説明

耐熱耐水電線

【課題】コークス移動機のような長期にわたり高温に曝されかつ散水や落骸も受ける苛酷な環境での長期安定使用が可能な耐火性・耐熱性電線を提供する。
【解決手段】導体1と、該導体の外周部を被覆するフッ素樹脂層2と、該フッ素樹脂層の外周部を被覆するセラミック繊維の編組3Aとからなる心線と、該心線の複数本を介在5と共に撚り合せてなる撚合線11の外周部を被覆するセラミック繊維の編組3Bと、該セラミック繊維の編組の外周部を被覆するステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被4とからなる耐熱耐水電線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱耐水電線に関し、特に、コークス移動機等の高温環境で長期間安定使用可能であり、かつ、コークス移動機周辺では水洗による散水があるため耐水性も付加した、耐熱耐水電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長時間の耐火試験に耐えうる高耐火特性を備えた耐火ケーブルとして、導体、耐火層、絶縁層、難燃性シースからなる耐火ケーブルの耐火層をアルミナクロスと集成マイカなどの他の耐火材との複合絶縁テープで構成したものが記載されている。
特許文献2には、可撓性、耐熱性、耐延焼性、耐水性、耐油性という条件を全て満足する不燃電線として、導体上に耐熱温度500℃以上の無機質の可撓性絶縁層を設けて絶縁線心を形成し、この線心またはこの線心を複数本撚り合せたものをコアにして、このコアを構成する絶縁線心のそれぞれの外方に、フッ素系有機材料の押出し被覆層および無機質の可撓性外被を順次設けたものが記載されている。
【特許文献1】特開2000−331546号公報
【特許文献2】特開昭62−103912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、800〜1000℃程度の雰囲気に数分間さらされることが頻発するコークス移動機の周辺で使用する電線(ケーブルとも称される)は、耐熱性を考慮したものを多数使用してきているが、耐水性を考慮したものは未使用であり、熱、水、腐食性ガスによる劣化が著しく顕著となり、長期安定使用が困難となっている。
特許文献1に記載の耐火ケーブルでは、耐水性を持たせるために、シース(外被)構成材に難燃性を持たせるための添加剤を脂肪酸金属塩、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等で処理する手段が講じられる(特許文献1の段落0018〜0019)が、コークス移動機周辺のような長期にわたる高温環境に曝されると、これら外被部材の薬剤処理により付与された耐水性能は早期に劣化して、電線の交換頻度が高くなる憂いがある。また、外被ベース材がポリマーであるため、コークス移動機からの落骸等により外被が損傷し易いという難点もある。
【0004】
特許文献2に記載の不燃電線は、耐水性を考慮して外被直下にフッ素系有機材料の押出し被覆層が設けられているものの、コークス移動機のような長期にわたる高温環境に曝されると、外被直下のフッ素系有機材料がその耐熱温度を超えることがあり、劣化の進行が早くて耐水性の確保が困難となって、電線の交換頻度が高くなる憂いがある。また、外被がセラミック繊維の編組で構成されているため、コークス移動機からの落骸等により外被が損傷し易いという難点もある。
【0005】
上述のように、従来の耐火性・耐水性電線は、コークス移動機のような長期にわたり高温に曝されかつ散水や落骸も受ける苛酷な環境での長期安定使用は不可能であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段であって、その要旨構成は以下の通りである。
(請求項1)
導体と、該導体の外周部を被覆するフッ素樹脂層と、該フッ素樹脂層の外周部を被覆するセラミック繊維の編組とからなる心線と、該心線の外周部を被覆するステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被とからなることを特徴とする耐熱耐水電線。
(請求項2)
導体と、該導体の外周部を被覆するフッ素樹脂層と、該フッ素樹脂層の外周部を被覆するセラミック繊維の編組とからなる心線と、該心線の複数本を介在と共に撚り合せてなる撚合線の外周部を被覆するセラミック繊維の編組と、該セラミック繊維の編組の外周部を被覆するステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被とからなることを特徴とする耐熱耐水電線。
(請求項3)
前記フッ素樹脂として、PFAすなわちテトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱耐水電線。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐熱耐水電線(略して本発明電線)では、耐水性を確保するためのフッ素樹脂層の外周部が、セラミック繊維の編組と、ステンレス鋼素線の編組密度90%以上の編組外被とで、二重(撚合線とした場合は三重あるいはそれ以上)に被覆されているので、コークス移動機のような長期にわたる高温環境に曝されても、フッ素樹脂がその耐熱温度を超え難い。また、外被をステンレス鋼素線の編組密度90%以上の編組で形成したので、落骸等を受けても損傷し難い。したがって、本発明によれば、コークス移動機のような長期にわたり高温に曝されかつ散水や落骸も受ける苛酷な環境中でも、電線の長期安定使用が可能となる。また、外被がステンレス鋼素線の編組密度90%以上の編組で形成されているため、電線管やフレキ管などの保護管を使用せず裸線のまま布設することが可能であり、それゆえ、付帯費を低減できるという効果や、本発明電線からの異常信号検出時に即座に目視で外傷を確認できて故障復旧時間を短縮できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明電線の心線が1本の場合(1芯型)の1例を示す断面模式図である。この例は、導体1の外周部にフッ素樹脂層2を形成し、該フッ素樹脂層の外周部をセラミック繊維の編組3で被覆して心線10を形成し、該心線10の外周部をステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被4で被覆したものである。
図2は、本発明電線の心線が2本の場合(2芯型)の1例を示す断面模式図である。この例は、導体1の外周部にフッ素樹脂層2を形成し、該フッ素樹脂層の外周部をセラミック繊維の編組3Aで被覆して心線10を形成し、2本の心線10A,10Bを介在5と共に撚り合せて撚合線11となし、該撚合線11の外周部を被覆するセラミック繊維の編組3Bと、該セラミック繊維の編組3Bの外周部をステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被4で被覆したものである。
【0009】
導体としては、ニッケル線、銅線、ニッケル被覆銅線などが挙げられる。
フッ素樹脂としては、十分な疎水性を有し、耐熱温度が比較的高く、かつ、熱可塑性を有して押出成形による電線被覆加工用に適するという点から、PFAすなわちテトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が好適である。
セラミック繊維としては、例えばAlを主成分とし、SiO,B,Fe等を含有したセラミック長繊維が好ましい。なお、本発明電線の製造過程において、セラミック繊維の編組を形成した後、該編組に耐熱ワニスを塗布し焼き付け乾燥処理を行うのが好ましい。
【0010】
介在としては、例えばガラス繊維が挙げられる。
外被をなすステンレス鋼素線は、その編組密度が90%に満たないと、電線を落骸等による損傷から保護することが困難であるため、編組密度が90%以上となるように編組する必要がある。ステンレス鋼素線の鋼種としては、SUSの304,302B,309,310,XM15J1,410S,430,446などが挙げられる。
【実施例】
【0011】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
この実施例では、図2に示した断面形状の本発明電線(2芯型)を製作した。該製作にあたり、導体1は、直径0.26mmのニッケル被覆銅線(28Ni)24本を適当なピッチで撚り合せたものを使用し、フッ素樹脂層2は、導体1外周部にPFAを押出成形被覆することにより形成した。該形成した成品の外周部に、Alを主成分とし、SiO,B,Fe等を含有したセラミック長繊維からなるセラミック糸で一重の編組3Aを形成し、該編組3Aに耐熱ワニスを塗布し焼き付け乾燥処理を行って外径3.1mmの2本の心線10A,10Bを得た。これらの心線10A,10Bを、ガラス繊維からなる介在5と共に撚り合せて2芯型の撚合線11となし、該撚合線11の外周部に前記と同種のセラミック糸で一重の編組3Bを形成し、該編組3Bに耐熱ワニスを塗布し焼き付け乾燥処理を行い、該乾燥後の編組3Bの外周部に直径0.12mmのSUS304ステンレス鋼素線で編組密度90%以上の密な編組を形成して外径7.6mmの本実施例電線を得た。
【0012】
本実施例電線の電気的特性に関して、導体抵抗、耐電圧値は、通常の耐熱電線と大差なく、コークス移動機用ケーブルとして問題なく使用可能である。
本実施例電線は、本発明者らが所属する製鉄所のコークス工場において、ガイド車リフター(コークス移動機に類する)周りのセンサ行きケーブルに適用され、また、装炭車にも適用された。本実施例電線の適用前は、通常の耐熱電線(図3に例示)を用いており、高温・散水・落骸等の苛酷な使用環境下で、半年程度で劣化断線していたが、本実施例電線の適用後は、2〜3年もの長期安定使用が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明電線の心線が1本の場合(1芯型)の1例を示す断面模式図
【図2】本発明電線の心線が2本の場合(2芯型)の1例を示す断面模式図
【図3】通常の耐熱電線の1例を示す断面模式図
【符号の説明】
【0014】
1 導体
2 フッ素樹脂層
3,3A,3B セラミック繊維の編組
4 ステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被
5 介在
10,10A,10B 心線
11 撚合線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の外周部を被覆するフッ素樹脂層と、該フッ素樹脂層の外周部を被覆するセラミック繊維の編組とからなる心線と、該心線の外周部を被覆するステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被とからなることを特徴とする耐熱耐水電線。
【請求項2】
導体と、該導体の外周部を被覆するフッ素樹脂層と、該フッ素樹脂層の外周部を被覆するセラミック繊維の編組とからなる心線と、該心線の複数本を介在と共に撚り合せてなる撚合線の外周部を被覆するセラミック繊維の編組と、該セラミック繊維の編組の外周部を被覆するステンレス鋼素線の編組で形成した編組密度90%以上の外被とからなることを特徴とする耐熱耐水電線。
【請求項3】
前記フッ素樹脂として、PFAすなわちテトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱耐水電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−146766(P2010−146766A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320058(P2008−320058)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】