説明

耐磨耗性に優れた機能を有する金担持粒子

【課題】本発明は、酸素存在下でアルデヒドとアルコールやアルコール類からカルボン酸エステルを製造する際等に触媒として用いられる金担持微粒子であって、触媒成分である金の耐剥離性や耐磨耗性の点で優れ、高い反応性を安定して維持することができる粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、粒子径が20〜150μmのシリカを含む担体に金が担持された粒子であって、粒子最外表面から5μm以内の厚さで実質的に金を含まない層が形成されている、金担持粒子を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒として用いられる金担持粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒドとアルコールから一段でカルボン酸エステルを製造する方法は古くから数多く提案されている。例えば、特公昭57−35856号公報(特許文献1)、特公平4−72578号公報(特許文献2)、特開昭57−50545号公報(特許文献3)等にパラジウム−鉛系触媒が、特開昭61−243044号公報(特許文献4)にパラジウム−テルル系触媒が、特公昭57−35860号公報(特許文献5)にパラジウム−タリウム−水銀系触媒が、特公昭57−19090号公報(特許文献6)にパラジウム−アルカリ土類金属−亜鉛−カドミウム系触媒が、特公昭62−7902号公報(特許文献7)、特開平10−158214号公報(特許文献8)等にパラジウム−ビスマス系触媒を用いる製造方法が記載されている。
【0003】
また、担体に特徴のある先行文献として、特開平5−148184号公報(特許文献9)には疎水性を有するテフロン(登録商標)担体、弗化黒鉛担体及びハイシリカゼオライト担体等を使用する方法、特開平8−332383号公報(特許文献10)にシリカ−アルミナ担体、特開平9−52044号公報(特許文献11)にシリカ−アルミナ−マグネシア担体、特開平9−192495号公報(特許文献12)に結晶性のメタロシリケート担体、特開2003−305366号公報(特許文献13)には、ジルコニウム、珪素、アルミニウム、を必須成分とした担体を使用する方法について記載されている。しかしながら、従来の金属担持粒子は一般に磨耗しやすく、より耐久性に優れた担体が求められている。
【0004】
また、これまでに報告された液相反応で使用される触媒は、ほとんどがパラジウムを含むものであったが、近年パラジウム以外の金属を成分とする例も報告され、例えば、特開2000−154164号公報(特許文献14)には、疎水性担体と金を組み合わせた触媒が開示されている。
【0005】
しかしながら、担体に金微粒子を担持させた触媒は、スラリーの撹拌時等に担体から剥離しやすく、その結果反応性が低下するという問題がある。これに対し、特開2002−361086号公報(特許文献15)、特開2004−181357号公報(特許文献16)、特開2004−181358号公報(特許文献17)、特開2004−181359号公報(特許文献18)では、6nm以下の金超微粒子を用いることによって、担体からの剥離性を改良する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、金を触媒成分とする場合に、反応性と耐久性をさらに改善する技術が求められている。
【特許文献1】特公昭57−35856号公報
【特許文献2】特公平4−72578号公報
【特許文献3】特開昭57−50545号公報
【特許文献4】特開昭61−243044号公報
【特許文献5】特公昭57−35860号公報
【特許文献6】特公昭57−19090号公報
【特許文献7】特公昭62−7902号公報
【特許文献8】特開平10−158214号公報
【特許文献9】特開平5−148184号公報
【特許文献10】特開平8−332383号公報
【特許文献11】特開平9−52044号公報
【特許文献12】特開平9−192495号公報
【特許文献13】特開2003−305366号公報
【特許文献14】特開2000−154164号公報
【特許文献15】特開2002−361086号公報
【特許文献16】特開2004−181357号公報
【特許文献17】特開2004−181358号公報
【特許文献18】特開2004−181359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸素存在下でアルデヒドとアルコールやアルコール類からカルボン酸エステルを製造する際等に触媒として用いられる金担持微粒子であって、触媒成分である金の耐剥離性や耐磨耗性の点で優れ、高い反応性を安定して維持することができる粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、所定の成分を所定の原子比で含む担体に金を担持させた金担持粒子は、その最外殻に実質的に金を含まない層を有し、このような構成を有する金担持粒子からは金が剥離しにくく、耐磨耗性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
〔1〕粒子径が20〜150μmのシリカを含む担体に金が担持された粒子であって、粒子最外表面から5μm以内の厚さで実質的に金を含まない層を有する、金担持粒子;
〔2〕前記担体がシリカと、Alと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含み、原子比が、下記式(I)を及び式(II)を満たす、請求項1に記載の金担持粒子、
Al/Si=0.02〜0.25 (I)
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5 (II);
〔3〕前記担体がシリカと、Alと、ジルコニアと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含み、原子比が、下記式(III)〜(V)を満たす、上記〔1〕に記載の金担持粒子、
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5 (III)
Al/Si=0.02〜0.8 (IV)
Zr/Si=0.5〜10.0 (V);
〔4〕窒素吸着法により窒素脱離スペクトルから求めた前記粒子の細孔直径の最高頻度が、3nm〜50nmの範囲である、上記〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載の金担持粒子;
〔5〕前記粒子の細孔容積が、0.1ml/g〜0.5ml/gの範囲である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の金担持粒子;
〔6〕上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の金担持粒子の製造方法であって、
金を担体に担持させ還元する工程と、少なくとも1回前記担体を超音波洗浄処理する工程とを含む、上記〔1〕記載の製造方法;
〔7〕アルデヒド、アルコール及び酸素を液相で触媒の存在下反応させる工程を含むカルボン酸エステルの製造方法であって、前記触媒として、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の金担持粒子を用いる、方法;
〔8〕前記カルボン酸エステルがアクリル酸エステルであり、前記アルデヒドが、アクロレインであり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、ブタノール2エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオールからなる群から選択される少なくとも1つのアルコールである、上記〔7〕に記載の方法;
〔9〕前記カルボン酸エステルがメタクリル酸エステルであり、前記アルデヒドがメタクロレインであり、前記アルコールがメタノール、エタノール、ブタノール2エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオールからなる群から選択される少なくとも1つのアルコールである、上記〔7〕に記載の方法;
〔10〕1または2種類のアルコール及び酸素を液相で触媒の存在下反応させる工程を含むカルボン酸エステルの製造方法であって、前記触媒として、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の金担持粒子を用いる、方法;
〔11〕前記カルボン酸エステルが、オキシカルボン酸メチル、オキシカルボン酸エチル、カルボン酸メチル、カルボン酸エチルであり、前記1または2種類のアルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、メタノール及びエタノールからなる群から選択される1または2種類のアルコールである、上記〔10〕に記載の方法;
〔12〕前記カルボン酸エステルが酢酸エチルであり、前記アルコールがエタノールである、上記〔11〕に記載の方法、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金担持粒子における金の分布を制御することよって、高い剥離抑制機能を実現することが可能になる。酸素存在下でカルボン酸エステルを製造する方法において、本発明に係る金担持粒子を触媒として用いると、長期間にわたり安定的に且つ高収率でカルボン酸エステルを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、金の担持構造および担体の成分組成ならびに物性と製造方法に特徴を有する金担持粒子に関するものであり、酸素存在下でアルデヒドとアルコールから、または、アルコール類からカルボン酸エステルを製造する方法において触媒として用いた場合に、耐剥離性、耐磨耗性などに優れ、高い反応性を安定して得られる触媒を見出すに至ったものである。
【0012】
本発明は、新しい発想を融合させることによって生み出された。金は貴金属として装飾材料等に古代から広く用いられている。一方、触媒としても石油化学が発達するに伴い、活性を持つことが報告されはじめ、近年特に活発に研究が行われている。しかし、金を実際に触媒として調製するとパラジウムと大きく挙動が異なる。その一例を示すと、パラジウム原子では、パラジウムイオンを金属に還元するには、活性な水素である水素ガス、アルコール、ヒドラジンなどの還元剤を用いて還元する必要があり、単なる熱処理では、800℃以上の高温処理を行わなければ、酸化パラジウムから酸素を脱離させて金属パラジウムを得ることができない。一方、金イオンは1価、3価のイオンが知られるが、空気中において約200℃以上で処理すれば酸素が脱離して金属金になること、溶液中に還元剤を用いなくても金属金まで還元されることが報告されている。このように、パラジウムと金とでは酸化還元挙動、化合物の溶解度などの化学的性質が大きく異なるため、金を触媒として用いる場合にパラジウム触媒の知見をそのまま生かすことはできない。
【0013】
本発明者らは、用いる金属の性質を詳細に研究し、耐久性能と触媒性能に視点を置いて、最も効果的な金担持粒子の製造方法を考案した。すなわち、触媒として反応に用いる場合などに有効な機能を発現する金属担持粒子を得るには、担体の特性及び担持構造が重要であることを見出した。より具体的には、一つ目の因子として、金の剥離抑制には担持構造が特に重要であること、2つめには使用する担体の組み合わせが極めて重要であることを見出した。金の担持構造を制御することで、シリカ、Al、活性炭などの従来の一般的に使用される担体を用いることもでも大きく剥離性を改善できる。しかし、長期間の剥離抑制には金の担持構造を制御するだけでなく、機械的、化学的に耐久性の高い担体を用いることが好ましい。このような担体としては、本発明者らが見出した長期使用に優れる二つの系の担体が挙げられる。具体的には、シリカと、Alと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む系、もう一つは、ジルコニウムと、シリカと、Alと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む系の担体である。シリカと、Alと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む系は、シリカに比べて硬く、機械的強度に優れ、且つ耐水性に優れる。ジルコニウムと、シリカと、Alと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む系は、さらにジルコニアに由来すると推定される酸性やアルカリ性などの化学的安定性が付与されることに特徴がある。したがって利用する反応場に合わせてこれらを選択して用いることができる。さらに特定の細孔径および細孔容積が機械的強度の達成には重要な因子であることも見出し、従来技術では達成することが困難であった長期耐久性を実現した。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る金担持粒子は、粒子径が20〜150μmのシリカを含む担体に金が担持された粒子であって、粒子最外表面から5μm以内の厚さで実質的に金を含まない層が形成されていることを特徴とする。本発明者らは、数種類の担体を用いて金の担持と剥離性の改良について詳細な検討を行ったところ、金属を担持した粒子を充填塔に充填固定して液体を流しても担持した金属は溶液に溶解しない場合には全く流失しないが、スラリー状態で攪拌羽のついた容器で激しくかき混ぜると、担持方法によっては粒子から担持した金の剥離が起こることが確認された。さらに、EPMAなどの解析装置を用いて金担持粒子の断面を観測測定した結果、金の剥離現象は金の分布構造と深く関係すること、スラリーの攪拌混合で起こる剥離は、粒子の外表面に担持された金粒子が存在する場合に顕著であることが確認された。すなわち、金溶液と担体とを接触させると単体粒子の表面から内部に金溶液が拡散して粒子の内部に固定されるところ、金が担体粒子の外表面に付着すると剥離やすいことがわかった。一方、粒子の外表面に金粒子が付着していない担持粒子では、スラリー状態で攪拌混合することによって起こる金の剥離が抑制されることがわかった。さらにEPMAの粒子断面解析によれば、金担持粒子において外表面から5μmまでに金を実質的に担持されていない層を有し、その内部に金が担持されている粒子では、スラリーを攪拌混合した剥離性の試験や反応実験の解析結果で、溶液中の金の濃度はppm以下〜ppbレベルで、ほとんど検出できないことを確認した。尚、本発明でいう「金を実質的に含まない」とは分析にもちいたEPMA測定に基づく尺度であり、EPMA測定方法で、Auを検出できる条件において、Au原子の強度がほとんどバックグラウンドと区別がつかないレベルをいう。
【0016】
耐磨耗性に関しては、使用する期間や混合状態によって粒子の磨耗度が異なるため、金が担持されない層の厚さは、使用条件に基づいて、粒子の外表面から5μmの範囲で最適な深さ方向の厚さを選定できる。反応特性と剥離特性から、金が担持されない層の厚さは、外表面から3μmがより好ましく、磨耗が少ない反応系では外表面〜2μmの厚みが好ましく選定される。
【0017】
本発明に係る金担持粒子の担体としては、シリカと、Alと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含み、原子比が、下記式(I)を及び式(II)を満たす担体が挙げられる。
【0018】
Al/Si=0.02〜0.25 (I)
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5 (II)
また、本発明に係る金担持粒子の担体の別の実施態様としては、シリカと、Alと、ジルコニアと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含み、原子比が、下記式(III)〜(V)を満たす担体が挙げられる。
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5 (III)
Al/Si=0.02〜0.8 (IV)
Zr/Si=0.5〜10.0 (V)
担体組成が本範囲であると、十分な硬さ、及び機械的強度が得られ、ジルコニア含有系には優れた化学的安定性が見られる。このような効果は、各元素が酸素を介在して架橋し合うため耐久性能が向上することによるものと推察される。
【0019】
例えば、シリカと、Alと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む系では、O−Al−O−Si−O−の結合が効果的に形成することによって上記効果が得られるものと推察される。この系では、Al/Si=0.02〜0.25の範囲であることが重要である。0.25以上では、アルミ単独の性質が発現する傾向がある。より好ましくは、Al/Siは0.03〜0.2の範囲である。アルカリ金属、アルカリ土類金属はシリカ・アルミナ結合で生じる固体酸点を電荷的に中性化する働きによって構造安定性にも寄与していると推定している。したがって、(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5が好ましい。0.5以下ではシリカ・アルミナ結合による固体酸点が発現する傾向がある。上限については特に限定されないが通常、Al原子の3倍以下の範囲から設定される。
【0020】
一方、シリカと、Alと、ジルコニアと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む系では、シリカ・アルミナ結合に、さらにジルコニアが複合することによって−Zr−O−Al−O−Si−O−等の結合が新たに形成されているものと推定される。シリカ、Alと同様な関係から(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5、Al/Si=0.02〜0.8、さらにジルコニアとシリカの組成比は、Zr/Si=0.5〜10.0が好ましい。この範囲を満たすことにより、ジルコニアが有する、酸、塩基に対して安定であるという化学的性質が付与されると考えられる。つまり、シリカ、Alまたは、ジルコニア、シリカ、Alが複合化したメタルオキサン構造を形成することにより、シリカゲル等の物性に比べ、機械的強度向上および耐薬品性を発現しているものと考えられる。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属は、担体の耐久性を高める補助効果の他、架橋体構造を形成する際に生じた電荷バランスを安定化する重要な構成要素と考えられる。本発明の組成範囲以外では、各構成成分自体の特性があらわれ、複合効果が低減するものと推察される。
【0021】
これまでに、酸性条件や中性条件で安定な担体材料としてシリカゲルが数多くの事例で報告されている。しかし、水中でシリカゲルを担体として用いた場合、緩やかな攪拌実験で数ppm程度のシリカイオンの溶解が観測される。シリカゲルの水に対する飽和溶解度が400ppmとされるので、通常の使用では問題とならないレベルに思われるが、1年、2年とさらに長期にわたって使用する場合にはシリカゲルの10%以上が溶解することになり得る。すると、当然シリカ担体に担持された金属の剥離が緩やかであるが確実に起こる。上述のように、金の担持構造を制御することによって、短期的には剥離の抑制に大きな改善効果が付与される。しかしながら、工業触媒として使用する場合には、年のオーダーでの長期安定性が重要であるため、金の担持構造の制御に加え、安定な組成を有する担体を使用することも重要な因子となることがわかる。
【0022】
また、本発明に係る金担持粒子は、窒素吸着法により窒素脱離スペクトルから求めた前記粒子の細孔直径の最高頻度が、3nm〜50nmの範囲であることが好ましい。担体の細孔構造は、強度以外の金属成分の担持特性、剥離などを含めた長期安定性、反応特性から極めて重要な物性の一つである。本発明の細孔径はこれらの特性を発現するための必要な物性値である。3nmより小さい細孔では、担持金属が剥離しにくい傾向になるため好ましい方向であるが、細孔径が小さくなりすぎると、触媒として液相反応などで使用する場合に、細孔内の拡散抵抗が大きくなり反応基質の拡散過程が律速となって反応活性が低くなってしまうことも多い。一方、50nmより大きな細孔が存在すると、反応物質の拡散は容易になり、物質移動が律速過程になりにくくなるが、担持した金属が剥離し易く、触媒が割れやすくなる傾向があり、結果として担時金属の剥離が進行しやすくなる。したがって、好ましくは3nm〜50nmの範囲でありより好ましくは、3nm〜30nmである。
【0023】
また、本発明に係る金担持粒子は、粒子の細孔容積が、0.1ml/g〜0.5ml/gの範囲であることが好ましい。細孔容積は貴金属を担持する空間として必要である。しかし細孔容積が大きくなると急激に強度が低下する傾向が見られる。したがって、0.1ml/g〜0.5ml/gの範囲が強度、担持特性の兼ね合いから好ましい。さらに好ましくは0.1ml/g〜0.4ml/gの範囲である。
【0024】
このような金担持粒子は、例えば以下の製造方法によって製造することができる。
【0025】
本発明に係る金担持粒子の担体は、シリカ、Al、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金、あるいは、シリカ、Al、ジルコニウム、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金を混合したスラリーを噴霧乾燥、焼成することにより製造することができる。各構成元素が反応して架橋構造を形成することができれば、従来公知の球状担体を製造する技術を用いることも可能である。
【0026】
ジルコニアゾルおよびシリカゾルとしては、それぞれ、コロイド粒子径0.5〜50nmのジルコニアゾル、コロイド粒子径0.5〜80nmのシリカゾルを用いることができ、これらのゾルは、一般公知の製造方法にしたがって調製できるほか、市販ゾルをそのまま用いても良い。例えば、ジルコニアゾルの場合は、水溶性ジルコニウム塩の水溶液を約120℃以下の温度で加熱して加水分解するか、あるいはアンモニア等のアルカリ剤によって中和することにより得ることができる。一方、シリカゾルとしては、水ガラスを硫酸などの鉱酸で中和して得られるゾルあるいは水ガラスをイオン交換樹脂で処理して得られるゾルなどが使用できる。但し、これらのゾルの粒子径は、粒子径0.5nm〜80nm、より好ましくは0.5nm〜50nmの範囲内にあるものを使用することが、球状な耐久性のある担体を形成する上で好ましい。コロイドの粒子径が小さくなると比表面積の増加ならびに耐破砕性が向上する傾向にあるが形状が悪くなる傾向が見られ、球状粒子を得る上で好ましくない。また、コロイドの粒子径が大き過ぎると細孔径および細孔容積が大きくなる傾向にあり、比表面積の低下ならびに耐薬品性および耐破砕性の低下に影響する。したがって、ゾル粒子径0.5nm〜80nm、より好ましくは0.5nm〜50nmの範囲で適宜必要とする担体の物性要求にあわせて選択すればよい。ゾルの粒子径が異なるものを組み合わせると、さらに強度が向上する効果が認められ傾向があり、強度の点からはより好ましい。
【0027】
Alとしては、アルミナゾルもしくは一般の市販されるアルミニウム化合物を用いることができる。アルミナゾルとしては、ジルコニアゾルおよびシリカゾルと同様に通常の市販ゾルを適用できる。また、アルミニウム化合物としては、例えば、アルミン酸ソーダ、塩化アルミニウム六水和物、過塩素酸アルミニウム六水和物、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、二酢酸アルミニウムなどを挙げることができる。好ましくは水溶性のアルミニウム化合物であり、より好ましくは硝酸アルミニウムである。硝酸アルミニウムが好ましい理由は、球状に成形した担体を焼成する過程において、アルミニウム以外は窒素酸化物として気化して消失するため、後から不純物を除去する操作が必要ないことを挙げることができる。同様にアルミナゾルも他の不純物が残存しないという利点がある。水溶性のものが好ましい理由は、ジルコニアゾルならびにシリカゾルとの混合スラリーが均一分散しやすいことを挙げることができる。
【0028】
アルカリ金属、アルカリ土類金属の原料としては、アルミニウム原料と同様に一般の市販される化合物を用いることができる。好ましくは水溶性の化合物であり、より好ましいのは水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩である。
【0029】
また、本発明においては、ジルコニア、シリカ、アルミニウム化合物もしくは(アルカリ金属及び又はアルカリ土類金属)化合物の混合スラリーに、スラリー性状の制御や生成物の細孔構造、などの特性や得られる担体物性を微調整するために無機物及び/又は有機物を加えることが可能である。用いられる無機物としては、硝酸、塩酸、硫酸等の鉱酸類および、Li、Na、K、Rb、Csなどのアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属などの金属塩ならびにアンモニアや硝酸アンモニウム等の水溶性化合物のほか、水中で分散して懸濁液を生じる粘土鉱物も使用できる。また、有機物としては、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等の重合体などが用いることができる。
【0030】
無機物および有機物を加える効果は様々であるが、球状担体の成形、細孔径および細孔容積を制御できることが挙げられ、具体的には球状の担体を得るには混合スラリーの液質が重要な因子となる。無機物あるいは有機物によって粘度や固形分濃度を調製することによって、球状の担体が形成されやすい液質にすることができる。また、細孔径および細孔容積の制御では、担体の成形段階で内部に残存し、成形後の焼成ならびに洗浄操作により残存物を除去できる最適な有機化合物を選択することによって実施できる。無機物あるいは有機物を選定して添加することにより、球状化の促進や物性値を微調整できる効果は大きい。
【0031】
本発明の担体は、前述した各種原料ならびに添加物の混合スラリーを噴霧乾燥して製造することができ、混合スラリーを液滴化する方法としては、回転円盤方式、二流体ノズル方式、加圧ノズル方式など公知の噴霧装置を用いた方法が挙げられる。
【0032】
噴霧する液は、よく混合された状態で用いることが必要である。混合状態が悪い場合には組成の偏在によって耐久性が低下するなど、担体の性能に影響する。特に原料調合時には、スラリーの粘度上昇および一部ゲル化(コロイドの縮合)が生じる場合もあり、不均一な粒子を形成することが懸念され、そのため、原料の混合を攪拌下で徐々に行うなどの配慮を行うほか、酸やアルカリを加えるなどの方法によって、例えばpH2付近のシリカゾルの準安定領域に制御して行うことが好ましい場合もある。
【0033】
また、噴霧する液は、ある程度の粘度ならびに固形分濃度を有していることが必要である。粘度や固形分濃度が低すぎると噴霧乾燥で得られる多孔質体が、真球とならず陥没球が多く生成する。また、高すぎると多孔質体同士の分散性に悪影響を及ぼすことがある他、性状によっては安定に液滴の形成ができなくなる。そのため、粘度としては噴霧可能であれば、5cp〜10000cpの範囲にあることが好ましく、形状からは噴霧可能な高い粘度の方が好ましい傾向が見られ、操作性とのバランスからより好ましくは10cp〜1000cpの範囲から選択できる。また、固形分濃度は10wt%〜50wt%の範囲内にあることが形状や粒子径から好ましく、適した濃度を選択できる。尚、噴霧乾燥条件としての目安として、噴霧乾燥器の乾燥塔入り口の熱風温度は200℃〜280℃、乾燥塔出口温度が110℃〜140℃の範囲内が好ましい。
【0034】
次に、噴霧乾燥により粒形に形成された担体を焼成する。本発明の多孔質担体の焼成温度は、300〜800℃が好ましい範囲である。焼成条件は多孔質性などの担体物性が変化するため、適切な温度条件ならびに昇温条件の選定が必要である。焼成温度が低いと複合酸化物として耐久性の維持が難しく、高すぎると細孔容積の低下に至る。また、昇温条件は、プログラム昇温等を利用し徐々に昇温していくことが好ましい。急激に高い温度条件で焼成した場合は、無機物および有機物のガス化や燃焼が激しくなり、設定以上の高温状態に曝されたり、粉砕の原因になるため好ましくない。
【0035】
焼成後、反応形式に応じて、所定の粒子径を有する多孔質担体を適宜選択することができる。触媒として用いる場合の粒子径は20〜150μmの範囲であることが好ましい。20μm以下では反応に用いた場合に沈降分離などの簡便な分離方法の適用が困難になる傾向があり、触媒が流失しやすくなる。一方、150μm以上では、液相反応で用いると細孔内拡散抵抗が大きくなることや、沈降しやすくスラリー状態でを維持できる傾向が見られる。分離性、反応性、スラリー状態の維持特性などのバランスから、この粒子範囲が最も好ましい。沈降時間を短くしたい場合や抜き出し液の流速に比べ粒子沈降速度が充分に速い場合には20μm〜150μmの範囲からさらに狭く設定することもできる。
【0036】
尚、担体にアルカリ金属、アルカリ土類金属化合物を担体に含有させる方法については、さらに、他の成分と同時に噴霧乾燥する方法や、後からアルカリ金属、アルカリ土類金属を吸着させる方法も使用できる。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属化合物を溶解した液中に担体を加えて乾燥処理を行うなど浸漬法を用いた方法、細孔容量分のアルカリ金属、アルカリ土類金属化合物を担体に染み込ませて乾燥処理を行うなど含浸法を用いる方法も適用できる。但し、後からアルカリ金属、アルカリ土類金属化合物を吸着させる方法は、担体にアルカリ金属、アルカリ土類金属化合物を高分散化するうえで液乾燥処理を緩和な条件で行うなどの注意が必要である。
【0037】
本発明に係る金担持粒子は、こうして得られた担体を、金を含む溶液に接触させることによって製造することができる。金の原料としては、テトラクロロ金酸、テトラクロロ金酸ナトリウム、ジシアノ金酸カリウム、ジエチルアミン金三塩化物、シアン化金等を挙げることができる。
【0038】
金単独で担持させる場合には200℃〜800℃以上の焼成で金属金とすることが可能である。一般的な還元剤を用いて還元して金属金とすることもできる。還元剤としては、ホルマリン、蟻酸、ヒドラジン、分子状水素、水素化ホウ素ナトリウムなどを用いることができる。
【0039】
続いて、実質的に金を含まない外部層が形成されるように金の分布を制御する代表的な方法について、マグネシウムを塩基成分として含有する担体を用いた場合を例に説明する。例えば、硝酸アルミニウムを溶解した溶液を加温し攪拌しておく、そこに担体を短時間で投入する。この工程で担体粒子の表面から深さ方向の塩基成分がアルミニウムと等量、吸着中和で消費される。ついで、pH2以下に調製したテトラクロロ金酸などの金水溶液を溶解させた水溶液に加えると、金イオンは粒子表面近傍の塩基がアルミニウムで消費されているため、粒子の内部へ拡散し内部の塩基と中和反応によって析出して固定される。この段階で金の担体内部固定が完了する。
【0040】
続いて水洗を行い乾燥させ、200℃〜800℃の温度で焼成し、さらに水中に分散させて超音波洗浄することで、金属金が担持された粒子が得られる。一方、還元工程として5℃〜100℃の温度でヒドラジン等によって還元し、その後上澄みをデカント、水洗、超音波洗浄を行った後に真空乾燥して金が担持された粒子を得ることもできる。本発明の方法によれば金を添加する前に添加する硝酸アルミニウムの量を変えることによって、金が担持されない層の厚みを任意に制御することができる。また、超音波洗浄を行った場合と行わない場合の比較検討の結果、通常の洗浄操作では除去できなかった外表面に付着した金を超音波洗浄は効果的に除去できることを確認した。本発明の超音波洗浄を組み込んだ調製方法は極めて有効な方法である。
【0041】
金を担持する際の温度条件は、室温〜200℃の温度で行うことができるが低い温度ほど、金の分布が広がることから高い温度、例えば70℃以上が好ましく、常圧の場合には90℃〜100℃付近がより好ましい。
【0042】
還元方法は、金を担持した後の触媒前駆体を水もしくはメタノール中にて、加温しながら、ホルマリン、蟻酸、を添加することによっても還元できる。また、分子状水素を使用して還元を行うこともできる。ホルマリン、蟻酸、ヒドラジンの使用量は一般的には金担持量に対し、0.5〜100倍モル、実用的には1〜10倍モルが使用される。また、この量を越えても特に問題はない。また、分子状水素による還元処理は、純粋な水素ガスまたは窒素あるいはメタン等の不活性なガスで希釈されたもの物を用いることができる。水素濃度は0.1vol%以上とし圧力は常圧ないしは数十気圧の条件で触媒製造時の分散液中に吹き込むなどして行われる。還元する際の温度ならびに圧力条件は、溶液が凍結しない低い温度から160℃の場合、圧力が常圧〜数気圧であることが好ましくい。さらに、還元処理時間は触媒種、処理条件により変わるが、大まかに数分から100時間である。数時間以内に処理が完了するように条件を設定するのが好都合である。
【0043】
本発明における金担持量は、特に限定はないが、担体重量に対し、好ましくは0.1wt%〜20wt%、より好ましくは1wt%〜10wt%である。本範囲を外れた高い担持量では、金が凝集し触媒金属当たりの活性が低くなり、低過ぎると触媒当たりの活性が低くなる傾向がある。
【0044】
また、本発明における金担持粒子は、金の他に異種元素を含有させることもできる。例えば、パラジウム、銀、水銀、タリウム、ビスマス、テルル、ニッケル、クロム、コバルト、インジウム、タンタル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ハフニウム、タングステン、マンガン、銀、レニウム、 アンチモン、スズ、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、白金、チタン、アルミニウム、硼素、珪素などを含ませることが可能である。これらの異種元素は、触媒あたり0.01wt%〜20wt%、好ましくは0.1wt%〜10wt%が好ましい。さらに、触媒にアルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物、希土類化合物から選ばれた少なくとも一種の金属塩を含有させてもよい。アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類の含有量は、触媒あたり15wt%以下の範囲から選ばれる。尚、これらの異種元素もしくはアルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物、希土類化合物は、金担持粒子の製造や反応の際に触媒中に含有させてもよいし、あらかじめ担体に含有させておく方法も用いることができる。
【0045】
本発明における金担持粒子を触媒として用い、アルデヒドやアルコール、及び分子状酸素と反応させてカルボン酸エステルを製造する反応に好適に使用することができる。触媒の使用量は、反応原料の種類、触媒の組成や調製法、反応条件、反応形式などによって大巾に変更することができ、特に限定はないが、触媒をスラリー状態で反応させる場合は、スラリー中の固形分濃度として、4〜50wt/vol%、好ましくは4〜30wt/vol%より好ましくは10〜25wt/vol%の範囲内に収まるよう使用するのが好ましい。
【0046】
原料に用いるアルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリオキサールなどの脂肪族飽和アルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒドなどの脂肪族α・β−不飽和アルデヒド、ベンズアルデヒド、トリルアルデヒド、ベンジルアルデヒド、フタルアルデヒドなどの芳香族アルデヒド、ならびにアルデヒドの誘導体などが挙げられる。これらのアルデヒドは、単独もしくは任意の二種以上の混合物として用いることができる。
【0047】
一方、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、オクタノールなどの脂肪族飽和アルコール、シクロヘキサノール、のような脂肪族環状アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのジオール、アリルアルコール、メタリルアルコールなどの脂肪族不飽和アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコールなどが挙げられる。アルデヒドとアルコールからは対応するカルボン酸エステルを合成することができ、また、アルコールは単独もしくは任意の二種以上、例えばエタノールから酢酸エチルの合成やエチレングリコールとメタノールの混合物からグリコール酸メチルの合成などの反応として用いることができる。
【0048】
さらに、酸素は、分子状酸素すなわち酸素ガスまたは不活性ガスに希釈した酸素ならびに空気を用いることができる。
【0049】
尚、カルボン酸エステルを製造する反応において、アルデヒドとアルコールの使用量比は、例えば、(アルデヒドまたはアルコール)/アルコールのモル比で2/1〜1/50の範囲であるが、目的とする反応に合わせて設定することができる。例えばメタクロレイン/メタノールからメタクリル酸メチル、グリコール類/メタノールからグリコール酸メチルが生成する反応などでは1/2〜1/10の範囲が好ましく選定される。反応系に存在させる酸素量は、反応に必要な化学量論量以上、好ましくは化学量論量の1.2倍以上であればよい。
【0050】
また、本発明のカルボン酸エステル製造反応は、気相反応、液相反応、潅液反応などの任意の方法で回分式又は連続式のいずれによっても実施できる。反応は無溶媒でも実施できるが、反応成分に対して不活性な溶媒、例えばヘキサン、デカン、ベンゼン、ジオキサンなどを用いてもよい。反応器形式としては、固定床式、流動床式、撹拌槽式など従来公知の形式を採用できる。尚、本発明の触媒は耐破砕性をもつため、流動床反応器、気泡塔反応器、撹拌槽反応器にも安定に使用できる。
【0051】
本発明における触媒の粒子径は、反応形式に応じて適宜選ぶことができる。例えば、液相懸濁状態で使用する際は触媒の分離方法によって変わり、自然沈降分離では、好ましくは20〜150μmであり、より好ましくは20〜100μmである。
【0052】
本発明のカルボン酸エステル製造反応プロセスを液相等で実施する場合には、反応系にアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の化合物(例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩など)を添加して反応系のpHを6〜8に保持することが好ましい。反応器出口側の酸素分圧や反応させるアルデヒド種、アルコール種などの反応原料、反応条件もしくは反応器形式などにより変化するが、実用的には反応器出口の酸素分圧は爆発範囲の下限以下の濃度となる範囲で、例えば20〜80kPaに管理し、その他、反応圧力は減圧から加圧下の任意の広い圧力範囲で実施することができきるが、通常は0.05〜2MPaの圧力で実施される。反応器流出ガスの酸素濃度が爆発範囲(8%)を越えないように全圧を設定することが安全性から好ましい。また、反応温度は、100 ℃以上の高温でも実施できるが、好ましくは30〜100℃である。反応時間は反応生成物、副生成物の挙動、生産性によって最適な時間を設定することがこのましく、一義的には決められないが、通常1〜20時間である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。まず、本実施例に用いられる各種の工程を以下に説明する。
(形状観察)
日立製製作所主製X−650走査型電子顕微鏡を用いて観察した。
(物性測定:細孔径、比表面積、細孔容積)
ユアサ・アイオニクス/オートソーブ3MP装置により、吸着ガスとして窒素を用いて測定した。尚、表面積はBET法、細孔径ならびに細孔分布はBJH法、細孔容積はP/P0,Maxでの吸着量を採用した。
(EPMA解析)
金担持粒子を樹脂に抱埋、研磨して得られる粒子断面の解析を、島津製作所製:EPMA1600を用い、加速電:15KeVで測定した。反射電子像、線分析(Au分析は波長:5.8419、分光結晶:PET、Si分析は波長:7.1224、分光結晶ADPを用いた)からAuの外表面から深さ方向の解析を行った。
(超音波洗浄)
超音波洗浄装置は東京超音波技術株式会社製:IUC−3011を用い、出力600W/L、電力密度20W/L、発振周波数27KHzで行った。
(ICP−MS分析)
溶液中のAu濃度の分析はTnermo Elemental 社製、X7ICP/MS型を用いて測定した。
【0054】
まず、担体製造例1〜3に従って、3種類の担体を製造し、実施例、比較例に供した。
〔担体製造例1〕
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬製)3.75kg、硝酸マグネシウム・6水和物(和光純薬製)2.56kgを純水4.67kgに溶解した水溶液を、15℃に保持した攪拌状態のコロイド粒子径10〜20nmのシリカゾル(ナルコ社製、商品名:TX11561をSiO2含有量30wt%に調整水溶液)20.0kg中へ徐々に滴下し、シリカゾル、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウムの混合スラリーを得た。その後、混合スラリーを50℃で24時間保持し熟成させた。室温に冷却した後、攪拌しながらスプレードライヤー装置を用いて空気中で出口温度130℃に設定したスプレードライヤーで噴霧乾燥成形し、その後、400℃で焼成後、分級処理を行い30μm以下の粒子および150μm以上の粒子を除去して平均粒子径60μmの粒子を得た。再度580℃で焼成を行い白色のシリカ・アルミナ・マグネシア担体を得た。得られ担体の細孔径は窒素脱離から得られた値は3nm〜15nmで最高頻度径は8nm、細孔容積は、0.29ml/gであった。
【0055】
本製造例においては、
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al=0.5であり、Al/Si=0.10である。
〔担体製造例2〕
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬製)0.83kg、硝酸マグネシウム・6水和物(和光純薬製)0.95kgを純水に溶解した水溶液を、攪拌下のコロイド粒子径10nm〜20nmのシリカゾル(ナルコ社製、商品名:TX11561をSiO2含有量30wt%に調整水溶液)1.20kg中へ徐々に滴下し、シリカゾルと硝酸アルミニウム、硝酸マグネシクムの混合液を調合した。次に、この混合液を、攪拌下のコロイド粒子径50nmのジルコニアゾル(第一稀元素化学(株)製、商品名:ZSL−20N、ZrO2含有量20wt%)1.50kgとコロイド平均粒子径10nmのジルコニアゾル(商品名:ZSL−10T,第一稀元素化学(株)製、ZrO2含有量10wt%)11.8kgを混合した液に少量ずつ加え、混合白色スラリーを得た。このスラリーに硝酸、アンモニア水を少量加え、続いて硝酸アンモニウム1.5kgを加え2時間攪拌を行った。続いて、この混合スラリーを攪拌しながらスプレードライヤー装置を用いて空気中で噴霧乾燥成形し、その後、400℃で焼成した後、分級処理を行い30μm以下の粒子、150μm以上の粒子を除去して平均粒子径60μmの粒子を得た。再度580℃で焼成を行い白色のシリカ・アルミナ・ジルコニア・マグネシア担体を得た。細孔径は窒素脱離から得られた値は3〜5nmで最高頻度径は4nm、細孔容積は、0.15ml/gであった。
【0056】
本製造例においては、
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al=0.84であり、Al/Si=0.37であり、Zr/Si=2.01である。
〔担体製造例3〕
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬製)4.86kg、硝酸ルビジウム(和光純薬製)3.05kgを純水5.0kgに溶解した水溶液を、15℃に保持した攪拌状態のコロイド粒子径10nm〜20nmのシリカゾル(ナルコ社製、商品名:TX11561をSiO2含有量30wt%に調整水溶液)20.0kg中へ徐々に滴下し、シリカゾル、硝酸アルミニウム、硝酸ルビジウムの混合スラリーを得た。その後、混合スラリーを室温で24時間保持し熟成させた。室温で攪拌しながらスプレードライヤー装置を用いて空気中で出口温度130℃に設定したスプレードライヤーで噴霧乾燥成形し、その後、400℃で焼成後分級処理を行い30μm以下の粒子、150μm以上の粒子を除去して平均粒子径60μmの粒子を得た。再度580℃で焼成を行い白色のシリカ・アルミナ・ルビジウム担体を得た。細孔径は窒素脱離から得られた値は3nm〜15nmで最高頻度径は7nm、細孔容積は、0.27ml/gであった。
【0057】
本製造例においては、
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al=0.77であり、Al/Si=0.13である。
〔実施例1:金担持粒子の製造〕
担体100重量部に対しアルミニウムとして0.35重量部の硝酸アルミニウム水溶液攪拌した状態90℃に維持し、これに担体製造例1の担体を瞬時に投入後10分間攪拌した、次に担体100重量部に対し金属金として3重量部となるテトラクロロ金酸水溶液と少量の硝酸を加えた溶液を瞬時に加え90℃で10分間攪拌した。上澄みをデカントして除去した後室温で蒸留水を用いて洗浄後、乾燥、400℃で焼成した。続いて、金担持体を水中に分散させ、超音波洗浄を30分行った。その後水洗を上澄みが透明になるまで行い、80℃で真空乾燥して金担持粒子を得た。EPMA解析の結果、粒子の外表面から深さ方向2μmには金が担持されない層を有する金担持であることが確認された。
〔比較例1:金担持粒子の製造〕
実施例1の硝酸アルミニウムを加えずに水としたこと、超音波洗浄をおこなわなかったこと以外は同様の操作で金担持粒子を得た。EPMA解析の結果、粒子の外表面および深さ5μmまでの範囲にも金が担持された粒子であることが確認された。
〔比較例2:金担持粒子の製造〕
実施例1の超音波洗浄をおこなわなかったこと以外は同様の操作で金担持粒子を得た。EPMA解析の結果、粒子の表面から2μmの深さまでに金を担持しない層が形成されていたが、外表面には金粒子が付着していた。
〔実施例2:エステル化反応〕
実施例1の金担持粒子200gを触媒として、触媒分離器を備えた液相部が1.2リットルの攪拌式スレンレス製反応器に仕込み、攪拌羽の先端速度を4m/sとして内容物を攪拌しながら、アルデヒドとアルコールの酸化的エルテル化反応を実施した。36.7重量%のメタクロレイン/メタノール溶液を0.6リットル/hrで供給し80℃、0.4Mpa圧力で、出口酸素濃度が0.02Mpa以下となるように空気を吹き込み反応を行った。生成物は一定の速度で抜き出し、ガスクロマトグラフィーで分析して反応性を調べた。また、反応開始から20時間のメタクリル酸メチル(MMA)の生成速度は5.9mol/h・KgCat、選択率は92.6%であった。100時間、500時間経過時点の反応性はほとんど変化しなかった。また、反応液を液中の金の濃度をICP−MSを用いて測定したところ、20、100、500時間の各時点の反応液中の金濃度は1ppb以下であり、金の剥離等が完全に抑制されていることが確認された。
〔比較例3:エステル化反応〕
比較例1で得られた金担持粒子を触媒として用いたほかは、実施例2の方法と同様の操作でエステル化反応を行った。反応開始から20時間のMMAの生成速度は6.0mol/h・KgCat、選択率は92.3%であった。100時間目はMMA生成速度5.6mol/h・KgCat、選択率は92.4%であり、500時間経過時点のMMA生成速度は、4.9mol/h・KgCat、選択率92.5%であり、活性低下が認められた。また、反応液を液中の金の濃度を、ICPを用いて測定したところ、20時間で22ppm、100時間で4ppm、500時間の時点で1ppmであり、金の剥離等によって活性が低下したものと推定された。
〔比較例4:エステル化反応〕
比較例2で得られた金担持粒子を触媒として用いたほかは、実施例2の方法と同様の操作でエステル化反応を行った。反応開始から20時間のMMAの生成速度は6.2mol/h・KgCat、選択率は92.1%であった。100時間目はMMA生成速度5.7mol/h・KgCat、選択率は92.3%、500時間経過時点のMMA生成速度は、5.6mol/h・KgCat、選択率92.4%であり、反応初期に大きな活性低下が認められた。また、反応液を液中の金の濃度をICPで測定したところ、20時間で19ppm、100時間で0.5ppm、500時間の時点で0.2ppmであり、金の剥離等によって活性が低下したものと推定された。
〔実施例3:金担持粒子の製造〕
担体100重量部に対しアルミニウムとして0.50重量部の硝酸アルミニウム水溶液攪拌した状態90℃に維持し、これに担体製造例2の担体を瞬時に投入後10分間攪拌した、次に担体100重量部に対し金属金として4重量部となるテトラクロロ金酸水溶液と少量の硝酸を加えた溶液を瞬時に加え、90℃で10分間攪拌した。上澄みをデカントして除去した後、室温で蒸留水を用いて洗浄後、乾燥、400℃で焼成した。続いて、金担持体を水中に分散させ、超音波洗浄を30分行った。その後水洗を上澄みが透明になるまで行い、80℃で真空乾燥して金担持粒子を得た。EPMA解析の結果、粒子の外表面から深さ方向3μmには金が担持されない層を有する金担持粒子であることが確認された。
〔実施例4:エステル化反応〕
実施例3の金担持粒子200gを触媒として、触媒分離器を備えた液相部が1.2リットルの攪拌式スレンレス製反応器に仕込み、攪拌羽の先端速度が4m/sの速度で内容物を攪拌しながらアルコールの酸化的エステル化反応を実施した。25.0重量%のエチレングリコール/メタノール溶液を0.6リットル/hrで供給し90℃、0.4Mpa圧力で、出口酸素濃度が0.02Mpa以下となるように空気を吹き込み反応を行った。生成物は一定の速度で抜き出しガスクロマトグラフィーで分析して反応性を調べた。反応開始から20時間のグリコール酸メチル(GM)の生成速度は4.6mol/h・KgCat、選択率は79.3%であった。500時間経過時点の反応性はグリコール酸メチル(GM)の生成速度は4.5mol/h・KgCat、選択率は79.6%であり、ほとんど変化しなかった。また、反応液中の金の濃度をICP−MSを用いて測定したところ、20、500時間の各時点の反応液中金濃度はいずれも1ppb以下であり、金の剥離等が完全に抑制されていることが確認された。
〔比較例5:金担持粒子の製造及びエステル化反応〕
市販シリカ担体(富士シリシア化学 キャリアクトQ−10、平均粒子径65μm、平均細孔径10nm、細孔容積1.23ml/g)1.0Kgにチタンイソプロポキシド(和光純薬)600gを溶解させた2−プロパノール溶液2Lを加え、加温して溶媒を留去し、チタン含有化合物を含浸担持した。110℃で10時間乾燥後600℃4時間空気中焼成した。次に、20mMol塩化金酸水溶液4.5Lを60℃に保持しながら、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH10に調整した。この溶液にテトラアンミンパラジウム水酸塩水溶液(Pd含有量20g/L)10mlを加えたあと、上記のチタン含有シリカ担体200gを投入し、70℃で1時間攪拌した。その後、静置して上澄みを除去して残った金固定化物に蒸留水4Lを加え5分間攪拌した後上澄みを除去するという洗浄操作を3回繰り返した。ろ過後110℃で10時間乾燥し、空気中400℃で3時間焼成することでチタン含有シリカに金が担持された粒子を得た。
【0058】
この粒子を触媒として用いたこと以外は、実施例4と同様の操作でエステル化反応を行った。
【0059】
反応開始から20時間のグリコール酸メチル(GM)の生成速度は5.0mol/h・KgCat、選択率は78.5%であった。100時間経過時点のグリコール酸メチル(GM)の生成速度は4.6mol/h・KgCat、選択率は78.6%であった。また、反応液中の金濃度をICP−MSを用いて測定したところ、20、100時間の各時点の反応液中金濃度は4.5ppm、0.2ppmであり、反応の低下、及び金の剥離が認められた。
〔実施例5:金担持粒子の製造及びエステル化反応〕
担体を担体製造例3の担体に、アルミニウムを0.50重量部、金属金を4.5重量部に変更した以外は、実施例1の操作方法で金を担持した粒子を得た。
【0060】
EPMA解析の結果、粒子の外表面から深さ方向3μmには金が担持されない層を有する金担持粒子であることが確認された。得られた粒子200gを触媒として、触媒分離器を備えた液相部が1.2リットルの攪拌式スレンレス製反応器に仕込み、攪拌羽の先端速度を4m/sとして内容物を攪拌しながらアルコールの酸化的エステル化反応を実施した。エタノールを0.6リットル/hrで供給し、80℃、0.5Mpa圧力で、出口酸素濃度が0.02Mpa以下となるように空気を吹き込み反応を行った。生成物は一定の速度で抜き出し、ガスクロマトグラフィーで分析して反応性を調べた。反応開始から30時間の酢酸エチルの生成速度は3.1mol/h・KgCat、選択率は84.3%であった。300時間経過時点の反応性は酢酸エチルの生成速度は3.2mol/h・KgCat、選択率は84.5%であった。また、反応液中の金濃度をICP−MSを用いて測定したところ、30、300時間の各時点の反応液中金濃度はいずれも1ppb以下であり、反応効率は低下せず、金の剥離等が完全に抑制されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が20〜150μmのシリカを含む担体に金が担持された粒子であって、粒子最外表面から5μm以内の厚さで実質的に金を含まない層を有する、金担持粒子。
【請求項2】
前記担体がシリカと、Alナと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含み、原子比が、下記式(I)を及び式(II)を満たす、請求項1に記載の金担持粒子。
Al/Si=0.02〜0.25 (I)
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5 (II)
【請求項3】
前記担体がシリカと、Alと、ジルコニアと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含み、原子比が、下記式(III)〜(V)を満たす、請求項1に記載の金担持粒子。
(アルカリ金属+0.5×アルカリ土類金属)/Al≧0.5 (III)
Al/Si=0.02〜0.8 (IV)
Zr/Si=0.5〜10.0 (V)
【請求項4】
窒素吸着法により窒素脱離スペクトルから求めた前記粒子の細孔直径の最高頻度が、3nm〜50nmの範囲である、請求項1から3のいずれか1項に記載の金担持粒子。
【請求項5】
前記粒子の細孔容積が、0.1ml/g〜0.5ml/gの範囲である、請求項1から4のいずれか1項に記載の金担持粒子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の金担持粒子の製造方法であって、
金を担体に担持させ還元する工程と、
少なくとも1回前記担体を超音波洗浄処理する工程と、を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
アルデヒド、アルコール及び酸素を液相で触媒の存在下反応させる工程を含むカルボン酸エステルの製造方法であって、
前記触媒として、請求項1から5のいずれか1項に記載の金担持粒子を用いる、方法。
【請求項8】
前記カルボン酸エステルがアクリル酸エステルであり、
前記アルデヒドが、アクロレインであり、
前記アルコールが、メタノール、エタノール、ブタノール2エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオールからなる群から選択される少なくとも1つのアルコールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記カルボン酸エステルがメタクリル酸エステルであり、
前記アルデヒドがメタクロレインであり、
前記アルコールがメタノール、エタノール、ブタノール2エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオールからなる群から選択される少なくとも1つのアルコールである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
1または2種類のアルコール及び酸素を液相で触媒の存在下反応させる工程を含むカルボン酸エステルの製造方法であって、
前記触媒として、請求項1から5のいずれか1項に記載の金担持粒子を用いる、方法。
【請求項11】
前記カルボン酸エステルが、オキシカルボン酸メチル、オキシカルボン酸エチル、カルボン酸メチル、カルボン酸エチルであり、
前記1または2種類のアルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、メタノール及びエタノールからなる群から選択される1または2種類のアルコールである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記カルボン酸エステルが酢酸エチルであり、
前記アルコールがエタノールである、請求項11に記載の方法。

【公開番号】特開2007−297224(P2007−297224A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124168(P2006−124168)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】