説明

耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物

【課題】施工性に優れ、耐硫酸性を向上させた硬化体が得られる耐硫酸性セメント組成物及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物を提供する。
【解決手段】セメント100質量部に対して、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物0.3〜5質量と、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物0.05〜20質量部と、を含むことを特徴とする耐硫酸性セメント組成物、さらに細骨材を含む耐硫酸性モルタル組成物、この耐硫酸モルタル組成物に、さらに粗骨材を含む耐硫酸性コンクリート組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道、温泉地、化学工場等の硫酸又は硫酸塩による腐食が問題になる箇所での使用に適し、かつ酸性雨に対する耐久性を向上させた耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道、温泉地、化学工場等の硫酸又は硫酸塩に晒される箇所においては従来から、硫酸又は硫酸塩によるセメント硬化体の腐食が問題になっている。さらに近年、酸性雨によるセメントを使用した構造体全体の腐食も問題となっている。
【0003】
セメント硬化体(セメントペースト、モルタル又はコンクリートの硬化体)は、硫酸に接触すると難溶性でかつ膨張性の石膏を形成すると共に、ケイ酸、アルミナ等が溶解して、シリカやアルミナのゲルを生成する。この膨張性の石膏やシリカやアルミナのゲルが溶出して、セメント硬化体を崩れやすくさせる、セメントに対する硫酸のこの作用は、当然のことながら酸の濃度に依存する。pHが2を超える場合(硫酸濃度0.1%以下)、すなわち、酸の濃度が低い場合には、炭酸ガスや低濃度の酸による腐食、又は硫酸塩等の腐食性を示す塩類による場合と同様に、セメント硬化体を緻密化させること、例えば高性能AE減水剤等の使用により作業性を確保しながら水セメント比を低下させることにより、腐食物質の内部への浸透を抑制することができ、これにより耐食性を向上させることができる。しかし、硫酸の濃度が高くなるとセメント硬化体の緻密化のみでは、対応が難しい。水セメント比を低くしてセメント硬化体を緻密化すると、酸によって生成される石膏の結晶成長による膨張圧を緩和する細孔が少なくなる。このため、例えばpHが2以下と非常に低くなると、石膏が表面からはがれ易くなり、侵食が進行してセメント硬化体の耐食性が悪化する場合があり、セメント組成物に、酸に対する抵抗性を期待することは困難である。
【0004】
pHが2以下(硫酸濃度0.1%以上)のときは、酸によるセメント硬化体の劣化を防止するために、セメント組成物にポリマーを複合させたポリマーセメントや、セメント組成物の表面を耐食性材料(例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂)で被覆し、化学的腐食性物質(例えば、硫酸)とセメント組成物の接触を防止する防食被覆(ライニング)材が用いられている。しかし、ポリマーセメントや防食被覆材は高価であるだけでなく、製造時又は施工時に特殊な工程を必要とするため汎用的な対策ではない。また、耐硫酸性の要望があっても、コストが多大となるのであれば耐硫酸性の向上よりもコストが重視される場合もある。
【0005】
耐硫酸性を向上させた硬化体が得られるセメント組成物として、置換基としてスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物、具体的にはナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を含む水溶性有機化合物を、セメント100質量部に対して0.5〜4質量部含むセメント組成物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−236860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のセメント組成物では材料分離を生じるおそれがある。また、さらなる耐硫酸性の向上も望まれている。
そこで、本発明は施工が簡便であり、耐硫酸性を向上させた硬化体が得られ、材料分離を抑制することのできる、耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、耐硫酸性を付与する化合物を種々研究し、セメント組成物、モルタル組成物又はコンクリート組成物の硬化後の耐硫酸性を向上させることができるとともに材料分離を抑制することのできる最適な化合物とその組成を見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、セメント100質量部に対して、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物0.3〜5質量部と、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物0.05〜20質量部と、を含むことを特徴とする耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物と、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物とを併用する。これにより本発明は、施工時に特別な工程を必要とすることなく、施工が簡便であり、材料分離を抑制することができ、これらの組成物を用いて得られる硬化体の耐硫酸性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物について詳述する。
【0012】
本発明の耐硫酸セメント組成物は、セメント100質量部に対して、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物0.3〜5質量部と、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物0.05〜20質量部と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明で使用するセメントとしては、JISで規定されるポルトランドセメントや混合セメントを挙げることができる。具体的には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及びそれらの低アルカリ型ポルトランドセメント、さらに高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等を挙げることができる。
【0014】
本発明で使用するナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物としては、例えばナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物を用いることができる。また、ナフタレンスルホン酸塩としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、アンモニウム又はアミン類との塩であることが好ましい。
【0015】
本発明で使用するナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物としては、通常、コンクリート用の高性能分散剤として使用されているナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物を使用することが好ましい。
【0016】
ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物としては、コンクリート用の高性能分散剤として使用されているものの他に、顔料、染料及び農薬水和剤等に使用する分散剤として市販されているものを使用してもよい。また、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物としては、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物を主成分として、高分子ポリマー製造時の未反応モノマーが残存したものであっても、未反応モノマーを除去精製したものであってもよく、添加剤等が混合されたものであってもよい。ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
セメント組成物中のナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物の量は、セメント100質量部に対して固形分基準で、0.3〜5質量部、好ましくは0.4〜4質量部、より好ましくは0.5〜3.5質量部、さらに好ましくは0.6〜3質量部である。なお、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物は、固形分量を基準とする。ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物の量が、セメント100質量部に対して、0.3質量部未満であると、不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物と併用しても耐硫酸性を向上する効果が小さく、5質量部を超えると、上記有機化合物と併用しても、材料分離を抑制することができない場合がある。
【0018】
本発明で使用する有機化合物は、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基(−SOH)を有する化合物の重合体及び/若しくはその塩である。これらは不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基(−SOH)を有する化合物とホルマリンの重縮合体、並びに/又は、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物を単量体とする重合体、並びに/又は、不飽和環を有する重合体のスルホン化等によって製造される。
【0019】
本発明で使用する有機化合物は、不飽和環を有し、不飽和環は、単環であっても、縮合環でもあってもよい。不飽和環は、ヒドロキシ基、メチル基等の炭素原子1〜4個のアルキル基等で置換されていてもよい。
【0020】
また、不飽和環は、炭素環であっても、ヘテロ環であってもよい。炭素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
不飽和環の各環は、1個以上のスルホ基を有するが、これは、単環の場合は、その環が1個以上のスルホ基を有することをいい、縮合環の場合は、縮合環を形成する各環(核)が1個以上のスルホ基を有することをいう。例えば、ナフタレン環の場合は、2個のベンゼン環(核)が、それぞれ1個以上のスルホ基を有する場合をいう。
【0022】
本発明で使用する有機化合物としては、不飽和環を有し、不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物とホルマリンの重縮合物が挙げられる。不飽和環を有し、不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物としては、フェノールスルホン酸、フェノールジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸が挙げられる。
【0023】
本発明で使用する有機化合物としては、不飽和環を有し、不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物を単量体とする重合体も挙げられる。この場合、化合物の1種を単量体とする単独重合体であっても、2種以上を単量体とする共重合体であってもよい。例えば、スチレンスルホン酸、又はそれぞれのベンゼン環(核)にスルホ基が置換したビニルナフタレンのようなエチレン性不飽和結合を有する化合物の単独重合体、又はこれらの共重合体が挙げられる。
【0024】
本発明で使用する有機化合物は、塩の形態であってもよく、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩やカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。有機化合物及びその塩は、単独でも、2種以上を組み合わせ使用してもよい。
【0025】
本発明で使用する有機化合物として、ポリスチレンスルホン酸及び/又はその塩は、下記式(1)で示される繰返し単位を含む単独重合体、又は下記式(1)で示される単位を含む単量体と、スチレン、α−メチルスチレン等の不飽和二重結合を有し、ベンゼン環に置換基としてスルホ基を有する、あるいは有しない単量体や、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルとの共重合体であってもよい。
【0026】
【化1】

【0027】
上記式中、R及びR´は、各々独立に水素又は炭素原子数1〜4個のアルキル基を示し、Mは水素、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属又はマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属を示す。本発明で使用するスルホ基を有する有機化合物としては、スチレンスルホン酸の単独共重合体であるポリスチレンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0028】
本発明で使用する有機化合物は、高分子化合物であることが好ましく、有機化合物がポリスチレンスルホン酸である場合は、重量平均分子量が10,000〜2,000,000であるものが好ましく、より好ましくは、20,000〜1,000,000である。分子量が10,000以上であると耐硫酸性を確保することができ、分子量が2,000,000以下であると粘性を増すことがない。ここで、重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)法によるポリスチレンスルホン酸とp−トルエンスルホン酸の較正曲線換算で算出した値とする。
【0029】
本発明で使用する有機化合物の量としては、セメント100質量部に対して、0.05〜20質量部、好ましくは0.07〜10質量部、更に好ましくは0.1〜8質量部である。特に好ましくは0.1〜5質量部である。なお、有機化合物の量は、固形分量を基準とする。有機化合物の量が、セメント100質量部に対して、0.05質量部未満であると、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物と併用しても耐硫酸性向上の効果は小さく、20質量部を超えると、コスト的に不利になるだけでなく、セメント組成物のフレッシュ性状や硬化性状が低下する場合があり好ましくない。
【0030】
本発明のセメント組成物は、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物と併用することにより、上記有機化合物の量が、セメント100質量部に対して、好ましくは0.05〜2.0質量部、より好ましくは0.06〜1.0質量部、さらに好ましくは0.07〜1.5質量部、特に好ましくは0.08〜0.6質量部と少量であってもよい。このように上記有機化合物とナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物とを併用することにより、上記有機化合物の量が、セメント100質量部に対して、0.05〜2.0質量部と少量であっても、セメント組成物の材料分離を抑制することができ、硬化体の耐硫酸性をさらに向上することができる。
【0031】
本発明のセメント組成物は、一般的に高性能分散剤として使用されている、特定量のナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物と、通常、流動化剤としても使用されている、特定量の上記有機化合物の特定量とを併用することによって、単に流動性が向上するだけではなく、予測不能であった材料分離を抑制することができるという効果を奏することを見出し、さらにセメント組成物を含む硬化体の耐硫酸性をも向上させることができることを見出した。
【0032】
本発明による、セメント硬化体の耐硫酸性改善の機構は、完全に解明されているとはいえないが、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物のナフタレン構造に続くスルホ基と、有機化合物のスルホ基とがセメント硬化体が硫酸に晒される際に硫酸とセメントの反応により生成する石膏に吸着し、その結晶成長を効率良くコントロールすることによって、石膏の膨張性が抑制されてセメント粒子表面に緻密な石膏層が生成される。この石膏層が硫酸の侵食を防ぐことによって、硫酸とセメント硬化体とのさらなる反応を抑制し、コンクリート用の高性能分散剤として使用されているナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物単独では得られなかった、さらなる耐硫酸性の改善を図ることができると推測する。
【0033】
本発明の耐硫酸セメント組成物は、セメント100質量部に対して、さらに石灰石微粉末を30〜400質量部含むことが好ましい。本発明で使用する石灰石微粉末は、セメント100質量部に対して、より好ましくは50〜350質量部であり、さらに好ましくは70〜300質量部であり、特に好ましくは80〜250質量部である。石灰石微粉末の量が、上記範囲内であると、セメント組成物からなるセメント硬化体が硫酸に晒された際に、より緻密な石膏層を生成することが可能となり、硬化体の耐硫酸性をさらに向上する効果も期待できる。
【0034】
石灰石微粉末は、ブレーン比表面積が、好ましくは2000〜20000cm/gのものを使用することができる。石灰石微粉末のブレーン比表面積は、より好ましくは2500〜15000cm/g、さらに好ましくは3000〜10000cm/g、特に好ましくは4000〜7000cm/gのものを使用することができる。石灰石微粉末のブレーン比表面積が上記範囲内であると、材料分離を抑制することができ、良好なワーカビリティを維持することができる。ここで、石灰石微粉末のブレーン比表面積は、JIS R 5201‐1997「セメント物理試験方法」に準じて測定した値とする。
【0035】
本発明の耐硫酸性モルタル組成物は、上記耐硫酸性セメント組成物に、さらに細骨材を含む。本発明で使用する細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材、石灰石細骨材等を使用することができる。耐硫酸性モルタル組成物中に含まれる細骨材は、セメント100質量部に対して、好ましくは50〜800質量部、より好ましくは100〜650質量部、さらに好ましくは150〜500質量部、特に好ましくは150〜400質量部、もっとも好ましくは180〜300質量部であるである。
【0036】
本発明の耐硫酸性コンクリート組成物は、耐硫酸性モルタル組成物に、さらに粗骨材を含む。本発明で使用する粗骨材としては、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、石灰石粗骨材等を使用することができる。粗骨材は、セメント100質量部に対して、好ましくは200〜320質量部、より好ましくは230〜290質量部、さらに好ましくは250〜270質量部である。粗骨材の配合量が上記範囲内であれば、良好なフレッシュ性状を得ることができる。
【0037】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、混練に先立ち各成分を予め混合して置くことも可能であるが、セメントに水を加えて混練する際に、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物と、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物、細骨材及びその他混和剤を加えて調製することが好ましい。このように本発明の耐硫酸性セメント組成物又は耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、簡便な方法によって調製することが可能であり、通常のセメント硬化体を形成する施設等において、容易かつ安価に調製することができる。
【0038】
また、本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物には、基本成分であるベースセメント、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物、石灰石微粉末及び水に加えて、フレッシュ性状を調整するためリグニン系、ナフタレン系、ポリオール系、ポリカルボン酸系等の化合物であるAE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、中性能減水剤、高機能減水剤、多機能減水剤等の化学混和剤や、増粘剤、消泡剤、空気量調整剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、鉄筋防錆剤等の公知の添加剤を添加することもでき、ペースト、モルタル、コンクリートの材料として、従来公知の施工法で使用することができる。また、養生は常温養生だけではなく、蒸気養生や加熱養生でも製造することができる。
【0039】
さらに本発明の耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物からなる群より選ばれるいずれか1つの組成物を硬化させてなる硬化体は、硫酸を含む水溶液と接触することにより表面に石膏層が形成される。これらの表面に石膏層を有する硬化体は、石膏層により硫酸侵食が防止され、耐硫酸性が向上する。
【0040】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、優れた耐硫酸性が求められる温泉施設、下水道施設、化学工場等のコンクリート構造物、管、U字溝、コンクリートパイル等のセメントを用いたコンクリート製品に好適に使用することができる。さらにこれらのコンクリート製品の表面に塗布して防食被覆層を形成する防食被覆材料、その他、劣化部に対する補修材料等として好適に使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0042】
[使用材料]
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント(C):
普通ポルトランドセメント:ブレーン比表面積 3270cm/g(JIS R 5201−1997 「セメントの物理試験」に準じて測定した。試料ベットのポロシティーは0.50とした。)
(2)石灰石微粉末
石灰石微粉末(LSP):ブレーン比表面積 4500cm/g(JIS R 5201−1997 「セメントの物理試験」に準じて測定した。試料ベットのポロシティーは0.47とした。)
(3)骨材
(i)細骨材
海砂(S1)(表乾密度:2.58 g/cm、粗粒率2.68)
砕砂(S2)(表乾密度:2.65g/cm、粗粒率2.71)
(4)化学混和剤
(i)ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物(NS)(固形分濃度:40質量%の水溶液、ゲルろ過クロマトグラフィー(ポリスチレンスルホン酸とp−トルエンスルホン酸の較正曲線換算)により測定した重量平均分子量5110)(ii)ポリスチレンスルホン酸(PS)(固形分濃度:20質量%の水溶液、ポリナスPS−100(東ソー社製)、ゲルろ過クロマトグラフィー(ポリスチレンスルホン酸とp−トルエンスルホン酸の較正曲線換算)により測定した重量平均分子量1,000,000)(iii)空気量調整剤(T)(マイクロエア404(BASFポゾリス社製))
(5)分離低減剤
TNS−100(太平洋マテリアル社製)(V1)
Acti-Gel208(ITC社製)(V2)(6)練混ぜ水(W)
上水道水
【0043】
[モルタルの調製]
表1に示す配合割合で、JIS R 5201‐1997「セメントの物理試験」における練混ぜ方法に準じてモルタル組成物を調製した。具体的には、以下のようにモルタル組成物を調製した。
練り鉢に、水、化学混和剤(NS及び/又はPS)、分離低減剤(V1、V2)、空気量調整剤(T)、普通ポルトランドセメント(C)及び石灰石微粉末(LSP)を表1に示す配合割合で投入し、直ちに練混ぜ機でパドルを低速(自転速度:毎分140±5回転、公転速度:62±5回転)で回転させながら練混ぜた。なお、全ての配合において、空気量調整剤(消泡剤)は、水100質量部に対して、0.01質量部となるように配合した。パドルを始動させてから30秒後、練混ぜた混合物に細骨材を30秒の間に投入した。次いで、パドルを高速(自転速度:毎分285±10回転、公転速度:125±10回転)で回転させながら、30秒間練混ぜた。次いで撹拌を停止し、停止後最初の15秒の間でパドル及び練り鉢の側壁から混合物をかき落とした。攪拌停止90秒後、再びパドルを上記と同様の高速で回転させ60秒間練混ぜて、モルタル組成物を得た。練混ぜ機は、JIS R 5201‐1997「セメント物理試験」に規定された練混ぜ機を使用した。
【0044】
【表1】

【0045】
[試験方法]
(1)モルタル組成物の0打フロー及び材料分離の目視観察
得られたモルタル組成物を用いて、JIS R 5201‐1997「セメントの物理試験方法 11.フロー試験」に記載される方法において、打撃を与えずに測定した値(以下「0打フロー」という。)と、モルタル組成物の分離の有無を目視で確認した。モルタル組成物に材料分離が生じた場合を×、材料分離が生じなかった場合を○として評価した。結果を表2に示す。
【0046】
(2)硫酸浸せき試験
<硬化体の調製>
直径5cm×高さ10cmの寸法の型枠に調整したモルタル組成物を打設し、20±2℃で24時間静置後、20℃/時間で65℃まで昇温し、4時間保持後、10℃/時間で20℃まで降温したのち、20±2℃の水中で材齢7日まで養生してモルタル硬化体を得て、試験用の供試体とした。
<耐硫酸性の評価>
JIS原案の「コンクリート溶液浸漬による耐薬品性試験方法」に基づいて、耐硫酸性試験を行った。具体的には、養生終了後の供試体を5質量%硫酸水溶液(pH約0.3、20±2℃)に浸漬し、浸せき期間1週間、2週間、4週間経過後に硫酸水溶液から供試体を取り出した。取り出した供試体をブラシを用いて水洗し、水分をタオルで拭き取った後に質量を測定した。質量変化は、以下の式(2)で求めた。結果を表3に示す。
質量減少率(%)=(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体の質量−硫酸水溶液に所定期間浸漬した後の供試体の質量)/(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体の質量)×100・・・(2)
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
[試験結果]
(1)モルタル組成物の0打フロー及び材料分離
表2に示すように、実施例1〜3のモルタル組成物は、0打フローが109〜203mmとなり、良好なフレッシュ性状を有していることが確認できた。また、材料分離も生じていなかった。一方、比較例1は、モルタルの0打フローが300mmを超えており、材料分離が生じていた。分離低減剤を加えた比較例2は、材料分離は生じていなかった。
【0050】
(2)硬化体の耐硫酸性
表3に示すように、同量のナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物を含む比較例2と実施例1〜3を比較すると、ポリスチレンスルホン酸を含む実施例1〜3は、比較例2よりも質量減少率が小さく、耐硫酸性が向上していることが確認できた。実施例1〜3に示すように、ポリスチレンスルホン酸の量が多くなるに従って、浸せき期間2週間、4週間の質量減少率は小さくなっており、耐硫酸性が向上していることが確認できた。
【0051】
実施例1〜3の供試体は、いずれも表面が白色に変化しており、硫酸水溶液と接触することによって、表面に緻密な石膏層が形成されていることが確認できた。この石膏層により、コンクリートの硫酸侵食が防止されていると推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、温泉地、下水道施設、化学工場等の硫酸又は硫酸塩に晒される可能性の高い箇所において使用するコンクリート構造物やコンクリート製品への適用は勿論、近年問題になっている酸性雨にも高い耐久性を示すことから、一般のコンクリート製品を形成するための組成物として利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100質量部に対して、ナフタレンスルホン酸及び/又はその塩のホルマリン縮合物0.3〜5質量部と、不飽和環を有し、かつ不飽和環の各環が1個以上のスルホ基を有する化合物の重合体及び/又はその塩である有機化合物0.05〜20質量部と、を含むことを特徴とする耐硫酸性セメント組成物。
【請求項2】
有機化合物における不飽和環が単環である、請求項1項記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項3】
有機化合物における不飽和環が、ベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項4】
有機化合物が、ポリスチレンスルホン酸及び/又はその塩である、請求項1〜3のいずれか1項記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項5】
ポリスチレンスルホン酸及び/又はその塩の重量平均分子量が10,000〜2,000,000である、請求項4記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項6】
石灰石微粉末を、セメント100質量部に対して、30〜400質量部含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の耐硫酸性セメント組成物に、さらに細骨材を含む、耐硫酸性モルタル組成物
【請求項8】
請求項7記載の耐硫酸性モルタル組成物に、さらに粗骨材を含む、耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項記載の耐硫酸性セメント組成物、請求項7記載の耐硫酸性モルタル組成物及び請求項8記載の耐硫酸性コンクリート組成物からなる群より選ばれるいずれか1つの組成物を硬化させてなり、硫酸を含む水溶液と接触させることにより形成された石膏層を表面に有する、耐硫酸性硬化体。

【公開番号】特開2011−201743(P2011−201743A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72588(P2010−72588)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】