説明

肝機能改善剤

【課題】安定で、容易に服用でき、優れた肝機能改善効果を有する肝機能改善剤の提供。
【解決手段】ユビキノンのCD類による包接体を含有する肝機能改善剤、及びこれを含有する肝機能改善用食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユビキノンを有効成分とする肝機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は生体内最大の臓器であり、胆汁の生成・分泌、異物の除去など代謝に関連した多くの機能を営んでいる。肝臓の機能は、アルコール摂取や薬物などによって障害される場合があり、また、肝臓疾患が起こるとそれに由来する疾病も問題となってくる。
【0003】
ユビキノンは、生物のミトコンドリアに存在する電子伝達体の一つであり、特にコエンザイムQ10(ユビデカノレン)は人体内に存在し、抗酸化作用等の各種作用を有することが知られている。また、コエンザイムQ10を胆管を結紮したマウスに腹腔内投与することにより、ミトコンドリアの機能障害や、GOT、GPT等の上昇を抑制したことも報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、注射による投与形態では、苦痛や各種の制約を伴い、ユビキノンを日常的かつ連続的に摂取する手段として適当であるとはいえない。
【0005】
一方、コエンザイムQ10等のユビキノンをシクロデキストリンで包接することで、光、ビタミン類等に対する安定性が向上すること(特許文献1、2等)や、バイオアベイラビリティが向上すること(非特許文献2参照)などが知られている。しかし、そのような包接体を肝機能改善剤に応用することについては、何も記載されていない。
【0006】
【非特許文献1】Arzneim. Forsch. Drug Res., 35(11), 1427-1430(1985)
【特許文献1】特開2002-104922号公報
【特許文献2】特開2005-2005号公報
【非特許文献2】第22回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集,P26(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、安定で、経口により容易に服用でき、優れた肝機能改善効果を有する肝機能改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる実情において本発明者らは、ユビキノンの経口投与製剤について研究したところ、驚くべきことに、ユビキノンを単に経口投与した場合には非特許文献1における腹腔内投与の場合とは異なり、肝機能に関しては却って逆効果となる傾向があることを見出した。そして更に研究を重ねた結果、ユビキノンをシクロデキストリン(以下、「CD」と略称する)類による包接体の形で投与すれば、肝機能改善効果が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、ユビキノンのCD類による包接体を含有する肝機能改善剤、及びこれを含有する肝機能改善用食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の肝機能改善剤は、安定で、経口により容易に服用でき、優れた肝機能改善効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に使用するユビキノンとしては、性能の観点から、次の式(1)で表されるものが好ましく、特にn=10のもの(コエンザイムQ10,以下、「CoQ10」と略称する)が好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、nは6〜12の整数を示す。〕
【0014】
上記ユビキノンの包接に用いるCD類としては、α-CD、β-CD、γ-CD、及びそれらの誘導体が挙げられるが、β-CD、γ-CD、及びそれらの誘導体が好ましい。また、CDの誘導体としては、例えば、酵素反応によりCDに糖の側鎖を結合させたグリコシル化CD(分岐CD)、より具体的には、グルコシル-CD、マルトシル-CD、ガラクトシル-CD、マンノシル-CD等の単糖又は二糖修飾CDのほか、部分メチル化、ヒドロキシプロピル化、スルフォブチルエーテル化、アセチル化、モノクロロトリアジノ化等の化学修飾CDが挙げられる。
【0015】
CD類によってユビキノンを包接する方法としては、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、飽和水溶液法、混練法、混合粉砕法等の一般的な包接体の製造法を用いることができる。噴霧乾燥法又は凍結乾燥法とは、CDの10〜40%水溶液を調製し、一定量のユビキノンを添加し、ホモジナイズ(回転数;1,000〜3,000r.p.m.、30分〜5時間、室温)し、次いで得られた包接乳化液を噴霧乾燥又は凍結乾燥して、包接体を得る方法である。飽和水溶液法とは、CDの飽和水溶液を作り、一定量のユビキノンを混合し、CDの種類に応じ30分〜数時間撹拌混合することで包接物の沈殿を得、続いて、水を蒸発させるか、温度を下げて沈殿物を取り出した後、乾燥することで包接体を単離する方法である。混練法とは、CDに水を少量加えてペースト状にして、一定量のゲスト化合物を添加してミキサー等でよく撹拌し、続いて水を蒸発させることで包接体を単離する方法であり、混合時間は飽和水溶液より長めとなる。また混合粉砕法とは、CDとユビキノンを振動ミルにより粉砕して得る方法である。混練法又は加熱方法については、例えば、Acta Poloniae Pharmaceutica(1995), Vol.52, No5, S. 379-386及び同(1996), Vol. 53, No3, S. 193-196において、CoQ10と種々のCD及びCD誘導体との複合化が記載されている。また、特表2003-520827号公報には、γCDとCoQ10との水性混合物を用いることで、更に迅速かつ簡便に包接体を得る方法が記載されている。包接体が十分に形成しているかどうかは、溶液状態では円二色性スペクトルやNMRスペクトルを用いて、固体状態では熱分析DSC、粉末X線等でCD単独、ユビキノン単独及び物理的混合物と包接体を比較することにより確認することができる。
【0016】
包接体を形成させるにあたり、ユビキノンの含有量は40重量%以下に、CDは含有量が60重量%以上100重量%未満となるように用いることが好ましい。更にユビキノンの含有量を20重量%前後とする、言い換えればCD含有量をユビキノンの4重量倍前後とするのがより好ましい。包接体中のゲスト化合物の含有量が低い方が、包接体の安定性は高くなるが、ユビキノンが40重量%以下であれば十分な安定性が得られる。
【0017】
本発明の肝機能改善剤は、医薬として、又はこれを配合した肝機能改善用食品とすることができ、上記のようにして得られるユビキノンのCD包接体以外に、必要に応じ、薬品及び食品の分野において慣用されている補助成分、例えば乳糖、ショ糖、液糖、蜂蜜、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、各種ビタミン類、クエン酸、リンゴ酸、アミノ酸、香料、無機塩等を添加することができる。
【0018】
本発明の肝機能改善剤は、散剤、カプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤等の固形の経口投与用製剤、又は乳化物の形態で、ドリンク剤等の経口投与用製剤、若しくは注射剤、点滴剤等とすることができる。これらのうち、経口投与製剤の形態とすることが好ましい。また、他の食品形態の例として、チーズ、バター、ヨーグルト等の乳製品、ゼリー、プリン、チューインガム、キャンディー、チョコレート、グミ等の菓子類等とすることができる。更に、アルコール飲料やミネラルウォーターに用時添加する形態としてもよい。
【0019】
本発明の肝機能改善剤の投与量は、投与対象者の年齢、体重、状態等により異なるが、多ければ多いほど好ましい。コストと効果のバランスを考慮すれば、ユビキノンとして、5〜300mg/kg/日程度、更には10〜200mg/kg/日程度、特に20〜100mg/kg/日程度が好ましい。
【0020】
なお、本発明における「肝機能改善」とは、肝障害を起こしている場合の肝機能の低下を改善すること、肝臓に障害を引き起こす外因に対し、肝障害の発生を抑制することをいう。
【0021】
本発明の肝機能改善剤は、ユビキノンをCD類で包接することにより、ユビキノンのバイオアベイラビリティーが向上し、優れた肝機能改善効果が発揮されるものと考えられる。このことは、アラビアゴム、寒天等の水溶性物質に分散・乳化させることによって、バイオアベイラビリティーを改善したユビキノン(特開2003-55203号公報)、あるいはマルトデキストリンを使用してバイオアベイラビリティーを改善したCoQ10でも、同様の効果が得られることを示唆している。
【実施例】
【0022】
実施例1
CoQ10-γCD包接体のラットに対する肝機能改善効果について、以下の方法に従って試験を行った。
【0023】
A.試験方法
(使用動物)
6週令のIGSタイプ雄性SDラット(Crj:CD(SD)IGS,日本チャールス・リバー社)を1週間馴化し、7週令で実験を開始した。
【0024】
(投与薬物)
以下に示す薬物の粉末を乳鉢を用いて対照物質(コーンオイル)でメスアップし、25mg/mLの懸濁液を調製した。
CoQ10-γCD包接体:20重量%のCoQ10と80重量%のγ-CDからなる「CAVAMAX W8 / CoQ10-Complex」(ワッカーケミカル社製)を使用した。(以下、「Q10CD」と略称する)
CoQ10混合物 :20質量%のCoQ10と80質量%の結晶セルロースの混合物(以下、「Q10」と略称する)
【0025】
(群分け及び手術)
ラットを、1)Sham群、2)対照群、3)Q10CD投与群、及び4)Q10投与群に群分けし、Sham群と対照群には対照物質(コーンオイル)を、Q10CD投与群にはCoQ10-γCD包接体の懸濁液を、Q10投与群にはCoQ10混合物の懸濁液を、それぞれ20mL/kg、注射筒及びラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。
薬物投与開始2日目の薬物投与後、Sham群はエーテル麻酔下で開腹後、縫合し、対照群、Q10CD投与群及びQ10投与群については、エーテル麻酔下で開腹し胆管の上下2ヶ所で結紮し中間を切断する胆管閉塞手術を行い、縫合した。
【0026】
(採血及び検査項目)
投与5日目(3日間結紮)及び8日目(6日間結紮)の経口投与後2〜5時間に尾静脈から約0.5mLを採血し、LAP(ロイシンアミンオペプチダーゼ)、AST(GOT;アスパラギン酸トランスフェラーゼ)、ALT(GPT;アラニンアミノトランスフェラーゼ)、Bil分画(直接及び間接ビリルビン)及びTBA(総胆汁酸)について測定した。
【0027】
B.結果
投与5日目及び8日目におけるLAP、AST、ALT、直接Bil(D-Bil)、間接Bil(I-Bil)及びTBAを表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
胆管閉塞によりLAP、AST、ALT、Bil及びTBAの上昇が認められたが、Q10CD経口投与群では、LAP、AST及びALTの上昇が抑制され、肝機能の改善が認められた。これに対し、Q10経口投与群では、LAP、AST及びALTが対照群より更に上昇する傾向が認められ、肝機能障害を助長しているものと考えられる。
上記結果から、CoQ10の腹腔内投与により肝機能改善効果が認められている非特許文献1の場合と異なり、経口投与の場合にはCoQ10をCDで包接化して初めて、肝機能改善効果が得られ、単にCoQ10自体を経口投与したのでは逆効果となる傾向があることが分かる。
【0030】
実施例2
ヒトに対しCoQ10-γCD包接体を長期投与した場合の肝機能(AST,ALT)に与える影響について以下に示す。
投与方法は、以下の(1)、(2)及び(3)については、CoQ10-γCD包接体のカプセル剤を1日1回、夕食後に1カプセル(CoQ10として30mg含有)、6週間にわたり服用させ、以下の(4)については、CoQ10-γCD包接体を含む錠剤(商品名:ナノサプリ,テラバイオレメディック社製)を1日1回、夕食後に6錠(CoQ10として20mg含有)、2年間にわたり服用させた。
投与開始前のAST、ALTと、6週間又は2年間投与後のAST、ALTとを比較した。
【0031】
(1) AST、ALT共に正常値(AST;10-40 IU/L/37℃,ALT;5-40 IU/L/37℃)の上限を超える47歳男性に対するCoQ10-γCD包接体の6週間投与の結果、ALT及びAST共に正常値に改善された(図1)。
【0032】
(2) ASTが正常値(10-40 IU/L/37℃)の上限を大きく超える(ALTは正常値)48歳男性に対するCoQ10-γCD包接体の6週間投与の結果、ASTが改善された(図2)。
【0033】
(3) ALTが正常値(5-40 IU/L/37℃)の上限を大きく超える(ASTは正常値)46歳男性に対するCoQ10-γCD包接体の6週間投与の結果、ALTが改善された(図3)。
【0034】
(4) ALTが正常値(5-40 IU/L/37℃)の上限を超える43歳男性に対し、44歳時にCoQ10-γCD包接体の投与を開始し、2年経過後、ALTが正常値まで改善された(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ヒト(AST、ALT共に異常値)に対しCoQ10-γCD包接体を6週間投与した場合のALT及びASTの変化を示す図である。
【図2】ヒト(AST異常値)に対しCoQ10-γCD包接体を6週間投与した場合のALT及びASTの変化を示す図である。
【図3】ヒト(ALT異常値)に対しCoQ10-γCD包接体を6週間投与した場合のALT及びASTの変化を示す図である。
【図4】ヒト(ALT異常値)に対しCoQ10-γCD包接体を2年間投与した場合のALT及びASTの変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユビキノンのシクロデキストリン類による包接体を含有する肝機能改善剤。
【請求項2】
シクロデキストリン類が、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、又はそれらの誘導体である請求項1記載の肝機能改善剤。
【請求項3】
ユビキノンが、コエンザイムQ10である請求項1〜3のいずれかに記載の肝機能改善剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の肝機能改善剤を含有する肝機能改善用食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−308445(P2007−308445A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141312(P2006−141312)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(503065302)株式会社シクロケム (22)
【Fターム(参考)】