説明

耐食性窒化珪素セラミックス

【課題】熱機関などのように熱サイクルが生じる環境下であっても、基体上に設けられた被覆層が剥離するのを防止することができる耐食性窒化珪素セラミックスを提供することである。
【解決手段】窒化珪素を主成分とするセラミック基体2上に、密着促進層3、応力緩和層4およびクラック進展防止層5がこの順に積層されており、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層6が積層され、セラミック基体2の熱膨張係数α0、密着促進層3の熱膨張係数α1、応力緩和層4の熱膨張係数α2、クラック進展防止層5の熱膨張係数α3および表面耐食層6の熱膨張係数α4が下記関係式(I)〜(III)を満足する耐食性窒化珪素セラミックスである。
【数10】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用部材として好適な耐食性窒化珪素セラミックスに関し、より詳しくはガスタービンエンジン用部品等の熱機関用部品の材料として好適な耐食性窒化珪素セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジニアリングセラミックスとして知られる窒化珪素は、耐熱性、耐熱衝撃性、耐摩耗性および耐酸化性に優れているため、特にガスタービンやタ−ボロ−タ等の熱機関用部品への応用が進められている。
【0003】
このような窒化珪素を含む窒化珪素系セラミックスは、一般には焼結助剤を添加することにより高密度で高強度の特性が得られる。例えば、窒化珪素セラミックスは、窒化珪素粉末に対してY23、Al23、MgOなどを焼結助剤として添加し焼成することによって得ることができる。このような窒化珪素系セラミックスは、無冷却で1000℃以上という金属材料では用いることのできない高い温度領域の環境下において使用することが可能であるため、小型ガスタービンにおいて従来の金属材料で不可能であった40%以上という高い熱効率を実現することも可能である。
【0004】
ところで、窒化珪素系セラミックスをガスタービン用部材などの熱機関用部材として用いる場合には、高温度環境下において要求される特性が、強度面だけでなく、高温気流による腐食に強いことが要求され、さらに微小粒子の衝突に対する耐磨耗性や耐衝撃性に優れていることが要求される。
【0005】
しかし、窒化珪素系セラミックスは、ガスタービン燃焼ガス中に含まれる高温水蒸気と反応して腐食し消耗するので、寿命が著しく短くなるという問題がある。特に、ガスタービンに用いられる燃焼器ライナ、トランジションダクト、静翼等の部品では、水蒸気を含む高温の燃焼ガスによるセラミックス表面の消耗が顕著であった。
【0006】
このため、焼結助剤や粒界相の検討、焼成条件の検討などに加えて、基体の表面に被覆層を形成して耐食性を改善するという検討が進められてきた。例えば、特許文献1には、窒化珪素セラミックス基体の表面に、ジルコン、ジルコニア、アルミナ、ムライト、イットリアから選ばれる酸化物の下地層、中間層および表面層からなる被覆層を基体から順次熱膨張係数が大きくなるように形成して、耐食性を改善するとともに耐剥離性を改善するという試みが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の部材では、熱膨張係数が順次高くなるように各層を配置することで、基体と表面層の熱膨張係数の差に起因する残留応力を緩和することはできるが、ガスタービンのように起動・停止が繰り返され、大きな温度変化を伴う熱サイクルが生じる環境下では、表面層に生じたクラックの進展(伝播)を防止することができず、このクラックが基体にまで達することにより、表面層などの被覆層が剥離するという問題があった。
【特許文献1】特開平5−238859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、熱機関などのように熱サイクルが生じる環境下であっても、基体上に設けられた被覆層が剥離するのを防止することができる耐食性窒化珪素セラミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、窒化珪素を主成分とするセラミック基体と酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層との間に中間層を設け、この中間層が熱膨張係数の大きな層に挟まれたクラック進展防止層を有することによって、たとえ表面耐食層にクラックが生じたとしても、クラック進展防止層においてクラックの進展が抑止され、クラックがセラミック基体にまで達するのを防止することができるので、熱サイクルが生じる環境下であっても、セラミック基体から被覆層(表面耐食層および中間層)が剥離するのを防止できるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の耐食性窒化珪素セラミックスは、以下の構成からなる。
(1) 窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、前記中間層は、少なくとも1層のクラック進展防止層を含む複数の層からなり、前記クラック進展防止層は、該クラック進展防止層よりも熱膨張係数の大きな層の間に配置されていることを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
(2) 前記中間層は2層以上の前記クラック進展防止層を含み、各クラック進展防止層は、該クラック進展防止層よりも熱膨張係数の大きな層の間にそれぞれ配置されている(1)記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(3) 窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、前記中間層は、応力緩和層およびクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されており、かつ、下記関係式(II),(III)を満足することを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
【数5】

(4) 窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、前記中間層は、密着促進層、応力緩和層およびクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されており、かつ、下記関係式(I)〜(III)を満足することを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
【数6】

(5) 前記セラミック基体の熱膨張係数α0、応力緩和層の熱膨張係数α2および表面耐食層の熱膨張係数α4が、下記関係式(IV)を満足する(4)記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【数7】

(6) 前記セラミック基体の熱膨張係数α0およびクラック進展防止層の熱膨張係数α3が、下記関係式(V)を満足する(4)または(5)記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【数8】

(7) 窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、前記中間層は、周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶および周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウム結晶の混合物を主成分とする応力緩和層、および周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とするクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されていることを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
(8) 窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、前記中間層は、周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とする密着促進層、周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶および周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウム結晶の混合物を主成分とする応力緩和層、および周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とするクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されていることを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
(9) 前記クラック進展防止層を構成するダイシリケート結晶がEr2Si27、Yb2Si27およびLu2Si27から選ばれる少なくとも1種からなる(7)または(8)記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(10) 前記クラック進展防止層が前記セラミック基体と略同一の熱膨張係数を有している(7)〜(9)のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(11) 前記クラック進展防止層の厚みが5〜200μmである(1)〜(10)のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(12) 前記表面耐食層の厚みが5〜200μmである(1)〜(11)のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(13) 前記密着促進層および応力緩和層の厚みが5〜200μmである(4)または(8)記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(14) 前記表面耐食層が柱状結晶からなり、該柱状結晶の長軸が前記セラミック基体の表面に略垂直である(1)〜(13)のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(15) 前記表面耐食層は、AlおよびSiの含有量の合計が1質量%以下であり、気孔率が1〜30%である(1)〜(14)のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(16) 前記表面耐食層がクラックを有する(1)〜(15)のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
(17) 前記表面耐食層上には、該表面耐食層のクラックを覆い隠すためのクラック被覆層が積層されている(16)記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【発明の効果】
【0011】
前記(1)に記載の耐食性窒化珪素セラミックスによれば、中間層が熱膨張係数の大きな層に挟まれたクラック進展防止層を有しているので、表面耐食層にクラックが生じた場合であっても、このクラックがセラミック基体側に向かって進展するのを防止することができる。このようにクラックが進展しない理由は、以下の通りであると考えられる。すなわち、一般に、クラックは、まず微小クラックが生じ、この微小クラックの先端に生じる引張応力によって進展していくが、本発明におけるクラック進展防止層は、熱膨張係数の大きな層に挟まれていることで内部に圧縮応力が付与されているので、表面耐食層で生じたクラックがクラック進展防止層に到達しても、このクラックの先端には引張応力が発生しない(作用しない)ので、クラック進展防止層でクラックの進展が停止すると推測される。
【0012】
これにより、熱サイクルが生じる環境下であっても表面耐食層などの被覆層がセラミック基体から剥離するのを防止することができる。したがって、この耐食性窒化珪素セラミックスを熱機関用部品等の材料として用いることで、製品の信頼性が向上し、長寿命化を図ることができる。
【0013】
また、前記(2)記載のように、中間層が2層以上のクラック進展防止層を含むときには、より高いクラック進展防止効果を得ることができる。
【0014】
前記(3)記載の耐食性窒化珪素セラミックスでは、上記式(II)および(III)で表されるように、クラック進展防止層が、該クラック進展防止層よりも熱膨張係数の大きな応力緩和層と表面耐食層に挟まれた状態で配置されていることにより、表面耐食層にクラックが生じた場合であっても、このクラックがセラミック基体側に向かって進展するのをクラック進展防止層が防いでいる。
【0015】
また、前記(3)の構成に加えて、前記(4)における式(I)で表されるように、セラミック基体と略同一の熱膨張係数を有する密着促進層が設けられているときには、セラミック基体と被覆層(中間層および表面耐食層)との間でより優れた密着性を得ることができる。
【0016】
また、前記(5)に記載のように、セラミック基体の熱膨張係数α0、応力緩和層の熱膨張係数α2および表面耐食層の熱膨張係数α4が上記式(IV)を満足するとき、すなわちα0、α2およびα4がこの順に段階的に大きくなるように各層を配置するときには、耐食性窒化珪素セラミックスに生じる残留応力が応力緩和層により緩和されるので、耐食性窒化珪素セラミックス内に過度に大きな残留応力が生じるのを抑制し、表面耐食層などの被覆層がセラミック基体から剥離するのを防止する効果がより高められる。
【0017】
さらに、前記(6)に記載のように、クラック進展防止層の熱膨張係数α3とセラミック基体の熱膨張係数α0との差が小さいとき、すなわちα3とα0とが上記式(V)の関係を満足するときには、表面耐食層などの被覆層がセラミック基体から剥離するのを防止する効果がさらに高められる。
【0018】
各層の熱膨張係数が上記のような関係を満足するには、密着促進層、応力緩和層およびクラック進展防止層が、例えば前記(7)〜(10)に記載の成分で構成されるようにすればよい。ここで、前記(7)における周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶とは、RE2Si27で表される結晶であり(REは周期律表第3a族元素を示す)、特に、前記(9)記載のようにREがEr、YbおよびLuの少なくとも1種であるのが好ましい。
【0019】
また、各層が上記したような各々の機能を十分に発揮するためには、各層の厚みが前記(11)〜(13)に記載の範囲にあるのが好ましい。
【0020】
前記(14)に記載の耐食性窒化珪素セラミックスによれば、表面耐食層にクラックが生じるような応力が作用したときには、柱状結晶の界面に沿ってクラックを生じさせることができるので、表面耐食層がクラック進展防止層から剥がれることなく付着した状態をより確実に維持することができる。
【0021】
また、前記(15)に記載のように、表面耐食層に含まれるAlおよびSiの含有量が上記範囲にあり、表面耐食層の気孔率が上記範囲にあることで、高温水蒸気に曝された際の耐食性をより向上させることができる。
【0022】
また、本発明の耐食性窒化珪素セラミックスは、クラック進展防止層においてクラックの進展を防止することができるので、前記(16)に記載のように表面耐食層にクラックが生じていても優れた耐久性を維持することができる。これにより、表面耐食層の材料を選定する際や表面耐食層を形成する際に、クラックが生じるか否かを考慮する必要がなくなるので、表面耐食層を構成する材料の選択肢が広がるとともに、表面耐食層を形成する際の製造条件の許容範囲を広げることができる。
【0023】
前記(17)に記載の耐食性窒化珪素セラミックスでは、上記した各層に加えて、さらに表面耐食層上にクラック被覆層が設けられている。したがって、前記(16)に記載のように表面耐食層にクラックが生じていても、クラック被覆層で覆い隠すことができるので、最表面にクラックが露出しない。これにより、外観面における製品価値を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスについて詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックス1を示す断面図である。図1に示すように、この耐食性窒化珪素セラミックス1は、窒化珪素を主成分とするセラミック基体2上に、中間層7を介して、表面耐食層6が積層されたものである。中間層7は、密着促進層3、応力緩和層4およびクラック進展防止層5により構成され、これらの各層がこの順にセラミック基体2上に積層されている。
【0025】
この耐食性窒化珪素セラミックス1では、セラミック基体2、密着促進層3、応力緩和層4、クラック進展防止層5および表面耐食層6の各熱膨張係数α0,α1,α2,α3,α4が、上記関係式(I)〜(III)を満足する。さらに、セラミック基体2、応力緩和層4および表面耐食層6の各熱膨張係数α0,α2,α4は上記関係式(IV)を満足するのが好ましく、セラミック基体2およびクラック進展防止層5の各熱膨張係数α0,α3は上記関係式(V)を満足するのが好ましい。
【0026】
<セラミック基体>
セラミック基体2は、窒化珪素を主成分とする窒化珪素質焼結体であり、窒化珪素成分の他、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば周期律表第3a族元素の酸化物、ダイシリケートやモノシリケートなどのシリケート化合物、アルミナ、シリカ、マグネシアなどが挙げられる。
【0027】
<中間層>
中間層7を構成する密着促進層3、応力緩和層4およびクラック進展防止層5の材料としては、これらの熱膨張係数α2,α3,α4が上記式(I),(II),(III)を満足するものであれば特に限定されないが、高温安定性、耐食性などに優れる点で、RE2Si27で表される周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶(REは周期律表第3a族元素を示す)を構成成分とするのが好ましい。ここで、周期律表第3a族元素とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種である。周期律表第3a族元素のダイシリケートは、高温の水蒸気に対する耐食性も高く、高融点でもあり、たとえ表面耐食層6にピンホールやクラックが存在しても、セラミック基体2に対するその影響を小さくすることができ、中間層として有効である。
【0028】
具体的には、例えば、密着促進層3が周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とし、応力緩和層4が周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶および周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウム結晶の混合物を主成分とし、クラック進展防止層5が周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とするのがよい。
【0029】
特に、ダイシリケートとしては、Er2Si27、Yb2Si27およびLu2Si27の少なくとも1種を用いるのがよい。Er、YbおよびLuは、イオン半径が小さくイオン間の結合力が大きい。このため、Er、YbおよびLuを含むダイシリケートは熱膨張係数が比較的小さくなる。これにより、表面耐食層6などの被覆層の剥離を効果的に抑制することができる。また、Yは他の周期律表第3a族元素と比較して安価である点で好ましい。
【0030】
密着促進層3は、前記したように、その熱膨張係数α1が上記関係式(I)を満足する。すなわち、α0とα1が、略同一であること、具体的にはα1=0.8α0〜1.2α0、好ましくはα1=0.9α0〜1.1α0、より好ましくはα1=0.95α0〜1.05α0の関係を満足するのがよい。
【0031】
応力緩和層4におけるダイシリケート結晶の含有量は、70〜85質量%、好ましくは75〜80質量%であるのがよく、酸化ジルコニウム結晶の含有量は、15〜30質量%、好ましくは20〜25質量%であるのがよい。また、応力緩和層4において、酸化ジルコニウム結晶における周期律表第3a族元素の含有量は、3〜15モル%であるのがよい。応力緩和層4の熱膨張係数α2は、ダイシリケートと酸化ジルコニウムの比率を変えることにより調整できる。
【0032】
クラック進展防止層5は、その熱膨張係数α3が、上記式(II),(III)だけでなく、上記式(V)を満足するのが好ましい。式(V)のようにクラック進展防止層5の熱膨張係数α3とセラミック基体2の熱膨張係数α0との差が小さいとき、好ましくは熱膨張係数α0,α3が略同一のときには、表面耐食層6などの被覆層がセラミック基体2から剥離するのを防止する効果がさらに高められる。(α3−α0)>1.5×10-6/℃のときには、クラック進展防止層5の熱膨張係数α3と、応力緩和層3および表面耐食層6の熱膨張係数α2,α4との差が小さくなりすぎてクラック進展防止層5に付与される圧縮応力が小さくなり、クラックの進展を防止する効果が小さくなるおそれがある。一方、(α3−α0)<−1.5×10-6/℃のときには、クラック進展防止層5の熱膨張係数α3と、表面耐食層6の熱膨張係数α4との差が大きくなりすぎて、表面耐食層6が剥離しやすくなるおそれがある。
【0033】
密着促進層3、応力緩和層4およびクラック進展防止層5の厚みは、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは15〜50μmであるのがよい。厚みが200μmを超えると、各層が剥離しやすくなるおそれがある。一方、厚みが5μm未満になると、密着性の向上、応力の緩和、クラックの進展防止という各層の機能が十分に得られなくなるおそれがある。
【0034】
また、中間層7を構成する各層の気孔率は、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下であるのがよい。これは、たとえ表面耐食層6にピンホールやクラックが存在しても、セラミック基体2に対するその影響を小さくすることができるためである。
【0035】
<表面耐食層>
表面耐食層6は、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする。酸化ジルコニウム結晶における周期律表第3a族元素の含有量は、酸化ジルコニウムを安定化させ、水蒸気に対する耐食性に大きな影響を与えない範囲であればよく、好ましくは3〜15モル%、より好ましくは5〜12モル%であるのがよい。
【0036】
また、表面耐食層6を構成する結晶は、柱状結晶からなり、該柱状結晶の長軸がセラミック基体2の表面に略垂直であるのが好ましい。これは、熱応力により表面耐食層6にクラックが入っても、柱状結晶の界面においてクラックが発生するため、表面耐食層6がクラック進展防止層5から剥がれることなく付着した状態をより確実に維持することができるからである。すなわち、表面耐食層6がセラミック基体2の表面に略垂直な柱状結晶からなるときには、クラックがセラミック基体2に垂直な方向に入りやすく、セラミック基体2に平行な方向や斜め方向には進展しにくくなる。一方、このような柱状結晶でない場合には、クラックがセラミック基体2に対して平行な方向や斜め方向に進展し、他のクラックと交わって、表面耐食層が剥離する可能性がある。上記のようにセラミック基体2の表面に略垂直な柱状結晶は、例えばElectro Beam-Phisical Vaper Deposition (EB−PVD)法を用いることにより形成することができる。
【0037】
さらに、表面耐食層6は、AlおよびSiの含有量の合計が好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下であるのがよい。
AlおよびSiの含有量が合計で1質量%を越えると、高温水蒸気中における耐腐食性が低下するおそれがある。
【0038】
また、表面耐食層6は、気孔率が好ましくは1〜30%、より好ましくは2〜15%であるのがよい。これにより、例えば、ガスタービンエンジン等の熱機関において、表面耐食層6に微粒子が衝突してもクラックの発生やクラックの進展を効果的に抑制し、欠けや剥離を抑制することができる。
【0039】
表面耐食層6の厚みは、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは15〜50μmであるのがよい。表面耐食層6の厚みが5μm未満になると、微粒子等の衝突により剥離してしまうおそれがある。一方、表面耐食層6の厚みが200μmを超えると、他の層との熱膨張係数差の影響が強くなり表面耐食層6が剥離しやすくなるおそれがある。
【0040】
<製造方法>
次に、耐食性窒化珪素セラミックス1の製造方法について説明する。
まず、平均粒径0.2〜0.6μm程度の窒化珪素粉末に、酸化ルテチウム、二酸化ケイ素等の焼結助剤や、必要に応じて他の成分を混合し、さらにバインダー、溶媒等を添加し混合してスラリーを得る。ついで、得られたスラリーを乾燥した後、プレス成形などの方法で成形し、1800〜1900℃で5〜10時間焼成することによりセラミック基体2を得る。
【0041】
ついで、密着促進層3、応力緩和層4、クラック進展防止層5および表面耐食層6の原料となるスラリーを作製する。これらのスラリーは、焼成後の熱膨張係数が上記式(I)〜(III)、好ましくは式(I)〜(V)を満足するように、各成分を配合して調製される。具体的には、例えば密着促進層が周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とし、応力緩和層が周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶および周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウム結晶の混合物を主成分とし、クラック進展防止層が周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とする場合を例に挙げると、焼成後の熱膨張係数α0,α1,α2,α3,α4は、それぞれ以下のような範囲であるのがよい。
【数9】

【0042】
次に、セラミック基体2の表面に、密着促進層3用のスラリーをスプレーガンで吹き付けて塗布し、乾燥した後、1400〜1700℃で0.5〜5時間の熱処理を行って密着促進層3を形成する。この密着促進層3の表面に、応力緩和層4用のスラリーを上記と同様にしてスプレーガンで吹き付けて塗布し、乾燥した後、熱処理を行って応力緩和層4を形成する。さらに、この応力緩和層4の表面に、クラック進展防止層5用のスラリーを上記と同様にしてスプレーガンで吹き付けて塗布し、乾燥した後、熱処理を行ってクラック進展防止層5を形成する。最後に、このクラック進展防止層5の表面に、表面耐食層6用のスラリーをスプレーガンで吹き付けて塗布し、乾燥した後、熱処理を行って表面耐食層6を形成する。
【0043】
また、上記のように密着促進層3、応力緩和層4、クラック進展防止層5および表面耐食層6を個別に焼成するのではなく、例えばセラミック基体2上に、各層のスラリーを順次塗布し乾燥した後、これらの各層を同時に焼成することもできる。密着促進層3、応力緩和層4、クラック進展防止層5および表面耐食層6は、上記のようにしてスラリーを塗布する方法の他、例えば蒸着法、CVD法、スパッタ法等の薄膜形成法や溶射法などを用いて形成することもできる。
【0044】
[他の実施形態]
図2は、本発明の他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。図2に示すように、この耐食性窒化珪素セラミックス11は、セラミック基体2上に、中間層17を介して、表面耐食層6が積層されたものである。中間層17は、応力緩和層4およびクラック進展防止層5により構成され、これらの各層がこの順にセラミック基体2上に積層されている。すなわち、この耐食性窒化珪素セラミックス11は、前述した耐食性窒化珪素セラミックス1から、密着促進層3を除いた形態である。これにより、製造工程が簡略化され、コストダウンを図ることができる。
【0045】
また、この耐食性窒化珪素セラミックス11は、セラミック基体2、中間層17および表面耐食層6が前記関係式(II),(III)を満足している。クラック進展防止層5は、該クラック進展防止層5よりも熱膨張係数の大きな応力緩和層4(熱膨張係数α2)と表面耐食層6(熱膨張係数α4)の間に配置されている。これにより、表面耐食層6にクラックが生じた場合であっても、このクラックがセラミック基体2側に向かって進展するのを防止することができる。他の部位については、図1と同様の構成であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0046】
図3は、本発明のさらに他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。図3に示すように、この耐食性窒化珪素セラミックス21は、前述した耐食性窒化珪素セラミックス1との相違点が中間層27にある。この中間層27は2層のクラック進展防止層5,5’を含む複数の層からなる。
【0047】
耐食性窒化珪素セラミックス21は、セラミック基体2、中間層27および表面耐食層6が前記関係式(I)〜(III)を満足している。すなわち、クラック進展防止層5は、該クラック進展防止層5よりも熱膨張係数の大きな応力緩和層4(熱膨張係数α2)と応力緩和層4’(熱膨張係数α2)の間に配置されており、クラック進展防止層5’は、該クラック進展防止層5’よりも熱膨張係数の大きな応力緩和層4’(熱膨張係数α2)と表面耐食層6(熱膨張係数α4)の間に配置されている。このように中間層27には、2層のクラック進展防止層5,5’が含まれているので、より高いクラック進展防止効果を得ることができる。他の部位については、図1と同様の構成であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0048】
図4は、本発明のさらに他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。図4に示すように、この耐食性窒化珪素セラミックス31は、中間層37が2層のクラック進展防止層5,5’を含み、さらに耐食層6’をも含む複数の層からなる。この耐食層6’は、上述した表面耐食層6と同様の成分、すなわち周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする耐食性に優れた層であり、その熱膨張係数は、表面耐食層6と同程度である。
【0049】
この耐食性窒化珪素セラミックス31は、セラミック基体2、中間層37および表面耐食層6が前記関係式(I)〜(III)を満足している。すなわち、クラック進展防止層5は、該クラック進展防止層5よりも熱膨張係数の大きな応力緩和層4(熱膨張係数α2)と耐食層6’(熱膨張係数α4)の間に配置されており、クラック進展防止層5’は、該クラック進展防止層5’よりも熱膨張係数の大きな耐食層6’(熱膨張係数α4)と表面耐食層6(熱膨張係数α4)の間に配置されている。このように中間層37には、上記した中間層27と同様に、2層のクラック進展防止層5,5’が含まれているので、より高いクラック進展防止効果を得ることができる。また、2層の耐食層(表面耐食層6および耐食層6’)が含まれているので、耐食性をさらに向上させることができる。他の部位については、図1と同様の構成であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0050】
図5は、本発明のさらに他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。図5に示すように、この耐食性窒化珪素セラミックス41は、前述した耐食性窒化珪素セラミックス1の構成に加えて、さらに、表面耐食層6上にクラック被覆層8が積層された形態を有している。したがって、たとえ表面耐食層6にクラックが生じていても、クラック被覆層8で覆い隠すことができるので、最表面にクラックが露出しない。これにより、外観面における製品価値を高めることができる。
【0051】
クラック被覆層8は、まず、耐食性に優れていることが重要である。このため、高耐食性の周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とすることが好ましい。また、セラミック基体2に対して水平方向への結合が弱く、垂直方向への結合が強い構造が好ましい。具体的には、EB−PVD法で形成した柱状結晶からなり、該柱状結晶の長軸がセラミック基体2の表面に略垂直であることが望ましい。また、クラック被覆層8は、表面耐食層6の表面に、スラリーを塗布し乾燥した後、熱処理して形成することもできる。この方法の場合、粒径の大きな周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを用いることで、水平方向への緻密化は抑制され、垂直方向への緻密化が促進される。他の部位については、図1と同様の構成であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0052】
なお、上記実施形態では、中間層7を構成する密着促進層3、応力緩和層4およびクラック進展防止層5の材料として、周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を構成成分とする場合について説明したが、本発明の耐食性窒化珪素セラミックスでは、これらの中間層を構成する材料として、例えば周期律表第3a族元素のモノシリケート、ムライト、コーディエライトなどを使用することもできる。
【0053】
また、本発明の耐食性窒化珪素セラミックスは、中間層に少なくとも1層のクラック進展防止層が含まれていればよく、中間層を構成する各層の成分、層数等は特に限定されるものではない。したがって、中間層が、3層以上のクラック進展防止層を含んでいてもよい。
【0054】
以上のような構成を有する本発明の耐食性窒化珪素セラミックスは、特に、耐酸化性および水蒸気に対する耐食性に優れるため、タービンロータ、ノズル、コンバスタライナ、トランジションダクトなどのガスタービンエンジン用部品等の熱機関部品に好適に用いることができる。
【0055】
[実施例]
以下、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明の耐食性窒化珪素セラミックスは、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(試料No.1〜19)
以下の手順で、図1に示すような形態の試料No.1〜19の試験片を作製した。
<セラミック基体>
平均粒径0.5μmの窒化珪素粉末に、焼結助剤として酸化ルテチウム3モル量%と二酸化珪素6モル%を加えて1900℃で10時間焼成することにより窒化珪素焼結体(セラミック基体)を得た。ついで、このセラミック基体を縦4mm、横40mm、厚み3mmの形状に加工した。このセラミック基体の熱膨張係数α0は3.5×10-6/℃であった。
【0057】
<密着促進層>
上記で得られたセラミック基体の熱膨張係数により近いEr2Si27、Yb2Si27およびLu2Si27のいずれか1種類の粉末からなるスラリーを作製し、このスラリーをスプレーガンでセラミック基体の表面に吹き付けて塗布し、乾燥した後、温度1650℃で1時間の熱処理を行って、表1に示す厚みおよび熱膨張係数α1を有する密着促進層を形成した。
【0058】
<応力緩和層>
セラミック基体の熱膨張係数α0と表面耐食層の熱膨張係数α4の中間の熱膨張係数を持つEr2Si27、Yb2Si27およびLu2Si27のいずれか1種類の粉末と、Yで安定化された酸化ジルコニウム粉末の混合粉末からなるスラリーを作製し、このスラリーをスプレーガンで密着促進層の表面に吹き付けて塗布し、乾燥した後、温度1630℃で1時間の熱処理を行って、表1に示す厚みおよび熱膨張係数α2を有する応力緩和層を形成した。なお、焼成後の応力緩和層における酸化ジルコニウムとダイシリケートの含有量は、それぞれ酸化ジルコニウムが20質量%、ダイシリケートが80質量%であった。
【0059】
<クラック進展防止層>
Er2Si27、Yb2Si27およびLu2Si27のいずれか1種類の粉末からなるスラリーを作製し、このスラリーをスプレーガンで応力緩和層の表面に吹き付けて塗布し、乾燥した後、温度1600℃で1時間の熱処理を行って、表1に示す厚みおよび熱膨張係数α3を有するクラック進展防止層を形成した。
【0060】
<表面耐食層>
純度99.9%のジルコニア粉末と、表1に示す安定化剤の粉末と含有するスラリーを作製し、このスラリーをスプレーガンでクラック進展防止層の表面に吹き付けて塗布し、乾燥した後、温度1600℃で1時間の熱処理を行って、厚み15μmの表面耐食層を形成した。
【0061】
(試料No.20,21)
密着促進層、応力緩和層およびクラック進展防止層の材料であるスラリーに、ムライトまたはコーディエライトの粉末を含有させた他は、上記の試料No.1〜19と同様にして、セラミック基体を作製し、このセラミック基体上に密着促進層、応力緩和層および表面耐食層を形成し、試料No. 20,21の試験片を得た。なお、焼成後の応力緩和層における酸化ジルコニウムとダイシリケートの含有量は、それぞれ酸化ジルコニウムが20質量%、ダイシリケートが60質量%であり、ムライトまたはコーディエライトの含有量は20質量%であった。
【0062】
(試料No.25)
密着促進層を設けていない他は、各層を試料No.2と同じ材料で同じ厚みに形成して、図2に示すような形態の試料No.25の試験片を得た。
【0063】
(試料No.26)
図3に示すように、クラック進展防止層5と表面耐食層6との間に、さらに応力緩和層4’およびクラック進展防止層5’を形成した他は、各層を試料No.2と同じ材料で同じ厚みに形成して試料No.26の試験片を得た。応力緩和層4’は、応力緩和層4と同じ材料で同じ厚みに形成し、クラック進展防止層5’は、クラック進展防止層5と同じ材料で同じ厚みに形成した。
【0064】
(試料No.27)
図4に示すように、クラック進展防止層5と表面耐食層6との間に、さらに耐食層6’およびクラック進展防止層5’を形成した他は、各層を試料No.2と同じ材料で同じ厚みに形成して試料No.27の試験片を得た。耐食層6’は、表面耐食層6と同じ材料で同じ厚みに形成し、クラック進展防止層5’は、クラック進展防止層5と同じ材料で同じ厚みに形成した。
【0065】
(試料No.28)
図5に示すように、表面耐食層6の表面にクラック被覆層8を形成した他は、各層を試料No.2と同じ材料で同じ厚みに形成して試料No.28の試験片を得た。クラック被覆層8は、表2に示す材料を用い、EB−PVD法で形成した柱状結晶からなり、該柱状結晶の長軸がセラミック基体2の表面に略垂直であった。
【0066】
[比較例]
(試料No.22〜24)
クラック進展防止層を形成していない他は、上記の試料No.1〜19と同様にして、セラミック基体を作製し、このセラミック基体上に密着促進層、応力緩和層および表面耐食層を形成し、試料No.22〜24の試験片を得た。
【0067】
<評価>
得られた試料No.1〜28の試験片を用いて熱衝撃性試験を行った。熱衝撃性試験は、1300℃までの昇温と300℃までの降温を繰り返す熱サイクル試験を1000サイクル行い、表面耐食層に剥離が見られるか否かを顕微鏡を用いて観察した。剥離の観察は100サイクル毎に実施した。結果を表1に示す。
【0068】
なお、各層の熱膨張係数は、各層と同組成の焼結体を作製し、この焼結体の熱膨張係数をTMA法(JIS R 1618)を用いて40〜1200℃の温度範囲で測定することにより得た。気孔率は、各試料の断面を鏡面仕上げし、この断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得られた画像中のボイドを画像処理して定量化することにより得た。結晶の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により評価した。また、表1中の「MU」はムライト、「CJ」はコーディエライト、「柱状」は柱状結晶をそれぞれ示し、「垂直」は、結晶の長軸がセラミック基体表面に略垂直であることを示す。
【表1】

【表2】

【0069】
表1から、クラック進展防止層を有していない試料No.22〜24では、200回以下の熱衝撃試験で被覆層に剥離が生じたことがわかる。一方、本発明の範囲内である試料No.1〜21およびNo.25〜28では、No.22〜24と比較して、格段に耐熱衝撃性が向上していることがわかる。特に、各層の膜厚が10〜100μmの範囲にある試料No.1〜14,16,17,20,21,25〜28では、1000サイクルの熱衝撃試験後も、セラミック基体からの被覆層の剥離が無く、熱サイクル等の耐熱衝撃性に極めて優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態にかかる耐食性窒化珪素セラミックスを示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 耐食性窒化珪素セラミックス
2 セラミック基体
3 密着促進層
4 応力緩和層
5 クラック進展防止層
6 表面耐食層
7 中間層
8 クラック被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、
前記中間層は、少なくとも1層のクラック進展防止層を含む複数の層からなり、
前記クラック進展防止層は、該クラック進展防止層よりも熱膨張係数の大きな層の間に配置されていることを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項2】
前記中間層は2層以上の前記クラック進展防止層を含み、
各クラック進展防止層は、該クラック進展防止層よりも熱膨張係数の大きな層の間にそれぞれ配置されている請求項1記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項3】
窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、
前記中間層は、応力緩和層およびクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されており、かつ、下記関係式(II),(III)を満足することを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
【数1】

【請求項4】
窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、
前記中間層は、密着促進層、応力緩和層およびクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されており、かつ、下記関係式(I)〜(III)を満足することを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
【数2】

【請求項5】
前記セラミック基体の熱膨張係数α0、応力緩和層の熱膨張係数α2および表面耐食層の熱膨張係数α4が、下記関係式(IV)を満足する請求項4記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【数3】

【請求項6】
前記セラミック基体の熱膨張係数α0およびクラック進展防止層の熱膨張係数α3が、下記関係式(V)を満足する請求項4または5記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【数4】

【請求項7】
窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、
前記中間層は、周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶および周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウム結晶の混合物を主成分とする応力緩和層、および周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とするクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されていることを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項8】
窒化珪素を主成分とするセラミック基体上に、中間層を介して、周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウムを主成分とする表面耐食層が積層された耐食性窒化珪素セラミックスであって、
前記中間層は、周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とする密着促進層、周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶および周期律表第3a族元素で安定化された酸化ジルコニウム結晶の混合物を主成分とする応力緩和層、および周期律表第3a族元素のダイシリケート結晶を主成分とするクラック進展防止層により構成され、これらの各層がこの順に前記セラミック基体上に積層されていることを特徴とする耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項9】
前記クラック進展防止層を構成するダイシリケート結晶がEr2Si27、Yb2Si27およびLu2Si27から選ばれる少なくとも1種からなる請求項7または8記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項10】
前記クラック進展防止層が前記セラミック基体と略同一の熱膨張係数を有している請求項7〜9のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項11】
前記クラック進展防止層の厚みが5〜200μmである請求項1〜10のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項12】
前記表面耐食層の厚みが5〜200μmである請求項1〜11のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項13】
前記密着促進層および応力緩和層の厚みが5〜200μmである請求項4または8記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項14】
前記表面耐食層が柱状結晶からなり、該柱状結晶の長軸が前記セラミック基体の表面に略垂直である請求項1〜13のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項15】
前記表面耐食層は、AlおよびSiの含有量の合計が1質量%以下であり、気孔率が1〜30%である請求項1〜14のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項16】
前記表面耐食層がクラックを有する請求項1〜15のいずれかに記載の耐食性窒化珪素セラミックス。
【請求項17】
前記表面耐食層上には、該表面耐食層のクラックを覆い隠すためのクラック被覆層が積層されている請求項16記載の耐食性窒化珪素セラミックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−28002(P2006−28002A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275135(P2004−275135)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)