説明

耐高温腐食性皮膜及びそれにより保護された部品

【解決手段】高温に曝露される物品10の超合金又はケイ素含有基材12上の皮膜系14。皮膜系14は、基材12の上を覆い、溶融塩不純物により促進される高温腐食に対して感受性である皮膜層16,18,20,22,24を含む。耐食性皮膜26は、皮膜層16,18,20,22,24の上を覆い、溶融塩不純物と反応して緻密で保護性の副生成物障壁層28を形成する1種以上の希土類酸化物含有化合物を含有する。
【効果】溶融塩により開始される高温腐食から、下にある皮膜又は基材を保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン内の熱ガス流路のような高温環境に曝露される部品を保護するのに適した皮膜系に関する。より特定的には、本発明は、溶融塩により開始される高温腐食から、下にある皮膜又は基材を保護することができる皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの効率を増大するために、より高い作動温度が絶えず追求されている。ニッケル基、コバルト基及び鉄基超合金が航空機及び発電産業を含む各種の産業におけるガスタービンエンジンの部品の材料として広く使用されている。作動温度が上昇するにつれて、エンジン部品の高温耐久性はそれに対応して増大しなければならない。このため、燃焼器、高圧タービン(HPT)動翼及び静翼のような部品に遮熱コーティング(TBC)が一般に使用されている。TBCの遮熱により、超合金及びその他の高温材料で形成された部品がより高い作動温度に耐えることが可能になり、部品の耐久性が増大し、エンジンの信頼性が改良される。TBCは通例、環境保護用のボンドコート上に付着した遮熱セラミック材料を含み、TBC系といわれるものを形成している。TBC系に広く使用されているボンドコート材料には、MCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属、及び/又は別の反応性金属である。)のような耐酸化性のオーバーレイ皮膜、及びアルミ化物金属間化合物のような化合物を含有し得る耐酸化性の拡散皮膜がある。イットリア安定化ジルコニア(YSZ)は、その高温能力、低い熱伝導率、及び比較的容易な蒸着のためにTBC系の遮熱セラミック材料として広く使われている。
【0003】
ガスタービンエンジンのより高い作動温度を達成し、従ってその効率を上昇するために、超合金に取って代わる代替の材料が提案されて来ている。特に、ケイ素系非酸化物セラミック、とりわけ炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、及び/又は強化相及び/又はマトリックス相として機能するケイ化物が、ガスタービンエンジンの燃焼器ライナー、静翼、シュラウド、エアフォイル、及びその他の高温部部品のような高温用途向けの候補である。しかしながら、ガスタービンエンジン内のような高温の水蒸気に富む燃焼雰囲気に曝露されると、Si系セラミックから形成された部品は、揮発性の水酸化ケイ素(Si(OH)4)の形成のため質量が減少し後退する。ガスタービンエンジン環境内の揮発又は腐食による後退速度は、一般に耐環境皮膜(EBC)といわれる環境保護性の皮膜を必要とする程充分に高い。
【0004】
Si系材料で形成されたガスタービンエンジン部品を保護する目的のEBCの重大な要件には、安定性、低い熱伝導率、Si系セラミック材料と適合する熱膨張係数(CTE)、酸化剤に対する低い透過性、並びにSi系材料、及びSi系材料又は(以下に述べるように)EBCとSi系セラミック材料の接着を促進するために存在し得るSi系保護ボンドコートの酸化により生成するシリカスケールとの化学的相溶性がある。ケイ酸塩、特にバリウム−ストロンチウム−アルミノケイ酸塩(BSAS、(Ba1xSrx)O−Al23−SiO2)及びその他のアルカリ土類アルミノケイ酸塩が、その環境保護特性及び低い熱伝導率の点からEBCとして提案されている。例えば、Eatonらの米国特許第6254935号、同第6352790号、第6365288号、第6387456号、及び第6410148号には、Si系基材のための外側の保護皮膜としてのBSAS及びアルカリ土類アルミノケイ酸塩の使用が開示されており、化学量論的BSAS(モル比:0.75BaO・0.25SrO・Al23・2SiO2、モル%:18.75BaO・6.25SrO・25Al23・50SiO2)が一般に好ましいアルカリ土類アルミノケイ酸塩組成である。RE2Si27及びRE2SiO5のような希土類(RE)ケイ酸塩の保護性のEBC皮膜材料としての使用も、米国特許第6296941号、第6312763号、第6645649号、第6759151号及び第7595114号に報告されているように提案されている。特定の例として、式RE2SiO5、RE4Si312、又はRE2Si27の希土類ケイ酸塩からなるEBCが米国特許第6759151号に開示されており、式中のREはSc、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Eu、Tb、又はこれらの組合せである。ケイ素含有基材とその保護EBC層との間にムライト(3Al23・2SiO2)のような中間層及びケイ素のようなボンドコートが、基材に対するEBC接着を促進し、層間反応を制限し、また基材内への酸化剤の浸透を抑制するために提案されている。例えば、本出願人に譲渡されているWangらの米国特許第6299988号及び第6630200号には、特にSiC又は窒化ケイ素を含有する基材に対する適切なボンドコート材料としてケイ素及びケイ素含有材料が開示されている。特定の部品が約2500°F(約1370℃)を越える表面温度にさらされる場合、本出願人に譲渡されているSpitsbergらの米国特許第5985470号に従って上にある遮熱コーティング(TBC)でEBCを熱的に保護することができる。これらの層は、一緒になって、熱/耐環境皮膜(T/EBC)系といわれるものを形成する。上述のように、ガスタービン用途に最も一般的に使用されているTBC材料はイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である。本出願人に譲渡されているWangらの米国特許第6444335号に教示されているように、TBCと下にあるEBCとの間に遷移層、例えば、YSZとアルミナ、ムライト、及び/又はアルカリ土類金属アルミノケイ酸塩との混合物を備えることができる。
【0005】
エンジン環境内の高温により、燃料内の汚染物質がニッケル基、コバルト基及び鉄基超合金で形成された部品を腐食し、またその部品を保護するために使われているTBC系を腐食し不安定化する可能性があることが知られている。高温腐食といわれるこの現象は、部品又はその保護性の表面酸化物の表面上に溶融塩付着物を形成するNa2SO4及びV25のような不純物の存在の結果として加速される腐食である。この溶融塩の付着物による腐食性の攻撃は中間の温度範囲にわたって起こり得る。例えば、溶融したNa2SO4の付着物によって起こされるタイプIのナトリウム高温腐食は通例約880℃〜約1000℃の温度範囲にわたって起こり、一方溶融したV25の付着物によるバナジウム高温腐食は通例約660℃〜約1000℃の温度範囲にわたって起こる。高温腐食の詳細な機構は攻撃される材料の種類及び腐食物質の種類と共に変化するが、いずれの場合も構造材料又は皮膜の劣化は迅速であり得、その部品は表面温度、溶融塩の付着速度、及び燃料中の有害なカチオン(例えば、ナトリウム及び/又はバナジウム)の濃度に応じて数十〜数千時間内に酷い損傷を受け得る。このタイプの腐食は、酸化と異なり、迅速な速度で超合金部品を消耗し、悲劇的な故障に至ることが知られている。SiC及びSi34のようなSi系材料のNa2SO4及びV25不純物による感受性は研究室実験で実証されている。一方、BSAS及びREケイ酸塩を始めとするEBC材料の、Na2SO4及びV25不純物による高温腐食に対する感受性は殆ど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7595114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点及び不確定さにもかかわらず、ガスタービンエンジンを使用する産業界では、より廉価な低品位であり、結果としてより高い濃度の塩不純物を含有し、従って高温腐食の問題を悪化させる燃料を使用とする要望がある。高温腐食を緩和するのに最も一般的な方法として、低くて比較的に無害な濃度の腐食性元素(例えば、1ppm未満のNa及び0.5ppm未満のV)を含有する燃料のみを指定すること、燃焼に先立って燃料を水洗して可溶性のNa種を除去すること、及び反応性の元素、例えばマグネシウムを含有する一定量の適切な化合物を注入して、燃料中のバナジウムと反応させ、Mg328のような高い融解温度の比較的に不活性な化合物を形成することがある。燃料価格が上昇している中で、比較的に高いレベル腐食性の種、例えば10ppmを越えるNa2SO4及び/又はV25を含有するより廉価な燃料でタービンエンジンを作動させることは極めて有利であろう。反応性の元素の使用及び燃料の洗浄の他に、かかる燃料の使用を許容する追加の手段があれば望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は一般に、超合金及びSi含有材料、特に航空機及び発電産業で使用されるガスタービンエンジンの過酷な熱的環境のような高温に曝露される部品のための皮膜系を提供する。かかる材料の例としては、ニッケル基、コバルト基及び鉄基超合金のような金属組成物、並びにケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、金属ケイ化物合金(例えば、ニオブ及びモリブデンのケイ化物)のようなSi含有材料、等がある。Si含有材料のより具体的な例としては、金属又は非金属マトリックス中に炭化ケイ素、窒化ケイ素、金属ケイ化物及び/又はケイ素粒子の分散物を強化材として含むもの、並びに炭化ケイ素、窒化ケイ素、金属ケイ化物及び/又はケイ素含有マトリックスを有するもの、特に炭化ケイ素、窒化ケイ素、金属ケイ化物及び/又はケイ素を強化斉及びマトリックス材料の両方として使用する複合材(例えば、SiC/SiCセラミックマトリックス複合材(CMC))がある。
【0009】
本発明の第1の態様によると、皮膜系は超合金又はケイ素含有材料で形成された基材の上を覆っている。基材及び/又は皮膜系の1以上の皮膜層は溶融塩不純物により促進される高温腐食に対して感受性である。皮膜系はさらに、皮膜系の上を覆っていて、溶融塩不純物と反応して、好ましくは皮膜系の連続した最も外側の表面層を規定する緻密な保護障壁層を形成する1種以上の希土類酸化物含有化合物を含有する耐食性皮膜を含んでいる。
【0010】
本発明の第2の態様によって、超合金又はケイ素含有材料で形成された基材、及び基材上の皮膜系を含むガスタービンエンジン部品が提供される。基材又は皮膜系の1種以上の皮膜層は溶融塩不純物により促進される高温腐食に対して感受性である。耐食性皮膜が皮膜系の上を覆っており、これは、溶融塩不純物と反応して、好ましくは皮膜系の連続した最も外側の表面層を規定する緻密な保護障壁層を形成する1種以上の希土類酸化物含有化合物を含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の技術的効果は、不純物の結果として生成する溶融塩付着物、例えばNa2SO4又はV25と反応することによって、耐食性皮膜の希土類酸化物含有化合物が副生成物障壁層を形成することができ、その化学的性質が、さらなる溶融塩不純物の浸透を抑制するか又は少なくとも遅らせることにより、下にある基材及び/又は皮膜系、例えば遮熱コーティング又は耐環境皮膜(TBC及びEBC)の不安定化を予防することである。従って、耐食性皮膜は、下にある基材及び/又は皮膜系の塩腐食(高温腐食)に対する抵抗性を大幅に高めることができる。希土類酸化物を含有する耐食性皮膜の付加的な利点として、水蒸気に富む燃料の燃焼環境における揮発に対する抵抗性、並びに保護するべき超合金又はSi含有基材の熱膨張係数と実質的に合致し、従って有害な亀裂の発生又は剥落に対する抵抗性を増進する熱膨張係数がある。本発明は遮熱及び耐環境皮膜系に使用される公知の皮膜材料と共に使用するのに適用することができ、耐食性皮膜は当技術分野で一般に知られている様々なプロセスを用いて設けることができる。
【0012】
本発明の他の態様及び利点は以下の詳細な説明からよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、Si含有材料で形成され、熱/耐環境皮膜系により保護され、さらに本発明に従って耐食性皮膜を備えたガスタービンエンジン部品の断面図を概略的に示す。
【図2】図2は、超合金材料で形成され、遮熱コーティング(TBC)系により保護され、さらに本発明に従って耐食性皮膜を備えたガスタービンエンジン部品の断面図を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、超合金部品及びケイ素を含有する部品並びにそれらの保護性のTBC及びEBC系(熱/耐環境皮膜(T/EBC)系を含む)を、低品位燃料中に存在する不純物の結果として生成するもののような溶融塩による攻撃及び不安定化から保護するのに適した希土類(RE)酸化物を含有する皮膜を提供する。かかる塩の注目に値する例としては、限定されることはないが、Na2SO4及び/又はV25から形成されるものがある。TBC及びEBC系により保護される超合金部品及びケイ素を含有する部品の例としては、燃焼器部品、タービン動翼及び静翼、並びにその他の、航空機及び発電産業を始めとする様々な産業で使用されるガスタービンエンジンの熱ガス流路内の部品がある。超合金材料の例としては、ニッケル基、コバルト基及び鉄基合金があり、ケイ素含有材料の例としては、金属又は非金属マトリックス中に炭化ケイ素、窒化ケイ素、金属ケイ化物(例えばニオブ及びモリブデンのケイ化物)及び/又はケイ素強化材の分散物を含むもの、並びに炭化ケイ素、窒化ケイ素及び/又はケイ素含有マトリックスを有するもの、特に炭化ケイ素、窒化ケイ素、金属ケイ化物(例えばニオブ及びモリブデンのケイ化物)及び/又はケイ素を強化材及びマトリックス材料として使用する複合材(例えば、セラミックマトリックス複合材(CMC))がある。ガスタービンエンジン部品を参照して本発明の利点を記載するが、本発明の教示は基材及び/又は皮膜系が溶融塩による攻撃にさらされるあらゆる部品に広く応用可能である。
【0015】
多層熱/耐環境皮膜T/EBC系14を図1に概略的に示す。図1に示されているように、ケイ素を含有する部品10の基材12は、場合により遮熱コーティング(TBC)18を含む皮膜系14により保護されている。皮膜系14は下にある部品10の基材12に対して環境保護を提供し、一方任意のTBC18は部品10並びに皮膜系14の内部の層16、20、22、及び24の作動温度を低下させ、これにより部品10は他の場合に可能なものより高い高温環境内で存続することが可能になる。図1では皮膜系14が層16、18、20、22及び24の各々を含有するものとして示されているが、これらの層の1以上を皮膜系14から省略することができることは以下の説明から明らかになるであろう。従って、図1の皮膜系14は本発明の範囲内の種々の異なる皮膜系の1つを表している。
【0016】
図1に示した皮膜系14の内部の層22は、直接基材12に付けられるボンドコート16によって基材12に接着される環境障壁層22といわれる。図1に示した他の層は遷移又は中間層20及び遷移層24を含む。本発明の好ましい態様によると、皮膜系14はさらに、部品10の最も外側の層として設けられた耐食性皮膜26を含んでいる。以下により詳細に述べるように、耐食性皮膜26は溶融塩の浸透を抑制することにより内部の層16、20、22、24、及び18、特に環境障壁層22の腐食攻撃を防止するか又は少なくとも抑制する。
【0017】
腐食性の環境における炭化ケイ素(並びにケイ素及びその他のケイ素化合物)の主要な劣化機構は揮発性の水酸化ケイ素(Si(OH)4)生成物の形成である。TBC18として使用するのに通例適切な材料中の酸化剤の拡散率は、殊にTBC18がPVDによる付着の結果柱状の粒状組織を有する場合、一般に非常に高いので、障壁層22は、個別に、好ましくは皮膜系14の他の層と一緒になって、水蒸気のような酸化剤に対して低い拡散率を示して、ボンドコート16及び/又は基材12内における有害な結晶性酸化生成物の形成を阻害する。障壁層22として好ましい組成物はまた基材12に対して化学的かつ物理的に相溶性であって、厳格な熱的条件下で領域12に接着したままである。米国特許第5496644号、第5869146号、第6254935号、第6352790号、第6365288号、第6387456号、及び第6410148号(関連する内容は援用により本明細書の一部をなす)の教示によると、障壁層22として適切な材料にはアルカリ土類金属アルミノケイ酸塩があり、その注目に値する例としてはカルシウムアルミノケイ酸塩、バリウムアルミノケイ酸塩、ストロンチウムアルミノケイ酸塩、殊にBSAS(上述)がある。代わりに、又は加えて、障壁層22は、例えば米国特許第6296941号、第6312763号、第6645649号及び第6759151号に従って希土類ケイ酸塩を含有し得る。上述のように、BSAS(特に化学量論的BSAS)及びその他の障壁層22として好ましい組成物はSi含有基材12並びに下にある層16及び20に対して環境保護を提供する。結果として、障壁層22は、部品10がガスタービンエンジンの酸化性の燃焼環境に曝露されたとき基材12における有害な結晶性シリカ層の成長を阻害することができる。さらに、障壁層22として好ましい組成物は、低い熱伝導率のために良好な遮熱特性を示し、基材12のようなSiCを含有する基材と物理的に適合しており、CTEの点でSi含有基材12と比較的に適合している。障壁層22として適切な厚さの範囲は約50〜約250μmである。
【0018】
上述のように、皮膜系14のボンドコート16は環境障壁層22(従って、残りの層18、20、24及び26)を基材12に接着する機能を果たす。ボンドコート16として好ましい組成物はケイ素を含有する。例えば、ボンドコート16は、元素状のケイ素、1種以上の追加の金属、金属間化合物又はセラミック相(例えば、炭化ケイ素及び/又は窒化ケイ素)を有するケイ素、及び/又は1種以上のケイ素合金(例えば、ケイ素アルミニウム、ケイ素クロム、ケイ素マグネシウム、ケイ素カルシウム、ケイ素モリブデン及び/又はケイ素チタン合金)を含有し得るか又はそれらからなり得る。本出願人に譲渡されているWangらの米国特許第6299988号及び第6630200号によると、層16にケイ素を含ませることは基材12の耐酸化性を改良するのに有用であり、他の層18、20、22、24及び26の基材12への結合力を高める(特に、領域12がSiC又は窒化ケイ素を含有する場合)。層16に適した厚さは約50〜約125μmである。
【0019】
中間層20は、ある種の用途において、部品10の障壁層22とボンドコート16及びその下にある基材12の接着を促進するのに有用である。中間層20として注目に値する材料としては、ムライト並びにムライトとアルカリ土類アルミノケイ酸塩、例えばBSAS、又は式RE2Si27の希土類ケイ酸塩の混合物がある。中間層20として適した厚さの範囲は個々の用途に応じて約25〜約75μmである。
【0020】
TBC18は、それが覆っている下にある障壁層22及び部品10を高い作動温度から保護するために使用される。液体燃料を燃焼するタービンエンジン内のバケット、ノズル、及びシュラウドのような熱ガス流路部品は遮熱コーティング(TBC)によって保護されることが多い。TBC18に適した材料としては、YSZ単独、又はTBC18のCTEを低減することができる他の添加酸化物を適当に付加したものがある。TBC18として代替の材料には、当技術分野で遮熱コーティングとして公知であり提案されている、ジルコン酸塩及びペロブスカイト材料のような他のセラミック材料がある。TBC18として適切な厚さの範囲は具体的な用途に応じて約25〜約750μmである。
【0021】
遷移層24は、存在する場合、TBC18と障壁層22とのCTEの不一致を緩和し、及び/又は、例えばTBC18がYSZを含有し、障壁層22が化学量論的BSASを含有するときのTBC18と障壁層22との反応を阻害するために使用し得る皮膜系14の任意の層である。TBC18がYSZを含有し、障壁層22がBSASを含有する場合、遷移層24として特に適した材料には、本出願人に譲渡されているWangらの米国特許第6444335号に教示されているように、YSZとアルミナ、ムライト、及び/又はアルカリ土類金属アルミノケイ酸塩との混合物がある。これまでに提案されている遷移層材料には式RE2Si27の希土類ケイ酸塩もある。遷移層24として適した厚さは具体的な用途に依存するが、約100μm以下の範囲の厚さが通例適切である。
【0022】
本発明に至る検討過程で、皮膜のないSi含有基材及びEBC系により保護されたSi含有基材の、溶融塩の付着物による高温腐食攻撃ら対する感受性を、中間の温度範囲にわたって評価した。既に述べたように、タイプIのナトリウム高温腐食は溶融したNa2SO4付着物により引き起こされ、バナジウム高温腐食は溶融したV25付着物により引き起こされる。腐食性の攻撃を開始させる腐食物質はガスタービンエンジン内で燃焼する燃料中に不純物として存在し得る。高温腐食の詳細な機構は攻撃される材料及び腐食物質の種類、曝露の温度及び時間、溶融塩の付着速度、並びに燃料中の有害なカチオン(例えば、ナトリウム及び/又はバナジウム)の濃度と共に変化する。皮膜のないSi含有基材及びEBC系により保護されたSi含有基材はいずれも腐食性の攻撃に対して極めて感受性であることが示された。この検討によって、CMCは、塩を生成する不純物を含有する低品位の燃料を燃焼するタービンの超合金代替物を超える本質的な利点を付与しないと決定された。皮膜系14のTBC18並びに他の層16、20及び22はSi及び/又は錯体のアルミノケイ酸塩を含有し得るので、これらは高温腐食に対して感受性であり、さらにべつの保護手段を必要とする。
【0023】
本発明の好ましい態様によると、皮膜系14の下にある層16、18、20、22及び24を高温腐食から保護するために、設けられた皮膜系14の最も外側の表面は耐食性皮膜26により形成され、この耐食性皮膜26は、高温で1種以上の溶融塩と、例えば、Na2SO4、V25、K2SO4、及びPbSO4のような不純物から形成される液体塩腐食物質と約600℃〜約1000℃範囲で反応することができる1種以上の希土類(RE)酸化物を含有する化合物を含有する。さらに、希土類酸化物含有化合物と溶融塩との反応は耐食性皮膜26の表面上に緻密で保護性の副生成物障壁層28を形成しなければならない。副生成物障壁層28は溶融塩自身より高い融解温度(例えば、約1200℃以上)を有し、溶融塩が下にある構造にさらに浸透するのを抑制するか又は遅らせる。
【0024】
特に適した希土類酸化物含有化合物としては、限定されることはないが、希土類酸化物(RE23)、希土類リン酸塩(REPO4)、希土類ジルコン酸塩(RE2Zr27)、希土類ハフニウム酸塩(RE2Hf27)、及び/又はその他の希土類酸化物を含有する化合物があり、その非限定例には希土類一ケイ酸塩(RE2SiO5)及び希土類二ケイ酸塩(RE2Si27)がある。本発明の好ましい実施形態において、希土類(RE)元素はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及び/又はLuの1種以上である。この1種以上の希土類酸化物含有化合物は、図1に皮膜系14及び部品10の連続した最も外側の層として示した副生成物障壁層28を形成するのに充分な量で耐食性皮膜26中に存在する。このため、1種以上の希土類酸化物含有化合物は、耐食性皮膜26の重量で少なくとも15%、例えば約30%〜約100%、より好ましくは約50%〜約100%を構成するべきである。希土類酸化物含有化合物に加えて、耐食性皮膜26はさらに、安定化されたジルコニア、特にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を始めとする慣用のTBC材料、及び/又はその他公知のTBC材料、例えば、ジルコン酸塩及びペロブスカイト材料のような他のセラミック材料を含有し得る。耐食性皮膜26として適切な厚さは少なくとも50μm、例えば約50μm〜約200μm、より好ましくは約75μm〜約125μmであり、好ましい厚さは特定の用途に依存する。
【0025】
既に記載したように、耐食性皮膜26中の1種以上の希土類酸化物含有化合物の存在は、高温における溶融塩との、特にガスタービンエンジンで燃焼し得る低品位燃料中の不純物の結果として生成し得る塩との反応を促進させることを意図している。耐食性皮膜26により形成される副生成物障壁層28として適切な組成物としてはREVO4、RE227及び/又はNa−RE−Si−O化合物があり、ここでREは耐食性皮膜26の希土類酸化物の希土類金属である。例えば、希土類酸化物含有化合物としてY23(イットリア)のような希土類酸化物を少なくとも15重量%含有する耐食性皮膜26はV25と反応してYVO4反応生成物を形成することができ、これは約1810℃の融解温度を有し、副生成物障壁層28を形成し、この層がその後皮膜系14の内部の層16、20、22、24及び18への追加のV25の浸透を阻害する。イットリアはまた、Na2SO4のようなNa2Oを含有する溶融塩とも反応して、約1365℃程度に高くなり得る融解温度を有するNa−Y−Si−O化合物を形成すると考えられる。従って、充分な量のイットリア及び/又は1種以上の同様な希土類酸化物含有化合物を含有する耐食性皮膜26は高温で溶融塩に曝露されるガスタービン部品を保護することができ、又はその寿命を少なくとも有意に延ばすことができるはずである。
【0026】
亀裂の発生又は剥落並びに下にある基材12及び皮膜層16、20、22、24及び18の溶融塩への曝露に対するその抵抗性を促進するために、耐食性皮膜26中の1種以上の希土類酸化物含有化合物の含有量は、その整合性を増大し、それが保護する基材の熱膨張係数とより厳密に合致する熱膨張係数(CTE)を促進するように調節し得る。例えば、耐食性皮膜26は、CTEがおよそ5ppm/℃であって典型的なCMCのCTEと適合するY2Si27を比較的大量に含有し得る。代わりに、又は加えて、1種以上の希土類酸化物含有化合物は、耐食性皮膜26の残りのCTEとより厳密に合致するCTEを有することを基準にして選択し得る。例えば、純粋なRE23化合物とREPO4化合物のCTEは通例YSZのCTEと適合する。
【0027】
耐食性皮膜26は、単独で、又は皮膜系14及びその下にある基材12を高温腐食から保護する他の方法と組み合わせて使用し得る。例えば、耐食性皮膜26は、バナジウムを含有する液体燃料に添加されてMg328のような不活性な高融点生成物を生成する1種以上のMg化合物と組み合わせて使用し得る。これらの生成物は、バナジウム系不純物を固定化してバナジウムにより誘発される高温腐食を抑制することが知られている。
【0028】
従来技術のボンドコート及び環境皮膜と同様に、皮膜系14の層16、18、20、22、及び24並びに耐食性皮膜26は溶射プロセス、例えば空気及び真空プラズマ溶射(それぞれAPS及びVPS)で個別に設けることができるが、付着設置は化学蒸着(CVD)及び高速ガス式溶射(HVOF)プロセスのような他の公知の技術によって行うことが可能であることが予測できる。耐食性皮膜26はまたスラリー皮膜及びPVD技術のような公知の技術によって付着させることもでき、後者は1以上の個々の層16、18、20、22、24及び26内に柱状の粒状組織を得るように実施することができる。個々の層16、18、20、22、24及び/又は26の付着の後熱処理を実施して、高い付着温度から冷却する間に生じた残留応力を除去し得る。
【0029】
既に記載したように、本発明の耐食性皮膜26は、溶融塩腐食(高温腐食)に対して感受性の超合金部品に対しても使用可能である。図2は、遮熱コーティング(TBC)系34によって保護された超合金基材32を有する部品30を示す。図2にも示されているように、TBC系34は金属ボンドコート36及びセラミックトップコート38を含んでいる。ボンドコート36は部品30の下にある基材32に対して環境保護を提供することを意図したものであり、一方トップコート38(場合により、部品30の内部冷却と組み合わせる。)は部品30の作動温度を低下させ、これにより部品30が他の場合に可能なものより高い高温環境内で存続することが可能になる。トップコート38として、高温能力、低い熱伝導率のため、及び付着が比較的容易なため広く使用されているイットリア安定化ジルコニア(YSZ)組成物を始めとする種々の材料を使用することができる。ボンドコート36に適した材料には、MCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属、及び/又は反応性金属である。)のような耐酸化性のオーバーレイ皮膜、並びにアルミ化物金属間化合物のような化合物を含有し得る耐酸化性の拡散皮膜がある。耐食性皮膜26及びそれが形成する副生成物障壁層28は図1に関して記載した通りであり得る。
【0030】
好ましい実施形態に関連して本発明を説明して来たが、当業者が他の形態を採用することができるということは明らかである。従って、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ制限される。
【符号の説明】
【0031】
10 部品
12 基材
14 系
16 層
18 皮膜
20 層
22 層
24 層
26 皮膜
28 層
30 部品
32 基材
34 系
36 ボンドコート
38 トップコート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品(10,30)の基材(12,32)上の皮膜系(14,34)であって、該皮膜系(14,34)は基材(12,32)の上にある1以上の皮膜層(16,18,20,22,24,36,38)を含み、該皮膜層(16,18,20,22,24,36,38)は溶融塩不純物により促進される高温腐食に対して感受性の組成を有しており、
耐食性皮膜(26)が、皮膜層(16,18,20,22,24,36,38)の上にあり、溶融塩不純物と反応して耐食性皮膜(26)の表面上に緻密で保護性の副生成物障壁層(28)を形成する1種以上の希土類酸化物含有化合物を含有しており、該1種以上の希土類酸化物含有化合物は、耐食性皮膜(26)中に少なくとも15重量%の量で存在しており、希土類酸化物(RE23)、希土類リン酸塩(REPO4)、希土類ジルコン酸塩(RE2Zr27)、及び希土類ハフニウム酸塩(RE2Hf27)からなる群から選択されることを特徴とする、前記皮膜系(14,34)。
【請求項2】
基材(12)が、金属ケイ化物合金、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ化物及び/又はケイ素で強化された金属マトリックス複合材、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ化物及び/又はケイ素のマトリックスを有する複合材、並びに炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ化物及び/又はケイ素で強化された炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ化物及び/又はケイ素マトリックスを有する複合材からなる群から選択されるケイ素含有材料から形成されることを特徴とする、請求項1記載の皮膜系(14)。
【請求項3】
さらに、1以上のボンドコート(16)が基材(12)と皮膜層(18,20,22,24)との間にあり、該ボンドコート(16)は元素状のケイ素、1種以上の追加のセラミック相を有するケイ素、及びケイ素合金の1種以上から形成されることを特徴とする、請求項2記載の皮膜系(14)。
【請求項4】
皮膜層(22)が、ケイ酸塩、アルカリ土類金属アルミノケイ酸塩及び/又は希土類金属ケイ酸塩を含む環境障壁層(22)であることを特徴とする、請求項2又は請求項3記載の皮膜系(14)。
【請求項5】
基材(32)が、ニッケル基、コバルト基及び鉄基超合金からなる群から選択される金属材料から形成されることを特徴とする、請求項1記載の皮膜系(34)。
【請求項6】
さらに、1以上のボンドコート(36)が基材(32)と皮膜層(38)との間にあり、該ボンドコート(36)がMCrAlXオーバーレイ皮膜(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属、及び/又は反応性金属である。)又は拡散アルミ化物から形成されることを特徴とする、請求項5記載の皮膜系(34)。
【請求項7】
さらに、皮膜層(36)と耐食性皮膜(26)との間の1以上の遮熱層(38)を特徴とする、請求項5又は請求項6記載の皮膜系(34)。
【請求項8】
耐食性皮膜(26)の1以上の希土類酸化物含有化合物がSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される元素の酸化物を含有することを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の皮膜系(14,34)。
【請求項9】
さらに、耐食性皮膜(26)の表面上に副生成物障壁層(28)があり、該副生成物障壁層(28)が皮膜系(14,34)の最も外側の表面層を規定し、REVO4、RE227及びNa−RE−Si−O化合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の皮膜系(14,34)。
【請求項10】
物品(10)がガスタービンエンジンの部品であることを特徴とする、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の皮膜系(14)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−254914(P2012−254914A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−61319(P2012−61319)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】