説明

肉腫の予後分子署名およびその使用

本発明は、肉腫、特に遺伝的に複雑な肉腫の予後分子署名、患者の全生存を予測するための、特に転移出現を予測するための、さらに同じ組織学的悪性度分類を有する腫瘍のグループ内の予後的に別々のサブグループを決定するための、予後分子署名の使用に関する。また、上記分子署名は、治療の有効性を評価するため、または新規な治療薬を製造するためにも用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉腫、特に遺伝的に複雑な肉腫の予後分子署名(予後分子サイン)、ならびに肉腫患者の無転移生存および全生存を予測するためのその使用に関する。
肉腫予後もしくは診断の領域において、または肉腫患者の治療の監視のために、多くの応用が見出される。
【背景技術】
【0002】
成人における軟部組織肉腫(soft tissue sarcomas:STS)は、局在性、組織学、分子異常性および予後の観点から稀であり、しかも異質である。低分化STSは、成人において最も一般的な悪性腫瘍であり、病理学的診断の約50%を示し、主に、複雑な核型の肉腫、すなわち、平滑筋肉腫(leiomyosarcomas:LMS)、未分化肉腫(undifferentiated sarcomas:US)または悪性線維性組織球腫(malignant fibrohistiocytomas:MFH)、および脱分化した脂肪肉腫(dedifferentiated liposarcomas:DD−LPS)(非特許文献1)を含む。遺伝子レベルで、低分化STSは、2つの主要なグループに分けることができる。複雑なゲノムプロファイルのグループ(80%)には、本質的に、非常に複雑であるが、ゲノム不均衡の再発プロファイルと関連したUS、LMS、多形性横紋筋肉腫および多形性脂肪肉腫が含まれ(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)、高レベルの限定された増幅に基づく単純な遺伝子プロファイルを有し、専らDD−LPSから構成される第2のグループ(20%)がある(非特許文献5;非特許文献6)。STSは、局所性および転移性再発の可能性がある浸潤性腫瘍である。このような腫瘍を有する患者は、通常、予後が不良であり、40〜50%が、最終的には、特に肺に、概して診断の5年以内に遠隔転移を発症する(非特許文献7;非特許文献8)。
【0003】
STSの臨床的治療は、主に外科的切除からなり、期間および性質が切除縁、腫瘍組織型および組織学的悪性度分類に依存するアジュバント治療を伴う。しかしながら、化学療法などのアジュバント療法の恩恵が現在議論になっているが、最近の研究は、局所的および遠隔的な再発に対する効果を示す傾向にある(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。それにもかかわらず、化学療法の有効性は不十分である(評価基準によると3〜10%、非特許文献11、前掲);これは、腫瘍悪性度が組織学的悪性度分類によって評価される患者の選択に起因している可能性があった。さらに、患者の管理は、本質的には病期に依存する。ある種のタイプの肉腫の臨床的評価に関する有効な情報が提供されているが、組織学的分類は、他種の肉腫、特に、未分類であり、低分化および非転座と関連した肉腫について限定された予測値を有する。予後に関して組織学の予測値を増大させるために、いくつかの評価システムが詳述されている(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16)。後者のうち、国立癌研究所(National Cancer Institute:NCI)(非特許文献16、前掲)のシステム、および全国癌対策センター連合(National Federation of Centers Combating Cancer)(Federation Nationale des Centres de Lutte Contre le Cancer,FNCLCC)(非特許文献15、前掲)のシステムは幅広く使用されているが、2番目のシステムは、遠隔転移を予測するための能力が僅かに増大し、このために「ゴールド・スタンダード」と見なされてきた(非特許文献17)。
【0004】
これまで、組織学的悪性度分類は、無転移生存および全生存を予測するための最良の基準である。FNCLCC悪性度分類が最も有効であり、20年以前に確立し、今でも最も
一般に使用されているシステムである。それは、腫瘍分化、壊死、および分裂指数の半定量的評価に基づいている。しかしながら、このシステムにはいくつかの制限がある:病理学者ごとの再現性が完全ではなく、全ての種類の肉腫(非特許文献18)に適用されず、悪性度2(約40%の症例を示す)として分類された症例について有益ではなかった。しかしながら、これらの制限にもかかわらず、20年を超えて、この組織学的悪性度分類システムを置き換えることができる予後基準を提供する研究は行われていない。
【0005】
最近10年では、病理数の増大において、予後分子署名の出現が見られるようになってきた。これまで、分子署名の最良の例は、確かに乳癌のものであり、そこでは、転移性再発を予測するための発現サインは2002年に確立され、次に、同年、同じチームによって、独立したグループの295個の腫瘍について有効性が示されたことである(非特許文献19;非特許文献20)。
【0006】
現在まで、肉腫の分野において、発現プロファイルは、特に、新規な診断マーカーの同定、または腫瘍分化に関して、これらの腫瘍の癌遺伝子のさらなる理解を目的として確立されてきた(非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28)。30個の平滑筋肉腫(非特許文献29)および89個の多形性肉腫(非特許文献30)に関するたった2つの研究が、予後分子署名を提案している。しかしながら、これらの2つのサインは、それらの間の明確な生物学的な結び付きを伴わない多数の遺伝子(それぞれ335個および244個)から構成される。さらに、これらの2つのサインは、相対的に低い有意性を与える特定の肉腫の相対的に限定された数の亜型に基づいて確立された。最後に、これまで、これらの2つのサインは、FNCLCC悪性度分類システムと比較されたことがなく、未だに独立したグループにより有効でないとされ、したがって、それらの臨床的な有用性を制限している。
【0007】
肉腫の領域では、分子変化を予後に相関させようとする研究の数は、十分に確認された腫瘍の同種研究グループを得ることの困難性により、必然的に限定されている。また、これまで、遺伝子プロファイルと無転移生存との間で、明確かつ証明された相関が確立されていない。
【0008】
したがって、腫瘍予後は、肉腫のグループ内で予期することがなおも困難であり、治療が期待できるほど適合されていない。結論として、肉腫の予後と診断を改善し、結果として患者の良好な臨床的アフターケアを確実にする明確な必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】フレッチャー(FLETCHER)ら,World Health Organization(WHO)classification of tumours.Pathology and genetics of tumours of soft tissue and bone.Lyons,IARC Press,2002
【非特許文献2】イドバイチ(IDBAIH)ら,Lab.Invest.,85(2):176−181,2005
【非特許文献3】チボン(CHIBON)ら,Cancer Genet.Cytogenet.,141(1):75−78,2003
【非特許文献4】デレ(DERRE)ら,Lab.Invest.,81(2):211−215,2001
【非特許文献5】チボン(CHIBON)ら,Cancer Genet.Cytogenet.,139(1):24−29,2002
【非特許文献6】コインドレ(COINDRE)ら,Mod.Pathol.,16(3):256−262,2003
【非特許文献7】ウェイツ(WEITZ)ら,J.Clin.Onc.,21(14):2719−2725,2003
【非特許文献8】ザガース(ZAGARS)ら,Cancer,97(10):2530−2543,2003
【非特許文献9】サマック(SMAC),Lancet,350(9092):1647−1654,1997
【非特許文献10】フルスタチ(FRUSTACI)ら,J.Clin.Oncol.,19(5):1238−1247,2001
【非特許文献11】パーバイツ(PERVAIZ)ら,Cancer,113(3):573−581,2008
【非特許文献12】ブローダー(BRODERS)ら,Surg.Gynecol,Obstet.,69:267−280,1939
【非特許文献13】ラッセル(RUSSELLら,Cancer,40(4):1562−1570,1977
【非特許文献14】マークヒデ(MARKHEDE)ら,Cancer,49(8):1721−1733,1982
【非特許文献15】トロジャニ(TROJANI)ら,Int.J.Cancer,33(1):37−42,1984
【非特許文献16】コスタ(COSTA)ら,Cancer,53(3):530−541,1984
【非特許文献17】グイロウ(GUILLOU)ら,J.Clin.Onc.,15(1):350−362,1997
【非特許文献18】コインドレ(COINDRE)ら,Cancer,91(10):1914−1926,2001
【非特許文献19】ヴァント・ベアー(VAN’T VEER)ら,Nature,415(6871):530−536,2002
【非特許文献20】ヴァント・デ・ヴィジュバー(VAN de VIJVER)ら,N.Engl.J.Med.,347(25):1999−2009,2002
【非特許文献21】ニールセン(NIELSEN)ら,Lancet,359(9314):1301−1307,2002
【非特許文献22】バイデ(BAIRD),Cancer Res.,65(20):9226−9235,2005
【非特許文献23】フリッツ(FRITZ)ら,Cancer Res.,62(11):2993−2998,2002
【非特許文献24】マタスハンスキー(MATUSHANSKY)ら,Am.J.Pathol.,172(4):1069−1080,2008
【非特許文献25】シーガル(SEGAL)ら,Am.J.Pathol.,163(2):691−700,2003
【非特許文献26】リー(LEE)ら,J.Cancer,88(4):510−515,2003
【非特許文献27】ナカヤマ(NAKAYAMA)ら,Mod.Pathol.,20(7):749−759,2007
【非特許文献28】シンガー(SINGER)ら,Cancer Res.,67(14):6626−6636,2007
【非特許文献29】リー(LEE)ら,Cancer Res.,64(20):7201−7204,2004
【非特許文献30】フランシス(FRANCIS)ら,BMC Genomics,8:73,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的の1つは、従来技術の欠点を克服するために、より有効であり、信頼でき、かつ再現可能な評価システムを提供することである。本発明の別の目的は、上記評価システムを実施するための手段およびキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
FNCLCC悪性度分類システムがゲノム変化の表現型概要を示し得るという仮定に基づいて、本発明者らは、DNAチップなどの新興技術による分子プロファイルの確立が、同定されるべき腫瘍の攻撃性の起源での変化/遺伝子を可能にし、したがって、分子変化に基づくより効果的な悪性度評価システムを画定する能力を与えることを全く予期せずに発見した;これは、肉腫分析の領域において大きな進歩をもたらす。
【0012】
分子変化を予後に相関させようとする研究数は、十分に確認された腫瘍の同種研究グループを得ることの困難性により限定される一方で、本発明者らは、欧州コンチカベース(European Conticabase)(www.conticabase.org)の一体部分であるGSF(Groupe Sarcome Francais/フランス肉腫グループ)のデータベースにおいて参照される、未処理および完全に確立された、183個の遺伝的に複雑な原発腫瘍からゲノムおよび発現プロファイルを決定する目的で最初のプロジェクトを開始した。グループ分析は、患者の臨床転帰と関連した分子変化を同定するために用いられた。
【0013】
このアプローチは、以下の実験セクションで説明され、特に転移出現を予測するが、なお同じ組織学的悪性度分類の肉腫患者のグループ内で、有意に異なる予後を有するサブグループを区別するために、ゲノムの複雑性、腫瘍の攻撃性、およびその発現プロファイルが肉腫患者の信頼できる予後の確立を可能にしたか、と関連付ける「プール」または「分子署名」と呼ばれる、特定の遺伝子セットを同定することを可能にした。
【0014】
したがって、本発明は、第1に、配列番号1から配列番号67までのポリヌクレオチド配列から選択された少なくとも2つのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドのプールに関する。言い換えれば、本発明に係るポリヌクレオチドのプールは、配列番号1から配列番号67までのポリヌクレオチド配列から選択される2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、または67のポリヌクレオチドを含むことができる。
【0015】
さらに、遺伝子オントロジー(Gene Ontology:GO)データベースによって同定された67個の遺伝子(配列番号1から配列番号67まで)の分析は、それらの全てが、同じ生物学的工程、すなわち、染色体の完全性の調節に関与することを示した。
【0016】
さらに、本発明者らは、これらの遺伝子が、有糸分裂におけるそれらの役割に従って5つの主なグループに区分され得ることを示した:有糸分裂および細胞周期の調節の点(12個の遺伝子、配列番号1〜12);染色体、凝集、アラインメントおよび分離の生物発生(26個の遺伝子、配列番号13〜38);有糸分裂紡錘体および中心体(12個の遺伝子、配列番号39〜50);微小管モーター、キネシン複合体(8個の遺伝子、配列番号51〜58)、および細胞質分裂(4個の遺伝子、配列番号59〜62);最後の5個の遺伝子のうち、実験結果に基づいて一緒にされ(配列番号63〜67)、3個は染色体
不安定性に関与することが知られ(配列番号63〜65)、および2個は本研究に従って、組織学的悪性度分類と関連付けられる(配列番号66および67)。
【0017】
以下の表1は、各遺伝子の名称、5つの主なグループへのそれらの分類、およびそれらの各配列(GenBank参照および配列番号)を示す。
【0018】
【表1】



好都合には、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドを含むことができる。
【0019】
好都合には、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチド、および配列が、本発明との関連で同定された他の62個の遺伝子配列から選択された少なくとも1つの遺伝子を含むことができる。言い換えれば、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドと、配列番号1、配列番号2、配列番号4から配列番号9、配列番号11から配列番号23、配列番号25から配列番号46、配列番号48から配列番号57、および配列番号59から配列番号67の配列から選択される配列を有する少なくとも1つのポリヌクレオチドとを含むことができる。
【0020】
あるいは、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドから構成され得る。言い換えれば、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドだけを含むことができる。
【0021】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチド、および配列が、本発明との関連で同定された他の62個の遺伝子配列から選択された少なくとも1つの遺伝子から構成され得る。言い換えれば、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドと、配列番号1、配列番号2、配列番号4から配列番号9、配列番号11から配列番号23、配列番号25から配列番号46、配列番号48から配列番号57、および配列番号59から配列番号67の配列から選択される配列を有する少なくとも1つのポリヌクレオチドとだけから構成され得る。
【0022】
本発明の別の実施形態によれば、本発明に係るポリヌクレオチドのプールは、ポリヌクレオチドの以下のセット:
セット1:配列番号1から配列番号12まで;
セット2:配列番号13から配列番号38まで;
セット3:配列番号39から配列番号50まで;
セット4:配列番号51から配列番号58まで、および配列番号59から配列番号62
まで;
セット5:配列番号63から配列番号65まで、および配列番号66から配列番号67まで
の各々から選択された少なくとも1つのポリヌクレオチドを含むことができる。
【0023】
本発明の別の実施形態によれば、本発明のポリヌクレオチドのプールは、セット1〜5から選択され得る。言い換えれば、少なくとも2つのポリヌクレオチドのプールは、セット1、セット2、セット3、セット4またはセット5の全部またはその一部から構成され得る。言い換えれば、本発明のプールは、セット1の全部もしくは一部、またはセット2の全部もしくは一部、またはセット3の全部もしくは一部、またはセット4の全部もしくは一部、またはセット5の全部もしくは一部から構成され得る。
【0024】
本発明の別の実施形態によれば、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチド、ならびにセット5から選択された少なくとも1つのポリヌクレオチドを含むことができる。このポリヌクレオチドのプールは、本発明との関連で同定された他の遺伝子の少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0025】
本発明の別の実施形態によれば、ポリヌクレオチドのプールは、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチド、ならびにセット5から選択された少なくとも1つのポリヌクレオチドから構成され得る。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、本発明のポリヌクレオチドのプールは、配列番号1から配列番号67までの配列のポリヌクレオチドを含む。それは、例えば、配列番号1から配列番号67までの配列からなるプールであってもよい。
【0027】
本発明の実施形態にかかわらず、好都合には、ポリヌクレオチドのプールは、最大10個のポリヌクレオチドを好都合に含むことができる。それは、例えば、配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドからなる配列のポリヌクレオチド、ならびに配列番号1、配列番号2、配列番号4から配列番号9、配列番号11から配列番号23、配列番号25から配列番号46、配列番号48から配列番号57、配列番号59から配列番号67から選択される配列の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、最大10個のポリヌクレオチドを含むプールであってもよい。
【0028】
本発明の実施形態にかかわらず、好都合には、本発明のポリヌクレオチドのプールは、支持体、例えば、固体支持体または液体支持体に固定化されている。支持体が液体支持体である場合には、それは、核酸が固定されるビーズを含むことができる。液体媒体は、細胞培養上清、血清、血漿であってもよく、このリストは包括的ではない。それは、例えば、Luminex(登録商標)技術に使用される支持体であってもよい。支持体が固体支持体である場合には、それは、好ましくは、ナイロンメンブレン、ニトロセルロースメンブレン、ガラスプレート、ガラスビーズ、ガラス支持体またはシリコンチップ上のメンブレン、プラスチック支持体からなる群から選択される。特に好ましくは、固体支持体は、核酸チップ、例えば、DNAチップ(または遺伝子チップ、バイオチップ、発現チップとも呼ばれる)であり得る。腫瘍が互いと比較して分類され得る関数として、発現の平均値を決定するために、上記チップは、(i)2つの実験条件:一般的には参照条件と病理学的条件、または(ii)いくつかの腫瘍、との間で、本発明のオリゴヌクレオチドのプールの2またはそれを超えるポリヌクレオチドの発現(差異発現)変化の定量的な測定を可能にする。非制限的な例として、それは、Affimetrix(登録商標)DNAチッ
プ、またはアジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)社のDNAチップであってもよい。
【0029】
本発明者らによって同定された遺伝子は、その全てが同じ生物学的工程に関与し、さらに、転移能獲得の初期段階を標的とする新規な治療的アプローチの潜在的な標的となり得る。さらに、これらの遺伝子の発現プロファイルに基づく患者の生命予後は、非常に初期であるか、またはさらには初期診断中に行うことができる。
【0030】
このようにして、本発明の特定の実施形態によれば、本発明のポリヌクレオチドのプールは、軟部組織肉腫(soft tissue sarcoma:STS)もしくは消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)の検出、予後、診断のため、または軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)患者の治療の監視のために用いることができる。
【0031】
本発明の別の特定の実施形態によれば、本発明のポリヌクレオチドのプールは、軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)の治療を目的とする化合物を得るために用いることができる。
【0032】
一般的にDNA発現チップのデータから、予後グループと関連した発現プロファイルを同定するために、2つの主なアプローチ、不良な予後と直接的に相関される遺伝子の選択を目的とする監視下の下行または「トップダウン」アプローチ(ヴァント・ベアー(VAN’T VEER)ら,2002,前掲;ソチリョウ(SOTIRIOU)ら,J.Natl.Cancer Inst,98(4):262−272,2006)、および特定の生物学的表現型と関連した発現プロファイルが最初に同定され、次に、続いて臨床転帰に関連付けられる監視下の「ボトムアップ」アプローチが使用され得る(ソチリョウ(SOTIRIOU)ら,N.Engl.J.Med.,360(8):790−800,2009)。本発明との関連で、第2の「ボトムアップ」アプローチは、腫瘍発現プロファイルが生物学的表現型(染色体の不安定性、ゲノムの複雑性および組織学的悪性度分類)の関数として比較されるが、遺伝子の直接的な選択の代わりに、試験される表現型に特に関連した生物学的経路が最初に同定され、次に、これらの経路に有意に関与される遺伝子が同定されるという意味において提供された。生物学的経路のこの選択(遺伝子の選択でない)は、転座と関連しない肉腫の選択などの異種のグループにおいて、さらに、GIST(消化管間質腫瘍)および乳癌などの異なるタイプの腫瘍において、本発明の幸運な結果をもたらす重要な工程である。
【0033】
したがって、本発明はまた、ポリヌクレオチドのプール、例えば、本発明に係るポリヌクレオチドのプールを選択するインビトロの方法であって、
a)軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者から得られた腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料の各々において個別に、該ポリヌクレオチドの各々を検出および/または定量する工程;
c)該腫瘍生物試料の各々について、好ましくは染色体の不安定性、ゲノムの複雑性または組織学的悪性度分類の生物学的表現型に関して、工程c)において得られた該ポリヌクレオチドのプールの発現プロファイルを比較する工程;
d)試験された該表現型について、統計学的に有意な(p<10-5)生物学的経路を選択する工程;および
e)この生物学的経路に有意に関与するオリゴヌクレオチドを選択する工程;
を含み、そのポリヌクレオチドの発現が転移出現の可能性を示す、方法に関する。
【0034】
「発現プロファイル」とは、1セットのポリヌクレオチドの発現が決定される場合に得
られる結果の全体性を意味する。上記プロファイルは、定量的な統計分析技術の使用を促進し、結果の迅速な視覚的比較を可能にする。好ましくは、上記プロファイルは、DNAチップなどの固体支持体から得られる。
【0035】
「生物学的表現型」は、本発明の意味において、遺伝的状態の現れ、または染色体によって担持された情報(遺伝子型)の発現を反映する、STSもしくはGIST患者から得られる試料を特徴付ける観察可能な特徴のセットを意味する。
【0036】
「染色体の不安定性」とは、本発明の意味において、クローン性または非クローン性再配列を意味する。この不安定性は、染色体アームの喪失および獲得、ならびに不安定な染色体再配列をもたらす。個々の細胞の核内の染色体の不安定性は、新生組織形成(癌の出現)に関して、後者をより攻撃されやすくなる。この不安定性が見出されるのは腫瘍細胞においてである。
【0037】
「ゲノムの複雑性」とは、本発明の意味において、不均衡数、および関連する染色体断片の性質の決定を意味する。
「組織学的悪性度分類」とは、本発明の意味において、腫瘍増殖の共感性指標、転移の危険性およびアジュバント治療(化学療法)に対する応答を意味する。組織学的または腫瘍の悪性度は、腫瘍を治療するための決定因子である。それは、腫瘍の組織学的試験によって決定され、使用される悪性度評価システムは、例えば、FNCLCCのシステムである。Federation National des Centres delutte contre le Cancer(FNCLCC)によって適合されるこのシステムは、次の3つの特徴に基づいている。
【0038】
【表2】

FNCLCCの軟部組織腫瘍の組織学的悪性度分類は、3つのスコアである「分化」、「有糸分裂指数」および「腫瘍壊死」の合計である:グレード1(全スコア2または3)、グレード2(全スコア4または5)、およびグレード3(全スコア6〜8)。
【0039】
また、本発明は、腫瘍生物試料における、本発明に係るポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定することを含む、軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)を分析するためのインビトロの方法に関する。
【0040】
「腫瘍生物試料」とは、本発明の意味において、任意選択で、STS患者の(i)原発腫瘍、(ii)腫瘍の中央、(iii)中央以外の腫瘍の部位、および(iv)腫瘍組織自体の外側に局在した任意の腫瘍、から得られる組織試料を意味する。上記腫瘍生物試料は、例えば、原発腫瘍から腫瘍細胞または原発腫瘍由来の腫瘍細胞によって生成される腫瘍タンパク質を含む、患者のSTSについて行われる外科手術または腫瘍切除、その後の分析のために、腫瘍組織の一部が患者のSTSから回収される生検;血液試料、例えば、全血、血漿または血清が起源であってもよい。
【0041】
本発明のポリヌクレオチドのプールの発現レベルは、従来技術として知られている任意の方法によって決定することができる。例えば、STS患者から得られる試料における、本発明の分子署名に関わる少なくとも2つのポリヌクレオチドの発現レベルは、ポリヌクレオチドに対応するmRNAおよび/またはポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質のレベルを測定することによって決定することができる。RNAは、当業者によって周知である方法、例えば、AUSUBERら(Curr.Protocols Mol.Biol.,1:4.1.1−4.2.9および4.5.1−4.5.3,John Wiley & Sons,Inc.,1996)に報告されている方法によって試料から単離することができる。本発明を実施するために使用することができる、mRNAの発現レベルを検出する方法は従来技術において周知であり、限定されないが、発現チップ、ノーザンブロッティング、リアルタイム定量的PCR、RT−PCR、タックマン(Taqman)プローブまたは微小流体カードを用いたRT−PCR、および、一般的には、ハイブリダイゼーション技術(すなわち、非共有結合によって互いにハイブリダイズして、二本鎖構造を形成するために完全に相補的であるかまたは十分に相補的である2つの一本鎖ポリヌクレオチドの会合)を含む。
【0042】
好都合には、ポリヌクレオチドのプールが最大10個のポリヌクレオチドを含む場合、本発明のポリヌクレオチドのプールの発現レベルは、規定通りに定量的PCRによって決定することができる。さらに、組織もしくは臓器の試料、または生物試料を含むパラフィンブロックから得られるRNAを用いることが可能である場合がある。
【0043】
本発明によれば、記載される複数のポリヌクレオチドから発現されるmRNA転写物のレベルを決定するための特に有効な方法は、オリゴヌクレオチドチップ(DNAチップ、遺伝子チップ、発現チップとも呼ばれる)への標識されたmRNAのハイブリダイゼーションを伴う。上記方法は、ポリヌクレオチドの発現プロファイルを生じさせるために、複数のポリヌクレオチドの転写レベルの同時決定を提供する。
【0044】
このハイブリダイゼーションの方法に使用されるオリゴヌクレオチドは、一般的には、支持体、例えば、固体支持体または液体支持体に固定される。支持体が液体支持体である場合には、それは、核酸が固定されるビーズを含むことができる。液体媒体は、細胞培養上清、血清、血漿であってもよく、このリストは包括的ではない。それは、例えば、Luminex(登録商標)技術に使用される支持体であってもよい。固体支持体の例としては、限定されないが、メンブラン、フィルター、スライド、ペーパー、ナイロン、ファイバー、磁性であるかどうかにかかわらずにビーズ、ゲル、ポリマーおよび当業者に知られ
ている任意の固体支持体が含まれる。オリゴヌクレオチドが、直接的または間接的に共有結合または非共有結合によって固定化され得る任意の固体支持体を用いることができる。特に有利な固体支持体は、核酸チップ、特にDNAチップからなる。これらのチップは、チップの所定の定位(localization)にある特定のオリゴヌクレオチドプローブを含む。各々の所定の定位は、特定のプローブの1を超える分子を含むことができる。オリゴヌクレオチドが支持体の特定の位置に局在するため、ハイブリダイゼーションプロファイルおよび強度(一緒になって特有の発現プロファイルを形成する)は、特定のポリヌクレオチドの発現レベルに関して解釈することができる。
【0045】
オリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは、本発明のポリヌクレオチドの相補的転写物のみに特異的にハイブリダイズするのに十分な長さを有するものである。「オリゴヌクレオチド」とは、本発明の意味において、一本鎖核酸を意味する。一般には、オリゴヌクレオチドプローブは、16〜20個のヌクレオチド、ある種の場合には最大25個のヌクレオチド、またはさらには最大500個もしくはそれを超えるヌクレオチドからなる。
【0046】
プローブがmRNAまたはcDNAのコピーと接触すると、mRNAまたはハイブリダイズしたcDNAの存在が、従来技術として知られている方法によって検出される。例えば、オリゴヌクレオチドプローブは、1またはそれを超えるマーカーで標識され、ハイブリダイズしたプローブ/標的ポリヌクレオチドの複合体の検出を可能にする。マーカーは、分光的、生化学的、光化学的、生体電子的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段によって検出することができる組成を含むことができる。マーカーの例としては、限定されないが、放射性同位体、化学発光化合物、標識された結合タンパク質、重金属原子、分光学的マーカー、例えば、蛍光マーカーおよび色素、結合酵素、質量分析標識および磁気マーカーが挙げられる。例えば、それは、バイオチップ用にはCy3/Cy5またはアレクサ(Alexa)標識、タックマン(Taqman)プローブ用にはFAM(6−カルボキシフルオロセイン)もしくはTAMRA(テトラ−メチル−6−カルボキシローダミン)であってもよい。
【0047】
発現を監視するためのオリゴヌクレオチドプローブチップは、例えば、ロックハート(LOCKHART)ら、Nature Biotechnol.,14:1675−1680,1996;マックギャル(McGALL)ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,93:13555−13460,1996;米国特許第6,040,138号に報告されているように、従来技術において周知である方法に従って調製および使用されてもよい。上記バイオチップは、例えば、アフィメトリックス(Affymetrix)(カリフォルニア州サンタクララ(Santa Clara)から市販されている。
【0048】
また、本発明の分子署名において関わる2またはそれを超えるポリヌクレオチドによってコードされたタンパク質の発現を検出することができる。これは、例えば、検出可能に標識されているか、または後に標識され得るプローブの使用などの従来技術として周知である方法によって行うことができる。一般に、プローブは、発現されるタンパク質を認識する抗体である。次に、試料中のタンパク質の発現レベルは、抗体を用いた免疫アッセイ技術、例えば、ドットブロッティング、ウェスタンブロッティング、ELISA、免疫組織化学、FACSなどによって決定される。
【0049】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、STSまたはGIST患者の予後の確立を可能にし、特に、転移出現の危険性の決定/予測を可能にする。
「転移出現を予測する」とは、本発明の意味において、STSまたはGIST患者において、1もしくはそれを超える組織または臓器の転移出現の可能性を定量することができるようになる相対値を決定することを意味する。好ましくは、転移出現の予測は、試験さ
れるオリゴヌクレオチドの各々について得られる発現の値から計算される、p値を含む統計値によって表される。
【0050】
別の特定の実施形態によれば、本発明の方法は、STSまたはGIST患者の予後を確立し、特に、初期には同じ組織学的悪性度分類に属するものと見なされる軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)のグループにおける良好または不良の予後のサブグループを区別することができるようになる。
【0051】
「良好な予後」とは、本発明の意味において、患者が、再発、すなわち、治療中または治療後の5〜6年以内の転移出現を示す可能性が低いことを示す、すなわち、有意に異なる長期間の無転移生存を意味する。このようにして、本発明との関連において、STSまたはGIST患者が、本発明の分子署名の遺伝子を低発現し、いずれかのタイプの肉腫の場合の20%未満で転移を発症する可能性が高く、特にGISTの場合には発症しない場合に「良好な予後」のサブグループに属すると考えることができる。反対に、「不良な予後」とは、患者が、治療中または治療後の5〜6年以内に再発(転移出現)を起こす可能性が高いことを示すことを意味する。このようにして、本発明との関連で、STSまたはGIST患者が、分子署名の遺伝子を過剰発現し、少なくとも50%の症例において転移が発症する可能性が高い場合に不良な予後のサブグループに属すると考えられる。
【0052】
好都合には、本発明の方法におけるポリヌクレオチドのプールの発現レベルの決定は、バイオチップ、DNAチップ、遺伝子チップ、発現チップとも呼ばれる核酸チップ上で行われる。上記チップは、(i)患者由来の生物試料から、2つの実験条件、例えば、参照または病理学的実験条件、または(ii)腫瘍が互いに比較して分類し得る関数として、発現の平均値を決定するためにいくつかの腫瘍、の間で、2またはそれを超えるポリヌクレオチドの発現レベルの変化または差次的発現の定量的測定および迅速視覚化を可能にする。非制限的な例として、Affymetrix(商標)DNAチップ、またはアジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)社のDNAチップを用いることができる。
【0053】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)の検出、予後、診断のため、または軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)患者の治療の監視のために使用することができ、この患者由来の生物試料の核酸に対する本発明の方法の適用を含む。
【0054】
また、本発明は、軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者において転移出現を予測するインビトロの方法であって、
a)試験されるべき該患者から予め回収された腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料において、本発明のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、対照の生物試料において測定された同じポリヌクレオチドのプールの発現レベルを比較する工程;
を含み、対照の生物試料において測定された対応する発現レベルと比較した、該オリゴヌクレオチドのプールの発現レベルの脱制御が転移出現を予測する、方法に関する。
【0055】
「発現レベルの脱制御」とは、下記で定義される対照の生物試料において測定される対応の発現と比較して、試験されるべきSTSまたはGIST患者の腫瘍生物試料において測定される本発明によるポリヌクレオチドのプールの2またはそれを超えるポリヌクレオチドの過剰発現または低発現を意味する。具体的には、対照の生物試料のレベルと比較した、試験されるべきSTSまたはGIST患者の腫瘍生物試料における高い発現レベルは、患者が転移を発症する可能性が高いことを示すものであり、すなわち、予後が不良であ
ることを示すのに匹敵する。反対に、対照の生物試料のレベルと比較した、試験されるべきSTSまたはGIST患者の腫瘍生物試料における低い発現レベルは、患者が転移を発症する可能性が低いことを示すものであり、すなわち、予後が良好であることを示すのに匹敵する。
【0056】
「対照の生物試料」とは、本発明の意味において、(i)試験されるべき患者以外のSTSもしくはGIST患者の腫瘍から得られる組織試料、または(ii)健常な対象、すなわち、医師によって診断されたいずれの病理学および病理学的症状を示さない個体からの組織試料を意味する。このようにして、各々の場合における本発明の分子署名の遺伝子の発現レベルの関数として、腫瘍は、互いに比較して分類され得る。
【0057】
また、本発明は、軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者の予後を評価するインビトロの方法であって、
a)試験されるべきSTSまたは消化管間質腫瘍(GIST)患者から予め回収された腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料において、本発明のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、対照の生物試料において測定された同じポリヌクレオチドのプールの発現レベルとを比較する工程;
を含み、対照の生物試料において測定された対応する発現レベルと比較した、該オリゴヌクレオチドのプールの発現レベルの脱制御が、予後が良好であるサブグループまたは予後が不良であるサブグループの特定を可能にする、方法に関する。
【0058】
また、本発明は、軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)を治療するための候補化合物についてスクリーニングするインビトロの方法であって、
a)予め回収された腫瘍生物試料を試験化合物と接触させる工程;
b)該腫瘍生物試料において、本発明のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、該試験化合物と接触していない同じ腫瘍生物試料の発現レベルとを比較する工程;
を含み、該試験化合物の非存在下での該腫瘍生物試料の発現レベルと比較した、該試験化合物の存在下での該腫瘍生物試料における発現レベルの減少が、STSまたはGISTの治療に使用され得る候補化合物を示すものとなる、方法に関する。
【0059】
本発明は、軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者の処置の抗転移有効性を監視するインビトロの方法であって、
a)試験されるべき処置された該患者から予め回収された腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料において、本発明のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、対照の生物試料または処置前の該患者からの腫瘍生物試料の発現レベルを比較する工程;
を含み、該対照の生物試料または該処置前の腫瘍生物試料の発現レベルと比較した、該処置後の腫瘍生物試料の発現レベルの減少が、治療的処置の抗転移有効性を示すものとなる、方法に関する。
【0060】
第4に、本発明は、本発明のポリヌクレオチドのプールを含むキットに関する。
本発明によれば、このキットは、例えば、転移出現をインビトロで予測、および/または軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)患者の予後の評価、および/または軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)患者の治療的処
置の抗転移有効性の監視のために用いることができる。
【0061】
本発明によれば、このキットは、本発明のヌクレオチドのプールの発現を検出および/または定量するための手段をさらに含むことができる。これらの手段は、例えば、上記で定義される手段、または以下の実施例において与えられる手段の1つであってもよい。
【0062】
第5に、本発明は、本発明のポリヌクレオチドのプールを含むまたはそれからなる核酸チップ、具体的にはDNAチップに関する。このDNAチップは、例えば、上記で定義される通りであり、特に支持体に関係しているものであってもよい。
【0063】
好都合には、本発明の核酸チップは、固体支持体に固定された「プローブ」、例えば、cDNAまたはオリゴヌクレオチド(例えば、60〜80塩基、またはそれを超える塩基を有する)を含むことができる。これらの「プローブ」は、ハイブリダイゼーションによって、試験されるべき生物試料に存在する、「標的」、例えば、相補的遺伝子を特異的に固定する。このハイブリダイゼーションは、非共有結合によって互いにハイブリダイズし、二本鎖結合を形成するのに完全に相補的であるかまたは十分に相補的である一本鎖核酸配列の会合を必要とする。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】3タイプのゲノムプロファイル、(a)増幅(16%)、(a)アーム(23%)および(d)再配列(61%)を示す図。
【図2】CINSARCサインに従った異なるグループの肉腫の無転移生存のカプラン−マイヤー(Kaplan−Meier)曲線を示す図。
【図3】CINSARCサインに従った3グループの腫瘍の進行/転移を伴わない生存のカプラン−マイヤー曲線を示す図。
【図4】配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドからなるヌクレオチドのプールによるサインに従った、肉腫グループ(サインが定義された腫瘍グループ)の進行/転移を伴わない生存(治療後の年数を関数として転移なしの症例の%)のカプラン−マイヤー曲線を示す図。曲線Aは、良好な予後である患者の生存の曲線を示し、約80%の症例が5年で転移を伴わないことを示す。曲線Bは、不良な予後である患者の生存の曲線を示し、約50%の症例が5年で転移を伴わないことを示す。
【図5】配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドからなるヌクレオチドのプールによるサインに従った、肉腫グループ(サインの同定と無関係である腫瘍グループ)の進行/転移を伴わない生存(治療後の年数を関数として転移なしの症例の%)のカプラン−マイヤー曲線を示す図。曲線Aは、良好な予後である患者の生存の曲線を示し、約90%の症例が5年で転移を伴わないことを示す。曲線Bは、不良な予後である患者の生存の曲線を示し、約50%の症例が5年で転移を伴わないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
実施例
実施例1:本発明のプール
患者および試料
コンチカベース(www.conticabase.org)の統一体としてのフランス肉腫グループ(groupe sarcome Francais,GSF)のデータベースは、患者、原発腫瘍、治療、追跡調査および腫瘍試料の詳細を含む11のセンターで処置された成人における軟部組織肉腫のデータを含む。このデータベースは、研究時に約3800症例を含んでいた。全ての症例は、病理学者のサブグループによって精査され、これが必要とされるときに、組織学、免疫組織化学および細胞遺伝学ならびに分子遺伝
学を用いて、WHO2002の分類に従って分類された。この研究のために、転移性染色体転座のない軟部組織肉腫が選択され、このための未処置の原発腫瘍の凍結組織試料が利用可能であった。最後に、以下の表2記載された183人の患者から得られた生物試料を調査した。
【0066】
【表3】


DNAチップ上のCGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション(Comparative
Genomic Hybridization))によるDNA抽出および分析
凍結腫瘍組織のゲノムDNAは、フェノール−クロロホルムを用いた抽出用の標準的プロトコールにより単離し、分光光度計(ナノドロップ(Nanodrop))上で分析された。このようにして、DpnII(Ozyme,Saint−Quentin en Yvelines,フランス)で消化し、カラム精製(キアゲン(Qiagen)PCR精製キット、キアゲン(Qiagen)社)後、1.5μgの腫瘍DNAおよび1.5μgの正常なDNAは、バイオプライム(BioPrime)DNA標識システムキット(インビトロゲン社(Invetrogen)、Cergy Pontoise,フランス)を用いて、それぞれCy5−dCTPまたはCy3−dCTP(パーキン・エルマー社(Perkin Elmer))により標識された。標識された正常DNAおよび腫瘍DNAを混合し、100μgのヒトCot−1 DNA(インビトロゲン社(Invetrogen))と共に沈殿させ、72μlのハイブリダイゼーション緩衝液(50%ホルムアミド、40mM NaHPO、0.1%SDS、10%硫酸デキストラン、2×SSC)に再懸濁した。プレハイブリダイズしたプローブをスライドに配置し、高湿度チャンバー(コーニング社(Corning))に置き、37℃にて48時間ハイブリダイゼーションを行った。
【0067】
ゲノムプロファイルを確立するために、3803BAクローンから構成されるBAC(細菌人工染色体)チップを作製し、クローン間で平均1Mbであった。BACクローンを3点測定で配置した。
【0068】
ハイブリダイゼーション後の洗浄は、以下のように行った:0.5×SSC、0.03%SDS中で65℃にて洗浄し、次に、同じ溶液中で45℃にて洗浄した。
スライドをスキャン(スキャナリー(Scanarry)4000XL,パッカード・バイオサイエンス社(Packard Bioscience))し、画像分析ソフトウェアであるジーンピックス・プロ(GenePix Pro)5.1を用いて分析した。標準化、細分類濾過、グループ分析およびグラフ表示は、DNAチップ分析プラットフォーム(CAPWeb)上でCGHを用いて行われた。50%を超える値の欠損があるクローンを廃棄した。2を超えるCy5−Cy3比は、増幅と見なされ、1.2を超え、0.8を下回る比は、それぞれ獲得および喪失と見なされた。
【0069】
DNAチップ上のCGHによる分析(ゲノム変化の計算)は、VAMPインターフェイス(ラ・ロサ(LA ROSA)ら,Bioinformatics,22(17):2066−2073,2006)によって行われた。
RNA抽出および発現分析
総RNAは、トリゾール(TRIzol)試薬(ライフ・テクノロジーズ社(Life
Technologies,Inc.))を用いて、凍結腫瘍試料から抽出された。次に、RNAは、製造業者の使用説明書に従って、RNeasy(登録商標)Min Elute(商標)クリーンアップキット(キアゲン社(Qiagen))を用いて精製され
た。RNAの質は、アジレント(Agilent)2100バイオアナライザー(アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies))で検証された。
【0070】
次に、試料は、製造業者の使用説明書に従って、ヒトゲノムU122プラス2.0チップ(Affimetrix(登録商標))で分析された。DNAチップからの全てのデータは、GCRMAアルゴリズム(ウー(WU)ら,J.Am.Stat.Assoc.,99:909−917,2004)を用いて同時に標準化された。階層的グループ分析は、dChipソフトウェア(http://biosun1.harvard.edu/complab/dchip/)を用いて行われた。ウェルチ(Welch)、ウィルコキソン(Willcoxon)およびサム(SAM)試験について、p値は、ベンジャミン−ホッホベルク(Benjamini−Hochberg)手法(R−マルチテストパッケージ)を用いて調節された。
【0071】
遺伝子オントロジーデータベース(GO;http://www.geneontology.org/)の分析は、GO制限まで統計的増大について行われた。
統計的分析
カイ二乗(χ2)検定は、種々の腫瘍の特徴、ゲノム変化、発現プロファイルおよび臨
床転帰間の結び付きを評価するために行われた。種々の予測因子の相互作用は、上行ロジスティック回帰の検定を用いた多変量分析によって決定された。全ての因子は、ロジスティック回帰の分析に含まれ、単変量分析によって得られるそれらのP値を考慮しなかったが、P値≦5%である因子だけを最終モデルにおいて使用した。無転移生存はカプラン−マイヤー法によって得られ、対数順位検定を用いて比較された。全ての統計的検定は二面的であり、有意閾値はp=0.05であった。全ての統計的分析(ロジスティック回帰モデル)は、SASソフトウェアのバージョン8を用いて行われた。
結果
183個の分化の乏しい肉腫のゲノムプロファイル
183個の分化に乏しい肉腫のゲノムプロファイルは、3803クローンを含むBACチップ上のCGH分析によって確立された。3つの主な再発プロファイルは、同定された変化の数およびタイプの両方に従って、最後に解釈され得る174個のゲノムプロファイルのうちから同定された(図1)。「増幅された」プロファイルと表され、同時増幅に基づき、ほぼ例外なく分化した脂肪肉腫に対応している、単純な遺伝学を有する28個の腫瘍(16%)の第1グループ;「アーム」プロファイルと表され、主に全染色体または染色体の完全なアームの変化を伴う、ある種の変化を有する(30未満)、40個の腫瘍(23%)の第2グループ;「再配列された」プロファイルと表され、30〜85を超える変化を有する高レベルの染色体の複雑性によって特徴付けられる、106個の腫瘍(61%)の第3のグループ。
【0072】
さらに、ゲノムプロファイルが臨床転帰と関連付けられるかどうかを実証されなければならない。
ゲノムプロファイル(「アーム」プロファイル対「再配列された」プロファイル)に従って監視されるグループ分析は、転移出現の有意な予測を可能にしなかった(p=0.17)。興味深いことに、正の相関は、研究の183個の肉腫(p=0.001)において、ならびに「アーム」および「再配列された」プロファイルを有する複雑な遺伝学を伴う手足の117個の肉腫のサブグループ(p=2.2×10-4)において、「再配列された」プロファイルと組織学的悪性度分類3との間に見出された。組織学的悪性度分類が腫瘍攻撃性の間接的な評価であるため、乏しい臨床転帰との相関が観察されなかったとしても、ゲノムの複雑性は腫瘍攻撃性と関連付けられることが示された。
【0073】
さらに、ゲノムの複雑性および/または腫瘍悪性度と関連した遺伝子発現が転移出現を
予測し得るかどうかを実証しなければならない。
予後分子署名の発現プロファイルおよび確立
研究の183個の肉腫の遺伝子発現プロファイルは、複雑なゲノムを有する腫瘍における遺伝子の特定の発現と転移出現との間の相関の仮説を試験するために、再考された。
【0074】
これを行うために、183個の試料は、最初に、染色体の不安定性に結び付けられるように選択された70個の遺伝子から構成される従来確立されたサインの関数として分類された(カーター(CARTER)ら、Nat. Genet.、38(9):1043−1048、2006)。しかし、これは、傾向の予測をもたらしたが、無転移生存を表していなかった。
【0075】
また、第2に、目的は、不均衡レベルと関連し、患者の将来の転帰を予測することができる、肉腫に特異的な一連の遺伝子を確立することであった。3つの監視分析では、発現プロファイルは、i)CGH不均衡の数、20未満の不均衡対35を超える不均衡、ii)組織学的悪性度分類FNCLCC3対腫瘍悪性度2、およびiii)カーター(Carter)サインに従って、2つのグループに分類された腫瘍について分析された。最初の2つの比較から、86遺伝子に対応する118個のクローンおよび73遺伝子に対応する92クローンは、それぞれ、CGH不均衡(差次的発現因子(=遺伝子がより多く発現される回数)>3;または無し、p<0.01)によって、または悪性度(差次的発現因子>2;p<0.01)によって階層化された腫瘍間で異なる様式で有意に発現された。次に、これらの遺伝子は、CGH不均衡および組織学的悪性度分類と関連した経路を決定することを目的として、遺伝子オントロジーデータベースによって分析された。興味深いことに、これらの経路は、CGH不均衡に従って決定されたグループ、および組織学的悪性度分類の比較によって決定されたグループにおいて非常に類似し、主に染色体の完全性および有糸分裂の制御に関与している(表3)。カーターサインの遺伝子のうち、22遺伝子は、最初の2つの比較においてまだ同定されてなく、肉腫の2つのグループ間で異なる様式で有意に発現された(p<10-5)。
【0076】
これらの結果に基づいて、最初の2つの比較から有意に過剰表現された経路に属する全ての重要な遺伝子(p<10-5、表3)、および上記で画定されたカーターサインの22遺伝子が選択された。
【0077】

【表4】



本発明者らによってCINSARC(複雑性インデックス肉腫(Complexity
INdex SARComas))と指定されたこの最終セットの遺伝子は、67遺伝子からなり、全てがゲノムの調節に関与する。
実施例2:CINSARCによる肉腫における転移出現の予測
CINSARC発現サインと転移出現との相関は、研究の全グループ(183個の肉腫)において評価された。グループ分析は、転移出現における有意差を用いて、3つのサブグループ(サブグループ1、2、3)に腫瘍を分類することを可能にした(図2)。多価分析は、サブグループ3の腫瘍が、サブグループ1の腫瘍と比較して、転移の危険性が3倍あることを示した(カプラン−マイヤー分析;HR=3.01;95% CI[1.8−5.2];p<10-3)。また、組織学的タイプ、FNCLCC腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、局在、血管、神経または骨への浸潤、性別および年齢などの他の標準的な予後因子を考慮する多価分析は、サブグループ1と比較して、サブグループ3についての転移の危険性が3倍を超えることを示した(Coxモデル;HR=3.1;95% CI[1.8−5.4],p<10-3)。これらの結果は、CINSARCサインが転移の発症と強く関連付けられた独立した予後因子であることを示した。
【0078】
独立した予後因子としてのCINSARCサインのこの検証後、肉腫の6個の特定のサブグループはまた、非監視グループ分析によって試験された(図2)。手足の117個の遺伝子的に複雑な肉腫のうち、単変量分析は、2つのサブグループにおいて腫瘍を分け、サブグループ2対サブグループ1についての転移の危険性が3倍を超えることを示した(カプラン−マイヤー分析;HR=3.1;95%CI[1.6−6.0];p<10-3)。同様に、52個の平滑筋肉腫のうち、異なる有意な臨床転帰の3つのグループ分析によって試験された(p=0.001)が見出された(サブグループ2は、ほぼ例外なく、他の2つのサブグループについて胴体外部の代わりに、胴体内部に発症したLMSからなる)。また、胴体外部のLMSだけが非監視グループ分析において考慮される場合、36人の患者は、転移危険性の6倍の差を有する2つのサブグループに分けられる(カプラン−マイヤー分析;HR=6;95% CI[2.1−16.9];p<10-3)。
【0079】
また、CINSARCサインの実効性は、同じ組織学的悪性度分類の患者について分析された(図2)。悪性度3の腫瘍(100症例)のうち、3倍を超えて高い転移の危険性は、サブグループ2の腫瘍対サブグループ1の腫瘍において観察され(カプラン−マイヤー分析;HR=3;95%CI[1.6−5.6];p<10-3)、アームまたは再配列されたプロファイルを有する悪性度2の腫瘍(40症例)(すなわち、DD−LPSを除く全て)のうち、患者はまた、異なる臨床転帰の2つのグループに分けられた(カプラン−マイヤー分析;HR=2.6;95%CI[1−7.5];p=0.05)。無転移生存は、CINSARCサインに従って分けられた脱分化した脂肪肉腫の2つのグループにおいて有意に異なっていない。
【0080】
このようにして、本発明のCINSARCサインは、FNCLCC悪性度分類システム
に従って同じ転移潜在力を有すると考えられた腫瘍(図2)を転移出現の異なる可能性を有する2つグループに分けることができるようになった。CINSARCサインが、治療戦略を決定するために現在使用されているものよりも有効なシステムであり得ることは明確に実証されるため、恐らくは最も重要である。
【0081】
さらに、肉腫の領域で初めて、遺伝子発現プロファイルが、FNCLCC悪性度分類システムを用いて得られたものよりも良好な臨床予後に帰すると考えられる。したがって、様々な組織タイプを組み合わせる全グループにおいて、CINSARCサインは、不良な予後を有する腫瘍のサブグループを同定することができるようになり、一方、FNCLCC悪性度分類システムは、別の予後を有するこれらの腫瘍を区別することができなかった(データ示さず)。
実施例3:CINSARCによる他の癌における転移出現の予測
他の肉腫におけるCINSARCの予測値を試験し、一連の32個のGISTを分析した(ヤマグチ(YAMAGUCHI)ら,J;Clin.Oncol.,26(25):4100−4108,2008)。図3に示されるように、CINSARCサインは、異なる予後を有するGISTの2つのグループへと導く非監視階層的グループ分析を可能にした(p<10-3)。興味深いことに、この分類は、小腸のGISTおよび胃のGISTが各々の異なる予後グループにおける2つの別々のグループを形成するとしても、局在とは独立している。
【0082】
CINSARCサインは、専ら染色体の完全性に関与した遺伝子から構成され、発現は染色体の不均衡と関連しているため、CINSARCサインはまた、大きく再配列された腫瘍、例えば、乳腺癌について予後値を有することができる。結果として、オランダ癌センター(Cancer Institute of the Netherlands)の2つの一連の乳癌(78および295症例)(ヴァント・ベアー(VAN’T VEER)ら,2002,前掲;ヴェン・デ・ヴィジュバー(VAN de VIJVER)ら,2002,前掲)はCINSARCサインに従って集められ、再度、非常に有意に異なる臨床転帰(p<10-3)を有する患者の2つのグループが得られた(図3)。
【0083】
本研究において実証されたように、CINSARCサインは、転移出現の良好な評価、ならびにFNCLCC悪性度分類システムと比較した患者に良好な臨床予後の帰属を与える、力強い独立した予測ツールである。したがって、この新しい分子悪性度評価システムは、患者の臨床的アフターケアを改善する可能性がなければならない。さらに、CINSARCサインの遺伝子の生物学的有意性は、転移能の獲得の初期段階を標的とする新規な治療的アプローチの潜在的な標的として、それらを画定する。
【0084】
CINSARCサインが、このような腫瘍の異種グループ(肉腫から癌腫まで)の全域で転移出現と関連しているという事実は、既存の組織学的悪性度分類評価システムに代わって、転移の危険性が高い患者を特定し、さらなる化学療法戦略を標的とするためのこの発現プロファイルの使用を想定することを十分に促している。
【0085】
現在の治療戦略は、外科的切除およびアジュバントまたは非アジュバント状態における化学療法/放射線両方を組み合わせている。しかしながら、高い転移能を有する肉腫だけがこのような治療が有益である可能性がある。これは、現在、イマチニブを用いたアジュバント治療が再発の危険性が高い腫瘍について検証を受けているGISTの場合である。しかしながら、現在使用されているシステムは不完全である。CINSARCサインの使用は、これらの患者の選択を改善し、したがって、アジュバント療法の恩恵を増大させることができた。
【0086】
したがって、特に、標的とされた治療が既に存在するGIST(消化管間質腫瘍)に関
して、アジュバント治療の許容性についての主要な決定基準として、CINSARCサインを用いることに非常な関心がある(Glivec(登録商標))。
実施例4:CINSARCサイの5個のポリヌクレオチドのプールの助けによる肉腫における転移出現の予測
CINSARCの配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列の5個のポリヌクレオチドの発現サインと転移出現との相関が2つの一連の肉腫において評価された(図4および5)。グループ分析は、腫瘍を2つのサブグループ(サブグループAおよびB)に分類することを可能とし、転移出現において有意差があった。中心に最も近づく方法(method of nearest centers)による分析は、サブグループBにおける腫瘍がサブグループAにおける腫瘍と比較して転移の危険性がより大きいことを示した。これらの結果は、5つの遺伝子を用いてCINSARCサインが、転移の発症と強く関連した、独立した予後因子であることを示した。
【0087】
これは、5つの遺伝子のCINSARCサインが、治療戦略を決定するために現在使用されているものよりも効果的なシステムであり得ることを明確に実証している限りにおいて、重要な結果である。
【0088】
さらに、肉腫の領域において初めて、遺伝子発現プロファイルがFNCLCC悪性度分類システムを用いて得られたものよりも良好な臨床予後に帰すると考えられる。このようにして、異なる組織タイプを組み合わせている全グループにおいて、CINSARCサインは、不良な予後を有する腫瘍のサブグループを同定することができるようになり、一方、FNCLCC悪性度分類システムは、異なる予後を有するこれらの腫瘍を分離することができなかった(データは示さず)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から配列番号67までのポリヌクレオチド配列から選択された少なくとも2つのポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドのプール。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドのプールは配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項3】
以下のポリヌクレオチドのセット:
セット1:配列番号1から配列番号12まで;
セット2:配列番号13から配列番号38まで;
セット3:配列番号39から配列番号50まで;
セット4:配列番号51から配列番号58まで、および配列番号59から配列番号62まで;
セット5:配列番号63から配列番号65まで、および配列番号66から配列番号67まで;
の各々から選択された少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項4】
配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドと、前記セット5の少なくとも1つのポリヌクレオチドとを含む、請求項3に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項5】
セット1:配列番号1から配列番号12まで;または
セット2:配列番号13から配列番号38まで;または
セット3:配列番号39から配列番号50まで;または
セット4:配列番号51から配列番号58まで、および配列番号59から配列番号62まで;または
セット5:配列番号63から配列番号65まで、および配列番号66から配列番号67まで;
から選択された少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項6】
最大10個のポリヌクレオチドを含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項7】
配列番号10、配列番号3、配列番号47、配列番号58、および配列番号24からなる配列のポリヌクレオチドからなる、請求項1に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項8】
配列番号1から配列番号67までの配列のポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項9】
固体支持体または液体支持体に固定化されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプール。
【請求項10】
軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)の治療を目的とする化合物を得るための、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールの使用。
【請求項11】
生物試料における、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールの
発現レベルを決定することを含む、軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)を分析するインビトロの方法。
【請求項12】
前記発現レベルの決定が転移出現の予測を可能にする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記発現レベルの決定が、同じ組織学的悪性度分類の軟部組織肉腫(STS)のグループまたは消化管間質腫瘍(GIST)のグループのうち、予後が良好または不良であるサブグループの区別を可能にする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記発現レベルの決定が核酸チップ上で行われる、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)の検出、予後診断、および診断のうちの少なくとも一つのための、または軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)患者の治療の監視のための、請求項11に記載の方法の使用。
【請求項16】
軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者において転移出現を予測するインビトロの方法であって、
a)試験されるべき該患者から予め回収された腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料において、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、対照の生物試料において測定された同じポリヌクレオチドのプールの発現レベルを比較する工程;
を含み、対照の生物試料において測定された対応する発現レベルと比較した、該オリゴヌクレオチドのプールの発現レベルの脱制御が、転移出現を予測する、方法。
【請求項17】
軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者の予後を評価するインビトロの方法であって、
a)試験されるべき該STS患者から予め回収された腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料において、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、対照の生物試料において測定された同じポリヌクレオチドのプールの発現レベルを比較する工程;
を含み、対照の生物試料において測定された対応する発現レベルと比較した、該オリゴヌクレオチドのプールの発現レベルの脱制御が、予後が良好であるサブグループまたは予後が不良であるサブグループの特定を可能にする、方法。
【請求項18】
軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)を治療するための候補化合物についてスクリーニングするインビトロの方法であって、
a)腫瘍生物試料を試験化合物と接触させる工程;
b)該腫瘍生物試料において、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、該試験化合物と接触していない同じ腫瘍生物試料の発現レベルを比較する工程;
を含み、該試験化合物の非存在下での該腫瘍生物試料の発現レベルと比較した、該試験化合物の存在下での該腫瘍生物試料における発現レベルの減少が、STSまたはGISTの治療に使用され得る化合物を示すものとなる、方法。
【請求項19】
軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者の処置の抗転移有効性を監視するインビトロの方法であって、
a)試験されるべき処置された該患者から予め回収された腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料において、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールの発現レベルを決定する工程;および
c)工程b)において得られた発現レベルと、対照の生物試料または処置前の該患者からの腫瘍生物試料の発現レベルを比較する工程;
を含み、該対照の生物試料または該処置前の腫瘍生物試料の発現レベルと比較した、該処置後の腫瘍生物試料の発現レベルの減少が、治療的処置の抗転移有効性を示すものとなる、方法。
【請求項20】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールを選択するインビトロの方法であって、
a)軟部組織肉腫(STS)または消化管間質腫瘍(GIST)患者から得られた腫瘍生物試料を提供する工程;
b)該腫瘍生物試料の各々において個別に、該ポリヌクレオチドの各々を検出および/または定量する工程;
c)該腫瘍生物試料の各々について、生物学的表現型、好ましくは染色体の不安定性、ゲノムの複雑性または組織学的悪性度分類に関して、工程c)において得られた該ポリヌクレオチドのプールの発現プロファイルを比較する工程;
d)試験された該表現型について、統計学的に有意な経路(p<10-5)を選択する工程;および
e)この生物学的経路に有意に関与するポリヌクレオチドを選択する工程;
を含み、前記ポリヌクレオチドの発現が転移出現の可能性を示す、方法。
【請求項21】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールを含むキット。
【請求項22】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のヌクレオチドのプールの発現を検出するかまたは定量するかの少なくとも一方を行う手段を含む、転移出現のインビトロでの予測、軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)患者の予後の評価、および軟部組織肉腫(STS)もしくは消化管間質腫瘍(GIST)患者の治療的処置の抗転移有効性の監視のうちの少なくとも一つのためのキット。
【請求項23】
固体支持体または液体支持体に固定化されている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのプールを含む核酸チップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−524537(P2012−524537A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506544(P2012−506544)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000323
【国際公開番号】WO2010/122243
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(503127873)ユニヴェルシテ ボルドー セガラン (7)
【出願人】(511256082)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT BERGONIE
【出願人】(508034266)
【Fターム(参考)】