耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップ
【課題】キャップが浮き上がった場合であっても、キャップと翼パネル等の部材との間において、アークを確実に封じ込めることのできる耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップを提供することを目的とする。
【解決手段】
キャップ30Cは、その内側に、ファスナ部材24に締結されるカラー26に突き当たる段部(突き当たり部)50を有する。段部50がカラー26に突き当たった状態で、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間に、クリアランス51が形成される。キャップ30Cに充填されたシーラント剤34が、キャップ30Cの一端部30aの開口部から溢れ出ると、これが、クリアランス51から外周側に広がる。これにより、キャップ30C内のシーラント剤34の圧力が高まるのを抑え、キャップ30Cが部材22から離間する方向に押し戻されるのを防ぐことができる。
【解決手段】
キャップ30Cは、その内側に、ファスナ部材24に締結されるカラー26に突き当たる段部(突き当たり部)50を有する。段部50がカラー26に突き当たった状態で、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間に、クリアランス51が形成される。キャップ30Cに充填されたシーラント剤34が、キャップ30Cの一端部30aの開口部から溢れ出ると、これが、クリアランス51から外周側に広がる。これにより、キャップ30C内のシーラント剤34の圧力が高まるのを抑え、キャップ30Cが部材22から離間する方向に押し戻されるのを防ぐことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体、特に翼に用いられる耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体を構成する翼は一般に中空構造となっており、翼表面を形成する翼パネルは、翼内部にある構造部材にファスナ部材(留め具)によって固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、翼パネルおよび翼内部の構造部材の双方に形成された貫通孔に翼の外部側から挿入し、その先端部を翼の内部側から締結金具で固定することで、翼パネルと構造部材とを締結する。
また、この他にも翼内部や胴体部で、翼パネル以外の構造部材や装備品の固定用の部材もファスナ部材によって締結・固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、互いに固定される部材の双方に形成された貫通孔の双方を通過するように挿入し、その先端部を締結部材(カラー)で固定することで双方の部材を締結する。
なお、固定される翼パネルまたは部材は2つに限らない。
【0003】
ところで、航空機においては、防爆のための被雷対策を万全に期す必要がある。航空機に被雷が発生して主翼等の翼パネルや構造部材に大電流が流れると、上記のファスナ本体および締結部材による締結部にその一部、場合によっては全部が流れる。その電流値が各締結部における通過許容電流の限界値を超えると、電気的アーク(あるいはサーマルスパーク)と呼ばれる放電が発生する(以下、本明細書中ではこれをアークと称する。)。これは、締結部を通過する電流により締結部を構成する主として導電部材からなる部材の締結界面に急激な温度上昇が生じて部材が局部的に溶融し、近傍の大気中に放電が発生する現象で、多くの場合、溶融部分からホット・パーティクルと言われる溶融物の飛散が発生する。一般に翼の内部空間は燃料タンクを兼ねているため、防爆対策を施す必要がある。したがって、被雷時において、アークの発生を抑えるかアークを封止することによって、発生したアークの放電を防止するとともに、そこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにして発火を防止する必要がある。ここで、可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位とは、翼内部および胴体部の、燃料タンク内部、一般に燃料タンクの翼端側に設置されるサージタンク(ベントスクープやバーストディスクなどが設置されるタンク)内部、燃料系統装備品内部等である。
【0004】
そこで、図5に示すように、ファスナ部材1の先端部1aおよびファスナ部材1に締結された締結金具2とを覆うように絶縁性材料からなるキャップ3を取り付け、さらに、キャップ3の内部にシーラント剤4を充填し、ファスナ部材1の先端部1aおよび締結金具2とキャップ3との隙間を塞ぐ構成が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ファスナ部材1を用いた締結作業現場においては、図5(a)に示すように、ファスナ部材1の先端部1aおよび締結金具2にキャップ3を装着するに際し、キャップ3の内部空間にシーラント剤4を予め充填しておく。そして、図5(b)に示すように、シーラント剤4を充填したキャップ3をファスナ部材1の先端部1aおよび締結金具2に被せる。すると、キャップ3内の余分なシーラント剤4がキャップ3の開口部からあふれ出す。図5(c)に示すように、キャップ3の開口側の端面3aを翼パネル等の部材5の表面に押し付けた状態では、あふれ出たシーラント剤4がキャップ3と翼パネル等の部材5との間に介在するとともに、キャップ3の外周側に環状に盛り上がった状態で存在し、キャップ3と翼パネル等の部材5との界面において、アークを確実に封じ込めるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−254287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したようなシーラント剤4は、高い粘性を有している。このため、キャップ3を装着する終盤で、キャップ3の開口側の端面3aと翼パネル等の部材5との間隙が少なくなるとこの部分からシーラント剤4がキャップ3外に流出しにくくなり、キャップ3と翼パネル等の部材5との間に挟み込まれたシーラント剤4の圧力が高まる。
また、シーラント剤4は、粘性とともに弾性を有しているため、図5(d)に示すように、キャップ3を翼パネル等の部材5に押し付けても、前記の圧力と弾力とにより、押し付けたキャップ3が部材5から離間する方向に押し戻されてしまうという問題がある。
【0008】
キャップ3が押し戻されてキャップ3の開口側の端面3aが翼パネル等の部材5から離れてしまうと、ここに隙間7が生じ、アークの封じ込めが行えなくなってしまう。
また、キャップ3が浮き上がり、キャップ3の端面と翼パネル等の部材5との間に介在するシーラント剤4が、キャップ3の径方向において薄くなってしまうこともある。この場合も、キャップ3と翼パネル等の部材5との界面において、アークを確実に封じ込めることができなくなる可能性があり、好ましくない。
【0009】
また、図5(e)に示すように、キャップ3の外周側において、翼パネル等の部材5上に環状に盛り上がった状態で存在するシーラント剤4Sは、キャップ3やキャップ3内のシーラント剤4とのつながりが細いため、硬化後、ここから剥がれて脱落する可能性がある。そこで、キャップ3の装着後、その外周側のシーラント剤4を、作業者が指やへら等でキャップ3側に寄せて均す(形を整える)ことも考えられるが、それでは、手間がかかるとともに、作業者の熟練度等に品質を依存することになる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、キャップが浮き上がった場合であっても、キャップと翼パネル等の部材との間において、アークを確実に封じ込めることのできる耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもとになされた本発明の耐雷ファスナは、航空機の機体を構成する第一の部材に第二の部材を締結するため、第一の部材および第二の部材を貫通するとともに、第一の部材および第二の部材の少なくとも一方の側に突出する軸部を有するファスナ部材と、第一の部材および第二の部材の少なくとも一方の側に突出したファスナ部材の軸部を覆うように取り付けられる絶縁性材料からなるキャップと、キャップの内部に充填されて、キャップとファスナ部材との間の空間を塞ぐ絶縁性材料からなるシーラント剤と、を備え、キャップは、ファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部を有し、突き当たり部をファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で、キャップと第一の部材の表面、または、キャップと第二の部材との間にクリアランスが形成され、このクリアランスにシーラント剤が充填されていることを特徴とする耐雷ファスナとすることもできる。
突き当たり部をファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で、キャップと第二の部材との間にクリアランスが形成されることで、シーラント剤が充填されたキャップをファスナ部材の端部に被せるときに、クリアランスからシーラント剤が外周側に溢れ出るので、シーラント剤の圧力が高まるのを抑えることができる。
また、クリアランスにシーラント剤が充填されることで、キャップが第一の部材または第二の部材から離れる方向に移動したとしても、シーラント剤がこれに追従するので、キャップと第一の部材または第二の部材の表面との間におけるアークの封じ込め機能を確実に発揮できる。
【0011】
ファスナ部材の軸部が、第一の部材および第二の部材の両側に突出する場合には、軸部の一端側および他端側にそれぞれ上記のキャップを設けることができる。つまり、この場合には、上記のキャップを2つ用いることになる。
【0012】
本発明は、第一の部材と第二の部材とを締結するファスナ部材の先端を覆うように取り付けられるキャップも提供する。このキャップは絶縁性材料からなり、かつ、ファスナ部材の先端を収容する開口部を有する。そして、このキャップは、ファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部をキャップの内部に有するとともに、キャップは、絶縁性材料からなるシーラント剤を開口部に充填した状態で使用されるものであることを特徴とする。
【0013】
突き当たり部をファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で上記のキャップが取り付けられると、キャップと第一の部材の表面、または、キャップと第二の部材との間にクリアランスが形成され、クリアランスにシーラント剤が充填されることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、キャップが浮き上がった場合であっても、キャップと翼パネル等の第一の部材または第二の部材との間において、アークを確実に封じ込めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一の実施形態における耐雷ファスナおよびキャップの構成を示す断面図である。
【図2】キャップが浮き上がったときの状態を示す断面図である。
【図3】第二の実施形態における耐雷ファスナおよびキャップの構成を示す断面図である。
【図4】第三の実施形態における耐雷ファスナおよびキャップの構成を示す断面図である。
【図5】従来の耐雷ファスナを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、本実施の形態における耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップを適用した航空機の機体を構成する翼の一部の断面図である。
この図1(a)に示すように、翼20は、その外殻が、例えば炭素繊維と樹脂との複合材料であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)や、アルミ合金等の金属材料からなる翼パネル(第一の部材)21によって形成されている。翼20の内部に設けられる、補強のための構造材や燃料タンク、各種の機器が、アルミ合金等の金属材料により形成されたステー等の部材(第二の部材)22を介して翼パネル21に固定されている。そして、ステー等の部材22は、ファスナ部材24によって翼パネル21に取り付けられている。
【0017】
ファスナ部材24は、ピン状のファスナ本体25と、翼20の内部側でファスナ本体25に装着されるカラー26と、から構成される。
ファスナ本体25およびカラー26は、強度の面から一般に金属材料により形成される。ピン状をなしたファスナ本体25は、先端部にネジ溝(ネジ部)25aが形成され、後端部は先端部側より拡径した拡径部25bとされている。このファスナ本体25は、翼パネル21および部材22を貫通して形成された孔21a、22aに翼20の外側から挿入され、後端部の拡径部25bを翼パネル21の外表面に突き当てた状態で、先端部を翼20の内方に突出させる。
カラー26は、筒状で、その内周面にはファスナ本体25のネジ溝25aに噛み合うネジ溝が形成されている。このカラー26は、翼20の内方に突出したファスナ本体25のネジ溝25aにねじ込まれる。これによって、翼パネル21と部材22とは、ファスナ本体25の拡径部25bとカラー26とによって挟み込まれ、部材22が翼パネル21に固定されている。
【0018】
さて、翼20の内部空間側において、ファスナ部材24には、キャップ30Aが装着され、キャップ30Aの内部に、絶縁性を有したシーラント剤34が充填されている。
図1(b)に示すように、キャップ30Aは、断面円形で、一端部30a側のみが開口し、他端部30b側に向けてその内径および外径が漸次縮小する傘状の形状とされている。このキャップ30Aは、シーラント剤34と同種の材料を用いて予め成形したものを用いることができる。これ以外にも、キャップ30Aは、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)、ナイロン樹脂等の絶縁性を有した樹脂により形成することもできる。
【0019】
キャップ30Aは、一端部30aの外周縁部に、その外径が他端部30b側から一端部30aに向けて漸次小さくなるテーパ面30cが形成されている。このテーパ面30cは、図1(a)に示したように、部材22の表面22fに対する交差角度θが30〜60°程度となるように形成すれば良く、キャップ30Aをその軸線に沿った断面で視たときに、テーパ面30cは直線状であっても良いし、内方に凹んだ形状、外方に膨らんだ形状とすることもできる。
また、キャップ30Aの一端部30aは、キャップ30Aの軸線に直交する平面30dが形成され、平面30dの外周側にテーパ面30cが形成されている。
ここで、キャップ30Aの肉厚が例えば2.5mmの場合、テーパ面30cの高さhは、1〜2.5mm程度とするのが好ましい。この平面30dの幅wは、0.5〜1.5mm程度とするのが好ましい。
【0020】
このようなキャップ30Aは、キャップ30Aをファスナ部材24に装着したときに、ファスナ本体25およびカラー26との間に、予め定められた間隙が形成されるよう、内周面の内径が設定されている。特に、キャップ30Aの開口側である一端部30aにおいては、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25との間に、所定寸法t以上の間隙を確保できるよう、キャップ30Aが形成されている。
【0021】
キャップ30Aをファスナ部材24に装着した状態では、キャップ30Aの内部に、絶縁性を有したシーラント剤34が充填される。このシーラント剤34が、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25およびカラー26との間に介在することで、キャップ30Aとファスナ部材24との間の絶縁性がさらに高まる。そして、キャップ30Aの開口側である一端部30aにおいては、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25との間のシーラント剤34が、所定寸法t以上の厚さを有しているので、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25との間における絶縁性能が確保される。
【0022】
翼パネル21および部材22を締結するファスナ部材24に、キャップ30Aを装着するときには、キャップ30Aの内部に、未硬化のシーラント剤34を充填しておく。そして、翼20の内部空間において、内方に向けて突出した各ファスナ部材24のファスナ本体25に、キャップ30Aを押し付ける。
このとき、キャップ30A内に充填されたシーラント剤34は、キャップ30Aの一端部30aの開口部から溢れ出てくるような充填量とされている。キャップ30Aの一端部30aが部材22の表面22fに突き当たった状態では、あふれ出たシーラント剤34は、キャップ30Aの一端部30aの平面30dと部材22の表面22fとの間、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間にそれぞれ介在する(以下、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するシーラント剤34をシーラント剤34Bと称することがある。)。ここで、シーラント剤34は、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に満たされ、十分な量が介在することになる。さらに、シーラント剤34は、キャップ30Aの一端部30aの外周側に環状に広がり、部材22の表面22f上で、テーパ面30cよりも高い位置まで盛り上がる(以下、このシーラント剤34をシーラント剤34Sと称することがある。)。
【0023】
また、充填したシーラント剤34が硬化すれば、キャップ30Aが装着されたファスナ部材24からなる耐雷ファスナが構成される。
【0024】
上述したような構成によれば、キャップ30Aの一端部30aに、その外径が他端部30b側から一端部30aに向けて漸次小さくなるテーパ面30cが形成されており、キャップ30Aの装着時にキャップ30Aからあふれ出したシーラント剤34Bが、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するようになっている。
これにより、図2(a)に示すように、キャップ30Aを装着する終盤で、キャップ30Aと部材22との間に挟み込まれたシーラント剤34の圧力と弾性とにより、キャップ30Aが部材22から離間する方向に押し戻されたとしても、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するシーラント剤34Bが十分な厚さを有している。したがって、キャップ30Aの一端部30aと部材22の表面22fとが離れても、シーラント剤34Bが途切れにくく、また、その外周側で環状に盛り上がったシーラント剤34Sを吸い込むことができ、シーラント剤34はより一層途切れにくくなっている。
したがって、キャップ30Aが浮き上がった場合であっても、キャップ30Aと部材22の表面との間において、アークを確実に封じ込めることができ、高い信頼性を有した耐雷ファスナを構成することができる。
【0025】
また、図2(b)に示すように、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するシーラント剤34Bに、その外周側の環状のシーラント剤34Sが一体化されるため、この環状のシーラント剤34Sが脱落するのを防ぐことができる。したがって、キャップ30の外周側にあふれ出したシーラント剤34Sを成形したりする必要もなく、作業を容易かつ確実に行うことができる。
【0026】
[第二の実施形態]
次に、本発明に係る耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップの第二の実施形態を示す。以下に示す説明では、上記第一の実施形態と異なる構成を中心にして説明を行い、上記第一の実施形態で示した構成と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。
図3(a)、(b)に示すように、本実施形態のキャップ30Bは、上記第一の実施形態のキャップ30Aと同材料でほぼ同形状に形成されるが、その他端部30bに、貫通孔40が形成されている。
【0027】
このような貫通孔40を有するキャップ30Bでは、上記第一の実施形態と同様にして、シーラント剤34を予め充填したキャップ30Bを、翼パネル21および部材22を締結するファスナ部材24に装着するため、キャップ30Bを、各ファスナ部材24のファスナ本体25の先端部を覆うように配置する。
このとき、キャップ30B内に充填されたシーラント剤34が、キャップ30Bの一端部30aの開口部から溢れ出るとともに、貫通孔40からも溢れ出てくる。
これにより、キャップ30B内のシーラント剤34の圧力が高まるのを抑え、キャップ30Bが部材22から離間する方向に押し戻されるのを防ぐことができる。また、キャップ30Bが押し戻されたときには、上記第一の実施形態と同様、キャップ30B内に充填されたシーラント剤34が、キャップ30Bの一端部30aの開口部から溢れ出てくる。あふれ出たシーラント剤34は、キャップ30Bの一端部30aの平面30dと部材22の表面22fとの間、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間にそれぞれ介在する。さらに、シーラント剤34は、キャップ30Bの一端部30aの外周側に環状に広がり、部材22の表面22f上で、テーパ面30cよりも高い位置まで盛り上がる。これにより、上記第一の実施形態と同様、キャップ30Bが浮き上がった場合であっても、キャップ30Bと部材22の表面との間において、アークを確実に封じ込めることができ、高い信頼性を有した耐雷ファスナを構成することができる。
【0028】
なおここで、貫通孔40は、キャップ30Bの内側から外側に向けて、一定の径であっても良いし、内側や外側、あるいはその中間部等がその内径が小さくなるよう形成することもできる。
【0029】
[第三の実施形態]
次に、本発明に係る耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップの第三の実施形態を示す。以下に示す説明では、上記第一の実施形態と異なる構成を中心にして説明を行い、上記第一の実施形態で示した構成と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。
図4に示すように、本実施形態のキャップ30Cは、その内側に、ファスナ部材24に締結されるカラー26に突き当たる段部(突き当たり部)50が形成されている。段部50がカラー26に突き当たった状態で、キャップ30Cの一端部30aと部材22の表面22fとの間に、クリアランス51が形成されるよう、段部50の寸法が設定されている。
【0030】
このような構成によれば、上記第一の実施形態と同様にして、シーラント剤34を予め充填したキャップ30Cを、翼パネル21および部材22を締結するファスナ部材24に装着するため、各ファスナ部材24のファスナ本体25に押し付ける。
このとき、キャップ30Cの段部50がカラー26に突き当たることで、キャップ30Cの押し込み量が規制される。段部50がカラー26に突き当たった状態で、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間に、クリアランス51が形成される。したがって、キャップ30Cを押し込むにともなってキャップ30Cに充填されたシーラント剤34が、キャップ30Cの一端部30aの開口部から溢れ出ると、これが、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間のクリアランス51から外周側に広がる。
これにより、キャップ30C内のシーラント剤34の圧力が高まるのを抑え、キャップ30Cが部材22から離間する方向に押し戻されるのを防ぐことができる。また、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間に、クリアランス51が形成され、ここにシーラント剤34が充填されているので、キャップ30Cが押し戻されたときにも、キャップ30Cと部材22との界面において、アークを確実に封じ込めることができ、高い信頼性を有した耐雷ファスナを構成することができる。
【0031】
なお、上記実施の形態では、翼パネル21と部材22とをファスナ部材24により締結する構成としたが、ファスナ部材24およびキャップ30A、30B、30Cの適用部位は、他のいかなる部位であっても良い。また、ファスナ部材24のファスナ本体25を、二つの部材の両面側に突出させ、その両面側にキャップ30A、30B、30Cを設けることも可能である。
また、キャップ30A、30B、30Cの外形形状はいかなるものであっても良い。
さらに、上記第一および第二の実施形態では、テーパ面30cは、周方向に連続するよう形成する構成としたが、周方向に間欠的に複数のテーパ面30cを形成するようにしても良い。
加えて、翼20の機体外表面側においても、ファスナ部材24を構成するファスナ本体25の拡径部25bを覆うように、上記実施形態のキャップ30A〜30Cのようなテーパ面を有したキャップを被せ、キャップと拡径部25bとの間にシーラント剤を充填し、このシーラント剤をキャップ部のテーパ面と翼20の外表面との間に満たすようにしても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
20 翼
21 翼パネル(第一の部材)
21a 孔
22 部材(第二の部材)
22a 表面
24 ファスナ部材
25 ファスナ本体
26 カラー
30A、30B、30C キャップ
30a 一端部
30b 他端部
30c テーパ面
30d 平面
34 シーラント剤
40 貫通孔
50 段部(突き当たり部)
51 クリアランス
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体、特に翼に用いられる耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体を構成する翼は一般に中空構造となっており、翼表面を形成する翼パネルは、翼内部にある構造部材にファスナ部材(留め具)によって固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、翼パネルおよび翼内部の構造部材の双方に形成された貫通孔に翼の外部側から挿入し、その先端部を翼の内部側から締結金具で固定することで、翼パネルと構造部材とを締結する。
また、この他にも翼内部や胴体部で、翼パネル以外の構造部材や装備品の固定用の部材もファスナ部材によって締結・固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、互いに固定される部材の双方に形成された貫通孔の双方を通過するように挿入し、その先端部を締結部材(カラー)で固定することで双方の部材を締結する。
なお、固定される翼パネルまたは部材は2つに限らない。
【0003】
ところで、航空機においては、防爆のための被雷対策を万全に期す必要がある。航空機に被雷が発生して主翼等の翼パネルや構造部材に大電流が流れると、上記のファスナ本体および締結部材による締結部にその一部、場合によっては全部が流れる。その電流値が各締結部における通過許容電流の限界値を超えると、電気的アーク(あるいはサーマルスパーク)と呼ばれる放電が発生する(以下、本明細書中ではこれをアークと称する。)。これは、締結部を通過する電流により締結部を構成する主として導電部材からなる部材の締結界面に急激な温度上昇が生じて部材が局部的に溶融し、近傍の大気中に放電が発生する現象で、多くの場合、溶融部分からホット・パーティクルと言われる溶融物の飛散が発生する。一般に翼の内部空間は燃料タンクを兼ねているため、防爆対策を施す必要がある。したがって、被雷時において、アークの発生を抑えるかアークを封止することによって、発生したアークの放電を防止するとともに、そこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにして発火を防止する必要がある。ここで、可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位とは、翼内部および胴体部の、燃料タンク内部、一般に燃料タンクの翼端側に設置されるサージタンク(ベントスクープやバーストディスクなどが設置されるタンク)内部、燃料系統装備品内部等である。
【0004】
そこで、図5に示すように、ファスナ部材1の先端部1aおよびファスナ部材1に締結された締結金具2とを覆うように絶縁性材料からなるキャップ3を取り付け、さらに、キャップ3の内部にシーラント剤4を充填し、ファスナ部材1の先端部1aおよび締結金具2とキャップ3との隙間を塞ぐ構成が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ファスナ部材1を用いた締結作業現場においては、図5(a)に示すように、ファスナ部材1の先端部1aおよび締結金具2にキャップ3を装着するに際し、キャップ3の内部空間にシーラント剤4を予め充填しておく。そして、図5(b)に示すように、シーラント剤4を充填したキャップ3をファスナ部材1の先端部1aおよび締結金具2に被せる。すると、キャップ3内の余分なシーラント剤4がキャップ3の開口部からあふれ出す。図5(c)に示すように、キャップ3の開口側の端面3aを翼パネル等の部材5の表面に押し付けた状態では、あふれ出たシーラント剤4がキャップ3と翼パネル等の部材5との間に介在するとともに、キャップ3の外周側に環状に盛り上がった状態で存在し、キャップ3と翼パネル等の部材5との界面において、アークを確実に封じ込めるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−254287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したようなシーラント剤4は、高い粘性を有している。このため、キャップ3を装着する終盤で、キャップ3の開口側の端面3aと翼パネル等の部材5との間隙が少なくなるとこの部分からシーラント剤4がキャップ3外に流出しにくくなり、キャップ3と翼パネル等の部材5との間に挟み込まれたシーラント剤4の圧力が高まる。
また、シーラント剤4は、粘性とともに弾性を有しているため、図5(d)に示すように、キャップ3を翼パネル等の部材5に押し付けても、前記の圧力と弾力とにより、押し付けたキャップ3が部材5から離間する方向に押し戻されてしまうという問題がある。
【0008】
キャップ3が押し戻されてキャップ3の開口側の端面3aが翼パネル等の部材5から離れてしまうと、ここに隙間7が生じ、アークの封じ込めが行えなくなってしまう。
また、キャップ3が浮き上がり、キャップ3の端面と翼パネル等の部材5との間に介在するシーラント剤4が、キャップ3の径方向において薄くなってしまうこともある。この場合も、キャップ3と翼パネル等の部材5との界面において、アークを確実に封じ込めることができなくなる可能性があり、好ましくない。
【0009】
また、図5(e)に示すように、キャップ3の外周側において、翼パネル等の部材5上に環状に盛り上がった状態で存在するシーラント剤4Sは、キャップ3やキャップ3内のシーラント剤4とのつながりが細いため、硬化後、ここから剥がれて脱落する可能性がある。そこで、キャップ3の装着後、その外周側のシーラント剤4を、作業者が指やへら等でキャップ3側に寄せて均す(形を整える)ことも考えられるが、それでは、手間がかかるとともに、作業者の熟練度等に品質を依存することになる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、キャップが浮き上がった場合であっても、キャップと翼パネル等の部材との間において、アークを確実に封じ込めることのできる耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもとになされた本発明の耐雷ファスナは、航空機の機体を構成する第一の部材に第二の部材を締結するため、第一の部材および第二の部材を貫通するとともに、第一の部材および第二の部材の少なくとも一方の側に突出する軸部を有するファスナ部材と、第一の部材および第二の部材の少なくとも一方の側に突出したファスナ部材の軸部を覆うように取り付けられる絶縁性材料からなるキャップと、キャップの内部に充填されて、キャップとファスナ部材との間の空間を塞ぐ絶縁性材料からなるシーラント剤と、を備え、キャップは、ファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部を有し、突き当たり部をファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で、キャップと第一の部材の表面、または、キャップと第二の部材との間にクリアランスが形成され、このクリアランスにシーラント剤が充填されていることを特徴とする耐雷ファスナとすることもできる。
突き当たり部をファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で、キャップと第二の部材との間にクリアランスが形成されることで、シーラント剤が充填されたキャップをファスナ部材の端部に被せるときに、クリアランスからシーラント剤が外周側に溢れ出るので、シーラント剤の圧力が高まるのを抑えることができる。
また、クリアランスにシーラント剤が充填されることで、キャップが第一の部材または第二の部材から離れる方向に移動したとしても、シーラント剤がこれに追従するので、キャップと第一の部材または第二の部材の表面との間におけるアークの封じ込め機能を確実に発揮できる。
【0011】
ファスナ部材の軸部が、第一の部材および第二の部材の両側に突出する場合には、軸部の一端側および他端側にそれぞれ上記のキャップを設けることができる。つまり、この場合には、上記のキャップを2つ用いることになる。
【0012】
本発明は、第一の部材と第二の部材とを締結するファスナ部材の先端を覆うように取り付けられるキャップも提供する。このキャップは絶縁性材料からなり、かつ、ファスナ部材の先端を収容する開口部を有する。そして、このキャップは、ファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部をキャップの内部に有するとともに、キャップは、絶縁性材料からなるシーラント剤を開口部に充填した状態で使用されるものであることを特徴とする。
【0013】
突き当たり部をファスナ部材またはファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で上記のキャップが取り付けられると、キャップと第一の部材の表面、または、キャップと第二の部材との間にクリアランスが形成され、クリアランスにシーラント剤が充填されることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、キャップが浮き上がった場合であっても、キャップと翼パネル等の第一の部材または第二の部材との間において、アークを確実に封じ込めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一の実施形態における耐雷ファスナおよびキャップの構成を示す断面図である。
【図2】キャップが浮き上がったときの状態を示す断面図である。
【図3】第二の実施形態における耐雷ファスナおよびキャップの構成を示す断面図である。
【図4】第三の実施形態における耐雷ファスナおよびキャップの構成を示す断面図である。
【図5】従来の耐雷ファスナを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、本実施の形態における耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップを適用した航空機の機体を構成する翼の一部の断面図である。
この図1(a)に示すように、翼20は、その外殻が、例えば炭素繊維と樹脂との複合材料であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)や、アルミ合金等の金属材料からなる翼パネル(第一の部材)21によって形成されている。翼20の内部に設けられる、補強のための構造材や燃料タンク、各種の機器が、アルミ合金等の金属材料により形成されたステー等の部材(第二の部材)22を介して翼パネル21に固定されている。そして、ステー等の部材22は、ファスナ部材24によって翼パネル21に取り付けられている。
【0017】
ファスナ部材24は、ピン状のファスナ本体25と、翼20の内部側でファスナ本体25に装着されるカラー26と、から構成される。
ファスナ本体25およびカラー26は、強度の面から一般に金属材料により形成される。ピン状をなしたファスナ本体25は、先端部にネジ溝(ネジ部)25aが形成され、後端部は先端部側より拡径した拡径部25bとされている。このファスナ本体25は、翼パネル21および部材22を貫通して形成された孔21a、22aに翼20の外側から挿入され、後端部の拡径部25bを翼パネル21の外表面に突き当てた状態で、先端部を翼20の内方に突出させる。
カラー26は、筒状で、その内周面にはファスナ本体25のネジ溝25aに噛み合うネジ溝が形成されている。このカラー26は、翼20の内方に突出したファスナ本体25のネジ溝25aにねじ込まれる。これによって、翼パネル21と部材22とは、ファスナ本体25の拡径部25bとカラー26とによって挟み込まれ、部材22が翼パネル21に固定されている。
【0018】
さて、翼20の内部空間側において、ファスナ部材24には、キャップ30Aが装着され、キャップ30Aの内部に、絶縁性を有したシーラント剤34が充填されている。
図1(b)に示すように、キャップ30Aは、断面円形で、一端部30a側のみが開口し、他端部30b側に向けてその内径および外径が漸次縮小する傘状の形状とされている。このキャップ30Aは、シーラント剤34と同種の材料を用いて予め成形したものを用いることができる。これ以外にも、キャップ30Aは、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)、ナイロン樹脂等の絶縁性を有した樹脂により形成することもできる。
【0019】
キャップ30Aは、一端部30aの外周縁部に、その外径が他端部30b側から一端部30aに向けて漸次小さくなるテーパ面30cが形成されている。このテーパ面30cは、図1(a)に示したように、部材22の表面22fに対する交差角度θが30〜60°程度となるように形成すれば良く、キャップ30Aをその軸線に沿った断面で視たときに、テーパ面30cは直線状であっても良いし、内方に凹んだ形状、外方に膨らんだ形状とすることもできる。
また、キャップ30Aの一端部30aは、キャップ30Aの軸線に直交する平面30dが形成され、平面30dの外周側にテーパ面30cが形成されている。
ここで、キャップ30Aの肉厚が例えば2.5mmの場合、テーパ面30cの高さhは、1〜2.5mm程度とするのが好ましい。この平面30dの幅wは、0.5〜1.5mm程度とするのが好ましい。
【0020】
このようなキャップ30Aは、キャップ30Aをファスナ部材24に装着したときに、ファスナ本体25およびカラー26との間に、予め定められた間隙が形成されるよう、内周面の内径が設定されている。特に、キャップ30Aの開口側である一端部30aにおいては、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25との間に、所定寸法t以上の間隙を確保できるよう、キャップ30Aが形成されている。
【0021】
キャップ30Aをファスナ部材24に装着した状態では、キャップ30Aの内部に、絶縁性を有したシーラント剤34が充填される。このシーラント剤34が、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25およびカラー26との間に介在することで、キャップ30Aとファスナ部材24との間の絶縁性がさらに高まる。そして、キャップ30Aの開口側である一端部30aにおいては、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25との間のシーラント剤34が、所定寸法t以上の厚さを有しているので、キャップ30Aの内周面とファスナ本体25との間における絶縁性能が確保される。
【0022】
翼パネル21および部材22を締結するファスナ部材24に、キャップ30Aを装着するときには、キャップ30Aの内部に、未硬化のシーラント剤34を充填しておく。そして、翼20の内部空間において、内方に向けて突出した各ファスナ部材24のファスナ本体25に、キャップ30Aを押し付ける。
このとき、キャップ30A内に充填されたシーラント剤34は、キャップ30Aの一端部30aの開口部から溢れ出てくるような充填量とされている。キャップ30Aの一端部30aが部材22の表面22fに突き当たった状態では、あふれ出たシーラント剤34は、キャップ30Aの一端部30aの平面30dと部材22の表面22fとの間、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間にそれぞれ介在する(以下、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するシーラント剤34をシーラント剤34Bと称することがある。)。ここで、シーラント剤34は、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に満たされ、十分な量が介在することになる。さらに、シーラント剤34は、キャップ30Aの一端部30aの外周側に環状に広がり、部材22の表面22f上で、テーパ面30cよりも高い位置まで盛り上がる(以下、このシーラント剤34をシーラント剤34Sと称することがある。)。
【0023】
また、充填したシーラント剤34が硬化すれば、キャップ30Aが装着されたファスナ部材24からなる耐雷ファスナが構成される。
【0024】
上述したような構成によれば、キャップ30Aの一端部30aに、その外径が他端部30b側から一端部30aに向けて漸次小さくなるテーパ面30cが形成されており、キャップ30Aの装着時にキャップ30Aからあふれ出したシーラント剤34Bが、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するようになっている。
これにより、図2(a)に示すように、キャップ30Aを装着する終盤で、キャップ30Aと部材22との間に挟み込まれたシーラント剤34の圧力と弾性とにより、キャップ30Aが部材22から離間する方向に押し戻されたとしても、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するシーラント剤34Bが十分な厚さを有している。したがって、キャップ30Aの一端部30aと部材22の表面22fとが離れても、シーラント剤34Bが途切れにくく、また、その外周側で環状に盛り上がったシーラント剤34Sを吸い込むことができ、シーラント剤34はより一層途切れにくくなっている。
したがって、キャップ30Aが浮き上がった場合であっても、キャップ30Aと部材22の表面との間において、アークを確実に封じ込めることができ、高い信頼性を有した耐雷ファスナを構成することができる。
【0025】
また、図2(b)に示すように、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間に介在するシーラント剤34Bに、その外周側の環状のシーラント剤34Sが一体化されるため、この環状のシーラント剤34Sが脱落するのを防ぐことができる。したがって、キャップ30の外周側にあふれ出したシーラント剤34Sを成形したりする必要もなく、作業を容易かつ確実に行うことができる。
【0026】
[第二の実施形態]
次に、本発明に係る耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップの第二の実施形態を示す。以下に示す説明では、上記第一の実施形態と異なる構成を中心にして説明を行い、上記第一の実施形態で示した構成と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。
図3(a)、(b)に示すように、本実施形態のキャップ30Bは、上記第一の実施形態のキャップ30Aと同材料でほぼ同形状に形成されるが、その他端部30bに、貫通孔40が形成されている。
【0027】
このような貫通孔40を有するキャップ30Bでは、上記第一の実施形態と同様にして、シーラント剤34を予め充填したキャップ30Bを、翼パネル21および部材22を締結するファスナ部材24に装着するため、キャップ30Bを、各ファスナ部材24のファスナ本体25の先端部を覆うように配置する。
このとき、キャップ30B内に充填されたシーラント剤34が、キャップ30Bの一端部30aの開口部から溢れ出るとともに、貫通孔40からも溢れ出てくる。
これにより、キャップ30B内のシーラント剤34の圧力が高まるのを抑え、キャップ30Bが部材22から離間する方向に押し戻されるのを防ぐことができる。また、キャップ30Bが押し戻されたときには、上記第一の実施形態と同様、キャップ30B内に充填されたシーラント剤34が、キャップ30Bの一端部30aの開口部から溢れ出てくる。あふれ出たシーラント剤34は、キャップ30Bの一端部30aの平面30dと部材22の表面22fとの間、テーパ面30cと部材22の表面22fとの間にそれぞれ介在する。さらに、シーラント剤34は、キャップ30Bの一端部30aの外周側に環状に広がり、部材22の表面22f上で、テーパ面30cよりも高い位置まで盛り上がる。これにより、上記第一の実施形態と同様、キャップ30Bが浮き上がった場合であっても、キャップ30Bと部材22の表面との間において、アークを確実に封じ込めることができ、高い信頼性を有した耐雷ファスナを構成することができる。
【0028】
なおここで、貫通孔40は、キャップ30Bの内側から外側に向けて、一定の径であっても良いし、内側や外側、あるいはその中間部等がその内径が小さくなるよう形成することもできる。
【0029】
[第三の実施形態]
次に、本発明に係る耐雷ファスナ、耐雷ファスナのキャップの第三の実施形態を示す。以下に示す説明では、上記第一の実施形態と異なる構成を中心にして説明を行い、上記第一の実施形態で示した構成と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。
図4に示すように、本実施形態のキャップ30Cは、その内側に、ファスナ部材24に締結されるカラー26に突き当たる段部(突き当たり部)50が形成されている。段部50がカラー26に突き当たった状態で、キャップ30Cの一端部30aと部材22の表面22fとの間に、クリアランス51が形成されるよう、段部50の寸法が設定されている。
【0030】
このような構成によれば、上記第一の実施形態と同様にして、シーラント剤34を予め充填したキャップ30Cを、翼パネル21および部材22を締結するファスナ部材24に装着するため、各ファスナ部材24のファスナ本体25に押し付ける。
このとき、キャップ30Cの段部50がカラー26に突き当たることで、キャップ30Cの押し込み量が規制される。段部50がカラー26に突き当たった状態で、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間に、クリアランス51が形成される。したがって、キャップ30Cを押し込むにともなってキャップ30Cに充填されたシーラント剤34が、キャップ30Cの一端部30aの開口部から溢れ出ると、これが、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間のクリアランス51から外周側に広がる。
これにより、キャップ30C内のシーラント剤34の圧力が高まるのを抑え、キャップ30Cが部材22から離間する方向に押し戻されるのを防ぐことができる。また、キャップ30Cの一端部30aと部材22との間に、クリアランス51が形成され、ここにシーラント剤34が充填されているので、キャップ30Cが押し戻されたときにも、キャップ30Cと部材22との界面において、アークを確実に封じ込めることができ、高い信頼性を有した耐雷ファスナを構成することができる。
【0031】
なお、上記実施の形態では、翼パネル21と部材22とをファスナ部材24により締結する構成としたが、ファスナ部材24およびキャップ30A、30B、30Cの適用部位は、他のいかなる部位であっても良い。また、ファスナ部材24のファスナ本体25を、二つの部材の両面側に突出させ、その両面側にキャップ30A、30B、30Cを設けることも可能である。
また、キャップ30A、30B、30Cの外形形状はいかなるものであっても良い。
さらに、上記第一および第二の実施形態では、テーパ面30cは、周方向に連続するよう形成する構成としたが、周方向に間欠的に複数のテーパ面30cを形成するようにしても良い。
加えて、翼20の機体外表面側においても、ファスナ部材24を構成するファスナ本体25の拡径部25bを覆うように、上記実施形態のキャップ30A〜30Cのようなテーパ面を有したキャップを被せ、キャップと拡径部25bとの間にシーラント剤を充填し、このシーラント剤をキャップ部のテーパ面と翼20の外表面との間に満たすようにしても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
20 翼
21 翼パネル(第一の部材)
21a 孔
22 部材(第二の部材)
22a 表面
24 ファスナ部材
25 ファスナ本体
26 カラー
30A、30B、30C キャップ
30a 一端部
30b 他端部
30c テーパ面
30d 平面
34 シーラント剤
40 貫通孔
50 段部(突き当たり部)
51 クリアランス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体を構成する第一の部材に第二の部材を締結するため、前記第一の部材および前記第二の部材を貫通するとともに、前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方の側に突出する軸部を有するファスナ部材と、
前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方の側に突出した前記ファスナ部材の前記軸部を覆うように取り付けられる絶縁性材料からなるキャップと、
前記キャップの内部に充填されて、前記キャップと前記ファスナ部材との間の空間を塞ぐ絶縁性材料からなるシーラント剤と、を備え、
前記キャップは、前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部を有し、
前記突き当たり部を前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で、前記キャップと前記第一の部材の表面、または、前記キャップと前記第二の部材との間にクリアランスが形成され、前記クリアランスに前記シーラント剤が充填されていることを特徴とする耐雷ファスナ。
【請求項2】
前記ファスナ部材の前記軸部が、前記第一の部材および前記第二の部材の両側に突出し、
前記軸部の一端側および他端側にそれぞれ前記キャップが設けられる、ことを特徴とする請求項1に記載の耐雷ファスナ。
【請求項3】
第一の部材と第二の部材とを締結するファスナ部材の先端を覆うように取り付けられるキャップであって、
前記キャップは絶縁性材料からなり、かつ、前記ファスナ部材の前記先端を収容する開口部を有し、
前記キャップは、前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部を前記キャップの内部に有するとともに、
前記キャップは、絶縁性材料からなるシーラント剤を前記開口部に充填した状態で使用されるものであることを特徴とする耐雷ファスナのキャップ。
【請求項4】
前記突き当たり部を前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で前記キャップが取り付けられると、前記キャップと前記第一の部材の表面、または、前記キャップと前記第二の部材との間にクリアランスが形成され、前記クリアランスに前記シーラント剤が充填されることを特徴とする請求項3に記載の耐雷ファスナのキャップ。
【請求項1】
航空機の機体を構成する第一の部材に第二の部材を締結するため、前記第一の部材および前記第二の部材を貫通するとともに、前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方の側に突出する軸部を有するファスナ部材と、
前記第一の部材および前記第二の部材の少なくとも一方の側に突出した前記ファスナ部材の前記軸部を覆うように取り付けられる絶縁性材料からなるキャップと、
前記キャップの内部に充填されて、前記キャップと前記ファスナ部材との間の空間を塞ぐ絶縁性材料からなるシーラント剤と、を備え、
前記キャップは、前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部を有し、
前記突き当たり部を前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で、前記キャップと前記第一の部材の表面、または、前記キャップと前記第二の部材との間にクリアランスが形成され、前記クリアランスに前記シーラント剤が充填されていることを特徴とする耐雷ファスナ。
【請求項2】
前記ファスナ部材の前記軸部が、前記第一の部材および前記第二の部材の両側に突出し、
前記軸部の一端側および他端側にそれぞれ前記キャップが設けられる、ことを特徴とする請求項1に記載の耐雷ファスナ。
【請求項3】
第一の部材と第二の部材とを締結するファスナ部材の先端を覆うように取り付けられるキャップであって、
前記キャップは絶縁性材料からなり、かつ、前記ファスナ部材の前記先端を収容する開口部を有し、
前記キャップは、前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当たる突き当たり部を前記キャップの内部に有するとともに、
前記キャップは、絶縁性材料からなるシーラント剤を前記開口部に充填した状態で使用されるものであることを特徴とする耐雷ファスナのキャップ。
【請求項4】
前記突き当たり部を前記ファスナ部材または前記ファスナ部材に締結される締結部材に突き当てた状態で前記キャップが取り付けられると、前記キャップと前記第一の部材の表面、または、前記キャップと前記第二の部材との間にクリアランスが形成され、前記クリアランスに前記シーラント剤が充填されることを特徴とする請求項3に記載の耐雷ファスナのキャップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2013−95423(P2013−95423A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−274549(P2012−274549)
【出願日】平成24年12月17日(2012.12.17)
【分割の表示】特願2011−242552(P2011−242552)の分割
【原出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月17日(2012.12.17)
【分割の表示】特願2011−242552(P2011−242552)の分割
【原出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
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