説明

耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸およびそれを用いた耐切創性手袋

【課題】 本発明は、耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸を提供し、特に高分子量ポリエチレンフィラメントを採用することで耐薬品性、耐光性、水切れ性に優れた耐切創性手袋を提供することを課題とする。
【解決手段】 非弾性繊維と弾性繊維とからなる複合弾性糸であって、該非弾性繊維及び弾性繊維がともにポリオレフィン系繊維である複合弾性糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水着、インナー、アウター、おしめカバー、生理用品、テントシート等のアウトドア製品、産業用資材、耐久性の要求される分野に用いて好適な耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸に関し、特に高分子量ポリエチレンフィラメントを採用することで鋭利な縁やバリのある鉄板・ガラス等を取り扱う作業および精肉加工や大型魚の解体作業等で包丁やナイフ等の刃物を用いる危険な作業で着用するのに適した耐薬品性、耐光性、水切れ性に優れた耐切創性手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合弾性糸は、水着、レオタード、インナー、アウター、その他おしめカバー、生理用品の伸縮性部位等に広く用いられている。そしてこれらの複合弾性糸は、一般にポリウレタン弾性繊維とポリエステル、ポリアミドといった汎用糸と組み合わされることが一般的である。
しかしながら、ポリウレタン弾性繊維は、優れた伸縮性を示す一方、通常の汎用糸に比して化学耐久性、耐候性が著しく劣るという欠点を有し、塩素消毒等を行う業務洗濯用途や水着、又は屋外で暴露される資材用途、例えば車両等のシート類に使用できない又は十分な耐久性が得られていない。これらの課題に対し、種々の添加剤の開発が試みられているが、ポリウレタン弾性繊維の本質が変わるものではなく、特に過酷な条件下では使用できないというのが現状である(例えば特許文献1、2参照)。一方、非弾性繊維として用いられているポリエステルやポリアミド繊維に関しては、ポリウレタン弾性繊維よりは耐化学耐久性、耐候性に優れるものの、長期間の屋外暴露や、業務洗濯に用いられる薬品に曝されるような過酷な条件に対しては十分とは言えず、加水分解や黄変等の問題があった。
【0003】
耐切創性手袋について、切断抵抗に優れたアラミド繊維、さらには金属繊維、ガラス繊維等の編糸を用いて編成したものは公知である。しかし、それぞれにおいて欠点を有しており、例えば、金属繊維を用いた場合には、可撓性に乏しくて編み加工性に欠け、また導電性を有するため、用途が限定されていたり、ガラス繊維を用いた場合には、ガラス繊維が折れた場合にガラス繊維の端部が内面に突出して人体に刺さる等の問題が生じやすかったり、アラミド繊維を用いた場合には強酸、強アルカリ領域での強度低下や、自然光での変色や摩耗特性に劣ることが課題として残っていた。
高強度ポリエチレン繊維に関しては上記のような問題は無いが、伸縮性に乏しいために、手袋の編地の伸縮性は編み組織による伸縮性のみとなり、用途によっては伸縮性が不足し、手袋の着脱性や密着性に欠けることがあった。
伸縮性を改善するためにポリウレタン弾性糸との組合せもされているが、上記のようにポリウレタン弾性糸は通常の汎用糸に比して化学耐久性、耐候性が著しく劣るという欠点を有する。特に上記高強度繊維を用いることにより、手袋を薄手にして装着感を向上させようとする場合、ポリウレタン弾性繊維の露出が大きくなり、ポリウレタン弾性繊維の物性低下が加速される。
また、水を扱う作業や、アウトドア分野で手袋を使用する場合、水を吸収した手袋は使用者に大きな不快感を与え、更には作業性も阻害するため、水切れ性が要求されるが、従来の手袋ではこのような要求を満たすものはなかった。
このように、フィット感のある耐薬品性、耐光性、水切れ性に優れた耐切創性手袋は未だ完成されていない。
【特許文献1】特開2001−081632号公報
【特許文献2】特開平06−081215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のような課題を解決するものであって、耐薬品性、耐光性、水切れ性に優れた複合弾性糸を提供し、特に高分子量ポリエチレンフィラメントを採用することで耐薬品性、耐光性に優れた耐切創性手袋を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.非弾性繊維と弾性繊維とからなる複合弾性糸であって、該非弾性繊維及び弾性繊維がともにポリオレフィン系繊維であることを特徴とする耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸。
2.弾性繊維が架橋型ポリオレフィン系弾性繊維であることを特徴とする上記1記載の耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸。
3.非弾性繊維が重量平均分子量10×105以上の高分子量ポリエチレンからなり、強度20cN/dtex以上、初期弾性率200cN/dtex以上の高強力マルチフィラメントであることを特徴とする上記1又は2記載の耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸。
4.上記1から3のいずれかに記載の複合弾性糸を重量比で3割以上用いた耐切創性手袋。
5.手袋表面の所要箇所に合成樹脂またはゴム等からなる被覆層が設けられている上記4に記載の耐切創性手袋。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸、さらには耐薬品性、耐光性、水切れ性に優れた耐切創性手袋を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明にかかる複合弾性糸は非弾性繊維、弾性繊維共にポリオレフィン系繊維からなることが好ましい。ポリオレフィン系繊維は優れた耐薬品性、耐候性を有するからである。
これにより該繊維を非弾性繊維に該繊維を用いれば布帛の強度を保持しかつ変色を防止し、弾性繊維に用いることにより伸縮性を保持し、また変色を防止するため、屋外暴露や業
務洗濯薬品に曝す等の過酷な条件においても、使用開始時と同等の布帛特性を維持することができる。また該繊維は密度が低く、布帛厚みに対して軽量な伸縮性布帛を得ることができる。更に該繊維は疎水性であるため、水切れ性がよく、乾燥速度が速いという特性を有する。
【0008】
本発明にかかる複合弾性糸の形態は特に限定されるものではないが、布帛になったときに優れた耐切創性を有するためには弾性繊維が非弾性繊維で均等に被覆されているカバリング糸であることが好ましい。製造方法としてはカバリング機を用いても、弾性糸をドラフトしながら非弾性繊維と合撚しても良い。
【0009】
該弾性繊維の混率は、重量比で1%以上、好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である。弾性繊維の混率が低ければ十分な伸縮回復性が得られないからである。ただし高すぎると強度が低くなってしまうため、50%以下、さらには30%以下が好ましい。
【0010】
本発明でいう弾性繊維とは社会通念上のゴム弾性を有する繊維をいい、たとえば50%伸張時に50%以上の回復性を有する繊維をいう。
また非弾性繊維とは、社会通念上のゴム弾性を有さない繊維をいい、伸張回復性を有さない、例えば一般的なポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等の繊維をいう。
【0011】
本発明にかかる複合弾性糸は架橋型ポリオレフィン系弾性繊維を使用してもよい。かかる弾性繊維は、その化学構造に起因した耐薬品性、耐候性に加えて、優れた伸縮性、耐熱性を有し、本発明にかかる伸縮性布帛に用いて好適だからである。
【0012】
本発明でいう架橋型ポリオレフィン繊維は均一に分枝を有しており、実質的に線状であるオレフィンに架橋処理を施されてなる繊維であってもよい。ここで均一に分枝していて実質的に線状であるオレフィン繊維とは、オレフィン系モノマーを重合させた重合物であり、その重合物の分岐度合いが均一であるものを言う。例えばαオレフィンを共重合させた低密度ポリエチレンや特表平2002−515530号公報記載の弾性繊維がこれに該当する。また架橋処理の方法としては、例えばラジカル開始剤やカップリング剤などを用いた化学架橋や、エネルギー線を照射することによって架橋させる方法等が挙げられる。製品となった後の安定性を考慮するとエネルギー線照射による架橋が好ましいが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
【0013】
本発明にかかる複合弾性糸は非弾性繊維として重量平均分子量10×105以上の高分子量ポリエチレンからなる繊維を使用してもよい。ポリエチレンフィラメントは高強力・高弾性率のフィラメントを使用するのが好ましく、特に強度20cN/dtex以上、初期弾性率200cN/dtex以上の高強力マルチフィラメントであれば、手袋に用いられた場合、耐切創性に優れたものとなる。また高強度・高弾性率ポリエチレンフィラメントは表面摩擦係数が低く耐摩耗性にも優れ、更には薄手でフィット感が良い手袋等を得ることが可能となる。
【0014】
本発明にかかる複合弾性糸は、塩素処理後の応力保持率が85%以上、更に好ましくは90%以上であってもよい。上記の応力保持率を有する布帛であれば、過酷な洗濯・殺菌等の条件下の使用であっても、使用者等が十分満足する耐久性だからである。
【0015】
また本発明にかかる複合弾性糸は、光照射後の黄変(△b値)が5%以下、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下であってもよい。このような範囲であれば、野外で長時間暴露するような過酷な条件下の使用であっても、長期間使用に耐えるものだからである。
【0016】
このようにして得られた加工糸は、編み機に掛けられ手袋が得られる。もしくは織機にかけられ布帛を得て、それを裁断して手袋を得ることもできる。
【0017】
本発明にかかる耐切創性手袋は該複合弾性糸が構成繊維として重量比が3割以上で有ることが好ましい。3割未満で有れば耐切創性が低下しやすいため好ましくない。より好ましくは5割以上であり、さらには7割以上が一層好ましい。
【0018】
残りの7割以下の割合で、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、綿、毛などの天然繊維、レーヨン等の再生繊維などを用いても良い。摩擦耐久性から単糸1〜4デシテックスのポリエステルマルチフィラメントや、同ナイロンフィラメントを用いるのが好ましい。さらには耐光性や耐薬品性の観点からまた比重が低いことからポリプロピレンフィラメントを用いることが一層好ましい。
【0019】
このようにして得られた手袋は、そのまま手袋として使用することもできるが、必要であれば滑り止め性を付与するために、樹脂を塗布することもできる。ここで用いられる樹脂は、ウレタン系やエチレン系などのものが挙げられるが特に限定するものではない。
【0020】
以下に、実施例を例示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中における伸縮性布帛の特性値の測定及び評価は下記のようにおこなった。
【0021】
(A)塩素水処理
特開2000−97933号公報記載の水着の耐塩素性を評価する試験装置を用いておこなった。かかる試験装置は、水着の試験片を浸漬することによるpH変動を抑制し、かつ試験片を浸漬する水槽内の状態を均一に保つことができ、更には遊泳時を想定して水着が水流を受けるものであり、競泳やスイミングスクール等の遊泳条件に近しい動的な測定を可能とし、より現実的な耐塩素性評価を可能とする装置である。
(1)次亜塩素酸ナトリウム水溶液の調整
次亜塩素酸ナトリウム(アンチフォルミン:ナカライテスク製)を50ml採取し 、これに純水を投入して全量を5Lとした。
(2)酢酸水溶液の調整
酢酸(ナカライテスク製)50ml採取し、純水を投入して全量を5Lとした。
(3)試験片の取り付け
複合弾性糸で筒編み地を作成し、ステンレス製の枠に布帛を無伸張状態でピンラインにより固定した。
(4)試験条件
試験条件は以下の通りでおこなった。
有効塩素濃度 : 3.0 ppm
pH : 7.5
温度 : 30℃
布帛回転速度 :17.6rad/s
布帛取り付け位置 :回転軸から50cm
(上記布帛回転速度と取り付け位置から 約1.4m/s の速度で水流を受ける )
布帛に対する水流角度 :90°
運転(回転)条件 :10秒運転、10秒停止の間欠運転
運転時間 :288時間
処理後のサンプルは、十分に水洗し、室温で乾燥した。
(B)応力保持率
弾性糸のS−S測定をし、破断応力を測定する(d1)。
複合弾性糸で筒編地を作成し、所定の処理をする。その後解編した複合弾性糸からさらに弾性糸のみを取り出しS−S測定をし、破断応力を測定する(d2)。
応力保持率(%)は(d2)/(d1)×100で算出する
(C)耐光性測定
スガ試験機株式会社製 強エネルギーサンシャインフェードメーター(カーボンアーク)を用い、以下の条件で複合弾性糸からなる筒編地を処理した。
温度 : 90℃
照射時間 : 90時間
(D)変色測定
MINOLTA社製SPECTROPHOTOMETER CM−3700dを用いてΔb値により評価をおこなった。
Δb = b1−b2
b1 : 光照射処理前布帛のb値
b2 : 光照射処理後布帛のb値
(E)水切れ性評価
手袋サンプルを水道水に10分間浸し、家庭用洗濯機にて5分間脱水させた後3名のモニターが装着し、快適性を評価した。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
70デシテックス/1フィラメントのαオレフィン共重合ポリエチレンを溶融紡糸した糸を、電子線を用いて架橋させた架橋型ポリオレフィン繊維(A)を得た。繊維(A)を2本引き揃えてドラフト1.55倍で供給して引っ張り強度27cN/dtex、初期弾性率900cN/dtexを有する超高分子量ポリエチレン繊維ダイニーマSK60(商品名:東洋紡績(株)製)の440デシテックスのマルチフィラメント繊維(B)と合撚し、撚数200T/Mの複合弾性糸(X)を得た。複合弾性糸のみを用いて成型編み機で手袋を作成した。
(実施例2)
繊維(A)1本のみをドラフト1.55倍で供給した以外は実施例1に従い複合弾性糸(Y)を得た。ポリプロピレン繊維加工糸84デシテックス/36フィラメントと交編して成型編み機で手袋を作成した。
(実施例3)
ポリプロピレン繊維加工糸の代わりに、ナイロンフィラメント77デシテックス24フィラメントを用いた以外は実施例2に従った。得られた手袋の掌側にウレタン樹脂による湿式コーティングを施した。
(比較例1)
88デシテックスのポリウレタンウレア弾性糸エスパ(商品名:東洋紡績(株)製)を繊維(A)の代わりに用いた以外は実施例1に従った。得られた複合弾性糸は弾性糸の密度が高いことから軽量感に欠け、耐塩素性、耐光性においても劣るものとなった。
(比較例2)
繊維(B)の代わりにアラミド繊維を用いた以外は実施例1に従った。得られた複合弾性糸は変色しやすく、耐光性において劣るものとなった。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の複合弾性糸は、耐薬品性、耐光性に優れ、水着、インナー、アウター、おしめカバー、生理用品、テントシート等のアウトドア製品、産業用資材、等への利用価値が大であり、特に、高分子量ポリエチレンフィラメントを採用することで鋭利な縁やバリのある鉄板・ガラス等を取り扱う作業および精肉加工や大型魚の解体作業等で包丁やナイフ等の刃物を用いる危険な作業で着用するのに適した耐薬品性、耐光性、水切れ性に優れた耐切創性手袋に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性繊維と弾性繊維とからなる複合弾性糸であって、該非弾性繊維及び弾性繊維がともにポリオレフィン系繊維であることを特徴とする耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸。
【請求項2】
弾性繊維が架橋型ポリオレフィン系弾性繊維であることを特徴とする請求項1記載の耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸。
【請求項3】
非弾性繊維が重量平均分子量10×105以上の高分子量ポリエチレンからなり、強度20cN/dtex以上、初期弾性率200cN/dtex以上の高強力マルチフィラメントであることを特徴とする請求項1又は2記載の耐薬品性、耐光性に優れた複合弾性糸。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の複合弾性糸を重量比で3割以上用いた耐切創性手袋。
【請求項5】
手袋表面の所要箇所に合成樹脂またはゴム等からなる被覆層が設けられている請求項4に記載の耐切創性手袋。

【公開番号】特開2006−70400(P2006−70400A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256844(P2004−256844)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】