説明

肝幹細胞からの神経新生

【構成】 肝円形細胞が、神経細胞特定マーカーを発現し、神経細胞の表現型を示す細胞へ分化することを誘導するために、生体内(in vivo) と試験管内 (in vitro) のアプローチをとった。肝円形細胞中のcAMP濃度を上昇させ、肝円形細胞を神経球と共に培養することによって、前記肝円形細胞を神経細胞様の表現型を示す細胞にした。脳に移植された肝円形細胞は、星状細胞,神経細胞,及び小膠細胞を含む脳の主要なすべての細胞種に表現型として類似した細胞へ分化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連特許)
本出願は、2002年8月28日に出願された米国仮特許出願第60/406,513号の利益を主張する。
【0002】
(連邦政府委託研究に関する宣言)
本発明は、国立衛生研究所 (National Institutes of Health) により付与された助成番号DK−58614及びDK−60015の下、合衆国政府の支援によってなされた。合衆国政府は、本発明における特定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、概して発生生物学と薬学の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、肝円形細胞 (HOC)から神経様細胞を生成するための組成物及び方法に関する。
【0004】
(発明の背景)
アルツハイマー病,ハンチントン病,パーキソン病等の神経変性病は、多くの異なる病因を有する神経機構の異種性の病気群である。多くは遺伝性であり、いくつかは毒性又は代謝過程により2次的に生じ、いくつかは感染から生じている。他には未知の病因がある。神経変性病はしばしば年齢と関連しており、慢性で、進行性のものである。また、多くは有効な治療法がない。神経病理学的には、これらの病気は、脳及び神経集団の比較的特異的な領域における異常によって特徴付けられている。病気の臨床的表現型は、関与する特定の細胞群と相関する。神経変性病の普及率,罹患率,死亡率は、医学的,社会的,経済的に大きな負担となっている。
【0005】
神経変性病の症状を治療するために、種々の薬が開発されてきた。しかしながら多くの場合、これらの薬は、患者を健康な状態へ回復させるというより、むしろ病気の症状を単に改善させるように機能をしている。従って、機能不全の細胞を、損傷を受けていない細胞と新たに交換することによる神経新生病の治療法は、治療をする上でより好ましい。
【発明の開示】
【0006】
(要約)
HOCの神経様細胞への分化を誘導するための方法と組成物を開発した。HOCが神経の表現型を示す細胞へ分化することを誘導するために、生体内(in vivo) と試験管内 (in vitro) のアプローチをとった。動物において脳に移植されたHOCは、星状細胞,神経細胞,及び小膠細胞を含む脳の主要なすべての細胞種に類似した細胞へ分化した。この発見は、移植に適した機能的な神経様細胞の十分な供給を作り出すための方法を提供するので、神経変性病の治療法として、細胞の置換/再生の現実的な実施を促進するであろう。さらに、本発明の適用は、ドナーとして神経様細胞に分化する自家細胞を用いるので、免疫系による細胞の拒絶反応を回避できる。
【0007】
従って、本発明は神経細胞の表現型を示す細胞の産生方法を特徴とする。本方法は、肝円形細胞を準備するステップ(a)と、肝円形細胞から神経細胞の表現型を発現する細胞への分化を促進する条件下に、前記肝円形細胞を置くステップ(b)とを含む。神経細胞の表現型は、NFM,ネスチン(nestin),MAP2,βIIIチューブリン,α―インターネキシン(internexin),GFAP,S100,及び/又はCD11b等の発現マーカーであってもよい。
【0008】
本発明の別の側面では、肝円形細胞から神経細胞の表現型を発現する細胞への分化を促進する条件下に、前記肝円形細胞を置く前記ステップ(b)は、前記肝円形細胞を、前記肝円形細胞中のcAMP濃度を上昇させる薬剤(例えば、ジブチリルcAMP等のcAMPの類似体、或いは3−イソブチル−1−メチルキサンチン等のcAMPホスホジエステラーゼの阻害剤)と接触させることを含む。
【0009】
本発明の別の側面では、肝円形細胞から神経細胞の表現型を発現する細胞への分化を促進する条件下に、前記肝円形細胞を置く前記ステップ(b)は、前記肝円形細胞を神経球と共に培養することを含む。
【0010】
本発明の別の側面では、肝円形細胞から神経細胞の表現型を発現する細胞への分化を促進する条件下に、前記肝円形細胞を置く前記ステップ(b)は、肝円形細胞を動物の中枢神経系(例えば、脳)に移植することを含む。
【0011】
また、前述の方法の一つにより作製された細胞は本発明の範囲内である。前記細胞は、NFM,ネスチン(nestin),MAP2,βIIIチューブリン,α―インターネキシン(internexin),GFAP,S100,及び/又はCD11b等の神経細胞マーカーを発現できる。
【0012】
さらに本発明は、本発明の細胞を宿主の動物検体へ導入する方法を特徴とする。前記方法は、検体(例えば、神経変性病に罹患しているヒトの患者)を準備するステップと、発明の細胞を検体へ導入するステップとを含む。
【0013】
細胞へ言及するとき、「神経細胞の表現型」という語句は、非神経細胞によって一般的に発現された特徴ではなく、一以上の神経細胞によって一般的に発現された特徴を意味する。神経細胞の表現型は、神経細胞と関連したマーカー又は形態的な特徴の発現であり得る。
【0014】
「神経球」という語句は、神経幹細胞及び原始前駆体を含む細胞の集合又はクラスターを意味する。例えば、Reynolds & Weiss, (1992) Science 255, 1707-1710を参照。
【0015】
他に定義しなければ、ここで用いる全ての技術用語は、本発明の属する分野の通常の知識を有するものによって理解されるものと同様な意味を有する。ここで説明することと類似又は同等の方法と物質は、本発明の実施や試験で使用可能であるが、適した方法と物質は以下で説明される。すべての出版物、特許出願、特許、及びここで言及された参考文献は、引用して完全に援用される。抵触の場合は、定義を含む本明細書が法的に規制するであろう。さらに、以下に論じた特定の実施形態は、一実施例であって、これに制限されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(詳細な発明)
本発明は、HOCを神経様細胞(すなわち、神経系の細胞に表現型が類似している細胞、例えば神経細胞,小膠細胞,星状細胞)へ分化させるための組成物と方法を提供する。以下に述べる実験において、細胞に神経細胞関連マーカータンパク質 (例えば、ネスチン(nestin),s100,MAPII,GFAP,βIIIチューブリン,s100,CD11b,NFM,及びα―インターネキシン(internexin)) を発現させる、及び/又は細胞に神経細胞様形態を作り上げる(例えば、神経様細胞の伸長又は構築の工程)、生体内(in vito)と試験管内(in vitro)の種々のプロトコルにHOCを供した。以下に述べる好適な実施形態は、これらの組成物と方法の適用を説明する。しかし、これらの実施形態の記述から、以下に述べる記述に基づいて、本発明の他の側面を作成及び/又は実施できる。
【0017】
(生物学的方法)
従来の生物学,細胞培養学,免疫学,及び分子生物学の手法を含む方法を以下に述べる。そのような手法は技術的に一般に知られており、手法の専門書に詳細に記載されている。細胞培養学の手法は技術的に一般に知られており、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th edition, R. Ian Freshney, Wiley-Liss, Hoboken, NJ, 2000及びGeneral Techniques of Cell Culture, by Maureen A. Harrison and Ian F. Rae, Cambridge University Press, Cambridge, UK, 1994等の手法の専門書に詳細に記載されている。免疫学的手法(例えば、抗原特異的抗体の合成,免疫沈降及びイムノブロッティング)は、例えば、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991及びMethods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992に記載されている。分子生物学的手法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., vol 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989及びCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992(定期的な最新版)等の文献に記載されている。
【0018】
(肝円形細胞)
本発明の方法では、神経細胞様の表現型を有する細胞を形成することができる源の細胞として、HOCを用いる。そのような細胞を含有することが知られている何れかの動物(例えば、ネズミやマウス等の齧歯類,ヒト等の霊長類)の肝臓からHOCを入手してもよい。本発明の使用に適しているHOCを得るための種々の方法が知られている。これらの何れか一つを使用してもよい。
【0019】
一般に、HOCは、(1)損傷を受けて、(2)新生を妨げられている肝臓から得てもよい。特定のプロトコルの例として、ラットにおいては、2つのステップの手段によって、HOC活性化,増殖,及び分化を誘導してもよい。第一のステップでは、肝細胞の増殖を抑制するため、動物を2−アセチルアミノフルオレン(2−AAF)へさらす。第二のステップでは、部分的な肝切除、又は四塩化炭素による処置のいずれか一方により、肝臓に損傷を負わせる。Petersen, et al., Hepatology 27, 1030-1038 (1998)を参照。別の例として、0.1%の濃度の3,5−ジエトキシカルボニル−1,4−ジヒドロコリジン(DDC)を動物の普段の食事へ添加することにより、マウスで多くのHOCを産生できる。Preisegger et al., Lab. Invest. 79:103, 1999を参照。例えば、Selgen et al., J. Toxic. Environ. Health 5:551, 1979に記載されている2つのステップの肝潅流方法のような既知の手法によって、動物からHOCを単離してもよい。
【0020】
本発明の一つの側面はヒトへの移植に関するので、哺乳動物のHOCの好適な源は、ヒトの肝臓である。例えば、肝臓のコアバイオプシーによってヒトからHOCを得てもよい。トリプシンやコラゲナーゼ等の酵素を用いて、肝臓細胞を分散させた後、公知技術に従って、初代培養を構築してもよい。長期培養の上、増殖している卵円形細胞をクローンとして拡大することができる。ヒトの肝円形細胞(又は、幹様細胞)を得るための他の方法は、例えば、公開された米国特許出願番号第20020182188号(Reid et al.)及び第20010024824号(Moss et al.)に記載されている。
【0021】
(HOCの単離)
特定の細胞表面マーカーの発現に基づいて、肝臓からHOCを精製できる。HOCは、細胞質アルファ−フェトプロテイン(AFP),ガンマ−グルタミル−トランスペプチダーゼ(GGT)と同様に、細胞表面のThy−1,サイトケラチン(CK)−19,OC.2,及びOV6を高レベルに発現することが知られている(Dabeva, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:7356-7361, 1997、Lemire et al., Am. J. Pathol. 139:535-552, 1991、Petersen, et al., Hepatology 27:433-445, 1998、Shiojiri et al., Cancer Res. 51: 2611-2620, 1991)。Sca−1の発現に基づいて、マウスの肝円形細胞を選択してもよい。Petersen et al., J. Hepatology, 37:632, 2003を参照。同様の方法で、c−Kit,pi クラス グルタチオンS−トランスフェラーゼ,及びCK−18とCK−19に基づいて、ヒトの肝円形細胞を選択してもよい。
【0022】
HOC選択マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を、マーカーに特異的に結合する抗体と接触させる。いったんマーカー陽性細胞が抗体と結合すると、その後FACSを含む既知のあらゆる免疫選別/免疫分離法によって、そのような細胞を単離してもよい。また、例えばMACS,イムノパニング(immunopanning)又はマーカー遺伝子を促進するプロモーターを用いたトランスフェクション後の選択等の他の分離方法を用いてもよい。免疫磁性分離/選別技法は、一般的に、細胞を、標的細胞型上の表面抗原に特異的な第一次抗体とインキュベートし、免疫学的に標的細胞を磁性ビーズへ結合させ、その後、磁場を用いて異質細胞集団から出てくる標的細胞を分離する。
【0023】
イムノパンニング技法は、興味のある細胞マーカーを結合する抗体で組織培養皿をコーティングし、その培養皿に細胞を入れ、非結合細胞を洗い流し、トリプシン消化によって抗体結合標的細胞を分離することを含む。イムノパンニング技法は、技術的に一般に知られており、Mi and Barres J. Neurosci. 19:1049-1061, 1999; Ben-Hur et al., The journal of Neuroscience 18:5777-5788,1998; Ingraham et al., Brain Res Dev Brain 112:79-87, 1999; Murakami et al., J. Neurosci. Res. 55:382-393, 1999; Oreffo et al., J. Cell Physiol. 186:201-209, 2001に記載されている。
【0024】
さらに、神経細胞特定マーカーを発現する細胞を細胞集団から分離するために、免疫選別/免疫分離法を組み合わせて使用してもよい。磁性マイクロビーズ選択は、例えば、免疫吸着技法(例えば、アビジン被覆セファデックスビーズのカラム又は免疫親和性カラムに適用されるビオチン化抗体、Jhonsen et al., Bone Marrow Transplant 24:1329-1336,1999; Lang et al., Bone Marrow Transplant 24:583-589, 1999; Handgretinger et al., Bone Marrow Transplant 21: 987-993, 1998)によって行うことができる。選別技法の別の例は、免疫磁性ビーズと結合した抗マーカー抗体を用いる選択段階後の磁性細胞分別機の使用を含む。また、本発明の方法において、2つのMACSシステムを組み合わせて使用してもよい(Lang at al., Bone Marrow Transplant 24:583-589, 1999)。
【0025】
例えば、95%より高い純度を有する(肝細胞の増殖を抑制するための)2−AAFで処置し、四塩化炭素で損傷させたラットの肝臓からThy−1+肝円形幹細胞を単離するために蛍光標示式細胞分取器(FACS)を用いてもよい。 Petersen et al., Hepatology 27, 1030-1038(1998)を参照。別の例として、MAC磁性選別から得られた野生型のSca−1+とSca−1−のマウス卵円形細胞を、室温で30分間、フルオレッセインイソチオシアネート(FITC−)結合抗Sca−1抗体及びFITC−抗ラットIgG2a抗体(ファーミンゲン社製、1:500)で培養した。その後、200gの遠心分離で細胞を沈殿させ、PBSで2回洗浄し、結合していない抗体を除いた。フローサイトメーター(CELLQuest、Becton Dickinson FACSan)で約106細胞/mlの細胞懸濁液を測定した。
【0026】
(分化の誘導)
HOCを、好適な生体内(in vivo)又は試験管内 (in vitro)の環境下で細胞を培養することによって神経細胞様の表現型を有する細胞へ分化するように誘導してもよい。従来の例として、試験管内で、細胞内cAMPレベルを上昇させる薬剤(例えば、1mMのジブチリルcAMP、dbcAMP)を高レベルに含有する培地中で培養されたHOCを神経細胞様細胞に分化させる。同様に、試験管内で、cAMPホスホジエステラーゼの阻害剤(例えば、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、IBMX)を含有する培地中で培養されたHOCを神経細胞様細胞に分化させる。別の試験管内の方法として、HOCを(トリプシン処理した新生児期マウスの脳由来の神経細胞を培養した)神経球(NS)とともに共培養し、神経細胞様の表現型を発現する細胞に分化するのを誘導する。
【0027】
また、生体内での手段としては、HOC細胞から神経細胞様の表現型を示す細胞への分化転換を誘導してもよい。例えば、生動物の脳に直接注入されたHOCを、神経細胞様の表現型を有する細胞の中の生体内位置で分化させる。
【0028】
異なる細胞型を識別する任意の利用可能な方法、例えば、細胞形態又は特定のマーカーの発現に基づいて、神経の表現型を示す細胞へ分化したHOCを判断することができる。例えば、HOCが神経細胞に非常によく類似した細胞に変化する場合、同定するために顕微鏡を使用してもよい。また、ネスチン(nestin),s100,MAPII,グリア繊維状酸性タンパク質(GFAP),βIIIチューブリン,s100,CD11b,タンパク質媒体サブユニットと関連する神経フィラメント(NFM),及びα―インターネキシン(internexin)等の神経細胞分化マーカーの発現は、HOCが神経様細胞に分化するということを示す。
【0029】
(神経細胞特異的マーカーを発現する細胞の単離)
例えば移植のために、試験管内の培養又は従来の技法を用いた動物組織から、神経細胞の表現型を有する細胞に分化したHOCを精製してもよい。例えば、神経細胞の特異的マーカーを発現する細胞を含むと考えられる細胞集団を、マーカーと特異的に結合する抗体と接触させる。いったんマーカー陽性細胞が抗体と結合すると、その後FACS,MACS,イムノパニング(immunopanning)又はマーカー遺伝子を促進するプロモーターを用いたトランスフェクション後の選択を含む既知のあらゆる免疫選別/免疫分離法によって、そのような細胞を単離してもよい。
【0030】
(細胞の投与)
HOCから分化された神経様細胞を、常法により動物(例えば、神経変性病に罹患しているヒトの検体)に投与してもよい。例えば、分化転換された神経様細胞を標的部位(例えば、脳)に、例えば(好適な担体又は緩衝塩溶液などの希釈液の中にある細胞の)注射や、内外の標的部位(例えば、脳室)への外科的な投与、或いは血管によって到達可能な部位へのカテーテルなどによって直接投与してもよい。正確に挿入するため、細胞を、定位的な注入技法を用いることによって脳部位へ的確に送達してもよい。例えば、処置された哺乳類の検体を、MRI互換である定位固定のフレーム基盤内に載置し、その後、処置された特定部位の3次元的な位置決めを決定するため、高分解能MRIを用いて画像化してもよい。この技法によれば、MRI画像を、その後適当な定位ソフトウェアを有するコンピューターに移し、多くの画像を標的部位及び細胞を送達するための軌道を決定するために使用する。そのようなソフトウェアを使用することで、軌道を定位フレームのための好適な3次元的な座標へ変換する。頭蓋内送達のため、頭蓋骨を曝す、上記の入り口部位にドリルでバーホールを開け、定位固定器具を所定の深さまで挿入された針で位置合わせした。その後、標的部位に細胞を注入してよい。
【0031】
(有効投与量)
上記の細胞を哺乳動物に有効量、すなわち、治療された検体に望ましい結果をもたらす(例えば、検体の神経変性病の症状を正常に戻す)ことが可能な量を投与するのが好ましい。そのような治療的に有効な量を実験的に測定できる。その範囲は大幅に変動可能であるが、治療的有効量は、1動物検体あたり細胞数1×106〜1×1010の範囲が望ましい。
【0032】
以下の具体的な実施例により本発明をさらに説明する。本実施例は一実施例であり、本発明の範囲が何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(試験管内 (in vitro)の分化導入)
HOCは、細胞質のcAMPレベルを上昇させるIBMXとdbcAMPで処理した場合、神経様細胞の表現型の特徴を得る。実験を始める一日前に、HOCを6ウェルプレートに60%集密の状態で移植し、培地A(10%FBS,1%インシュリン,10ng/mlのIL−3,10ng/mlのIL−6,10ng/mlのSCF,及び1000U/mlのLIFで補完したIMEMを含む培地)で一晩中培養した。2日目に、培地を誘導培地(LIFを欠いており、かつLIFのない0.5mMのIBMXと1mMのdbcAMPで補完した培地A)と取り替えた。その後、細胞を、37℃、5%CO2の加湿された培養器で最大4週間培養し、培養中1週間に1度培地を交換した。培養細胞は、誘導培地に添加された24時間後に進化を示し始めた。約1週間後、細胞の30%が神経様細胞の形態を示した。
【0034】
その後、細胞培養を、神経細胞分化マーカーの発現を調べるために検査した。誘導培地での培養4週間後、細胞を培地から取り除き、4%のパラホルムアルデヒドで5分間固定した。5分間PBSで3回洗浄し、10%ヤギ血清中で30分間ブロッキングした後、神経特異的タンパク質(βIIIチューブリン)と星状細胞特異的タンパク質(S100)に対する一次抗体と細胞を1時間室温でインキュベートした。再度、一回につき5分間かけてPBSで3回細胞を洗浄した後、蛍光性の二次抗体と1時間室温で細胞をインキュベートした。それから一回につき5分間かけてPBSで3回細胞を洗浄した後、カバースリープ上に置き、蛍光顕微鏡に供した。ほとんどの培養細胞はS100に陽性であり、細胞の小集団はβIIIチューブリンに陽性であった。
【実施例2】
【0035】
(共培養による分化導入)
HOCは、神経球(NS)から分化した神経細胞で共培養した場合、神経様細胞の表現型の特徴を得る。NSは、出生後5〜7日目のマウスの脳から生成される。つまり、(フェノバルビタールナトリウムの腹腔内注射による)深い麻酔状態で、子マウスを断頭し、脳を取り除いた。嗅球及び小脳を取り除いた後、脳組織を小片に切り、PBSで洗浄し、37℃で10分間トリプシン処理をし、細胞を分離した。さらに洗浄した後、N2並びに10ng/mlの塩基性FGF及び20ng/mlのEGFという成長因子の混合液を補ったDMEM/F12に溶解した2%メチルセルロースで細胞を再懸濁した。そして、抗―接着剤でコーティングされた培養皿に細胞を移した。約2週間培養後、直径約150μmのNSが得られ、そのNSを、N2を補ったDMEM/F12中のラミニン/ポリオルニチンでコーティングされたカバースリープ上に置いた。この方法は分化導入を誘導した。共培養系でHOCを標識化するため、GFP遺伝子を有するレンチウィルスベクターをラットHOCに形質移入した。NSから成長している神経細胞層上にGFP+HOCを置き、最大4週間培養した。共培養の約3日後、HOCの多くは、伸長した形態に変化した。共培養の4週間後、免疫染色で決定されたように、いくつかのGFP+HOCはβIIIチューブリン及びα―インターネキシンに対して陽性を示した。
【実施例3】
【0036】
(インビトロの分化導入)
マウスの肝臓からの肝円形細胞の誘導及び濃縮。Preisseger ら,(Lab. Invest. 79:103, 1999)により確立されたプロトコルに従って、成体C57BL6/GFP+/+トランスジェニックマウスに0.1%のDDC(BioServe, Frenchtown, NJ)で補った普通の食事を6週間与えた。HOCを分離するため、Selgenら (J.Toxicol.Environ.Health,5:551,1979)によって述べられているように2段階で肝臓の灌流を行い、勾配遠心分離を用いて非実質フラクション(NPC)を収集した。マイクロ磁性ビーズに結合したSca−1抗体とともにNPCをインキュベートし、細胞懸濁液を磁性カラムで処理し、Sca−1に陽性である卵円形細胞集団を濃縮した(MACs、Miltenyi Biotec)。
【0037】
MACsで選別されたSca−1+卵円形細胞に関する純度のFACs分析。MACs磁性分離から得られた野生型Sca−1+とSca−1−の卵円形細胞をイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)−Sca−1及びFITC−ラットIgG2a抗体 (PharMingen; 1:500)で30分間室温でインキュベートした。そして、200gの遠心分離で細胞を沈殿させ、PBSで2回洗浄し、結合していない抗体を除いた。フローサイトメーター(CELLQuest、Becton Dickinson Facsan)で約106細胞/mlの細胞懸濁液を測定した。
【0038】
MACsで選別された卵円形細胞の免疫細胞化学。Petersen ら, Hepatology 27:433-445, 1998で述べられたようにMACs磁性細胞分離器から得られた野生型Sca−1+卵円形細胞を細胞遠心分離しスライドに載せ、PBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、マウス卵円形細胞マーカーを調べた。A6抗体(NIHのValentina Factor博士からの寄贈;1:20)及び抗胎性タンパク(AFP;Santa Cruz Biotechnology; 1:200)を卵円形細胞の免疫による性質決定のために用いた。
【0039】
マウス卵円形細胞の培地。MACs磁性細胞分離器から得られた約106のSca−1+マウス卵円形細胞を35mmの培養皿(Costar, Corning)のHOC培地(89%のイスコフ改変ダルベッコ培地、10%FBS、1%インスリン、1000U/mlの白血病阻害因子、20ng/mlの顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、及び100ng/mlの幹細胞因子、インターロイキン−3、インターロイキン−6)で培養した。
【0040】
新生児のマウス脳への細胞移植。Sca−1+MACsで選別されたGFP+卵円形細胞の第一の分離を誕生24時間以内に出生後1日の野生型C57BL6マウスの側脳室へ移植した。新生の子マウスを低体温で麻酔し、粘土の型の上に置いた。解剖顕微鏡下で頭に光を通過させ、先が斜めになったハミルトンシリンジをブレグマの直前部の頭皮と頭蓋へ移植した。ダルベッコ変法イーグル培地/F12(DMEM/F12、Gibco)中の約2.5×105のGFP+HOCの1μlを左側脳室へゆっくりと圧力をかけて注入した。注入後すぐに、子マウスを37℃のインキュベーターで温め、約30分後に母マウスへ戻した。移植の10日後、マウスを過剰量のトリブロモエタノール(Avertin)で安楽死させ、PBS中の4%パラホルムアルデヒドを用いて経心臓的に潅流した。脳組織を切除し、潅水中で一晩中固定し、ビブラトームを用いて厚さ40μmの冠状面の切片を作成した。
【0041】
生体内の食作用の測定。移植の直前に蛍光性のラテックスマイクロビーズを移植片の塊へ加えることによって、小膠細胞の生体内の食作用測定を行った。ラテックスマイクロビーズ(SigmaL−0530;直径0.5m;蛍光性の青が結合している)を細胞懸濁液(DMEM/F12中の〜2.5×105細胞/μl)へ15%の濃度(0.15μlビーズ溶液/0.85μl細胞懸濁液)で加えた。上記のように、1μlの細胞/ビーズの混合液を、新生の子マウスの脳の側脳室へ注入した。その脳を固定し免疫による性質決定のための処理を行う前に、宿主を10日間生存させた。
【0042】
脳の断片の免疫ラベリング。ビブラトームを用いて余すところなく前脳を40μmの冠状切片へ切断し、免疫蛍光のため自由に浮遊するように処理した。PBS中の10%ヤギ血清でブロッキングをした後、4℃で以下のタンパク質に対して検出される一次抗体と切片を一晩中インキュベートした:ネスチン (nestin)、神経幹及び前駆細胞のマーカー(Developmental Studies Hybridoma Bank, University of Iowa; 1:250);星状細胞特異的マーカーであるグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP;フロリダ大学のGerry Shawより;1:200)及びS100(Sigma;1:250);小膠細胞マーカーCD11b(Serotec;1:200);神経マーカー神経フィラメント中間径サブユニット(NFM;フロリダ大学のGerry Shawより;1:500)、α―インターネキシン(α-IN;フロリダ大学のGerry Shawより;1:200)、及びMAP2ab(Sigma;1:500)。その後、PBSで組織を洗浄し、その後、R-フィコエリトリン(R−PE)が結合した適切な二次抗体と1時間室温でインキュベートした。PBSでの最後の洗浄後、脳のスライスはスライドガラスに載せ、観察し、蛍光顕微鏡で計測した。
【0043】
移植された細胞の定量。蛍光顕微鏡(オリンパス社製BX51)下で細胞を計測した。移植された細胞を計測するため、前脳から六番目ごとに切片を選択した。細胞体を同定できた場合、細胞を計測した。その後、計測された結果を6倍することによって、全細胞数を得た。マイクロソフトエクセル統計ソフトウェアを用いて標準偏差を得た。
【0044】
選別方法で得た純度を証明するため、MACs選別Sca−1+細胞について、FACs分析を行った。MACs選別後、20%のSca−1エピトープのみがSca−1結合磁性ビーズによってふさがっていた。このため、残りのエピトープを用いて、純度のためのFACs分析を行った。FACs分析のヒストグラムは、異なる細胞集団を示した。MACs選別細胞は、90%以上Sca−1抗体に陽性であった。一方、フロースルー細胞は、Sca−1陰性であった。MACSで分離されたSca−1+細胞が確かに卵円形細胞であることを証明するため、免疫化学的手法を行った。免疫化学的手法は、MACs選別細胞であるSca−1+は、マウス卵円形細胞の既知のマーカーであるA6及びAFPにも陽性であることを示した。試験管内で培養した場合、HOCは5日で増殖し始め、2週間後にコロニーを形成した。培地におけるHOCは均一で、未分化な細胞集団であると思われた。
【0045】
HOCの移植の10日後、宿主の脳内に強烈な蛍光性のGFP+細胞が観察された。生存ドナー細胞の大部分は、成功した細胞送達体とともに全てのマウスの脳室周囲領域内に見つけられた。GFP+細胞はしばしば側脳質壁に沿って表面に観察された。しかし、移植細胞は、脳梁の白質内で側面にそって移動することがわかった。移植細胞は、脳室壁にそった点で、脳の柔組織へ侵入し、既に述べられているような多能性星状細胞を脳室内へ移植した後に生じる現象であった(Zhaeng et al., 2002)。移植されたHOCの生存率は、全注入細胞について、平均して0.56±0.36%(n=9)となった。約11.5±2.5%(n=3)の移植細胞は、未分化のままで、小さく、球状で、分岐していない(non-process-bearing)形態によって特徴付けられる。残存物は種々の分化の程度及び進化の伸展を示した。移植を受けた36中7の動物は、検出可能なドナー細胞を含まなかった。
【0046】
【表1】

【実施例4】
【0047】
(神経抗原を示す移植された肝円形細胞)
分化したGFP+HOCは、新生児期マウスの脳で神経特異的タンパク質を発現した。フィラメントタンパク質であるネスチンは、しばしば神経前駆細胞を示すものとされる(Lendahlら, 1990)。生存ドナー細胞の22.1±11.6%(n=4)がネスチンに対して免疫的に陽性を示した(表2)。このことは、HOCが早期神経細胞系統の表現型をとれることを示した。分化したドナー細胞の中で、大部分は典型的なアメーバ様の又は分岐した小膠細胞の形態を示した。小数の部分は星型の突起の豊富な特徴を有する星状細胞の形態を示した。マクロファージの特性であるCD11bエピトープに向かう、Mac−1抗体との免疫標識により、60.6±10.5%(n=3)のGFP+ドナー細胞は、この小膠細胞由来のマーカーを発現することを示した(表2)。さらに、34.7±9.0%(n=4)と27.2±5.7%(n=3)のドナー細胞は、それぞれ星状細胞に特異的なタンパク質GFAPとS100を発現した(表2)。星状細胞タンパクを発現する細胞の多くは脳梁内に存在し、それらの過程は、野生型の星状細胞の過程と密接に結びついていた。また、ドナー細胞の少数は、神経細胞特異的なマーカーに対して免疫陽性であることが観察された。移植された細胞の6.5±1.3%(n=3)中に神経細胞マーカーNF−Mを発現した。そして、相当な数がα―INを発現した。19.9±2.5%(n=3)というドナー細胞の相当の大きな割合が、MAP2に対して免疫陽性であった(表2)。
【0048】
【表2】

【0049】
また、共移植された蛍光性のマイクロビーズは、高い効率で、細胞質へ組み込まれたため、小膠細胞の抗原性特性を有する移植細胞は、適当な食作用活性を示した(表3)。58.7%の移植されたGFP+細胞の他に、多数の常在小膠細胞もまた、マイクロビーズを組み込んだ。そして、これらの細胞は次に、脳の小膠細胞を含め、マクロファージの特性であるCD11b抗原を発現することを示した。円形細胞のGFP発現は、CD11bに対するMac1抗体との免疫染色と共存した。多くのMac1+円形細胞は、野生型の小膠細胞と共存した。
【0050】
【表3】

【0051】
(他の実施形態)
本発明の詳細な説明とともに本発明は記述されている一方、前述の説明は説明することを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していないのを理解するべきである。本発明の範囲は添付された特許請求の範囲の範囲によって定義される。他の側面、利点及び変更は次に述べる特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経細胞の表現型を示す細胞の産生方法であって、肝円形細胞を準備するステップ(a)と、肝円形細胞から神経細胞の表現型を発現する細胞への分化を促進する条件下に、肝円形細胞を置くステップ(b)とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記神経細胞の表現型は、NFM,ネスチン,MAP2,βIIIチューブリン,α―インターネキシン,GFAP,S100,及びCD11bからなるグループから選択された発現マーカーを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)は、前記肝円形細胞を、前記肝円形細胞中のcAMP濃度を上昇させる薬剤と接触させることを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記薬剤が、cAMPの類似体であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記類似体が、ジブチリルcAMPであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記薬剤が、cAMPホスホジエステラーゼの阻害剤であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記薬剤が、3−イソブチル−1−メチルキサンチンであることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(b)は、前記肝円形細胞を神経球と共に培養することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)は、前記肝円形細胞を動物の中枢神経系組織に移植することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記中枢神経系組織が脳であることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
神経細胞の表現型を示す細胞であって、前記細胞は前記請求項1記載の方法によって作製されたことを特徴とする細胞。
【請求項12】
前記細胞の発現は、NFM,ネスチン,MAP2,βIIIチューブリン,α―インターネキシン,GFAP,S100,及びCD11bからなるグループから選択されたマーカーであることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項13】
前記マーカーは、NFMであることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項14】
前記マーカーは、ネスチンであることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項15】
前記マーカーは、MAP2であることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項16】
前記マーカーは、βIIIチューブリンであることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項17】
前記マーカーは、α―インターネキシンであることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項18】
前記マーカーは、GFAPであることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項19】
前記マーカーは、S100であることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項20】
前記マーカーは、CD11bであることを特徴とする請求項11記載の細胞。
【請求項21】
細胞を宿主の動物検体へ導入する方法であって、前記動物検体を準備するステップ(a)と、前記請求項1記載の方法によって作製された細胞を前記検体へ導入するステップ(b)とを含むことを特徴とする方法。


【公表番号】特表2006−508648(P2006−508648A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−532000(P2004−532000)
【出願日】平成15年8月28日(2003.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2003/027283
【国際公開番号】WO2004/020601
【国際公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(502417254)ユニヴァーシティ オヴ フロリダ (3)
【Fターム(参考)】