説明

耐衝撃性に優れる塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物及びその製造方法

本発明は、耐衝撃性に優れた塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物及びその製造方法に関するものであって、本発明による製造方法は、塩化ビニル単量体にナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤を添加して分散させる工程;前記混合系を脱イオン水、懸濁安定剤及び重合開始剤を含む水溶液系に添加して懸濁系を作り、昇温重合をして塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を製造する工程;及び前記塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物にメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル系衝撃補強剤及び塩素化ポリエチレンからなる群から選択された1種以上の衝撃補強剤を混練して、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を加工する工程からなり、好ましくは、ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体混合系を製造する工程で重合開始剤を投入して製造される本発明による塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物は、塩化ビニル粒子内部にナノ炭酸カルシウムが均一に分布し、耐衝撃性に優れており、樹脂加工時に必要な衝撃補強剤の量を著しく減少することにより、低コスト化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ複合体樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。さらに詳細には、本発明は、ナノ炭酸カルシウムを塩化ビニル単量体に均一に分散した後、前記混合系を水中に分散して懸濁系を作り、昇温重合する方法により製造された耐衝撃性に優る塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塩化ビニル樹脂は、用途により、軟質製品と硬質製品とに区分される。一般に、軟質製品は、多量の可塑剤を使用して、コーティング、モルディングなどの加工工程を通じて、壁紙、床仕上げ材、人造皮革、玩具、使い捨て手袋などの最終製品の原料として使われ、乳化重合やMSP(Microsuspension Seeded Polymerization)工程を利用して製造される。硬質PVC樹脂は、衝撃補強剤、熱安定剤、加工助剤、顔料及び無機フィラーなどの各種添加剤を混合して、押出、カレンダー、射出などの成形加工法を経て、パイプ、窓枠、硬質シートなどの製品原料として使用される。硬質PVCは、懸濁重合工程(Suspension Polymerization)により生産されるが、樹脂自体の耐衝撃性が弱く、成形品が破壊されやすいという短所を有している。このような短所を補完するために、別途に、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)共重合体、アクリル系衝撃補強剤(Acrylic Impact Modifier)または塩素化ポリエチレン(CPE)などの衝撃補強剤を、PVC樹脂100重量部に対して、6〜10重量部添加して使用しているが、これらの衝撃補強剤は、高価であるという問題点がある。
【0003】
その他の衝撃補強剤として、粒子サイズが約0.07ミクロン(70nm)であるPCC(Precipitated Calcium Carbonate)の衝撃補強効果が報告された(J.A.Radosta. “Low Temperature and Ambient Impact Modification of Polymers with Surface Treated Calcium Carbonate” SPE ANTEC, New Orleans, May 7-10, 1979)。前記文献によると、PVC樹脂100重量部に対して、PCCを10重量部以上添加して混練した後、溶融混練、ロールミルプレスを行い、粉砕して、再び押出するような多段階過程を経た押出試料が優れた衝撃補強効果を示すと報告された。高分子媒質内に微細分散されたナノPCCの高い比表面積が、高分子媒質内部に衝撃エネルギーを分散させる作用を有すると報告されている。ナノPCCが衝撃補強効果を奏するためには、第一に、PCC第1次粒子の大きさが100nm以下と十分小さくて、表面積が極大化されなければならなく、第二に、高分子媒質中に、ナノ粒子が第1次粒子の大きさに最大限近く分散されなければならない。前記文献の多段階加工工程では、媒質内PCCの微細分散のために、外部物理力を適用する。しかしながら、一般的な押出加工では、このような微細分散を達成することが難しい。
【非特許文献1】J.A.Radosta. “Low Temperature and Ambient Impact Modification of Polymers with Surface Treated Calcium Carbonate” SPE ANTEC, New Orleans, May 7-10, 1979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、塩化ビニル単量体にPCCを分散した後、懸濁重合する方法、及びこのような方法により製造された複合体組成物に関するものであって、重合段階でナノPCCを導入して、塩化ビニル内に均一且つ微細な分散を達成したものである。
【0005】
本発明は、ナノ炭酸カルシウムを塩化ビニル単量体に均一に分散した後、前記混合系を水中に分散して懸濁系を作り、昇温重合する方法により製造された耐衝撃性に優れた塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の前記目的及びその他の目的は、以下説明する本発明により全て達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、塩化ビニル単量体、ナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤を含むことを特徴とするナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液を提供する。
【0008】
前記ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液は、重合開始剤をさらに含むことができる。前記重合開始剤としては、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、またはペルオキシジカーボネートなどの油溶性重合開始剤を1種以上使用することができる。
【0009】
前記塩化ビニル単量体100重量部に対し、ナノ炭酸カルシウムは、1〜30重量部、親油性分散剤は、0.01〜10重量部、重合開始剤は、0.01〜5重量部使用する。
【0010】
前記親油性分散剤は、リン酸基またはカルボキシル酸基またはそれらの塩を含む分子量40〜100000の単量体または高分子化合物である。
【0011】
前記親油性分散剤のリン酸基またはカルボキシル酸基の塩は、ナトリウム、アンモニウム、第1、第2、第3、第4級アルキルアンモニウム塩、C〜C30の炭化水素、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、並びにこれらを含有する共重合体からなる群から選択される有機側鎖を含む。
【0012】
前記親油性分散剤の主鎖は、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアクリレート系、ポリアセテート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、またはこれらを含む共重合体である。
【0013】
また、本発明は、前記ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液を利用して製造されることを特徴とする塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を提供する。
【0014】
前記ナノ炭酸カルシウムの粒子サイズは、500nm以下である。
【0015】
前記ナノ炭酸カルシウムの表面は、有機カルボキシル酸の金属塩で改質することができる。
【0016】
前記ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液は、上述の通りである。
【0017】
また、本発明は、(a)塩化ビニル単量体にナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤を添加して分散させる工程;(b)前記混合系を脱イオン水、懸濁安定剤及び重合開始剤を含む水溶液系に添加して懸濁系を作り、昇温重合をして塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を製造する工程;及び(c)前記塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物に衝撃補強剤を混練して、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を加工する工程;を含むことを特徴とする塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0018】
前記製造方法において、昇温重合は、50〜65℃の温度で行うことができる。
【0019】
前記塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法において、重合温度は、重合度が700〜1300になるように決定されてもよく、(b)工程で添加される重合開始剤が(a)工程で添加されてもよい。
【0020】
前記衝撃補強剤は、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル系衝撃補強剤及び塩素化ポリエチレンからなる群から選択された1種以上を使用することができる。
【0021】
前記(a)工程のナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤は、それぞれ塩化ビニル単量体100重量部に対し、1〜30重量部及び0.01〜10重量部使用されて、前記(b)工程の脱イオン水、懸濁安定剤及び重合開始剤は、それぞれ塩化ビニル単量体100重量部に対し、100〜300重量部、0.01〜5重量部及び0.01〜5重量部使用されて、前記(c)工程の衝撃補強剤は、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物100重量部に対し、1〜10重量部添加される。
【0022】
前記ナノ炭酸カルシウムの粒子は、500nm以下である。
【0023】
前記親油性分散剤は、リン酸基またはカルボキシル酸基またはそれらの塩を含む分子量40〜100000の単量体または高分子化合物である。
【0024】
前記親油性分散剤のリン酸基またはカルボキシル酸基の塩は、ナトリウム、アンモニウム、第1、第2、第3、第4級アルキルアンモニウム塩、C〜C30の炭化水素、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、並びにこれらを含有する共重合体からなる群から選択される有機側鎖を含む。
【0025】
前記親油性分散剤の主鎖は、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、またはこれらを含む共重合体からなる群から選択される。
【0026】
前記懸濁安定剤は、酢酸ビニル、セルロース及びゼラチンからなる群から1種以上選択される。
【0027】
前記懸濁安定剤は、70〜98モル%に加水分解された重合度500〜3000のポリビニルアセテートと、1.0〜3.0の置換度及び50〜2000の重合度を有する変形セルロースを、単独使用または併用使用する第1の懸濁安定剤;及び10〜60モル%に加水分解された重合度500〜3000のポリビニルアセテートの第2の懸濁安定剤などを使用できる。
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、ナノ炭酸カルシウムを塩化ビニル単量体に分散する工程と、前記混合系を水、懸濁安定剤及び重合開始剤を含む水溶液系に投入して懸濁液を作り、塩化ビニル単量体の昇温重合を通じてPVC/ナノ炭酸カルシウム複合体樹脂を製造する工程、及び製造された複合体樹脂に衝撃補強剤を添加混練して、塩化ビニル系ナノ複合体加工物を製造する工程を含む。
【0030】
本発明の他の変形として、前記重合開始剤は、ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体混合系を製造する工程で投入してもよい。
【0031】
(1.ナノ炭酸カルシウム分散)
塩化ビニル単量体中にナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤を添加して分散する工程について詳細に説明する。
【0032】
炭酸カルシウムは、セメント工業、ゴム、プラスチック、塗料、製紙などの各工業分野に広く利用されている。この際使用される炭酸カルシウムの粒子大きさは、数μm〜数百μmであるが、本発明では、1μm未満、特に40〜70nmに微粒化されたナノ炭酸カルシウム(precipitated calcium carbonate, PCC)を使用する。添加されるナノ炭酸カルシウムの量は、重合時、懸濁重合系の重合安定性と押出加工時の加工条件及び製品物性を考慮して、塩化ビニル単量体100重量部に対して1〜30重量部使用することが好ましい。
【0033】
ナノ炭酸カルシウム表面は、親水性であるため、塩化ビニル単量体に分散させるためには、ナノ炭酸カルシウムの表面を、脂肪酸、樹脂酸などの有機カルボキシル酸の金属塩で改質しなければならない。本発明で使用されるナノ炭酸カルシウムの表面は、脂肪酸で表面改質されたものを使用して、塩化ビニル単量体に濡れる(wetting)ようにする。しかし、超微細分散(sub-micron size)を達成するためには、追加的な分散剤が要求される。
【0034】
炭酸カルシウム分散用親油性分散剤は、有機相に溶けなければならなく、ナノ炭酸カルシウムの表面との親和力を有するように、カルボキシル酸基及びリン酸基などの酸、またはそれらの塩を有する単量体分散剤あるいは高分子分散剤であって、PVC樹脂との相溶性がある化学構造であればさらに好ましい。
【0035】
前記親油性分散剤のリン酸基またはカルボキシル酸基の塩は、ナトリウム、アンモニウム、第1、第2、第3、第4級アルキルアンモニウム塩、C〜C30の炭化水素、またはポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアクリレート系、ポリアセテート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、もしくはこれらを含有する共重合体を含む有機側鎖を含む。
【0036】
前記親油性分散剤の主鎖に該当するオリゴマーまたは高分子の種類は、ポリ(エチレンオキシド)及びポリ(プロピレンオキシド)のようなポリエーテル系列;ポリ(メチルメタクリレート)またはポリ(n−ヘキシルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)とポリ(n−ブチルアクリレート)を含むポリアクリレート系列;ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)、ポリ(バレロラクトン)などのポリラクトンを含むポリエステル系列などが代表的である。また、ポリウレタン系列及びポリ(ビニルアセテート)などの極性が強くてポリビニル樹脂との相溶性がある高分子、あるいはその他のPVC親和性基を挿入できる高分子であれば、親油性分散剤として使用できる。前記親油性分散剤の構造は、単独重合体であってもよく、必要に応じて、前記表記した高分子成分間の共重合体、または前記表記した高分子成分を含む他の成分との共重合体であってもよい。
【0037】
代表的な分散剤の構造を下記化学式1及び2に示す。
【0038】
【化1】

【0039】
(式中、高分子主鎖を示すA及びBは、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアセテート、ポリエステル及びポリウレタンからなる群から選択された単独または共重合体であり、炭酸カルシウム親和性側鎖におけるR及びRは、それぞれ独立的に水素、C〜C30の炭化水素、またはポリエーテル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアセテート、ポリエステル及びポリウレタンからなる群から選択された単独重合体、もしくはこれらを含む共重合体であり、n及びlは、整数である。)
【0040】
【化2】

【0041】
(式中、高分子主鎖を示すA及びBは、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアセテート、ポリエステル及びポリウレタンからなる群から選択された単独または共重合体であり、炭酸カルシウム親和性側鎖におけるRは、水素、ナトリウム、アンモニウム、第1、第2、第3、第4級アルキルアンモニウム、C〜C30の炭化水素、またはポリエーテル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアセテート、ポリエステル及びポリウレタンからなる群から選択された単独重合体、もしくはこれらを含む共重合体であり、n及びlは、整数である。)
【0042】
前記分散剤の分子量は、40〜100000であり、好ましくは、200〜100000であって、lとnは、1以上の整数である。例えば、化学式1において、Aが分子量300のポリエチレンオキシド単独重合物であり、リン酸単位が分子末端に存在するとすれば、mとnは、1となる。そして、酸単位が高分子鎖の側鎖に存在する場合、各共重合物単位の比率は、mとnで表現できて、この際、mは、前記化学式でのように、リン酸またはカルボキシル酸の存在比率を示し、nは、低分子または高分子単位の存在比率を示す。
【0043】
ナノ炭酸カルシウム表面と電気的及び立体的に作用して、有機相内で効果的な分散を達成できる吸着基の例としては、カルボキシル酸とリン酸が代表的であり、これらの酸の有機塩も活用できる。この他にも、カチオン性で配位されたナノ炭酸カルシウム表面に親和力のある酸の種類であれば、親油性分散剤の吸着基として作用することができる。
【0044】
親油性分散剤の使用量の範囲は、ナノ炭酸カルシウム100重量部に対し、0.01〜10重量部が好ましい。使用量が0.01重量部未満であると、炭酸カルシウムが塩化ビニル単量体上で沈澱されて、10重量部を超過すると、分散剤が最終塩化ビニル樹脂の内部で気泡を生じることがあり、また、最終粒子表面に残留して、熱安定性の低下、変色などの品質を低下させる要因となる可能性がある。
【0045】
(2.ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル複合体樹脂重合)
ナノ炭酸カルシウムの分散された塩化ビニル単量体混合系を水中で分散させて懸濁液を作り、重合して、PVC/ナノ炭酸カルシウム複合体を製造する工程について詳細に説明する。
【0046】
懸濁安定剤及び重合開始剤を含む脱イオン水にナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散系を混合して攪拌すると、懸濁安定剤により、10〜50μmサイズの塩化ビニル液滴が水中で形成される。脱イオン水は、塩化ビニル単量体100重量部に対し、100〜300重量部使用されるが、150重量部程度が好ましい。懸濁安定剤としては、酢酸ビニル、セルロース、ゼラチンなどが使用できる。70〜98モル%に加水分解された重合度500〜3000のポリビニルアセテートと、約1.0〜3.0の置換度及び約50〜2000の重合度を有する変形セルロースとが第1の懸濁安定剤として使用される。第2の懸濁安定剤としては、10〜60モル%に加水分解されたポリビニルアセテートが使用できる。この他に、樹脂の白色度、耐候性などのために、pH調節剤、酸化防止剤、スケール防止剤などを重合工程で添加してもよい。
【0047】
(3.塩化ビニル系ナノ複合体樹脂加工物の製造)
前記ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル複合体樹脂組成物100重量部に対して、熱安定剤と滑剤を含む複合安定剤4〜6重量部、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)共重合体、アクリル系衝撃補強剤(AIM)、または塩素化ポリエチレン(CPE)1〜10重量部を添加し、配合機を利用して90〜120℃で5〜30分間混練した後、HAAKE押出機を使用して塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を製造し、これを利用して3mm厚の板状試片を製造する。この際、混練と押出条件は、機器種類により異なる。
【0048】
本発明により製造された塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物は、必要に応じ、熱安定剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤などをさらに添加して成形加工することができる。
【0049】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
本発明によるPVC/ナノ炭酸カルシウム複合体を下記のように重合した。
(1)塩化ビニル単量体内にナノ炭酸カルシウムの分散
1000リットル容量の高圧攪拌タンクにナノ炭酸カルシウム9重量部と親油性分散剤(BYK102(登録商標)、BYK Chemie社)0.45重量部とを添加した後、真空状態に転換した。そして塩化ビニル単量体100重量部(300kg)を添加した後、90分間攪拌して、安定した分散を得た。
【0051】
(2)PVC/ナノ炭酸カルシウム複合体重合
本反応器に脱イオン水150重量部、PVAとセルロース系から構成された第1、第2の懸濁安定剤0.055重量部、及びターシャリーブチルペルオキシネオデカネートとジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネートとをそれぞれ0.03重量部投入した後、(1)の混合系を移送して90分間攪拌した後、58℃に昇温して重合した。反応器の圧力変化が1kgf/cmになると、反応器を冷却しながら残留塩化ビニル単量体を除去した後、乾燥して、PVC/ナノ炭酸カルシウム複合体樹脂を得た。
【0052】
(3)PVC/ナノ炭酸カルシウム複合体加工物
前記方法により得られた複合体樹脂100重量部(5kg)に、熱安定剤と滑剤を含む複合安定剤6重量部、衝撃補強剤としてメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)3重量部を添加して、105℃で20分間配合機を利用して混練した後、HAAKE二軸(twin)押出機を利用して3mm厚の板状押出試片を製造した。加工温度は、ホッパー(hopper)でダイ(die)方向に沿って約165、170、175、185℃範囲で増加させて、スクリュー回転速度は30rpmとして加工し、3分内に吐出された押出物を自然冷却させた。得られた押出試片は、韓国産業規格KS B 5522に基づきシャルピー(Charpy)衝撃強度測定用試片を、そして、KS M 3055に基づきアイゾット(Izod)衝撃強度測定用試片を製作し、規定された試験方法により衝撃強度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
前記実施例1の(1)の工程で攪拌タンクに重合開始剤0.03重量部をさらに投入して、(2)の工程で重合開始剤の投入を省略したことを除いては、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造した後、押出した試片の衝撃強度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
前記実施例1と同様な方法により製造したPVC/ナノ炭酸カルシウム複合体樹脂に、衝撃補強剤として塩素化ポリエチレン(CPE)4重量部を添加したことを除いては、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造した後、押出した試片の衝撃強度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
前記実施例2と同様な方法により製造したPVC/ナノ炭酸カルシウム複合体樹脂に、衝撃補強剤として塩素化ポリエチレン(CPE)4重量部を添加したことを除いては、実施例2と同様にして樹脂組成物を製造した後、押出した試片の衝撃強度を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
ナノ炭酸カルシウムを含有していない塩化ビニル樹脂であって、韓国のLG化学(株)のPVC製品(LS100(登録商標))100重量部(5kg)に、MBS衝撃補強剤6.5重量部を添加して混練したことを除いては、実施例1の(3)と同様な方法により製造した後、押出試片の衝撃強度を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
ナノ炭酸カルシウムを含有していない塩化ビニル樹脂であって、韓国のLG化学(株)のPVC製品(LS100(登録商標))100重量部(5kg)に、CPE衝撃補強剤9重量部を添加して混練したことを除いては、実施例1の(3)と同様な方法により製造した後、押出試片の衝撃強度を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
前記表1に示したように、ナノ炭酸カルシウムを重合中に添加して製造されたナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル複合体は、一般的な塩化ビニル樹脂加工処方に比べ、衝撃補強剤の量を半分以上減量しても、優れた衝撃強度を示す。MBSの場合、6.5重量部(比較例1)から3重量部(実施例1及び2)に減量しても、シャルピー衝撃強度は、約3倍近く向上し、CPEの場合、9重量部(比較例2)から4重量部(実施例3及び4)に減量処方しても、衝撃強度は170%向上する。そして、アイゾット衝撃強度の場合も、衝撃補強剤の量が1/2に減量しても、7倍以上の優れた衝撃強度向上を示す。従って、PVC/ナノ炭酸カルシウム複合体は、一般的な塩化ビニル樹脂に比べ、衝撃補強剤の添加量を大いに減少しても、優れた衝撃補強効果を奏することが分かる。
【0060】
また、前記実施例から得られたPVC/ナノ炭酸カルシウム複合体の粒子を破断して、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図1に示す。図1をみると、内部にナノ炭酸カルシウムが均一に分布されていることを確認することができる。
【0061】
以上、本発明の特定な部分を詳細に記述したが、本発明の範囲及び技術思想範囲内で多様な変形及び修正が可能であることは、当業者にとって自明なことであり、このような変形及び修正が添付の特許請求の範囲に属することは、言うまでもない。
【0062】
以上説明したように、本発明による塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物及びその製造方法は、塩化ビニル樹脂粒子の内部にナノ炭酸カルシウムを均一に分散させて、樹脂の衝撃強度を画期的に向上させたものであって、本発明は、高価の衝撃補強剤の量を現在使用量の最大1/5水準まで減量することができ、衝撃強度が要求されるPVC樹脂の最終製品の原価節減に卓越な効果がある。これは、ナノ炭酸カルシウムと塩化ビニルの混練(compounding)過程ではできない微細分散を達成したことによるものであって、高価の高分子型衝撃補強剤を減量して使用するにもかかわらず、耐衝撃性に優れた効果がある有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の実施例により製造された塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の断面を撮影した走査電子顕微鏡(SEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル単量体、ナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤を含むことを特徴とする、ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液。
【請求項2】
前記ナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液が、重合開始剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液。
【請求項3】
前記塩化ビニル単量体100重量部に対し、ナノ炭酸カルシウムが、1〜30重量部、親油性分散剤が、0.01〜10重量部であることを特徴とする、請求項1に記載のナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液。
【請求項4】
前記塩化ビニル単量体100重量部に対し、ナノ炭酸カルシウムが、1〜30重量部、親油性分散剤が、0.01〜10重量部、重合開始剤が、0.01〜5重量部であることを特徴とする、請求項2に記載のナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液。
【請求項5】
前記親油性分散剤が、リン酸基またはカルボキシル酸基またはそれらの塩を含む分子量40〜100000の単量体または高分子化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液。
【請求項6】
前記親油性分散剤のリン酸基またはカルボキシル酸基の塩が、ナトリウム、アンモニウム、第1、第2、第3、第4級アルキルアンモニウム塩、C〜C30の炭化水素、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、並びにこれらを含有する共重合体からなる群から選択される有機側鎖を含むことを特徴とする、請求項5に記載のナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液。
【請求項7】
前記親油性分散剤の主鎖が、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアクリレート系、ポリアセテート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、またはこれらを含む共重合体であることを特徴とする、請求項5に記載のナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のナノ炭酸カルシウム/塩化ビニル単量体分散液を利用して製造されることを特徴とする、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物。
【請求項9】
(a)塩化ビニル単量体にナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤を添加して分散させる工程;
(b)前記混合系を脱イオン水、懸濁安定剤及び重合開始剤を含む水溶液系に添加して懸濁系を作り、昇温重合をして塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を製造する工程;及び
(c)前記塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物に衝撃補強剤を混練して、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を加工する工程;
を含むことを特徴とする、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記衝撃補強剤が、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル系衝撃補強剤及び塩素化ポリエチレンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項9に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記(a)工程のナノ炭酸カルシウム及び親油性分散剤が、それぞれ塩化ビニル単量体100重量部に対し、1〜30重量部及び0.01〜10重量部使用されて、前記(b)工程の懸濁安定剤及び重合開始剤が、それぞれ塩化ビニル単量体100重量部に対し、0.01〜5重量部及び0.01〜5重量部使用されて、前記(c)工程の衝撃補強剤が、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物100重量部に対し、1〜10重量部添加されることを特徴とする、請求項9に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ナノ炭酸カルシウムの粒子が、500nm以下であることを特徴とする、請求項9に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記親油性分散剤が、リン酸基またはカルボキシル酸基またはそれらの塩を含む分子量40〜100000の単量体または高分子化合物であることを特徴とする、請求項9に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記親油性分散剤のリン酸基またはカルボキシル酸基の塩が、ナトリウム、アンモニウム、第1、第2、第3、第4級アルキルアンモニウム塩、C〜C30の炭化水素、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、並びにこれらを含有する共重合体からなる群から選択される有機側鎖を含むことを特徴とする、請求項13に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記親油性分散剤の主鎖が、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、またはこれらを含む共重合体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項13に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記懸濁安定剤が、酢酸ビニル、セルロース及びゼラチンからなる群から1種以上選択されることを特徴とする、請求項9に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
前記懸濁安定剤が、70〜98モル%に加水分解された重合度500〜3000のポリビニルアセテートと、1.0〜3.0の置換度及び50〜2000の重合度を有する変形セルロースを、単独使用または併用使用する第1の懸濁安定剤;及び10〜60モル%に加水分解された重合度500〜3000のポリビニルアセテートの第2の懸濁安定剤からなることを特徴とする、請求項9に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
(a)塩化ビニル単量体にナノ炭酸カルシウム、親油性分散剤、及び重合開始剤を添加して分散させる工程;
(b)前記混合系を脱イオン水及び懸濁安定剤を含む水溶液系に添加して懸濁系を作り、昇温重合をして塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を製造する工程;及び
(c)前記塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物に衝撃補強剤を混練して、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物を加工する工程;
を含むことを特徴とする、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項19】
前記衝撃補強剤が、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル系衝撃補強剤及び塩素化ポリエチレンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項18に記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項20】
前記(a)工程のナノ炭酸カルシウム、親油性分散剤、及び重合開始剤が、それぞれ塩化ビニル単量体100重量部に対し、1〜30重量部、0.01〜10重量部、及び0.01〜5重量部使用されて、前記(b)工程の懸濁安定剤が、塩化ビニル単量体100重量部に対し、0.01〜5重量部使用されて、前記(c)工程の衝撃補強剤が、塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物100重量部に対し、1〜10重量部添加されることを特徴とする、請求項18記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項21】
前記ナノ炭酸カルシウムの粒子が、500nm以下であることを特徴とする、請求項18記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項22】
前記親油性分散剤が、リン酸基またはカルボキシル酸基、またはそれらの塩を含む分子量40〜100000の単量体または高分子化合物であることを特徴とする、請求項18記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項23】
前記親油性分散剤のリン酸基またはカルボキシル酸基の塩が、ナトリウム、アンモニウム、第1、第2、第3、第4級アルキルアンモニウム塩、C〜C30の炭化水素、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、並びにこれらを含有する共重合体からなる群から選択される有機側鎖を含むことことを特徴とする、請求項22記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項24】
前記親油性分散剤の主鎖が、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、ポリメタクリレート系、ポリアセテート系、ポリアクリレート系、ポリエステル系及びポリウレタン系からなる群から選択された単独重合体、及びこれらを含む共重合体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項22記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項25】
前記懸濁安定剤が、酢酸ビニル、セルロース及びゼラチンからなる群から1種以上選択されることを特徴とする、請求項18記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。
【請求項26】
前記懸濁安定剤が、70〜98モル%に加水分解された重合度500〜3000のポリビニルアセテートと、1.0〜3.0の置換度及び50〜2000の重合度を有する変形セルロースを、単独使用または併用使用する第1の懸濁安定剤;及び10〜60モル%に加水分解された重合度500〜3000のポリビニルアセテートの第2の懸濁安定剤からなることを特徴とする、請求項18記載の塩化ビニル系ナノ複合体樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−510790(P2007−510790A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539400(P2006−539400)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【国際出願番号】PCT/KR2004/002952
【国際公開番号】WO2005/047382
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】