説明

耐震断熱壁パネル及び耐震断熱壁構造

【課題】耐力面材に断熱用面材を積層一体化した壁パネルについて、断熱性だけでなく高い耐震性、透湿性及び吸放湿性も得られるようにする。
【解決手段】耐力面材1の表面に繊維系断熱材からなる断熱用面材3が、耐力面材1の上端部に固定部1aを残すように上下方向にずれて接着されて積層一体化されている。断熱用面材3の上下端部にはそれぞれ雄実部5及び雌実部6が、上下に隣接する耐震断熱壁パネルWにおける断熱用面材3の雌実部6及び雄実部5と嵌合するように設けられ、断熱用面材3の裏面には、左右方向に延びる複数の凹溝8,8,…が上下方向に間隔をあけて形成され、各凹溝8に補強桟9が嵌合固定されている。壁パネルWは、左右の柱20,20及び該柱20,20間の横桟21に、耐力面材1の固定部1aを通る第1接合具11と、断熱用面材3、補強桟9及び耐力面材1を通る第2接合具12とにより固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震断熱壁パネル、及びそれが施工された耐震断熱壁構造に関し、特に、住宅等の建築物に耐震性及び断熱性を同時に付与するのに好適な耐震断熱壁パネル及び耐震断熱壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災以降、木造住宅の耐震補強のニーズが高まっている。木造住宅の改修において耐震性能を向上させる方法として、既存の壁下地材を取り外した後に構造用合板等の面材を既存の軸組に対し釘打ちして耐力壁を構成する方法が一般的である。
【0003】
一方、近年の住宅分野におけるCO削減が謳われる中、既存住宅の省エネルギー性の向上も重要な課題となっており、そのうちで住宅の断熱性の向上が急務といわれている。一般的な断熱改修工法の1つとして、発泡プラスチック系等の板状の断熱材を付加断熱として外壁側に設置する工法がある。
【0004】
このように耐震性と断熱性との2つのニーズがあるにも拘わらず、耐力面材を張り、断熱材を施工することは2つの作業が必要となり、非常に手間がかかることとなる。
【0005】
そこで、従来、耐震性と断熱性とを同時に満たすために、特許文献1に示すように、表面材と枠材とからなるパネルの内部に断熱材を充填して壁パネルとすることは知られている。
【0006】
しかし、このような木枠を構成する壁パネルの場合、様々なモジュールが存在したり、腐朽や寸法ずれ等で寸法精度を保証できなかったりする施工現場においては適用が困難となる。
【0007】
また、特許文献2及び3に示されるように、耐力面材の表面にパネル状の断熱層をずらして接着して積層一体化し、その断熱層のない部分の耐力面材を釘打ち部とするとともに、断熱層の端面に合決り構造の段差部を形成し、釘打ち部で躯体に取り付け、隣り合う他のパネルに対して段差部で接合するようにした断熱パネルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−169082号公報
【特許文献2】特開2000−303583号公報
【特許文献3】特開2000−303584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2及び3のものでは、特許文献1のような問題は生じない。そして、パネルを施工するだけで耐震性と断熱性が同時に得られるので、両者の作業を別々に行う場合に比べて施工の手間を大幅に低減することができる。また、複数のパネルが連続して接合され、それらの断熱層も段差部によって欠損なく繋ぐことができ、高い断熱効果が安定して得られる。
【0010】
ところが、その反面、断熱層として発泡系断熱材を用いており、高い断熱性が得られるものの、耐震性については耐力面材だけで確保しているので、断熱性に比べて耐震性が不十分となるのは否めない。
【0011】
また、断熱層としての発泡系断熱材の透湿抵抗は高く、かつその吸放湿性もないので、壁内の湿気が抜けずに結露を招く虞れもある。
【0012】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたもので、その目的は、耐力面材に断熱層等の断熱用面材を積層一体化した壁パネルの構造を改良することにより、その壁パネルについて、断熱性だけでなく高い耐震性、透湿性及び吸放湿性も得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、この発明では、断熱用面材において耐力面材側に補強桟を埋込状態で固定し、接合具を断熱用面材から補強桟及び耐力面材を通して躯体に固定するようにして、耐力面材だけでなく断熱用面材の一部でも耐震性を持たせるようにした。
【0014】
具体的には、請求項1の発明の耐震断熱壁パネルでは、耐力面材の表面に、繊維系断熱材からなる断熱用面材が裏面にて接着されて積層一体化され、上記断熱用面材の上下端部には雌実部又は雄実部が、それぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合するように設けられ、上記断熱用面材の裏面には、左右方向に延びる複数の凹溝が上下方向に間隔をあけて形成されて、該凹溝に補強桟が凹溝を充填するように嵌合されて固定されており、左右の柱に対し少なくとも、上記断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る接合具により固定されるように構成されていることを特徴とする。
【0015】
この請求項1の発明では、耐震断熱壁パネルにおける断熱用面材裏面の複数の凹溝に補強桟が充填されて固定され、その断熱用面材が裏面にて耐力面材に接着されて積層一体化されているので、耐力面材及び断熱用面材の双方によって耐震断熱壁パネルの面内剪断力が増大する。そして、この耐震断熱壁パネルを左右の柱に固定するとき、耐力面材が固定される。同時に、接合具により断熱用面材も耐力面材と共に固定され、該接合具は断熱用面材、その裏面の補強桟及び耐力面材を通って柱に固定される。このように、壁パネルが断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る接合具によっても柱に固定されることで、壁パネルの剪断強度が増大して、耐震性の向上に寄与することができる。そして、耐震断熱壁パネルは、耐力面材に断熱用面材を積層一体化したものであるので、この壁パネルを住宅等の外壁部に施工することで、その外壁部の耐震性と断熱性とを同時にかつ容易に確保することができる。
【0016】
また、断熱用面材の上下端部には雌実部又は雄実部が形成され、これらをそれぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合することで、複数の耐震断熱壁パネルの断熱用面材が隙間なく連続するようになり、外壁部の断熱性を高めることができる。
【0017】
さらに、繊維系断熱材から断熱用面材は透湿性及び吸放湿性を有し、壁内の湿度の上昇を調整して、壁内結露を抑制することができる。
【0018】
また、請求項2の発明の耐震断熱壁パネルでは、矩形状の耐力面材の表面に、繊維系断熱材からなる断熱用面材が裏面にて、耐力面材の上端部又は下端部に所定寸法の固定部を残すように上下方向にずれた状態で接着されて積層一体化されている。上記断熱用面材の上下端部には雌実部又は雄実部が、それぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合するように設けられ、上記断熱用面材の裏面(耐力面材側)には、左右方向に延びる複数の凹溝が上下方向に間隔をあけて形成されて、該凹溝に補強桟が凹溝を充填するように嵌合されて固定されている。そして、左右の柱及び該柱間に横架した横桟に対し、上記耐力面材の固定部を通る第1接合具と、断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る第2接合具とにより固定されるように構成されていることを特徴とする。
【0019】
この請求項2の発明では、請求項1の発明と同様に、耐震断熱壁パネルにおける断熱用面材裏面の複数の凹溝に補強桟が充填されて固定され、その断熱用面材が裏面にて耐力面材に接着されて積層一体化されているので、耐力面材及び断熱用面材の双方によって耐震断熱壁パネルの面内剪断力が増大する。そして、この耐震断熱壁パネルを左右の柱及び該柱間の横桟に対し固定するとき、耐力面材において断熱用面材が積層されていない部分である固定部が第1接合具により固定される。同時に、この固定部を通る第1接合具とは別の第2接合具により断熱用面材も耐力面材と共に固定され、該第2接合具は断熱用面材、その裏面の補強桟及び耐力面材を通って柱や横桟に固定される。このように、パネルが断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る第2接合具によっても柱や横桟に固定されることで、壁パネルの剪断強度が増大して、耐震性の向上に寄与することができる。そして、耐震断熱壁パネルは、耐力面材に断熱用面材を積層一体化したものであるので、この壁パネルを住宅等の外壁部に施工することで、その外壁部の耐震性と断熱性とを同時にかつ容易に確保することができる。
【0020】
また、断熱用面材の上下端部には雌実部又は雄実部が形成され、これらをそれぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合することで、複数の耐震断熱壁パネルの断熱用面材が隙間なく連続するようになり、外壁部の断熱性を高めることができる。
【0021】
さらに、繊維系断熱材から断熱用面材は透湿性及び吸放湿性を有し、壁内の湿度の上昇を調整して、壁内結露を抑制することができる。
【0022】
請求項3の発明では、上記断熱用面材は、側面抵抗値が500N以上の性能を有する繊維系断熱材からなることを特徴とする。
【0023】
この請求項3の発明では、耐震断熱壁パネルにおいて、その剪断強度の一部を断熱用面材に期待することができる。
【0024】
請求項4の発明では、上記断熱用面材の表面には補強桟の位置を表すマークが形成されていることを特徴とする。
【0025】
この請求項4の発明では、断熱用面材の表面から裏面側の補強桟の位置を容易に識別することができ、断熱用面材表面のマークの位置から接合具を耐力面材に通すことにより、その接合具を確実に補強桟を通るように固定することができる。
【0026】
請求項5の発明では、上記断熱用面材の左右端面に凹溝が開放されかつ補強桟が露出していることを特徴とする。
【0027】
この請求項5の発明では、断熱用面材の左右端面に凹溝が開放されかつ補強桟が露出しているので、壁パネルを左右方向の途中で切断しても、その左右方向の断面構造は同じとなり、断熱用面材の切断した端面に常に同じ凹溝及び補強桟が露出することとなり、切断後に修正のための後加工が不要でそのまま使用することができる。
【0028】
請求項6の発明は、請求項2〜5のいずれか1つの耐震断熱壁パネルが施工された耐震断熱壁構造であって、複数枚の耐震断熱壁パネルが、左右の柱及び該柱間に横架した横桟に対し室外側から、耐力面材の固定部を通る第1接合具と、断熱用面材の表面から該断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る第2接合具とにより固定されており、上記上下に隣接する耐震断熱壁パネル同士は、一方の雌実部又は雄実部に他方の雄実部又は雌実部を嵌合することで接合されていることを特徴とする。
【0029】
この請求項6の発明では、複数枚の耐震断熱壁パネルが左右の柱及び横桟に対し室外側から、耐力面材の固定部を通る第1接合具と、断熱用面材の表面から該断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る第2接合具とにより固定されているので、パネルが耐力面材のみを通る第1接合具と、断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る第2接合具とによって柱や横桟に固定される。よって、請求項2の発明と同様に、壁パネルの面内剪断力が増大し、耐震性の向上に寄与することができる。
【0030】
また、このように複数枚の耐震断熱壁パネルが左右の柱及び横桟に対し固定されたとき、断熱用面材の上下端部の雌実部又は雄実部が、それぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合するので、断熱用面材が隙間なく連続するようになり、外壁部の断熱性を高めることができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、請求項1、2及び6の発明によると、耐力面材の表面に繊維系断熱材からなる断熱用面材を積層一体化し、断熱用面材の裏面に水平凹溝を形成して補強桟を嵌合固定し、断熱用面材の上下端部に雌実部又は雄実部を形成した耐震断熱壁パネルを、少なくとも、断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る接合具によって柱に固定するようにしたことにより、壁パネルの面内剪断力が増大し、耐震性の向上に寄与することができるとともに、断熱用面材の上下端部の雌実部又は雄実部をそれぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合して、複数の耐震断熱壁パネルの断熱用面材を隙間なく連続させ、断熱性を高めることができ、よって耐震性及び断熱性の向上を容易に併せ図ることができ、透湿性及び吸放湿性の向上をも図ることができる。
【0032】
請求項3の発明によると、断熱用面材を側面抵抗値が500N以上の性能の繊維系断熱材としたことにより、耐震断熱壁パネルの剪断強度の一部を断熱用面材に期待することができる。
【0033】
請求項4の発明によると、断熱用面材の表面に補強桟の位置を表すマークを形成したことにより、断熱用面材の表面から裏面側の補強桟の位置を容易に識別して、断熱用面材表面のマークの位置から接合具を確実に補強桟を通るように固定することができる。
【0034】
請求項5の発明によると、断熱用面材の左右端面に凹溝が開放されかつ補強桟が露出していることにより、壁パネルを途中で切断しても、断熱用面材の切断した端面に常に同じ凹溝及び補強桟が露出し、切断後に修正のための後加工を要することなくそのまま使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は本発明の実施形態に係る耐震断熱壁パネルの斜視図である。
【図2】図2は耐震断熱壁パネルの側面図である。
【図3】図3は耐震断熱壁パネルの正面図である。
【図4】図4は耐震断熱壁パネルの断熱用面材を裏側から見た正面図である。
【図5】図5は、耐震断熱壁パネルが施工された耐震断熱壁構造を室外側から見て示す斜視図である。
【図6】図6は耐震断熱壁構造を室外側から見た正面図である。
【図7】図7は耐震断熱壁構造の側面図である。
【図8】図8は耐震断熱壁構造の要部を室外側から見て示す拡大斜視図である。
【図9】図9は、他の実施形態に係る耐震断熱壁パネルが施工された耐震断熱壁構造を示す図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0037】
図1〜図3は本発明の実施形態に係る耐震断熱壁パネルW(以下、壁パネルとも称す)を示し、この壁パネルWは、耐力面材1と、その表面に接着されて積層一体化された断熱用面材3とを組み合わせたものである。
【0038】
(耐力面材)
上記耐力面材1は、耐力壁としての剪断強度が要求される矩形板状の構造用面材であり、例えばIB、MDF、HB等の高密度(密度0.4/cm以上)の木質繊維板や、火山性ガラス質複層板(例えば大建工業株式会社製の商品名「ダイライト」)等の高強度の無機材料からなるものが用いられる。耐力壁としての剪断強度の確保のために、後述する第1接合具11を貫通させたときの側面抵抗値を500N以上とする性能が必要である。この耐力面材1は、例えば左右方向の幅900〜2000mm、高さ900〜1000mmのサイズが用いられる。
【0039】
(断熱用面材)
断熱用面材3は、IB、RW・GW等の透湿抵抗が低くて断熱性能が高い繊維系断熱材が用いられ、その密度は0.2〜0.4/cmが好ましい。この断熱用面材3も耐力壁の剪断強度の一部を期待するために、厚さも考慮して、後述する第2接合具12を貫通させたときの側面抵抗値が500N以上の性能を有することが好ましい。この断熱用面材3は、耐力面材1と同様に、例えば左右方向の幅900〜2000mm、高さ900〜1000mmのサイズが用いられる。
【0040】
上記のように、断熱用面材3は耐力面材1と同じ大きさの矩形状のものである。そして、耐力面材1の表面に、それと同じ大きさの断熱用面材3が裏面にて、耐力面材1の上端部に所定寸法(例えば50〜100mm)の固定部1aを残すように上下方向にずれた状態で接着されて積層一体化されている。尚、耐力面材1の表面に断熱用面材3が、上記とは逆に耐力面材1の下端部に固定部を残すように上下方向にずれて接着されて積層一体化されていてもよい。
【0041】
この断熱用面材3と耐力面材1とを接着する接着剤としては、例えば酢酸ビニル系や水性イソシアネート系等の接着剤が好ましい。この接着剤による接着層が壁パネルWの透湿抵抗を妨げないようにするために、接着剤を後述の補強桟9の位置を含めて例えば直径2mm程度のビード状に50〜100mm間隔をあけて塗布することが好ましい。
【0042】
(雌雄実部)
上記断熱用面材3の上端部には、その表裏面の角部を切り欠いてなる突条(図示例では断面が先細りテーパ状のもの)で構成された雄実部5が断熱用面材3の幅方向の全体に亘り形成されている。一方、断熱用面材3の下端部には、その表裏厚さ方向の中間部を切り欠いた溝(図示例では溝奥部に向かってテーパ状に溝幅が狭くなるもの)からなる雌実部6が断熱用面材3の幅方向の全体に亘り形成されている。そして、図5〜図7に示すように、複数枚の耐震断熱壁パネルW,W,…を施工したときに、各壁パネルWにおける断熱用面材3上端の雄実部5が、該壁パネルWの上側に隣接する壁パネルWにおける断熱用面材3下端の雌実部6と嵌合するようになっている。尚、これとは逆に、断熱用面材3の上端部に雌実部6を、また下端部に雄実部5をそれぞれ形成するようにしてもよい。
【0043】
(補強桟)
図4にも示すように、上記断熱用面材3において、その耐力面材1側である裏面には、断熱用面材3の幅方向全体に亘って左右方向に延びる例えば断面矩形状の複数の凹溝8,8,…が上下方向に間隔をあけて形成されている。そして、この各凹溝8には補強桟9(木桟)が凹溝8を充填するように嵌合されて接着剤等により固定されている。凹溝8の端部は断熱用面材3の左右端面に開放されており、補強桟9も断熱用面材3の左右端面に露出している。この補強桟9の厚さ(凹溝8の深さ)は10〜30mmが好ましく、上下幅(凹溝8の溝幅)は30〜100mmが好ましい。
【0044】
また、上記断熱用面材3の表面(凹溝8と反対側の面)には、裏面にある凹溝8内の補強桟9の位置をそれが断熱用面材3の表面から判別できるようにするために表す線や点等のマーク10が形成されている。このマーク10は、凹溝8及びその内部の補強桟9の上下略中央位置に対応する位置に形成されており、後述の第2接合具12を断熱用面材3の表面から挿通させるときに、その第2接合具12をマーク10の位置から挿通させることで、第2接合具12が補強桟9の上下略中央位置を通るようにしている。
【0045】
そして、後で詳細に説明するが、図5〜図8に示すように、縦軸材としての左右の柱20,20(間柱であってもよい)及び該柱20,20間に横架した横桟21に対し、上記耐力面材1の固定部1aを通る複数の第1接合具11,11,…と、断熱用面材3、補強桟9及び耐力面材1を通る複数の第2接合具12,12,…とにより固定されるように構成されている。
【0046】
(接合具)
上記第1接合具11は、耐力面材1の固定部1aを横桟21及び柱20と接合するためのもので、一般的な面材張り耐力壁に使用する例えばN50、CN50、SN50の釘やビス等、十分な曲げ強度を有するものが用いられる。
【0047】
一方、第2接合具12は、断熱用面材3の表面から補強桟9及び耐力面材1を貫通することで、該断熱用面材3、補強桟9及び耐力面材1を上記柱20及び横桟21に接合するためのものであり、一般的な外張り断熱工法に使用する例えば直径3mm以上、長さ100mm以上のビス等が用いられる。
【0048】
尚、第1接合具11と第2接合具12とは、施工性に配慮し、同じ接合具を使用してもよい。
【0049】
(耐震断熱壁構造)
次に、上記耐震断熱壁パネルWを例えば既存の住宅に改修のために施工する施工方法、及びそれによって形成される耐震断熱壁構造について説明する。尚、上記耐震断熱壁パネルWは新築の住宅等に施工することができるのは言うまでもない。
【0050】
図5〜図9に示すように、住宅において隣接する柱20,20間(又は柱と間柱との間)に横桟21を掛け渡して固定する。例えば、真壁構造のように柱20等が外に現れている場合には、そのままで柱20,20の間に横桟21を固定する。また、サイディング等の外壁化粧材が施工されている場合は、解体して柱20を剥き出しにしてから、それら柱20,20の間に横桟21を固定する。いずれの場合も、柱20や土台等の腐朽、蟻害が大きいときには、その補修や交換をすることが必要である。
【0051】
横桟21を固定する高さ位置は、耐震断熱壁パネルWにおける耐力面材1の固定部1aが固定される位置である。例えば図9に示すように、2本の柱20,20の場合には、それらの柱20,20間に1つの横桟21を取り付ける。また、図5及び図6に示す例のように、3本の柱20,20,…がある場合には、それらの柱20,20,…間に2つの横桟21,21を同じ高さ位置で取り付ける。
【0052】
横桟21は耐震断熱壁パネルWを柱20(又は間柱)と共に固定するための受け材であり、その両端部が端面を柱20の側面に当接させた状態で、例えばL字状に折り曲げられた横桟受け金物22,22により柱20に固定される。横桟21の材質は、例えば木材が望ましいが、合板等の木質材料等であってもよく、そのときには木材以上の接合具保持力を有することが必要である。
【0053】
上記横桟受け金物22は横桟21の両端部に取り付けられて柱20に固定する接合金物であり、アルミニウム等の金属材料からなっている。
【0054】
このように横桟21が架設された柱20,20の室外面間に上記壁パネルWをその耐力面材1の固定部1a上端面の高さが横桟21の上下中央に位置するように位置決めして配置し、その固定部1aの表面(室外側)から複数の第1接合具11,11,…を貫通させ、その各第1接合具11の先端部を横桟21に固定する。壁パネルWの左右端部の固定部1aにあってはそれを貫通する第1接合具11を柱20の室外側表面に固定する。また、図5及び図6に示す例のように、3本の柱20,20,…のうちの中央の柱20が壁パネルWの左右中央部の固定部1aに位置するときにあっても、その固定部1aを貫通する第1接合具11を中央の柱20の室外側表面に固定する。
【0055】
そのとき、壁パネルWの左右長さが柱20,20間の長さ(柱の中心間の距離)よりも長い場合には、その長さに応じて壁パネルWの左右一方の端部を切断すればよい。壁パネルWの左右方向(長さ方向)の断面構造は同じであり、断熱用面材3の左右端面に凹溝8及び補強桟9が露出した構造であるので、途中で切断しても同じ端面が現れる構造となり、切断後に修正のための後加工が不要でそのまま使用できる。
【0056】
こうして壁パネルWを耐力面材1上端の固定部1aで固定した後、その断熱用面材3の表面(室外側)から複数の第2接合具12,12,…を貫通させ、その各第2接合具12の先端部を断熱用面材3、その裏面の凹溝8内にある補強桟9、及び断熱用面材3の裏側の耐力面材1を貫通させて柱20に固定する。
【0057】
壁パネルWの下端部に、下側の壁パネルWにおける耐力面材1の固定部1aを固定した横桟21がある場合には、その横桟21の上半部に対し複数の第2接合具12,12,…を固定する。これら複数の第2接合具12,12,…は左右方向に並んだ状態でいずれも先端部が同じ1つの補強桟9を通るように固定される。
【0058】
そのとき、断熱用面材3の裏面の凹溝8や補強桟9は耐力面材1で覆われていて、その高さ位置が断熱用面材3の左右側端面から判別できるが、表面からは判別できない。しかし、断熱用面材3の表面には、裏面の凹溝8内の補強桟9の高さ位置を表すマーク10が表示されているので、このマーク10の位置で第2接合具12を断熱用面材3を貫通させることで、補強桟9の位置が断熱用面材3の表面側で見えなくても、その第2接合具12を確実に補強桟9(その上下略中央位置)を通すことができ、確実で安定した施工を行うことができる。
【0059】
尚、必要とする壁の剪断耐力を満足するのであれば、図9に示すように断熱用面材3の表面(室外側)において、マーク10のない位置から第2接合具12と同様に、第3接合具13を貫通させ、その第3接合具13の先端部を断熱用面材3及びその裏側の耐力面材1のみ(補強桟9は貫通しない)を貫通させて柱20に固定するようにしてもよい。
【0060】
以上により、1枚の壁パネルWがその断熱用面材3上端の雄実部5を上に向けた状態で柱及び横桟21に取付固定されて施工される。その後、その上側に次の壁パネルWを上記先の壁パネルWと同様にして取付固定する。このとき、次の壁パネルWは、その断熱用面材3下端部の雌実部6を先の壁パネルWにおける断熱用面材3上端の上記雄実部5に嵌合する。
【0061】
このことで、複数枚の耐震断熱壁パネルW,W,…が、左右の柱20,20及び該柱20,20間に横架した横桟21に対し室外側から、耐力面材1の固定部1aを通る第1接合具11,11,…と、断熱用面材3の表面から該断熱用面材3、補強桟9及び耐力面材1を通る第2接合具12,12,…とにより固定され、上下に隣接する壁パネルW,W同士は、その上側の壁パネルWの雌実部6に下側の壁パネルWの雄実部5を嵌合することで接合されて、断熱用面材3,3,…が隙間なく連続している耐震断熱壁構造が構成される。
【0062】
尚、複数枚の壁パネルW,W,…の施工が完了すると、図示しないが、その後、それらの壁パネルW,W,…の表面(室外側面)に透湿防水シートを張り、胴縁をかけてサイディング等の外壁化粧材を施工する。
【0063】
したがって、この実施形態においては、耐震断熱壁パネルWは、耐力面材1の表面に断熱用面材3を積層して接着一体化したものであるので、この壁パネルWを住宅等の外壁部における柱20及び該柱20,20間の横桟21に施工することで、その外壁部の耐震性と断熱性とを同時にかつ容易な施工によって確保することができる。
【0064】
また、上記耐力面材1の表面に一体的に接着された断熱用面材3は、繊維系断熱材からなっていて、その剪断強度や施工時の接合具の保持力が発泡系断熱材に比べて高い。しかも、断熱用面材3の裏面の複数の凹溝8,8,…が形成され、その各凹溝8に補強桟9が充填されて嵌合固定されているので、複数の第1接合具11,11,…を耐力面材1の固定部1aを通して左右の柱20及び該柱20,20間の横桟21に固定するとともに、複数の第2接合具12,12,…を断熱用面材3、その裏面の補強桟9及び耐力面材1を通して左右の柱20及び該柱20,20間の横桟21に固定することで、壁パネルWの面内剪断力が増大する。このことにより、上記断熱用面材3の剪断強度や施工時の接合具の保持力の増大と相俟って、施工時の耐震性の向上に寄与することができる。
【0065】
さらに、断熱用面材3の上端部に雄実部5が、また下端部には雌実部6がそれぞれ形成されているので、上下に隣接する壁パネルW,W,…のうち上側の壁パネルWの断熱用面材3下端部の雌実部6に下側の壁パネルWの断熱用面材3上端部の雄実部5を嵌合することで、複数の耐震断熱壁パネルW,W,…の断熱用面材3,3,…が隙間なく連続するようになり、断熱性を高めることができる。
【0066】
また、上記のように、住宅等の外壁が真壁仕様であって柱等が外に現れている場合には、その外壁等を解体することなく、その上から直接壁パネルW,W,…を取り付けることができ、施工が容易となる。その際、外壁に既に断熱材が施工されている場合には、その既設の断熱材に、断熱用面材3を備えた壁パネルWを付加断熱材として組み合わせることにより、外壁の断熱性をさらに向上させることができる利点がある。
【0067】
また、壁パネルWの断熱用面材3は繊維系断熱材からなるので、透湿性及び吸放湿性を有し、壁内の湿度の上昇を調整して、壁内に結露が発生するのを抑制することができる。
【0068】
そして、断熱用面材3の繊維系断熱材として木質繊維板を用いると、火災等でその表面が炭化してそれ以上燃焼が進まないので、合成樹脂系の断熱材に比べ、壁全体の耐火性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、耐震性及び断熱性の向上を容易に併せ図ることができるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0070】
W 壁パネル
1 耐力面材
1a 固定部
3 断熱用面材
5 雄実部
6 雌実部
8 凹溝
9 補強桟
10 マーク
11 第1接合具
12 第2接合具
20 柱
21 横桟
22 横桟受け金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐力面材の表面に、繊維系断熱材からなる断熱用面材が裏面にて接着されて積層一体化され、
上記断熱用面材の上下端部には雌実部又は雄実部が、それぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合するように設けられ、
上記断熱用面材の裏面には、左右方向に延びる複数の凹溝が上下方向に間隔をあけて形成されて、該凹溝に補強桟が凹溝を充填するように嵌合されて固定されており、
左右の柱に対し少なくとも、上記断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る接合具により固定されるように構成されていることを特徴とする耐震断熱壁パネル。
【請求項2】
矩形状の耐力面材の表面に、繊維系断熱材からなる断熱用面材が裏面にて、耐力面材の上端部又は下端部に所定寸法の固定部を残すように上下方向にずれた状態で接着されて積層一体化され、
上記断熱用面材の上下端部には雌実部又は雄実部が、それぞれ上下に隣接する耐震断熱壁パネルの断熱用面材の雄実部又は雌実部と嵌合するように設けられ、
上記断熱用面材の裏面には、左右方向に延びる複数の凹溝が上下方向に間隔をあけて形成されて、該凹溝に補強桟が凹溝を充填するように嵌合されて固定されており、
左右の柱及び該柱間に横架した横桟に対し、上記耐力面材の固定部を通る第1接合具と、断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る第2接合具とにより固定されるように構成されていることを特徴とする耐震断熱壁パネル。
【請求項3】
請求項1又は2において、
断熱用面材は、側面抵抗値が500N以上の性能を有する繊維系断熱材からなることを特徴とする耐震断熱壁パネル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つにおいて、
断熱用面材の表面には補強桟の位置を表すマークが形成されていることを特徴とする耐震断熱壁パネル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
断熱用面材の左右端面に凹溝が開放されかつ補強桟が露出していることを特徴とする耐震断熱壁パネル。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1つの耐震断熱壁パネルが施工された耐震断熱壁構造であって、
複数枚の耐震断熱壁パネルが、左右の柱及び該柱間に横架した横桟に対し室外側から、耐力面材の固定部を通る第1接合具と、断熱用面材の表面から該断熱用面材、補強桟及び耐力面材を通る第2接合具とにより固定されており、
上記上下に隣接する耐震断熱壁パネル同士は、一方の雌実部又は雄実部に他方の雄実部又は雌実部を嵌合することで接合されていることを特徴とする耐震断熱壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−113042(P2013−113042A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262235(P2011−262235)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【Fターム(参考)】