説明

耐熱絶縁被覆の製造方法

【課題】 ガラス粉末を溶剤に分散した分散液に導体を浸漬し、引上げ、その後熱処理を行う耐熱絶縁被覆の製造方法であって、導体表面に均一にガラス被覆が形成され、ガラス被覆内にボイドが生じることもない耐熱絶縁被覆の製造方法を提供する。
【解決手段】 最大粒径が60μm以下のガラス粉末を、30〜70重量%の濃度で溶剤に分散してなる分散液に、導体を浸漬して引上げ、導体表面に前記分散液の塗布膜を形成し、その後加熱することにより、前記塗布膜中の溶剤を除去するとともに、ガラス粉末を溶融してガラス層を形成することを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ガラス(以下単にガラスと言う。)からなり、高温環境下で使用される導体の絶縁被覆に用いられる耐熱絶縁被覆の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年パワーアップ等の目的で、電気製品の大電流化が求められる場合が多くなっている。大電流化に伴い、導線の電流密度も上昇し、導線等の発熱も大きくなるので、銅等の導体からなる導線を被覆する絶縁材として、高い耐熱性を有するものが求められるようになっている。
【0003】
耐熱性の高い絶縁材としては、ポリイミド樹脂が知られている。しかし、現在さらに高い耐熱性が望まれるようになっており、この要望を満たすものとして、ガラス系の絶縁材料が期待されている。ガラス系の絶縁材料は、通常、ポリイミド線の耐熱寿命の温度(約250℃)よりはるかに高いガラス転移点(Tg)や軟化点(Tc)を有し、耐熱性に優れている。
【0004】
そこで、銅等の導体からなる導線にガラス系絶縁材料の被覆を形成する方法が、種々検討されている。例えば、溶融したガラスに導体を浸漬し、引上げ、表面に付着した溶融ガラスを冷却、固化して、ガラス層からなる絶縁被覆を形成する方法が挙げられる。又、ガラス粉末を溶剤に分散したガラス分散液に導体を浸漬し、引上げ、その後熱処理(加熱)を行うことにより、表面に付着した分散液中の溶剤を除去するとともに、ガラス粉末を溶融して、ガラス層からなる絶縁被覆を形成する方法も挙げられる。この方法は、溶融ガラス槽等を必要とせず、比較的簡易な設備で絶縁被覆を形成することができるので、好ましい方法と考えられている。
【0005】
しかし、この方法で用いられるガラス層の性状は、分散液の種類を変えると大きく変動し、導体表面に不均一なガラス被覆が形成される場合がある。又、熱処理の際の溶剤の揮発によりガラス層内にボイドが生じる場合もある。
【0006】
例えば、導体表面に不均一なガラス被覆が形成され、ガラス被覆の薄い部分が生じると、その薄い部分では導体金属の酸化が進み、その酸化物のガラス中への拡散により絶縁性が低下する。また、ボイドが生じても絶縁性は低下する。そこで、このような問題を生じることのない耐熱絶縁被覆の製造方法が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ガラス粉末を溶剤に分散した分散液に導体を浸漬し、引上げ、その後熱処理を行う耐熱絶縁被覆の製造方法であって、導体表面に均一にガラス被覆が形成され、ガラス被覆内のボイドが少ない耐熱絶縁被覆の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は検討の結果、ガラス被覆の不均一化やボイドの発生の問題は、分散液中のガラス粉末濃度やガラス粉末の粒径、特に最大粒径が大きく影響することを見出すとともに、これらを特定の範囲内とすることにより、前記の問題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、最大粒径が60μm以下のガラス粉末を、30〜70重量%の濃度で溶剤に分散してなる分散液に、導体を浸漬して引上げ、導体表面に前記分散液の塗布膜を形成し、その後加熱することにより、前記塗布膜中の溶剤を除去するとともに、ガラス粉末を溶融してガラス層を形成することを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明の耐熱絶縁被覆の製造方法は、導体が浸漬される分散液中のガラス粉末の最大粒径が60μm以下であることを特徴の一つとする。ここで、最大粒径とは、ガラス粉末中の99重量%以上の粉末の粒径が、それ以下となる粒径を意味する。
【0011】
最大粒径を60μm以下とすることにより、ボイドの発生を少なくすることができる。一方、最大粒径が60μmを越えると、導体上に塗布されたガラス粉末の分散液から、熱処理により溶剤を除去する際、溶剤の揮発によりボイドが発生しやすくなり、このボイドにより絶縁性は低下する。なお、ガラス粉末の最大粒径は、1〜25μmの範囲であることがより好ましい。最大粒径が1μm未満の場合は、ガラス粉末が凝集しやすくなり、均一なガラス被覆が形成しにくくなる場合がある。
【0012】
本発明の耐熱絶縁被覆の製造方法は、導体が浸漬される分散液中のガラス粉末の濃度が30〜70重量%であることも特徴とする。ここで、濃度とは、溶剤及びガラス粉末を含む分散液全体に対するガラス粉末の重量%を意味する。ガラス粉末濃度が、30重量%より小さい場合、金属表面に不均一なガラス被覆が形成されやすく、ガラス被覆の剥離やクラックが生じやすくなり、又薄い部分が生じやすくなる。前記のように、ガラス被覆の薄い部分が生じると導体金属の酸化が進み、その酸化物のガラス中への拡散により絶縁性が低下する。
【0013】
一方、ガラス粉末濃度が70重量%を越えた場合も、導体に過剰に付着した分散液の垂れによる膜厚の不均一化が生じやすく、その結果、ガラス被覆の剥離やクラックが生じやすくなる。さらに、この場合は、熱処理時の溶剤除去の際にボイドができやすい。前記のように、ボイドが発生すると絶縁性が低下する。ガラス粉末の濃度は、より好ましくは35〜50重量%の範囲内であり、この範囲内で前記の問題をより効果的に防ぐことができる。
【0014】
本発明においては、前記の分散液に、導体を浸漬して引上げることにより、導体表面に分散液の塗布膜が形成される。ここで、導体とは、線状のものであり、銅又は銅を主成分とする合金からなるものが例示される。分散液に分散されるガラス粉末を構成するガラスとしては、融点が比較的低く、絶縁性に優れ、かつ熱膨張率が銅等の導体と近いものが好ましく用いられる。
【0015】
このようなガラスとして、(1)P酸化物及びB酸化物、並びに(2)2種類以上のアルカリ金属酸化物を含有し、ガラス転移点における熱膨張率が8〜23×10−6/℃であることを特徴とするガラスが好ましく例示される。このガラスは、SiO系ガラスと比べると低い融点を有するとともに、ポリアミド系樹脂よりはるかに高い耐熱性を有し、かつ後述するように、導線使用中にクラックや剥離を生じる問題も小さい。又、Pbフリーであり、毒性の問題もない。
【0016】
請求項2は、この好ましい態様に該当し、前記の耐熱絶縁被覆の製造方法であって、前記ガラス粉末を構成するガラスが、(1)P酸化物及びB酸化物並びに(2)2種類以上のアルカリ金属酸化物を、(1):(2)のモル比が1:0.1〜1.2の範囲で含有し、そのガラス転移点において8〜23×10−6/℃の熱膨張率を有することを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法を提供するものである。
【0017】
通常、ガラス中には、P酸化物、B酸化物、アルカリ金属酸化物が、それぞれ独立した分子としては存在しない。そこで「(1)並びに(2)を含有する。」とは、P酸化物、B酸化物及び2種類以上のアルカリ金属酸化物が、それぞれ独立した分子として存在していると仮定した場合と同じ組成を、前記のガラスが有することを意味する。
【0018】
このガラスの、ガラス転移点における熱膨張率は、8〜23×10−6/℃の範囲内である。この結果、室温からガラス転移点の範囲の温度で、銅等の導体に近い熱膨張率を有することになり、使用中の温度変化によるクラックや剥離等の発生を防ぐことができる。熱膨張率は、P酸化物とB酸化物の比率や、アルカリ金属酸化物の含有量により変動するので、これらを、後述する範囲内で調整することにより、前記範囲の熱膨張率を得ることができる。
【0019】
(1)P酸化物及びB酸化物と、(2)2種類以上のアルカリ金属酸化物の比率は、モル比で1:0.1〜1:1.2の範囲である。(2)の含有量が(1)の1モルに対し0.1モル以下になると、熱膨張率が低化し、8〜23×10−6/℃の範囲とすることが困難になる。一方、1.2モル以上となるとガラス化しにくくなる。
【0020】
(2)の含有量が(1)の1モルに対し0.6モル以上となると、ガラス転移点や軟化点が低下する。又絶縁抵抗も低下する。そこで、より高い耐熱性、絶縁抵抗を得るためには、(1)と(2)の比率は、モル比で1:0.1〜1:0.6の範囲がより好ましい。
【0021】
(1)P酸化物及びB酸化物としては、それぞれ、P及びBが例示される。P及びBを用いる場合、両者の比率はモル比で、1:0.9〜1:3.5の範囲が好ましい。より好ましくは、1:1〜1:3の範囲である。Pの比率が上記の範囲より大きくなると、ガラスの耐水性が低下する場合があり、吸湿による絶縁性の低下により劣化しやすくなる。一方、Bの比率が上記の範囲より大きくなると、ガラスの熱膨張率が低下し、8〜23×10−6/℃の範囲とすることが困難になる。又ガラスが硬く脆くなる傾向がある。
【0022】
請求項3は、この好ましい態様に該当し、前記の耐熱絶縁被覆の製造方法であって、(1)P酸化物及びB酸化物が、それぞれ、P及びBであり、P:Bのモル比が、1:0.9〜1:3.5の範囲であることを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法を提供するものである。
【0023】
前記ガラスは、アルカリ金属を2種類以上含有することを特徴とする。アルカリ金属は、イオン伝導性が大きいので、ガラスの絶縁性を低下させる。しかし、本発明者は、2種類以上のアルカリ金属をガラス中に含有させると、ガラスの絶縁性の低下を防ぐことができることを見出したのである。
【0024】
2種類以上のアルカリ金属酸化物としては、その入手しやすさ等から、LiO、NaO又はKOが好ましい。又、2種類以上のアルカリ金属酸化物間の比率は、等モルに近い程絶縁性の低下を防ぐ効果が大きい。従って、それらの組成は、その中の1種類のアルカリ金属酸化物の含有量1モルに対し、他のアルカリ金属酸化物の含有量が0.8〜1.2モルであることが好ましい。請求項4は、この好ましい態様に該当し、前記の耐熱絶縁被覆の製造方法であって、(2)アルカリ金属酸化物が、LiO、NaO及びKOから選ばれ、かつ1種類のアルカリ金属酸化物の含有量1モルに対し、他のアルカリ金属酸化物の含有量が0.8〜1.2モルであることを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法を提供するものである。LiO、NaO及びKOから選ばれる組合せの中でも、LiO及びKOの組合せが、絶縁性の点から、特に好ましい。
【0025】
ガラス粉末の原料のガラスは、より好ましくは、前記の(1)及び(2)に、さらに、(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物を含有する。(3)を含有することにより、ガラスの耐水性を向上させることができる。特に、P酸化物のB酸化物に対する比率が大きい場合は、耐水性が低下する傾向があるので、(3)の含有が好ましい。(3)は、いわゆる無機修飾酸化物であり、ガラスを形成するものではないが、ガラスを形成する原子間の隙間に入り、ガラスの物性を変える効果を有するものである。
【0026】
P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物の量としては、(1)P酸化物及びB酸化物の合計1モルに対して、(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物の合計含有量が、0.0015〜0.15モルとなる範囲が好ましい。(3)の含有量が、(1)の1モルに対して0.0015モル以下となると、耐水性向上の効果が充分に得られない場合がある。一方、0.15モル以上となると、熱膨張率が低下し、8〜23×10−6/℃の範囲とすることが困難になる場合がある。
【0027】
請求項5は、このより好ましい態様に該当するものである。すなわち、前記の耐熱絶縁被覆の製造方法であって、前記ガラスが、さらに(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物を、(1)P酸化物及びB酸化物の合計含有量1モルに対する(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物の合計含有量が0.0015〜0.15モルとなる範囲で含有することを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法を提供するものである。ここで含有するとは、前記の(1)及び(2)の場合と同様に、(3)を必ずしも独立した分子として含有するものではないが、(3)を分子として含有したと仮定した場合と同じ組成をガラスが有することを意味する。(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物としては、Al及びSiOが好ましく例示される。
【0028】
前記のガラスは、P、B、アルカリ金属又は酸素を含有する原料化合物を混合して溶融し、その後固化することにより得ることができる。(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物を含有させる場合は、さらに、(3)の酸化物を形成することができる元素(AlやSi等)を含有する原料化合物を、前記原料化合物に混合して溶融する。
【0029】
原料化合物としては、P、BやAl等を用いることもできるし、Al(POや、KPO、LiPO等のアルカリ金属とP等を共に含有した化合物を用いることもできる。これらの原料を、混合物中の各成分の比率が所望の範囲となるように、混合して用いる。
【0030】
前記のようにして得られたガラスは、粉砕されて、本発明に使用されるガラス粉末が製造される。粉砕後、篩にかけることにより、前記の所定の粒径のガラス粉末を得ることができる。得られたガラス粉末は、溶剤に分散されて分散液を構成し、この分散液に導体が浸漬され、引上げることにより、この導体上に、分散液の塗布膜が形成される。
【0031】
ガラス粉末を分散する溶剤としては、融点が−24℃〜+36℃の範囲内のものが好ましく用いられる。このような溶剤としては、所定の分子量のポリエチレングリコールやα−テルピネオールが例示される。さらに、粘度を下げるため、好ましくは1−メチル−2−ピロリドン等を該溶剤に添加してもよい。この溶剤を用いることにより、絶縁被覆の厚膜化を可能にする。前記のような溶剤を用いた場合は、導体の前記溶剤への浸漬は、前記溶剤の融点以上の温度で行う必要がある。請求項6は、この態様に該当し、前記の耐熱絶縁被覆の製造方法であって、溶剤の融点が−24℃〜+36℃の範囲内であり、導体の前記溶剤への浸漬を、前記溶剤の融点以上の温度で行うことを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法を提供するものである。
【0032】
導体を分散液に浸漬し、引上げて、分散液の塗布膜が導体の表面に形成された後、この導体は加熱され、塗布膜中の溶剤が除去されるとともに、ガラス粉末が溶融される。溶融されたガラス粉末が冷却、固化されることにより、導体の表面にガラス層が形成され、耐熱絶縁被覆が製造される。
【0033】
加熱は、ガラス粉末の融点以上とする必要があるが、ガラス粉末の原料のガラスが比較的低い融点を有する場合は、加熱温度も低くすることができるので好ましい。又、この加熱は、好ましくは、酸素濃度が100〜2000ppmの雰囲気下で行われる。酸素濃度が2000ppmより高い場合は、加熱中に導体が酸化されやすく、生じた酸化物が絶縁被覆中に拡散して絶縁性が低下する問題が起きやすい。一方、導体とガラスとの密着性の向上のためには、導体表面にある程度の酸化膜を有する必要がある。そこで、酸素濃度が100ppm未満の場合は、この酸化膜の形成が不十分になり、密着性が低下するので好ましくない。請求項7は、この好ましい態様に該当し、前記の耐熱絶縁被覆の製造方法であって、加熱を、酸素濃度が100〜2000ppmの雰囲気下で行うことを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の耐熱絶縁被覆の製造方法により、均一の厚みを有しボイド等の少ない耐熱絶縁被覆が形成され、その結果、絶縁性の低下やクラックや亀裂の発生等の問題を生じない。又、ガラスからなる耐熱性の高い絶縁被覆であるので、大電流が流され発熱の大きい導体、例えば、小型で高出力のモータ用コイルの導体の被覆に好適に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明するが、本発明の範囲はこの形態に限定されるものでなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、他の態様が可能である。
【0036】
実施例、比較例
[ガラスの製造]
原料として、B(添川理化学株式会社製、純度99.9%)、LiPO(白辰化学研究所製、純度3N)、KPO(白辰化学研究所製、純度3N)、及びAl(片山化学工業株式会社製、純度98%以上)を用いた。各原料の配合量は次のとおりである。
:12.728g LiPO:15.702g
PO:21.567g
【0037】
各原料を十分に混合し、ガラスバッチを作製した。次に、得られたガラスバッチを、高純度アルミナルツボを用いて、電気炉(1100〜1300℃、大気中)で0.5〜1時間溶融した。その後、炉から取り出し、ステンレス鋳型またはグラファイト板にキャストしてガラスを得た。その結果、P:B:LiO:NaO:Alを、33:33:16.5:16.5:2の組成で含有するガラスが50g作製された。なおこのガラスの融点は471℃であった。又熱膨張率は、13.7×10−6/℃であった。
【0038】
[分散液の作成]
このようにして得られたガラスを粉砕した後、網目の大きさが60μmの篩を用いて60μm以上の粒径のガラス粉末を取り除き、ガラス粉末1を得た。又、60μmの篩の代りに網目の大きさが100μmの篩を用い100μm以上の粒径のガラス粉末を取り除いた以外は同様にして、ガラス粉末2を得た。得られたガラス粉末1又はガラス粉末2のそれぞれに、分散溶剤のα−テルピネオール(融点31℃)を、ガラス粉末濃度が表1の値となる量加えて撹拌し、分散液を作成した。
【0039】
[導体の浸漬、熱処理工程]
径1.0mmの断面丸型の銅線を、前記のようにして得られた分散液に、30秒間浸漬した後引上げた。その後、この導体を、表1に示す酸素濃度の雰囲気中に、570℃で10分間保持して熱処理した後冷却すると、ガラス絶縁被覆を有する導体が得られた。この絶縁被覆の厚みの均一性、およびボイドの有無、絶縁被覆の密着性を下記の方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
厚みの均一性の測定: 絶縁被覆を形成した導体の断面を、光学顕微鏡により観察することにより絶縁被覆の厚みの均一性を評価した。
ボイドの有無: 絶縁被覆を形成した導体の表面を、光学顕微鏡により観察して、ボイドの有無を評価した。
絶縁被覆の密着性: 絶縁被覆を形成した導体を直径10cmの円柱に巻付け、そのときのガラス被覆上に生じたクラックの状態により、下記の基準に基づき評価した。なお、各実施例、比較例で、絶縁被覆の厚みがそれぞれ同程度になるように、ガラス絶縁被覆の形成条件は調整されている。
[密着性の評価基準]
・細かいヘアクラックが多数分散しているものを○とした。
・導体の外周の半分程度以上まで達するような大きなクラックがあるものを×とした。
・導体の外周の半分よりは小さいが、細かいヘアクラックよりは大きなクラックがあるものを△とした。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果から明らかなように、本発明の方法である実施例1〜2により製造された絶縁皮膜は、均一な厚みを有し、またボイドも少ない。一方、比較例1〜2により製造された絶縁皮膜は、厚みが不均一であるか、又はボイドを多く有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大粒径が60μm以下のガラス粉末を、30〜70重量%の濃度で溶剤に分散してなる分散液に、導体を浸漬して引上げ、導体表面に前記分散液の塗布膜を形成し、その後加熱することにより、前記塗布膜中の溶剤を除去するとともに、ガラス粉末を溶融してガラス層を形成することを特徴とする耐熱絶縁被覆の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス粉末を構成するガラスが、(1)P酸化物及びB酸化物並びに(2)2種類以上のアルカリ金属酸化物を、(1):(2)のモル比が1:0.1〜1.2の範囲で含有し、そのガラス転移点において8〜23×10−6/℃の熱膨張率を有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱絶縁被覆の製造方法。
【請求項3】
(1)P酸化物及びB酸化物が、それぞれ、P及びBであり、P:Bのモル比が、1:0.9〜1:3.5の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の耐熱絶縁被覆の製造方法。
【請求項4】
(2)2種類以上のアルカリ金属酸化物が、LiO、NaO及びKOから選ばれ、かつその中の1種類のアルカリ金属酸化物の含有量1モルに対し、他のアルカリ金属酸化物の含有量が、0.8〜1.2モルであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の耐熱絶縁被覆の製造方法。
【請求項5】
前記ガラスが、さらに(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物を、(1)P酸化物及びB酸化物の合計含有量1モルに対する(3)P酸化物及びB酸化物より融点の高い酸化物の合計含有量が0.0015〜0.15モルとなる範囲で含有することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の耐熱絶縁被覆の製造方法。
【請求項6】
前記溶剤の融点が−24℃〜+36℃の範囲内であり、導体の前記溶剤への浸漬を、前記溶剤の融点以上の温度で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の耐熱絶縁被覆の製造方法。
【請求項7】
加熱を、酸素濃度が100〜2000ppmの雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の耐熱絶縁被覆の製造方法。

【公開番号】特開2006−144093(P2006−144093A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338099(P2004−338099)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】