説明

肌のシミュレーション画像形成方法

【課題】コンピュータを用いた画像処理により、肌の自然な質感や色を保持しつつシミ等の色ムラを増減させたシミュレーション画像を形成する。
【解決手段】被験者の肌について内部反射光画像と表面反射光画像を取得し、内部反射光画像から独立成分分析により少なくとも1つの色素成分の成分画像(例えば、メラニン成分内部反射光画像)を抽出し、抽出した色素成分画像を複数の空間周波数帯域に分解し、該一又は複数の帯域の画像について、画素強度の度数分布求め、
その度数分布を、ピークを含む中央部領域とその外側の端部領域の少なくとも2つの領域に分け、
端部領域の度数分布を変化させ、次いで各画像を再合成することにより肌の色ムラ又はテクスチュアを変化させたシミュレーション画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌のシミュレーション画像において、質感や肌色としての自然さを保持しつつ、肌の色ムラやテクスチャを変化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎化粧やメイクアップにより毛穴、シミ等が目立たなくなった肌や、日焼け等によりシミができた肌の様子を画像として把握できるようにするため、肌のシミュレーション画像が形成される。
【0003】
肌のシミュレーション画像の形成方法としては、種々の肌について基礎化粧で変わり得る測色値の変化をデータベース化し、そのデータベースに基づいて当該顧客の素肌の顔画像の測色値を画像処理で変化させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、データベースの構築にあたり、肌の内部反射光のメラニン成分量とヘモグロビン成分量を使用する方法も提案されている(特許文献2)。
【0005】
一方、コンピュータグラフィックス技術の進展に伴い、皮膚の層構造やそれに基づく反射特性等を考慮し、人肌の画像を従前よりも自然なテクスチャで再現することが可能となってきている。しかしながら、実際の肌に見られるシミやニキビ等の肌の空間的分布の再現は手作業で行われているのが実情である。即ち、肌のシミュレーション画像の形成において、肌色を全体として褐色にする、あるいは明るくする等の色の調整は自動的に行うことができるが、シミ等の部分的な色ムラについては、手作業で画像上に分布させなくてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−203238号公報
【特許文献2】特開2002−200050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、コンピュータを用いた画像処理により、肌の自然な質感や色を保持しつつ、シミ等の色ムラやテクスチャを変化させたシミュレーション画像を形成できるようにすること、さらには、色ムラやテクスチャを変化させることにより、特定の主観価値を与えるシミュレーション画像を形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、肌の内部反射光画像のうち、メラニン成分やヘモグロビン成分等、特定の色素成分が寄与している画像を抽出し、それを複数の空間周波数帯域に分解し、色ムラの大きさに対応する周波数帯域の画像について画素強度の度数分布を求め、その度数分布を特定の領域で変化させ、再度画像を合成することにより、シミュレーション画像上で肌の自然な質感や色を保持しつつ、毛穴、シミ、ニキビ痕等による色ムラやテクスチャを変化させられることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、被験者の肌について内部反射光画像と表面反射光画像を取得し、
内部反射光画像から独立成分分析により少なくとも1つの色素成分の成分画像を抽出し、
抽出した色素成分画像を複数の空間周波数帯域に分解し、
該一又は複数の帯域の画像について、画素強度の度数分布を求め、
その度数分布を、ピークを含む領域とその外側の端部領域の少なくとも2つの領域に分け、
いずれかの領域の度数分布を変化させ、
次いで各画像を再合成することにより肌の色ムラ又はテクスチュアを変化させたシミュレーション画像を形成する肌のシミュレーション画像形成方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、肌の内部反射光画像のうち、特定の色素成分画像を複数の空間周波数帯域の画像に分解し、該一又は複数の帯域の画像について、画素強度の度数分布を求め、その度数分布を、ピークを含む領域とその外側の端部領域の少なくとも2つの領域に分け、いずれかの領域における度数分布を関数で近似した場合の該関数の種類及びパラメータの数値と、肌の主観評価値とを対応させたデータベースを構築し、被験者の肌の内部反射光画像から得られる特定の色素成分画像の特定の周波数帯域の画素強度の度数分布を前記データベースに基づいて変化させ、特定の主観評価値を有する肌のシミュレーション画像を形成する、肌のシミュレーション画像形成方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、偏光を用いて肌の内部反射光画像と表面反射光画像を形成することのできる画像形成手段、
画像形成手段により取得した画像に基づいて肌のシミュレーション画像を形成する演算手段、及び
シミュレーション画像を表示するディスプレイ
を備えた肌のシミュレーション画像形成システムであって、
演算手段が、
内部反射光画像から独立成分分析により少なくとも1つの色素成分の成分画像を抽出し、
抽出した色素成分画像を複数の空間周波数帯域に分解し、
該一又は複数の帯域の画像について、画素強度の度数分布を求め、
その画素強度の度数分布を、ピークを含む領域とその外側の端部領域の少なくとも2つの領域に分け、
該いずれかの領域の度数分布を変化させ、
次いで各画像を再合成することにより肌の色ムラ又はテクスチュアを変化させたシミュレーション画像を形成する肌のシミュレーション画像形成システムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定の演算手段を組み込んだコンピュータの処理により、被験者の肌画像上で、その肌の質感や地肌の色の自然さを損なうことなく、毛穴、シミ、ニキビ痕等、メラニンに起因する色ムラや、ニキビの発疹、鬱血など血液に起因する色ムラによるテクスチャを変化させたシミュレーション画像を形成することができる。
【0013】
また、実際の肌において、毛穴、シミ、ニキビ痕等による色ムラには種々の大きさのものがあるが、本発明によれば、特定の大きさの色ムラを生成、増加、減少、あるいは消失させることができる。またこれにより、肌の色素分布のランダムさに由来するテクスチャも変化させることができる。
【0014】
したがって、本発明によれば、シミュレーション画像上に手作業で毛穴、シミ等を分布させることが不要となり、特定の主観価値を与えるシミュレーション画像を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】肌のシミュレーション画像形成方法の工程図である。
【図2】独立成分分析の説明図である。
【図3】シミの少ない肌(a)とその画素強度のヒストグラム(b)である。
【図4】シミの目立つ肌(a)とその画素強度のヒストグラム(b)である。
【図5】実施例1の5階層の空間周波数帯域の画素強度のヒストグラムである。
【図6】第3階層と第4階層における、ピークを含む領域Aと端部領域Bの分割の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0017】
図1は、本発明の一態様の肌のシミュレーション画像形成システムとそこで行われる肌のシミュレーション画像形成方法の工程図である。
【0018】
このシステムは、偏光を用いて肌の内部反射光画像と表面反射光画像を形成することのできる画像形成手段1、画像形成手段1により取得した画像に基づいて肌のシミュレーション画像を形成する演算手段2、及びシミュレーション画像を表示するディスプレイ3からなっている。
【0019】
画像形成手段1は、より具体的には、照明用の光源4、デジタルカメラ5、光源4とデジタルカメラ5の前面にそれぞれ着脱自在に設けられた偏光板6、7から構成することができる。
【0020】
また、演算手段2としては、後述する画像処理機能を備えたパーソナルコンピュータを使用することができる。パーソナルコンピュータには、被験者の通常画像、内部反射光画像、表面反射光画像、シミュレーション画像等を適宜切り替え、あるいは同時に表示することのできるディスプレイ3を接続し、さらに、プリンタを接続してもよい。
【0021】
このシステムにおいて、肌のシミュレーション画像の形成には、まず、被験者の素肌について、内部反射光画像と表面反射光画像を取得する。
【0022】
内部反射光画像は、デジタルカメラ5の前面の偏光板7を、光源4の前面の偏光板6に対して偏光方向が直交するように装着し、表面反射光成分を除去することにより形成することができる。なお、シミュレーション対象とする肌の部位に制限はなく、顔、腕、胸元等任意の部位とすることができる。また、画像を取得し、シミュレーション画像を形成する領域は、画像形成領域の全域でもよく一部でもよい。
【0023】
表面反射光画像は、デジタルカメラ5の前面の偏光板7を、光源4の前面の偏光板6と偏光方向が同じになるように装着して得た画像と、偏光板7を偏光板6と偏光方向が直交するように装着して得た画像との差分から形成することができる。
【0024】
なお、画像形成手段1では、参照用に、偏光板6、7を用いることなく撮影を行い、通常画像も取得することが好ましい。
【0025】
次に、演算手段2により、内部反射光画像に対して独立成分分析を行い、内部反射光画像から少なくとも一つの色素成分の成分画像を抽出する。例えば、内部反射光画像をメラニン成分内部反射光画像とヘモグロビン成分内部反射光画像と影成分内部反射光画像に分離し、シミ等のメラニンによる色ムラをシミュレーション画像で変化させる場合には、メラニン成分内部反射光画像を抽出する。また、ニキビによる赤み、細い血管が浮き上がったように見える線状の赤み、鬱血等のヘモグロビンによる色ムラをシミュレーション画像で変化させる場合には、ヘモグロビン成分内部反射光画像を抽出する。
【0026】
ここで、独立成分分析とは、皮膚の層構造を、メラニンを主な色素成分として含有する表皮層と、ヘモグロビンを主な色素成分として含有する真皮層と、その他の色素成分を含有する皮下組織との積層構造であるとモデル化し、各層から独立的に信号が発せられ、それらが混合したものが画像信号になっていると考え、画像信号から各層の信号を分離抽出する分析方法である。
【0027】
より具体的には、画像信号のRGBについて、−log(R)、−log(G)、−log(B)をそれぞれx軸、y軸、z軸に割当て、肌の平坦部分の肌色をそこに色空間マッピングすると図2(a)に示すように、ほぼ平面状に分布することから、肌色には2成分が寄与していることがわかる。この独立的な2成分の信号強度を、それぞれメラニン量あるいはヘモグロビン量に対応するものと考え、図2(b)に示すように、肌色は、メラニンの成分ベクトル(-log(B)に近い方)とヘモグロビンの成分ベクトル(-log(G)に近い方)の合成ベクトルであると考える。そこで、個々の被験者の内部反射光画像の信号から、メラニン量を表す信号あるいはヘモグロビン量を表す信号を抽出し、メラニン成分量の分布画像とヘモグロビン成分量の分布画像を出力する。但し、起伏や照明ムラのある場合には、あらかじめ取得した光源成分のベクトルの方向に沿って、メラニン、ヘモグロビン両ベクトルを含む平面上に射影して陰影成分を除去したメラニン、ヘモグロビン両成分量を得る。また、内部反射光画像からメラニン成分量の分布画像とヘモグロビン成分量の分布画像を差し引くことにより、陰影成分の内部反射光画像を得る。
【0028】
このような解析処理と画像処理の詳細はVol. 16, No. 9/ September 1999/ J. Opt. Soc. Am. A 2169に記載されており、パーソナルコンピュータに、市販の画像解析ソフト(例えば、AdobePhotoshop)を搭載することにより行うことができる。
【0029】
次に、抽出した色素成分画像の一又は複数画像を、例えば画像ピラミッド法により複数の空間周波数帯域に分解する(D.J.Heeger, J.R.Bergen, COMPUTER GRAPHICS PROCEEDINGS,p229-238(1995))。
【0030】
画像ピラミッド法は、サブバンド変換の一種で、高解像度から低解像度までの解像度の異なる複数のサブバンドの集合に画像を分解し、それぞれのサブバンドを他のサブバンドと独立的に処理し、分解したサブバンドを再合成する手法である。画像ピラミッドには、ガウシアンピラミッド、ラプラシアンピラミッド、スティーラブルピラミッド等、その基底関数によって様々な種類がある。本発明においては、シミ等の肌の色素分布に方向性がないと考えられ、色ムラに対しては等方的な周波数情報を保持するガウシアンピラミッドやラプラシアンピラミッドを用いることが好ましく、また、線状の色ムラに対しては、線状のフィルターを使用するスティーラブルピラミッドを用いることが好ましい。
【0031】
画像ピラミッド法でメラニン成分内部反射光画像を複数の空間周波数帯域に分解するにあたり、好ましい空間周波数帯域の設定は、着目する色ムラの大きさ、撮影倍率等に応じて適宜定めることができる。例えば、例えば、着目する肌の色ムラが、直径0.5mm程度の毛穴、直径数mm程度の小さいシミ、直径数mm〜十数mm程度の大きいシミの3種類であるならば、それぞれをシミュレーション画像上で増減させる場合に、最も細かい毛穴の大きさを充分再現できる高い解像度の画像を取得し、対象とする色ムラの画像上での大きさに対応して3つの帯域に分けることが好ましい。
【0032】
こうして画像ピラミッド法により分解した空間周波数帯域の異なる画像は、それぞれ特定の色素成分に由来する、大きさの異なる色ムラの情報と、肌の色素分布のランダムさに由来するテクスチャの情報を保持している。
【0033】
特に、メラニン成分に由来する色ムラについては、複数の空間周波数帯域に分解した画像のうち、色ムラの大きさに対応する帯域の画像について画素強度の度数分布を求めると、例えば、図3(a)に示すようにシミの少ない肌の場合、図3(b)に示すように、直径1.5〜3.0mmの色ムラに対応する空間周波数帯域の画像の画素強度のヒストグラムのように、画素強度の度数分布が左右対称となるのに対し、図4(a)に示すように外見上シミの目立つ肌の場合、図4(b)に示す同帯域の画像のヒストグラムのように、画素強度の高い領域に特異的な度数分布が見られる(破線で囲った領域)。また、白斑のある肌の場合、画素強度の低い領域に特異的な度数分布が見られる(図示せず)。なお、図3(a)、図4(a)は、特開2002−200050号公報記述の偏光板を用いた撮影方法で得られた肌画像から、メラニン成分を抽出して得た画像である。
【0034】
そこで、本発明では、複数の空間周波数帯域に分解した画像のうち、色ムラの大きさに対応する、一又は複数の空間周波数帯域の画像について、画素強度の度数分布を求め、画素強度の度数分布を、ピークを含む中央部領域Aとその外側の端部領域Bの少なくとも2つの領域に分け、いずれかの領域、例えば端部領域Bの度数分布を変化させ、次いで各画像を再合成する。この端部領域Bは、ピークを含む領域Aの高画素強度側でもよく、低画素強度側でもよく、その双方でもよい。これにより、特定の空間周波数帯域に対応する大きさの濃色又は白斑のムラを選択的に生成、増加、減少あるいは消失させることができる。また、端部領域Bとともにピークを含む領域Aも変化させることで肌の持つ年齢印象を変化させることもできる。
【0035】
ここで、ピークを含む領域Aは、ピークを中心とする左右対称な関数F1(ガウス分布等)で近似でき、その外側の端部領域Bは、非対称な別個の関数F2(指数関数等)で近似することができる。そこで、端部領域Bの度数分布を変化させる手法としては、端部領域Bを任意の関数で近似し、その関数のパラメータを変化させることが好ましい。これにより、パラメータの値と、色ムラの生成、増加、減少あるいは消失を関連づけることができる。また、ピークを含む領域Aと端部領域Bとの境界を双方の関数の交点とすることができるので、端部領域Bの度数分布の変化量と色ムラの状態を調べるにあたり、端部領域Bの位置を明確に定義することができる。
【0036】
このようにして度数分布を変化させた後の、各画像の再合成の方法は、例えば、複数の帯域に分解したメラニン成分内部反射光画像を合成してメラニン成分の修正内部反射光画像を形成し、さらに、この画像とメラニン成分以外の内部反射光画像(具体的には、ヘモグロビン成分内部反射光画像と陰影成分内部反射光画像)を合成することにより合成内部反射光画像を形成し、合成内部反射光画像と元の表面反射光画像を合成することにより肌の色ムラを変化させたシミュレーション画像を形成する。
【0037】
こうして得られた肌のシミュレーション画像は、元画像の肌の質感や肌の色を保持しつつ色ムラだけが増加あるいは減少した自然な印象の画像となる。
【0038】
また、本発明の肌のシミュレーション画像形成方法によれば、シミュレーション画像の形成に用いる画素強度の度数分布と、そのシミュレーション画像の肌の主観的評価値とを対応させたデータベースを構築することができる。そして、例えば化粧品売場の店頭において、顧客の肌の内部反射光画像から得られる特定の周波数帯域の画素強度の度数分布を前記データベースに基づいて変化させ、顧客が望む主観評価値の肌、美容部員が顧客に推奨したい主観評価値の肌等をシミュレーション画像として表示し、顧客に認識してもらうのに役立てることができる。ここで、肌の主観評価値とは、肌の見え方を一対比較法、系列範疇法、マグニチュード推定法などの官能評価手法で評価した数値をいう。
【0039】
また、種々の化粧品と、その使用により変化し得る毛穴やシミの主観的評価と、前述の端部領域Bあるいは中央部領域Aを近似する関数とそのパラメータについてデータベースを構築し、あるいは特定の化粧品の継続使用日数とその場合の毛穴やシミの目立ち程度の変化と、前述の端部領域Bあるいは中央部領域Aを近似する関数とそのパラメータについてデータベースを構築し、これらのデータベースに基づいて、顧客に対し、特定の化粧品を使用することにより改善された肌のシミュレーション画像を提示し、その化粧品を推奨するといった化粧品の推奨、販売に役立てることができる。
【0040】
さらに、種々の肌について、見えに関する主観評価値や年齢と、前述の端部領域B又は中央部領域Aを近似する関数とそのパラメータについデータベースを構築することにより、年齢による肌の見え方の変化を客観的指標で調べることができる。
【0041】
実施例1
日本人女性100名を被験者とし、その頬部位の画像を、デジタルカメラに偏光板を用いて0.1mm/画素の解像度で取得(30mm/256画素)し、その内部反射光画像について、独立成分分析をすることによりメラニン成分内部反射光画像とヘモグロビン成分内部反射光画像と陰影成分内部反射光画像を得、メラニン成分内部反射光画像をラプラシアンピラミッド法により5階層の空間周波数帯域に分解し、その画素強度の度数分布をヒストグラムにした。ここで、空間周波数帯域の分け方は、高周波側から1〜2階層を高周波帯域画像(高解像度画像)、3〜4階層を中間周波帯域画像(中間解像度画像)、第5階層を低周波帯域画像(低解像度画像)とした。これらの空間周波数は、本実施例の撮影条件では、それぞれ径0.7〜1.5mmの色ムラ、径1.5〜3.0mmの色ムラ、径6〜12mmの色ムラに対応する。
【0042】
得られたヒストグラムのピークを含む中央部領域Aを、次式(1)のガウス関数で近似した。
【0043】
【数1】

【0044】
また、第1階層〜第4階層については、端部領域Bを次式(2)の減衰関数で近似した。
【0045】
【数2】

【0046】
ただし、miは各階層におけるAB2つの領域の分離境界で、m(1)=−0.022、m(2)=−0.022、m(3)=−0.045、m(4)=−0.045である。また、xmiは各階層の画素強度の平均値である。
【0047】
得られたヒストグラムとガウス関数を図5(a)〜(e)に示し、第1階層〜第4階層における、ピークを含む領域Aと端部領域Bの分割の概念図を図6に示す。
【0048】
第3階層と第4階層の端部領域Bを近似する減衰関数のパラメータA(3)、A(4)を表1のように各々3段階に変化させ、それぞれの場合について、各画像を再合成して得たシミュレーション画像と、変化させる前のオリジナル画像とのシミの見え方の評価値を求めた。
【0049】
ここで、評価値は、シミュレーション画像とオリジナル画像とのシミの見え方を以下の基準により数値化したものである。100名の評価値の平均を表1に示す。
【0050】
評価値1:シミの面積について、シミュレーション画像がオリジナル画像よりも少ない
評価値2:シミの面積について、シミュレーション画像がオリジナル画像よりもやや少ない
評価値3:シミの面積について、シミュレーション画像とオリジナル画像は同程度である
評価値4:シミの面積について、シミュレーション画像がオリジナル画像よりもやや多い
評価値5:シミの面積について、シミュレーション画像がオリジナル画像よりも多い
【0051】
【表1】

【0052】
表1から、端部領域Bの近似関数のパラメータを変化させることにより、シミの見え方が大きく変化することが確認できた。
【0053】
実施例2
実施例1で5つの空間周波数帯域に分解したメラニン成分内部反射光画像の各階層について、表2に示すように、式(1)のガウス関数と式(2)の減衰関数について合計10個のパラメータを求め、同様に、ヘモロビン成分内部反射光画像についても、式(1)のガウス関数と式(2)の減衰関数の合計10個のパラメータを求めた。
【0054】
表2のパラメータ中、標準偏差は、前述の式(1)のσi (i=1,2,3,4,5)である。この標準偏差は、100名の頬画像からそれぞれメラニン成分あるいはヘモグロビン成分を抽出し、各画素のRチャンネル、Gチャンネル、Bチャンネルの値の平均値をとり、白黒画像を取得し、その白黒画像の全体(あるいは部分的な)領域をピラミッド解析して得た各階層画像から取得した。
【0055】
明度平均は、ピラミッド解析前の白黒画像における全体の画素強度の平均である。
【0056】
減衰関数の高さA1、A2は、前述の式(2)のAiである。
【0057】
各パラメータはそのまま用いてもよいが、パラメータと見えとの対応をよくするため、次のように規格化した。まず、各パラメータを単独で徐々に変化させたシミュレーション画像を被験者に提示し、変化が見て取れた最小変化量を弁別閾とした。各パラメータに対する弁別閾を表2に示した。
【0058】
規格前のメラニン成分の第1階層のピークを含む領域Aの標準偏差パラメータをσ1(m)としたとき、次式にて見えによる重みによって規格化を行い、σ1(m)'を得た。
【0059】
σ1(m)'=σ1(m)/Δσ1(m)
【0060】
【表2】

【0061】
一方、100人の被験者の肌画像のそれぞれについて、見え(赤みムラ・しみ等)の評価値を系列範疇法にて求めた。そして、この評価値と、年齢あるいは上述の各パラメータとを重回帰式により関連づけた。なお、パラメータの数を減らすために主成分分析にて複数の軸をまとめ、次元削減したパラメータを用いてもよい。
【0062】
より具体的には、メラニン成分に対して主成分分析して得られた各成分の負荷量をAm、Bm、Cmとし、ヘモグロビン成分に対して同様に得られた負荷量をAh、Bh、Chとすると、これらは次式(6)〜(11)のように、それぞれ10個のパラメータの線形和となる。また、年齢との対応方向Vage、黄色ムラの方向Vyellow、赤色ムラの方向Vredは次式(3)〜(5)で表され、それぞれ、寄与率は0.57、0.63、0.775であった。
【0063】
【数3】

【0064】
(式中、
p1=0.1、p2=0.2、p3=0.2、p4=0.1、p5=0.2、p6=0.9、p7=0.2、p8=0.01、p9=0.05、p10=0.01、
q1=0.0、q2=0.25、q3=0.4、q4=0.3、q5=-0.2、q6=-0.3、q7=0.7、q8=0.0、q9=0.3、q10=0.0、
r1=0.0、r2=-0.15、r3=-0.4、r4=-0.3、r5=0.6、r6=-0.1、r7=0.6、r8=-0.05、r9=-0.2、r10=0.0、
l1=0.4、l2=0.1、l3=0.1、l4=0.0、l5=-0.1、l6=0.9、l7=0.1、l8=0.0、l9=0.0、l10=0.0、
m1=0.5、m2=0.4、m3=0.5、m44=0.2、m5=0.2、m6=-0.3、m7=0.4、m8=0.0、m9=0.3、m10=0.0、
n1=0.1、n2=0.1、n3=0.1、n4=0.0、n5=-1.0、n6=-0.1、n7=0.1、n8=0.0、n9=0.0、n10=0.0 )
【0065】
そこで、シミュレーション画像を変化をさせる場合、例えば、主観評価値を1〜5の範囲で設定した場合において、元の画像が3(シミの量が中程度)の評価相当であり、シミュレーション画像で主観評価値を5(シミが多い)にする場合、5/3=1.7となるから、黄色いムラVyellowの直線方向に沿って変化させるとき、20個のパラメータ(メラ
ニン・ヘモグロビンごとにσ1〜σ5、Xm、A1、u1、A2、u2)を1.7倍して変化させることで、シミュレーション目標のヒストグラムを作成する。それを用いて各階層画像に戻し、全階層を統合してメラニン画像とヘモグロビン画像を算出する。さらには、ヘモグロビン画像とメラニン画像を統合すれば、肌色画像を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、化粧品の推奨、販売など、素肌のシミュレーション画像を形成する種々の分野で有用となる。また、端部領域Bを近似するパラメータは、シミに及ぼす剤の評価、美肌の解析、肌の加齢変化等の指標としても有用となる。
【符号の説明】
【0067】
1 画像形成手段
2 演算手段
3 ディスプレイ
4 光源
5 デジタルカメラ
6、7 偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の肌について内部反射光画像と表面反射光画像を取得し、
内部反射光画像から独立成分分析により少なくとも1つの色素成分の成分画像を抽出し、
抽出した色素成分画像を複数の空間周波数帯域に分解し、
該一又は複数の帯域の画像について、画素強度の度数分布を求め、
その度数分布を、ピークを含む領域とその外側の端部領域の少なくとも2つの領域に分け、
端部領域を特定の関数で近似し、その関数のパラメータを変化させることにより端部領域の度数分布を変化させ、
次いで各画像を再合成することにより、肌の色ムラ又はテクスチュアを変化させたシミュレーション画像を形成する、肌のシミュレーション画像形成方法。
【請求項2】
色素成分画像を複数の空間周波数帯域に分解する方法が、画像ピラミッド法である請求項1記載の肌のシミュレーション画像形成方法。
【請求項3】
色素成分が、メラニン成分又はヘモグロビン成分である請求項1又は2記載の肌のシミュレーション画像形成方法。
【請求項4】
ピークを含む領域をガウス関数で近似し、端部領域を減衰関数で近似する請求項1記載の肌のシミュレーション画像形成方法。
【請求項5】
肌の内部反射光画像のうち、特定の色素成分画像を複数の空間周波数帯域の画像に分解し、該一又は複数の帯域の画像について、画素強度の度数分布を求め、その度数分布を、ピークを含む領域とその外側の端部領域の少なくとも2つの領域に分け、端部領域を特定の関数で近似し、その関数のパラメータを変化させることにより端部領域における度数分布を関数で近似した場合の該関数の種類及びパラメータの数値と、肌の主観評価値とを対応させたデータベースを構築し、被験者の肌の内部反射光画像から得られる特定の色素成分画像の特定の周波数帯域の画素強度の度数分布を前記データベースに基づいて変化させ、特定の主観評価値を有する肌のシミュレーション画像を形成する、肌のシミュレーション画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−61689(P2010−61689A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277771(P2009−277771)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【分割の表示】特願2004−107348(P2004−107348)の分割
【原出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】