説明

聴診トレーニングシステム及び模擬聴診器

【課題】模擬患者の呼吸動作を測定する装置を使わず簡易な構成で安価な本聴診トレーニングシステムを提供する。
【解決手段】本聴診トレーニングシステムは、位置表示手段1dを備えた採音部、チューブ及び耳管からなる模擬聴診器1、採音部位置を検知する位置検知手段2、生体音データベース3、生体音再生手段4及び再生呼吸音の繰り返しタイミングを表示するタイミング表示手段5からなる。データベースは、予め真の患者から胸の位置に対応付けて録音された生体音を情報として保有している。また、生体音再生手段は音声再生器4aを備えており、位置検知手段が検知した採音部位置に応じてデータベースから所定の生体音情報を取り出し音声再生器から再生生体音を発し、それを実習生は耳管を通して聞く。そして、タイミング表示手段は模擬患者がそれを見て自分の呼吸動作を再生呼吸音に合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴診トレーニングシステム及び模擬聴診器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者が最初に医師を訪れ、病状を訴えた場合、医師は最初に問診と称して、患者から病歴・症状を聞き身体所見を診る。その際、医師は診察の一環として聴診器(正確には採音部)を患者の患部に当てて生体音(呼吸音、心音、腸雑音等)を聴きその異常性から病状、病名を診断する。
【0003】
聴診器は大きく分けて採音部、チューブ(ゴム管とも呼ばれる)及び耳管からなる。
【0004】
ところで、医師を目指す医学生や看護師を目指す看護学生などの実習生は、聴診の技術を修得しなければならない。そのため、実習生に対して聴診トレーニングが行われている。従来は、心音、呼吸音などの音源が収録されたDVDの付録があるテキストブックや外来や病室で真の患者を医師(指導医)が聴診した後、実習生に聴診を行わせることにより聴診をトレーニングする等の学習が行われていた。しかし、これでは真正性がなかったり、患者の負担になり、多数の実習生に対してトレーニングすることができないなどの問題があった。希な病気の場合には患者そのものが少ないといった問題もある。
【0005】
そのため、最近は聴診を仮想的にトレーニングするため聴診トレーニングシステムが採用されている。このシステムは、大きく分けて、マネキン、生体音データベース及び生体音再生装置から構成されている。マネキンには胸の中の複数の所定位置に小型スピーカーが埋め込まれている。生体音データベースは予め真の患者から胸の所定位置に対応付けて録音された生体音(正常音、異常音)を情報として保有している。生体音再生装置は、所定位置に応じて生体音データベースから所定の生体音情報を取り出し再生し小型スピーカーから再生生体音を発する。このシステムは指導医が操作し、実習生は小型スピーカーから発せられた再生生体音(正常音、異常音)を、聴診器を使って聴診し病名を回答し、場合によって指導医が回答を正すことで聴診トレーニングが行われる。別途、正解を用意しておけば、指導医なしで実習生が単独でトレーニングを行うこともできる。
【0006】
また、下記特許文献1には、模擬聴診器と、人体モデルと、模擬聴診器による聴診動作を検知する聴診検知センサと、この検知センサから創出される検知シグナルを受付け、模擬聴診器の耳管部に設けられた生体音再生部から検知シグナルに対応する聴診位置の生体音を再生させる制御部を有する聴診トレーニングシステムが開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、移動可能なローミングデバイスと、ローミングデバイスの位置情報を決定するポジショニングデバイスを有し、この位置情報を受け取り、位置情報と予め備えた領域の規定セットとを比較し、一致する場合に、医学的様態を示す情報を送信するコンピューティングデバイスを利用する医学的様態シミュレートシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−077521号公報
【特許文献2】特表2008−518277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、聴診トレーニングは、まず問診しその後に聴診という流れで実施される。聴診トレーニングではマネキンを使えるものの、問診はマネキンには行えない。そのため、問診は真の患者ではなく、模擬患者に対して行われている。模擬患者は真の患者を装って演技して病歴・症状を実習生に訴えるのである。
【0010】
即ち、実習生は、まず模擬患者に対し問診を行い、その後にマネキンに対し聴診を行うのである。しかし、この方法は、対象が模擬患者からマネキンと変わるので、実習生にとって違和感があり、実習の真正性が落ちる。また、マネキンは現時点において、米国製で約600万円、国産で約300万円と極めて高価である。
【0011】
上記特許文献1に記載の技術は人体モデルを用いるものであって、上記の課題を解決することができない。
【0012】
上記特許文献2に記載の技術は、被験者はマネキンでも模擬患者(標準患者)でもよいとされ(0017段落)、特に図6に開示されたシステムでは、カメラを使って聴診器正確には採音部(ヘッドピース)の被験者上の所定位置を検知し、その所定位置に応じた生体音をコンピューターの音ファイルから取り出し聴診器イヤピースから再生生体音を実習生に聴かせることができる(0033、0034段落参照)。
【0013】
しかしながら、再生生体音は呼吸音と心音を含んでおり、仮に被験者がこの再生された呼吸音(再生呼吸音)と異なるタイミングで呼吸動作を行ったとすると、実習生にとって違和感が出て、実習効果が落ちてしまう。
【0014】
そこで、先行技術2では、コンピューターが被験者の呼吸動作のタイミングを測定し、この測定値に合わせて再生呼吸音のタイミングを伸張又は圧縮し、その上で再生呼吸音を実習生に聞かせることにしている(0030段落)。
【0015】
しかし、このような呼吸動作のタイミングを測定する装置はシステムを複雑・高価にする問題があり、このシステムは実用化されていない。
【0016】
さらに、先行技術2ではローミングデバイスの位置を三次元的に取得し、デバイスと被験者の接触を位置情報から判定するよう設計されているが、接触の判定を位置情報から判定することは極めて高い精度が求められ誤判定が多発するという問題があった。
【0017】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、安価で簡易な聴診トレーニングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
ここで、上記課題を解決する本発明の一観点にかかる聴診トレーニングシステムは、採音部、チューブ及び耳管からなる模擬聴診器と、採音部の位置を検知する位置検知手段と、生体音データベースと、生体音再生手段と、を有して構成され、実習生が模擬患者に問診を行った後、採音部を模擬患者の胸に当てて聴診を行ったとき、実習生が生体音再生手段から再生された模擬生体音を耳管から聞かされるものであって、採音部は、その位置を表示する位置表示手段を備え、位置検知手段は、模擬患者の胸及び位置表示手段を撮影し画像処理することにより、前記採音部が模擬患者の胸のどこの位置にあるかを検知するものであり、生体音データベースは、予め真の患者から胸の位置に対応付けて録音された、呼吸音と心音を含む生体音を情報として保有しており、生体音再生手段は、模擬聴診器に取り付けられた音声再生器を備えており、生体音再生手段と音声再生器とは無線又は有線で連結されており、生体音再生手段は、位置検知手段が検知した採音部の位置に応じて生体音データベースから所定の生体音情報を取り出し音声再生器から再生生体音を発するものであり、発せられた再生生体音は、音声再生器から耳管を通して実習生の耳に届き、更に、本システムは、再生された呼吸音の繰り返しタイミングを表示するタイミング表示手段を備えており、模擬患者はタイミング表示手段を見て自分の呼吸動作を、再生生体音における呼吸音のタイミングに合わせて行うことができるものである。
【0019】
また、本発明の他の一観点にかかる聴診トレーニングシステムは、採音部、チューブ及び耳管からなる模擬聴診器と、採音部の位置を検知する位置検知手段と、生体音データベースと、生体音再生手段と、再生された呼吸音の繰り返しタイミングを表示するタイミング表示手段と、を有するものであって、採音部は、その位置を表示する位置表示手段を備え、位置検知手段は、模擬患者の胸及び位置表示手段を撮影し画像処理することにより、採音部が模擬患者の胸のどこの位置にあるかを検知するものであり、生体音データベースは、予め真の患者から胸の位置に対応付けて録音された、呼吸音と心音を含む生体音を情報として保有しており、生体音再生手段は、模擬聴診器に取り付けられた音声再生器を備えており、生体音再生手段と音声再生器とは無線又は有線で連結されており、生体音再生手段は、位置検知手段が検知した採音部の位置に応じて生体音データベースから所定の生体音情報を取り出し音声再生器から再生生体音を発するものであり、発せられた再生生体音は、音声再生器から耳管を通して実習生の耳に届き、タイミング表示手段は、模擬患者がそれを見て自分の呼吸動作を、記再生生体音における呼吸音のタイミングに合わせるためのものである。
【0020】
なお、上記観点において、限定されるわけではないが、位置表示手段が赤外線LEDであり、位置検知手段が赤外線デジタルカメラであることは好ましい一態様である。
【0021】
また、上記観点において、限定されるわけではないが、位置表示手段が文字、記号、図形、模様などの光学的シンボルであることは好ましい一態様である。
【0022】
また、上記観点において、限定されるわけではないが、位置表示手段が前記採音部そのものであることは好ましい一態様である。
【0023】
また、上記観点において、限定されるわけではないが、採音部が接触センサーを備え、採音部が模擬患者の胸に当たったことを検知することは好ましい一態様である。
【0024】
また、上記観点において、限定されるわけではないが、接触センサーが検知したとき、位置表示手段が点灯することは好ましい一態様である。
【0025】
また、上記観点において、限定されるわけではないが、生体音再生手段は、再生された呼吸音の繰り返しタイミングを修正することができる修正手段を備えており、生体音データベースから所定の生体音情報を取り出し音声再生器から再生生体音を発する際に、再生された呼吸音の繰り返しタイミングを修正した上で、前記音声再生器から再生生体音を発することは好ましい一態様である。
【0026】
また、本発明の他の一観点に係る模擬聴診器は、採音部、チューブ及び耳管を有するものであって、採音部が、その位置を表示する位置表示手段としての赤外線LEDを備え、採音部、チューブ又は耳管の少なくともいずれかが、再生生体音を発する音声再生器を備えているものである。
【発明の効果】
【0027】
以上本発明により、安価で簡易な聴診トレーニングシステムを提供することができる。より具体的に説明すると、本発明では呼吸動作のタイミングを測定する装置を使わないので、システムが簡素になり安価で済むといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】聴診トレーニングシステムの一例を説明するための概念図である。
【図2】聴診トレーニングシステムの概略構成を模式的に示す説明図である。
【図3】聴診トレーニングシステムの模擬聴診器1の外観構成を示す説明図である。
【図4】聴診トレーニングシステムの使用状態の一例を示す説明図である。
【図5】制御部の機能的構成を示すブロック図である。
【図6】制御部の処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】正常心音、異常心音、正常呼吸音、異常呼吸音の例を波形で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る聴診トレーニングシステムについて、図1乃至図5に基づいて説明する。図1は聴診トレーニングシステムの一例を説明するための概念図であり、図2は本実施形態の聴診トレーニングシステムの概略構成を模式的に示す説明図であり、図3は聴診トレーニングシステムの模擬聴診器1の外観構成を示す説明図であり、図4は聴診トレーニングシステムの使用状態の一例を示す説明図であり、図5は制御部の機能的構成を示すブロック図であり、図6は制御部の処理の流れを示すフローチャートである。
【0030】
本実施形態の聴診トレーニングシステム1は、図2乃至図5に示すように、模擬患者8に対し、実習生7が模擬的に聴診動作を行うために使用する模擬聴診器1と、模擬聴診器1の採音部1aの位置を検出する位置検知手段2と、模擬患者8に対し呼吸タイミングを提示する呼吸タイミング提示手段5と、生体音データベース3を内蔵し、模擬聴診器1の位置に応じて適切な生体音を生成する制御手段6と、制御部6で生成した生体音を無線通信により送信する送信部4とを具備して主に構成されている。
【0031】
模擬聴診器1は、図2に示すように、実際の医療現場において医師等が聴診の際に利用する聴診器の外観形状を模して形成され、模擬患者8の体表に対して当接される聴診面を有する採音部1a、採音部1aから延設され二つに分岐した軟素材製のY字部1b、Y字部1bの途中に取着され無線送信された生体音を受信し生体音を再生する音声再生器4a、分岐したY字部のそれぞれの端部に取着され、実習生7の耳孔部7aに挿着可能な耳管部1cを有して主に構成されている。なお、係る模擬聴診器1は、実際の聴診器の一部を改良することによって形成した物であっても構わない。
【0032】
模擬聴診器1の採音部1aは、図2に示すように、模擬患者8の体表に対して当接される聴診面に取着され体表への当接状態を検知するため、機械的スイッチを配した当接検知手段1fと、採音部1aの上面(聴診面の裏側)に取着され採音部1aが体表に当節した時に赤外線光を発光する位置表示手段1d(赤外線LED)を有して主に構成されている。
【0033】
位置検知手段2は、位置表示手段1dを有する採音部1aの位置を検出するために赤外線記録が可能な2次元CCDセンサが利用されている。採音部1aが模擬患者8の体表に対する当接状態は当接検知手段1fにより検知され、位置表示手段1dは、採音部1aが模擬患者8の体表への当接状態時にのみ発光するようになっている。従って位置検知手段2が位置表示手段1dの発光を検出することにより、位置検知手段2は採音部1aが模擬患者8の体表に対する当接状態と、採音部1aが模擬患者8の体表に対する当接位置を同時に取得することができる。位置検知手段2はこれらの情報を制御部6へ送出する。
【0034】
制御部6は、本実施形態の聴診トレーニングシステムの主要構成をなす物であり、位置検知手段2から送出される検知シグナルに応じて、種々の信号制御及び処理を行うことが可能であり、最終的に模擬聴診器1に耳管部1cから所望の生体音の再生を可能とするものである。係る制御部6は、その機能的構成として、図4に示すように、生体音再生部から再生される図7に示す生体音データを、性別、年齢別、症例別、症状別、及び聴診位置別に分類し、データベース化して記憶する生体音記憶部3と、位置検知手段2によって検知された画像を入力する画像入力部10と、画像入力部10から採音部1aの当接状態と位置に係る情報を含む検知シグナルを受付ける発光検出部11と、発光検出部11と体型キャリブレーション部のデータから採音部1aの位置を算出する聴診位置算出部12と、採音部1aの位置に対応する生体音データを生体音記憶部3から抽出する生体音抽出部13と、生体音を無線通信によって送出するための信号制御を行う再生制御部16を主に具備して構成されている。なお、制御部6は、図1に示すように、市販のパーソナルコンピュータを利用することが可能であり、キーボード及びマウス等の操作入力機器を利用して種々の操作及びデータの入力等ができるようになっている。
【0035】
さらに制御部6は、位置検知手段2によって検知された採音部1aの位置に応じて、再生する生体音データである心音と呼吸音の音圧と再生速度を独立して制御し合成することができる生体音処理部17と、生体音処理部17に同期する呼吸タイミングを生成する呼吸タイミング生成部18と、模擬患者8の呼吸タイミングを文字と矩形画像の伸縮により提示する呼吸タイミング表示手段5と、実習生7が体験することの可能な複数の症例及び症状等の種々の再生条件を前述の生体音記憶部3に記憶された生体音データに基づいて選択することのできる再生条件設定部19を具備している。さらに、制御部6は、位置検知手段2によって検知された採音部1aの当接状態や位置、及びその他の種々の情報を視覚的に認識可能にして、モニタなどの出力機器に信号制御して出力するための出力制御部20を有している。
【0036】
生体音データベース3には採音部1aの位置に応じて、対応する生体音データが複数記憶されている。ここでの採音部1aの位置は標準体型データ15を基準として位置情報が記録されているが、位置検知手段2によって検知された採音部1aの位置は模擬患者8の体型における位置情報であるため、生体音記憶部3に記録された標準体型と模擬患者8の体型の関係を取得する必要がある。そこで、制御部6は左右両鎖骨の中央部と剣状突起部の3点の位置関係を取得し、標準体型データ15と模擬患者8の体型の関係を算出する。具体的な方法として、実習生7は聴診トレーニングシステムを使用する前準備として模擬患者8の左右両鎖骨の中央部と剣状突起部に順に、採音部1aを当接し、制御部6がそれぞれの位置情報を取得する。3点の位置情報取得後に制御部6に内蔵された体型キャリブレーション部14が標準体型データ15と模擬患者8の体型の関係を算出する。
【0037】
生体音再生手段4は、位置検知手段が検知した採音部の位置に応じて生体音データベースから取り出された所定の生体音情報を、模擬聴診器に備え付けられる音声再生器4aを通じて再生生体音を発生させることができるものである。なお、発せられた再生生体音は、耳管を通して実習生の耳に届く。なお、音声再生器4aの構成としては、例えば小型のスピーカーであることが好ましい。
【0038】
呼吸タイミング表示手段5は、模擬患者に対し呼吸のタイミングをディスプレイ装置等に表示するものであり、模擬患者はこの表示に基づき、自分の呼吸動作を再生呼吸音のタイミングに合わせる。この点が上記先行技術とは異なる全く逆の発想となっている。
【0039】
以上、説明したように、本実施形態の聴診トレーニングシステムによれば、通常の聴診器を用いた聴診動作と全く同じことを、模擬患者8に対して行うことにより、内科検診の標準手続きとして定められている問診から始まり、種々の症例や病状の進行度合いに応じた聴診を円滑に連続して、また実際の診療と同等の緊張感のもとで実習生7は体感することができる。特に、模擬聴診器1の耳管部1cから再生される生体音データが、実際の聴診器を用いた場合に聴取される生体音と類似したものであり、模擬患者8の呼吸と生体音として再生される呼吸音のタイミングが一致していることにより、実習生7は違和感を覚えることなく聴診技術を学習することができる。
【0040】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0041】
本実施形態では模擬患者8の体表に対する採音部1aの当接状態と位置の検知を、機械的スイッチを配した当接検知手段1fと、当接状態において赤外光を発光する位置表示手段1dと赤外光を検出する二次元CCDセンサを用いた位置検知手段2によって行うものを示したが、係る聴診位置を特定するための位置特定手段、及び採音部と体表の当接状態を検知するための当接検知手段1fはこれ以外のものであっても構わない。
【0042】
例えば、当接検知手段1fには圧力センサ、抵抗膜方式接触センサ、静電容量方式接触センサ、光学式近接センサ、超音波方式近接センサなどが利用できる。
【0043】
また、採音部1aは実際の医療現場において医師等が聴診の際に利用する聴診器の採音部を模して形成されていることが望ましいため、赤外光を発光する位置表示手段1dを配することが好ましいが、可視光を発光する位置表示手段1dと可視光を検出する二次元CCDセンサを用いた位置検知手段2を用いることもできる。また、採音部1aに図形や文字など検出の指標となる図柄を配し、二次元CCDセンサを用いて図柄を検出することで採音部1aの位置を特定することもできる。ただしこの場合は採音部1aの当接状態を制御部6へ伝達する手段を用意する必要がある。さらに、周囲環境が発する光の影響を抑制する観点からも赤外光の利用が好ましいが、環境光の影響をさらに抑制する手段として、位置表示手段1dを一定周期で点滅、明滅させるなどの変調を加えることができる。
【0044】
また、位置検知手段2として光学式、磁気式あるいは機械式の三次元位置検出装置を用いることで奥行き方向の位置情報を取得することができるため、当接検知手段1fの役割も代用することができる。しかし、当接の検知には奥行き方向の高い位置検出精度が要求され、かつ模擬患者8の体表(特に胸部)形状は呼吸性変動により変化するため当接検知が困難となることが予想される。
【0045】
また、体型キャリブレーション部は左右両鎖骨の中央部と剣状突起部の三点の位置の対応関係から、標準体型と模擬患者8の体型の関係を算出することを述べたが、対応関係の精度を高める手段として、対応位置の個数を増加させることが可能である。さらに、位置検知手段2として用いられる二次元CCDセンサで取得した画像を画像認識技術によって解析することにより自動的に模擬患者8の体型を検出することが可能である。
【0046】
また、呼吸タイミング表示手段5のタイミング提示方法としては、文字と画像を組み合わせた提示方法のほかに、発光装置単体を明滅させることでも実現可能である。また模擬患者8に音声やリズムなど、音を使って提示することもできる。このとき音声が模擬患者8にのみ伝わるよう配慮する必要がある。その他、小型の振動装置や、微弱電流を使って模擬患者8に呼吸タイミングを提示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のシステムは、医師を目指す医学生や看護師を目指す看護学生、薬剤師を目指す薬学部生、介護士を目指す学生などの実習生の聴診技術を向上させる聴診トレーニングに使われる。模擬患者に対し、問診から聴診、という自然な流れで聴診トレーニングができるので、研修効果が高い。それでいて、システムが簡易なので安価に提供できるので利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0048】
1・・・・模擬聴診器
1a・・・採音部
1b・・・チューブ
1c・・・耳管
1d・・・位置表示手段(例:赤外線LED)
2・・・・位置検知手段(例:赤外線デジタルカメラ)
3・・・・生体音データベース
4・・・・生体音再生手段
4a・・・音声再生器(例:小型スピーカー)
5・・・・タイミング表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採音部、チューブ及び耳管からなる模擬聴診器と、
前記採音部の位置を検知する位置検知手段と、
生体音データベースと、
生体音再生手段と、を有して構成され、
実習生が模擬患者に問診を行った後、前記採音部を模擬患者の胸に当てて聴診を行ったとき、実習生が生体音再生手段から再生された模擬生体音を耳管から聞かされる聴診トレーニングシステムであって、
前記採音部は、その位置を表示する位置表示手段を備え、
前記位置検知手段は、模擬患者の胸及び位置表示手段を撮影し画像処理することにより、前記採音部が模擬患者の胸のどこの位置にあるかを検知するものであり、
前記生体音データベースは、予め真の患者から胸の位置に対応付けて録音された、呼吸音と心音を含む生体音を情報として保有しており、
前記生体音再生手段は、前記模擬聴診器に取り付けられた音声再生器を備えており、
前記生体音再生手段と前記音声再生器とは無線又は有線で連結されており、
前記生体音再生手段は、前記位置検知手段が検知した前記採音部の位置に応じて前記生体音データベースから所定の生体音情報を取り出し前記音声再生器から再生生体音を発するものであり、発せられた再生生体音は、前記音声再生器から前記耳管を通して実習生の耳に届き、
更に、本システムは、再生された呼吸音の繰り返しタイミングを表示するタイミング表示手段を備えており、
前記模擬患者はタイミング表示手段を見て自分の呼吸動作を、前記再生生体音における呼吸音のタイミングに合わせて行うことができる聴診トレーニングシステム。
【請求項2】
採音部、チューブ及び耳管からなる模擬聴診器と、
前記採音部の位置を検知する位置検知手段と、
生体音データベースと、
生体音再生手段と、
再生された呼吸音の繰り返しタイミングを表示するタイミング表示手段と、を有する聴診トレーニングシステムであって、
前記採音部は、その位置を表示する位置表示手段を備え、
前記位置検知手段は、模擬患者の胸及び位置表示手段を撮影し画像処理することにより、採音部が模擬患者の胸のどこの位置にあるかを検知するものであり、
前記生体音データベースは、予め真の患者から胸の位置に対応付けて録音された、呼吸音と心音を含む生体音を情報として保有しており、
前記生体音再生手段は、模擬聴診器に取り付けられた音声再生器を備えており、
前記生体音再生手段と前記音声再生器とは無線又は有線で連結されており、
前記生体音再生手段は、前記位置検知手段が検知した前記採音部の位置に応じて生体音データベースから所定の生体音情報を取り出し前記音声再生器から再生生体音を発するものであり、発せられた前記再生生体音は、前記音声再生器から前記耳管を通して実習生の耳に届き、
前記タイミング表示手段は、模擬患者がそれを見て自分の呼吸動作を、記再生生体音における呼吸音のタイミングに合わせるためのものである聴診トレーニングシステム。
【請求項3】
前記位置表示手段が赤外線LEDであり、前記位置検知手段が赤外線デジタルカメラであることを特徴とする請求項1又は2に記載の聴診トレーニングシステム。
【請求項4】
前記位置表示手段が文字、記号、図形、模様などの光学的シンボルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の聴診トレーニングシステム。
【請求項5】
前記位置表示手段が前記採音部そのものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の聴診トレーニングシステム。
【請求項6】
前記採音部が接触センサーを備え、前記採音部が模擬患者の胸に当たったことを検知することを特徴とする請求項1又は2に記載の聴診トレーニングシステム。
【請求項7】
前記接触センサーが検知したとき、前記位置表示手段が点灯することを特徴とする請求項6に記載の聴診トレーニングシステム。
【請求項8】
前記生体音再生手段は、再生された呼吸音の繰り返しタイミングを修正することができる修正手段を備えており、前記生体音データベースから所定の生体音情報を取り出し前記音声再生器から再生生体音を発する際に、再生された呼吸音の繰り返しタイミングを修正した上で、前記音声再生器から再生生体音を発することを特徴とする請求項1又は2に記載の聴診トレーニングシステム。
【請求項9】
採音部、チューブ及び耳管からなる模擬聴診器において、
前記採音部が、その位置を表示する位置表示手段としての赤外線LEDを備え、前記採音部、前記チューブ又は前記耳管の少なくともいずれかが、再生生体音を発する音声再生器を備えていることを特徴とする模擬聴診器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−247513(P2012−247513A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117530(P2011−117530)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】