説明

耐震補強工法及び補強ピース

【課題】建物本体に外接して張り出した外床部を備えた既存建築物において、室内と外床部との間に位置する柱梁フレームを補強ユニットで耐震補強する場合に、室内と外床部との間を不自由なく出入りすることができると共に、耐震補強の工事コストを抑制することができる耐震補強工法、及びその工法に用いる補強ピースを提供する。
【解決手段】補強ユニット20は、鋼材22とその周囲を覆うコンクリート部23とを一体成形した補強ピース21で形成され、補強ピース21は、既存柱11の高さ方向Vtに沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有し、補強ピース21の垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3Lに支持されて固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビル、集合住宅等の既存建築物を対象とした耐震補強工事における耐震補強工法、及びこの工法に用いる補強ピースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビル、集合住宅等の既存建築物の中には、現行の建築構造基準を満たして建てられていない建物もあり、このような建物は、補強により耐震強度を高める必要がある。その耐震強度を高める技術の一例として、特許文献1乃至3に開示された耐震補強工法が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、既存建築物において、既存柱と既存梁とからなる四角枠形状の柱梁フレームのうち、その開口部の内側側面に、複数の補強ピースを左右対称に門型枠形状に接合した補強ユニットを挿入して嵌め込み、補強ユニットを柱梁フレームに固定させて一体化した耐震補強工法が、記載されている。図27は、特許文献1の耐震補強工法で柱梁フレームを補強した様子を、上側の既存梁を通る位置で、柱梁フレームの高さ方向から見た断面図で示した説明図である。特許文献1の耐震補強工法は、図27に示すように、既存柱811が既存梁816より外側(図27中、下側)に突出した柱梁フレーム810Aに適用され、補強ユニット820の補強柱821L,821Lを左右両側の既存柱811,811に、補強ユニット820の補強梁821Hを上側の既存梁816に、それぞれ固定させて柱梁フレーム810Aを補強している。
【0004】
また、特許文献2には、既存建築物において、既存柱と既存梁とからなる四角枠形状の柱梁フレームのうち、その開口部の内側側面に、複数の補強ピースをロ字型枠形状に接合した補強ユニットを挿入して嵌め込み、補強ユニットを柱梁フレームに固定させて一体化した耐震補強工法が、記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、既存建築物において、既存柱と既存梁とからなる四角枠形状の柱梁フレームのうち、その開口部の内側にある左右両側の既存柱の側面に、鋼材とその周囲を繊維補強コンクリートで覆って形成された角柱状の補強ユニットをそれぞれ配置し、補強ユニットを既存柱の側面に固定させて一体化した耐震補強工法が、記載されている。この工法は、柱梁フレームの開口部を高さ方向から見たときに、既存柱の外側側面と既存梁の外側側面との間に段差がない柱梁フレームに適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−46966号公報
【特許文献2】特開2008−2091号公報
【特許文献3】特開2010−48032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、既存建築物が建物本体に外接して張り出したベランダを備えた集合住宅である場合において、従来技術には、以下のような問題があった。
【0008】
(1)特許文献1では、門型枠状の補強ユニットが、柱梁フレームの開口部の内側側面に嵌め込み、柱梁フレームと一体化させる構造であるため、補強ユニットの上側の補強梁が、柱梁フレームの上側の既存梁から下方にはみ出してしまい、補強ユニットを設けた柱梁フレームの開口部で、補強梁までの高さが、補強ユニットの取り付け前の高さより低くなる。そのため、四角枠状の補強ユニットが、居室とベランダとの間に位置する柱梁フレームの開口部に取り付けられると、居住者等の人が、居室とベランダとの間を出入りするときに、頭部を補強ユニットの上側の補強梁にぶつけてしまう虞があり、居住に支障が生じることがある。
【0009】
また、特許文献1の耐震補強工法は、既存柱が既存梁より外側に突出した構造の柱梁フレームに適用できるが、特に、集合住宅のベランダの床として、スラブが既存梁から建物本体の外側に突出する構造の柱梁フレームには適用できない。
【0010】
(2)特許文献1と同様、特許文献2でも、四角枠形状の補強ユニットが、柱梁フレームの開口部の内側側面に嵌め込んで取り付ける構造であり、補強ユニットの上側の補強梁が、柱梁フレームの上側の既存梁から下方にはみ出し、頭部を補強ユニットの上側の補強梁にぶつけてしまう虞がある。
【0011】
(3)特許文献3では、特許文献1及び2と異なり、上側の既存梁に補強ユニットが取り付けられないため、補強ユニットを取り付けた開口部の高さは、補強ユニットの取り付け前の高さのまま維持される。
【0012】
しかしながら、特許文献3では、既存柱と既存梁との間で段差がなく、居室とベランダとの間に位置する柱梁フレームの開口部の左右両側の既存柱の側面に、角柱状の補強ユニットを取り付けると、補強ユニットが居室側にもせり出してしまうことがある。そのため、この補強ユニットで耐震補強を行うと、耐震補強工事以外に柱梁フレームの開口部の改造工事が別途必要となる場合があり、工事費はコスト高となる。また、柱梁フレームの開口部を通じて、居室からベランダへの視界が、角柱状の補強ユニットによって遮断され狭められて見苦しくなり、室内の居住性が損なわれてしまう。よって、居室とベランダとの間の柱梁フレームの開口部に、特許文献3の耐震補強工法による角柱状の補強ユニットで補強して耐震強度を高めることは、現実的に採用困難である。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、建物本体に外接して張り出した外床部を備えた既存建築物において、室内と外床部との間に位置する柱梁フレームを補強ユニットで耐震補強する場合に、室内と外床部との間を不自由なく出入りすることができると共に、耐震補強の工事コストを抑制することができる耐震補強工法、及びその工法に用いる補強ピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題点を解決するために、本発明の耐震補強工法及び補強ピースは、次の構成を有している。
【0015】
(1)既存柱と既存梁とからなる四角枠形状の柱梁フレームで構築された建物本体と、該建物本体と外接し外側へ水平に張り出したスラブとを備えた既存建築物で、柱梁フレームのうち、建物本体の室内とスラブとの間に位置する外壁側柱梁フレームを、補強ユニットで補強して既存建築物の耐震強度を高める耐震補強工法において、補強ユニットは、鋼材とその周囲を覆うコンクリートとを一体成形した補強ピースで形成され、補強ピースは、既存柱の高さ方向に沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部を有し、補強ピースの垂直側補強部が、外壁側柱梁フレームの下側のスラブに支持されて固定されていること、を特徴とする。
なお、本発明のスラブとは、例えば、ベランダ、バルコニー等、垂直方向の荷重を面で支える床構造を形成する板材のほか、1階建ての建物を含む最上階の庇を含み、建物本体と外接し外側へ水平に張り出されるコンクリートスラブ等の板材を意味する。また、建物本体が2階以上の建物で下階がある外壁側柱梁フレームの場合、下階とそのすぐ真上の上階との間に配置される床スラブや、下階がない場合に、地中梁の最上部に打設される基礎スラブが、本発明のスラブにそれぞれ該当する。
【0016】
(2)(1)に記載する耐震補強工法において、垂直側補強部が、左右両側の各既存柱に対し、既存柱の外側側面にそれぞれ配置されること、増打ちが、左右両側の既存柱のそれぞれ外側側面に、高さ方向に沿って施されていること、補強ピースの垂直側補強部を、外壁側柱梁フレームの上側のスラブと下側のスラブとの間に挿入して嵌め込み、上側のスラブと下側のスラブとに固定すると共に、増打ちに接合して固定すること、を特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する耐震補強工法において、補強ユニットは、外壁側柱梁フレームの既存梁に沿う方向に配設される直線状の水平側補強部を有する補強ピースを少なくとも1組含むこと、水平側補強部が、上側の既存梁に対し、その外側側面に配置可能な大きさであること、水平側補強部を、外壁側柱梁フレームの上側の既存梁の外側側面、及び上側のスラブの下面にそれぞれ対向する位置に配置し、上側のスラブと接合させて固定すること、補強ユニットが、水平側補強部により、左右両側の各既存柱の外側側面にそれぞれ配置される垂直側補強部の先端部同士を上方で連結して左右対称の門型枠形状に形成されること、を特徴とする。
(4)(3)に記載する耐震補強工法において、水平側補強部は、上側の既存梁の外側側面の面内に配置されることを特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピースの垂直側補強部には、高さ方向に対し、スラブと対向する位置の少なくとも片側端で、垂直側補強部の断面より大きい面を水平方向に有した支持部が形成され、補強ピースは、支持部をスラブと接合させて固定されることを特徴とする。
(6)(5)に記載する耐震補強工法において、支持部は、垂直側補強部の高さ方向下端側に設けられ、補強ピースは、アンカーボルトまたは接着剤により、支持部を下側のスラブに接合させて固定されること特徴とする。
【0017】
(7)(3)または(4)に記載する耐震補強工法において、水平側補強部を有する補強ピースは2組有し、補強ユニットが、水平側補強部を有する一方の組の補強ピースにより、垂直側補強部の先端部同士を上方で連結すると共に、水平側補強部を有する他方の組の補強ピースにより、垂直側補強部の先端部同士を下方で連結して左右対称の口字型枠形状に形成されること、を特徴とする。
(8)(2)乃至(7)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、増打ちは、既存梁に沿う幅方向に対し、既存柱の外側側面の幅以下に形成されていることを特徴とする。
(9)(3)乃至(8)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピースは、垂直側補強部と水平側補強部とがL字型形状に直交して一体に形成されていることを特徴とする。
(10)(1)乃至(9)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ユニットは、複数の補強ピースを接合部で連結して構成され、接合部は、隣り合う補強ピースの端部から露出した鋼材の先端部同士を、ボルト締めで接続して連結されることを特徴とする。
(11)(10)に記載する耐震補強工法において、接合部には、グラウトが、連結した鋼材の先端部同士の周囲に充填され、接合部を挟む隣り合った補強ピースの側面が略同一平面状に形成されていることを特徴とする。
(12)(1)乃至(11)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピースは、工場で前もって製造されたプレキャスト部材であり、補強ユニットは、外壁側柱梁フレームへの設置形状に対応して選択された複数の補強ピースを、既存建築物の耐震補強現場で組付けて構成されることを特徴とする。
(13)(1)乃至(12)のいずれか1つに記載する耐震補強工法に用いることを特徴とする補強ピース。
【発明の効果】
【0018】
上記構成を有する本発明の耐震補強工法及び補強ピースの作用・効果について説明する。
【0019】
(1)既存柱と既存梁とからなる四角枠形状の柱梁フレームで構築された建物本体と、該建物本体と外接し外側へ水平に張り出したスラブとを備えた既存建築物で、柱梁フレームのうち、建物本体の室内とスラブとの間に位置する外壁側柱梁フレームを、補強ユニットで補強して既存建築物の耐震強度を高める耐震補強工法において、補強ユニットは、鋼材とその周囲を覆うコンクリート(繊維補強コンクリート等)とを一体成形した補強ピースで形成され、補強ピースは、既存柱の高さ方向に沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部を有し、補強ピースの垂直側補強部が、外壁側柱梁フレームの下側のスラブに支持されて固定されていること、を特徴とするので、例えば、各階にそれぞれ設けられたベランダのほか、最上階のベランダと対向した位置に設けられた庇を備えた複数階建ての集合住宅等の既存建築物を対象に、垂直側補強部を有する補強ピースで形成された補強ユニットが、少なくとも既存柱の室外側に施工され、室内の空間の一部や、外壁側柱梁フレームのフレーム内に占めることはない。よって、補強ユニットが既存建築物に施工されても、建物本体と外接し外側へ水平に張り出したスラブ、すなわち外壁側柱梁フレームの開口部を通じて室内と出入りできる既存の外床部(ベランダ、バルコニー等)と、室内との間を人が出入りするときに、補強ユニットが邪魔にならないよう、補強ユニットにより、建物本体(既存建築物)の耐震強度を高めることができる。
【0020】
また、上述した既存建築物を耐震補強する場合、例えば、ベランダ、バルコニー等の既存の外床部を、いったん取り壊して補強工事を行う必要がなく、既存の外床部の撤去とその復元に掛かる工事コストが不要となり、耐震補強の工事コストを抑制することができる。特に、既存建築物が複数階建ての集合住宅である場合、各階のベランダには、消防法で定められている避難口(避難経路)が配置されており、耐震補強の工事期間中に、ベランダ(外床部)が一時的に取り壊されてしまうと、代替の避難経路が別途必要となる。本発明の耐震補強工法では、耐震補強の工事期間中に、ベランダはそのまま使用できるため、代替の避難経路は不要であり、既存の避難口により住人の安全を確保したまま、耐震補強の工事を行うことができる。
【0021】
従って、建物本体に外接して張り出した外床部を備えた既存建築物において、室内と外床部との間に位置する柱梁フレームを補強ユニットで耐震補強する場合に、室内と外床部との間を不自由なく出入りすることができると共に、耐震補強の工事コストを抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0022】
(2)請求項(1)に記載する耐震補強工法において、垂直側補強部が、左右両側の各既存柱に対し、既存柱の外側側面にそれぞれ配置されること、増打ちが、左右両側の既存柱のそれぞれ外側側面に、高さ方向に沿って施されていること、補強ピースの垂直側補強部を、外壁側柱梁フレームの上側のスラブと下側のスラブとの間に挿入して嵌め込み、上側のスラブと下側のスラブとに固定すると共に、増打ちに接合して固定すること、を特徴とするので、補強ピースの垂直側補強部が、建物本体の室内側にせり出すことはなく、外壁側柱梁フレームの開口部を通じた室内から外床部への視界では、補強ユニットの施工により遮断される面積を比較的小さく抑えることができる。あるいは補強ユニットを施工しても、外床部への視界が、補強ユニットで遮られないようにすることもできる。また、補強ユニットを施工しても、外壁側柱梁フレームの開口部から室内に採光できる面積の減少を比較的小さく抑えることができる。採光が補強ユニットで遮られないようにすることもできる。よって、居住者等の人にとって、居住性の確保は維持できる。
【0023】
加えて、補強ユニットは、建物本体の室内側にせり出さず、外壁側柱梁フレームの外側で、上側のスラブと下側のスラブとに固定されると共に、左右両側の各既存柱に対し、それぞれの外側側面に一体で施した増打ちに接合して固定される。そのため、建物本体の外壁側柱梁フレームの開口部を開閉する窓やドア等の建具を、補強ユニットによる補強に伴って、サイズの異なる新しい建具に交換する必要がない。よって、建具の交換に伴う外壁側柱梁フレームの開口部の改造工事が不要であることから、耐震補強に掛かる全体の工事費を安価に抑えることができる。
【0024】
(3)(1)または(2)に記載する耐震補強工法において、補強ユニットは、外壁側柱梁フレームの既存梁に沿う方向に配設される直線状の水平側補強部を有する補強ピースを少なくとも1組含むこと、水平側補強部が、上側の既存梁に対し、その外側側面に配置可能な大きさであること、水平側補強部を、外壁側柱梁フレームの上側の既存梁の外側側面、及び上側のスラブの下面にそれぞれ対向する位置に配置し、上側のスラブと接合させて固定すること、補強ユニットが、水平側補強部により、左右両側の各既存柱の外側側面にそれぞれ配置される垂直側補強部の先端部同士を上方で連結して左右対称の門型枠形状に形成されること、を特徴とするので、左右両側の各既存柱だけを補強して縦揺れ(鉛直方向の揺れ)に対応させた場合に比して、補強ユニットによる補強強度(補強剛性)が大きくなり、補強ユニットで補強された建物本体の耐震性が、横揺れ(水平方向の揺れ)にも対応し、向上する。また、居住者等の人が、例えば、ベランダ、バルコニー等の外床部と、建物本体の室内との間を出入りするときに、補強ユニットのうち、頭上に位置する補強ピースの水平側補強部が人の頭部より高い位置にあれば、補強ユニットの水平側補強部に頭部をぶつけてしまうこともなく、補強ピースが足元になく足を引っ掛けてしまうことないため、居住者等の人にとって、居住性の確保は維持できる。
【0025】
(4)(3)に記載する耐震補強工法において、水平側補強部は、上側の既存梁の外側側面の面内に配置されることを特徴とするので、外壁側柱梁フレームの開口部の高さが、補強ユニットの施工前の高さと同じであり、人が外壁側柱梁フレームの開口部を通じて室内と外床部との間を出入りするときに、人が、頭部を、頭上の補強ユニットの水平側補強部にぶつけてしまうこともない。
【0026】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピースの垂直側補強部には、高さ方向に対し、スラブと対向する位置の少なくとも片側端で、垂直側補強部の断面より大きい面を水平方向に有した支持部が形成され、補強ピースは、支持部をスラブと接合させて固定されることを特徴とするので、補強ピースを、支持部の広い座面により安定して支持された状態で、スラブに固定することができる。また、補強ピースをスラブに固定するときの作業性が良くなる。
【0027】
(6)(5)に記載する耐震補強工法において、支持部は、垂直側補強部の高さ方向下端側に設けられ、補強ピースは、アンカーボルトまたは接着剤により、支持部を下側のスラブに接合させて固定されること特徴とするので、地震により既存建築物が揺れたときに、補強ピースが安定した状態で下側のスラブに支持され、特に、揺れが大きく生じた場合に、補強ユニットが、揺れに起因して外壁側柱梁フレームと分離し難くなる。
【0028】
(7)(3)または(4)に記載する耐震補強工法において、水平側補強部を有する補強ピースは2組有し、補強ユニットが、水平側補強部を有する一方の組の補強ピースにより、垂直側補強部の先端部同士を上方で連結すると共に、水平側補強部を有する他方の組の補強ピースにより、垂直側補強部の先端部同士を下方で連結して左右対称の口字型枠形状に形成されること、を特徴とするので、補強ユニットによる補強強度(補強剛性)が、縦揺れ、横揺れのほか、縦揺れと横揺れとが合成された方向の揺れに対しても十分に対応できる大きさとなり、補強ユニットにより補強された既存建築物は、耐震性(耐震強度)に優れた建物となる。
【0029】
(8)(2)乃至(7)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、増打ちは、既存梁に沿う幅方向に対し、既存柱の外側側面の幅以下に形成されていることを特徴とするので、垂直側補強部を有する補強ピースを、既存柱の幅方向中央側に寄せて配置することができ、補強ユニットの施工後の外壁側柱梁フレームにおいて、フレーム内の開口部の大きさが、補強ユニットの施工前の大きさより小さくなるのを抑制することができる。
【0030】
(9)(3)乃至(8)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピースは、垂直側補強部と水平側補強部とがL字型形状に直交して一体に形成されていることを特徴とするので、L字型形状の補強ピースは、外壁側柱梁フレームにおいて、既存柱と既存梁とが交わる角部に配置でき、他の補強ピースと接続する場合でも、既存柱と既存梁との角部を避けて、L字型形状の補強ピースと他の補強ピースとの接続作業ができるため、このときの作業性が向上する。
【0031】
(10)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ユニットは、複数の補強ピースを接合部で連結して構成され、接合部は、隣り合う補強ピースの端部から露出した鋼材の先端部同士を、ボルト締めで接続して連結されることを特徴とするので、鋼材の先端部同士を溶接等の他の連結手段により連結することはできるが、補強ピース同士をより確実にしっかりと連結することができる上、このときの連結作業も、溶接等の他の連結手段と異なり、特別な専用装置を必要とせず、汎用的な工具で簡単に行うことができる。
【0032】
(11)(10)に記載する耐震補強工法において、接合部には、グラウト(繊維補強グラウト等)が、連結した鋼材の先端部同士の周囲に充填され、接合部を挟む隣り合った補強ピースの側面が略同一平面状に形成されていることを特徴とするので、複数の補強ピースからなる補強ユニットで、外壁側柱梁フレームの上側のスラブと下側のスラブとの間に挿入して嵌め込み、上側のスラブと下側のスラブとに固定するときに、接合部を挟む隣り合った補強ピースのコンクリート(繊維補強コンクリート等)同士をグラウトで繋いだ補強ユニットを、外壁側柱梁フレームのサイズに合わせて、隙間なくぴったりと外壁側柱梁フレームに固定させることができる。
【0033】
すなわち、既存建築物では、設計寸法が共通の外壁側柱梁フレームが、建物本体に複数箇所に存在する場合に、各外壁側柱梁フレームは一般的に、それぞれ数ミリ単位の寸法誤差を含んで形成されていることがある。そのため、特定の外壁側柱梁フレームを採寸し、この採寸した外壁側柱梁フレームに基づいて、前もって定尺で形成された補強ピースを複数用いて補強ユニットを構成しても、補強ユニットのサイズが、特定以外のその他の外壁側柱梁フレームの中で、実際の外壁側柱梁フレームのサイズとぴったり一致しないことがある。あるいは、前もって定尺で形成された補強ピースを、既存建築物の耐震補強現場で切断等の追加工を施した補強ピースを含む複数の補強ピースを用いて補強ユニットを構成しても、補強ユニットのサイズが、実際の外壁側柱梁フレームのサイズとぴったり一致しないことがある。
【0034】
本発明の耐震補強工法では、例えば、外壁側柱梁フレームにおいて、左右両側の既存柱、これらの既存柱と交わる上側のスラブ及び下側のスラブの四隅にある角部の位置に合わせて補強ピースを配置し、角部から離れた位置に、隣り合う補強ピースの接合部を配置する。そして、隣り合う補強ピースの端部から露出した鋼材の先端部同士を、ボルト締めで連結した上で、接合部に、連結した鋼材の先端部同士の周囲に繊維補強グラウトを充填する。これにより、接合部を挟む隣り合った補強ピースの繊維補強コンクリート同士が繊維補強グラウトで繋がれ、補強ユニットのサイズが、実際の外壁側柱梁フレームのサイズと、繊維補強グラウトの充填部分で調整されて、いわゆる現合で補強ユニットを実際の外壁側柱梁フレームに挿入して嵌め込まれ、一定の補強強度(補強剛性)が補強ユニットに確保できた状態で、固定することができる。
【0035】
(12)(1)乃至(11)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピースは、工場で前もって製造されたプレキャスト部材であり、補強ユニットは、外壁側柱梁フレームへの設置形状に対応して選択された複数の補強ピースを、既存建築物の耐震補強現場で組付けて構成されることを特徴とするので、補強ピースは、工場において量産体制で製造できることから、補強ピースを安価なコストで製造することができる。
【0036】
(13)(1)乃至(12)のいずれか1つに記載する耐震補強工法に用いることを特徴とする補強ピースであるので、補強ピースは、小型化が可能で、可搬性が良くなることから、耐震補強を行う既存建築物の現場への搬入作業や、補強ユニットの組立て作業が、効率良く実施できる。よって、補強ピースで構成された補強ユニットで、既存建築物を補強して耐震強度を高める耐震補強工事を行うときに、耐震補強工事の作業が効率良く行うことができると共に、工事期間もより短くできることから、ひいては耐震補強工事に掛かるコストが安価になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態1に係る耐震補強工法の補強ユニットで耐震補強した既存建築物を概略的に示す正面図である。
【図2】図1中、A−A矢視断面図である。
【図3】図1中、B−B矢視断面図である。
【図4】耐震補強前の既存建築物を概略的に示す正面図である。
【図5】図4中、C−C矢視断面図である。
【図6】図4中、D−D矢視断面図である。
【図7】実施形態1に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットを、補強ピース毎に分解して示した図である。
【図8】実施形態1乃至3に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットの補強ピースを、図7中、E−E矢視及びF−F矢視共通の断面図である。
【図9】実施例1に係る補強ユニットの接合部の構造を示す説明図である。
【図10】実施例2に係る補強ユニットの接合部の構造を示す説明図である。
【図11】実施形態1に係る耐震補強工法による施工方法の工程図であり、外壁側柱梁フレームに補強ユニットを設ける前の状態を示す第1工程図である。
【図12】図11に続き、第2工程を示す工程図である。
【図13】図12に続き、第3工程を示す工程図である。
【図14】図13に続き、第4工程を示す工程図である。
【図15】図14に続き、第5工程を示す工程図である。
【図16】図15に続き、第6工程を示す工程図である。
【図17】変形例1に係る耐震補強工法で耐震補強した既存建築物の説明図である。
【図18】実施形態2に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットを、補強ピース毎に分解して示した図である。
【図19】実施形態2に係る耐震補強工法による施工方法の工程図であり、補強ピースの接続部に繊維補強グラウトを充填する前の状態を示す図である。
【図20】実施形態2に係る耐震補強工法の補強ユニットで耐震補強した既存建築物を概略的に示す正面図である。
【図21】変形例2に係る耐震補強工法で耐震補強した既存建築物の説明図である。
【図22】実施形態3に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットを、補強ピース毎に分解して示した図である。
【図23】実施形態3に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットの接合部を示す説明図である。
【図24】実施形態3に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットであり、補強ピースの接続部に繊維補強グラウトを充填する前の状態を示す図である。
【図25】実施形態3に係る耐震補強工法の補強ユニットで耐震補強した既存建築物を概略的に示す正面図である。
【図26】変形例3に係る耐震補強工法で耐震補強した既存建築物の説明図である。
【図27】特許文献1の耐震補強工法で柱梁フレームを補強した様子を、上側の既存梁を通る位置で、柱梁フレームの高さ方向から見た断面図で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る耐震補強工法及び補強ピースについて、実施形態1乃至3を図面に基づいて詳細に説明する。実施形態1乃至3では、既存建築物が、各階にそれぞれ設けられたベランダのほか、最上階のベランダの庇(図示せず)を備えた複数階建ての集合住宅である場合について説明する。また、本発明の耐震補強工法及び補強ピースについての説明は、説明の便宜上、集合住宅の一部のある階で、上階と下階との間に位置する特定室とそのベランダを例示して挙げ、その例示に基づいて説明を行う。
【0039】
(実施形態1)
はじめに、耐震補強を行う既存建築物について、図4乃至図6を用いて簡単に説明する。図4は、耐震補強前の既存建築物を概略的に示す正面図である。図5は、図4中、C−C矢視断面図であり、図6に、図4中、D−D矢視断面図を示す。
【0040】
既存建築物1は、図4乃至図6に示すように、ベランダ4として、建物本体2と外接し外側へ水平に張り出した鉄筋コンクリート製のスラブ3を備えている。建物本体2は、左右両側の既存柱11,11と上下両側の既存梁16,16とからなる四角枠形状で鉄筋コンクリート製の柱梁フレーム10により、集合住宅全体の骨格をなして構築され、柱梁フレーム10うち、建物本体2の室内(特定室RM等)と、室外のベランダ4の床であるスラブ3との間に位置する外壁側柱梁フレーム10Aを有している。
【0041】
すなわち、図4において、特定室RM(図5参照)を基準に見ると、外壁側柱梁フレーム10Aは、左右両側の既存柱11,11と、特定室RMの頭上に位置する上側の既存梁16(16U)と、特定室RMのすぐ真下の階の室内で上側の既存梁16となる下側の既存梁16(16L)とからなる。本実施形態では、図5に示すように、特定室RMとは反対側の外側端面において、既存柱11と既存梁16とが段差のない同じ平面状に形成されている。また、特定室RMのすぐ真上の階のベランダ4をなす上側のスラブ3(3U)は、上側の既存梁16(16U)と一体構造で外接すると共に、建物本体2外側向けて水平に張り出している。上側のスラブ3(3U)と同様、特定室RMと連通するベランダ4をなす下側のスラブ3(3L)は、前述した下側の既存梁16(16L)と一体構造で外接すると共に、建物本体2外側向けて水平に張り出し、特定室RMのすぐ真上の階の上側のスラブ3(3U)と略平行に配置されている。
【0042】
図1は、本実施形態に係る耐震補強工法の補強ユニットで耐震補強した既存建築物を概略的に示す正面図である。但し、図を見易くするため、図1は、ベランダ4の手摺り部分を省略して、スラブを断面図で図示している。図2は、図1中、A−A矢視断面図であり、図3は、図1中、B−B矢視断面図である。図7は、本実施形態に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットを、補強ピース毎に分解して示した図であり、図8は、図7に示す補強ピースの断面図である。既存建築物1は、現行の建築構造基準を満たして建てられていない建物であることから、次述する補強ユニット20で補強して耐震強度を高める必要がある。
【0043】
次に、補強ユニット20について説明する。
【0044】
はじめに、補強ユニット20の施工概要について述べる。補強ユニット20は、図1乃至図3、及び図7に示すように、本実施形態では、2つの補強ピース21I(21)と、2つの補強ピース21L(21)とをそれぞれ左右対称の門型形状に組付けて構成される。この補強ユニット20により既存建築物1を補強するにあたり、建物本体2には、繊維補強コンクリートによる増打ち15,15が、左右両側の既存柱11,11のそれぞれ外側側面11a,11aに、その高さ方向VTに沿って施され、各既存柱11,11と一体になっている。
【0045】
すなわち、補強ユニット20では、補強ピース21(21I)は、後述するように、既存柱11の高さ方向に沿う方向VTに配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有している。この補強ピース21の垂直側補強部21Vaは、左右両側の各既存柱11,11に対し、既存柱11の外側側面11aにそれぞれ配置され、この垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3(3L)に支持されて固定されている。具体的には、左右両側の既存柱11に対しそれぞれ、2つの補強ピース21の垂直側補強部21Va、すなわち補強ピース21Iの垂直側補強部21Vaと補強ピース21Lの垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの上側のスラブ3(3U)と下側のスラブ3(3L)との間に挿入して嵌め込まれ、上側のスラブ3(3U)と下側のスラブ3(3L)とに固定すると共に、接着剤33により、左右両側の増打ち15,15にそれぞれ接合して固定されている。
【0046】
また、補強ピース21は、外壁側柱梁フレーム10Aの既存梁11に沿う方向HLに配設される直線状の水平側補強部21Haを有する補強ピースを少なくとも1組含んでいる。補強ピース21Lの水平側補強部21Haが、外壁側柱梁フレーム10Aの上側の既存梁16Uの外側側面16a、及びスラブ3(3U)の下面3Uaにそれぞれ対向する位置に配置され、上記接着剤33により、上側のスラブ3(3U)と接合して固定されている。補強ユニット20が、2つの補強ピース21Lの水平側補強部21Ha,21Ha同士を互いに向き合って連結させることにより、左右両側の各既存柱11,11の外側側面11aにそれぞれ配置される2つの補強ピース21Lの垂直側補強部21Vaの先端部同士を上方で連結して左右対称の門型枠形状に形成されている。このように、補強ユニット20は、建物本体2の耐震強度を高めるため、建物本体2の外壁側柱梁フレーム10Aの室外側に施工され、建物本体2が補強される。
【0047】
次に、補強ユニット20を構成する補強ピース21について、図1乃至図3、図7、及び図8を用いて説明する。補強ユニット20は、鋼材22とその周囲を覆うコンクリート部23とを一体成形した補強ピース21で形成されている。具体的には、補強ピース21は、図8に示すように、H型鋼である鋼材22のうち、片側の平面部を除く周囲を、本実施形態では、繊維補強コンクリートによるコンクリート部23で覆って一体成形した部材である。なお、コンクリート部23は、繊維補強コンクリート製以外にも、例えば、一般的なSRC(Steel Reinforced Concrete)製等のコンクリート製であっても良い。補強ピース21は、工場で前もって製造されたプレキャスト部材であり、補強ユニット20は、外壁側柱梁フレーム10Aへの設置形状に対応して選択された複数の補強ピース21を、既存建築物1の耐震補強現場で組付けて構成される。
【0048】
補強ユニット20には、本実施形態では、図7に示すように、I字型形状の補強ピース21Iと、L字型形状の補強ピース21Lの2種の補強ピース21が用いられ、補強ピース21Iと補強ピース21Lとは、形状が異なるだけで実質的に同じものである。すなわち、補強ピース21Iは、既存柱11の高さ方向に沿う方向VTに配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有し、補強ユニット20の一辺に対応する部材である。この補強ピース21Iの鋼材22は、直線状のH型鋼で形成されている。
【0049】
また、補強ピース21Lは、垂直側補強部21Vaと、既存梁16に沿う方向HLに配設される直線状の水平側補強部21Haとを有し、垂直側補強部21Vaと水平側補強部21HaとがL字型形状に直交して一体に形成された部材であり、補強ユニット20の二辺に対応する。この補強ピース21Lの鋼材22は、直線状のH型鋼同士をL字状に直交させて形成されている。水平側補強部21Haは、上側の既存梁16(16U)に対し、その外側側面16aの面内に配置可能な大きさに形成されている。
【0050】
補強ピース21Iの垂直側補強部21Vaには、スラブ3と対向する位置の少なくとも片側端で、当該垂直側補強部21Vaの断面より大きい面を水平方向HLに有した平板状の支持部27が形成されている。具体的には、支持部27は、鋼材からなり、垂直側補強部21Vaの高さ方向VT下端側に設けられおり、本実施形態では、アンカーボルト32を挿通させる図示しない貫通孔を有している。補強ピース21Iは、垂直側補強部21Vaにおいて、高さ方向VT上端側端部で、コンクリート部23に覆われず鋼材22の先端部22Tが露出した接合部25を有している。
【0051】
また、補強ピース21Lは、垂直側補強部21Vaにおいて、高さ方向VT下端側端部で、コンクリート部23に覆われず鋼材22の先端部22Tだけが露出した接合部25と、水平側補強部21Haにおいて、垂直側補強部21Vaと直交する側の反対側端部で、コンクリート部23に覆われず鋼材22の先端部22Tが露出した接合部25とを有している。
【0052】
補強ユニット20は、複数の補強ピース21(補強ピース21I、補強ピース21L)を接合部25で連結して構成され、接合部25は、隣り合う補強ピース21,21の端部から露出した鋼材22,22の先端部22T,22T同士を、ボルト締めで接続して連結される。
【0053】
ここで、隣り合う補強ピース21,21をボルト締めで連結させる接合部25の構造について、実施例1及び実施例2を挙げて説明する。
【0054】
〔実施例1〕
図9に、実施例1に係る補強ユニットの接合部の構造を示す。本実施例では、図7及び図9に示すように、隣り合って連結させる補強ピース21,21のうち、一方の補強ピース21の鋼材22の先端部22Tには、ボルト31と螺合可能なネジ孔22Hが、単数箇所または複数箇所(図7は単数箇所で図示)形成されている。また、他方の補強ピース21の鋼材22の先端部22Tには、ボルト31を挿通可能な貫通孔を有するリブ22Jが、単数箇所または複数箇所(図7及び図9は単数箇所で図示)に、当該先端部22Tと一体構造で設けられている。一方の補強ピース21と他方の補強ピース21との連結は、ボルト31をリブ22Jの貫通孔に挿通してネジ孔22Hと螺合させたボルト締結部26で連結される。
【0055】
〔実施例2〕
図10に、実施例2に係る補強ユニットの接合部の構造を示す。本実施例では、隣り合って連結させる補強ピース21,21のH型形状の鋼材22,22の各先端部22T,22Tにおいて、図10に示すように、互いに平行に対向する2つの平板部を繋ぐ中間接続部に、ボルト31を挿通させる第1貫通孔が、単数箇所または複数箇所(本実施形態では2箇所)に形成されている。また、2つのスプライスプレート24には、第2貫通孔が、第1貫通孔とそれぞれ同ピッチで同数形成されている。
【0056】
補強ピース21,21同士を連結するには、図10に示すように、隣り合って連結させる補強ピース21,21の鋼材22,22の先端部22T,22T同士を対向させておき、双方の先端部22T,22Tの中間接続部の平面上に、スプライスプレート24を、先端部22T,22T同士を跨がせて当接させる。このとき、1枚のスプライスプレート24を中間接続部の片側平面上に当接させても良いし、2枚のスプライスプレート24を中間接続部の両側平面上に当接させても良い。そして、一方の補強ピース21と他方の補強ピース21との連結は、ハイテンションボルト等のボルト31を、スプライスプレート24の貫通孔、及び先端部22Tの中間接続部の貫通孔に挿通し、このボルト31とナットとを締結させたボルト締結部26で連結される。
【0057】
次に、補強ユニット20の施工方法について、図1乃至図3、及び図11乃至図16を用いて説明する。図11は、実施形態1に係る耐震補強工法による施工方法の工程図であり、外壁側柱梁フレームに補強ユニットを設ける前の状態を示す第1工程図である。図12は、図11に続き、第2工程を示す工程図である。図13は、図12に続き、第3工程を示す工程図である。図14は、図13に続き、第4工程を示す工程図である。図15は、図14に続き、第5工程を示す工程図である。図16は、図15に続き、第6工程を示す工程図である。
【0058】
はじめに、第1工程として、外壁側柱梁フレーム10Aにおいて、既存柱11の外側側面11aに施す増打ち15について、既存梁に沿う方向(幅方向)HLに対する位置と幅を決める(図11参照)。増打ち15は、既存柱11の外側側面11a全面に施しても良いが、好ましくは、増打ち15の幅を既存柱11の外側側面11aの幅以下(本実施形態では、増打ち15の幅は外側側面11aの幅より小さい)とし、増打ち15を既存柱11の幅方向HL中央に配置すると良い。その理由として、垂直側補強部21Vaを有する補強ピース21を、既存柱11の幅方向HL中央側に寄せて配置することができ、補強ユニット20の施工後の外壁側柱梁フレーム10Aにおいて、フレーム内の開口部の大きさが、補強ユニット20の施工前の大きさより小さくなるのを抑制できるからである。
【0059】
増打ち15の幅、施工位置を決定したら、左右両側の既存柱11,11に施す増打ち15,15同士の内側幅寸法を把握する。また、上側のスラブ3(3U)の下面3Uaと下側のスラブ3(3L)の上面3Laとの間の高さ寸法、及び上側の既存梁16(16U)の外側側面16aにおいて、高さ方向VTの厚み寸法を、採寸によって把握する。そして、この内側幅寸法、高さ寸法、厚み寸法に基づき、補強ユニット20を構成するのに用いる補強ピース21の形状(補強ピース21I、補強ピース21L)、補強ピース21の大きさや数量等を決める。
【0060】
次に、第2工程として、図12に示すように、幅が既存柱11より小さい増打ち15,15を、左右両側の既存柱11,11のそれぞれ外側側面11a,11aのうち、幅方向HL中央部に、高さ方向VTに沿って、上側のスラブ3(3U)の下面3Uaと下側のスラブ3(3L)の上面3Laとの間全域に施す。増打ち15は、参照する図3及び図8に示すように、補強ピース21の当接面21aが外側(図3中、上側)に少なくともはみ出さない大きさの接着面15aを確保できる厚みで、周知技術によって既存柱11に打設する。
【0061】
次に、第3工程として、図13に示すように、下側のスラブ3(3L)と、既存柱11の外側側面11aと、増打ち15の接着面15aとの角部で、支持部27が下側のスラブ3(3L)の下面3Uaに配置されるよう、補強ピース21I(21)を配置する。この状態で、支持部27の図示しない貫通孔からアンカーボルト32を下側のスラブ3(3L)に打ち込んで接合することにより、補強ピース21を固定させると共に、接着剤33により、補強ピース21の当接面21aを増打ち15の接着面15aに接着して固定させる。本実施形態では、アンカーボルト32は、図2に示すように、その軸部に形成された雄ネジを、補強ピース21I(21)の支持部27の貫通孔、下側のスラブ3(3L)、この下側のスラブ3(3L)を挟み、この支持部27とは反対側(特定室RMのすぐ真下の階のベランダ4側)の位置に配置される補強ピース21L(補強ピース21)のH型形状の鋼材22の平板部を貫通させて挿通される。この平板部を貫通したアンカーボルト32の軸部とナットとを締結させて、補強ピース21I(21)が下側のスラブ3(3L)に固定されている。補強ピース21Iの施工は、左右両側の各既存柱11,11に対して行う。
【0062】
接着剤33は、例えば、エポキシ樹脂系の接着剤等を用いる。アンカーボルト32には、例えば、ホールインアンカーボルト、接着アンカーボルト等、コンクリート製のスラブ3と一体的に接合可能なアンカーボルトが挙げられる。なお、アンカーボルト32に代えてエポキシ樹脂系の接着剤を用いて、補強ピース21Iの支持部27を下側のスラブ3(3L)の下面3Uaに接合して固定させても良い。
【0063】
次に、第4工程として、図14に示すように、上側のスラブ3(3U)と、既存柱11の外側側面11aと、増打ち15の接着面15aとの角部に、補強ピース21のコーナーが配置されるよう、補強ピース21L(21)を配置する。具体的には、補強ピース21Lのうち、垂直側補強部21Vaは、その当接面21aを増打ち15の接着面15aに向けた状態で、既存柱11の外側側面11aと対向する向きに配置され、水平側補強部21Haは、その当接面21aを上側のスラブ3(3U)の下面3Uaに向けた状態で、上側の既存梁16(16U)の外側側面16aと対向する向きに配置される。この状態で、この補強ピース21Lの鋼材22の先端部22Tと、第3工程で既に固定されている補強ピース21Iの鋼材22の先端部22Tとの接合部25を、前述したボルト締結部26で接合して、補強ピース21Iと補強ピース21Lとを連結させる。補強ピース21Lの施工は、左右両側の各既存柱11,11に対して行う。
【0064】
第4工程において、左右両側に位置する補強ピース21L,21Lのうち、一方の補強ピース21Lの鋼材22の先端部22Tと、他方の補強ピース21Lの鋼材22の先端部22Tとが、互いに向き合って、左右両側の補強ピース21L,21Lが配置され、第5工程では、図15に示すように、一方の補強ピース21Lの鋼材22の先端部22Tと、他方の補強ピース21Lの鋼材22の先端部22Tとの接合部25を、ボルト締結部26で接合して、4つの補強ピース21を連結させる。かくして、左右両側の補強ピース21I,21Iと、左右両側の補強ピース21L,21Lとの4つの補強ピース21は、ボルト締結部26により連結されて左右対称の門型形状となる。4つの補強ピース21が門型形状に組付けられた後、補強ピース21Lの水平側補強部21Haの当接面21aと、上側のスラブ3(3U)の下面3Uaとの間に接着剤33を充填し、補強ピース21Lの水平側補強部21Haを上側のスラブ3(3U)に固定させる。
【0065】
次に、第6工程として、4つの補強ピース21が連結した3つの接合部25(図15参照)では、鋼材22の先端部22Tやボルト締結部26がむき出しになっており、繊維補強グラウト29を、連結した鋼材22,22の先端部22T,22T同士の周囲に充填し硬化させる。繊維補強グラウト29は、建設工事において、空洞、空隙、隙間等を埋めるのに注入する液体状の充填材であり、合成繊維と混ぜ合わせた流動性のある無収縮モルタルである。なお、繊維補強グラウト29以外にも、例えば、セメント系、モルタル系、合成樹脂系等のグラウトを用いても良い。繊維補強グラウト29により、接合部25を挟む隣り合った補強ピース21,21のコンクリート部23,23の側面が、図16に示すように、略同一平面状に形成され、隣り合う補強ピース21,21の垂直側補強部21Va,21Va同士や、水平側補強部21Ha,21Ha同士が、段差なく繋がる。
【0066】
また、図1に示すように、補強ピース21Iの支持部27やアンカーボルト32の頭部の周囲も繊維補強グラウト29で覆う。これにより、支持部27やアンカーボルト32の防錆ができるほか、支持部27やアンカーボルト32が外部にむき出しのままであると、人が足を引っ掛けて怪我等をする虞があるため、人の安全を確保する効果や、意匠的なデザイン性が損なわれるのを防ぐ効果がある。かくして、補強ユニット20が、建物本体2の外壁側柱梁フレーム10Aの室外側に施工される。
【0067】
前述した構成を有する本実施形態に係る耐震補強工法及び補強ピースの作用・効果について説明する。本実施形態に係る耐震補強工法では、
【0068】
(1)既存柱11と既存梁16とからなる四角枠形状の柱梁フレーム10で構築された建物本体2と、該建物本体2と外接し外側へ水平に張り出したスラブ3とを備えた既存建築物1で、柱梁フレーム10のうち、建物本体2の室内RMとスラブ3との間に位置する外壁側柱梁フレーム10Aを、補強ユニット20で補強して既存建築物1の耐震強度を高める耐震補強工法において、補強ユニット20は、鋼材22とその周囲を覆うコンクリート部23とを一体成形した補強ピース21で形成され、補強ピース21は、既存柱11の高さ方向VTに沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有し、補強ピース21(21L)の垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3(3L)に支持されて固定されていること、を特徴とするので、例えば、各階にそれぞれ設けられたベランダ4のほか、最上階のベランダ4と対向した位置に設けられた庇を備えた複数階建ての集合住宅等の既存建築物1を対象に、垂直側補強部21Vaを有する補強ピース21(21I,21L)で形成された補強ユニット20が、少なくとも既存柱11の室外側(ベランダ4側)に施工され、室内RMの空間の一部や、外壁側柱梁フレーム10Aのフレーム内に占めることはない。よって、補強ユニット20が既存建築物1に施工されても、建物本体2と外接し外側へ水平に張り出したスラブ3、すなわち外壁側柱梁フレーム10Aの開口部を通じて室内RMと出入りできる既存の外床部(ベランダ、バルコニー等)4と、室内RMとの間を人が出入りするときに、補強ユニット20が邪魔にならないよう、補強ユニット20により、建物本体2(既存建築物1)の耐震強度を高めることができる。
【0069】
また、上述した既存建築物1を耐震補強する場合、例えば、ベランダ、バルコニー等の既存の外床部4を、いったん取り壊して補強工事を行う必要がなく、既存のベランダ4(外床部4)の撤去とその復元に掛かる工事コストが不要となり、耐震補強の工事コストを抑制することができる。特に、既存建築物1が複数階建ての集合住宅である場合、各階のベランダ4には、消防法で定められている避難口(避難経路)が配置されており、耐震補強の工事期間中に、ベランダ4が一時的に取り壊されてしまうと、代替の避難経路が別途必要となる。本実施形態に係る耐震補強工法では、耐震補強の工事期間中に、ベランダ4はそのまま使用できるため、代替の避難経路は不要であり、既存の避難口により住人の安全を確保したまま、耐震補強の工事を行うことができる。
【0070】
従って、建物本体2に外接して張り出したベランダ4を備えた既存建築物1において、室内RMと外床部4との間に位置する柱梁フレーム10(外壁側柱梁フレーム10A)を補強ユニット20で耐震補強する場合に、室内RMとベランダ4との間を不自由なく出入りすることができると共に、耐震補強の工事コストを抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0071】
(2)(1)に記載する耐震補強工法において、垂直側補強部21Vaが、左右両側の各既存柱11,11に対し、既存柱11の外側側面11aにそれぞれ配置されること、増打ち15が、左右両側の既存柱11,11のそれぞれ外側側面11a,11aに、高さ方向VTに沿って施されていること、補強ピース21(21I,21L)の垂直側補強部21Vaを、外壁側柱梁フレーム10Aの上側のスラブ3U(3)と下側のスラブ3L(3)との間に挿入して嵌め込み、上側のスラブ3Uと下側のスラブ3Lとに固定すると共に、増打ち15に接合して固定すること、を特徴とするので、補強ピース21(21I,21L)の垂直側補強部21Vaが、建物本体2の室内RM側にせり出すことはなく、外壁側柱梁フレーム10Aの開口部を通じた室内RMからベランダ4への視界では、補強ユニット20の施工により遮断される面積を比較的小さく抑えることができる。あるいは補強ユニット20を施工しても、ベランダ4への視界が、補強ユニット20で遮られないようにすることもできる。また、補強ユニット20を施工しても、外壁側柱梁フレーム10Aの開口部から室内RMに採光できる面積の減少を比較的小さく抑えることができる。採光が補強ユニット20で遮られないようにすることもできる。よって、居住者等の人にとって、居住性の確保は維持できる。
【0072】
加えて、補強ユニット20は、建物本体2の室内RM側にせり出さず、外壁側柱梁フレーム10Aの外側で、上側のスラブ3(3U)と下側のスラブ3(3L)とに固定されると共に、左右両側の各既存柱11,11に対し、それぞれの外側側面11a,11aに一体で施した増打ち15,15に接合して固定される。そのため、建物本体2の外壁側柱梁フレーム10Aの開口部を開閉する窓やドア等の建具を、補強ユニット20による補強に伴って、サイズの異なる新しい建具に交換する必要がない。よって、建具の交換に伴う外壁側柱梁フレーム10Aの開口部の改造工事が不要であることから、耐震補強に掛かる全体の工事費を安価に抑えることができる。
【0073】
(3)(1)または(2)に記載する耐震補強工法において、補強ユニット20は、外壁側柱梁フレーム10Aの既存梁16に沿う方向HLに配設される直線状の水平側補強部21Haを有する補強ピース21(21L)を少なくとも1組含むこと、水平側補強部21Haが、上側の既存梁16に対し、その外側側面16aに配置可能な大きさであること、水平側補強部21Haを、外壁側柱梁フレーム10Aの上側の既存梁16U(16)の外側側面16a、及び上側のスラブ3U(3)の下面3Uaにそれぞれ対向する位置に配置し、上側のスラブ3U(3)と接合させて固定すること、補強ユニット20が、水平側補強部21Haにより、左右両側の各既存柱11,11の外側側面11a,11aにそれぞれ配置される垂直側補強部21Va,21Vaの先端部同士を上方で連結して左右対称の門型枠形状に形成されること、を特徴とするので、左右両側の各既存柱11,11だけを補強して縦揺れ(鉛直方向の揺れ)に対応させた場合に比して、補強ユニット20による補強強度(補強剛性)が大きくなり、補強ユニットで補強された建物本体2の耐震性が、横揺れ(水平方向の揺れ)にも対応し、向上する。また、居住者等の人が、例えば、ベランダ、バルコニー等の外床部4と、建物本体2の室内RMとの間を出入りするときに、補強ユニット20のうち、頭上に位置する補強ピース21L(21)の水平側補強部21Haが頭部より高い位置にあれば、補強ユニット20の水平側補強部21Haに頭部をぶつけてしまうこともなく、補強ピース21が足元になく足を引っ掛けてしまうことないため、居住者等の人にとって、居住性の確保は維持できる。
【0074】
(4)(3)に記載する耐震補強工法において、水平側補強部21Haは、上側の既存梁16U(16)の外側側面16aの面内に配置されることを特徴とするので、外壁側柱梁フレーム10Aの開口部の高さが、補強ユニット20の施工前の高さと同じであり、人が外壁側柱梁フレーム10Aの開口部を通じて室内RMとベランダ4との間を出入りするときに、頭部を、頭上の補強ユニット20の水平側補強部21Haにぶつけてしまうこともない。
【0075】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピース21の垂直側補強部21Vaには、高さ方向VTに対し、スラブ3と対向する位置の少なくとも片側端で、垂直側補強部21Vaの断面より大きい面を水平方向HLに有した支持部27が形成され、補強ピース21は、支持部27をスラブ3と接合させて固定されることを特徴とするので、補強ピース21を、支持部27の広い座面により安定して支持された状態で、スラブ3に固定することができる。また、補強ピース21をスラブ3に固定するときの作業性が良くなる。
【0076】
(6)(5)に記載する耐震補強工法において、支持部27は、垂直側補強部21Vaの高さ方向VT下端側に設けられ、補強ピース21(21I)は、アンカーボルト32または接着剤33により、支持部27を下側のスラブ3L(3)に接合させて固定されること特徴とするので、地震により既存建築物1が揺れたときに、補強ピース21(21I)が安定した状態で下側のスラブ3Lに支持され、特に、揺れが大きく生じた場合に、補強ユニット20が、揺れに起因して外壁側柱梁フレーム10Aと分離し難くなる。
【0077】
(8)(2)乃至(7)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、増打ち15は、既存梁16に沿う幅方向HLに対し、既存柱11の外側側面11aの幅以下に形成されていることを特徴とするので、垂直側補強部21Vaを有する補強ピース21(21I,21L)を、既存柱11の幅方向HL中央側に寄せて配置することができ、補強ユニット20の施工後の外壁側柱梁フレーム10Aにおいて、フレーム内の開口部の大きさが、補強ユニット20の施工前の大きさより小さくなるのを抑制することができる。
【0078】
(9)(3)乃至(8)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピース21(21I,21L)は、垂直側補強部21Vaと水平側補強部21HaとがL字型形状に直交して一体に形成されていることを特徴とするので、L字型形状の補強ピース21Lは、外壁側柱梁フレーム10Aにおいて、既存柱11と既存梁16とが交わる角部に配置でき、他の補強ピース21と接続する場合でも、既存柱11と既存梁16との角部を避けて、L字型形状の補強ピース21Lと他の補強ピース21との接続作業ができるため、このときの作業性が向上する。
【0079】
(10)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ユニット20は、複数の補強ピース21(21I,21L)を接合部25で連結して構成され、接合部25は、隣り合う補強ピース21,21の端部から露出した鋼材22,22の先端部22T,22T同士を、ボルト締結部26で、ボルト31締めにより接続して連結されることを特徴とするので、補強ピース同士21,21をより確実にしっかりと連結することができる上、このときの連結作業も、溶接等の他の連結手段と異なり、特別な専用装置を必要とせず、汎用的な工具で簡単に行うことができる。
【0080】
(11)(10)に記載する耐震補強工法において、接合部には、繊維補強グラウト29が、連結した鋼材22,22の先端部22T,22T同士の周囲に充填され、接合部25を挟む隣り合った補強ピース21,21の側面が略同一平面状に形成されていることを特徴とするので、4つの補強ピース21からなる補強ユニット20で、外壁側柱梁フレーム10Aの上側のスラブ3U(3)と下側のスラブ3L(3)との間に挿入して嵌め込み、上側のスラブ3Uと下側のスラブ3Lとに固定するときに、接合部25を挟む隣り合った補強ピース21のコンクリート部23,23同士を繊維補強グラウト29で繋いだ補強ユニット20を、外壁側柱梁フレーム10Aのサイズに合わせて、隙間なくぴったりと外壁側柱梁フレーム10Aに固定させることができる。
【0081】
すなわち、既存建築物1では、設計寸法が共通の外壁側柱梁フレームが、建物本体に複数箇所に存在する場合に、各外壁側柱梁フレームは一般的に、それぞれ数ミリ単位の寸法誤差を含んで形成されていることがある。そのため、特定の外壁側柱梁フレームを採寸し、この採寸した外壁側柱梁フレームに基づいて、前もって定尺で形成された補強ピースを複数用いて補強ユニットを構成しても、補強ユニットのサイズが、特定以外のその他の外壁側柱梁フレームの中で、実際の外壁側柱梁フレームのサイズとぴったり一致しないことがある。あるいは、前もって定尺で形成された補強ピースを、既存建築物の耐震補強現場で切断等の追加工を施した補強ピースを含む複数の補強ピースを用いて補強ユニットを構成しても、補強ユニットのサイズが、実際の外壁側柱梁フレームのサイズとぴったり一致しないことがある。
【0082】
本実施形態に係る耐震補強工法では、例えば、外壁側柱梁フレーム10Aにおいて、左右両側の既存柱11,11、これらの既存柱11,11と交わる上側のスラブ3U(3)及び下側のスラブ3L(3)の四隅にある角部の位置に合わせて補強ピース21L(21)を配置し、角部から離れた位置に、隣り合う補強ピース21の接合部25を配置する。そして、隣り合う補強ピース21,21の端部から露出した鋼材22,22の先端部22T,22T同士を、ボルト締結部26で、ボルト31締めにより連結した上で、接合部25に、連結した鋼材22,22の先端部22T,22T同士の周囲に繊維補強グラウト29を充填する。これにより、接合部29を挟む隣り合った補強ピース21,21のコンクリート部23,23同士が繊維補強グラウト29で繋がれ、補強ユニット20のサイズが、実際の外壁側柱梁フレーム10Aのサイズと、繊維補強グラウト20の充填部分で調整されて、いわゆる現合で補強ユニット20を実際の外壁側柱梁フレーム10Aに挿入して嵌め込まれ、一定の補強強度(補強剛性)が補強ユニット20に確保できた状態で、固定することができる。
【0083】
(12)(1)乃至(11)のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、補強ピース21は、工場で前もって製造されたプレキャスト部材であり、補強ユニット20は、外壁側柱梁フレーム10Aへの設置形状に対応して選択された複数の補強ピース21(21I,21L)を、既存建築物1の耐震補強現場(特定室RM)で組付けて構成されることを特徴とするので、補強ピース21は、工場において量産体制で製造できることから、補強ピース21を安価なコストで製造することができる。
【0084】
(13)(1)乃至(12)のいずれか1つに記載する耐震補強工法に用いることを特徴とする補強ピースであるので、補強ピースは、小型化が可能で、可搬性が良くなることから、耐震補強を行う既存建築物の現場への搬入作業や、補強ユニットの組立て作業が、効率良く実施できる。よって、補強ピースで構成された補強ユニットで、既存建築物を補強して耐震強度を高める耐震補強工事を行うときに、耐震補強工事の作業が効率良く行うことができると共に、工事期間もより短くできることから、ひいては耐震補強工事に掛かるコストが安価になる。
【0085】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係る耐震補強工法について、図18乃至図20を用いて説明する。
実施形態1では、補強ユニット20は、2つの補強ピース21I(21)と、2つの補強ピース21L(21)とをそれぞれ門型形状に組付けて構成した。
これに対し、実施形態2に係る耐震補強工法では、補強ユニット120は、4つの補強ピース21L(21)を左右対称の口字型枠形状に組付けて構成している。
すなわち、実施形態1と実施形態2では、補強ユニット120の形状と、この補強ユニット120の構成に用いる補強ピース21I、補強ピース21Lの数量の点で異なるが、それ以外の部分は、実施形態1と同様である。
従って、実施形態1とは異なる部分を中心に説明し、その他について説明を簡略または省略する。
【0086】
図18は、実施形態2に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットを、補強ピース毎に分解して示した図である。図19は、実施形態2に係る耐震補強工法による施工方法の工程図であり、補強ピースの接続部に繊維補強グラウトを充填する前の状態を示す図である。図20は、実施形態2に係る耐震補強工法の補強ユニットで耐震補強した既存建築物を概略的に示す正面図である。
【0087】
補強ユニット120では、図18に示すように、補強ピース21(21L)の垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3(3L)に支持されて固定されている。外壁側柱梁フレーム10Aに対し、既存柱11の高さ方向に沿う方向VTに配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有すると共に、既存梁11に沿う方向HLに配設される直線状の水平側補強部21Haを有する補強ピース21L(21)が、2組(1組は補強ピース21Lが2つ)の全部で4つ用いられている。4つの補強ピース21Lは、図19に示すように、4つの接合部25において、ボルト締結部26により連結されている。4つの補強ピース21Lは、その4つの垂直側補強部21Vaを、外壁側柱梁フレーム10Aの上側のスラブ3(3U)と下側のスラブ3(3L)との間に挿入して嵌め込み、上側のスラブ3(3U)と下側のスラブ3(3L)とに固定すると共に、左右両側の各既存柱11,11に対し、既存柱11の外側側面11aにそれぞれ配置され、接着剤33により、左右両側の増打ち15,15の接着面15a,15aにそれぞれ接合して固定されている。
【0088】
また、2組の補強ピース21Lのうち、一方の組の補強ピース21Lでは、水平側補強部21Haが、外壁側柱梁フレーム10Aの上側の既存梁16Uの外側側面16a、及びスラブ3(3U)の下面3Uaにそれぞれ対向する位置に配置され、接着剤33により、上側のスラブ3(3U)と接合して固定されている。また、他方の組の補強ピース21Lでは、水平側補強部21Haが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3(3L)の上面3Laにそれぞれ対向する位置に配置され、接着剤33により、下側のスラブ3(3L)と接合して固定されている。4つの補強ピース21Lが連結した接合部25では、図20に示すように、繊維補強グラウト29が、連結した鋼材22,22の先端部22T,22T同士の周囲に充填されて、接合部25を挟む隣り合った補強ピース21L,21Lのコンクリート部23,23の側面が、略同一平面状に形成されている。これにより、隣り合う補強ピース21L,21Lの垂直側補強部21Va,21Va同士や、水平側補強部21Ha,21Ha同士が、段差なく繋がっている。
【0089】
このように、補強ユニット120が、水平側補強部21Haを有する一方の組の補強ピース21Lにより、当該一方の組の補強ピース21Lの垂直側補強部21Vaの先端部同士を上方で連結すると共に、水平側補強部21Haを有する他方の組の補強ピース21Lにより、当該他方の組の補強ピース21Lの垂直側補強部21Vaの先端部同士を下方で連結して左右対称の口字型枠形状に形成されている。
【0090】
前述した構成を有する本実施形態に係る耐震補強工法及び補強ピースの作用・効果について説明する。本実施形態に係る耐震補強工法では、
【0091】
(1)既存柱11と既存梁16とからなる四角枠形状の柱梁フレーム10で構築された建物本体2と、該建物本体2と外接し外側へ水平に張り出したスラブ3とを備えた既存建築物1で、柱梁フレーム10のうち、建物本体2の室内RMとスラブ3との間に位置する外壁側柱梁フレーム10Aを、補強ユニット120で補強して既存建築物1の耐震強度を高める耐震補強工法において、補強ユニット120は、鋼材22とその周囲を覆うコンクリート部23とを一体成形した補強ピース21で形成され、補強ピース21(21L)は、既存柱11の高さ方向VTに沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有し、補強ピース21(21L)の垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3(3L)に支持されて固定されていること、を特徴とするので、例えば、各階にそれぞれ設けられたベランダ4のほか、最上階のベランダ4と対向した位置に設けられた庇を備えた複数階建ての集合住宅等の既存建築物1を対象に、垂直側補強部21Vaを有する補強ピース21(21L)で形成された補強ユニット120が、少なくとも既存柱11の室外側(ベランダ4側)に施工され、室内RMの空間の一部や、外壁側柱梁フレーム10Aのフレーム内に占めることはない。よって、補強ユニット120が既存建築物1に施工されても、建物本体2と外接し外側へ水平に張り出したスラブ3、すなわち外壁側柱梁フレーム10Aの開口部を通じて室内RMと出入りできる既存の外床部4(ベランダ、バルコニー等)と、室内RMとの間を人が出入りするときに、補強ユニット120が邪魔にならないよう、補強ユニット120により、建物本体2(既存建築物1)の耐震強度を高めることができる。
【0092】
また、上述した既存建築物1を耐震補強する場合、例えば、ベランダ、バルコニー等の既存の外床部4を、いったん取り壊して補強工事を行う必要がなく、既存のベランダ4の撤去とその復元に掛かる工事コストが不要となり、耐震補強の工事コストを抑制することができる。特に、既存建築物1が複数階建ての集合住宅である場合、各階のベランダ4には、消防法で定められている避難口(避難経路)が配置されており、耐震補強の工事期間中に、ベランダ(外床部)4が一時的に取り壊されてしまうと、代替の避難経路が別途必要となる。本実施形態に係る耐震補強工法では、耐震補強の工事期間中に、ベランダ4はそのまま使用できるため、代替の避難経路は不要であり、既存の避難口により住人の安全を確保したまま、耐震補強の工事を行うことができる。
【0093】
従って、建物本体2に外接して張り出したベランダ4を備えた既存建築物1において、室内RMと外床部4との間に位置する柱梁フレーム10(外壁側柱梁フレーム10A)を補強ユニット120で耐震補強する場合に、室内RMとベランダ4との間を不自由なく出入りすることができると共に、耐震補強の工事コストを抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0094】
(7)水平側補強部21Haを有する補強ピース21(21L)は2組有し、補強ユニット120が、水平側補強部21Vaを有する一方の組の補強ピース21Lにより、垂直側補強部21Vaの先端部同士を上方で連結すると共に、水平側補強部21Haを有する他方の組の補強ピース21Lにより、垂直側補強部21Vaの先端部同士を下方で連結して左右対称の口字型枠形状に形成されること、を特徴とするので、補強ユニット120による補強強度(補強剛性)が、縦揺れ、横揺れのほか、縦揺れと横揺れとが合成された方向の揺れに対しても十分に対応できる大きさとなり、補強ユニット120により補強された既存建築物1は、耐震性(耐震強度)に優れた建物となる。
【0095】
(実施形態3)
以下、実施形態3に係る耐震補強工法について、図22乃至図25を用いて説明する。
実施形態1では、補強ユニット20は、2つの補強ピース21I(21)と、2つの補強ピース21L(21)とをそれぞれ門型形状に組付けて構成した。
これに対し、実施形態3に係る耐震補強工法では、補強ユニット220は、補強ピース21I(21)を2つ1組でI字型枠形状に組付け、このI字型枠形状の補強ピース21I(21)を左右対称に配置して構成されている。
すなわち、実施形態1と実施形態3では、補強ユニット220の形状と、この補強ユニット220の構成に用いる補強ピース21I、補強ピース21Lの数量の点で異なるが、それ以外の部分は、実施形態1と同様である。
従って、実施形態1とは異なる部分を中心に説明し、その他について説明を簡略または省略する。
【0096】
図22は、実施形態3に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットを、補強ピース毎に分解して示した図である。図23は、実施形態3に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットの接合部を示す説明図である。図24は、実施形態3に係る耐震補強工法で用いる補強ユニットであり、補強ピースの接続部に繊維補強グラウトを充填する前の状態を示す図である。図25は、実施形態3に係る耐震補強工法の補強ユニットで耐震補強した既存建築物を概略的に示す正面図である。
【0097】
補強ユニット220では、補強ピース21I(21)の垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3(3L)に支持されて固定されている。具体的には、補強ピース21I(21)は、既存柱11の高さ方向に沿う方向VTに配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有し、垂直側補強部21Vaを、左右両側の各既存柱11,11に対し、既存柱11の外側側面11aにそれぞれ配置される。左右両側の既存柱11に対しそれぞれ、2つの補強ピース21の垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの上側のスラブ3(3U)と下側のスラブ3(3L)との間に挿入して嵌め込まれ、上側のスラブ3(3U)と下側のスラブ3(3L)とに固定すると共に、接着剤33により、左右両側の増打ち15,15の接着面15a,15aにそれぞれ接合して固定されている。
【0098】
具体的には、補強ユニット220には、直線状の垂直側補強部21Vaを有するI字型形状の補強ピース21I(補強ピース21)が、2組(1組は補強ピース21Iが2つ)の全部で4つ用いられている。4つの補強ピース21Iはそれぞれ、垂直側補強部21Vaの高さ方向VT片側に、実施形態1で前述した支持部27を有している。1組の補強ピース21Iは、図22に示すように、実施形態1の補強ピース21Iと同様、高さ方向(図24中、上下方向)に対し、垂直側補強部21Vaの下側に支持部27を配置した下側の補強ピース21Iと、この補強ピース21Iの上側に配置する補強ピース21Iで、垂直側補強部21Vaの上側に支持部27を配置した上側の補強ピース21Iとの2つからなる。
【0099】
上下両側の補強ピース21をスラブ3にアンカーボルト32で固定させる場合には、実施形態1と同様、下側の補強ピース21の支持部27は、アンカーボルト32を挿通させる図示しない貫通孔を有している。また、上側の補強ピース21の支持部27にも、アンカーボルト32を挿通させる図示しない貫通孔を有している。一方、上下両側の補強ピース21をスラブ3に接着剤33で固定させる場合には、このような貫通孔が、上下両側の補強ピース21,21の支持部27,27にそれぞれ穿孔されていない。
【0100】
1組の補強ピース21I,21I同士を連結するには、図23に示すように、隣り合って連結させる補強ピース21,21の鋼材22,22の先端部22T,22T同士を対向させておき、双方の先端部22T,22Tの中間接続部の平面上に、スプライスプレート24を、先端部22T,22T同士を跨がせて当接させる。このとき、1枚のスプライスプレート224を中間接続部の片側平面上に当接させても良いし、2枚のスプライスプレート224を中間接続部の両側平面上に当接させても良い。そして、一方の補強ピース21と他方の補強ピース21との連結は、ハイテンションボルト等のボルト31を、スプライスプレート24の貫通孔、及び先端部22Tの中間接続部の貫通孔に挿通し、このボルト31とナットとを締結させたボルト締結部26で連結される。2組の補強ピース21Iは、左右両側の既存柱11,11に施工される。
【0101】
1組の補強ピース21I,21Iが連結した接合部25では、図25に示すように、繊維補強グラウト29が、連結した鋼材22,22の先端部22T,22T同士の周囲に充填されて、接合部25を挟む隣り合った補強ピース21I,21Iのコンクリート部23,23の側面が、略同一平面状に形成されている。これにより、隣り合う補強ピース21I,21Iの垂直側補強部21Va,21Va同士が、段差なく繋がっている。また、上下両側の補強ピース21,21の支持部27,27の周囲は繊維補強グラウト29で覆われ、上下両側の補強ピース21,21を上下両側のスラブ3(3L,3U)にアンカーボルト32で固定させる場合には、アンカーボルト32の頭部の周囲も繊維補強グラウト29で覆われている。
【0102】
前述した構成を有する本実施形態に係る耐震補強工法及び補強ピースの作用・効果について説明する。本実施形態に係る耐震補強工法では、
【0103】
(1)既存柱11と既存梁16とからなる四角枠形状の柱梁フレーム10で構築された建物本体2と、該建物本体2と外接し外側へ水平に張り出したスラブ3とを備えた既存建築物1で、柱梁フレーム10のうち、建物本体2の室内RMとスラブ3との間に位置する外壁側柱梁フレーム10Aを、補強ユニット220で補強して既存建築物1の耐震強度を高める耐震補強工法において、補強ユニット220は、鋼材22とその周囲を覆うコンクリート部23とを一体成形した補強ピース21で形成され、補強ピース21(21L)は、既存柱11の高さ方向VTに沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部21Vaを有し、補強ピース21(21L)の垂直側補強部21Vaが、外壁側柱梁フレーム10Aの下側のスラブ3(3L)に支持されて固定されていること、を特徴とするので、例えば、各階にそれぞれ設けられたベランダ4のほか、最上階のベランダ4と対向した位置に設けられた庇を備えた複数階建ての集合住宅等の既存建築物1を対象に、垂直側補強部21Vaを有する補強ピース21(21L)で形成された補強ユニット220が、少なくとも既存柱11の室外側(ベランダ4側)に施工され、室内RMの空間の一部や、外壁側柱梁フレーム10Aのフレーム内に占めることはない。よって、補強ユニット220が既存建築物1に施工されても、建物本体2と外接し外側へ水平に張り出したスラブ3、すなわち外壁側柱梁フレーム10Aの開口部を通じて室内RMと出入りできる既存の外床部(ベランダ、バルコニー等)4と、室内RMとの間を人が出入りするときに、補強ユニット220が邪魔にならないよう、補強ユニット220により、建物本体2(既存建築物1)の耐震強度を高めることができる。
【0104】
また、上述した既存建築物1を耐震補強する場合、例えば、ベランダ、バルコニー等の既存の外床部4を、いったん取り壊して補強工事を行う必要がなく、既存の外床部4の撤去とその復元に掛かる工事コストが不要となり、耐震補強の工事コストを抑制することができる。特に、既存建築物1が複数階建ての集合住宅である場合、各階のベランダ4には、消防法で定められている避難口(避難経路)が配置されており、耐震補強の工事期間中に、ベランダ(外床部)4が一時的に取り壊されてしまうと、代替の避難経路が別途必要となる。本実施形態に係る耐震補強工法では、耐震補強の工事期間中に、ベランダ4はそのまま使用できるため、代替の避難経路は不要であり、既存の避難口により住人の安全を確保したまま、耐震補強の工事を行うことができる。
【0105】
従って、建物本体2に外接して張り出したベランダ4を備えた既存建築物1において、室内RMと外床部4との間に位置する柱梁フレーム10(外壁側柱梁フレーム10A)を補強ユニット220で耐震補強する場合に、室内RMとベランダ4との間を不自由なく出入りすることができると共に、耐震補強の工事コストを抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0106】
特に、本実施形態に係る耐震補強工法は、建物本体2の耐震強度を予め大きくして建てられた既存建築物1に対し、より大きな補強を必要としない場合に適し、建物本体2の要部だけを補強して、補強工事のコストを低減したい場合に適す。
【0107】
以上において、本発明を実施形態1乃至3に即して説明したが、本発明は上記実施形態1乃至3に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0108】
(1)例えば、実施形態1では、補強ユニット20を、2つの補強ピース21Iと、2つの補強ピース21Lとを左右対称の門型枠形状に組付けて構成した。実施形態2では、補強ユニット120を、4つの補強ピース21Lを左右対称の口字型枠形状に組付けて構成した。実施形態3では、補強ユニット220を、補強ピース21IをI字型枠形状に組付け、この補強ピース21Iを2組左右対称の位置に配置して構成した。しかしながら、補強ユニットの左右上下の四辺における補強ピースの分割数のほか、補強ユニットを構成する補強ピースの数量は、実施形態に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、補強ピースは、補強ピース21I及び補強ピース21L以外にも、例えば、既存梁に沿う方向に配設される直線状の水平側補強部を有し、補強ユニットの一辺に対応する補強ピースや、既存柱の高さ方向に沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部を有し、この垂直側補強部の両端に支持部を設けず、補強ユニットの一辺に対応する補強ピース等の形状で形成されたものを用いても良い。
【0109】
(2)実施形態1乃至3では、補強ユニット20,120,220を、既存柱11と既存梁16とが段差のない同じ平面状の外壁側柱梁フレーム10Aで建物本体2が構築された既存建築物1に、施工した。ほかにも、既存柱が既存梁より外側に出た外壁側柱梁フレームで構築された建物本体に、ベランダやバルコニー等として、建物本体と外接し外側へ水平に張り出したスラブを備える既存建築物には、次述する変形例1乃至3に係る耐震補強工法による補強ユニットを施工することができる。変形例1乃至3に係る耐震補強工法について、図17、図21、及び図26を用いて簡単に説明する。図17は、変形例1に係る耐震補強工法で耐震補強した既存建築物の説明図である。
【0110】
既存建築物の建物本体は、図17に示すように、左右両側の既存柱511,511と上下両側の既存梁516,516とからなる四角枠形状で鉄筋コンクリート製の柱梁フレーム510により、集合住宅全体の骨格をなして構築されている。この建物本体は、柱梁フレーム510のうち、建物本体の室内と、建物本体と外接し外側へ水平に張り出したスラブ3(3U,3L)との間に位置する外壁側柱梁フレーム510Aを有し、外壁側柱梁フレーム510A(510)では、既存柱511の外側側面511aが、既存梁516(516U)の外側側面516aより室外側に出ている。
【0111】
〔変形例1〕
変形例1は、実施形態1で説明した門型枠形状の補強ユニット20に相当する補強ユニット520を、外壁側柱梁フレーム510Aに適用した場合である。補強ユニット520は、図17に示すように、補強ピース21Iと補強ピース21Lとを、上側のスラブ3(3U)の下面3Uaと下側のスラブ3(3L)の上面3Laとの間に挿入し嵌め込まれ、既存柱511、511の内側側面511b,511bと、既存梁516(516U)の外側側面516aとに対向した位置に配置して施工されている。
【0112】
〔変形例2〕
図21は、変形例2に係る耐震補強工法で耐震補強した既存建築物の説明図である。変形例2は、実施形態2で説明した口字型枠形状の補強ユニット120に相当する補強ユニット620を、外壁側柱梁フレーム510Aに適用した場合である。補強ユニット620は、図21に示すように、4つの補強ピース21Lを、上側のスラブ3(3U)の下面3Uaと下側のスラブ3(3L)の上面3Laとの間に挿入し嵌め込まれ、既存柱511、511の内側側面511b,511bと、既存梁516(516U)の外側側面516aとに対向した位置に配置して施工されている。
【0113】
〔変形例3〕
図26は、変形例3に係る耐震補強工法で耐震補強した既存建築物の説明図である。変形例3は、実施形態3で説明したI字型枠形状の補強ユニット220に相当する補強ユニット720を、外壁側柱梁フレーム510Aに適用した場合である。補強ユニット720は、図26に示すように、4つの補強ピース21Iを、上側のスラブ3(3U)の下面3Uaと下側のスラブ3(3L)の上面3Laとの間に挿入し嵌め込まれ、既存柱511、511の内側側面511b,511bと、既存梁516(516U)の外側側面516aとに対向した位置に配置して施工されている。
【0114】
(3)実施形態3及び変形例3では、直線状の垂直側補強部21Vaを有する補強ピース21I(21)を2つ1組として、2つの補強ピース21Iを連結してI字型枠形状に組付けて補強ユニット220の片側を構成した。しかしながら、補強ユニット220の片側に相当する補強ピースとして、2つの補強ピース21IをI字型枠形状に連結させた補強ピースは、複数の補強ユニットを連結させて構成せず、単体の補強ピースでI字型枠形状に形成しても良い。
【0115】
(4)実施形態1,3及び変形例1,3では、アンカーボルト32の軸部を、補強ピース21I(21)の支持部27の貫通孔、下側のスラブ3(3L)、この下側のスラブ3(3L)を挟み、この支持部27とは反対側に位置に配置される補強ピース21L(21)の鋼材22の平板部まで貫通させて挿通し、この平板部を貫通したアンカーボルト32の軸部とナットとを締結させて、補強ピース21I(21)を下側のスラブ3(3L)に固定した。しかしながら、アンカーボルトによる補強ピースの下側のスラブへの固定は、実施形態1,3及び変形例1,3に限定されるものではなく、補強ピースを安定した状態で下側のスラブに支持し固定できれば、適宜変更可能である。
【0116】
その一例として、アンカーボルト32の軸部を、特定室RMの下階側から上方に向けて挿通することにより、アンカーボルト32の頭部が、特定室RMの下階側に配置され、このアンカーボルト32と螺合するナットが、特定室RMの下側のスラブ3(3L)側の位置に配置されても良い。
【0117】
あるいは、内周に雌ネジが形成された円筒状のインサートアンカーを、特定室RMの下側のスラブ3(3L)に埋め込み、アンカーボルト32の軸部を、補強ピース21I(21)の支持部27の貫通孔を挿通させ、インサートアンカーの雌ネジと螺合させる。アンカーボルト32とインサートアンカーとの締結により、補強ピース21I(21)を下側のスラブ3(3L)に固定させても良い。
【0118】
(5)実施形態1,2及び変形例1,2では、図2及び図3に示すように、接着剤33により、補強ピース21(21I,21L)を、その垂直側補強部21Vaの当接面21aと増打ち15の接着面15aとを接着させて固定すると共に、補強ピース21(21L)を、その水平側補強部21Haの当接面21aと上側のスラブ3(3U)の下面3Uaとを接着させて固定した。さらに、補強ピース21を、増打ち15の接着面15a及び上側のスラブ3(3U)の下面3Uaに接着剤33で接着した上で、補強ピース21(21I,21L)を、その垂直側補強部21Vaの側面(図8中、当接面21aと直交する面)と既存柱11の外側側面11aとを接着剤で接着させて固定しても良い。また、補強ピース21(21L)を、その水平側補強部21Haの側面(図8中、当接面21aと直交する面)と上側のスラブ3(3U)の下面3Uaとを接着させて固定しても良い。
【符号の説明】
【0119】
1 既存建築物
2 建物本体
RM 特定室(室内)
3 スラブ
3U 上側のスラブ
3Ua 上側のスラブの下面
3L 下側のスラブ
3La 下側のスラブの上面
10 柱梁フレーム
10A 外壁側柱梁フレーム
11 既存柱
11a 既存柱の外側側面
15 増打ち
16 既存梁
16U 上側の既存梁
16a 上側の既存梁の外側側面
20,120,220 補強ユニット
21 補強ピース
21Va 垂直側補強部
21Ha 水平側補強部
21L L字型形状の補強ピース
22 鋼材
22T 先端部
23 コンクリート部(コンクリート)
25 接合部
27 支持部
29 繊維補強グラウト(グラウト)
31 ボルト
32 アンカーボルト
33 接着剤
VT 高さ方向
HL 既存梁に沿う方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存柱と既存梁とからなる四角枠形状の柱梁フレームで構築された建物本体と、該建物本体と外接し外側へ水平に張り出したスラブとを備えた既存建築物で、前記柱梁フレームのうち、前記建物本体の室内と前記スラブとの間に位置する外壁側柱梁フレームを、補強ユニットで補強して前記既存建築物の耐震強度を高める耐震補強工法において、
前記補強ユニットは、鋼材とその周囲を覆うコンクリートとを一体成形した補強ピースで形成され、前記補強ピースは、前記既存柱の高さ方向に沿う方向に配設される直線状の垂直側補強部を有し、
前記補強ピースの前記垂直側補強部が、前記外壁側柱梁フレームの下側の前記スラブに支持されて固定されていること、
を特徴とする耐震補強工法。
【請求項2】
請求項1に記載する耐震補強工法において、
前記垂直側補強部が、左右両側の各前記既存柱に対し、前記既存柱の外側側面にそれぞれ配置されること、
増打ちが、前記左右両側の既存柱のそれぞれ前記外側側面に、前記高さ方向に沿って施されていること、
前記補強ピースの前記垂直側補強部を、前記外壁側柱梁フレームの上側の前記スラブと下側の前記スラブとの間に挿入して嵌め込み、前記上側のスラブと前記下側のスラブとに固定すると共に、前記増打ちに接合して固定すること、
を特徴とする耐震補強工法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する耐震補強工法において、
前記補強ユニットは、前記外壁側柱梁フレームの前記既存梁に沿う方向に配設される直線状の水平側補強部を有する前記補強ピースを少なくとも1組含むこと、
前記水平側補強部が、上側の前記既存梁に対し、その外側側面に配置可能な大きさであること、
前記水平側補強部を、前記外壁側柱梁フレームの前記上側の既存梁の前記外側側面、及び上側の前記スラブの下面にそれぞれ対向する位置に配置し、前記上側のスラブと接合させて固定すること、
前記補強ユニットが、前記水平側補強部により、左右両側の各前記既存柱の外側側面にそれぞれ配置される前記垂直側補強部の先端部同士を上方で連結して左右対称の門型枠形状に形成されること、
を特徴とする耐震補強工法。
【請求項4】
請求項3に記載する耐震補強工法において、
前記水平側補強部は、前記上側の既存梁の前記外側側面の面内に配置されることを特徴とする耐震補強工法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、
前記補強ピースの前記垂直側補強部には、前記高さ方向に対し、前記スラブと対向する位置の少なくとも片側端で、前記垂直側補強部の断面より大きい面を水平方向に有した支持部が形成され、
前記補強ピースは、前記支持部を前記スラブと接合させて固定されること
を特徴とする耐震補強工法。
【請求項6】
請求項5に記載する耐震補強工法において、
前記支持部は、前記垂直側補強部の前記高さ方向下端側に設けられ、前記補強ピースは、アンカーボルトまたは接着剤により、前記支持部を前記下側のスラブに接合させて固定されること
特徴とする耐震補強工法。
【請求項7】
請求項3または請求項4に記載する耐震補強工法において、
前記水平側補強部を有する前記補強ピースは2組有し、
前記補強ユニットが、前記水平側補強部を有する一方の組の前記補強ピースにより、前記垂直側補強部の前記先端部同士を上方で連結すると共に、前記水平側補強部を有する他方の組の前記補強ピースにより、前記垂直側補強部の前記先端部同士を下方で連結して左右対称の口字型枠形状に形成されること、
を特徴とする耐震補強工法。
【請求項8】
請求項2乃至請求項7のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、
前記増打ちは、前記既存梁に沿う幅方向に対し、前記既存柱の前記外側側面の幅以下に形成されていることを特徴とする耐震補強工法。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、
前記補強ピースは、前記垂直側補強部と前記水平側補強部とがL字型形状に直交して一体に形成されていること
を特徴とする耐震補強工法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、
前記補強ユニットは、複数の前記補強ピースを接合部で連結して構成され、
前記接合部は、隣り合う前記補強ピースの端部から露出した前記鋼材の先端部同士を、ボルト締めで接続して連結されることを特徴とする耐震補強工法。
【請求項11】
請求項10に記載する耐震補強工法において、
前記接合部には、グラウトが、連結した前記鋼材の前記先端部同士の周囲に充填され、前記接合部を挟む隣り合った前記補強ピースの側面が略同一平面状に形成されていることを特徴とする耐震補強工法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1つに記載する耐震補強工法において、
前記補強ピースは、工場で前もって製造されたプレキャスト部材であり、
前記補強ユニットは、前記外壁側柱梁フレームへの設置形状に対応して選択された複数の前記補強ピースを、前記既存建築物の耐震補強現場で組付けて構成されること
を特徴とする耐震補強工法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1つに記載する耐震補強工法に用いることを特徴とする補強ピース。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2013−76227(P2013−76227A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215355(P2011−215355)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(591065848)名工建設株式会社 (15)
【出願人】(505090676)株式会社飯島建築事務所 (9)
【Fターム(参考)】