説明

肌画像分析装置及び肌画像分析方法

【課題】肌画像に基づいて肌の美しさを客観的に定量化すると共に、その要因分析を可能とする技術を提供する。
【解決手段】肌画像分析装置は、分析対象の肌画像に対して所定ぼかし強度でぼかし処理を施すことによりぼかし画像を取得するぼかし処理部と、上記分析対象肌画像と当該ぼかし画像との間の明暗情報の差分を算出することにより、当該ぼかし画像よりも暗い成分が除去された明差分画像、及び、当該ぼかし画像よりも明るい成分が除去された暗差分画像を生成する差分算出部と、明差分画像及び暗差分画像における各色情報から明成分の大きさを示す明成分代表値及び暗成分の大きさを示す暗成分代表値のペアを算出する代表値算出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌画像の分析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像解析技術を用いて、肌の状態や見え方、化粧状態等を客観的に分析する手法が提案されている。
【0003】
下記特許文献1では、ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析により得られる画像データに基づいて、物理的な光沢度と肌表面の見かけの粗さを取得し、これら情報から肌のつや状態を分析する手法が提案されている。下記特許文献2では、同様の多重解像度解析により得られる画像データから各ピクセル成分の分散を求め、分散の値の平均値と肌の美しさを関連付ける手法が提案されている。下記特許文献3では、同様の多重解像度解析により、人物画像からシワやシミ等を違和感なく除去する技術が提案されている。下記特許文献4では、肌画像に対して独立成分分析及びウェーブレット多重解像度解析を適用することにより、肌のシミ等の色ムラを増減させたシミュレーション画像を形成する手法が提案されている。
【0004】
一方、下記特許文献5及び6では、肌の測定対象部位の輝度を測定することにより得られるヒストグラムの形状から、肌の状態を評価する手法が提案されている。下記非特許文献1では、ヒストグラム解析により半透明及び透明な物の感じ方の機構が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−166801号公報
【特許文献2】特開2005−429号公報
【特許文献3】特開2005−196270号公報
【特許文献4】特開2005−293214号公報
【特許文献5】特開2009−131336号公報
【特許文献6】特開2009−134372号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Isamu Motoyoshi, "Highlight-shading relationship as a cue for the perception of translucent and transparent materials", Human and Information Science Laboratory, NTT Communication Science Laboratories, NTT, Journal of Vision, 10(9):6, 1-11, http://www.journalofvision.org/content/10/9/6, published September 13, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の各手法は、要因分析のような肌の更なる詳細分析には適さない可能性がある。例えば、上述の各手法により、分析対象の肌と美肌との差が生じていることが判明したとしても、上述の各手法では、その要因まで得ることは難しい場合がある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、肌画像に基づいて肌の美しさを客観的に定量化すると共に、その要因分析を可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の各態様では、上述した課題を解決するために、それぞれ以下の構成を採用する。
【0010】
第1の態様に係る肌画像分析装置は、分析対象の肌画像に対して所定ぼかし強度でぼかし処理を施すことによりぼかし画像を取得するぼかし処理部と、上記分析対象肌画像と当該ぼかし画像との間の明暗情報の差分を算出することにより、当該ぼかし画像よりも暗い成分が除去された明差分画像、及び、当該ぼかし画像よりも明るい成分が除去された暗差分画像を生成する差分算出部と、明差分画像及び暗差分画像における各色情報から明成分の大きさを示す明成分代表値及び暗成分の大きさを示す暗成分代表値のペアを算出する代表値算出部と、を備える。
【0011】
第2の態様に係る肌画像分析方法は、コンピュータが、分析対象の肌画像に対して所定ぼかし強度でぼかし処理を施すことによりぼかし画像を取得し、上記分析対象肌画像と当該ぼかし画像との間の明暗情報の差分を算出することにより、当該ぼかし画像よりも暗い成分が除去された明差分画像、及び、当該ぼかし画像よりも明るい成分が除去された暗差分画像を生成し、明差分画像及び暗差分画像における各色情報から明成分の大きさを示す明成分代表値及び暗成分の大きさを示す暗成分代表値のペアを算出する、ことを含む。
【0012】
なお、本発明の別態様としては、上記第1態様に係る構成をコンピュータに実現させるプログラムであってもよいし、このようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であってもよい。この記録媒体は、非一時的な有形の媒体を含む。
【発明の効果】
【0013】
上記各態様によれば、肌画像に基づいて肌の美しさを客観的に定量化すると共に、その要因分析を可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】肌画像の見え方の違いを示す図である。
【図2】図1で示される各肌画像のヒストグラムを示す図である。
【図3】肌画像及び複数のぼかし強度に対応する複数のぼかし画像、並びに、各画像のヒストグラムを示す図である。
【図4】第1実施形態における肌画像分析装置のハードウェア構成例を概念的に示す図である。
【図5】第1実施形態における肌画像分析装置1の処理構成例を概念的に示す図である。
【図6】画像取得部11により取得される肌画像の例を示す図である。
【図7】ぼかし処理部により得られる各ぼかし強度に対応するぼかし画像の例を示す図である。
【図8】明差分画像及び暗差分画像の生成イメージを示す図である。
【図9】明スコア及び暗スコアの格納イメージを示す図である。
【図10】明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの例を示す図である。
【図11】第1実施形態における肌画像分析装置の動作例を示すフローチャートである。
【図12】第2実施形態における肌画像分析装置の動作例を示すフローチャートである。
【図13】第2実施形態における明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの例を示す図である。
【図14】第3実施形態における明差分画像及び暗差分画像の生成イメージを示す図である。
【図15】第3実施形態における明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの第1例を示す図である。
【図16】第3実施形態における明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの第2例を示す図である。
【図17】明スコア及び暗スコアのグラフを示す図である。
【図18】各分析対象肌画像に関し算出された面積情報を示すグラフである。
【図19】ぼかし強度取得イメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に挙げる実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0016】
本実施形態に係る肌画像分析装置は、分析対象の肌画像に対して所定ぼかし強度でぼかし処理を施すことによりぼかし画像を取得するぼかし処理部と、上記分析対象肌画像と当該ぼかし画像との間の明暗情報の差分を算出することにより、当該ぼかし画像よりも暗い成分が除去された明差分画像、及び、当該ぼかし画像よりも明るい成分が除去された暗差分画像を生成する差分算出部と、明差分画像及び暗差分画像における各色情報から明成分の大きさを示す明成分代表値及び暗成分の大きさを示す暗成分代表値のペアを算出する代表値算出部と、を備える。
【0017】
本実施形態では、分析対象の肌画像から、所定ぼかし強度でのぼかし処理が施されたぼかし画像が取得され、分析対象肌画像とそれのぼかし画像との間の双方向の差分から、明差分画像及び暗差分画像が生成される。ここで、本実施形態におけるぼかし処理部及び差分算出部の各処理について、肌の光学特性の観点から説明する。
【0018】
肌は半透明性を有しているため、肌に入射した光が肌内部で散乱しながら肌内部を伝播し肌外部へと再放射される際、光の入射点と出射点との不一致が生じる。本発明者らは、美しいと感じられる肌(美肌)においては、この光伝播過程の阻害要因が少ないため、光の入射点と出射点との不一致によって生じる肌テクスチャのぼやけが効率よく生じると考えた。このような肌テクスチャのぼやけは、肌の透明感として視認され得る。これに対して、美肌と視認され難い肌は、このような特性を妨げる要因(美肌阻害要因)を持つと考えられる。例えば、過剰な皮脂等は、表面反射成分を強くするので、皮膚内部への光の透過量が減少し、光の内部拡散の効果が減少する。このような現象は、肌テクスチャのぼやけを阻害し、テカリとして視認される。同様に、毛穴の汚れ、シミ、そばかす等は、光を吸収するため、光の内部拡散の効果が減少する。それらは色ムラとして視認される。毛穴やしわ等の肌の表面の凹凸ムラは、表面の凹凸に由来して均一な光の入射を阻害し、光の内部拡散の効果を減少させる。つまり、美肌阻害要因を持つ肌は、テカリや色ムラ、凹凸ムラを持ち、肌テクスチャのぼやけが少ない状態で視認される傾向にある。
【0019】
次に、このような様々な肌の肌画像とその見え方との関係について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、肌画像の見え方の違いを示す図である。図2は、図1で示される各肌画像のヒストグラムを示す図である。
【0020】
図1には、異なる肌が写る4つの肌画像に関し4つの画像形態がそれぞれ示されている。4つの画像形態とは、グレースケール画像、平均化画像、グラデーション画像、及び一様化画像である。平均化画像は、グレースケール画像に関し輝度差を全体的に平均化することにより得られる。グラデーション画像は、輝度の大きいピクセルが上方に配置され、輝度の小さいピクセルが下方に配置されるように、輝度順に各ピクセルを配置し直した画像である。一様化画像は、各ピクセルの配置をランダムに変えた画像である。即ち、4タイプの肌画像に関し、ピクセルの配置のみが変えられた4種類の形態が示されている。
【0021】
各画像形態は、ピクセルの配置のみが異なるに過ぎないため、図2に示されるように、肌A、B、C及びDの各画像において、いずれの画像形態においても、ヒストグラムの形状は一致する。ところが、図1によれば、肌A、B、C及びDの各画像に関し、画像形態に応じて見え方が異なることが分かる。このことから、肌画像において、ピクセル間の相互関係及び空間(位置)情報は、その肌画像の見え方に大きく影響していることが明らかとなる。更に、ヒストグラムの形状のみでは、その肌画像の見え方を正確に定量化することは難しいことも分かる。
【0022】
一方で、肌の見え方は目視距離に応じて変わることは一般的に知られている。これに対して、本発明者らは、目視距離に応じた肌の見え方の変化がその肌のテクスチャに依存することを明らかにした。例えば、美肌阻害要因を持つ肌においては、目視距離による見え方の変化が美肌に比べて大きい。美肌は、上述のような光学特性で示されるように肌テクスチャがぼやけた印象で視認される傾向にあるため、その見え方が目視距離に影響を受け難いと考えられる。ところが、美肌阻害要因を持つ肌は、テカリや色ムラ、凹凸ムラのように肌テクスチャのぼけを妨げる要因を持つため、目視距離による見え方に変化が生じやすいと考えられる。テカリや色ムラ、凹凸ムラは、目視距離が長くなる程、視認され難くなる傾向にある。
【0023】
本実施形態は、このような目視距離に応じた肌の見え方を、ぼかし処理によりデジタル画像上に再現している。ぼかし処理で用いられる所定ぼかし強度が目視距離に相当する。一方、上述したように、肌画像の見え方は、肌画像内の空間情報、即ち、ピクセル間の相互関係性に影響を受けるため、本実施形態は、肌画像内の空間情報を維持しつつ、局所的な特徴を平均化するようなぼかし処理を行う。このようなぼかし処理であれば、本実施形態は、ぼかし処理の具体的実現手法を特に限定しないが、平滑化フィルタが好ましい。平滑化フィルタとしては、具体的に、ガウシアン(Gaussian)フィルタ、移動平均フィルタ、加重平均フィルタ、ローパスフィルタが挙げられる。中でもガウシアンフィルタを用いることがより好ましい。これは、美肌のぼやけ感を実現する、入射点と出射点との間の光の空間減衰パタンがガウス曲線に近いからである。
【0024】
図3は、肌画像及び複数のぼかし強度に対応する複数のぼかし画像、並びに、各画像のヒストグラムを示す図である。図3では、ガウシアンフィルタを用いたぼかし処理が施された例が示され、上部の数値は、ぼかし強度に相当するピクセル距離を示す。即ち、紙面左から右の方向に、ぼかし強度が強くなる。また、図3に示される各肌は、官能評価により、次のように評価された。肌Aが美肌と評価され、肌Bが美肌から最も離れた肌と評価され、肌C及びDが肌Aと肌Bとの間に位置する一般的な肌と評価された。
【0025】
図3に示されるように、肌A(美肌)のヒストグラムの形状は、ぼかし処理によりほとんど変化していないのに対して、肌Bのヒストグラムの形状は、ぼかし処理により大きく変化している。肌C及びDについても、ヒストグラムの形状は変化している。このように、目視距離(ぼかし強度)に応じた肌の見え方の変化はその肌のテクスチャに依存する。更に、本実施形態によれば、肌画像のぼかし処理により、目視距離に応じた肌の見え方がデジタル画像上に再現できている。
【0026】
ここで、各ヒストグラムの形状の変化を数値化すれば、肌画像に写る肌が美肌か否か、及び、その肌がどのくらい美肌に近いかが判定され得る。本実施形態は、この判定を更に拡張して、分析対象の肌画像に関する更なる分析、例えば、美肌阻害要因の分析を可能とする。
【0027】
本実施形態は、目視距離に応じて見え方に変化を生じさせる要因情報を得るために、ぼかし処理の前後の画像間の明暗情報の差分を算出する。ぼかし処理では、肌画像内の空間情報が維持されつつ、局所的な特徴が平均化されるため、当該差分の算出により、局所的な特徴情報を得ることができる。また、当該差分は、明暗情報に関し算出されるため、局所的な特徴情報として、人間の視覚に伴う心理作用としての見え方に影響を与え易い明暗の特徴情報を得ることができる。言い換えれば、当該明暗情報の差分の算出により、平均より明るく視認される成分としてテカリ成分が抽出され、平均より暗く視認される成分として色ムラ成分及び凹凸ムラ成分が抽出される。つまり、明差分画像によれば、テカリ成分を抽出することができ、暗差分画像によれば、色ムラ成分及び凹凸ムラ成分を抽出することができる。当該明暗情報として、例えば、明度情報、輝度情報、RGBのG値などが用いられ得るが、輝度情報が用いられることが望ましい。これは、輝度情報が人間の視覚で捉えられる明るさに近い情報だからである。明度情報とは例えばHSVモデルの1成分であり、輝度情報とは例えばグレースケール変換で得られる輝度値である。
【0028】
更に、本実施形態では、明差分画像及び暗差分画像における各色情報から明成分代表値及び暗成分代表値のペアが算出される。上述のように明差分画像にはテカリ成分が含まれ、暗差分画像には色ムラ成分及び凹凸ムラ成分が含まれるため、明差分画像から得られる明成分代表値は、テカリ成分の強さを示し、暗差分画像から得られる暗成分代表値は、色ムラ成分及び凹凸ムラ成分の強さを示す。なお、ここでの代表値とは、例えば、ヒストグラムの平均値、分散値、標準偏差等の統計値、及び、ヒストグラムの面積である。なお、この代表値については、明成分及び暗成分の大きさを何らかの形で示すものであれば、その具体的形態は制限されない。
【0029】
このように、本実施形態によれば、肌の光学特性及び人間の視覚に伴う心理作用が再現された画像処理により、分析対象肌画像に関して、テカリ成分に関する指標(明成分代表値)、色ムラ成分及び凹凸ムラ成分に関する指標(暗成分代表値)を正確に取得することができる。これにより、分析対象肌画像に写る肌が美肌か否か、及び、その肌がどのくらい美肌に近いかの判定だけでなく、その判定結果の要因を得ることができる。
【0030】
例えば、明成分代表値及び暗差分代表値が小さい程、その肌が美肌に近いと判定することができ、逆に、明成分代表値及び暗差分代表値が大きい程、その肌が美肌と視認され難いと判定することができる。更に、明成分代表値が大きい場合には、その肌の美肌阻害要因がテカリに依存すると判定し、暗成分代表値が大きい場合には、その肌の美肌阻害要因が色ムラ又は凹凸ムラに依存すると判定することができる。
【0031】
以下、上述の実施形態について更に詳細を説明する。
[第1実施形態]
【0032】
〔装置構成〕
図4は、第1実施形態における肌画像分析装置1のハードウェア構成例を概念的に示す図である。第1実施形態における肌画像分析装置1は、いわゆるコンピュータであり、例えば、バス5で相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)2、メモリ3、入出力インタフェース(I/F)4等を有する。メモリ3は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、可搬型記憶媒体等である。入出力I/F4は、表示装置や入力装置等のようなユーザインタフェース装置と接続される。入出力I/F4は、ネットワーク(図示せず)を介して他のコンピュータと通信を行う通信装置等と接続されてもよい。なお、肌画像分析装置1のハードウェア構成は限定されない。
【0033】
図5は、第1実施形態における肌画像分析装置1の処理構成例を概念的に示す図である。第1実施形態における肌画像分析装置1は、画像取得部11、ぼかし処理部12、差分算出部13、スコア算出部14、データ格納部15、比較部16、情報生成部17等を有する。これら各処理部は、例えば、CPU2によりメモリ3に格納されるプログラムが実行されることにより実現される。また、当該プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F4を介してインストールされ、メモリ3に格納されてもよい。
【0034】
画像取得部11は、分析対象及び比較対象の肌画像の画像データを取得する。各画像データは、可搬型記録媒体、他のコンピュータ等から入出力I/F4を経由して取得される。当該画像データは、例えば、JPEG形式、GIF形式等のファイルとして取得される。以降、肌画像の画像データを単に肌画像とも表記する。
【0035】
図6は、画像取得部11により取得される肌画像の例を示す図である。当該肌画像は、明暗情報を保持していれば、カラー画像であってもよいし、グレースケール画像であってもよい。図6では、図3と同様の肌A、B、C及びDの各肌画像が示される。即ち、肌Aが美肌に相当し、肌Bが美肌から最も遠い肌に相当し、肌C及びDが一般的な肌に相当する。更に、肌Bは、テカリ及び凹凸ムラ(毛穴)が大きく目立つと評価され、肌Cは、テカリ及び凹凸ムラ(毛穴)に加えて色ムラが肌Bより少ないものの目立つと評価され、肌Dは、凹凸ムラ(毛穴)及び色ムラが肌Bよりも少ないものの目立つと評価される。なお、美肌への近さについての官能評価では、肌B及び肌Cは差がつかない。
【0036】
ぼかし処理部12は、画像取得部11により取得された各肌画像に対して所定のぼかし強度でぼかし処理をそれぞれ施すことにより各ぼかし画像をそれぞれ取得する。第1実施形態では、ぼかし処理としてガウシアンフィルタを適用する例が挙げられる。ぼかし処理部12は、複数の所定ぼかし強度として、複数のピクセル距離を用いる。第1実施形態では、2.5、5.0、7.5、10.0、12.5、15.0、17.5及び20.0の8つのピクセル距離が利用される。この例では、ぼかし処理部12は、各肌画像に対して8つのピクセル距離のガウシアンフィルタをそれぞれ適用することにより、各ピクセル距離に対応する8つのぼかし画像を取得する。
【0037】
図7は、ぼかし処理部12により得られる各ぼかし強度に対応するぼかし画像の例を示す図である。上部に示される数値が各ピクセル距離を示す。なお、ピクセル距離0の下に示される画像は、ぼかし処理が施される前の元の肌画像である。各ぼかし画像は、元の肌画像に対して各ぼかし強度のぼかし処理が適用されることによりそれぞれ得られることが望ましいが、ぼかし画像に対して更にぼかし処理が適用されるようにしてもよい。
【0038】
ぼかし処理で用いられる所定ぼかし強度(ピクセル距離)の数、間隔及び範囲は限定されない。但し、所定ぼかし強度の間隔は、明差分画像及び暗差分画像により得られる特徴情報において誤差が支配的とならないように設定されることが望ましい。上述の例では、当該間隔は、2.5ピクセルに設定されており、1.0以上に設定されることが望ましい。また、当該所定ぼかし強度の上限は、そのぼかし画像において局所の明暗が残るような値に設定されればよく、例えば、各ぼかし画像間におけるヒストグラムの平均値の差が所定値より大きくならないような値に設定される。上述の例では、当該上限値は、98枚の肌画像のヒストグラムを用いることにより、20.0ピクセルに設定されている。
【0039】
差分算出部13は、上記複数の所定ぼかし強度の中の最大の所定ぼかし強度でぼかし処理が施された最大ぼかし画像と、他のぼかし画像及びぼかし処理が施される前の元の肌画像の各々との間の明暗情報の差分をそれぞれ算出する。差分算出部13は、最大ぼかし画像以外の1つのぼかし画像又は元の肌画像から最大ぼかし画像を明暗情報に関し減算することにより1つの明差分画像を生成し、その逆の減算により1つの暗差分画像を生成する。第1実施形態では、明暗情報として輝度情報(輝度値)が利用される例を挙げる。
【0040】
図8は、明差分画像及び暗差分画像の生成イメージを示す図である。図8の例によれば、最大ぼかし画像は、ピクセル距離20.0のガウシアンフィルタで得られたぼかし画像である。図8の例では、ピクセル距離20.0と、それ以外の各ピクセル距離(0、2.5、5.0、7.5、10.0、12.5、15.0、17.5)とに対応して、明差分画像及び暗差分画像の8つのペアが生成される。以降、明差分画像及び暗差分画像の各ペアを、そのペアを得るのに用いられた最大ぼかし画像以外の画像に適用されたぼかし強度を用いて示す場合もある。例えば、図8の左端に示されるペアは、ピクセル距離0に対応する明差分画像及び暗差分画像のペアと表記し、図8の左から2番目に示されるペアは、ピクセル距離2.5に対応する明差分画像及び暗差分画像のペアと表記する。
【0041】
更に具体的には、差分算出部13は、最大のぼかし画像以外の画像の各ピクセルの輝度値から最大ぼかし画像の各ピクセルの輝度値をそれぞれ減算し、減算値が0以下の場合に0を、それ以外の場合にその減算値を各ピクセルの色情報として保持する明差分画像を生成する。逆に、差分算出部13は、最大ぼかし画像の各ピクセルの輝度値から最大のぼかし画像以外の画像の各ピクセルの輝度値をそれぞれ減算し、減算値が0以下の場合に0を、それ以外の場合にその減算値を各ピクセルの色情報として保持する暗差分画像を生成する。なお、各画像の輝度値は、各画像をグレースケール画像に変換した後にそのグレースケール画像の色情報として得られてもよいし、各画像のRGB値に所定演算を施すことにより得られてもよい。
【0042】
スコア算出部14は、差分算出部13により生成された明差分画像及び暗差分画像の各ペアについて、明スコア及び暗スコアのペアをそれぞれ算出する。明スコアとは、明差分画像の色情報から算出される明成分の大きさを示す代表値(明成分代表値)であり、暗スコアとは、暗差分画像の色情報から算出される暗成分の大きさを示す代表値(暗成分代表値)である。よって、スコア算出部14は、代表値算出部と呼ぶこともできる。なお、第1実施形態では、代表値として、分散値が利用される場合を例に挙げる。
【0043】
明スコアは、明るい成分の強さを示すため、テカリが目立つ肌画像において大きい値を取る。暗スコアは、暗い成分の強さを示すため、色ムラ及び凹凸ムラが目立つ肌画像において大きい値を取る。以降、暗スコアに反映される色ムラ(成分)及び凹凸ムラ(成分)は、特に区別する必要のある場合を除いて、ムラ(成分)と総称する。スコア算出部14は、算出された明スコア及び暗スコアの各ペアを、元の肌画像及び対応するぼかし強度を特定し得る形態で、データ格納部15に格納する。
【0044】
データ格納部15は、元の肌画像毎に、各ぼかし強度に対応付けた形態で、明スコア及び暗スコアのペアをそれぞれ格納する。図9は、明スコア及び暗スコアの格納イメージを示す図である。図9の例では、各肌画像には、その肌画像を特定するための画像IDが付与されている。
【0045】
比較部16は、データ格納部15に格納される明スコア及び暗スコアの複数ペアに基づいて、比較対象肌画像に対する分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分のペアを算出する。明スコア差分は明成分差分値に相当し、暗スコア差分は暗成分差分値に相当する。具体的には、比較部16は、比較対象の肌画像に関する明スコア及び暗スコアの複数ペア、及び、分析対象の肌画像に関する明スコア及び暗スコアの複数ペアをデータ格納部15から抽出し、分析対象肌画像及び比較対象肌画像のペア間における明スコア及び暗スコアの差分を、対応するぼかし強度毎にそれぞれ算出する。
【0046】
図9における肌Aが比較対象であり、肌Bが分析対象である場合、比較部16は、肌Bのピクセル距離0の明スコアから肌Aのピクセル距離0の明スコアを減算することにより、ピクセル距離0に関する肌Aに対する肌Bの明スコア差分を算出し、肌Bのピクセル距離0の暗スコアから肌Aのピクセル距離0の暗スコアを減算することにより、肌Aに対する肌Bの暗スコア差分を算出する。比較部16は、同様の減算処理をピクセル距離(2.5、5.0、7.5、10.0、12.5、15.0、17.5)の各々について行うことにより、各ピクセル距離に関する明スコア差分及び暗スコア差分のペアをそれぞれ算出する。
【0047】
情報生成部17は、分析対象肌画像に関する比較部16により算出された明スコア差分及び暗スコア差分を示すグラフのデータを生成する。このグラフでは、明スコア及び暗スコアの2軸で示される座標を持ち、分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分の各ペアが示す位置がプロットされる。情報生成部17により生成されたグラフデータは、例えば、肌画像分析装置1の入出力I/F4に接続される表示装置や印刷装置により、グラフとして出力される。なお、当該グラフデータは、ネットワークを介して他のコンピュータに送られてもよい。第1実施形態では、情報生成部17により生成されたグラフデータの出力形態を限定しない。
【0048】
図10は、明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの例を示す図である。情報生成部17により生成されたグラフデータにより、図10の例に示されるようなグラフが出力される。図10の例は、比較対象肌画像が肌Aの肌画像であり、分析対象肌画像が肌B、C及びDの各肌画像である場合に出力されるグラフを示し、肌B、C及びDの各肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分を示す。
【0049】
図10に示されるように、情報生成部17により生成されたグラフデータによれば、次のような分析及び判定を行うことができる。このような分析及び判定は、当該グラフを参照したユーザにより行われてもよいし、情報生成部17により自動で行われてもよい。以下の説明では、当該分析及び判定の主体を情報生成部17とする。
【0050】
まず、情報生成部17は、分析対象としての各肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分が正の値を示すため、比較対象の肌画像の肌Aが最も美肌に近いと判定することができる。
【0051】
ここで、各マーカ(肌B=四角、肌C=×、肌D=三角)は、各ピクセル距離に対応するペア(明差分画像及び暗差分画像)の明スコア差分及び暗スコア差分をそれぞれ示している。そして、各肌画像の各マーカの位置については、ぼかし強度が弱い程、原点から遠くなる。即ち、ピクセル距離0(ぼかし処理なし)に対応するペア(明差分画像及び暗差分画像)の明スコア差分及び暗スコア差分を示すマーカが、原点から最も遠くに位置する。これは、明スコア差分及び暗スコア差分が最大ぼかし画像から他の各画像への明暗情報の減算で得られるからであり、ぼかし強度が強い画像間では差分が小さくなるからである。よって、各肌画像の原点から最も遠い位置にプロットされたマーカ(以降、最大差分マーカと表記する)を見れば、情報生成部17は、比較対象の肌Aとの関係について次のように判定することができる。
【0052】
最大差分マーカの原点(肌A)からの距離が肌Aとの差を示すため、肌Aを美肌とすれば、情報生成部17は、原点から最も遠い最大差分マーカを持つ肌Bが最も美肌から遠い、即ち、美肌の阻害要因を多く持つと判定することができる。同様に、情報生成部17は、肌C及びDについては、原点からの距離に差がないため、同等の美肌評価となると判定することができる。
【0053】
更に、情報生成部17は、最大差分マーカの位置により、上述のような比較対象の肌との差を生じさせた要因を推定することができる。例えば、肌Bの最大差分マーカは、明スコア差分が暗スコア差分よりも際立って大きいことを示すため、情報生成部17は、肌Aとの差がテカリに大きく起因していると分析することができる。また、情報生成部17は、美肌判定では差がなかった肌C及びDについても、それぞれ異なる要因を得ることができる。情報生成部17は、肌Cについての肌Aとの差がテカリに起因し、肌Dについての肌Aとの差がムラに起因すると分析することができる。このように、第1実施形態によれば、従来、相違点を分析できなかった肌(肌C及びD)についても、詳細分析により区別することができるようになる。
【0054】
上述のような比較対象肌との差判定及びその要因分析の結果は、上述した官能評価と同じ結果となっている。情報生成部17は、グラフデータと共に、このような比較対象肌との差判定及びその要因分析の結果をテキストデータとして出力するようにしてもよい。
【0055】
このように、最大差分マーカの位置のみでも、十分な詳細分析をすることができる。よって、第1実施形態では、複数のぼかし強度を用いたが、最大ぼかし強度のみを用いて、各肌画像について明スコア差分及び暗スコア差分の1つのペアを算出するようにしてもよい。この場合、各肌画像について、最大差分マーカのみが表わされる。
【0056】
更に、情報生成部17は、各肌画像の各マーカの軌跡により、各肌画像の要因分析を更に細かく行うことができる。例えば、情報生成部17は、同肌画像の隣接するマーカ間の関係を見ることにより、比較対象の肌との差の詳細要因を得ることができる。図10の例の肌Bによれば、最大差分マーカとその隣のマーカとの明スコア差分の差が、約1.5であり、他のものに比べて極めて大きい。この差は、ピクセル距離2.5のぼかし処理により目立たなくなった特徴を示しているため、肌Bは、小さい領域におけるテカリ、即ち、毛穴の周りのテカリを多く持つと推定することができる。
【0057】
〔動作例〕
図11は、第1実施形態における肌画像分析装置1の動作例を示すフローチャートである。まず、肌画像分析装置1は、分析対象及び比較対象の肌画像の画像データを取得する(S101)。このとき、一度に複数の肌画像が取得されてもよいし、そうでなくともよい。
【0058】
肌画像分析装置1は、取得された肌画像に対してぼかし処理を施す(S102)。これにより、肌画像分析装置1は、複数のぼかし強度に対応する複数のぼかし画像をそれぞれ取得する。以下の処理(S103)及び(S104)における処理対象の数は、ぼかし強度の数に対応する。
【0059】
次に、肌画像分析装置1は、最大ぼかし画像から他の各画像(元の肌画像及び他のぼかし画像)をそれぞれ減算し、当該他の各画像から最大ぼかし画像をそれぞれ減算する(S103)。前者の減算処理により、各ぼかし強度に対応する明差分画像が取得され、後者の減算処理により、各ぼかし強度に対応する暗差分画像が取得される。即ち、肌画像分析装置1は、各ぼかし強度に対応する明差分画像及び暗差分画像のペアをそれぞれ生成する。
【0060】
次に、肌画像分析装置1は、明差分画像及び暗差分画像の各ペアについて、明差分画像の代表値及び暗差分画像の代表値として、明スコア及び暗スコアをそれぞれ算出する(S104)。これにより、各ぼかし強度に対応する明スコア及び暗スコアのペアがそれぞれ取得される。
【0061】
肌画像分析装置1は、このような処理(S102、S103、S104)を、取得された各肌画像についてそれぞれ実行する(S105;YES)。
【0062】
処理対象の肌画像がなくなると(S105;NO)、肌画像分析装置1は、比較対象肌画像に対する分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分のペアをぼかし強度毎にそれぞれ算出する(S106)。この処理対象は、分析対象の肌画像の数とぼかし強度の数に依存する。
【0063】
続いて、肌画像分析装置1は、分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分を示すグラフのデータを生成する(S107)。
【0064】
なお、上述の処理(S102からS104)では明記されていないが、処理(S102からS104)は、施されるぼかし強度の数分、繰り返されるようにしてもよい。具体的には、処理(S102)においてぼかし画像が得られる度に、そのぼかし画像を対象にして、処理(S103)及び(S104)が実行されるようにしてもよい。
【0065】
〔第1実施形態の作用及び効果〕
上述したように第1実施形態では、肌画像から複数のぼかし強度に対応する複数のぼかし画像が取得され、最大ぼかし画像と他の画像との間の明暗情報の差分を取ることにより、各ぼかし強度に対応する明差分画像及び暗差分画像のペアがそれぞれ取得される。更に、各ぼかし強度に対応する明差分画像及び暗差分画像のペアから、それらの代表値として、各ぼかし強度に対応する明スコア及び暗スコアのペアがそれぞれ取得される。
【0066】
これにより、各ぼかし強度に対応する明スコアとして、各ぼかし強度によりぼかされてしまう明るい成分の局所特徴情報がそれぞれ取得され、各ぼかし強度に対応する暗スコアとして、各ぼかし強度によりぼかされてしまう暗い成分の局所特徴情報がそれぞれ取得される。このように取得される各局所特徴情報は、各目視距離(各ぼかし強度)に応じて視認され難くなるテカリ成分及びムラ成分に対応する。
【0067】
このように、第1実施形態によれば、各肌画像に関して、各目視距離に応じたテカリ成分に関する指標(明スコア)及びムラ成分に関する指標(暗スコア)をそれぞれ、正確に取得することができる。このように取得された明スコア及び暗スコアは、肌画像の肌の美しさを示す指標であると共に、美肌の阻害要因を示す指標でもある。即ち、第1実施形態によれば、肌画像を用いて肌の美しさを客観的に定量化できると共に、それの要因を取得することもできる。
【0068】
更に、第1実施形態では、分析対象肌画像の明スコア及び暗スコアから比較対象肌画像の明スコア及び暗スコアを減算することにより、比較対象肌画像に対する分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分が算出される。これにより、第1実施形態によれば、比較対象肌との関係に基づく美肌判定及びその要因分析を詳細にかつ官能評価と一致するレベルで行うことができる。このような肌画像の判定及び分析手法の詳細については上述したとおりである。
【0069】
[第2実施形態]
上述の第1実施形態では、比較対象の1つの肌画像と分析対象の1つの肌画像との比較結果が明スコア差分及び暗スコア差分として取得されたが、第2実施形態では、複数の肌画像の平均が比較対象に用いられる。以下、第2実施形態における肌画像分析装置1について、第1実施形態と異なる内容を中心説明する。以下の説明では、第1実施形態と同様の内容については適宜省略する。
【0070】
〔装置構成〕
第2実施形態における肌画像分析装置1の構成は第1実施形態と同様であり、以下に示す各処理部の処理が第1実施形態と異なる。第2実施形態における肌画像分析装置1は、少なくとも1つの分析対象肌画像を含む複数の肌画像に対して、第1実施形態と同様の処理を実行することにより、データ格納部15に、複数の肌画像の各々に関し、各ぼかし強度に対応付けた形態で、明スコア及び暗スコアのペアを格納する。
【0071】
比較部16は、データ格納部15から、明スコア及び暗スコアの複数ペアをそれぞれ抽出し、ぼかし強度毎に、明スコアの平均値(以降、平均明スコアと表記する)及び暗スコアの平均値(以降、平均暗スコアと表記する)をそれぞれ算出し、これら複数の比較対象画像の平均に対する分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分のペアをぼかし強度毎にそれぞれ算出する。
【0072】
〔動作例〕
図12は、第2実施形態における肌画像分析装置1の動作例を示すフローチャートである。図12では、第1実施形態と同様の処理については、図11と同様の符号が付されている。第2実施形態のおける肌画像分析装置1は、データ格納部15に、複数の肌画像の各々に関し、各ぼかし強度に対応付けた形態で、明スコア及び暗スコアのペアを格納するまでは、第1実施形態と同様に動作する(S101からS105)。
【0073】
続いて、肌画像分析装置1は、データ格納部15に格納されるデータを用いて、ぼかし強度毎に、平均明スコア及び平均暗スコアをそれぞれ算出する(S121)。そして、肌画像分析装置1は、比較対象となる肌画像の平均に対する分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分のペアをぼかし強度毎にそれぞれ算出する(S122)。以降、この算出された分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分のペアに基づいて、グラフデータが生成される(S107)。
【0074】
図13は、第2実施形態における明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの例を示す図である。情報生成部17により生成されたグラフデータにより、図13の例に示されるようなグラフが出力される。図13の例は、分析対象肌画像が肌A、B、C及びDの各肌画像である場合に出力されるグラフを示す。
【0075】
図13に示されるように、第2実施形態によれば、複数の肌画像の平均と各分析対象の肌画像との関係が示される。具体的には、第3象限(明スコア差分及び暗スコア差分共に負)に位置する肌Aは平均よりも美肌に近いと判定し、第1象限(明スコア差分及び暗スコア差分共に正)に位置する肌Bは平均よりも美肌に遠いと判定することができる。
【0076】
更に、配置される象限に応じて、平均との差を生じさせている要因を推定することができる。具体的には、第1象限に位置する肌に関しては、テカリ及びムラ共に、平均よりも多いと判定し、第2象限(明スコア差分が負、暗スコア差分が正)に位置する肌(肌D)に関しては、テカリは平均よりも少なくムラが平均より多いと判定し、第4象限(明スコア差分が正、暗スコア差分が負)に位置する肌(肌C)に関しては、テカリは平均よりも多くムラが平均より少ないと判定することができる。
【0077】
〔第2実施形態における作用及び効果〕
第2実施形態では、比較対象となる肌画像の平均に対する分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分のペアがぼかし強度毎にそれぞれ算出される。これにより、分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分の各ペアが示す位置に基づいて、分析対象肌画像の肌に関し、平均との関係に基づく美肌判定及びその要因分析を詳細にかつ官能評価と一致するレベルで行うことができる。
【0078】
情報生成部17は、各ペアが示す位置(象限)に基づいてこのような判定及び要因分析を行い、その結果をテキストデータとして出力するようにしてもよい。この場合、情報生成部17は、各象限と、美肌判定結果(第1象限は美肌より遠い肌、第3象限は美肌に近い肌)及び要因分析結果(テカリの大小、ムラの大小)との関係を予め保持していればよい。
【0079】
[第3実施形態]
上述の各実施形態では、最大ぼかし画像と他の各画像との間の明暗情報の差分がそれぞれ算出されることにより明差分画像及び暗差分画像の各ペアが生成されていた(差分算出部13)。第3実施形態では、上述の各実施形態と異なる手法により、明差分画像及び暗差分画像の各ペアが取得される。第3実施形態における肌画像分析装置1は、差分算出部13による差分算出手法のみが上述の各実施形態と異なる。以下、第3実施形態における肌画像分析装置1について、上述の各実施形態と異なる内容を中心説明する。
【0080】
差分算出部13は、施されたぼかし強度の順の隣接するぼかし画像間、及び、元の肌画像と最小の所定ぼかし強度でぼかし処理が施された画像との間において明暗情報の差分をそれぞれ算出することにより、明差分画像及び暗差分画像の各ペアをそれぞれ取得する。
【0081】
図14は、第3実施形態における明差分画像及び暗差分画像の生成イメージを示す図である。図14の例では、図8と同様のぼかし強度が利用されている。図14の例によれば、差分算出部13は、ピクセル距離2.5のガウシアンフィルタ(最小のぼかし強度)が適用されたぼかし画像(以降、最小ぼかし画像とも表記する)と元の肌画像(ピクセル距離0)との差分により、ピクセル距離2.5に対応する明差分画像及び暗差分画像のペアを取得する。同様に、差分算出部13は、ピクセル距離5.0のガウシアンフィルタが適用されたぼかし画像(図14の左から3番目)とピクセル距離2.5のガウシアンフィルタが適用されたぼかし画像(図14の左から2番目)との差分により、ピクセル距離5.0に対応する明差分画像及び暗差分画像のペアを取得する。第3実施形態における差分算出部13は、差分を取る対象のみが他の実施形態と異なり、差分の取り方等は他の実施形態と同様である。
【0082】
図15は、第3実施形態における明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの第1例を示す図である。第3実施形態では、情報生成部17により生成されたグラフデータにより、図15の例に示されるようなグラフが出力される。図15の例は、比較対象肌画像が肌Aの肌画像であり、分析対象肌画像が肌B、C及びDの各肌画像である場合に出力されるグラフを示し、肌B、C及びDの各肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分を示す。図15のグラフにおいても、図10のグラフと同様の分析結果を得ることができる。
【0083】
図16は、第3実施形態における明スコア差分及び暗スコア差分のグラフの第2例を示す図である。第3実施形態では、情報生成部17により生成されたグラフデータにより、図16の例に示されるようなグラフが出力される。図16の例は、分析対象肌画像が肌A、B、C及びDの各肌画像である場合に出力されるグラフを示す。図16のグラフにおいても、図13のグラフと略同様の分析結果を得ることができる。
【0084】
第3実施形態によれば、施されたぼかし強度の順の隣接するぼかし画像間の差分が取られるため、明スコア及び暗スコアの各値は小さくなるものの、ぼかし処理による局所的な反応を明確化することができる。
【0085】
[変形例]
上述の各実施形態では、情報生成部17により生成されるグラフデータを用いた分析が行われたが、当該分析は、比較部16により算出される明スコア差分及び暗スコア差分をそのまま用いても同様に実施することはできる。よって、上述の各実施形態における肌画像分析装置1は、情報生成部17を除き、比較部16により算出される明スコア差分及び暗スコア差分を出力するようにしてもよい。同様に、各実施形態における動作例(図11及び12参照)においても、グラフデータの生成ステップ(S107)を除いてもよい。
【0086】
また、上述の各実施形態では、比較部16により、比較対象肌画像又は複数の肌画像の平均に対する分析対象肌画像の明スコア差分及び暗スコア差分のペアが算出された。このように比較対象との相対値を得ることなく、情報生成部17は、スコア算出部14により算出される、各ぼかし強度に関する明スコア及び暗スコアの各ペアの情報をそのまま出力するようにしてもよい。この場合、肌画像分析装置1から比較部16を省くことができる。
【0087】
この場合、情報生成部17は、例えば、明スコア及び暗スコアの各ペアの情報を用いて、図17に示されるようなグラフのデータを生成するようにしてもよい。図17は、明スコア及び暗スコアのグラフを示す図である。図17のグラフでは、スコアと対応ぼかし強度との2軸で示される座標を持ち、スコア軸の正の値の領域において、分析対象肌画像に関するぼかし強度毎の明スコアを示す位置がプロットされ、スコア軸の負の値の領域において、分析対象肌画像に関するぼかし強度毎の暗スコアを示す位置がプロットされる。
【0088】
この場合、情報生成部17は、各分析対象肌画像に関し、プロット位置の面積をそれぞれ算出してもよい。このように算出された各面積が小さい程、美肌に近いと判定し得る。各ぼかし強度に対応する明スコア及び暗スコアのペアがそれぞれ小さければ、その肌は、全体的にテカリ及びムラが少ないことを示すことになるからである。情報生成部17は、各分析対象肌画像に関し算出された面積情報を出力するようにしてもよい。図18は、各分析対象肌画像に関し算出された面積情報を示すグラフである。
【0089】
また、図17のグラフによれば、各分析対象肌画像に関し、比較対象の肌画像と同等の印象で視認されるのに必要なぼかし強度を得ることができる。よって、情報生成部17は、或る分析対象肌画像(B、C又はD)に関する明スコア及び暗スコアの複数ペアの中から、他の肌画像(A)に関する明スコア又は暗スコアから所定範囲内の明スコア又は暗スコアを含むペアを特定し、特定されたペアに対応するぼかし強度を特定するようにしてもよい。このように特定されたぼかし強度は、或る分析対象肌画像(B、C又はD)に関する、他の肌画像(A)と同等の印象で視認されるのに必要なぼかし強度を示す。
【0090】
図19は、ぼかし強度取得イメージを示す図である。図19は、図17のグラフ上に、比較対象としての肌Aの元の肌画像(ぼかし処理なし)と同等の印象で視認されるのに必要な明スコア及び暗スコアを示す線(補助線A及びB)が引かれている。図19に示されるように、補助線Aから所定範囲内の明スコア又は補助線Bから所定範囲内の暗スコアを示す対応ピクセル距離の各々が、各分析対象肌画像B、C及びDに関する、肌Aと同等の印象で視認されるのに必要なぼかし強度を示す。これにより、例えば、肌Bは、ピクセル距離5.0でぼかし処理されれば、テカリ成分に関して肌Aと同等の印象で視認される可能性が高まり、肌Cは、ピクセル距離2.5でぼかし処理されれば、テカリ成分に関して肌Aと同等の印象で視認される可能性が高まると判定することができる。ムラ成分に関しても同様に分析することができる。
【0091】
更に、情報生成部17は、特定されたぼかし強度に基づいた分析対象肌画像の肌の分析情報を生成するようにしてもよい。この場合、各ぼかし強度と、各化粧品の特性(例えば光散乱度等)との関係を予め保持すれば、情報生成部17は、特定されたぼかし強度に対応する化粧品を特定することができ、当該肌の改善情報(肌の分析情報)として、この化粧品の情報を提供することができる。
【0092】
なお、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数のステップ(処理)が順番に記載されているが、本実施形態で実行される処理ステップの実行順序は、その記載の順番に制限されない。本実施形態では、図示される処理ステップの順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態及び各変形例は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0093】
1 肌画像分析装置
2 CPU
3 メモリ
4 入出力I/F
11 画像取得部
12 ぼかし処理部
13 差分算出部
14 スコア算出部
15 データ格納部
16 比較部
17 情報生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象の肌画像に対して所定ぼかし強度でぼかし処理を施すことによりぼかし画像を取得するぼかし処理手段と、
前記分析対象肌画像と前記ぼかし画像との間の明暗情報の差分を算出することにより、前記ぼかし画像よりも暗い成分が除去された明差分画像、及び、前記ぼかし画像よりも明るい成分が除去された暗差分画像を生成する差分算出手段と、
前記明差分画像及び前記暗差分画像における各色情報から明成分の大きさを示す明成分代表値及び暗成分の大きさを示す暗成分代表値のペアを算出する代表値算出手段と、
を備える肌画像分析装置。
【請求項2】
前記ぼかし処理手段は、値の異なる複数の所定ぼかし強度に対応する複数のぼかし画像を取得し、
前記差分算出手段は、前記複数のぼかし画像及び前記分析対象肌画像の中のいずれか2つの複数の組み合わせの各々に関し、画像間の明暗情報の差分をそれぞれ算出することにより、前記明差分画像及び前記暗差分画像の複数ペアを生成し、
前記代表値算出手段は、前記明差分画像及び前記暗差分画像の各ペアについて前記明成分代表値及び前記暗成分代表値のペアをそれぞれ算出する、
請求項1に記載の肌画像分析装置。
【請求項3】
前記差分算出手段は、前記複数の所定ぼかし強度の中の最大の所定ぼかし強度でぼかし処理が施された最大ぼかし画像と、他のぼかし画像及び前記分析対象肌画像の各々との差分をそれぞれ算出する請求項2に記載の肌画像分析装置。
【請求項4】
前記差分算出手段は、施されたぼかし強度の順の隣接するぼかし画像間、及び、元の画像と最小の所定ぼかし強度でぼかし処理が施された画像との間において明暗情報の差分をそれぞれ算出する請求項2に記載の肌画像分析装置。
【請求項5】
前記代表値算出手段により算出された、各分析対象肌画像に関する明成分代表値及び前記暗成分代表値の複数ペアを用いて、明成分代表値及び暗成分代表値を示す第1軸と、対応ぼかし強度を示す第2軸との2軸で示される座標を持ち、第1軸の第1領域において、各分析対象肌画像に関するぼかし強度毎の明成分代表値を示す位置がそれぞれプロットされ、第1軸の第2領域において、各分析対象肌画像に関するぼかし強度毎の暗成分代表値を示す位置がそれぞれプロットされたグラフのデータを生成する情報生成手段、
を更に備える請求項2から4のいずれか1項に記載の肌画像分析装置。
【請求項6】
前記情報生成手段は、或る分析対象肌画像に関し、前記プロット位置により表わされる面積を算出し、該面積に基づいた該分析対象肌画像の肌の分析情報を生成する請求項5に記載の肌画像分析装置。
【請求項7】
前記情報生成手段は、或る分析対象肌画像に関する明成分代表値及び暗成分代表値の複数ペアの中から、他の分析対象肌画像に関する明成分代表値又は暗成分代表値から所定範囲内の明成分代表値又は暗成分代表値を含むペアを特定し、該特定されたペアを算出するために用いられたぼかし画像に対応する所定ぼかし強度を特定し、該所定ぼかし強度に基づいた該分析対象肌画像の肌の分析情報を生成する請求項5又は6に記載の肌画像分析装置。
【請求項8】
前記分析対象肌画像と比較するための比較対象肌画像に関する前記明成分代表値及び前記暗成分代表値の少なくとも1つのペアを格納するデータ格納手段と、
前記分析対象肌画像に対して取得された前記明成分代表値及び前記暗成分代表値の少なくとも1つのペア、及び、前記データ格納手段に格納される前記比較対象肌画像に対応する前記明成分代表値及び前記暗成分代表値の少なくとも1つのペアに関し、前記分析対象肌画像及び前記比較対象肌画像のペア間における明成分代表値及び暗成分代表値の差分を算出することにより、前記比較対象肌画像に対する前記分析対象肌画像の明成分差分値及び暗成分差分値の少なくとも1つのペアを取得する比較手段と、
を更に備える請求項1から7のいずれか1項に記載の肌画像分析装置。
【請求項9】
前記データ格納手段は、複数の比較対象肌画像に対応する前記明成分代表値及び前記暗成分代表値の複数のペアを格納し、
前記比較手段は、前記データ格納手段に格納される前記明成分代表値及び前記暗成分代表値の複数ペアから算出される、明成分代表値の平均値及び暗成分代表値の平均値の少なくとも1つのペア、及び、前記分析対象肌画像に対して取得された前記明成分代表値及び前記暗成分代表値の少なくとも1つのペアに関し、前記複数の比較対象肌画像の平均及び前記分析対象肌画像のペア間における明成分代表値及び暗成分代表値の差分を算出することにより、前記複数の比較対象肌画像の平均に対する前記分析対象肌画像の明成分差分値及び暗成分差分値のペアを少なくとも1つ取得する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の肌画像分析装置。
【請求項10】
前記明成分差分値及び前記暗成分差分値の2軸で示される座標を持ち、前記比較手段により取得される前記分析対象肌画像の前記明成分差分値及び前記暗成分差分値の少なくとも1つのペアが示す位置がプロットされたグラフのデータを生成する情報生成手段、
を更に備える請求項8又は9に記載の肌画像分析装置。
【請求項11】
前記明成分差分値及び前記暗成分差分値の2軸で示される座標における、前記比較手段により取得される前記分析対象画像の前記明成分差分値及び前記暗成分差分値の少なくとも1つのペアが示す位置に基づいて、前記分析対象肌画像に写る肌の分析情報を生成する情報生成手段、
を更に備える請求項8又は9に記載の肌画像分析装置。
【請求項12】
前記ぼかし処理手段は、前記ぼかし処理としてガウシアンフィルタを適用し、
前記差分算出手段は、前記明暗情報として、明度情報、輝度情報、又は、RGBのG値を用いる請求項1から11のいずれか1項に記載の肌画像分析装置。
【請求項13】
コンピュータが、
分析対象の肌画像に対して所定ぼかし強度でぼかし処理を施すことによりぼかし画像を取得し、
前記分析対象肌画像と前記ぼかし画像との間の明暗情報の差分を算出することにより、前記ぼかし画像よりも暗い成分が除去された明差分画像、及び、前記ぼかし画像よりも明るい成分が除去された暗差分画像を生成し、
前記明差分画像及び前記暗差分画像における各色情報から明成分の大きさを示す明成分代表値及び暗成分の大きさを示す暗成分代表値のペアを算出する、
ことを含む肌画像分析方法。
【請求項14】
コンピュータに、
分析対象の肌画像に対して所定ぼかし強度でぼかし処理を施すことによりぼかし画像を取得するぼかし処理手段と、
前記分析対象肌画像と前記ぼかし画像との間の明暗情報の差分を算出することにより、前記ぼかし画像よりも暗い成分が除去された明差分画像、及び、前記ぼかし画像よりも明るい成分が除去された暗差分画像を生成する差分算出手段と、
前記明差分画像及び前記暗差分画像における各色情報から明成分の大きさを示す明成分代表値及び暗成分の大きさを示す暗成分代表値のペアを算出する代表値算出手段と、
を実現させるプログラム。

【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−78520(P2013−78520A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220950(P2011−220950)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】