説明

耐衝撃性ポリスチレンをアニオン重合する方法

本発明は、耐衝撃性ポリスチレンをアニオン重合により製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン重合による耐衝撃性ポリスチレンの製法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、この方法により得られる耐衝撃性ポリスチレン、成形品、フィルム、繊維またはフォームを製造するための耐衝撃性ポリスチレンの使用、ならびに耐衝撃性ポリスチレンから成る成形品、フィルム、繊維またはフォームに関する。
【0003】
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS, high impact polystyrene)の製造に関しては、溶液または懸濁液中で進行する連続的または非連続的な、種々のラジカル重合またはアニオン重合法が公知である。例えば、Ulmanns Encyklopaedie der Technichen Chemie, Vol.A21, VCH Verlag Weinheim 1992 615-625ページ参照のこと。この方法の場合には、ゴム(例えば、ポリブタジエンまたはスチレン−ブタジエン−ブロックコポリマー)は、アニオンまたはラジカル的に製造され、これをモノマースチレン中に溶解させている。スチレンは、この後に、ラジカル重合またはアニオン重合される。ポリスチレン形成の過程で、相転換が生じる。すなわち、ゴム相はポリスチレンマトリックス中に分散する。
【0004】
アニオン重合により得られる耐衝撃性ポリスチレンは、ラジカル的方法で得られる製品に対して、利点がある。とりわけ、低い残留モノマー含有量とオリゴマー含有量である。ラジカル重合の場合には、反応はフリーラジカルにより進行し、例えば、過酸化物開始剤を使用するのに対して、アニオン重合は“リビング”カルバニオンにより行われ、例えば、アルカリ金属のオルガニル化合物が開始剤として使用される。
【0005】
アニオン重合は、ラジカル重合よりも実質的に速く進行し、高い転化率を生じる。発熱反応の温度コントロールは、高い反応速度ゆえに難しい。よって、いわゆる反応速度を低める遅延剤(Al−、 Zn−、 Mg−オルガニル化合物のような)の使用が生じる。アニオン性のゴムを製造する際には、通常、不十分な混合ゆえに不所望な“ホットスポット”が反応器中に形成されてしまい、さらには形成されたゴムが不十分にしか処理できないほど速く反応混合物の粘度が増加する。すなわち、ポンプによるゴムの運搬は不可能になる。この粘度の問題は、不活性溶剤で反応混合物を希釈することにより回避されるが、このことは全体の方法の生産性を悪くし、かつ溶剤を再び除去するために、時間とエネルギーをかけて製品であるHIPSの脱気が必要となる。
【0006】
WO-A01/10917には、HIPSを製造するためのアニオン的方法が記載され、この場合に、まずビニル芳香族中に溶解させたジエンモノマーをアルキルリチウム開始剤を用いて、アニオン重合させて、低分子量のポリジエンにしている。この後に、トリアルキルアルミニウムをモル過剰でアルキルリチウムに添加し、さらにビニル芳香族で希釈し、かつ低分子量“リビング”ポリジエン鎖をカップリング剤とカップリングさせて高分子量のポリジエンにしている。ビニル芳香族中のこのポリジエンの溶液は、さらに重合してHIPSにすることができる。記載されている方法の欠点は、特にカップリング反応が大量の高価なアルキルリチウムを使用しなくてはならないことである(リビングポリジエン鎖あたり、1個のLi原子)。
【0007】
WO-A 98/07766は、耐衝撃性ポリスチレンの製法を開示しており、この場合に、第一反応箇所で、アニオン的な溶液重合によりジエンポリマーを製造しており、第二反応箇所では相転換が生じるまで、さらにアニオン重合またはラジカル重合させている。この場合に、中断剤またはカップリング剤、ビニル芳香族および/またはさらなる開始剤を加えることができる。第三の反応箇所では、あらたに添加されたビニル芳香族を最後に重合させている。例15〜18によれば、1番目の反応器内で、第二ブチルリチウム開始剤とジブチルマグネシウム遅延剤(Mg/Liのモル比>1)とから成る前混合した触媒溶液を使用して、ブタジエンモノマーとスチレンモノマーから、スチレンモノマー中に溶解させたスチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーゴムを製造し、これを2番目の反応器中で鎖中断剤および前混合した触媒溶液(前記のような組成物、Mg/Liのモル比>1)、または第二ブチルリチウムだけと混合し、三番目の反応器中で完全に重合させている。
【0008】
WO-A 99/40135には、耐衝撃性ポリスチレンの製法が記載されており、ここではブタジエンとスチレンから溶剤を添加しながら、アニオン重合によりゴム溶液を製造し、これを中断剤またはカップリング剤と反応させて、ビニル芳香族で希釈し、引き続き混合物を完全に重合させてHIPSにしている。カップリング反応もしくは中断反応によりゴム溶液が中断する。例10と11では、第二ブチルリチウムとアニオン的に製造し、カップリング剤で中断した、スチレン中に溶解させたスチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーゴムを、さらにスチレン、ならびに第二ブチルリチウムとトリイソブチルアルミニウム遅延剤とから成る混合物と混合し、この混合物を完全に重合してHIPSにしている。
【0009】
両方の前記方法は、費用がかかり、ゴム合成の際に、中断剤とカップリング剤の使用を必要とし、このことがHIPSの製造を複雑かつコスト高なものにしてしまう。
【0010】
本発明の課題は、前記の欠点を除くことであった。特に、この課題は、アニオン重合により耐衝撃性ポリスチレンを製造する方法を提供することから成るが、ここでゴム合成のために、カップリング剤または中断剤を併用してはならない。さらに、この方法は、ゴム溶液が従来技術の方法よりも高い固形分を有することであり、これにより方法のキャパシティーが改善され、ならびに溶剤除去が容易になる。この利点は、HIPSの熱的特性と機械的特性に負担となってはならない。
【0011】
それに応じて、冒頭で定義した方法が見いだされた。この方法は、次のことに特徴付けられる。
1)ジエンモノマーから、またはジエンモノマーとスチレンモノマーから、リチウムオルガニルを開始剤として使用し、かつ溶剤を併用しながらアニオン重合によりゴム溶液を製造し、
2)得られたゴム溶液に、ゴム溶液中のアルミニウム/リチウムのモル比が1よりも大きくなるような量で、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合に、0.5よりも大きくなるような量でアルミニウムオルガニルを添加し、
3)得られた溶液をスチレンモノマーに添加し、
4)得られた混合物に、リチウムオルガニル、またはリチウムオルガニルとアルミニウムオルガニルを、混合物中のアルミニウム/リチウムのモル比が1未満になるような量で、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、0.5よりも小さくなるように添加し、かつこの混合物をアニオン重合させる。
【0012】
さらに、この方法により得られる耐衝撃性ポリスチレン、成形品、フィルム、繊維およびフォームを製造するための耐衝撃性ポリスチレンの使用、ならびに耐衝撃性ポリスチレンからなる成形品、フィルム、繊維およびフォームが見い出された。
【0013】
方法の有利な実施態様は、従属請求項から引用することができる。
【0014】
前記の従来技術の方法は、アルミニウムオルガニルがマグネシウムオルガニルの代わりに遅延剤として使用される点、ゴムの製造の際に中断剤やカップリング剤を使用する必要がない点、各方法の工程1)〜4)で定義づけられた種々のAl/Liのモル比が存在する点、ならびにゴム溶液の製造の際に遅延剤を併用しない点が本発明による方法と異なる。
【0015】
方法の各工程1)〜4)を以下に詳説する。
工程1)
1番目の工程では、ジエンモノマーから、またはジエンモノマーとスチレンモノマーから、リチウムオルガニルを開始剤として使用し、かつ溶剤を併用しながらアニオン重合によりゴム溶液を製造する。
【0016】
ジエンモノマーとして、例えば、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、イソプレンおよびピペリレンを用いることができる。1,3−ブタジエンとイソプレンが有利であり、特に1,3−ブタジエン(以後、簡略してブタジエンと記載する)が有利である。
【0017】
スチレンモノマーとして、さらに、またはスチレンとの混合物の形で芳香族環および/またはC=C二重結合がC1−20 炭化水素基で置換されたビニル芳香族モノマーを使用することができる。スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、1,2−ジフェニルエチレン、1,1−ジフェニルエチレンまたはそれらの混合物を使用するのが有利である。特にスチレンを使用するのが有利である。
【0018】
合理的には、モノマーおよびいわゆる溶剤のような出発物質は、方法に必要な一般的な純度で使用する。すなわち、残留湿気、極性材料、酸素のような阻害する随伴物質を重合の直前に自体公知の方法で取り除くことができる。
【0019】
スチレンモノマーおよびジエンモノマーの他に、他のコモノマーを併用することができる。コモノマーの割合は、工程1)で使用されるモノマーの全体量に対して、有利に0〜50、特に有利に0〜30質量%、とりわけ0〜15質量%である。
【0020】
適切なコモノマーは、例えば、アクリレート、特にC1−12−アルキルアクリレート、例えばn−ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレート、および相応するメタクリレート、特にメチルメタクリレート(MMA)のようなC1−12−アルキルメタクリレートである。さらに、DE-A19633626の3ページ、5〜55行目のM1〜M10で挙げられたモノマーもコモノマーとして適切である。この文献から明らかに分かる。
【0021】
ジエンモノマーとしてブタジエンを使用し、スチレンモノマーとしてスチレンを使用するのが有利である。
【0022】
このようなそれ自体が公知のゴムは、アニオン重合により自体公知の方法で製造することができる。
【0023】
オルガニルとは、以後、少なくとも1個の金属炭素のシグマ結合を有する前記元素の有機金属化合物、特にアルキル化合物またはアリール化合物であると解釈される。さらに、金属オルガニルは、水素、ハロゲンまたはヘテロ原子により結合した有機基、例えば、アルコラートまたはフェノラートを金属上に有することができる。後者は、例えば、全部もしくは部分的な加水分解、アルコール分解またはアミノ分解により得られる。種々の金属オルガニルの混合物を使用することもできる。
【0024】
アニオン重合の開始剤として、リチウムオルガニル、例えば、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、n−ブチル−、第二ブチル−、第三ブチル−、フェニル−、ジフェニルヘキシル−、ヘキサメチレンジ−、ブタジエニル−、イソプレニル−、ポリスチレンリチウム、または多官能性リチウムオルガニル、例えば、1,4−ジチオブタン、1,4−ジチオ−2−ブテンまたは1,4−ジチオベンゼンが使用される。第二ブチルリチウム(s−BuLi)が有利である。
【0025】
リチウムオルガニルの必要量は、さらに使用する金属オルガニルの所望の分子量、種類および量、ならびに重合温度に応じる。一般的には、これらは、全体のモノマーの量に対して、1ppm(w)〜2質量%の範囲内、有利に100ppm(w)〜1質量%、特に1000〜10000ppm(w)の範囲内にある。
【0026】
種々のリチウムオルガニルを一緒に使用することもできる。
【0027】
重合は、溶剤の存在で行うことができる(溶液重合)。この溶剤は、重合条件下で不活性であるのが有利である。特に、脂肪族、同素環式または芳香族炭化水素または炭化水素混合物、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クメン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンまたはメチルシクロヘキサンが適切である。95℃を上回る沸点を有する溶剤を使用するのが有利である。トルエンが特に有利に使用される。
【0028】
有利な実施態様では、ゴム溶液(すなわち方法の工程1))を製造する際に、アニオン重合に遅延を生じる化合物を併用しない。よって、工程1)では、遅延剤(=重合速度を低くする添加物)を使用しないのが有利である。
【0029】
このことは、ゴム合成、すなわち、HIPSを製造するための全体の方法の生産能を一般に決定するプロセス工程を促進する利点がある。従って、本発明による方法を使用する場合には、ゴム合成は、もはやHIPS法のキャパシティーを決定する“障害”ではない。
【0030】
単にジエンモノマーだけをゴムの製造に使用する場合には、工程1)ではホモポリジエンゴムが得られる。この場合には、ホモポリブタジエンゴム、省略するとポリブタジエンが有利である。ポリブタジエンは、モル平均分子量M30000〜300000、特に50000〜250000、とりわけ有利には60000〜200000g/molの平均分子量を有する。Mは、公知の方法でゲル透化クロマトグラフィー(GPC)により、通常は溶剤としてのテトラヒドロフラン(THF)中でポリブタジエン−校正標準を用いて決定される。
【0031】
ジエンモノマーの他に、スチレンモノマーをゴムモノマーとして使用すると、ジエン−スチレンモノマーのコポリマーゴムが得られる。ブタジエン−スチレン−コポリマーゴムが有利である。ここで、ブタジエン単位とスチレン単位は、ランダムな配置または有利にはブロックの形で配置することができる。後者のコポリマーは、通常はスチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーと称され、有利である。
【0032】
よって、ゴムはポリブタジエンとスチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーから選択するのが有利である。
【0033】
スチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーは、自体公知の方法によりアニオン重合により得られるような、例えば、線状2ブロックコポリマーのS−Bであるか、または3ブロック−コポリマーのS−B−SもしくはB−S−Bであることができる(S=スチレンブロック、B=ブタジエンブロック)。これらは、例えば、自体公知の方法によりアニオン重合により得られる。ブロック構造は、実質的に、まずスチレンだけをアニオン重合し、これによりスチレンブロックが生じる結果得られる。スチレンモノマーを消費した後に、モノマーブタジエンを添加し、これをアニオン重合してブタジエンブロックにすることによりモノマーが変化する(いわゆる連続重合)。得られる2ブロックポリマーのS−Bは、所望の場合にスチレン上で新たにモノマーが変化することにより重合して3ブロックポリマーのS−B−Sになる。
【0034】
3ブロックコポリマーの場合には、2つのスチレン−ブロックが同じ大きさ(同じ分子量、すなわち、対称的な構成S−B−S)を有するか、または種々の大きさ(異なる分子量、すなわち、非対称的な構成S−B−S)であることができる。同様のことは、ブロックコポリマーB−S−Bの2つのブタジエン−ブロックにも当てはまる。自明ながら、S−S−BもしくはS−S−BまたはS−B−BもしくはS−B−Bのブロック配列も可能である。前記のことは、ブロックの大きさに関する指標である(ブロックの長さもしくは分子量)。ブロックの大きさは、例えば、使用するモノマーの量と重合条件による。
【0035】
“柔らかい”弾性ブタジエンブロックBまたはブロックBの代わりに、ブロックB/Sもある。ブロックB/Sは、同様に柔らかく、かつブタジエンとスチレンを例えば、ランダムに分布させて含有するか、またはテーパーな構造(テーパーとは、スチレンに富む状態からスチレンが乏しい状態への勾配または、その逆を意味する)として含有することができる。ブロックコポリマーが複数のB/S−ブロックを含有する場合には、絶対量と、個々のB/S−ブロック中のスチレンとブタジエンの相対比は同じであるか、または異なっていてよい(種々のブロック(B/S)、(B/S)などを生じる)。ブロックB/Sは、その構造がランダムであるか、またはテーパーであるかまたは異なっているには左右されない(まとめて、“ミックス”ブロックとも称する)。
【0036】
スチレン−ブタジエンブロックコポリマーとして、4個のブロックコポリマーおよびポリブロックコポリマーが適切である。
【0037】
前記のブロックコポリマーは、(前記の)線状構造または分枝もしくは星状構造を有することができる。分枝ブロックコポリマーは、公知の方法で、例えば、ポリマー主鎖へポリマーの“分枝”がグラフト重合することにより含有することができる。
【0038】
星状構造のブロックコポリマーは、例えば、リビングアニオン末端鎖と少なくとも1個の二官能性カップリング剤との反応により得ることができる。このようなカップリング剤は、例えば、US-PS3985830、3280084、3637554および4091053に記載されている。エポキシ化グリセリド(例えば、エポキシ化されたアマの種油または大豆油)、SiClのようなハロゲン化ケイ素、またはジビニルベンゼン、さらに多官能性アルデヒド、ケトン、エステル、無水物またはエポキシドが有利である。ジエチルカーボネートまたはエチレンカーボネート(1,3−ジオキソラン−2−オン)のようなカーボネートも同様に有利である。二量体化には、ジクロロジアルキルシラン、テレフタルアルデヒドのようなジアルデヒドおよびエチルホルミエートもしくはエチルアセテートのようなエステルが適切である。
【0039】
同じまたは異なるポリマー鎖のカップリングにより、対称または非対称の星状構造を製造することができる。すなわち、個々の星のアームは、同じまたは異なっていてよく、特に種々のブロックS、B、B/Sもしくは種々のブロックの連続を含有することができる。星状形のブロックコポリマーの更なる詳細は、例えばWO-A00/58380から引用することができる。
【0040】
使用されるゴム(例えば、スチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーまたはホモポリブタジエン)の残留ブタジエン含有量は、200ppm、有利に50ppm、特に5ppmを下回るべきである。
【0041】
スチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーゴムは、50000〜250000、有利に140000〜180000、例えば約160000〜165000g/molの質量平均分子量Mを有する少なくとも1個のブタジエンブロックを含有する。
【0042】
同様に、他の有利な実施態様では、ゴムのブタジエン含有量は、溶剤なしのゴムに対して、70〜100、有利に75〜95であり、特に80〜90質量%である。
【0043】
有利な実施態様では、方法の工程1)で得られるゴム溶液の固形分(FG)は、20〜40、特に25〜40、とりわけ有利に28〜37質量%、例えば、約30〜35質量%である。
工程2)
本発明による方法の2番目の工程では、工程1)で得られるゴム溶液に、ゴム溶液中のアルミニウム/リチウムのモル比が1より大きくなるように、すなわち、アルミニウムオルガニルを添加した後に、得られる溶液中のAl/Liのモル比が>1であるような量で、アルミニウムオルガニル添加する。
【0044】
アルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、ゴム溶液中のAl/Liのモル比が0.5よりも大きく、すなわちジアルキルアルミニウムフェノラートを添加した後に、得られる溶液中のAl/Liのモル比が0.5よりも大きくなるような量で添加する。
【0045】
有利には、Al/Liのモル比が1.01〜10、特に有利に1.05〜2であるような量でAl−オルガニルを添加する。これにより、僅かなモル過剰のアルミニウムで既に十分である。
【0046】
アルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、有利にAl/Liのモル比が0.51〜10であるような量で添加する。
【0047】
Al/Liのモル比が1よりも大きい場合に、リチウムオルガニルにより開始するアニオン重合反応にとって、アルミニウムオルガニルが“ストッパー”として作用するようである。すなわち、Al/Liのモル比が>1まで工程2)でAlオルガニルを添加することにより、工程1)で始まったアニオン重合が中断するようである。しかし、Al−オルガニルを添加することにより、リビングポリマー鎖が終了するのではなく、むしろ更に進行するようである。ところが、重合の反応速度は、モル過剰の遅延剤Al−オルガニルによって0まで下がる。よって、工程2)でのAl−オルガニルの添加により、重合反応が終了するのではなく、ポリマー鎖は生きながら、単に休止“凍結”されているようである。
【0048】
前記の中断は、Al/Liのモル比が0.5を上回る場合にジアルキルアルミニウムフェノラートにも当てはまる。
【0049】
アルミニウムオルガニルとして、式RAlのようなものを使用することができ、ここで、Rは相互に独立に水素、ハロゲン、C〜C20−アルキルまたはC〜C20−アリールを意味する。有利なアルミニウムオルガニルは、トリエチルアルミニウム、トリ−イソブチルアルミニウム(TIBA)、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリ−イソ−プロピルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウムのようなアルミニウムトリアルキルである。特に有利なのは、トリイソブチルアルミニウムを使用する場合である。アルミニウムオルガニルとして、アルキルアルミニウム化合物またはアリールアルミニウム化合物の部分的または完全な加水分解、アルコール分解、アミノ分解または酸化により生じるようなものを使用することもできる。例は、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチル−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム(CAS-Nr.56252-56-3)、メチルアルミノキサン、イソブチル化メチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、テトライソブチルジアルミノキサンまたはビス(ジイソブチル)アルミニウムオキシドである。
【0050】
すでに説明したように、ジアルキルアルミニウムフェノラート、例えば、ジイソブチルアルミニウム(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノラート)はアルミニウムオルガニルとして適切である。ジアルキルアルミニウムフェノラートは、特殊な場合に、他の量(モル比)で使用することができる(前記参照)。
【0051】
種々のアルミニウムオルガニルを一緒に使用することもできる。
【0052】
通常は、Al−オルガニルをゴム合成で使用される反応器中に添加する(これに関しては、工程3)での説明を参照)。
工程3)
本発明による方法の3番目の工程では、工程2)で得られた溶液にスチレンモノマーを添加する。
スチレンモノマーとして、工程1)で挙げたスチレンモノマー、特にスチレンが用いられる。工程1)のように、工程3)でのスチレンモノマーの他に更なるコモノマーを併用してもよい。このコモノマーの割合は、工程3)で使用されるモノマーの全体量に対して、有利には0〜50質量%である。コモノマーとして、工程1)で挙げたコモノマーが適切である。
【0053】
方法の工程3)では、スチレンの他に更なるコモノマーを使用しないのが好ましい。
【0054】
工程3)で添加されるスチレンモノマー(および場合により更なるコモノマー)は、工程2)で得られるゴム溶液の希釈に役立つ。一般的にはゴム合成(工程1)とスチレンハードマトリックスの重合(工程4)下記参照)は、異なる反応器中で行われ、従って、ゴム溶液を、ゴム合成反応器からハードマトリックス重合に使用される反応器中に移さなくてはならない。一般的に高粘度のゴム溶液は、スチレンで希釈した後に簡単な方法でポンプにより運ばれる。希釈がない場合には、ゴムの高い粘性に基づき簡単なポンプ輸送が困難であるか、または不可能である。このことは、費用のかかる輸送手段を必要とするであろう。
【0055】
工程3)で添加されるスチレンモノマーは、希釈剤であると同時に、後続の方法工程4)でスチレン−ハードマトリックスを重合するための付加的なモノマーである。従来技術との相違点は、反応させて最終生成物にする反応相手で希釈すること(すなわち、さらに除去する必要がない)であり、かつ最終生成物であるHIPSから再びしなくてはならない溶剤で希釈するのではないことである。
【0056】
工程2)のアニオン重合反応は、Alオルガニルを添加することにより中断(凍結)され、かつスチレンモノマーでの希釈が、Al/Li−モル比を変化させないので、工程3)で添加したスチレンモノマーは、まだ重合されない。すなわち、方法の工程3)は工程2)と同様に重合段階ではない。
【0057】
工程3)では、中断したゴム溶液(ゴムと不活性溶剤)とスチレンモノマーから成る混合物(溶液)が得られる。この混合物を後続の工程4)で重合してHIPSにする。
【0058】
有利な実施態様では、方法の工程3)で得られる混合物の固形分(FG)は5〜25、有利に14〜18、特に有利には15〜17質量%、例えば、約16〜16.5質量%である。
工程4)
本発明による方法の4番目の工程では、工程3)で得られた混合物に、リチウムオルガニル、またはリチウムオルガニルとアルミニウムオルガニルを、混合物中のAl/Liのモル比が1よりも小さく、すなわち、リチウムオルガニルまたはリチウムオルガニルとアルミニウムオルガニルを添加した後に、得られる溶液中のAl/Liのモル比が<1であるような量で添加し、かつ混合物をアニオン的に重合する。
【0059】
アルミニウムオルガニルとして、ジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、ゴム溶液中のAl/Liのモル比が0.5未満であるような量で、これを添加する。すなわち、ジアルキルアルミニウムフェノラートを添加した後に、得られる溶液中のAl/Liのモル比が<0.5であるような量で添加される。
【0060】
有利には、Al/Liのモル比が0.5〜0.99、特に有利には0.8〜0.97であるようなモル比で、Liオルガニル、もしくはLiオルガニルとAlオルガニルを添加する。よって、僅かなモル過剰のリチウムで十分である。
【0061】
アルミニウムオルガニルとして、ジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、Al/Liのモル比が0.2〜0.49であるように添加するのが有利である。
【0062】
工程4)でのリチウムもしくはアルミニウムオルガニルとして、工程1)もしくは2)で既に挙げた化合物が該当する。この場合に、工程1)と4)で異種または同種のLiオルガニルを使用し、工程2)と工程4)で異種または同種のAl−オルガニルを使用することができる。同じLi−オルガニルもしくはAl−オルガニルを使用するのが有利である。
【0063】
方法の工程2)でAlモル過剰(Al/Liのモル比>1)により中断(凍結)した重合反応は、工程4)でのLiモル過剰により、いわば“解凍”が再び開始する。Al/Liのモル比が<1までLi−オルガニルを添加することにより、開始剤であるLi−オルガニルの過剰が調整され、これは予め中断したアニオン重合を再び開始させる。
【0064】
前記の原則は、Al/Liのモル比が<0.5の特殊なジアルキルアルミニウムフェノラートにも当てはまる。
【0065】
工程4)で再び開始した重合の間に、モノマーはゴム分子のリビングポリマー鎖上で重合し、かつそれ自体が重合してハードマトリックスを形成している。よって、工程4)では、マトリックス重合の他に、ゴムでの重合、すなわちゴムの成長が開始しているようである。特に、スチレン−ブタジエンブロックコポリマーゴムの場合には、さらにスチレンモノマー分子を付加重合することにより、工程4)ではスチレンブロックが増大するようである。
【0066】
従って、本発明による方法によれば、おそらくゴム合成の一部は、マトリックス重合の工程の方向へ時間的に“後ろの方へ”移動している。これは、全体の方法を速くし、その速度を決定する工程は、上記のような一般的なゴム合成である。
【0067】
リチウムオルガニルだけを添加することにより、またはリチウムオルガニルとアルミニウムオルガニルを添加することにより、リチウムのモル過剰を調節することができる。後者の方法は有利である。それというのも、リチウムオルガニルだけを添加すると、多くの場合に、アニオン重合の反応速度が速く上がりすぎてしまい、問題のある反応制御につながるからである。
【0068】
この場合に、Li−オルガニルとAl−オルガニルを相互に別々に、または有利には混合物として添加することができる。このようなAl−オルガニルとLi−オルガニルから成る開始剤−遅延剤混合物中のAl/Liのモル比は重要ではなく、例えば、Al/Liが0.1〜10のように広い範囲で変化させることができる。実質的に方法の工程4)で得られる反応混合物は、1未満のAl/Liモル比を有することが重要である。
【0069】
よって、開始剤−遅延剤混合物中の重要ではないAl/Liモル比と、工程4)の反応混合物中の本発明の重要なAl/Liモル比とを区別すべきであり、前記工程は工程1)からのゴム、溶剤およびLi−オルガニル−開始剤、工程2)からのAl−オルガニル、工程3)からのスチレンモノマー希釈剤および工程4)からの更なるLi−オルガニルまたは、Li−オルガニルとAl−オルガニルを有する。
【0070】
工程2)中では、僅かにモル過剰のAlだけで調節するのが有利であるので、反応混合物中のAl/Liモル比を目的値(<1)まで下げるために、工程4)では適当に僅かなLi過剰の開始剤−遅延剤混合物を添加することで十分である。例えば、約0.9のAl/Liモル比を有する開始剤−遅延剤混合物を使用することができる。
【0071】
前記の原則は、同様にAl/Liのモル比が<0.5のジアルキルアルミニウムフェノラートにも当てはまる。本発明による工程1)、2)および4)で使用されるLi−オルガニルとAl−オルガニルは、このままでまたは(有利に)適切な溶剤中に溶解した形または懸濁した形で使用される。
【0072】
特に、工程4)の開始剤−遅延剤混合物の製造は、有利に溶剤もしくは懸濁剤を併用して行われる(Li−オルガニルもしくはAl−オルガニルの溶解度に応じる、以後、まとめて溶剤と称する)。溶剤として、特に不活性炭化水素、例えば、脂肪族、脂環式または芳香族炭化水素、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキセン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリンまたはパラフィン油、またはこれらの混合物が適切である。トルエンが特に有利である。
【0073】
有利な実施態様では、例えば、トルエンのような不活性炭化水素中に溶解させた工程2)のアルミニウムオルガニルも使用される。
【0074】
工程4)のスチレンのアニオン重合は、開始剤の存在でスチレンのアニオン重合を行うのが有利であり、これはリチウムオルガニルとスチレンを混合し、引き続きアルミニウムオルガニルを添加することにより得られる。
【0075】
特に、工程4)のアニオン重合は、開始剤組成物の存在で行うことができ、これは、第二ブチルリチウムとスチレンを混合し、引き続きトリイソブチルアルミニウム(TIBA)を添加することにより得られる。
【0076】
スチレンとLi−オルガニルから出発して、オリゴマーのポリスチレン−リチウム化合物は、ポリスチリルアニオンとリチウムカチオンから[ポリスチリル]Liを形成し、ポリスチレンアニオンで重合が進行するのが有利である。
【0077】
リチウムオルガニルとスチレンの混合は、通常は、0〜80℃、特に20〜50℃、とりわけ有利に20〜30℃で混合することにより行われ、このために必要な場合には冷却しなくてはならない。はじめに所望の待ち時間を与えた後に、このように得られた混合物にアルミニウムオルガニルを添加するのが有利である。例えば、スチレンとリチウムオルガニルを混合した後に、5〜120分、有利に10〜30分おく。
【0078】
Al−オルガニルを添加した後に、開始剤組成物を所望の時間、例えば、少なくとも2分、有利に少なくとも20分、休止(エージング)することができる。新たに製造された開始剤組成物の休止またはエージングは、アニオン重合での再生可能な使用にとって多くの場合に有利であることができる。実験では、相互に別々に使用するか、または重合開始の直前に混合した開始剤成分は、多くの場合にあまり良好ではない再生可能な重合条件と重合特性を引き起こすことが示された。観察されたエージングプロセスは、混合工程よりもゆっくり進行する金属化合物の錯体化におそらく起因するものとみなされる。
【0079】
上記のように、工程4)ではモル過剰のリチウムにより重合が再び始動し、かつ反応混合物が重合して最終生成物である耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)になる。
【0080】
工程3)で添加したスチレンモノマーの量に応じて、工程4)で存在するスチレンモノマーの量は、所望のHIPSを得るために十分であるか、または不十分である。
【0081】
後者の場合、僅かなゴム含量を有する耐衝撃性ポリスチレンが望ましい場合には、工程4)では重合の前または間に、さらなるスチレンモノマーを添加することができる。これは、スチレンを更に添加するのが有利である。
【0082】
両方の工程3)と4)でスチレンモノマーを添加する場合は、工程4)中の割合は、工程3)と4)で添加されるスチレンモノマーの全体の量に対して、通常は20〜60、有利に30〜50質量%である。
【0083】
本発明による耐衝撃性ポリスチレンに対して、ゴム含量は、通常は5〜35、有利に14〜27、特に18〜23質量%である。
【0084】
ゴムとしてブタジエン−スチレン−コポリマーを使用する場合、すなわち、ゴムがブタジエンの他に、スチレンおよび/または他のコモノマーを含有する場合には、本発明による耐衝撃性ポリスチレンのブタジエン含量は、ゴム含量よりも当然少ない。
【0085】
ブタジエン含量(使用されるゴムとは無関係である)は、本発明による耐衝撃性ポリスチレンに対して、2〜25、特に8〜16、とりわけ有利に11〜13質量%である。
【0086】
工程4)で重合の間にスチレンを添加するのが有利である。例えば、工程4)の反応が連続的な場合には、重合反応器に次のものを連続的に供給することができる。
− ゴム、溶剤、Al−オルガニルとLi−オルガニル(Al/Liのモル比>1[>0.5])および希釈剤としてのスチレンを含有する工程3)で得られた溶液、
− リチウムオルガニル、またはAl/Liのモル比>1[>0.5]に調節するリチウムオルガニルとアルミニウムオルガニルの混合物、
− 更なるスチレンモノマー。
四角い括弧の中の値は、ジアルキルアルミニウムフェノラートをAl−オルガニルとして使用した場合に当てはまる。
更なる詳細
工程1)でゴムを生じるジエンモノマー、またはジエンモノマーとスチレンモノマーの重合は、バッチ式または連続的に行うことができる。工程1)では、例えば撹拌容器中でバッチ式で行うのが有利である。
【0087】
工程4)でのゴムの存在でのスチレンの重合は、WO98/07766で記載されているように、撹拌容器、循環反応器、管式反応器、タワー反応器または回転ディスク反応器中で、バッチ式で、または有利に連続的に行うことができる。重合は、少なくとも1個の逆混合する反応器(例えば、撹拌容器)と、少なくとも1個の逆混合しない反応器(例えば、タワー反応器)から成る反応器配列中で連続的に行うのが好ましい。
【0088】
スチレンに対するハードマトリックスの転化率は、一般的には90%を上回り、有利には99%を上回る。この方法は、原則的に完全な転化率を生じることができる。
【0089】
スチレンモノマーの重合が終了した後(工程4)の終了)に、反応をプロトン物質で中断するのが有利である。適切なプロトン物質は、例えば、イソプロパノール、フェノールのようなアルコール、水、または二酸化炭素水溶液のような酸、エチルヘキサン酸のような炭酸である。
【0090】
ゴム合成の際に使用される不活性溶剤ならびにその他の重合助剤は、この後に通常は除去される。このことは、自体公知の方法で、例えば、ベント式押出機において脱気するか、または他の通常の装置、例えば、部分蒸発器または真空容器を用いて行われる。特に、溶剤と助剤は、部分蒸発器と真空容器を組合せて使用して除去することができる。
【0091】
本発明による耐衝撃性ポリスチレン中のスチレンモノマーの含量は、通常は最大50ppm、有利には最大10ppmであり、スチレンダイマーとスチレントリマーの含量は、最大500ppm、有利に最大200ppmであり、特に有利に100ppm未満である。耐衝撃性ポリスチレン中のエチルベンゼンの含量は、有利には5ppmを下回る。
【0092】
相応の温度プロフィールにより、および/または過酸化物、特に高い分解温度を有するジクミルペルオキシドのような物の添加により、ゴム粒子の架橋が達成される。ここでは、過酸化物が重合の終了後、場合により、連鎖停止剤が添加された後、かつ脱蔵の前に添加される。しかし、柔らかい相を200〜300℃の範囲内の温度で重合後に熱的に架橋するのが有利である。
【0093】
本発明の耐衝撃性ポリスチレンはそのまま使用することができる。しかし、他の熱可塑性ポリマーと混合することもできる。例えば、通常の分子量を有するか、またはとり特に高い、もしくは特に低い分子量を有するアニオン重合またはラジカル重合したゴム不含もしくはゴム含有(=耐衝撃性)ポリスチレンと混合することもできる。
【0094】
破断点引張強さを高めるために、本発明による耐衝撃性ポリスチレンに、耐衝撃性ポリスチレンに対して、0.1〜10質量%、有利に0.5〜5質量%の鉱油(ホワイトオイル)を添加することができる。
【0095】
ポリマーは、通常の量の他の一般の添加剤と加工助剤、例えば、滑剤、離型剤、着色剤、例えば、顔料もしくは染料、難燃剤、抗酸化剤、光安定剤、繊維もしくは粉末充填剤、繊維もしくは粉末補強剤、または静電防止剤、またはその他の添加剤、またはこれらの混合物を含むことができる。これらの添加剤に関しては、例えば、Gaechter, Mueller, Plastics Additives, 4. Auflage, Hanser Verlag 1993, Reprint Nov.1996を参照されたい。
【0096】
本発明による耐衝撃性ポリスチレンと他のポリマーおよび添加剤もしくは加工助剤の混合は、自体公知の混合法により行うことができる。例えば、押出機、バンバリーミキサーまたはニーダー、ロールミルまたはカレンダー中で溶融させながら行うことができる。しかし、成分は“冷却”混合し、粉末またはペレットから成る混合物は、加工の際に初めて溶融および均質化させることができる。
【0097】
耐衝撃性ポリスチレンから、あらゆる種類の成形品(半完成製品、フィルムおよびフォーム)を製造することができる。
【0098】
よって、本発明の対象は、成形品、フィルム、繊維およびフォームを製造するための本発明による耐衝撃性ポリスチレンの使用、ならびに耐衝撃性ポリスチレンから得られる成形品、フィルム、繊維およびフォームである。
【0099】
本発明によるポリマーは、残留モノマーもしくは残留オリゴマーの含量が低いことに特徴付けられる。この利点は、特にスチレン含有ポリマーの場合に重要である。なぜならば、スチレン残留モノマーとスチレンオリゴマーの低い含量は、引き続く脱気を不必要にするからである。例えば、ベント式押出機中での脱気は、より高いコストならびにポリマーの不利な熱分解と結びつく(解重合)。
【0100】
本発明の方法は、ゴム合成の際にカップリング剤または停止剤を必要としない。さらに、ゴム溶液は比較的に高い固形分を有する。両方の特性は、著しく経済的に有利である:すなわち、ゴム合成が速くなり、これにより全体の方法(ゴム合成+スチレンハードマトリックスの重合)のキャパシティーが改善される。さらに、本発明による方法は、制御されたハードマトリックス−重合の遅延にも特徴付けられる。
【0101】
最後に、得られるHIPS溶液の固形分は、従来技術の方法よりも高く、このことは溶剤の分離を容易にする。
【0102】
本発明の耐衝撃性ポリスチレンは、高いレベルの機械特性と熱特性を有する。この方法の利点は、製品特性を犠牲にせずに達成される。
実施例
以下の化合物を使用した。その際、“精製された”とは、アルミノキサンで精製し、乾燥させたものを意味する:
− 精製されたスチレン、BASF社製、
− 精製されたブタジエン、BASF社製、
− シクロヘキサン中の12質量%溶液としての第二ブチルリチウム(s-BuLi)、Chemmetall社製の完成した溶液
− トルエン中の20質量%溶液としてのトリイソブチルアルミニウム(TIBA)、Crompton社製の完成した溶液、
− 精製されたトルエン、BASF社製。
【0103】
さらに、次のものから成る付加的混合物を使用した:
a)n−オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート2質量%;Ciba Speciality Chemicals社製のIrganox(R)1076を使用した。
b)水2質量%、および
c)ホワイトオイル96質量%;Wintershall社製のWinok(R) 70鉱油を使用した。
1.開始剤−遅延剤混合物の製造
25℃で、15リットルの撹拌容器中にトルエン5210gを予め装入し、撹拌しながらスチレン500gと、シクロヘキサン中の第二ブチルリチウム12質量%溶液518gを添加した。15分後に、トルエン中のトリイソブチルアルミニウム20質量%溶液863gを添加し、この混合物を40℃まで冷却した。Al/Liのモル比は、0.9であった。
2.ゴム溶液の製造とハードマトリックスの重合
まず、以下のゴムを製造し、次にスチレンと重合してHIPSにした。その際、数字はkg/molでのブロックの長さ(各ブロックの分子量)を示している。
例1a-c:ブタジエン−スチレン−2ブロックコポリマー160/22と165/23
例2:スチレン−ブタジエン−スチレン−3ブロックコポリマー22/165/25
例3:ホモポリブタジエン160。
【0104】
以下の一般的な規格では、変数A、B、Cなどは、変化するパラメーターまたは得られた特性を示している。各値は表1に挙げられている。
【0105】
バッチ式で運転する1500リットルの撹拌容器中に、トルエンAkgを予め装入し、撹拌しながらモノマー部分M1と混合した。混合物を50℃まで温度処理した後に、シクロヘキサン中の第二ブチルリチウム12質量%溶液Bmlを添加した。10分後に、混合物を60℃まで温度処理し、モノマー部分M2を添加した。さらに20分後に、蒸発冷却により60℃まで冷却し、モノマー部分M3を添加した。同様に、モノマー部分M4〜M7を用いて行った。それぞれ20〜30分間待ってから60℃まで冷却し、次のものを添加した。
【0106】
最後のモノマーを添加してから30分後に、新たに60℃まで冷却し、トルエン中のトリイソブチルアルミニウム20質量%溶液Cmlを添加した。DのAl/Liモル比とE質量%の固形分1を有するゴム溶液が得られた。
【0107】
前記の温度は、反応器内部の温度であった。引き続き、この溶液をモノマースチレンFkgで希釈し、これによりG質量%の固形分2を有する混合物が得られた。この混合物は、Hで挙げたおおよそのゴム、トルエンおよびスチレンの割合を有する。
【0108】
ゴムポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより試験した(ポリブタジエンもしくはポリスチレン標準を用いて校正、テトラヒドロフラン中GPC)。分布は、全ての例で単峰性であり、ブタジエンモノマーの残留含有量は全ての例で10ppm未満であった。表のJは、ゴムのブロック構成とブロック長さ(kg/molでの分子量)を示している。
【0109】
H−核磁気共鳴スペクトルによれば、ゴムのブタジエン含量は、1,2−ビニルの形のK%として示される。
【0110】
スチレンハードマトリックスの連続重合は、標準の馬蹄型撹拌機が備わったジャケット付きの50リットル撹拌容器中で行った。反応器は25バールの絶対圧に設定し、熱運搬体を用いて、かつ恒温的に反応を実施するための蒸発冷却により温度調節した。
【0111】
撹拌容器中に、115rpmで撹拌しながらスチレンLkg/h、上記のゴム溶液Nkg/hならびに開始剤/遅延剤混合物Pg/h(上記のNo.1参照)を連続的に供給し、反応器の外部温度を130℃で一定に保った。撹拌容器の取出し口では、転化率が35〜45%であり、反応混合物中のAl/Liモル比はQであった。
【0112】
同じ大きさの2個の加熱領域(1番目の領域の内部温度110℃、2番目の領域の内部温度160℃)が備わった29リットルの撹拌タワー反応器中へ反応混合物を送った。
【0113】
タワー反応器の排出物は、R質量%の固形分3を有した。連続的に添加溶液600g/hと混合し、この後にミキサーを通し、最後に250℃に加熱した管の領域に通した。この後に300℃で運転する部分蒸発器に通し、10mbarの絶対圧と280℃で運転される真空容器中で減圧した。ポリマー溶融物を運搬スクリューを用いて排出し、顆粒化した。転化率は定量的であった。
【0114】
耐衝撃性ポリスチレンの残りのモノマー含量をガスクロマトグラフィーによりスチレンとエチルベンゼンについて通常の方法で決定した。全ての例で、スチレンは5ppmを下回り、エチルベンゼンは5ppmを下回った。
表1の略語:
St モノマースチレン
Bu モノマーブタジエン
− 添加なし
S スチレンブロック
B ブタジエンブロック。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

1)例1b|例1c:例1cは、例1bに相当する。その際、例1cでは350g/hの開始剤−遅延剤混合物の代わりに500g/hを使用した。
2)スチレン部分M7は、最後のブタジエン部分M6の10分後に添加した。
3)ブタジエン部分M5は、その前のブタジエン部分M4の10分後に添加した。
4)ブタジエン部分M6は、その前のブタジエン部分M5の10分後に添加した。
5)ホモポリブタジエン。
3.耐衝撃性ポリスチレンの特性
得られた耐衝撃性ポリスチレンを顆粒化し、かつ乾燥させた。顆粒は押出機中で220℃の溶融温度、および45℃の鋳型表面温度で、相応する試験体に加工した。
以下の特性を決定した:
加熱撓み温度ビカーB:ビカー軟化点VSTとして決定、EN ISO 306による方法B50(力50N、加熱速度50℃/h)、EN ISO 3167より製造した試験体。
溶融体積流量MVR:200℃の試験温度と5kgの公称負荷でEN ISO 1133によるペレットにおいて決定。
【0117】
ノッチ付きシャルピー衝撃強さa: 23℃でミルドノッチを用いて、EN ISO 179/1eA(=試験体タイプ1、狭いエッジで衝撃方向e、ノッチタイプA V型)により決定した。
【0118】
引張強さσと公称破断点引張強さε:23℃でEN ISO 527(DIN EN ISO 527-1 and 527-2)による引張試験において、それぞれ決定した。
表2は結果を示している。
【0119】
【表3】

【0120】
この例は、本発明による方法を用いて、良好な熱特性と機械特性を有する耐衝撃性ポリスチレンを製造できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝撃性ポリスチレンをアニオン重合により製造する方法において、
1)ジエンモノマーから、またはジエンモノマーとスチレンモノマーから、リチウムオルガニルを開始剤として使用し、かつ溶剤を併用しながらアニオン重合によりゴム溶液を製造し、
2)得られたゴム溶液に、ゴム溶液中のアルミニウム/リチウムのモル比が1よりも大きくなるような量で、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合に、0.5よりも大きくなるような量でアルミニウムオルガニルを添加し、
3)得られた溶液をスチレンモノマーに添加し、
4)得られた混合物に、リチウムオルガニル、またはリチウムオルガニルとアルミニウムオルガニルを、混合物中のアルミニウム/リチウムのモル比が1未満になるような量で、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、0.5未満になるような量で添加し、かつこの混合物をアニオン重合させることを特徴とする、耐衝撃性ポリスチレンをアニオン重合により製造する方法。
【請求項2】
工程1)でゴム溶液を製造する際に、アニオン重合を遅延させる作用のある化合物を併用しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジエンモノマーとして、ブタジエンを使用し、スチレンモノマーとしてスチレンを使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ゴムは、ポリブタジエンとスチレン−ブタジエン−ブロックポリマーから選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
スチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーゴムは、50000〜250000g/molの質量平均分子量を有する少なくとも1個のブタジエンブロックを含有している、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ゴムのブタジエン含量は、70〜100質量%である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程1)で得られるゴム溶液の固形分は、20〜40質量%である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程3)で得られる混合物の固形分は、5〜25質量%である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程2)で得られる溶液のアルミニウム/リチウムのモル比が1.01〜10であるか、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、0.51〜10である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程4)で得られる混合物のアルミニウム/リチウムのモル比が0.5〜0.99であるか、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、0.2〜0.49である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
重合の前または間に、工程4)でさらにスチレンモノマーを添加する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法により得られる、耐衝撃性ポリスチレン。
【請求項13】
成形品、フィルム、繊維およびフォームを製造するための、請求項12に記載の耐衝撃性ポリスチレンの使用。
【請求項14】
請求項12に記載の耐衝撃性ポリスチレンから成る、成形品、フィルム、繊維およびフォーム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝撃性ポリスチレンをアニオン重合により製造する方法において、
1)ジエンモノマーから、またはジエンモノマーとスチレンモノマーから、リチウムオルガニルを開始剤として使用し、かつ溶剤を併用しながらアニオン重合によりゴム溶液を製造し、
2)得られたゴム溶液に、ゴム溶液中のアルミニウム/リチウムのモル比が1よりも大きくなるような量で、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合に、0.5よりも大きくなるような量でアルミニウムオルガニルを添加し、
3)得られた溶液をスチレンモノマーに添加し、
4)得られた混合物に、リチウムオルガニル、またはリチウムオルガニルとアルミニウムオルガニルを、混合物中のアルミニウム/リチウムのモル比が1未満になるような量で、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、0.5未満になるような量で添加し、かつこの混合物をアニオン重合させることを特徴とする、耐衝撃性ポリスチレンをアニオン重合により製造する方法。
【請求項2】
工程1)でゴム溶液を製造する際に、アニオン重合を遅延させる作用のある化合物を併用しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジエンモノマーとして、ブタジエンを使用し、スチレンモノマーとしてスチレンを使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ゴムは、ポリブタジエンとスチレン−ブタジエン−ブロックポリマーから選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
スチレン−ブタジエン−ブロックコポリマーゴムは、50000〜250000g/molの質量平均分子量を有する少なくとも1個のブタジエンブロックを含有している、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ゴムのブタジエン含量は、70〜100質量%である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程1)で得られるゴム溶液の固形分は、20〜40質量%である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程3)で得られる混合物の固形分は、5〜25質量%である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程2)で得られる溶液のアルミニウム/リチウムのモル比が1.01〜10であるか、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、0.51〜10である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程4)で得られる混合物のアルミニウム/リチウムのモル比が0.5〜0.99であるか、もしくはアルミニウムオルガニルとしてジアルキルアルミニウムフェノラートを使用する場合には、0.2〜0.49である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
重合の前または間に、工程4)でさらにスチレンモノマーを添加する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2006−503965(P2006−503965A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547536(P2004−547536)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011623
【国際公開番号】WO2004/039855
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【Fターム(参考)】