説明

肝実質細胞に特異的な核酸導入剤

【課題】肝実質細胞に特異的に核酸を送達することができる核酸導入剤を提供すること。
【解決手段】シクロデキストリンとデンドリマーとラクトースとポリエチレングリコールとが結合して構成される結合体からなる、肝実質細胞に特異的な核酸導入剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンとデンドリマーとラクトースとポリエチレングリコールとが結合して構成される結合体、該結合体からなる肝実質細胞に特異的な核酸導入剤、及び該結合体を用いて細胞に核酸を導入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、shRNA発現DNAベクター、siRNA、デコイ核酸、アンチセンス核酸などの機能性核酸医薬は様々な病気の革新的治療薬になり得ることから、医薬品分野での期待は大きい。しかし、これらを医薬品化するためには、ドラッグデリバリーシステム(DDS)技術が不可欠である。本発明者らは、これまでに、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体(CDE結合体)が、DNAやRNAのキャリアとして有用であることを明らかにしてきている(特許文献1及び2)。
【0003】
これまで肝実質細胞特異的に薬物・DNA・RNAを送達するためのキャリアとして、ガラクトースを修飾したリポソーム、同高分子ミセル、同ポリエチレンイミン(JetPEI-hepatocyte)や肝炎ウイルスの表面抗原を修飾したバイオナノカプセルなどが知られているが、これらは調製が煩雑、キャリアの安定性が低い、細胞障害性を有する、エンドソーム透過促進効果を有さず、作用部位へのデリバリー効率が低い、抗体産生などの免疫原性を有するなどの欠点を有する。また、米国のME Davisらはシクロデキストリンを含有するポリマーとトランスフェリン修飾アダマンタン複合体を用いて肝臓胞選択的に、DNAやRNAをデリバリーできる技術を開発し、現在、米国にて臨床試験が進められているが、この複合体の構造は非常に複雑であり、体内環境が変化した場合に、その送達機能を維持できるか否か不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006/093108号公報
【特許文献2】WO2005/007850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、肝実質細胞に特異的に核酸を送達することができる核酸導入剤を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、調製が容易で、キャリアの安定性が高く、細胞障害性が低く、エンドソーム透過促進効果を示し、肝実質細胞へのデリバリー効率が高い核酸導入剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、肝実質細胞に特異的なデリバリーを目的として、シクロデキストリンとデンドリマーとラクトースとポリエチレングリコールとが結合して構成される各種結合体を調整した。該結合体は、核酸との複合体を形成し、肝実質細胞に選択的かつ高効率に所望の核酸を導入できることから、遺伝病、ウイルス性肝疾患などへの治療効果が期待できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) シクロデキストリンとデンドリマーとラクトースとポリエチレングリコールとが結合して構成される結合体。
(2) シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体にラクトースとポリエチレングリコールとが修飾されている、(1)に記載の結合体。
(3) シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体に、ラクトースとポリエチレングリコールとの結合体が修飾されている、(1)又は(2)に記載の結合体。
(4) ポリエチレングリコールの末端がシクロデキストリンとデンドリマーとの結合体に結合している、(3)に記載の結合体。
(5) シクロデキストリンが、α−シクロデキストリンである、(1)〜(4)のいずれかに記載の結合体。
(6) デンドリマーが、ジェネレーション2のデンドリマー(G2)又はジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、(1)〜(5)のいずれかに記載の結合体。
(7) デンドリマーが、ジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、(1)〜(6)のいずれかに記載の結合体。
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の結合体からなる、肝実質細胞に特異的な核酸導入剤。
(9) 核酸がDNAである、(8)に記載の核酸導入剤。
(10) 導入すべき核酸と、(8)又は(9)に記載の核酸導入剤の存在下で細胞をインキュベーションする工程を含む、肝実質細胞に核酸を導入する方法。
(11) 核酸がDNAである、(10)に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明による結合体からなる肝実質細胞に特異的な核酸導入剤は、溶液中において核酸と攪拌するだけで容易に複合体を調製でき、その複合体は肝実質細胞特異性を有する。また、細胞内導入後、シクロデキストリンの働きにより、細胞内バリアーとして働くエンドソーム膜からRNAの放出を促進し、RNAを効率よく細胞内の作用部位に送達させることができる特性を有する。さらに、本発明で用いる結合体は、従来のキャリアに比べて、細胞障害性や赤血球溶血作用が極めて低いことが特徴である。その上、デンドリマーの種類を変更することにより、細胞タイプに適合したキャリアを構築でき、遊離の環状オリゴ糖(シクロデキストリンなど)の添加により、核酸の徐放性を付与できるという利点を有する。また、本発明の核酸導入剤は、in vivo 遺伝子導入用キャリアとして利用可能であり、静脈内投与が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、in vivoにおけるLac-α-CDE結合体、及びポリエチレングリコール化Lac-α-CDE結合体からなる核酸導入剤の各組織移行性を示す図である。
【図2】図2は、実施例3及び4において合成したPEG修飾Lac-α-CDEの合成方法の概要を示す図である。
【図3】図3は、実施例5の結果を示す図である。
【図4】図4は、実施例6の結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例7の結果を示す図である。
【図6】図6は、実施例8の結果を示す図である。
【図7】図7は、実施例9の結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例10の結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例11の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の結合体は、シクロデキストリンとデンドリマーとラクトースとポリエチレングリコールとが結合して構成されていることを特徴とする。
本発明の結合体は、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体にラクトースとポリエチレングリコールとが修飾されている結合体であってもよい。さらに、本発明の結合体は、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体に、ラクトースとポリエチレングリコールとの結合体が修飾されている結合体であってもよい。さらに、本発明の結合体は、ラクトースとポリエチレングリコールとの結合体のポリエチレングリコールの末端がシクロデキストリンとデンドリマーとの結合体(例えば、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体のデンドリマー部分、特にアミノ基)に結合してなるものであってもよい。以下、本発明の結合体の構成要素となり得る成分について説明する。
【0011】
(1)シクロデキストリン・デンドリマー結合体
シクロデキストリン・デンドリマー結合体は、デンドリマーとシクロデキストリンを溶媒中で加熱・混合することにより容易に製造することができる。
【0012】
(シクロデキストリン)
シクロデキストリン・デンドリマー結合体を構成するシクロデキストリンは、α、β、またはγシクロデキストリンである。これらα、β、またはγシクロデキストリンは、化学修飾型または非修飾型のシクロデキストリンであることもできる。これらα、β、またはγシクロデキストリンは市販品を容易に入手できる。本発明ではこれらのうちα−シクロデキストリンを用いることが、その導入剤としての効果が最も優れているため、好ましい。
【0013】
シクロデキストリンはその水酸基の一部もしくは全部がアセチル化されていてもよく、またはグルコース、マンノース、サッカロース等の糖で修飾されていてもよい。これらの修飾剤と、シクロデキストリンとの反応は、両者を例えば水溶液にし、加熱・攪拌することにより製造することができる。導入剤として用いる場合は、変性しない方が導入効率が高いため好ましい。
【0014】
(デンドリマー)
本発明で用いられるシクロデキストリン・デンドリマー結合体のひとつの構成成分であるデンドリマー (Dendrimer)は、アンモニアあるいはエチレンジアミンをコア分子とし、その分子にマイケル付加反応でアクリル酸メチルおよびエチレンジアミンを付加し、この反応を繰り返すこと (Generation) により得られる高度に枝分かれした樹枝状構造を特徴とし、その末端に多数の一級アミノ基を有した新しいタイプの合成ポリマーである。本発明で用いるデンドリマーとしては、ポリアミドアミン型であることが好ましい。
【0015】
ポリアミドアミン型デンドリマーは、アンモニアにアクリル酸メチルとエチレンジアミンとを反応させて(アンモニア:アクリル酸メチル:エチレンジアミン=1:3:3(モル比))、ジェネレーション0(G0)と呼ばれる中心核を合成する。ジェネレーション0はアンモニアに由来する窒素の周りに、アクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が3つ結合した形を有する。ジェネレーション0(G0)のアミドアミンの末端にエチレンジアミンの一方のアミノ基が存在する。そこで、この中心核(ジェネレーション0(G0))にアクリル酸メチル:エチレンジアミン=3:3(モル比)を反応させることで、上記アミドアミンの末端のアミノ基に2つのアクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が結合する。このようにG0のアミノ基由来の窒素に2つのアクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が結合したものは、ジェネレーション1(G1)と呼ばれる。このようにして順次、アクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体を結合させていくことで、ジェネレーション2、3、4、5、6(G2、G3、G4、G5、G6)が得られる。この状態を下記の反応スキームに示す。
【0016】
【化1】

【0017】
ポリアミドアミン型デンドリマーは、市販されており、市販品を容易に入手できる。本発明の結合体に用いるデンドリマーは、ポリアミドアミン型デンドリマーであれば特に制限はないが、例えば、G2又はG3に属するものであることができる。本発明では、デンドリマーが、ジェネレーション3のデンドリマー(G3)であることが好ましい。
【0018】
デンドリマー・シクロデキストリン結合体は、デンドリマーとシクロデキストリンとを混合し、水性媒体の存在下で加熱攪拌するというわずか2段階の反応で合成できることから、市販の核酸導入剤に比べコスト的に有利であると考えられる。
【0019】
本発明で用いるシクロデキストリン・デンドリマー結合体におけるシクロデキストリンとデンドリマーとのモル比は通常1:1〜10:1、好ましくは1:1〜5:1程度である。
【0020】
シクロデキストリン・デンドリマー結合体は、後述の実施例で示すように、トシル化シクロデキストリンとデンドリマーとを加温条件下で数時間反応させることで合成できる。トシル化(トルエンスルホニル化)シクロデキストリンは、p−トルエンスルホニルクロライドとシクロデキストリンとをピリジン中で反応させることで得られる。
【0021】
本発明で用いられ得るラクトシル基で修飾したシクロデキストリン・デンドリマー結合体は、上記のようにして得られたシクロデキストリン・デンドリマー結合体を、さらに、ラクトース(ラクトシル基)で修飾することによって製造することができる。また、ラクトシル基で修飾したシクロデキストリン・デンドリマー結合体におけるデンドリマーとラクトシル基とのモル比はデンドリマーのジェネレーション数が高くなると上昇するため、一概に規定できないが、例えばG3の場合、通常1:1〜10:1、好ましくは1:1〜1:5程度であることが好ましい。
【0022】
シクロデキストリン・デンドリマー結合体を、ラクトース(ラクトシル基)で修飾するためには、シクロデキストリン・デンドリマー結合体とラクトース1水和物と水素化シアノほう素ナトリウムをホウ酸緩衝液(pH 7.5)に溶解後、室温で攪拌し、反応物をゲル濾過する。ラクトシル基で修飾したシクロデキストリン・デンドリマー結合体を含む画分を濃縮後、濃縮液を水に再溶解した後、エタノール沈殿を行い、最後にエタノールを留去後、本品を得る。
【0023】
本発明で用いるラクトシル基で修飾したシクロデキストリン・デンドリマー結合体の構造の一例を以下に示す。
【0024】
【化2】

【0025】
本発明の一実施形態である、ラクトシル基で修飾され、かつポリエチレングリコールで修飾されているシクロデキストリン・デンドリマー結合体は、上記のようにして得られたクトシル基で修飾したシクロデキストリン・デンドリマー結合体を、さらにポリエチレングリコールで修飾することによって製造することができる。
【0026】
本発明で使用するポリエチレングリコールの分子量は特に限定されないが、一般的には200から50,000程度のものを使用することができる。
【0027】
ラクトシル基で修飾されたシクロデキストリン・デンドリマー結合体をポリエチレングリコールで修飾するためには、ポリエチレングリコール(ω-amino-α-carboxyl polyethylene glycol)と1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシイミド(NHS)をホウ酸緩衝液(pH 7.5)に溶解後、室温で攪拌し、そこにホウ酸緩衝液(pH 7.5)に溶解したラクトシル基で修飾されたシクロデキストリン・デンドリマー結合体を添加し室温で攪拌する。反応物を透析し、凍結乾燥することで本品を得る。
【0028】
本発明の結合体は、上記したシクロデキストリン・デンドリマー結合体に、ラクトースとポリエチレングリコールとの結合体を修飾させることにより製造することもできる。シクロデキストリン・デンドリマー結合体をラクトースとポリエチレングリコールとの結合体で修飾するためには、ラクトシル化ポリエチレングリコール(Lactosylated polyethylene glycol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシイミド(NHS)をホウ酸緩衝液(pH 7.5)に溶解後、室温で攪拌し、そこにホウ酸緩衝液(pH 7.5)に溶解したシクロデキストリン・デンドリマー結合体を添加し室温で攪拌する。反応物を透析し、凍結乾燥することで本品を得る。
【0029】
(2)核酸導入剤及び核酸導入方法
本発明の結合体は、細胞に核酸を効率的に導入するための核酸導入剤として用いることができる。
【0030】
本発明の核酸導入剤は、生体内に投与することにより、肝臓(肝実質細胞)に特異的に核酸の導入に用いることができる。さらに、本発明の核酸導入剤は、本発明の核酸の導入方法において、in vitroにおける細胞への核酸の導入に用いることもできる。
【0031】
本発明の核酸導入剤を生体内に投与する場合には、例えば、適切なバッファー等において、導入すべき核酸と本発明の核酸導入剤とをインキュベートすることにより得られた溶液を、ヒトを含む哺乳動物に静脈注射することにより投与することができる。
【0032】
本発明による核酸の導入方法は、導入すべき核酸と、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であってさらにラクトースで修飾され、かつポリエチレングリコールで修飾されている結合体とを、細胞とともにインキュベーションすることによって行うことができる。
【0033】
本発明の核酸導入方法では、導入すべき核酸と、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であってさらにラクトースで修飾され、かつポリエチレングリコールで修飾されている結合体(本発明の核酸導入剤)の存在下で細胞をインキュベーションする。例えば、核酸を導入すべき細胞を含有する培地0.5〜1ml(細胞量約2×105個)に、導入すべき核酸を含有する溶液と上記結合体を含有する溶液を添加する。導入すべき核酸を含有する溶液は、例えば、核酸濃度が5nM〜10μM、好ましくは10nM〜1μM、より好ましくは20nM〜500nMとなるように添加し、上記結合体含有溶液は、例えば、上記結合体が1mMとなるように添加することができる。添加後、約24時間インキュベートすることにより、トランスフェクションすることができる。核酸を導入すべき細胞を含有する培地の種類や量は、使用する細胞に応じて適宜決定することができ、また、核酸、及びラクトースで修飾され、かつポリエチレングリコールで修飾されているシクロデキストリン・デンドリマー結合体(本発明の核酸導入剤)の添加量やインキュベーション時間も適宜変化させることができる。
【0034】
本発明の対象となる核酸は、機能性のあるDNA、RNA、それらの修飾を受けた分子、誘導体等を挙げることができる。より具体的には、shRNA発現DNAベクター、siRNA、マイクロRNA、デコイ核酸、アンチセンス核酸、アプタマー等の機能性核酸医薬を挙げることができる。
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明につき更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制約されるものではない。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
以下の手順に従い、本発明のポリエチレングリコール化Lac-α-CDE結合体を作成した。
(1)α-CDE (G3)の製造
α-シクロデキストリンは日本食品化工(株)から恵与されたものを使用した。デンドリマーはSigma-Aldrich Chemical, Inc. 製のStarburst(登録商標) (PAMAM)dendrimerを使用した。メタノールで水分を共沸除去した乾燥α−シクロデキストリン8 gを無水ピリジン500 mL に溶解後、冷却、攪拌しながらp−トルエンスルホニルクロライド6 gを加え、室温で2時間攪拌した。反応溶液に水を注ぎ込み反応を停止させた後、減圧濃縮し、アセトン1 L を添加して析出した沈殿物濾取し、吸着クロマトグラフィーを用いて分離、精製し、トシル化α-シクロデキストリンを得た。(多孔質ポリスチレン樹脂 (MITSUBISHI CHEMICAL 製 DIAION(登録商標)HP-20); 溶離液:メタノール/水=0/100 → 100/0)。得られたトシル化α−シクロデキストリン 26 mg およびDMSO 0.5 mL を減圧下でメタノールを除去したデンドリマー 0.5 mL に添加し、窒素置換後、60℃で24時間攪拌した。反応物をTOYOPERL HW−55S を用いてゲルろ過した。α−CDE を含むフラクションを濃縮後、濃縮液を 0.5 mL の水に再溶解し、エタノール 10 mL を加えて十分に白濁するまで混和した。沈殿物を含む溶液を 10,000 rpm (9,840 x g) 、30 分間遠心後、上清のエタノールを取り除き、再びエタノール 10 mL を添加してよく混和した。同様に遠心分離し、上清を取り除いた後、水に再溶解させ、凍結乾燥し、α−CDE (G3) を得た。
【0037】
(2)Lac-α-CDE (G3)の製造
α-CDE (G3) 20.6 mg を試験管に加えた後、lactose monohydrate 4 mg と sodium cyanotrihydroborate 7.1 mg を 0.2 M borate buffer (pH 7.5) に溶解後、室温で 3 時間攪拌した。反応物を TOSOH TskGel HW-40S (5.3 cm2 x 70 cm、溶出液: 0.1M ammonium hydroxycarbonate) を用いてゲルろ過した。Lac-α-CDE 結合体 (G3) を含むフラクションを濃縮後、濃縮液を 0.5 mL の水に再溶解し、エタノール 3 mL を加えて十分に白濁するまで混和した。沈殿物を含む溶液を 1,500 rpm、15 分間遠心分離後、上清のエタノールを取り除き、再びエタノール 3 mL を添加してよく混和した。同様に遠心分離し、上清を取り除いた後、残渣中のエタノールを試験管エバポレーターにより完全に留去し、Lac-α-CDE (G3) を得た。
【0038】
(3)Lac-α-CDE (G3)のポリエチレングリコールによる修飾
ω-amino-α-carboxyl polyethylene glycol 29.3 mg と 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシイミド (NHS) を 0.2 M borate buffer (pH 7.5)に溶解後、室温で 2 時間攪拌した。反応物に Lac-α-CDE (G3) 25 mg を溶解した 0.2 M borate buffer (pH 7.5) を添加し、室温で 48 時間攪拌した。その後、H2O 中で 48 時間透析 (透析膜; MWCO=3,500) し、凍結乾燥することでポリエチレングリコール修飾 Lac-α-CDE (G3) を得た。
【0039】
(実施例2)
実施例1で製造したLac-α-CDE(G3、DSL1.6)結合体と、ポリエチレングリコール化Lac-α-CDE(G3、DSP6)結合体を核酸導入剤とし、以下の方法により、BALB/cマウスにおける各臓器における核酸の移行性を調べた。
【0040】
(方法)
核酸として pRL-CMV Luciferase DNA 20μgと、Lac-α-CDE(G3、DSL1.6)又はポリエチレングリコール化Lac-α-CDE(G3、DSP6)を 5% マンニトール溶液 中においてインキュベートすることにより、各結合体と核酸との複合体を作成した。各結合体と核酸の複合体を含む溶液(チャージ比20) 500 μLを、それぞれ、BALB/cマウスに静脈注射により投与し、投与から12時間経過した後、マウスから、各臓器を摘出した。摘出した各臓器を、細胞溶解バッファー中でホモジナイズし、3 回凍結融解後、10,000 rpm で 10 分間遠心分離し細胞抽出液を得た。得られた各臓器の細胞抽出液について、ルミノメーターを用いて、レニラ(Renilla)ルシフェラーゼ活性を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0041】
(結果)
結果を図1に示す。図1の結果により、ポリエチレングリコール化Lac-α-CDE(G3)を遺伝子導入剤として用いた場合、肝臓においてのみルシフェラーゼ活性が検出され、本発明の遺伝子導入剤によれば、肝臓(肝実質細胞)に特異的に核酸を導入できることが示された。一方、ポリエチレングリコール化処理をしていないLac-α-CDE(G3)を遺伝子導入剤として用いた場合、脾臓、肺及び心臓においてルシフェラーゼ活性が検出されたが、肝臓においてルシフェラーゼ活性は検出されなかった。
【0042】
(実施例3)
実施例1に示す方法により、Lac−α−CDE(G3)を合成した。さらに、表1に示すLac−α−CDE(G3)及びポリエチレングリコール(PEG)の量、並びに反応時間を採用した以外は実施例1と同様の方法により、ポリエチレングリコール修飾Lac−α−CDE(PEGylated Lac-α-CDE;PEG−LαC)をそれぞれ合成した。合成方法の概要を図2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例4)
表2に示す各量のラクトシル化ポリエチレングリコール(Lactosylated polyethylene glycol) と 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシイミド (NHS) を 0.2 M borate buffer (pH 7.5)に溶解後、室温で 2 時間攪拌した。各反応物に表2に示す各量のα-CDE (G3)を溶解した 0.2 M borate buffer (pH 7.5) を添加し、室温で 6 時間攪拌した。その後、H2O 中で 48 時間透析 (透析膜; MWCO=3,500) し、凍結乾燥することでラクトシル化PEG修飾α-CDE (Lactosylated PEG appended α-CDE;Lac-PαC)を得た。合成方法の概要を図2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
(実施例5)
実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCの物理化学的性質の評価を行った。
【0047】
PEG−LαC(G3、DSP2)又はLac-PαC(G3、DSL1.6)とpDNA(pRL-CMV Luciferase DNA)との複合体を含有する溶液を、わずかに攪拌させた後、室温で15分間インキュベートした。本反応液に重層用試薬 (60% (v/v) グリセロール、1 mM EDTA、0.004% (w/v) ブロモフェノールブルー、0.004% (w/v) キシレンシアノール) 2μL を添加し、泳動用緩衝液 (Tris-borate EDTA: TBE; 45 mM Tris、45 mM ホウ酸、1 mM EDTA) で調製した 2% アガロースゲルを用い、100 V の定圧条件下で約 40 分間泳動した。泳動終了後、アガロースゲルを EtBr (100 ng/mL) を含む TBE 溶液中で 30 分間振盪し染色した。染色終了後、UVP 製トランスイルミネーター (NLMS-E20) によりゲルを撮影した。pDNAの量は0.5μgとした。電気泳動の結果を図3に示す。
チャージ比(charge ratio)2付近から複合体の形成が始まった。チャージ比5以上でpDNA由来のバンドが消失したことから、複合体の形成が確認された。
【0048】
次に、キャリア/pDNA複合体の粒子径、ζ−電位を測定した。測定は、Zetasizer nano (Malvern Instruments製)を用いて行った。キャリアとpDNAとの複合体をTris-HClバッファー(10mM,pH7.4)に添加した。pDNAの濃度は5μg/mLとした。各値は、3回の実験の平均±S.E.を表す。測定結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示される通り、PEG−LαC又はLac−PαC/pDNA複合体は、約150〜250nmの平均粒子径を示した。また、両複合体のζ-電位はチャージ比の増大に伴い増加し、チャージ比50において、約16mVを示した。低チャージ比において、Lac-PαCのζ-電位はPEG-LαCよりも比較的に高値を示しており、これはデンドリマーに対する修飾基の数がLac-PαCの方が少ないことに起因するものと考えられる。
【0051】
(実施例6)
次に、実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCを用いて、遺伝子導入効率に及ぼす各修飾基の置換度の影響を調べた。
【0052】
細胞を 24 well plate に 2x105 個/well になるように播種し、HepG2 細胞は 10% (v/v) FCS 含有培地で24 時間培養した。細胞を無血清培地 500 μL で 2 回洗浄後、実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCとpDNA(pRL-CMV Luciferase DNA )(2 μg) との複合体を含む無血清培地 400 μL を添加し、37℃、5% CO2 濃度下で 3 時間インキュベートした。その後、細胞を無血清培地で 2 回洗浄し、HepG2 細胞は 10% (v/v) FCS 含有培地を添加後、さらに 21 時間培養した。トランスフェクション終了後の各種細胞を PBS (-) 200 μL で 2 回洗浄後、細胞溶解剤 300 μL を添加し、15 分間室温でインキュベートし、凍結融解を 2 回行い、10,000 rpm で 5 分間遠心分離しその上清を細胞抽出液とした。細胞抽出液 20 μL をルミノメーター用試験管 (Rohren Tubes、SARSTEDT) に採取し、これにルシフェリン、コエンザイム A、ATP などを含む基質液を 100 μL 添加し、ルミノメーター (EG&G BERHTOLD 製 Lumat LB 9507) で 10 秒間の発光量を測定した。なお、トランスフェクション時のチャージ比(キャリア/pDNA)は50とした。
【0053】
結果を、図4に示す。その結果、PEG−LαCではPEG置換度(DSP)の増加に伴い遺伝子導入効率が有意に低下した。Lac−PαCについては、ラクトシル化PEGの置換度(DSL)が増加しても遺伝子導入効率の変化は観察されなかった。
【0054】
(実施例7)
次に、実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCを用いて、遺伝子導入効率に及ぼす各キャリアのチャージ比の影響を調べた。
【0055】
チャージ比を変化させた以外は、実施例6と同様の方法により遺伝子導入効率の評価を行った。
【0056】
結果を図5に示す。過去の報告によれば、Lac-α-CDEについてはチャージ比の増大に伴い遺伝子導入効率が有意に増加することが示されている。今回新規に合成したPEG−LαC及びLac−PαCについては、いずれのチャージ比においてもほぼ同等の遺伝子発現が認められた。
【0057】
(実施例8)
次に、実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCについて、遺伝子導入効率に及ぼす阻害剤の添加による影響を調べた。阻害剤として、アシアロ糖タンパク質受容体(asialoglycoprotein receptor;ASGPR)の競合阻害剤であるアシアロフェチュイン(Asialofetuin;AF)、及びクラスリン介在性エンドサイトーシス阻害剤であるスクロース(Sucrose)を用いた。
【0058】
細胞を 24 well plate に 2x105 個/well になるように播種し、10% (v/v) FCS 含有培地で 24 時間培養した。細胞を無血清培地 500μL で 2 回洗浄後、実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCとpDNA (pRL-CMV Luciferase DNA) (2μg) との複合体を含む無血清培地 200μL およびAF、Sucroseを含む無血清培地 200μLを添加し、37℃、5% CO2 濃度下で 3 時間インキュベートした。その後、細胞を無血清培地で 2 回洗浄し、10% (v/v) FCS 含有培地を添加後、さらに 21 時間培養した。チャージ比(キャリア/pDNA)は20とした。AF及びスクロースの濃度は、それぞれ1mg/mL及び400nMとした。
【0059】
結果を、図6に示す。PEG−LαCにおいてはAFによるルシフェラーゼ活性の阻害は確認されなかった。一方、スクロースにおいて有意なルシフェラーゼ活性の低下が観察された。したがって、PEG−LαC又はLac−PαC/pDNA複合体による遺伝子導入には、ASGPRが関与していることが示唆された。
【0060】
(実施例9)
次に、実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCについて、遺伝子導入効率に及ぼす血清の影響を調べた。
【0061】
HepG2 細胞を 24 well plate に 2x105 個/well になるように播種し、10% (v/v) FCS 含有培地で 24 時間培養した。細胞を無血清培地 500μL で 2 回洗浄後、実施例3及び4において合成したPEG−LαC及びLac-PαCとpDNA (pRL-CMV Luciferase DNA)との複合体を含む血清含有培地 (5%, 7.5%, 10%, 20%, 50% (v/v)) 400μL を添加し、37℃、5% CO2 濃度下で 3 時間インキュベートした。その後、細胞を無血清培地で 2 回洗浄し、10% (v/v) FCS 含有培地を添加後、さらに 21 時間培養した。トランスフェクション終了後の各種細胞を PBS (-) 200μL で 2 回洗浄後、細胞溶解剤 300μL を添加し、15 分間室温でインキュベートし、凍結融解を 2 回行い、10,000 rpm で 5 分間遠心分離しその上清を細胞抽出液とした。細胞抽出液 20μL をルミノメーター用試験管 (Rohren Tubes、SARSTEDT) に採取し、これにルシフェリン、コエンザイム A、ATP などを含む基質液を 100μL 添加し、ルミノメーター (EG&G BERHTOLD 製 Lumat LB 9507) で 10 秒間の発光量を測定した。pDNAの量は2.0μgとした。チャージ比(キャリア/pDNA)は50とした。
【0062】
結果を、図7に示す。図7に示す通り、PEG−LαC及びLac-PαCの両者において血清濃度を上昇させた際にも、血清非存在下と同等又はそれ以上の遺伝子発現が観察された。この結果により、PEG−LαC及びLac-PαCは血清存在下においても遺伝子導入を可能にすることが示された。
【0063】
(実施例10)
次に、実施例3及び4において合成したPEG−LαC、Lac-PαC、及びポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)について、キャリア/pDNA複合体の細胞障害性をWST−1法により調べた。
【0064】
HepG2 細胞を 24 well plate に 2x105 個/well になるように播種し、10% (v/v) FCS 含有培地で 24 時間培養した。細胞を無血清培地 500μL で 2 回洗浄した後、実施例3及び4において合成したPEG−LαC、Lac-PαC、及びポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)について、キャリア/pDNA複合体および無血清培地を 400μL 添加し、37℃、5% CO2 濃度下で 3 時間インキュベートした。その後、細胞を無血清培地で 2 回洗浄し、10% (v/v) FCS 含有培地でさらに 21 時間培養した。その後、HBSS 200μL で 2 回洗浄した後、HBSS 270μL および WST-1 試薬 30μL を添加してよく混和し、37℃、5% CO2 濃度下で 30 分間インキュベートした後、吸光度を測定した (BioRad 製 Model 550 ; 測定波長 ; 450 nm、参照波長 ; 655 nm)。なお、細胞生存率はキャリア非添加時を 100% として算出した。pDNAの量は2.0μgとした。使用したpDNAは、pRL-CMV Luciferase DNAである。
【0065】
結果を、図8に示す。PEG−LαC/pDNA複合体はチャージ比を50とした場合であっても細胞障害性を示さなかった。また、Lac−PαC/pDNA複合体についてもチャージ比を50とした場合にわずかな細胞生存性(%)の低下が認められたものの、その細胞障害性は無視できる程度のものであった。一方、コントロールとして用いたポリエチレンイミンについては顕著な細胞障害性が観察された。以上の結果から、本発明によるPEG−LαC及びLac−PαCは安全性に優れることが示された。
【0066】
(実施例11)
次に、Lac-α-CDE又はPEG−LαC/pDNA複合体をマウス尾静脈内投与後の各種臓器内での遺伝子発現を調べた。
【0067】
4 週齢の BALB/c 雄性マウス (体重約 20 g) をLac-α-CDE又はPEG−LαC/pDNA複合体(チャージ比 20) を含む 5% マンニトール懸濁液 500μL を尾静脈より約 30 秒間かけて投与した。12 時間後エーテル麻酔下で瀉血致死させ、各臓器 (肝臓、腎臓、脾臓、肺、心臓) を摘出した。摘出した臓器は、氷冷した PBS (-) で洗浄後、Protease Inhibitor, Complete(登録商標) を含む細胞溶解バッファー 2 mL に加えた後、ホモジナイザー (IKA Works 製 T25 basic) を用いてホモジナイズした。得られたサンプルを 3 回凍結融解した後、10,000 rpm で 10 分間遠心分離を行い、上清を細胞抽出液として上記の条件でルシフェラーゼ活性を求めレニラ(Renilla)ルシフェラーゼ活性を測定した。pDNAの量は20μgとした。使用したpDNAは、pRL-CMV Luciferase DNAである。
【0068】
結果を、図9に示す。Lac-α-CDEについては、脾臓において高い集積が観察されたのに対し、PEG-LαCでは肝臓において最も高い遺伝子発現が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンとデンドリマーとラクトースとポリエチレングリコールとが結合して構成される結合体。
【請求項2】
シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体にラクトースとポリエチレングリコールとが修飾されている、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体に、ラクトースとポリエチレングリコールとの結合体が修飾されている、請求項1又は2に記載の結合体。
【請求項4】
ポリエチレングリコールの末端がシクロデキストリンとデンドリマーとの結合体に結合している、請求項3に記載の結合体。
【請求項5】
シクロデキストリンが、α−シクロデキストリンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の結合体。
【請求項6】
デンドリマーが、ジェネレーション2のデンドリマー(G2)又はジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の結合体。
【請求項7】
デンドリマーが、ジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の結合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の結合体からなる、肝実質細胞に特異的な核酸導入剤。
【請求項9】
核酸がDNAである、請求項8に記載の核酸導入剤。
【請求項10】
導入すべき核酸と、請求項8又は9に記載の核酸導入剤の存在下で細胞をインキュベーションする工程を含む、肝実質細胞に核酸を導入する方法。
【請求項11】
核酸がDNAである、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−16349(P2012−16349A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126247(P2011−126247)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】