説明

耐食性および高温耐エロージョン性に優れた高温用部材およびその製造方法

【課題】 高温耐食性と耐エロージョン性に優れた高温用部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 鋼製基材に電解ニッケルめっき処理を施し、表面にニッケルめっき被膜を形成し、ついで溶融塩浴中で硼化処理を施し、基材側に厚さ20〜50μmの鉄硼化物を主とする層を、その上層として厚さ10〜30μm のニッケル硼化物を主とする層からなる表面処理層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高温用部材に係り、例えば蒸気タービン翼等のように、高温腐食性雰囲気でかつ粒子が高速で飛来する環境下で使用される高温用部材の耐食性、高温耐エロージョン性の改善に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、耐摩耗性や耐エロージョン性の向上のために、部材の表面を硬質化することが行われている。表面の硬質化手段としては、例えば、高周波焼入れ処理、浸炭処理、窒化処理など、部材の表層を改質する方法が挙げられる。また、めっき、蒸着等により高硬度の被膜を部材の表面に形成し、表面を硬質化する方法もある。高硬度の被膜を形成する方法として、例えば、無電解ニッケルめっきがある。無電解ニッケルめっきの被膜は、常温で処理のままで350 Hv以上の高硬度を有し、400 ℃で熱処理を施せば1000Hv程度の高硬度を有するようになる。また、無電解ニッケルめっき被膜は、耐食性にも優れており、耐食性と耐エロージョン性を兼ね備えることが要求される使途に好適な被膜であるといわれている。
【0003】しかし、無電解ニッケルめっき被膜は、400 ℃程度までの温度域であれば、それなりの硬さは維持できるが、それ以上の温度、例えば500 ℃以上の温度域では、硬さの低下が著しくなり、耐エロージョン性が著しく低下するという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、耐食性と高温耐エロージョン性に優れた高温用部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した課題を達成するため、高温用部材に好適な耐食性と高温での耐エロージョン性を兼ね備えた表面硬化層について、その形成方法を含め鋭意研究した。その結果、部材に電解ニッケルめっき被膜を形成し、しかるのちに該部材を溶融塩浴中に浸漬する硼化処理を施すことにより、ニッケル硼化物を主とする層を外層とし、鉄硼化物をその内層とする表面処理層を、複雑な形状でも各部位均一に形成でき、耐食性と高温耐エロージョン性に優れた部材とすることができることを見いだした。本発明者らの検討によれば、ニッケル硼化物を上層とし、鉄硼化物を下層とする2層構造としてはじめて、高温での耐エロージョン性を顕著に向上させるとともに、耐食性をも具備できるのである。
【0006】本発明は、上記した知見に基づいて、さらに検討をくわえて完成されたものである。すなわち、本発明は、鋼製基材の表層に表面処理層を有する高温用部材であって、前記表面処理層が、基材側から順に鉄硼化物を主とする層と、ニッケル硼化物を主とする層とからなることを特徴とする耐食性および高温耐エロージョン性に優れた高温用部材であり、また、本発明では、前記鉄硼化物を主とする層が厚さ20〜50μm であり、前記ニッケル硼化物を主とする層が厚さ10〜30μm であることが好ましく、また、本発明では、前記鉄硼化物が、FeB 、Fe2B、Fe23B6のうちの1種または2種以上からなり、前記ニッケル硼化物が、Ni2B、Ni3Bのうちの1種または2種からなることが好ましい。
【0007】また、第2の本発明では、鋼製基材に電解ニッケルめっき処理を施し、表面にニッケルめっき被膜を形成したのち、該鋼製基材に硼化処理を施し、前記鋼製基材表層に表面処理層を形成することを特徴とする耐食性および高温耐エロージョン性に優れた高温用部材の製造方法であり、また、第2の本発明では、前記表面処理層が、鋼製基材側から順に鉄硼化物を主とする層と、ニッケル硼化物を主とする層とからなることが好ましく、また、第2の本発明では、前記硼化処理が、前記鋼製基材を無水硼砂と硼化物を主成分とする溶融塩浴中に浸漬して行う処理であることが好ましい。
【0008】また、第2の本発明では、前記硼化処理後に、溶体化処理を施すことが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の高温用部材は、耐食性、高温耐エロージョン性を要求される環境下での使途に好適な部材である。本発明でいう耐食性、高温耐エロージョン性を要求される環境とは、例えば、蒸気タービン翼におけるような、ボイラーチューブの内壁から発生した微細粒子(酸化鉄、硬さ500Hv 程度)が高速で高温蒸気(温度:600 ℃程度)とともに飛来するような環境をいうものとする。
【0010】本発明の高温用部材で使用する鋼製基材については、とくに限定する必要はないが、高温使用が可能で、耐食性、耐酸化性に優れた鋼材を用いるのが好ましい。本発明では、耐エロージョン性を向上させるために表層に硬質な表面処理層を有する。表面処理層は、常温に加えて高温(好ましくは600 ℃以上の温度域)においても高硬度を有するものであり、基材側から順に鉄硼化物を主とする層と、ニッケル硼化物を主とする層とする。このように、ニッケル硼化物を主とする層を上層とすることにより、ニッケル硼化物の存在により耐食性、とくに水蒸気を含む環境下での耐食性が向上し、さらに高温域でも比較的高硬度を維持し、耐エロージョン性が向上する。
【0011】また、鉄硼化物を主とする層を下層とすることにより、高温域の温度まで高硬度をニッケル硼化物以上に維持できる鉄硼化物の存在により、部材の表面硬さが高温まで維持でき、耐エロージョン性が向上するとともに、たとえニッケル硼化物を主とする層が摩耗・損耗しても、下層でニッケル硼化物以上の高硬度を有する鉄硼化物を主とする層の存在により耐エロージョン性が低下することはなく、部材の長寿命化が図れる。
【0012】本発明でいう鉄硼化物を主とする層とは、好ましくはFeB 、Fe2B、Fe23B6のうちの1種または2種以上からなる鉄硼化物を面積率で50%以上含む層をいう。また、本発明でいうニッケル硼化物を主とする層とは、好ましくはNi2B、Ni3Bのうちの1種または2種からなるニッケル硼化物を面積率で50%以上含む層をいう。
【0013】鉄硼化物を主とする層は、20〜50μm の範囲の厚さに調整するのが好ましい。厚さが20μm 未満では、高硬度の領域が狭すぎて部材の耐エロージョン性が低下する。一方、厚さが50μm を超えると、処理時間が長くなるため生産性が低下する。このため、鉄硼化物を主とする層の厚さは、20〜50μm の範囲とするのが好ましい。
【0014】また、ニッケル硼化物を主とする層は、10〜30μm の範囲の厚さに調整するのが好ましい。厚さが10μm 未満では、層厚が薄すぎてニッケル硼化物による耐食性の改善が少なく、一方、厚さが30μm を超えると、下層の膜厚コントロールが困難となる。つぎに、本発明の高温用部材の製造方法について説明する。
【0015】まず、上記した材質の鋼製基材に電解ニッケルめっき処理を施す。電解ニッケルめっき処理としては、通常公知の電解ニッケルめっきがいずれも好適である。形成するニッケルめっき被膜の厚さは、10〜30μm とするのが好ましい。被膜の厚さがこの範囲を外れると、所定範囲の厚さのニッケル硼化物を主とする層が形成できない。
【0016】このニッケルめっき被膜は、その後の硼化処理により導入されるBと結合してニッケル硼化物を生成し、耐食性、高温の耐エロージョン性を向上させる。表面にニッケルめっき被膜を形成された鋼製基材は、ついで硼化処理を施される。硼化処理は、鋼製基材を、無水硼砂と硼化物を主成分とする溶融塩浴中に浸漬して行う処理とするのが好ましい。溶融塩浴中に浸漬して行う処理とすることにより、複雑な形状、たとえば、表面が直接開放されていない、いわゆるクローズな部位まで均一にニッケル硼化物、鉄硼化物を主とする層を容易に形成することができる。
【0017】この処理により、表面から硼素Bが、ニッケルめっき被膜、および鋼製基材中に拡散する。そして、ニッケルめっき被膜中ではニッケル硼化物を、鋼製基材中では鉄硼化物を形成し、上層としてニッケル硼化物を主とする層、および下層として鉄硼化物を主とする層を形成する。これにより、高温においても高硬度で耐食性を有する表面処理層を形成でき、高温の耐食性および耐エロージョン性が向上する。
【0018】なお、硼化処理は、鉄硼化物を主とする層が20μm 以上、50μm 以下形成される条件とするのが好ましい。鉄硼化物を主とする層の厚さが20μm 未満では、耐エロージョン性が低下し、一方、50μm を超えて厚くなると、処理時間が長くなり、生産性が低下する。鋼製基材表層に表面処理層を形成したのち、所望の基材特性を保持するために、基材組成に応じ、溶体化処理を施すことが好ましい。
【0019】
【実施例】鋼製基材(寸法:50×50×6mm)に電解ニッケルめっき処理を施し、表面に5〜30μm 厚の電解ニッケルめっき被膜を形成した。ついで、これら鋼製基材に無水硼砂と硼化物を主成分とする溶融塩浴中に浸漬する硼化処理を施し、所定の厚さを有する表面処理層を形成した。その後、溶体化処理を実施し、表面処理層を有する高温用部材とした。なお、比較例として、上記したと同じ鋼製基材に無電解ニッケルめっき被膜を50μm 形成した部材を作製した。
【0020】得られた部材について表面処理層の組織、厚さを調査し、さらに耐食性および耐エロージョン性を調査した。
(1)組織調査得られた部材の板厚方向断面を研摩し、組織を光学顕微鏡で撮像し、得られた写真から表面処理層各層の厚さを測定した。また、得られた高温用部材の断面について、X線回折により表面処理層各層を構成する相を同定した。
【0021】(2)耐食性、耐エロージョン性の調査得られた高温用部材について、JIS Z 2371の規定に準拠して、塩水噴霧試験を実施した。塩水噴霧の条件は、常温で2hとし、試験後の腐食減量を求めた。耐食性は、無電解ニッケルめっき被膜を形成した比較例(部材No.8)の腐食減量を1.0 として、これに対する比で評価した。
【0022】また、得られた高温用部材を500 ℃に加熱したのち、常温中で、微細粒子(鉄酸化物)を速度:40m/s で5min 間投射したのち、摩耗・損耗減量を測定した。耐エロージョン性は、無電解ニッケルめっき被膜を形成した比較例(部材No.8)の摩耗損耗減量を1.0 として、これに対する比で評価した。これらの結果を表1に示す。
【0023】
【表1】


【0024】表1から、本発明例は、いずれも高温硬さが高く、耐食性および高温における耐エロージョン性が優れていることがわかる。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、複雑な形状の部材でも各部位で均一な表面処理層を形成でき、耐食性、高温の耐エロージョン性に優れた高温用部材を、複雑な工程を経ることなく製造でき、さらに高温用部材の長寿命化が達成でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高温用部材の表面処理層の構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 鋼製基材
2 鉄硼化物を主とする層
3 ニッケル硼化物を主とする層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼製基材の表層に表面処理層を有する高温用部材であって、前記表面処理層が、基材側から順に鉄硼化物を主とする層と、ニッケル硼化物を主とする層とからなることを特徴とする耐食性および高温耐エロージョン性に優れた高温用部材。
【請求項2】 前記鉄硼化物を主とする層が厚さ20〜50μm であり、前記ニッケル硼化物を主とする層が厚さ10〜30μm であることを特徴とする請求項1に記載の高温用部材。
【請求項3】 鋼製基材に電解ニッケルめっき処理を施し、表面にニッケルめっき被膜を形成したのち、該鋼製基体に硼化処理を施し、前記鋼製基材表層に表面処理層を形成することを特徴とする耐食性および高温耐エロージョン性に優れた高温用部材の製造方法。
【請求項4】 前記表面処理層が、鋼製基材側から順に鉄硼化物を主とする層と、ニッケル硼化物を主とする層とからなることを特徴とする請求項3に記載の高温用部材の製造方法。
【請求項5】 前記硼化処理が、前記鋼製基材を無水硼砂と硼化物を主成分とする溶融塩浴中に浸漬して行う処理であることを特徴とする請求項3または4に記載の高温用部材の製造方法。
【請求項6】 前記硼化処理後に、溶体化処理を施すことを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の高温用部材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2002−38281(P2002−38281A)
【公開日】平成14年2月6日(2002.2.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−226833(P2000−226833)
【出願日】平成12年7月27日(2000.7.27)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】