説明

耐食性ワイヤロープ及びその製造方法

【課題】 耐食性ワイヤロープが長期間に亘って浸水を防止できるようにする。
【解決手段】 鋼線束42を有する芯材36と、芯材36の外周側に設けられる被覆層38と、芯材36と被覆層38との間に設けられる遮水層52とを備えている。芯材36には、犠牲陽極部45が設けられている。遮水層52は鉛からなる。犠牲陽極部45は、純亜鉛からなる多数の金属線45aによって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性ワイヤロープ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1及び2に開示されているように、犠牲防食を施すことによって耐食性を向上するようにした耐食性ワイヤロープが知られている。例えば特許文献1に開示された耐食性ワイヤロープでは、鋼素線を撚り合わせたストランドにアルミニウム合金線を螺旋巻きし、このアルミニウム合金線を犠牲陽極として使用している。そして、その上に合成樹脂被覆が被せられてワイヤロープが形成されている。一方、特許文献2に開示された耐食性ワイヤロープでは、鋼製のロープ心の外周にストランドが撚り合わせられ、このロープ心とストランドの間に亜鉛線が撚り合わされた構成となっている。この亜鉛線は、犠牲防食用として用いられている。
【特許文献1】特開昭51−139951号公報
【特許文献2】実用新案登録第2561317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に開示された耐食性ワイヤロープでは、合成樹脂被覆を施しているが、このような合成樹脂被覆を施したとしても、長年に亘って水中又は土中に設置された状態では被覆を通して内部に浸水するのは避けられない。このため、犠牲陽極を設けて耐食性を向上させているとはいえ、その耐用年数は限定的なものとなっている。一方、前記特許文献2に開示された耐食性ワイヤロープでは、ロープ心にストランドを撚り合わせるときに亜鉛線を挟み込んで撚り合わせるようにしたものなので、そもそも浸水を防止することを想定していない。したがって、従来の何れの耐食性ワイヤロープにおいても、長期間に亘って浸水を防止するのは困難である。
【0004】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐食性ワイヤロープが長期間に亘って浸水を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、本発明は、鋼線束を有する芯材と、前記芯材の外周側に設けられる被覆層と、前記芯材と前記被覆層との間に設けられる遮水層とを備えていることを特徴とする耐食性ワイヤロープとしている。
【0006】
本発明では、被覆層を通して外部から水分が浸入したとしても、芯材の外周側に遮水層が配設されているので、この遮水層によって水分が芯材にまで到達するのを阻止することができる。この結果、芯材を構成する鋼線が腐食するのを長期間に亘って防止することができる。
【0007】
ここで、前記芯材と前記遮水層との間に内側被覆層が設けられていれば、二重被覆を有するワイヤロープの既存の製造設備を使用して製造することができる。
【0008】
前記芯材には、犠牲陽極部が設けられているのが好ましい。そうすれば、被覆層や遮水層が損傷し、遮水層内に浸水のおそれがある場合でも、犠牲陽極部によって芯材の腐食を抑制することができる。
【0009】
また、前記犠牲陽極部は、純亜鉛からなる亜鉛線によって構成されているのが好ましい。そうすれば、犠牲陽極部が、犠牲陽極として有効に機能する。
【0010】
また、前記鋼線束は、亜鉛メッキ鋼線の撚りケーブルによって構成されているのが好ましい。
【0011】
また、前記遮水層は、鉛又はアルミニウムからなるのが好ましい。そうすれば、遮水効果を有効に発揮させることができる。すなわち、遮水層が鉛を主成分とする層であれば、海水中に設置された場合でも有効に遮水効果を発揮することができ、また、遮水層がアルミニウムを主成分とする層であれば、土中に設置された場合に特に有効となる。
【0012】
また、本発明は、耐蝕性ワイヤロープを製造する方法を前提として、鋼線とこの鋼線よりも電気化学的に卑な金属線とによって芯材を形成する芯材形成工程と、前記芯材の外周側に遮水層を形成する遮水層形成工程と、前記遮水層の外周側に被覆層を形成する被覆層形成工程とが含まれる。
【0013】
前記遮水層形成工程の前に、前記芯材の外周側に内側被覆層を形成する内側被覆形成工程が含まれていてもよい。
【0014】
また、前記遮水層形成工程及び前記被覆層形成工程において、接着層を有する鉛テープを被せることで前記遮水層を形成し、加熱された被覆層の形成材を前記遮水層の上に被せて前記被覆層を形成するとともに前記遮水層を接着してもよい。そうすれば、形成材の熱を利用して遮水層を水密状に接着することができるので、遮水層を設けたとしても耐食性ワイヤロープの製造工程が複雑化するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、遮水層が設けられるので、耐食性ワイヤロープが長期間に亘って浸水を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1及び図2は、本発明に係る耐食性ワイヤロープ30の一実施形態を示している。この耐食性ワイヤロープ(以下、単にワイヤロープと称する)30は、海洋中に設置されて使用されるものである。このワイヤロープ30は、例えば図3に示すように、海洋構造物である浮き漁礁10を繋ぎとめておく係留索として海中で使用される。浮き漁礁10は、海洋上に浮かべて、魚類が集まる場所を人工的に作り出すためのものである。図例の浮き漁礁10は、底部11aが海中に潜っている円盤状の本体部11を備えており、この本体部11の底部11aには金属チェーン13が吊下されている。この金属チェーン13の下端部に本発明に係るワイヤロープ30が結合され、さらにこのワイヤロープ30にアンカー15が設けられた金属チェーン16が結合されている。図例では、ワイヤロープ30が3本結合された構成を示している。
【0018】
ワイヤロープ30は、ロープ本体32を備えるとともに、このロープ本体32の両端部に、それぞれジョーボルト式の結合部34が設けられており、これによりワイヤロープ30は、他のワイヤロープ30又は金属チェーン13,16と連結できるようになっている。
【0019】
ロープ本体32は、図1及び図2に示すように、芯材36と、この芯材36の外周側に設けられた被覆層38と、芯材36と被覆層38との間に設けられた内側被覆層40とを備えている。
【0020】
前記芯材36は、多数の鋼線42aを撚り合わせてなる鋼線束42を有している。この鋼線束42は、鋼線42aを平行に束ねて撚り合わせた平行撚りケーブルであり、例えば直径7mmの亜鉛メッキ鋼線を55本撚り合わせたものである。なお、鋼線束42は、準平行撚りのケーブルとしてもよい。
【0021】
鋼線束42の外周部には、犠牲陽極部45が設けられている。この犠牲陽極部45は、鋼よりも電気化学的に卑な金属からなる複数の金属線45aによって構成されている。犠牲陽極部45は、少なくとも一部の金属線45aが鋼線42aに接触するように設けられている。金属線45aは、鋼線束42の外周部において周方向に散在する隙間を埋めるように配置されており、これにより外周部の凹凸が緩和されて芯材36の断面形状がほぼ円形になっている。金属線45aは例えば直径3.17mmの純亜鉛からなる亜鉛線によって構成されており、本実施形態では、金属線45aが30本配設されている。これら金属線45aは、鋼線42aと一緒に平行に束ねられ、鋼線42aと一緒に撚り合わされている。
【0022】
芯材36は、繊維層47を有している。この繊維層47は、鋼線束42と犠牲陽極部45とによって構成された芯本体を覆うように設けられており、テトロン又はコットン布からなる繊維テープ49(図4参照)を巻き付けることによって形成されたものである。繊維層47は、芯本体の成形時における形状保持のために設けられている。
【0023】
前記被覆層38及び内側被覆層40は、ポリエチレンを主成分とする層であり、カーボンブラック、紫外線吸収剤等の添加剤が添加されたものである。これら被覆層38と内側被覆層40との間には、水分が浸入するのを阻止する遮水層52が設けられている。この遮水層52は、鉛からなる層であり、周方向の全体に亘って設けられている。遮水層52は、接着層を有し且つ厚みが例えば0.1〜0.2mm程度の鉛テープ54(図4参照)を内側被覆層40の上に接着することによって形成される。
【0024】
ここで、図4を参照しながら、本ワイヤロープ30の製造方法について説明する。このワイヤロープ30を製造するには、まずロープ本体32を作成するが、このロープ本体32の作成においては、まず芯材36を形成する(芯材形成工程)。この芯材形成工程では、図4の左端部に示すように、平行に延在する多数の鋼線42aと多数の金属線45aを収束させ、この収束された線束を撚り機56によって撚り合わせることで芯本体が形成される。このように本実施形態では、鋼線42aと金属線45aとを一緒に撚り合わせるようにしている。このため金属線45aは、鋼線42aと同じピッチで撚り合わされ、芯本体の外周面に凹凸ができにくいようになっている。そして、図示省略したリールから繰り出された繊維テープ49を芯本体に巻き付けて芯材36を形成する。すなわち、芯本体の外周側に繊維層47が設けられた芯材36ができあがる。この芯材36は、繊維層47によって形状保持された状態で次工程へ送られる。
【0025】
次に、前記工程で形成された芯材36の外周側に内側被覆層40を形成する(内側被覆形成工程)。この内側被覆形成工程では、押出ダイス58を有する押出機59を使用し、加熱されて軟化した内側被覆層40の形成材を押出ダイス58によって押出しつつ芯材36に被せていく。この形成材は、ポリエチレンを主成分とする形成材である。これにより、芯材36の外周側に内側被覆層40が形成される。
【0026】
次に、内側被覆層40の外周側に遮水層52を形成するとともに、遮水層52の外周側に被覆層38を形成する(遮水層形成工程及び被覆層形成工程)。この工程では、二重の押出ダイスを有する押出機61を使用する。この押出機61には、インナーダイス(図示省略)とアウターダイス60とが設けられており、インナーダイスによって遮水層52の形成材が押出され、アウターダイス60によって被覆層38の形成材が押出されるようになっている。すなわち、インナーダイスには、鉛テープ54が押出し方向に流れるように供給され、この鉛テープ54が幅方向に折り曲げられながら内側被覆層40の全周に被せられる。これにより、内側被覆層40の外周側に遮水層52が形成される。一方、アウターダイス60には、図示省略しているが200℃〜300℃に加熱された被覆層38の形成材が供給される。この形成材は、ポリエチレンを主成分とする形成材である。そして、この形成材は遮水層52に被せられ、これにより遮水層52の外周側に被覆層38が形成される。このとき、被覆層38の形成材の熱によって遮水層52が内側被覆層40に接着されるので、遮水層52は水密状に形成される。
【0027】
そして、ロープ本体32を冷却した後、このロープ本体32の両端部に結合部34を固定すればワイヤロープ30が完成する。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のワイヤロープ30によれば、芯材36の外周側に遮水層52が配設されているので、被覆層38を通して外部から水分が浸入したとしても、遮水層52によってこの水分が芯材36にまで到達するのを阻止することができる。この結果、芯材36を構成する鋼線42aが腐食するのを長期間に亘って防止することができる。しかも、本実施形態では、芯材36に犠牲陽極部45を設けるようにしたので、被覆層38や遮水層52が損傷した場合でも、この犠牲陽極部45によって芯材36の腐食を抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態のワイヤロープ30の製造方法では、加熱された被覆層38の形成材を遮水層52の上に被せて被覆層38を形成するようにしたので、形成材の熱を利用して遮水層52を水密状に接着することができる。この結果、遮水層52を設けたとしても耐食性ワイヤロープ30の製造工程が複雑化するのを抑制することができる。
【0030】
なお、本実施形態では、内側被覆層40を設ける構成としたが、内側被覆層40を省略することもできる。
【0031】
また、本実施形態では、芯材36に犠牲陽極部45を設ける構成としたが、省略も可能である。しかしながら、ワイヤロープ30の配索時等に被覆層38等が損傷する場合を想定すると、芯材36に犠牲陽極部45を設けておくのが望ましい。
【0032】
また、本発明は、浮き漁礁10の係留索として使用されるものに限定されるわけでなく、海洋環境で使用される種々の構造物用のケーブルに適用することが可能である。また、海水中で使用されるものに限定されるものではなく、淡水中で使用されるケーブルに適用することもできる。さらに、土中で使用されるケーブルに適用することも可能である。土中に設置される場合には、遮水層52は、アルミニウムで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態にかかるワイヤロープのロープ本体における断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるワイヤロープにおけるロープ本体の一部を破断して示す部分斜視図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるワイヤロープが係留索として使用された浮き漁礁を示す側面図である。
【図4】前記ワイヤロープの製造工程を説明するための図である。
【符号の説明】
【0034】
36 芯材
38 被覆層
40 内側被覆層
42 鋼線束
45 犠牲陽極部
45a 金属線
52 遮水層
54 鉛テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼線束を有する芯材と、
前記芯材の外周側に設けられる被覆層と、
前記芯材と前記被覆層との間に設けられる遮水層とを備えていることを特徴とする耐食性ワイヤロープ。
【請求項2】
前記芯材と前記遮水層との間に内側被覆層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の耐食性ワイヤロープ。
【請求項3】
前記芯材には、犠牲陽極部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性ワイヤロープ。
【請求項4】
前記犠牲陽極部は、純亜鉛からなる亜鉛線によって構成されていることを特徴とする請求項3に記載の耐食性ワイヤロープ。
【請求項5】
前記鋼線束は、亜鉛メッキ鋼線の撚りケーブルによって構成されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の耐食性ワイヤロープ。
【請求項6】
前記遮水層は、鉛又はアルミニウムからなることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の耐食性ワイヤロープ。
【請求項7】
耐蝕性ワイヤロープを製造する方法であって、
鋼線とこの鋼線よりも電気化学的に卑な金属線とによって芯材を形成する芯材形成工程と、
前記芯材の外周側に遮水層を形成する遮水層形成工程と、
前記遮水層の外周側に被覆層を形成する被覆層形成工程とが含まれることを特徴とする耐食性ワイヤロープの製造方法。
【請求項8】
前記遮水層形成工程の前に、前記芯材の外周側に内側被覆層を形成する内側被覆形成工程が含まれていることを特徴とする請求項7に記載の耐食性ワイヤロープの製造方法。
【請求項9】
前記遮水層形成工程及び前記被覆層形成工程において、接着層を有する鉛テープを被せることで前記遮水層を形成し、加熱された被覆層の形成材を前記遮水層の上に被せて前記被覆層を形成するとともに前記遮水層を接着することを特徴とする請求項7又は8に記載の耐食性ワイヤロープの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−51399(P2007−51399A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238956(P2005−238956)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【出願人】(000211891)株式会社ナカボーテック (42)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】