説明

耳鳴における認知障害を治療するための1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体

本発明は、個体に有効量の1−アミノアルキルシクロヘキサン誘導体を投与することを含む、耳鳴に伴う認知障害のある個体の治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体に有効量の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体を投与することを含む、耳鳴に伴う認知障害のある個体の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、耳鳴に伴う認知障害のある患者の治療方法に関する。
【0003】
耳鳴は、一般に、「耳鳴り」(外部の音響信号発生源がないのに音として知覚されるもの)と呼ばれる。耳鳴りは、「対応する蝸牛内の機械的振動活動がなく、もっぱら神経系内の活動に起因する音の知覚、即ち、幻聴としての耳鳴」と定義されてきた(非特許文献1)。
【0004】
自覚的耳鳴の病態生態学はあまりよく理解されておらず、耳鳴の決定的な病因は不明である。多くの環境要因および物質誘発要因によって耳鳴が起こる可能性がある。最もよく挙げられる要因は、急性音響外傷、職場騒音、および娯楽音楽である。一般に、耳鳴は聴覚路内の神経機能障害の結果であると思われる。この機能障害は、高次聴覚中枢により誤って音として知覚され、聴覚神経系内の機能的変化を引き起こす可能性がある。皮質構造の不適応機能変化により、興奮性神経伝達と抑制性神経伝達のバランスの変化が起こる可能性があり、耳鳴が重症化することがある。いずれの場合も、聴覚路および聴覚皮質で起こり得る機能不全は、前前頭皮質および大脳辺縁系の活動に関連する。
【0005】
ほとんどの場合(95%)、知覚される耳鳴は、本質的に全く自覚的なものであり、例えば、物理的な音響信号発生源は確認できず、従って、外部から聴取できない。身体検査は、他覚的耳鳴(例えば、患者の音の知覚は実在する音波源によって起こる、例えば、血管中の乱流による音が蝸牛に到達する)を除外するように実施される。耳鳴は、耳鳴の持続時間および耳鳴の発現度(例えば、耳鳴の重症度または不快感)によって分類することができる(非特許文献2および非特許文献3)。耳鳴の影響に関して、耳鳴は患者にとって非常に不快なことがあり、社会的および生理学的問題を伴うことがある。
【0006】
耳鳴患者は、一般に、認知機能障害を訴え、公表された有病率は90%までに及ぶ(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。耳鳴患者には、集中、注意、作動記憶、およびエピソード記憶などの認知機能(非特許文献5)の障害が見られると報告された。重症の場合、耳鳴は、全体的な注意力の低下を伴うことがあり、患者は耳鳴の重症化を報告する。逆に、集中および/または注意などの認知機能が改善した場合、多くの耳鳴患者は耳鳴の重症度の軽減を報告する(非特許文献7)。
【0007】
このような知見から、耳鳴に伴う認知障害の治療の重要性が強調される。現在まで、耳鳴における認知機能障害を治療するための特別な治療法はない。患者の一部では、音響発生器またはマスキング装置などの装置によって耳鳴がある程度軽減し、認知が僅かに改善することもある。耳鳴や耳鳴に関連する症状の治療に催眠薬、抗不安薬、抗うつ薬などの薬物を使用することもあるが、これらの多くの物質(ベンゾジアゼピン類の抗不安薬など)は、耳鳴における認知機能障害を悪化させることがある。耳鳴患者の耳鳴と認知障害の両方を治療するための療法は認可されていない。従って、耳鳴に伴う認知障害の治療に有効な医薬品が必要とされている。
【0008】
ネラメキサン(1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサンとしても知られている)などの1−アミノ−アルキルシクロへキサンは、様々な疾患の療法に、とりわけ、アルツハイマー病および神経因性疼痛を含むある一定の神経疾患の療法に有用であることが分かった。ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロへキサンは、特許文献1および特許文献2に詳細に開示されており、この特許の内容は参照により本明細書に援用される。ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロへキサンの治療作用は、神経細胞のN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体における過剰なグルタメートの作用の抑制に関連するものと考えられ、この理由で、それらの化合物は、NMDAアンタゴニストまたはNMDA受容体アンタゴニストとしても分類される。ネラメキサンは、また、α9/α10ニコチン受容体アンタゴニストとしての活性を示すことが開示されている(非特許文献8)。
【0009】
特許文献1に、1−アミノ−アルキルシクロへキサンは、NMDA受容体アンタゴニストとしての活性があるため、耳鳴の治療に有用な可能性があることが開示されている。
【0010】
本発明者らは、ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロへキサンが耳鳴に伴う認知障害の治療に有効であることを発見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,034,134号明細書
【特許文献2】米国特許第6,071,966号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0002999号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0198884号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0141148号明細書
【特許文献6】米国特許第5,814,344号明細書
【特許文献7】米国特許第5,100,669号明細書
【特許文献8】米国特許第4,849,222号明細書
【特許文献9】PCT国際公開第95/11010号パンフレット
【特許文献10】PCT国際公開第93/07861号パンフレット
【特許文献11】PCT国際出願第PCT/US2004/037026号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Jastreboff et al.,J Am Acad Audiol 2000;11(3):162−177
【非特許文献2】McCombe et al.,Clin Otolaryngol 2001;26(5):388−393
【非特許文献3】Davis et al.,Epidemiology of Tinnitus.In:Tyler R,editor.Tinnitus Handbook.San Diego:Singular Publishing Group;2000.p.1−23
【非特許文献4】Hallam et al.,Int J Audiol.2004 Apr;43(4):218−26
【非特許文献5】Rossiter et al.,Speech Lang Hear Res.2006 Feb;49(1):150−60
【非特許文献6】Andersson et al.,Acta Otolaryngol Suppl.2006 Dec;(556):39−43
【非特許文献7】Zenner,Otolaryngol Pol.2006;60(4):485−9
【非特許文献8】Plazas,et al.,Eur J Pharmacol.,2007 Jul2;566(1−3):11−19
【非特許文献9】“Remington’s Pharmaceutical Sciences”by A.R.Gennaro,20th Edition
【非特許文献10】Newman CW,et al.,Development of the Tinnitus Handicap Inventory.Arch Otolaryngol Head Neck Surg 1996;122(2):143−148
【非特許文献11】Newman CW,et al.,Psychometric adequacy of the Tinnitus Handicap Inventory(THI)for evaluating treatment outcome.J Am Acad Audiol 1998;9(2):153−160.
【非特許文献12】Greimel KV et al.,Tinnitus−Beeintraechtigungs−Fragebogen(TBF−12).Manual.Frankfurt am Main:Swets&Zeitlinger B.V.;2000
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、治療または予防を必要とする対象の耳鳴に伴う認知障害を治療または予防する方法に関し、本方法は、その個体に有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を投与することを含む。
【0014】
本発明の別の態様は、治療または予防を必要とする対象の耳鳴に伴う認知障害を治療または予防する方法に関し、本方法は、その個体に有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を投与することを含み、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))は1日当たり約5mg〜約150mgの範囲(1日当たり約5mg〜約100mg、および1日当たり約5mg〜約75mgを含む)で投与されるか、または、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))は1日当たり約50mg、もしくは1日当たり約75mg投与される。
【0015】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を1日1回、1日2回(b.i.d.)または1日3回投与するこのような方法に関する。
【0016】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を1日2回(b.i.d.)投与するこのような方法に関する。
【0017】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を即効型製剤として投与するこのような方法に関する。
【0018】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を放出調節製剤として投与するこのような方法に関する。
【0019】
本発明の別の態様は、治療または予防を必要とする対象の耳鳴に伴う認知障害を治療または予防する方法に関し、本方法は、その個体に有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と、認知障害の治療または予防に有効であることが分かっている他の薬剤を投与することを含む。
【0020】
本発明の別の態様は、治療または予防を必要とする対象の耳鳴に伴う認知障害を治療または予防する方法に関し、本方法は、その個体に有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータおよびα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータから選択される他の薬剤を投与することを含む。
【0021】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と他の薬剤(例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータまたはα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータ)を共同的に(conjointly)投与するこのような方法に関する。
【0022】
本発明の他の形態は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と他の薬剤(例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータまたはα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータ)を単一の製剤として投与するこのような方法に関する。
【0023】
本発明の別の態様は、治療または予防を必要とする対象の耳鳴に伴う認知障害の治療または予防に関し、本治療または予防は、その個体に1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を投与することを含み、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))は、有効用量に迅速且つ安全に到達させる用量調節方式(titration scheme)で投与される。
【0024】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を、第1週は1日当たり25mgの用量で1日1回、第2週は1日当たり50mgの用量で1日1回、および、任意選択的に、第3週は1日当たり75mgの用量で1日1回のスケジュールに従って投与する、このような用量調節方式に関する。
【0025】
本発明の別の態様は、4週間にわたってネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩を増量し、1日当たり50mgの有効用量に到達させることを含む、このような用量調節方式に関する。
【0026】
本発明の別の態様は、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩を、第1週は1日当たり12.5mgの用量で1日1回、第2週は各用量12.5mgで1日2回、第3週は一方の用量が12.5mg、他方の用量が25mgで1日2回、第4週は各用量25mgで1日2回のスケジュールに従って投与する、このような用量調節方式に関する。
【0027】
本発明の別の態様は、5週間にわたってネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩を増量し、1日当たり75mgの有効用量に到達させることを含む、このような用量調節方式に関する。
【0028】
本発明の別の態様は、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩を、第1週は1日当たり12.5mgの用量で1日1回、第2週は各用量12.5mgで1日2回、第3週は一方の用量が12.5mg、他方の用量が25mgで1日2回、第4週は各用量25mgで1日2回、第5週は各用量37.5mgで1日2回のスケジュールに従って投与する、このような用量調節方式に関する。
【0029】
本発明の別の態様は、耳鳴に伴う認知障害を治療または予防するための、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))に関する。
【0030】
本発明の別の態様は、耳鳴に伴う認知障害を治療または予防するための医薬を製造するための、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))の使用に関する。
【0031】
本発明の別の態様は、ネラメキサンメシレートを約5mg/日〜約25mg/日の範囲で投与する、もしくはネラメキサンメシレートを約5mg/日〜約100mg/日の範囲で投与する、もしくはネラメキサンメシレートを約5mg/日〜約75mg/日の範囲で投与する、もしくはネラメキサンメシレートを約50mg/日で投与する、もしくはネラメキサンメシレートを約75mg/日で投与する、前述の誘導体または使用に関する。
【0032】
本発明の別の態様は、ネラメキサンもしくはその薬学的に許容される塩を1日1回、1日2回(b.i.d.)もしくは1日3回投与する、前述の誘導体または使用に関する。
【0033】
本発明の別の態様は、ネラメキサンもしくはその薬学的に許容される塩を即効型製剤もしくは放出調節製剤として投与する、前述の誘導体または使用に関する。
【0034】
本発明の別の態様は、認知障害の治療もしくは予防に有効であることが分かっている他の薬剤を投与する、前述の誘導体または使用に関する。
【0035】
本発明の別の態様は、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータおよびα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータから選択される他の薬剤を投与する、前述の誘導体または使用に関する。
【0036】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と他の薬剤(例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータまたはα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータ)を共同的に投与 する、前述の誘導体または使用に関する。
【0037】
本発明の別の態様は、1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と他の薬剤(例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータまたはα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータ)を単一の製剤として投与する、前述の誘導体または使用に関する。
【0038】
本発明の別の態様は、治療有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と、任意選択的に少なくとも1種類の薬学的に許容される担体または添加物を含む、耳鳴に伴う認知障害を治療または予防するための医薬組成物に関する。
【0039】
本発明の別の態様は、即効型製剤または放出調節製剤中に治療有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を含む、耳鳴に伴う認知障害を治療または予防するための医薬組成物に関する。
【0040】
本発明の別の態様は、治療または予防を必要とする対象の耳鳴に伴う認知障害の治療または予防に関し、本治療または予防は、その個体に1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と、認知障害の治療に有効であることが分かっている少なくとも1種類の他の薬剤を投与することを含む。
【0041】
本発明の別の態様は、治療または予防を必要とする対象の耳鳴に伴う認知障害の治療または予防に関し、本治療または予防は、その個体に1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))と、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータおよびα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータから選択される少なくとも1種類の他の薬剤を投与することを含む。
【0042】
本発明の別の態様は、治療有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を、認知障害の治療または予防に有効であることが分かっている少なくとも1種類の他の薬剤、および任意選択的に少なくとも1種類の薬学的に許容される担体または添加物と組み合わせて含む医薬組成物に関する。
【0043】
本発明の別の態様は、治療有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩(ネラメキサンメシレートなど))を、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータおよびα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータから選択される少なくとも1種類の他の薬剤と組み合わせて含む医薬組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書で使用する場合、耳鳴という用語は、自覚的耳鳴および他覚的耳鳴、並びに急性型、亜急性型および慢性型の全ての発現を含む。
【0045】
本明細書で使用する場合、認知障害という用語は、認知または認知機能の原発性および/または続発性の機能障害を含む。
【0046】
本明細書で使用する場合、認知または認知機能という用語は、認識(意識を含む)および判断の行為または過程を表し、集中力、注意の集中性、学習および/または記憶を含む。認知機能という用語は、また、注意、作動記憶およびエピソード記憶を含む。認知は、学習し情報を記憶する能力:系統立て、計画し、問題解決する能力;集中し、維持し、必要に応じて注意を向ける能力;言語を理解し使用する能力;周囲の状況を正確に把握したり、計算を行う能力を含む、様々な高次の脳機構を指す。
【0047】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、動物およびヒトを含む哺乳類を包含する。
【0048】
1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体という用語は、本明細書では、1−アミノ−アルキルシクロへキサンまたは1−アミノ−アルキルシクロへキサンから誘導された化合物、例えば、1−アミノ−アルキルシクロへキサンの薬学的に許容される塩を表すのに使用される。
【0049】
本発明の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体は、一般式(I):
【化1】

[式中、Rは、−(CH−(CR−NRであり、
n+m=0、1または2であり、
〜Rは、独立して水素およびC1〜6アルキルからなる群から選択され、RおよびRは、独立して水素およびC1〜6アルキルからなる群から選択されるかまたは一緒に低級アルキレン−(CH−(式中、xは2〜5(2および5を含む)である)を表す]
並びに、その光学異性体、鏡像異性体、水和物、および薬学的に許容される塩
で表すことができる。
【0050】
本発明に従って使用される1−アミノ−アルキルシクロへキサンの非限定例としては:
1−アミノ−1,3,5−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1(トランス),3(トランス),5−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1(シス),3(シス),5−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3,3,5−テトラメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサン(ネラメキサン)、
1−アミノ−1,3,5,5−テトラメチル−3−エチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,5,5−トリメチル−3,3−ジエチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,5,5−トリメチル−シス−3−エチルシクロへキサン、
1−アミノ−(1S,5S)シス−3−エチル−1,5,5−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,5,5−トリメチル−トランス−3−エチルシクロへキサン、
1−アミノ−(1R,5S)トランス−3−エチル−1,5,5−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1−エチル−3,3,5,5−テトラメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1−プロピル−3,3,5,5−テトラメチルシクロへキサン、
N−メチル−1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサン、
N−エチル−1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチル−シクロへキサン、
N−(1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキシル)ピロリジン、
3,3,5,5−テトラメチルシクロへキシルメチルアミン、
1−アミノ−1−プロピル−3,3,5,5−テトラメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3,5,5(トランス)−テトラメチルシクロへキサン(アキシアルアミノ基)、
3−プロピル−1,3,5,5−テトラメチルシクロへキシルアミン1/2水和物、
1−アミノ−1,3,5,5−テトラメチル−3−エチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3,5−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3−ジメチル−3−プロピルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3(トランス),5(トランス)−トリメチル−3(シス)−プロピルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3−ジメチル−3−エチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロへキサン、
シス−3−エチル−1(トランス)−3(トランス)−5−トリメチルシクロへキサミン、
1−アミノ−1,3(トランス)−ジメチルシクロへキサン、
1,3,3−トリメチル−5,5−ジプロピルシクロへキシルアミン、
1−アミノ−1−メチル−3(トランス)−プロピルシクロへキサン、
1−メチル−3(シス)−プロピルシクロへキシルアミン、
1−アミノ−1−メチル−3(トランス)−エチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3,3−トリメチル−5(シス)−エチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3,3−トリメチル−5(トランス)−エチルシクロへキサン、
シス−3−プロピル−1,5,5−トリメチルシクロへキシルアミン、
トランス−3−プロピル−1,5,5−トリメチルシクロへキシルアミン、
N−エチル−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキシルアミン、
N−メチル−1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1−メチルシクロへキサン、
N,N−ジメチル−1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサン、
2−(3,3,5,5−テトラメチルシクロへキシル)エチルアミン、
2−メチル−1−(3,3,5,5−テトラメチルシクロへキシル)プロピル−2−アミン、
2−(1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキシル)−エチルアミン1/2水和物、
N−(1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキシル)−ピロリジン、
1−アミノ−1,3(トランス),5(トランス)−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,3(シス),5(シス)−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−(1R,5S)トランス−5−エチル−1,3,3−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−(1S,5S)シス−5−エチル−1,3,3−トリメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,5,5−トリメチル−3(シス)−イソプロピル−シクロへキサン、
1−アミノ−1,5,5−トリメチル−3(トランス)−イソプロピル−シクロへキサン、
1−アミノ−1−メチル−3(シス)−エチル−シクロへキサン、
1−アミノ−1−メチル−3(シス)−メチル−シクロへキサン、
1−アミノ−5,5−ジエチル−1,3,3−トリメチル−シクロへキサン、
1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサン、
1−アミノ−1,5,5−トリメチル−3,3−ジエチルシクロへキサン、
1−アミノ−1−エチル−3,3,5,5−テトラメチルシクロへキサン、
N−エチル−1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサン、
N−(1,3,5−トリメチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−[1,3(トランス),5(トランス)−トリメチルシクロへキシル]ピロリジンまたはピペリジン、
N−[1,3(シス),5(シス)−トリメチルシクロへキシル]ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1,3,3,5−テトラメチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1,3,5,5−テトラメチル−3−エチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1,5,5−トリメチル−3,3−ジエチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1,3,3−トリメチル−シス−5−エチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−[(1S,5S)シス−5−エチル−1,3,3−トリメチルシクロへキシル]ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1,3,3−トリメチル−トランス−5−エチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−[(1R,5S)トランス−5−エチル,3,3−トリメチルシクロへキシル]ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1−エチル−3,3,5,5−テトラメチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1−プロピル−3,3,5,5−テトラメチルシクロへキシル)ピロリジンまたはピペリジン、
N−(1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキシル)ピロリジン、
並びに、光学異性体、ジアステレオマー、鏡像異性体、水和物、その薬学的に許容される塩、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサン、1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロへキサン)は、特許文献1および特許文献2に開示されている。1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)は、本発明に従って、薬学的に許容される塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、およびプロドラッグのいずれかの形態で使用されてもよく、本明細書において1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)に言及する場合、それらはいずれも、このような塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、およびプロドラッグにも言及しているものと理解すべきである。
【0052】
本明細書で使用する場合、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータという用語は、α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)サブタイプに選択的なニコチン性アゴニストおよび/またはα4β4(nAChR)サブタイプに選択的なニコチン性アゴニスト、例えば、イスプロニクリン(TC−1734)、TC−6499、バレニクリン、ABT−089、およびこれらの薬学的に許容される塩などを含む。
【0053】
本明細書で使用する場合、α−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータという用語は、L−655708、L−792782、およびこれらの薬学的に許容される塩などの化合物を含む。
【0054】
薬学的に許容される塩としては、塩酸、メチルスルホン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、炭酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、2−フェノキシ安息香酸、および2−アセトキシ安息香酸で生成するものなどの酸付加塩が挙げられるが、これらに限定されない。これらの塩(または他の類似の塩)は全て、従来の手段で調製することができる。塩の性質は、それが非毒性であり、所望の薬理活性を実質的に阻害しない限り、重要ではない。
【0055】
「類似体」または「誘導体」という用語は、本明細書では従来の薬学的意味で使用され、基準分子(ネラメキサンなど)に構造的に類似しているが、基準分子の1つ以上の特定の置換基を代替の置換基で置換し、それによって基準分子に構造的に類似した分子が生成するように、的確な制御された方法で変性された分子を指す。既知の化合物の僅かに変性した形態は、改善されたまたは偏った特性を有する(特定のタイプの標的受容体における有効性および/または選択性が比較的高い、哺乳類の血液脳関門を通過する能力が比較的大きい、副作用が比較的少ない等)ことがあり、これらを識別するための類似体の合成およびスクリーニング(例えば、構造解析および/または生化学分析を使用する)は、製薬化学で周知のドラッグデザイン法である。
【0056】
「治療」という用語は、本明細書では、対象の疾患の少なくとも1つの症状を軽減または緩和することを意味するのに使用される。本発明の目的において、「治療」という用語は、発症(即ち、疾患の臨床的発現の前の期間)を抑え、遅らせる、および/または疾患が進行または悪化するリスクを減少させることも意味する。
【0057】
用量または量に使用される「治療有効」という用語は、必要とする哺乳類への投与時に所望の活性が得られるのに十分な化合物または医薬組成物の量を指す。
【0058】
「薬学的に許容される」の句は、本発明の組成物に関して使用される場合、哺乳類(例えば、ヒト)に投与したとき、このような組成物の分子成分および他の成分が生理学的に認容され、典型的には、有害反応を生じないことを指す。「薬学的に許容される」という用語は、また、哺乳類、特にヒトでの使用に関して、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって認可されていること、または、米国薬局方もしくは他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味することもある。
【0059】
本発明の医薬組成物に使用される「担体」という用語は、希釈剤、添加物、または媒体を指し、活性化合物(例えば、ネラメキサン)はこれと一緒に投与される。このような医薬担体は、水、食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、および、油(石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、およびゴマ油等を含む)などの滅菌液体であってもよい。適した医薬担体は、非特許文献9に記載されている。
【0060】
「約」または「およそ」という用語は、通常、所与の値または範囲の20%以内、あるいは10%以内(5%以内を含む)を意味する。あるいは、とりわけ生物学系では、「約」という用語は、所与の値の約1log(即ち、1桁)以内(2倍以内を含む)であることを意味する。
【0061】
本発明の方法に関して、治療有効量の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)を含む医薬組成物も提供される。本発明の組成物は、更に、担体または添加物(全て薬学的に許容されるもの)を含んでもよい。組成物は、1日1回投与、1日2回投与、または1日3回投与されるように製剤化されてもよい。
【0062】
本発明の有効成分(例えば、ネラメキサンメシレートなどのネラメキサン)または組成物は、前述の疾患の少なくとも1つの治療に使用されてもよく、医薬は、本明細書に開示されているような特定の投与(例えば、1日1回投与、1日2回投与、または1日3回投与)に合わせて製造されるか、またはそのために適切に調製される。この目的で、対応する情報を包装の添付文書および/または患者情報に記載する。
【0063】
本発明の有効成分(例えば、ネラメキサンメシレートなどのネラメキサン)または、組成物は、前述の疾患の少なくとも1つを治療するための医薬の製造に使用されてもよく、医薬は、本明細書に開示されているような特定の投与(例えば、1日1回投与、1日2回投与、または1日3回投与)に合わせて製造されるか、またはそのために適切に調製される。この目的で、対応する情報を包装の添付文書および/または患者情報に記載する。
【0064】
本発明に従って、1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)の剤形は、以下による固形製剤、半固形製剤、または液体製剤であってもよい。
【0065】
本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)は、薬学的に許容される従来の非毒性担体を含有する投与単位製剤で経口投与、局所投与、非経口投与、または経粘膜投与(例えば、経口腔粘膜投与、吸入投与、または直腸投与)されてもよい。小児科対象に投与される別の実施形態では、1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体はフレーバー付き液体(例えば、ペパーミントフレーバー)として製剤化されてもよい。本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体は、カプセルもしくは錠剤等の形態で、または、半固形もしくは液体製剤として経口投与されてもよい(非特許文献9を参照されたい)。
【0066】
錠剤またはカプセルの形態で経口投与されるように、本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)を、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、並びに他の還元糖および非還元糖、微結晶セルロース、硫酸カルシウム、またはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ、ステアリン酸、ステアリルフマル酸ナトリウム、ベヘン酸グリセリル、およびステアリン酸カルシウム等);崩壊剤(例えば、バレイショデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、着色剤および香味剤、ゼラチン、甘味料、天然および合成のガム類(アラビアゴム、トラガカント、またはアルギネートなど)、緩衝塩、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、およびワックス等の薬学的に許容される非毒性の添加物と組み合わせてもよい。
【0067】
例えば、アラビアゴム、ゼラチン、タルク、および二酸化チタン等を含有し得る濃縮糖液で錠剤をコーティングしてもよい。あるいは、易揮発性有機溶媒または有機溶媒の混合物に溶解するポリマーで錠剤をコーティングしてもよい。特定の実施形態では、ネラメキサンは、即効型(IR)錠剤または放出調節(MR)錠剤に製剤化される。即効型固形剤形は、60分以下などの短時間で有効成分を大部分または全部放出することができ、薬物の迅速な吸収を可能にする(ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロヘキサンの即効型製剤は、特許文献3および特許文献4に開示されており、その内容は参照により本明細書に援用される)。放出調節固形経口剤形は、長時間にわたって有効成分を持続放出し、同様の長時間にわたって治療に有効な血漿中濃度を維持できるようにする、および/または、有効成分の他の薬物動態学的特性を調整できるようにする(ネラメキサンの放出調節製剤は、特許文献5に開示されており、その内容は参照により本明細書に援用される)。例えば、ネラメキサンメシレートの用量が50mgとなるように、ネラメキサンメシレートを放出調節剤形(放出調節錠剤を含む)に製剤化してもよい。
【0068】
軟ゼラチンカプセルの製剤では、本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)を、例えば、植物油またはポリエチレングリコールと混合してもよい。錠剤用の前述の添加物、例えば、乳糖、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン(例えば、バレイショデンプン、コーンスターチ、またはアミロペクチン)、セルロース誘導体、またはゼラチンを使用して、硬ゼラチンカプセルに活性物質の顆粒を収容してもよい。また、薬物の液体または半固体を硬ゼラチンカプセルに充填してもよい。
【0069】
また、本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)を、例えば、ポリグリコール酸/乳酸(PGLA)から製造されるマイクロスフェアまたはマイクロカプセルに導入してもよい(例えば、特許文献6;特許文献7、および特許文献8;特許文献9および特許文献10を参照されたい)。薬物の放出制御を達成するのに生体適合性ポリマーを使用してもよく、生体適合性ポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリヒドロピラン(polyhydropyrans)、ポリシアノアクリレート、および、ヒドロゲルの架橋または両親媒性ブロック共重合体が挙げられる。
【0070】
また、半固形または液体の形態の本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体の製剤を使用してもよい。1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)は、製剤の0.1〜99重量%を構成してもよく、より具体的には、注射用の製剤では0.5〜20重量%、経口投与に適した製剤では0.2〜50重量%を構成してもよい。
【0071】
本発明の一実施形態では、1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)は、放出調節製剤として投与される。放出調節剤形は、患者のコンプライアンスを改善し、薬物の有害反応の発生率を減少させることによって有効且つ安全な療法を確実なものにする手段を提供する。即効型剤形と比較して、放出調節剤形を使用すると、投与後の薬理作用を長時間持続させることができ、また、投与間隔全体にわたる薬物の血漿中濃度のばらつきを低減することにより鋭いピークをなくすまたは低減することができる。
【0072】
放出調節剤形は、薬物でコーティングされたコアまたは薬物を含有するコアを含んでもよい。その場合、コアは放出調節ポリマーでコーティングされており、その中に薬物が分散されている。放出調節ポリマーは、徐々に崩壊し、経時的に薬物を放出する。従って、組成物が水性環境、即ち、胃腸管に曝されたとき、組成物の最外層は、コーティング層全体で薬物の拡散速度を効果的に低下させ、それによって拡散を調整する。薬物の拡散の実速度は、主に、胃液がコーティング層またはマトリックスに浸透する能力および薬物自体の溶解度に依存する。
【0073】
本発明の別の実施形態では、1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)は、経口液体製剤に製剤化される。経口投与用の液体製剤は、例えば、液剤、シロップ、乳剤もしくは懸濁剤の形態を取ってもよく、または、それらは使用前に水もしくは他の適した媒体で戻される乾燥品として提供されてもよい。経口投与用の製剤は、活性化合物の放出を制御または延期するように適切に製剤化されてもよい。ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロヘキサンの経口液体製剤は、特許文献11に記載されており、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0074】
液体の形態で経口投与されるように、本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)を、薬学的に許容される非毒性の不活性担体(例えば、エタノール、グリセロール、水)、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂肪)、乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアゴム)、非水性媒体(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、または分別植物油)、および保存剤(例えば、メチルまたはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)等と組み合わせてもよい。また、剤形を安定化するために、酸化防止剤(BHA、BHT、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸)などの安定化剤を添加してもよい。例えば、液剤は、ネラメキサンを約0.2重量%〜約20重量%含有し、残部は、糖、および、エタノール、水、グリセロールおよびプロピレングリコールの混合物であってもよい。任意選択的に、このような液体製剤は、着色剤、香味剤、サッカリンおよびカルボキシメチルセルロース(増粘剤として)または他の添加物を含有してもよい。
【0075】
別の実施形態では、治療有効量の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)を、保存剤、甘味料、溶解補助剤、および溶剤を含有する経口液剤として投与する。経口液剤は、1種類以上の緩衝剤、香味料、または他の添加物を含んでもよい。別の実施形態では、ペパーミントまたは他の香味料をネラメキサン誘導体経口液体製剤に添加する。
【0076】
本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)は、吸入により投与されるように、適した噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適したガス)を使用して、加圧パックまたはネブライザからエアゾールスプレー剤の形態で好都合に送達されてもよい。加圧エアゾール剤の場合、定量を送達するための弁を設けることによって、投与単位を定めることができる。吸入器または注入器で使用されるカプセルおよびカートリッジ(例えば、ゼラチン製)は、当該化合物と乳糖またはデンプンなどの適した粉末基剤の粉末混合物を収容するように製剤化されてもよい。
【0077】
注射により非経口投与される液剤は、活性物質の薬学的に許容される水溶性塩の水溶液に、例えば、約0.5重量%〜約10重量%の濃度で調製されてもよい。これらの液剤は、また、溶解補助剤および/または緩衝剤を含有してもよく、様々な投与単位アンプルで好都合に提供されてもよい。
【0078】
本発明の製剤は非経口送達されてもよい、即ち、静脈内(i.v.)、脳室内(i.c.v.)、皮下(subcutaneous)(s.c.)、腹腔内(i.p.)、筋肉内(i.m.)、真皮下(subdermal)(s.d.)、または皮内(i.d.)投与により、直接注入により、例えば、ボーラス注射または連続注入により送達されてもよい。注射用製剤は、単位剤形で、例えば、アンプルまたは複数回投与容器で、保存剤を添加して提供されてもよい。あるいは、有効成分は、使用前に、適した媒体、例えば、パイロジェン非含有滅菌水で戻される粉末状であってもよい。
【0079】
本発明は、また、1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)、および、任意選択的に、他の製剤成分を収容する1つ以上の容器を含む医薬パックまたはキットも提供する。特定の実施形態では、ネラメキサンは、小さじ2杯の容量のシリンジ(dosage KORC(登録商標))を使用して投与される経口液剤(2mg/ml)として提供される。各経口用シリンジには、計量用の目盛りが付けられており、シリンジの右側の線(先端下向き)は小さじ単位を表し、左側のものはml単位を表す。
【0080】
至適治療有効量は、薬物を投与するその正確な投与方法、投与が適用される適応症、治療を受ける対象(例えば、体重、健康状態、年齢、性別など)、および主治医または主治獣医の好みや経験を考慮して、実験的に決定されてもよい。
【0081】
直腸投与される投与単位は、液剤もしくは懸濁剤であってもよく、または、中性脂肪基剤と混合されたネラメキサンを含む坐剤もしくは停留浣腸剤、もしくは、植物油もしくはパラフィン油と混合された活性物質を含むゼラチン直腸カプセルの形態に調製されてもよい。
【0082】
本発明の組成物の毒性および治療有効性は、実験動物における標準的な薬学的手順により、例えば、LD50(母集団の50%に致死的な用量)およびED50(母集団の50%で治療に有効な用量)を求めることにより決定されてもよい。治療効果と毒性作用の用量比が治療指数であり、これは、比LD50/ED50と表すことができる。治療指数の大きい組成物が好ましい。
【0083】
ヒトの治療における本発明の活性化合物の適切な1日量は、経口投与では約0.01〜10mg/kg(体重)であり、非経口投与では0.001〜10mg/kg(体重)である。例えば、成人では、ネラメキサン(例えば、ネラメキサンメシレート)の適切な1日量は、1日当たり約5mg〜約150mgの範囲内、例えば、約5mg〜約120mg、約5mg〜約100mg、または約5mg〜約75mg、または約5mg〜約50mg、例えば、1日当たり25mg、または37.5mg、または50mgである。例えば、1日量は、体重90kg以下では50mg/日、または体重≧90kgの患者では75mg/日のように、体重に応じて調節されてもよい。等モル量の別の薬学的に許容される塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグ、またはこれらの誘導体(ネラメキサン塩酸塩など)も適している。4〜14歳の小児科対象では、ネラメキサン(例えば、ネラメキサンメシレート)を経口液体剤形として約0.5mg/日から最大用量10mg/日まで投与してもよい。
【0084】
本明細書に示される1日量は、例えば、1投与単位または2投与単位として、1日1回、2回、または3回投与されてもよい。従って、投与単位当たりの適切な用量は、1日量を1日当たり投与される投与単位の数で分割した(例えば、等分した)ものであってもよく、従って、典型的には、1日量、またはその2分の1、3分の1、4分の1もしくは6分の1にほぼ等しくなる。従って、投与単位当たりの投与量は、本明細書に示す各1日量から算出することができる。例えば、1日量5mgは、選択された投与計画に応じて、投与単位当たり、例えば、約5mg、2.5mg、1.67mg、1.25mgおよび0.83mgの用量を投与するものと考えることができる。それに対応して、1日当たり150mgの投与量は、対応する投与計画では、投与単位当たり、例えば、約150mg、75mg、50mg、37.5mgおよび25mgの投与量に対応する。
【0085】
治療期間は、短期間、例えば、数週間(例えば、8〜14週間)であっても、または、主治医がそれ以上投与する必要がないと見なすまでの長期間であってもよい。
【0086】
本発明の1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体(例えば、ネラメキサン)は、単独療法として投与されても、または認知障害の治療のために処方される別の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。
【0087】
有効成分に使用される「組み合わせ」という用語は、本明細書では、2種類の有効成分を含む単一の医薬組成物(製剤)(例えば、ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体と認知障害の治療のために処方される別の薬剤を含む医薬組成物)、または、それぞれが1種類の有効成分を含む、共同的に投与 される2種類の別々の医薬組成物(例えば、ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体または認知障害の治療のために処方される別の薬剤を含む医薬組成物)を定義するのに使用される。
【0088】
本発明の目的では、「共同投与 (conjoint administration)」という用語は、ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体と第2の有効成分(例えば、認知障害の治療のために処方される別の薬剤)を同時に単一の組成物として、または、異なる組成物として同時にまたは逐次的に投与することを指すのに使用される。しかし、「共同(conjoint)」と見なされる逐次投与では、ネラメキサンなどの1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体と第2の有効成分は、哺乳類における耳鳴に伴う認知障害の治療に有益な効果がまだ得られる時間間隔で投与されなければならない。
【0089】
代表的製剤の例
一般に使用される溶剤、補助剤、および担体を使用して、有効成分を錠剤、コーティング錠、カプセル、点滴剤、坐剤、並びに、注射および注入剤等に加工してもよく、経口、直腸、非経口、および他の経路で治療に適用することができる。経口投与に適した錠剤は従来の製錠法で調製されてもよい。以下の例は、例証として記載されるに過ぎず、限定と解釈されるべきではない。
【0090】
製剤例1:ネラメキサンメシレート即効型錠剤
以下の表に、有効成分、コーティング剤、および他の添加物を含む、投与量12.5mg、25.0mg、37.5mg、および50.0mgのネラメキサン即効型錠剤の組成を記載する。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
以下の実施例は本発明を例証するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0096】
実施例1:耳鳴を治療するためのネラメキサンの二重盲検プラセボ対照パイロット試験
この試験計画の目的は、耳鳴の治療薬としてのネラメキサンの有効性を評価するための臨床試験を実施することであった。この試験の主たる目的は、少なくとも中程度の重症度の自覚的耳鳴を有する対象で、3種類の異なる投与量(25、50または75mg/日)におけるネラメキサンメシレートの有効性、忍容性、および安全性をプラセボと比較することであった。
【0097】
試験デザイン
二重盲検、多施設共同、無作為化、プラセボ対照、並行群間比較試験で、少なくとも中程度の重症度の耳鳴に罹患している対象におけるネラメキサンの有効性を評価した。特定の選択基準を満たし、特定の除外基準のいずれにも該当しない約100人の患者を4つの二重盲検治療群(ネラメキサンメシレート25、50、75mg/日またはプラセボ)のそれぞれに無作為に割り付け、患者は合計約400人となった。
【0098】
二重盲検の16週間の治療期間は、4週間の増量期間と、1日2回の維持投与を行う12週間の一定用量治療期間からなった。しかし、忍容性が低い場合、治験責任医師(investigator)は25mg/日(またはプラセボ、それぞれ)だけ用量減少を考慮することができた。この治療段階の後、積極的治療を行わず、並行療法を制限した4週間の経過観察期間をおいた。この試験には、合計で、スクリーニング、ベースライン、並びに、第4週、第8週、第12週、第16週、および第20週の終わりの7回の治験来院が含まれた。
【0099】
各患者の評価のために予定された来院は、次の通りであった。
【0100】
来院1(スクリーニング):被験者は、同意書に署名した後、身体検査と臨床検査試験を受けた。この試験に対する患者の適格性を、選択基準/除外基準を確認することによって評価した。初回耳鳴問診を行った。また、被験者は、耳鳴障害質問表(Tinnitus−Beeintraechtigungs−Fragebogen)(TBF−12)(即ち、25項目の耳鳴障害問診票(item Tinnitus Handicap Inventory)即ちTHI(非特許文献10;非特許文献11)の変更・認可された12項目のドイツ版)(非特許文献12)、病院不安およびうつ尺度−うつ下位尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale−Depression Subscale)(HADS−D)質問表、および聴覚過敏質問表(Geraeuschueberempfindlichkeit−Fragenbogen(GUEF))(該当する場合)に記入した。
【0101】
来院2(ベースライン):併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その事象/変化を記録した。選択基準/除外基準の再検討に基づき、被験者の試験適格性を評価した。被験者に関する試験手順並びに許容される併用薬と禁止される併用薬を再検討した。初回耳鳴問診を行った。被験者はまた、TBF−12、HADS−D質問表およびGUEF質問表(該当する場合)に記入した。被験者を試験に登録し、試験薬(プラセボまたはネラメキサン)を後述のように分配した。
【0102】
来院3(第4週):この来院は、4週間の増量期間の終わりに行った。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その事象/変化を記録した。経過観察耳鳴問診を行った。被験者はまた、TBF−12、HADS−D質問表およびGUEF質問表(該当する場合)に記入した。服薬コンプライアンスを評価し、次の4週間分の薬を後述のように分配した。
【0103】
来院4(第8週):この来院は、第1回目の4週間の一定用量二重盲検治療期間の終わりに行った。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その変化を記録した。投与前のネラメキサン濃度を測定するために、血液試料を採取した。経過観察耳鳴問診を行った。被験者はまた、TBF−12、HADS−D質問表およびGUEF質問表(該当する場合)に記入した。服薬コンプライアンスを評価し、次の4週間分の薬を後述のように分配した。
【0104】
来院5(第12週):この来院は、第2回目の4週間の一定用量二重盲検治療期間の終わりに行った。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その変化を記録した。経過観察耳鳴問診を行った。被験者はまた、TBF−12、HADS−D質問表およびGUEF質問表(該当する場合)に記入した。服薬コンプライアンスを評価し、次の4週間分の薬を後述のように分配した。
【0105】
来院6(第16週、治療の終わり):この来院は、12週間の一定用量二重盲検治療期間の終わりに行った。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その変化を記録した。臨床検査評価を実施した。経過観察耳鳴問診を行い、被験者はTBF−12、HADS−D質問表およびGUEF質問表(該当する場合)に記入した。純音聴力検査(気導聴力)も実施した。
【0106】
来院7(第20週):この来院は、最後の試験薬投与後においた4週間の経過観察期間の終わりに行った。被験者に関する併用薬並びに最後の来院以降の有害事象の発生について再検討を行う。経過観察耳鳴問診を行い、被験者はTBF−12、HADS−D質問表およびGUEF質問表(該当する場合)に記入した。
【0107】
ネラメキサンの投与
ネラメキサンメシレート即効型錠剤(12.5mgおよび25mg)および対応するプラセボ錠剤をフィルムコーティング錠として投与した。
【0108】
薬はブリスター箱で提供され、これを来院2〜来院5まで分配した。各ブリスター箱には、治療期間4週間分のブリスターカード4枚と、予備のブリスターカード1枚が入っていた。ブリスターカードは治療週で識別された。ブリスターカード内の1日分の薬は日にちで識別された。各試験日分の試験薬は、4錠の別々の錠剤からなった。1枚のブリスターカードには32錠(1日当たり4錠、7×4錠と、1日分の予備4錠)が入っていた。患者1人当たりの薬1パッケージは、5箱からなった。箱2は、箱1(増量期間)の予備の薬として追加され、被験者が箱1のブリスターカードを紛失した場合またはその箱ごと紛失した場合にのみ分配されるものとした。
【0109】
試験薬は来院2(ベースライン、0日目)の時に分配した。各患者は、二重盲検試験薬(即ち、32錠)のブリスターカード5枚(予備ブリスター1枚を含む)が入ったブリスター箱を1箱受け取った。被験者には、試験薬を分配した翌日から開始し、次の治験来院(来院3)のために再来院するまで、2錠を1日2回(4錠/日)服用するように指示した。有効成分入りの薬を服用するように割り付けられた被験者では、増量期間中、盲検化を確実なものにするため、投与計画に幾つかのプラセボ錠剤を組み込んだ。目標の一定維持用量であるネラメキサンメシレート25、50または75mg/日の投与は、二重盲検治療の第5週から開始し、試験中ずっと継続した。その後の各来院(来院3、4および5:第4週、第8週、および第12週の終わりに対応)時に、患者は、次の治験来院までの治療期間分の二重盲検薬を有する、4週間分のブリスターカード5枚が入ったブリスター箱を新たに1箱受け取った。投与スケジュールを表5に示す。
【0110】
二重盲検治療期間中ずっと、患者は毎日2×2錠の薬を12時間の一定間隔で服用し続けるものとした。来院4および6(第8週および第16週)の日に、患者が朝の用量の試験薬を既に服用していた場合、予定されていた採血は行わないものとした。治験責任医師は、再び十分量の試験薬を分配しなければならなかった。患者は、12時間の一定間隔で2×2錠を服用し続けるものとし、投与前ネラメキサン濃度を測定するための採血を行うために、来院4および6の時間枠内に再来院した。
【0111】
【表5】

【0112】
忍容性が低い場合、治験責任医師は、朝、大きい方の錠剤を省くことにより、25mg/日の用量減少を考慮することができたが、この有効用量減少が考慮されるのは、75mg/日および50mg/日のネラメキサンメシレート群のみであった。朝の用量の大きい方の錠剤(それぞれ、25mgまたはプラセボ)を省いた後、患者は、朝の用量として小さい方の錠剤(それぞれ、12.5mgまたはプラセボ)のみを服用し、夕方の用量としてサイズの異なる2つの錠剤(それぞれ、12.5mg、25mg、またはプラセボ)を服用して、予定通り試験過程を続けることができた。用量は、試験の終わりまで一定のままとした。
【0113】
常に、個人的に都合のよい(但し、試験過程全体を通して決まった)時間に、且つ可能な場合は必ず12時間の一定の投与間隔で(例えば、6:00時と18:00時、または8:00時と20:00時)試験薬を服用するように被験者に指示した。各治験来院時に、治験責任医師は、前日の試験薬の服用時刻を質問した。第4週、第8週、第12週、および第16週の終わりに(または早期の終了時に)、患者は、5枚のブリスターカードが入ったブリスター箱を持って治験実施施設に再来院し、服薬コンプライアンスの評価を受けた。
【0114】
有効性
主要アウトカム
− ベースライン(来院2)からエンドポイント来院(来院6、即ち、第16週)までのTBF−12合計スコアの変化が、この試験の主要有効性評価項目であった。
【0115】
副次アウトカム
− エンドポイント来院を除くベースライン後の全ての来院時のTBF−12合計スコア(値およびベースラインからの絶対変化)。
− 第16週から第20週までのTBF−12合計スコアの変化(値および絶対変化)。
− ベースライン後の全ての来院時のTBF−12要因スコア(値およびベースラインからの絶対変化(第16週から第20週までの変化を含む))。
− 聴覚過敏があった場合、聴覚過敏質問表GUEF(“Geraeuschuberempfindlichkeits−Fragebogen”)、値およびベースラインからの絶対変化(第16週から第20週までの変化を含む)、ベースライン後の全ての来院時の合計スコアおよび要因スコア。
− 変化の全体的な臨床的印象:反応を、何らかの改善があるもの(値1、2、3)対改善が見られないもの(値4、5、6、7)、および、著しい改善があるもの(値1、2)対著しい改善がないもの(値3、4、5、6、7)に二分した後、経過観察耳鳴問診の項目27を要約した。
− ベースライン後の全ての来院時のHADS−Dの合計スコア並びにうつおよび不安の下位尺度スコア(値およびベースラインからの絶対変化(第16週から第20週までの変化も含む)。
− ベースライン後の全ての来院時の耳鳴問診(初回および経過観察)の値;経過観察問診の項目8、9、10、19、20、21、24、25および26に関するベースラインからの絶対変化、および第16週から第20週までの変化。
【0116】
データ解析
有効性解析は全て、最終観測値による補完(last−observation−carried−forward)(LOCF)法を使用して、ITT母集団で行った。感度を向上させるため、治験実施計画書に適合した対象集団および観察事例の解析を追加で実施した。主要有効性(検証的試験)および副次有効性基準(探索的)の検定に使用した全ての統計的検定、並びに、探索的解析に使用した他の全ての統計的検定は、5%の有意水準で行われる両側仮説検定であった。全ての変数について、標準的記述統計量を算出した。
【0117】
ベースライン(来院2)から第16週までのTBF−12合計スコアの変化は、治療群および治験実施施設を要因とし、ベースラインTBF−12合計スコアを共変量とする二元共分散分析モデルを使用して解析した。
【0118】
副次有効性パラメータに関して、適宜、来院ごとに、治療群および治験実施施設を要因とし、有効性パラメータの対応するベースライン値を共変量とする二元共分散分析モデルを使用して、ネラメキサンとプラセボの比較を行った。
【0119】
考察
この臨床試験は、有効性および安全性に関して有望な結果を示した。ネラメキサンメシレート50mgまたは75mgの最終1日量を用いた16週間の二重盲検治療の後(来院6)、患者は、TBF−12で評価した場合、耳鳴の明らかな改善を報告したが、これはプラセボおよび低用量(25mg)ネラメキサンメシレートで治療した群と全く異なっていた。
【0120】
16週間の二重盲検治療後に最終1日量が50mgまたは75mgであった患者は、また、TBF−12の機能−コミュニケーションサブスコアの項目1(集中力)および項目2(注意の集中性)に示されるように、認知の明らかな改善を報告したが、その改善は、プラセボまたは低用量(25mg)ネラメキサンメシレートで治療した群と全く異なっていた。これらの結果を表6に示す。
【0121】
【表6】

【0122】
16週間の二重盲検治療後に最終1日量が50mgまたは75mgであった患者は、また、体系的耳鳴問診の質問12/5に示されるように、集中力の明らかな改善を報告したが、その改善は、プラセボまたは低用量(25mg)ネラメキサンメシレートで治療した群と全く異なった。これらの結果を表7に示す。
【0123】
【表7】

【0124】
これらの結果から、ネラメキサンは、耳鳴の重症度を低減させることの他に、耳鳴患者の認知機能を改善する能力を有することが分かる。従って、ネラメキサンは、耳鳴患者の認知障害の治療または予防、および/または既に見られる認知機能障害の治療または増悪の予防に有用な可能性がある。このような認知機能障害は、認知障害、年齢に伴う記憶障害(AAMI)、早期発症型アルツハイマー病(初老期痴呆症)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(アルツハイマー型痴呆症、老人性痴呆症);パーキンソン病、神経因性および慢性疼痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群、再発寛解型多発性硬化症(PPMS)、二次進行型MS(SPMS)、および一次進行型MS(PPMS)、注意欠陥多動障害(ADHD);統合失調症、不安、躁病およびうつ病などの中枢神経系疾患を含む様々な症状によって起こることがある。
【0125】
実施例2:耳鳴に伴う認知障害を治療するためのネラメキサンの二重盲検プラセボ対照試験
この計画の目的は、耳鳴および関連する認知障害の治療薬としてのネラメキサンの持続的効果を更に評価するための臨床試験を行うことである。この試験の主たる目的は、初発、持続性、一側性または両側性自覚的耳鳴を有する被験者でネラメキサンの有効性、忍容性および安全性をプラセボと比較することである
【0126】
試験デザイン
二重盲検、多施設共同、無作為化、プラセボ対照、並行群間比較試験で、耳鳴に罹患している被験者におけるネラメキサンの有効性を評価した。特定の選択基準を満たし、特定の除外基準のどれにも該当しない患者を二重盲検治療群に無作為に割り付ける。
【0127】
被験者を、試験薬の用量に応じて4週間または5週間の増量期間を含む29週間、ネラメキサンまたはプラセボで治療する。
【0128】
目標1日量がネラメキサンメシレート50mgである被験者(<90kgの体重)は、4週間後に定常状態に達し、目標1日量がネラメキサンメシレート75mgである患者(≧90kgの体重)は、5週間後に定常状態に達する。75mgの用量で用量を制限すべき有害事象が見られる患者では、患者を50mg/日に切り換えることによって用量を減少してもよい。50mg/日の最小用量を忍容できない患者は中断させる。
【0129】
各患者の評価のために予定された来院は次の通りである:
【0130】
来院1(スクリーニング):被験者は、同意書に署名した後、身体検査と臨床検査試験を受ける。この試験に対する患者の適格性を、選択基準/除外基準を確認することにより評価した。
【0131】
来院2(ベースライン):併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その事象/変化を記録する。選択基準/除外基準の再検討に基づき、被験者の試験適格性を評価する。被験者に関する試験手順並びに許容される併用薬と禁止される併用薬を再検討する。安全性および有効性パラメータを評価する。被験者を試験に登録し、試験薬(プラセボまたはネラメキサン)を後述のように分配する。
【0132】
来院3(第2週):この来院は、増量期間の中間に行う。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その事象/変化を記録する。バイタルサインを評価する。
【0133】
来院4(第5週):この来院は、増量期間が終わる時に行う。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その事象/変化を記録する。バイタルサインを評価する。安全性および有効性パラメータを評価する。薬を後述のように分配する。
【0134】
来院5(第11週):この来院は、1回目の6週間の一定用量二重盲検治療期間が終わる時に行う。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その変化を記録する。安全性および有効性パラメータを評価する。薬を後述のように分配する。
【0135】
来院6(第17週、プライマリーエンドポイント):この来院は、12週間の一定用量二重盲検治療の終わりに行った。併用薬/疾患の有害事象および変化について被験者に質問し、その変化を記録する。臨床検査評価を行う。安全性および有効性パラメータを評価する。薬を後述のように分配する。
【0136】
来院7(第23週):この来院は、プライマリーエンドポイントの6週間後に行う。被験者に関する併用薬並びに最後の来院以降の有害事象の発生について再検討を行う。安全性および有効性パラメータを評価する。薬を後述のように分配する。
【0137】
来院8(第29週、治療の終わり、セカンダリーエンドポイント):この来院は、24週間の一定容量二重盲検治療が終わる時に行う。被験者に関する併用薬並びに最後の来院以降の有害事象の発生について再検討を行う。安全性および有効性パラメータを評価する。
【0138】
来院9(第33週):この来院は、最後の試験薬投与の4週間後に行う。被験者に関する併用薬並びに最後の来院以降の有害事象の発生について再検討を行う。安全性および有効性パラメータを評価する。
【0139】
ネラメキサンの投与
ネラメキサンメシレート即効型錠剤(12.5mgおよび25mg)および対応するプラセボ錠剤をフィルムコーティング錠として投与する。
【0140】
来院3を除き、来院2〜来院7まで薬を分配する。各試験日分の試験薬は2つの別々の錠剤からなる。投与スケジュールを表8に示す。
【0141】
二重盲検治療期間中ずっと、患者は毎日2錠の薬を12時間の一定間隔で服用し続けるものとする。
【0142】
【表8】

【0143】
用量を制限すべき有害事象が見られた場合、治験責任医師は75mg/日の群のみ、25mg/日の用量減少を考慮することができる。50mg/日の最小投与量を忍容性できない被験者は中断させる。
【0144】
常に、個人的に都合のよい(但し、試験過程全体を通して決まった)時間に試験薬を服用するように被験者に指示する。
【0145】
有効性
主要アウトカム
− ベースライン後の全ての来院におけるベースライン(来院2)からのTBF−12合計スコアの変化がこの試験の主要有効性評価項目である。
【0146】
副次アウトカム
− TBF−12の変化に基づく個々の反応率
− ベースライン後の全ての来院時のTBF−12要因スコア(値およびベースラインからの絶対変化)。
− 耳鳴の大きさ(11段階のリッカート尺度)
− 耳鳴の不快感(11段階のリッカート尺度)
− 耳鳴の生活に与える影響(11段階のリッカート尺度)
− 耳鳴の大きさ、耳鳴の不快感、および耳鳴の生活に与える影響の合計スコア(T−スコア)
− ベースライン後の全ての来院における注意および遂行自己評価質問表(APSA)スコア
【0147】
【表9】


【0148】
また、下記の注意および遂行自己評価質問表(APSA)の以前のバージョンを使用してもよい。
【0149】
【表10】


【0150】
データ解析
有効性解析は全て、最終観測値による補完(LOCF)法を使用してITT母集団で行った。主要有効性(検証的試験)および副次有効性基準(探索的)の検定に使用した全ての統計的検定、並びに、探索的解析に使用した全ての統計的検定は、5%の有意水準で行われる両側仮説検定である。
【0151】
考察
この臨床試験は、ネラメキサンが、耳鳴の重症度を低減することの他に、耳鳴患者の認知機能を改善する能力を有することを更に実証するものと考えられる。
【0152】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態により範囲が限定されるものではない。確かに、前述の説明から当業者には、本明細書に記載のものの他に本発明の様々な変更が明らかになるであろう。このような変更は、添付の特許請求の範囲内に包含されるものとする。
【0153】
本明細書に引用される全ての特許、出願、刊行物、試験方法、文献および他の資料は、参照により本明細書に援用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳鳴に伴う認知障害を治療または予防するための1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体。
【請求項2】
耳鳴に伴う認知障害を治療または予防するための医薬を製造するための1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体の使用。
【請求項3】
前記1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体が、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1または2に記載の誘導体/使用。
【請求項4】
前記1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体が、ネラメキサンメシレートである、請求項3に記載の誘導体/使用。
【請求項5】
ネラメキサンメシレートが約5mg/日〜約150mg/日の範囲で投与されるか、または、ネラメキサンメシレートが約5mg/日〜約100mg/日の範囲で投与されるか、または、ネラメキサンメシレートが約5mg/日〜約75mg/日の範囲で投与されるか、または、ネラメキサンメシレートが約50mg/日で投与されるか、または、ネラメキサンメシレートが約75mg/日で投与される、請求項4に記載の誘導体/使用。
【請求項6】
ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩が、1日1回、1日2回(b.i.d.)または1日3回投与される、請求項3〜5のいずれか1項に記載の誘導体/使用。
【請求項7】
ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩が、1日2回投与される、請求項6項に記載の誘導体/使用。
【請求項8】
ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩が即効型製剤または放出調節製剤として投与される、請求項3〜7のいずれか1項に記載の誘導体/使用。
【請求項9】
認知障害の治療または予防に有効であることが分かっている他の薬剤が投与される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の誘導体/使用。
【請求項10】
ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータおよびα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータから選択される他の薬剤が投与される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の誘導体/使用。
【請求項11】
前記1−アミノ−アルキルシクロヘキサン誘導体が、ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩である、請求項9または10に記載の誘導体/使用。
【請求項12】
ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩と前記他の薬剤が共同的に投与 される、請求項11に記載の誘導体/使用。
【請求項13】
ネラメキサンまたはその薬学的に許容される塩と前記他の薬剤が、単一の製剤として投与される、請求項12に記載の誘導体/使用。
【請求項14】
治療有効量の1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体またはその薬学的に許容される塩を、認知障害の治療または予防に有効であることが分かっている他の薬剤、および任意選択的に少なくとも1種類の薬学的に許容される担体または添加物と組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項15】
治療有効量の、ネラメキサンおよびその薬学的に許容される塩から選択される1−アミノ−アルキルシクロへキサン誘導体、並びに、ニコチン性アセチルコリン受容体モジュレータおよびα−5サブユニットを含むGABA−A受容体のモジュレータから選択される他の薬剤を含む医薬組成物。


【公表番号】特表2012−501304(P2012−501304A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524271(P2011−524271)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006366
【国際公開番号】WO2010/028769
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(397045220)メルツ・ファルマ・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト・アウフ・アクティーン (31)
【Fターム(参考)】