説明

肝機能保護医薬品組成物

【課題】抗原性が低減され、ペプシン耐性が付与され、体内寿命が延長された、肝機能保護医薬品組成物として臨床的有用性の高いラクトフェリン複合体を提供する。
【解決手段】


(式中、LFはラクトフェリン、NHSはN−ヒドロキシスクシンイミジル基、POLYは分子量(数平均分子量)が10,000〜60,000(Da)であるポリ(アルキレングリコール)、nは1〜10の整数、をそれぞれ表す)で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体を含有することを特徴とする、肝機能保護用の医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体高分子の性質の調節などの目的のため、生体高分子とポリエチレングリコール(PEG)などの非ペプチド性親水性高分子とをコンジュゲート化すること(以下「複合体化」、PEG又はその類似化合物を用いる場合については「PEG化」ということがある)が行われている。より具体的には、複合体化は、一般に、非ペプチド性親水性高分子の末端に活性基を付けてタンパク質等の分子表面に存在する官能基と反応させることにより行われる。
【0003】
特に、タンパク質及びペプチドの複合体化は重要であり、非ペプチド性親水性高分子鎖でタンパク質の分子表面を部分的に覆うことにより、エピトープをシールドすることによる抗原性・免疫原性の低減、細網内皮系等による取り込みの低減、及びタンパク分解酵素による認識及び分解の防止などが研究されている。また、複合体化された物質について、生体内でのクリアランスが遅延し、体内寿命が延びることが知られている。その一方で、複合体化されたタンパク質などでは、非ペプチド性親水性高分子の存在によって活性部位が影響を受け、生物活性が低減されることも頻繁に観察されている。
【0004】
複合体化による個々のタンパク質の活性の変動は、タンパク質ごとに異なっている。さらに、例えばインターフェロンについてはPEG化によってインビトロの抗ウイルス活性が減少する一方、ヒト腫瘍細胞における抗増殖活性が増加するというように、PEG化によって、あるタンパク質が有する複数の特性について一律ではない影響が生じうる。したがって、望ましい特性を備えた複合体を得るための最適な条件等については、各タンパク質ごとに充分に検討されなければならない。
【0005】
ラクトフェリン(以下、「LF」と略すことがある)は、主に哺乳動物の乳汁中に存在し、好中球、涙、唾液、鼻汁、胆汁、精液などにも見出されている、分子量約80,000の糖タンパク質である。ラクトフェリンは、鉄を結合することから、トランスフェリンファミリーに属する。ラクトフェリンの生理活性としては、抗菌作用、鉄代謝調節作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用、トランスロケーション阻止作用などが知られている。さらに、最近、ラクトフェリンが脂質代謝改善作用、鎮痛・抗ストレス作用、アンチエイジング作用を有することも明らかにされている。このように、ラクトフェリンは、多様な機能を示す多機能生理活性タンパク質であり、健康の回復又は増進のため、医薬品や食品などの用途に使用されることが期待されており、ラクトフェリンを含む食品は既に市販されている。
【0006】
ラクトフェリンは、経口的に摂取した場合、胃液中に存在する酸性プロテアーゼのペプシンにより加水分解を受け、ペプチドに分解されるため、ラクトフェリン分子としてはほとんど腸管まで到達することができない。しかし、ラクトフェリン受容体は消化管では小腸粘膜に存在することが知られており、最近、ラクトフェリンが腸管から体内に取り込まれて、生物活性を発現していることが明らかにされている。そのため、ラクトフェリンの持つ生物活性を発揮させるには、ラクトフェリンを胃液中でのペプシンによる加水分解を受けない状態で腸管まで到達させることが重要である。
【0007】
また、ラクトフェリンはレセプターを介してエンドサイトーシスによって肝細胞に取り込まれることが知られている(非特許文献1:Suzuki et al., 2002)。D−ガラクトサミン(D−GaIN)/LPS誘発肝障害モデルに対し、ウシラクトフェリンがサイトカイン分泌抑制作用に基づく肝保護作用を示すことが報告されている(非特許文献2:Matsumoto et al., 2004)。
【0008】
ラクトフェリンに関しても、PEG化された複合体についての報告がある(非特許文献3: C. O. Beauchamp et al. Anal. Biochem. 131: 25-33 (1983))。この文献には、直鎖型のPEGとLFとの複合体が5〜20倍延長された体内寿命を有していたことが記載されているが、PEG化されたLFの生物活性、PEG化の程度、均一性などについては何ら記載されていない。
【0009】
特開平2007−70277号公報(特許文献1)には、ラクトフェリンが有する鉄の結合能が保持されており、鉄結合能に基づくラクトフェリンの重要な生物活性が保持されている、分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体が記載されている。この複合体は、ペプシン、トリプシンなどのプロテアーゼに対する抵抗性を有しており、体内寿命が長く、体内で長時間にわたって生物活性を発揮することができ、さらなる腸溶化のための製剤的な処理を行わなくても充分に腸内に到達しうること、また、この複合体は、特定の位置に一定の数の非ペプチド性親水性高分子が結合しているため、品質が均一であり、製造管理・品質管理の点でも有利であり、医薬品成分としての使用に特に適していること、が記載されている。しかし、分岐型親水性高分子とラクトフェリンとの複合体が、肝細胞に対してどのような作用を示すかは記載されていない。
【0010】
【特許文献1】特開平2007−70277号公報
【非特許文献1】Suzuki, Y. A. and Lonnerdal, B. 2002. Characterization of mammalian receptors for lactoferrin. Biochem. Cell. Biol. 80, 75-80.
【非特許文献2】Matsumoto, S., Tanaka, K. 2004. Protective effect of lactoferrin against induction of fulminant hepatic failure induced by D-galactosamine and Lipopolysaccharide in rats. Milk Science, 53, 265-272.
【非特許文献3】C. O. Beauchamp et al., Anal. Biochem. 131: 25-33 (1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、抗原性が低減されており、ペプシン耐性が付与されており、体内寿命が延長された、臨床的有用性の高い分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体の、新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分岐型非ペプチド性親水性高分子で修飾されたラクトフェリン(複合体)が、肝細胞に取り込まれやすく、優れた肝機能保護作用を示すことを知見することにより完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
〔1〕 以下の式:
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、LFはラクトフェリン、NHSはN−ヒドロキシスクシンイミジル基、POLYは分子量(数平均分子量)が10,000〜60,000(Da)であるポリ(アルキレングリコール)、nは1〜10の整数、をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体を含有することを特徴とする肝機能保護医薬品組成物;
〔2〕 ラクトフェリンとの複合体におけるポリ(アルキレングリコール)の分子量がおおよそ40,000であることを特徴とする前記〔1〕の肝機能保護医薬品組成物;
〔3〕 分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体が、未修飾のラクトフェリンよりも肝細胞へ取り込まれやすいことを特徴とする請求項1又は2の肝機能保護医薬品組成物、
を提供する。
【発明の効果】
【0016】
肝臓は、糖質、タンパク質及び脂質の合成及び貯蔵、老廃物の生成、胆汁の生成及び分泌、循環血液量の調節などの重要な役割を担う臓器であり、人体において最も大切な臓器の1つである。肝臓疾患には、多種多様な病因、病態があるが、脂肪肝まで含めると、成人の30%が何らかの肝機能障害を持つといわれている。したがって、このような肝臓疾患の予防及び肝細胞の保護は重要である。
【0017】
本発明によれば、分岐型の非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体を用いることにより、未修飾ラクトフェリン量よりも低用量で顕著な作用を有する肝細胞保護用の医薬品組成物が提供され、それによりこのような肝機能障害の予防及び/又は治療を効率的に行うことができる。また、本発明の医薬品組成物において有効成分として含有される複合体のラクトフェリンは、他の治療・予防手段と比べ、治療・予防効果が確実に発現する一方で、非常に安全性が高く、多量に又は長期間継続的に投与又は摂取したとしても副作用を呈することがない。したがって、ラクトフェリン複合体を有効成分とする本発明の医薬品組成物は、長期連用しても高度に安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の医薬品組成物に含有される複合体は、
以下の式:
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、LFはラクトフェリン、NHSはN−ヒドロキシスクシンイミジル基、POLYは分子量(数平均分子量)が10,000〜60,000(Da)であるポリ(アルキレングリコール)(例えばポリエチレングリコール(PEG))、nは1〜10の整数、をそれぞれ表す)
で示される。
【0021】
POLY部分は、それぞれ直鎖状であってもよく、分岐及び/又はペンダント基などを有していてもよい。
【0022】
本発明の医薬品組成物に含有される複合体において使用される「ラクトフェリン」(LF)は、ヒト及び種々の動物、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ等から得られる天然又は天然型のラクトフェリン分子そのもののほか、遺伝子組換え型(一部のアミノ酸が置換された改変型を含む)ラクトフェリン、及びラクトフェリンの活性フラグメントなどのラクトフェリンの機能的等価物であってもよく、鉄イオンの有無又はその含有量、由来する生物種などを問わない。したがって、本発明に関して用語「ラクトフェリン」は、特に示さない限り、これらの種々のラクトフェリンをも包含する意味で用いられる。
【0023】
本発明においては、これらのラクトフェリンの1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。入手の容易性、経済性などの観点から、代表的にはウシ由来のラクトフェリン、特に牛乳から単離精製されたラクトフェリンなどが好都合に用いられる。
【0024】
ラクトフェリンと結合される分岐型非ペプチド性親水性高分子としては、一般に、一方の末端にラクトフェリンの官能基と反応して共有結合を形成しうる官能基を有し、分岐しており(即ち高分子鎖を2個又はそれ以上有しており)、生体に対して適合可能又は薬理学的に不活性なものが用いられる。なお、「非ペプチド性」とは、ペプチド結合を含まないこと、又は実質的に含まない(高分子の性質に影響しない程度の低頻度(例えば高分子を構成する全モノマー単位数の1〜5%程度)で含みうる)ことを意味する。
【0025】
例えば、分岐型非ペプチド性親水性高分子としては、
【0026】
以下の式:
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、NHS及びPOLYは、上記と同じである)
で示されるものを使用することができる。
【0029】
このような分岐型非ペプチド性親水性高分子は、公知の方法で合成することもできるが、既に各種のものが市販されている。POLY部分の分子量(数平均分子量)としては、一般に約500〜約200,000、好ましくは約2,000〜約100,000、特に好ましくは約10,000〜約60,000(Da)、最も好ましくは約40,000(Da)程度である。
【0030】
本発明の医薬品組成物に含有される複合体は、分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとを、公知のいずれかの方法でそれぞれの官能基を反応させることによって共有結合させることにより製造することができる。
【0031】
好ましくは、ラクトフェリンと分岐型非ペプチド性親水性高分子とが、1:1〜1:100のモル比で反応液中に添加される。ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子の混合モル比は、さらに好ましくは1:3〜1:60、最も好ましくは1:5〜1:54の範囲内である。
【0032】
また、反応工程は、一般的にpH4以上、温度0〜40℃、時間1分〜24時間、好ましくは、pH6以上、温度4〜40℃、時間10分〜24時間の条件下で行われる。即ち、反応液のpHは、好ましくはpH6以上であり、さらに好ましくはpH6〜9である。反応時間及び反応温度は相互に密接に関連して変化させることができるが、一般に反応温度が高い場合は時間を短く、温度が低い場合は時間を長くすることが好ましい。例えば、反応pHが7付近の場合、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:10の条件下では、25℃において約1時間、あるいは16℃又は4℃において24時間反応させることにより、特に良好な結果(均一な複合体化など)が得られる。また、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:1の条件下では、25℃において約10分、16℃においては約10分〜約40分以内、4℃においては約1時間〜約2時間以内の反応により、特に良好な結果が得られる。
【0033】
上記のようにして製造された複合体は、まずヘパリンのような陽イオン交換担体(樹脂)に吸着させて濃縮し、続いて、得られた濃縮物をゲルろ過担体(樹脂)に適用することによって容易に精製することができる。具体的には、例えば最初に複合体を含有する試料をヘパリンカラムに適用して複合体をカラムに吸着させ、高塩濃度の緩衝液で溶出して濃縮された複合体を含有する溶出液を集める。次に、この溶出液をゲルろ過カラムに適用し、脱塩及び所望の緩衝液への置換を行うことができる。必要に応じて、透析、限外ろ過などの公知の方法で溶出液を適宜さらに濃縮することができる。また、別の実施態様においては、市販されている陽イオン交換性のゲルろ過担体を使用することによって、上記陽イオン交換担体処理及びゲルろ過担体処理による二工程の濃縮・精製工程を一工程で行うこともできる。
【0034】
このようにして上記のような好ましい方法により製造された複合体は、ラクトフェリンが有する鉄の結合能が保持されており、したがって、少なくとも鉄結合能に基づくラクトフェリンの重要な生物活性が保持されている。また、分岐型非ペプチド性親水性高分子の結合によって、ペプシン、トリプシンなどのプロテアーゼに対する抵抗性を有しているため、体内寿命が長く、体内で長時間にわたって生物活性を発揮することができる。さらに、複合体化によって胃でのペプシンによる消化分解を受けにくくなっているため、さらなる腸溶化のための製剤的な処理を行わなくても、充分に腸内に到達しうる。
【0035】
また、このようにして製造された複合体は、特定の位置に一定の数の非ペプチド性親水性高分子が結合するため、品質が均一であり、製造管理・品質管理の点でも有利であり、医薬品成分としての使用に特に適している。
【0036】
本発明の医薬品組成物は、上記のように製造された複合体に、生理学的又は薬学的に許容され得る添加剤として、製薬産業において日常的に使用されている賦形剤、崩壊剤、滑沢剤等の不活性な基剤及び/又は添加物を配合することによって製造することができる。このような医薬品組成物に含有させることができる各種成分及び剤型は当業者には充分に公知である。
【0037】
例えば賦形剤としては、乳糖、蔗糖、グルコース、ソルビトール、ラクチトールなどの単糖類又は二糖類、コーンスターチ、ポテトスターチのような澱粉類、結晶セルロース、無機物としては軽質シリカゲル、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウムなどがある。しかし、還元性の単糖類及び二糖類は、ラクトフェリンのε−アミノ基との間でアミノカルボニル反応を起こし、タンパク質を変性させる。特に、水分、鉄イオンの存在下では、急速なアミノカルボニル反応が進行するので、使用は控えるべきである。また、崩壊剤としては澱粉類、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボシキメチルセルロース・ナトリウム塩、ポリビニルピロリドンなどがある。また、滑沢剤としてはショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどを使用することができる。
【0038】
さらに、本発明の医薬品組成物には、公知の薬学的有効成分をも含有させることができる。
【0039】
本発明の医薬品組成物は、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤等の任意の剤形として使用することができる。また、必要に応じて凍結乾燥製剤として用いることもできる。本発明の医薬品組成物は、腸溶性の製剤の形態にすると特に有利である。このような各種製剤の製造方法は、当業者には充分公知である。なお、本発明に関して「医薬品組成物」という場合、人間に対して適用するもののほか、獣医学的に動物に対して適用するもの(獣医薬)をも含む。
【0040】
本発明の医薬品組成物の投与経路としては、公知のいずれの経路であってもよく、例えば経口、経皮、注射、経腸、直腸内等の任意の経路を選択することができる。好ましくは経口投与である。
【0041】
本発明による医薬品組成物の効果的な投与量は、投与される対象の種類や年齢、体重、身体的な状態等によって異なり、それらに応じて各々に適した量で投与することができる。哺乳類に対して投与する場合、例えば、0.001〜10g/kg/日、好ましくは0.01〜5g/kg/日とすることができる。ヒトに投与する場合、一般的には、有効成分量として、一日あたり50mg〜15,000mg、望ましくは300mg〜6,000mgの量である。一般に、本発明による医薬品組成物は、公知の有効ラクトフェリン量と比較して有意に少ない用量(例えばラクトフェリン量換算で1/2〜1/20量)とすることができ、同等の用量で用いるのであれば投与回数を減らすことが可能である。
【0042】
このような一日あたりの用量を一度に又は分割して、肝細胞保護、肝疾患又は症状の予防、治療又は状態の改善が必要とされている対象に対し、投与することができる。
【0043】
また、本発明の医薬品組成物は、他の薬剤と併用してもよい。
【0044】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
1. PEG−LFの調製
ウシラクトフェリン(bLF)は、MG Nutritionals(Melbourne, Australia)から入手した。PEG化試薬として使用した、20kDa分岐型PEGのN−ヒドロキシスクシンイミジル誘導剤(PEG−NHS; SUNBRIGHT GL2-200GS2)及び40kDa分岐型PEGのN−ヒドロキシスクシンイミジル誘導剤(PEG−NHS; SUNBRIGHT GL2-400GS2)は、NOF Corp.(東京)から購入した。ヘパリンセファロース6高速カラム及びPD−10脱塩カラムは、GE Healthcare(Uppsta, Sweden)から購入した。
【0046】
PEG化反応のために、bLFと分岐鎖20kDa又は40kDa PEG−NHS試薬とを、分子量比率で1:10となるようにリン酸緩衝液(PBS)、pH7.4中に混和した。最終タンパク濃度は0.5mg/mlであった。この反応混合液を25℃で1時間反応させ、0〜4℃に冷却することにより反応を停止させた。10mMリン酸ナトリウムでpH7.6に調整した後、反応混合液をヘパリンセファロース6高速カラムの吸着剤へ投入した。カラム容量の5倍量の10mMリン酸ナトリウムで洗浄することによって過剰なPEG化試薬を除去した。反応生成物であるPEG化されたラクトフェリン(以下、20kDa及び40kDa分岐型PEG試薬を使用したものを、それぞれ、「20kDa−PEG−bLF」及び「40kDa−PEG−bLF」という)を300mM塩化ナトリウム溶液で溶出し、修飾されていないbLFは1M塩化ナトリウム溶液で溶出した。流速は、ともに2mL/minとした。溶出した20kDa−PEG−bLF又は40kDa−PEG−bLFを、PD−10カラムを用いて脱塩し、Centriplus(商品名、CENTRIPLUS YM-50、MILLIPORE社)で濃縮した。タンパク濃度は、ウシ血清アルブミン(BSA)をスタンダードとしてBradford protein assay法にて測定した。
【0047】
2. 四塩化炭素誘発肝障害モデルに及ぼすPEG化LFの効果
四塩化炭素誘発肝障害モデルは、ラット(又はマウス)に四塩化炭素・オリーブ油混合液5mL/kg(四塩化炭素として1mL/kg)を皮下投与することにより誘発される急性肝障害モデルである。四塩化炭素による肝障害は、四塩化炭素(CCl)が薬物代謝酵素により分解されて生じるCCl・(フリーラジカル)が、肝細胞のタンパク質、脂質などと共有結合して非可逆的変化を与え、また、膜脂質の過酸化を引き起こすことにより、細胞の変性壊死をもたらすものであるといわれている(槫林陽一(1990):14.1 肝臓疾患用薬の探索、代謝性医薬品の探索、医薬品の探索III、医薬品の開発 9巻(斎藤 洋、野村靖幸編集)、227〜241頁、廣川書店、東京)。このモデルでは、投与6時間後から肝細胞の脂肪変性及び壊死が認められ、これは投与24〜36時間に最も顕著になるといわれている。また、投与後12〜48時間にトランスアミナーゼ(GOT、GPT)活性及び乳酸脱水素酵素(LDH)活性の酵素漏出が最高値を示すとされている(槫林、1990、前出)。
【0048】
したがって、この実験では、血清GOT、GPT、SOD活性の測定、肝組織の病理組織学的解析、及び抗一本鎖DNA(ssDNA)抗体を一次抗体とした免疫組織化学的解析を実施した。
【0049】
5週齢のWistar−Imamichi系雄ラットを、動物繁殖研究所(茨城)から導入した。動物は、室温22±2℃、12時間の明暗サイクル(明期07:00〜19:00)下で飼育し、標準固形飼料(CE−2、日本クレア、東京)を自由摂食にて給餌した。これら動物の取り扱いならびに実験方法については、鳥取大学実験動物委員会で承認されている。
【0050】
動物を6群に分けた(n=5)。I群は無処置の正常対照群とした。II群は四塩化炭素(CCl)処置のみの対照群とした。これら2群の動物には、ウシ血清アルブミン(BSA) 30mg/kgを腹腔内投与した。
【0051】
III群にはbLF(未修飾) 30mg/kgを腹腔内投与した。IV群には上記1.で製造した20kDa−PEG−bLF 30mg/kgを腹腔内投与した。V群には上記1.で製造した40kDa−PEG−bLF 30mg/kgを腹腔内投与した。これらの(CClを除く)薬物の投与は、すべて3日間連続して行った。
【0052】
I群を除く他の群には、3日目にbLF(未修飾)、20kDa−PEG−bLF又は40kDa−PEG−bLFを投与した1時間後に CCl(1mg/kg, CClとオリーブ油が1:1となるように混合したもの)を経口投与した。CCl投与の24時間後に動物を安楽死させ、血液及び肝臓を採取した。
【0053】
<血清中の肝逸脱酵素の測定>
採取した血液を、室温にて1時間放置し、その後、1000×gで10分間遠心分離し、血清を分離した。血清中のGPT及びGOT濃度をUV法(GPT又はGOTアッセイキット、Wako, Japan)にて測定した。抗酸化活性を、「SOD activity detection kit」(Wako, Japan)を用いたニトロブルーテトラゾリウム(NBT)還元法により評価した。
【0054】
CCl誘導による血清中GOT及びGPTの上昇に対するPEG−bLFの効果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
40kDa−PEG−bLF又は20kDa−PEG−bLFの前投与により、GOTとGPTの上昇は有意に抑制された(t−test、p<0.05)。一方、未修飾bLFの前投与は、わずかにGOT又はGPT上昇を抑制する傾向にあったが、有意差は認められなかった(t−test、p>0.05)。この40kDa−PEG−bLF及び20kDa−PEG−bLFの効果は、未修飾bLFに対しても有意であった(t−test、p<0.05)。40kDa−PEG−bLFは、20kDa−PEG−bLFよりもさらに有意な効果をもたらした(t−test、p<0.05)。
【0057】
また、血清SOD活性の増大も、40k−PEG−bLF群が最も顕著であり、次いで20k−PEG−bLF群、未修飾bLF群と続き、各群間には有意差が認められた。
【0058】
<病理組織学的検索>
肝組織を10%(V/V)緩衝ホルマリンで固定した後、常法に従い、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。肝臓の病理学的所見は、Frenchら(2000)(French, S. W., Miyamoto, K., Ohta, Y., Geoffrion, Y., 2000. Pathogenesis of experimental alcoholic liver disease in the rat. Methods Achiev. Exp. Pathol. 13, 181-207)の方法に準拠してスコア化した。すなわち、0=鏡検にて著変なし;1=25%以下の局所的な肝細胞の障害;2=25〜50%の局所的な肝細胞の障害;3=拡散しているが局所的な肝細胞の障害;4=全体的な肝細胞の壊死。組織学的検索は、ブラインドテストとして実施した。
【0059】
CCl誘導による肝障害の組織学的所見を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
CCl処置群の肝細胞における障害は、脂肪変性及び肝細胞壊死として観察された。脂肪変性と肝細胞壊死は、CCl処置後、急性に認められた。40kDa−PEG−bLF及び20kDa−PEG−bLFは、脂肪変性と壊死に基づく障害スコアを軽減した。また、脂肪変性には個体差が認められた。組織学的解析は、CCl誘導による肝毒性に対して、40kDa−PEG−bLF及び20kDa−PEG−bLFが、未修飾bLFよりも、さらに有意な抑制効果を有することを示していた(t−test、p<0.05)。特に40kDa−PEG−bLFでは顕著であった(t−test、p<0.05)。
【0062】
病理組織学的に、肝小葉中心性変性は40kDa−PEG−bLF群が最も軽度で、20kDa−PEG−bLF群、未修飾bLF群の順で重篤度は明らかに増大していた。
【0063】
<免疫組織化学的解析>
組織化学的解析には、抗一本鎖DNA(ssDNA)ウサギポリクローナル抗体(Dakocytomation, Kyoto, Japan)を一次抗体として使用した。ssDNA検出用の切片は、0.01M クエン酸緩衝液(pH6.0)を約1ml添加し、95℃で5分間処置することにより、抗原活性を除去した。切片を、再ワックス処理し、脱水し、Tween添加0.05Mトリス緩衝生理食塩水(TBST;pH7.6)で洗浄後、1%(V/V)過酸化水素処理、再度TBSTによる洗浄を行った。その後、一次抗体を添加し、室温で30分間反応させ、TBSTによる洗浄後、「Simple Stain MAX-PO (Multi)」(商品名、Nichirei, Tokyo, Japan)を添加し、室温で30分間反応させた。さらに、TBSTで洗浄した後、0.01%(V/V)過酸化水素を含む3,3´−ジアミノベンジジン溶液で発色させた。TBSTで洗浄した後、Mayer’s ヘマトキシリンで対染色した。
【0064】
鏡検(×400)は、複数視野にわたって1,000個以上の肝細胞を計測した。アポトーシスの指標は、肝細胞総数のうち、核消失のみられる%とした(Korkolopoulou, P. A., Konstantinidou, A. E., Patsouris, E. S., Christodoulou, P. N., Thomos-Tsagli, E. A., Davaris, P. S. 2001. Detection of apoptotic cells in archival tissue from diffuse astrocytomas using a monoclonal antibodies to single-stranded DNA. J. Pathol. 193, 377-382)。
【0065】
全てのデータは、平均±SEで表示した。群間の有意差検定は、Student’s t−testによって行い、P<0.05を有意水準とした。
【0066】
結果を表2に示す。40kDa−PEG−bLF又は20kDa−PEG−bLFでの前処置は、アポトーシスも有意に抑制していた(t−test、p<0.05)。特に、40kDa−PEG−bLFは、20kDa−PEG−bLFよりも、さらに有意に抑制した(t−test、p<0.05;表2)。
【0067】
即ち、肝細胞における抗ssDNA抗体陽性率(アポトーシス%)は、40k−PEG−bLF群が最も低値を示し、次いで20k−PEG−bLF群、未修飾bLF群と続き、各群間には有意差が認められた。
【0068】
3.肝細胞へのPEG化LF取り込みに関する免疫組織化学的解析
実験には、6週齢のWistar−Imamichi系雄ラットを動物繁殖研究所(茨城)から導入した。動物は、室温22±2℃、12時間の明暗サイクル(明期07:00〜19:00)下で飼育し、標準固形飼料(CE−2、日本クレア、東京)を自由摂食にて給餌した。これら動物の取り扱いならびに実験方法については、鳥取大学実験動物委員会で承認されている。
【0069】
25%(W/W)ウレタン(4g/kg、sc)麻酔下にて、外頸静脈にカニューレを装着した。40kDa−PEG−bLF、20kDa−PEG−bLF、未修飾bLF又はBSA溶液(10%(W/W)となるように生理食塩水に溶解)を、外頚静脈に留置したカテーテルを用いて、10mg/kgとなるように投与した(n=5)。投与10分後にラットを安楽死させ、肝臓を採取した。
【0070】
<免疫組織化学的解析>
肝左葉を切除し、10%(V/V)ホルマリンで固定した後、パラフィン包埋した。5μmの切片を作製し、抗ウシラクトフェリンヤギポリクローナル抗体(Bethyl Laboratories, Montgomery, USA)を用いて免疫染色を行った。
全てのデータは平均±SEで表示した。群間の有意差検定は、Student’s t−testによって行い、P<0.05を有意水準とした。
【0071】
肝細胞へのPEG化LF取り込みに関する免疫組織化学的解析の結果を、表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
免疫組織学的解析により、40kDa−PEG−bLF、20kDa−PEG−bLF又は未修飾bLFを投与した全ての動物において、肝細胞の細胞質に抗bLF抗体陽性の小胞が認められた。この肝細胞1個あたりに存在する小胞数には、群間で有意差は認められなかったが、小胞の直径は、40kDa−PEG−bLF>20kDa−PEG−bLF>未修飾bLFの順に大きく、各群間に有意差が認められた(t−test、p<0.05)。
【0074】
4.D−ガラクトサミン(D−GaIN)/LPS誘発肝障害モデルに及ぼすPEG化LFの効果(1)
D−ガラクトサミン誘発肝障害モデルは、肝機能改善物質の評価に利用できるモデルの1つであり、明らかな急性肝機能障害を示す。ラットにD−ガラクトサミンを投与すると、投与6時間後から肝細胞壊死が認められ、投与後18〜24時間にトランスアミナーゼ(GOT、GPT)活性が最高値を示すとされている。ガラクトサミンによる肝障害のメカニズムは、未解明であるが、ガラクトサミンがUDP−ガラクトサミンからUDP−グルコサミンとなり、UTPを捕捉することにより、肝細胞内のUTP、UDP、UMP、UDP−グルコース、UDP−グルクロン酸が減少する結果、核酸、タンパク質及び脂質代謝能が阻害されるものと考えられている(槫林、1990、前出)。
【0075】
上記1.で製造した分岐型40k−PEG−LFを、Wistar−Imamichi系ラット(6週齢、雄)に10mg/kgで3日間腹腔内投与した。2日目の夕方から16時間、ラットを絶食し、40k−PEG−LFの3回目の投与1時間後にGaIN/LPS混合溶液(GaIN 400mg/kg+LPS 50μg/kg)を腹腔内投与し、その6時間後に肝臓、血液をサンプリングし、血清GOT(IU/L)、血清GPT(IU/L)を測定した。
【0076】
結果を表4に示す。正常コントロールの肝酵素は、GOT 86.82±3.13 IU/L、GPT 39.83±4.85 IU/Lであった。
【0077】
【表4】

【0078】
40kDa−PEG−bLF投与群は、血清GOT、GPTの顕著な上昇抑制を示した。病理組織学的に生理食塩水投与群の肝臓では炎症性細胞浸潤及び肝細胞壊死が重篤であったが、40kDa−PEG−bLF投与群の肝臓における当該病変の程度は明らかに軽減されていた。
【0079】
以上の結果を総合すると、CCl誘発肝障害モデルに対する肝保護作用及び肝細胞への取り込み状況とも、40kDa−PEG−LFが最も顕著で、次いで20k−PEG−bLF群、未修飾bLF群と続くことが判明した。よって、本発明の医薬品組成物に含有される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体であるPEG化LFが示した抗酸化作用に起因した肝保護作用の増大の要因には、PEG化LFの肝細胞への取り込み能の増大が関与していることが推察された。
【0080】
LFはレセプターを介してエンドサイトーシスによって肝細胞に取り込まれることが知られているが、PEG化によって肝細胞内へ取り込まれるLF量が増大することは本研究によって初めて明らかにされた。
【0081】
D−GaIN/LPS誘発肝障害モデルに対し、40kDa−PEG−bLFが既報例(Matsumoto et al., 2004)で示されている未修飾LF量よりも低用量で著効を示した。よって、本発明の医薬品組成物に含有される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体、特に40kDa−PEG−bLFは、LFが有するサイトカイン分泌抑制作用に基づく肝保護作用を増強することが示唆された。
【0082】
5.D−GaIN/LPS誘発肝障害モデルに及ぼすPEG化LFの効果(2)
D−GalN/LPS誘発肝障害モデルラットに及ぼすPEG化LFの炎症性サイトカイン分泌抑制効果について、未修飾bLFの効果との詳細な比較検討を行った。
【0083】
<手法>
絶食したラット(Wistar−Imamichi系、雄、7週齢)に、20kDa−PEG−bLF、40kDa−PEG−bLF、未修飾bLF(各20mg/kg)、又は生理食塩水を3日間、1日1回腹腔内投与した。3日目の投与1時間後にGaIN/LPS混合溶液(GaIN 600mg/kg+LPS 200μg/kg)を腹腔内投与した。2、4、及び8時間後に血液と肝臓のサンプリングを実施した。
【0084】
実験群は、以下のとおりであった。
生理食塩水投与群 (n=8)
生理食塩水+GaIN/LPS投与群 (n=8)
未修飾bLF+GaIN/LPS投与群 (n=8)
20kDa−PEG−bLF+GaIN/LPS投与群 (n=8)
40kDa−PEG−bLF+GaIN/LPS投与群 (n=8)
【0085】
<評価方法>
(1) 血清アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)
GaIN/LPS投与後8時間の血清をサンプルとし、測定キット(商品名「トランスアミナーゼCII−テストワコー」、和光純薬、大阪、日本)を用いてAST及びALTを測定した。
(2) 肝組織の病理組織学的所見
上記と同様にしてGaIN/LPS投与後投与後8時間における肝臓のパラフィン包埋切片を作製し、HE染色を施して観察した。
(3) 肝組織におけるアポトーシス細胞の存在率
GaIN/LPS投与後8時間における肝臓のパラフィン包埋切片にTUNEL染色を施し、形態計測ソフト(Leica Application Suite, Leica Microsystems Ltd., Heerbrugg, Switzerland)を用いて肝細胞1000個あたりのTUNEL染色陽性細胞の存在率(アポトーシスインデックス; %)を算定した。
(4) 血清TNF−α、血清IL−6、血清IL−10、血清NO
GaIN/LPS投与後2、4、8時間の血清サンプルを用い、測定キットを用いてTNF−α濃度(商品名「Rat TNF-α Immunoassay kit」、コスモバイオ、東京、日本)、IL−6濃度(商品名「Rat IL-6 Immunoassay kit」 Quantikine, R&D Systems, Minneapolis, USA)、IL−10濃度(商品名「Rat IL-10 Immunoassay kit」 Quantikine, R&D Systems, Minneapolis, USA)、及びNO濃度(商品名「Nitric Oxide Colorimetric Assay Kit」 BIOMOL, Plymouth Meeting, PA, USA)を測定した。
(5) 統計学的検討
統計ソフト(GraphPad PRISM , GraphPad Software, San Diego, CA, USA)を用い、Tukey’s multiple comparison testによるone−way analysis of variance (ANOVA)を実施し、各試験群間の有意差判定を行った。P<0.05をもって統計学的有意差が生じたとした。以下の表5〜10においては、数値はすべて平均±SEで示されている。
【0086】
<結果>
(1) 血清AST及び血清ALT
結果を表5に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
AST及びALTは、GaIN/LPS処置により顕著に上昇したが、PEG化bLFの前投与により有意に抑制された(表5)。一方、未修飾bLFの前投与によっては、有意な抑制は観察されなかった。
【0089】
(2) 肝組織の病理組織学的所見
GaIN/LPS処置により激烈な壊死性病変及び出血性病変が惹起されていた。当該病変は、未修飾bLF前投与により軽微に抑制され、PEG化bLF前投与により著明に抑制された。
【0090】
(3) 肝組織におけるアポトーシス細胞の存在率(アポトーシスインデックス)
結果を表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
生理食塩水+GaIN/LPS投与群では、肝組織におけるアポトーシス細胞の存在率は高値を示した。未修飾bLF前投与群のアポトーシス細胞の存在率は生理食塩水+GaIN/LPS投与群と同程度であったが、20kDa−PEG−bLF前投与群においては細胞のアポトーシスが低減された。40kDa−PEG−bLF前投与により、顕著に抑制されていた(表6)。
【0093】
(4) 血清TNF−α、血清IL−6、血清IL−10及び血清NO
血清TNF−αの結果を表7に示す。
【0094】
【表7】

【0095】
GaIN/LPS投与後2時間及び8時間において、PEG化bLF群は未修飾bLF投与群より統計学的に有意にTNF−α産生を抑制していた(表7)。
【0096】
血清IL−6の結果を表8に示す。
【0097】
【表8】

【0098】
GaIN/LPS投与後2時間、4時間、及び8時間において、PEG化bLF群は未修飾bLF投与群よりも統計学的に有意にIL−6産生を抑制していた(表8)。
【0099】
血清IL−10の結果を表9に示す。
【0100】
【表9】

【0101】
GaIN/LPS投与後2時間及び8時間において、PEG化bLF群は未修飾bLF投与群よりも統計学的に有意にIL−10産生を促進していた(表9)。
【0102】
血清NOについての結果を表10に示す。
【0103】
【表10】

【0104】
GaIN/LPS投与後8時間において、PEG化bLF群は未修飾bLF投与群よりも統計学的に有意にNO産生を抑制していた(表10)。
【0105】
血清TNF−α、血清IL−6、血清IL−10、及び血清NOに関しては、20kDa−PEG−bLF及び40kDa−PEG−bLF間に有意差は認められなかった。
【0106】
以上の結果から、PEG化LFは、GaIN/LPSによって誘導された炎症を未修飾のbLFより顕著に強く抑制することが明らかとなった。当該機序には、TNF−α、IL−6及びNOの産生抑制及びIL−10の産生亢進が大きく関与していることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】


(式中、LFはラクトフェリン、NHSはN−ヒドロキシスクシンイミジル基、POLYは分子量(数平均分子量)が10,000〜60,000(Da)であるポリ(アルキレングリコール)、nは1〜10の整数、をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体を含有することを特徴とする肝機能保護医薬品組成物。
【請求項2】
ラクトフェリンとの複合体におけるポリ(アルキレングリコール)の分子量がおおよそ40,000であることを特徴とする請求項1の肝機能保護医薬品組成物。
【請求項3】
分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体が、未修飾のラクトフェリンよりも肝細胞へ取り込まれやすいことを特徴とする請求項1又は2の肝機能保護医薬品組成物。

【公開番号】特開2010−138160(P2010−138160A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156312(P2009−156312)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(599012167)株式会社NRLファーマ (18)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】