説明

耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板

【課題】 クロメートシーリング処理材と同等の耐白錆性・塗装性を示すリン酸塩複合被覆鋼板を提供する。
【解決手段】 亜鉛系めっき鋼板面にリン酸塩皮膜を有し、その上層に、(a)特定の数平均分子量のポリアルキレングリコール、ビスフェノール型エポキシ樹脂、活性水素含有化合物およびポリイソシアネート化合物を反応させて得られたポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂と、エポキシ基含有樹脂と、一部または全部が活性水素を有するヒドラジン誘導体からなる活性水素含有化合物とを反応させて得られた樹脂の水分散液、(b)シランカップリング剤、及び(c)リン酸、水溶性リン酸塩、ヘキサフルオロ金属酸の中から選ばれる1種以上、を含有する表面処理組成物による表面処理皮膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材等の用途に好適な表面処理鋼板であって、リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板をベースとし、且つ6価クロムによるシーリングを施さない環境調和型リン酸塩複合被覆鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電、建材等に使用される亜鉛系めっき鋼板は、防食または塗装下地のために、リン酸亜鉛処理を施すことが従来から行われている。しかしながら、従来のリン酸亜鉛処理では、裸耐食性、塗装後の耐食性および塗料密着性のすべてに優れた皮膜を形成することはできなかった。すなわち、このリン酸亜鉛処理では塗装後の耐食性および塗料密着性は優れているが、形成された皮膜がリン酸と下地金属(亜鉛)との溶解反応によるものであるため、溶解反応の不十分な箇所に皮膜が形成されない空孔部が残り、このために裸耐食性が劣る。このため従来では、塗装が施されるまでの間のリン酸亜鉛処理鋼板の耐白錆性を向上させるために、クロム酸水溶液による封孔処理(シーリング)が行われていた。しかし、従来のシーリング処理は環境規制物質である6価クロムを用いることから、シーリングを行うことなく優れた耐食性が得られるリン酸亜鉛処理鋼板、或いは環境規制物質を用いないシーリング処理技術が要望されている。
【0003】
このような要望に対して、例えば、以下のような技術が提案されている。
(1) リン酸亜鉛皮膜にMg、Ni,Co、Cuの1種以上を析出させる方法(例えば、特許文献1)
(2) 有機樹脂とチオカルボニル基含有化合物とバナジン酸化合物を配合した処理液により皮膜を形成する方法(例えば、特許文献2)
(3) 水溶性樹脂とチタンまたはジルコニウム化合物を含むクロメートフリー皮膜を形成する方法(例えば、特許文献3)
【0004】
【特許文献1】特開2002−285346号公報
【特許文献2】特開2000−248367号公報
【特許文献3】特開2003−253464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記(1)の方法は、Mgを添加することによる耐食性向上は認められるものの、シーリング処理を行わないため耐食性の向上効果はごく僅かなものであり、従来のクロメートシーリング処理に比べて耐食性は劣る。
また、上記(2)、(3)の方法は、クロメートシーリング処理と同等レベルの耐食性を発現させるためのクロメートフリーシーリング技術として位置づけることはできるが、十分な耐食性を得るためにはシーリング皮膜の皮膜厚を大きくしなければならず、逆に塗装性が劣化してしまう欠点がある。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、クロメートシーリング処理を施すことなく同シーリング処理材と同等の耐白錆性および塗装性を有するリン酸塩複合被覆鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らによる検討の結果、リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の耐白錆性および塗装性を顕著に向上させるには、リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の表面に、特定の変性エポキシ樹脂と活性水素を有するヒドラジン誘導体などを反応させて得られた樹脂の水性エポキシ樹脂分散液に、シランカップリング剤と特定の酸成分(リン酸、ヘキサフルオロ金属酸またはリン酸塩)を配合した表面処理組成物による皮膜を形成することが有効であることが判った。また、この表面処理皮膜は単層処理により形成されるものでありながら、皮膜下部(めっき側)に反応層、皮膜上部に樹脂濃化層が形成された、いわゆる擬似二層構造であること、そして、このような擬似二層皮膜の相乗効果によって耐食性および塗装性の顕著な向上効果が得られることが判った。
【0007】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下のとおりである。
[1] 亜鉛系めっき鋼板の表面にリン酸塩皮膜を有し、その上層に、下記成分(a)〜(c)を含有する表面処理組成物を塗布し、乾燥することにより形成された皮膜厚が0.01〜1μmの表面処理皮膜を有することを特徴とする耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。
(a) 数平均分子量400〜20000のポリアルキレングリコール、ビスフェノール型エポキシ樹脂、活性水素含有化合物およびポリイソシアネート化合物を反応させて得られたポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)と、該ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物とを反応させて得られた樹脂を水に分散させてなる水性エポキシ樹脂分散液
(b) シランカップリング剤:前記水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して1〜300質量部(固形分)
(c) リン酸、水溶性リン酸塩、ヘキサフルオロ金属酸の中から選ばれる1種以上:前記水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して0.1〜80質量部(固形分)
【0008】
[2] 上記[1]のリン酸塩複合被覆鋼板において、表面処理組成物が、反応性官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤を含有することを特徴とする耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。
[3] 上記[1]または[2]のリン酸塩複合被覆鋼板において、表面処理組成物が、カチオン成分とP成分のモル比[カチオン]/[P]=0.4〜1.0であって、且つカチオン種がMn、Mg、Al、Niの中から選ばれる1種以上である水溶性リン酸塩を含有することを特徴とする耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかのリン酸塩複合被覆鋼板において、表面処理組成物が、Ti、Si、Zrの中から選ばれる1種以上の元素を含むヘキサフルオロ金属酸を含有することを特徴とする耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリン酸塩複合被覆鋼板は、クロメートシーリング処理を施さないにも拘わらず、同シーリング処理材と同等の優れた耐白錆性および塗装性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明のリン酸塩複合被覆鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板には特別な制限はなく、純亜鉛めっき鋼板、亜鉛系合金めっき鋼板のいずれでもよい。
具体的には、亜鉛めっき鋼板(電気めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板)、Zn−Ni合金めっき鋼板、Zn−Fe合金めっき鋼板(電気めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)、Zn−Cr合金めっき鋼板、Zn−Mn合金めっき鋼板、Zn−Co合金めっき鋼板、Zn−Co−Cr合金めっき鋼板、Zn−Cr−Ni合金めっき鋼板、Zn−Cr−Fe合金めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板、Zn−55%Al合金めっき鋼板)、Zn−Mg合金めっき鋼板、Zn−Al−Mgめっき鋼板(例えば、Zn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板、Zn−11%Al−3%Mg合金めっき鋼板)、さらにはこれらのめっき鋼板のめっき皮膜中に金属酸化物、ポリマーなどを分散した亜鉛系複合めっき鋼板(例えば、Zn−SiO分散めっき鋼板)などを用いることができる。
【0011】
また、上記のようなめっきのうち、同種または異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
また、めっき鋼板としては、鋼板面に予めNiなどの薄目付めっきを施し、その上に上記のような各種めっきを施したものであってもよい。
めっき方法としては、電解法(水溶液中での電解または非水溶媒中での電解)、溶融法、気相法のうち、実施可能ないずれの方法を採用することもできる。
さらに、めっきの黒変を防止する目的で、めっき皮膜中に1〜2000ppm程度の濃度でNi,Co,Feの1種以上の微量元素を析出させたり、或いはめっき皮膜表面にNi,Co,Feの1種以上を含むアルカリ性または酸性水溶液による表面調整処理を施し、これらの元素を析出させるようにしてもよい。
【0012】
上記亜鉛系めっき鋼板の表面に形成されるリン酸塩皮膜の種類に特別な制限はないが、耐食性や塗装性などの点から特にリン酸亜鉛系皮膜が好ましい。また、リン酸亜鉛系皮膜は、Mn、Ni、Co、Mgの中から選ばれる1種以上を含むものであってもよい。
リン酸塩皮膜の付着量は0.1〜3g/mとすることが好ましい。付着量が0.1g/m未満では、生成するリン酸塩結晶が少なく、十分なアンカー効果が得られないため塗装性(塗料密着性)が劣り、一方、付着量が3g/mを超えても、逆に塗装性(塗料密着性)が劣る傾向がある。
【0013】
次に、上記リン酸塩皮膜の上層に形成される表面処理皮膜およびこの皮膜形成用の表面処理組成物について説明する。
この表面処理皮膜は、下記成分(a)〜(c)を含有する表面処理組成物を塗布し、乾燥することにより形成された表面処理皮膜である。この表面処理皮膜はクロムを全く含まない。
(a) 数平均分子量400〜20000のポリアルキレングリコール、ビスフェノール型エポキシ樹脂、活性水素含有化合物およびポリイソシアネート化合物を反応させて得られたポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)と、該ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物とを反応させて得られた樹脂を水に分散させてなる水性エポキシ樹脂分散液
(b) シランカップリング剤:前記水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して1〜300質量部(固形分)
(c) リン酸、水溶性リン酸塩、ヘキサフルオロ金属酸の中から選ばれる1種以上:前記水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して0.1〜80質量部(固形分)
【0014】
まず、上記成分(a)である水性エポキシ樹脂分散液について説明する。
この水性エポキシ樹脂分散液は、特定のポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)と、このポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(すなわち、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)と、さらに必要に応じてこのヒドラジン誘導体(C)以外の活性水素含有化合物(D))とを反応させて得られた樹脂(以下、単に「水分散性樹脂」ともいう)を水に分散させたものである。
【0015】
上記ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)は、数平均分子量400〜20000のポリアルキレングリコールと、ビスフェノール型エポキシ樹脂と、活性水素含有化合物と、ポリイソシアネート化合物とを反応させて得られたものである。
上記ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどを用いることができるが、そのなかでも特に、ポリエチレングリコールが好適である。ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、得られる樹脂の水分散性、貯蔵性などの点から400〜20000、好ましくは500〜10000の範囲が適している。
また、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するビスフェノール系化合物であって、特に、ビスフェノール系化合物とエピハロヒドリン(例えば、エピクロルヒドリン)との縮合反応によって得られるビスフェノールのジグリシジルエーテルが、可撓性および防食性に優れた皮膜が得られやすいため好適である。
【0016】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の調製に使用することができるビスフェノール系化合物の代表例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)−2,2−プロパンなどが挙げられる。このようなビスフェノール系化合物を用いて調製されるエポキシ樹脂のうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は可撓性および防食性などに優れた皮膜を得られるという点で特に好適である。
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂の製造時における製造安定性などの点から、一般に約310〜10000、特に望ましくは約320〜2000の数平均分子量を有していることが好ましく、また、エポキシ当量は約155〜5000、特に望ましくは約160〜1000の範囲のものが好ましい。
【0017】
上記活性水素含有化合物は、ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)中のイソシアネート基のブロッキングのために使用されるものである。その代表的なものとしては、例えば、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの1価アルコール;酢酸、プロピオン酸などの1価カルボン酸;エチルメルカプタンなどの1価チオールが挙げられる。また、それ以外のブロッキング剤(活性水素含有化合物)としては、ジエチルアミンなどの第2級アミン;ジエチレントリアミン、モノエタノールアミンなどの1個の第2級アミノ基またはヒドロキシル基と1個以上の第1級アミノ基を含有するアミン化合物の第1級アミノ基を、ケトン、アルデヒド若しくはカルボン酸と、例えば100〜230℃の温度で加熱反応させることによりアルジミン、ケチミン、オキサゾリン若しくはイミダゾリンに変性した化合物;メチルエチルケトキシムなどのようなオキシム;フェノール、ノニルフェノールなどのフェノール類などが挙げられる。これらの化合物は一般に30〜2000、特に望ましくは30〜200の範囲の数平均分子量を有することが好ましい。
【0018】
上記ポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を2個以上、好ましくは2個または3個有する化合物であり、ポリウレタン樹脂の製造に一般に用いられるものが同様に使用できる。そのようなポリイソシアネート化合物としては、脂肪族系、脂環族系、芳香族系などのポリイソシアネート化合物が包含される。代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、HMDIのビウレット化合物、HMDIのイソシアヌレート化合物などの脂肪族系ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、IPDIのビウレット化合物、IPDIのイソシアヌレート化合物、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環族系ポリイソシアネート化合物;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族系ポリイソシアネート化合物、などを例示できる。
【0019】
ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)の製造時における各成分の配合割合は、一般には下記の範囲とするのが適当である。
すなわち、ポリアルキレングリコールの水酸基とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基との当量比は1/1.2〜1/10、好ましくは1/1.5〜1/5、特に好ましくは1/1.5〜1/3とするのが適当である。また、活性水素含有化合物の水酸基とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基との当量比は1/2〜1/100、好ましくは1/3〜1/50、特に好ましくは1/3〜1/20とするのが適当である。また、ポリアルキレングリコール、ビスフェノール型エポキシ樹脂および活性水素含有化合物の水酸基の合計量とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基との当量比は1/1.5以下、好ましくは1/0.1〜1/1.5、特に好ましくは1/0.1〜1/1.1とするのが適当である。
【0020】
上記ポリアルキレングリコール、ビスフェノール型エポキシ樹脂、活性水素含有化合物およびポリイソシアネート化合物の反応は、公知の方法により行うことができる。
上記で得られたポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)と、このポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)と、さらに必要に応じてこのヒドラジン誘導体(C)以外の活性水素含有化合物(D)とを反応させることにより、容易に水中に分散することができ、且つ素材に対する付着性の良好なエポキシ樹脂を得ることができる。
【0021】
上記ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラック型フェノールなどのポリフェノール類とエピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリンとを反応させてグリシジル基を導入してなるか、若しくはこのグリシジル基導入反応生成物にさらにポリフェノール類を反応させて分子量を増大させてなる芳香族エポキシ樹脂;さらには脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。これらのエポキシ樹脂は、特に低温での皮膜形成性を必要とする場合には数平均分子量が1500以上であることが好適である。
また、エポキシ基含有樹脂(B)としては、上記エポキシ基含有樹脂中のエポキシ基または水酸基に各種変性剤を反応させた樹脂を挙げることができ、例えば、乾性油脂肪酸を反応させたエポキシエステル樹脂;アクリル酸またはメタクリル酸などを含有する重合性不飽和モノマー成分で変性したエポキシアクリレート樹脂;イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0022】
さらに、エポキシ基含有樹脂(B)としては、エポキシ基を有する不飽和モノマーとアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを必須とする重合性不飽和モノマー成分を溶液重合法、エマルション重合法または懸濁重合法などによって合成したエポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂を挙げることができ、上記重合性不飽和モノマー成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−、iso−若しくはtert―ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のC1〜C24のアルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、アクリルアミド、アクリロニトリル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドのC1〜4アルキルエーテル化物;N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどを挙げることができる。また、エポキシ基を有する不飽和モノマーとしては、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート、3,4エポキシシクロヘキシル−1−メチル(メタ)アクリレーなど、エポキシ基と重合性不飽和基を持つものであれば、特に制限されるものではない。
また、このアクリル系共重合体樹脂はポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などによって変性させた樹脂とすることもできる。
【0023】
上記エポキシ基含有樹脂(B)として特に好ましいのは、ビスフェノールAとエピパロヒドリンとの反応生成物である下記化学構造式に代表される樹脂であり、耐食性に優れているため特に好適である。
【化1】

上記化学構造式中、qは0〜50の整数、好ましくは1〜40の整数、特に好ましくは2〜20の整数である。
このようなビスフェノールA型エポキシ樹脂は、当業界において広く知られた製造法により得ることができる。
【0024】
上記エポキシ基含有樹脂(B)のエポキシ基と反応する活性水素含有化合物としては、下記のものが挙げられる。
・活性水素を有するヒドラジン誘導体
・活性水素を有する第1級または第2級のアミン化合物
・アンモニア、カルボン酸などの有機酸
・塩化水素などのハロゲン化水素類
・アルコール類、チオール類
・活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンと酸との混合物である4級塩化剤
【0025】
上記水性エポキシ樹脂分散液を調整する際には、これらの1種または2種以上を使用できるが、優れた耐食性を得るために、活性水素含有化合物の少なくとも一部(好ましくは全部)は、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)であることが必要である。すなわち、これらのうち活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)を必須成分とし、必要に応じてこのヒドラジン誘導体(C)以外の活性水素含有化合物(D)を用いる。
【0026】
上記活性化水素を有するアミン化合物の代表例としては、以下のものを挙げることができる。
(1) ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどの1個の2級アミノ基と1個以上の1級アミノ基を含有するアミン化合物の1級アミノ基を、ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸と例えば100〜230℃程度の温度で加熱反応させてアルジミン、ケチミン、オキサゾリンまたはイミダゾリンに変性した化合物;
(2) ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−または−ios−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン;
(3) モノエタノールアミンなどのようなモノアルカノールアミンとジアルキル(メタ)アクリルアミドとをミカエル付加反応により付加させて得られる第2級アミン含有化合物;
(4) モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール、2−ヒドロキシ−2′(アミノプロポキシ)エチルエーテルなどのアルカノールアミンの1級アミン基をケチミンに変性した化合物;
【0027】
活性水素含有化合物の一部として(すなわち、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)以外の活性水素含有化合物(D)として)使用できる上記4級塩化剤は、活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンはそれ自体ではエポキシ基と反応性を有しないので、これらをエポキシ基と反応可能とするために酸との混合物としたものである。4級塩化剤は、必要に応じて水の存在下でエポキシ基と反応し、エポキシ基含有樹脂と4級塩を形成する。4級塩化剤を得るために使用される酸は、酢酸、乳酸などの有機酸、塩酸などの無機酸のいずれでもよい。また、4級塩化剤を得るために使用される活性水素を有しないヒドラジン誘導体としては、例えば3,6−ジクロロピリダジンなどを、また、第3級アミンとしては、例えば、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0028】
上記活性水素含有化合物で最も有用で耐食性に優れた性能を発現するのが、活性水素を有するヒドラジン誘導体である。
活性水素を有するヒドラジン誘導体の具体例としては、例えば以下のものを挙げることができる。
(1) カルボヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、チオカルボヒドラジド、4,4′−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾン、アミノポリアクリルアミドなどのヒドラジド化合物;
(2) ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ピラゾロン、3−アミノ−5−メチルピラゾールなどのピラゾール化合物;
【0029】
(3) 1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2,3−ジヒドロ−3−オキソ−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1水和物)、6−メチル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、6−フェニル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、5−ヒドロキシ−7−メチル−1,3,8−トリアザインドリジンなどのトリアゾール化合物;
【0030】
(4) 5−フェニル−1,2,3,4−テトラゾール、5−メルカプト−1−フェニル−1,2,3,4−テトラゾールなどのテトラゾール化合物;
(5) 5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどのチアジアゾール化合物;
(6) マレイン酸ヒドラジド、6−メチル−3−ピリダゾン、4,5−ジクロロ−3−ピリダゾン、4,5−ジブロモ−3−ピリダゾン、6−メチル−4,5−ジヒドロ−3−ピリダゾンなどのピリダジン化合物;
また、これらのなかでも5員環または6員環の環状構造を有し、環状構造中に窒素原子を有するピラゾール化合物、トリアゾール化合物が特に好適である。
これらのヒドラジン誘導体は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
以上述べたようなポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)と、このポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)と、さらに必要に応じてこのヒドラジン誘導体(C)以外の活性水素含有化合物(D)とを、好ましくは10〜300℃、より好ましくは50〜150℃の温度で約1〜8時間反応させ、これにより得られる樹脂を水中に分散させることにより、上述した水性エポキシ樹脂分散液を得ることができる。
【0032】
上記反応は有機溶剤を加えて行ってもよく、使用する有機溶剤の種類は特に限定されない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エタノール、ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの水酸基を含有するアルコール類やエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのエステル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素等を例示でき、これらの1種または2種以上を使用することができる。また、これらのなかでエポキシ樹脂との溶解性、皮膜形成性等の面からは、ケトン系またはエーテル系の溶剤が特に好ましい。
【0033】
ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)と、ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)との配合比率は、ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)およびエポキシ基含有樹脂(B)中のエポキシ基に対するヒドラジン誘導体(C)中の活性水素基の当量比が0.01〜10、好ましくは0.1〜8、さらに好ましくは0.2〜4となるようにすることが、耐食性や樹脂の水分散性などの観点から適当である。
また、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)の一部を活性水素含有化合物(D)に置き換えることもできるが、置き換える量としては90モル%以下、好ましくは70モル%以下、より好ましくは10〜60モル%の範囲内とすることが防食性、付着性の観点から適当である。
【0034】
また、緻密なバリア皮膜を形成するために、水分散性樹脂中に硬化剤を配合し、皮膜を加熱硬化させることが望ましい。樹脂組成物による皮膜を形成する場合の硬化方法としては、(1)イソシアネートと基体樹脂中の水酸基とのウレタン化反応を利用する硬化方法、(2)メラミン、尿素およびベンゾグアナミンの中から選ばれた1種以上にホルムアルデヒドを反応させてなるメチロール化合物の一部若しくは全部に炭素数1〜5の1価アルコールを反応させてなるアルキルエーテル化アミノ樹脂と基体樹脂中の水酸基との間のエーテル化反応を利用する硬化方法、が適当であるが、このうちイソシアネートと基体樹脂中の水酸基とのウレタン化反応を主反応とすることが特に好適である。
【0035】
上記(1)の硬化方法で用いることができる硬化剤としてのポリイソシアネート化合物は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する脂肪族、脂環族(複素環を含む)または芳香族イソシアネート化合物、若しくはそれらの化合物を多価アルコールで部分反応させた化合物である。このようなポリイソシアネート化合物としては、例えば以下のものが例示できる。
(a) m−またはp−フェニレンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、o−またはp−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート
(b) 上記(a)の化合物単独またはそれらの混合物と多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなどの2価アルコール類;グリセリン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトールなどの4価アルコール;ソルビトール、ジペンタエリスリトールなどの6価アルコールなど)との反応生成物であって、1分子中に少なくとも2個のイソシアネートが残存する化合物
これらのポリイソシアネート化合物は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用できる。
【0036】
また、ポリイソシアネート化合物の保護剤(ブロック剤)としては、例えば、
(A) メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクチルアルコールなどの脂肪族モノアルコール類;
(B) エチレングリコールおよび/またはジエチレングリコールのモノエーテル類、例えば、メチル、エチル、プロピル(n−,iso)、ブチル(n−,iso,sec)などのモノエーテル;
(C) フェノール、クレゾールなどの芳香族アルコール;
(D) アセトオキシム、メチルエチルケトンオキシムなどのオキシム;
などが使用でき、これらの1種または2種以上と前記ポリイソシアネート化合物とを反応させることにより、少なくとも常温下で安定に保護されたポリイソシアネート化合物を得ることができる。
【0037】
このようなポリイソシアネート化合物(a2)は、水性エポキシ樹脂分散液(a)(上記成分(a))に対して、硬化剤として(a)/(a2)=95/5〜55/45(不揮発分の質量比)、好ましくは(a)/(a2)=90/10〜65/35の割合で配合するのが適当である。ポリイソシアネート化合物には吸水性があり、これを(a)/(a2)=55/45を超えて配合すると表面処理皮膜の密着性を劣化させてしまう。さらに、表面処理皮膜上に塗装を行った場合、未反応のポリイソシアネート化合物が塗膜中に移動し、塗膜の硬化阻害や密着性不良を起こしてしまう。このような観点から、ポリイソシアネート化合物(a2)の配合量は(a)/(a2)=55/45以下とすることが好ましい。
【0038】
なお、水分散性樹脂は以上のような架橋剤(硬化剤)の添加により十分に架橋するが、さらに低温架橋性を増大させるため、公知の硬化促進触媒を使用することが望ましい。この硬化促進触媒としては、例えば、N−エチルモルホリン、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸コバルト、塩化第1スズ、ナフテン酸亜鉛、硝酸ビスマスなどが使用できる。また、付着性など若干の物性向上を狙いとして、エポキシ基含有樹脂(B)とともに公知のアクリル、アルキッド、ポリエステル等の樹脂を混合して用いることもできる。
【0039】
ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)、エポキシ基含有樹脂(B)および一部または全部が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物の反応生成物を水分散化するには、例えば以下のような手法を採ることができる。
(1) エポキシ基含有樹脂(すなわち、樹脂(A),(B))のエポキシ基と活性水素含有化合物である二塩基酸または第2級アミンなどを反応させ、中和剤である3級アミン、酢酸または燐酸などで中和、水分散化させる手法
(2) エポキシ樹脂とポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの末端水酸基含有ポリアルキレンオキサイドをイソシアネートと反応させてなる変性エポキシ樹脂を分散剤に用いて、水分散化させる手法
(3) 上記(1)と(2)を併用する手法
表面処理組成物には、上述した特定の水分散性樹脂以外に、その他の水分散性樹脂および/または水溶性樹脂として、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン系樹脂、アルキッド系樹脂、フェノール樹脂、オレフィン樹脂などの1種または2種以上を、全樹脂固形分中での割合で15mass%程度を上限として配合してもよい。
【0040】
次に、上記成分(b)であるシランカップリング剤について説明する。
このシランカップリング剤としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメエキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジルアミン)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
これらのシランカップリング剤を含む表面処理皮膜が耐食性と塗装性に優れる理由は、水溶液中のシランカップリグ剤が加水分解することにより生じたシラノール基(Si−OH)がリン酸塩皮膜と水素結合をし、さらには脱水縮合反応により優れた密着性を付与するためであると考えられる。
このようにシランカップリング剤を配合することによりリン酸塩皮膜と水分散性樹脂との密着性を高めることが可能であるが、本発明の場合には表面処理組成物に含まれる酸成分が不活性なリン酸塩皮膜表面を活性化し、さらにシランカップリング剤が活性化されたリン酸塩皮膜表面と水分散性樹脂の両方と化学結合することで、リン酸塩皮膜と水分散性樹脂との密着性を格段に高めることができる。そして、このようにリン酸塩皮膜と皮膜形成樹脂との密着性を高めることにより、特に優れた耐食性と塗装性が得られる。
【0042】
また、上記シランカップリング剤のなかでも、上記成分(a)の水分散性樹脂と反応性が高い官能基を有するという観点から、特に反応性官能基としてアミノ基を有すシランカップリング剤が好ましい。このようなシランカップリング剤としては、例えば、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメエキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられ、具体的には、信越化学(株)製の「KBM−903」、「KBE−903」、「KBM−603」、「KBE−602」、「KBE−603」(いずれも商品名)などを用いることができる。
【0043】
シランカップリング剤の配合量は、上記成分(a)である水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して固形分の割合で1〜300質量部、好ましくは5〜100質量部、さらに好ましくは15〜50質量部とするのが適当である。シランカップリング剤の配合量が1質量部未満では耐食性が劣るとともに、密着性不足のため塗装性(塗料密着性)が劣り、一方、300質量部を超えると水分散性樹脂のバリア性を損ねるため、耐食性が低下する。
【0044】
次に、上記成分(c)であるリン酸、水溶性リン酸塩、ヘキサフルオロ金属酸について説明する。
これらの成分は、不活性なリン酸塩皮膜表面に作用してその表面を活性化させる作用を有する。そして、このように活性化されたリン酸塩皮膜表面と水分散性樹脂との密着性がシランカップリング剤を介して著しく向上する結果、耐食性および塗装性が顕著に改善される。成分(c)としては、リン酸、水溶性リン酸塩、ヘキサフルオロ金属酸の中から選ばれる1種または2種以上が用いられる。
【0045】
ヘキサフルオロ金属酸の種類は特に限定されないが、先に述べた擬似二層皮膜の反応層を効果的に形成させるという観点から、特に、フッ化チタン酸、フッ化ジルコン酸、けいフッ酸などのようなTi、Si、Zrの中から選ばれる1種または2種以上の元素を含むヘキサフルオロ金属酸が好ましく、これらの1種または2種以上を用いることができる。
水溶性リン酸塩としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸などの金属塩の1種または2種以上を用いることができる。また、有機リン酸の塩(例えば、フィチン酸、フィチン酸塩、ホスホン酸、ホスホン酸塩およびこれらの金属塩)の1種または2種以上を添加してもよい。また、それらの中でも第一リン酸塩が表面処理組成物の安定性などの面から好適である。
【0046】
皮膜中でのリン酸塩の存在形態も特別な限定はなく、また結晶若しくは非結晶であるか否かも問わない。また、リン酸塩のイオン性、溶解度についても特別な制約はない。ただし、特に優れた耐食性を得るという観点からは、水溶性リン酸塩のカチオン種としてはAl、Mn、Ni、Mgが特に望ましく、これらの中から選ばれる1種または2種以上の元素を含む水溶性リン酸塩を用いることが好ましい。このような水溶性リン酸塩としては、例えば、第一リン酸アルミニウム、第一リン酸マンガン、第一リン酸ニッケル、第一リン酸マグネシウムが挙げられる。また、カチオン成分とP成分のモル比[カチオン]/[P]が0.4〜1.0であることが好ましい。モル比[カチオン]/[P]が0.4未満では可溶性のリン酸によって皮膜の難溶性が損なわれ、耐食性が低下するので好ましくない。一方、1.0を超えると処理液安定性が著しく失われるので好ましくない。
【0047】
リン酸、水溶性リン酸塩、ヘキサフルオロ金属酸の中から選ばれる1種以上の合計の配合量は、上記(a)の成分である水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して固形分の割合で0.1〜80質量部、好ましくは1〜60質量部、さらに好ましくは5〜50質量部とするのが適当である。これらの合計の配合量が0.1質量部未満では耐食性が劣り、一方、80質量部を超えると皮膜形成後の外観ムラが生じやすい。
表面処理皮膜の膜厚は0.01〜1μmとする。皮膜厚が0.01μm未満では耐食性が不十分であり、一方、1μmを超えると導電性が低下する。
【0048】
次に、本発明のリン酸塩複合被覆鋼板の製造方法について説明する。
まず、上述した亜鉛系めっき鋼板を脱脂処理・水洗した後、必要に応じて表面調整(前処理)を施す。次いで、めっき鋼板の表面にリン酸塩処理を施し、所定の付着量のリン酸塩皮膜を形成する。このリン酸塩処理の種類に特別な制限はないが、耐食性や塗装性などの観点から特にリン酸亜鉛系処理が好ましい。リン酸亜鉛系処理液にはリン酸イオンとZnイオンが含まれるが、さらに、Mnイオン、Coイオン、Mgイオン等の中から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。この処理液をめっき鋼板表面に接触(浸漬法、スプレー法など)させ、水洗、乾燥することによってリン酸塩皮膜を形成する。この処理液には、さらにフッ化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン等の1種以上を添加することも可能である。
【0049】
次いで、このリン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の表面に、上述した組成を有する表面処理組成物(処理液)を所定の乾燥膜厚になるように塗布し、乾燥させることにより表面処理皮膜を形成する。
上記表面処理組成物(処理液)はpH0.5〜6、好ましくは1〜4に調整することが適当である。表面処理組成物のpHが0.5未満では処理液の反応性が強すぎるため外観ムラが生じ、一方、pHが6を超えると処理液の反応性が低くなり、めっき金属と皮膜との結合が不十分となり、耐食性が低下する。
表面処理組成物をリン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板にコーティングする方法としては塗布法、浸漬法、スプレー法のいずれでもよい。塗布処理方法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどいずれの方法でもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。
【0050】
表面処理組成物をコーティングした後は、水洗することなく加熱乾燥を行う。加熱乾燥手段としては、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱処理は、到達板温で30℃〜300℃、好ましくは、40℃〜250℃の範囲で行うことが適当である。この加熱温度が30℃未満では皮膜中の水分が多量に残り、耐食性や塗装性が不十分となる。また、300℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じて耐食性が低下する。
【実施例】
【0051】
表面処理組成物用の樹脂組成物として表2に示す水溶性または水分散性エポキシ樹脂を用い、これにシランカップリング剤(表3)、リン酸等(表4)を適宜配合し、さらにアンモニア水、硝酸、酢酸、硫酸等でpHが0.5〜6にした後、塗料用分散機(サンドグラインダー)を用いて所要時間攪拌し、表面処理組成物を調製した。
表2に示す水溶性または水分散性エポキシ樹脂は、以下のようにして製造した。
【0052】
[製造例1](ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂の製造)
温度計、撹拌機、冷却管を備えたガラス製四つ口フラスコに、数平均分子量4000のポリエチレングリコール1688gとメチルエチルケトン539g加え、60℃で撹拌混合し均一透明になった後、トリレンジイソシアネート171gを加え、2時間反応させた後、エポキシ樹脂「エピコート834X90」(商品名,シェルジャパン社製,エポキシ当量250)1121g、ジエチレングリコールエチルエーテル66g及び1%ジブチル錫ジラウレート溶液1.1gを添加し、さらに2時間反応させた。その後80℃まで昇温し、3時間反応させてイソシアネート価が0.6以下になったことを確認した。その後90℃まで昇温し、減圧蒸留により固形分濃度が81.7%になるまでメチルエチルケトンを除去した。除去後、プロピレングリコールモノメチルエーテル659g、脱イオン水270gを加えて希釈し、固形分濃度76%のポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂溶液A1を得た。
【0053】
[製造例2](水性エポキシ樹脂分散液の製造)
エポキシ樹脂「EP1004」(商品名,油化シェルエポキシ社製,エポキシ当量1000)2029gとプロピレングリコールモノブチルエーテル697gを四つ口フラスコに仕込み、110℃まで昇温して1時間で完全にエポキシ樹脂を溶解した。このものに、製造例1で得たポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂溶液A1を1180g及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(分子量84)311.7g加えて100℃で5時間反応させた後、プロピレングリコールモノブチルエーテル719.6gを加えて樹脂溶液D1を得た。
該樹脂溶液D1を257.6gにイソシアネート硬化剤「MF−K60X」(商品名,旭化成工業社製)50g及び硬化触媒「Scat24」(商品名)0.3gを混合しよく攪拌した後、水692.1gを少しずつ滴下・混合撹拌し、水性エポキシ樹脂分散液E1(本発明条件を満足する水性エポキシ樹脂分散液)を得た。
【0054】
[製造例3](ヒドラジン誘導体を含有しない水性エポキシ樹脂分散液)
エポキシ樹脂「EP1004」(商品名,油化シェルエポキシ社製,エポキシ当量1000)2029gとプロピレングリコールモノブチルエーテル697gを四つ口フラスコに仕込み、110℃まで昇温して1時間で完全にエポキシ樹脂を溶解した。このものに、製造例1で得たポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂溶液A1を1180g及びプロピレングリコールモノブチルエーテル527.0gを加えて樹脂溶液D2を得た。
該樹脂溶液D2を257.6gにイソシアネート硬化剤「MF−K60X」(商品名,旭化成工業社製)50g及び硬化触媒「Scat24」(商品名)0.3gを混合しよく攪拌した後、水692.1gを少しずつ滴下・混合撹拌し、水性エポキシ樹脂分散液E2(本発明条件を満足しない水性エポキシ樹脂分散液)を得た。
【0055】
冷延鋼板をベースとした家電、建材、自動車部品用の表面処理鋼板である、表1に示すめっき鋼板を処理原板として用いた。これらめっき鋼板に対してリン酸亜鉛処理液「パルボンドPB−3312」(商品名,日本パーカライジング社製)を60g/lに希釈した水溶液に2〜8秒浸漬することによりリン酸亜鉛処理を行った。その後、水洗し、表面処理組成物を塗布し、水洗することなく各種温度で加熱乾燥した。
このようにして得られたリン酸塩複合被覆鋼板の皮膜組成および品質性能(皮膜外観、耐白錆性、塗料密着性)の各試験を行った結果を表5〜表7に示す。なお、品質性能の評価は、以下のようにして行った。
【0056】
(1)皮膜外観
各サンプルについて、皮膜外観の均一性(ムラの有り無し)を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。
○:ムラが全く無い均一な外観
△:ムラが若干目立つ外観
×:ムラが目立つ外観
(2)耐白錆性
各サンプルについて、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、120時間経過後の白錆発生面積率で評価した。評価基準は以下の通りである。
◎ :白錆発生面積率5%未満
○ :白錆発生面積率5%以上、10%未満
○−:白錆発生面積率10%以上、25%未満
△ :白錆発生面積率25%以上、50%未満
× :白錆発生面積率50%以上
【0057】
(3)塗料二次密着性
各サンプルについて、メラミン系の焼付塗料を塗装(塗膜厚30μm)した後、沸水中に2時間浸漬し、直ちに、碁盤目(10×10個,1mm間隔)のカットを入れて接着テープによる貼着・剥離を行い、塗膜の剥離面積率を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:剥離なし
○:剥離面積率5%未満
△:剥離面積率5%以上、20%未満
×:剥離面積率20%以上
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板の表面にリン酸塩皮膜を有し、その上層に、下記成分(a)〜(c)を含有する表面処理組成物を塗布し、乾燥することにより形成された皮膜厚が0.01〜1μmの表面処理皮膜を有することを特徴とする耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。
(a) 数平均分子量400〜20000のポリアルキレングリコール、ビスフェノール型エポキシ樹脂、活性水素含有化合物およびポリイソシアネート化合物を反応させて得られたポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)と、該ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ基含有樹脂(B)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物とを反応させて得られた樹脂を水に分散させてなる水性エポキシ樹脂分散液
(b) シランカップリング剤:前記水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して1〜300質量部(固形分)
(c) リン酸、水溶性リン酸塩、ヘキサフルオロ金属酸の中から選ばれる1種以上:前記水性エポキシ樹脂分散液の樹脂固形分100質量部に対して0.1〜80質量部(固形分)
【請求項2】
表面処理組成物が、反応性官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。
【請求項3】
表面処理組成物が、カチオン成分とP成分のモル比[カチオン]/[P]=0.4〜1.0であって、且つカチオン種がMn、Mg、Al、Niの中から選ばれる1種以上である水溶性リン酸塩を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。
【請求項4】
表面処理組成物が、Ti、Si、Zrの中から選ばれる1種以上の元素を含むヘキサフルオロ金属酸を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の耐白錆性および塗装性に優れたリン酸塩複合被覆鋼板。

【公開番号】特開2006−9065(P2006−9065A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185584(P2004−185584)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】