮発による凹凸は認められるものの、特に顕著な粒界からの揮発は認められなかった。
【0041】
一方、比較例1は、1200℃×20hrで粒界からの酸化揮発らしき跡が顕著に見られ、1500℃×20hrではポーラスな状態になっている。
また比較例2では、粒界からの酸化揮発らしき跡が見られ、また表面近傍が再結晶化している。また1500℃×20hrでは、結晶粒の欠落と思われる跡が見られた。
比較例3では、1200℃×20hrで内部でも酸化揮発らしき跡が顕著に見られ、1500℃×20hrではIrと同じようなポーラスな状態となっており、Cr単体では酸化揮発を抑える効果が無いことが分かった。
【0042】
確認のため、実施例1〜3および比較例1〜3の試験後の断面をEPMAにて観察を行った。
【0043】
(実施例1のEPMAによる面分析)
図3に1200℃×20hr後の、図4に1500℃×20hr後の実施例1のEPMAによる面分析結果を示す。
【0044】
図3および図4の結果から、Alが最表面に有り、その下部にIrがでていることが分かる。特に図3ではAl層の下部に一層Irの層が形成されており、X線回折結果からIrO2層が形成されていると思われる。また、特に顕著な粒界からの選択酸化は確認されなかった。
【0045】
(実施例2のEPMAによる面分析)
図5に1200℃×20hr後の、図6に1500℃×20hr後の実施例2のEPMAによる面分析結果を示す。
【0046】
図5および図6の結果から、AlおよびCrが最表面に有り、その下部にIrがでていることが分かる。特に図5ではAl層の下部に一層Irの層が形成されており、X線回折結果からIrO2層が形成されていると思われる。
また図3および図4と比較して、AlおよびCrの層がより顕著に確認され、さらに粒界からの選択酸化も特に顕著な物は確認されなかった。
【0047】
(実施例3のEPMAによる面分析)
図7に1200℃×20hr後の、図8に1500℃×20hr後の実施例3のEPMAによる面分析結果を示す。
【0048】
Rhが添加された場合、図7の結果から1200℃×20hrでは、Rhが最表面にきており、Alの層は確認できなかったが、図8の1500℃×20hrでは、AlおよびCrが最表面に有り、その下部にRhが若干見られた。
また、特に顕著な粒界からの選択酸化は確認されなかった。
【0049】
(比較例1のEPMAによる面分析)
図9に1200℃×20hr後の、図10に1500℃×20hr後の比較例1のEPMAによる面分析結果を示す。
【0050】
図9および図10の結果から、1200℃×20hrでは、X線回折結果と合わせてIrO2層が若干残留しているが、1500℃×20hrではIrO2らしき層は確認できず、昇華のように酸化揮発が行われている。さらに1500℃×20hrでは、粒界からの選択酸化が確認された。
【0051】
(比較例2のEPMAによる面分析)
図11に1200℃×20hr後の、図12に1500℃×20hr後の比較例2のEPMAによる面分析結果を示す。
【0052】
比較例2では、図11から、1200℃×20hrでは表面近傍が再結晶化、粒界でIrが減少、Rhが濃化しており、また図12から、最表面でRh層を形成しているが、粒界からの選択酸化や粒界からの結晶粒の欠落のような跡が見られ、Rh添加は表面の酸化揮発には有効であるが、粒界からの選択酸化を十分防ぎきれていないことが確認できた。
【0053】
(比較例3のEPMAによる面分析)
図13に1200℃×20hr後の、図14に1500℃×20hr後の比較例3のEPMAによる面分析結果を示す。
【0054】
図13および図14の結果から、Cr単体の添加は酸化揮発の抑制にほとんど寄与していないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】実施例1〜3の試験後の粒界近傍の表面SEM観察結果を示している。
【図1B】比較例1〜3の試験後の粒界近傍の表面SEM観察結果を示している。
【図2A】実施例1〜3の試験後の表面近傍の断面のSEM観察結果を示している。
【図2B】比較例1〜3の試験後の表面近傍の断面のSEM観察結果を示している。
【図3】1200℃×20hr後の実施例1のEPMAによる面分析結果を示している。
【図4】1500℃×20hr後の実施例1のEPMAによる面分析結果を示している。
【図5】1200℃×20hr後の実施例2のEPMAによる面分析結果を示している。
【図6】1500℃×20hr後の実施例2のEPMAによる面分析結果を示している。
【図7】1200℃×20hr後の実施例3のEPMAによる面分析結果を示している。
【図8】1500℃×20hr後の実施例3のEPMAによる面分析結果を示している。
【図9】1200℃×20hr後の比較例1のEPMAによる面分析結果を示している。
【図10】1500℃×20hr後の比較例1のEPMAによる面分析結果を示している。
【図11】1200℃×20hr後の比較例2のEPMAによる面分析結果を示している。
【図12】1500℃×20hr後の比較例2のEPMAによる面分析結果を示している。
【図13】1200℃×20hr後の比較例3のEPMAによる面分析結果を示している。
【図14】1500℃×20hr後の比較例3のEPMAによる面分析結果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを0.05〜1.5mass%を含有し残部がIrとする合金。
【請求項2】
Alを0.05〜1.5mass%含有し、Rhを0.1〜49.95mass%含有し、Irを50mass%以上とする合金。
【請求項3】
Alを0.05〜1.5mass%含有し、Cr,Fe,Co,Niの少なくとも一種を0.1〜10mass%含有し、残部をIrとする合金。
【請求項4】
Alを0.05〜1.5mass%含有し、Cr,Fe,Co,Niの少なくとも一種を0.1〜10mass%を含有し、Rhを0.1〜49.85mass%含有し、Irを50mass%以上とする合金。
【請求項5】
Alを0.05〜1.5mass%を含有し、Pt,Ru,Ta,Nb,W,Re,Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種を0.1〜20.0mass%含有し、残部がIrとする合金。
【請求項6】
Alを0.05〜1.5mass%含有し、Rhを0.1〜49.85mass%含有し、Pt,Ru,Re,Ta,Nb,W,Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種を0.1〜20.0mass%含有し、Irを50mass%以上とする合金。
【請求項7】
Alを0.05〜1.5mass%含有し、Cr,Fe,Co,Niの少なくとも一種を0.1〜10mass%含有し、Pt,Ru,Ta,Nb,W,Re,Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種を0.1〜20.0mass%含有し、残部をIrとする合金。
【請求項8】
Alを0.05〜1.5mass%含有し、Cr,Fe,Co,Niを0.1〜10mass%を含有し、Rhを0.1〜49.75mass%含有し、Pt,Ru,Ta,Nb,W,Re,Ti,Hf,Zr,Y,希土類元素の少なくとも一種を0.1〜20.0mass%含有し、Irを50mass%以上とする合金。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の合金からなる構造材料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか記載の合金からなる導電性材料またはスパークプラグ等に使用される電極材料。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか記載の合金からなるタービンブレード等高温で使用される基体を被覆する材料。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−248322(P2008−248322A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91178(P2007−91178)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)