耳にモキシフロキサシンを適用するための方法および組成物
耳にモキシフロキサシンを適用するのに有用な方法および材料を説明する。本方法は、少なくとも1種の粘度生成剤およびモキシフロキサシンまたはその塩を含む組成物を、外耳道を介して鼓膜の上皮表面に送達する段階を含む。該組成物は、流動性の形態で該鼓膜に送達され、かつ、該鼓膜への送達後、該モキシフロキサシンが該鼓膜に接触した状態で局在するような十分な粘性を帯びるようになる。このような組成物を、中耳炎を含む中耳病態および内耳病態を予防的かつ/または治療的に処置するのに使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年1月7日に出願された米国特許仮出願第61/293,019号に対して優先権の恩典を請求するものである。先願の開示内容は、本出願の開示内容の一部とみなされる(かつ参照により本出願の開示内容に組み入れられる)。
【0002】
技術分野
本発明は、耳にモキシフロキサシンを適用するための方法および材料に関する。より具体的には、本発明は、中耳の障害を治療するために鼓膜の外側上皮表面にモキシフロキサシンを適用するための方法および材料を特徴とする。
【背景技術】
【0003】
背景
中耳炎(OM)は、特に子供に非常に多く発症する。OMは、上気道、エウスタキオ管、および中耳の微環境を変化させ、その結果、鼻咽頭に常在する細菌が中耳に侵入し生息するようになる、上気道のウイルス性感染症で始まることが多い。この侵入は、エウスタキオ管に炎症を起こし塞いで、中耳の換気、圧力平衡、および排液の邪魔をし得る。通常は空気で満たされている中耳腔において、液体が蓄積し、圧力が上昇して、激しい痛みを引き起こす。OMの重症例では、感音構造が損傷されることがある。持続性OMまたは再発性OMは、ねばねばした生物膜によって抗生物質から保護されていた中耳中で休眠から目覚めた細菌によって引き起こされることがある。
【0004】
OMは、現在、抗生物質を用いて、かつ/または中耳腔から排液し減圧するように鼓膜の外科的切開部から鼓膜換気チューブ(tympanostomy tube)を挿入することによって治療される。抗生物質治療の有効性は、送達経路によって制限される。抗生物質は全身に送達され得るが、中耳において治療的レベル(すなわち、最小阻止濃度を上回るレベル)を達成するためには高用量がしばしば必要とされ、そのようなレベルはかなりの時間遅れて達成されることが多い。また、抗生物質は、洗浄によってまたは点滴によっても外耳道内に送達され得る。このような送達経路は制御することが難しい場合があり、中耳において抗生物質の治療的レベルを持続的に実現するには有効ではないことが多い。また、抗生物質は、中耳内に注射することによって、または抗生物質を含浸させた材料を中耳内に挿入することによっても送達され得るが、このような方法は、鼓膜に穴を開けることまたは鼓膜を切開することを伴い、これには全身麻酔が必要となり、鼓膜が損傷される場合がある。また、鼓膜換気チューブの外科的挿入も、鼓室硬化症(すなわち、鼓膜組織および中耳組織の石灰化)、聴力損失、持続的耳漏(すなわち、管からの膿の分泌)、ならびに感染症を含むリスクを有する。
【0005】
国立衛生研究所(National Institutes of Health)の一部である国立聴覚・伝達障害研究所(National Institute on Deafness and Other Communication Disorders)(NIDCD)は、最近、OMを予防および治療するための代替え戦略および新しいアプローチの開発を支援するために2百万ドルの資金供与イニシアティブ(funding initiative)を開始した。応募に対するその要請において(RFA-DC-02-002)、NIDCDは次の通りに述べた。(1)OMは顕著な幼児罹患率を引き起こし、一般的公衆衛生に与える影響が大きくなりつつある。(2)OMは、救急室(Emergency Room)来院の主要原因である。(3)OMは、診療所来院の2番目に多い原因である。(4)OMは、幼児期の抗生物質処方の主要原因であり、外来患者への抗生物質処方全体の40%超を占める。(5)OMは幼児期の聴力損失の主要原因である。かつ、(6)OMは小児における全身麻酔の主要原因である。さらに、NIDCDは、OMを引き起こし得る3種の属(肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、分類不可能型インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、およびモラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)における、複数の抗生物質に対して耐性の細菌の警戒すべき出現の責任は、OMを治療するための広域抗生物質の使用にあると非難した。結果として、多くの第一選択抗生物質および第二選択抗生物質は、OMならびに肺炎および髄膜炎を含む他の疾患に対する効果がだんだん弱くなってきている。NIDCDは、「OMの研究、治療、および予防のための新規なアプローチの開発が、(1)OM罹患率および関連費用を減少させるため;ならびに(2)OMおよび他の一般的な重篤疾患の治療に使用される抗生物質の有効性を維持するために、緊急に必要とされている」と結論付けた。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は、モキシフロキサシンを含む組成物を、鼓膜の外側上皮表面に液体様の形態でそれが送達されることができ、次いで、送達されると、固体様のゲル状態に転換でき、その結果、その組成物が鼓膜に接触した状態で局在したままとなるように製剤化できるという発見に一部基づいている。鼓膜へのこのような組成物の送達により、中耳および内耳の障害(例えばOM)を治療するためのより有効な方法が提供され得る。
【0007】
1つの局面において、モキシフロキサシンを哺乳動物(例えば、げっ歯動物またはヒト)に投与するための方法が提供される。この方法は、哺乳動物の鼓膜の上皮表面に製剤を適用する段階を含み、この製剤は、粘度生成剤(viscogenic agent)およびモキシフロキサシンを含み、100,000cps未満の粘度を有し、かつ鼓膜への適用後に、鼓膜に接触した状態で製剤を維持するのに十分な降伏応力を有する。粘度生成剤は、ジェラン、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミド、ポリエチレングリコールを伴うポリアクリル酸、ポリエチレングリコールを伴うポリメタクリル酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを伴うCARBOPOL(登録商標)(ポリアクリル酸)、酢酸フタル酸水素セルロースラテックス(cellulose acetate hydrogen phthalate latex)、アルギン酸ナトリウム、または逆熱硬化性(reverse thermosetting)ゲル、例えば、ポロキサマーもしくはポロキサミンであってよい。モキシフロキサシンは、鼓膜を通過して中耳腔内に移動することができる。少なくとも1種の薬理学的作用物質は抗生物質を含んでよく、製剤はさらに、抗炎症剤、麻酔薬、接着促進物質、透過促進剤もしくは浸透促進剤、生体接着剤(bioadhesive)、吸湿剤、耳垢軟化剤、または保存剤も含んでよい。
【0008】
別の局面において、製剤と製剤を鼓膜に適用することを指示する取り扱い説明書とを含むキットが使用される。このような製剤は、粘度生成剤およびモキシフロキサシンを含み、100,000cps未満の粘度を有し、かつ鼓膜への適用後に、鼓膜に接触した状態で製剤を維持するのに十分な降伏応力を有する。
【0009】
鼓膜の上皮表面に適用された製剤を含むげっ歯動物(例えばチンチラ)もまた提供され、この製剤は、粘度生成剤よびモキシフロキサシンを含み、100,000cps未満の粘度を有し、かつ鼓膜に接触した状態で維持されるのに十分な降伏応力を有する。
【0010】
他に規定されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において説明するものと同様または等価な方法および材料が本発明を実践するために使用され得るが、適切な方法および材料を後述する。本明細書において言及される刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示にすぎず、限定することを意図しない。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インビトロで放出されたモキシフロキサシン含有量の累積率(パーセント)を示すグラフである。
【図2】2種の鼓胞内(intrabulla)用量レベルから得たデコンボリューションのための応答関数を示すグラフである(N=9)。
【図3】鼓胞内高用量レベルから得たデコンボリューションのための応答関数を示すグラフである(N=3)。
【図4A】コホート1およびコホート2に対する1%モキシゲル(moxigel)外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度を示すグラフである。
【図4B】コホート3およびコホート4に対する1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度を示すグラフである。
【図5】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SD)を示すグラフである(N=23)。
【図6】コホート1およびコホート2に対する3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度を示すグラフである。
【図7】3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SD)を示すグラフである(N=13)。
【図8】1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SD)を示すグラフである。
【図9】1%モキシゲルおよび3%モキシゲルのCmaxおよびTmaxの比較を示すグラフである。
【図10】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中に送達された累積量を示すグラフである(N=23)。
【図11A】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中への流入(input)速度を示すグラフである。コホート1、N=6;コホート2、N=6。
【図11B】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中への流入速度を示すグラフである。コホート3、N=6;コホート4、N=5。
【図12】3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中に送達された累積量を示すグラフである(N=13)。
【図13】3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中への流入速度を示すグラフである。コホート1、N=6;コホート2、N=7。
【図14】1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のMEF中への流入速度を示すグラフである。
【図15】1%モキシゲルの外耳投薬後に中耳液において標的濃度に到達するまでの時間および標的濃度を上回っている持続時間を示すグラフである。
【図16】3%モキシゲルの外耳投薬後に中耳液において標的濃度に到達するまでの時間および標的濃度を上回っている持続時間を示すグラフである。
【図17】外耳投薬後3日間のMEFにおけるAUICを示すグラフである。
【図18】外耳投薬後のMEFにおけるCmax/MICを示すグラフである。
【図19A】50%IPM処理後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SEM)を示すグラフである(N=9)。
【図19B】対数形式で同じデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
全体として、本発明は、モキシフロキサシンおよび1種または複数種の粘度生成剤を含む組成物を用いて、耳にモキシフロキサシンを適用するための方法を提供する。具体的には、組成物は、それらが液体様状態、すなわち流動性の形態で鼓膜の外側上皮表面に送達され得るように製剤化される。しかしながら、投与後、組成物は、鼓膜と接触したままとなるように固体様状態に転換する。結果として、組成物は鼓膜に接触した状態で局在したままとなり、モキシフロキサシンは鼓膜を通過して、例えば中耳腔内に移動して、中耳および内耳の障害(例えばOM)を治療するためのより有効な方法を提供し得る。また、適切な組成物は、例えば、鼓膜への製剤の付着を促進するため、かつ/または鼓膜の透過性を上昇させ、それによってモキシフロキサシンの浸透を増加させるために、他の構成成分を含んでもよい。
【0014】
中耳炎に関連付けられている一般的な病原体には、肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌、およびモラクセラ・カタラーリスが含まれる。これらの生物はモキシフロキサシンに感受性であり;それぞれMIC90値は0.13μg/ml、0.06μg/ml、および0.06μg/mlである。当業者によって理解されている通り、MIC90とは、90%の生物の増殖を阻害するのに必要とされる最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration)を意味する。本明細書において説明するモキシフロキサシンの経鼓膜送達を用いた治療目標は、MIC90値の10倍より高い中耳液レベル(例えば、約0.6μg/mlより高いレベル;約0.6〜約1.3μg/mlの間のレベル)を達成し、このレベルを24時間より長く維持することである。これらの標的濃度は、本明細書において説明するモキシフロキサシンゲル製剤を1回適用することによって達成された。
【0015】
本発明の組成物は、25℃で100,000センチポアズ(cps)未満の粘度を有する。粘度とは、流動に対する組成物の抵抗を指す。典型的には、ツベルクリン用1mL容シリンジに取り付けられた19ゲージ針を、25℃で、適度な力によって機械的装置の助けを借りずに1分未満で通過できる体積0.5mLの組成物の粘度は100,000cps未満である。組成物の粘度は、市販の粘度標準物を用いて較正した粘度計(例えば、Brookfield製)によって測定することができる。
【0016】
また、本発明の組成物は、鼓膜に接触した状態で製剤を維持するのに十分な最小降伏応力を有する。降伏応力とは、固体材料に加えられた場合に、応力をそれ以上増大させなくても固体材料が変形し続ける液体様の挙動を固体材料に示させる力の量を意味する。本発明の組成物の最小降伏応力は、適用されるゲルの厚さに依存するが、ゲルの形状寸法および環境の温度には依存しない。本明細書において使用される場合、組成物の最小降伏応力は、厚さ4mmおよび密度1g/Lの適用されたゲルに関するものである。降伏応力(σ0)は、σ0=ρghとして表され、式中、ρは密度であり、gは重力による加速度であり、hは層の厚さである。典型的には、最小降伏応力は約39パスカル(Pa)である。また、本明細書において説明する方法は、鼓膜に接触した状態で維持されるのに十分な降伏応力を組成物が有するかどうかを推定するために用いることもできる。例えば、試験組成物をチンチラなどの動物の耳に投与することができ、その動物の耳をモニターして、より固体様の状態にその組成物が転換し、鼓膜に接触した状態で維持されるかどうかを判定することができる。例えば、本明細書の実施例のセクションを参照されたい。
【0017】
粘度生成剤
本明細書において使用される場合、粘度生成剤とは、流体の粘度を上昇させるポリマーまたは他の化学的単位を意味する。適切な粘度生成剤は、本発明の組成物に含められた場合、組成物が25℃での液体様状態(例えば、流動性)から、鼓膜と接触した後に固体様状態(例えばゲル)に転換するのを可能にし、これらは非生分解性、すなわち、哺乳動物中に天然に存在する化学物質もしくは酵素によって分解されなくてもよく、または生分解性であってもよい。組成物は、25℃で100,000cps未満(例えば、90,000cps、60,000cps、30,000cps、20,000cps、または10,000cps未満)の組成物粘度、および一般的に、鼓膜適用後に39Paの最小降伏応力をもたらすのに有効な量の粘度生成剤を含む。典型的には、組成物は、0.05〜50%の粘度生成剤(例えば、0.15〜25%、5〜45%、10〜40%、12〜37%、15〜35%、17〜33%、または20〜30%の粘度生成剤)を含む。
【0018】
例示的な粘度生成剤には、ジェラン(GELRITE(登録商標)またはKELCOGEN(登録商標))、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を伴うCARBOPOL(登録商標)940(ポリアクリル酸)、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミド(NiPAAm)、ポリエチレングリコール(PEG)を伴うポリアクリル酸またはPEGを伴うポリメタクリル酸、酢酸フタル酸水素セルロースラテックス(CAP)、アルギン酸ナトリウム、ならびに非イオン性界面活性剤、例えば可逆性温度依存性ゲル化系であるポロキサマー(PLURONIC(登録商標))およびポリオキサミン(polyoxamine)(TETRONIC(登録商標))が含まれる。ジェランは、シュードモナス・エロデア(Pseudomonas elodea)によって分泌される天然ポリマーの陰イオン性脱アセチル化細胞外(exocellular)多糖である。四糖反復単位は、1個のα-L-ラムノース部分、1個のβ-D-グルクロン酸部分、および2個のβ-D-グルコース部分からなる。ジェランのインサイチューのゲル化メカニズムは、陽イオン誘導性(例えば、カルシウムイオンの存在)かつ温度依存性(例えば、生理的温度)である。ゲル化は熱可逆性である。HPMCを伴うCARBOPOL(登録商標)940は、pH依存性の様式においてインサイチューでゲル化する。CARBOPOL(登録商標)はゲル化剤であり、HPMCはゲルの粘度を高めるために使用される。アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うNiPAAmは、温度に基づく可逆的ゾル-ゲル転換を経ることができるターポリマーヒドロゲルである。アクリル酸ナトリウムおよびn-N-アルキルアクリルアミドは、ヒドロゲルの特性、特に転移温度を変更するために使用される。PEGを伴うポリアクリル酸またはPEGを伴うポリメタクリル酸は、水素結合に基づいてゲル化すると考えられている。ポリアクリル酸は、水性アルコール溶液に溶解することができ、注射された後にアルコールは拡散して、ポリマーの沈殿および溶液のゲル化を引き起こす。CAPはpH依存性の様式でゲル化するナノ粒子系である。活性化合物(モキシフロキサシン)はポリマー粒子の表面に部分的に吸着され得る。アルギン酸ナトリウムは、カルシウムまたは他の多価イオンの存在下でゲル化する。
【0019】
ポロキサマーおよびポロキサミンなどの非イオン性界面活性剤は特に有用である。ポロキサマーは製薬技術分野で周知であり、例えば、Polymers for Controlled Drug Delivery、第10章(Peter J. Tarcha編、1990)のIrving R. SchmolkaによるPoloxamers in the Pharmaceutical Industryにおいて説明されている。ポロキサマーは、2種の異なるポリマーブロック(すなわち、親水性ポリ(オキシエチレン)ブロックおよび疎水性ポリ(オキシプロピレン)ブロック)から構成され、これらがポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)-ポリ(オキシエチレン)というトリブロックとして配置されるため、トリブロックコポリマーである。ポロキサマーは、プロピレンオキシドブロック疎水性物質およびエチレンオキシド親水性物質を有するブロックコポリマー界面活性剤の一クラスである。ポロキサマーは市販されている(例えば、PLURONIC(登録商標)ポリオールがBASF Corporationから入手可能である)。あるいは、公知の技術によってポロキサマーを合成することもできる。
【0020】
これまで、ポロキサマーの非生分解性、水溶性、および比較的急速な薬物放出動態を考慮すれば、ポロキサマーには薬理学的作用物質を投与するための有用性がないと考えられていた(例えば、米国特許第 6,201,072号を参照されたい)。それでもなお、本明細書において説明する通り、ポロキサマーは製剤を鼓膜に適用するために有利な特性を有する。ポロキサマーの水性調合物は逆熱ゲル化または逆熱硬化性を示す。ポロキサマー水性調合物をそのゲル化温度より高い温度に加熱した場合、その粘度は上昇し、ゲルに転換する。ポロキサマー水性調合物をそのゲル化温度より低い温度に冷却した場合、その粘度は低下し、液体に転換する。ゲルと液体の転移は、調合物の化学組成の変化を伴わず、可逆的かつ反復可能である。ポロキサマー水性調合物のゲル-液体転移温度は、日常的な実験法を用いて(例えば、ポロキサマー濃度、pH、および調合物中の他の成分の存在を操作することによって)当業者が調節することができる。いくつかの態様において、組成物は、周囲温度よりも高く、かつ鼓膜の温度以下であるゲル化温度を有する。このような組成物は、個体の外耳道を介して液剤として簡便に適用することができ、次いで、鼓膜に接触してゲルに転換し、それによって、製剤中のモキシフロキサシンを鼓膜の極めて近くで維持することができる。
【0021】
モキシフロキサシン
また、本明細書において説明する組成物は、モキシフロキサシンまたはその塩も含む。モキシフロキサシンは、化学式C21H24FN3O4で表される第三世代合成フルオロキノロンである。モキシフロキサシンは、細菌酵素DNAギラーゼ(トポイソメラーゼII)およびトポイソメラーゼIVに結合して阻害し、その結果、DNAの複製および修復を阻害し、最終的に、感受性細菌種の細胞死をもたらす。本明細書において説明する組成物中のモキシフロキサシンまたはその塩の量は、約0.1%〜約50%(例えば、約0.25%〜約45%;約0.5%〜約25%;約0.75%〜約10%;約1%〜約5%;または約1%〜約3%)の範囲でよい。モキシフロキサシンの塩には、例えば、非限定的に、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムが含まれる。
【0022】
モキシゲル組成物の他の構成成分
いくつかの態様において、本明細書において説明する組成物は、粘度生成物質およびモキシフロキサシンに加えて1種または複数種の化合物を含む。例えば、組成物は、例えば、アドレノコルチコイド(例えば、コルチコステロイド、ステロイド)、鎮痛薬、鎮痛補助薬、鎮痛-麻酔薬、麻酔薬、モキシフロキサシン以外の抗生物質、抗菌薬、抗感染薬、抗生物質治療補助薬、解毒薬、制吐薬、抗真菌薬、抗炎症薬、抗めまい薬、抗ウイルス薬、生物学的応答調節物質、細胞障害性物質、診断助剤、免疫化剤、免疫調節薬、タンパク質、ペプチド、および耳障害の治療に有用であり得る他の作用物質を含む、1種または複数種の薬理学的作用物質を含んでよい。モキシフロキサシンに加えて、本明細書において説明する組成物は、1種または複数種の薬理学的作用物質を含んでよい。例えば、細菌感染と戦うため、組織炎症を軽減するため、および刺激を緩和するために、組成物は、モキシフロキサシン、抗炎症薬、および麻酔薬または鎮痛薬を含んでよい。当業者は、薬理学的作用物質を特定し、所望の効果を実現するために必要とされるようにそれらを組み合わせることができる。以下は、可能性のある薬理学的作用物質の代表的なリストを提供するにすぎない。
【0023】
例示的なアドレノコルチコイドには、ベタメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびトリアムシノロンが含まれる。例示的な鎮痛薬には、アセトアミノフェン、アスピリン、ブプレノルフィン、ブタルビタール、ブトルファノール、コデイン、デゾシン、ジフルニサル、ジヒドロコデイン、エトドラク、フェノプレフェン(fenoprefen)、フェンタニル、フロクタフェニン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラク、レボルファノール、サリチル酸マグネシウム、メクロフェナマート、メフェナム酸、メペリジン、メプロバマート、メサドン、メトトリメプラジン、モルヒネ、ナルブフィン、ナプロキセン、オピウム、オキシコドン、オキシモルホン、ペンタゾシン、フェノバルビタール、プロポキシフェン、サルサラート、およびサリチル酸ナトリウムが含まれる。1つの例示的な鎮痛補助薬は、カフェインである。例示的な麻酔薬には、アルチカイン-エピネフリン、ブピバカイン、クロロプロカイン、エチドカイン、ケタミン、リドカイン、メピバカイン、メトヘキシタール、プリロカイン、プロポフォール、プロポキシカイン、テトラカイン、およびチオペンタールが含まれる。1つの例示的な鎮痛薬-麻酔薬は、アンチピリン-ベンゾカインである。
【0024】
(モキシフロキサシン以外の)例示的な抗生物質、抗菌薬、および抗感染薬には、スルホンアミド(例えば、スルファニルアミド、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、p-アミノ安息香酸、またはスルファセタミド)、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、キノロン類(例えば、シプロフロキサシン、オフロキサシン、またはナリジクス酸)、ペニシリンまたはセファロスポリンなどのβ-ラクタム系抗生物質、アミノグリコシド系(例えば、カナマイシン、トブロマイシン(tobromycin)、ゲンタマイシンC、アミカシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、またはバンコマイシン)、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール、およびマクロライド系(例えば、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、またはアジスロマイシン)が含まれる。適切なペニシリンの非限定的な例には、ペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、オキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、およびアモキシシリンが含まれる。適切なセファロスポリンの非限定的な例には、セファロチン、セフジニル、セファゾリン、セファレキシン、セファドロキサル(cefadroxal)、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロル、セフォニシド、セフォレタン(cefoletan)、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフジトレン、およびセフェピムが含まれる。OMを治療するのに有用である例示的な抗生物質には、アモキシシリンおよびアモキシシリン-クラブラン酸(AUGMENTIN(登録商標))などのペニシリン;エリスロマイシン-スルフイソキサゾール(Pediazole)、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(BACTRIM(登録商標)、SEPTRA(登録商標))などスルホンアミド類をベースとする(sulfa-based)組合せ;アジスロマイシン(ZITHROMAX(登録商標))またはクラリスロマイシン(BIAXIN(登録商標))などのマクロライド系/アザライド;セファクロル(CECLOR(登録商標))、セフプロジル(CEFZIL(登録商標))、セフロキシムアキセチル(CEFTIN(登録商標))、またはロラカルベフ(LORABID(登録商標))などの第二世代セファロスポリン;ならびにセフジニル(OMNICEF(登録商標))、セフィキシム(SUPRAX(登録商標))、セフポドキシムプロクセチル(VANTIN(登録商標))、セフチブテン(CEDAX(登録商標))、セフジトレン(SPECTRACEF(商標))、およびセフトリアキソン(ROCEPHIN(登録商標))などの第三世代セファロスポリンが含まれる。
【0025】
好適な制吐薬には、ブクリジン、クロルプロマジン、シクリジン、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ジフェニドール、ドンペリドン、ドロナビノール、ハロペリドール、ヒドロキシジン、メクリジン、メトクロプラミン、ナビロン、オンダンセトロン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、プロメタジン、スコポラミン、チエチルペラジン、トリフルプロマジン、およびトリメトベンザミンが含まれる。例示的な抗真菌薬には、アムホテリシンB、クリオキノール、クロトリマゾール、フルコナゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、およびヨウ化カリウムが含まれる。例示的な抗炎症剤には、酢酸アルミニウム、アスピリン、ベタメタゾン、ブフェキサマク、セレコキシブ、デキサメタゾン、ジクロフェナク、エトドラク、フルルビプロフェン、ヒドロコルチゾン、インドメタシン、サリチル酸マグネシウム、ナプロキセン、プレドニゾロン、ロフェコキシブ、サルサラート、スリンダク、およびトリアムシノロンが含まれる。適切な例示的抗めまい剤には、ベラドンナ、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ジフェニドール、メクリジン、プロメタジン、およびスコポラミンが含まれる。適切な例示的抗ウイルス剤には、アシクロビル、アマンタジン、デラビルジン、ジダノシン、エファビレンツ、ホスカルネット、ガンシクロビル、インジナビル、ネルフィナビル、リバビリン、リトナビル、ザルシタビン、およびジドブジンが含まれる。例示的な生物学的応答調節物質には、アルデスロイキン、インターフェロンα-2a、インターフェロンα-2b、インターフェロンα-n1、インターフェロンα-n3、インターフェロンγ、およびレバミソールが含まれる。例示的な細胞障害剤には、ポドフィロックスおよびポドフィルムが含まれる。例示的な免疫化剤には、インフルエンザウイルスワクチン、多価肺炎球菌ワクチン、および免疫グロブリンが含まれる。例示的な免疫調節薬は、インターフェロンγである。本発明に適する他の薬理学的作用物質には、ベタヒスチン(例えば、メニエール病で生じる悪心、めまい、および耳鳴りの治療のため)、プロクロルペラジン、およびヒヨスチンが含まれる。
【0026】
その代わりにまたは追加的に、組成物は、次の化合物の内の1種または複数種を含んでよい:生理食塩水などの溶剤または希釈剤、生体接着剤、透過促進剤もしくは浸透促進剤、吸湿剤、耳垢軟化剤、保存剤(例えば抗酸化剤)、または他の添加剤。このような化合物は、0.01%〜99%(例えば、0.01〜1%、0.01〜10%、0.01〜40%、0.01〜60%、0.01〜80%、0.5〜10%、0.5〜40%、0.5〜60%、0.5〜80%、1〜10%、1〜40%、1〜60%、1〜80%、5〜10%、5〜40%、5〜60%、5〜80%、10〜20%、10〜40%、10〜60%、10〜80%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、または70〜80%)の範囲の量で組成物中に存在することができる。例えば、組成物は、1種または複数種の粘度生成剤(例えば、PLURONIC(登録商標)F−127およびCARBOPOL(登録商標))、モキシフロキサシン、および1種または複数種の透過促進剤もしくは浸透促進剤(例えばビタミンE)を含んでよい。他の態様において、組成物は、1種または複数種の粘度生成剤、モキシフロキサシン、および1種または複数種の耳垢軟化剤を含んでよい。また、組成物は、1種または複数種の粘度生成剤、モキシフロキサシン、1種または複数種の吸湿剤、および1種または複数種の保存剤を含んでもよい。ある種の作用物質は製剤内で様々な役割を果たし得ることに留意されたい。例えば、CARBOPOL(登録商標)は、その濃度によって、粘度生成剤としてまたは生体接着剤として機能することができる。ビタミンEは、透過促進剤または浸透促進剤、保存剤、および抗酸化剤として機能することができる。
【0027】
生体接着剤は、鼓膜への組成物の接着を促進する。適切な生体接着剤には、親水コロイド、例えば、アラビアゴム;寒天;アルギナート(例えば、アルギン酸およびアルギン酸ナトリウム);CABOPOL(登録商標);カルボキシメチルセルロースナトリウム;カルボキシメチルセルロースカルシウム;デキストラン;ゼラチン;グアーゴム;ヘパリン;ヒアルロン酸;ヒドロキシエチルセルロース;カラヤゴム;メチルセルロース;ペクチン;ポリアクリル酸;ポリエチレングリコール;ポリ-N-ビニル-2-ピロリドン;およびトラガカントゴムが含まれる。
【0028】
透過促進剤または浸透促進剤は、鼓膜の透過性を増大させて、モキシフロキサシンに対する鼓膜の透過性を高める。例示的な透過促進剤または浸透促進剤には次のものが含まれる:アルコール(例えば、エタノールおよびイソプロパノール);多価アルコール(例えば、n-アルカノール、リモネン、テルペン、ジオキソラン、プロピレングリコール、エチレングリコール、およびグリセロール);スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、メチルドデシルスルホキシド、およびジメチルアセトアミド);エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル/パルミタート、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルプロプリオナート(proprionate)、およびカプリン酸/カプリル酸トリグリセリド);ケトン;アミド(例えばアセトアミド);オレアート(例えばトリオレイン);界面活性剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム);アルカン酸(例えばカプリル酸);ラクタム(例えばアゾン);アルカノール(例えばオレイルアルコール);ジアルキルアミノアセタート;多価不飽和脂肪酸(例えばリノール酸、α-リノレン酸、およびアラキドン酸);オレイン酸;タラ肝油;メントール誘導体(例えばl-メントール);スクアレン;直鎖状飽和脂肪アルコールから誘導されたグリセロールモノエーテル;フラボン(例えば、カモミールアピゲニン、ルテオリン、およびアピゲニン7-O-β-グルコシド);ビタミンE(α-トコフェロール)ならびにそのエステルおよび類似体;ならびにセンキュウ(Senkyu)(センキュウ根茎(Ligustici Chuanxiong Rhizome))エーテル抽出物。
【0029】
フルクトース、フタル酸、およびソルビトールなどの吸湿剤によって、流体が中耳から鼓膜を通過してゲルマトリックス中に移動するのが容易になる。吸湿剤は、中耳での流体蓄積および加圧に関連する疼痛を緩和するのに寄与することができ、中耳内でモキシフロキサシンをより小さな流体体積に濃縮することができる。
【0030】
耳垢軟化剤(例えば、ドキュセート、オリーブ油、重炭酸ナトリウム、尿素、または過酸化水素)によって、鼓膜と組成物との接触が促進される。アスコルビン酸および安息香酸などの抗酸化剤または他の保存剤は、保管期間中の製剤の貯蔵寿命を延長するために使用され得る。
【0031】
鼓膜への組成物の適用方法
本発明の組成物は、例えば、中耳障害または内耳障害(例えばOM)を治療するために、外耳道を介して鼓膜の上皮表面に適用することができる。また、本発明の組成物は、予防的に(例えば、中耳障害または内耳障害の発症を予防するために)適用することもできる。組成物は、鼓膜の下方部分である緊張部または鼓膜の上方部分である弛緩部を含む、鼓膜の任意の部分を標的とすることができる。ヒト成人において、鼓膜は直径約9〜10mmであり、厚さは30〜230μmの範囲(平均約100μm)である。ヒトならびに動物、例えば、ネコ、モルモット、およびチンチラでは、弛緩部が占めるのは鼓膜面積の3%未満である。他の哺乳動物(例えば、スナネズミ、ウサギ、ラット、およびマウス)では、弛緩部は、鼓膜面積の10%〜25%を占める。薄い上皮層(厚さ約15〜30μm)がヒト鼓膜を覆い、厚い上皮層(厚さ約75〜150μm)がヒト身体の他の領域を覆っている。5〜10層の細胞層が弛緩部を覆っているのに対し、3〜5層の細胞層が緊張部を覆っている。したがって、緊張部は鼓膜の他の部分より薄いことが多く、モキシフロキサシンまたは別の薬理学的作用物質に対して、より高い透過性を有し得る。緊張部の中央部分が、音に応答する活発な振動領域を提供することは当業者によって理解されるであろう。
【0032】
当技術分野において公知である任意の方法が、本発明の組成物を鼓膜に適用するために使用され得る。例えば、液体分配器具を用いて、組成物を鼓膜に適用することができる。典型的には、分配器具は、導水管と連結された貯蔵器を有し、この導水管が、貯蔵器から直接的または間接的に流動性組成物を受け取り、その組成物を分配出口へと送る。当業者は、日常的なこととして、柔軟な管に連結されたシリンジから簡単な分配器具を作製することができる。分配器具はまた、CDT(登録商標)Speculum (Walls Precision Instruments LLC, Casper, WY, USA) などの鼓室穿刺器具の針を流体導水管と交換することによって作製することもできる。分配器具は、組成物を鼓膜に適用するための正確なプラットホームを作るために、気密耳鏡または診断用耳鏡のヘッド(例えば、Welch Allyn(登録商標)(Skaneateles Falls, NY, USA)製)に取り付けることができる。
【0033】
組成物および中耳障害または内耳障害に応じて、モキシフロキサシンが鼓膜を通過して移送された後に、組成物を耳から除去することが望ましい場合がある。これは、綿棒またはピンセットを用いて手作業で遂行することができる。また、シリンジまたはピペットバルブ(bulb)を用いて水、生理食塩水、または他の生体適合性水溶液を注入して、製剤を柔らかくし、溶解させ、かつ/または洗い流すこともできる。他の態様において、組成物は、一定期間後に鼓膜から単にはげ落ち、(例えば、運動中または入浴中に)耳から落ちる場合がある。あるいは、生分解性製剤は、耳から除去する必要がない場合がある。
【0034】
製造品
本明細書において説明する組成物は、包装資材と組み合わせ、製造品またはキットとして販売することができる。製造品を製造するための構成要素および方法は周知である。製造品は、本明細書において説明する1種または複数種の組成物を組み合わせてよい。さらに、製造品は、1種または複数種の薬理学的作用物質、滅菌水もしくは生理食塩水、薬学的担体、緩衝剤、または液体分配器具をさらに含んでもよい。内耳障害または中耳障害の治療のために組成物をどのように耳に送達できるかを説明したラベルまたは取扱い説明書を、このようなキットに含めてよい。1回または複数回の投与に十分な量の組成物が、事前に包装された形態で提供され得る。
【0035】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0036】
実施例1−化学物質および試薬
塩酸モキシフロキサシン粉末は、Alcon Labs, Inc.(Fort Worth, TX)によって提供された。Pluronic F-127、塩酸シプロフロキサシン、ウシアルブミン、ギ酸、ミリスチン酸イソプロピル、および一塩基性リン酸アンモニウムは、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。次の化学物質を購入し、受領したままの状態で使用した:Burdick and Jackson Laboratories(Muskegon, MI)またはFisher Scientific(Fair Lawn, NJ)からアセトニトリルおよびメタノール;Mallinckrodt, Inc.(Paris, Kentucky)から塩化ナトリウム;United States Biochemical(Cleveland, OH)から二塩基性リン酸ナトリウム、七水和物;Fisher Scientific(Fair Lawn, NJ)から一塩基性リン酸ナトリウム;University of Minnesota(Minneapolis, MN)からプロピレングリコール;Ruger Chemical Co, Inc.(Linden, NJ)からPEG4000およびPEG6000。溶媒はHPLCグレードであり、他の化学物質はすべて分析用グレードであった。
【0037】
実施例2−微小透析プローブ
CMA/20微小透析プローブ(CMA/Microdialysis, North Chelmsford, MA)を用いて、中耳液の透析液試料を得た。プローブのポリカーボネート膜の分子量カットオフ値は20,000ダルトンである。プローブの透析膜の長さは10mmであった。プローブ膜の外径は0.5mmであった。
【0038】
実施例3−人工中耳液(AMEF)
エウスタキオ管閉塞を患っている非感染チンチラにおいて蓄積する漿液状中耳液(MEF)の体積は、大きく異なる。微小透析法のために十分なMEFを蓄積する成功比率は、50%をかなり下回る。MEFを再現する人工中耳液(AMEF)を調製することが必要となった。外耳にゲル製剤を投薬するために、プローブ埋め込み直前に、リン酸緩衝化生理食塩水溶液(PBS、0.015Mホスファート、pH=7.4)を3%ウシアルブミンと共にチンチラ中耳鼓胞(bulla)中に滴下注入した。
【0039】
実施例4−モキシフロキサシンの逆透析較正物質としてのシプロフロキサシンの検証
シプロフロキサシンは、モキシフロキサシンの化学的類似体であり、どちらもキノロン系抗生物質である。シプロフラキシン(ciproflaxin)の物理的特性および化学的特性は、モキシフロキサシンのものにいくらか類似している。したがって、有望な逆透析較正物質としてこれを選択した。インビトロのAMEF中への同時消失研究を灌流速度0.4μl/分、0.5μl/分、0.6μl/分、および0.7μl/分で実施し、10分間隔で透析液を回収した。灌流液は、1μg/mlのモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンを含んだ。透析液中濃度と灌流液中濃度の比を1(unity)から引くことによって、各化合物の消失を測定した。4種の流速すべてにおいて、モキシフロキサシンのインビトロでの消失がシプロフロキサシンの消失と有意に異ならないことが判明して、微小透析較正物質としてのシプロフロキサシンの有用性が確認された。
【0040】
実施例5−人工のおよび保温されたチンチラ中耳液中のモキシフロキサシンの遊離(未結合)率の測定
以前の施設内研究により、人工中耳液(AMEF)は、チンチラ中耳中に滴下注入後18〜24時間目に天然MEFに似始め、細菌増殖を助けることが示された。遊離率を測定するために、前日のAMEF滴下注入後に体液を中耳から採取し、この体液を、保温された中耳液(IMEF)と呼んだ。
【0041】
AMEFおよびIMEF中のモキシフロキサシンのタンパク質結合を限外ろ過によって測定した。本研究は、生理的温度(37℃)で、名目上の濃度(nominal concentration)220μg/mlおよび492μg/mlを用いて実施した。添加されたAMEF溶液またはIMEF溶液の分取物120μlずつをMicrocon(登録商標)Centrifugal Device(Millipore Corporation, Bedford, MA)の先端部分に入れ、2000×gで15〜20分間、Clay Adams Triac 0200スインギングバケットローター遠心機(Becton, Dickinson and Company, Parsippany, NJ)を用いて遠心分離した。Microcon(登録商標)装置へのモキシフロキサシンの非特異的結合がもしあるならばその程度を検査するために、同じ薬物濃度をリン酸緩衝化生理食塩水に添加し、MEF分取物と同様に装置を用いて遠心分離した。MEF中の総濃度に対する限外ろ過液中の濃度の比率を、モキシフロキサシンの遊離率として算出した。
【0042】
実施例6−製剤開発
基剤調合物
Pluronic(登録商標)F-127(PF-127)を、熱硬化性ゲル基剤を形成させるためのポリマーとして選択した。PF-127は、低温では水に溶解して溶液を形成し、温度がゾル-ゲル転移温度より高くなるとゲル化する。PF-127溶液は室温では極めてよく流動し、適用された表面の輪郭をたどる。研究した最初の調合物は、20%(w/v)PF-127水溶液からなる。
【0043】
PF-127溶液は、低温法によって調製した。計量したPF-127を、必要量の冷水(重量に基づく)にゆっくりと加え、穏やかに撹拌し、4℃で一晩保存して、ポリマーを完全に水和および溶解させた。
【0044】
転移温度の測定
最終調合物の少量の分取物(100〜200μl)を微量遠心分離チューブに移した。次いで、室温の水浴中でチューブをインキュベートした。水浴の温度を徐々に上昇させた。微量遠心分離チューブ中のゲル溶液のメニスカスが、90度またはそれ以上の角度に傾けられてもゆがまない場合、ゲル化が起こっていると考えた。転移温度は、ゲル化が起こる前後の2つの温度値とみなした。基剤調合物(20% PF-127)の転移温度は22〜23℃であった。最終調合物のための目標転移温度は28℃〜32℃の間であった。
【0045】
添加剤
いくつかの添加剤を試験して、ゲルの転移温度および他の特性に対するそれらの影響を評価した−これらには、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール4000(PEG4000)、PEG6000、およびミリスチン酸イソプロピル(IPM)が含まれる。PEG 6000およびエタノールのみが、ゲル基剤の転移温度を有意に上昇させることが判明した。表1および表2は、20%PF-127溶液の転移温度に対するPEG6000およびエタノールの影響を示す。
【0046】
(表1)様々な濃度のPEG6000を含む20%PF-127溶液の転移温度
【0047】
(表2)様々な濃度のアルコールおよび2% PEG4000を含む20%PF-127溶液の転移温度
【0048】
より高濃度のPF-127(21%および22%)も試験したが、これらの調合物は、完全に水和するのに長い期間がかかり(最長3日)、粘度が高いために取り扱いが困難であった。また、これらは室温よりもはるかに低い転移温度を示し、その範囲は、基剤ゲルの場合の零下温度から、22%ゲルの場合のPEG6000添加後10℃未満、および21%ゲルの場合の23〜24℃までであった。
【0049】
開発された最も有望な基剤ゲル調合物は、転移温度が23〜24℃であり、室温での流動性が良好であり、以下の組成を有する。
PEG 6000 2%(v/w)
プロピレングリコール 20%(v/w)
PF-127 20%(w/w)
【0050】
2種類のレベルの塩酸モキシフロキサシン(1%(w/w)および3%(w/w))を基剤ゲル中に混合した。1%モキシゲルは、明るい黄色の清澄な溶液であるのに対し、3%モキシゲルは、黄色の液体中に白色粉末が分散した希薄な懸濁液である。どちらのモキシゲルも、29〜31℃の転移温度範囲を最終的に示す。
【0051】
1回分の1%モキシゲル10mlを調製するために、以下の手順を確立した。
1. シンチレーションバイアルに、PEG 6000水溶液(40mg/ml)5.0mlを添加する。
2. プロピレングリコール2.0mlを添加する。
3. 塩酸モキシフロキサシン100mgをゆっくりと添加する。
4. この混合物を3〜5分間超音波処理する。
5. 水1.3mlを添加する。
6. PF-127 2グラムを添加する。
7. シンチレーションバイアルを穏やかに回転させてPF-127粉末を湿らせる。
8. この混合物を冷蔵庫中で一晩保管して完全に水和させる。かつ、
9. 使用する前に溶液を入念にボルテックスする。
【0052】
塩酸モキシフロキサシン300mgを添加し、1.1mlの水しか必要とされないことを除いては、3%モキシゲルを調製するための手順は1%モキシゲルのための手順とほぼ同一である。
【0053】
インビトロの放出研究
モキシフロキサシンのインビトロでの放出を研究する目的は、ゲル製剤からの放出の速度および程度を測定することであった。各放出研究のために、フランツ型拡散セルをHanson Microette装置(Hanson Research, Chatsworth, CA)にセットアップした。レシーバー区画を8.0mlの放出媒体、すなわち水に溶かし250rpmで磁気撹拌した15%PF-127で満たした。水循環ジャケットで各フランツ型セルの下側部分を取り囲んで、温度を37℃で維持した。セルロース透析膜シート(Scienceware(登録商標)、MWカットオフ値=6kD、Bel-Art Products, Pequannock, NJ, USA)を小さな円形(直径3cm)に切り、各レシーバー区画の上部に載せた。ドーナツ形のTeflonディスクを膜の上に置いて、ドナー区画を作った。次いで、各モキシフロキサシンゲル調合物の分取物350μlを投薬区画に添加した。フランツ型セルを密閉する前に待ち時間5分を与えて、完全なゲル形成を徹底させた。試料アームをフィルムで覆って、蒸発を防止した。ゲル投与後0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、12時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間、および96時間目にレシーバー区画から各試料40μlを取り出した。これらの試料は、分析するまで-20℃で保存した。
【0054】
インビトロ試料中のモキシフロキサシン濃度は、本明細書において概説する通りに、オフラインのHPLC蛍光法によって測定した。各試料の分取物10μlにリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)125μlを添加して、検量線試料と同じ体積にした。次いで、移動相を用いて最終体積5.0mlに希釈する前に、内部標準を添加した(100μg/mlシプロフロキサシン65μl)。0.05〜20.0μg/mlのモキシフロキサシン標準試料を、1000μg/ml、100μg/ml、10μg/ml、および1μg/mlのPBS中標準原液から調製した。移動相を用いて最終体積5.0mlに希釈する前に、内部標準の65μl、15% PF-127 10μl、および様々な体積のPBSを各検量線試料に添加して、インビトロ試料と同じ体積にした。この混合物を高速で30秒間ボルテックスした。注入体積は50μlであった。
【0055】
実施例7−手術
動物
390〜670gの雄のチンチラ・ラニガー(Chinchilla laniger)(Ryerson, Plymouth, OHまたはDan Moulton, Rochester, MN)を本研究で使用した。プロトコールは、ミネソタ大学(University of Minnesota)の研究機関の動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)によって承認された。
【0056】
エウスタキオ管閉塞(ETO)
ETO処置の目的は、微小透析の実施中、適切な体液が鼓胞中に確実に残存するように、人工中耳液が鼻咽頭中に排出するのを防止することである。ガッタパーチャポイント(サイズ15、DiaDent(登録商標), DiaDent Group International Inc., Korea)の中央部分を長さ4mmに切断し、エウスタキオ管を閉塞させるために使用した。
【0057】
ETO手術は、Jossartら(Jossart et al., 1990, Pharm. Res., 7:1242-7)に従い、改良して実施した。簡単に説明すると、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(5〜10mg/kg、IP)で動物を麻酔した。次いで、軟口蓋を小さく切開してエウスタキオ管を露出させた。各エウスタキオ管の開口部を、ポイントの4mm切片を用いて閉塞させた。手術の最後に、組織接着剤(Vetbond(登録商標), 3M, St. Paul, MN)を用いて、切開部を閉じた。
【0058】
人工中耳液の滴下注入
各鼓胞中への人工中耳液(AMEF)の滴下注入を、微小透析プローブ埋め込みに先立って投薬日に実施した。チンチラの中耳腔へは、頭蓋の背中側にある頭方向の鼓胞を介して接近した。15 GA 11/2 B皮下注射針(Sherwood Medical Company, St. Louis, MO)を用いて、骨が薄い右鼓胞と左鼓胞の頂端に手作業で小さな穴をあけた。最上部まで完全に満たされるまで、PE-50管の長さによって各鼓胞中に十分なAMEFを滴下注入した。耳鏡を用いて、鼓膜の完全性を検査した。外耳道中へのAMEF漏出の証拠がある耳には投薬しなかった。
【0059】
微小透析プローブの埋め込み
AMEF滴下注入後すぐに、微小透析プローブを埋め込んだ。チンチラの中耳腔へは、頭方向の鼓胞における同じ穴を介して接近した。次いで、その穴から、CMA/20微小透析プローブを慎重に各中耳腔中に挿入した。Huangらによって開発された方法に従い(Huang et al., 2001, J. Pharm. Sci., 90:2088-98)、歯科用セメントおよびアンカー針(anchor needle)によって固定されたプラスチック製かぶせもの(plastic crown)を用いて、これらのプローブをチンチラの頭蓋に固定した。
【0060】
実施例8−分析方法
微小透析液中のモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンのオンラインHPLC-MS-MS分析
オンラインの微小透析HPLC-MS-MSシステムを確立した。微小透析の灌流流速は、1ml容マイクロシリンジ、2.5ml容マイクロシリンジ(CMA/Microdialysis, North Chelmsford, MA)、または5ml容マイクロシリンジ(Hamilton Company, Reno, NV)を取り付けたHarvard製マイクロインジェクションポンプ(モデル22;Harvard Apparatus Inc.;South Natick, MA)を用いて制御した。シーケンスプログラマー(Valco Instruments Co. Inc., Houston, TX)によって制御される10ポート弁本体の2つの10μl試料ループまたは25μl試料ループ中に、両耳からの微小透析液を交互に採取した。0.5μl/分の微小透析灌流流速を本研究において使用した。HPLCカラムは、YMC J'sphere(登録商標)M80 4μm逆相カラム(2×100mm、4μm、Waters Corporation, Milford, MA)であった。移動相は、0.1%ギ酸水溶液(pH=2.8〜2.9、80%v/v)およびアセトニトリル(20%v/v)からなり、流速は0.1ml/分であった。カラムの性能は時間とともに変化するため、異なる割合(%)のアセトニトリル(19〜25%の範囲)を用いて、カラム温度を40℃で維持しつつピーク形状および保持時間を最適化した。Valco製オンライン試料採取システムと接続して機能させるためにShimadzu 10-A HPLCシステム(Shimadzu Corporation, Kyoto, Japan)を使用した。これは、LC-10ADvp ポンプ、SIL-10Aシステムコントローラー、CTO-10Aカラムヒーター、FCV-10ALvpプロポーショナー、およびDGU-14A脱ガス装置からなる。HPLC溶出液は、PE-Sciex API-365三重四重極MS-MS質量分析計(Perkin-Elmer Sciex Instruments, Concord, ON, Canada)のTurbo IonSpray供給源(400℃、7L/分の窒素)に入る。検出は、親プロダクトイオン対に関する多重反応モニタリング(MRM)モードにおいて、モキシフロキサシンに対しては402.5〜358.2で、逆透析較正物質であるシプロフロキサシンに対しては332〜288で実施した。各実験に使用した濃度範囲は、中耳液透析液において観察された濃度によって様々であった。使用した最低標準濃度は0.1μg/mlであったのに対し、最高は118μg/mlであった。標準濃度範囲が広くなるにつれて、わずかに非線形性になると思われ、濃度上昇の際のシグナル増大は比例未満であった。この問題を解決するために、均一な重み付けを用いて線形回帰を実施する前に、シグナル(ピーク領域)と標準濃度の両方に対数変換を適用した。
【0061】
微小透析液中のモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンのオンラインHPLC蛍光分析
生産性を改善するために、複数の動物実験を同時に行うのを可能にし、かつ機器の不備が発生した場合にバックアップとしての機能を果たすように、追加のオンラインアッセイ法を開発した。このアッセイ法は、励起波長295nmおよび発光波長490nmでの蛍光検出の使用を伴った。YMC ODS-A 5μm、120A(4.6×100 mm、Waters Corporation, Milford, MA)カラムを、リン酸アンモニウム(20mM、pH=2.8、76%または78%)およびアセトニトリル(24%または22%)の移動相組成ならびに流速0.5ml/分で使用した。モキシフロキサシンの場合は7.4分およびシプロフロキサシンの場合は3.6分の保持時間を実現するために、45℃のカラム温度を使用した。蛍光検出器は、Shimadzu RF 535(Shimadzu, Kyoto, Japan)またはJasco 821FP(Jasco Inc., Easton, MD)のいずれかであった。オンラインシステムの他の構成要素および装備は、本明細書において概説したものと同一である。このアッセイ法のために使用した標準濃度範囲は、0.1 〜205μg/mlであった。このアッセイ法の応答シグナルには非線形性は全くないと思われたが、傾きおよびy切片を求めるために線形回帰をする前に、一貫性を持たせるためにシグナル(ピーク領域)および標準濃度の対数変換を実施した。
【0062】
オンラインHPLC-MS-MSおよびオンラインHPLC蛍光によるモキシフロキサシン中耳液微小透析試料の分析の精度および正確度
中耳液の微小透析液中のモキシフロキサシンに関する両方のアッセイ法の精度および正確度を、検量線を読み返すことによって評価した。典型的には、0.5〜100(0.1〜118)μg/mlの濃度範囲の6個の標準物質をオンラインHPLC-MS-MSアッセイ法で使用した。0.5〜50μg/mlの範囲における正確度は96〜105%の範囲と算出された。100μg/mlの場合の正確度は91%であったことから、この範囲では微小透析液レベルの測定に少しの下向き傾向があることが示された。精度は、HPLC-MS-MS検量線の全範囲において1.1〜6.2%の範囲であった(%CV)。典型的には、0.1〜200μg/mlの濃度範囲の5個または6個の標準物質をオンラインHPLC蛍光アッセイ法で使用した。検量線の全範囲における正確度は98〜102%の範囲と算出された。精度は、0.5〜200μg/mlの範囲において0.3〜3.6%の範囲であり(%CV)、0.1μg/mlの場合は13.3%であった。
【0063】
中耳液試料中およびインビトロ放出試料中の総濃度および未結合濃度についてのアッセイ法
タンパク質結合研究試料中およびインビトロ放出試料中のモキシフロキサシン濃度を、蛍光検出を用いるHPLC(Shimadzu, Kyoto, Japan)によって測定した。構成要素およびクロマトグラフィー条件は、本明細書において概説したものと同様であった。インビトロ放出試料の処理は、本明細書において概説したとおりであった。タンパク質結合研究試料に対して、3つの個別の検量線を使用した。1つは限外ろ過液試料およびPBS試料のためのものであり、他の2つは、AMEF試料およびIMEF試料中の薬物総濃度をそれぞれのブランクマトリックスを用いて測定するためのものであった。分析用に50μl分取物を採取する前に、添加されたPBS、AMEF、およびIMEF中の濃度が最も高い試料は対応するブランクマトリックスで3倍に希釈し、最高濃度群に由来する限外ろ過液はPBSで2倍に希釈した。標準試料を含む全試料に、内部標準(10μg/mlシプロフロキサシン125μl)を添加した。各試料にアセトニトリル200μlを添加して、タンパク質を沈殿させた。次いで、これらの試料をボルテックスし、2000×gで10分間遠心分離した後、ろ過した20mM一塩基性リン酸アンモニウム300μlに上清100μlを添加して、最終試料が移動相に似るようにした。注入体積25μlを使用した。
【0064】
実施例9−鼓胞内投薬研究
これらの研究は、デコンボリューション解析で使用するための単位インパルス応答関数を決定するために実施した。このために、中耳中のモキシフロキサシン初期濃度および半減期を、鼓胞内ボーラス投薬研究から推定した。鼓胞内投薬に先立って、動物はすべて、本明細書において概説したエウスタキオ管閉塞処置を受けた。用量を投与し、微小透析プローブを埋め込む間は、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(20〜30mg/kg、IP)でチンチラを麻酔したが、実験の残り期間は麻酔から回復させた。2種の用量レベルを目標に定めた。本明細書において説明する手順を用いて、モキシフロキサシン50μgおよび150μgのボーラス用量をAMEF1mlに溶かして中耳中に直接送達した(n=9個の耳)。4〜5半減期の間、HPLC-MS-MSまたはHPLC蛍光と一緒に微小透析を用いて、各耳(中耳)の未結合モキシフロキサシン濃度を、投薬後最長845分まで20分毎にモニターした。
【0065】
実施例10−外耳ゲル製剤投薬研究
投薬の1日前に(投薬当日にETOを実施した場合、1匹の動物を除く)、動物は両側の耳にエウスタキオ管閉塞(ETO)手術を受けた。ティンパノメトリーにおいて負の圧力測定値を示している動物は、エウスタキオ管の閉塞が成功していることを示した。投薬当日にETOを受けたチンチラ(638番)の場合、ティンパノメトリーは行わなかった(bypassed)。AMEF滴下注入、プローブ埋め込み後、かつ投薬前に、耳鏡を用いて鼓膜の完全性を視覚的に検査した。鼓膜に欠陥が生じている耳には投薬しなかった。
【0066】
投薬日に、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(20〜30mg/kg、IP)で動物を麻酔し、温熱パッド上に置いて通常体温を維持した。ティンパノメトリー後、次いでチンチラを口棒(mouth bar)クランプ上に置いて、本明細書において概説する通りにAMEFを滴下注入しプローブを埋め込めるようにした。歯科用セメントによってかぶせものを固定した後で、動物を口クランプから取り外し、横向きに寝かせた。耳鏡を用いて、鼓膜の完全性をもう一度確認した。
【0067】
ツベルクリン用1ml容シリンジに取り付けられたポリエチレン(PE-50)管の断片を用いて、100%ミリスチン酸イソプロピル(IPM)50μlの形態の浸透促進剤による前処理を鼓膜に適用した。PE-50管は、耳鏡の先端部を通して外耳中に進入させ、耳鏡の助けを借りて鼓膜近くに配置した。ミリスチン酸イソプロピルを耳に適用した後、タイマーを始動させ、PE-50管を引き抜いた。0.5分(ミリスチン酸イソプロピル滴下注入直後)、2分、5分、および20分の4回の前処理時間を含めた。前処理時間に達したら、ゲル製剤を満たしたツベルクリン用1ml容シリンジに取り付けられた別のPE管断片(1%モキシゲルの場合はPE-50、および3%モキシゲルの場合はPE-160)を、耳鏡の助けを借りて、鼓膜近くの外耳道中に進入させた。ゲル製剤は、耳鏡の先端に到達するまでゆっくりと適用した。タイマーを開始し、外側の耳介を少なくとも5分間そっと上に引っ張って製剤をゲル化させている間に、PE管および耳鏡を引き抜いた。外側の耳介を放し、反対側の耳に投薬する前に、合計10分のゲル化時間を与えた。処置の間ずっと、動物の心拍数、呼吸速度、体温、および麻酔深度を頻繁にモニターした。
【0068】
一方または両方の耳への投薬が完了した後、エリザベスカラーを動物にしっかりと取り付け、その後、自由に動物が動けるRaturn(登録商標)ケージシステム(Bioanalytical Systems, Inc., West Lafayette, IN)の内部に動物を入れ、麻酔から完全に回復させた。中耳液微小透析液試料を各耳から20分毎に採取し、HPLC-MS-MSシステムまたはHPLC蛍光システムで分析するためにオンラインで注入した。実験期間の間ずっと、動物が食物および水に自由に到達できるようにした。10〜14時間毎に、ブプレノルフィン(0.05mg/kg IM)および皮下液体補充(生理食塩水6mL)を提供した。1%モキシゲルの外耳投薬後最長5375分間および3%モキシゲルの投薬後最長6180分間、中耳液微小透析液中のモキシフロキサシン濃度をモニターした。
【0069】
実施例11−データ解析
プローブによる回収および遅延時間に関する中耳液微小透析液濃度の補正
微小透析プローブを試料ループに連結する管の長さおよび微小透析灌流流速に基づいて、遅延時間を推定した。この値は、プローブ先端から試料採取ループまでの透析液移行時間に相当する。典型的な遅延時間は約45分であった。実際の試料採取時間は、10分の採取間隔の中間点であり、遅延時間に関して補正し、最も近い5分に端数を丸めた。
【0070】
各透析液試料について、透析液中の較正物質ピーク領域と灌流液中のそれとの比を1(unity)から引くことによって、プローブによる回収率(recovery)を測定した。偏りを減らし、実験過程を通じてのプローブ性能の変化を反映するために、「2点間(point-to-point)」補正法の代わりに推定値5個の移動平均を用いて、プローブによる回収に関して補正した。実際の中耳液の薬物濃度を得るために、各透析液中のモキシフロキサシン濃度を、平均プローブ回収率で割った。
【0071】
モキシフロキサシン濃度−鼓胞内投薬後の中耳液における時系列データ
単一指数的減少(monoexponential decline)に従って、データセット9個のそれぞれにおける中耳液のモキシフロキサシンレベルを分析し、その際、初期体積および消失速度定数は推定されたパラメーターであった。非線形回帰分析(SAAM II, v 1.2.1, University of Washington, Seattle, WA)を用いて、1-コンパートメントモデルのパラメーターを明らかにした。重み関数は変動係数5%を想定し、選択された分散モデルは、フィットされた関数ではなくデータと関連していた。
【0072】
1%モキシフロキサシン(モキシゲル)製剤および3%モキシフロキサシン(モキシゲル)製剤の外耳投薬後の中耳液中モキシフロキサシン濃度の解析
データの調査は、中耳液の濃度が予想よりはるかに高かったデータセットの慎重な解析を伴った。確証的な証拠により、これらが鼓膜の欠陥の結果であることが示唆された場合、そのデータセットは以降の解析から除外した。1%モキシゲル適用については23個、3%モキシゲル適用については13個の使用可能なデータセットがあった。その後の非コンパートメント解析およびデコンボリューション手順用にデータをビニング(bin)するために、中耳液のモキシフロキサシン濃度−時間データの時間を、最も近い10分に調整した。この「ビニング」段階は、実際の時間から名目上の時間への10分未満の調整を要した。
【0073】
WinNonlin Professional (v 5.2, Pharsight Corporation, Mountain View, CA)を用いて、各中耳液の濃度データセットの非コンパートメント解析を実施した。線形台形オプションおよび線形補間オプションと共に、血管外投薬(Model 200)を選択した。対数回帰および均一な重み付けと共に、「λzのための最適フィット(best fit for lambda_z)」(最終速度定数)オプションを選択した。以下の式の通り、外耳用量、鼓胞内投薬研究によって測定した時間0から無限時間までの曲線下面積(AUCinf)、および中耳液からの平均消失クリアランス(CL)から、中耳液中へのモキシフロキサシンの移行程度(生物学的利用能、%F)を各データセットについて算出した。
【0074】
WinNonlin Professional (v 5.2, Pharsight Corporation, Mountain View, CA)内でデコンボリューションを実施して、流入関数(中耳液中へのモキシフロキサシンの浸透速度)を決定した。その際、鼓胞内投薬データの解析により決定した平均分布体積および平均消失速度定数を用いて、二項(two-term)単位インパルス応答関数を定義した。対応のないt検定により、体積パラメーターおよび速度定数パラメーターが、2種の鼓胞内用量レベルにおいて有意に異ならないことが示された。
【0075】
実施例12−インビトロにおける1%モキシゲルおよび3%モキシゲルからのモキシフロキサシンの放出
分析したゲル中モキシフロキサシン濃度に関連して表した、ゲル製剤から放出されたモキシフロキサシンの累積率(パーセント)のプロットを図1に示す。初期にあまり大きくない放出速度を示した後、どちらの製剤も、約2〜6時間の間に生じるインビトロでの最大放出速度を示した。その後、放出速度はゆっくりと低下した。
【0076】
データの補間により、1%モキシゲルは5時間でその内容物の約50%、9.5時間で75%、および16時間で90%を放出することが明らかになった。1%モキシゲル製剤で観察された最大放出速度は約12%/時であり、これは、1%モキシゲルを用いて外耳中に投与されるゲルの典型的体積である製剤500μlから約9.4μg/分の放出速度に相当した。
【0077】
3%モキシゲルは7.5時間でその内容物の約50%、15時間で75%、および26時間で90%を放出した。3%モキシゲル製剤で観察された最大放出速度は約9.1%/時であり、これは、3%モキシゲルを用いて外耳中に投与されるゲルの典型的体積である製剤350μlから約15μg/分の放出速度に相当した。
【0078】
インビトロにおいて3%モキシゲル製剤の方が1%モキシゲルよりも高いモキシフロキサシン絶対放出速度を示したものの、3%モキシゲルからの時間あたり放出速度(fractional release rate)の方が遅いのは、懸濁状態で存在する用量部分が原因であり、したがって、ゲルから放出される前に溶解するのにいくらかの時間が必要となる可能性が高い。
【0079】
実施例13−人工の保温された中耳液中のモキシフロキサシン遊離率
タンパク質結合研究の結果を表3に要約する。PBSの場合に観察された遊離率はいずれも100%に近かったことから、限外ろ過装置の膜への薬物吸着はほとんどまたはまったく無いことが示された。AMEFの場合、濃度範囲全域で非常に高い未結合率(%)が算出された(84〜92%)ことから、ウシアルブミンへのモキシフロキサシン結合は最小限であることが示された。IMEFにおいて、モキシフロキサシンの遊離率は、類似濃度のAMEFにおいて観察されたものよりも低かったことから、このマトリックス中に別の結合タンパク質が存在することが示唆された。
【0080】
全体として、モキシフロキサシンの遊離率は、試験した濃度範囲において比較的高いままであった。したがって、微小透析によって測定される薬物濃度は、中耳液中に存在する総モキシフロキサシンレベルの大部分に相当する。投薬後最初の数時間の間、試料マトリックスはAMEFに良く似ている。実験時間が18時間またはそれ以上に近づくにつれて、試料マトリックスはIMEFのより優れた見本となることが予想される。表3に示した結果から、2種のマトリックスにおける遊離率の有意な差が示された。しかしながら、この差が、MEF微小透析データの解釈に何らかの意味ある影響を与える可能性は低い。
【0081】
(表3)保温した中耳液(IMEF)、人工中耳液(AMEF)、およびリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の未結合モキシフロキサシンの割合(%)
【0082】
実施例14−鼓胞内投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度
約50μgおよび150μgを中耳中に直接投薬した後、微小透析によって測定した中耳液の未結合モキシフロキサシン濃度(Cmef)のプロットを図2および図3に示す。中耳液のモキシフロキサシン濃度は単一指数的に低下し、被験体間のばらつきは比較的少なめであった。これらの濃度-時間プロファイルを用いて、経鼓膜送達後のCmefデータのデコンボリューション解析において単位インパルス応答関数(UIRF)を明確にした。中耳液中のモキシフロキサシンの分布体積は、鼓胞内低用量および鼓胞内高用量に対して、それぞれ1.75±0.79mlおよび1.90±0.43ml(平均値±SD)であると推定された。消失速度定数は、それぞれ0.0102±0.0040min-1および0.0075±0.0010min-1であると推定された。体積も消失速度定数も、用量依存性ではなかった。したがって、これら2つのパラメーターの平均値を用いて、デコンボリューション手順においてUIRFを明確にした。
【0083】
実施例15−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度
1%モキシゲルを用いた外耳投薬
1%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度(Cmef)のプロットを図4Aおよび図4Bにグループ別に示す。測定可能なレベルは、投薬後最長4日間(5375分)得られた。IPMによる前処理時間の長さ(0.5分、2分、5分、または20分)は、これらの研究で測定したCmax値にもAUCinf値にも影響を及ぼさなかった。
【0084】
これらのデータを図5に線形濃度尺度および対数濃度尺度で平均値±SDとして提示する。モキシフロキサシンの最高平均濃度は約48μg/mlであり、投薬後約900分(15時間)目に発生した。約90分の時点で平均濃度は10μg/mlに到達し、投薬後約2100分(35時間)までそのレベルを上回ったままであった。約230分の時点で平均濃度は20μg/mlに到達し、投薬後約1610分(27時間)までそのレベルを上回ったままであった。
【0085】
中耳液の未結合(遊離)濃度-時間データの非コンパートメント解析の結果を表4に要約する。Cmaxおよび最終速度定数λzに有意なばらつきが観察された。後者のパラメーターは、Cmefの時間当たりの低下速度(fractional rate of decline)を説明するものであり、中耳液中への/からのモキシフロキサシンの移行および退出の律速段階を反映する。ここで、律速段階とは、鼓膜を通過して抗生物質が浸透する速度である。鼓胞内投薬研究において測定した、中耳液からの消失に関連付けられている平均速度定数が、0.008〜0.010min-1の範囲であり、ここで測定された平均値0.0043より実質的に大きかったことから、これは明らかである。
【0086】
(表4)1%モキシゲルの外耳投薬後のCmefデータ(N=23)のNCA由来のモキシフロキサシンパラメーター
【0087】
未結合Cmefの平均最大値57.8μg/mlは、ヒトに400mgを経口投与した後に血漿中で観察される値(2.0μg/ml)より20〜30倍大きい(OwensおよびAmbrose, 2002, Pharmacodynamics of Quinolones、「Antimicrobial Pharmacodynamics in Theory and Clinical Practice」、162頁、Nightingale、Marakawa、およびAmbrose編、Marcel Dekker, Basel, CH)。1% モキシゲルに由来するモキシフロキサシンの中耳液中への生物学的利用能(%F)を、式1で説明した通りに算出した。
【0088】
表5Aでは、Cmefが10μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、10μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および10μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、1%モキシゲル投薬後の各データセット(N=23)を調査することによって得た。Cmefレベルが10μg/mlを上回ったままである平均時間は、1700分(約29時間)より長かった。
【0089】
(表5A)1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0090】
表5Bでは、Cmefが20μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、20μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および20μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、1%モキシゲル投薬後の各データセット(N=23)を調査することによって得た。Cmefレベルが20μg/mlを上回ったままである平均時間は、1100分(約19時間)より長かった。データセットの内の2つのCmefは20μg/mlまで上昇せず、その結果、2つのデータセットに関する「20μg/mlを上回っている時間」は0分という値になっている。
【0091】
(表5B)1%モキシゲルの外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、および20μg/mlを上回っている時間
【0092】
3%モキシゲルを用いた外耳投薬
3%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度(Cmef)のプロットを図6にグループ別に示す。測定可能なレベルは、投薬後最長4日間(6180分)得られた。1%モキシゲル投薬データの場合と同様に、IPMによる前処理時間の長さは、これらの研究で測定したCmax値にもAUCinf値にも影響を及ぼさなかった。
【0093】
これらのデータを図7に線形濃度尺度および対数濃度尺度で平均値±SDとして提示する。モキシフロキサシンの最高平均濃度は約120μg/mlであり、投薬後約1300分(22時間)目に発生した。約60分の時点で平均濃度は10μg/mlに到達し、投薬後の研究期間の間ずっと(5000分超)そのレベルを上回ったままであった。約230分の時点で平均濃度は20μg/mlに到達し、約5340分(89時間)までそのレベルを上回ったままであった。57時間を超える測定可能レベルを示したデータセットは2つだけであったため、この観察結果は、データの全般的傾向を反映しているわけではない。
【0094】
3%モキシゲルの外耳投薬後の中耳液の未結合濃度-時間データの非コンパートメント解析の結果を表6に要約する。
【0095】
(表6)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後のCmefデータ(N=13)のNCA由来のモキシフロキサシンパラメーター
【0096】
1%モキシゲルと同様に、Cmaxおよび最終速度定数λzに有意なばらつきが観察された。この速度定数の平均値は0.0029min-1であり、鼓胞内投薬後に測定した消失速度定数を実質的に下回っていた。これは、約350分の半減期幾何平均値に相当し、中耳液中にモキシフロキサシンを直接投与した場合に観察される消失半減期よりはるかに長い。これは、1%モキシゲル研究の場合のように、鼓膜を通過してのモキシフロキサシンの浸透が、中耳液からの消失速度を制限することの証拠である。中耳液中への外耳投与の平均生物学的利用能は約35%であったが、かなり変化しやすかった。これは、おそらくはゲルと膜との不十分な接触にある程度起因する、ゲルと鼓膜の接触のばらつきが原因である可能性が高かった。%Fのこのばらつきにもかかわらず、本研究では、平均130μg/mlという極めて高い中耳液のモキシフロキサシン最高濃度が観察された。実際、生物学的利用能が2.9%であったデータセットは、27.7μg/mlのCmaxを示し、これは、モキシフロキサシン400mgの経口投与後に通常観察される最大血漿中未結合濃度の10倍より多かった (Owens et al., 前記)。
【0097】
表7Aでは、Cmefが10μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、10μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および10μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、3%モキシゲル投薬後の各データセット(N=13)を調査することによって得た。Cmefレベルが10μg/mlを上回ったままである平均時間は、2800分(約48時間)より長かった。
【0098】
(表7A)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0099】
表7Bでは、Cmefが20μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、20μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および20μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、3%モキシゲル投薬後の各データセット(N=13)を調査することによって得た。Cmefレベルが20μg/mlを上回ったままである平均時間は、2500分(約42時間)より長かった。
【0100】
(表7B)3%モキシゲルの外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、20μg/mlを上回っている時間
【0101】
実施例16−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルを用いた外耳投薬後のモキシフロキサシンの比較計量
1%モキシゲルおよび3%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液の濃度(Cmef)-時間プロファイルの比較を図8に提供する。図8では、中耳液のモキシフロキサシン濃度の平均値およびSDを時間に対してプロットしている。外耳中に導入される各製剤の体積は同じではなかったため(1%モキシゲルおよび3%モキシゲルについて、それぞれ平均約500μlおよび350μl)、外耳に入れた用量は、3%モキシゲルコホートの方が1%モキシゲルグループよりも平均で約2倍多かった(4800μgに対して9900μg)。さらに、3% モキシゲルコホートの方が、そのより遅いモキシフロキサシン相対放出速度のおそらくは結果として、浸透の経時変化は顕著に長期化された(図1を参照されたい)。用量および放出速度のこれらの差は図8で明らかであり、図8において、3%モキシゲルの平均Cmax値の方が高いことおよび平均Cmefの最大値に到達する時間が明らかに遅いことが実証されている。
【0102】
これら2種の製剤に関して観察された中耳液のモキシフロキサシンレベルのCmax値およびTmax値の比較を、図9の比較用箱ひげ図に示す。これらのプロットは、これらの計量の中央値および四分位数間範囲を示す。また、これらのプロットは、2種の製剤のTmax中央値(それぞれ、1%モキシゲルの場合は900分、および3%モキシゲルの場合は1180分)は、ノンパラメトリックマンホイットニー検定によって差異はなかったが、Cmax中央値はp値0.0084で有意に異なった(それぞれ、1%モキシゲルの場合は41.2μg/ml、および3%モキシゲルの場合は109μg/ml)。
【0103】
実施例17−中耳液中へのモキシフロキサシン浸透の速度および程度
鼓胞内投薬研究の結果、およびモキシゲルを用いた外耳投薬後のCmefの経時変化を用いて、デコンボリューションを用いてモキシフロキサシンの経鼓膜浸透の速度および程度を算出した。
【0104】
1%モキシゲルを用いた場合の中耳液中へのモキシフロキサシン浸透
1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に中耳液に到達するモキシフロキサシン累積量の経時変化を図10に示す。中耳液に送達される累積量は、約250〜2300μgの範囲であった。この範囲は、1%モキシゲル投薬の際に観察されるAUCinf値の範囲を反映している。
【0105】
また、デコンボリューションによって算出した対応する浸透速度(流入速度)を図11Aおよび図11Bにグループ別にグラフで示す。各コホートにスプライン関数をフィッティングさせて、そのグループのデータセットにおける流入速度の全般的傾向を反映させた。これは、10個のデータ点の範囲をその手順において用いる局所重み付き散布図平滑化によって行った。図11Aおよび図11Bのスプラインの調査により、中耳液中へのモキシフロキサシンの最大浸透速度が約0.2〜2μg/分の範囲であり、インビトロ条件下での1%モキシゲルの比較可能な投薬に関して推定される対応する放出速度(9.4μg/分)よりかなり少ないことが示される。これらの最大浸透速度は、約12〜120μg/時のインビボでのモキシフロキサシン送達速度におおよそ相当する。
【0106】
3%モキシゲルを用いた場合の中耳液中へのモキシフロキサシン浸透
3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に中耳液に到達するモキシフロキサシン累積量の経時変化を図12に示す。中耳液に送達される累積量は、約200〜6000μgの範囲であった。この範囲は、3%モキシゲル投薬の際に観察されるAUCinf値の範囲をほぼ反映している。
【0107】
デコンボリューションによって算出した対応する浸透速度(流入速度)を図13にグループ別にグラフで示す。これらのデータにおける流入速度の全般的傾向を反映する、各コホートにフィッティングされたスプライン関数もまた、示す。図13のスプラインの調査により、中耳液中へのモキシフロキサシンの最大浸透速度が約0.5〜5μg/分の範囲であり、インビトロ条件下での3%モキシゲルの比較可能な投薬に関して推定される対応する放出速度(15μg/分)よりかなり少ないことが示される。これらの最大浸透速度は、約30〜300μg/時のインビボでのモキシフロキサシン送達速度におおよそ相当する。
【0108】
1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの中耳液中への相対的モキシフロキサシン浸透速度
1%モキシゲルデータセットおよび3%モキシゲルデータセット(N=36)のそれぞれについてデコンボリューションによって推定した浸透速度(流入速度)を、前述した通りにスプライン関数によってデータにフィッティングし、用量別にグループ分けした。データおよび対応する流入速度スプラインを図14にグラフで示す。これらのプロットから、1%モキシゲルの場合の典型的な最大浸透(流入)速度が約0.7μg//mlであり、約700〜800分(約12〜13時間)の時点で生じることが示される。3%モキシゲルの場合の対応する最大浸透速度は約2μg/分であり、1600〜2000分(約27〜33時間)の範囲で生じる。3%モキシゲルの場合に認められる最大浸透速度の方が大きいことは、この製剤に付随する用量がより多いことと一致している。1%モキシゲルを用いた場合の典型的な外耳用量は約4800μgであり、3%モキシゲルを用いた場合の対応する用量(典型的には、より小さな体積で投与された)は約9900μgであったことに留意すべきである。したがって、3%モキシゲルに付随する用量は、1%モキシゲルの場合の用量の約2倍であった。3%モキシゲルの場合に浸透速度ピークが遅くに観察されることは、3%ゲル製剤中でモキシフロキサシンは部分的に懸濁状態であるため、インビトロで、およびおそらくインビボで、よりゆっくりとこの製剤からモキシフロキサシンが放出されることを反映している。
【0109】
実施例18−中耳液中モキシフロキサシン標的濃度に到達するまでの時間および該標的濃度を上回っている持続時間
この調査の具体的目的は、10μg/mlを上回る中耳液中モキシフロキサシン濃度を最低24〜48時間維持するための経鼓膜送達系を開発することであった。図15は、1%モキシゲル外耳投薬を用いた研究において認められた、10μg/mlおよび20μg/mlの両方に到達するまでに必要とされる時間の中央値および四分位数間範囲を示す。中耳液レベル10μg/mlおよび20μg/mlを達成するのに必要とされる時間中央値はそれぞれ180分および300分であった。図面は、これらのレベルが維持された時間の中央値も示している。これらはそれぞれ、1660分および1160分、または約28時間および19時間であった。したがって、この目的は、1%モキシゲル製剤を用いて実現されたようである。
【0110】
さらに、図16は、3%モキシゲルを用いた研究において認められた、10μg/mlおよび20μg/mlの両方に到達するまでに必要とされる時間の中央値および四分位数間範囲を示す。中耳液レベル10μg/mlおよび20μg/mlを達成するのに必要とされる時間中央値はそれぞれ180分および240分であった。図面は、これらのレベルが維持された時間の中央値も示している。これらはそれぞれ、2740分および2420分、または約46時間および40時間であった。10μg/mlを超えている持続時間に関する前述の目的は、3%モキシゲル製剤を用いても実現された。さらに、これは目的として明示的に述べはしなかったものの、3%モキシゲル製剤により、ほぼ2日間という20μg/mlを超えている持続時間の中央値が実現した。この製剤が溶解状態だけでなく懸濁状態でモキシフロキサシンを含むと思われることが、インビトロでのより遅い相対的放出速度と一致するインビボでの長期に渡る放出速度をもたらした可能性が高い。
【0111】
1%モキシゲルおよび3%モキシゲルそれぞれについて、図15および図16に示す時間および持続時間を表8Aおよび表8Bならびに表9Aおよび表9Bに要約する。また、個々のデータセットで観察された平均時間、ならびに最短時間および最長時間も表にしている。
【0112】
(表8A)1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0113】
(表8B)1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、および20μg/mlを上回っている時間
【0114】
(表9A)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0115】
(表9B)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、および20μg/mlを上回っている時間
【0116】
実施例19−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のモキシフロキサシンのAUIC比
Schentagら(2003, Ann. Pharmacother., 37:1287-98)によって殺菌速度に関係付けられている通り、3つの重要なブレークポイントがフルオロキノロンに対して提唱されている。これらのブレークポイントは、このクラスの抗生物質の見かけ濃度に依存する殺菌を考慮して、インビトロおよび動物モデルにおいて確立されている。AUICは、24時間を通しての曲線下面積(血漿濃度または血清濃度)を、特定の生物に対する当該フルオロキノロンの最小阻止濃度によって割った値と定義される。Schentagら(前記)は、フルオロキノロンの以下のブレークポイントを報告した。
a. AUIC値<30〜50またはピーク:MIC比が5:1の範囲の場合、フルオロキノロンは静菌性である。
b. AUIC値>100であるがAUIC値<250の場合、生物はゆっくりした速度で、通常は処置から7日目までに、死滅する。
c. AUIC>250またはピーク:MICが25:1の場合、フルオロキノロンは急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶は24時間以内に起こる。
【0117】
1%モキシゲル研究および3%モキシゲル研究の全データセットに関するAUIC値は、外耳投薬後の連続的な24時間の各期間について算出した。これらの計算から、モキシフロキサシンのMICは0.25μg/mlと想定された。図17に示す通り、1%モキシゲル投薬(N=23)後の1日目、2日目、および3日目の中耳液におけるAUIC中央値は、それぞれ2398、7756、および62であった。1%モキシゲルの場合の1日目および2日目のこれらの値は、上記に特定したカテゴリーc、すなわち、24時間以内の細菌根絶に含まれる。1%モキシゲル研究において3日に測定されたAUIC中央値は、カテゴリーbおよびaの間に位置する。
【0118】
同じく図17に示す通り、3%モキシゲル投薬(N=13)後の1日目、2日目、および3日目のAUIC中央値は、それぞれ5930、4901、および570であった。3%モキシゲルの場合の外耳投薬後3日間すべてのこれらの値は、上記に特定したカテゴリーc、すなわち、24時間以内の細菌根絶に含まれる。この知見から、3%モキシゲル後のチンチラの中耳液中モキシフロキサシン濃度の経時変化は、1%モキシゲル適用で観察されるものよりも優れた実際の利点をもたらすことが示唆される。しかしながら、Schentagらの推奨が正確であるならば、1日目および2日目の関連するAUICは、24時間以内の細菌根絶をもたらすのに十分であると思われるため、1%モキシゲル外耳投薬によってもたらされるモキシフロキサシンレベルが適切であり得る。
【0119】
上記のAUIC算出における0.25μg/mlというモキシフロキサシンについてのMICは、妥当であり、かつおそらく控えめな値である。その後の論文で、Schentagら(2003, Ann. Pharmacotherap., 37:1478-88)は、フルオロキノロンの殺菌効果を評価するために、ブレークポイントの使用を重点的に取り扱い、中耳炎で発生する一般的病原菌である肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae)株に対するモキシフロキサシンのMIC90を0.125μg/mlと報告している。興味深いことに、この論文では、ヒト臨床試験の結果を検討し、以前に報告されているブレークポイントを確認している。実際、著者らは、フルオロキノロンによる濃度依存性殺菌により、ヒトにおいて1〜2時間で細菌が根絶され、その際、AUICが250より大きいか、またはCmaxとMICの比が15:1を上回ることを述べている。
【0120】
公表されたこれらのブレークポイントは、タンパク質結合を考慮に入れていないと思われる。本研究で測定される中耳液の濃度は未結合レベルであり、生じるAUICを算出する際に全レベルが使用されるならば、これらはいくらか高くなり、それらがクラスc(フルオロキノロンが急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶が24時間以内に起こる)に入ることがより確実になると思われる。
【0121】
実施例20−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のモキシフロキサシンのCmax/MIC比
上記の実施例19で考察したブレークポイントはまた、Cmax/MIC(「ピーク:MIC」)比に関係する基準を含んだ。上記のクラスaおよびクラスcにおけるこれらの比に注目して、Schentagら(2003, Ann. Pharmacother., 37:1287-98)は以下を述べた。
a. 5:1の範囲のピーク:MIC比において、フルオロキノロンは静菌性である。
c. ピーク:MICが25:1の場合、フルオロキノロンは急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶は24時間以内に起こる。
【0122】
2つ目の論文(Schentag et al., 2003, Ann. Pharmacotherap., 37:1478-88)においてブレークポイントが若干修正され、クラスa、b、およびcのCmax/MIC比はそれぞれ3:1、6:1、および15:1と報告された。1%モキシゲル研究および3%モキシゲル研究の全データセットに関するCmax/MICを、外耳投薬後の連続的な24時間の各期間について算出した。以前と同様に、これらの計算から、モキシフロキサシンのMICは0.25μg/mlと想定された。図18に示す通り、1%モキシゲル投薬(N=23)後の中耳液におけるCmax/MIC中央値は、165:1であった。この値は、24時間以内の細菌根絶が予想されているクラスc(交互に(alternately)25:1または15:1と報告されている)について特定された値の数倍である。
【0123】
図18に示す通り、3%モキシゲル投薬(N=13)後の中耳液におけるCmax/MIC中央値は、436:1であった。この値は、クラスcについて特定された値より何倍も高いことから、24時間以内の細菌根絶がやはり示唆される。
【0124】
上記の通り、公表されたこれらのブレークポイントは、タンパク質結合を考慮に入れていない。本研究で測定される中耳液の濃度は未結合レベルであり、報告されたブレークポイントにおいて考慮されるCmax/MIC比を算出する際に全レベルが使用されるならば、これらの比はいくらか高くなり、それらがcクラス(フルオロキノロンが急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶が24時間以内に起こる)に入ることがさらにより確実になると思われる。
【0125】
実施例21−10%浸透促進剤および50%浸透促進剤による前処理を比較するための方法
投薬の1日前に、動物は両側の耳にエウスタキオ管閉塞(ETO)手術を受けた。ティンパノメトリーにおいて負の圧力測定値を示している耳は、エウスタキオ管の閉塞が成功していることを示した。鼓胞中への人工中耳液AMEF滴下注入、プローブ埋め込み後、かつ投薬前に、耳鏡を用いて鼓膜の完全性を視覚的に検査した。鼓膜に欠陥が生じている耳には投薬しなかった。
【0126】
投薬日に、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(20〜30mg/kg、IP)で動物を麻酔し、温熱パッド上に置いて通常体温を維持した。ティンパノメトリー後、チンチラを口バー/クランプ上に置いて、AMEFを滴下注入し微小透析プローブを埋め込めるようにした。チンチラの中耳腔へは、頭蓋の背中側にある頭方向の鼓胞を介して接近した。15GA皮下注射針を用いて、骨が薄い右鼓胞と左鼓胞の頂端に手作業で小さな穴をあけた。最上部まで完全に満たされるまで、PE-50管の長さをよって各鼓胞中にAMEFを滴下注入した。
【0127】
AMEF滴下注入後すぐに、左中耳鼓胞および右中耳鼓胞の両方に10mm膜を備えた微小透析プローブ(MD-2310)(BASi, West Lafayette, IN)を埋め込んだ。チンチラの中耳腔へは、頭方向の鼓胞における同じ穴を介して接近した。その接近用の穴から、プローブを慎重に各中耳腔中に挿入した。耳鏡を用いて、鼓膜の完全性を検査した。歯科用セメントおよびアンカー針によって固定されたプラスチック製かぶせものを用いて、これらのプローブをチンチラの頭蓋に固定した。
【0128】
前述した通りに外耳中に3%モキシゲル溶液を用いて投薬する前に、鉱油に溶かした10%v/vミリスチン酸イソプロピル(IPM)溶液または50%v/vミリスチン酸イソプロピル(IPM)溶液のいずれかの形態の浸透促進剤で前処理を実施した。これは、耳鏡の助けを借りて外耳経由で鼓膜領域中に前処理溶液50μLを適用することからなった。これは、ツベルクリン用1mL容シリンジに取り付けられたポリエチレン(PE-50)管の断片を用いて遂行した。投薬に先立って0.5分間、この前処理溶液を鼓膜上に置いておいた。
【0129】
少量(0.3mL)の3%モキシフロキサシン製剤を、耳鏡の助けを借りて外耳経由で鼓膜領域中に液剤として滴下注入した。この液体製剤は、ゾル-ゲル転移温度が約29〜31℃であり、その温度がゆっくりと上昇するにつれてゲル化する。反対側の耳に投薬する前に、合計10分のゲル化時間を与えた。処置の間ずっと、動物の心拍数、呼吸速度、体温、および麻酔深度を頻繁にモニターした。
【0130】
9mg(30mg/mLを含む製剤0.3mL)の1回量を適用した後、後述する通りに、投与後最長7200分間、中耳液中未結合モキシフロキサシン濃度を、オンライン微小透析を用いてモニターした。
【0131】
オンライン微小透析HPLCシステムを用いて、透析液中のモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンを定量した。微小透析の灌流流速は、5mL容マイクロシリンジ(Hamilton Company, Reno, NV)を取り付けたHarvard製マイクロインジェクションポンプ(モデルH11;Harvard Apparatus Inc.;South Natick, MA)を用いて制御した。シーケンスプログラマー(Valco Instruments Co. Inc., Houston, TX)によって制御される10ポート弁本体の2つの25μl試料ループ中に、両耳からの微小透析液を交互に採取した。プローブに流速0.5μL/分で逆透析較正物質(シプロフロキサシンのPBS溶液(5μg/mL))を灌流させた。
【0132】
Valco製オンライン試料採取システムと接続して機能させるためにShimadzu 10-A HPLCシステム(Shimadzu Corporation, Kyoto, Japan)を使用した。これは、LC-10ADvpポンプ、SIL-10Aシステムコントローラー、CTO-10Aカラムヒーター、FCV-10ALvpプロポーショナー、およびDGU-14A脱ガス装置からなる。また、励起波長295nmおよび発光波長490nmのShimadzu製分光蛍光検出器(RF-10A)も使用した。YMC ODS-A 5μm、120Å(4.6×100 mm、Waters Corporation, Milford, MA)カラムを、これらの化合物の分離のために使用し、リン酸アンモニウム(20mM、pH=2.8)76%およびアセトニトリル24%から構成される移動相を流速0.5mL/分で用いて溶出させた。40℃のカラム温度を用いた結果、モキシフロキサシンの場合は約6分および較正物質シプロフロキサシンの場合は3分の保持時間が得られた。
【0133】
実施例22−10%浸透促進剤による前処理と50%浸透促進剤による前処理の比較結果
鼓膜を10%IPMで前処理して3%モキシゲルを外耳投薬した後、中耳液中未結合モキシフロキサシン濃度(Cmef)は、典型的には、定量下限よりも低かった。前処理で10%IPMを使用した場合に観察される測定可能なレベルは極めて少数であったため、モキシフロキサシンの送達に関係するパラメーターを算出することができなかった。
【0134】
それに対して、鼓膜を50%IPMで前処理して3%モキシゲルを外耳投薬した後、中耳液中未結合モキシフロキサシン濃度は、最長7200分または5日の期間に渡って、完全に測定可能であった。研究した9個の耳において、中耳液中のCmax(未結合モキシフロキサシン最高濃度)(平均値±SD)は33.3±23.3μg/mLであった。ヒトにおいて血清タンパク質に30%〜50%結合することが報告されているモキシフロキサシンの400mgの経口投薬後に血漿中で観察された合計(結合および遊離)最高濃度は3.1μg/mLである。対応する血漿中未結合Cmaxは約1.9μg/mLである。したがって、本研究による外耳中への9mgの単回投与後のチンチラ中耳液において観察された未結合モキシフロキサシン最高濃度平均値は、用量400mgを与えられたヒトの血漿において観察された未結合Cmax平均値の約15〜20倍である。
【0135】
最高濃度が観察される時点であるTmaxは、1410±486分であった。0時点からtlastまでのAUCは、約74,400±52,100μg・分/mLであり、時間0から無限時間までのAUC(AUCinf)は、約93,400±79,200μg・分/mLであった。400mgを1回経口投薬された健常なヒトの平均AUCは、2170μg・分/mLであることが報告されている。対応する未結合AUCはこの約60%、または約1300μg・分/mLである。したがって、チンチラ外耳中に9mgを1回投薬した後の未結合レベルのモキシフロキサシンへの中耳液の平均曝露は、モキシフロキサシン400mgを1回経口投与された健常なヒトの血漿で認められる曝露の約75倍である。
【0136】
中耳腔中にモキシフロキサシンを直接投薬(鼓胞内投薬)した後に、中耳液中へのモキシフロキサシンの経鼓膜送達の程度を、微小透析を用いて測定した単一指数的濃度-時間プロファイルから算出した。中耳液中のモキシフロキサシンの分布体積は、1.8mLであると推定された。消失速度定数は、0.0093min-1であると推定された。中耳液からのモキシフロキサシンの平均クリアランス(CL)は、0.0167mL/分と算出された。以下の式の通りに、外耳用量、時間0から無限時間までの曲線下面積(AUCinf)、および鼓胞内投薬研究によって測定した中耳液からの平均クリアランス(CL)から、中耳液中へのモキシフロキサシンの送達程度(生物学的利用能、%F)を各データセットについて算出した。
【0137】
中耳腔に送達される外耳用量の割合(平均値±SD)は、17.4±14.7%と測定された。
【0138】
9mgモキシフロキサシン投薬および50%ミリスチン酸イソプロピルによる鼓膜の前処理後のチンチラ中耳液(MEF)中へのモキシフロキサシンの経鼓膜送達を検査した本発明の研究の結果を図19Aおよび図19Bに示す。対応するパラメーターおよび対応するパラメーターおよび計量値(metrics)を表10に示す。
【0139】
(表10)浸透促進剤による前処理後のモキシフロキサシンの送達
【0140】
他の態様
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を例示することを意図し、限定することを意図しないことを理解すべきである。他の局面、利点、および修正は、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年1月7日に出願された米国特許仮出願第61/293,019号に対して優先権の恩典を請求するものである。先願の開示内容は、本出願の開示内容の一部とみなされる(かつ参照により本出願の開示内容に組み入れられる)。
【0002】
技術分野
本発明は、耳にモキシフロキサシンを適用するための方法および材料に関する。より具体的には、本発明は、中耳の障害を治療するために鼓膜の外側上皮表面にモキシフロキサシンを適用するための方法および材料を特徴とする。
【背景技術】
【0003】
背景
中耳炎(OM)は、特に子供に非常に多く発症する。OMは、上気道、エウスタキオ管、および中耳の微環境を変化させ、その結果、鼻咽頭に常在する細菌が中耳に侵入し生息するようになる、上気道のウイルス性感染症で始まることが多い。この侵入は、エウスタキオ管に炎症を起こし塞いで、中耳の換気、圧力平衡、および排液の邪魔をし得る。通常は空気で満たされている中耳腔において、液体が蓄積し、圧力が上昇して、激しい痛みを引き起こす。OMの重症例では、感音構造が損傷されることがある。持続性OMまたは再発性OMは、ねばねばした生物膜によって抗生物質から保護されていた中耳中で休眠から目覚めた細菌によって引き起こされることがある。
【0004】
OMは、現在、抗生物質を用いて、かつ/または中耳腔から排液し減圧するように鼓膜の外科的切開部から鼓膜換気チューブ(tympanostomy tube)を挿入することによって治療される。抗生物質治療の有効性は、送達経路によって制限される。抗生物質は全身に送達され得るが、中耳において治療的レベル(すなわち、最小阻止濃度を上回るレベル)を達成するためには高用量がしばしば必要とされ、そのようなレベルはかなりの時間遅れて達成されることが多い。また、抗生物質は、洗浄によってまたは点滴によっても外耳道内に送達され得る。このような送達経路は制御することが難しい場合があり、中耳において抗生物質の治療的レベルを持続的に実現するには有効ではないことが多い。また、抗生物質は、中耳内に注射することによって、または抗生物質を含浸させた材料を中耳内に挿入することによっても送達され得るが、このような方法は、鼓膜に穴を開けることまたは鼓膜を切開することを伴い、これには全身麻酔が必要となり、鼓膜が損傷される場合がある。また、鼓膜換気チューブの外科的挿入も、鼓室硬化症(すなわち、鼓膜組織および中耳組織の石灰化)、聴力損失、持続的耳漏(すなわち、管からの膿の分泌)、ならびに感染症を含むリスクを有する。
【0005】
国立衛生研究所(National Institutes of Health)の一部である国立聴覚・伝達障害研究所(National Institute on Deafness and Other Communication Disorders)(NIDCD)は、最近、OMを予防および治療するための代替え戦略および新しいアプローチの開発を支援するために2百万ドルの資金供与イニシアティブ(funding initiative)を開始した。応募に対するその要請において(RFA-DC-02-002)、NIDCDは次の通りに述べた。(1)OMは顕著な幼児罹患率を引き起こし、一般的公衆衛生に与える影響が大きくなりつつある。(2)OMは、救急室(Emergency Room)来院の主要原因である。(3)OMは、診療所来院の2番目に多い原因である。(4)OMは、幼児期の抗生物質処方の主要原因であり、外来患者への抗生物質処方全体の40%超を占める。(5)OMは幼児期の聴力損失の主要原因である。かつ、(6)OMは小児における全身麻酔の主要原因である。さらに、NIDCDは、OMを引き起こし得る3種の属(肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、分類不可能型インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、およびモラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)における、複数の抗生物質に対して耐性の細菌の警戒すべき出現の責任は、OMを治療するための広域抗生物質の使用にあると非難した。結果として、多くの第一選択抗生物質および第二選択抗生物質は、OMならびに肺炎および髄膜炎を含む他の疾患に対する効果がだんだん弱くなってきている。NIDCDは、「OMの研究、治療、および予防のための新規なアプローチの開発が、(1)OM罹患率および関連費用を減少させるため;ならびに(2)OMおよび他の一般的な重篤疾患の治療に使用される抗生物質の有効性を維持するために、緊急に必要とされている」と結論付けた。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は、モキシフロキサシンを含む組成物を、鼓膜の外側上皮表面に液体様の形態でそれが送達されることができ、次いで、送達されると、固体様のゲル状態に転換でき、その結果、その組成物が鼓膜に接触した状態で局在したままとなるように製剤化できるという発見に一部基づいている。鼓膜へのこのような組成物の送達により、中耳および内耳の障害(例えばOM)を治療するためのより有効な方法が提供され得る。
【0007】
1つの局面において、モキシフロキサシンを哺乳動物(例えば、げっ歯動物またはヒト)に投与するための方法が提供される。この方法は、哺乳動物の鼓膜の上皮表面に製剤を適用する段階を含み、この製剤は、粘度生成剤(viscogenic agent)およびモキシフロキサシンを含み、100,000cps未満の粘度を有し、かつ鼓膜への適用後に、鼓膜に接触した状態で製剤を維持するのに十分な降伏応力を有する。粘度生成剤は、ジェラン、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミド、ポリエチレングリコールを伴うポリアクリル酸、ポリエチレングリコールを伴うポリメタクリル酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを伴うCARBOPOL(登録商標)(ポリアクリル酸)、酢酸フタル酸水素セルロースラテックス(cellulose acetate hydrogen phthalate latex)、アルギン酸ナトリウム、または逆熱硬化性(reverse thermosetting)ゲル、例えば、ポロキサマーもしくはポロキサミンであってよい。モキシフロキサシンは、鼓膜を通過して中耳腔内に移動することができる。少なくとも1種の薬理学的作用物質は抗生物質を含んでよく、製剤はさらに、抗炎症剤、麻酔薬、接着促進物質、透過促進剤もしくは浸透促進剤、生体接着剤(bioadhesive)、吸湿剤、耳垢軟化剤、または保存剤も含んでよい。
【0008】
別の局面において、製剤と製剤を鼓膜に適用することを指示する取り扱い説明書とを含むキットが使用される。このような製剤は、粘度生成剤およびモキシフロキサシンを含み、100,000cps未満の粘度を有し、かつ鼓膜への適用後に、鼓膜に接触した状態で製剤を維持するのに十分な降伏応力を有する。
【0009】
鼓膜の上皮表面に適用された製剤を含むげっ歯動物(例えばチンチラ)もまた提供され、この製剤は、粘度生成剤よびモキシフロキサシンを含み、100,000cps未満の粘度を有し、かつ鼓膜に接触した状態で維持されるのに十分な降伏応力を有する。
【0010】
他に規定されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において説明するものと同様または等価な方法および材料が本発明を実践するために使用され得るが、適切な方法および材料を後述する。本明細書において言及される刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示にすぎず、限定することを意図しない。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インビトロで放出されたモキシフロキサシン含有量の累積率(パーセント)を示すグラフである。
【図2】2種の鼓胞内(intrabulla)用量レベルから得たデコンボリューションのための応答関数を示すグラフである(N=9)。
【図3】鼓胞内高用量レベルから得たデコンボリューションのための応答関数を示すグラフである(N=3)。
【図4A】コホート1およびコホート2に対する1%モキシゲル(moxigel)外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度を示すグラフである。
【図4B】コホート3およびコホート4に対する1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度を示すグラフである。
【図5】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SD)を示すグラフである(N=23)。
【図6】コホート1およびコホート2に対する3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度を示すグラフである。
【図7】3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SD)を示すグラフである(N=13)。
【図8】1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SD)を示すグラフである。
【図9】1%モキシゲルおよび3%モキシゲルのCmaxおよびTmaxの比較を示すグラフである。
【図10】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中に送達された累積量を示すグラフである(N=23)。
【図11A】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中への流入(input)速度を示すグラフである。コホート1、N=6;コホート2、N=6。
【図11B】1%モキシゲル外耳投薬後のMEF中への流入速度を示すグラフである。コホート3、N=6;コホート4、N=5。
【図12】3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中に送達された累積量を示すグラフである(N=13)。
【図13】3%モキシゲル外耳投薬後のMEF中への流入速度を示すグラフである。コホート1、N=6;コホート2、N=7。
【図14】1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のMEF中への流入速度を示すグラフである。
【図15】1%モキシゲルの外耳投薬後に中耳液において標的濃度に到達するまでの時間および標的濃度を上回っている持続時間を示すグラフである。
【図16】3%モキシゲルの外耳投薬後に中耳液において標的濃度に到達するまでの時間および標的濃度を上回っている持続時間を示すグラフである。
【図17】外耳投薬後3日間のMEFにおけるAUICを示すグラフである。
【図18】外耳投薬後のMEFにおけるCmax/MICを示すグラフである。
【図19A】50%IPM処理後のMEF中モキシフロキサシン濃度(平均、SEM)を示すグラフである(N=9)。
【図19B】対数形式で同じデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
全体として、本発明は、モキシフロキサシンおよび1種または複数種の粘度生成剤を含む組成物を用いて、耳にモキシフロキサシンを適用するための方法を提供する。具体的には、組成物は、それらが液体様状態、すなわち流動性の形態で鼓膜の外側上皮表面に送達され得るように製剤化される。しかしながら、投与後、組成物は、鼓膜と接触したままとなるように固体様状態に転換する。結果として、組成物は鼓膜に接触した状態で局在したままとなり、モキシフロキサシンは鼓膜を通過して、例えば中耳腔内に移動して、中耳および内耳の障害(例えばOM)を治療するためのより有効な方法を提供し得る。また、適切な組成物は、例えば、鼓膜への製剤の付着を促進するため、かつ/または鼓膜の透過性を上昇させ、それによってモキシフロキサシンの浸透を増加させるために、他の構成成分を含んでもよい。
【0014】
中耳炎に関連付けられている一般的な病原体には、肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌、およびモラクセラ・カタラーリスが含まれる。これらの生物はモキシフロキサシンに感受性であり;それぞれMIC90値は0.13μg/ml、0.06μg/ml、および0.06μg/mlである。当業者によって理解されている通り、MIC90とは、90%の生物の増殖を阻害するのに必要とされる最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration)を意味する。本明細書において説明するモキシフロキサシンの経鼓膜送達を用いた治療目標は、MIC90値の10倍より高い中耳液レベル(例えば、約0.6μg/mlより高いレベル;約0.6〜約1.3μg/mlの間のレベル)を達成し、このレベルを24時間より長く維持することである。これらの標的濃度は、本明細書において説明するモキシフロキサシンゲル製剤を1回適用することによって達成された。
【0015】
本発明の組成物は、25℃で100,000センチポアズ(cps)未満の粘度を有する。粘度とは、流動に対する組成物の抵抗を指す。典型的には、ツベルクリン用1mL容シリンジに取り付けられた19ゲージ針を、25℃で、適度な力によって機械的装置の助けを借りずに1分未満で通過できる体積0.5mLの組成物の粘度は100,000cps未満である。組成物の粘度は、市販の粘度標準物を用いて較正した粘度計(例えば、Brookfield製)によって測定することができる。
【0016】
また、本発明の組成物は、鼓膜に接触した状態で製剤を維持するのに十分な最小降伏応力を有する。降伏応力とは、固体材料に加えられた場合に、応力をそれ以上増大させなくても固体材料が変形し続ける液体様の挙動を固体材料に示させる力の量を意味する。本発明の組成物の最小降伏応力は、適用されるゲルの厚さに依存するが、ゲルの形状寸法および環境の温度には依存しない。本明細書において使用される場合、組成物の最小降伏応力は、厚さ4mmおよび密度1g/Lの適用されたゲルに関するものである。降伏応力(σ0)は、σ0=ρghとして表され、式中、ρは密度であり、gは重力による加速度であり、hは層の厚さである。典型的には、最小降伏応力は約39パスカル(Pa)である。また、本明細書において説明する方法は、鼓膜に接触した状態で維持されるのに十分な降伏応力を組成物が有するかどうかを推定するために用いることもできる。例えば、試験組成物をチンチラなどの動物の耳に投与することができ、その動物の耳をモニターして、より固体様の状態にその組成物が転換し、鼓膜に接触した状態で維持されるかどうかを判定することができる。例えば、本明細書の実施例のセクションを参照されたい。
【0017】
粘度生成剤
本明細書において使用される場合、粘度生成剤とは、流体の粘度を上昇させるポリマーまたは他の化学的単位を意味する。適切な粘度生成剤は、本発明の組成物に含められた場合、組成物が25℃での液体様状態(例えば、流動性)から、鼓膜と接触した後に固体様状態(例えばゲル)に転換するのを可能にし、これらは非生分解性、すなわち、哺乳動物中に天然に存在する化学物質もしくは酵素によって分解されなくてもよく、または生分解性であってもよい。組成物は、25℃で100,000cps未満(例えば、90,000cps、60,000cps、30,000cps、20,000cps、または10,000cps未満)の組成物粘度、および一般的に、鼓膜適用後に39Paの最小降伏応力をもたらすのに有効な量の粘度生成剤を含む。典型的には、組成物は、0.05〜50%の粘度生成剤(例えば、0.15〜25%、5〜45%、10〜40%、12〜37%、15〜35%、17〜33%、または20〜30%の粘度生成剤)を含む。
【0018】
例示的な粘度生成剤には、ジェラン(GELRITE(登録商標)またはKELCOGEN(登録商標))、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を伴うCARBOPOL(登録商標)940(ポリアクリル酸)、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミド(NiPAAm)、ポリエチレングリコール(PEG)を伴うポリアクリル酸またはPEGを伴うポリメタクリル酸、酢酸フタル酸水素セルロースラテックス(CAP)、アルギン酸ナトリウム、ならびに非イオン性界面活性剤、例えば可逆性温度依存性ゲル化系であるポロキサマー(PLURONIC(登録商標))およびポリオキサミン(polyoxamine)(TETRONIC(登録商標))が含まれる。ジェランは、シュードモナス・エロデア(Pseudomonas elodea)によって分泌される天然ポリマーの陰イオン性脱アセチル化細胞外(exocellular)多糖である。四糖反復単位は、1個のα-L-ラムノース部分、1個のβ-D-グルクロン酸部分、および2個のβ-D-グルコース部分からなる。ジェランのインサイチューのゲル化メカニズムは、陽イオン誘導性(例えば、カルシウムイオンの存在)かつ温度依存性(例えば、生理的温度)である。ゲル化は熱可逆性である。HPMCを伴うCARBOPOL(登録商標)940は、pH依存性の様式においてインサイチューでゲル化する。CARBOPOL(登録商標)はゲル化剤であり、HPMCはゲルの粘度を高めるために使用される。アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うNiPAAmは、温度に基づく可逆的ゾル-ゲル転換を経ることができるターポリマーヒドロゲルである。アクリル酸ナトリウムおよびn-N-アルキルアクリルアミドは、ヒドロゲルの特性、特に転移温度を変更するために使用される。PEGを伴うポリアクリル酸またはPEGを伴うポリメタクリル酸は、水素結合に基づいてゲル化すると考えられている。ポリアクリル酸は、水性アルコール溶液に溶解することができ、注射された後にアルコールは拡散して、ポリマーの沈殿および溶液のゲル化を引き起こす。CAPはpH依存性の様式でゲル化するナノ粒子系である。活性化合物(モキシフロキサシン)はポリマー粒子の表面に部分的に吸着され得る。アルギン酸ナトリウムは、カルシウムまたは他の多価イオンの存在下でゲル化する。
【0019】
ポロキサマーおよびポロキサミンなどの非イオン性界面活性剤は特に有用である。ポロキサマーは製薬技術分野で周知であり、例えば、Polymers for Controlled Drug Delivery、第10章(Peter J. Tarcha編、1990)のIrving R. SchmolkaによるPoloxamers in the Pharmaceutical Industryにおいて説明されている。ポロキサマーは、2種の異なるポリマーブロック(すなわち、親水性ポリ(オキシエチレン)ブロックおよび疎水性ポリ(オキシプロピレン)ブロック)から構成され、これらがポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)-ポリ(オキシエチレン)というトリブロックとして配置されるため、トリブロックコポリマーである。ポロキサマーは、プロピレンオキシドブロック疎水性物質およびエチレンオキシド親水性物質を有するブロックコポリマー界面活性剤の一クラスである。ポロキサマーは市販されている(例えば、PLURONIC(登録商標)ポリオールがBASF Corporationから入手可能である)。あるいは、公知の技術によってポロキサマーを合成することもできる。
【0020】
これまで、ポロキサマーの非生分解性、水溶性、および比較的急速な薬物放出動態を考慮すれば、ポロキサマーには薬理学的作用物質を投与するための有用性がないと考えられていた(例えば、米国特許第 6,201,072号を参照されたい)。それでもなお、本明細書において説明する通り、ポロキサマーは製剤を鼓膜に適用するために有利な特性を有する。ポロキサマーの水性調合物は逆熱ゲル化または逆熱硬化性を示す。ポロキサマー水性調合物をそのゲル化温度より高い温度に加熱した場合、その粘度は上昇し、ゲルに転換する。ポロキサマー水性調合物をそのゲル化温度より低い温度に冷却した場合、その粘度は低下し、液体に転換する。ゲルと液体の転移は、調合物の化学組成の変化を伴わず、可逆的かつ反復可能である。ポロキサマー水性調合物のゲル-液体転移温度は、日常的な実験法を用いて(例えば、ポロキサマー濃度、pH、および調合物中の他の成分の存在を操作することによって)当業者が調節することができる。いくつかの態様において、組成物は、周囲温度よりも高く、かつ鼓膜の温度以下であるゲル化温度を有する。このような組成物は、個体の外耳道を介して液剤として簡便に適用することができ、次いで、鼓膜に接触してゲルに転換し、それによって、製剤中のモキシフロキサシンを鼓膜の極めて近くで維持することができる。
【0021】
モキシフロキサシン
また、本明細書において説明する組成物は、モキシフロキサシンまたはその塩も含む。モキシフロキサシンは、化学式C21H24FN3O4で表される第三世代合成フルオロキノロンである。モキシフロキサシンは、細菌酵素DNAギラーゼ(トポイソメラーゼII)およびトポイソメラーゼIVに結合して阻害し、その結果、DNAの複製および修復を阻害し、最終的に、感受性細菌種の細胞死をもたらす。本明細書において説明する組成物中のモキシフロキサシンまたはその塩の量は、約0.1%〜約50%(例えば、約0.25%〜約45%;約0.5%〜約25%;約0.75%〜約10%;約1%〜約5%;または約1%〜約3%)の範囲でよい。モキシフロキサシンの塩には、例えば、非限定的に、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムが含まれる。
【0022】
モキシゲル組成物の他の構成成分
いくつかの態様において、本明細書において説明する組成物は、粘度生成物質およびモキシフロキサシンに加えて1種または複数種の化合物を含む。例えば、組成物は、例えば、アドレノコルチコイド(例えば、コルチコステロイド、ステロイド)、鎮痛薬、鎮痛補助薬、鎮痛-麻酔薬、麻酔薬、モキシフロキサシン以外の抗生物質、抗菌薬、抗感染薬、抗生物質治療補助薬、解毒薬、制吐薬、抗真菌薬、抗炎症薬、抗めまい薬、抗ウイルス薬、生物学的応答調節物質、細胞障害性物質、診断助剤、免疫化剤、免疫調節薬、タンパク質、ペプチド、および耳障害の治療に有用であり得る他の作用物質を含む、1種または複数種の薬理学的作用物質を含んでよい。モキシフロキサシンに加えて、本明細書において説明する組成物は、1種または複数種の薬理学的作用物質を含んでよい。例えば、細菌感染と戦うため、組織炎症を軽減するため、および刺激を緩和するために、組成物は、モキシフロキサシン、抗炎症薬、および麻酔薬または鎮痛薬を含んでよい。当業者は、薬理学的作用物質を特定し、所望の効果を実現するために必要とされるようにそれらを組み合わせることができる。以下は、可能性のある薬理学的作用物質の代表的なリストを提供するにすぎない。
【0023】
例示的なアドレノコルチコイドには、ベタメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびトリアムシノロンが含まれる。例示的な鎮痛薬には、アセトアミノフェン、アスピリン、ブプレノルフィン、ブタルビタール、ブトルファノール、コデイン、デゾシン、ジフルニサル、ジヒドロコデイン、エトドラク、フェノプレフェン(fenoprefen)、フェンタニル、フロクタフェニン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラク、レボルファノール、サリチル酸マグネシウム、メクロフェナマート、メフェナム酸、メペリジン、メプロバマート、メサドン、メトトリメプラジン、モルヒネ、ナルブフィン、ナプロキセン、オピウム、オキシコドン、オキシモルホン、ペンタゾシン、フェノバルビタール、プロポキシフェン、サルサラート、およびサリチル酸ナトリウムが含まれる。1つの例示的な鎮痛補助薬は、カフェインである。例示的な麻酔薬には、アルチカイン-エピネフリン、ブピバカイン、クロロプロカイン、エチドカイン、ケタミン、リドカイン、メピバカイン、メトヘキシタール、プリロカイン、プロポフォール、プロポキシカイン、テトラカイン、およびチオペンタールが含まれる。1つの例示的な鎮痛薬-麻酔薬は、アンチピリン-ベンゾカインである。
【0024】
(モキシフロキサシン以外の)例示的な抗生物質、抗菌薬、および抗感染薬には、スルホンアミド(例えば、スルファニルアミド、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、p-アミノ安息香酸、またはスルファセタミド)、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、キノロン類(例えば、シプロフロキサシン、オフロキサシン、またはナリジクス酸)、ペニシリンまたはセファロスポリンなどのβ-ラクタム系抗生物質、アミノグリコシド系(例えば、カナマイシン、トブロマイシン(tobromycin)、ゲンタマイシンC、アミカシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、またはバンコマイシン)、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール、およびマクロライド系(例えば、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、またはアジスロマイシン)が含まれる。適切なペニシリンの非限定的な例には、ペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、オキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、およびアモキシシリンが含まれる。適切なセファロスポリンの非限定的な例には、セファロチン、セフジニル、セファゾリン、セファレキシン、セファドロキサル(cefadroxal)、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロル、セフォニシド、セフォレタン(cefoletan)、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフジトレン、およびセフェピムが含まれる。OMを治療するのに有用である例示的な抗生物質には、アモキシシリンおよびアモキシシリン-クラブラン酸(AUGMENTIN(登録商標))などのペニシリン;エリスロマイシン-スルフイソキサゾール(Pediazole)、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(BACTRIM(登録商標)、SEPTRA(登録商標))などスルホンアミド類をベースとする(sulfa-based)組合せ;アジスロマイシン(ZITHROMAX(登録商標))またはクラリスロマイシン(BIAXIN(登録商標))などのマクロライド系/アザライド;セファクロル(CECLOR(登録商標))、セフプロジル(CEFZIL(登録商標))、セフロキシムアキセチル(CEFTIN(登録商標))、またはロラカルベフ(LORABID(登録商標))などの第二世代セファロスポリン;ならびにセフジニル(OMNICEF(登録商標))、セフィキシム(SUPRAX(登録商標))、セフポドキシムプロクセチル(VANTIN(登録商標))、セフチブテン(CEDAX(登録商標))、セフジトレン(SPECTRACEF(商標))、およびセフトリアキソン(ROCEPHIN(登録商標))などの第三世代セファロスポリンが含まれる。
【0025】
好適な制吐薬には、ブクリジン、クロルプロマジン、シクリジン、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ジフェニドール、ドンペリドン、ドロナビノール、ハロペリドール、ヒドロキシジン、メクリジン、メトクロプラミン、ナビロン、オンダンセトロン、ペルフェナジン、プロクロルペラジン、プロメタジン、スコポラミン、チエチルペラジン、トリフルプロマジン、およびトリメトベンザミンが含まれる。例示的な抗真菌薬には、アムホテリシンB、クリオキノール、クロトリマゾール、フルコナゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、およびヨウ化カリウムが含まれる。例示的な抗炎症剤には、酢酸アルミニウム、アスピリン、ベタメタゾン、ブフェキサマク、セレコキシブ、デキサメタゾン、ジクロフェナク、エトドラク、フルルビプロフェン、ヒドロコルチゾン、インドメタシン、サリチル酸マグネシウム、ナプロキセン、プレドニゾロン、ロフェコキシブ、サルサラート、スリンダク、およびトリアムシノロンが含まれる。適切な例示的抗めまい剤には、ベラドンナ、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ジフェニドール、メクリジン、プロメタジン、およびスコポラミンが含まれる。適切な例示的抗ウイルス剤には、アシクロビル、アマンタジン、デラビルジン、ジダノシン、エファビレンツ、ホスカルネット、ガンシクロビル、インジナビル、ネルフィナビル、リバビリン、リトナビル、ザルシタビン、およびジドブジンが含まれる。例示的な生物学的応答調節物質には、アルデスロイキン、インターフェロンα-2a、インターフェロンα-2b、インターフェロンα-n1、インターフェロンα-n3、インターフェロンγ、およびレバミソールが含まれる。例示的な細胞障害剤には、ポドフィロックスおよびポドフィルムが含まれる。例示的な免疫化剤には、インフルエンザウイルスワクチン、多価肺炎球菌ワクチン、および免疫グロブリンが含まれる。例示的な免疫調節薬は、インターフェロンγである。本発明に適する他の薬理学的作用物質には、ベタヒスチン(例えば、メニエール病で生じる悪心、めまい、および耳鳴りの治療のため)、プロクロルペラジン、およびヒヨスチンが含まれる。
【0026】
その代わりにまたは追加的に、組成物は、次の化合物の内の1種または複数種を含んでよい:生理食塩水などの溶剤または希釈剤、生体接着剤、透過促進剤もしくは浸透促進剤、吸湿剤、耳垢軟化剤、保存剤(例えば抗酸化剤)、または他の添加剤。このような化合物は、0.01%〜99%(例えば、0.01〜1%、0.01〜10%、0.01〜40%、0.01〜60%、0.01〜80%、0.5〜10%、0.5〜40%、0.5〜60%、0.5〜80%、1〜10%、1〜40%、1〜60%、1〜80%、5〜10%、5〜40%、5〜60%、5〜80%、10〜20%、10〜40%、10〜60%、10〜80%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、または70〜80%)の範囲の量で組成物中に存在することができる。例えば、組成物は、1種または複数種の粘度生成剤(例えば、PLURONIC(登録商標)F−127およびCARBOPOL(登録商標))、モキシフロキサシン、および1種または複数種の透過促進剤もしくは浸透促進剤(例えばビタミンE)を含んでよい。他の態様において、組成物は、1種または複数種の粘度生成剤、モキシフロキサシン、および1種または複数種の耳垢軟化剤を含んでよい。また、組成物は、1種または複数種の粘度生成剤、モキシフロキサシン、1種または複数種の吸湿剤、および1種または複数種の保存剤を含んでもよい。ある種の作用物質は製剤内で様々な役割を果たし得ることに留意されたい。例えば、CARBOPOL(登録商標)は、その濃度によって、粘度生成剤としてまたは生体接着剤として機能することができる。ビタミンEは、透過促進剤または浸透促進剤、保存剤、および抗酸化剤として機能することができる。
【0027】
生体接着剤は、鼓膜への組成物の接着を促進する。適切な生体接着剤には、親水コロイド、例えば、アラビアゴム;寒天;アルギナート(例えば、アルギン酸およびアルギン酸ナトリウム);CABOPOL(登録商標);カルボキシメチルセルロースナトリウム;カルボキシメチルセルロースカルシウム;デキストラン;ゼラチン;グアーゴム;ヘパリン;ヒアルロン酸;ヒドロキシエチルセルロース;カラヤゴム;メチルセルロース;ペクチン;ポリアクリル酸;ポリエチレングリコール;ポリ-N-ビニル-2-ピロリドン;およびトラガカントゴムが含まれる。
【0028】
透過促進剤または浸透促進剤は、鼓膜の透過性を増大させて、モキシフロキサシンに対する鼓膜の透過性を高める。例示的な透過促進剤または浸透促進剤には次のものが含まれる:アルコール(例えば、エタノールおよびイソプロパノール);多価アルコール(例えば、n-アルカノール、リモネン、テルペン、ジオキソラン、プロピレングリコール、エチレングリコール、およびグリセロール);スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、メチルドデシルスルホキシド、およびジメチルアセトアミド);エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル/パルミタート、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルプロプリオナート(proprionate)、およびカプリン酸/カプリル酸トリグリセリド);ケトン;アミド(例えばアセトアミド);オレアート(例えばトリオレイン);界面活性剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム);アルカン酸(例えばカプリル酸);ラクタム(例えばアゾン);アルカノール(例えばオレイルアルコール);ジアルキルアミノアセタート;多価不飽和脂肪酸(例えばリノール酸、α-リノレン酸、およびアラキドン酸);オレイン酸;タラ肝油;メントール誘導体(例えばl-メントール);スクアレン;直鎖状飽和脂肪アルコールから誘導されたグリセロールモノエーテル;フラボン(例えば、カモミールアピゲニン、ルテオリン、およびアピゲニン7-O-β-グルコシド);ビタミンE(α-トコフェロール)ならびにそのエステルおよび類似体;ならびにセンキュウ(Senkyu)(センキュウ根茎(Ligustici Chuanxiong Rhizome))エーテル抽出物。
【0029】
フルクトース、フタル酸、およびソルビトールなどの吸湿剤によって、流体が中耳から鼓膜を通過してゲルマトリックス中に移動するのが容易になる。吸湿剤は、中耳での流体蓄積および加圧に関連する疼痛を緩和するのに寄与することができ、中耳内でモキシフロキサシンをより小さな流体体積に濃縮することができる。
【0030】
耳垢軟化剤(例えば、ドキュセート、オリーブ油、重炭酸ナトリウム、尿素、または過酸化水素)によって、鼓膜と組成物との接触が促進される。アスコルビン酸および安息香酸などの抗酸化剤または他の保存剤は、保管期間中の製剤の貯蔵寿命を延長するために使用され得る。
【0031】
鼓膜への組成物の適用方法
本発明の組成物は、例えば、中耳障害または内耳障害(例えばOM)を治療するために、外耳道を介して鼓膜の上皮表面に適用することができる。また、本発明の組成物は、予防的に(例えば、中耳障害または内耳障害の発症を予防するために)適用することもできる。組成物は、鼓膜の下方部分である緊張部または鼓膜の上方部分である弛緩部を含む、鼓膜の任意の部分を標的とすることができる。ヒト成人において、鼓膜は直径約9〜10mmであり、厚さは30〜230μmの範囲(平均約100μm)である。ヒトならびに動物、例えば、ネコ、モルモット、およびチンチラでは、弛緩部が占めるのは鼓膜面積の3%未満である。他の哺乳動物(例えば、スナネズミ、ウサギ、ラット、およびマウス)では、弛緩部は、鼓膜面積の10%〜25%を占める。薄い上皮層(厚さ約15〜30μm)がヒト鼓膜を覆い、厚い上皮層(厚さ約75〜150μm)がヒト身体の他の領域を覆っている。5〜10層の細胞層が弛緩部を覆っているのに対し、3〜5層の細胞層が緊張部を覆っている。したがって、緊張部は鼓膜の他の部分より薄いことが多く、モキシフロキサシンまたは別の薬理学的作用物質に対して、より高い透過性を有し得る。緊張部の中央部分が、音に応答する活発な振動領域を提供することは当業者によって理解されるであろう。
【0032】
当技術分野において公知である任意の方法が、本発明の組成物を鼓膜に適用するために使用され得る。例えば、液体分配器具を用いて、組成物を鼓膜に適用することができる。典型的には、分配器具は、導水管と連結された貯蔵器を有し、この導水管が、貯蔵器から直接的または間接的に流動性組成物を受け取り、その組成物を分配出口へと送る。当業者は、日常的なこととして、柔軟な管に連結されたシリンジから簡単な分配器具を作製することができる。分配器具はまた、CDT(登録商標)Speculum (Walls Precision Instruments LLC, Casper, WY, USA) などの鼓室穿刺器具の針を流体導水管と交換することによって作製することもできる。分配器具は、組成物を鼓膜に適用するための正確なプラットホームを作るために、気密耳鏡または診断用耳鏡のヘッド(例えば、Welch Allyn(登録商標)(Skaneateles Falls, NY, USA)製)に取り付けることができる。
【0033】
組成物および中耳障害または内耳障害に応じて、モキシフロキサシンが鼓膜を通過して移送された後に、組成物を耳から除去することが望ましい場合がある。これは、綿棒またはピンセットを用いて手作業で遂行することができる。また、シリンジまたはピペットバルブ(bulb)を用いて水、生理食塩水、または他の生体適合性水溶液を注入して、製剤を柔らかくし、溶解させ、かつ/または洗い流すこともできる。他の態様において、組成物は、一定期間後に鼓膜から単にはげ落ち、(例えば、運動中または入浴中に)耳から落ちる場合がある。あるいは、生分解性製剤は、耳から除去する必要がない場合がある。
【0034】
製造品
本明細書において説明する組成物は、包装資材と組み合わせ、製造品またはキットとして販売することができる。製造品を製造するための構成要素および方法は周知である。製造品は、本明細書において説明する1種または複数種の組成物を組み合わせてよい。さらに、製造品は、1種または複数種の薬理学的作用物質、滅菌水もしくは生理食塩水、薬学的担体、緩衝剤、または液体分配器具をさらに含んでもよい。内耳障害または中耳障害の治療のために組成物をどのように耳に送達できるかを説明したラベルまたは取扱い説明書を、このようなキットに含めてよい。1回または複数回の投与に十分な量の組成物が、事前に包装された形態で提供され得る。
【0035】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0036】
実施例1−化学物質および試薬
塩酸モキシフロキサシン粉末は、Alcon Labs, Inc.(Fort Worth, TX)によって提供された。Pluronic F-127、塩酸シプロフロキサシン、ウシアルブミン、ギ酸、ミリスチン酸イソプロピル、および一塩基性リン酸アンモニウムは、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。次の化学物質を購入し、受領したままの状態で使用した:Burdick and Jackson Laboratories(Muskegon, MI)またはFisher Scientific(Fair Lawn, NJ)からアセトニトリルおよびメタノール;Mallinckrodt, Inc.(Paris, Kentucky)から塩化ナトリウム;United States Biochemical(Cleveland, OH)から二塩基性リン酸ナトリウム、七水和物;Fisher Scientific(Fair Lawn, NJ)から一塩基性リン酸ナトリウム;University of Minnesota(Minneapolis, MN)からプロピレングリコール;Ruger Chemical Co, Inc.(Linden, NJ)からPEG4000およびPEG6000。溶媒はHPLCグレードであり、他の化学物質はすべて分析用グレードであった。
【0037】
実施例2−微小透析プローブ
CMA/20微小透析プローブ(CMA/Microdialysis, North Chelmsford, MA)を用いて、中耳液の透析液試料を得た。プローブのポリカーボネート膜の分子量カットオフ値は20,000ダルトンである。プローブの透析膜の長さは10mmであった。プローブ膜の外径は0.5mmであった。
【0038】
実施例3−人工中耳液(AMEF)
エウスタキオ管閉塞を患っている非感染チンチラにおいて蓄積する漿液状中耳液(MEF)の体積は、大きく異なる。微小透析法のために十分なMEFを蓄積する成功比率は、50%をかなり下回る。MEFを再現する人工中耳液(AMEF)を調製することが必要となった。外耳にゲル製剤を投薬するために、プローブ埋め込み直前に、リン酸緩衝化生理食塩水溶液(PBS、0.015Mホスファート、pH=7.4)を3%ウシアルブミンと共にチンチラ中耳鼓胞(bulla)中に滴下注入した。
【0039】
実施例4−モキシフロキサシンの逆透析較正物質としてのシプロフロキサシンの検証
シプロフロキサシンは、モキシフロキサシンの化学的類似体であり、どちらもキノロン系抗生物質である。シプロフラキシン(ciproflaxin)の物理的特性および化学的特性は、モキシフロキサシンのものにいくらか類似している。したがって、有望な逆透析較正物質としてこれを選択した。インビトロのAMEF中への同時消失研究を灌流速度0.4μl/分、0.5μl/分、0.6μl/分、および0.7μl/分で実施し、10分間隔で透析液を回収した。灌流液は、1μg/mlのモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンを含んだ。透析液中濃度と灌流液中濃度の比を1(unity)から引くことによって、各化合物の消失を測定した。4種の流速すべてにおいて、モキシフロキサシンのインビトロでの消失がシプロフロキサシンの消失と有意に異ならないことが判明して、微小透析較正物質としてのシプロフロキサシンの有用性が確認された。
【0040】
実施例5−人工のおよび保温されたチンチラ中耳液中のモキシフロキサシンの遊離(未結合)率の測定
以前の施設内研究により、人工中耳液(AMEF)は、チンチラ中耳中に滴下注入後18〜24時間目に天然MEFに似始め、細菌増殖を助けることが示された。遊離率を測定するために、前日のAMEF滴下注入後に体液を中耳から採取し、この体液を、保温された中耳液(IMEF)と呼んだ。
【0041】
AMEFおよびIMEF中のモキシフロキサシンのタンパク質結合を限外ろ過によって測定した。本研究は、生理的温度(37℃)で、名目上の濃度(nominal concentration)220μg/mlおよび492μg/mlを用いて実施した。添加されたAMEF溶液またはIMEF溶液の分取物120μlずつをMicrocon(登録商標)Centrifugal Device(Millipore Corporation, Bedford, MA)の先端部分に入れ、2000×gで15〜20分間、Clay Adams Triac 0200スインギングバケットローター遠心機(Becton, Dickinson and Company, Parsippany, NJ)を用いて遠心分離した。Microcon(登録商標)装置へのモキシフロキサシンの非特異的結合がもしあるならばその程度を検査するために、同じ薬物濃度をリン酸緩衝化生理食塩水に添加し、MEF分取物と同様に装置を用いて遠心分離した。MEF中の総濃度に対する限外ろ過液中の濃度の比率を、モキシフロキサシンの遊離率として算出した。
【0042】
実施例6−製剤開発
基剤調合物
Pluronic(登録商標)F-127(PF-127)を、熱硬化性ゲル基剤を形成させるためのポリマーとして選択した。PF-127は、低温では水に溶解して溶液を形成し、温度がゾル-ゲル転移温度より高くなるとゲル化する。PF-127溶液は室温では極めてよく流動し、適用された表面の輪郭をたどる。研究した最初の調合物は、20%(w/v)PF-127水溶液からなる。
【0043】
PF-127溶液は、低温法によって調製した。計量したPF-127を、必要量の冷水(重量に基づく)にゆっくりと加え、穏やかに撹拌し、4℃で一晩保存して、ポリマーを完全に水和および溶解させた。
【0044】
転移温度の測定
最終調合物の少量の分取物(100〜200μl)を微量遠心分離チューブに移した。次いで、室温の水浴中でチューブをインキュベートした。水浴の温度を徐々に上昇させた。微量遠心分離チューブ中のゲル溶液のメニスカスが、90度またはそれ以上の角度に傾けられてもゆがまない場合、ゲル化が起こっていると考えた。転移温度は、ゲル化が起こる前後の2つの温度値とみなした。基剤調合物(20% PF-127)の転移温度は22〜23℃であった。最終調合物のための目標転移温度は28℃〜32℃の間であった。
【0045】
添加剤
いくつかの添加剤を試験して、ゲルの転移温度および他の特性に対するそれらの影響を評価した−これらには、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール4000(PEG4000)、PEG6000、およびミリスチン酸イソプロピル(IPM)が含まれる。PEG 6000およびエタノールのみが、ゲル基剤の転移温度を有意に上昇させることが判明した。表1および表2は、20%PF-127溶液の転移温度に対するPEG6000およびエタノールの影響を示す。
【0046】
(表1)様々な濃度のPEG6000を含む20%PF-127溶液の転移温度
【0047】
(表2)様々な濃度のアルコールおよび2% PEG4000を含む20%PF-127溶液の転移温度
【0048】
より高濃度のPF-127(21%および22%)も試験したが、これらの調合物は、完全に水和するのに長い期間がかかり(最長3日)、粘度が高いために取り扱いが困難であった。また、これらは室温よりもはるかに低い転移温度を示し、その範囲は、基剤ゲルの場合の零下温度から、22%ゲルの場合のPEG6000添加後10℃未満、および21%ゲルの場合の23〜24℃までであった。
【0049】
開発された最も有望な基剤ゲル調合物は、転移温度が23〜24℃であり、室温での流動性が良好であり、以下の組成を有する。
PEG 6000 2%(v/w)
プロピレングリコール 20%(v/w)
PF-127 20%(w/w)
【0050】
2種類のレベルの塩酸モキシフロキサシン(1%(w/w)および3%(w/w))を基剤ゲル中に混合した。1%モキシゲルは、明るい黄色の清澄な溶液であるのに対し、3%モキシゲルは、黄色の液体中に白色粉末が分散した希薄な懸濁液である。どちらのモキシゲルも、29〜31℃の転移温度範囲を最終的に示す。
【0051】
1回分の1%モキシゲル10mlを調製するために、以下の手順を確立した。
1. シンチレーションバイアルに、PEG 6000水溶液(40mg/ml)5.0mlを添加する。
2. プロピレングリコール2.0mlを添加する。
3. 塩酸モキシフロキサシン100mgをゆっくりと添加する。
4. この混合物を3〜5分間超音波処理する。
5. 水1.3mlを添加する。
6. PF-127 2グラムを添加する。
7. シンチレーションバイアルを穏やかに回転させてPF-127粉末を湿らせる。
8. この混合物を冷蔵庫中で一晩保管して完全に水和させる。かつ、
9. 使用する前に溶液を入念にボルテックスする。
【0052】
塩酸モキシフロキサシン300mgを添加し、1.1mlの水しか必要とされないことを除いては、3%モキシゲルを調製するための手順は1%モキシゲルのための手順とほぼ同一である。
【0053】
インビトロの放出研究
モキシフロキサシンのインビトロでの放出を研究する目的は、ゲル製剤からの放出の速度および程度を測定することであった。各放出研究のために、フランツ型拡散セルをHanson Microette装置(Hanson Research, Chatsworth, CA)にセットアップした。レシーバー区画を8.0mlの放出媒体、すなわち水に溶かし250rpmで磁気撹拌した15%PF-127で満たした。水循環ジャケットで各フランツ型セルの下側部分を取り囲んで、温度を37℃で維持した。セルロース透析膜シート(Scienceware(登録商標)、MWカットオフ値=6kD、Bel-Art Products, Pequannock, NJ, USA)を小さな円形(直径3cm)に切り、各レシーバー区画の上部に載せた。ドーナツ形のTeflonディスクを膜の上に置いて、ドナー区画を作った。次いで、各モキシフロキサシンゲル調合物の分取物350μlを投薬区画に添加した。フランツ型セルを密閉する前に待ち時間5分を与えて、完全なゲル形成を徹底させた。試料アームをフィルムで覆って、蒸発を防止した。ゲル投与後0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、12時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間、および96時間目にレシーバー区画から各試料40μlを取り出した。これらの試料は、分析するまで-20℃で保存した。
【0054】
インビトロ試料中のモキシフロキサシン濃度は、本明細書において概説する通りに、オフラインのHPLC蛍光法によって測定した。各試料の分取物10μlにリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)125μlを添加して、検量線試料と同じ体積にした。次いで、移動相を用いて最終体積5.0mlに希釈する前に、内部標準を添加した(100μg/mlシプロフロキサシン65μl)。0.05〜20.0μg/mlのモキシフロキサシン標準試料を、1000μg/ml、100μg/ml、10μg/ml、および1μg/mlのPBS中標準原液から調製した。移動相を用いて最終体積5.0mlに希釈する前に、内部標準の65μl、15% PF-127 10μl、および様々な体積のPBSを各検量線試料に添加して、インビトロ試料と同じ体積にした。この混合物を高速で30秒間ボルテックスした。注入体積は50μlであった。
【0055】
実施例7−手術
動物
390〜670gの雄のチンチラ・ラニガー(Chinchilla laniger)(Ryerson, Plymouth, OHまたはDan Moulton, Rochester, MN)を本研究で使用した。プロトコールは、ミネソタ大学(University of Minnesota)の研究機関の動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)によって承認された。
【0056】
エウスタキオ管閉塞(ETO)
ETO処置の目的は、微小透析の実施中、適切な体液が鼓胞中に確実に残存するように、人工中耳液が鼻咽頭中に排出するのを防止することである。ガッタパーチャポイント(サイズ15、DiaDent(登録商標), DiaDent Group International Inc., Korea)の中央部分を長さ4mmに切断し、エウスタキオ管を閉塞させるために使用した。
【0057】
ETO手術は、Jossartら(Jossart et al., 1990, Pharm. Res., 7:1242-7)に従い、改良して実施した。簡単に説明すると、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(5〜10mg/kg、IP)で動物を麻酔した。次いで、軟口蓋を小さく切開してエウスタキオ管を露出させた。各エウスタキオ管の開口部を、ポイントの4mm切片を用いて閉塞させた。手術の最後に、組織接着剤(Vetbond(登録商標), 3M, St. Paul, MN)を用いて、切開部を閉じた。
【0058】
人工中耳液の滴下注入
各鼓胞中への人工中耳液(AMEF)の滴下注入を、微小透析プローブ埋め込みに先立って投薬日に実施した。チンチラの中耳腔へは、頭蓋の背中側にある頭方向の鼓胞を介して接近した。15 GA 11/2 B皮下注射針(Sherwood Medical Company, St. Louis, MO)を用いて、骨が薄い右鼓胞と左鼓胞の頂端に手作業で小さな穴をあけた。最上部まで完全に満たされるまで、PE-50管の長さによって各鼓胞中に十分なAMEFを滴下注入した。耳鏡を用いて、鼓膜の完全性を検査した。外耳道中へのAMEF漏出の証拠がある耳には投薬しなかった。
【0059】
微小透析プローブの埋め込み
AMEF滴下注入後すぐに、微小透析プローブを埋め込んだ。チンチラの中耳腔へは、頭方向の鼓胞における同じ穴を介して接近した。次いで、その穴から、CMA/20微小透析プローブを慎重に各中耳腔中に挿入した。Huangらによって開発された方法に従い(Huang et al., 2001, J. Pharm. Sci., 90:2088-98)、歯科用セメントおよびアンカー針(anchor needle)によって固定されたプラスチック製かぶせもの(plastic crown)を用いて、これらのプローブをチンチラの頭蓋に固定した。
【0060】
実施例8−分析方法
微小透析液中のモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンのオンラインHPLC-MS-MS分析
オンラインの微小透析HPLC-MS-MSシステムを確立した。微小透析の灌流流速は、1ml容マイクロシリンジ、2.5ml容マイクロシリンジ(CMA/Microdialysis, North Chelmsford, MA)、または5ml容マイクロシリンジ(Hamilton Company, Reno, NV)を取り付けたHarvard製マイクロインジェクションポンプ(モデル22;Harvard Apparatus Inc.;South Natick, MA)を用いて制御した。シーケンスプログラマー(Valco Instruments Co. Inc., Houston, TX)によって制御される10ポート弁本体の2つの10μl試料ループまたは25μl試料ループ中に、両耳からの微小透析液を交互に採取した。0.5μl/分の微小透析灌流流速を本研究において使用した。HPLCカラムは、YMC J'sphere(登録商標)M80 4μm逆相カラム(2×100mm、4μm、Waters Corporation, Milford, MA)であった。移動相は、0.1%ギ酸水溶液(pH=2.8〜2.9、80%v/v)およびアセトニトリル(20%v/v)からなり、流速は0.1ml/分であった。カラムの性能は時間とともに変化するため、異なる割合(%)のアセトニトリル(19〜25%の範囲)を用いて、カラム温度を40℃で維持しつつピーク形状および保持時間を最適化した。Valco製オンライン試料採取システムと接続して機能させるためにShimadzu 10-A HPLCシステム(Shimadzu Corporation, Kyoto, Japan)を使用した。これは、LC-10ADvp ポンプ、SIL-10Aシステムコントローラー、CTO-10Aカラムヒーター、FCV-10ALvpプロポーショナー、およびDGU-14A脱ガス装置からなる。HPLC溶出液は、PE-Sciex API-365三重四重極MS-MS質量分析計(Perkin-Elmer Sciex Instruments, Concord, ON, Canada)のTurbo IonSpray供給源(400℃、7L/分の窒素)に入る。検出は、親プロダクトイオン対に関する多重反応モニタリング(MRM)モードにおいて、モキシフロキサシンに対しては402.5〜358.2で、逆透析較正物質であるシプロフロキサシンに対しては332〜288で実施した。各実験に使用した濃度範囲は、中耳液透析液において観察された濃度によって様々であった。使用した最低標準濃度は0.1μg/mlであったのに対し、最高は118μg/mlであった。標準濃度範囲が広くなるにつれて、わずかに非線形性になると思われ、濃度上昇の際のシグナル増大は比例未満であった。この問題を解決するために、均一な重み付けを用いて線形回帰を実施する前に、シグナル(ピーク領域)と標準濃度の両方に対数変換を適用した。
【0061】
微小透析液中のモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンのオンラインHPLC蛍光分析
生産性を改善するために、複数の動物実験を同時に行うのを可能にし、かつ機器の不備が発生した場合にバックアップとしての機能を果たすように、追加のオンラインアッセイ法を開発した。このアッセイ法は、励起波長295nmおよび発光波長490nmでの蛍光検出の使用を伴った。YMC ODS-A 5μm、120A(4.6×100 mm、Waters Corporation, Milford, MA)カラムを、リン酸アンモニウム(20mM、pH=2.8、76%または78%)およびアセトニトリル(24%または22%)の移動相組成ならびに流速0.5ml/分で使用した。モキシフロキサシンの場合は7.4分およびシプロフロキサシンの場合は3.6分の保持時間を実現するために、45℃のカラム温度を使用した。蛍光検出器は、Shimadzu RF 535(Shimadzu, Kyoto, Japan)またはJasco 821FP(Jasco Inc., Easton, MD)のいずれかであった。オンラインシステムの他の構成要素および装備は、本明細書において概説したものと同一である。このアッセイ法のために使用した標準濃度範囲は、0.1 〜205μg/mlであった。このアッセイ法の応答シグナルには非線形性は全くないと思われたが、傾きおよびy切片を求めるために線形回帰をする前に、一貫性を持たせるためにシグナル(ピーク領域)および標準濃度の対数変換を実施した。
【0062】
オンラインHPLC-MS-MSおよびオンラインHPLC蛍光によるモキシフロキサシン中耳液微小透析試料の分析の精度および正確度
中耳液の微小透析液中のモキシフロキサシンに関する両方のアッセイ法の精度および正確度を、検量線を読み返すことによって評価した。典型的には、0.5〜100(0.1〜118)μg/mlの濃度範囲の6個の標準物質をオンラインHPLC-MS-MSアッセイ法で使用した。0.5〜50μg/mlの範囲における正確度は96〜105%の範囲と算出された。100μg/mlの場合の正確度は91%であったことから、この範囲では微小透析液レベルの測定に少しの下向き傾向があることが示された。精度は、HPLC-MS-MS検量線の全範囲において1.1〜6.2%の範囲であった(%CV)。典型的には、0.1〜200μg/mlの濃度範囲の5個または6個の標準物質をオンラインHPLC蛍光アッセイ法で使用した。検量線の全範囲における正確度は98〜102%の範囲と算出された。精度は、0.5〜200μg/mlの範囲において0.3〜3.6%の範囲であり(%CV)、0.1μg/mlの場合は13.3%であった。
【0063】
中耳液試料中およびインビトロ放出試料中の総濃度および未結合濃度についてのアッセイ法
タンパク質結合研究試料中およびインビトロ放出試料中のモキシフロキサシン濃度を、蛍光検出を用いるHPLC(Shimadzu, Kyoto, Japan)によって測定した。構成要素およびクロマトグラフィー条件は、本明細書において概説したものと同様であった。インビトロ放出試料の処理は、本明細書において概説したとおりであった。タンパク質結合研究試料に対して、3つの個別の検量線を使用した。1つは限外ろ過液試料およびPBS試料のためのものであり、他の2つは、AMEF試料およびIMEF試料中の薬物総濃度をそれぞれのブランクマトリックスを用いて測定するためのものであった。分析用に50μl分取物を採取する前に、添加されたPBS、AMEF、およびIMEF中の濃度が最も高い試料は対応するブランクマトリックスで3倍に希釈し、最高濃度群に由来する限外ろ過液はPBSで2倍に希釈した。標準試料を含む全試料に、内部標準(10μg/mlシプロフロキサシン125μl)を添加した。各試料にアセトニトリル200μlを添加して、タンパク質を沈殿させた。次いで、これらの試料をボルテックスし、2000×gで10分間遠心分離した後、ろ過した20mM一塩基性リン酸アンモニウム300μlに上清100μlを添加して、最終試料が移動相に似るようにした。注入体積25μlを使用した。
【0064】
実施例9−鼓胞内投薬研究
これらの研究は、デコンボリューション解析で使用するための単位インパルス応答関数を決定するために実施した。このために、中耳中のモキシフロキサシン初期濃度および半減期を、鼓胞内ボーラス投薬研究から推定した。鼓胞内投薬に先立って、動物はすべて、本明細書において概説したエウスタキオ管閉塞処置を受けた。用量を投与し、微小透析プローブを埋め込む間は、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(20〜30mg/kg、IP)でチンチラを麻酔したが、実験の残り期間は麻酔から回復させた。2種の用量レベルを目標に定めた。本明細書において説明する手順を用いて、モキシフロキサシン50μgおよび150μgのボーラス用量をAMEF1mlに溶かして中耳中に直接送達した(n=9個の耳)。4〜5半減期の間、HPLC-MS-MSまたはHPLC蛍光と一緒に微小透析を用いて、各耳(中耳)の未結合モキシフロキサシン濃度を、投薬後最長845分まで20分毎にモニターした。
【0065】
実施例10−外耳ゲル製剤投薬研究
投薬の1日前に(投薬当日にETOを実施した場合、1匹の動物を除く)、動物は両側の耳にエウスタキオ管閉塞(ETO)手術を受けた。ティンパノメトリーにおいて負の圧力測定値を示している動物は、エウスタキオ管の閉塞が成功していることを示した。投薬当日にETOを受けたチンチラ(638番)の場合、ティンパノメトリーは行わなかった(bypassed)。AMEF滴下注入、プローブ埋め込み後、かつ投薬前に、耳鏡を用いて鼓膜の完全性を視覚的に検査した。鼓膜に欠陥が生じている耳には投薬しなかった。
【0066】
投薬日に、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(20〜30mg/kg、IP)で動物を麻酔し、温熱パッド上に置いて通常体温を維持した。ティンパノメトリー後、次いでチンチラを口棒(mouth bar)クランプ上に置いて、本明細書において概説する通りにAMEFを滴下注入しプローブを埋め込めるようにした。歯科用セメントによってかぶせものを固定した後で、動物を口クランプから取り外し、横向きに寝かせた。耳鏡を用いて、鼓膜の完全性をもう一度確認した。
【0067】
ツベルクリン用1ml容シリンジに取り付けられたポリエチレン(PE-50)管の断片を用いて、100%ミリスチン酸イソプロピル(IPM)50μlの形態の浸透促進剤による前処理を鼓膜に適用した。PE-50管は、耳鏡の先端部を通して外耳中に進入させ、耳鏡の助けを借りて鼓膜近くに配置した。ミリスチン酸イソプロピルを耳に適用した後、タイマーを始動させ、PE-50管を引き抜いた。0.5分(ミリスチン酸イソプロピル滴下注入直後)、2分、5分、および20分の4回の前処理時間を含めた。前処理時間に達したら、ゲル製剤を満たしたツベルクリン用1ml容シリンジに取り付けられた別のPE管断片(1%モキシゲルの場合はPE-50、および3%モキシゲルの場合はPE-160)を、耳鏡の助けを借りて、鼓膜近くの外耳道中に進入させた。ゲル製剤は、耳鏡の先端に到達するまでゆっくりと適用した。タイマーを開始し、外側の耳介を少なくとも5分間そっと上に引っ張って製剤をゲル化させている間に、PE管および耳鏡を引き抜いた。外側の耳介を放し、反対側の耳に投薬する前に、合計10分のゲル化時間を与えた。処置の間ずっと、動物の心拍数、呼吸速度、体温、および麻酔深度を頻繁にモニターした。
【0068】
一方または両方の耳への投薬が完了した後、エリザベスカラーを動物にしっかりと取り付け、その後、自由に動物が動けるRaturn(登録商標)ケージシステム(Bioanalytical Systems, Inc., West Lafayette, IN)の内部に動物を入れ、麻酔から完全に回復させた。中耳液微小透析液試料を各耳から20分毎に採取し、HPLC-MS-MSシステムまたはHPLC蛍光システムで分析するためにオンラインで注入した。実験期間の間ずっと、動物が食物および水に自由に到達できるようにした。10〜14時間毎に、ブプレノルフィン(0.05mg/kg IM)および皮下液体補充(生理食塩水6mL)を提供した。1%モキシゲルの外耳投薬後最長5375分間および3%モキシゲルの投薬後最長6180分間、中耳液微小透析液中のモキシフロキサシン濃度をモニターした。
【0069】
実施例11−データ解析
プローブによる回収および遅延時間に関する中耳液微小透析液濃度の補正
微小透析プローブを試料ループに連結する管の長さおよび微小透析灌流流速に基づいて、遅延時間を推定した。この値は、プローブ先端から試料採取ループまでの透析液移行時間に相当する。典型的な遅延時間は約45分であった。実際の試料採取時間は、10分の採取間隔の中間点であり、遅延時間に関して補正し、最も近い5分に端数を丸めた。
【0070】
各透析液試料について、透析液中の較正物質ピーク領域と灌流液中のそれとの比を1(unity)から引くことによって、プローブによる回収率(recovery)を測定した。偏りを減らし、実験過程を通じてのプローブ性能の変化を反映するために、「2点間(point-to-point)」補正法の代わりに推定値5個の移動平均を用いて、プローブによる回収に関して補正した。実際の中耳液の薬物濃度を得るために、各透析液中のモキシフロキサシン濃度を、平均プローブ回収率で割った。
【0071】
モキシフロキサシン濃度−鼓胞内投薬後の中耳液における時系列データ
単一指数的減少(monoexponential decline)に従って、データセット9個のそれぞれにおける中耳液のモキシフロキサシンレベルを分析し、その際、初期体積および消失速度定数は推定されたパラメーターであった。非線形回帰分析(SAAM II, v 1.2.1, University of Washington, Seattle, WA)を用いて、1-コンパートメントモデルのパラメーターを明らかにした。重み関数は変動係数5%を想定し、選択された分散モデルは、フィットされた関数ではなくデータと関連していた。
【0072】
1%モキシフロキサシン(モキシゲル)製剤および3%モキシフロキサシン(モキシゲル)製剤の外耳投薬後の中耳液中モキシフロキサシン濃度の解析
データの調査は、中耳液の濃度が予想よりはるかに高かったデータセットの慎重な解析を伴った。確証的な証拠により、これらが鼓膜の欠陥の結果であることが示唆された場合、そのデータセットは以降の解析から除外した。1%モキシゲル適用については23個、3%モキシゲル適用については13個の使用可能なデータセットがあった。その後の非コンパートメント解析およびデコンボリューション手順用にデータをビニング(bin)するために、中耳液のモキシフロキサシン濃度−時間データの時間を、最も近い10分に調整した。この「ビニング」段階は、実際の時間から名目上の時間への10分未満の調整を要した。
【0073】
WinNonlin Professional (v 5.2, Pharsight Corporation, Mountain View, CA)を用いて、各中耳液の濃度データセットの非コンパートメント解析を実施した。線形台形オプションおよび線形補間オプションと共に、血管外投薬(Model 200)を選択した。対数回帰および均一な重み付けと共に、「λzのための最適フィット(best fit for lambda_z)」(最終速度定数)オプションを選択した。以下の式の通り、外耳用量、鼓胞内投薬研究によって測定した時間0から無限時間までの曲線下面積(AUCinf)、および中耳液からの平均消失クリアランス(CL)から、中耳液中へのモキシフロキサシンの移行程度(生物学的利用能、%F)を各データセットについて算出した。
【0074】
WinNonlin Professional (v 5.2, Pharsight Corporation, Mountain View, CA)内でデコンボリューションを実施して、流入関数(中耳液中へのモキシフロキサシンの浸透速度)を決定した。その際、鼓胞内投薬データの解析により決定した平均分布体積および平均消失速度定数を用いて、二項(two-term)単位インパルス応答関数を定義した。対応のないt検定により、体積パラメーターおよび速度定数パラメーターが、2種の鼓胞内用量レベルにおいて有意に異ならないことが示された。
【0075】
実施例12−インビトロにおける1%モキシゲルおよび3%モキシゲルからのモキシフロキサシンの放出
分析したゲル中モキシフロキサシン濃度に関連して表した、ゲル製剤から放出されたモキシフロキサシンの累積率(パーセント)のプロットを図1に示す。初期にあまり大きくない放出速度を示した後、どちらの製剤も、約2〜6時間の間に生じるインビトロでの最大放出速度を示した。その後、放出速度はゆっくりと低下した。
【0076】
データの補間により、1%モキシゲルは5時間でその内容物の約50%、9.5時間で75%、および16時間で90%を放出することが明らかになった。1%モキシゲル製剤で観察された最大放出速度は約12%/時であり、これは、1%モキシゲルを用いて外耳中に投与されるゲルの典型的体積である製剤500μlから約9.4μg/分の放出速度に相当した。
【0077】
3%モキシゲルは7.5時間でその内容物の約50%、15時間で75%、および26時間で90%を放出した。3%モキシゲル製剤で観察された最大放出速度は約9.1%/時であり、これは、3%モキシゲルを用いて外耳中に投与されるゲルの典型的体積である製剤350μlから約15μg/分の放出速度に相当した。
【0078】
インビトロにおいて3%モキシゲル製剤の方が1%モキシゲルよりも高いモキシフロキサシン絶対放出速度を示したものの、3%モキシゲルからの時間あたり放出速度(fractional release rate)の方が遅いのは、懸濁状態で存在する用量部分が原因であり、したがって、ゲルから放出される前に溶解するのにいくらかの時間が必要となる可能性が高い。
【0079】
実施例13−人工の保温された中耳液中のモキシフロキサシン遊離率
タンパク質結合研究の結果を表3に要約する。PBSの場合に観察された遊離率はいずれも100%に近かったことから、限外ろ過装置の膜への薬物吸着はほとんどまたはまったく無いことが示された。AMEFの場合、濃度範囲全域で非常に高い未結合率(%)が算出された(84〜92%)ことから、ウシアルブミンへのモキシフロキサシン結合は最小限であることが示された。IMEFにおいて、モキシフロキサシンの遊離率は、類似濃度のAMEFにおいて観察されたものよりも低かったことから、このマトリックス中に別の結合タンパク質が存在することが示唆された。
【0080】
全体として、モキシフロキサシンの遊離率は、試験した濃度範囲において比較的高いままであった。したがって、微小透析によって測定される薬物濃度は、中耳液中に存在する総モキシフロキサシンレベルの大部分に相当する。投薬後最初の数時間の間、試料マトリックスはAMEFに良く似ている。実験時間が18時間またはそれ以上に近づくにつれて、試料マトリックスはIMEFのより優れた見本となることが予想される。表3に示した結果から、2種のマトリックスにおける遊離率の有意な差が示された。しかしながら、この差が、MEF微小透析データの解釈に何らかの意味ある影響を与える可能性は低い。
【0081】
(表3)保温した中耳液(IMEF)、人工中耳液(AMEF)、およびリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の未結合モキシフロキサシンの割合(%)
【0082】
実施例14−鼓胞内投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度
約50μgおよび150μgを中耳中に直接投薬した後、微小透析によって測定した中耳液の未結合モキシフロキサシン濃度(Cmef)のプロットを図2および図3に示す。中耳液のモキシフロキサシン濃度は単一指数的に低下し、被験体間のばらつきは比較的少なめであった。これらの濃度-時間プロファイルを用いて、経鼓膜送達後のCmefデータのデコンボリューション解析において単位インパルス応答関数(UIRF)を明確にした。中耳液中のモキシフロキサシンの分布体積は、鼓胞内低用量および鼓胞内高用量に対して、それぞれ1.75±0.79mlおよび1.90±0.43ml(平均値±SD)であると推定された。消失速度定数は、それぞれ0.0102±0.0040min-1および0.0075±0.0010min-1であると推定された。体積も消失速度定数も、用量依存性ではなかった。したがって、これら2つのパラメーターの平均値を用いて、デコンボリューション手順においてUIRFを明確にした。
【0083】
実施例15−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度
1%モキシゲルを用いた外耳投薬
1%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度(Cmef)のプロットを図4Aおよび図4Bにグループ別に示す。測定可能なレベルは、投薬後最長4日間(5375分)得られた。IPMによる前処理時間の長さ(0.5分、2分、5分、または20分)は、これらの研究で測定したCmax値にもAUCinf値にも影響を及ぼさなかった。
【0084】
これらのデータを図5に線形濃度尺度および対数濃度尺度で平均値±SDとして提示する。モキシフロキサシンの最高平均濃度は約48μg/mlであり、投薬後約900分(15時間)目に発生した。約90分の時点で平均濃度は10μg/mlに到達し、投薬後約2100分(35時間)までそのレベルを上回ったままであった。約230分の時点で平均濃度は20μg/mlに到達し、投薬後約1610分(27時間)までそのレベルを上回ったままであった。
【0085】
中耳液の未結合(遊離)濃度-時間データの非コンパートメント解析の結果を表4に要約する。Cmaxおよび最終速度定数λzに有意なばらつきが観察された。後者のパラメーターは、Cmefの時間当たりの低下速度(fractional rate of decline)を説明するものであり、中耳液中への/からのモキシフロキサシンの移行および退出の律速段階を反映する。ここで、律速段階とは、鼓膜を通過して抗生物質が浸透する速度である。鼓胞内投薬研究において測定した、中耳液からの消失に関連付けられている平均速度定数が、0.008〜0.010min-1の範囲であり、ここで測定された平均値0.0043より実質的に大きかったことから、これは明らかである。
【0086】
(表4)1%モキシゲルの外耳投薬後のCmefデータ(N=23)のNCA由来のモキシフロキサシンパラメーター
【0087】
未結合Cmefの平均最大値57.8μg/mlは、ヒトに400mgを経口投与した後に血漿中で観察される値(2.0μg/ml)より20〜30倍大きい(OwensおよびAmbrose, 2002, Pharmacodynamics of Quinolones、「Antimicrobial Pharmacodynamics in Theory and Clinical Practice」、162頁、Nightingale、Marakawa、およびAmbrose編、Marcel Dekker, Basel, CH)。1% モキシゲルに由来するモキシフロキサシンの中耳液中への生物学的利用能(%F)を、式1で説明した通りに算出した。
【0088】
表5Aでは、Cmefが10μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、10μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および10μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、1%モキシゲル投薬後の各データセット(N=23)を調査することによって得た。Cmefレベルが10μg/mlを上回ったままである平均時間は、1700分(約29時間)より長かった。
【0089】
(表5A)1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0090】
表5Bでは、Cmefが20μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、20μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および20μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、1%モキシゲル投薬後の各データセット(N=23)を調査することによって得た。Cmefレベルが20μg/mlを上回ったままである平均時間は、1100分(約19時間)より長かった。データセットの内の2つのCmefは20μg/mlまで上昇せず、その結果、2つのデータセットに関する「20μg/mlを上回っている時間」は0分という値になっている。
【0091】
(表5B)1%モキシゲルの外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、および20μg/mlを上回っている時間
【0092】
3%モキシゲルを用いた外耳投薬
3%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液のモキシフロキサシン濃度(Cmef)のプロットを図6にグループ別に示す。測定可能なレベルは、投薬後最長4日間(6180分)得られた。1%モキシゲル投薬データの場合と同様に、IPMによる前処理時間の長さは、これらの研究で測定したCmax値にもAUCinf値にも影響を及ぼさなかった。
【0093】
これらのデータを図7に線形濃度尺度および対数濃度尺度で平均値±SDとして提示する。モキシフロキサシンの最高平均濃度は約120μg/mlであり、投薬後約1300分(22時間)目に発生した。約60分の時点で平均濃度は10μg/mlに到達し、投薬後の研究期間の間ずっと(5000分超)そのレベルを上回ったままであった。約230分の時点で平均濃度は20μg/mlに到達し、約5340分(89時間)までそのレベルを上回ったままであった。57時間を超える測定可能レベルを示したデータセットは2つだけであったため、この観察結果は、データの全般的傾向を反映しているわけではない。
【0094】
3%モキシゲルの外耳投薬後の中耳液の未結合濃度-時間データの非コンパートメント解析の結果を表6に要約する。
【0095】
(表6)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後のCmefデータ(N=13)のNCA由来のモキシフロキサシンパラメーター
【0096】
1%モキシゲルと同様に、Cmaxおよび最終速度定数λzに有意なばらつきが観察された。この速度定数の平均値は0.0029min-1であり、鼓胞内投薬後に測定した消失速度定数を実質的に下回っていた。これは、約350分の半減期幾何平均値に相当し、中耳液中にモキシフロキサシンを直接投与した場合に観察される消失半減期よりはるかに長い。これは、1%モキシゲル研究の場合のように、鼓膜を通過してのモキシフロキサシンの浸透が、中耳液からの消失速度を制限することの証拠である。中耳液中への外耳投与の平均生物学的利用能は約35%であったが、かなり変化しやすかった。これは、おそらくはゲルと膜との不十分な接触にある程度起因する、ゲルと鼓膜の接触のばらつきが原因である可能性が高かった。%Fのこのばらつきにもかかわらず、本研究では、平均130μg/mlという極めて高い中耳液のモキシフロキサシン最高濃度が観察された。実際、生物学的利用能が2.9%であったデータセットは、27.7μg/mlのCmaxを示し、これは、モキシフロキサシン400mgの経口投与後に通常観察される最大血漿中未結合濃度の10倍より多かった (Owens et al., 前記)。
【0097】
表7Aでは、Cmefが10μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、10μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および10μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、3%モキシゲル投薬後の各データセット(N=13)を調査することによって得た。Cmefレベルが10μg/mlを上回ったままである平均時間は、2800分(約48時間)より長かった。
【0098】
(表7A)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0099】
表7Bでは、Cmefが20μg/mlに到達するまでに必要とされる時間、20μg/ml未満に低下するまでに必要とされる時間、および20μg/mlを上回っている持続時間を要約する。表にした値は、3%モキシゲル投薬後の各データセット(N=13)を調査することによって得た。Cmefレベルが20μg/mlを上回ったままである平均時間は、2500分(約42時間)より長かった。
【0100】
(表7B)3%モキシゲルの外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、20μg/mlを上回っている時間
【0101】
実施例16−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルを用いた外耳投薬後のモキシフロキサシンの比較計量
1%モキシゲルおよび3%モキシゲルを用いた外耳投薬後の中耳液の濃度(Cmef)-時間プロファイルの比較を図8に提供する。図8では、中耳液のモキシフロキサシン濃度の平均値およびSDを時間に対してプロットしている。外耳中に導入される各製剤の体積は同じではなかったため(1%モキシゲルおよび3%モキシゲルについて、それぞれ平均約500μlおよび350μl)、外耳に入れた用量は、3%モキシゲルコホートの方が1%モキシゲルグループよりも平均で約2倍多かった(4800μgに対して9900μg)。さらに、3% モキシゲルコホートの方が、そのより遅いモキシフロキサシン相対放出速度のおそらくは結果として、浸透の経時変化は顕著に長期化された(図1を参照されたい)。用量および放出速度のこれらの差は図8で明らかであり、図8において、3%モキシゲルの平均Cmax値の方が高いことおよび平均Cmefの最大値に到達する時間が明らかに遅いことが実証されている。
【0102】
これら2種の製剤に関して観察された中耳液のモキシフロキサシンレベルのCmax値およびTmax値の比較を、図9の比較用箱ひげ図に示す。これらのプロットは、これらの計量の中央値および四分位数間範囲を示す。また、これらのプロットは、2種の製剤のTmax中央値(それぞれ、1%モキシゲルの場合は900分、および3%モキシゲルの場合は1180分)は、ノンパラメトリックマンホイットニー検定によって差異はなかったが、Cmax中央値はp値0.0084で有意に異なった(それぞれ、1%モキシゲルの場合は41.2μg/ml、および3%モキシゲルの場合は109μg/ml)。
【0103】
実施例17−中耳液中へのモキシフロキサシン浸透の速度および程度
鼓胞内投薬研究の結果、およびモキシゲルを用いた外耳投薬後のCmefの経時変化を用いて、デコンボリューションを用いてモキシフロキサシンの経鼓膜浸透の速度および程度を算出した。
【0104】
1%モキシゲルを用いた場合の中耳液中へのモキシフロキサシン浸透
1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に中耳液に到達するモキシフロキサシン累積量の経時変化を図10に示す。中耳液に送達される累積量は、約250〜2300μgの範囲であった。この範囲は、1%モキシゲル投薬の際に観察されるAUCinf値の範囲を反映している。
【0105】
また、デコンボリューションによって算出した対応する浸透速度(流入速度)を図11Aおよび図11Bにグループ別にグラフで示す。各コホートにスプライン関数をフィッティングさせて、そのグループのデータセットにおける流入速度の全般的傾向を反映させた。これは、10個のデータ点の範囲をその手順において用いる局所重み付き散布図平滑化によって行った。図11Aおよび図11Bのスプラインの調査により、中耳液中へのモキシフロキサシンの最大浸透速度が約0.2〜2μg/分の範囲であり、インビトロ条件下での1%モキシゲルの比較可能な投薬に関して推定される対応する放出速度(9.4μg/分)よりかなり少ないことが示される。これらの最大浸透速度は、約12〜120μg/時のインビボでのモキシフロキサシン送達速度におおよそ相当する。
【0106】
3%モキシゲルを用いた場合の中耳液中へのモキシフロキサシン浸透
3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に中耳液に到達するモキシフロキサシン累積量の経時変化を図12に示す。中耳液に送達される累積量は、約200〜6000μgの範囲であった。この範囲は、3%モキシゲル投薬の際に観察されるAUCinf値の範囲をほぼ反映している。
【0107】
デコンボリューションによって算出した対応する浸透速度(流入速度)を図13にグループ別にグラフで示す。これらのデータにおける流入速度の全般的傾向を反映する、各コホートにフィッティングされたスプライン関数もまた、示す。図13のスプラインの調査により、中耳液中へのモキシフロキサシンの最大浸透速度が約0.5〜5μg/分の範囲であり、インビトロ条件下での3%モキシゲルの比較可能な投薬に関して推定される対応する放出速度(15μg/分)よりかなり少ないことが示される。これらの最大浸透速度は、約30〜300μg/時のインビボでのモキシフロキサシン送達速度におおよそ相当する。
【0108】
1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの中耳液中への相対的モキシフロキサシン浸透速度
1%モキシゲルデータセットおよび3%モキシゲルデータセット(N=36)のそれぞれについてデコンボリューションによって推定した浸透速度(流入速度)を、前述した通りにスプライン関数によってデータにフィッティングし、用量別にグループ分けした。データおよび対応する流入速度スプラインを図14にグラフで示す。これらのプロットから、1%モキシゲルの場合の典型的な最大浸透(流入)速度が約0.7μg//mlであり、約700〜800分(約12〜13時間)の時点で生じることが示される。3%モキシゲルの場合の対応する最大浸透速度は約2μg/分であり、1600〜2000分(約27〜33時間)の範囲で生じる。3%モキシゲルの場合に認められる最大浸透速度の方が大きいことは、この製剤に付随する用量がより多いことと一致している。1%モキシゲルを用いた場合の典型的な外耳用量は約4800μgであり、3%モキシゲルを用いた場合の対応する用量(典型的には、より小さな体積で投与された)は約9900μgであったことに留意すべきである。したがって、3%モキシゲルに付随する用量は、1%モキシゲルの場合の用量の約2倍であった。3%モキシゲルの場合に浸透速度ピークが遅くに観察されることは、3%ゲル製剤中でモキシフロキサシンは部分的に懸濁状態であるため、インビトロで、およびおそらくインビボで、よりゆっくりとこの製剤からモキシフロキサシンが放出されることを反映している。
【0109】
実施例18−中耳液中モキシフロキサシン標的濃度に到達するまでの時間および該標的濃度を上回っている持続時間
この調査の具体的目的は、10μg/mlを上回る中耳液中モキシフロキサシン濃度を最低24〜48時間維持するための経鼓膜送達系を開発することであった。図15は、1%モキシゲル外耳投薬を用いた研究において認められた、10μg/mlおよび20μg/mlの両方に到達するまでに必要とされる時間の中央値および四分位数間範囲を示す。中耳液レベル10μg/mlおよび20μg/mlを達成するのに必要とされる時間中央値はそれぞれ180分および300分であった。図面は、これらのレベルが維持された時間の中央値も示している。これらはそれぞれ、1660分および1160分、または約28時間および19時間であった。したがって、この目的は、1%モキシゲル製剤を用いて実現されたようである。
【0110】
さらに、図16は、3%モキシゲルを用いた研究において認められた、10μg/mlおよび20μg/mlの両方に到達するまでに必要とされる時間の中央値および四分位数間範囲を示す。中耳液レベル10μg/mlおよび20μg/mlを達成するのに必要とされる時間中央値はそれぞれ180分および240分であった。図面は、これらのレベルが維持された時間の中央値も示している。これらはそれぞれ、2740分および2420分、または約46時間および40時間であった。10μg/mlを超えている持続時間に関する前述の目的は、3%モキシゲル製剤を用いても実現された。さらに、これは目的として明示的に述べはしなかったものの、3%モキシゲル製剤により、ほぼ2日間という20μg/mlを超えている持続時間の中央値が実現した。この製剤が溶解状態だけでなく懸濁状態でモキシフロキサシンを含むと思われることが、インビトロでのより遅い相対的放出速度と一致するインビボでの長期に渡る放出速度をもたらした可能性が高い。
【0111】
1%モキシゲルおよび3%モキシゲルそれぞれについて、図15および図16に示す時間および持続時間を表8Aおよび表8Bならびに表9Aおよび表9Bに要約する。また、個々のデータセットで観察された平均時間、ならびに最短時間および最長時間も表にしている。
【0112】
(表8A)1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0113】
(表8B)1%モキシゲルを用いた外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、および20μg/mlを上回っている時間
【0114】
(表9A)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に10μg/mlに到達するまでの時間、10μg/ml未満に低下するまでの時間、および10μg/mlを上回っている時間
【0115】
(表9B)3%モキシゲルを用いた外耳投薬後に20μg/mlに到達するまでの時間、20μg/ml未満に低下するまでの時間、および20μg/mlを上回っている時間
【0116】
実施例19−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のモキシフロキサシンのAUIC比
Schentagら(2003, Ann. Pharmacother., 37:1287-98)によって殺菌速度に関係付けられている通り、3つの重要なブレークポイントがフルオロキノロンに対して提唱されている。これらのブレークポイントは、このクラスの抗生物質の見かけ濃度に依存する殺菌を考慮して、インビトロおよび動物モデルにおいて確立されている。AUICは、24時間を通しての曲線下面積(血漿濃度または血清濃度)を、特定の生物に対する当該フルオロキノロンの最小阻止濃度によって割った値と定義される。Schentagら(前記)は、フルオロキノロンの以下のブレークポイントを報告した。
a. AUIC値<30〜50またはピーク:MIC比が5:1の範囲の場合、フルオロキノロンは静菌性である。
b. AUIC値>100であるがAUIC値<250の場合、生物はゆっくりした速度で、通常は処置から7日目までに、死滅する。
c. AUIC>250またはピーク:MICが25:1の場合、フルオロキノロンは急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶は24時間以内に起こる。
【0117】
1%モキシゲル研究および3%モキシゲル研究の全データセットに関するAUIC値は、外耳投薬後の連続的な24時間の各期間について算出した。これらの計算から、モキシフロキサシンのMICは0.25μg/mlと想定された。図17に示す通り、1%モキシゲル投薬(N=23)後の1日目、2日目、および3日目の中耳液におけるAUIC中央値は、それぞれ2398、7756、および62であった。1%モキシゲルの場合の1日目および2日目のこれらの値は、上記に特定したカテゴリーc、すなわち、24時間以内の細菌根絶に含まれる。1%モキシゲル研究において3日に測定されたAUIC中央値は、カテゴリーbおよびaの間に位置する。
【0118】
同じく図17に示す通り、3%モキシゲル投薬(N=13)後の1日目、2日目、および3日目のAUIC中央値は、それぞれ5930、4901、および570であった。3%モキシゲルの場合の外耳投薬後3日間すべてのこれらの値は、上記に特定したカテゴリーc、すなわち、24時間以内の細菌根絶に含まれる。この知見から、3%モキシゲル後のチンチラの中耳液中モキシフロキサシン濃度の経時変化は、1%モキシゲル適用で観察されるものよりも優れた実際の利点をもたらすことが示唆される。しかしながら、Schentagらの推奨が正確であるならば、1日目および2日目の関連するAUICは、24時間以内の細菌根絶をもたらすのに十分であると思われるため、1%モキシゲル外耳投薬によってもたらされるモキシフロキサシンレベルが適切であり得る。
【0119】
上記のAUIC算出における0.25μg/mlというモキシフロキサシンについてのMICは、妥当であり、かつおそらく控えめな値である。その後の論文で、Schentagら(2003, Ann. Pharmacotherap., 37:1478-88)は、フルオロキノロンの殺菌効果を評価するために、ブレークポイントの使用を重点的に取り扱い、中耳炎で発生する一般的病原菌である肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae)株に対するモキシフロキサシンのMIC90を0.125μg/mlと報告している。興味深いことに、この論文では、ヒト臨床試験の結果を検討し、以前に報告されているブレークポイントを確認している。実際、著者らは、フルオロキノロンによる濃度依存性殺菌により、ヒトにおいて1〜2時間で細菌が根絶され、その際、AUICが250より大きいか、またはCmaxとMICの比が15:1を上回ることを述べている。
【0120】
公表されたこれらのブレークポイントは、タンパク質結合を考慮に入れていないと思われる。本研究で測定される中耳液の濃度は未結合レベルであり、生じるAUICを算出する際に全レベルが使用されるならば、これらはいくらか高くなり、それらがクラスc(フルオロキノロンが急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶が24時間以内に起こる)に入ることがより確実になると思われる。
【0121】
実施例20−1%モキシゲルおよび3%モキシゲルの外耳投薬後のモキシフロキサシンのCmax/MIC比
上記の実施例19で考察したブレークポイントはまた、Cmax/MIC(「ピーク:MIC」)比に関係する基準を含んだ。上記のクラスaおよびクラスcにおけるこれらの比に注目して、Schentagら(2003, Ann. Pharmacother., 37:1287-98)は以下を述べた。
a. 5:1の範囲のピーク:MIC比において、フルオロキノロンは静菌性である。
c. ピーク:MICが25:1の場合、フルオロキノロンは急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶は24時間以内に起こる。
【0122】
2つ目の論文(Schentag et al., 2003, Ann. Pharmacotherap., 37:1478-88)においてブレークポイントが若干修正され、クラスa、b、およびcのCmax/MIC比はそれぞれ3:1、6:1、および15:1と報告された。1%モキシゲル研究および3%モキシゲル研究の全データセットに関するCmax/MICを、外耳投薬後の連続的な24時間の各期間について算出した。以前と同様に、これらの計算から、モキシフロキサシンのMICは0.25μg/mlと想定された。図18に示す通り、1%モキシゲル投薬(N=23)後の中耳液におけるCmax/MIC中央値は、165:1であった。この値は、24時間以内の細菌根絶が予想されているクラスc(交互に(alternately)25:1または15:1と報告されている)について特定された値の数倍である。
【0123】
図18に示す通り、3%モキシゲル投薬(N=13)後の中耳液におけるCmax/MIC中央値は、436:1であった。この値は、クラスcについて特定された値より何倍も高いことから、24時間以内の細菌根絶がやはり示唆される。
【0124】
上記の通り、公表されたこれらのブレークポイントは、タンパク質結合を考慮に入れていない。本研究で測定される中耳液の濃度は未結合レベルであり、報告されたブレークポイントにおいて考慮されるCmax/MIC比を算出する際に全レベルが使用されるならば、これらの比はいくらか高くなり、それらがcクラス(フルオロキノロンが急速な濃度依存性殺菌を示し、細菌根絶が24時間以内に起こる)に入ることがさらにより確実になると思われる。
【0125】
実施例21−10%浸透促進剤および50%浸透促進剤による前処理を比較するための方法
投薬の1日前に、動物は両側の耳にエウスタキオ管閉塞(ETO)手術を受けた。ティンパノメトリーにおいて負の圧力測定値を示している耳は、エウスタキオ管の閉塞が成功していることを示した。鼓胞中への人工中耳液AMEF滴下注入、プローブ埋め込み後、かつ投薬前に、耳鏡を用いて鼓膜の完全性を視覚的に検査した。鼓膜に欠陥が生じている耳には投薬しなかった。
【0126】
投薬日に、ケタミン(40〜50mg/kg、IM)およびペントバルビタール(20〜30mg/kg、IP)で動物を麻酔し、温熱パッド上に置いて通常体温を維持した。ティンパノメトリー後、チンチラを口バー/クランプ上に置いて、AMEFを滴下注入し微小透析プローブを埋め込めるようにした。チンチラの中耳腔へは、頭蓋の背中側にある頭方向の鼓胞を介して接近した。15GA皮下注射針を用いて、骨が薄い右鼓胞と左鼓胞の頂端に手作業で小さな穴をあけた。最上部まで完全に満たされるまで、PE-50管の長さをよって各鼓胞中にAMEFを滴下注入した。
【0127】
AMEF滴下注入後すぐに、左中耳鼓胞および右中耳鼓胞の両方に10mm膜を備えた微小透析プローブ(MD-2310)(BASi, West Lafayette, IN)を埋め込んだ。チンチラの中耳腔へは、頭方向の鼓胞における同じ穴を介して接近した。その接近用の穴から、プローブを慎重に各中耳腔中に挿入した。耳鏡を用いて、鼓膜の完全性を検査した。歯科用セメントおよびアンカー針によって固定されたプラスチック製かぶせものを用いて、これらのプローブをチンチラの頭蓋に固定した。
【0128】
前述した通りに外耳中に3%モキシゲル溶液を用いて投薬する前に、鉱油に溶かした10%v/vミリスチン酸イソプロピル(IPM)溶液または50%v/vミリスチン酸イソプロピル(IPM)溶液のいずれかの形態の浸透促進剤で前処理を実施した。これは、耳鏡の助けを借りて外耳経由で鼓膜領域中に前処理溶液50μLを適用することからなった。これは、ツベルクリン用1mL容シリンジに取り付けられたポリエチレン(PE-50)管の断片を用いて遂行した。投薬に先立って0.5分間、この前処理溶液を鼓膜上に置いておいた。
【0129】
少量(0.3mL)の3%モキシフロキサシン製剤を、耳鏡の助けを借りて外耳経由で鼓膜領域中に液剤として滴下注入した。この液体製剤は、ゾル-ゲル転移温度が約29〜31℃であり、その温度がゆっくりと上昇するにつれてゲル化する。反対側の耳に投薬する前に、合計10分のゲル化時間を与えた。処置の間ずっと、動物の心拍数、呼吸速度、体温、および麻酔深度を頻繁にモニターした。
【0130】
9mg(30mg/mLを含む製剤0.3mL)の1回量を適用した後、後述する通りに、投与後最長7200分間、中耳液中未結合モキシフロキサシン濃度を、オンライン微小透析を用いてモニターした。
【0131】
オンライン微小透析HPLCシステムを用いて、透析液中のモキシフロキサシンおよびシプロフロキサシンを定量した。微小透析の灌流流速は、5mL容マイクロシリンジ(Hamilton Company, Reno, NV)を取り付けたHarvard製マイクロインジェクションポンプ(モデルH11;Harvard Apparatus Inc.;South Natick, MA)を用いて制御した。シーケンスプログラマー(Valco Instruments Co. Inc., Houston, TX)によって制御される10ポート弁本体の2つの25μl試料ループ中に、両耳からの微小透析液を交互に採取した。プローブに流速0.5μL/分で逆透析較正物質(シプロフロキサシンのPBS溶液(5μg/mL))を灌流させた。
【0132】
Valco製オンライン試料採取システムと接続して機能させるためにShimadzu 10-A HPLCシステム(Shimadzu Corporation, Kyoto, Japan)を使用した。これは、LC-10ADvpポンプ、SIL-10Aシステムコントローラー、CTO-10Aカラムヒーター、FCV-10ALvpプロポーショナー、およびDGU-14A脱ガス装置からなる。また、励起波長295nmおよび発光波長490nmのShimadzu製分光蛍光検出器(RF-10A)も使用した。YMC ODS-A 5μm、120Å(4.6×100 mm、Waters Corporation, Milford, MA)カラムを、これらの化合物の分離のために使用し、リン酸アンモニウム(20mM、pH=2.8)76%およびアセトニトリル24%から構成される移動相を流速0.5mL/分で用いて溶出させた。40℃のカラム温度を用いた結果、モキシフロキサシンの場合は約6分および較正物質シプロフロキサシンの場合は3分の保持時間が得られた。
【0133】
実施例22−10%浸透促進剤による前処理と50%浸透促進剤による前処理の比較結果
鼓膜を10%IPMで前処理して3%モキシゲルを外耳投薬した後、中耳液中未結合モキシフロキサシン濃度(Cmef)は、典型的には、定量下限よりも低かった。前処理で10%IPMを使用した場合に観察される測定可能なレベルは極めて少数であったため、モキシフロキサシンの送達に関係するパラメーターを算出することができなかった。
【0134】
それに対して、鼓膜を50%IPMで前処理して3%モキシゲルを外耳投薬した後、中耳液中未結合モキシフロキサシン濃度は、最長7200分または5日の期間に渡って、完全に測定可能であった。研究した9個の耳において、中耳液中のCmax(未結合モキシフロキサシン最高濃度)(平均値±SD)は33.3±23.3μg/mLであった。ヒトにおいて血清タンパク質に30%〜50%結合することが報告されているモキシフロキサシンの400mgの経口投薬後に血漿中で観察された合計(結合および遊離)最高濃度は3.1μg/mLである。対応する血漿中未結合Cmaxは約1.9μg/mLである。したがって、本研究による外耳中への9mgの単回投与後のチンチラ中耳液において観察された未結合モキシフロキサシン最高濃度平均値は、用量400mgを与えられたヒトの血漿において観察された未結合Cmax平均値の約15〜20倍である。
【0135】
最高濃度が観察される時点であるTmaxは、1410±486分であった。0時点からtlastまでのAUCは、約74,400±52,100μg・分/mLであり、時間0から無限時間までのAUC(AUCinf)は、約93,400±79,200μg・分/mLであった。400mgを1回経口投薬された健常なヒトの平均AUCは、2170μg・分/mLであることが報告されている。対応する未結合AUCはこの約60%、または約1300μg・分/mLである。したがって、チンチラ外耳中に9mgを1回投薬した後の未結合レベルのモキシフロキサシンへの中耳液の平均曝露は、モキシフロキサシン400mgを1回経口投与された健常なヒトの血漿で認められる曝露の約75倍である。
【0136】
中耳腔中にモキシフロキサシンを直接投薬(鼓胞内投薬)した後に、中耳液中へのモキシフロキサシンの経鼓膜送達の程度を、微小透析を用いて測定した単一指数的濃度-時間プロファイルから算出した。中耳液中のモキシフロキサシンの分布体積は、1.8mLであると推定された。消失速度定数は、0.0093min-1であると推定された。中耳液からのモキシフロキサシンの平均クリアランス(CL)は、0.0167mL/分と算出された。以下の式の通りに、外耳用量、時間0から無限時間までの曲線下面積(AUCinf)、および鼓胞内投薬研究によって測定した中耳液からの平均クリアランス(CL)から、中耳液中へのモキシフロキサシンの送達程度(生物学的利用能、%F)を各データセットについて算出した。
【0137】
中耳腔に送達される外耳用量の割合(平均値±SD)は、17.4±14.7%と測定された。
【0138】
9mgモキシフロキサシン投薬および50%ミリスチン酸イソプロピルによる鼓膜の前処理後のチンチラ中耳液(MEF)中へのモキシフロキサシンの経鼓膜送達を検査した本発明の研究の結果を図19Aおよび図19Bに示す。対応するパラメーターおよび対応するパラメーターおよび計量値(metrics)を表10に示す。
【0139】
(表10)浸透促進剤による前処理後のモキシフロキサシンの送達
【0140】
他の態様
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を例示することを意図し、限定することを意図しないことを理解すべきである。他の局面、利点、および修正は、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の鼓膜の上皮表面に製剤を適用する段階を含む、該哺乳動物の中耳にモキシフロキサシンを投与するための方法であって、
該製剤が水性であり、かつ粘度生成剤およびモキシフロキサシンを含み、該製剤が流動性であり、かつ100,000cps未満の粘度を有し、かつ、該製剤が、該鼓膜への適用後に、該製剤を該鼓膜に接触した状態で維持するのに十分な降伏応力を有するゲルを形成し、該モキシフロキサシンが、該鼓膜を通過して中耳腔内に移動する、方法。
【請求項2】
前記粘度生成剤がジェランである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記粘度生成剤が、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミドである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリアクリル酸である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリメタクリル酸である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記粘度生成剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを伴うポリアクリル酸である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記粘度生成剤が酢酸フタル酸水素セルロースラテックス(cellulose acetate hydrogen phthalate latex)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記粘度生成剤がアルギン酸ナトリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記粘度生成剤が逆熱硬化性(reverse thermosetting)ゲルである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記粘度生成剤がポロキサマーである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記粘度生成剤がポロキサミンである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記製剤が、抗炎症剤、麻酔薬、接着促進物質、透過促進剤もしくは浸透促進剤、生体接着剤、吸湿剤、耳垢軟化剤、または保存剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物がげっ歯動物である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
約0.6μg/mlより高いレベルを少なくとも約24時間維持するのに十分な量の前記モキシフロキサシンが中耳液に送達される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
製剤と該製剤を鼓膜に適用することを指示する取り扱い説明書とを含むキットであって、
該製剤が水性であり、かつ粘度生成剤およびモキシフロキサシンまたはその塩を含み、該製剤が流動性であり、かつ100,000cps未満の粘度を有し、かつ、該製剤が、該鼓膜への適用後に、該製剤を該鼓膜に接触した状態で維持するのに十分な降伏応力を有するゲルを形成し、該製剤が、該モキシフロキサシンが該鼓膜を通過して中耳腔内に移動することを可能にする、キット。
【請求項17】
前記粘度生成剤がジェランである、請求項16記載のキット。
【請求項18】
前記粘度生成剤が、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミドである、請求項16記載のキット。
【請求項19】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリアクリル酸である、請求項16記載のキット。
【請求項20】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリメタクリル酸である、請求項16記載のキット。
【請求項21】
前記粘度生成剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを伴うCARBOPOL(登録商標)(ポリアクリル酸)である、請求項16記載のキット。
【請求項22】
前記粘度生成剤が酢酸フタル酸水素セルロースラテックスである、請求項16記載のキット。
【請求項23】
前記粘度生成剤がアルギン酸ナトリウムである、請求項16記載のキット。
【請求項24】
前記粘度生成剤が逆熱硬化性ゲルである、請求項16記載のキット。
【請求項25】
前記粘度生成剤がポロキサマーである、請求項24記載のキット。
【請求項26】
前記粘度生成剤がポロキサミンである、請求項24記載のキット。
【請求項27】
抗炎症剤、麻酔薬、接着促進剤、透過促進剤もしくは浸透促進剤、生体接着剤、吸湿剤、耳垢軟化剤、または保存剤をさらに含む、請求項16記載のキット。
【請求項1】
哺乳動物の鼓膜の上皮表面に製剤を適用する段階を含む、該哺乳動物の中耳にモキシフロキサシンを投与するための方法であって、
該製剤が水性であり、かつ粘度生成剤およびモキシフロキサシンを含み、該製剤が流動性であり、かつ100,000cps未満の粘度を有し、かつ、該製剤が、該鼓膜への適用後に、該製剤を該鼓膜に接触した状態で維持するのに十分な降伏応力を有するゲルを形成し、該モキシフロキサシンが、該鼓膜を通過して中耳腔内に移動する、方法。
【請求項2】
前記粘度生成剤がジェランである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記粘度生成剤が、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミドである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリアクリル酸である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリメタクリル酸である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記粘度生成剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを伴うポリアクリル酸である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記粘度生成剤が酢酸フタル酸水素セルロースラテックス(cellulose acetate hydrogen phthalate latex)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記粘度生成剤がアルギン酸ナトリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記粘度生成剤が逆熱硬化性(reverse thermosetting)ゲルである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記粘度生成剤がポロキサマーである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記粘度生成剤がポロキサミンである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記製剤が、抗炎症剤、麻酔薬、接着促進物質、透過促進剤もしくは浸透促進剤、生体接着剤、吸湿剤、耳垢軟化剤、または保存剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物がげっ歯動物である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
約0.6μg/mlより高いレベルを少なくとも約24時間維持するのに十分な量の前記モキシフロキサシンが中耳液に送達される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
製剤と該製剤を鼓膜に適用することを指示する取り扱い説明書とを含むキットであって、
該製剤が水性であり、かつ粘度生成剤およびモキシフロキサシンまたはその塩を含み、該製剤が流動性であり、かつ100,000cps未満の粘度を有し、かつ、該製剤が、該鼓膜への適用後に、該製剤を該鼓膜に接触した状態で維持するのに十分な降伏応力を有するゲルを形成し、該製剤が、該モキシフロキサシンが該鼓膜を通過して中耳腔内に移動することを可能にする、キット。
【請求項17】
前記粘度生成剤がジェランである、請求項16記載のキット。
【請求項18】
前記粘度生成剤が、アクリル酸ナトリウムとn-N-アルキルアクリルアミドとを伴うN-イソプロピルアクリルアミドである、請求項16記載のキット。
【請求項19】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリアクリル酸である、請求項16記載のキット。
【請求項20】
前記粘度生成剤が、ポリエチレングリコールを伴うポリメタクリル酸である、請求項16記載のキット。
【請求項21】
前記粘度生成剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを伴うCARBOPOL(登録商標)(ポリアクリル酸)である、請求項16記載のキット。
【請求項22】
前記粘度生成剤が酢酸フタル酸水素セルロースラテックスである、請求項16記載のキット。
【請求項23】
前記粘度生成剤がアルギン酸ナトリウムである、請求項16記載のキット。
【請求項24】
前記粘度生成剤が逆熱硬化性ゲルである、請求項16記載のキット。
【請求項25】
前記粘度生成剤がポロキサマーである、請求項24記載のキット。
【請求項26】
前記粘度生成剤がポロキサミンである、請求項24記載のキット。
【請求項27】
抗炎症剤、麻酔薬、接着促進剤、透過促進剤もしくは浸透促進剤、生体接着剤、吸湿剤、耳垢軟化剤、または保存剤をさらに含む、請求項16記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【公表番号】特表2013−516485(P2013−516485A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548156(P2012−548156)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2011/020531
【国際公開番号】WO2011/085209
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(507197708)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (8)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2011/020531
【国際公開番号】WO2011/085209
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(507197708)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (8)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
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