説明

肝実質細胞再生促進剤

【課題】従来のグリチルリチン及びその誘導体よりも高い肝実質細胞再生促進効果を有する、グリチルレチン酸誘導体を有効成分とする肝実質細胞再生促進剤、及び当該促進剤に使用可能な新規グリチルレチン酸誘導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする肝実質細胞再生促進剤(式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。);下記式(12)で表される化合物。一般式(1)で表される化合物の薬学的に許容される塩として、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、コリン塩が好適である。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、11−デオキソグリチルレチン酸又はその誘導体を有効成分とする肝実質細胞再生促進剤、及び11−デオキソグリチルレチン酸誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
グリチルリチンは、マメ科の植物(Glycyrrhiza glabra)の根から単離・精製され、生薬の甘草の有効成分の一つとして知られている。グリチルリチンとそのいくつかの誘導体は、多くの薬理作用、例えば、鎮痙、鎮痛、抗炎症、抗消化性潰瘍作用などを有することが知られている。また、そのアグリコンであるグリチルレチン酸にも、抗炎症、抗アレルギー、高脂血症改善作用などの種々の薬理作用があることが知られている(非特許文献1参照)。
本邦において、グリチルリチン製剤は、肝炎(hepatitis)や肝硬変(hepatic cirrhosis)などの慢性肝疾患に対する治療薬(肝庇護薬)として、20数年来、臨床的に使用されている。また、ヨーロッパにおいても、慢性C型肝炎患者に対するグリチルリチン製剤の有効性と安全性が臨床的に評価されており、静脈内投与で慢性C型肝炎患者の血清アラニンアミノトランスフェラーゼ活性の亢進が減少することが報告されている(非特許文献2参照)。
【0003】
グリチルリチン製剤の主な薬理効果は、その抗炎症作用にあるものと考えられているが、肝炎などの主な炎症部位である肝実質細胞に対する増殖促進作用の有無については、有効なモデル実験系がなかったこともあり、詳しく検討した報告は極めて少なかった。
最近、グリチルリチンとそのいくつかの誘導体がラット肝実質細胞の増殖にどのような影響を与えるかについて、ラットの初代培養肝実質細胞系(in vitro実験系)を用いた検討がなされ、その結果、グリチルリチンと一部の誘導体は、肝実質細胞の上皮増殖因子(EGF)受容体を直接的に刺激し、その増殖を促進させるEGF様の増殖促進作用を有することが見出された(非特許文献3参照)。
【非特許文献1】Inoue et al.,1996,Jpn.J.Pharmacol.71,281−289
【非特許文献2】van Rossum et al.,1999,J.Gastroenterol.Hepatol.14,1093−1099
【非特許文献3】Kimura et al.,European Journal of Pharmacology 431(2001)151−161
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、グリチルリチンのアグリコンであるグリチルレチン酸の誘導体に関しては、これまでに肝実質細胞再生促進剤としての十分な検討が為されていないのが現状である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来のグリチルリチン及びその誘導体よりも高い肝実質細胞再生促進効果を有する、グリチルレチン酸誘導体を有効成分とする肝実質細胞再生促進剤、及び当該促進剤に使用可能な新規グリチルレチン酸誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、グリチルレチン酸誘導体の中でも、特に11−デオキソ体の中に、一層高い肝実質細胞再生促進効果を有するものを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、下記一般式(1)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする肝実質細胞再生促進剤である。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。)
【0009】
請求項2に記載の発明は、下記式(12)で表される化合物である。
【0010】
【化2】

【発明の効果】
【0011】
本発明により、肝疾患により損傷を受けた肝臓の再生促進や、生体肝移植後の肝臓再生などに高い有効性を示す肝実質細胞再生促進剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、一般式(1)で表される化合物の炭素原子の番号表記は、以下に示す通りであり、これは以下に述べる式(2)、(3)、(11)及び(12)で表される化合物についても同様である。
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。)
【0015】
本発明の肝実質細胞再生促進剤は、前記一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と略記する)又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするものである。
式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。すなわち、化合物(1)は、より具体的には、下記式(11)又は(12)で表される化合物(以下、それぞれ化合物(11)、化合物(12)と略記する)であり、11−デオキソグリチルレチン酸、又はその24位の炭素原子に結合している水素原子が水酸基に置換された誘導体である。化合物(12)は新規化合物である。
【0016】
【化4】

【0017】
本発明において、化合物(1)の薬学的に許容される塩としては、例えば、化合物(1)モノアンモニウム塩等のアンモニウム塩;化合物(1)モノナトリウム塩、化合物(1)モノカリウム塩等のアルカリ金属塩;化合物(1)コリン塩等を挙げることができる。さらにこれら以外にも、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩や、種々の有機アミン塩等も用いることができる。これらの中でも、アンモニウム塩が好ましい。
また、これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて併用しても良い。
【0018】
本発明の肝実質細胞再生促進剤は、常法により錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、細粒剤、水薬等の経口剤;吸入剤、座剤あるいは注射剤等の非経口剤として臨床に供し得る。投与量は治療するべき症状及び投与方法により左右されるが、通常は、成人1日あたり好ましくは1μg〜10gを、単一投与または1日数回に分けて投与することができる。
【0019】
経口剤は、例えば、これら製剤の製造に通常用いられる賦形剤、滑沢剤、可塑剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、矯味剤、着色剤、香料、緩衝剤等を配合し、常法にしたがって製造できる。
【0020】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、果糖、デキストリン、デンプン、食塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、無水ケイ酸及びカオリン等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、トウモロコシデンプン及びマクロゴール等が挙げられる。
また、結合剤としては、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、セルロースエステル及びポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0021】
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン類、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、アセチルグリセリン脂肪酸エステル及びクエン酸トリエチル等が挙げられる。
【0022】
崩壊剤としては、デンプン、カンテン、カルメロースカルシウム、カルメロース、結晶セルロース等が挙げられる。
湿潤剤としては、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0023】
矯味剤としては、例えば、白糖、ハチミツ、サッカリンナトリウム、ハッカ、ユーカリ油、ケイヒ油等が挙げられる。
着色剤としては、例えば、酸化鉄、β−カロチン、クロロフィル及び水溶性食用タール色素等が挙げられる。
香料としては、例えば、レモン油、オレンジ油、dl−又はl−メントール等が挙げられる。
【0024】
また、吸入剤あるいは注射剤等の非経口剤として用いる場合は、注射用蒸留水または無菌の非水性溶媒を溶媒とする溶液剤、又は懸濁剤等の製剤形態が例示できる。非水性溶媒または懸濁剤の基剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、オリーブ油、コーン油、オレイン酸エチル等が例示できる。
また、坐剤として用いる場合の基剤としては、カカオ脂、マクロゴール等が例示できる。
非経口剤には、これらに加え、本発明による効果を妨げない範囲内で、薬学上許容される任意成分として、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤等を必要に応じて適宜添加することもできる。
【0025】
化合物(12)は、以下のようにして製造できる。
下記式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)と略記する)又はその塩を加水分解して糖を離脱させることで、下記式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)と略記する)を得る。反応は、例えば、化合物(2)又はその塩をエタノール中で適当量の硫酸と共に加熱攪拌、好ましくは加熱還流攪拌することで行う。反応終了後、必要に応じて後処理、精製することで化合物(3)が得られる。後処理は、例えば、抽出、脱水、減圧濃縮などの周知の方法を必要に応じて適用すれば良く、精製は、カラムクロマトグラフィー、再結晶などの周知の方法を適宜選択すれば良い。
【0026】
化合物(2)の塩としては、例えば、化合物(2)モノアンモニウム塩等のアンモニウム塩;化合物(2)モノナトリウム塩、化合物(2)モノカリウム塩等のアルカリ金属塩;化合物(2)コリン塩等を挙げることができる。さらにこれら以外にも、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩や、種々の有機アミン塩等も用いることができる。
化合物(2)の塩は、例えば、化合物(2)に無機塩基又は有機塩基を一定のモル比で作用させることで得られるが、市販品を用いても良い。さらに、グリチルリチンモノアンモニウム塩など市販品のグリチルリチンの塩には、数%程度(例えば、3〜5%程度)化合物(2)の塩が含有されているものがあるので、化合物(2)の塩をこれから精製して取り出して、又は混合物のまま上記反応に供しても良い。
【0027】
次いで、化合物(3)の11位の炭素原子に結合している酸素原子を水素原子に置換する(すなわち、11位の炭素原子を含むカルボニル基をメチレン基に変換する)還元反応を行い、化合物(12)を得る。反応は、例えば、特開昭59−70638号公報に記載されている、グリチルレチン酸を還元する方法を適用できる。すなわち、化合物(3)を溶媒中、好ましくはジオキサン中で、亜鉛及び塩酸を用いて室温下で還元する。反応終了後、ろ過などにより不溶物を除去した後、必要に応じて後処理、精製することで化合物(12)が得られる。後処理は、例えば、抽出、脱水、減圧濃縮などの周知の方法を必要に応じて適用すれば良く、精製は、カラムクロマトグラフィー、再結晶などの周知の方法を適宜選択すれば良い。
【0028】
【化5】

【0029】
化合物(1)の薬学的に許容される塩は、例えば、化合物(1)に無機塩基又は有機塩基を一定のモル比で作用させて得られる。
【0030】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、グリチルリチン、グリチルリチン誘導体及びグリチルレチン酸並びにこれらの薬学的に許容される塩よりも優れた肝実質細胞再生促進効果を有する。ここで、グリチルリチン、グリチルリチン誘導体、グリチルレチン酸の薬学的に許容される塩とは、化合物(1)の薬学的に許容される塩と同様のものが挙げられる。なかでも、化合物(11)又はその薬学的に許容される塩は、最も再生促進効果が高い。したがって、本発明の肝実質細胞再生促進剤は、従来の促進剤よりも少量の投与でも肝臓の再生に優れた効果を示す。
【実施例】
【0031】
以下、具体的に実施例を挙げ、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(化合物(12)の製造)
<化合物(3)の製造>
化合物(2)モノアンモニウム塩を含有するグリチルリチン酸モノアンモニウム塩(純度75%)28gにエタノール250mlと10%硫酸250mlを加えて、24時間加熱還流した。次いで、反応液に水を加え、クロロホルムで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥して、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:1)で精製し、350mgの化合物(3)を得た。
得られた化合物(3)の物性を確認したところ、以下のようであった。
【0032】
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δppm: 5.69 (1H, s), 4.21 (1H, d, J = 11.0 Hz), 3.46 (1H, dd, J = 12.0, 4.4 Hz), 3.34 (1H, d, J = 11.0 Hz), 2.81 (1H, dt, J = 13.4, 6.7 Hz), 2.33 (1H, s), 2.20-2.17 (1H, m), 1.36 (3H, s), 1.25 (3H, s), 1.21 (3H, s), 1.09 (3H, s), 1.08 (3H, s), 0.83 (3H, s). 13C-NMR (100MHz,CDCl3) δppm: 200.0, 180.9, 169.5, 128.2, 80.5, 64.2, 61.7, 55.5, 48.2, 45.4, 43.7, 43.1, 43.0, 40.9, 38.8, 37.7, 36.7, 32.9, 31.8, 30.9, 28.5, 28.4, 27.5, 26.5, 26.4, 23.4, 22.5, 18.5, 17.6, 16.9.
【0033】
<化合物(12)の製造>
化合物(3)50mgをジオキサン1mlに溶かし、亜鉛粉末54mg、濃塩酸0.2mLを加えて室温で1時間撹拌した。次いで、反応液をろ過して、減圧濃縮した後、ヘキサンとエタノールから再結晶して、39mgの化合物(12)を白色結晶として得た(収率80%)。
得られた化合物(12)の物性を確認したところ、以下のようであった。
【0034】
1H-NMR (400MHz, pyridine-d5) δppm: 5.48 (1H, br s), 4.51 (1H, d, J = 10.7 Hz), 3.71 (1H, d, J = 10.7 Hz), 3.64 (1H, dd, J = 11.5, 4.1 Hz), 2.45-2.42 (1H, m), 2.32-2.29 (2H, m), 1.57 (3H, s), 1.38 (3H, s), 1.27 (3H, s), 0.95 (3H, s), 0.92 (3H, s), 0.89 (3H, s). 13C-NMR (100MHz, pyridine-d5) δppm:179.6, 145.1, 122.8, 80.2, 64.7, 56.4, 48.8, 48.2, 44.5, 43.7, 43.3, 41.9, 40.2, 39.2, 39.0, 37.1, 33.5, 32.5, 32.0, 29.3, 28.7, 28.6, 27.4, 26.7, 26.3, 24.2, 23.7, 19.3, 17.1, 16.3.
LC/MS (m/z) ES+473.2 [M+H]+
【0035】
[実施例2]
(肝実質細胞の核数及びDNA合成能の測定)
化合物(11)を用いて、以下に示す方法により、肝実質細胞の核数及びDNA合成能の測定を行った。
<肝実質細胞の単離及び培養>
Wistar系雄性ラット(体重200−250g)を用い、Seglenらの方法(Methods Cell Biol.,13,29:1975)に従い行った。In situコラゲナーゼ還流法により単離した肝実質細胞を5%ウシ新生児血清含有Williams’E培地(0.1μg/mLアプロチニン、100U/mLペニシリン、0.1μg/mLストレプトマイシン、0.1nMデキサメタゾン含有)に懸濁し、コラーゲンコート培養ディッシュ(35−mmφ)に播き、37℃、5%CO存在下で3時間培養した。培養開始3時間後、ウシ新生児血清不含Williams’E培地(無血清培地)に換え、化合物(11)を加え、さらに0−21時間培養した。
【0036】
<DNA合成能の測定>
MorleyとKingdonの方法(Anal.Biochem.,45,298;1972)に従い、DNA画分に取り込まれたH−チミジンの取り込み量を測定し、DNA合成能を求めた。特異的H−チミジン量は10μM aphidicolin共存下の計数量を差し引いて求めた。DNA合成能としては単位時間、単位タンパク質量あたりのH−チミジン量(dpm/mg protein/h)で表した。
【0037】
<核数の測定>
Nakamuraらの方法(J.Biochem.,94,1029;1983)を一部改変し行った。一定時間培養した肝実質細胞をリン酸緩衝液(PBS:pH7.4)で洗浄し、0.1%TritonX−100含有0.1Mクエン酸溶液処理を行い、裸核を得た。そこへ、同容量の0.3%トリパンブルー−PBS溶液を加え、血球計算盤にて計測をした。
【0038】
<タンパク質の定量>
Lowryらの変法(Anal.Biochem.,47,184;1972)に従い、ウシ血清アルブミンを標準物質にして測定した。
【0039】
<統計処理>
測定結果における統計学的有意差は、一元配置分散分析後、Dunnett法による対照群に対する各群の一対比較検定により評価した。危険率0.05%以下を有意とした(n=3)。
【0040】
[実施例3]
化合物(11)の代わりに、実施例1で得られた化合物(12)を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により、肝実質細胞の核数及びDNA合成能の測定を行った。
【0041】
[比較例1]
化合物(11)の代わりにグリチルレチン酸を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により、肝実質細胞の核数及びDNA合成能の測定を行った。
【0042】
<測定結果及び考察>
測定結果を図1及び図2に示す。図1及び図2中、「GA」は「グリチルレチン酸」を、「(11)」は「化合物(11)」を、「(12)」は「化合物(12)」をそれぞれ示す。また、「GA analogs」は「グリチルレチン酸誘導体」を、「M」は「mol/L」をそれぞれ示す。
図1は、培養4時間における、初代培養肝実質細胞のDNA合成及び増殖におけるグリチルレチン酸、化合物(11)及び化合物(12)の用量依存効果を示すグラフであり、(a)はDNA合成能、(b)は核数についての用量依存効果を示す。
図2は、培養21時間における同様のグラフである。
この実験条件は次の通りとした。
・Seeding密度:3.3×10cells/cm(薬物添加3時間前に播種)。
・培養時間:無血清培地への交換後4時間(図1)及び21時間(図2)。
図1及び2中の記号「★」、「★★」は、コントロール(薬物無処理群)に対する有意差を示す。★P<0.05、★★P<0.01(mean±S.E.M.,n=3)。
【0043】
初代培養肝実質細胞の増殖に対して、グリチルレチン酸、化合物(11)及び化合物(12)のいずれもが単独で促進効果を示した。すなわち、図1に示すように、低密度培養条件下で4時間という早期に、用量依存的に促進効果を示した。これら化合物の効力は、EC50値より、化合物(11);4×10−11M≪化合物(12);4×10−9M<グリチルレチン酸;5×10−9Mの順に強力で、図1及び2から明らかなように、DNA合成と核数のEC50値は、ほぼ一致していた。
以上の結果より、グリチルレチン酸の11位の炭素原子に結合している酸素原子が除去され、カルボニル基がメチレン基に変換されると、初代培養肝実質細胞の増殖促進効果が増強されることが示唆された。特に化合物(11)の増殖促進効果は、EC50値でグリチルレチン酸に対して約100倍強く発現された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、損傷を受けた肝臓の再生促進や、生体肝移植後の肝臓再生などの治療薬に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例2及び3並びに比較例1の培養4時間における、初代培養肝実質細胞のDNA合成及び増殖におけるグリチルレチン酸、化合物(11)及び化合物(12)の用量依存効果を示すグラフであり、(a)はDNA合成能、(b)は核数についての用量依存効果を示す。
【図2】実施例2及び3並びに比較例1の培養21時間における、初代培養肝実質細胞のDNA合成及び増殖におけるグリチルレチン酸、化合物(11)及び化合物(12)の用量依存効果を示すグラフであり、(a)はDNA合成能、(b)は核数についての用量依存効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする肝実質細胞再生促進剤。
【化1】

(式中、Xは水素原子又は水酸基を表す。)
【請求項2】
下記式(12)で表される化合物。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−62322(P2009−62322A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231570(P2007−231570)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000170358)株式会社ミノファーゲン製薬 (16)
【Fターム(参考)】