説明

耐熱水性ポリアミドフィルムおよびその製造方法

【課題】レトルト処理工程に供する包装材料として欠かせない特性である高い耐熱水性を有し、かつ高い密着性を有する耐熱水性ポリアミドフィルムを提供しようというものである。
【解決手段】ヒンダードフェノール系化合物を0.01〜0.2質量%含有してなるポリアミドフィルムであって、少なくとも片面に、皮膜強度250%以上かつ拡張力が20MPa以上のポリウレタン樹脂を含有したプライマー層を有する耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱水性および易接着性を有するポリアミドフィルムに関する。更に詳しくは、レトルト殺菌処理後の強度低下が小さく、かつレトルト処理後も高い密着性を有する耐熱水性ポリアミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二軸延伸ポリアミドフィルムは、機械的特性、光学的特性、熱的特性、バリアー性をはじめとした基本物性に加えて、耐摩耗性、耐衝撃性、耐ピンホール性などに優れていることから、食品その他の包装材料用フィルムとして広く利用されている。
【0003】
これらの用途においては、通常、基材フィルム表面に種々の二次加工、たとえば、各種の塗料をコーティングしたり、印刷加工、蒸着加工や、他のフィルムとラミネート加工がなされる。特にポリアミドフィルムを食品包装用途として使用する場合、印刷加工の後、シーラントフィルムと接着剤を介してラミネートして用いられるが、接着力が弱いと、ポリアミドフィルムとシーラントフィルムとの間で剥離するいわゆるデラミ現象が発生するという問題がある
【0004】
特に保存食品を内容物として包装する場合は、内容物を袋に充填後に殺菌工程として、高温、高圧下で熱水処理するいわゆるレトルト処理を施すケースがほとんどであり、したがって、かかる用途に供される包装資材には必然的に高い耐熱水性や、インキおよび接着剤との密着性が要求されることになる。
【0005】
ポリアミド系フィルムはその優れた特性、特に耐ピンホール性を有することからレトルト処理を施す食品の包装には欠かせない。ポリアミドフィルムの欠点として、レトルト処理に伴う引張強度をはじめとする機械的強度の低下やクラック発生に起因する外観の白化が知られている。これらは酸化によるポリアミド分子主鎖の切断によるものであり、レトルト処理中の酸化分解を防止するために、例えば、特許文献1では、ヒンダードフェノール系化合物を酸化防止剤として添加する方法が提案されている。この方法はナイロンフィルム自身の耐熱水性の向上には有効であるが、ナイロンフィルムとインキや接着剤との密着性は十分ではなく、例えばレトルト処理時にデラミ現象が発生するという問題があった。
【0006】
一方、インキや接着剤などと基材フィルムの密着性向上には、基材フィルムに接着活性を有する下塗り剤を塗布して、プライマー層(易接着層とも呼ばれる)を積層する方法がある。この方法は各種のトップコート層に応じてプライマー層成分が選択できることなどから広く利用されている。プライマー層の構成成分としては、作業性、安全性およびコスト面から水性樹脂が多く使用されているが、コーティング層、インキ層および蒸着層との接着性を向上させるには、とりわけポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂およびアクリル樹脂が好ましく用いられている。
例えば、特許文献2、3、4には、特定の物性を有したポリウレタン樹脂を用いたプライマーコート剤を用いることによって、熱水処理後も高い接着性を有するフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−313321号公報
【特許文献2】特開2006−321193号公報
【特許文献3】特公平3−55302号公報
【特許文献4】特開2000−26798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、特に食の安全性が問題視される中で、殺菌・滅菌の工程では、高温・高圧条件下で熱水処理を行うレトルト処理が増えつつあり、さらに、その殺菌能力の向上と短時間処理のためにレトルト処理温度も120℃を超える高温が求められている。
【0009】
こうした背景のもとでは、特許文献2、3に具体的に開示されている発明は、95℃前後の熱水処理では有効なものの、120℃を越える高温高圧のレトルト処理では処理後のインキや接着剤との密着性は不十分であった。また、特許文献4に具体的に開示されている発明は、延伸後のポリエステルフィルムに対してコーティングを行うポストコート法によるものであり、この発明と同程度の熱処理をポリアミドフィルムに施した場合には、フィルムの物性が大きく損なわれてしまい、製品としての使用は困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリアミド樹脂組成物からなるフィルムにおいて、強度劣化防止を担う酸化防止剤の種類、ポリアミド系樹脂への配合濃度を適切に設定することにより優れた耐熱水性が発現すること、及びポリアミドフィルム上に設けたプライマー層に特定物性値を有するポリウレタン樹脂を用いることで、塗膜の表面特性が改善され、特にレトルト処理に耐えうる密着性が得られることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
(1)ヒンダードフェノール系化合物を0.01〜0.2質量%含有してなるポリアミドフィルムであって、少なくとも片面に、皮膜伸度250%以上かつ抗張力が20MPa以上のポリウレタン樹脂を含有した易接着層を有する耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
(2)ヒンダードフェノール系化合物が、ペンタエリスリチルーテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト〕またはN,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)である(1)記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
(3)ポリアミドフィルムがさらに有機リン系化合物を含有したものである(1)または(2)に記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
(4)有機リン系化合物がトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトである(3)記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
(5)ヒンダードフェノール系化合物の含有量が0.03〜0.1質量%である(1)記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
(6)ポリアミドフィルムがナイロン6を主体とするフィルムである(1)記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
(7)ポリウレタン樹脂がアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂である(1)記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、印刷・ラミネートといった加工後にも優れた密着性を有するポリアミドフィルムが得られ、さらにその密着性はレトルト処理後も維持される。また、レトルト処理後も、引張強度低下をはじめとする機械物性の劣化が小さいため、ボイル・レトルト処理を行うことが多い食品包装分野の基材フィルムとして好適に利用できる。
【0013】
さらに、本発明の耐熱水性ポリアミドフィルムは、ポリウレタン樹脂を含有する水性塗剤を塗布することにより簡便に得られ、厚みの制御が行いやすいなど、生産性に優れており、工業的に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のフィルムは、特定のヒンダードフェノール系化合物を含むポリアミド樹脂組成物からなる二軸延伸フィルムの少なくとも片面にポリウレタン樹脂を含有したプライマー層を有するものである。
【0016】
前記ポリアミド樹脂としては、ポリ−ε−カプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリラウラミド(ナイロン12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスベラミド、ポリパラキシリレンアジパミドおよびこれらの混合物、共重合体等を例示することができる。上記ポリアミド系樹脂を本発明に適用すると優れた効果が得られ、機械的性質、耐熱性、透明性及び密着性等包装材料として好適な特性を有するポリアミド系フィルムを得ることができる。コストパフォーマンス優れるナイロン6は特に好ましい。
【0017】
本発明において、ポリアミドフィルムの耐熱水性発現のために、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系化合物を添加することが必要である。ヒンダードフェノール系化合物として、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド、およびこれらの混合物等を例示することができる。ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)は、耐熱性やポリアミド樹脂との相溶性、更には安全衛生の点から好ましい。ヒンダードフェノール系化合物の含有量は、基材ポリアミドフィルム中に0.01 〜 0.2質量%の範囲であることが必要である。0.01質量%より低いと所定の耐熱水性が得られず、0.2質量%より多く添加しても耐熱水性は向上せず、またプライマー層との密着性が低下する。
【0018】
本発明において、ヒンダードフェノール系化合物と共に有機リン系化合物を併用することにより、耐熱水性を更に高めることが可能となる。有機リン系化合物としては、フォスファイト化合物が好ましく、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトール−ジフォスファイト、ジ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、ジ(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)−ペンタエリスリトール−ジフォスファイトおよびこれらの混合物等を例示することができる。特にトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトは、耐熱性やポリアミド樹脂との相溶性、更には安全衛生の点から好ましい。
【0019】
有機リン化合物を併用する場合には、ヒンダードフェノール系化合物との合計の含有量が、基材ポリアミドフィルム中に0.01 〜 0.2質量%の範囲であることが好ましい。また、ヒンダードフェノール系化合物(a)と有機リン系化合物(b)の質量比は、2/1≦a/b≦1/2 の範囲に設定することが好ましい。
【0020】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、基材ポリアミドフィルムにヒンダードフェノール化合物を所定量含有せしめることにより、130℃熱水処理後の引張強度を、処理前強度の80%以上に保持することができる。ポリアミドフィルムはレトルト処理されると酸化劣化による著しい機械強度の低下が発生する場合のあることが知られている。引張強度に関しては一般に無処理強度の半分以下となり、結果としてレトルト処理中ないしは処理後の袋破裂による内容物の漏洩などが発生し、包材として用を為さなくなる。しかしフィルム強度の低下を抑え、処理前強度の80%以上に保持することができれば、機械強度低下に関わるこれらの問題が発生することはない。
【0021】
本発明において、ポリアミドフィルムの製造方法としては、公知の任意の方法を採用することができる。例えば、混合した原料を押出機で加熱溶融した後、TダイやIダイ等のダイより未延伸シートを押出し、これをエアーナイフキャスト法、静電印加キャスト法等の公知のキャスティング法で回転する冷却ドラム上に密着させて急冷製膜する。
【0022】
次に、得られた未延伸シートをフィルムの長手方向(以下MD) および巾方向(以下TD) に共に好ましくは2.5倍以上延伸した後、熱処理して配向結晶化させる。フィルムの延伸方法としてはフラット式逐次二軸延伸法、フラット式同時二軸延伸法等の方法を適用することが可能である。フィルムを十分に配向結晶化させ、耐衝撃性等の機械的強度を得るためには、延伸倍率を2.5倍以上とすることが好ましい。
【0023】
本発明においてポリアミド系樹脂もしくはポリアミド系フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて有機・無機滑材、帯電防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、無機フィラー等の各種添加剤を配合することも可能である。これらの添加剤の配合量は、樹脂100質量部あたり合計量として0.001〜5.0質量部の範囲が適当である。
【0024】
次にプライマー層について説明する。プライマー層には、特定の皮膜伸度と抗張力を有するポリウレタン樹脂を用いる。
【0025】
ポリウレタン樹脂は、例えば多官能イソシアネートと水酸基含有化合物との反応により得られるポリマーであり、具体的にはトリレンジイソイアネート、ジフェニルメタンイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、またはヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等の多官能イソシアネートと、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボンネートポリオール等の水酸基含有化合物との反応により得られるウレタン樹脂を使用することができる。
【0026】
ポリウレタン樹脂を水性塗剤としてポリアミドフィルムに塗布する場合には、ポリウレタン樹脂はアニオン型水分散性であることが好ましい。この場合には、ポリウレタン樹脂中にアニオン性官能基を導入して、アニオン型水分散性を付与する。前記官能基の導入方法としては、ポリオール成分としてアニオン性官能基を有するジオール等を用いる方法、鎖伸張剤としてアニオン性官能基を有するジオール等を用いる方法などが挙げられる。アニオン性官能基を有するジオールとしては、例えば、グリセリン酸、ジオキシマレイン酸、ジオキシフマル酸、酒石酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)吉草酸、4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)酪酸などの脂肪酸カルボン酸;2,6−ジオキシ安息香酸などの芳香族カルボン酸などが挙げられる。
【0027】
アニオン型のポリウレタン樹脂を水中に分散させるには、一般的に揮発性塩基が用いられる。揮発性塩基の種類は特に限定されず公知のものを使用することができる。具体的には、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリアチルアミン、モルホリン、エタノールアミン等が挙げられる。この中でもトリエチルアミンは水分散ポリウレタン樹脂の液安定性が良好であり、さらに沸点が比較的低温であるためプライマー層への残留量が少なくより好ましい。
【0028】
本発明に用いるポリウレタン樹脂は皮膜伸度が250%以上であることが必要であり、300%以上であることがより好ましい。ポリウレタン樹脂の皮膜伸度が250%未満の場合、皮膜の凝集力は向上するが皮膜の可撓性および耐衝撃性が低下するため、本発明が目的とするプライマー層に対するコーティング、印刷といった加工処理を行った後の密着性が低下する。
【0029】
本発明に用いるポリウレタン樹脂は抗張力が20MPa以上であることが必要であり、25MPa以上であることがより好ましく、30MPa以上であることが特に好ましい。ポリウレタン樹脂の抗張力が20MPa以下の場合、プライマー層に対するコーティング、印刷といった加工処理を行った後の熱水処理前の密着性は向上するが、プライマー層の耐熱性が低く、本発明が目的とするプライマー層に対するコーティング、印刷といった加工処理を行った際の熱水処理後の密着性が大きく損なわれやすい。また、皮膜の凝集力が低下し耐ブロッキング性が悪化するため適さない。
【0030】
本発明の耐熱水性ポリアミドフィルムは、基材ポリアミドフィルムの少なくとも片面に、ポリウレタン樹脂を含有するプライマー層が形成されてなる。プライマー層の膜厚は0.025〜0.250μmであることが好ましく、より好ましくは0.050〜0.100μmである。塗膜が0.025μm未満であると、フィルム上に均一に欠点のない塗膜を形成するのが困難となり、レトルト処理後の接着性が低下することがある。一方、塗膜が0.250μmを超えると、耐熱水性ポリアミドフィルムから発生する揮発性塩基成分の総量を本発明で規定した数値以下にするには多くの熱量が必要となる。さらに、接着性の向上も軽微なため、経済的に非効率である。
【0031】
本発明の耐熱水性ポリアミドフィルムは、耐熱水性ポリアミドフィルムをヘリウムガス雰囲気下で200℃、10分の熱処理を行った際に、プライマー層から発生する揮発性塩基成分の総量が0.50μg/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.20μg/g以下である。揮発性塩基成分がプライマー層中に本発明で規定した0.50μg/gを超えて残留していると、プライマー層の耐水性が低下し、本発明が目的とするプライマー層に対するコーティング、印刷といった加工処理を行った際の水付時の接着性が低下する。
【0032】
ポリウレタン樹脂のガラス転移点は特に限定されないが、フィルムのブロッキング等を考慮すると、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。
【0033】
本発明の耐熱水性ポリアミドフィルムにおいて、プライマー層の耐水性、耐熱性といった性能向上を目的として、メラミン樹脂を硬化剤としてポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜30質量部添加することができる。
【0034】
メラミン樹脂の代表的なものとしては、トリ(アルコキシメチル)メラミンが挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。メラミン系硬化剤はそれぞれ単独で、または併用して使用することができる。
【0035】
水性塗剤におけるポリウレタン樹脂の固形分濃度は、塗工装置や乾燥・加熱装置の仕様によって適宜変更され得るものであるが、あまりに希薄な溶液では乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。一方、濃度が高すぎると塗工性に問題が生じやすい。このような観点から、水性塗剤におけるポリエステル樹脂の固形分濃度は3〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0036】
水性塗剤には、主成分であるポリウレタン樹脂の他に、塗液をフィルムに塗布する際の塗工性を向上させるために、界面活性剤を添加しても良い。かかる界面活性剤は、水性塗剤の基材フィルムへの濡れを促進するものであり、例えばポリエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンー脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型、アセチレングリコール等のノニオン型界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は水性塗剤中に0.01〜1質量%とすることが好ましい。但し、界面活性剤がブリードアウトしたり、プライマー層中に残留することによって熱水処理後の接着性が低下する恐れがあるので、界面活性剤を用いる場合は注意が必要である。
【0037】
水性塗剤には、ポリアミドフィルムに耐ブロッキング性を付与させるために無機または有機の粒子を添加しても良い。無機の粒子としては例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化チタン、カーボンブラック等の無機微粒子、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンワックス等の有機微粒子等を挙げることができる。無機または有機の粒子の粒径は、0.0001〜5μmが好ましく、より好ましくは0.01〜1μmが好ましい。その添加量は、水性塗剤中に0.1質量%以下が好ましく、得られる塗膜中に10質量%以下が好ましい。
【0038】
水性塗剤をポリアミドフィルムに塗布する段階は特に限定されるものではなく、フィルムの延伸前の段階、MD延伸後かつTD延伸前の段階、延伸後の段階のいずれであっても構わない。
【0039】
水性塗剤をフィルムに塗布する方法は特に限定されないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング等の通常の方法を用いることができる。
【0040】
本発明の耐熱水性ポリアミドフィルムは、その表面にコロナ処理をはじめとする表面処理を施したり、印刷、各種機能コーティング等を行うことにより諸性能を付加することもできる。
【0041】
本発明の耐熱水性ポリアミドフィルムはフィルム表面への塗料や印刷インキ等の各種の二次加工処理に対する接着性に優れ、また、シーラントフィルムとの接着性に優れており、包装用、一般工業用などの基材フィルムとしての利用価値が大きい。また、ボイル・レトルト処理といった熱処理後、引張強度低下をはじめとする機械物性の劣化は小さく、優れた密着性を有するため、食品包装用基材フィルムとして好適に使用できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により詳述する。なお、本発明は必ずしもそれらの例に限定されるものではない。
【0043】
本発明における評価方法は次の通りである。
【0044】
(1)レトルト処理
MD、TDを明示したポリアミドフィルムをアルミニウム枠に固定し、高温高圧調理殺菌装置(日阪製作所社製RCS−60SPXTG)を使用して、温度125℃、圧力2.5kgf/cmの条件下、熱水シャワー式で30分間レトルト処理した。
【0045】
(2)引張強度
常態(無処理)フィルム、及び上記(1)の手順にて処理されたレトルト処理済みフィルムより、MD及びTDに平行に10mm幅にて短冊状にサンプリングし、20℃×65%RH雰囲気下、引張試験機(島津製作所社製AG-X)を用いて、掴み具間間隔100mm、引張速度500mm/minにて引張破断強度を測定した。次式により強度保持率を算出した。
Sk=(Fr/Fb)×100
但し、Sk:強度保持率(%)
Fb:無処理フィルムの強度(MPa)
Fr:レトルト処理済みフィルムの強度(MPa)
【0046】
(3)ラミネート強力
ポリアミドフィルムのプライマー層を設けた面にレトルト用接着剤(DIC社製ディックドライLX500/KR90S)を4.0g/m(Dry)となるように塗布し、未延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製RXC−21、50μm)とドライラミネートした後、40℃×5日間のエージング処理を行った。
前記ラミネートフィルムからMDに15mm幅にサンプリングを行い、20℃×65%RHの雰囲気下、試験片の端部からポリアミドフィルムのプライマー層と未延伸ポリプロピレンフィルムとの界面を剥離し、引張試験機(島津製作所社製AG-X)を用いて、180°シーラント曲げ法にて、引張速度300/minで剥離強力を測定した。このラミネート強力は、レトルト処理(温度125℃、圧力2.5kgf/cmで30分間処理、熱水シャワー式)前後で測定を行った。
【0047】
(4)ポリアミドフィルム中の揮発性塩基成分の測定
ポリアミドフィルム約15mgを精秤して試料カップに充填し、パイロライザー(PY−2020iD)中で200℃×10分間加熱し、発生した揮発成分についてGC/MS(GC:AGILENT 6890N、MS:Agilent 5975C)測定を行った。なお、検量線はプライマー用塗剤で検出された揮発性塩基成分について、試料濃度が0、10、50、100、200、500ppmのヘキサン/ヘキサデカンの標準溶液を作成し、各溶液5μlを試料カップに充填し、試料と同じ加熱条件にてGC/MS測定を行い検量線を作成した。なお、GC/MS測定において、揮発性塩基成分の量が0.05μg/g以下の場合、ピークの分離が困難であったため、検出限界以下(ND)とした。
〔GC/MS条件〕
カラム:UA5(MS/HT)−30M−0.25F
キャリアガス:ヘリウム、初期流量1.0ml/min
【0048】
(5)ウレタン樹脂特性(抗張力および皮膜伸度)
フィルムの皮膜物性プライマーコート剤をガラス板上に流延し常温で24時間乾燥し、その後150℃で10分間熱処理し、50μmのフィルムを作成した。このフィルムを5mm幅の短冊状に裁断し、裁断した短冊状の試片を引張試験機(島津製作所社製 AGS−100B型)を用いて、引張速度300mm/minの条件で引張った。試片が破断する前に耐えうる最大の引張り応力を抗張力と、破断する直前における最大の変形量(ひずみ)をもとの長さとの比を皮膜伸度と、それぞれ定義した。
【0049】
以下の実施例、比較例において用いたウレタンエマルジョンは、すべてアニオン型のポリウレタン水分散体である。また、ウレタン樹脂の抗張力と皮膜伸度は、表1に記載したとおりである。
【0050】
[実施例1]
[水性塗剤の調製]
DIC社製のウレタンエマルジョン「ハイドランADS−120」(固形分濃度50質量%)をイオン交換水で希釈し、樹脂固形分10質量%水性プライマー用塗剤を作成した。
[耐熱水性ポリアミドフィルムの製造]
ナイロン6樹脂(相対粘度3.0(25℃、95質量%硫酸中))99.80質量%に対して、酸化防止剤としてのペンタエリスリチル− テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕<A>が0.05質量%、及び有機滑剤としてエチレンビスステアリン酸アミドが0.15質量%となるように配合した組成物を240℃で混合溶融し、Tダイを用いてシート状に押出した後、25℃の回転ドラムに密着させて急冷し、厚さ150μmの未延伸フィルムを得た。続いて、この未延伸フィルムに前記水性塗剤をエアーナイフコーティング法によって塗布した後、ドライヤーにて60℃、10秒間乾燥させた。次にこの未延伸フィルムを同時二軸延伸機に導き、予熱温度225℃、延伸温度195℃の条件で、MD及びTD方向にそれぞれ、3.3倍と3.0倍延伸し、さらに215℃で熱固定を行い、二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。このポリアミドフィルムの揮発性塩基成分を前記方法で測定したところ、検出限界以下(N.D)であった。このポリアミドフィルムのその他の測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
[実施例2]
実施例1において、酸化防止剤の含有量が0.15質量%となるように変更した。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0053】
[実施例3]
実施例1において、用いるポリウレタン樹脂をDSM社製「NeoRez R9679」(固形分濃度37質量%)に変更し、これをイオン交換水で固形分濃度10質量%に希釈し水性塗剤として用いた。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0054】
[実施例4]
実施例1において、酸化防止剤をN,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)<B>に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0055】
[実施例5]
実施例1において、<A>0.05質量%とともに、有機リン系化合物としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト<C>を0.05質量%となるようにナイロン6樹脂に添加し、ポリウレタン樹脂をDIC社製「KU−400SF」(固形分濃度25質量%)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0056】
[実施例6]
実施例4において、<B>が0.05質量%、<C>が0.03質量%となるようにナイロン6樹脂に添加した。それ以外は、実施例4と同様にして耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、ナイロン6樹脂に酸化防止剤を添加しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
実施例1において、<A>の含有量が0.30質量%になるように変更した。こと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
実施例3において、<A>が0.005質量%となるように変更した。それ以外は、実施例3と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0060】
[比較例4]
実施例1において、<A>の代わりに<C>を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0061】
[比較例5]
実施例1において、酸化防止剤として、<A>と<C>をそれぞれ0.005質量%、0.01質量%となるように添加した。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0062】
[比較例6〜8]
実施例1において、用いるポリウレタン樹脂を下記のように変更し、いずれもイオン交換水で固形分濃度10質量%に希釈し水性塗剤として用いた。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
各比較例に用いたポリウレタン樹脂は以下の通り。
比較例6;DIC社製「ハイドランAP−40F」(固形分22質量%)
比較例7;第一工業製薬社製「スーパーフレックス361(SF−361)」(固形分25質量%)
比較例8;三井化学ポリウレタン社製水性ウレタン樹脂「タケラックW−615」(固形分35質量%)。
【0063】
[比較例9]
実施例1において、ナイロンフィルム上にプライマー層を設けなかった。それ以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0064】
酸化防止剤の種類と含有量を規定し、かつ所定の皮膜伸度と抗張力を有するウレタン樹脂をプライマー層に用いることで、表1に示す通り、耐熱水性と密着性を兼ね備えたナイロンフィルムが作成できた。
これに対し、各比較例では以下のような問題があった。
比較例1では酸化防止剤を含有していないため、レトルト処理による強度低下が著しいものとなった。
比較例2では酸化防止剤が規定量よりも多かったためにラミネート強力が低下する結果となった。
比較例3では酸化防止剤が規定量よりも少なかったために満足する耐熱水性が得られなかった。
比較例4のように、有機リン系化合物のみの使用では、レトルト処理後の物性が不十分であった。
比較例5では酸化防止剤としてヒンダードフェノール系化合物と有機リン系化合物の混合物を使用したが、その添加量が規定量よりも少なかったため、満足する耐熱水性が得られなかった。
比較例6〜8では、ポリウレタン樹脂の皮膜伸度または抗張力が本発明で規定する範囲より低かった。このため、プライマー層の表面特性が積層される接着剤層に対して有効ではなく、レトルト処理前後のラミネート強力に劣っていた。
比較例9では、プライマー層を設けなかったため、レトルト処理後のラミネート強力の低下が大きいものとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンダードフェノール系化合物を0.01〜0.2質量%含有してなるポリアミドフィルムであって、少なくとも片面に、皮膜伸度250%以上かつ抗張力が20MPa以上のポリウレタン樹脂を含有したプライマー層を有する耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項2】
ヒンダードフェノール系化合物が、ペンタエリスリチルーテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト〕またはN,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)である請求項1記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項3】
ポリアミドフィルムがさらに有機リン系化合物を含有したものである請求項1または2に記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項4】
有機リン系化合物がトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトである請求項3記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項5】
ヒンダードフェノール系化合物の含有量が0.03〜0.1質量%である請求項1記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項6】
ポリアミドフィルムがナイロン6を主体とするフィルムである請求項1記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項7】
ポリウレタン樹脂がアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂である請求項1記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項8】
ポリウレタン樹脂を含有する水性塗剤をポリアミドフィルムに塗布したのち乾燥することを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の耐熱水性二軸延伸ポリアミドフィルムの製造方法。


【公開番号】特開2011−104946(P2011−104946A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265082(P2009−265082)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】