説明

耐貫通性織布および該織布を含有する製品

耐貫通性織布、および織布を含有する製品に関する。本発明の耐貫通性織布は、防弾性を維持しつつ防破片弾性が向上し、加えて、防刃性も向上することを特徴とする。このような耐貫通性織布の長所である特性の組み合わせは、本発明の耐貫通性織布を含有する製品にも継承される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐貫通性織布および該織布を含有する製品に関する。
【背景技術】
【0002】
耐貫通性織布、すなわち、銃器、刃物、および爆破物の攻撃から保護するための織布については、周知されている。銃器による攻撃においては、弾丸形状または破片弾形状の弾薬類が使用される可能性があるため、耐貫通性織布は少なくとも防弾および防破片弾の効果を有していなければならない。また、爆発物による攻撃においては、使用される耐貫通性織布には、防破片弾効果が不可欠となる。それゆえ、長年に渡って、防弾および防破片弾の機能を備えた耐貫通性織布に対する要求があり、ここ最近では、防弾性と同時に防破片弾効果が向上した織布への要求が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の課題は、防弾性を維持しつつ防破片弾効果が向上した耐貫通性織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は、ASTM D−885に基づき加撚せずに測定した破断強度が、少なくとも1100MPaである無撚の高機能繊維を、少なくとも1種含有する耐貫通性織布(I)であって、該高機能繊維は嵩高性の高機能繊維であり、その嵩高性の程度が、該嵩高性の高機能繊維を含有する織布(I)において、DIN53885(1997年10月)に基づいて、圧力0.5N/cmでの初期厚さ、および圧力5N/cmでの最終厚さの測定により決定される相対圧縮率が、高機能繊維が嵩高性を有しないという点でのみ耐貫通性織布(I)の製造と異なる製造による比較織布の相対圧縮率よりも、1.2〜5の範囲を有する因子fの値だけ大きいことを特徴とする耐貫通性織布(I)によって達成される。
【0005】
上記の「高機能繊維が嵩高性を有しないという点でのみ、本発明の耐貫通性織布(I)の製造と異なる」とは、「比較織布の製造において、本発明の耐貫通性織布(I)の製造と同一の出発原料、すなわち例えば、同一の分子量を有するポリマーを同一の紡糸方法で紡糸して同一の繊維高機能繊維とする」ことを、本発明においては意味する。しかしながら、比較織布となる耐貫通性織布の製造に使用される高機能繊維には、嵩高性を付与せず、本発明の耐貫通性織布(I)の製造の場合と同一の方法で比較織布に加工される。
【発明の効果】
【0006】
驚くべきことに、本発明の耐貫通性織布(I)は、防弾性を維持したままで、際立った防破片弾効果を示す。
【0007】
さらに驚くべきことに、本発明の耐貫通性織布(I)の発明に必要不可欠である嵩高性の高機能繊維は、繊維の破断強度として例えば20%、破断伸度として例えば11%の低下を形成するという繊維の機械的特性の著しい悪化に相関がある。このような著しい繊維特性の悪化の観点から、当業者は、このような繊維を含有する織布は、防弾特性および防破片弾特性もまた、同様に著しく低下すると予測するに違いない。このような繊維を含有する織布の防弾特性および防破片弾特性の低下が僅かであれば、むしろ当業者は驚くであろう。したがって、当業者は、このような繊維を含有する織布の防弾特性および防破片弾特性の低下が僅かなだけでなく、高い防弾特性を維持しつつ、加えて、防破片弾特性が著しく向上するという事実に対しては、全くもって驚くに違いない。
【0008】
さらに、驚くべきことには、本発明の耐貫通性織布(I)は、防刃効果の向上の点でも際立っている。これについては、嵩高に伴って高機能繊維の機械的特性が上記のように著しく悪化することを勘案すれば、なお驚くべきことである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましい実施形態においては、耐貫通性織布(I)は、加撚せずにASTM D−885に基づき測定された破断強度が、少なくとも▲2000▼1700MPa(120cN/tex)、好ましくは▲3000▼2160MPa(150cN/tex)である高機能繊維を含有する。
【0010】
耐貫通性織布(I)の別の好ましい実施形態においては、高機能繊維は、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、および例えば液晶ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維、または、これらのうち少なくとも2種の繊維の混合物から構成される群から選択される。本発明においてこれは、高機能繊維は例えば、アラミド繊維のみ、ポリベンゾオキサゾール繊維のみ、ポリベンゾチアゾール繊維のみ、または、例えば液晶ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維のみから構成されることを意味している。さらには、本発明においてこれは、高機能繊維は例えば、「アラミド繊維」および「ポリベンゾオキサゾール繊維および/またはポリベンゾチアゾール繊維および/または例えば液晶ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維」の混合物から形成され得ることを意味する。
【0011】
本発明でいうアラミド繊維とは、アラミド、すなわち芳香族ポリアミドから製造される繊維であり、少なくとも85%のアミド(−CO−NH−)結合が直接、2つの芳香族環に結合していることを意味している。本発明において特に好ましい芳香族ポリアミドは、ポリp−フェニレンテレフタル酸アミドである。このポリp−フェニレンテレフタル酸アミドは、p−フェニレンジアミンとテレフタル酸ジクロリドが1対1のモル比で重合反応した結果として生じるホモポリマーである。さらに本発明においては、p−フェニレンジアミンおよび/またはテレフタル酸ジクロリドの一部または全部が、別の芳香族ジアミンおよび/またジカルボン酸クロリドで置換された芳香族コポリマーも好適に用いることができる。
【0012】
本発明でいうポリベンゾオキサゾール繊維およびポリベンゾチアゾール繊維とは、ポリベンゾオキサゾールもしくはポリベンゾチアゾールから製造される繊維を意味し、すなわち、以下で示すように、窒素に結合する芳香族基が、好ましくは、炭素環式の構造単位を有するポリマーから製造される繊維である。しかしながら、上記の基はヘテロ環であってもよい。さらに、窒素に結合する芳香族基は、好ましくは、以下の構造式に示すような6員環である。しかしながら、上記の基は縮合であっても非縮合多環系であってもよい。
【0013】
【化1】

【0014】
好ましい実施形態においては、本発明の耐貫通性織布(I)を構成する繊維は、単糸繊度が0.4〜3.0dtex、特に好ましくは0.7〜1.5dtex、さらに好ましくは0.8〜1.2dtexの範囲にある高機能繊維である。
【0015】
別の好ましい実施形態においては、本発明の耐貫通性織布(I)は、総繊度が100〜6000dtex、特に好ましくは210〜3360dtex、さらに好ましくは550〜1680dtexの範囲にある高機能繊維である。
【0016】
本発明の耐貫通性織布(I)は、好ましくは、織物、経編物、緯編物もしくは単軸または多軸構造体である。
さらに、本発明の耐貫通性織布(I)は織物の2重積層体であってもよい。このような織物2重積層体の構造については国際特許第02/075238号で詳細に説明されている。
【0017】
本発明の耐貫通性織布(I)が織物である場合には、織物は、好ましくは、平織り、綾織り、繻子織り、もしくは、これらに由来するもの、または、これらの組み合わせである。本発明の耐貫通織布(I)は、例えば、棒レピア織機、バンドレピア織機、プロジェクタイル織機、エアジェット織機またはウォータジェット織機などを用いて、嵩高性の高機能繊維から製造することができる。
【0018】
本発明の耐貫通性織布(I)が編物である場合には、編物は、好ましくは、本発明の繊維を少なくとも1方向に互いに平行に走らせ、かつ、好ましくは、編物における重量および体積の割合が低くなるよう少なくとも1種の糸を用いて、編目形成とじによって形成することができる。
【0019】
本発明の耐貫通性織布(I)が多軸構造体である場合には、多軸構造体は、好ましくは、上記同様に平行に走る高機能繊維で構成される層の2〜6層の積層体、特に好ましくは2層の積層体から成り、1層を構成する高機能繊維は隣接する層を構成する高機能繊維に対して角度αをとる。角度αは、好ましくは0°〜90°、特に好ましくは20°〜70°の範囲にあり、値α=45°が特に好ましい。さらに、上記同様に平行に走る高機能繊維で構成される層の少なくとも2層からなる積層体は、好ましくは、多軸構造体における重量および体積の割合が低くなるよう少なくとも1種の糸を用いて、編目形成または縫目形成とじによって相互に結合される。
【0020】
本発明の耐貫通性織布(I)は、前述の高機能繊維を含み、当該高機能繊維が嵩高性の高機能繊維であることを特徴とする。高機能繊維の嵩高性は、基本的には、「嵩高性の高機能繊維を含有する本発明の耐貫通性織布(I)について、上述のDIN53885(1997年10月)に基づいて測定された相対圧縮率が、高機能繊維が嵩高性を有しないという点でのみ本発明の耐貫通性織布(I)の製造と異なる比較織布の相対圧縮率よりも、1.2〜5の範囲を有する因子fの値だけ大きく」なれば、嵩高性を付与する方法はいかなる方法であってもよい。
【0021】
嵩を高める方法としては、例えば、収縮方法がある。したがって、本発明の耐貫通性織布(I)の好ましい実施形態としては、嵩高性の高機能繊維は、好ましくは、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、または、これらのうち少なくとも2種の繊維の混合物である高機能繊維、および、例えばポリアクリロニトリル繊維等の収縮性繊維を含有する。このような繊維を製造するためには、高機能繊維および延伸ポリアクリロニトリル繊維のような収縮性繊維を混合し、混合繊維を製造して、混合繊維において収縮を実施する。これによって、高機能繊維自体は収縮しないが、収縮性繊維が収縮することによって嵩が高まり、その結果、所望する嵩高性の高機能繊維を得ることができる。
【0022】
また、嵩を高めるための好ましい方法としては、使用する高機能繊維にテクスチャー加工を実施する方法が挙げられ、例えば仮撚加工やニットデニット加工などがあり、特に好ましいのはニットデニット加工である。この場合のニットデニット加工とは、使用する高機能繊維を、例えば直径1〜50インチ、好ましくは5〜20ゲージの丸織編機に供給し、生じる筒形状編物に対して温度100℃より高温の水蒸気で、例えばオートクレーブで、10〜60分間、2度の処理を実施した後に、再び編物を解く加工である。その結果、ニットデニット加工された紡糸は波形状の構造を有し、しかも高機能繊維がアラミド繊維である場合であっても、波形状の構造を備える。当業者は、これまでアラミド繊維にテクスチャー加工を施すことは不可能だと見なしていたため、アラミド繊維については、当業者にとって驚くべき事実である。
【0023】
本発明の耐貫通性織布(I)は、上記のDIN53885(1997年10月)に基づいて測定した相対圧縮率が、1.2〜5の範囲を有する因子fの値だけ比較織布の相対圧縮率よりも大きい。なお、比較織布の製造は、比較織布の高機能繊維が嵩高性を有しないという点でのみ耐貫通性織布(I)の製造と異なる。上記の範囲の因子fの値であれば、本発明の耐貫通性織布(I)は、驚くべきことに、防弾効果を維持しつつ防破片弾効果が向上し、加えて、防刃効果の向上を示す。因子fの値が1.2よりも小さい場合には、上記のような特性の組み合わせは観察されない。また、因子fの値が5よりも大きい場合には、繊維軸方向の配向度が低いために、防弾に要求されるエネルギー分散が著しく低下する。
【0024】
防弾効果を維持しつつ防破片弾効果を向上し、加えて、防刃効果も向上するという上記の驚くべき特性の組み合わせは、因子fの値が好ましくは1.4〜4の範囲、さらに好ましくは1.6〜3.0の範囲にある場合、特に顕著となる。したがって、本発明の耐貫通性織布(I)の好ましい実施形態においては、因子fの値は1.4〜4の範囲であり、特に好ましい実施形態においては1.6〜3.0の範囲である。
【0025】
本発明の耐貫通性織布(I)の特性である、防弾効果を維持しつつ防破片弾効果を向上し、加えて、防刃効果も向上するという上記の驚くべき特性の組み合わせは、本発明の耐貫通性織布(I)を含有する製品にも継承される。したがって、少なくとも1つの本発明の耐貫通性織布(I)を含有する製品(AI)は、同時に、本発明の一部であり、本発明を周知する当業者であれば、製品(AI)の特定の実施形態に必要な本発明の耐貫通性織布(I)の枚数を、問題なく算出することができる。
【0026】
好ましい実施形態としては、本発明の製品(AI)は以下の製品である。
i)ヘルメット、車両装甲、セラミック複合板、または、樹脂マトリックスによって強化されたその他の保護構造品、もしくは、
ii)防破片弾マット、防弾ベスト、防破片弾ベスト、防刃ベスト、または、防弾ベストおよび防破片弾片ベストの組み合わせ等、これらのうち少なくとも2つの製品の組み合わせ。
【0027】
別の好ましい実施形態としては、本発明の製品(AI)は、防弾ベスト、防破片弾ベストおよび防刃ベストの組み合わせである。
【0028】
さらに、冒頭で示した本発明の基礎となる課題は、ASTM D−885に基づき加撚せずに測定した破断強度が、少なくとも1100MPaである無撚の高機能繊維を、少なくとも1種含有する耐貫通性織布(II)であって、該高機能繊維は嵩高性の高機能繊維であり、その嵩高性の程度が、嵩高性の該高機能繊維を含有する織布(II)において、DIN53885(1997年10月)に基づいて、圧力0.5N/cmでの初期厚さ、および圧力5N/cmでの最終厚さの測定により決定される相対圧縮率が、嵩高性を有しないという点でのみ嵩高性の織布と異なる比較織布の相対圧縮率よりも、1.2〜5の範囲を有する因子fの値だけ大きいことを特徴とする耐貫通性織布(II)によって解決される。
【0029】
上記の「比較織布が嵩高性を有しないという点でのみ、本発明の耐貫通性織布(II)と異なる」とは、「比較織布の製造において、本発明の耐貫通性織布(II)の製造と同一の繊維形成材料、すなわち例えば、同一の分子量を有するポリマーを、同一の紡糸方法で紡糸して繊維高機能繊維とし、続いて本発明の耐貫通性織布(II)と同一の方法で比較織布に加工する」ことを、本発明においては意味する。しかしながらこのとき、比較織布は、嵩高性を有しない。
【0030】
驚くべきことに、本発明の耐貫通性織布(II)も、防弾性を維持しつつ防破片弾効果を向上し、加えて、防刃効果の向上も際立っている。
さらに驚くべきことに、本発明の耐貫通性織布(II)に必要不可欠な嵩高性は、例えば破断強度などの機械的特性を著しく悪化する。このような特性悪化を勘案すれば、当業者は、防刃性だけでなく防弾特性および防破片弾特性も低下すると予測するに違いない。したがって、当業者は、機械的特性が悪化する本発明の織布(II)の防弾特性および防破片弾特性が低下しないだけでなく、高い防弾特性を維持しつつ、加えて、防破片弾特性が著しく向上すること、さらには、防刃性の向上を示すという事実に驚くに違いない。
【0031】
好ましい実施形態においては、耐貫通織布(II)は、加撚せずにASTM D−885に基づき測定された破断強度が、少なくとも1700MPa(120cN/tex)、特に好ましくは、2160MPa(150cN/tex)である高機能繊維を含有する。
【0032】
本発明の耐貫通性織布(II)の別の好ましい実施形態においては、高機能繊維は、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、液晶ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維、または、これらのうち少なくとも2種の繊維の混合物からなる群から選択される。これについては、上記の耐貫通性織布(I)についての説明において既に述べた事項と同様である。
【0033】
好ましい実施形態としては、本発明の耐貫通性織布(II)は、単糸繊度が0.4〜3.0dtex、さらに好ましくは0.7〜1.5dtex、特に好ましくは0.8〜1.2dtexの範囲にある高機能繊維を有する。
【0034】
別の好ましい実施形態としては、本発明の耐貫通性織布(II)は、総繊度が100〜6000dtex、さらに好ましくは210〜3360dtex、特に好ましくは550〜1680dtexの範囲にある高機能繊維を有する。
【0035】
本発明の嵩高性の耐貫通性織布(II)は、好ましくは、織物、経編物、緯編物もしくは単軸または多軸構造体である。
さらに、本発明の耐貫通性織布(II)は織物の2重積層体であってもよい。このような織物2重積層体の構造については、国際特許第02/075238号で詳細に説明されている。
【0036】
本発明の嵩高性の耐貫通性織布(II)が織物である場合には、織物は、好ましくは、平織り、綾織り、繻子織り、または、これらに由来するもの、もしくは、これらの組み合わせである。
【0037】
本発明の耐貫通性織布(II)が編物である場合には、編物は、好ましくは、本発明の繊維を少なくとも1方向に互いに平行に走らせ、かつ、好ましくは、編物における重量および体積の割合が小さくなるよう少なくとも1種の糸を用いて、編目形成とじによって形成することができる。
【0038】
本発明の嵩高性の耐貫通性織布(II)が多軸構造体である場合、多軸構造体は、好ましくは上記同様に平行に走る高機能繊維で構成される2〜6層の積層体、特に好ましくは2層の積層体から成り、1層を構成する高機能繊維は隣接する層を構成する高機能繊維に対して角度αをとる。角度αは、好ましくは0°〜90°、特に好ましくは20°〜70°の範囲にあり、値α=45°が特に好ましい。さらに、上記同様に平行に走る高機能繊維で構成される層の少なくとも2層からなる積層体は、好ましくは、多軸構造体における重量および体積の割合が低くなるよう少なくとも1種の糸を用いて、編目形成または縫目形成とじによって相互に結合される。
【0039】
本発明の耐貫通性織布(II)は、嵩高性の耐貫通性織布であることを特徴とする。織布の嵩高性は、基本的には、「本発明の耐貫通性織布について、上述のDIN53885(1997年10月)に基づいて測定された相対圧縮率が、嵩高性を有しないという点でのみ本発明の耐貫通性織布と異なる比較織布の相対圧縮率よりも、1.2〜5の範囲を有する因子fの値における大きく」なれば、嵩高性を付与する方法はいかなる方法であってもよい。
【0040】
嵩を高めるために適した方法としては、例えば収縮方法がある。これに関して、本発明の耐貫通性織布(II)の好ましい実施形態としては、上記の高機能繊維に加えて、延伸ポリアクリロニトリル繊維のような収縮性繊維を含有する。このような収縮性のある繊維が収縮することによって、耐貫通性織布の嵩が高まり、その結果、本発明の嵩高性の耐貫通性織布(II)が得られる。
したがって、本発明の好ましい実施形態としては、嵩高性の繊維織布(II)は、高機能繊維に加えて、収縮性ポリアクリロニトリル繊維のような収縮性繊維を含有する。
【0041】
本発明の耐貫通性織布(II)は、上記のDIN53885(1997年10月)に基づいて測定した相対圧縮率が、1.2〜5の範囲を有する因子fの値だけ比較織布の相対圧縮率よりも大きい。なお、比較織布は、比較織布が嵩高性を有しないという点でのみ耐貫通性織布と異なる。上記の範囲の因子fの値であれば、本発明の耐貫通性織布(II)は、驚くべきことに、防弾効果を維持しつつ防破片弾効果が向上し、加えて、防刃効果の向上を示す。因子fの値が1.2よりも小さい場合には、上記のような特性の組み合わせは観察されない。また、因子fの値が5よりも大きい場合には、繊維軸方向の配向度が低いために、防弾に要求されるエネルギー分散が著しく低下する。
【0042】
防弾効果を維持しつつ防破片弾効果の向上し、加えて、防刃効果も向上するという上記の驚くべき特性の組み合わせは、因子fの値が好ましくは1.4〜4の範囲、さらに好ましくは1.6〜3.0の範囲にある場合、特に顕著となる。したがって、本発明の耐貫通性織布(II)の好ましい実施形態においては、因子fの値は1.4〜4の範囲であり、特に好ましい実施形態においては1.6〜3.0の範囲である。
【0043】
本発明の耐貫通性織布(II)の特性である、防弾効果を維持しつつ防破片弾効果を向上し、加えて、防刃効果も向上するという上記の驚くべき特性の組み合わせは、本発明の耐貫通性織布(II)を含有する製品にも継承される。したがって、少なくとも1つの本発明の耐貫通性織布(II)を含有する製品(AII)は、同時に、本発明の一部であり、本発明を周知する当業者であれば、製品(AII)の特定の実施形態に必要な本発明の耐貫通性織布(II)の枚数を問題なく算出することができる。
【0044】
好ましい実施形態としては、本発明の製品(AII)は以下の製品である。
i)ヘルメット、車両装甲、セラミック複合板、または、樹脂マトリックスによって強化されたその他の保護構造品、もしくは、
ii)防破片弾マット、防弾ベスト、防破片弾ベスト、防刃ベスト、または、防弾ベストおよび防破片弾片ベストの組み合わせ等、これらのうち少なくとも2つの製品の組み合わせ。
【0045】
別の好ましい実施形態としては、本発明の製品(AII)は、防弾ベスト、防破片弾ベスト、および防刃ベストの組み合わせである。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の例で詳細に説明する。例では、以下の測定方法が用いらる。
破断強度および破断伸度は、ASTM D−885に基づき、加撚せずに測定した。
織物の相対圧縮率は、DIN53885(1997年10月)に基づき、圧力0.5N/cmでの初期厚さ、圧力5.0N/cmでの最終厚さの測定により決定した。
【0047】
<実施例1>
破断強度が200cN/tex、すなわち、2880MPaであり、破断伸度が3%であるポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維(トワロン(登録商標)タイプ2040、t0(t0とはTwist=0を意味し、すなわち非加撚繊維のことである)、テイジン・アラミド社から入手可能)に、次のようなニットデニット加工を施した。ポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維を、直径3.5インチ、13ゲージの丸織編機に供給し、得られた筒形繊維構造体に対して、温度120℃の水蒸気で30分間、2度の処理を施した後に、再び解いた。ニットデニット加工が施された繊維は、波形状の構造を備えた。
【0048】
ニットデニット加工を施したポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維は、破断強度が160cN/tex(2240MPa)、破断伸度が2.66%となり、各々20%、11%悪化していた。
ニットデニット加工が施されたポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維を、経糸および緯糸の繊維数を8.5/cmとした棒レピア織機により、目付165g/mの平織りに加工した。
得られたポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から成る織物の相対圧縮率は、28.3%であった。
【0049】
ニットデニット加工されたポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から成る織物16枚を、未加工状態、すなわち、洗浄プロセス等によって仕上げ剤を除去しない状態、あるいは、撥水加工を施さない状態で、1構造体に積み重ねた。得られた構造体を、温度20℃、相対湿度65%で20時間調湿し、目付2.6kg/mの構造体とした。調湿した構造体を、STANAG2920に基づく破片弾(1.1g破片弾)で射撃し、v50値(破片弾)、すなわち、全射撃の50%が防御され得る射撃速度を測定した。v50値(破片弾)は、483m/sであった(表1を参照)。
【0050】
<比較例1>
破断強度が200cN/tex、すなわち、2880MPaであり、破断伸度が3%であるポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維(トワロン(登録商標)、タイプ2040、930dtex、f1000、t0(t0とはTwist=0を意味し、すなわち非加撚紡糸のことである)、テイジン・アラミド社から入手可能)を、テクスチャー加工をしない以外は、実施例1と同様に織物に加工した。すなわち、織物に加工する前の繊維に、ニットデニット加工を施すことなく、また、他のいかなる嵩を高める処理も行わず、織物を作成した。
【0051】
テクスチャー加工を施さないポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から成る織物の相対圧縮率は、12.5%であった。
テクスチャー加工が施されていないポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から成る織物16枚を、未加工状態で1構造体に積み重ね、実施例1と同様に調湿した。得られた構造体の目付は2.6kg/mであった。また、実施例1と同様に、調湿された構造体のv50値(破片弾)を測定した。v50値(破片弾)は、453m/sであった(表1を参照)。
【0052】
<実施例2>
破断強度が200cN/tex、すなわち、2880MPaであり、破断伸度が3%であるポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維(トワロン(登録商標)、タイプ2040、930dtex、f1000、t0(t0とはTwist=0を意味し、すなわち非加撚紡糸のことである)、テイジン・アラミド社から入手可能)に、実施例1と同様にニットデニット加工を施した。
【0053】
ニットデニット加工を施したポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維は、破断強度が160cN/tex(2240MPa)、破断伸度が2.66%となり、各々20%、11%悪化していた。
ニットデニット加工を施したポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維を、実施例1と同様に織物に加工した。
ニットデニット加工が施されたポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から成る織物の相対圧縮率は、28.3%であった。
【0054】
ニットデニット加工が施されたポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から成る織物26枚を、未加工状態、すなわち、洗浄プロセス等によって仕上げ剤を除去しない状態、あるいは、撥水加工を施さない状態で、1構造体に積み重ねた。得られた構造体を、温度20℃、相対湿度65%で20時間調湿し、目付4.25kg/mの構造体とした。調湿した構造体を、タイプ9mmのDM41弾丸で射撃し、v50値(弾丸)を測定した。v50値(弾丸)は、473±10m/sであった(表1を参照)。
【0055】
<比較例2>
破断強度が200cN/tex、すなわち、2880MPaであり、破断伸度が3%であるポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維(トワロン(登録商標)、タイプ2040、930dtex、f1000、t0(t0とはTwist=0を意味し、すなわち非加撚紡糸のことである)、テイジン・アラミド社から入手可能)を、テクスチャー加工をしない以外は、実施例2と同様に織物に加工した。すなわち、織物に加工する前の繊維に、ニットデニット加工を施すことなく、また、他のいかなる嵩を高める処理も行わず、織物を作成した。
【0056】
テキスチャード加工を施さないポリp−フェニレンテレフタルアミド繊維から成る織物の相対圧縮率は、12.5%であった。
テクスチャー処理が施されていないポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から成る織物26枚を1構造体に積み重ね、実施例2と同様に調湿した。また、実施例2と同様に、調湿した構造体のv50値(弾丸)を測定した。v50値(弾丸)は、478±6m/sであった(表1を参照)。
【0057】
【表1】

【0058】
表1より、ニットデニット加工が施された繊維から成る本発明の織物は、良好な防弾性を維持しつつ(実施例2と比較例2を参照)、テクスチャー加工を施さない繊維から成る織物と比較して、6.6%高い防破片弾性(実施例1と比較例1を参照)を示していることが明らかである。
【0059】
<実施例3>
実施例1と同様にニットデニット加工が施されたポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から製造された織物25枚を、未加工状態で1構造体に積み重ねた。得られた構造体を実施例1と同様に調湿し、目付4.1kg/mとした。調湿した構造体に対して、「ホームオフィス科学開発支局(HOSDB))、英国警察のための防弾ベスト規定(2007年)、第3部:刃物およびスパイク防御」に基づき、P1Bナイフを用いて防刃テストを実施した。なお、このナイフについては、上記の規定の第6ページ第5.3章の図2および21ページに詳細に記載されている。
【0060】
テストにおいては、テスト対象の構造体を厚さ66mmの弾性発泡体の上に設置した。このとき、発泡体は人体を模し、鉄板の上に配置した。発泡体の上に設置したテスト対象の構造体を、上記のP1Bナイフにて、一定の運動エネルギーで突刺した。その後、発泡体へのナイフの貫入深さを測定した。発泡体への貫入深さは、一定のエネルギーでナイフによる攻撃を受けた場合に、攻撃を受けた体にナイフが刺し込まれる深さを模している。
続いて、ナイフの運動エネルギーを高め、発泡体へのナイフの貫入深さを測定した。結果を表2に示す。
【0061】
<比較例3>
比較例1と同様に、ニットデニット加工が施されていないポリp−フェニレンテレフタル酸アミド繊維から製造された織物25枚を、未加工状態で1構造体に積み重ねた。得られた構造体を実施例1と同様に調湿し、目付4.1kg/mとした。調湿した構造体に対して、「ホームオフィス科学開発支局(HOSDB))、英国警察のための防弾ベスト規定(2007年)、第3部:刃物およびスパイク防御」に基づき、実施例3と同様に、P1Bナイフを用いて防刃テストを実施した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、ニットデニット加工が施された繊維から成る本発明の織物で形成した実施例3の構造体は、ナイフの運動エネルギー10.2ジュールで突刺した場合には、発泡体へのナイフの貫入深さはわずか7mmであったのに対し、ニットデニット加工が施されていない繊維で形成した比較例3の構造体は、同一のナイフの運動エネルギーで突刺した場合、発泡体への貫入深さは32mmとなった。
【0064】
さらに表2に示すように、ニットデニット加工が施された繊維から成る本発明の織物を積層した実施例3の構造体は、ナイフの運動エネルギー36ジュールで突刺した場合には、発泡体へのナイフの貫入深さはわずか16mmであったのに対し、ニットデニット加工が施されていない繊維で形成した比較例3の構造体は、同一のナイフの運動エネルギーで突刺した場合、ナイフは発泡体を完全に貫通し、その結果、発泡体が配置されている鉄板にナイフが衝突した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D−885に基づき加撚せずに測定した破断強度が、少なくとも1100MPaである無撚の高機能繊維を、少なくとも1種含有する耐貫通性織布(I)であって、
該高機能繊維は嵩高性の高機能繊維であり、その嵩高性の程度が、嵩高性の該高機能繊維を含有する織布(I)において、DIN53885に基づいて、圧力0.5N/cmでの初期厚さ、および圧力5N/cmでの最終厚さの測定により決定される相対圧縮率が、高機能繊維が嵩高性を有しないという点でのみ耐貫通性織布(I)の製造と異なる製造による比較織布の相対圧縮率よりも、1.2〜5の範囲を有する因子fの値だけ大きいことを特徴とする耐貫通性織布(I)。
【請求項2】
高機能繊維は、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、または、これらのうち少なくとも2種の繊維の混合物からなる群から選ばれるものである請求項1に記載の耐貫通性織布(I)。
【請求項3】
織布は、織物、経編物、緯編物、もしくは、単軸または多軸構造体である請求項1または2に記載の耐貫通性織布(I)。
【請求項4】
嵩高性の高機能繊維は、高機能繊維と収縮性繊維とを含有する請求項1から3いずれか記載の耐貫通性織布(I)。
【請求項5】
嵩高性の高機能繊維は、テクスチャー加工が施された高機能繊維である請求項1から3いずれか記載の耐貫通性織布(I)。
【請求項6】
テクスチャー加工が施された高機能繊維は、ニットデニット加工が施された高機能繊維である請求項5に記載の耐貫通性織布(I)。
【請求項7】
因子fの値は、1.4〜4の範囲である請求項1から6いずれか記載の耐貫通性織布(I)。
【請求項8】
請求項1から7いずれか記載の耐貫通性織布(I)を含有する製品(AI)。
【請求項9】
製品(AI)は、以下のいずれかである請求項8に記載の製品(AI):
i)ヘルメット、車両装甲、またはセラミック複合板、あるいは、
ii)防破片弾マット、防弾ベスト、防破片弾ベスト、防刃ベスト、または、これらのうち少なくとも2つの製品の組み合わせ。
【請求項10】
ASTM D−885に基づき加撚せずに測定した破断強度が、少なくとも1100MPaである無撚の高機能繊維を、少なくとも1種含有する耐貫通性織布(II)であって、
該高機能繊維は嵩高性の高機能繊維であり、その嵩高性の程度が、嵩高性の該高機能繊維を含有する織布(II)において、DIN53885に基づいて、圧力0.5N/cmでの初期厚さ、および圧力5N/cmでの最終厚さの測定により決定される相対圧縮率が、嵩高性を有しないという点でのみ嵩高性の織布と異なる比較織布の相対圧縮率よりも、1.2〜5の範囲を有する因子fの値だけ大きいことを特徴とする耐貫通性織布(II)。
【請求項11】
高機能繊維は、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、または、これらのうち少なくとも2種の繊維の混合物からなる群から選ばれるものである請求項10に記載の耐貫通性織布(II)。
【請求項12】
嵩高性の織布は、織物、経編物、緯編物、もしくは、単軸または多軸組物である請求項10または11に記載の耐貫通性織布(II)。
【請求項13】
嵩高性の織布は、高機能繊維に加えて収縮性繊維を含有する請求項10から12いずれか記載の耐貫通性織布(II)。
【請求項14】
因子fの値は、1.4〜4の範囲である請求項10から13いずれか記載の耐貫通性織布(II)。
【請求項15】
請求項10から14いずれか記載の耐貫通性織布(II)を含有する製品(AII)。
【請求項16】
製品(AII)は、以下のいずれかである請求項15に記載の製品(AII):
i)ヘルメット、車両装甲、またはセラミック複合板、あるいは、
ii)防破片弾マット、防弾ベスト、防破片弾ベスト、防刃ベスト、または、これらのうち少なくとも2つの製品の組み合わせ。

【公表番号】特表2013−503983(P2013−503983A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527288(P2012−527288)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062524
【国際公開番号】WO2011/026783
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(502036011)テイジン・アラミド・ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】