説明

耳端案内流体を用いた流し塗り法

液体塗料の少なくとも1つの層で支持体を流し塗りする方法であって、該方法は、塗布帯域を通る進路に沿って支持体を移動させること、該進路に対して横に広がりかつ移動する支持体の上にぶつかる自由落下カーテンの形をした1つまたはそれ以上の液体塗料を供給すること、耳端案内要素によって自由落下カーテンを横方向に案内すること、自由落下カーテンおよび耳端案内要素に接する耳端案内流体を供給することを含み、耳端案内流体が、コーンプレートレオメーターによって測定したときに10,000s-1の剪断速度において少なくとも2の回復性ずり変形を有する弾性液体であり、そして有機ポリマーの水溶液を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体が塗布帯域を通る進路に沿って移動し、液体塗料の自由落下カーテンが支持体に当たるような、液体塗料の少なくとも1つの層で支持体を流し塗り(curtain coating)する方法に関する。より詳しくは、本発明は、耳端案内流体を用いた改善された流し塗り法に関し、耳端案内流体(edge guide fluid)は自由落下カーテンに接し、そして耳端案内要素が自由落下カーテンを横方向に案内する。
【背景技術】
【0002】
流し塗りプロセスは、様々な分野(たとえば被覆紙、板紙、ポリマー支持体)において精密塗布プロセスとしてますます用いられるようになっている。
【0003】
昔は、流し塗りは、主に、印画紙、写真用フィルムおよび感圧複写紙の製造に使用されていた。印画紙の製造は、紙またはプラスチックシートにいくつかの写真層を同時塗布することを含み、それはたとえば米国特許第3,508,947号明細書および米国特許第3,632,374号明細書に記載されている。最近、流し塗り技術は、印刷、包装およびラベルの目的に特に適した紙の製造にも使用されている。現在、流し塗り技術を使用して塗布される紙タイプの具体例としては、感熱紙、ノーカーボン紙およびインクジェット用紙が挙げられる。
【0004】
流し塗りプロセスにおいては、紙または板紙のような支持体は塗布帯域を通る進路に沿って移動し、そして液体塗料の自由な落下するカーテンが支持体に当たる。表面張力の影響による落下カーテンの収縮を防ぎそして一定の決められた幅を保つために、自由落下カーテンを横方向に案内しなければならないことが知られている。当技術分野において、落下カーテンの収縮は「カーテンくびれ」としても知られている。落下カーテンの必要な案内は、いわゆる耳端案内要素によって得られる。一般に、耳端案内要素は静止した固体部材であり、落下カーテンとの接触面を有する。米国特許第6,982,003号明細書は、耳端案内の例を開示している。典型的には、それらは、落下カーテンに塗布液体を供給しそしてカーテンの自由落下の初期点から下方へ延びるために使用されるスライドホッパーに取り付けられる。耳端案内要素からいくらか離れたところでは、自由落下カーテンは、速度vが第1近似式v=(2gX)1/2(ただし、gは重力加速度であり、Xはカーテンの自由落下の初期点からの距離である。)で表されることによって特徴づけられる。耳端案内要素との接触面では、液体カーテンの相対速度は0である。結果として、耳端案内要素との接触面の近くに速度勾配が存在する。この速度勾配は、接触面に沿ったカーテンの弱化に帰着する。カーテンは不安定になり、その結果、耳端案内要素から離れる場合がある。カーテンの収縮のために、継続的な塗布はその後もはや可能ではない。
【0005】
カーテン内の速度勾配を減少させまたは回避するために、カーテンの耳端に追加の液体を供給することが知られている。たとえば米国特許第7,169,445号明細書参照。カーテンがその耳端で裂けるのを回避するためには、落下カーテンの耳端と耳端案内要素との湿潤接触が耳端案内の全長にわたって維持されなければならない。この追加の液体は、通常、補助流体(または液体)または耳端案内(潤滑)流体(または液体)と呼ばれる。耳端案内流体を使用したときでさえ、もっとも重大な問題は、塗布液体の体積流量がある値より小さいと、落下カーテンが耳端案内要素にくっつかず、裂けて離れてしまうので、落下カーテンはもはや安定ではないということである。この問題は、事実上、所与の塗布速度で塗布することができる最小の塗布量を制限する。
【0006】
耳端案内要素およびカーテン耳端と耳端案内要素の間に耳端案内流体を供給し分配する手段を含む流し塗り機に関する種々の文献がある。しかし、それらの文献の大部分は耳端案内流体の特性については取り組んでおらず、使用することができる流体の種類については簡潔にしか説明されていない。従来の塗布方法の大部分において、耳端案内流体として水またはゼラチン溶液が使用されている(たとえば、欧州特許出願公開第0740197号明細書、米国特許第3,632,374号明細書、米国特許第4,830,887号明細書、米国特許第5,328,726号明細書および米国特許第5,395,660号明細書)。米国特許第4,479,987号明細書は、さらに、補助液体で用いられるセルロースエステルおよびポリアクリルアミドに言及している。
【0007】
先行技術文献の中で、欧州特許出願公開第1023949号明細書だけが耳端案内流体の性質に焦点を当てている。液体塗料材料の粘度より大きな粘度を有する耳端案内流体が、有利であり、そして塗布液体の最小の体積流量での流し塗りを可能にすることが規定されている。この文献は、もっぱら、典型的には50mPa・s未満の粘度を有する写真用ハロゲン化銀乳剤の塗布に向けられている。さらに、耳端案内流体の粘度は好ましくは50mPa・s〜200mPa・sであることが開示されている。耳端案内流体はグリセリンであってもよいし水溶性ポリマー化合物を含む液体であってもよい。耳端案内液体がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マレイン酸/メチルビニルエーテル共重合体またはブタジエン/マレイン酸共重合体を含むことが好ましい。ポリアクリルアミドを含む耳端案内流体は、例の1つに開示されている。欧州特許出願公開第1023949号明細書には、ポリマーの分子量についても、耳端案内流体中のポリマーの濃度についても記載されていない。
【0008】
塗布液体より高い粘度を有する耳端案内流体を使用する欧州特許出願公開第1023949号明細書の基本概念は、写真乳剤に比べてより高い粘度を有する塗料の塗布には実用的ではない。印刷、包装およびラベル目的に適した紙および板紙に塗布される着色塗料組成物は、かなり高い固形分を有し、したがって比較的高い粘度、通常200〜3000mPa・sの範囲の粘度(100rpmでのブルックフィールド粘度)を有する。欧州特許出願公開第1023949号明細書に記載された方法は、耳端案内流体の高い粘度のために、これらの塗料では、うまくいかないであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3508947号明細書
【特許文献2】米国特許第3632374号明細書
【特許文献3】米国特許第6982003号明細書
【特許文献4】米国特許第7169445号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0740197号明細書
【特許文献6】米国特許第4830887号明細書
【特許文献7】米国特許第5328726号明細書
【特許文献8】米国特許第5395660号明細書
【特許文献9】米国特許第4479987号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第1023949号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、塗料の低い最小体積流量でカーテン安定性を確実にするような支持体を流し塗りする方法があれば望ましい。望ましい方法は、低粘度、高粘度のいずれの塗布液体を塗布するのにも有用なものであるべきである。低い最小体積流量は、より低い紙および板紙の塗布速度で低い塗布量を可能にする。低い塗布速度は、実用的な限界のために高速流し塗り法によって塗布することができない支持体の塗布に特に関係がある。たとえば、これは、約200m/分〜約600m/分のかなり低い速度で行われる板紙を塗布する方法に適用される。さらに、高い塗布質量および/または高い塗布速度に使用されるような高い体積流量については、カーテン耳端における定常波のような、耳端案内要素によって引き起こされる流れの乱れを避けることができれば有利である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、液体塗料の少なくとも1つの層で支持体を流し塗りする方法であって、該方法は、
塗布帯域を通る進路に沿って支持体を移動させること、
該進路に対して横に広がりかつ移動する支持体の上にぶつかる自由落下カーテンの形をした1つまたはそれ以上の液体塗料を供給すること、
耳端案内要素によって自由落下カーテンを横方向に案内すること、
自由落下カーテンおよび耳端案内要素に接する耳端案内流体を供給すること
を含み、
耳端案内流体が、コーンプレートレオメーターによって測定したときに10,000s-1の剪断速度において少なくとも2の回復性ずり変形を有する弾性液体であり、そして有機ポリマーの水溶液を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0012】
驚くべきことに、流し塗り法において、耳端案内流体として10,000s-1の剪断速度において少なくとも2の回復性ずり変形を有する弾性液体の使用は、塗布液体の低い最小体積流量を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1a】図1aは安定した自由落下カーテンを示す。(1)は耳端案内要素を示し、(2)はスライドを示し、そして(3)は耳端案内流体を示す。
【図1b】図1bは不安定なカーテン耳端による不安定なカーテンを示す。
【図1c】図1cは「糸状物」形成による不安定なカーテンを示す。
【図2】図2は種々の耳端案内流体についての最小の達成可能な塗布量対塗布速度のグラフである。
【図3a】図3aは種々の耳端案内流体のずり粘度対剪断速度のグラフである。
【図3b】図3bは種々の耳端案内流体のずり粘度対剪断速度のグラフである。
【図4a】図4aは種々の耳端案内流体の回復性ずり変形対剪断速度のグラフである。
【図4b】図4bは種々の耳端案内流体の回復性ずり変形対剪断速度のグラフである。
【図5】図5は一方向ずり流動の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
弾性流体の主題を理解するために、若干のレオロジーの基本について以下に要約する。流体の一方向ずり流動を図5に示す。ここで、Vxはx方向の流体の速度を示し、Yyxは剪断速度すなわちy方向の速度勾配を示す。ずり流動は3つの応力ベクトルによって記述される。
・ σyx=σ=η・γyx
・ σxx−σyy=N1 主(または第1)法線応力差
・ σyy−σzz=N2 2次(または第2)法線応力差
【0015】
ほとんどの流れ状態において、2次法線応力差は重要ではない。ニュートン液体については、N1とN2は両方ともゼロである。
【0016】
回復性ずり変形によって流体の弾性を特徴づけるためにN1を使用することができることは、科学文献に十分に文書化されており(たとえばアンケ・リントナー(Anke Lindner)、ジェー・フェルマント(J. Vermant)、デー・ボン(D. Bonn)、「希薄ポリマー溶液の伸長粘度を得る方法」、Physica A、2003年、第319巻、p.125参照)、回復性ずり変形は次式により定義される。
回復性ずり変形=N1/2σ (式1)
ここで、所与の剪断速度について、σはレオロジー測定における流体に対して加えられた剪断応力であり、N1は測定された第1法線応力差である。回復性ずり変形は、流体の弾性を測定し、剪断応力の2倍に対する第1法線応力差の比として定義される。回復性ずり変形>0.5の場合、流体は弾性があると見なされる。確かに、高弾性流体の場合には、第1法線応力差は剪断応力よりはるかに高くなりえる。
【0017】
ポリマー溶液のような液体については、ずり流動場において測定された第1法線応力差は、液体の弾性に関する情報を提供することができる。コーンプレートレオメーターは、第1法線応力差N1とσの両方が同時に測定されるので、N1および回復性ずり変形を測定するのに非常に適している。そのようなコーンプレート剪断場においては、第1法線応力差によって生じ、そして(プレートに垂直な)回転軸の方向に作用する力FNは次式で表される。
N(γ)=(πa2/2)・N1(γ) (式2)
ただし、N1(γ)は剪断速度γでの第1法線応力差であり、aはプレート半径である。
【0018】
Fはコーンプレートレオメーターで実際に測定される正味法線力であり、式3で示される。F1は慣性効果に相当し、式4で示される。
F=FN(γ)−F1 (式3)
ただし、
1=3πρΩ24/40 (式4)
ρ=流体の比重
Ω=角速度
【0019】
コーンプレート測定から、第1法線応力差N1は、測定された正味法線力Fから式5によって計算される。
1=(2/(πa2))F+3ρΩ22/20 (式5)
【0020】
剪断応力は法線力Fと同時に測定され、回復性ずり変形は式1によって計算される。
【0021】
好ましくは、本発明の耳端案内流体は、(コーンプレートレオメーターによって測定したときに)10,000s-1の剪断速度において少なくとも5の回復性ずり変形、より好ましくは10,000s-1の剪断速度において少なくとも10の回復性ずり変形、さらに好ましくは10,000s-1の剪断速度において少なくとも15の回復性ずり変形、そしてもっとも好ましくは10,000s-1の剪断速度において少なくとも20の回復性ずり変形を有する弾性液体である。
【0022】
耳端案内流体は有機ポリマーの水溶液を含む。そして、好ましい実施態様においては、耳端案内流体は有機ポリマーの水溶液である。水溶液は、増粘剤や界面活性剤のような随意的成分を含んでもよい。
【0023】
典型的には、有機ポリマーは、少なくとも200,000、好ましくは少なくとも900,000、より好ましくは少なくとも2,000,000、さらに好ましくは少なくとも3,000,000、そしてもっとも好ましくは少なくとも7,000,000の質量平均分子量(Mw)を有する。
【0024】
水溶液中の有機ポリマーの濃度は、上に定義された回復性ずり変形要件を満たすように選択される。典型的には、それは、0.01〜2質量%、好ましくは0.02〜1質量%、より好ましくは0.02〜0.5質量%、そしてもっとも好ましくは0.05〜0.2質量%の範囲内である。
【0025】
上に定義されるような水溶液の回復性ずり変形要件が満たされる限り、本発明の耳端案内流体に使用される有機ポリマーの種類は重要ではない。有機ポリマーは好ましくは水溶性である。この出願においては、「水溶性ポリマー」は、25℃の温度および1.013バール(1気圧)の圧力における蒸留水100g中の少なくとも5gの水溶解度を有するポリマーを意味する。好ましい実施態様においては、溶解度は少なくとも10g/100g水である。
【0026】
好ましくは、有機ポリマーは線状無架橋ポリマーである。本発明に使用される有機ポリマーの例としては、限定するものではないが、ポリアルキレンオキシド、好ましくはポリエチレンオキシド、ポリアルキレンオキシドの陰イオンおよび陽イオン誘導体、ならびにアクリルアミド/アクリル酸共重合体が挙げられる。本発明に有用な具体的なポリマーは、たとえば、Mwが約10,000,000のアクリルアミド/アクリル酸共重合体(たとえば、バスフ社(BASF AG)(ドイツ国ルートウィックスハーフェン(Ludwigshafen))からSTEROCOLL BLの商品名で、およびエスエヌエフ・フレーガー社(SNF Floerger)(フランス国アンドレゾー(Andrezieux))からEM115の商品名で商業的に入手可能)、Mwが約200,000のポリエチレンオキシド(たとえば、POLYOX WSR80の商品名で商業的に入手可能)、Mwが約900,000のポリエチレンオキシド(たとえば、POLYOX WSR1105の商品名で商業的に入手可能)およびMwが約8,000,000のポリエチレンオキシド(たとえば、POLYOX WSR303の商品名で商業的に入手可能)(POLYOX WSRポリマーはすべてダウ・ケミカル社(The Dow Chemical Company)(アメリカ合衆国ミッドランド(Midland))から入手可能)が挙げられる。Sterocoll BL、EM115およびPOLYOX WSR303が好ましいポリマーである。
【0027】
本発明の方法の好ましい実施態様においては、耳端案内流体は、100rpmおよび25℃で測定したブルックフィールド粘度が100mPa・s以下、より好ましくは50mPa・s以下である。これは、耳端案内流体の特性としての高弾性は、好ましくは、低ブルックフィールド粘度と組み合わされることを意味する。
【0028】
概して、本発明の方法は、移動する支持体に種々様々な液体塗料を塗布するのに使用することができる。液体塗料の種類および粘度は重要ではなく、実際、本発明の方法は広範囲の粘度の液体塗料について実施することができる。好ましくは、耳端案内流体のブルックフィールド粘度は、液体塗料のブルックフィールド粘度より低い。本発明の方法は、100rpmおよび25℃で測定したブルックフィールド粘度が200〜3000mPa・s、好ましくは200〜2000mPa・s、そしてもっとも好ましくは200〜1500mPa・sの液体塗料の塗布に特に有利である。しかし、本発明の方法は、より低い粘度の液体塗料でも実施することができる。本発明によって塗布される典型的な液体塗料は、写真用溶液または乳剤、および好ましくは印刷、包装およびラベルのための紙および板紙の製造に使用される種々の慣用の塗料が挙げられる。流し塗り法によって、印刷、包装およびラベル用に特に適した多層塗布紙および板紙を製造する方法は、たとえば、国際公開第02/084029号(引用によって本明細書に含められる。)に開示されている。それに記載された塗料は、本発明の方法において使用するのに特に適している。
【0029】
本発明の方法によって塗布される支持体は、流し塗り方法によって塗布されるのに適しているいかなる支持体であってもよい。例としては、紙、板紙、不織布およびプラスチックシートが挙げられる。板紙の塗布速度は一般にかなり低く、150〜600m/分、典型的には200〜600m/分なので、板紙の流し塗りは特に本発明の方法によって利益を得る。低い塗布速度における低い塗布量を得るためには、最小体積流量で支持体に液体塗料を塗布しなければならない。
【0030】
本発明の耳端案内流体は、自由落下カーテンが耳端案内要素によって横方向に案内されるようないかなる流し塗り法にも使用することができる。本発明の方法は、単層流し塗り法または多層流し塗り法である。耳端案内要素の設計を含む流し塗り機の設計も、本願特許請求の範囲に定められていないいかなるプロセスパラメータも、本発明にとって重要ではない。移動する支持体を流し塗りする手法は当業者によく知られており、詳細な説明はここでは必要ではないと考えられる。耳端案内要素を含む流し塗り機および対応する塗布方法は、たとえば国際公開第03/049870号、国際公開第03/049871号、欧州特許出願公開第0740197号明細書、米国特許第3,632,374号明細書、米国特許第4,830,887号明細書、米国特許第5,328,726号明細書、米国特許第5,395,660号明細書、米国特許第6,982,003号明細書、米国特許第7,101,592号明細書、および米国特許第4,479,987号明細書(引用によって本明細書に含められる。)に記載されている。耳端案内要素とカーテンの間に接触が提供される限り、耳端案内要素およびカーテン耳端に耳端案内流体が供給される方法は、本発明にとって重要ではない。供給する方法は、文献から知ることができ、具体的な例は上に引用した文献の中に見つけることができる。
【0031】
典型的には、耳端案内要素およびカーテン耳端に供給される耳端案内流体の流量は、1つの耳端案内要素あたり、1〜100mL/分、好ましくは5〜70mL/分、より好ましくは10〜50mL/分、そしてもっとも好ましくは15〜30mL/分の範囲内である。
【0032】
自由落下カーテンの安定性は、低い塗布量および低い塗布速度限界における流し塗り機の操作窓を狭くする問題であり、すなわち液体塗料の所与の固形分について、それは、それ以下の速度では所望の塗布量の塗布がもはや不可能な最低速度を設定し、またはそれは所与の塗布速度で達成できる最小の塗布量を設定する。カーテンの安定性が本発明によって増すので、本発明は流し塗り操作窓を広げることができる。
【0033】
流し塗りのよく知られた限界は、カーテンを生成するために必要な塗布液体の最小体積流量QMである。その値より下では、カーテンを形成することができず、塗布液体は「糸状物」(図1c参照)として流れる。この場合は、塗布液体の実際の体積流量Qは、QMより低い(QM>Q)。耳端案内要素(1)を用いて塗布方法を実行するときは、臨界流量QEdが存在し、その流量より下ではカーテンが耳端案内要素から離れる(図1b参照)。図1aに示されるような(スライド(2)から供給される)安定した自由落下カーテンから始めたときは、体積流量を減らすことによって、流量の値は、図1bに示されるように、カーテンが耳端案内要素から裂けて離れるような流量の値に達するであろう。これが臨界流量QEdであり、所与の塗布速度および塗布液体の固形分について、それが、実際に塗布することができる最小の塗布量を決める。塗布液体の体積流量を減少させ続けることによって、最小流量QMは、図1cに示されるように、カーテンが糸状物に分かれる流量に達する。QEdは、実際には、QEd>QMなので、実用的により重要である。すなわちカーテンを全く形成することができない前に、カーテンは耳端案内要素から離れるであろう(QEd>Q>QM)。したがって、安定したカーテンは、Q>QEdの場合に形成される。Q、QEdおよびQMは、多層カーテンが塗布される場合は、液体塗料の全体積流量を示す。本発明において示されるような耳端案内流体(3)の使用によって、図1bに示される状態が起こる臨界体積流量QEdをかなり減らすことができる。
【0034】
Edは、下限値における流し塗りの(全)塗布量−塗布速度操作窓を設定する、すなわち所与の速度で塗布することができる最低の(全)塗布量を与え、および/または所与の(全)塗布量のために運転されなければならない最低の塗布速度を課す。これは、たとえば塗布速度(200m/分〜600m/分)および12g/m2〜25g/m2の目標(全)塗布量を前提とするとQがかなり低い板紙の塗布に、実用的に重要である。
【0035】
公知の耳端案内流体では、流し塗りの塗布量−塗布速度操作窓は、実際に、板紙に関連する塗布量−塗布速度条件を含んでいない。固形分を減少させるための選択肢は、塗布液体を希釈することでありえる。しかし、着色塗料(coating color)の希釈は、費用(乾燥費の増加)および塗布される板紙の性質への悪影響のために実行可能な選択肢ではない。耳端案内流体として弾性液体を用いる本発明の方法の使用すれば、流し塗りの塗布量−速度操作窓を、それが最終的には板紙の塗布に関連するほぼ全塗布量−塗布速度の組合わせを含むような程度まで、広げるのが可能である。もちろん、塗布液体の固形分を犠牲にせずに目標とする低い塗布量を達成することができるので、これは重要な経済的利点である。
【0036】
さらに、高速塗布に使用されるようなより高い体積流量および/またはより高い塗布質量については、本発明の方法は、カーテン耳端から始まる定常波のような、耳端案内要素によって引き起こされる流れの乱れを避けることもできる。本発明の方法は、耳端案内要素に沿ったカーテンの真っすぐな流れを提供する。
【実施例】
【0037】
次の実施例は本発明のさらなる実例として提供され、本発明を限定するものと解釈してはならない。別段の言及がない限り、部およびパーセントはすべて質量基準で表示される。
【0038】
回復性ずり変形の測定は、Physica MCR 301 Modular Compact Rheometer(製造業者:アントン・パール社(Anton Paar GmbH)(オーストリア国グラーツ(Graz))を用い、コーンプレートモード(Cone CP 50−0.5/Q1、直径50mm、円錐角0.5°)で、25℃の固定温度で行なわれる。法線応力測定の前に、流体は、300s-1の剪断速度で20秒間予め剪断される。線形剪断速度は、最初の10s-1から60秒以内に15,000s-1まで増やし、特別なレオロジー・パラメーター(剪断応力σおよび第1法線応力差N1)を3秒毎に記録する。機器に関係する実験の限界を前提にすると、剪断速度100〜10,000s-1で測定される回復性ずり変形が考えられる。高い剪断速度においては、遠心力のために、コーンプレート形状によって定められた測定ニップからいくらかの量の試験潤滑液が放出されてもよい。より低い剪断速度においては、正味法線力Fが非常に低く、測定装置の不十分な感度のために測定の精度は低い。F初期は、0〜100s-1の剪断速度において測定される法線力Fの平均値である。この剪断速度に関しては、有効な通常の正味法線力はゼロである。F初期は、測定のゼロベースラインとして定められる。100s-1を超える高い剪断速度においては、測定された法線力F測定は、ゼロベースラインのシフトを考慮に入れるために、式6に従って補正される。
F=F測定−F初期 (式6)
式6に従って計算されたFの値は、第1法線応力差を計算するために式5で使用され、第1法線応力差は式1に従って回復性ずり変形を計算するために使用される。
【0039】
ずり粘度は、Physica MCR 301 Modular Compact Rheometerで測定される。図3aおよび図3bは、表2の配合物のずり粘度を示す。
【0040】
ブルックフィールド粘度はずり粘度のもう1つの表現である。ブルックフィールド粘度は、ブルックフィールドRVT粘度計(ブルックフィールド・エンジニアリング・ラボラトリーズ社(Brookfield Engineering Laboratories, Inc.)(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ストートン(Stoughton))から入手可能)を使用して測定される。粘度を測定するために、600mLの試料を1000mLのビーカーの中に注ぎ、そして異なる速度が明記されない限り、100rpmの主軸速度で25℃で粘度を測定する。
【0041】
次の試験は、高さ約300mmの自由落下カーテンを形成するスライド多層流し塗り機型で行なう。高さ300mmの耳端案内は、自由落下カーテンの幅を一定に保つために使用される。流し塗り機のスライドは幅が280mmである。種々の耳端案内流体が、耳端に沿うカーテンの安定性を改善するために、1つの耳端案内要素につき20mL/分の流速で耳端案内に沿って供給される。
【0042】
耳端案内流体によってカーテン耳端の安定性がどのように変わるか調べるために、カーテン安定性試験を行なった。表1に液体塗料の組成および特性を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(1) HYDROCARB(登録商標)90: 炭酸カルシウムの水分散液、90%粒径<2μm、固形分78%(プルース・シュタウファー社(Pluess-Stauffer)(スイス国オフトリンゲン(Oftringen))から入手可能)
(2) AMAZON+: 微細ブラジリアン粘土(Brazilian clay)の水分散液、99%粒径<2μm(カオリン・インターナショナル社(Kaolin International)(オランダ)から入手可能)
(3) DL 966: カルボキシル基が導入されたスチレン・ブタジエンラテックス、水中固形分50%(ダウ・ケミカル社(アメリカ合衆国ミシガン州ミッドランド)から入手可能)
(4) MOWIOL(登録商標)6/98: 低分子量合成繊維ポリビニルアルコール、固形分23%の溶液(クラレ・スペシャルティーズ・ヨーロッパ社(Kuraray Specialties Europe)(ドイツ国フランクフルト)から入手可能)
(5) TINOPAL ABP/Z: 蛍光増白剤、ジアミノスチルベン二スルホン酸誘導体(チバ・スペシャルティーズ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Inc.)、(スイス国バーゼル)から入手可能)
(6) AEROSOL OT: ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムの水溶液、固形分75%(アメリカン・サイアナミッド社(American Cyanamid Company)(アメリカ合衆国ニュージャージー州ウェイン)から入手可能)
【0045】
表2に、試験した耳端案内流体の組成および特性を示す。
【0046】
【表2】

【0047】
F0*は添加剤を含まない純水を使用。
F2〜F8*は次のポリマーの水溶液を使用。
F2: STEROCOLL BLはMwが約10,000,000のアクリルアミド/アクリル酸共重合体(バスフ社(BASF AG)(ドイツ国ルートウィックスハーフェン(Ludwigshafen))から入手可能)である。
F3: POLYOX WSR 80はMwが約200,000のポリエチレンオキシド(ダウ・ケミカル社(アメリカ合衆国ミッドランド)から入手可能)である。
F4: POLYOX WSR 1105はMwが約900,000のポリエチレンオキシド(ダウ・ケミカル社(アメリカ合衆国ミッドランド)から入手可能)である。
F5、F6: POLYOX WSR 303はMwが約8,000,000のポリエチレンオキシド(ダウ・ケミカル社(アメリカ合衆国ミッドランド)から入手可能)である。
F7*、F8*: MOWIOL 20−98は、ポリビニルアルコール(クラレ・スペシャルティーズ・ヨーロッパ社(Kuraray Specialties Europe)(ドイツ国フランクフルト)から入手可能)であり、増粘剤として一般に使用されている。
【0048】
試験は次のように行なわれる。安定したカーテン状態から始めて、カーテンが耳端案内から裂けて離れるまで、液体塗料の体積流量を減らしていき、対応する流量をQEdとして記録する。体積流量はすべて、1秒当たりカーテン幅の1cm当たりの塗布液体のmL(mL/cm・s)で報告される。
【0049】
比較例F0*は、耳端案内潤滑のために一般に使用される純水を用いる。純水の場合、QEd=1.87mL/cm・s。図2は、最小塗布量を塗布速度の関数として示し、上の方の曲線は流量1.87mL/cm・sの場合を示す。200〜600m/分の塗布速度では、最小の達成可能な塗布量は、板紙の塗布に関連する値(典型的には単層について12g/m2)より著しく大きい。約500m/分の下の塗布速度については、最小の達成可能な塗布量は、なお、多層に関連する25g/m2の値より大きい。
【0050】
比較例F7*およびF8*は耳端案内流体としてポリビニルアルコールを用いる。欧州特許出願公開第1023949号明細書もポリビニルアルコールを使用する。耳端案内流体の粘度が塗布液体の粘度の2〜4倍であることを必要とする好ましい実施態様に従って欧州特許出願公開第1023949号明細書の教示を再現しようとすれば、これは1300〜2600mPa・sの耳端案内流体の粘度を与えるであろう。これらは非常に高い値であり、そのような高い粘度の液体は、きっと塗布液体と耳端案内の間の潤滑剤としての役割をしないであろう。したがって、合理的な粘度を有するポリビニルアルコール溶液を代わりに使用した。濃度に関係なく、耳端安定性は水のみの場合よりも実際に悪い。塗布液体の体積流量が2.9mL/cm・sの場合でさえ、カーテン耳端は不安定なままである。試験された非常に低い濃度においては、耳端案内流体に非常に高い分子量のポリマーを使用した実施例F2、F5およびF6は、もっとも低いQEdの値を示す。
【0051】
実施例F6では、QEd=0.56mL/cm・sであり、これは純水に比べ1/3よりもっと小さいことを意味する。図2は、最小塗布量を塗布速度の関数として示し、下の方の曲線は流量0.56mL/cm・sの場合を示す。そのような耳端案内流体では、350m/分を超えるいかなる速度でも12g/m2の塗布量を達成することができ、そして200m/分を超えるいかなる速度でも25g/m2の塗布量を達成することができることが明らかである。カーテン耳端の安定性は非常に改善される。流し塗りの塗布質量−塗布速度操作窓は、それが今や板紙の塗布の塗布質量−塗布速度スペクトルを含む範囲まで広げられる。
【0052】
試験された0.05%の濃度においては、実施例F3およびF4で使用されたより低分子量のポリマーはより小さいが、さらに著しい耳端安定性の改善を与える。
【0053】
図3aおよび図3bは、実施例F2〜F8*で使用された耳端案内流体のずり粘度を剪断速度の関数として示す。図4aおよび図4bは、実施例F2〜F8*で使用された耳端案内流体の回復性ずり変形を剪断速度の関数として示す。図4を表2に示される最小流量の値と比較すると、最小流量の低い値は耳端案内流体の回復性ずり変形の高価値と関連すること、すなわちポリマー溶液の弾性はカーテン耳端安定性の改善に関与していることが明らかである。さらに、耳端案内流体のずり粘度の増加が耳端安定性を改善しないことは、図3と表2の比較から導き出せる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体塗料の少なくとも1つの層で支持体を流し塗りする方法であって、該方法は、
塗布帯域を通る進路に沿って支持体を移動させること、
該進路に対して横に広がりかつ移動する支持体の上にぶつかる自由落下カーテンの形をした1つまたはそれ以上の液体塗料を供給すること、
耳端案内要素によって自由落下カーテンを横方向に案内すること、
自由落下カーテンおよび耳端案内要素に接する耳端案内流体を供給すること
を含み、
耳端案内流体が、コーンプレートレオメーターによって測定したときに10,000s-1の剪断速度において少なくとも2の回復性ずり変形を有する弾性液体であり、そして有機ポリマーの水溶液を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
弾性液体が、コーンプレートレオメーターによって測定したときに、10,000s-1の剪断速度において少なくとも5の回復性ずり変形を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
弾性液体が、コーンプレートレオメーターによって測定したときに、10,000s-1の剪断速度において少なくとも10の回復性ずり変形を有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
有機ポリマーが少なくとも200,000の質量平均分子量を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水溶液中の有機ポリマーの濃度が0.01〜2質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
有機ポリマーが、ポリアルキレンオキシドおよびアクリルアミド/アクリル酸共重合体から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
100rpmおよび25℃において測定した耳端案内流体のブルックフィールド粘度が液体塗料のブルックフィールド粘度より低いことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
100rpmおよび25℃において測定した耳端案内流体のブルックフィールド粘度が100mPa・s以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
100rpmおよび25℃において測定した耳端案内流体のブルックフィールド粘度が50mPa・s以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−513026(P2010−513026A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543080(P2009−543080)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/087203
【国際公開番号】WO2008/076743
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】