説明

肌のシミュレーション画像の形成方法

【課題】角質水分変化量を直接的に反映させた肌のシミュレーション画像を形成する。
【解決手段】肌の元画像に対して角質水分量が変化した肌のシミュレーション画像の形成方法が、元画像の内部反射光画像と表面反射光画像を取得し、元画像の内部反射光画像の明るさを取得し、その明るさを、角質水分変化量(ΔC)の関数F(ΔC)から算出される調整量ΔLで調整すると共に、元画像の内部反射光画像のPSF(Point-Spread Function)を取得し、そのPSFを、角質水分変化量(ΔC)の関数G(ΔC)から算出される調整量ΔPSFで調整し、一方、元画像の表面反射光画像の強度を取得し、その強度を角質水分変化量(ΔC)の関数H(ΔC)から算出される調整量ΔSで調整し、明るさとPSFを調整した内部反射光画像と、強度を調整した表面反射光画像とを再合成することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角質水分量の変化量を肌のシミュレーション画像に反映させる方法とそのためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被験者の画像を撮ってこれを元画像とし、画像処理により明度、色相、PSF(Point-Spread Function)等の光学物性を変化させて元画像を修正することがなされている。
【0003】
同様の画像処理により肌のシミュレーション画像を形成する方法も提案されており、例えば、肌に基礎化粧を施した場合の明度、色相等の光学物性値の変化に関するデータベースを構築しておき、そのデータベースに基づいて特定の基礎化粧を施した場合の光学物性値を得、その光学物性値を用いてシミュレーション画像を形成する方法(特許文献1)や、基礎化粧を施した場合のメラニン成分量やヘモグロビン成分量の変化に関するデータベースを構築しておき、そのデータベースに基づいて特定の基礎化粧を施したときのメラニン成分量やヘモグロビン成分量の変化量を得、これらの変化量に基づいて元画像の内部反射光の色素成分を制御し、シミュレーション画像を形成する方法(特許文献2)等がある。
【0004】
一方、肌の角質水分量は、肌の透明感やはり等に影響することが知られており(特許文献3、特許文献4)、基礎化粧には保湿剤が広く使用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−203238号公報
【特許文献2】特開2002−200050号公報
【特許文献3】特開2004−215991号公報
【特許文献4】特開2002−102177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、角質水分量が肌の見え方にどのように影響するかについては、大まかな傾向がわかっているにすぎず、数値として得られる角質水分変化量を直接的にシミュレーション画像に反映させることはこれまでになされていない。
【0007】
そこで、本発明は、角質水分変化量を直接的に反映させた肌のシミュレーション画像を形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、肌の角質水分変化量は、肌画像において、内部反射光画像の明るさとPSF、及び表面反射光画像の強度に影響し、これら3つの光学物性を角質水分変化量に基づいて調整すると、角質水分量が特定量変化した場合の画像を良好にシミュレーションできること、また更に、表面反射光画像の強度については、その標準偏差を角質水分変化量に基づいて調整すると、より良好なシミュレーション画像を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、肌の元画像に対して角質水分量が変化した肌のシミュレーション画像の形成方法であって、
元画像の内部反射光画像と表面反射光画像を取得し、
元画像の内部反射光画像の明るさを取得し、その明るさを、角質水分変化量(ΔC)の関数F(ΔC)から算出される調整量(ΔL)で調整すると共に、元画像の内部反射光画像のPSF(Point-Spread Function)を取得し、そのPSFを、角質水分変化量(ΔC)の関数G(ΔC)から算出される調整量(ΔPSF)で調整し、
元画像の表面反射光画像の強度を取得し、その強度を角質水分変化量(ΔC)の関数H(ΔC)から算出される調整量(ΔS)で調整し、
明るさとPSFを調整した内部反射光画像と、強度を調整した表面反射光画像とを再合成してシミュレーション画像を形成する方法を提供する。また更に、元画像の表面反射光画像の強度の標準偏差を角質水分変化量(ΔC)の関数H(ΔC)から算出される調整量(ΔS)で調整することにより表面反射光画像の強度を調整する態様を提供する。
【0010】
また、本発明は、肌の元画像に対して角質水分量が変化した肌のシミュレーション画像を形成するシステムであって、
(1)肌の元画像、並びに、元画像の内部反射光画像及び表面反射光画像を形成することのできる画像形成手段、
(2)元画像の内部反射光画像の明るさ(L0)を取得する手段、
(3)内部反射光画像のPSF(P0)を取得する手段、
(4)元画像の表面反射光画像の強度(S0)を取得する手段、並びに、
(5)角質水分変化量(ΔC)の関数F(ΔC)から内部反射光画像の明るさの調整量(ΔL)を算出し、この調整量(ΔL)で内部反射光画像の明るさ(L0)を調整すると共に、角質水分変化量(ΔC)の関数G(ΔC)から内部反射光画像のPSFの調整量(ΔP)を算出し、この調整量(ΔP)で内部反射光画像のPSF(P0)を調整し、角質水分変化量(ΔC)の関数H(ΔC)から表面反射光画像の強度の調整量(ΔS)を算出し、この調整量(ΔS)で表面反射光画像の強度(S0)を調整し、明るさとPSFを調整した内部反射光画像と強度を調整した表面反射光画像とを再合成してシミュレーション画像を形成する手段を有する演算手段、
を備えた肌のシミュレーション画像の形成システムを提供する。また更に、(4)元画像の表面反射光画像の強度(S0)を取得する手段と共に、該強度(S0)の標準偏差を取得する手段を備え、
(5)演算手段が、強度を調整した表面反射光画像として、表面反射光画像の強度の標準偏差を調整した画像を形成するシステムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肌のシミュレーション画像の形成方法によれば、元画像の内部反射光画像の明るさ及びPSF、並びに表面反射光画像の強度を、それぞれ角質水分変化量(ΔC)の関数から得られる調整量で調整するので、角質水分変化量(ΔC)を直接的に反映させた肌のシミュレーション画像を形成することができる。
【0012】
ここで、内部反射光画像の明るさ及びPSF、並びに表面反射光画像の強度のいずれか一つでも調整をすることなくシミュレーション画像を形成すると、明るさ、マット感、透明性等が、角質水分量を実際にΔCだけ変化させた肌の画像と異なって見える場合があるが、本発明によれば、内部反射光画像の明るさ及びPSF並びに表面反射光画像の強度の全てを角質水分変化量(ΔC)に基づいて調整するので、角質水分量を変化させた画像のシミュレーションを良好に行うことができる。
【0013】
また、本発明の肌のシミュレーション画像の形成システムによれば、本発明の肌のシミュレーション画像の形成方法を良好に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例の肌のシミュレーション画像の形成システム100における処理の流れの説明図である。
【0016】
このシステム100は、画像形成手段1、演算手段20及びディスプレイ30を備え、さらに角質水分量計測装置40、データベース50及びプリンタ(図示せず)を備えている。
【0017】
画像形成手段1は、白色通常光による肌画像(元画像)、集光照射による肌の内部散乱光画像、並びに肌の内部反射光画像及び表面反射光画像を形成するものである。かかる画像形成手段1は、任意の白色光源、集光光又は平行光を作ることのできるレンズ系、偏光板及びデジタルカメラから構成することができ、例えば、図2Aに示したように、ハロゲン、メタルハライド等の白色光源2、白色光源2から導光した光を一端から出射し、点光源3として機能する光ファイバー(直径0.01〜1mm)4、点光源3から出射された光を集光する集光レンズ5、集光レンズ5の後段に設けられたコリメータレンズ7、集光レンズ5とコリメータレンズ7との間に設けられた絞り6、コリメータレンズ7により形成された平行光を試料Sとする肌に集光する集光レンズ8、受光角(θ)が例えば45°の向きに設置されたデジタルカメラ10、点光源3とデジタルカメラの前にそれぞれ設けられた偏光板11、12を備えている。ここで、集光レンズ8、偏光板11、12は、着脱自在となっている。また、コリメータレンズ7と集光レンズ8との間にも、必要に応じて、光量調節及びレンズの収差低減のための絞りが設けられる(図示せず)。
【0018】
この画像形成手段1において、図2Aに示すように、集光レンズ8が光路に設置されている場合には、試料Sには集光光が照射されるが、図2Bに示すように、集光レンズ8が光路から外された場合には、試料Sには、コリメータレンズ7から平行光が照射されることとなる。そこで、この画像形成手段1において、集光照射による肌の内部散乱光画像は、図2Aに示すように偏光板11、12を光路から外し、光路内に集光レンズ8を設置し、試料Sに集光光を照射し、その内部散乱光をデジタルカメラ10で撮る。あるいは、点光源3の前の偏光板11とデジタルカメラ10の前の偏光板12を、双方の偏光方向が直交するように装着して表面反射光成分が除去されるようにし、光路内に集光レンズ8を設置し、試料Sに集光光を照射し、その内部散乱光をデジタルカメラ10で撮る。
【0019】
一方、内部反射光画像は、図2Bに示すように、集光レンズ8を光路から外し、点光源3の前の偏光板11とデジタルカメラ10の前の偏光板12を、双方の偏光方向が直交するように装着し、表面反射光成分を除去することにより形成し、表面反射光画像は、集光レンズ8を光路から外し、点光源3の前の偏光板11とデジタルカメラ10の前の偏光板12を、双方の偏光方向が同じになるようにして装着することにより得た画像と、双方の偏光方向が直交するようにして得た画像との差分から形成する。
【0020】
なお、内部反射光画像、表面反射光画像は、光源として図2Bに示すような平行光を使用することが望ましいが、レンズ等を使わず、通常の蛍光灯のような白色光源を使用してもよい。この場合にも、光源の前とカメラの前に偏光板を装着することにより内部反射光画像、表面反射光画像を得ることが出来る。
【0021】
また、受光角(θ)が0°から90°の範囲で所定の角度となるように、デジタルカメラ10の向きを変えても良く、試料Sを回転させても良く、試料Sを照射する照射光の角度を変化させても良い。
【0022】
点光源3として機能する光ファイバー4については、これを、光ファイバーを束ねたライトガイドに代えてもよい。ただし、光源の大きさを補正する操作が必要になることがある。
【0023】
演算手段20は、シミュレーション画像の形成に必要な演算機能及び画像処理機能を備えたパーソナルコンピュータからなっている。即ち、この演算手段20は、元画像の内部反射光画像の明るさ(L0)の取得手段として、画像形成手段1で形成した内部反射光画像のRGB信号から、公知の方法によりL***表色系のL*値やXYZ表色系のY値等を算出する機能を有し、元画像の表面反射光画像の強度(S0)の取得手段として、画像形成手段1で形成した表面反射光画像のRGB信号の信号強度を算出する機能を有する。
【0024】
また、演算手段20は、元画像の内部反射光画像のPSFの取得手段として、画像形成手段1で形成した集光照射による内部散乱光画像において内部散乱光の後方反射量を計測すること(ビデオリフレクトメトリ法)により減衰係数(μeff)を算出し、さらにPSFを算出する機能を有する。より具体的には、例えば、集光照明による内部散乱光の動径方向の輝度分布を図3のように求め、必要に応じて、γ補正、暗電流補正等を行い、得られた輝度分布に対して、市販の科学的グラフ解析ソフトを使用し、次式(7)
【0025】
【数1】

(式中、r:動径距離(独立変数)
y:輝度(従属変数)
k:パラメータ )
で非線形曲線にフィッティングし、減衰係数(μeff)を算出し、この減衰係数(μeff)からPSFを取得する。
【0026】
この他、元画像の内部反射光画像のPSFを取得する手段としては、所謂ブラインドデコンボリューションによりPSFを算出する機能を搭載してもよいが、PSFと角質水分変化量との対応の点から前述のように減衰係数(μeff)を算出し、さらにPSFを算出する手法が好ましい。
【0027】
演算手段20は、さらにコンボリューション演算機能及びデコンボリューション演算機能を有する。ここで、コンボリューション(Convolution)は、畳み込み積分とも言われ、入力関数に対して重みづけを行い、出力関数を求める操作である。一方、デコンボリューション(Deconvolution)はコンボリューションの逆操作、即ち出力関数と重み関数とから入力関数を求める操作であり、劣化画像の復元に応用されている。
【0028】
また、演算手段20は、角質水分変化量(ΔC)に応じて、元画像の内部反射光画像の明るさ(L0)の調整量を算出する関数F(ΔC)及びPSF(P0)の調整量を算出する関数G(ΔC)、並びに表面反射光画像の強度(S0)の調整量を算出する関数H(ΔC)を有している。
【0029】
これらの関数F(ΔC)、G(ΔC)、H(ΔC)は、肌に水分供給をしたり、肌を乾燥状態においたりすることにより肌の角質水分量を種々変化させた場合の内部反射光画像の明るさ(L)及びPSF(P)、並びに表面反射光画像の強度(S)と角質水分変化量(ΔC)との関係を多数取得し、そのデータ解析により得られるものであり、好ましくは、被験者の年齢、肌のタイプ(脂性か乾燥肌か)等に応じて関数を複数種持つことが好ましい。また、表面反射光画像の強度(S)については、その標準偏差と角質水分変化量(ΔC)との関数H(ΔC)を求め、それに基づいて表面反射光画像の強度の標準偏差を調整することが好ましい。
【0030】
これらの関数F(ΔC)、G(ΔC)、H(ΔC)は、より具体的には、例えば、次の式(1)、式(3)、式(5)で表される。なお、このように内部反射光画像の明るさの調整量(ΔL)及びPSFの調整量(ΔP)、並びに表面反射光画像の強度の調整量(ΔS)が、それぞれ角質水分変化量(ΔC)の関数で表されることは、本発明者が見出したものである。
【0031】
【数2】

(式中、ΔC:角質水分変化量
ΔL:内部反射光画像の明るさの調整量
a,b:それぞれ係数 )
【0032】
【数3】

(式中、ΔC:角質水分変化量
ΔP:内部反射光画像のPSFの調整量
c,d:それぞれ係数
μeff1:シミュレーション画像のμeff
μeff0:元画像のμeff
関数G’は、μeff1、μeff0のそれぞれのPSFをP1(x,y)、P0(x,y)とし、
そのフーリエ変換をFP1(u,v)、FP0(u,v)としたときの
ΔFP(u,v)=FP1(u,v)/FP0(u,v)
の逆フーリエ変換ΔP(x,y)を求める関数 )
【0033】
【数4】

(式中、ΔC:角質水分変化量
ΔS:表面反射光画像の強度の調整量
e,f:それぞれ係数 )
【0034】
ここで、角質水分変化量(ΔC)は、角質水分量を変化させる前と後の角質水分量を所定の方法で測定した場合の測定値の差である。角質水分量の測定方法としては、コンダクタンス法、赤外法等をあげることができ、市販の測定器を使用することができる。なお、角質水分量の測定値は、測定方法によって異なる場合が多いので、本発明のシステムに備える角質水分量計測装置40は、これらの関数の取得に使用した測定器と同種のものとすることが好ましい。
【0035】
演算手段20は、こうして算出される内部反射光画像の明るさの調整量(ΔL)及びPSFの調整量(ΔP)、並びに表面反射光画像の強度の調整量(ΔS)に基づき、元画像の肌に対して角質水分量をΔCだけ変化させた場合のシミュレーション画像の内部反射光画像と表面反射光画像を形成し、これを再合成してシミュレーション画像を完成する演算機能を有する。
【0036】
より具体的には、画像処理により、シミュレーション画像の内部反射光画像の明るさ(L1)を次式(2)、PSF(P1)を次式(4)、表面反射光画像の強度(S1)を次式(6a)又は(6b)で得られる値に調整し、調整後の内部反射光画像と表面反射光画像を再合成する。
【0037】
【数5】

(式中、L1:シミュレーション画像の内部反射光画像の明るさ
0:元画像の内部反射光画像の明るさ
ΔL:内部反射光画像の明るさの調整量 )
【0038】
【数6】

(式中、
1(u,v):シミュレーション画像の内部反射光画像i1(x,y)のフーリエ変換画像
0(u,v):元画像の内部反射光画像i0(x,y)のフーリエ変換画像
FP0(u,v):元画像の内部反射光画像のPSFのフーリエ変換画像
FP1(u,v):シミュレーション画像の内部反射光画像のPSFのフーリエ変換画像
ΔFP(u,v):PSFの調整量ΔPのフーリエ変換画像 )
【0039】
なお、式(4)による内部反射光画像のPSFの調整は、元画像の内部反射光画像のフーリエ変換画像I0(u,v)を、まず元画像のPSFのフーリエ変換画像FP0(u,v)でデコンボリューションしてPSFの影響を取り除いた画像を形成し、それを算出されたPSFのフーリエ変換画像FP1(u,v)でコンボリューションすることを意味しており、最終的にシミュレーション画像の内部反射光画像のフーリエ変換画像I1(u,v)を逆フーリエ変換して内部反射光画像i1(x,y)を得、さらにその明るさを式(2)で調整してシミュレーション画像の内部反射光画像を得る。
【0040】
【数7】

(式中、S1:シミュレーション画像の表面反射光画像の強度
0:元画像の表面反射光画像の強度
ΔS:表面反射光画像の強度の調整量
1:係数
2:係数
3:係数
g:係数 )
【0041】
これらの式(6a)と(6b)は、シミュレーション画像における表面反射光画像の強度S1はΔSの一次式でも、二次式でも表せることを意味している。いずれを使用するかは、求める精度によって適宜定める。
【0042】
また、例えば、てかりの強い頬の肌の表面反射光画像とマットな頬の肌の表面反射光画像が、それぞれ図8の強度分布(a)、(b)を示すように、表面反射光画像は、表面反射光の強度と度数のヒストグラムで表した場合の平均強度と標準偏差で特徴づけること(言い換えれば、明るさの平均値と標準偏差で特徴づけること)ができ、この標準偏差の角質水分変化量に基づく調整によっても、次式(8)のように、表面反射光画像の強度を調整することができる。
【0043】
【数8】


(式中、ΔS:表面反射光画像の強度の調整量
:係数
:係数)
【0044】
標準偏差を調整した表面反射光画像は、市販の画像解析ソフト(例えば、Photoshop(Adobe社製))等により、肌の表面反射光画像のヒストグラムの標準偏差が所定量(Sd0+ΔS;Sd0は表面反射光画像の強度の標準偏差の初期量を表す)になるようにコントラストを変化させる手法によっても得ることができる。
【0045】
表面反射光画像の強度の調整は、好ましくは、平均強度と標準偏差の双方により行う。
【0046】
一方、本発明のシステム100においてデータベース50は、多数の被験者の肌について、肌に水分を供給するか、あるいは肌を乾燥させる所定の取り扱いを施した場合に、その取り扱いの前後で肌の角質水分量、内部反射光画像の明るさ、PSF、並びに表面反射光画像の強度を測定し、取り扱いとそれによる角質水分変化量(ΔC)および各画像の調整量ΔL、ΔP、ΔSを求めるための係数a〜g、d1〜d3との関係を、被験者の年齢、肌のタイプ(脂性肌か乾燥肌か)等ごとに蓄積し、データベース化したものである。このデータベース50によれば、所定の角質水分変化量(ΔC)を指定することにより、その角質水分変化量(ΔC)をもたらす肌の取り扱い方法を得ることができ、また、所定の取り扱い方法を指定することにより、その取り扱い方法によりもたらされる角質水分変化量(ΔC)を得ることができる。
【0047】
そして、このシステム100では、元画像の肌に対して施す取り扱いおよび被験者の年齢、肌のタイプ(脂性肌か乾燥肌か)等を演算手段20に入力すると、それに対応する角質水分変化量(ΔC)および各画像の調整量ΔL、ΔP、ΔSを求めるための係数a〜g、d1〜d3がデータベース50から出力され、これに基づいて内部反射光画像の明るさの調整量(ΔL)及びPSFの調整量(ΔP)、並びに表面反射光画像の強度の調整量(ΔS)が算出されるようになっている。
【0048】
ディスプレイ30には、画像形成手段1で形成された元画像、演算手段20で形成されたシミュレーション画像、あるいはその形成の過程で使用される内部反射光画像、表面反射光画像等が、適宜切り替え、あるいは同時に表示される。
【0049】
本発明の肌のシミュレーション画像の形成方法は、例えば、上述のシステム100を用いて、図1のフローで次のように行われる。
【0050】
まず、シミュレーション画像を形成する被験者の肌の通常光による画像(元画像)を、画像形成手段1により、白色光源下で偏光板を使用することなく撮る。また、被験者の肌の角質水分量を角質水分量計測装置40で測定し、被験者の肌が乾燥状態にあるのか、湿潤状態にあるのか等を知り、例えば、乾燥状態にある場合には、所定の保湿化粧料の塗布を所定期間行った場合に増加する角質水分変化量(ΔC)および各画像の調整量ΔL、ΔP、ΔSを求めるための係数a〜g、d1〜d3をデータベース50から得、この角質水分変化量(ΔC)に対応するシミュレーション画像を次にように形成する。即ち、まず、画像形成手段1において、偏光板11、12を用い、白色平行照明下で被験者の肌の画像を撮ることにより、その肌の内部反射光画像と表面反射光画像を得る。
【0051】
また、元画像の内部反射光画像のPSFを得るために、画像形成手段1で偏光板11、12を使用せずに肌に白色集光光を照射してその内部散乱光画像を撮り、演算手段20で、内部散乱光の後方反射量を計測して図3に示すような動径方向の輝度分布を得、前述の式(7)で非線形曲線にフィッティングし、減衰係数(μeff)を算出する。また、肌に白色集光光を照射してその内部散乱光画像よりPSF(P0)を得る。
【0052】
なお、内部反射光画像のPSFはこの方法に限らず、例えば、所謂ブラインドデコンボリューションによりPSFを算出してもよく、次の(i)〜(iii)方法で取得してもよい。
(i)測定対象物の等価散乱係数μs’(あるいは散乱係数μsと非等方散乱係数g)及び吸収係数μaを取得し、モンテカルロシミュレーション(Lihong Wang, Steven L. Jacques; http://omlc.ogi.edu/pubs/pdf/man_mcml.pdf)により、PSFを求める。
(ii)測定対象物を構成する散乱粒子径、粒子および媒体の屈折率を取得し、Mie散乱計算(Scott Prahl;http://omlc.bme.ogi.edu/software/mie/)により、等価散乱係数μs’(あるいは散乱係数μsと非等方散乱係数g)及び吸収係数μaを求め、(1)と同様にPSFを求める。
(iii)測定対象物の等価散乱係数μs'(あるいは散乱係数μsと非等方散乱係数g)及び吸収係数μaを取得し、解析解(S. L. Jacques, A. Gutsche, J. A. Schwartz, L. H. Wang and F. K. Tittel: ゛Video-reflectometry to extract optical properties of tissue in vivo," Medical Optical Tomography: Functional Imaging and Monitoring, IS11 of SPIE Institute Series (SPIE, Bellingham, 1993) pp. 211-226)により、PSFを求める。
【0053】
さらに、元画像の内部反射光画像の明るさ(L0)と表面反射光画像の強度(S0)を、それぞれ内部反射光画像と表面反射光画像のRGB信号から算出しておく。この場合、内部反射光画像の明るさとしては、L***表色系のL*値やXYZ表色系のY値等を使用する。
【0054】
次に、元画像の内部反射光画像の明るさ(L0)とPSF(P0)をそれぞれ角質水分変化量(ΔC)で調整し、シミュレーション画像の内部反射光画像を得る。
【0055】
ここで、明るさの調整は、前述の式(1)により明るさの調整量(ΔL)を求め、式(2)の明るさ(L1)に調整することにより行う。
【0056】
また、PSFの調整は、前述の式(3)によりPSFの調整量(ΔP)を求め、式(4)により調整後のPSF(P1)を有するシミュレーション画像を算出する。なお、元画像に対する明るさの調整とPSFの調整は、いずれを先にしてもよい。
【0057】
また、元画像の内部反射光に対する明るさとPSFの調整は、元画像をさらに独立成分分析により色素成分画像(即ち、メラニン成分画像とヘモグロビン成分画像)と陰影成分画像に分離し、色素成分画像と陰影成分画像のいずれについても、明るさとPSFの調整を行ってもよい。これにより、メラニン成分画像とヘモグロビン成分画像のそれぞれを、より適した明るさとPSFに調整することができる。
【0058】
なお、独立成分分析とは、皮膚の層構造をメラニンを主な色素成分として含有する表皮層と、ヘモグロビンを主な色素成分として含有する真皮層と、その他の色素成分を含有する皮下組織との積層構造であるとモデル化し、各層から独立的に信号が発せられ、それらが混合したものが画像信号になっていると考え、画像信号から各層の信号を分離抽出する分析方法である。この解析処理と画像処理の詳細はVol. 16, No. 9/ September 1999/ J. Opt. Soc. Am. A 2169に記載されており、パーソナルコンピュータに、市販の画像解析ソフト(例えば、Photoshop(Adobe社製))を搭載することにより行うことができる。
【0059】
一方、元画像の表面反射光画像については、まず、式(5)で強度の調整量(ΔS)を求め、式(6a)又は式(6b)で元画像の強度(S0)を調整し、シミュレーション画像の表面反射光画像を得る。
【0060】
こうして得られたシミュレーション後の内部反射光画像と表面反射光画像を再合成することによりシミュレーション画像を得、ディスプレイ30に表示する。
【0061】
この肌のシミュレーション画像の形成方法及びシステムは、美容アドバイス、化粧料の推奨、化粧料の開発等で有用となる。例えば、美容アドバイザーは、化粧料の使用あるいは不使用による角質水分量の変化で肌の見え方が変わることを被験者に説明し易くなり、被験者は、化粧料の使用あるいは不使用により角質水分変化量が変化した状態の自分の肌画像を実感することが可能となり、化粧料の研究者は化粧料がもたらす角質水分変化量と、それによる肌の見え方との関係を活かして製品開発をすることが可能となる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0063】
実施例1
25名の被験者(25〜39歳、女性、乾燥肌)の顔の肌にスキンケア製剤を4週間連続使用するスキンケア試験をし、このスキンケア試験の前後で、各被験者の肌画像を偏光板を使用することなく白色光源下でデジタルカメラで撮ると共に、偏光板を用いて肌の内部反射光画像と表面反射光画像を撮った。さらに、頬部の角質水分量を水分測定器(IBS社製 SKINCON−200)で測定した。この水分測定により、角質水分量(コンダクタンス)の平均値が48μSから75μSに上昇したことがわかった。
【0064】
また、スキンケア試験の前後の肌について、(a)分光反射率の測定、(b)内部反射光画像の画像信号に基づく明るさ(L***表色系のL*)の計測、(c)表面反射光画像の画像信号に基づく強度の計測、(d)集光光の照射による内部散乱光の動径方向の輝度分布曲線の取得と、それに基づく減衰係数(μeff)とPSFの算出を行った。これらの結果を図4〜図7に示す。
【0065】
図4から、4週間のスキンケア試験により、反射率が全体として高くなり、白色成分が増加しているといえるから、このスキンケア試験により色素成分の増減はなく、色素以外の要因で肌が明るくなったことがわかる。
【0066】
図5から、スキンケア試験により内部反射光画像の明るさ(L*)が明るくなり、図6から1/μeff(即ち、光の広がりやすさ)が大きくなり、図7から表面反射光画像の強度が小さくなっていることがわかる。
【0067】
以上により、スキンケア試験による角質層の水分増加により角質層の散乱性が変化して1/μeffが増加し、内部反射光が増えて内部反射光画像が明るくなり、また、表面反射光が減少してその強度が低下したと考えられる。
【0068】
次に、上記25名と異なる特定の被験者について、スキンケア試験前の画像を元画像として、角質水分変化量が特定量(ΔC)の場合のシミュレーション画像を次のように形成した。
【0069】
まず、図5の結果から、内部反射光画像の明るさの調整量(ΔL)と角質水分変化量(ΔC)との関係式として、次式1’を得、
【0070】
【数9】

【0071】
図6からスキンケア試験前後の減衰係数(μeff)を求め、これと角質水分変化量(ΔC)との関係式として次式(3’)を得、次いで前述のように内部反射光画像のPSFの調整量(ΔP)を求めた。
【0072】
【数10】

【0073】
図7の結果から、表面反射光画像の強度の調整量(ΔS)と角質水分変化量(ΔC)との関係式として、次式5’を得た。
【0074】
【数11】

【0075】
そして、スキンケア試験前の内部反射光画像の明るさ(L0)を次式(2)で調整し、
【0076】
【数12】

【0077】
前述の次式(4)により、スキンケア試験後のPSF(P1)を有するシミュレーション画像の内部反射光画像を形成した。
【0078】
【数13】

【0079】
【数14】

【0080】
こうして形成したシミュレーション画像の内部反射光画像と表面反射光画像を合成し、シミュレーション画像を形成した。
【0081】
比較例1
内部反射光画像の明るさの調整を行わない以外は実施例1と同様にして、シミュレーション画像を形成した。
【0082】
比較例2
内部反射光画像のPSFの調整を行わない以外は実施例1と同様にして、シミュレーション画像を形成した。
【0083】
比較例3
表面反射光画像の強度の調整を行わない以外は実施例1と同様にして、シミュレーション画像を形成した。
【0084】
対比
実施例1及び比較例1〜3で得られたシミュレーション画像と、実際にスキンケア試験後に撮った被験者の肌画像とを対比した。その結果、比較例1のシミュレーション画像は実際のスキンケア試験後の肌画像に対して暗く、比較例2のシミュレーション画像はしわや毛穴が目立つ画像となり、比較例3のシミュレーション画像はつやが目立つとなった。これに対して、実施例1のシミュレーション画像は、明るさ、透明感、マット感のいずれについても実際のスキンケア試験後の肌画像を良好に再現できていた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、角質水分量変化量を直接的に反映させたシミュレーション画像を形成するものであり、美容アドバイス、化粧料の推奨、化粧料の開発等で有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】肌のシミュレーション画像の形成システムにおける処理の流れの説明図である。
【図2A】画像形成手段の構成図である。
【図2B】画像形成手段の構成図である。
【図3】集光照明による内部散乱光の動径方向の輝度分布図である。
【図4】スキンケア試験前後における分光反射率の測定図である。
【図5】スキンケア試験前後の肌の内部反射光画像の明るさを示す図である。
【図6】スキンケア試験前後の肌の内部反射光画像の光の広がりやすさ(1/μeff)を示す図である。
【図7】スキンケア試験前後の肌の表面反射光画像の強度を示す図である。
【図8】てかりのつよい頬の肌の表面反射光画像における表面反射光強度と度数のヒストグラム(同図a)及びマットな頬の肌の表面反射光画像における表面反射光強度と度数のヒストグラム(同図b)である。
【符号の説明】
【0087】
1 画像形成手段
2 白色光源
3 点光源
4 光ファイバー
5 集光レンズ
6 絞り
7 コリメータレンズ
8 集光レンズ
10 デジタルカメラ
11 偏光板
12 偏光板
20 演算手段
30 ディスプレイ
40 角質水分量計測装置
50 データベース
100 肌のシミュレーション画像の形成システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌の元画像に対して角質水分量が変化した肌のシミュレーション画像の形成方法であって、
元画像の内部反射光画像と表面反射光画像を取得し、
元画像の内部反射光画像の明るさを取得し、その明るさを、角質水分変化量(ΔC)の関数F(ΔC)から算出される調整量(ΔL)で調整すると共に、元画像の内部反射光画像のPSF(Point-Spread Function)を取得し、そのPSFを、角質水分変化量(ΔC)の関数G(ΔC)から算出される調整量(ΔP)で調整し、
元画像の表面反射光画像の強度を取得し、その強度を角質水分変化量(ΔC)の関数H(ΔC)から算出される調整量(ΔS)で調整し、
明るさとPSFを調整した内部反射光画像と、強度を調整した表面反射光画像とを再合成してシミュレーション画像を形成する方法。
【請求項2】
元画像の表面反射光画像の強度の標準偏差を角質水分変化量(ΔC)の関数H(ΔC)から算出される調整量(ΔS)で調整することにより表面反射光画像の強度を調整する請求項1記載の方法。
【請求項3】
肌の内部反射光画像を色素成分画像と陰影成分画像に分離し、
内部反射光画像の明るさの調整とPSFの調整を、それぞれ色素成分画像と陰影成分画像の一方又は双方について行う請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
複数の被験者の肌に所定の取り扱いを施し、その取り扱いの前後で角質水分量を測定することにより、その取り扱いと、それによる角質水分変化量との関係を求めておき、その関係に基づいて、当該被験者について肌に所定の取り扱いを施した場合の角質水分変化量を求め、その角質水分変化量から、被験者の肌に所定の取り扱いを施した場合の肌のシミュレーション画像を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
肌の元画像に対して角質水分量が変化した肌のシミュレーション画像を形成するシステムであって、
(1)肌の元画像、並びに、元画像の内部反射光画像及び表面反射光画像を形成することのできる画像形成手段、
(2)元画像の内部反射光画像の明るさ(L0)を取得する手段、
(3)内部反射光画像のPSF(P0)を取得する手段、
(4)元画像の表面反射光画像の強度(S0)を取得する手段、並びに、
(5)角質水分変化量(ΔC)の関数F(ΔC)から内部反射光画像の明るさの調整量(ΔL)を算出し、この調整量(ΔL)で内部反射光画像の明るさ(L0)を調整すると共に、角質水分変化量(ΔC)の関数G(ΔC)から内部反射光画像のPSFの調整量(ΔP)を算出し、この調整量(ΔP)で内部反射光画像のPSF(P0)を調整し、角質水分変化量(ΔC)の関数H(ΔC)から表面反射光画像の強度の調整量(ΔS)を算出し、この調整量(ΔS)で表面反射光画像の強度(S0)を調整し、明るさとPSFを調整した内部反射光画像と強度を調整した表面反射光画像とを再合成してシミュレーション画像を形成する手段を有する演算手段、
を備えた肌のシミュレーション画像の形成システム。
【請求項6】
(4)元画像の表面反射光画像の強度(S0)を取得する手段と共に、該強度(S0)の標準偏差を取得する手段を備え、
(5)演算手段が、強度を調整した表面反射光画像として、表面反射光画像の強度の標準偏差を調整した画像を形成する請求項5記載の形成システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−105457(P2007−105457A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251480(P2006−251480)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】