説明

耐震合成部材およびこれを備えた建造物

【課題】 十分な減衰および必要な耐力を有する耐震合成部材を提供する。
【解決手段】 本発明の耐震合成部材は、鋼管11の内部空間の横断面全体にセメントアスファルト複合体16が充填されていることを特徴とする。この耐震合成部材は建造物の柱または梁に適用すると好適である。セメントアスファルト複合体16は、セメント、アスファルト、および砂等の骨材を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震合成部材およびこれを備えた建造物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材とコンクリートとを合成させたいわゆる鋼−コンクリート合成部材は、橋脚,鋼管杭,鉄骨建屋など土木、建築構造物に広く用いられている。その一例として、鋼管部材の内部にコンクリートを充填する形式の合成部材がある。
たとえば、図7に示す鉄骨建造物1の主要部材である柱2および梁3に、図8(a)に示すように、角形鋼管2aの内部空間にコンクリート2bを充填した鋼−コンクリート合成部材、または図8(b)に示すように、円形鋼管12aの内部空間にコンクリート12bを充填した鋼−コンクリート合成部材を使用する。
これらの鋼−コンクリート合成構造は、部材の剛性を高めるとともに、内部のコンクリートが外側鋼板の局部座屈を拘束するため耐力を増加させる効果はあるが、その反面、構成材料の鋼およびコンクリートは、本来減衰能が小さく、この合成部材で構成された建造物では一般に振動が大きくなってしまう。したがって、大地震時のエネルギーを吸収して応答低減を図るためには、別途制振装置を設置したり、部材に早期降伏部を形成するなどの対策が必要となって、多大の装置費または部材加工費及び修復費が必要となる。
【0003】
一方、改良案として、制振能のある部材を用いた建物が特許文献1に提案されている。図9は、その部材断面を示したもので、角鋼管22aの内表面に密着させて減衰材層22cを形成し、その減衰材層22cの内部空間にコンクリート22bを充填した構成となっている。この部材では、図10の部材応答線図に示すように、地震などの外力を受けて部材に曲げおよび軸力が作用した際に、減衰材層22cに生ずるせん断ひずみ±γによって建物の揺れを減衰させる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−307116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された部材では、減衰材層22cが薄層となっており体積が小さいため、減衰力が小さく大外力には対応できないうえ、部材の耐力の向上とはならず、また施工も複雑であるという問題があった。
そこで、本発明は、十分な減衰を有するとともに耐力をも備えた耐震合成部材およびこれを備えた建造物を提供することを目的とする。
また、本発明は、施工が簡便な耐震合成部材およびこれを備えた建造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の耐震合成部材およびこれを備えた建造物は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる耐震合成部材は、管状部材の内部空間の横断面全体に、又は中空部を有しつつ横断面のほぼ全体に、粘弾性材料が充填されていることを特徴とする。
【0007】
粘弾性材料が管状部材の内部空間の横断面全体に充填されているので、大きな体積の粘弾性材料が配置されることになる。管状部材に加わった歪は大きな体積の粘弾性材料に伝達されるので、粘弾性材料全体で歪エネルギーが消費され、これにより、大きな減衰効果が発揮される。なお、粘弾性材料が完全に横断面全体に充填されている必要はなく、中空部を有していても、横断面のほぼ全体に(間詰厚が厚い状態で)充填されていれば、歪エネルギーが消費される程度の体積が確保されているので問題ない。
管状部材としては、鋼管が好適である。鋼管の断面形状は特に限定されず、例えば、円形または角形が用いられる。
【0008】
また、本発明にかかる耐震合成部材は、前記粘弾性材料の端部に、栓部材が設けられていることを特徴とする。
【0009】
粘弾性材料の端部をそのまま粘弾性材料の表面とすると、この表面が自由表面として挙動し、管状部材の歪が粘弾性材料の管状部材近傍だけにしか伝達されず、効果的な減衰が得られない恐れがある。そこで、粘弾性材料の他端に栓部材を設けて自由表面の挙動を排することとして、管状部材の歪を粘弾性材料の全体に与えることとした。
栓部材としては、粘弾性材料よりも剛性が高い材料が好ましく、例えば所定厚さだけ打設したコンクリートが好適である。また、鋼製のダイアフラムとしてもよい。なお、管状部材の歪をより効果的に伝達するために、栓部材は管状部材の内面に固定されていることが望ましい。
【0010】
また、本発明にかかる耐震合成部材によれば、前記栓部材は、前記粘弾性材料内に設けられた鉄筋によって固定されていることを特徴とする。
【0011】
栓部材が粘弾性材料に設けられた鉄筋によって固定されているので、粘弾性材料は、自由な変形を許容されることなく保持される。したがって、管状部材に曲げ変形が加わった場合には、その変形が粘弾性材料に余すところなく伝えられることとなり、より効果的な減衰を得ることができる。
鉄筋は一端が栓部材に固定されており、他方の固定端としては、例えば、管状部材が固定される相手側の部材、あるいは、粘弾性材料の他端部に設けた栓部材が挙げられる。
【0012】
また、本発明にかかる耐震合成部材によれば、前記粘弾性材料は、セメント、アスファルト、および骨材を主成分とするセメントアスファルト複合体とされていることを特徴とする。
【0013】
粘弾性材料としてセメントアスファルト複合体を用いることとしたので、従来のコンクリートのように簡便に充填することができる。具体的には、粘弾性材料のセメントアスファルト複合体として、アスファルト乳剤とセメント、骨材及び添加材を常温で混合固化させたものが好適である。
【0014】
また、セメントおよび合成樹脂を主成分とした粘弾性材料を用いても良い。
また、前記粘弾性材料は、アスファルト乳剤、合成樹脂および骨材のうちの少なくとも2種類以上とセメントを主原料として用いても良い。
【0015】
また、本発明の建造物は、上記耐震合成部材を梁または柱として用いていることを特徴とする。
建造物に用いられる耐震合成部材は、梁または柱の必要な箇所に適用される。したがって、全ての梁または柱に適用される必要はない。
建造物としては、例えば、橋梁、ビル等が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐震合成部材およびこれを備えた建造物によれば、十分な減衰および必要な耐力を発揮することができる。
また、セメントアスファルト複合体を用いることとすれば、従来のコンクリートのように打設すればよいので、簡便な施工が実現される。




【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の耐震合成部材およびこれを備えた建造物にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本発明の耐震合成部材を適用した橋梁の断面が示されている。
橋梁(建造物)Bは、下方に複数の杭基礎13,13…が固定されたフーチング12と、フーチング12上に立設された橋脚10と、橋脚10の上部に設けられた橋桁14と、橋桁14の上部に設けられた床板15とを備えている。
フーチング12及び杭基礎13,13…は、地中に埋め込まれている。
【0018】
橋脚10は、その下部となる柱状部分10aが耐震合成部材Aとされている。橋脚10の柱状部分10aの外形を構成する鋼管(管状部材)11の内部空間にはセメントアスファルト複合体(粘弾性材料)16が充填されている。セメントアスファルト複合体16は、内部空間の横断面全体に、かつ、フーチング12に固定された橋脚10の下端(固定端)から所定間隔だけ離間した高さ位置まで充填されている。セメントアスファルト複合体16は、鋼管11の内周面に密着した状態で充填されている。セメントアスファルト複合体16の充填領域は、最も応力が加わる位置とすればよく、本実施形態のように橋脚10の根元近傍が好ましい。したがって、セメントアスファルト複合体16が充填されていない領域は空洞となっている。
【0019】
杭基礎13も耐震合成部材Aとされており、その外形を構成する鋼管(管状部材)11の内部空間にはセメントアスファルト複合体16が鋼管11の内周面に密着した状態で充填されている。セメントアスファルト複合体16は、内部空間の横断面全体に、かつ、フーチング12に対して固定された杭基礎13の上端(固定端)から所定間隔だけ離間した下方位置まで充填されている。セメントアスファルト複合体の充填領域は、最も応力が加わる位置とされる地表面(図において上方)近傍とすればよい(例えば杭基礎13の長さの半分程度まで)。
【0020】
セメントアスファルト複合体16は、セメント、アスファルト,砂などの骨材を主成分とし、各成分の配合割合によって弾性,強度,粘性を設計条件に応じて制御することができる。具体的には、セメントと砂(骨材)を増やして強度を上げ、アスファルトを増やして粘性を上げる。
セメント(結合材)としては、超速硬セメント、普通ポルトランドセメント、あるいは普通ポルトランドセメントにフライアッシュを混合した混合セメントが用いられる。アスファルトは、アスファルト乳剤として用いられ、セメントおよび骨材と混合される。
セメントアスファルト複合体16は、鋼管11の側壁に充填用孔部を形成し、そこから内部空間に流し込むことによって鋼管11内に充填される。
なお、粘弾性材料としては、セメントアスファルト複合体に代えて、セメントと合成樹脂との合成材その他の粘弾性材を用いることができる。
合成樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂が用いられる。
【0021】
図2には、橋脚10及び杭基礎13に適用される耐震合成部材Aの横断面が示されている。図2(a)に示すように、角鋼管11aの内部空間に、その内周面と密着させて粘弾性材料であるセメントアスファルト複合体16を横断面全体に充填している。
あるいは、図2(b)に示すように、円鋼管11bの内部空間に、その内周面と密着させて同じくセメントアスファルト複合体16を横断面全体に充填している。
なお、アスファルト複合体16は、本実施形態のように横断面全体に完全に充填されている必要はなく、歪エネルギーを消費できる程度の体積を有していればよい。例えば、その中央に中空部を有しつつ横断面のほぼ全体にアスファルト複合体16を充填するようにしてもよい。具体的には、図2(c),(d)に示すように、鋼管11a,bの内部空間に、その内周面と密着させ、かつ中空状態に粘弾性材料であるアスファルト複合体16を充填しても良い。
【0022】
図1に示す橋梁Bの基本部材としての橋脚10および杭基礎13に、耐震合成部材Aを使用すると、この橋梁に地震などの外力が作用した場合、橋梁が振動して橋脚10および杭基礎13に曲げおよび軸方向変形が生ずる。すると、図3に示すように、その変形を部材内部に充填された粘弾性材料のセメントアスファルト複合体16によりひずみ±εが生じ、このひずみ±εによって大きな減衰効果が発揮され、橋梁の振動は抑制され、減衰する。
なお、耐震合成部材に角鋼管11aを使用した場合(図2参照)または円鋼管11bを使用した場合(図2参照)を問わず、同様の減衰効果を発揮することができる。
【0023】
図4には、橋脚10の鋼管11内にセメントアスファルト複合体16が充填された状態の縦断面が示されている。
図4(a)は、単にセメントアスファルト複合体16を鋼管11内に下方から充填した場合を示している。これでも十分は耐力および減衰を得ることができるが、場合によっては、セメントアスファルト複合体16の上端部(端部)16aが自由表面とされているため、鋼管11が変形しても自由表面が変形してしまい鋼管11内表面近傍のセメントアスファルト複合体16のみが変形するだけで、十分にセメントアスファルト複合体16全体に歪が伝達されずに所望の減衰が得られないおそれがある。この対策として、図4(b)〜(d)の改良が考えられる。
【0024】
図4(b)に示すように、セメントアスファルト複合体16の上端部16aに所定厚さのコンクリート栓(栓部材)17を打設する。コンクリート栓17は鋼管11の内表面に密着した状態で合成されている。コンクリート栓17は、セメントアスファルト複合体16よりも剛性が高いので、鋼管11の変形によって変形させられることがない。したがって、鋼管11の歪をセメントアスファルト複合体16全体に確実に伝達させることができる。
【0025】
図4(c)に示すように、図4(b)のコンクリート栓17に代えて、鋼製のダイアフラム18としてもよい。このダイアフラム18の外周縁は鋼管11の内表面に対して溶接等によって固定されている。このダイアフラム18によれば、セメントアスファルト複合体16の上端部16aの変形を抑制することができるので、鋼管11の歪をセメントアスファルト複合体16全体に確実に伝達させることができる。
【0026】
図4(d)に示すように、セメントアスファルト複合体16の上端部16aに設けたコンクリート栓17(図4(b)参照)と、鋼管11の固定部20との間に鉄筋19,19…を設けても良い。鉄筋19は、セメントアスファルト複合体16の長手方向に延在している。このように鉄筋19を配筋することによって、コンクリート栓17と固定部20との間でセメントアスファルト複合体16がより拘束されることになるので、鋼管11の歪をセメントアスファルト複合体16全体に確実に伝達させることができる。
【0027】
なお、図1に示した橋梁Bの場合に限らず、他の建造物にも本発明の耐震合成部材Aは適用可能である。
例えば、図5に示すように、上部構造物としては図1の橋梁Bに限られず、ビル等の上部構造物50としても良い。この場合、杭基礎13だけでなく、上部構造物50の梁や柱にも耐震合成部材Aが適用される。セメントアスファルト複合体16の充填領域は、杭基礎13の場合、最も応力が加わる位置とされる地表面(図において上方)近傍とすればよい(例えば杭基礎13の長さの半分まで)。
【0028】
また、図6に示すように、基礎34上に建設された鉄骨建造物30に耐震合成部材Aを適用しても良い。この場合、鉄骨建造物30の基本部材としての柱32および梁33が耐震合成部材Aで構成されている。セメントアスファルト複合体16の充填領域は、柱32の場合、根元部分や梁33との接続部分とすればよい。梁33の場合では、最も曲げ変形が加わる中央部分にセメントアスファルト複合体16を充填するとよい。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によれば、橋脚10や杭基礎13、あるいは鉄骨建造物の基本部材としての柱および梁に対して、鋼管11の横断面全体に粘弾性材料であるセメントアスファルト複合体16を充填した耐震合成部材Aを使用することとしたので、地震などの外力が作用した場合、特許文献1に示されたような従来例に比べて大きな体積のセメントアスファルト複合体16全体にひずみを生じさせることができ、大きな減衰効果を発揮することができる。これにより、鉄骨建造物の振動をより効果的に減衰することができ、大外力に対応することができる。
また、充填したセメントアスファルト複合体16の弾性と強度によって鋼管11の局部座屈が拘束でき、部材の耐力が向上するので、修復費をほとんど必要とせず、あるいは修復費を大きく減少させることができる。
【0030】
なお、上記実施形態において説明した耐震合成部材Aは、既設の建造物に対しても適用することができる。
具体的には、既設の橋脚等の鋼管の側壁に充填用孔部を形成し、そこからセメントアスファルト複合体を内部空間に流し込むことによって耐震用合成部材を構成してもよい。既設の橋脚等の鋼管の内部にコンクリートが打設されている場合には、ウォータジェット等でコンクリートを除去した後に、セメントアスファルト複合体を充填すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の耐震合成部材を橋梁に適用した実施形態を示した断面図である。
【図2】耐震合成部材の横断面を示した断面図である。
【図3】本発明の耐震合成部材の減衰効果を説明するための耐震合成部材の縦断面図である。
【図4】セメントアスファルト複合体の充填形式を示した縦断面図である。
【図5】本発明の耐震合成部材の上部構造物への適用を示した断面図である。
【図6】本発明の耐震合成部材の鉄骨建造物への適用を示した断面図である。
【図7】従来の鉄骨建造物を示した断面図である。
【図8】図7のA−A及びB−Bにおける断面図である。
【図9】従来の耐震合成部材を示した横断面図である。
【図10】図9の耐震合成部材の減衰効果を説明するための縦断面図である。
【符号の説明】
【0032】
A 耐震合成部材
B 橋梁(建造物)
10 橋脚
11 鋼管(管状部材)
16 コンクリートアスファルト(粘弾性材料)
17 コンクリート栓(栓部材)
18 ダイアフラム(栓部材)
19 鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状部材の内部空間の横断面全体に、又は中空部を有しつつ横断面のほぼ全体に、粘弾性材料が充填されていることを特徴とする耐震合成部材。
【請求項2】
前記粘弾性材料の端部には、栓部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載の耐震合成部材。
【請求項3】
前記栓部材は、前記粘弾性材料内に設けられた鉄筋によって固定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震合成部材。
【請求項4】
前記粘弾性材料は、セメント、アスファルト、および骨材を主成分とするセメントアスファルト複合体とされていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐震合成部材。
【請求項5】
前記粘弾性材料は、セメントおよび合成樹脂を主成分としていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐震合成部材。
【請求項6】
前記粘弾性材料は、アスファルト乳剤、合成樹脂および骨材のうちの少なくとも2種類以上とセメントを主原料として用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐震合性部材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の耐震合成部材が、梁または柱とされていることを特徴とする建造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−89936(P2006−89936A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273601(P2004−273601)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000233653)ニチレキ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】