説明

耐酸性乾式吹付け用モルタル材料及び該吹付け材料の製造方法

【課題】 耐酸性に優れ、吹付け時に発生する粉塵の低減及びリバウンド率を低減することができ、作業環境性に優れ、材料圧送性、吹き付け安定性に優れ、耐酸性及び圧縮強度に優れた、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料及び該モルタル材料の製造法を提供する。
【解決手段】 耐酸性乾式吹付け用モルタル材料は、カルシウムアルミネート系セメント、スラグ及び細骨材を含む粉体混合物と、ポリマーディスパージョン液とを含み、平均粒子径が1.2〜3.6mmで且つ最大粒子径5mm以上の細骨材を該粉体混合物中1〜10質量%含み、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料及び該耐酸性乾式吹付け用モルタル材料の製造方法に関し、特に、下水処理施設等の酸性雰囲気に晒されるコンクリート構造物に利用される乾式吹付け用モルタル材料における耐酸性を向上させ、粉塵の発生の低減を図り、かつリバウンド率が低く、乾式吹付け工法に用いる際の粉体圧送性を安定させる、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料及び該吹付け材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、下水処理コンクリート施設等では、コンクリート構造物が酸性雰囲気に晒されており、該コンクリート構造物が浸食して劣化する現象が生じていた。
これに対して、下水処理コンクリート施設を防食ライニングにより補修する工法が試みられており、防食塗装が標準仕様となっている。
【0003】
ライニング工法は、コンクリート構造物を断面修復して補修した上に、表面被覆を行なうことで補修する工法である。
しかし工程が複雑であり、工期が長期的になるため、下水処理施設を停止しなければならず、その場合には仮設備の手配等も必要となるため、工期が長くなるほど経済的負担が大きくなっている。
【0004】
例えば、特開2002−137954号公報(特許文献1)には、下水処理施設を補修するにあたり、耐酸性を向上させる材料として、(A)アルミナセメント40〜90重量部、(B)スラグ微粉末1〜40重量部、(C)最大粒径70μm以下のフライアッシュ1〜30重量部及び(D)アルカリ金属塩0.1〜6重量部を含有する水硬性組成物が記載されており、かかる水硬性組成物は、湿式吹付けに用いられる材料として開示されている。
【0005】
また同様に、特開2003−192422号公報(特許文献2)には、(A)鉄を、Fe23換算で5重量%以上含むアルミナセメント20〜80重量%、及び(B)フライアッシュや高炉スラグ等の潜在水硬性物質20〜80重量%を含有する無機系水硬性組成物が開示されており、かかる水硬性組成物は湿式吹付けに用いられる材料として開示されている。
【0006】
湿式吹付け工法は乾式吹付け工法と比較し、単位時間当たりの施工量が少なく、また一度に吹付けられる厚さが薄いため、特に厚い施工を求められる箇所では何層かに分けて吹付けるため工期の長期化が問題となる。
【0007】
一方、乾式吹付け工法に用いる乾式吹付け材料は、湿式吹付け工法に比べ単位時間当たりの施工量が多いことが大きな特徴であるが、吹付け施工時の粉塵発生量が多く、作業環境改善のための粉塵の低減が求められている。
【0008】
乾式吹付け工法は、湿式吹付け工法と異なり、粉体材料を空気圧送して、吐出吹付けノズル中で加水し、これを高圧エアで吹付け面に吹付けるシステムである。吹付けノズルの加水から高圧のエアで噴射されるまでの時間が極端に短く、粉塵低減剤を添加した吹付けコンクリートやモルタルを用いて乾式吹付け工法を行っても、かかる時間内に粉塵を凝集、低減することができず、吹付け施工時の粉塵を低減する効果は十分でない。
【0009】
また、特開2000−96824号公報(特許文献3)には、セメント、細骨材、粉末エマルジョン、及び繊維の混合物を空気圧送し、吹付用ノズルの手前で該混合物に、水を添加混合し吹付けることを特徴とするモルタルの吹付工法が記載されており、細骨材は、吹付設備の圧送性の面から粒子径4mm以下が好ましいと記載されている。
しかし、かかる吹付け材料では、吹付け時の粉塵発生量を抑制することはできず、また、粒径が小さいことからホース内に材料が滞留する可能性があり、安定した粉体圧送、吹付けが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−137954号公報
【特許文献2】特開2003−192422号公報
【特許文献3】特開2000−96824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、具体的には、耐酸性に優れ、吹付け時に発生する粉塵の低減及びリバウンド率を低減することができ、作業環境性に優れ、材料圧送性、吹付け安定性に優れ、圧縮強度に優れた、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料を提供することである。
さらに本発明の他の目的は、上記本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料を有効に製造することができる、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、耐酸性を有する乾式吹付け用モルタル材料に関して種々研究を重ねた結果、セメントとしてカルシウムアルミネート系セメント及びスラグ粉末に加えて、配合する細骨材の粒子径や配合割合を特定範囲等とする粉体混合物とし、また、別途調製した液体物と混合することで、耐酸性を向上させ、吹付け施工時のリバウンド率を低下し、粉塵発生が低減できる等の課題を解決することを見出し、さらに温度履歴を受けても長期にわたり強度安定を維持できることを見出したものである。
【0013】
本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料は、カルシウムアルミネート系セメント、スラグ粉末及び細骨材を含む粉体混合物と、ポリマーディスパージョン液とを含み、平均粒子径が1.2〜3.6mmで且つ最大粒子径5mm以上の細骨材を該粉体混合物中1〜10質量%含み、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%であることを特徴とする。
好適には、前記本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料においては、さらに粘土鉱物及び/又はチクソ材を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタルの製造方法は、セメント、平均粒子径が1.2〜3.6mmで最大粒子径5mm以上の細骨材、カルシウムアルミネート系セメント及びスラグ粉末を混合して、前記細骨材が粉体混合物中1〜10質量%含有される粉末混合物を調製し、別途、ポリマーと水とを混合してポリマーディスパージョン液を調製し、前記粉体混合物と前記ポリマーディスパージョン液とを、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%となるように配合することを特徴とする。
【0015】
好適には、前記本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料の製造方法は、前記粉体混合物に粘土鉱物及び/又はチクソ材が更に配合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料は、酸性雰囲気に晒されるコンクリート構造物を補修するにあたり耐酸性を大幅に向上させることができ、乾式吹付け施工時の粉塵を大幅に減少させることができるとともに、リバウンド率を低減でき、従って施工性や作業性を著しく改善し、更に、材齢初期から強度発現に優れ、また吹付け充填性(吹付け安定性)や温度履歴下の強度安定性に優れる。従って、コンクリート構造物の劣化に対する補修、補強に用いる材料として有効に利用することができる。
また、本発明の耐酸性乾式吹付けモルタル材料の製造方法は、本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料を有効に、また経済的に製造することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を以下の好適例を例示しつつ説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料は、カルシウムアルミネート系セメント、スラグ粉末及び細骨材を含む粉体混合物と、ポリマーディスパージョン液とを含み、平均粒子径が1.2〜3.6mmで且つ最大粒子径5mm以上の細骨材を該粉体混合物中1〜10質量%含み、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%である。
【0018】
本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料に含まれるカルシウムアルミネート系セメントとしては、アルミナを含み、水硬性カルシウム化合物を主体とするセメントであればその種類は限定されず、その具体例としては、CaO・2Al、CaO・Al、12CaO・7Al、11CaO・7Al・CaF、3CaO・Al、3CaO・3Al・CaSOなどと表される結晶性のカルシウムアルミネート類や、CaOとAl成分を主成分とする非晶質の化合物等を例示することができ、これらを単独で、あるいは混合して用いることができる。好適には、アルミナセメント等を用いることが好ましい。
【0019】
また、本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料に含まれる細骨材としては、特に限定されるものではなく、川砂、山砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂1〜7号等細骨材、または珪石粉、石灰石粉等の微粉末等を使用できる。
【0020】
本発明において使用される細骨材全体の平均粒子径は、1.2〜3.6mm、好ましくは1.4〜3.4mmの範囲である。
かかる範囲内の平均粒子径を有する、調整された細骨材を配合することで、粉体圧送安定性が向上し、さらに粉塵の発生やリバウンド率を、より有効に低減させることも可能となる。
ここで、本発明において粒子径はJIS A 1102「骨材のふるい分け試験方法」に準じて測定した値で、平均粒子径とは積算%分布曲線より求めた50%径の値をいうものとする。
【0021】
また、最大粒子径が5mm以上の細骨材は、粉体混合物中1〜10質量%含むものであり、好ましくは4〜8質量%である。
このようにすることで、ホース内での材料の滞留を防ぎ、圧送性が向上して安定した吹付け施工が可能となる。
【0022】
また、細骨材全体の含有量は、特に限定されないが、通常、上記セメント100質量部に対して、50〜300重量部であることが好ましく、100〜250質量部とすることがより好ましい。これは、かかる範囲であると補修箇所、特に鉄筋裏への充填性が良好であり、作業性及び圧送性に優れるからである。
【0023】
さらに本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料に含まれるスラグとしては、高炉スラグ、転炉スラグ、脱リンスラグ等のスラグ微粉末を1種以上配合したものが例示される。
そのブレーン比表面積は2000〜6000cm/g、好ましくは3000〜5000cm/gである。ブレーン比表面積が6000cm/gを超えると、粉体がホース内へ滞留しやすくなり、安定的な吹付け施工が困難となる可能性がある。
なお、本発明において、ブレーン比表面積はJIS R 5201「比表面積試験」に準じて測定した値をいうものである。
また配合量は、特に限定されないが、通常、上記セメント100質量部に対して、10〜300質量部であることが好ましく、100〜200質量部とすることがより好ましい。
これは、かかる範囲であると耐酸性が向上して、施工性にも優れ強度発現性も良好だからである。
【0024】
また本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタル材料には、望ましくはさらに粘土鉱物及び/またはチクソ材を含む。
粘土鉱物としては、メタカオリン、セピオライト、ヘクトライト等が例示され、少なくとも1種を配合することができる。
また配合量は、特に限定されないが、通常、上記セメント100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部とすることがより好ましい。
これは、かかる範囲で粘土鉱物を含有すると、更なる強度の増進を図ることができ、高温、例えば40℃で養生しても相転移による強度低減を十分に阻止することが可能となる。
【0025】
また、チクソ材としては、炭素繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維等を例示することができる。
また配合量は、特に限定されないが、通常、上記セメント100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部とすることがより好ましい。
これは、かかる範囲でチクソ材を含有すると、吹付けを行なった場合に、リバウンドやダレを、さらに有効に防止することが可能となる。
【0026】
また、本発明の上記効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種混和剤(例えば、減水剤、増粘剤、消泡剤等)を含有することもできるが、本発明においては、シリカヒューム、フライアッシュ、膨張材や収縮低減剤は含まない。
【0027】
上記カルシウムアルミネート系セメント、スラグ、細骨材、更に好適には、粘土鉱物やチクソ材、そして必要に応じて上記混和剤を混合して、吹付けモルタル材料を調製する際に用いる粉体混合物(ドライミックス粉末)とすることができる。
当該ドライミックス粉末は、現場で混合してもよいが、設備装置や作業の簡略化のために、予めプレミックスされることが望ましい。
【0028】
また、本発明の吹付けモルタル材料にはセメント混和用ポリマーディスパージョン液が含まれ、該ポリマーディスパージョンに含まれるセメント混和用ポリマーとしては、JIS A 6203に例示されるポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステルなどを主成分とするポリマーディスバージョンが例示でき、これらを単独でまたは混合して用いることができる。
再乳化形粉末樹脂は、粉末樹脂が水に再分散し再乳化するためには数十秒から数分かかり、吹付けノズル手前からノズル先端までのわずかな時間では均一に再乳化するのは困難であり、好ましくない。
特に好適には、スチレン/アクリル系ポリマーを用いることができ、かかるスチレン/アクリル系ポリマーのディスパージョン液を用いることが、耐久性の点から好ましい。
【0029】
かかる混和用ポリマーを水に分散させてセメント混和用ポリマーディスパージョン液とする。
かかる混和用ポリマーは、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15%、好ましくは2〜10質量%となるよう添加混和されていることが望ましい。かかる範囲であると、吹付けモルタルの強度を低下させず、粘性を良好に保持でき、粉塵の低減及び付着性に優れるからである。
【0030】
また、本発明の耐酸性乾式吹付け用モルタルの製造方法は、カルシウムアルミネート系セメント、平均粒子径が1.2〜3.6mmで、最大粒子径5mm以上の細骨材、スラグ、必要に応じて粘土鉱物、チクソ材や上記混和剤を混合して、前記細骨材が粉体混合物中1〜10質量%含有された粉末混合物を調製し、別途、ポリマーと水とを混合してポリマーディスパージョン液を調製し、前記粉末混合物と前記ポリマーディスパージョン液とをポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%となるように配合して調製される。
【0031】
ポリマーディスパージョン液は、該ポリマーディスパージョン液と上記ドライミックス粉体(粉末混合物)を混合する際に、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%、好ましくは2〜10質量%添加混和されている状態となるように調製しておくことが施工性の点から望ましい。
例えば、予め作製されたポリマーディスパージョン液に水を混合して希釈したポリマーディスパージョン液であっても、ポリマーと水とを混合したポリマーディスパージョン液であっても、吹付け施工の際にポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%、好ましくは2〜10質量%添加混和されている状態となれば、いずれのポリマーディスパージョン液も適用することができる。
このような範囲となるようにポリマーディスパージョン液を調製することで、吹付けモルタルの強度を低下させず、粘性を良好に保持でき、付着性を優れるものとすることができる。
【0032】
本発明の乾式吹付け用モルタル材料を吹付ける際には、前記粉末混合物と希釈ポリマーディスパージョン液とを、別個に搬送する乾式吹付け工法に適用されるものであり、好適には、吹付け用ノズルの中で両者を混合して、吹付け施工するものである。
【0033】
具体的には、かかるドライミックスモルタルを乾式吹付け装置に用いて、空気圧送し、別途予め混合したポリマーディスパージョン液をポンプ圧送し、両者を当該ノズル部分で混合し、断面修復箇所へ乾式吹付け工法を施工するものである。
【0034】
このように、ノズル内でドライミックスモルタルと、希釈ポリマーディスパージョン液とを均一に混合して、モルタル吹付けを施工することにより、材料の安定的な圧送及び施工が可能となり、また粉塵の発生を低減し、かつリバウンド率の低い、コンクリート構造物の劣化に対する耐酸性を有する補修及び補強工法、例えば下水処理施設、鉄道や道路等の高架橋、トンネル等の断面補修工法に有効に使用できる。
【実施例】
【0035】
本発明を次の実施例及び試験例により説明するが、これらに限定されるものではない。
使用材料
乾式吹付け用モルタル材料を調製するにあたって、以下の材料を使用して、吹付けモルタル材料を調製した。
・カルシウムアルミネート系セメント(CA):アサヒアルミナセメント1号(AGCセラミックス株式会社製)
・ポルトランドセメント(NC):普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
・スラグ粉末:高炉スラグ微粉末(ブレーン比表面積4000cm/g、ウツイ・デイシイ興産株式会社製)
・粘土鉱物:メタカオリン(平均粒子径1.4μm、林化成株式会社製)
・チクソ材(繊維):ポリオレフィン繊維(平均繊維長0.1mm、三井化学株式会社製)
・細骨材 :珪砂1号、2号、4号、5号、6号、7号
・膨張材 :商品名 サクス(住友大阪セメント株式会社製)
・セメント混和用ポリマーディスパージョン液:商品名 ライオンボンドA
(固形分45%、スチレンアクリル系ポリマーエマルション;住友大阪セメント株式会社製)
・水:水道水
【0036】
(実施例1〜5・比較例1〜14)
上記各材料を使用して、次の表1に示す配合割合で、アルミナセメント、高炉スラグ、粘土鉱物、チクソ材、細骨材を均質に混合して、ドライミックス粉末を調製した。
【0037】
次いで、東和式ロータリーガン吹付け機を用いて、上記各ドライミックス粉末を圧縮空気にてホース内を水平方向に60m圧送し、また別途、上記セメント混和用ポリマーディスパージョン液を水と予め混合した希釈ポリマーディスパージョン液を、ポンプにてホース内を水平方向に60m圧送し、当該ドライミックス粉体と、上記セメント混和用ポリマーディスパージョン液及び水が予め混合した希釈ポリマージョン液とを、表1に示す混合割合で、当該ノズル内で混合して乾式吹付け用モルタル材料とし、型枠体に垂直に乾式吹付けた。
【0038】
【表1】

【0039】
得られた各モルタル材料中のポリマー固形分/セメント質量比(%)、粒子径が5mm以上の細骨材量(質量%)、細骨材の平均粒子径(mm)を、下記表2に示す。
【0040】
型枠に吹付けた際の粉塵量、リバウンド率、圧縮強度及び圧縮強度のコア変動係数を下記のようにして測定して、その結果を表2に示す。
【0041】
(1)粉塵量
上記吹付けを2.0×4.0×3.0mの簡易密閉空間内で実施した際に、柴田科学社製デジタル粉塵計「LD−5D」を用いて、吹付け位置より3mの距離において壁面に対し約30°傾斜させて設置した30×45×15cmの木製型枠へ吹き終えたときの粉塵量をカウントした。その結果をカウント数(cpm)で示す。
評価基準:粉塵量が2500cpm未満を○とし、2500cpm以上を×と評価した。
【0042】
(2)リバウンド率(%)
上記粉塵量の評価と同じようにして、壁面に対し約30°傾斜させて設置した30×45×15cmの木製型枠に、吹付けた際のリバウンド率を測定した。
リバウンド率は、前記吹付け施工時における、(吹付け時に跳ね返ったモルタル材料の質量/吹付け時の材料の全使用質量)×100(%)で示した値である。
評価基準:リバウンド率が18%未満のものを○とし、18%以上のものを×と評価した。
【0043】
(3)圧縮強度
JSCE−F561(吹付けコンクリートの圧縮強度試験用供試体の作り方)に記載の型枠に吹付け、2日後にコア抜き(Φ10×20cm)したコア硬化体を、材齢28日まで20℃の水中にて養生した後、JIS A 1108に準じて、各コア硬化体15個の圧縮強度を測定し、その平均値を示す。
評価基準:圧縮強度が45N/mm以上のものを○とし、45N/mm未満のものを×と評価した。
【0044】
(4)圧縮強度の変動係数
前記(3)のコア硬化体15個の圧縮強度の標準偏差及び平均値から算出した変動係数(CV:%)値である。
なお、変動係数が大きいと、コア硬化体の圧縮強度のばらつきが大きいことを意味し、吹付け材料の充填性(吹付け安定性)に問題がある。
評価基準:圧縮強度変動係数が1.0未満のものを○とし、1.0以上のものを×とした。
【0045】
【表2】

【0046】
表2中、上記(1)〜(4)までの試験例において全ての評価が○であったものを、総合評価○とし、少なくともいずれかの評価が良好ではないものを総合評価×として表した。
【0047】
(実施例6〜7、比較例15〜17)
上記各材料を使用して、次の表3に示す配合割合で、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ、粘土鉱物、チクソ材、細骨材をそれぞれ均質に混合して、ドライミックス粉末を調製した。
【0048】
次いで、東和式ロータリーガン吹付け機を用いて、上記各ドライミックス粉末を圧縮空気にてホース内を水平方向に60m圧送し、また別途、上記セメント混和用ポリマーディスパージョン液を水と予め混合した希釈ポリマーディスパージョン液を、ポンプにてホース内を水平方向に60m圧送し、当該ドライミックス粉体と、上記セメント混和用ポリマーディスパージョン液及び水が予め混合した希釈ポリマージョン液とを、表3に示す混合割合で当該ノズル内で混合して乾式吹付け用モルタル材料とし、型枠体に垂直に乾式吹付けた。
【0049】
【表3】

【0050】
型枠に乾式吹付けした後の20℃(90%湿度:90%R.H)で28日間養生した後の圧縮強度、20℃で28日間養生した後更に40℃(90%湿度:90%R.H)で28日間養生した後の圧縮強度、前記20℃圧縮強度に対する40℃圧縮強度の比をそれぞれ下記のようにして測定して、その結果を表4に示す。
【0051】
(5)圧縮強度(20℃)
JSCE−F561(吹付けコンクリートの圧縮強度試験用供試体の作り方)に記載の型枠に吹付け、2日後にコア抜き(Φ10×20cm)したコア硬化体を材齢28日まで20℃、湿度90%(90%R.H)の気中にて養生した後、JIS A 1108に準じて、各コア硬化体3個の圧縮強度を測定し、その平均値を示す。
評価基準:圧縮強度が45N/mm以上のものを○とし、45N/mm未満のものを×と評価した。
【0052】
(6)圧縮強度(40℃)
材齢28日まで20℃、湿度90%(90%R.H)の気中にて養生した後、更に28日間、40℃、湿度90%(90%R.H)で気中養生した以外は、上記圧縮強度(20℃)と同様にして圧縮強度を測定した。評価基準も同様の評価基準で評価した。
【0053】
(7)圧縮強度変化判定
前記(6)圧縮強度(40℃)での圧縮強度の、前記(5)圧縮強度(20℃)での圧縮強度に対する割合を判定する。
評価基準:圧縮強度変化判定が95%以上を○とし、95%未満を×とした。
【0054】
(8)耐酸性試験
上記(5)圧縮強度(20℃)で調製したコア硬化体を、日本下水道事業団「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」に示されている試験方法に準じて、材齢28日まで20℃水中にて養生した後、5%硫酸水溶液に28日間浸漬した後、半分に切断し、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧後,赤色を呈した部分の直径を5箇所測定し、その平均値を試験体幅の初期値から差し引いた値の1/2を算出して求めた。
評価基準:硫酸浸透深さが2mm未満のものを○とし、2mm以上のものを×とした。
【0055】
【表4】

【0056】
表4中、上記(7)〜(8)までの試験例において双方の評価が○であったものを、総合評価○とし、少なくともいずれかの評価が○ではないものを総合評価×として表した。
【0057】
上記表より、本発明の乾式吹付け用モルタル材料は、粉塵量の発生が抑制され、リバウンド率も著しく低減され、また、コア硬化体圧縮強度測定結果から、優れた圧縮強度を有するとともに、温度変化に対しても圧縮強度変化率が少なく、さらに耐酸性にも優れ、乾式吹付け用モルタル材料の充填性(吹付け安定性)に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の乾式吹付け用モルタル材料は、コンクリート構造物の補修及び補強分野において、断面修復材等として有効に用いることができ、特に、下水道処理施設、鉄道や道路等の高架橋、トンネル等の断面補修工法等の施工に適切に用いることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート系セメント、スラグ及び細骨材を含む粉体混合物と、ポリマーディスパージョン液とを含み、平均粒子径が1.2〜3.6mmで且つ最大粒子径5mm以上の細骨材を該粉体混合物中1〜10質量%含み、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%であることを特徴とする、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料。
【請求項2】
請求項1記載の乾式吹付け用モルタル材料において、さらに粘土鉱物及び/またはチクソ材を含むことを特徴とする、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料。
【請求項3】
セメント、平均粒子径が1.2〜3.6mmで最大粒子径5mm以上の細骨材、カルシウムアルミナ系セメント及びスラグを混合して、前記細骨材が粉体混合物中1〜10質量%含有される粉末混合物を調製し、別途、ポリマーと水とを混合してポリマーディスパージョン液を調製し、前記粉末混合物と前記ポリマーディスパージョン液とを、ポリマー固形分/セメント質量比が1〜15質量%となるように配合することを特徴とする、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の乾式吹付け用モルタル材料の製造方法において、前記粉体混合物に粘土鉱物及び/又はチクソ材が更に配合されることを特徴とする、耐酸性乾式吹付け用モルタル材料の製造方法。

【公開番号】特開2013−82597(P2013−82597A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225339(P2011−225339)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000223159)東和耐火工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】