説明

耐酸性コンクリート成形体、構造体、及び耐酸性コンクリート成形体の製造方法

【課題】 フライアッシュを大量に添加すると共に樹脂含浸させることにより耐酸性を向上させた耐酸性コンクリート成形体、構造体、及び耐酸性コンクリート成形体の製造方法を提案する。
【解決手段】 本発明の耐酸性コンクリート成形体は、結合材としてセメント78〜22重量%とフライアッシュ22〜78重量%とからなり、これに水を加え、必要に応じて骨材を加え、且つ樹脂含浸してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュを大量に添加すると共に樹脂含浸させることにより耐酸性を向上させた耐酸性コンクリート成形体、構造体、及び耐酸性コンクリート成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製品は、酸に対して劣化及び脆質化し易く、例えば耐酸性を要求する下水道の流路や酸性河川の護岸壁などにおいては特に耐久性、即ち耐酸性を有するコンクリート製品が用いられてきたが十分な強度特性と耐酸性を両立させるものはなかった。
この従来型の耐酸性を有するコンクリート製品としては、一般的にシリカ源、アルミナ源としてスラグを、アルカリ源として珪酸アルカリを混入したコンクリートなどが挙げられる。
上記の態様のコンクリートとして、例えば特許文献1〜3には、シリカ源、アルミナ源として廃棄物溶融スラグ、高炉スラグを添加し、アルカリ源として水ガラス、粉末珪酸ソーダを添加することが開示されている。また、特許文献4には、シリカ源、アルミナ源として非晶質カルシウムシリケートアルミネート系スラグ粉末、アルカリ源として水ガラスを添加することが開示されている。
一方、コンクリート製品に抗菌性を持たせることにより、硫酸や硝酸を生成する菌体の生息を抑制する試みも実施されている。
【特許文献1】特開2000−18438公報
【特許文献2】特開2000−53458公報
【特許文献3】特開2000−53459公報
【特許文献4】特開平10−218644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来のスラグ類を添加するコンクリートでは、スラグ類の添加率を多くするほど高い耐酸性を得られるものの、一定量以上の添加では、コンクリートの強度発現性が低下してコンクリート二次製品のような短期材齢での出荷が困難であるという問題があった。
また、前記従来の抗菌性を持たせたコンクリートでは、菌体の生育の抑制には効果があるかもしれないが、廃水自体が酸性の水路等では、コンクリートの劣化や脆質化を防止する効果はほとんどなかった。尚、下水路では汚水成分として含まれている蛋白質やアミノ酸あるいはアンモニウム塩類をエネルギー源として利用する硫酸還元菌、酸化菌が働き、結果として硫酸を産生するので排水自体が元々強酸性ではない。
【0004】
そこで、本発明者らは、コンクリートとしての所定強度は維持しつつ、耐酸性を向上させた耐酸性コンクリート成形体を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記に鑑み提案されたもので、結合材としてセメント78〜22重量%とフライアッシュ22〜78重量%とからなり、これに水を加え、必要に応じて骨材を加え、且つ樹脂含浸してなることを特徴とする耐酸性コンクリート成形体に関するものである。
【0006】
また、本発明は、上記耐酸性コンクリート成形体を、水路壁をして使用することを特徴とする耐酸性コンクリート構造体をも提案する。
【0007】
さらに、本発明は、結合材としてセメント78〜22重量%とフライアッシュ22〜78重量%と、これに水を加え、必要に応じて骨材を加え、混練、成型してなるコンクリート板をポリマー含浸することを特徴とする耐酸性コンクリート成形体の製造方法をも提案するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐酸性コンクリート成形体は、JIS規格のフライアッシュセメント(A種、B種、C種)として定められている中で、フライアッシュ量が最も多いC種に規定されている最大値30%以上に多量に添加しているものの、樹脂含浸することにより強度特性が低下せず、耐酸性を必要とする各種の用途に用いることができる。
また、本発明の耐酸性コンクリート成形体は、多量のフライアッシュを用いるので、従来からその有効活用が叫ばれ、多くの利用研究が実施されているにもかかわらず、リサイクル利用が十分に進んでいないなかで、廃棄材料としてのフライアッシュの有効利用を図ることができ、資源リサイクルの観点でも貢献が大きいものである。
【0009】
また、本発明の耐酸性コンクリート成形体の製造方法は、特に困難な工程や特殊な設備装置を必要とするものではないため、実用的価値が高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にて用いるフライアッシュは、火力発電所で石炭を燃焼させて電気エネルギーをつくりだした後に、副産物として生成される石炭灰である。フライアッシュはJIS規格(JIS A 6201)によれば、品質に応じてI種、II種、III種およびIV種が規定されているが、これらの規格に入らないその他の石炭灰(ボトムアッシュ、シンダーアッシュなど)も適宜粉砕や粒度調整することにより本発明に使用可能である。
このフライアッシュの主成分は、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al23)であり、この2つの成分で全体の70〜80%を占めている。その他少量の酸化第二鉄(Fe23),酸化マグネシウム(Mg0)、酸化カルシウム(CaO)などが含有されている。
このようなフライアッシュをセメント混和材として使用すること、即ちフライアッシュセメントは、既に知られた公知技術であり、前述のようにJIS規格も既に設定されている。但し、このJIS規格に定められたフライアッシュセメント(フライアッシュ20%以下)では、十分な耐酸性を得られない。
【0011】
また、樹脂を含浸させたポリマー含浸コンクリート(PIC)も、それ自体は既に知られた公知技術であり、硬化させたセメントモルタル又はコンクリートの微細な空隙に、樹脂のモノマーを含浸させた状態で重合させ、ポリマー化し、緻密な複合強化材料とする技術である。一般のコンクリートにこの技術を利用した通常のPIC材料は強度特性等については優れているものの、普通コンクリート材料と同様に耐酸性はあまりないことが知られている。
【0012】
本発明の耐酸性コンクリート成形体、及びそれを用いた構造体は、このようなPIC化技術を、フライアッシュを過剰に含有するフライアッシュセメントに導入した点が本発明の特徴である。
【0013】
この本発明におけるフライアッシュの全体に対する割合は22〜78重量%であり、従来のフライアッシュセメントに比べて明らかに含有量が多く、したがってセメント量は全体に対して78〜28重量%となる。より望ましくはセメント/フライアッシュが75〜25/25〜75であり、更には50〜25/50〜75がより一層望ましい。このフライアッシュの量が多い(即ちセメントが少ない)ほど、耐酸性が強くなるが、強度(圧縮強度)が低下する傾向にある。フライアッシュの含有量が22重量%に満たない場合、即ちセメントの割合が78重量%を越える場合には、樹脂含浸していても酸に侵されて溶出する成分が多くなり、フライアッシュの含有量が78重量%を越える場合、樹脂含浸していてもフライアッシュの脱離を防止できないこともある。
【0014】
フライアッシュセメントだけでは、前述のように十分な耐酸性を得られず、フライアッシュを増量しても圧縮強度が低くなり、耐酸性の向上効果も十分に表れなかった、また、フライアッシュの脱離が生ずることもあった。しかし、これを樹脂含浸してPIC化すると、強度(圧縮強度)と耐酸性が飛躍的に向上し、前記のようにフライアッシュを多量に、例えば50重量%以上含んでいても、高い強度と耐酸性を有し、またフライアッシュの脱離も防止されることが見出された。
【0015】
本発明におけるPIC化に用いる材料は、通常PIC化に用いられる公知の材料を用いることができ、例えば含浸させるモノマーとしては、各種のビニル系モノマー、アクリル系モノマー等を使用できるが、特に好適なモノマーとしてメチルメタクリレートやスチレン等を挙げることができる。その他の材料もPIC化に通常用いられる公知の材料を用いることができ、例えば重合開始剤としてAIBN(アゾ−ビス−イソブチロニトリル)やBPO(ベンゾイルペルオキサイド)を用いることができる。望ましくは耐酸性に優れた材料を好適に用いることができる。
【0016】
また、本発明の耐酸性コンクリート成形体としては、前記成分以外にも公知の各種骨材や混和材を添加してもよく、特に耐酸性を有する材料を好適に使用できる。例えば骨材としては、耐酸性を有する骨材、例えば石英質岩石、安山岩、玄武岩、陶磁器破砕物などを好適に使用できる。或いは廃棄物溶融スラグや高炉スラグを用いてもよい。
さらに、補強繊維を添加して繊維補強コンクリート(FRC)としてもよく、特に耐酸性を有する繊維、例えばビニロン繊維、高倍率で延伸したポリプロピレン(OPP)繊維などを好適に使用できる。
【0017】
さらに、本発明の耐酸性コンクリート成形体の製造条件等については、どのように実施してもよく、例えば材料の配合のうち、フライアッシュの含有量を本発明に規定する以外に、水量あるいは水−セメント比は、一般的なコンクリートあるいはモルタル等で使用される範囲(単位水量でおおよそ160〜200kg/m3、水−セメント比でおおよそ25〜60%)であればよく、骨材量についても一般的な範囲(おおよそ、細骨材で0〜1500kg/m3、粗骨材で0〜1500kg/m3)でよい。混和材量としては前記フライアッシュ以外にスラグやシリカフュームなどを併用することも可能であるが、フライアッシュ量以下に抑えることが望ましい。フライアッシュの効果を低減させるからである。なお、混和剤についても、特に規定されることはなく、要求される製品物性や品質あるいは施工性などに応じて適宜調整すればよい。また、これらの材料を練り混ぜる条件としては特に規定されることはなく、例えば傾胴式ミキサ、強制練りミキサ、二軸ミキサ、多段ミキサあるいはオムニミキサなどが利用できる。それぞれに一般的な運転条件で混練すればよい。練り混ぜ後はスランプロスなどによる作業性低下を考慮して早めに型枠などに打ち込んだり、施工するのがよい。耐酸性を付与するためのコンクリート硬化体の物性などの与件としては、一般的に空隙が出来る限り少なく、浸透・拡散の小さいことが要求されるが、これはとりもなおさず、機械的強度やその他の耐久性を向上させる要因としても働く。本発明にあっては、硬化体中の空隙に樹脂含浸を行うことにより、非常に小さい浸透・拡散特性とすることが出来るので。含浸処理する前の硬化体製造にあったっては空隙率の抑制をあまり気にせずに製造することが出来る。すなわち、空隙率の大きい配合や製造条件で製造された硬化体にあっては、樹脂含浸量が多くなり、空隙率の少ない硬化体に樹脂含浸を行った場合とほぼ同レベルの小さい空隙率となる結果、浸透・拡散性も同様なレベルに抑制できるので耐久性や強度などもおおむね同一レベルの製品が得られる。
【実施例】
【0018】
〔比較例1〕
セメント25重量%、フライアッシュ75重量%の割合で混合して結合材とした。この結合材に対して水、砂、混和剤(高性能減水剤)をそれぞれ外割で30%、200%、1.34%とし、それぞれの割合の材料を混錬し、モルタルとした(以下75%と表示し、配合例を表1に示した)。混錬したモルタルをΦ50×h100mmの円柱型枠に充填し、前養生20℃、2時間、その後蒸気養生60℃、3時間を行った。
得られた硬化体を、20℃5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は健全であり、質量変化率も浸漬材齢12週で0.5%であったが、圧縮強度は30N/mm2以下であった。
【0019】
〔比較例2〕
セメント50重量%、フライアッシュ50%重量%の割合で混合して結合材とした。この結合材に対して水、砂、混和剤(高性能減水剤)をそれぞれ外割で30%、200%、1.34%とし、それぞれの割合の材料を混錬しモルタルとした(以下50%と表示し、配合例を表1に示した)。混錬したモルタルをΦ50×h100mmの円柱型枠に充填し、前養生20℃、2時間、その後蒸気養生60℃、3時間行った。
得られた硬化体を、20℃、5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は比較的健全であったが、質量変化率は浸漬材齢12週で−26.7%であった。
【0020】
〔比較例3〕
セメント75重量%、フライアッシュ25重量%の割合で混合して結合材とした。この結合材に対して水、砂、混和剤(高性能減水剤)をそれぞれ外割で30%、200%、1.34%とし、それぞれの割合の材料を混錬しモルタルとした(以下25%と表示し、配合例を表1に示した)。混錬したモルタルをΦ50×h100mmの円柱型枠に充填し、前養生20℃、2時間、その後蒸気養生60℃、3時間行った。
得られた硬化体を、20℃、5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は腐食が激しく、質量変化率も浸漬材齢12週で−47.1%であった。
【0021】
〔実施例1〕
前記比較例1で得られた硬化体にメタクリル酸メチルを含浸した供試体を作製した。含浸手順は、供試体に真空脱気2時間行い、その後メタクリル酸メチルを注入し2時間含浸させ、75℃に加熱し重合を3時間行った。(得られたポリマー含浸硬化体を75%PICと表示した)
得られた硬化体を、20℃、5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は健全であり、圧縮強度も高強度を保持し、質量変化率も浸漬材齢12週で0.4%であった。
【0022】
〔実施例2〕
前記比較例2で得られた硬化体にメタクリル酸メチルを含浸した供試体を作製した。含浸手順は、供試体に真空脱気2時間行い、その後メタクリル酸メチルを注入し2時間含浸させ、75℃に加熱し重合を3時間行った。(得られたポリマー含浸硬化体を50%PICと表示した)
得られた硬化体を、20℃、5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は健全であり、圧縮強度も高強度を保持し、質量変化率も浸漬材齢12週で1.3%であった。
【0023】
〔実施例3〕
前記比較例3で得られた硬化体にメタクリル酸メチルを含浸した供試体を作製した。含浸手順は、供試体に真空脱気2時間行い、その後メタクリル酸メチルを注入し2時間含浸させ、75℃に加熱し重合を3時間行った。(得られたポリマー含浸硬化体を25%PICと表示した)
得られた硬化体を、20℃、5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は比較的健全であり、圧縮強度も高強度を保持し、質量変化率も浸漬材齢12週で−3.8%であった。
【0024】
〔比較例4〕
セメント100重量%を結合材とした。結合材に対して水、砂、混和剤(高性能減水剤)をそれぞれ外割で30%、200%、1.34%とし、それぞれの割合の材料を混錬しモルタルとした(以下0%と付記し、配合例を表1に示した)。混錬したモルタルをΦ50×h100mmの円柱型枠に充填し、前養生20℃、2時間、その後蒸気養生60℃、3時間行った。
得られた硬化体を、20℃、5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は腐食が激しく、質量変化率も浸漬材齢12週で−47.3%であった。
【0025】
〔比較例5〕
前記比較例4で得られた硬化体にメタクリル酸メチルを含浸した供試体を作製した。含浸手順は、供試体に真空脱気2時間行い、その後メタクリル酸メチルを注入し2時間含浸させ、75℃に加熱し重合を3時間行った。(得られたポリマー含浸硬化体を0%PICと表示した)
得られた硬化体を、20℃、5%硫酸水溶液中に浸漬し、浸漬材齢を1,2,4,8,12週間とした。所定の材齢期間経過後、重量変化率、圧縮強度を測定し、それぞれを表2及び表3に示した。その結果、硬化体表面は比較例1と比べ良好ではあるが腐食が激しいが、圧縮強度は高強度を保持していた。質量変化率は浸漬材齢12週で−21.2%であった。
【0026】
【表1】

【表2】

【表3】

【0027】
以上本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した構成を変更しない限りどのようにでも実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材としてセメント78〜22重量%とフライアッシュ22〜78重量%とからなり、これに水を加え、必要に応じて骨材を加え、且つ樹脂含浸してなることを特徴とする耐酸性コンクリート成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の耐酸性コンクリート成形体を、水路壁をして使用することを特徴とする耐酸性コンクリート構造体。
【請求項3】
結合材としてセメント78〜22重量%とフライアッシュ22〜78重量%と、これに水を加え、必要に応じて骨材を加え、混練、成型してなるコンクリート板をポリマー含浸することを特徴とする耐酸性コンクリート成形体の製造方法。

【公開番号】特開2006−327834(P2006−327834A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149230(P2005−149230)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(303004716)マテラス青梅工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】