説明

耐食性に優れる下塗り塗料組成物

【課題】 プレコート塗装金属板の端面や傷つき面及び加工部での耐食性に優れた塗膜を形成できるクロムフリー系下塗り塗料組成物を提供する。
【解決手段】 (A)数平均分子量400〜10,000のビスフェノール型エポキシ樹脂又はその変性樹脂、及び/または、水酸基価が5〜200mgKOH/gで、数平均分子量が500〜20,000である水酸基含有ポリエステル樹脂、
(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物及び/またはメラミン樹脂、
(A)成分と(B)成分との樹脂固形分の総和質量に対して、
(C)バナジン酸マグネシウム 10〜45質量%、
(D)カルシウムイオン交換シリカ 2〜20質量%、
(E)リン酸亜鉛、第二リン酸亜鉛、リン酸二水素亜鉛及びトリポリリン酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも1種 10〜45質量%、
(F)セリウム化合物、タングステン酸化合物及びモリブデン酸化合物(モリブデン酸マグネシウム塩を除く)の群から選ばれた少なくとも1種 0.1〜5質量%
を含有とすることを特徴とする下塗り塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れたクロムフリー系下塗り塗料組成物に関し、特に亜鉛めっき鋼板及びアルミ/亜鉛合金めっき鋼板などの金属板を基材とした塗装金属板の耐食性の向上に有用な下塗り塗料組成物に関する。
本発明の塗料を用いて塗装された塗装金属板は、例えば、冷蔵庫、洗濯機、暖房器具、更にはエアコン室外機など各種家電製品の他、建築物の屋根、壁、シャッターなどの建材用途に好適である。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板へ塗装を施してなるプレコート塗装金属板は、塗装後に切断、成型加工されるため、局部的に金属露出した端面や加工部のワレ、及び傷つき部が発生することが多い。こうした部位は耐食性の低下が起こりやすく、そのため耐食性及び密着性を確保するために下地鋼板にクロメートを含有する化成処理を施すとともに、下塗り塗膜中にクロム系防錆顔料を含有させているのが一般的であった。
しかし、昨今このような塗装金属板について、毒性の強いクロムの溶出による環境保護面への懸念が問題視されており、クロム系防錆顔料を使用しないクロムフリー系下塗り塗料が強く要望されている。
【0003】
従来、溶融亜鉛めっき鋼板を下地とするクロムフリー塗装金属板は開発されており、クロム系防錆顔料に代わる防錆顔料としてシリカやリン酸塩を塗膜に添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、従来の6価クロムを含むプレコート金属板用塗料と比べると、長期耐食性、特に塩水噴霧試験のようなウェット率の高い腐食環境における長期耐食性が劣っており、更に上記技術を55%Al−Zn系溶融めっき鋼板を下地とする塗装金属板に適用した場合、十分な耐食性は得られなかった。
【0004】
また、非クロム系防錆顔料として、Ca又はMgの炭酸塩、Al又はBaの硫酸塩、Al、Zn、Ni、W又はCs(セシウム)の酢酸塩、Al、Mg又はCaのリン酸塩、Al又はZnのモリブデン酸塩、Al、Zn又はPbのリンモリブデン酸塩、Al、Zn、Pb又はPのバナジン酸塩、Al、Zn、Ni、W、V(バナジウム)、Si、Mg、Ca、Zr又はTiの酸化物、亜リン酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも1種の防錆顔料と、導電材としての金属粉を用いた塗料組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、バナジウムイオンを放出する防錆顔料とリン酸イオンを放出する防錆顔料とを含むプレコート用防錆皮膜層が知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、シリカ微粒子及びマグネシウム塩を用いる塗料組成物が知られている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、これらの塗料から形成された塗膜は、特に加工部及び端面部における耐食性が不十分である。また、耐アルカリ性や耐酸性などの耐薬品性が劣ることが多い。また、防錆顔料を多量に使用すると耐水性が劣ることが多く、プレコート金属板製造においてクロム系の防錆顔料を代替えするまでには至っていない。
【0006】
また、(1)三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム及びモリブデン酸アンモニウムのうちの少なくとも1種のモリブデン酸化合物、(2)金属がカルシウム、マグネシウム、亜鉛から選ばれる金属である金属珪酸塩、(3)金属塩の金属がカルシウム、マグネシウム、亜鉛及びアルミニウムから選ばれる金属であるリン酸系金属塩からなるか、上記(1)、(2)、(3)成分及び(4)五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びバナジン酸マグネシウムのうちの少なくとも1種のバナジウム化合物からなる防錆顔料混合物を用いることが知られている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、クロム系顔料を使用した塗料に比べ、耐食性及び耐薬品性に劣るものであり、特に端面部における耐食性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−012931号公報
【特許文献2】特開平11−61001号公報
【特許文献3】特開2000−199078号公報
【特許文献4】特開2001−172570号公報
【特許文献5】特開2008−291162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プレコート塗装金属板の端面や傷つき面及び加工部での耐食性に優れた塗膜を形成できるクロムフリー系下塗り塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記成分の特定の樹脂と特定の非クロム系の防錆顔料を組合せることによって、課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(A)数平均分子量400〜10,000のビスフェノール型エポキシ樹脂又はその変性樹脂、及び/または、水酸基価が5〜200mgKOH/gで、数平均分子量が500〜20,000である水酸基含有ポリエステル樹脂、(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物及び/またはメラミン樹脂、(A)成分と(B)成分との樹脂固形分の総和質量に対して、(C)バナジン酸マグネシウム 10〜45質量%、(D)カルシウムイオン交換シリカ 2〜20質量%、(E)リン酸亜鉛、第二リン酸亜鉛、リン酸二水素亜鉛及びトリポリリン酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも1種 10〜45質量%、
(F)セリウム化合物、タングステン酸化合物(タングステン酸マグネシウム塩を除く)及びモリブデン酸化合物(モリブデン酸マグネシウム塩を除く)の群から選ばれた少なくとも1種 0.1〜5質量%を含有とすることを特徴とする下塗り塗料組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記下塗り塗料組成物において、前記セリウム化合物が、リン酸セリウム、酸化セリウム及びグルコン酸セリウムの群から選ばれた少なくとも1種である下塗り塗料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の下塗り塗料組成物は、環境安全面で有利なクロムフリー系下塗り塗料組成物であり、更に本発明の塗料組成物によって得られた塗装金属板は、従来のクロメート系防錆顔料を使用した塗料により得られる塗装金属板と比較して、平面部、加工部、及び端面部の耐食性において同等レベルの優れた防錆効果を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の(A)成分の樹脂として、数平均分子量400〜10,000のビスフェノール型エポキシ樹脂が用いられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂の水酸基価は、10〜400mgKOH/gが好ましい。水酸基価が10mgKOH/gより小さい場合は、硬化塗膜にしたとき架橋密度が低くなりすぎるため、耐溶剤性が低下する。一方、水酸基価が400mgKOH/gを超えると、硬化塗膜にしたとき架橋密度が高くなりすぎるため、加工性が低下する。エポキシ樹脂のタイプとして、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから合成されるビスフェノールA型エポキシ樹脂と、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンから合成されるビスフェノールF型エポキシ樹脂とがあるが、耐食性の点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の数平均分子量の好ましい範囲は、400〜10,000である。数平均分子量が400未満では加工性、耐食性、硬化性が低下し、一方、数平均分子量が10,000を越えると高粘度になるため、ロールコーター等による塗装作業性に劣るため好ましくない。
【0012】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、側鎖に2級の水酸基を含有しており、本発明に用いるエポキシ樹脂の場合、樹脂の水酸基価は、120〜300mgKOH/gが好ましい。エポキシ当量は、150〜6,000が好ましく、200〜5,000が更に好ましい。
市販されているビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、jER 834、1001、1002、1003、1004、1007、1009(三菱化学(株)製、商品名)、エポトートYD−134、YD−001、YD−011、YD−012、YD−013、YD−014、YD−017、YD−019(東都化成(株)製、商品名)等がある。
【0013】
また、本発明に用いられるビスフェノール型エポキシ樹脂の官能基の全部又は一部が、変性されていてもよい。エポキシ樹脂の変性とは、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基または水酸基に他の有機基を反応させたものであって、例えばポリエステル、アルカノールアミン、カプロラクトン、イソシアネート化合物、酸無水物などで変性したものがあり、これらの各種の変性体を制限なく用いることができる。かかる変性エポキシ樹脂の商品としては、エピクロン(DIC(株)、商品名)やウレタン変性エポキシ樹脂としては、エポキー834(三井化学(株)、商品名)などがあげられる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂の変性樹脂の数平均分子量は、ビスフェノール型エポキシ樹脂の数平均分子量と同様の範囲が好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂の変性樹脂の水酸基価は、ビスフェノール型エポキシ樹脂の水酸基価と同様の範囲が好ましい。
【0014】
本発明の(A)成分の樹脂として、水酸基価が5〜200mgKOH/gで、数平均分子量が500〜20,000である水酸基含有ポリエステル樹脂を用いてもよい。
水酸基含有ポリエステル樹脂の水酸基価は、好ましくは10〜150mgKOH/gである。水酸基価が5mgKOH/g未満では、硬化塗膜にしたとき架橋密度が低くなりすぎるため耐溶剤性能が低下する。一方、水酸基価が200mgKOH/gを超えると、硬化塗膜にしたとき架橋密度が高くなりすぎるため、加工性が低下する。
前記水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量は、好ましくは800〜18,000である。前記水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量が500未満では、硬化塗膜にしたとき架橋密度が高くなりすぎるため、加工性が低下し、数平均分子量20,000を超えると、硬化塗膜の架橋密度が低くなりすぎるため、耐溶剤性能が低下する。
なお、本発明においては、数平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算分子量を用いる。
【0015】
水酸基含有ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとを原料として、直接エステル法、エステル交換法、開環重合法などの公知の製造方法を用いて得ることができる。
水酸基含有ポリエステル樹脂
水酸基含有ポリエステル樹脂の製造原料である、多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族カルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族カルボン酸、など一般に用いられるポリエステル樹脂製造用の多塩基酸を使用することができる他、炭素数8〜18の脂肪酸、ダイマー酸などを使用することができる。多塩基酸として芳香族カルボン酸を、全多塩基酸及び全多価アルコールの合計質量に対して30〜55質量%含有することが塗膜硬度と加工性のバランスや耐食性といった点で好ましい。多塩基酸は、1種又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0016】
また、水酸基含有ポリエステル樹脂の製造原料である、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、メチルペンタンジオールなどの二価のアルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど3価以上のポリオールを使用することができる。また、多価アルコールとしてメチルペンタンジオールを全多塩基酸及び全多価アルコールの合計質量に対して20〜50質量%含むことがポリエステル樹脂の結晶性防止や加工性といった点で好ましい。多価アルコールは、1種又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の(B)成分は、(A)成分の樹脂の水酸基と反応する硬化剤であり、ブロック化ポリイソシアネート化合物及び/またはメラミン樹脂が用いられる。
本発明に用いられるブロック化ポリイソシアネート化合物は、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、及び、これらのビウレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパンのアダクト体のようなポリイソシアネート誘導体などポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部又は全部をブロック剤でブロック化して製造したものが挙げられる。
【0018】
このブロック化剤の例としては、例えば、ε−カプロラクタム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソアミルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシムなどのケトオキシム系ブロック化剤、フェノール、クレゾール、カテコール、ニトロフェノールなどのフェノール系ブロック化剤、イソプロパノール、トリメチロールプロパンなどのアルコール系ブロック化剤、マロン酸エステル、アセト酢酸エステルなどの活性メチレン系ブロック化剤、複素環式化合物のピラゾールなどが挙げられる。これらのブロック化ポリイソシアネート化合物は、1種用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい
また、本発明に用いられるメラミン樹脂としては、前記のエポキシ樹脂、及び/又は水酸基含有ポリエステル樹脂と相溶性のあるメチル化メラミン樹脂、あるいはブチル化メラミン樹脂が好適である。
【0019】
(A)成分の基体樹脂と(B)成分の硬化剤との含有比率は、樹脂固形分質量比で、95/5〜50/50が好ましく、より好ましくは、90/10〜60/40である。
(A)成分が95質量%以上の場合には、架橋が不十分であり、塗膜の耐薬品性が低下する。また、(A)成分が50質量%未満の場合には、硬化剤が多くなり、塗膜の加工性や付着性が低下する。
【0020】
次に、本発明に用いる防錆顔料について説明する。
本発明の(C)成分は、バナジン酸マグネシウムである。
本発明において、(C)成分の含有量は、(A)成分の樹脂と(B)成分の硬化剤の樹脂固形分の総和質量に対して10〜45質量%であり、好ましくは、12〜45質量%である。
(C)成分の含有量が、10質量%未満の場合は、耐食性が低下し、45質量%を超える場合は、耐湿性が低下する。
【0021】
本発明の(D)成分は、カルシウムイオン交換シリカである。
本発明において、(D)成分の含有量は、(A)成分の樹脂と(B)成分の硬化剤の樹脂固形分の総和に対して2〜20質量%であり、好ましくは、3〜18質量%である。
(D)成分の含有量が2質量%未満の場合は、耐食性が低下し、20質量%を超える場合は、耐湿性が低下する。
カルシウムイオン交換シリカは、微細な多孔質のシリカ担体にイオン交換によってカルシウムイオンが導入されたシリカ微粒子である。カルシウムイオン交換シリカの市販品としては、SHIELDEX C303、同AC−3、
同C−5(以上、いずれもW.R.Grace & Co.社製、商品名)などを挙げることができる。
カルシウムイオン交換シリカから放出されるカルシウムイオンは、電気化学的作用、種々の塩生成作用にかかわり、耐食性の向上に効果的に働く。また、塗膜中に固定化されるシリカは、腐食雰囲気下での塗膜の剥離抑制などに効果的に働く。
【0022】
本発明の(E)成分は、リン酸亜鉛系防錆顔料である。
リン酸亜鉛系防錆顔料としては、リン酸亜鉛、第二リン酸亜鉛、リン酸二水素亜鉛及びトリポリリン酸亜鉛などが挙げられ、1種または2種以上を使用することが出来る。
本発明において、(E)成分の含有量は、(A)成分の樹脂と(B)成分の硬化剤の樹脂固形分の総和質量に対して10〜45質量%であり、好ましくは、12〜40質量%である。
(E)成分の含有量が10質量%未満の場合は、耐食性が低下し、45質量%を超える場合は、沸騰水試験後の付着性が低下する。
【0023】
リン酸塩は無毒性の防錆顔料であり、外部より侵入してくる水分に、徐々に溶出するリン酸イオンと金属表面の金属イオンが反応し、密着性の良い不動態被膜を形成し、金属表面を保護し防錆作用が現れると考えられている。
市販されているリン酸亜鉛系防錆顔料として、LFボウセイ
D−1、ZP−50S(キクチカラー製、商品名)があり、亜リン酸亜鉛系防錆顔料として、EXPERT NP−1500、NP−1600(東邦顔料製、商品名)などがある。
【0024】
本発明の(F)成分は、セリウム化合物、タングステン酸化合物及びモリブデン酸化合物(モリブデン酸マグネシウム塩を除く)群から選ばれた少なくとも1種である。
本発明において、(F)成分の含有量は、(A)成分の樹脂と(B)成分の硬化剤の樹脂固形分の総和質量に対して0.1〜5質量%であり、好ましくは、0.3〜4質量%である。
(F)成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、耐食性が低下し、5質量%を超える場合は、経済性が低下する。
【0025】
本発明に用いられるセリウム化合物としては、リン酸セリウム、酸化セリウム、グルコン酸セリウム等が挙げられる。
また、本発明に用いられるタングステン酸化合物としては、タングステン酸ナトリウム等が挙げられる。
また、本発明に用いられるモリブデン酸化合物としては、亜鉛、カルシウム、及びアルミニウム等からなる群から選ばれた1種以上の金属のモリブデン酸塩が挙げられる。
ただし、マグネシウムイオンは、バナジン酸マグネシウムから得られるので、タングステン酸マグネシウム及びモリブデン酸マグネシウムは用いなくともよい。
【0026】
モリブデン酸金属塩は無毒性の顔料であり、外部より侵入してくる水分に、徐々に溶出するモリブデン酸イオンと金属表面の金属イオン反応し、密着性の良い不動態被膜を形成し、金属表面を保護し防錆作用が現れると考えられている。
市販されているモリブデン酸塩系防錆顔料としては、モリブデン酸亜鉛系のLFボウセイ
M−PSN(キクチカラー製、商品名)、モリブデン酸カルシウム系のLFボウセイ MC−400WR(キクチカラー製、商品名)、モリブデン酸アルミニウム系のLFボウセイ
PM−300、PM−308(キクチカラー製、商品名)等が挙げられる。
本発明の下塗り塗料組成物においては、これら(C)、(D)、(E)、(F)成分の防錆顔料を混合物として、所定量組合せることによって、相乗的に耐食性を向上させることができる。
【0027】
本発明の下塗り塗料組成物の硬化性を上げるため、必要に応じて硬化触媒を配合することができる。
ブロック化ポリイソシアネート化合物に対しての好適な硬化触媒としては、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、2−エチルヘキサン酸鉛などの有機金属触媒などを挙げることができる。またメラミンホルムアルデヒド樹脂に対しての好適な硬化触媒としては、リン酸系触媒または、スルホン酸化合物又はスルホン酸化合物のアミン中和物が好適に用いられる。スルホン酸化合物の代表例としては、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などを挙げることができる。スルホン酸化合物のアミン中和物におけるアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。これらのうち、塗料の安定性、反応促進効果、得られる塗膜の物性などの点から、p−トルエンスルホン酸のアミン中和物及び/又はドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和物が好適である。硬化触媒は、1種又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0028】
本発明の下塗り塗料組成物には、その他、必要に応じて、塗料分野で通常使用されている顔料、有機溶剤、沈降防止剤、分散剤、消泡剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、などの添加剤を適宜配合することができる。
当該顔料としては、 炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、シリカ、ベントン、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナといった体質顔料の他、例えばチタン白、チタンエロー、ベンガラ、カーボンブラック、シアニンブルー、シアニングリーン、アゾ系やキナクリドン系などを挙げることができ、なかでもチタン白を好適に使用することができる。
【0029】
本発明の下塗り塗料組成物に使用できる有機溶剤としては、何ら制限されるものではなく、例えば、シクロヘキサノン、ソルベッソ100(エクソンモービル社製、商品名)、ブタノール、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−メトキシプロピルアセテート、エチルエトキシプロピオネート、メチルイソブチルケトン等の1種又は2種以上の組合せが挙げられる。
本発明の下塗り塗料組成物の防錆顔料等を分散する方法として、塗料分野で通常使用されているサンドグラインドミル、ディスパー等が用いられる。
【0030】
本発明の下塗り塗料組成物は、溶融亜鉛メッキ鋼板や電気亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板などのプレコート鋼板用の素材に、リン酸塩系やクロメート系等の化成処理を施したものに塗装することが有用である。
本発明の下塗り塗料組成物の塗装方法は、何ら制限されるものではなく、例えば一般に行われている高速ロールコーターで塗装し、熱風乾燥炉で加熱硬化することが例示できる。下塗り塗膜の膜厚は1〜10μm、加熱硬化時の最高到達板温150〜300℃、焼付時間15〜150秒が好ましい硬化条件である。
【0031】
通常、美観を付し、さらに耐候性、加工性、耐薬品性、耐汚染性、耐水性、耐食性等のプレコート鋼板に必要な各種性能を高めるために、本発明の下塗り塗料組成物を塗装して得られる塗膜の上に上塗り塗料が塗装される。
上塗り塗料としては、ポリエステル樹脂系塗料、シリコンポリエステル樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などを適宜選択して使用することができる。化成処理や上塗り塗料の塗装などの方法は、従来、一般に行われている公知方法を適用することができる。
【0032】
上塗り塗膜の膜厚は、10〜25μm、加熱硬化時の最高到達板温190〜250℃、焼付時間20〜180秒が好ましい硬化条件である。なお、塗膜の要求性能に応じて、下塗り塗装と上塗り塗装の間に、中塗り塗料の塗装を行ってもよく、その場合は、3コート3ベークが好ましい。
中塗り塗料としては、ポリエステル樹脂系塗料、シリコンポリエステル樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などを適宜選択して使用することができる。化成処理や上塗り塗料の塗装などの方法は、従来、一般に行われている公知方法を適用することができる。中塗り塗膜の膜厚は、10〜25μm、加熱硬化時の最高到達板温190〜250℃、焼付時間20〜180秒が好ましい硬化条件である。
また、本発明塗料組成物は被塗物の両面に塗膜が設けられていてもよく、両面に形成することによって、クロム系の防錆顔料を含まず、環境衛生面で有利でかつ耐食性に優れた塗装金属板を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、製造例、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下、「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0034】
<製造例1 ポリエステル樹脂Aの製造>
攪拌機、精留塔、水分離器、冷却管及び温度計を備えたフラスコに、イソフタル酸320部、アジピン酸46部、トリメチロールプロパン71.8部、1,6−ヘキサンジオール36.6部、メチルペンタンジオール159部を仕込み、加熱、攪拌し、生成する縮合水を系外へ留去させながら、160℃から230℃まで一定速度で4時間かけて昇温させた。温度230℃に昇温したとき、キシレン20部を徐々に添加し、温度を230℃に維持して縮合反応を続けた。酸価が5mgKOH/g以下になった時に反応を終了し、100℃に冷却後、高沸点芳香族炭化水素系溶剤(エクソンモービル社製、商品名「ソルベッソ100」)243部、ブチルセロソルブ104部を加え、ポリエステル樹脂Aの溶液を得た。樹脂固形分は、60質量%、樹脂酸価は3.5mgKOH/g、樹脂の数平均分子量は2,300、水酸基価は120mgKOH/gであった。
【0035】
実施例1(下塗り塗料組成物の製造)
撹拌機、冷却管及び温度計を備えたフラスコを用いて、ソルベッソ100(エクソンモービル社製、商品名、高沸点芳香族炭化水素系溶剤)/シクロヘキサノン/n−ブタノール=55/27/18の混合溶剤A 120部に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名「jER 1009」、数平均分子量3,800)80部を加熱溶解させる。次に、冷却後、容器に取り出したエポキシ樹脂溶液と、混合溶剤A 150部、バナジン酸マグネシウム20部、SHIELDEX C303(W.R.Grace
& Co.社製、商品名、カルシウムイオン交換シリカ)5部、リン酸亜鉛20部、酸化セリウム3部、酸化チタン25部、カオリン5部、硫酸バリウム3部を混合し、サンドグラインドミルにて粒度が20〜25μmになるまで分散し、ミルベースを製造した。
【0036】
次に、このミルベースに、ポリエステル樹脂A(樹脂固形分60質量%) 13.3部、ユーバン122(三井化学(株)製、n−ブチル化メラミン樹脂、樹脂固形分60%)7.5部とデスモジュールBL−3175(住化バイエルウレタン(株)製、メチルエチルケトオキシムブロックのHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物溶液、樹脂固形分75%)10部を均一になるように撹拌しながら加えて、さらに、塗料粘度が、フォードカップ#4(25℃)で80秒になるように、上記混合溶剤Aにて粘度調整を行い、下塗り塗料組成物を得た。
【0037】
実施例2〜17、比較例1〜7
実施例1において、使用するエポキシ樹脂または水酸基含有ポリエステル樹脂、硬化剤、防錆顔料、その他顔料を下記の表1〜3に示すとおりとする以外は、実施例1と同様に行い、各下塗り塗料組成物を得た。ただし、表1〜3中の樹脂は、樹脂固形分表示である。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
表の注記:表1〜3中の原料の成分は、以下のものを示す。
注1)jER 1009: 三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、樹脂固形分100質量%、エポキシ当量2,500〜3,500、数平均分子量3,800、水酸基価180〜220mgKOH/g
注2)エピクロン H−304−40:DIC(株)製、変性エポキシ樹脂、樹脂固形分 40質量%、数平均分子量 3,500
注3)バイロン GK−590:東洋紡績(株)製、リニアポリエステル樹脂、樹脂固形分100質量%、数平均分子量 7,000、水酸基価 15〜30mgKOH/g
注4)デスモジュール BL−3175:住化バイエルウレタン(株)製、メチルエチルオキシムでブロックされたHDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物、樹脂固形分75質量%、NCO 約11.1質量%、
注5)ユーバン122:三井化学(株)製、n−ブチル化メラミン樹脂、樹脂固形分60質量%
注6)SHIELDEX C303:W.R.Grace&Co.社製、カルシウムイオン交換シリカ
注7)サイリシア740:富士シリシア化学(株)製、微粉末シリカ、細孔容積0.44ml/g、平均粒径 約3.5μm
なお、表1〜3中の各成分の配合量を示す数値の単位は、部である。
【0042】
試験用塗装板の作成
化成処理が施された板厚0.35mmのアルミニウム/亜鉛合金メッキ鋼板(Al 55%)上に、上述の各下塗り塗料組成物をバーコーターにて乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、最高到達板温220℃にて40秒間、熱風乾燥機中で焼き付けた。得られた下塗り塗膜層の上に、ポリエステル樹脂系上塗り塗料「プレカラーHD0030 ブラウン色(BASFコーティングスジャパン(株)製、商品名)」をバーコーターにて乾燥膜厚が15μmになるように塗布し、最高到達板温が220℃にて50秒間、熱風乾燥機中で焼き付けて試験片を得た。得られた試験片の塗膜性能を下記の方法によって評価した。結果を表4〜5に示す。
【0043】
<塗膜試験方法>
(1)塗膜付着性
塗面にカッターナイフで碁盤目(1mm;10×10クロスカット)を切り、この部分を裏からエリクセン試験機で6mm押し出した。その後、この押し出した部分にセロハンテープを張り付け剥離試験を実施し、塗膜の付着性を評価した。
○:全く剥離なし
△:塗膜剥離率が30%以下である。(不合格)
×:塗膜剥離率が70%以上である。
【0044】
耐沸騰水性
JIS K 5600−6−2に準じて試験片を沸騰水に2時間浸せきした後、室温で2時間冷却放置し、塗膜の異常を観察し、以下の基準で判定した。
〇:塗膜に全く異常なし。
△:僅かに塗膜のふくれが認められる。
×:明らかに塗膜のふくれが認められる。
【0045】
次に、JIS K 5600−5−6に準じて、この試験片の塗面にカッターナイフで碁盤目(1mm;10×10クロスカット)を切り、セロハンテープで剥離し、塗膜の付着性を評価した。評価は、JIS K 5600−5−6 表1の試験結果の分類に準拠した。
○:分類 0
△:分類 1
×:分類 2〜5
【0046】
耐アルカリ性
5cm×5cmの大きさに切断した各試験用塗装板の切断面をテープにてシールし、塗装板の表面側中央部に素地に達するクロスカットを入れた。この塗装板を20℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に48時間浸漬した後、取出し洗浄し、室温にて乾燥した塗装板の表面側の塗膜外観を評価した。
○:フクレの発生がない。
△:フクレの発生が少し認められる。
×:フクレの発生が認められる。
【0047】
耐酸性
5cm×5cmの大きさに切断した各試験用塗装板の切断面をテープにてシールし、塗装板の表面側中央部に素地に達するクロスカットを入れた。この塗装板を20℃の5%硫酸水溶液に48時間浸漬した後、取出し洗浄し、室温にて乾燥した塗装板の表面側の塗膜外観を評価した。
○:フクレの発生がない。
△:フクレの発生が少し認められる。
×:フクレの発生が認められる。
【0048】
耐スクラッチ性
10円硬貨(外周部にギザギザのないもの)の外周部で塗膜を一定の力で引っかき、塗膜の損傷を下記の基準に従って評価した。
○:十分な引っかき抵抗感があり、下塗り塗膜はほとんど現れない
△:ある程度の引っかき抵抗感はあるが、下塗り塗膜の一部が剥離する
×:引っかき抵抗感が小さく、下塗り塗膜全体が剥離し素地が露出する
【0049】
折曲加工性
試験片と同一の板を内側に挟み込み180度密着折り曲げをする。(0Tとは板を挟まずに折り曲げ、2Tとは挟み込む板が2枚であることを示す)。2T、3Tを実施し、折り曲げ後の頂部をセロハンテープにより剥離試験を行った。評価は塗膜の剥離面積により評価した。
○:剥離なし
△:1〜30%剥離
×:31%以上剥離
【0050】
耐食性
塗装試験板に以下の(i)〜(iii)の措置を施し、複合サイクル腐食試験(CCT試験)でJASO M609−91に準じて100サイクル試験を行った。1サイクルは(35℃、5%食塩水噴霧2時間)−(60℃で乾燥4時間、湿度20〜30%)−(50℃で湿潤2時間、湿度95%以上)であった。
(i)塗装試験板の表面側中央部に素地に達するクロスカットを入れる。
(ii)前述と同様に4T折り曲げ加工を行う。
(iii)塗装試験板の両辺のエッジ部のバリが表面側塗膜面に表面側に向く(上バリ)のと、裏面側に向く(下バリ)ように切断を行う。
この試験後の塗装板の4T折り曲げ加工部、クロスカット部、エッジ部の状態を評価した。
【0051】
(1)クロスカット部
クロスカット部の腐食状態を、白錆発生状況とカット部の左右のフクレ幅の平均値で評価した。
◎:白錆及びフクレ幅が2mm未満
○:白錆及びフクレ幅が2mm以上、5mm未満
△:白錆及びフクレ幅が5mm以上、10mm未満
×:白錆及びフクレ幅が10mm以上
【0052】
(2)4T加工部
4T加工部における錆部を次の基準で評価した。
◎:白錆が2mm未満
○:白錆が2mm以上10mm未満
△:白錆が10mm以上30mm未満
×:白錆が30mm以上
【0053】
(3)エッジ部
塗装板の上バリと下バリのエッジクリープ幅を求め、以下の基準により評価した。
◎:エッジクリープ幅が4mm未満
○:エッジクリープ幅が4mm以上10mm未満
△:エッジクリープ幅が10mm以上でかつ20mm未満、
×:エッジクリープ幅が20mm以上
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)数平均分子量400〜10,000のビスフェノール型エポキシ樹脂又はその変性樹脂、及び/または、水酸基価が5〜200mgKOH/gで、数平均分子量が500〜20,000である水酸基含有ポリエステル樹脂、
(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物及び/またはメラミン樹脂、
(A)成分と(B)成分との樹脂固形分の総和質量に対して、
(C)バナジン酸マグネシウム 10〜45質量%、
(D)カルシウムイオン交換シリカ 2〜20質量%、
(E)リン酸亜鉛、第二リン酸亜鉛、リン酸二水素亜鉛及びトリポリリン酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも1種 10〜45質量%、
(F)セリウム化合物、タングステン酸化合物(タングステン酸マグネシウム塩を除く)及びモリブデン酸化合物(モリブデン酸マグネシウム塩を除く)の群から選ばれた少なくとも1種 0.1〜5質量%
を含有とすることを特徴とする下塗り塗料組成物。

【請求項2】
セリウム化合物が、リン酸セリウム、酸化セリウム及びルコン酸セリウムの群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の下塗り塗料組成物











【公開番号】特開2012−12497(P2012−12497A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150503(P2010−150503)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】