説明

耐薬品性を有する多孔性フィルム

【課題】耐薬品性に優れ、フィルム表面の開孔率が高く、且つフィルムの表面から内部にかけて均質な微小孔を有する多孔性フィルム、ならびに、前記多孔性フィルムを簡便に製造できる方法を提供する
【解決手段】
多孔性フィルム基材が耐薬品性高分子化合物により被覆されている多孔性フィルムであって、該多孔性フィルム基材が、アミドイミド系ポリマー及びイミド系ポリマーから選択された少なくとも1種の高分子成分を含む高分子溶液を基板上へフィルム状に流延して所定の相転換法により製造され、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔性フィルム基材であり、連通性を有する微小孔が多数存在し、透気度がガーレー値で0.2〜29秒/100cc等の特性を有する耐薬品性を有する多孔性フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性に優れ、表面に実質的にスキン層(緻密層)を有さず、連続微小孔が多数形成された多孔性フィルムに関する。この多孔性フィルムは、精密濾過、分離濃縮等の膜分離技術や、その空孔特性をそのまま利用したり、または空孔を機能性材料で充填することにより、電池用セパレーター、電解コンデンサー、回路用基板等、広範囲な基板材料としての利用が可能である。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔性フィルムを構成する素材として、アミドイミド系ポリマーやイミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、フッ素系ポリマー、オレフィン系ポリマーなどのポリマーが知られている。このような素材からなる多孔性フィルムを製造する方法として、例えば、上記ポリマーを含む混合液をフィルム状に流延した後に凝固液に導く方法(相転換法)が知られている。しかし、上記ポリマーを素材として前記方法により製造したフィルム表面にはスキン層(緻密層)が存在し、実質的な開孔部が存在しなかったり、また存在してもその開孔率が低かった。例えば、イミド系ポリマーを素材とした多孔性フィルムとして、ポリイミドからなる多孔膜やその製造方法が開示されているが(例えば、特開2001−67643号公報、特開2001−145826号公報、特開2000−319442号公報等)、これらは表面に孔を開けるために溶媒置換速度調整材を介して製造することが必要なために、その製造工程が複雑である上、充分な開孔率と透過性を有するものではないという不具合があった。
【0003】
一方、多孔性フィルムを、一時的にまたは長期にわたり、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品にさらされる形態で利用した場合、多孔性フィルムが、溶解してしまったり、膨潤して変形しまったりするという問題がある。多孔性フィルムを構成する化学物質を変更することにより該フィルムの化学的性質を改良することが考えられるが、多孔性フィルムには、耐熱性、柔軟性、硬度、色、製造容易性、孔径、空孔率、多孔構造、価格、強度、化学的性質等、多様な要求があり、それら全てをバランスよく満足する構成材料の選択は容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−67643号公報
【特許文献2】特開2001−145826号公報
【特許文献3】特開2000−319442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐薬品性に優れ、フィルム表面の開孔率が高く、且つフィルムの表面から内部にかけて均質な微小孔を有する多孔性フィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記多孔性フィルムを簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、耐薬品性に優れた高分子を用いて多孔性フィルムを被覆することにより、多孔性フィルムの特性を生かしながら、耐薬品性に優れ、連通性を有する微小孔が多数存在する多孔性フィルムが得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、多孔性フィルム基材が耐薬品性高分子化合物により被覆されている多孔性フィルムであって、該多孔性フィルム基材が、アミドイミド系ポリマー及びイミド系ポリマーから選択された少なくとも1種の高分子成分を含む高分子溶液を基板上へフィルム状に流延して相転換法により製造され、相転換法により多孔性フィルム基材を製造するに際し、該多孔性フィルム基材を構成する高分子の表面張力Sa[mN/m]と基板の表面張力Sb[mN/m]との差(Sa−Sb)が−10以上となる高分子及び基板を用い、多孔性フィルム基材を構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液を高分子溶液として基板上へフィルム状に流延したのち凝固液に導き、相転換させることにより製造された、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔性フィルム基材であり、耐薬品性高分子化合物が、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、キシレン系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群より選択された少なくとも一種であり、連通性を有する微小孔が多数存在し、該多孔性フィルムの厚みが5〜200μm、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、該多孔性フィルムの空孔率が30〜80%、透気度がガーレー値で0.2〜29秒/100ccである耐薬品性を有する多孔性フィルムを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の多孔性フィルムを製造する方法であって、アミドイミド系ポリマー及びイミド系ポリマーから選択された少なくとも1種の高分子成分を含む高分子溶液を基板上へフィルム状に流延し、相転換法により多孔性フィルム基材を製造するに際し、該多孔性フィルム基材を構成する高分子の表面張力Sa[mN/m]と基板の表面張力Sb[mN/m]との差(Sa−Sb)が−10以上となる高分子及び基板を用い、多孔性フィルム基材を構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液を高分子溶液として基板上へフィルム状に流延したのち凝固液に導き、相転換させることにより、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔性フィルム基材を製造し、耐薬品性高分子化合物を溶解した溶液中に、該多孔性フィルム基材を浸漬するか、前記溶液を前記多孔性フィルム基材に噴霧又は塗布した後、乾燥させることにより、多孔性フィルム基材に耐薬品性高分子化合物を被覆して多孔性フィルムを得る多孔性フィルムの製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、また、上記本発明の多孔性フィルムを製造する方法であって、アミドイミド系ポリマー及びイミド系ポリマーから選択された少なくとも1種の高分子成分を含む高分子溶液を基板上へフィルム状に流延し、相転換法により多孔性フィルム基材を製造するに際し、該多孔性フィルム基材を構成する高分子の表面張力Sa[mN/m]と基板の表面張力Sb[mN/m]との差(Sa−Sb)が−10以上となる高分子及び基板を用い、多孔性フィルム基材を構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液を高分子溶液として基板上へフィルム状に流延したのち凝固液に導き、相転換させることにより、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔性フィルム基材を製造し、耐薬品性高分子化合物の前駆体を溶解した溶液中に、該多孔性フィルム基材を浸漬するか、前記溶液を前記多孔性フィルム基材に噴霧又は塗布した後、乾燥させ、次いで、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線から選択される少なくとも一種の処理を施すことにより、多孔性フィルム基材に耐薬品性高分子化合物を被覆して多孔性フィルムを得る多孔性フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多孔性フィルムによれば、耐薬品性に優れ、均質で優れた空孔特性を有するため、精密濾過、分離濃縮等の膜分離技術に利用できるほか、その空孔を機能性材料で充填することにより、電池用セパレータ、電解コンデンサー、回路用基板等、広範囲な基板材料としての利用が可能である。
本発明の製造方法によれば、このような優れた耐薬品性と空孔特性を併せ持つ多孔性フィルムを簡易な操作で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1図は、フィルム形状の変化の評価試験の説明図(正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多孔性フィルムは、多孔性フィルム基材が、耐薬品性高分子化合物により被覆された構成を有している。すなわち、本発明の多孔性フィルムは、多孔性フィルム基材とその表面を被覆する耐薬品性の被膜により構成されており、耐薬品性を有している。
【0013】
多孔性フィルム基材を構成する材料としては、例えば、アミドイミド系ポリマー、イミド系ポリマー、アミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、セルロース系ポリマー、アクリル系ポリマー、フッ素系ポリマー、オレフィン系ポリマー、アラミド系、ポリイミダゾール系、ポリエーテルイミド系、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール系、ポリフェニレンサルファイド系、液晶性ポリエステル系、ポリアリレート系、ポリエーテルエーテルケトン系、ポリブチレンテレフタレート系などのポリマーが挙げられるがこれらに限定されるものではない。なかでも、アミドイミド系ポリマー、イミド系ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、アクリル系ポリマー、セルロースアセテート等が好適である。これらのポリマーは単独又は2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0014】
本発明において、薬品とは、従来の多孔性フィルムを構成する樹脂を溶解、膨潤、収縮、分解して、多孔性フィルムとしての機能を低下させるものであって、多孔性フィルムの構成樹脂の種類によって異なり一概に言うことは出来ないが、このような薬品の具体例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロルエタン、テトラヒドロフラン(THF)等の強い極性溶媒;アルカリ溶液;酸性溶液;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0015】
アルカリ溶液には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩;トリエチルアミン等のアミン類;アンモニア等のアルカリを溶解した水溶液や有機溶媒が含まれる。酸性溶液には、塩化水素、硫酸、硝酸等の無機酸;酢酸、フタル酸等のカルボン酸を持つ有機酸等の酸を溶解した水溶液や有機溶媒が含まれる。
【0016】
本発明において、耐薬品性を有する多孔性フィルムとは、前記強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品と接触することにより、フィルムが溶解したり、膨潤して変形するなどの変質が全く生じないか、使用目的や用途に影響のない程度に変質を抑制しうるフィルムを意味する。例えば、多孔性フィルムと薬品とが接触する時間が短い用途では、その時間内で変質しない程度の耐薬品性を有していればよい。
【0017】
耐薬品性高分子化合物としては、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品に優れた耐性を有していれば特に制限されないが、例えば、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、アルキド系樹脂、トリアジン系樹脂、フラン系樹脂、不飽ポリエステル、エポキシ系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂などの熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂;ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂、フタル酸系樹脂、マレイン酸系樹脂、飽和ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、キチン、キトサンなどの熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらの高分子化合物は、一種または二種以上混合して使用することができる。また、高分子化合物は、共重合物でもよく、グラフト重合物であってもよい。
【0018】
また、前記耐薬品性高分子化合物は、同時に耐熱性を有する場合が多いため、多孔性フィルム基材と比較して前記高分子化合物で被覆された多孔性フィルムの耐熱性が低下するおそれは少ない。
【0019】
本発明の多孔性フィルムは、上記のような耐薬品性高分子化合物に被覆されているため、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品と接触したり併用しても変質が生じにくく、優れた耐薬品性を発揮できる。
【0020】
本発明における多孔性フィルムの耐薬品性は、例えば、フィルムに薬品を接触させる前と後のフィルムの形状変化(寸法変化率)を指標とすることができる。前記寸法変化率は、フィルム上に各辺の長さが8〜30mmの範囲である直角三角形の頂点を形成する3点を定め、フィルムを薬品に浸漬する前と浸漬した後[又は、浸漬後さらに乾燥した後]においてフィルム上の3点間の距離(a,b,c)が変化した割合を示している。具体的には、薬品浸漬前のフィルム上の3点間の距離(a1,b1,c1)と、フィルムを薬品に例えば2分間浸漬した後[又は、該浸漬後さらに乾燥した後]のフィルム上の3点間の距離(a2,b2,c2[又は、a3,b3,c3])を測定し、式:{(a2[又はa3]−a1)/a1}×100 を用いて算出される。b(b1,b2,b3)及びc(c1,c2,c3)の変化率も同様の方法で算出される。なお、前記変化率の値が+のときはフィルムが膨張(膨潤)したことを、変化率が−のときは収縮したことを示す。本発明の多孔性フィルムは、前記寸法変化率を指標として、例えば±10%以内、好ましくは±7%以内、より好ましくは±4%以内(特に±2%以内)で示される耐薬品性(浸漬後及び乾燥後における3点間の距離の変化率がすべて前記範囲内となるような耐薬品性)を有している。
【0021】
耐薬品性の指標となる他の例として、例えば、イミド基含有ポリマー(アミドイミド系ポリマー、イミド系ポリマー等)からなる多孔性フィルムの耐アルカリ性は、該フィルムにアルカリを接触させる前と後のフィルムの赤外線吸収スペクトル分析におけるイミド基を示す1720及び1780cm-1付近の吸収の変化(ピーク減少率)を指標とすることができる。例えば、1720及び1780cm-1付近の吸収が消失(ピーク減少率が100%)している場合には、ポリマー中のイミド基がアルカリにより加水分解を受けてカルボン酸が生じたことを示し、フィルムが耐アルカリ性を有していないことを意味する。本発明の多孔性フィルムが、イミド基含有ポリマーからなるフィルムである場合には、例えば、1720及び1780cm-1付近の吸収における前記ピーク減少率が50%未満程度で示される耐アルカリ性を有している。
【0022】
多孔性フィルムは、一般に、親水性、親有機溶剤性等の化学的性質;耐熱性、柔軟性、硬度、色、孔径、空孔率、多孔構造、強度等の物理的性質;製造容易性、価格等の経済性等の多様な特性をバランスよく満たしていることが要求される。本発明では、多孔性フィルム基材の表面が耐薬品性に優れる高分子化合物に被覆されているため、多孔性フィルム基材の特性に加えて、耐薬品性に優れる高分子化合物の種類、重合度、該高分子化合物により被覆される厚み等を適宜選択することにより、多孔性フィルムの化学的性質(親水性、親有機溶剤性等)、物理的性質(柔軟性、硬度、色、強度等)を調整することができる。
【0023】
例えば、多孔性フィルムの親水性は、多孔性フィルム基材を被覆している高分子化合物の種類、重合度、塗布厚、及び被覆条件を適宜選択して設定できる。特に、被覆形成時に加熱工程を含む場合には、被膜を構成する高分子化合物中の親水性基が多く残存するように、加熱温度及び時間を適宜設定することにより、多孔性フィルム表面の親水性を向上させることができる。
【0024】
本発明の多孔性フィルムは、連通性を有する微小孔(連続微小孔)が多数存在し、該微小孔の平均孔径(=フィルム表面の平均孔径)は、0.01〜10μmである。微小孔の平均孔径は、好ましくは0.05〜5μmである。サイズが小さすぎる場合には透過性能が劣り、大きすぎる場合は分離濃縮の効率が落ちるなどの不具合がある。また多孔部に機能性材料を充填する場合にはサブミクロン〜ミクロン単位の分解能で充填できることが好ましいことから、上述の平均孔径が好ましく、小さすぎると機能性材料を充填できないなどの不具合が生じたり、一方、大きすぎるとサブミクロン〜ミクロン単位の制御が困難となる。また、フィルム表面の最大孔径は15μm以下が好ましい。
【0025】
多孔性フィルムの厚みは、例えば5〜200μm、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは20〜80μmである。厚みが薄くなりすぎるとフィルムの機械強度が充分でなくなり、一方厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。多孔性フィルムの内部の平均開孔率(空孔率)は、例えば30〜80%、好ましくは40〜80%、さらに好ましくは45〜80%である。空孔率が低すぎると、透過性能が充分でなかったり、機能性材料を充填しても機能が発揮できないことがある。一方、空孔率が高すぎると、機械的強度に劣る可能性がある。また、多孔性フィルムの表面の開孔率(表面開孔率)としては、例えば48%以上(例えば48〜80%)であり、好ましくは60〜80%程度である。表面開孔率が低すぎると透過性能が充分でない場合が生じる他、空孔に機能性材料を充填してもその機能が十分に発揮できないことがあり、高すぎると機械的強度が低下しやすくなる。
【0026】
フィルムに存在する微小孔の連通性は、透気度を表すガーレー値、及び純水透過速度などを指標とすることができる。多孔性フィルムのガーレー値は、例えば0.2〜2000秒/100cc、好ましくは1〜1000秒/100cc、さらに好ましくは1〜500秒/100ccである。数値が大きすぎると、実用上の透過性能が充分でなかったり、機能性材料を充分に充填できないためにその機能が発揮できないことがある。一方、数値が小さすぎると、機械的強度に劣る可能性がある。
【0027】
また、多孔性フィルムの純水透過速度は、3.3×10-9〜1.1×10-7m・sec-1・Pa-1[=20〜700リットル/(m2・min・atm)]であることが好ましく、さらに好ましくは4.9×10-9〜8.2×10-8m・sec-1・Pa-1[=30〜500リットル/(m2・min・atm)]である。純水透過速度が低すぎると、実用上の透過性能が充分でなかったり、機能性材料を充分に充填できないためにその機能が発揮できないことがある。一方、数値が大きすぎると、機械的強度に劣る可能性がある。
【0028】
好ましい多孔性フィルムには、連通性を有する微小孔が多数存在し、該多孔性フィルムの厚みが5〜200μm、微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜80%、微小孔の連通性を示す透気度がガーレー値で0.2〜29秒/100cc(好ましくは1〜25秒/100cc、さらに好ましくは1〜18秒/100cc)である多孔性フィルムが含まれる。
【0029】
上記構成を有する本発明の多孔性フィルムは、多孔性フィルム基材が有する特性を損なうことなく、該特性をそのまま保持している。例えば、多孔性フィルム基材が有する空孔率、孔径、ガーレー値、純粋透過速度等の物性値と、本発明の多孔性フィルムが有するこれらの物性値とは、ほぼ同程度の値を示す。
【0030】
本発明の多孔性フィルムは、耐薬品性に優れ、しかも均質な微小孔を有するため、精密濾過、分離濃縮等の膜分離技術や、その空孔特性をそのまま利用したり、または空孔を機能性材料で充填することにより、電池用セパレーター、電解コンデンサー、回路用基板等の用途として、より広い分野で利用することができる。
【0031】
本発明の多孔性フィルムの製造方法においては、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μm(好ましくは0.05〜5μm)である多孔性フィルム基材が用いられる。
【0032】
本発明における多孔性フィルム基材は、上記の他に、多孔性フィルムに求められる特性を保持していることが好ましい。具体的には、好ましい多孔性フィルム基材は、上記多孔性フィルム基材を構成する材料からなり、微小孔の平均孔径が、フィルム表面の最大孔径が15μm以下、内部の平均開孔率(空孔率)が、例えば30〜80%(好ましくは40〜80%)、基材の表面の開孔率(表面開孔率)が、例えば48%以上(例えば48〜80%、好ましくは60〜80%)程度である。これらすべての特性を同時に満たす必要はなく、いずれかの特性を満たしていればよい。多孔性フィルム基材の厚みは、例えば5〜200μm、好ましくは10〜100μmである。
【0033】
このような多孔性フィルム基材は、例えば、(i)多孔性フィルム基材を構成する材料となるポリマーを含む溶液を基板上へフィルム状に流延し、相転換法によりフィルムを得る方法;(ii)前記ポリマー溶液を基板上へフィルム状に流延し、少なくとも片面に溶媒置換速度調整材を積層し、該溶媒置換速度調整材を介して凝固溶媒に接触させることによりフィルムの析出、多孔質化を行う方法(例えば、特開2000−319442号公報、特開2001−67643号公報参照);(iii)多孔性フィルム基材を構成する材料となるポリマー及び該ポリマーの良溶媒と非溶媒とからなる溶液を基板上へ流延し、次いでそれを凝固溶媒中に浸漬することでフィルムの析出、多孔質化を行う方法(例えば、特開2001−145826号公報参照)等により製造できる。なお、多孔性フィルム基材を構成する材料となるポリマーの代わりに、該ポリマーの単量体成分(原料)やそのオリゴマーなどの前駆体を用いてもよい。
【0034】
上記の方法により成形したフィルムには、さらに、熱、可視光線、紫外線、電子線、放射線等を用いて架橋処理を施してもよい。例えば、ポリイミド系前駆体を用いて成形したフィルムには、さらに熱イミド化あるいは化学イミド化等を施すことにより多孔性ポリイミドフィルム基材を得ることができる。アミドイミド系ポリマーを用いて成形したフィルムは熱架橋を施すことができる。
【0035】
本発明においては、上記方法のなかでも、方法(i)により得られる多孔性フィルム基材が好ましく利用される。
【0036】
前記方法(i)において、前記多孔性フィルム基材を構成する材料となるポリマーとしては、水溶性の極性溶媒に溶解性を有し相転換法によりフィルムを形成しうるものが好ましく、具体的には、アミドイミド系ポリマー、イミド系ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、アクリル系ポリマー、セルロースアセテート等及びこれらの混合物が挙げられる。
【0037】
好ましい多孔性フィルム基材としては、例えば、耐熱性があり、熱成形が可能で、機械的強度、耐薬品性、電気特性に優れているアミドイミド系ポリマー又はイミド系ポリマーを主成分とするフィルム状成形物が挙げられる。アミドイミド系ポリマーは、通常無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応、又は無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応により重合した後、イミド化することによって製造することができる。イミド系ポリマーは、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応によりポリアミック酸を得て、それをさらにイミド化することにより製造することができる。
【0038】
アミドイミド系ポリマーは上述の方法により得ることができる。多孔性フィルム基材をイミド系ポリマーで構成する場合には、イミド化すると溶解性が悪くなるために、まずポリアミック酸の段階で多孔膜を形成してからイミド化(熱イミド化、化学イミド化等)されることが多い。水溶性ポリマーや水の添加は、膜構造をスポンジ状に多孔化するために
効果的である。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、多糖類等やその誘導体、及びこれらの混合物などが挙げられる。水溶性ポリマーの分子量は好ましくは5000以上、特に好ましくは1万以上(例えば、1万〜20万程度)である。アミドイミド系ポリマー又はポリアミック酸の良溶媒としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、NMP/キシレン系混合溶媒等が挙げられ、使用するポリマーの化学骨格に応じて溶解性を有するものを使用することができる。
【0039】
流延に付すポリマー溶液としては、例えば、多孔性フィルムを構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液などが好ましい。水溶性ポリマーは、上記好ましい多孔性フィルム基材の製造に用いたものが挙げられる。多孔化のためには、水溶性ポリマーの分子量は1000以上が良く、好ましくは5000以上、特に好ましくは1万以上(例えば、1万〜20万程度)である。水溶性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド,N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン及びこれらの混合物などが挙げられ、前記高分子成分として使用するポリマーの化学骨格に応じて溶解性を有するもの(高分子成分の良溶媒)を使用することができる。
【0040】
前記ポリマー溶液は、基材の主成分となるポリマー(高分子成分)の濃度が低すぎるとフィルムの強度が弱くなり、また高すぎると空孔率が小さくなる。該ポリマー溶液を構成する水溶性ポリマーは、フィルム内部を均質なスポンジ状の多孔構造にするために添加するが、この際に濃度が低すぎるとフィルム内部に10μmを超えるような巨大ボイドが発生し均質性が低下し、濃度が高すぎると溶解性が悪くなる。水の添加量はボイド径の調整に用いることができ、添加量を増やすことで径を大きくすることが可能となる。
【0041】
基板としては、例えば、ガラス板;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系樹脂、塩化ビニル樹脂、その他の樹脂からなるプラスチックシート;ステンレス板、アルミニウム板等の金属板などが挙げられる。なお、表面素材と内部素材とを違うもので組み合わせた複合板でもよい。
【0042】
前記ポリマー溶液をフィルム状に流延する際の好ましい条件としては、相対湿度90〜100%、温度30〜80℃であり、特に好ましい条件は、相対湿度約100%(例えば、95〜100%)、温度40〜70℃である。空気中の水分量がこれよりも少ない場合は、表面の開孔率が充分でなくなる不具合がある。
【0043】
ポリマー溶液をフィルム状に流延する際に、該フィルムを相対湿度70〜100%、温度15〜90℃からなる雰囲気下に0.2〜15分間保持した後、高分子成分の非溶剤からなる凝固液に導くのが望ましい。流延後のフィルムを上記条件におくことにより、特に、該フィルムの基板側表面の反対の表面(「フィルムの空気側表面」と称する場合がある)の開孔率を向上させることができる。開孔率が向上する理由としては、加湿下に置くことにより水分がフィルム表面から内部へと侵入し、ポリマー溶液の相分離を効率的に促進するためと考えられる。
【0044】
相転換法に用いる凝固液としては、高分子成分を凝固させる溶剤であればよく、高分子成分として使用するポリマーの種類によって適宜選択されるが、例えば、アミドイミド系ポリマー又はポリアミック酸を凝固させる溶剤であればよく、例えば、水;メタノール、エタノール等の1価アルコール、グリセリン等の多価アルコールなどのアルコール;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子;これらの混合物などの水溶性凝固液などが使用できる。
【0045】
方法(i)の好ましい態様としては、例えば、アミドイミド系ポリマー又はポリアミック酸8〜25重量%、分子量1000以上の水溶性ポリマー10〜40重量%、水0〜10重量%、アミドイミド系ポリマー又はポリアミック酸の良溶媒30〜82重量%からなるポリマー溶液をフィルム状に流延する際に、該フィルムを相対湿度70〜100%、温度15〜90℃からなる雰囲気下に0.2〜15分間保持した後、アミドイミド系ポリマー又はポリアミック酸の非溶剤を含む水溶性凝固液に導き(接触させ)、ポリアミック酸の場合にはさらにイミド化工程を経る。
【0046】
上記方法によれば、例えば、連通性を有する微小孔が多数存在するアミドイミド系ポリマー又はイミド系ポリマーで構成された多孔性フィルム基材であって、該多孔性フィルム基材の微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜80%、透気度がガーレー値で0.2〜29秒/100cc、多孔性フィルム基材の厚みが5〜200μmであることを特徴とする多孔性フィルム基材を製造できる。
【0047】
前記ガーレー値は、0.2〜29秒/100cc、好ましくは1〜25秒/100cc、さらに好ましくは1〜18秒/100ccである。これよりも数値が大きいと、実用上の透過性能が充分でなかったり、機能性材料を充分に充填できないためにその機能が発揮できないことがある。一方、数値がこれよりも小さいと、機械的強度に劣る可能性がある。また、純水透過速度は、3.3×10-9〜1.1×10-7m・sec-1・Pa-1[=20〜700リットル/(m2・min・atm)]であることが好ましく、さらに好ましくは4.9×10-9〜8.2×10-8m・sec-1・Pa-1[=30〜500リットル/(m2・min・atm)]である。これよりも純水透過速度が低いと、実用上の透過性能が充分でなかったり、機能性材料を充分に充填できないためにその機能が発揮できないことがある。一方、数値がこれよりも大きいと、機械的強度に劣る可能性がある。
【0048】
方法(i)の他の好ましい態様としては、多孔性フィルム基材を構成する高分子の表面張力Sa[mN/m(=dyn/cm)]と基板の表面張力Sb[mN/m(=dyn/cm)]との差(Sa−Sb)が−10以上となる高分子及び基板を用いて、ポリマー溶液を基板上へフィルム状に流延し、相転換法によりフィルムを得る。上記方法によれば、高分子成分を含むポリマー溶液が基板上で良好な相分離構造をとるため、基板側表面の開孔率が向上し、均質な微小孔が形成された多孔性フィルム基材を簡便に得ることができる。
【0049】
上記方法では、(Sa−Sb)が−10以上となる高分子と基板とを組み合わせて用いる。前記(Sa−Sb)が−10未満の場合には、高分子と基板の界面に高分子が凝集して緻密相が形成されるため、表面開孔率が低く実用に耐えないフィルムとなる。前記(Sa−Sb)が−10以上となる高分子と基板とを用いるため、流延時には該高分子を含むポリマー溶液が該基板上で海−島構造を有する相分離を生じ、これがフィルムの微小孔の発生源となって、特に、フィルムの基板と接触している側の表面(「フィルムの基板側表面」と称する場合がある)の開孔率が高い多孔性フィルム基材を得ることができる。特に、前記(Sa−Sb)が0を超える場合には、相転換法により凝集した高分子が基板の表面を濡らすことができずはじかれるため、より効果的に開孔することができる点で好ましく、より好ましくは3以上、さらに好ましくは7以上であり、13以上が最も好適である。(Sa−Sb)の値の上限は特に制限されず、例えば100程度であってもよい。
【0050】
上記方法によれば、例えば、連通性を有する微小孔が多数存在する多孔性フィルム基材であって、該多孔性フィルム基材の両表面について、表面の平均孔径が0.01〜10μm、表面の平均孔径Aと内部の平均孔径Bとの比率A/Bが0.3〜3、且つ表面の平均開孔率Cと内部の平均開孔率Dとの比率C/Dが0.7〜1.5であり、多孔性フィルム基材の厚みが5〜200μmであることを特徴とする多孔性フィルム基材を製造できる。このような均質で優れた空孔特性を有するため、本発明の多孔質フィルム基材として好ましい。
前記比率A/B及びC/Dは、好ましくはA/Bが0.5〜2であってC/Dが0.75〜1.4、より好ましくはA/Bが0.6〜1.5であってC/Dが0.8〜1.3である。これらの比率が小さすぎる場合は、透過性能が劣ったり、機能性材料を十分に充填できない場合がある。また、大きすぎる場合には、分離特性に劣ったり、機能性材料の充填が不均一になるなどの不都合が発生する可能性がある。
【0051】
また、上記方法によれば、連通性を有する微小孔が多数存在する多孔性フィルム基材であって、該フィルムの両面の平均孔径A1,A2が何れも0.01〜10μm、多孔性フィルム基材の両面の平均開孔率C1,C2が何れも48%以上であり、且つ一方の表面の平均孔径A1と他方の表面の平均孔径A2との比率A1/A2が0.3〜3、一方の表面の平均開孔率C1と他方の表面の平均開孔率C2との比率C1/C2が0.7〜1.5であり、多孔性フィルム基材の厚みが5〜200μmであることを特徴とする多孔性フィルム基材を製造することもできる。
【0052】
前記比率A1/A2及びC1/C2は、好ましくはA1/A2が0.5〜2であってC1/C2が0.75〜1.4、より好ましくはA1/A2が0.6〜1.5であってC1/C2が0.8〜1.3である。これらの比率が小さすぎる場合は、透過性能が劣ったり、機能性材料を十分に充填できない場合がある。また、大きすぎる場合には、分離特性に劣ったり、機能性材料の充填が不均一になるなどの不都合が発生する可能性がある。
【0053】
前記方法(ii)における前記溶媒置換速度調整材としては、前記フィルム状に流延したポリマー溶液を凝固溶媒と接触させてフィルムを析出させる際に、ポリマーの溶媒及び凝固溶媒が適切な速度で透過することができる程度の透過性を有するもの、例えば、透気度が50〜1000秒/100cc(好ましくは250〜800秒/100cc)、膜厚が5〜500μm(好ましくは10〜100μm)、フィルム断面方向に貫通した0.01〜10μm(好ましくは0.03〜1μm)の孔が十分な密度で分散しているものが好ましく用いられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロース、テフロン(登録商標)などを材料とした不織布或いは多孔膜などが用いられる。
【0054】
ポリマー溶液をフィルム状に流延して溶媒置換速度調整材を積層させる方法としては、特に制限はないが、ポリマー溶液を基板上に流延した後、流延物表面を溶媒置換速度調整材で覆う方法、ポリマー溶液をスプレー法あるいはドクターブレード法を用いて溶液置換速度調整材上に薄くコーティングする方法、ポリマー溶液をTダイから押し出して溶媒置換速度調整材間に挟み込み、両面に溶媒置換速度調整材を配した3層積層体を得る方法などの方法を用いることができる。
【0055】
凝固溶媒としては、前記方法(i)の相転換法に用いる凝固液として例示のものを利用できる。なかでも、方法(ii)における凝固溶媒としては、多孔質構造が均一となるため、フィルム基材を構成するポリマーの非溶媒と溶媒からなる混合溶媒が好適に用いられる。
【0056】
方法(ii)において、ポリマーとしてポリイミド系前駆体を用いる場合には、多孔質化した後、溶剤置換速度調整材を取り除いたフィルムについて、熱イミド化あるいは化学イミド化等が施される。
【0057】
好ましい多孔性フィルム基材、ポリマー溶液及び基板としては、前記方法(i)に例示のものを利用できる。
【0058】
なお、前記方法(ii)としては、例えば、特開2000−319442号公報、及び特開2001−67643号公報に記載の成分及び方法を利用できる。
【0059】
上記方法によれば、例えば、連通性を有する微小孔が多数存在する多孔性フィルム基材であって、該多孔性フィルム基材の平均孔径が0.01〜5μm、空孔率15〜80%(好ましくは30〜80%)、透気度が30秒/100cc〜2000秒/100ccであり、多孔性フィルム基材の厚みが5〜100μmであることを特徴とする多孔性フィルム基材を製造できる。
【0060】
前記方法(iii)における多孔性フィルム基材を構成する材料となるポリマーの良溶媒及び非溶媒としては、ポリマーの種類に応じて適宜選択して利用できる。緻密層が形成されにくくするため、好ましくは、溶解度パラメータの差が5MPa1/2以下となる良溶媒と非溶媒とを組み合わせて用いられる。溶媒の溶解度パラメータは公知の文献(J. Brandrup. E. H. Immergut, E. A. Grulke, Polymer Handbook, 4th ed., John Wiley&Sons, New York, 1999)などにより容易に知ることができる。
【0061】
前記ポリマー及び該ポリマーの良溶媒と非溶媒からなる溶液としては、例えば、ポリマー0.3〜60重量%、及び良溶媒60〜95重量%と非溶媒5〜40重量%とからなる混合溶媒40〜99.7重量%からなる溶液が用いられる。ポリマーの割合が0.3重量%未満では多孔膜を作製した際のフィルム強度が低下しやすく、60重量%より多いとポリマーが均一な溶液になりにくい。また、非溶媒の割合が5重量%未満では非溶媒を添加した効果が失われて緻密層が形成されやすく、40重量%を超えると均一な溶液を調製しにくくなる。
【0062】
前記ポリマー及び該ポリマーの良溶媒と非溶媒とからなる溶液をフィルム状に流延して流延膜を得る方法としては、前記溶液を基材上或いは可動式のベルト上に流延する方法、前記溶液をT型ダイスから押し出す方法などを用いることができる。
【0063】
好ましい多孔性フィルム基材、基板、凝固溶媒としては、前記方法(i)又は(ii)に例示のものを利用できる。
【0064】
なお、前記方法(iii)としては、例えば、特開2001−145826号公報に記載の成分及び方法を利用できる。
【0065】
上記方法によれば、例えば、連通性を有する微小孔(貫通孔)が多数存在する多孔性フィルム基材であって、該多孔性フィルム基材の平均孔径が0.01〜5μm、最大孔径10μm以下、空孔率15〜80%、透気度が30秒/100cc〜2000秒/100ccであり、多孔性フィルム基材の厚みが5〜100μmであることを特徴とする多孔性フィルム基材を製造できる。
【0066】
本発明における多孔性フィルム基材の微小孔の径、空孔率、透気度、開孔率は、上記のように、用いる基板、ポリマー溶液の構成成分の種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間などを適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【0067】
本発明の多孔性フィルムの製造方法は、耐薬品性高分子化合物若しくはその前駆体を溶解した溶液中に、上記の多孔性フィルム基材を浸漬するか、前記溶液を上記多孔性フィルム基材に噴霧又は塗布した後、乾燥させて耐薬品性高分子化合物により被覆された多孔性フィルムを得ることを特徴としている。前記製造方法において、耐薬品性高分子化合物の前駆体を用いた場合には、該前駆体を溶解した溶液を前記基材へ塗布等を行い乾燥させた後、さらに、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線から選択される少なくとも一種の処理を施す工程が設けられる。
【0068】
耐薬品性高分子化合物の前駆体としては、上記の耐薬品性高分子化合物を構成する単量体成分(原料)、単量体成分がある程度付加、重合反応したオリゴマー(反応中間体)、及びこれらの混合物等を利用できる。高分子化合物を構成する単量体成分の具体例としては、フェノール系樹脂を構成するフェノール誘導体とホルムアルデヒド、キシレン系樹脂を構成するキシレンとホルムアルデヒド、尿素系樹脂を構成する尿素誘導体とホルムアルデヒド、メラミン系樹脂を構成するメラミン誘導体とホルムアルデヒド、ベンゾグアナミン系樹脂を構成するベンゾグアナミン誘導体とホルムアルデヒド、ポリイミド系樹脂を構成する芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン、エポキシ系樹脂を構成するエポキシ基含有化合物、ベンゾオキサジン系樹脂を構成するベンゾオキサジンモノマー、ポリウレタン系樹脂を構成する多価アルコールとジイソシアネート等が挙げられる。
【0069】
フェノール系樹脂を構成するフェノール誘導体としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、アルキルフェノール、p−フェニルフェノール等が挙げられる。多孔性フィルム基材への被膜形成に用いる前駆体としては、単量体を直接用いることもできるが、後工程の架橋反応の簡便性から、一般的には単量体をある程度付加又は重合反応させてオリゴマー化又は樹脂化したものを用いる。
【0070】
フェノール系樹脂において、その原料となるフェノール誘導体とホルムアルデヒドから形成されるオリゴマーとして、アルカリ触媒、フェノール誘導体過剰で反応させて得られるオリゴマーはレゾール、酸触媒、ホルムアルデヒド過剰で反応させて得られるオリゴマーはノボラックと呼ばれる。通常、レゾールは、熱、酸、又は加圧により硬化し、ノボラックは、ヘキサミンやエポキシ樹脂等の硬化剤と混合後、加熱により硬化する。レゾールとノボラックを混合、加熱して硬化させることもできる。
【0071】
レゾール及びノボラックは、液体及び固体のいずれも存在するが、一般的に、レゾールは液体、ノボラックは固体の形態で利用される。また、レゾールには、キシレン変性品、メラミン変性品、フラン変性品、エーテル変性品等の多種多様な変性品が存在し、このようなレゾール又はその変性品は、アルコール、アセトン、水等の溶剤に溶解した溶液として市販されている。レゾールの市販品として、例えば、住友ベークライト株式会社より、一般的なグレードの「スミライトレジンPR−9480」、可撓性、密着性、柔軟性等に優れた「スミライトレジンPR−50626」、耐水性、耐アルカリ性等に優れた「スミライトレジンPR−912」等があり、用途に応じて選択できる。
【0072】
なお、フェノール系樹脂は、中性の水に対して撥水性であるが、アルカリ性水溶液中ではフェノール系水酸基がイオン化することにより親水性を示すという興味深い特徴がある。フェノール系樹脂の前駆体として用いられるレゾールには、架橋点であると同時に親水性基であるメチロール基が存在するため、架橋時の加熱時間を短くしてメチロール基を多く残すことにより、親水性に優れたフェノール系樹脂を形成することができる。このため、優れた耐薬品性を有するとともに親水性表面をもつ多孔性フィルムを得ることができる。
【0073】
キシレン樹脂は、一般的に耐水性、耐アルカリ性、可撓性、密着性等に優れている。キシレン樹脂も多種の変性品が存在し、例えば、アルキルフェノール変性品、ノボラックタイプ、レゾールタイプ、ポリオールタイプ、エポキシ変性品、エチレンオキシド付加変性品等が知られている。レゾールタイプのキシレン樹脂はレゾールタイプのフェノール樹脂と同様な方法で使用することができ、市販品として、フドー株式会社製のレゾールタイプのキシレン樹脂溶液(商品名:ニカノールGR−L)等を使用できる。ポリオールタイプのキシレン樹脂は加熱によりアルコールの脱水縮合を起こし、硬化することができ、市販品として、フドー株式会社製のポリオールタイプのキシレン樹脂(商品名:ニカノールK−140)等を使用できる。
【0074】
エポキシ系樹脂を構成するエポキシ基含有化合物には、低分子量のものから高分子量のものまで非常に多種のものが存在し、一分子に含まれるエポキシ基の数は1〜数十個に及ぶものもある。代表的なエポキシ基含有化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、その他のフェノール誘導体型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂(例えば、グリセリン型エポキシ樹脂、エチレングリコール型、ジエチレングリコール型、ポリエチレングリコール型、プロピレングリコール型、ジプロピレングリコール型、ポリプロピレングリコール型等)、ポリオレフィン型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0075】
エポキシ系樹脂は、エポキシ基含有化合物を単独で加熱して重合させるか、又はカチオン重合触媒等を用いて重合させることにより得られる。カチオン重合触媒としては、例えば、熱カチオン重合触媒、光カチオン重合触媒等が挙げられる。熱カチオン重合触媒には、例えばベンジルスルホニウム塩等を、光カチオン重合触媒には、例えばトリアリールスルホニウム塩、ジアリールヨードニウム塩等を利用できる。各種スルホニウム塩としては、三新化学工業株式会社製「サンエイドSIシリーズ」等の市販品を利用できる。
【0076】
エポキシ系樹脂は、上記エポキシ基含有化合物単独、又はカチオン重合触媒等を用いた重合反応の他、硬化剤を用いた硬化反応により形成することもできる。硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、ポリアミド樹脂、芳香族アミン、アミン塩、有機酸及びその無水物、イソシアネート、尿素、メラミン、フェノール、フェノール樹脂、ジシアンジアミド、アルコール等が挙げられる。硬化反応において、イミダゾール誘導体等の触媒を用いてもよい。なお、硬化剤は必ずしも使用しなくてもよい。
【0077】
エポキシ樹脂は、構造中に水酸基を持つか、又は水酸基を生成することができるため、多孔性フィルムを被覆した表面を親水性にすることができる。エポキシ樹脂中に水酸基を生成させる方法としては、エポキシ基含有化合物単独による重合反応、エポキシ基含有化合物と硬化剤との反応、エポキシ基の単純な開環等により生成する。このように水酸基を生成させる多くの方法が存在するので、被覆表面を親水性にすることもできる。
【0078】
ベンゾオキサジン系樹脂は、ベンゾオキサジンモノマー単独で重合することにより得ることができる他、フェノール類、有機酸、エポキシ樹脂等を併用してもよい。
【0079】
耐薬品性高分子化合物若しくはその前駆体は、溶媒に溶解した溶液の状態で使用される。溶媒としては、使用する高分子化合物やその前駆体が溶解するものであれば特に制限されないが、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロルエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、キシレン、水及びこれらの混合物などを利用できる。なかでも、被膜形成後の乾燥における経済性の点で揮発しやすく、しかも乾燥後の膜の均一性に優れる溶媒が好ましい。
【0080】
耐薬品性高分子化合物若しくはその前駆体を溶媒に溶解した溶液を用いて、浸漬、噴霧又は塗布等の被膜形成手段により、多孔性フィルム基材に耐薬品性高分子化合物若しくはその前駆体により被膜が形成される。被膜形成手段としては、前記溶液に基材を浸漬する方法、前記溶液を基材に噴霧又は塗布する方法が用いられるが、他の方法を併用してもよい。被膜形成は、一回、又は複数回に分けて行ってもよく、高分子化合物や前駆体の種類を変えて複数回行うこともできる。
【0081】
被膜形成に用いる溶液は、例えば、前記高分子化合物若しくはその前駆体0.1〜40重量%、溶媒99.9〜60重量%程度で構成され、好ましくは、前者0.2〜20重量%、後者99.8〜80重量%程度、より好ましくは、前者0.5〜10重量%、後者99.5〜90重量%程度で構成されている。前者の濃度が低すぎると形成される層が薄くなり耐薬品性の効果が得られにくく、被膜にむらが生じやすい。また、前者の濃度が高すぎると多孔性フィルムの空孔率の低下や、溶液粘度の上昇による作業性の低下が生じやすい。
【0082】
被膜形成後、乾燥することにより、多孔性フィルム基材上に、耐薬品性高分子化合物若しくはその前駆体による被膜を形成することができる。乾燥は、自然乾燥でもよく、加熱やブローによる強制乾燥でもよい。
【0083】
耐薬品性高分子化合物の付着量は、多孔性フィルム基材の多孔構造が維持されていれば特に制限されないが、多孔性フィルムに対して、例えば0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは0.3〜30重量%程度である。耐薬品性高分子化合物の付着量が多すぎると微小孔が塞がれたり、微小孔の連通性が悪くなったりするおそれがある。逆に、耐薬品性高分子化合物の付着量が少なすぎると十分に多孔性フィルム基材表面を覆えなくなったり、塗布むらが生じるおそれがある。
【0084】
上記方法により、多孔性フィルム基材上に耐薬品性高分子化合物若しくはその前駆体による被膜を形成した後、さらに、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線から選択される少なくとも一種の処理を施してもよい。前記処理により、被膜を構成する前駆体の重合、架橋、硬化等が進行して高分子化合物を形成し、被膜が高分子化合物で構成されている場合には架橋や硬化等が進行し耐薬品性が一層向上し、より優れた耐薬品性を有する多孔性フィルムが得られる。
【0085】
例えば、前記エポキシ系樹脂を、カチオン重合触媒等を用いたエポキシ基含有化合物の重合により形成する場合、該カチオン重合触媒は紫外線照射によって触媒能が亢進されて、エポキシ樹脂を硬化することができる。
【0086】
熱処理時の温度は、室温〜300℃程度の広範囲から選択することができる。加熱時間は特に限定されないが、好ましい硬化状態に応じて適宜調整される。加熱条件は、生産性、被覆される多孔性フィルムの物性等を考慮して適宜設定される。
【0087】
本発明の多孔性フィルムの製造方法においては、製造容易性の観点から、まず製造の容易な多孔性フィルムを製造しておき、所望の性質を持つ高分子で被覆することが好ましく、経済性の点では、耐薬品性高分子化合物が高価である場合には、低価格の材料からなる多孔性フィルム基材を使用して、全体のコストダウンが図られる。
【0088】
本発明の多孔性フィルムの製造方法によれば、耐薬品性に優れ、しかも均質な微小孔が形成された多孔性フィルムを容易に得ることができる。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、調製例1におけるフィルムの平均孔径及び空孔率は以下の方法で算出した。これらの平均孔径及び空孔率は、電子顕微鏡写真の最も手前に見えている微小孔のみを対象として求められており、写真奥に見えている微小孔は対象外とした。
【0090】
平均孔径
電子顕微鏡写真から、フィルム表面の任意の30点以上の孔についてその面積を測定し、その平均値を平均孔面積Saveとした。孔が真円であると仮定し、下記式を用いて平均孔面積から孔径に換算した値を平均孔径とした。ここでπは円周率を表す。
表面の平均孔径[μm]=2×(Save/π)1/2
【0091】
空孔率
フィルムの内部の空孔率は下記式より算出した。Vはフィルムの体積[cm3]、Wはフィルムの重量[g]、ρはフィルム素材の密度[g/cm3]を示す。ポリアミドイミドの密度は1.45[g/cm3]とした。
空孔率[%]=100−100×W/(ρ・V)
【0092】
透気度
YOSHIMITSU社製のGurley's Densometerを用い、JIS P8117に準じて測定した。但し、測定面積が標準の1/10の装置を使用したので、JIS P8117の付属書1に準じて標準のガーレー値に換算して求めた。
【0093】
純水透過速度
Amicon社製のSTIRRED ULTRAFILTRATION CELLS MODELS 8200の平膜用濾過器を用いて評価した。透過面積は28.7cm2であった。なお、評価の際に、透過側には濾紙をスペーサー代わりに配置し、透過側の抵抗をできるだけ排除した。圧力は0.5kg/cm2で測定し換算した。測定温度は25℃である。
【0094】
調製例1
多孔性フィルム基材1の製造
東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」(アミドイミド系ポリマー、ポリマー単体の表面張力42mN/m(=dyn/cm):測定値、固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)を使用し、この溶液100重量部に対し、ポリビニルピロリドン(分子量5万)を30重量部を加えて製膜用の原液とした。この原液を25℃とし、フィルムアプリケーターを使用して帝人デュポン社製PETシート(Sタイプ、表面張力39mN/m(=dyn/cm):測定値)製の基板上にキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで乾燥する相転換法によって多孔性フィルム基材(多孔性シート)を得た。この操作ではキャスト時のフィルムアプリケーターとPETシート基板とのギャップは127μmとし、得られたフィルムの厚みは約50μmとなった。
得られたフィルムの膜構造を観察したところ、キャスト時に基板と接触していたフィルム表面(フィルムの基板側表面)に存在する孔の平均孔径は約0.9μm、キャスト時に基板と接触していなかったフィルム表面(フィルムの空気側表面)に存在する孔の平均孔径は約1.1μm、フィルム内部はほぼ均質で、全域に亘って連通性を持つ微小孔が存在していた。また、フィルムの内部の空孔率は70%であった。透過性能を測定したところ、ガーレー透気度で9.5秒、純水透過速度で9.8×10-9m・sec-1・Pa-1[=60リットル/(m2・min・atm at 25℃)]という優れた性能を示した。
【0095】
調製例2
多孔性フィルム基材2の製造
調製例1において、ポリビニルピロリドン(分子量5万)を33.3重量部用いた点以外は調製例1と同様の操作を行うことにより多孔性フィルム基材2(厚み約50μm)を得た。
得られたフィルムの膜構造を観察したところ、フィルムの基板側表面に存在する孔の平均孔径は約0.5μm、フィルムの空気側表面に存在する孔の平均孔径は約0.6μm、フィルム内部はほぼ均質で、全域に亘って連通性を持つ微小孔が存在していた。また、フィルムの内部の空孔率は70%であった。
【0096】
調整例3
多孔性フィルム基材3の製造
3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(s−BPDA)と4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)とを、s−BPDAに対するDADEのモル比が0.994となる割合で、両者を合計したモノマー成分濃度が18重量%となるようにNMPに溶解し、40℃で6時間重合を行ってポリイミド前駆体溶液を調製した。このポリイミド前駆体溶液100重量部に対し、ポリビニルピロリドン(分子量5万)を33.3重量部を加えて製膜用の原液とした。この原液を25℃とし、フィルムアプリケーターを使用してガラス板上にキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に8分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで乾燥する相転換法によってポリイミド前駆体多孔性フィルム基材(多孔性シート)を得た。この操作ではキャスト時のフィルムアプリケーターとガラス板とのギャップは127μmとし、得られたフィルムの厚みは約50μmとなった。
得られたフィルムはSUS製のプレート上にテープで固定した状態で、大気中にて300℃で20分間熱処理を行って、ポリイミド多孔性フィルム基材を得た。
得られたフィルムの膜構造を観察したところ、キャスト時にガラス板と接触していたフィルム表面(フィルムのガラス板側表面)に存在する孔の平均孔径は約0.5μm、キャスト時にガラス板と接触していなかったフィルム表面(フィルムの空気側表面)に存在する孔の平均孔径は約0.5μm、フィルム内部はほぼ均質で、全域に亘って連通性を持つ微小孔が存在していた。また、ポリイミドの密度を1.39g/cm3として計算したフィルムの内部の空孔率は71%であった。
【0097】
実施例1
住友ベークライト株式会社製フェノール樹脂溶液(商品名:スミライトレジンPR−9480)をメタノールで希釈し、フェノール樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性フィルム基材1(多孔性シート)を上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で5分間加熱してフェノール樹脂を硬化させた。
【0098】
実施例2
住友ベークライト株式会社製フェノール樹脂溶液(商品名:スミライトレジンPR−9480)をメタノールで希釈し、フェノール樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で10分間加熱してフェノール樹脂を硬化させた。
【0099】
実施例3
住友ベークライト株式会社製フェノール樹脂溶液(商品名:スミライトレジンPR−9480)をメタノールで希釈し、フェノール樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で20分間加熱してフェノール樹脂を硬化させた。
【0100】
実施例4
住友ベークライト株式会社製フェノール樹脂溶液(商品名:スミライトレジンPR−5062)をメタノールで希釈し、フェノール樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で20分間加熱してフェノール樹脂を硬化させた。
【0101】
実施例5
住友ベークライト株式会社製クレゾール樹脂溶液(商品名:スミライトレジンPR−912)をメタノールで希釈し、クレゾール樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で20分間加熱してクレゾール樹脂を硬化させた。
【0102】
実施例6
フドー株式会社製キシレン樹脂溶液(商品名:ニカノールGR−L)をメタノールで希釈し、キシレン樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で40分間加熱してクレゾール樹脂を硬化させた。
【0103】
実施例7
フドー株式会社製ポリオールタイプのキシレン樹脂溶液(商品名:ニカノールK−140)をキシレンで希釈し、キシレン樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してキシレン樹脂を硬化させた。
【0104】
実施例8
丸善石油化学株式会社製ポリパラビニルフェノール(商品名:マルカリンカ−M)0.39部とダイセル化学工業株式会社製脂環式エポキシ樹脂(商品名:EHPE−3150)0.61部をメタノールで希釈し、ポリパラビニルフェノール/脂環式エポキシ樹脂/溶剤が0.39重量部/0.61重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してポリパラビニルフェノール/脂環式エポキシ樹脂を硬化させた。
【0105】
実施例9
東都化成株式会社製ノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN−701)をキシレンで希釈し、ノボラック型エポキシ樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してノボラック型エポキシ樹脂を硬化させた。
【0106】
実施例10
東都化成株式会社製ノボラック型エポキシ樹脂(商品名YDCN−701)をキシレンで希釈した。さらに、カチオン重合開始剤(商品名:サンエイドSl−100L)を添加し、ノボラック型エポキシ樹脂/カチオン重合開始剤/溶剤が1重量部/0.02重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してノボラック型エポキシ樹脂を硬化させた。
【0107】
実施例11
東都化成株式会社製BPA型エポキシ樹脂(商品名:YD−128)をキシレンで希釈し、BPA型エポキシ樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してBPA型エポキシ樹脂を硬化させた。
【0108】
実施例12
旭硝子株式会社製塗料用フッ素樹脂(商品名:ルミフロンLF−200)と日本ポリウレタン工業株式会社製ポリイソシアネート化合物(商品名:コロネートHX)をキシレンで希釈し、フッ素樹脂/ポリイソシアネート化合物/溶剤が0.86重量部/0.14重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、120℃の温度槽中で60分間加熱してフッ素樹脂/ポリイソシアネート化合物を硬化させた。
【0109】
実施例13
株式会社クラレ製エチレン−ビニルアルコール共重合体(商品名:エバールF101)(エチレン比率32モル%、Ml=1.6g/10min.at190℃,2160g)を75℃のn−プロパノール/水=65重量部/35重量部の溶媒に溶解させた。エチレン−ビニルアルコール共重合体の固形分濃度は5重量%とした。この溶液に、架橋剤としてナガセケムテックス株式会社製エポキシ化合物(商品名デコナールEX810)をエチレン−ビニルアルコール共重合体に対して20重量%となるように添加し、塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを上記塗布液に2分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートを100μmのテフロン(登録商標)フィルムにはさみ、160℃の温度槽中で30分間加熱してエチレン−ビニルアルコール共重合体/エポキシ化合物を硬化させた。
【0110】
実施例14
住友ベークライト株式会社製フェノール樹脂溶液(商品名:スミライトレジンPR−9480)をメタノールで希釈し、フェノール樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを5cm×5cmの正方形に成形し、重量を測定したところ0.041gであった。このサンプルを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で10分間加熱してフェノール樹脂を硬化させた。加熱処理後の重量を測定したところ0.046gであった。よって、フェノール樹脂の付着量は0.005gであり、得られた多孔性フィルムに対するフェノール樹脂の割合は約11重量%であった。
【0111】
実施例15
東都化成株式会社製ノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN−701)をキシレンで希釈し、ノボラック型エポキシ樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例1の多孔性シートを7cm×7cmの正方形に成形し、重量を測定したところ0.069gであった。このサンプルを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してノボラック型エポキシ樹脂を硬化させた。加熱処理後の重量を測定したところ0.070gであった。よって、ノボラック型エポキシ樹脂の付着量は0.001gであり、得られた多孔性フィルムに対するノボラック型エポキシ樹脂の割合は約1重量%であった。
【0112】
実施例16
実施例15において、調製例1の多孔性シートの代わりに、調製例2の多孔性フィルム基材2を用いた点以外は実施例15と同様の操作を行った。
調製例2の多孔性フィルム基材2を7cm×7cmの正方形に成形し、重量を測定したところ0.071gであり、加熱処理後の重量を測定したところ0.072gであった。よって、ノボラック型エポキシ樹脂の付着量は0.001gであり、得られた多孔性フィルムに対するノボラック型エポキシ樹脂の割合は約1重量%であった。
【0113】
実施例17
東都化成株式会社製ノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN−701)をキシレンで希釈し、ノボラック型エポキシ樹脂/溶剤が16重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例2の多孔性フィルム基材2を7cm×5cmの長方形に成形し、重量を測定したところ0.055gであった。このサンプルを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性フィルム基材2をSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してノボラック型エポキシ樹脂を硬化させた。加熱処理後の重量を測定したところ0.087gであった。よって、ノボラック型エポキシ樹脂の付着量は0.032gであり、得られた多孔性フィルムに対するノボラック型エポキシ樹脂の割合は約37重量%であった。
【0114】
実施例18
住友ベークライト株式会社製フェノール樹脂溶液(商品名:スミライトレジンPR−9480)をメタノールで希釈し、フェノール樹脂/溶剤が1重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例3の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で20分間加熱してフェノール樹脂を硬化させた。
【0115】
実施例19
東都化成株式会社製ノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN−701)をキシレンで希釈し、ノボラック型エポキシ樹脂/溶剤が5重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例3の多孔性シートをを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、220℃の温度槽中で120分間加熱してノボラック型エポキシ樹脂を硬化させた。
【0116】
実施例20
旭硝子株式会社製塗料用フッ素樹脂(商品名:ルミフロンLF−200)と日本ポリウレタン工業株式会社製ポリイソシアネート化合物(商品名:コロネートHX)をキシレンで希釈し、フッ素樹脂/ポリイソシアネート化合物/溶剤が0.86重量部/0.14重量部/100重量部である塗布液を準備した。
調製例3の多孔性シートを上記塗布液に3分間浸漬した後に、塗布液から取り出し、自然乾燥させた。次に、乾燥した多孔性シートをSUS製のプレートにはさみ、120℃の温度槽中で60分間加熱してフッ素樹脂/ポリイソシアネート化合物を硬化させた。
【0117】
(評価試験)
フィルム形状の変化
調製例1で得た多孔性フィルム基材、及び実施例1〜13で得た多孔性フィルムを整形し、図1に示すように、各辺の長さが8〜30mmの範囲である直角三角形の頂点を形成する3点の小さな孔を開けたサンプル(30mm×20mm)を作成し、3点間の距離a、b、cを測定することによりサンプルの変化を評価した。まず、初期の距離a1、b1、c1を測定した。次に、径が約100mmのシャーレに溶剤テトラヒドロフラン(THF)を約50cc入れ、その中にサンプルを投入した。浸漬して2分後にサンプルを取り出し、乾燥しないようにスライドガラスではさんだ後、距離a2、b2、c2を測定した。サンプルをスライドガラスから取り出し、自然乾燥させ、室温下で放置して10分後に距離a3、b3、c3を測定した。下記式を用いて、a、b、cのそれぞれの変化率を計算した。
浸漬後のaの変化率(%)={(a2−a1)/a1}×100
乾燥後のaの変化率(%)={(a3−a1)/a1}×100
b(b1、b2、b3)及びc(c1、c2、c3)の変化率も同様の方法で算出した。
変化率の値が+であれば多孔性フィルムが膨張(膨潤)したことを示し、変化率が−であれば収縮したことを示す。これらの結果を表1に示す。表中、「*」は、フィルムの変形が激しいため距離が測定できず、変化率が算出できなかったことを示す。
【0118】
【表1】

【0119】
調製例1の多孔性フィルム基材1には、THFへの浸漬時に膨潤が見られ、乾燥後はフィルムの変形が激しく測定不能であった。実施例1〜13の多孔性フィルムには、THFへの浸漬時の膨潤及び乾燥時の収縮は見られず、耐薬品性高分子化合物による被覆が非常に有効であることが確認された。また、調製例1の多孔性フィルム基材1は、THFへ投入した際にフィルムが丸まった後に元の形状に戻り、自然乾燥時にはフィルムが激しく変形してさらに透明化していた。一方、実施例1〜13の多孔性フィルムは、THFへ投入時、及び自然乾燥時の何れもフィルムの変化は見られなかった。
【0120】
多孔構造の観察
調製例1で得たアミドイミド系ポリマーの多孔性シートと、その表面がフェノール樹脂により被覆されている実施例3の多孔性フィルムを、日本電子データム株式会社製電子顕微鏡JSM−820を用いて5000倍に拡大して比較観察した。
実施例3の多孔性フィルムはSUS製のプレートにはさみ加熱したため、両面とも若干平滑になっていたが、多孔構造は調製例1の多孔性フィルム基材1と本質的に違いが見られなかった。これにより、実施例3の多孔性フィルムはフェノール樹脂により被覆されてもその連通性を有する微小孔が多数存在する多孔構造は維持されていることが確認された。
実施例3の多孔性フィルムの厚みは約50μm、孔の平均孔径は約1μm、フィルムの内部の空孔率は約70%であり、透過性能は原料として用いた多孔性フィルム基材1と同等であった。また、他の実施例のフィルムについても同様の結果が得られた。
【0121】
耐アルカリ性−1
調製例1で得たアミドイミド系ポリマーの多孔性シート及び実施例3〜11、13で得た耐薬品性高分子化合物により被覆されているアミドイミド系ポリマーからなる多孔性フィルムを、0.1NのNaOH水溶液に、温度30℃の条件下で3時間浸漬した後、赤外線吸収スペクトル分析によりアルカリ性水溶液に対する耐薬品性を評価した。
赤外線吸収スペクトル分析において、イミド基を示す1720及び1780cm-1付近の吸収の消失を、アミドイミド系ポリマー中のイミド基がアルカリにより加水分解を受けてカルボン酸を生じたことの指標とした。すなわち、1720及び1780cm-1付近の吸収が消失している場合には、フィルムが耐アルカリ性を有していないことを意味する。
調製例1の多孔性シートは、1720及び1780cm-1付近の吸収が消失しており、アルカリによるイミド基の加水分解が起こっていることが分かった。一方、実施例3〜11、13の多孔性フィルムでは上記吸収が存在しており、イミド基の加水分解は見られなかった。これらの高分子化合物による被覆がアルカリ性水溶液に対して非常に有効であることが確認された。
【0122】
耐アルカリ性−2
調製例3で得たイミド系ポリマーの多孔性シート及び実施例18〜20で得た耐薬品性高分子化合物により被覆されているイミド系ポリマーからなる多孔性フィルムを、0.1NのNaOH水溶液に、温度30℃の条件下で10時間浸漬した後、赤外線吸収スペクトル分析によりアルカリ性水溶液に対する耐薬品性を評価した。
赤外線吸収スペクトル分析において、イミド基を示す1720及び1770cm-1付近の吸収の消失を、イミド系ポリマー中のイミド基がアルカリにより加水分解を受けてカルボン酸を生じたことの指標とした。すなわち、1720及び1770cm-1付近の吸収が消失している場合には、フィルムが耐アルカリ性を有していないことを意味する。
調製例3の多孔性シートは、1720及び1770cm-1付近の吸収が消失しており、アルカリによるイミド基の加水分解が起こっていることが分かった。一方、実施例18〜20の多孔性フィルムでは上記吸収が存在しており、イミド基の加水分解は見られなかった。これらの高分子化合物による被覆がアルカリ性水溶液に対して非常に有効であることが確認された。
【0123】
親水性
実施例1〜3、9〜12で得た多孔性フィルムを、イオン交換水又は0.1NのNaOH水溶液に浸漬したときのフィルムの浮沈を観察した。
多孔性フィルムは内部の空孔に空気を含むため、被覆に用いる高分子化合物と浸漬する液体との親和性が低ければ空気を内部に含む多孔性フィルムは浮き、親和性が高ければ、液体が空孔内部の空気を追い出してフィルム内部まで侵入して多孔性フィルムは液体中に沈む。これらの結果を表2に示す。表中、「被覆条件」の欄には、各実施例における被覆に用いた高分子化合物の種類等を示す。
【0124】
【表2】

【0125】
実施例1〜3の多孔性フィルムはイオン交換水には濡れ難いが、0.1NのNaOH水溶液には濡れ易い性質を、実施例9〜11の多孔性フィルムはいずれの液体中にも沈むことから、中性のイオン交換水にもアルカリ性の0.1NのNaOH水溶液にも濡れ易い性質を、実施例12の多孔性フィルムはイオン交換水にも0.1NのNaOH水溶液にも濡れ難い性質をそれぞれ有している。
このように、被覆に用いる高分子化合物の種類を適宜選択することにより、液体に対する親和性(親水性等)を変更することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性フィルム基材が耐薬品性高分子化合物により被覆されている多孔性フィルムであって、該多孔性フィルム基材が、アミドイミド系ポリマー及びイミド系ポリマーから選択された少なくとも1種の高分子成分を含む高分子溶液を基板上へフィルム状に流延して相転換法により製造され、相転換法により多孔性フィルム基材を製造するに際し、該多孔性フィルム基材を構成する高分子の表面張力Sa[mN/m]と基板の表面張力Sb[mN/m]との差(Sa−Sb)が−10以上となる高分子及び基板を用い、多孔性フィルム基材を構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液を高分子溶液として基板上へフィルム状に流延したのち凝固液に導き、相転換させることにより製造された、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔性フィルム基材であり、耐薬品性高分子化合物が、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、キシレン系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群より選択された少なくとも一種であり、連通性を有する微小孔が多数存在し、該多孔性フィルムの厚みが5〜200μm、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、該多孔性フィルムの空孔率が30〜80%、透気度がガーレー値で0.2〜29秒/100ccである耐薬品性を有する多孔性フィルム。
【請求項2】
請求項1記載の多孔性フィルムを製造する方法であって、アミドイミド系ポリマー及びイミド系ポリマーから選択された少なくとも1種の高分子成分を含む高分子溶液を基板上へフィルム状に流延し、相転換法により多孔性フィルム基材を製造するに際し、該多孔性フィルム基材を構成する高分子の表面張力Sa[mN/m]と基板の表面張力Sb[mN/m]との差(Sa−Sb)が−10以上となる高分子及び基板を用い、多孔性フィルム基材を構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液を高分子溶液として基板上へフィルム状に流延したのち凝固液に導き、相転換させることにより、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔性フィルム基材を製造し、耐薬品性高分子化合物を溶解した溶液中に、該多孔性フィルム基材を浸漬するか、前記溶液を前記多孔性フィルム基材に噴霧又は塗布した後、乾燥させることにより、多孔性フィルム基材に耐薬品性高分子化合物を被覆して多孔性フィルムを得る多孔性フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の多孔性フィルムを製造する方法であって、アミドイミド系ポリマー及びイミド系ポリマーから選択された少なくとも1種の高分子成分を含む高分子溶液を基板上へフィルム状に流延し、相転換法により多孔性フィルム基材を製造するに際し、該多孔性フィルム基材を構成する高分子の表面張力Sa[mN/m]と基板の表面張力Sb[mN/m]との差(Sa−Sb)が−10以上となる高分子及び基板を用い、多孔性フィルム基材を構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー10〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液を高分子溶液として基板上へフィルム状に流延したのち凝固液に導き、相転換させることにより、連通性を有する微小孔が多数存在し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔性フィルム基材を製造し、耐薬品性高分子化合物の前駆体を溶解した溶液中に、該多孔性フィルム基材を浸漬するか、前記溶液を前記多孔性フィルム基材に噴霧又は塗布した後、乾燥させ、次いで、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線から選択される少なくとも一種の処理を施すことにより、多孔性フィルム基材に耐薬品性高分子化合物を被覆して多孔性フィルムを得る多孔性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−137183(P2011−137183A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90330(P2011−90330)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【分割の表示】特願2005−514200(P2005−514200)の分割
【原出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】