説明

耐震性向上提案装置および耐震性向上提案方法

【課題】通常の改修の機会を利用して、きめ細かく建物の耐震性向上を提案する手段を提供する。
【解決手段】耐震性向上提案装置1は、入力部2、表示部3、処理部4および記憶部5を備える。入力部2は、ユーザの操作に伴って改修部位や建物の図面を含む建物情報を入力する。表示部3は、改修プランを提示するための画面などを表示する。処理部4の改修プラン策定部41は、入力部2によって入力された建物情報から、記憶部5に格納された、改修部位ごとの耐震化工法などのデータに基づいて改修プランを策定する。耐震性評価部42は、改修プラン策定部41によって策定された改修プランに係る建物の耐震性を評価する。地震被災リスク評価部43は、改修プランに係る建物の地震被災リスクを評価する。改修コスト評価部44は、改修プランに係る建物の改修コストを評価する。記憶部5は、処理部4が改修プランを策定、評価するのに必要なデータを格納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建築物の耐震性向上を提案するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建築物の耐震性を高めるために、その既存建築物が現行の建築基準法その他の各種法令や基準に適合しているか否かについて耐震診断を行った後、法令や基準を満足するように耐震補強を施す方法が広く行われている。このような方法で既存建築物の耐震性を向上させる技術が、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2004−110264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、既存建築物の耐震性は、所定の規模以上の地震が発生した場合に効果を発揮するものであり、日常の使い勝手にはほとんど影響しない。そのため、耐震性向上の必要性が意識されることはあまりなく、わざわざ耐震診断や耐震補強が単独で行われることは少ない。
【0004】
また、従来の耐震性向上の方法は、建物が耐震基準を満足するか否かを診断し、満足しなければ、建物全体として耐震基準を満たすために補強を行うものである。それ故に、既存建築物の耐震性を現状より少しでも向上させるために、建物の一部や建物内の設備を補強する措置など、きめ細かい対応ができないという問題がある。
【0005】
さらに、建築基準法で定められる耐震基準は、全国一律に適用される最低限のものである。ところが、地震の発生には地域性があるため、耐震基準を満足するか否かだけでは、建築物が建てられている場所における地震のリスクを精確に判断することはできない。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、通常の改修の機会を利用して、きめ細かく建物の耐震性向上を提案する手段を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、建物を改修する提案に付随して、その建物の耐震性向上を提案する耐震性向上提案装置であって、改修部位ごとに1以上の耐震化工法を示す改修部位別耐震化工法データ、耐震化工法ごとに耐震性向上の効果を示す耐震化工法別効果データ、建物の図面から建物の耐震性を計算するための建物耐震性データ、地域ごとに各震度の地震が発生する確率を示す地震発生リスクデータ、耐震化工法ごとにコストを示す耐震化工法別コストデータおよび基本改修プランからコストを計算するための改修コストデータを格納する記憶部と、改修部位、改修内容、建物の図面および建物の所在地を含む建物情報を入力する入力部と、入力部によって入力された改修部位、改修内容および建物の図面から基本改修プランを策定するとともに、その改修部位から、改修部位別耐震化工法データに基づいて1以上の耐震化工法を選択し、その耐震化工法および基本改修プランを合わせた耐震化改修プランを策定する改修プラン策定部と、建物の図面から、建物耐震性データに基づいて基本改修プランに係る建物の耐震性を評価するとともに、建物の図面および改修プラン策定部によって選択された耐震化工法から、建物耐震性データおよび耐震化工法別効果データに基づいて耐震化改修プランに係る建物の耐震性を評価する耐震性評価部と、基本改修プランおよび耐震化改修プランごとに、入力部によって入力された建物の所在地および耐震性評価部によって評価された建物の耐震性から、地震発生リスクデータに基づいて地震被災リスクを評価する地震被災リスク評価部と、基本改修プランから、改修コストデータに基づいて基本改修プランに係る改修コストを評価するとともに、耐震化改修プランから、改修コストデータおよび耐震化工法別コストデータに基づいて耐震化改修プランに係る改修コストを評価する改修コスト評価部と、基本改修プランおよび耐震化改修プランごとに、耐震性評価部によって評価された建物の耐震性、地震被災リスク評価部によって評価された地震被災リスクおよび改修コスト評価部によって評価された改修コストを表示する表示部とを備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、改修部位ごとに1以上の耐震化工法のデータを有し、その耐震化工法ごとに耐震性向上の効果およびコストのデータを有するため、建物の基本改修プランに付随して耐震化改修プランを提示できるので、自然にスムーズに耐震性向上の提案が可能になる。また、基本改修プランおよび耐震化改修プランごとに、建物の耐震性、その耐震性に基づく地震被災リスクおよび改修コストが表示されるので、ユーザが地震対策の重要性および費用に関して理解しやすくなり、耐震化を含む改修の機会が増加すると考えられる。さらに、基本改修プランおよび1以上の耐震化改修プランを提示できるので、ユーザの要望や予算に応じたきめ細かい対応が可能になる。
【0009】
また、本発明は、耐震性向上提案装置であって、設備および家具類の耐震評価を行う設備等評価部をさらに備え、記憶部が、設備および家具類の耐震化対策ならびにその効果およびコストを示す設備等耐震化データを格納し、入力部が、設備および家具類のレイアウト図をさらに入力し、設備等評価部が、入力部によって入力されたレイアウト図から、設備等耐震化データおよび地震発生リスクデータに基づいて、1以上の対策案を設定し、各対策案に係る設備および家具類の耐震性、地震被災リスクおよび対策コストを評価し、表示部が、設備等評価部によって設定された対策案ごとに、設備および家具類の耐震対策、耐震性、地震被災リスクおよび対策コストを表示することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、建物だけでなく、設備および家具類の耐震対策について提示できるので、少ない予算でも耐震性向上が可能なことをユーザが知ることができ、地震対策に対する意識付け、きっかけにすることができる。
【0011】
また、本発明は、耐震性向上提案装置であって、地震被災リスクが、建物の所在地を含む地域において、建物の耐震性を超える震度の地震が発生する確率であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、地域ごとに各震度の地震が発生する確率のデータを有し、地震被災リスクとして、改修の対象となる建物の所在地を含む地域で建物の耐震性を超える震度の地震が発生する確率を求めるので、地震によって災害を被る確率を提示することができ、ユーザに地震対策の重要性を実感させることができる。
【0013】
なお、本発明は、耐震性向上提案方法を含む。その他、本願が開示する課題およびその解決方法は、発明を実施するための最良の形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通常の改修の機会を利用して、きめ細かく建物の耐震性向上を提案することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る耐震性向上提案装置は、既存建物の改修を要望するユーザによって、その改修に係る建物情報が入力されるのを受けて、ユーザが要望する基本的な改修プランおよびそれに耐震化を含めた改修プランを策定、評価し、ユーザ要望の改修プランに付随して、耐震化を含む改修プランをユーザに提示するものである。
【0016】
≪装置の構成と概要≫
図1は、耐震性向上提案装置の構成を示す図である。耐震性向上提案装置1は、入力部2、表示部3、処理部4および記憶部5を含んで構成される。入力部2は、ユーザの操作に伴って建物情報を入力したり、所定の選択結果を入力したりするものであり、例えばキーボードやマウスなどによって実現される。表示部3は、建物情報を入力するための画面や改修プランを提示するための画面などを表示するものであり、例えば液晶ディスプレイなどによって実現される。処理部4は、入力部2が入力した建物情報から、記憶部5に格納された各データに基づいて改修プランを策定、評価し、その改修プランを表示部3に表示させるものである。処理部4は、所定のメモリに格納されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)が実行することによって実現される。記憶部5は、処理部4が改修プランを策定、評価するのに必要なデータを格納するものであり、ハードディスク装置などの不揮発性記憶装置によって実現される。
【0017】
耐震性向上提案装置1は、PC(Personal Computer)やサーバによって構成されるものとする。なお、必ずしもスタンドアロンの構成である必要はなく、クライアント・サーバシステムによって構成されてもよい。
【0018】
処理部4は、図1に示すように、改修プラン策定部41、耐震性評価部42、地震被災リスク評価部43および改修コスト評価部44を備える。改修プラン策定部41は、入力部2によって入力された建物情報から、記憶部5に格納された各データに基づいて改修プランを策定する。耐震性評価部42は、改修プラン策定部41によって策定された改修プランを実施した場合の建物の耐震性を評価する。耐震性とは、建物が耐えられる揺れの大きさ(例えば、震度など)をいう。地震被災リスク評価部43は、改修プラン策定部41によって策定された改修プランを実施した場合の建物の地震被災リスクを評価する。地震被災リスクとは、所定の期間に所定の震度の地震が発生し、何らかの災害を被る確率をいう。例えば、建物の耐震性が評価された場合に、その建物の所在地を含む地域で、その建物の耐震性を超える震度の地震が発生する確率をいう。これによれば、単なる地震の発生確率ではなく、改修プランごとの耐震性による建物の被災の確率が分かるので、ユーザの耐震化に対する意識を喚起することができる。改修コスト評価部44は、改修プラン策定部41によって策定された改修プランの改修コストを評価する。改修コストとは、建物の改修にかかる費用をいう。
【0019】
記憶部5は、図1に示すように、改修部位別耐震化工法データ51、耐震化工法別耐震性向上効果データ(以下、耐震化工法別効果データという)52、建物耐震性データ53、地震発生リスクデータ54、耐震化工法別コストデータ55および改修コストデータ56を格納する。
【0020】
改修部位別耐震化工法データ51は、文字通り、建物の改修部位およびそれに関連した耐震化工法のデータであり、改修部位ごとに1以上の耐震化工法のデータがある。耐震化工法別効果データ52は、改修部位別耐震化工法データ51の各耐震化工法について、その耐震性向上に係る効果を評価したデータである。その効果とは、建物の水平耐力(強度、強靭性)を増大させる効果、建物への地震入力を低減させる効果、地震による建物の揺れを減衰させる効果などである。建物耐震性データ53は、建物の平面図や構造図(図面)から建物の耐震性を計算するのに必要なデータである。このデータは、通常の耐震診断の方法に基づくものである。
【0021】
地震発生リスクデータ54は、全国各地の地震による揺れの大きさおよびその発生確率を示すデータである。耐震化工法別効果データ52、建物耐震性データ53および地震発生リスクデータ54に基づいて、所定の震度以上の地震の発生確率である地震被災リスクや、改修部位に耐震化を施した場合の地震被災リスクを評価することができる。耐震化工法別コストデータ55は、文字通り、改修部位別耐震化工法データ51の各耐震化工法について、その耐震化工法を実施した場合のコストを示すデータである。改修コストデータ56は、改修部位、改修内容、建物の平面図および構造図により策定された基本プラン(基本改修プラン)からコストを計算するのに必要なデータである。耐震化工法別コストデータ55および改修コストデータ56に基づいて、建物の耐震化を含む改修のコストを評価することができる。
【0022】
≪データの構成≫
図2は、改修部位別耐震化工法データの構成を示す図である。改修部位別耐震化工法データ51は、外壁改修関連データ511、床改修関連データ512、天井改修関連データ513、内壁改修関連データ514および屋根改修関連データ515を含む。なお、他の部位の改修関連データをさらに含んでもよい。一例として、外壁改修関連データ511は、軸組み接合部の補強金物取付け、柱脚部アンカの補強金物取付け、ブレース取付け、耐震パネル取付け、ダンパ取付け、基礎の補強、柱梁接合部補強、筋違補強などを含む。すなわち、例えば、「外壁」という1つの改修部位について、複数の耐震化工法があることを意味する。これによれば、ユーザから「外壁」の改修が要望された場合に、「外壁」の改修により可能な様々な耐震性向上の提案を行うことができる。他の改修部位についても同様である。そして、補強金物取付けやブレース取付けなどの耐震化工法ごとの耐震性向上効果およびコストが、それぞれ耐震化工法別効果データ52および耐震化工法別コストデータ55に格納されている。これによれば、様々な耐震性向上の提案ごとにその効果およびコストを提示することができる。他の改修部位についても同様である。
【0023】
≪装置の処理≫
図3は、耐震性向上提案装置の処理を示すフローチャートである。まず、耐震性向上提案装置1の入力部2が、既存建物の改修要望に係る建物情報を入力する(ステップS301)。これは、既存建物の改修を要望するユーザが行う建物情報の入力操作に対応する処理である。建物情報とは、改修部位、改修内容、建物の平面図や構造図、建物の所在地などである。この場合、ユーザに対して、建物情報を一から入力させてもよいし、予め記憶部5に格納された改修部位や改修内容の候補データや既存建物に関する情報から選択させてもよい。
【0024】
次に、改修プラン策定部41が、入力部2によって入力された建物情報から、建物改修の基本プランを策定する(ステップS302)。基本プランは、ユーザによって入力された改修内容だけを実施するプランであり、耐震化を目的とした改修を行わないプランである。具体的には、入力された改修部位および建物の平面図、構造図から改修すべき部分(改修規模)を特定し、入力された改修内容をその部分に施すプランを策定する。
【0025】
そして、耐震性評価部42、地震被災リスク評価部43および改修コスト評価部44が、各部に係る指標に関して、ステップS302で策定された基本プランを評価する(ステップS303)。まず、耐震性評価部42は、入力された建物の平面図および構造図から、建物耐震性データ53を参照して基本プランに係る耐震性データを評価する。次に、地震被災リスク評価部43は、ステップS301で入力された建物の所在地および先に評価された建物の耐震性から、地震発生リスクデータ54に基づいて地震被災リスクを評価する。具体的には、地震発生リスクデータ54から建物の所在地を含む地域の地震による揺れの大きさと、その発生確率とを示すデータを読み出す。そして、その建物の耐震性を超える震度の地震が発生する確率を算出する。これにより、当該建物が地震によって被害を受ける確率が分かる。続いて、改修コスト評価部44は、ステップS302で策定された基本プランに係る改修コストを評価する。具体的には、その基本プランから、改修コストデータ56に基づいて、改修部位、改修内容および改修規模に応じた改修コストを評価する。
【0026】
続いて、改修プラン策定部41が、入力部2によって入力された建物情報から、建物改修の耐震化プラン(耐震化改修プラン)を策定する(ステップS304)。耐震化プランは、入力された建物情報の改修内容と、その改修部位に関する耐震化とを合わせて実施するプランである。具体的には、入力された改修部位および建物の平面図、構造図から改修すべき部分を特定し、入力された改修内容をその部分に施すとともに、その部分を耐震化するプランを策定する。図2の外壁改修関連データ511で説明したように、1つの改修部位に係る耐震化工法が1つとは限らない。そこで、改修プラン策定部41は、様々な耐震化工法を含む改修プランを策定することができる。例えば、改修部位に係るすべての耐震化工法を含む改修プランであってもよいし、最も耐震性が向上する耐震化工法を数件含む改修プランであってもよい。
【0027】
そして、耐震性評価部42、地震被災リスク評価部43および改修コスト評価部44が、各部に係る指標に関して、ステップS304で策定された耐震化プランを評価する(ステップS305)。まず、耐震性評価部42は、入力された建物の平面図および構造図から、建物耐震性データ53を参照して当該建物の耐震性を評価する。また、耐震化プランに含まれる耐震化工法による効果データを、耐震化工法別効果データ52から読み出す。そして、当該建物の耐震性データと、耐震化工法の効果データとから、耐震化プランを施した後の当該建物の耐震性を評価する。次に、地震被災リスク評価部43は、ステップS301で入力された建物の所在地および先に評価された建物の耐震性から、地震発生リスクデータ54に基づいて地震被災リスクを評価する。具体的な評価方法は、ステップS303と同様である。続いて、改修コスト評価部44は、ステップS304で策定された耐震化プランに係る改修コストを評価する。具体的には、その耐震化プランから、耐震化工法別コストデータ55および改修コストデータ56に基づいて、耐震化プランに含まれる耐震化工法に応じた耐震化工法コストならびに改修部位、改修内容および改修規模に応じた改修コストを算出する。そして、その耐震化工法コストおよび改修コストを合計して、全体の改修コストを評価する。
【0028】
ここで、建物の耐震性を変化させたプランの追加があるか否かを判断する(ステップS306)。これは、ユーザから予め2以上の耐震化プランを提案してほしいといった要望があった場合、または耐震性向上提案装置1として推奨すべき2以上の耐震化プランを提示する場合などに対応するものである。プランの追加があれば(ステップS306のY)、再度ステップS304およびS305の処理を行う。
【0029】
プランの追加がなければ(ステップS306のN)、表示部3が、基本プランおよび1以上の耐震化プランを改修プラン案として出力する(ステップS307)。その具体例は後記する。ここで、耐震性向上提案装置1は、ユーザに、表示部3に表示された改修プラン案を参照させて、自らの要望に合致した改修プランを選定させる(ステップS308)。なお、耐震性向上提案装置1が、予め入力されているユーザの要望や予算などに合致した改修プランを選定してもよいし、その選定したプランを表示してユーザに確認させてもよい。そして、耐震性向上提案装置1が、選定された改修プランを最終的な改修プランとして決定する(ステップS309)。なお、耐震性向上提案装置1は、その決定を受けて改修プランの具体化、詳細化を行ってもよい。
【0030】
≪提案画面の例≫
図4は、改修プランを提案する画面の例を示す図である。改修プラン提案画面には、建物についての提案と、設備および家具類についての提案とが表示される。建物についての提案は、図3のステップS307で表示部3に表示される改修プラン案の例である。改修プラン案のうち、改修プラン案Aは、ステップS302で策定され、ステップS303で評価される基本プランに該当する。また、改修プラン案Bおよび改修プラン案Cは、ステップS304で策定され、ステップS305で評価される耐震化プランに該当する。
【0031】
これによれば、ユーザは、各プランの耐震性、地震被災リスクおよび改修コストを参照比較しながら、地震対策について検討することができる。特に、建物の耐震性だけでなく、地震被災リスクとして建物が地震の被害を受ける確率も表示されるので、ユーザは、耐震化の必要性、重要性を認識することができ、建物の耐震性向上が促進されることになる。また、基本プランと、耐震化プランとが同時に表示されるので、基本プランから耐震化プランまでの提案を自然にスムーズに行うことができる。
【0032】
設備および家具類についての提案は、図3のフローチャートでは説明していないが、建物についての提案と同様である。その処理の流れを説明すると、まず、記憶部5は、設備および家具類の耐震化対策ならびにその効果およびコスト(設備等耐震化データ)を予め格納しておく。次に、入力部2は、建物情報を入力する場合に、設備および家具類のレイアウト図をさらに入力する。処理部4は、設備および家具類の耐震評価を行う設備等評価部(図示せず)をさらに備える。設備等評価部は、入力部2によって入力されたレイアウト図から、記憶部5の設備等耐震化データおよび地震発生リスクデータ54に基づいて、例えば、耐震化対策しない場合、振れ止めを施した場合、固定を施した場合などの対策案を設定し、各対策案の耐震性、地震被災リスクおよび対策コストを評価する。そして、表示部3は、対策案ごとに、耐震対策、耐震性、地震被災リスクおよび対策コストを表示する。
【0033】
これによれば、設備および家具類についても耐震性向上の提案を受けることができるので、ユーザは、建物の改修だけでなく、その建物内の設備などの耐震補強も意外に有効であることを認識することができる。実際に地震が発生した場合に、家具類の転倒などによってけがをすることは多い。また、比較的安い対策コストであっても、建物の耐震性や地震被災リスクを改善できるので、耐震対策への動機付けになる。さらに、建物についての提案と、設備および家具類についての提案とを同時に表示することによって、地震被災リスクやコストを比較検討することができ、予算に応じた耐震化向上の計画を立てることができる。
【0034】
以上本発明の実施の形態について説明したが、図1に示す耐震性向上提案装置1内の各部を機能させるために、処理部4で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る耐震性向上提案装置が実現されるものとする。なお、プログラムをインターネットなどのネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップなどをコンピュータに組み込んでもよい。
【0035】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、改修部位ごとに1以上の耐震化工法のデータを有し、その耐震化工法ごとに耐震性向上の効果およびコストのデータを有するため、建物の基本プランに付随して耐震化プランを提示できるので、自然にスムーズに耐震性向上の提案が可能になる。また、基本プランおよび耐震化プランごとに、建物の耐震性、その耐震性に基づく地震被災リスクおよび改修コストが表示されるので、ユーザが地震対策の重要性および費用に関して理解しやすくなり、耐震化を含む改修の機会が増加すると考えられる。さらに、基本プランおよび1以上の耐震化プランを提示できるので、ユーザの要望や予算に応じたきめ細かい対応が可能になる。
【0036】
また、建物だけでなく、設備および家具類の耐震対策について提示できるので、少ない予算でも耐震性向上が可能なことをユーザが知ることができ、地震対策に対する意識付け、きっかけにすることができる。
【0037】
さらに、地域ごとに各震度の地震が発生する確率のデータを有し、地震被災リスクとして、改修の対象となる建物の所在地を含む地域で建物の耐震性を超える震度の地震が発生する確率を求めるので、地震によって災害を被る確率を提示することができ、ユーザに地震対策の重要性を実感させることができる。
【0038】
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、以下のような実施の形態が考えられる。
【0039】
(1)ユーザが要望する改修による基本プランによっても建物の耐震性が向上する場合があるので、それを建物の耐震性を評価するときに反映してもよい。
【0040】
(2)前記実施の形態では、図4に示すように、改修プラン案Bや改修プラン案Cの改修内容の欄には、耐震化工法として「柱梁接合部補強」や「筋違補強」といった1つの工法が掲載されているが、各耐震性を満足するように2以上の耐震化工法を組み合わせた改修内容にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る耐震性向上提案装置の構成を示す図である。
【図2】改修部位別耐震化工法データの構成を示す図である。
【図3】耐震性向上提案装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】改修プランを提案する画面の例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 耐震性向上提案装置
2 入力部 3 表示部
4 処理部 5 記憶部
41 改修プラン策定部 42 耐震性評価部
43 地震被災リスク評価部 44 改修コスト評価部
51 改修部位別耐震化工法データ 52 耐震化工法別効果データ
53 建物耐震性データ 54 地震発生リスクデータ
55 耐震化工法別コストデータ 56 改修コストデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を改修する提案に付随して、その建物の耐震性向上を提案する耐震性向上提案装置であって、
改修部位ごとに1以上の耐震化工法を示す改修部位別耐震化工法データ、耐震化工法ごとに耐震性向上の効果を示す耐震化工法別効果データ、建物の図面から建物の耐震性を計算するための建物耐震性データ、地域ごとに各震度の地震が発生する確率を示す地震発生リスクデータ、耐震化工法ごとにコストを示す耐震化工法別コストデータおよび基本改修プランからコストを計算するための改修コストデータを格納する記憶部と、
改修部位、改修内容、建物の図面および建物の所在地を含む建物情報を入力する入力部と、
前記入力部によって入力された改修部位、改修内容および建物の図面から基本改修プランを策定するとともに、その改修部位から、前記改修部位別耐震化工法データに基づいて1以上の耐震化工法を選択し、その耐震化工法および前記基本改修プランを合わせた耐震化改修プランを策定する改修プラン策定部と、
前記建物の図面から、前記建物耐震性データに基づいて前記基本改修プランに係る建物の耐震性を評価するとともに、前記建物の図面および前記改修プラン策定部によって選択された耐震化工法から、前記建物耐震性データおよび前記耐震化工法別効果データに基づいて前記耐震化改修プランに係る建物の耐震性を評価する耐震性評価部と、
前記基本改修プランおよび前記耐震化改修プランごとに、前記入力部によって入力された建物の所在地および前記耐震性評価部によって評価された建物の耐震性から、前記地震発生リスクデータに基づいて地震被災リスクを評価する地震被災リスク評価部と、
前記基本改修プランから、前記改修コストデータに基づいて前記基本改修プランに係る改修コストを評価するとともに、前記耐震化改修プランから、前記改修コストデータおよび前記耐震化工法別コストデータに基づいて前記耐震化改修プランに係る改修コストを評価する改修コスト評価部と、
前記基本改修プランおよび前記耐震化改修プランごとに、前記耐震性評価部によって評価された建物の耐震性、前記地震被災リスク評価部によって評価された地震被災リスクおよび前記改修コスト評価部によって評価された改修コストを表示する表示部と、
を備えることを特徴とする耐震性向上提案装置。
【請求項2】
設備および家具類の耐震評価を行う設備等評価部をさらに備え、
前記記憶部は、設備および家具類の耐震化対策ならびにその効果およびコストを示す設備等耐震化データを格納し、
前記入力部は、設備および家具類のレイアウト図をさらに入力し、
前記設備等評価部は、前記入力部によって入力されたレイアウト図から、前記設備等耐震化データおよび前記地震発生リスクデータに基づいて、1以上の対策案を設定し、各対策案に係る設備および家具類の耐震性、地震被災リスクおよび対策コストを評価し、
前記表示部は、前記設備等評価部によって設定された対策案ごとに、設備および家具類の耐震対策、耐震性、地震被災リスクおよび対策コストを表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の耐震性向上提案装置。
【請求項3】
前記地震被災リスクは、
前記建物の所在地を含む地域において、前記建物の耐震性を超える震度の地震が発生する確率である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐震性向上提案装置。
【請求項4】
建物を改修する提案に付随して、その建物の耐震性向上を提案する耐震性向上提案方法であって、
改修部位ごとに1以上の耐震化工法を示す改修部位別耐震化工法データ、耐震化工法ごとに耐震性向上の効果を示す耐震化工法別効果データ、建物の図面から建物の耐震性を計算するための建物耐震性データ、地域ごとに各震度の地震が発生する確率を示す地震発生リスクデータ、耐震化工法ごとにコストを示す耐震化工法別コストデータおよび基本改修プランからコストを計算するための改修コストデータを格納する記憶部を備えるコンピュータが、
改修部位、改修内容、建物の図面および建物の所在地を含む建物情報を入力する第1のステップと、
前記入力された改修部位、改修内容および建物の図面から基本改修プランを策定するとともに、その改修部位から、前記改修部位別耐震化工法データに基づいて1以上の耐震化工法を選択し、その耐震化工法および前記基本改修プランを合わせた耐震化改修プランを策定する第2のステップと、
前記建物の図面から、前記建物耐震性データに基づいて前記基本改修プランに係る建物の耐震性を評価するとともに、前記建物の図面および前記選択された耐震化工法から、前記建物耐震性データおよび前記耐震化工法別効果データに基づいて前記耐震化改修プランに係る建物の耐震性を評価する第3のステップと、
前記基本改修プランおよび前記耐震化改修プランごとに、前記入力された建物の所在地および前記評価された建物の耐震性から、前記地震発生リスクデータに基づいて地震被災リスクを評価する第4のステップと、
前記基本改修プランから、前記改修コストデータに基づいて前記基本改修プランに係る改修コストを評価するとともに、前記耐震化改修プランから、前記改修コストデータおよび前記耐震化工法別コストデータに基づいて前記耐震化改修プランに係る改修コストを評価する第5のステップと、
前記基本改修プランおよび前記耐震化改修プランごとに、前記評価された建物の耐震性、地震被災リスクおよび改修コストを表示する第6のステップと、
を含んで実行することを特徴とする耐震性向上提案方法。
【請求項5】
前記記憶部は、設備および家具類の耐震化対策ならびにその効果およびコストを示す設備等耐震化データを格納し、
前記コンピュータは、
前記第1のステップでは、設備および家具類のレイアウト図をさらに入力し、
前記第1のステップと前記第6のステップとの間に、前記入力されたレイアウト図から、前記設備等耐震化データおよび前記地震発生リスクデータに基づいて、1以上の対策案を設定し、各対策案に係る設備および家具類の耐震性、地震被災リスクおよび対策コストを評価するステップをさらに実行し、
前記第6のステップでは、前記設定された対策案ごとに、設備および家具類の耐震対策、耐震性、地震被災リスクおよび対策コストをさらに表示する
ことを特徴とする請求項4に記載の耐震性向上提案方法。
【請求項6】
前記地震被災リスクは、
前記建物の所在地を含む地域において、前記建物の耐震性を超える震度の地震が発生する確率である
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の耐震性向上提案方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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