説明

耐震補強構造

【課題】補強柱や補強梁の重量増加を抑制するとともに、採光性や通風性を確保して使用環境を維持することができる耐震補強構造を提供すること。
【解決手段】既存建物の構面に沿って構築される耐震補強構造であって、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強柱と、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強梁と、補強基礎部とから成り、前記補強柱と補強梁で構成されるフレーム構造の対向する隅部の少なくとも一対に緊張材を張架したので、補強柱や補強梁の重量増加を抑制するとともに、採光性や通風性を確保して使用環境を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存建物の耐震強度を向上させるために付設する耐震補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐震補強構造は既存建物の耐震強度を向上させるために、フレームの構面内や構面外にブレースまたはブレースを含んだ構造が種々提案されている。例えば、特許文献1に開示されたものは、柱と梁から成るフレームに一部に降伏部を有するブレースを取り付けた構造であり、震災時に降伏して役目を終えた降伏部材のみを交換可能としたものである。また、引用文献2に開示されたものは、補強柱と補強基礎を緊張材を介して緊張した構造である。また、引用文献3に開示されたものは、PCアウトフレームを既存建物の構面に設置して耐震強度を増すものである。
【特許文献1】特開平11−61982号公報
【特許文献2】特開平2005−163432号公報
【非特許文献1】「プレストレストコンクリート」Vol.48,No.4,July 2006、P62-65、技報堂出版株式会社、社団法人プレストレストコンクリート技術協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の耐震補強構造において、例えば、特許文献1に開示されたものにあっては、ブレースの幅が採光性や通風性の妨げになると云う欠点が存在した。
また、特許文献2に開示されたものにあっては、補強基礎と補強柱によって緊張材を緊張する構造であるために、大きくて丈夫な基礎構造とする必要があった。また、3階建の建物に施工する場合には、補強基礎の桁行き方向の長さが25m以上必要であった。
更に、非特許文献1に開示されたものにあっては、PCアウトフレームの太さ寸法を太くする必要があった。また、それに従って、基礎の重量も大きくなる必要があった。
【0004】
この発明は上記に鑑み提案されたもので、採光性や通風性に優れるとともに、補強基礎の重量や長さを大きくすることなく、柱や梁の太さ寸法を細くする耐震強度を増強することのできる耐震補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は既存建物の構面に沿って構築される耐震補強構造であって、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強柱と、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強梁と、補強基礎部とから成り、前記補強柱と補強梁で構成されるフレーム構造の対向する隅部の少なくとも一対に緊張材を張架したことを特徴としている。
【0006】
また、本発明において、前記補強柱の補強梁との交差部に多角形状の締着金具を配設し、この締着金具を介して緊張材を締着したことを特徴とする。
【0007】
また、本発明において、前記締着金具は、八角形であり、この八角形の一辺で緊張材の端部を保持固定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明において、前記緊張材は、フレーム構造の対向する隅部間に交差して配設されたことを特徴としている。
【0009】
また、本発明において、前記交差する緊張材は、奥行き方向の位置をずらせて配設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は上記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
【0011】
本発明では、既存建物の構面に沿って構築される耐震補強構造であって、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強柱と、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強梁と、補強基礎部とから成り、前記補強柱と補強梁で構成されるフレーム構造の対向する隅部の少なくとも一対に緊張材を張架したので、既存建物の耐震性を増すとともに採光性や通風性に優れ使用環境の低下をもたらす虞れがない。また、補強基礎部の自重を従来に比べて小さくすることができる。更に、補強基礎部の長さを通常の補強梁と同じにすることができ、軽量化を図ることができる。また、補強柱や補強梁の軽量化を達成できる。
【0012】
また、本発明では、前記補強柱の補強梁との交差部に多角形状の締着金具を配設し、この締着金具を介して緊張材を締着したので、緊張材の先端を効率よく、しかも確実に締着することができる。
【0013】
また、本発明では、前記締着金具は、八角形でありこの八角形の一辺で緊張材の端部を保持固定するので、緊張材の端部を締着する際に緊張材に対して何れかの辺が直角となり、確実に締着することができる。
【0014】
また、本発明では、前記緊張材はフレーム構造の対向する隅部間に交差して配設されたので、耐震性能を向上することができる。
【0015】
また、本発明では、前記交差する緊張材は、奥行き方向の位置をずらせて配設したので、交差する緊張材を互いに非接触とすることができ、緊張に際して悪影響を与える虞れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
補強柱と補強梁と補強基礎部とから成り、補強柱と補強梁で構成されるフレーム構造の対向する隅部の少なくとも一対に緊張材を張架したので、補強柱や補強梁の重量増加を抑制するとともに、採光性や通風性を確保することができる。
【実施例1】
【0017】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明に係る耐震補強構造の正面図、図2は本発明の耐震補強構造の要部拡大正面図である。ここで、耐震補強構造10は、既存建物の構面に沿って構築されるものであって、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強柱11と、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強梁12と、補強基礎部13とから成り、前記補強柱11と補強梁12で構成されるフレーム構造の対向する隅部の少なくとも一対に緊張材14を張架して構成される。
【0018】
また、図2に示すように補強柱11の補強梁12との交差部に多角形状の締着金具15を配設し、この締着金具15を介して緊張材14が締着されている。つまり、締着金具15は、補強柱11を構成する縦筋16a、16bの間でかつ、補強梁12を構成する鉄筋17a、17bの間に配設される。締着金具15は、例えば、八角形をしており八角形の一辺が緊張材14に対して直交するように構成されている。締着金具15は、シース18を介して引き込まれた緊張材14の端部を座金19及びナット20で締着する。また、図3に示すように締着金具15は、緊張材14の奥行き方向の位置をずらせて配設するべく、左右の緊張材14を引き込む挿通穴21a、21bの位置を奥行き方向にずらしている。
【0019】
図4は、本発明の耐震補強構造に使用される緊張機構22を示す説明図である。本実施例において、緊張機構22は、断面コ字状の反力治具23と、ジャッキ24と支圧板25とナット26、27とカプラ28等から構成されている。反力治具23の両端板から挿通された緊張材14の一端は、ナット27で螺合されるとともに、他端はジャッキ24、支圧板25、カプラ28を介して螺合されている。緊張材14は、所定の隙間、例えば、25mm程度を有して仮止めされている。このような状態でジャッキ24を伸張し、緊張材を緊張して隙間を無くした後にカプラ28で接続する。緊張材14をカプラ28で接続後、反力治具23を取り除き被覆管29を被せる。
【0020】
図5は本発明の耐震補強構造に使用される緊張機構の他の実施例を示す説明図である。本実施例において、緊張機構30は、支持桿31に回動可能に軸支された2枚の支圧板32a、32bと、この支圧板を回動軸を中心に回動可能に取り付けられたジャッキ33と、ナット34、35とカプラ36等から構成されている。このように構成された緊張機構30は、支圧板32aの取り付け溝32cに緊張材14を挿通し、ナット34で仮止めするとともに、カプラ36を螺合する。また、支圧板32bの取り付け溝32dには、緊張材14の他端を挿通しナット35で仮止めする。この際、緊張材14の間隔は、前述のように所定の隙間、例えば、25mm程度である。次に、ジャッキ33を操作して緊張材14を仮止めした側の支圧板32a、32bの間隔が近づくようにする。互いの緊張材14が近づいて、緊張された場合にカプラ36を操作して、両者を接続する。緊張材14をカプラ36で接続後、緊張機構30を取り除き、上から被覆管29を被せる。
【0021】
次に、以上のように構成された耐震補強構造の施工法について説明する。先ず、図6(a)に示すように既存建物に平行して補強基礎部(地中梁)13を施工する。補強基礎部13には、所定の位置に先端の締着された緊張材(アンカー)14を埋設しておく。補強基礎部13が硬化した後、図6(b)に示すように補強柱11を所定間隔で立設する。補強柱11は、PCa部材として工場で予め製造し、緊張材14を埋設しておく。次に、図6(c)に示す補強梁12を補強柱11の間に取り付ける。補強梁12もPCa部材として工場で予め製造しておく。図6(d)では、補強柱11と補強梁12の接合部に無収縮モルタル等で目地を施工するとともに、補強柱11と補強梁12にPC鋼材を挿通した後緊張する。また、柱脚部は、グラウトする。以上のようにして補強柱と補強梁でフレーム構造が形成された後、図6(e)に示すように斜めに配設された緊張材14を緊張して完成する。
【0022】
図7は、本発明の耐震補強構造における既存建物との接続部を示す要部断面図である。本発明の耐震補強構造は、既存建物37と補強梁12を連結ボトル38で連結する。補強梁12の適宜間隔でボトル孔39を形成し、対向する既存建物37にもボトル孔40を形成する。補強梁12の既存建物37と当接する部位には、無収縮モルタル等のグラウト材を介在させる。
【0023】
図8は、本発明の耐震補強構造を既存建物に設置した例を示す説明図である。本発明の耐震補強構造10は、既存建物37の例えば、正面側の窓部以外の位置に補強柱11、補強梁12、補強基礎部13を配置している。このように配設することで、採光性、通風性を損なうことなく、耐震強度を向上することができる。尚、以上の実施例では、耐震補強構造を既存建物の構面の一部に設置する場合について説明したが、構面の全体に設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る耐震補強構造の正面図である。
【図2】図2は、同耐震補強構造の要部拡大正面図である。
【図3】図3は、同耐震補強構造における柱部を示す横断面図である。
【図4】図4は、同耐震補強構造に使用される緊張機構を示す説明図である。
【図5】図5は、同耐震補強構造に使用される緊張機構の他の実施例を示す説明図である。
【図6】図6は、同耐震補強構造における施工手順を示す説明図である。
【図7】図7は、同耐震補強構造における既存建物との接続部を示す要部断面図である。
【図8】図8は、同耐震補強構造を既存建物に設置した例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
10 耐震補強構造
11 補強柱
12 補強梁
13 補強基礎部
14 緊張材
15 締着金具
16 縦筋
17 鉄筋
18 シース
19 座金
20 ナット
21a、b 挿通穴
22、30 緊張機構
23 反力治具
24 ジャッキ
25 支圧板
26、27 ナット
28 カプラ
29 被覆管
31 支持桿
32 支圧板
33 ジャッキ
36 カプラ
37 既存建物
38 連結ボトル
39 ボトル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の構面に沿って構築される耐震補強構造であって、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強柱と、既存建物の窓部以外の位置に配置された補強梁と、補強基礎部とから成り、前記補強柱と補強梁で構成されるフレーム構造の対向する隅部の少なくとも一対に緊張材を張架したことを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記補強柱の補強梁との交差部に多角形状の締着金具を配設し、この締着金具を介して緊張材を締着したことを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記締着金具は、八角形であり、この八角形の一辺で緊張材の端部を保持固定することを特徴とする請求項1または2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記緊張材は、フレーム構造の対向する隅部間に交差して配設されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の耐震補強構造。
【請求項5】
前記交差する緊張材は、奥行き方向の位置をずらせて配設したことを特徴とする請求項4に記載の耐震補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−127856(P2008−127856A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314306(P2006−314306)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000237134)株式会社富士ピー・エス (20)
【Fターム(参考)】