説明

耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材およびその製造方法

【課題】比重の異なる酸化物系セラミックと重金属の粉末を物理的に混合した状態でサーメット溶射皮膜を形成すると、セラミックと重金属の両粉末は、不均等な状態で皮膜中に分布するため、サーメット溶射皮膜としての機能を十分発揮することができない。
【解決手段】酸化物系セラミック粒子の表面に、無電解めっき法によってNiまたはNi−P、Ni−B合金膜を0.3〜5μmの厚さで被覆形成した非混合形サーメット溶射用粉末材料を用いて溶射することによって、セラミックと金属とが分離することの溶射皮膜を形成するとともに、その溶射皮膜の表面を高エネルギーを照射して、皮膜表面を再溶融・再結晶化させることにより、一段と高度な緻密性、平滑性、耐食性、耐摩耗性、耐プラズマエロージョン性を有するサーメット溶射皮膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性や耐プラズマエロージョン性、その他の特性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材およびその製造方法に関し、特に、半導体加工装置用部材のような、所謂、ハロゲンガスやハロゲン化合物存在下でのプラズマ処理であったり、この処理時に発生する微細なパーティクルを洗浄除去しなければならないような環境下で用いられる溶射皮膜被覆部材とそれの製造方法についての提案である。
【背景技術】
【0002】
半導体加工プロセスあるいは液晶製造プロセスにおいて使用されているドライエッチャーやCVD、PVDなどの加工装置類は、シリコンやガラスなどの基板回路の高集積化に伴う微細加工や加工精度向上の必要性から、加工環境について一段と高い清浄性を備えることが求められている。
【0003】
その一方で、微細加工用の各種プロセスにおいては、弗化物、塩化物をはじめとする腐食性の強い有害ガスあるいは水溶液が用いられるため、これらのプロセスで使用される部材類は、腐食損耗の速度が速く、そのため、腐食生成物による二次的な環境汚染も無視できない状況になっている。
【0004】
一般に、半導体ディバイスというのは、その素材が、SiやGa、As、Pなどからなる化合物半導体を主体としたものが用いられている。そして、半導体の製造工程は、真空もしくは減圧下で処理されるいわゆるドライプロセスに属し、こうした環境の中で、成膜、不純物の注入、エッチング、アッシング、洗浄などの各処理が行なわれる作業である。
【0005】
このようなドライプロセスに用いられる装置、部品類としては、酸化炉やCVD装置、PVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置、拡散炉、反応性イオンエッチング装置、プラズマエッチング装置およびこれらの装置に付属している配管、給排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などがある。これらの装置類は、基本的に、BFやPF、PF、NF、WF、HFなどの弗化物、BClやPCl、PCl、POCl、AsCl、SnCl、FiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、NH、ClFなどの腐食性の強い薬剤やガス存在下で使用されるものであることが知られている。
【0006】
ところで、これらのハロゲン化合物を用いるドライプロセスでは、反応の活性化と加工精度向上のため、しばしばプラズマ(低温プラズマ)が用いられる。プラズマ使用環境において、各種のハロゲン化合物は、腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Cl、Br、Iとなって半導体素材の微細加工に大きな効果を発揮する。その一方で、プラズマ処理(特に、プラズマエッチング処理)された半導体素材の表面からは、エッチング処理によって削りとられた微細なSiOやSi、Si、Wなどのパーティクルが気相中に浮遊し、これらが加工中あるいは加工後のディバイスの表面に付着して、製品品質を著しく低下させるという問題があった。
【0007】
その対策の一つとして、被加工物表面をアルミニウム陽極酸化物(アルマイト)によって表面処理する方法がある。その他、AlやAl−TiO、Yなどの酸化物、あるいは周期律表IIIa族金属の酸化物を、溶射法や蒸着法(CVD法、PVD法)などによって該被加工物表面を被覆したり、また焼結材として利用する技術もある。(特許文献1〜5)
【0008】
さらに最近では、YやY−Alの溶射皮膜表面を、レーザービームや電子ビームなどの高エネルギー照射処理して該溶射皮膜の表面を再溶融処理することによって、耐プラズマエロージョン性を向上させる技術も開発されている。(特許文献6〜9)
【0009】
また、溶射皮膜の表面を、レーザービームや電子ビームなどの高エネルギー照射処理して、皮膜表面の溶射粒子を再溶融するという技術は、その他にも特許文献10に開示されているようなものがある。即ち、この技術は、皮膜表面に存在する気孔(特に貫通気孔)を消滅させることによって腐食成分が皮膜内部へ侵入するのを防止する方法である。また、特許文献11のように、ZrO系セラミック溶射皮膜の表面を高エネルギー照射して再溶融現象を利用し、冷却・凝固過程に再溶融部の収縮に伴って発生する縦割れを、熱衝撃時の急激な応力に対する緩衝手段として利用しようとする提案もある。
【0010】
そして、発明者らも先に、溶射熱源、特にガスプラズマの酸素分圧と水素分圧を制御することによって、酸化物セラミックの溶射皮膜の外観色を本来の白色から黒色に到るさまざまな色に変化させ、このことによって耐プラズマエロージョン性に加え熱放射特性を向上させる方法を提案し(特許文献12〜15)、さらに、これらの技術に基づき白色皮膜を黒色化したり、その逆の色変化を起こさせるという新しい技術を開発し、皮膜のカラーデザイン化による商品価値向上の方法を提案している(特許文献16、17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平6−36583号公報
【特許文献2】特開平9−69554号公報
【特許文献3】特開2001−164354号公報
【特許文献4】特開平11−80925号公報
【特許文献5】特開2007−107100号公報
【特許文献6】特開2005−256093号公報
【特許文献7】特開2005−256098号公報
【特許文献8】特開2006−118053号公報
【特許文献9】特開2007−217779号公報
【特許文献10】特開昭61−104062号公報
【特許文献11】特開平9−316624号公報
【特許文献12】特開2007−247043号公報
【特許文献13】WO2007−023971号公報
【特許文献14】WO2007−023976号公報
【特許文献15】特開2009−138231号公報
【特許文献16】特開2010−229492号公報
【特許文献17】特開2010−229491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上掲の従来技術、特に、半導体加工装置用部材の表面に被覆形成されている従来の表面処理皮膜は、解決すべき次のような課題があった。
a.溶射法によって形成されたYやA1などの酸化物系セラミック皮膜をはじめ、NiやNi−Cr合金などの金属皮膜は、ハロゲンによるプラズマエッチング環境において比較的良好な耐久性を示す。しかし、溶射皮膜というのは、貫通気孔が不可避に生成するため、ウェットプロセス用装置部材の洗浄処理時に致命的な欠点となるという問題があった。
【0013】
b.半導体加工装置用部材では、シリコンウェハーに代表される薄膜のプラズマエッチング加工のようなドライプロセス専用であったとしても、エッチングによって削り取られた微細なパーティクル(このパーティクルの発生源は、シリコンウェハーの精密加工時に削り取られた微細なシリコン粉をはじめ、装置内に配設されている各種の部材の表面に被覆されている耐プラズマ性の電気めっき膜、CVD膜、PVD膜、溶射皮膜および各種焼結部材である)が装置内に残り、これらが高品質半導体製品の製造を阻害することが知られている。そのために従来、該加工装置を酸やアルカリ、純水などを用いて洗浄していた。しかし、この方法の場合、装置の洗浄時に洗浄液が皮膜(トップコート)の貫通気孔を経て内部に侵入し、基材およびアンダーコートを腐食し、被覆部材の耐久性を低下させるという問題があった。
【0014】
c.こうした溶射皮膜のもつ欠点を改善するため、従来、トップコートの最表層を電子ビームやレーザービームなどの高エネルギー照射処理して溶融し、溶射成膜粒子どうしを融着させて貫通気孔を消滅させる緻密化の技術が提案されてきた。この技術によれば、皮膜表面の開気孔(含貫通気孔)を消滅させることができると共に、耐プラズマエロ一ジョン性を向上させることができるものの、高エネルギー照射面では、再溶融後の冷却過程における体積の収縮現象によって、皮膜の最表層面がひび割れを発生することが知られている。しかも、このひび割れが新しい貫通気孔の役割を果たすことになるため、ウェットプロセスや洗浄作業時に使用される各種薬液・洗浄水の皮膜内部への侵入を防止できなくなり、トップコートとしての機能が果たせないという問題があった。
d.しかも、酸化物系セラミック溶射皮膜などを高エネルギー照射処理した時に発生する上記の“ひび割れ現象”は、発生当初は微小であっても、使用中に加熱と冷却とが繰り返されると、そのひび割れが次第に大きくかつ深く成長するため、洗浄水などが皮膜内部に侵入することによる弊害が助長される。そればかりか、ひび割れ部が優先的にプラズマエッチングすることも判明してきた。
【0015】
e.さらに、高エネルギー照射処理面に発生する上記ひび割れ部分から該溶射皮膜内部へ侵入した薬液や洗浄液は、腐食損傷の原因となる一方、ドライプロセスによる半導体加工装置においては、作業環境の真空化時間を長くする必要が生じるため、生産性の低下を招くという問題もあった。
【0016】
本願発明の目的は、サーメット溶射皮膜表面の再溶融処理時に発生する皮膜のひび割れを阻止することにより、耐食性や耐プラズマエロージョン性等の特性を改善してなるサーメット溶射皮膜被覆部材を得ること、およびその溶射皮膜被覆部材を再溶融処理(高エネルギー照射処理)時に溶射皮膜にひび割れを防止させることなく製造するための方法を提案することにある。
【0017】
本発明はまた、シリコンウェハーなどの被加工物に対して自らが汚染源となるようなことのない半導体加工装置用部材およびそれの製造技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、従来技術が抱えている前記技術的課題を解決し、実用的な溶射皮膜被覆部材を製造するために、本発明において特徴的なサーメット溶射用粉末材料を用いて形成される溶射皮膜を被覆することによって、上記の目的を達成するものである。
【0019】
即ち、本発明は、基材の表面に、酸化物系セラミック粒子の表面がNiまたはNi基合金の無電解めっき膜によって被覆されて一体化した非混合形サーメット溶射用粉末材料を溶射することによって形成されるサーメット・金属一体形粒子の堆積層からなるサーメット溶射皮膜を形成してなるものであって、その皮膜表面に0.5〜30μmの厚みの高エネルギー照射層からなる再溶融−再結晶化層を有することを特徴とする、耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材である。
【0020】
また、本発明は、基材の表面に、まず、酸化物系セラミック粒子の表面がNiまたはNi基合金の無電解めっき膜によって被覆されて一体化した非混合形サーメット溶射用粉末材料を直接またはアンダーコートを介して溶射することによってセラミック・金属一体形粒子の堆積層からなるサーメット溶射皮膜を形成し、次いで、そのサーメット溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームのいずれかである高エネルギー照射処理を行って、該サーメット溶射皮膜の表面から0.5〜30μmの範囲を再溶融−再結晶化させることを特徴とする、耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材の製造方法を提案する。
【0021】
なお、本発明において、
(1)前記サーメット溶射用粉末材料は、粒径が5〜80μmの酸化物系セラミック粒子の表面に、NiまたはNi合金の無電解めっき膜が0.3〜5μmの厚さとなるように被覆されたものであること、
(2)前記酸化物系セラミック粒子は、Al、Y、原子番号57〜71に属するランタノイド系元素の酸化物、A1−Yの混合体、YAGで表示されるA1・Yの複酸化物の粒子であること、
(3)前記Ni基合金は、PまたはBをそれぞれ5mass%以下含有し、残部がNiからなる合金であること、
(4)前記基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素鋼、各種ステンレス鋼、セラミック焼結体、炭素焼結体から選ばれるいずれか1の材料からなること、
(5)前記サーメット溶射皮膜は、基材の表面に直接またはアンダーコートを介して形成してなるものであって、その溶射皮膜の厚さは、50〜500μmの範囲にあること、
(6)前記サーメット溶射皮膜表面に高エネルギー照射して得られた再溶融−再結晶化層は、皮膜表面からの厚さが0.5〜30μmであること、
(7)前記サーメット溶射皮膜は、大気中、不活性ガス中もしくは真空中のいずれかの雰囲気中で300℃〜700℃、0.5〜5時間の条件の熱処理を施してなるものであること、
(8)前記サーメット溶射皮膜は、基材の表面に、非混合形サーメット溶射用粉末材料を用いて、大気プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法などによって、膜厚50〜500μmの厚さに被覆形成したものであること、
が好適な解決手段である。
【発明の効果】
【0022】
上述した技術手段を採用する本発明のサーメット溶射皮膜被覆部材およびその製造方法は、次のような効果を有する。
(1)NiおよびNi合金の比重は約8.85であるのに対し、前記酸化物系セラミックの比重は約4.0〜5.0(A1で4.0、Yで5.0)である。そのため、この両者を従来のように単に物理的に混合しただけの溶射用粉末材料としたのでは、搬送中はもとより粉末供給槽から溶射ガンへの送給時、さらには高速運動を伴う溶射熱源中において前記比重差に起因して分離してしまう。従って、従来の溶射用サーメット粉末を用いて溶射処理すると、成膜後のサーメット溶射皮膜中の金属(Niおよびその合金)とセラミックスとの分布が偏析を起して均質な皮膜の形成が阻害され、サーメットとしての本体の特性が失われることが多い。
【0023】
これに対し、セラミック・金属非混合形サーメット溶射用粉末材料を用いて得られる本発明に係るサーメット溶射皮膜被覆部材は、酸化物系セラミック粒子の表面を金属(Niおよびその合金)の無電解めっき膜で完全に被覆して一体化させてなる非混合形溶射用サーメット粉末材料を用いているので、溶射皮膜の形成過程において金属とセラミックの両成分が分離するようなことがなく、しかも金属とセラミックとの割合が常に一定で均質なサーメット溶射皮膜被覆部材を製造することができ、耐食性と耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜の形成に効果がある。
(2)また、本発明によれば、上述した非混合形サーメット溶射用粉末材料を用いるので、プラズマなどの溶射熱源中では先ず表面のNiが先に溶融して金属特有の粘性と延性、さらには接合性を発揮するので、核粒子である酸化物系セラミック粒子同士の相互結合力が高まり、その状態で基材表面に衝突し堆積する。その結果、粉末材料同士間の隙間が極小となって、成膜される溶射皮膜の緻密性が向上すると共に、基材との密着性がセラミック粒子のみからなる溶射用粉末材料を用いて形成した溶射皮膜に比べて高くなる。
(3)また、本発明によれば、基材表面のサーメット溶射皮膜を、必要に応じて大気中や不活性ガス中、真空中などで300〜1700℃、0.5〜5時間の熱処理を行なった場合には、Niやその合金(無電解めっき膜部分)の硬さが上昇するので、溶射皮膜の耐摩耗性が向上し、この特性が必要とされる分野の部材として有効なものが得られる。
(4)また、本発明によれば、基材の表面に成膜したサーメット溶射皮膜の表面をさらに機械研削などによって仕上げた場合には、表面に金属(Niその合金)とセラミック粒子の両方が共に露出した状態となるが、両者とも優れた耐食性と耐プラズマエロージョン性を保有しているうえ、半田加工が容易となるので本発明部材の用途が拡大する。
(5)また、本発明によれば、成膜後のサーメット溶射皮膜またはその皮膜表面をさらに機械研削してセラミック粒子が露出した状態の皮膜に対して、電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射処理を施した場合には、融点の低い金属Niおよびその合金部分が一早く溶融して流動化するため、皮膜表面に残存する気孔類の消滅が果される。その分、セラミック粒子と金属との結合が強化され、基材表面に微密で平滑なサーメット溶射皮膜を形成することができる。従って、シリコンウェハーなどの被加工物に対して、自らがパーティクル汚染源となるようなことがない部材が得られる。
(6)特に、本発明によれば、高エネルギー照射処理されたサーメット溶射皮膜については、高融点のセラミック粉末も溶融状態となるので、金属(Ni、その合金)とともに再結晶化して熱的に安定した溶射皮膜となる。従って、高温用途部材として有効なものを提供することができる。
(7)さらに、本発明によれば、高エネルギー照射処理されたサーメット溶射皮膜を被成してなる部材の場合、部材表面に弾力性と良好な結合性を示すNiの無電解めっき膜が存在するため、高エネルギー照射直後の溶融状態から急冷されてもなお、セラミック粉末のみの溶射皮膜を高エネルギー照射処理した場合に見られる“ひび割れ”現象の発生を防ぐことができ、ひいては表面性状(耐食性、耐プラズマエロージョン性、緻密で均質、耐摩耗性など)に優れた部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明方法を実施するための製造工程例である。
【図2】Niの無電解めっき膜を被覆してなるA1粒子の電子顕微鏡写真である。(A)は粒子の外観写真、(B)はA1粒子の断面写真である。
【図3】本発明の実施例4で用いた活性ハロゲンガスによる腐食試験装置の略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、基本的に下記の着想に基づいて開発したものである。
(1)本発明では、耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるNiやNi合金などの金属成分と耐プラズマエロージョン特性に優れるA1やYおよび原子番号57〜71の金属元素の酸化物系セラミック粒子からなるサーメット溶射用粉末材料を成膜材料として用いる。
(2)特に、前記サーメット溶射用粉末材料は、酸化物系セラミック粒子の表面がそれぞれ、NiやNi合金の無電解めっき膜によって完全に被覆されて一体化することで、セラミック粒子が外部に露出しないようにすることが重要である。
(3)そして、セラミック粒子と金属の無電解めっき膜とが一体化した非混合形サーメット溶射用粉末材料を用いて溶射することにより、金属・セラミック両成分が分離したまま溶射雰囲気中を飛行して被着面に到達することがないようにして、セラミック・金属一体形粒子の堆積層からなるサーメット溶射皮膜(以下、「セラミック・金属一体形サーメット溶射皮膜」という)が得られるようにすることが重要である。
(4)本発明のサーメット溶射皮膜は、Niの無電解めっき膜などで被覆された酸化物系セラミック粒子(即ち、サーメット溶射用粉末材料)を用いて、大気プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法などによって形成する。
(5)形成されるセラミック・金属一体形サーメット溶射皮膜は、必要に応じて大気中や不活性ガス中、真空中などの雰囲気中で熱処理を行なうことによって、NiやNi合金の無電解めっき膜部分の硬度を上昇させる処理を施す。
(6)上記サーメット溶射皮膜は、その表面を必要に応じて機械的に研削加工、研摩加工を行なって、サーメト溶射皮膜被覆製品の精度、品質などの向上を図る。
(7)溶射皮膜を成膜した後または機械的加工後の前記サーメット溶射皮膜は、その表面に対して電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射処理を行なって、皮膜表面とその近傍の成膜粒子を再溶融−再結晶化させると共に、融合させて溶射皮膜の開気孔部の消滅を図って平滑で緻密な表面に仕上げるようにする。
【0026】
図1は、本発明方法の好適な一実施形態を示す工程図である。以下、この工程順に従って本発明の構成を具体的に説明する。
【0027】
(1)基材の選定
本発明において使用することのできる基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などが好適である。その他、ガラス、石英、プラスチック、セラミックや炭素などの焼結体に対しても、良好な溶射皮膜の形成が可能である。
【0028】
(2)溶射用粉末材料
本発明において、サーメット溶射皮膜を形成するために用いられる溶射用サーメット粉末材料は、半導体の加工環境下で使用されるハロゲンおよびハロゲン化合物を含む気相中で発生するプラズマによるエロージョンなどに対しても優れた抵抗力を発揮する酸化物系セラミック粒子と、その表面を覆う金属(合金を含めて、以下、単に「金属」という)の無電解めっき膜とが一体化してなる非混合形溶射用サーメット粉末材料(以下、単に「サーメット溶射用粉末材料」ともいう)である。具体的には、酸化物系セラミック粒子の外周面にNiまたはNiを主成分とする合金の無電解めっき膜が被覆されて一体化した非混合形サーメット溶射用粉末材料である。
【0029】
前記サーメット溶射用粉末材料の酸化物系セラミックとしては、元素の周期律表IIIb族のAl、同IIIa族のY、原子番号57〜71に属するランタノイド系金属などの酸化物をはじめ、A1−Yの混合体、YAGで表示されているA1とYの複酸化物などが好適である。なお、原子番号57〜71の金属元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の17種を挙げることができる。本発明では、これらの金属酸化物を単体もしくは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0030】
上記酸化物系セラミック粒子の大きさは、5〜80μmの粒径範囲のものがよく、特に10〜50μmの大きさのものがより好適である。その理由は、5μmよりも小さい粒径のもでは、無電解めっき処理時に、無電解めっき液中における粒子の均一分散が困難となって、粒子同士がめっき金属によって連結され、見掛け上大きな集合体(擬似粒子)となり、溶射ガンへの送給が阻害されたり、不連続化しやすいからである。また、その粒径が80μmよりも大きい場合には、溶射熱源中での軟化や溶融が困難になるからである。
【0031】
(3)非混合形サーメット溶射用粉末材料の製造方法
本発明において特徴的な前記サーメット溶射用粉末材料は、酸化物系セラミック粒子とNi等との単なる混合粉末ではなく、該セラミック粒子の表面に、Niやその合金を無電解めっきすることによって被覆し一体化させてなる非混合形の粉末である。以下、酸化物系セラミック粒子表面にNiおよびその合金を無電解めっきする方法について説明する。
【0032】
A1やYおよび原子番号57〜71の元素の酸化物セラミック粒子の表面に、Niおよびその合金を被覆して一体化した溶射用粉末材料とする方法として、無電解めつき法を採用する。即ち、セラミック粒子の表面に、無電解めっき法によってNiやNi−B合金、Ni−P合金などの薄膜を被覆形成する。この場合において、無電解めっき処理に当たっては、使用する還元剤の種類によって、Niのみを析出させたり、Ni−B合金やNi−P合金を析出させたりするが、BやPの析出量は、5mass%程度以内ならば、本発明で用いる溶射用粉末材料として性能的に妨げとはならない。
【0033】
上記無電解めっき法において、Niを被覆する場合には、硫酸ニッケルおよび塩化ニッケルなどの水溶液中に、前記酸化物系セラミック粒子を投入し、60℃〜90℃、0.5〜5時間程度の加熱を行なう。めっき液中には、還元剤としてヒドラジン(NH・NH)を添加した場合、水溶液中のNiイオンが還元されて酸化物系セラミック粒子表面にNiのみが析出する。一方、還元剤として、次亜リン酸ナトリウム(NaHPO)を用いた場合には、NiとともにPが共析し、ジメチル・アミン・ボラン化合物((CH)NHBH)または水素化硼素化合物(NaHB)を用いた場合には、NiとともにBが析出する。PおよびBの共折量は、それぞれの還元剤の添加量およびめっき温度を制御することによって変化させることができ、また、めっき膜の厚さは、Ni塩の量、めっき時間、めっき温度を変化させることによって調製することができる。
【0034】
表1は、酸化物系セラミック表面に、Ni−P系合金、Ni−B系合金の無電解めっき膜を形成するための無電解めっき液の組成と温度条件例を示したものである。そして、図2は、A1粒子の表面に、Niの無電解めっき膜を被覆したものの外観とその断面を観察した電子顕微鏡写真であり、Niめっき膜は粒子の表面に緻密かつ均等に被覆形成されている状態が観察できる。
【0035】
かかる無電解めっき法によって、酸化物系セラミック粒子の表面に被覆形成されるめっき膜の厚さは、0.3〜5μmの範囲が好適であり、特に1〜3μmの範囲が実用的である。その理由は、0.3μm未満のめっき膜では、金属膜としての機能を発揮することができず、一方、5μm超の厚いめっき膜ではめっきに時間がかかりすぎて生産コストが上昇するほか、酸化物系セラミックスとしての作用効果を減退させる可能性があるので、好ましくない。
【0036】
【表1】

【0037】
(4)非混合形サーメット溶射用粉末材料の特徴
一般に、プラズマ溶射法や高速フレーム溶射法などの方法によってサーメット溶射皮膜を形成する場合、使用する溶射用粉末材料としては、金属粉末とセラミック粉末などの粉体を単に物理的に混合したものであったり、また、両成分が混合した状態のものを単に焼結した材料を用いるのが普通である。ただし、このような溶射用粉末材料が溶射熱源中に導入されると、比較的低融点の金属成分は先に溶融状態となり、基材表面に衝突したときは、基材表面の衝突部位の形状に沿って偏平形態となって皮膜を形成する。このとき、セラミック粒子は、金属より硬く耐摩耗性に優れるほか化学的に安定しているため高い耐食性を示すが、融点が高いため溶射熱源中では軟化するものの融点状態に達しないものが多い。そればかりか、皮膜中に未溶融状態の粒子が観察される他、多孔質で粒子同士の相互結合力が弱いという問題がある。本来、サーメット材料というのは、セラミックと金属の両方の特徴を生かし、単独で使用する時の欠点を相互に補い合うための材料として有効なものである。
【0038】
しかし、例えば金属粒子とセラミック粒子とを単に物理的に混合する従来方式では、両者の比重や粒径などの相違によって、溶射装置の粉末供給槽内、溶射ガンへの供給ホース中の移動、溶射ガンからプラズマ熱源中への導入過程に加え、熱源中における飛行状態などの影響を受けて、両成分が分離する傾向が強い。そのため、成膜後のサーメット溶射皮膜中の金属とセラミック粒子との分布状況に大きな片寄りが見られるようになり、サーメット溶射皮膜本来の目的が達成できなくなることが多い。この点、金属とセラミックとを焼結したサーメット材料では、このような現象は少なくなるものの、形成される溶射皮膜の性質が十分とは云えない。
【0039】
これに対し、本発明において用いる、Niを主成分とする金属を酸化物系セラミック粒子の表面に無電解めっきして一体化させてなる非混合形サーメット溶射用粉末材料は、粉末の供給槽内はもとより、供給ホース中や溶射ガンへの供給および溶射熱源中であっても、常に一体化した粒子としての挙動を示すようになり、両者が分離するようなことがない。
【0040】
特に、溶射熱源中においては、セラミック粒子の表面を被覆している融点の低いNi(1450℃)が先に溶融して大きな粘性と結合力を発揮して、溶射用粉末材料同士の相互結合力の向上に寄与するようになる。このような効果は、サーメット溶射皮膜を構成する堆積粒子どうしの間隔を狭めて皮膜の緻密化を達成すると共に気孔の発生を抑制し、基材との結合力を改善する。
【0041】
このように融点の低いNi無電解めっき膜を有する酸化物系セラミック粒子では、高融点のセラミック(例えば、A1の融点、2050℃)が熱源中で溶融しなくても、皮膜の形成が可能であるため、セラミックの種類、粒径の影響を受けることが少ない。
【0042】
(5)溶射皮膜の形成方法
本発明は、従来のような混合形のサーメット溶射用粉末材料とは異なり、所謂、Niなどの無電解めっき金属膜を被覆した酸化物系セラミック粒子からなる非混合形サーメット溶射用粉末材料を用い、これを基材表面に溶射してセラミック・金属一体形サーメット溶射皮膜を被覆形成してなる部材である。このような部材を製造するために採用できる溶射方法としては、大気プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法などが用いられる。また、溶射に際しては、溶射雰囲気ガスの温度を、1000〜1500℃の範囲に低く抑えたワームスプレー、雰囲気ガスの温度を1200℃以下に制御したコールドスプレーによっても成膜することができる。
【0043】
溶射による前記サーメット溶射皮膜の形成に当たっては、基材表面に直接またはまずアンダーコートを施工し、その上にトップコートとして前記サーメット溶射皮膜を積層してもよい。そのサーメット溶射皮膜は、50〜500μmの厚さ範囲がよく、特に100〜300μmの範囲の厚さが好適である。その理由は、50μm未満の厚さでは、基材表面に均等な厚みで成膜することができず、一方、500μmを超えるような厚さの皮膜では、皮膜としての特性が飽和し、生産コストの上昇を招く。
【0044】
なお、前記サーメット溶射皮膜は、アンダーコートは必ずしも必要なものではないが、例えば300μm以上の厚膜とする場合には、皮膜の密着性を向上させるため、このアンダーコートを施工することが望ましい。そのアンダーコートとしては、基材との密着性と耐熱性を向上させる機能を優先して、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、自溶合金(JIS H8303)、Ni−Co−Cr−Al−X合金(但しXは、Y、Ce、Laなどの希土類元素)などを用いることが好ましく、その膜厚は50〜150μmの範囲がよい。特に、50〜100μmの範囲が好適である。膜厚が50μm より薄いと、アンダーコートとしての機能が十分でなく、一方、150μm超ではサンダーコートとしての効果が飽和する。
【0045】
(6)サーメット溶射皮膜の表面仕上げ
成膜後のサーメット溶射皮膜の表面粗さは、一般に、Ra:4〜10μm程度であり、そのまま使用することが多い。しかし、必要に応じて、機械的加工(研削、研摩など)を行なって、Ra:約2μm以下、Rz:約4μm以下の平滑な表面に仕上げることも有効である。この皮膜表面の仕上げ精度については特に限定されない。
【0046】
(7)サーメット溶射皮膜の熱処理
成膜後のセラミック・金属一体形の前記サーメット溶射皮膜については、これを大気中、不活性ガス中または真空中のいずれかの雰囲気中において、300〜700℃、0.5〜5時間の熱処理を行なうことが好ましい。その理由は、この熱処理により、該サーメット溶射皮膜の硬さが無電解めっき処理直後の溶射用粉末材料の硬さよりも、ビッカース硬さでHV250〜500程度に上昇し、耐摩耗性が向上するからである。特に、酸化物系セラミック粒子の表面に被覆されているNi−PやNi−B合金の無電解めっき膜の硬度が顕著に上がる。その原因は、無電解めっき法により析出しためっき金属膜では、アモルファス状を呈していたマトリックスが、この熱処理によって微細な結晶の集団となるとともに、Ni−P、Ni−Bの結晶化も硬さの上昇に寄与するものと考えている。
【0047】
(8)サーメット溶射皮膜の高エネルギー照射処理
本発明では、基材表面に被覆形成した上記のセラミック・金属一体形サーメット溶射皮膜の表面を高エネルギー照射処理することが好ましい。この処理は上記サーメット溶射皮膜の表面を、下記A、Bで述べる電子ビームまたはレーザビームなどの高エネルギー照射処理を行なって、該溶射皮膜を構成しているその表面の各溶射粒子を再溶融し、さらには再結晶化させると共に、照射面の皮膜中開気孔部を消滅させるために行なわれる。この処理に当たって、本発明の場合、前記の非混合形サーメット溶射用粉末材料がセラミック粒子表面を覆うNi等の存在によって、冷却過程においても該皮膜の表面にひび割れを起こすようなことがないという特徴がある。
【0048】
A. 電子ビーム照射処理
これは、前記サーメット溶射皮膜を、減圧下の不活性ガス雰囲気下で電子ビーム照射する処理である。不活性ガス雰囲気中における溶融反応では、金属の酸化が抑制されるために酸化膜を発生させない。そのため、照射後の皮膜表面は、成膜時の状態をそのまま維持しているので成分的な変化がない。なお、電子ビーム照射条件としては、下記のようなものが推奨される。
a.照射雰囲気:1×10−1〜5×10−3MPaの不活性ガス雰囲気
b.照射出力:10〜30keV
c.照射速度: 1〜50mm/s
d.照射回数: 1〜100回(連続又は不連続)
【0049】
B. レーザービーム照射処理
これは、前記サーメット溶射皮膜の表面に対して、COレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、エキシマレーザーなどの既存のレーザービーム熱源を照射して、溶射粒子を再溶融−再結晶化させる処理である。この処理は、前記電子ビーム照射処理と同様に、皮膜表面に存在する気孔(貫通気孔)をひび割れの発生を招くことなく消滅させるために行なわれる。なお、レーザービーム照射処理の雰囲気は、空気中や不活性ガス中、減圧雰囲気中など自由に選択できるが、溶射皮膜中に金属成分が多く含まれる場合は、不活性ガス中で照射することが好ましい。
【0050】
レーザービーム照射条件として、下記のようなものが推奨される。
a.レーザー出力:1〜10kW
b.ビーム面積:2〜10mm
c.ビーム走査速度:2〜20mm/s
d.照射回数:1〜100回(連続又は不連続)
【0051】
上述した電子ビームまたはレーザービームの照射によってサーメット溶射皮膜表面部分に形成される緻密化した再溶融層、即ち高エネルギー照射処理層は、皮膜表面からの深さにして0.5〜30μmとなる厚み範囲がよい。0.5μm以下の照射処理層では、溶射粒子の溶融による緻密再溶融現象の効果が少なく、また、30μm以上の深さに処理しても、その効果が飽和するので得策でないからである。
【0052】
(9)高エネルギー照射処理したサーメット溶射皮膜の性状
高エネルギー照射処理した本発明に係る前記サーメット溶射皮膜は、次に示すように、少なくとも皮膜表層部にある各溶射粒子の融合緻密化と再結晶化現象が顕在化する特徴がある。
(イ)皮膜表面の平滑化と融合化の促進
高エネルギー照射した前記サーメット溶射皮膜の表面では、融点の低い金属(NiまたはNi合金)がまず、溶融状態となって皮膜を構成している各粒子が相互に再溶融現象によって融合化する。この結果、粒子間結合力が向上していくとともに、皮膜表面の気孔(隙間)が減消し、さらには平滑化する。発明者らの実験によると、大気プラズマ溶射直後のサーメット溶射皮膜の表面粗さRaは3〜6μm、Rzは15〜20μmであったものが、照射後のRaは2〜5μm、Rzは6〜12μmとなり、また、皮膜表面の気孔率は3〜6%から0.1%以下(面積率)にまで減少しており、耐食性の向上にも寄与するものと考えられる。
【0053】
(ロ)皮膜表面の溶射粒子の再結晶化
(a)NiおよびNi合金の無電解めっき膜:酸化物系セラミック粒子の表面に、NiやNi−P合金、Ni−B合金などからなる無電解めっき膜は、無電解めっき法によって形成されるので、析出金属成分が基本的にすべてアモルファス状をしている。そして、このような状態のサーメット溶射用粉末材料を溶射すると、この溶射粉末材料は溶射熱源中での急速加熱と共に基材表面に衝突した時の急速冷却という両方の熱履歴を受けることとなる。
【0054】
具体的には、溶射粒子はプラズマ溶射熱源中では短時間(1/500〜1/1000秒)のうちに急速加熱されて溶融するが、基材の被着面に達したときには逆に急速冷却されるうえ、衝突エネルギーによる変形(扁平化)圧力を受けて扁平化した粒子となり、これが堆積して皮膜となる。そのため、被着面に堆積した扁平粒子の堆積層(皮膜は)は残留応力とともに結晶型が平衡状態になる。そして、このような皮膜に対して高エネルギー照射処理を行なうと、この処理の場合、溶射熱源環境に比べると皮膜の溶融時間および冷却時間がはるかに長いことから、溶射皮膜はこの期間中に残留応力が開放されるようになる。そして、結晶型もより平衡状態に移行し、溶射後にあってはアモルファス状であったNiやNi合金の無電解めっき膜は微細で硬い結晶型へ変化する。即ち、Ni−P、Ni−Bなどの結晶を析出し、冶金学的には安定した状態に落ち着くことになり、耐食性を発揮しやすい結晶形態となる。
【0055】
b.酸化物系セラミック粒子:ここでは代表的な酸化物粒子としてAlとYの例で説明する。
Al粒子:例えば、プラズマ溶射法で形成されたAl溶射皮膜の結晶型をX線回折すると、溶射の有無に関係なく、基本的にγ−Al(立方晶型スピネル)であるが、高エネルギー照射処理を施したものでは、大部分がα−Al(三方晶系鋼玉型)に変態し、結晶レベルでは粒子の物理化学的性質が安定する。
【0056】
粒子:溶射用のY粒子の結晶構造は、正方晶系に属する立方晶のものが多い。この結晶形であるY粒子をプラズマ溶射すると、プラズマ熱源による急速加熱溶融と基材表面での急速冷却の熱履歴を受けて、結晶構造が、立方晶の他に単斜晶を含む混晶からなる一次変態を起す。一方、この皮膜を高エネルギー照射処理すると、正方晶系の結晶に二次変態し、前者に比較して安定した結晶状態に移行する。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
この実施例は、各種のセラミック粒子に対する無電解めっき膜の被覆状況とめっき液として使用する還元剤の種類によるめっき膜の化学成分の変化ならびにセラミック粉末へのめっき膜の付着状況を試験した結果を説明するものである。
【0058】
(1)供試セラミック粉末:供試セラミック粒子としては、粒径:10〜50μmのA1、Y、YAG、CeO、Euを用いた。
(2)無電解めっき液:表1記載の無電解めっき液を用いたが、ヒドラジンを還元剤とするめっき液は、表1のNi−P液の次亜リン酸ナトリウムに代えて、ヒドラジンを5〜10ml/L添加した。めっき液の温度は、60〜95℃であり、時間は最高10時間とした。この間、金属の析出反応が低下する時には、還元剤のみを適宜追加した。
(3)試験項目:被処理セラミック粒子へのめっき膜の付着状況と、そのめっき膜の主要成分の確認
(4)試験結果:試験結果を表2に要約した。この結果から明らかなように、供試セラミック粒子の表面には、緻密な無電解めっき膜が均等な状態で付着していた。めっき膜の化学成分は、ヒドラジンを還元剤とする場合にはNiのみ、次亜リン酸ナトリウムの場合はNiとP、ボロン化合物の場合にはNiとBがそれぞれ含まれており、その内訳は、Pは1〜13mass%、Bは1〜8mass%の範囲で変化させた。即ち、これらP、Bの含有量は、無電解めっき液中の各成分中の各成分濃度を変化させることで対応した。その結果、PとBはそれぞれの還元剤の添加濃度を変えることによって、本発明の範囲に制御できることが確認できた。
【0059】
【表2】

【0060】
(実施例2)
この実施例では、Ni膜を無電解めっき処理して形成したセラミック粉末からなるサーメット溶射用粉末材料を、3種類の溶射法を用いて溶射皮膜を形成し、その後、その溶射皮膜表面に電子ビームを照射したときの該溶射皮膜の気孔率と基材に対する密着性を試験した。
(1)供試皮膜:供試皮膜として、A1粉末の表面に、Niの無電解めっき膜を1.5μmの厚さに被覆したサーメット溶射用粉末材料を用いて、SS400鋼基材上に、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法により、それぞれ150μm厚さの溶射皮膜を形成した。その後、これらの溶射皮膜表面を電子ビーム照射処理を行い表面から8μmの深さまで再溶融処理を実施した。また、比較用の溶射皮膜として電子ビーム照射処理をしない溶射皮膜を準備した。
【0061】
(2)試験方法:この実施例の溶射皮膜の試験方法は次の通りである。
1.気孔率試験:供試皮膜の断面を切断し、その切断部を研摩後、光学顕微鏡および画像解析装置を用いて、A1粒子の積層部に存在する空隙部の面積を求めた。なお、測定は1試料につき、5ヶ所測定した。
2.密着力測定:皮膜の密着力はJIS H8402規定の溶射皮膜の引張密着強さ試験方法により、1条件当り3個の試験片を用いて測定した。
【0062】
(3)試験結果:試験結果を表3に要約した。この結果から明らかなように、溶射皮膜の気孔率は、Ni膜を無電解めっき処理を施していないA1のみの溶射用粉末を用いて形成した溶射皮膜(No.4、12)では、気孔率は5〜9%に達し、減圧プラズマ溶射皮膜(No.8)でも2〜4%の気孔率を示した。また、これらの皮膜に電子ビームを照射(No.3、7、11)すると、皮膜表面の溶射粒子は再溶融して一体化するものの冷却時にひび割れが発生し、これが気孔の発生原因となり2〜5%の気孔率を示すことが判明した。この場合でもひび割れ以外の照射部では、セラミック粉末は完全に溶融して一体化し、良好な緻密性が見られている。
これに対し、Ni無電解めっき膜を有する非混合形A1粉末からなる非混合形の溶射用粉末材料を溶射して形成した溶射皮膜(No.2、6、10)は、成膜状態の皮膜気孔率は4〜6%の範囲にあり、A1粉末のみからなる溶射用粉末材料を用いて形成した溶射皮膜に比較すると緻密化傾向にあるが、この状態では、十分な気密性は得られていない。しかし、これらの溶射皮膜に対し電子ビーム照射処理を施すと、No.1、5、9皮膜は、ほぼ完全な気密状態を示した。
【0063】
一方、供試皮膜の密着力を見ると、A1粉末のみからなる溶射用粉末材料を用いて形成した溶射皮膜に比較すると、Ni無電解めっき膜を被覆したA1粒子を用いて形成した溶射皮膜の密着力は、若干高くなる傾向が認められるが、その差は僅かである。また、その溶射皮膜に電子ビームを照射しても、その熱影響部が表面部のみに限定されるため、皮膜と基材間の密着力に対しては成膜直後の接合力が、そのまま維持されていることが判明した。
【0064】
【表3】

【0065】
(実施例3)
この実施例では、酸化物系セラミック粒子表面へのNi無電解めっき膜被覆の有無、およびその溶射皮膜への高エネルギー照射処理の有無が、溶射皮膜の耐熱衝撃試験に及ぼす影響について試験した。
(1)供試皮膜:セラミック粉末材料として、A1とYAGの粒子を用い、それぞれの粒子表面にNi無電解めっき膜を1.8μmの厚さに形成したセラミック・金属一体形溶射粉末材料を用い、これを大気プラズマ溶射法によってSUS304鋼基材(寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)表面に、厚さ130μmの溶射皮膜を形成した。その後、それぞれの溶射皮膜表面に対して高エネルギー照射処理(電子ビーム)照射を施したものを準備した。なお、電子ビーム照射およびレーザービーム照射した皮膜表面では、3〜5μmの深さまでが再溶融化現象を受けていた。また、比較用の溶射皮膜として、セラミック粒子のみからなる溶射用粉末材料を溶射した試験片、高エネルギー照射処理を施さない溶射皮膜なども供試した。
【0066】
(2)熱衝撃試験:供試皮膜の熱衝撃試験は、皮膜試験片を電気炉中で500℃×20分間加熱後、炉外に取り出して送風機で、室温(25℃)まで冷却する操作を1サイクルとして計10サイクルの試験を行った。1サイクル毎に皮膜表面を目視および拡大鏡(8倍)を用いて視察し、皮膜の割れ、剥離などの有無を調査した。
【0067】
(3)試験結果:試験結果を表4に要約した。この結果から明らかなように、アンダーコートがなく、また、Ni等の無電解めっき膜で被覆されていないセラミック粒子のみからなる溶射用粉末材料を用いて形成した溶射皮膜(No.4、5、6)は、高エネルギー照射処理の有無にかかわらず、6〜7サイクルの熱衝撃試験によって皮膜の一部に割れが発生したり、剥離する現象が見られた。しかし、Niの無電解めっき膜を被覆してなる溶射用粉末材料を用いて形成した溶射皮膜(No.1、2、3、7、8、9)では、すべての皮膜が10サイクルの熱衝撃性に耐え、皮膜の剥離は全く認められなかった。これらの結果から、本願発明に適合する条件のサーメット溶射皮膜は、高エネルギー照射の有無に関係なく、良好な密着性を示し、アンダーコート的な役割りを果たしていることがうかがえる。
【0068】
【表4】

【0069】
(実施例4)
この実施例では、大気プラズマ溶射法で形成された本発明に適合するサーメット溶射皮膜について活性化ハロゲンガスによる腐食試験を行いその耐食性を調査した。
(1)供試皮膜:SS400鋼試験片(寸法:幅20mm×長さ30mm×厚さ3.2mm)の表面に、大気プラズマ溶射法によってSc、Er、Yなどのセラミック粒子の表面に、Ni無電解めっき膜を被覆してなるサーメット溶射用粉末材料を用いて膜厚130μmの溶射皮膜を形成した後、その表面に対して、電子ビーム照射処理を行って再溶融−再結晶化処理を行った。
なお、比較例のサーメット溶射皮膜として電子ビーム照射処理をしないもの、および酸化物セラミックとして8mass%Y・ZrOの溶射皮膜を作製した。
【0070】
(2)腐食試験方法および腐食条件
図3は、腐食試験装置の構成概略図を示すものであって、この装置は、試験片31を電気炉32の中心部を貫通するステンレス鋼製試験管33内部(試験片設置台36の上)に静置した後、腐食性のガス34を、試験管33の左側から流すようにしてなるものである。試験に際しては、試験管33途中に設けた石英放電管35に出力600Wのマイクロ波を負荷させ、前記腐食性ガスの活性化を促すようにしている。活性化した腐食性のガスは電気炉中に導かれ、試験片設置台36上に静置された試験片31を腐食した後、試験管33右側から系外に放出される。このような構成を有する腐食試験装置を用い、試験片温度120℃、腐食性ガスCFを150ml/min、Oを75ml/minを流しつつ、10時間の腐食試験を行った。この腐食試験の特徴は、腐食性のCFガスがプラズマ照射によって励起されて、CFの一部が原子状のFとなって、一段と強い腐食性ガスに変化する環境における耐食性を評価しようとするものである。上記腐食試験後の試験片は、湿度95%温度35℃の恒湿槽中において48時間放置し、皮膜表面の外観変化を観察することによって、その耐食性を評価した。
【0071】
(3)試験結果:試験結果を表5に要約した。この結果から明らかなように、セラミック粒子のみからなる溶射粉末材料を溶射して形成した溶射皮膜(No、4、8、12、13、14)は、すべて多量の赤さびが発生した。この原因は、溶射皮膜中の貫通気孔を通って内部へ浸入した活性化ハロゲンガスによって基材(SS400鋼)が腐食され、その腐食生成物が、赤さびとなって皮膜表面に現われたものと考えられる。これに対して、Ni無電解めっき膜で被覆されたセラミック粒子からなるセラミック・金属一体形サーメット溶射用粉末材料を溶射して形成された溶射皮膜(No、2、6、10)では、赤さびの発生は認められるものの、その発生量は少なく、さらに電子ビーム照射処理した溶射皮膜(No、1、5、9)には全く赤さびの発生は認められなかった。即ち、電子ビーム照射処理した溶射皮膜表面からは、貫通気孔が消滅し、活性化ハロゲンガスの内部侵入経路がなくなっていることがわかった。一方、セラミック粒子のみからなる溶射用粉末材料を用いて溶射してなる溶射皮膜の表面を電子ビーム照射処理した皮膜(No、3、7、11、13)では、処理後に発生するひび割れ発生部から活性化ハロゲンガスが内部へ侵入したため、赤さびの発生を防止することができない状況が明らかとなった。
【0072】
【表5】

【0073】
(実施例5)
この実施例では、セラミック粒子としてYおよびランタノイド系元素の酸化物を用い、それぞれの粒子の表面にNi無電解めっき膜を被覆した後、得られた溶射用粉末材料を大気プラズマ溶射法によって溶射して皮膜を形成し、さらに得られたその溶射皮膜表面を高エネルギー照射した皮膜について、その耐プラズマエロージョン性を調査した。
(1)供試基材:供試基材として、JIS H4000規定のA3003合金(寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)を用いた。
【0074】
(2)供試皮膜:供試皮膜として下記酸化物系セラミック粒子の表面に、Niの無電解めっき膜を2μm厚さで被覆し、その後、このNi無電解めっき膜を被覆した溶射用粉末材料を用いて大気プラズマ溶射法により膜厚150μmの溶射皮膜を形成した。
酸化物セラミック粉末材料:Y.Sc.Er.Dy
【0075】
(3)高エネルギー照射処理:供試皮膜の表面に対して、電子ビーム照射およびレーザビーム照射処理を施した(処理の効果は、皮膜表面から深さ3〜5μmの範囲)。
【0076】
(4)耐プラズマエロージョン試験:供試皮膜の表面を10mm×lOmmの範囲が露出するように、他の部分をマスクし、下記条件にて20時間照射した後、エロージョン損傷量を触針式粗さ計にて計測し深さ方向の侵食度によって評価した。減肉厚さとして求めた。
a.ガス雰囲気と流量条件
CF、Ar、Oの混合ガスを1分間当り、CF(100cm)/Ar(1000cm/O(10cm))の割合で流した。
b.プラズマ照射出力
高周波電力:1300W、環境圧力:133.3Pa
なお、この実施例の比較例として、Ni薄膜を被覆しない酸化物系セラミック粒子のみからなる溶射用粉末材料を溶射して得られる溶射皮膜および高エネルギー照射処理を施さない溶射皮膜を作製し、すべて同条件の耐プラズマエロージョン試験に供した。
【0077】
(5)試験結果
試験結果を表6に要約した。この結果から明らかなように酸化物系セラミック粒子のみを溶射用粉末材料として形成した溶射皮膜(No.4、7、13、19)は、損失量が7.4〜8.1μmに達し、Ni無電解めっき膜を有するセラミック・金属一体形の溶射用粉末材料を溶射した溶射皮膜(No.1、7、13、)の7.2〜7.6μmに比較して、やや耐プラズマエロージョン性に劣っている状況がうかがえる。これに対し、これらの溶射皮膜に対し、高エネルギー照射処理を施したものでは、セラミック粒子のみからなる溶射用粉末材料を用いた溶射皮膜(No.5、6、11、12、16、17、23、24)でもエロージョン損失量は約50%に低下している。特に、本発明に適合するNi無電解めっき膜を被覆してなる溶射用粉末材料を溶射して得られる溶射皮膜を高エネルギー照射処理(No.2、3、8、9、14、15、20、21)したものでは、損失量はさらに低下し、1.4〜1.9μmの範囲となり、極めて良好な耐プラズマエロージョン性を発揮することが確認された。
【0078】
【表6】

【0079】
(実施例6)
この実施例では、基材表面に、Y粉末材料の表面にPおよびB含有量の異なるNi合金膜を無電解めっき処理して被覆した溶射用粉末材料を準備し、これを大気プラズマ溶射法によってサーメット溶射皮膜を形成し、その溶射皮膜表面への電子ビーム照射の有無と耐プラズマエロージョン性の関係を調査した。
(1)供試基材:実施例5と同じものを採用した。
(2)供試皮膜:Y粉末材料(粒径15〜30μm)の表面に、無電解めっき法によって、下記成分のNiおよびNi−P、Ni−B合金膜をそれぞれ2μm厚さに被覆した。
Nil00%、Ni−4.9%P、Ni−4.0%B、Ni−6.5%P、Ni−8.1%B(数字はmass%)
上記、NiおよびNi合金を無電解めっきして被覆した粉末材料を大気プラズマ溶射法により、膜厚150μmの皮膜を形成した。
(3)電子ビーム照射処理:実施例5の電子ビーム照射と同じ条件で実施
(4)耐プラズマエロージョン試験:実施例5と同じ条件
上記試験には、比較例として、8mass%Y−92mass%ZrOとBCを溶射用粉末材料として形成した溶射皮膜を用い、同条件で耐プラズマエロージョン作用を受けて室内に飛散する成膜材料の微粉が、半導体製品へ付着することによる汚損の有無を評価したものである。試験室内には、シリコンウェハーの薄板(直径10cm)を置き、エロージョン試験後のウェハー表面に付着した粒子成分を調査することによって判定した。
【0080】
(5)試験結果
試験結果を表7に要約した。この結果から明らかなように、比較例の8mass%Y−92mass%ZrOとBCのみからなる溶射用粉末材料を用いて形成した溶射皮膜(No.11〜14)は、電子ビーム照射処理を施してもエロージョン損失量が多く、またエロージョンによって削りとられた微粉末は、試験室内に多量に飛散し、シリコンウェハーの汚染源となっていることがわかった。これに対し、Y粉末をNiやNi合金を無電解めっき処理して被覆してなる溶射用粉末材料を溶射して得られる溶射皮膜のエロージョン損失は比較的少なく、特に、この皮膜を電子ビーム照射処理した皮膜では、優れた耐プラズマエロージョン性を示し、また室内への汚染も少ないことが判明した(No.1、3、5、7)。しかし、Ni合金の無電解めっき膜を被覆してなる溶射用粉末材料を溶射して得られる溶射皮膜のうち、P、B含有量の多いもの(No.7〜10)では、電子ビーム照射処理による耐プラズマエロージョン性は認められるものの、質量の小さいP、Bはエロージョンによって飛散され易い傾向が認められるので、P、B含有重量は5mass%以下に抑制することが好ましいことがわかった。
【0081】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る酸化物セラミック粉末の表面に、NiまたはNi合金の無電解めっき膜を被覆してなる溶射用粉末材料を用いて形成された溶射皮膜の表面を、電子ビームやレーザビームなどの高エネルギー照射することによって、溶射皮膜を形成する粒子を再溶融−再結晶化すると、皮膜表面は、気孔、とくに開気孔部が消滅し、ほぼ完全な気密状態となるとともに粒子同士の強い相互結合力によって、耐食性・耐摩耗性が向上するうえ、再溶融後の冷却過程においてもひび割れ現象がない。従って、本発明の技術は、工業用水、海水を取扱う装置類、化学プラント、石油プラントなどの部材をはじめ、半導体加工装置などのハロゲンガス、ハロゲンガス雰囲気中の耐プラズマエロージョン皮膜として優位に使用できる。具体的には、半導体加工条件のデポシールド、バッフルプレート、フォーカスリング、インシュレ一夕リング、シールドリング、ベローズカバー静電チャック、電極などの保護皮膜として適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
31 試験片
32 電気炉
33 試験管
34 腐食性のガス
35 石英放電管
36 試験片設置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、酸化物系セラミック粒子の表面がNiまたはNi基合金の無電解めっき膜によって被覆されて一体化した非混合形サーメット溶射用粉末材料を溶射することによって形成されるサーメット・金属一体形粒子の堆積層からなるサーメット溶射皮膜を形成してなるものであって、その皮膜表面に0.5〜30μmの厚みの高エネルギー照射層からなる再溶融−再結晶化層を有することを特徴とする、耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材。
【請求項2】
前記サーメット溶射用粉末材料は、粒径が5〜80μmの酸化物系セラミック粒子の表面に、NiまたはNi合金の無電解めっき膜が0.3〜5μmの厚さで被覆されたものであることを特徴とする請求項1に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材。
【請求項3】
前記酸化物系セラミック粒子は、Al、Y、原子番号57〜71に属するランタノイド系元素の酸化物、A1−Yの混合体、YAGで表示されるA1・Yの複酸化物の粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材。
【請求項4】
前記Ni基合金は、PまたはBをそれぞれ5mass%以下含有し、残部がNiからなる合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材。
【請求項5】
前記サーメット溶射皮膜は、基材の表面に直接またはアンダーコートを介して形成してなるものであって、その溶射皮膜の厚さは、50〜500μmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材。
【請求項6】
前記サーメット溶射皮膜表面に高エネルギー照射して得られた再溶融−再結晶化層は、皮膜表面からの厚さが0.5〜30μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材。
【請求項7】
基材の表面に、まず、酸化物系セラミック粒子の表面がNiまたはNi基合金の無電解めっき膜によって被覆されて一体化した非混合形サーメット溶射用粉末材料を直接またはアンダーコートを介して溶射することによってセラミック・金属一体形粒子の堆積層からなるサーメット溶射皮膜を形成し、次いで、そのサーメット溶射皮膜の表面に対して、電子ビームまたはレーザビームのいずれかである高エネルギー照射処理を行って、該サーメット溶射皮膜の表面から0.5〜30μmの範囲を再溶融−再結晶化させることを特徴とする、耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材の製造方法。
【請求項8】
前記サーメット溶射用粉末材料は、粒径が5〜80μmの酸化物系セラミック粒子の表面に、NiまたはNi合金の無電解めっき膜が0.3〜5μmの厚さで被覆されたものであることを特徴とする請求項7に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物系セラミック粒子は、Al、Y、原子番号57〜71に属するランタノイド系元素の酸化物、A1−Yの混合体、YAGで表示されるA1・Yの複酸化物の粒子であることを特徴とする請求項7または8に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れる、サーメット溶射皮膜被覆部材の製造方法。
【請求項10】
前記Ni基合金は、PまたはBをそれぞれ5mass%以下含有し、残部がNiからなる合金であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1に記載のサーメット溶射皮膜被覆部材の製造方法。
【請求項11】
前記サーメット溶射皮膜は、大気中、不活性ガス中もしくは真空中のいずれかの雰囲気中で300℃〜700℃、0.5〜5時間の条件の熱処理を施してなるものであることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材の製造方法。
【請求項12】
前記サーメット溶射皮膜は、基材の表面に、非混合形サーメット溶射用粉末材料を用いて、大気プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法などによって、膜厚50〜500μmの厚さに被覆形成したものであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1に記載の耐食性や耐プラズマエロージョン性に優れるサーメット溶射皮膜被覆部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−10984(P2013−10984A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143644(P2011−143644)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】