肝炎予防治療剤
【課題】新たな肝炎予防治療剤の提供。
【解決手段】Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する肝炎予防治療剤。
【解決手段】Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する肝炎予防治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
肝炎は、急性肝炎、劇症肝炎、遅発性肝不全(LOHF:late onset hepatic failure)、慢性肝炎に分類される肝臓の炎症性疾患であり、種々の原因によって発症する。肝炎を原因によって分類すれば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎等のウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、薬剤性肝炎、自己免疫性肝炎等に分類される。
【背景技術】
【0002】
肝炎の症状は発熱、黄疸、全身倦怠感などが主症状であり、C型肝炎等においては慢性肝炎を経て肝硬変や肝臓癌になるケースが多い。
【0003】
肝炎の治療薬としては、食事療法、インターフェロン投与、肝保護薬、ステロイド剤等が挙げられる。また、最近、茶カテキンの活性酸素種消去活性、抗酸化作用に着目して、種々の報告がされている。例えば、茶カテキンの肝臓癌に対する作用として、鉄代謝の改善による慢性C型肝炎の改善効果(非特許文献1)、アテローム性動脈硬化症感受性マウス肝臓の抗脂質酸化作用の亢進(非特許文献2)、慢性肝炎・肝硬変における肝炎活動の抑制(非特許文献3)、アルコール性脂肪性肝炎による肝障害の抑制(非特許文献4)、ヒト肝ガン細胞に対する増殖抑制効果(非特許文献5)などが報告されている。また、カテキン類による肝臓への脂肪蓄積抑制(特許文献1)、過剰鉄起因肝臓障害の予防・治療(特許文献2)、顕著な肝機能の低下抑制・改善(特許文献3)などが知られている。
【非特許文献1】肝臓,Vol.47(Supplement2),A412(2006)
【非特許文献2】J.Oleo.Sci.,Vol.54(12),641−648(2005)
【非特許文献3】臨床と研究,Vol.81(9),1549−1552(2004)
【非特許文献4】Annual Review 消化器,Vol.2004,332−336(2004)
【非特許文献5】生活科学研究誌,Vol.12,39−47(2003)
【特許文献1】特開2005−179277号公報
【特許文献2】特開2003−212780号公報
【特許文献3】特開2003−26584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の茶カテキンの肝炎に対する予防治療作用は十分でなく、より強い肝炎予防治療作用を有する植物由来の成分が望まれていた。
従って本発明は、安全性が高い植物成分由来であって、より薬理作用の優れた肝炎予防治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、後発酵茶に着目して種々検討し、ある特定量の水分を茶に含浸させ、糸状菌を接種して生育させたところ、SOD活性が著しく高い後発酵茶が得られた。そして、当該SOD活性の高い後発酵茶を用いて肝炎モデルにおける肝炎予防治療効果を検討したところ、この後発酵茶を投与すれば強力な肝炎予防治療効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する肝炎予防治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の後発酵茶又はその抽出物の肝炎予防治療効果は強力であり、特に非アルコール性脂肪性肝炎に有効である。また、本発明で用いる後発酵茶又はその抽出物は安全性が高く、長期間飲用又は服用が可能であることから、特に慢性肝炎への移行の防止又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いる後発酵茶の原料としての茶は、Camellia sinensis種であれば、特に品種等には限定されない。また、収穫直後の生茶葉、殺青後の茶葉、粗揉後の茶葉、揉捻後の茶葉、中揉後の茶葉、精揉後の茶葉、荒茶等の緑茶であっても、茶茎、茶花及びこれらの粉末品等の加工品等であっても、さらに半発酵茶、完全発酵茶も使用可能であり、原料となる茶は後発酵茶の用途により、適宜選択可能である。このうち、不発酵茶を用いることが、高いSOD活性を有する後発酵茶を得る点から好ましい。
【0009】
これらの茶の発酵に用いられる微生物は、高いSOD活性を有する後発酵茶を得る点から糸状菌であるのが好ましい。糸状菌としては、醸造食品や発酵食品等の食品に使用可能な糸状菌の中から選抜することが可能である。例えば、Aspergillus属、Eurotium属、Rhizopus属等を使用することができ、より好ましくはAspergillus oryzae、Aspergillus niger、Eurotium cristatum、Rhizopus oligosporus等が挙げられ、さらには該糸状菌から誘導される変異株であっても使用することができる。これらを単独で若しくはそれらを組合せて使用してもよい。これらの菌株は、IFO、IAM、ATCC、NRRC等の菌株分譲機関、日本醸造協会や市販の種菌株販売会社等から入手可能である。
【0010】
本発明に用いる後発酵茶の製法においては、Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上、好ましくは150重量部以上、より好ましくは200重量部以上、最適には300〜400重量部の水を加える。ここでの水分量の調整は原料となる茶に、水を加え、馴染ませ、糸状菌が生育できる条件にすることを意味する。例えば、荒茶を使用した場合、該荒茶はすでに約3〜5重量%の水分を既に含んでおり、加える水分量は、茶が含んでいる水分を考慮して調整する必要がある。また、生茶葉のように水分を70〜80重量%含んでいるものについては、加水しなくても良い。上記の水分含量は、培養・発酵に用いる糸状菌が繁殖又は発酵可能な量であり、かつ本発明の高いSOD活性を有する後発酵茶を得るために重要である。該糸状菌を優先的に繁殖させることで、雑菌汚染をより防止することができる。該水分調整後に、殺菌工程を加えることが好ましい。該殺菌条件は、例えば、80〜100℃で30〜60分間、あるいは100〜121℃で15〜30分間等の条件で加熱殺菌を行うことが挙げられる。該殺菌後は、冷却し、該茶を殺菌済み培養・発酵槽に移し、下記の植菌工程を行う。なお、該殺菌工程は、茶の水分量が変化しないように密閉系で行うのが好ましい。
【0011】
水分含量を調整した茶に、糸状菌を接種し、一般に20〜40℃で3〜30日間、好ましくは25〜37℃で3〜7日間培養・発酵する。ここで培養・発酵方法は、通常用いられる方法であれば、液体培養・発酵法、固体培養・発酵法等いずれの方法でも良い。次いで、殺菌工程を加えることが好ましい。該殺菌条件は、例えば、80〜100℃で30〜60分間、あるいは100〜121℃で15〜30分間等の条件で加熱殺菌を行うこと、又は、80〜120℃で加熱乾燥し該糸状菌を殺菌するとともに、水分含量を10重量%以下、好ましくは5重量%以下にする。これにより、本発明のSOD活性の高い後発酵茶が製造される。
【0012】
本発明の後発酵茶は、そのままの形態でも利用可能であるが、加熱、乾熱、マイクロ波等で殺菌を行い、さらに粉砕後、粉末、ペーストの形で、あるいは溶媒を用いて抽出し、後発酵茶抽出物として利用できる。さらに、当該後発酵茶抽出物を、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、エアードライヤー等を用いて乾燥し、粉末化を行うことで、後発酵茶抽出物末とすることができる。また、必要に応じて造粒機等を用いて顆粒品とすることができる。
【0013】
上記抽出の際に用いる溶媒としては、水又は炭素数1〜6のアルコール類を単独で若しくはこれら溶媒の2つ以上の組合せが使用でき、例えば水、エタノール、含水エタノール等が挙げられる。好ましくは水単独、若しくは含水エタノールより好ましくは水とエタノールの0〜95:100〜5の混合物(v/v)が使用できる。
抽出条件としては、約20〜70℃で0.1〜5時間抽出し、ろ過を行い、さらに得られたろ液を80〜95℃で30分間の条件で加熱処理を行い、冷却することが好ましい。
上記抽出物は、適宜、不活性な不純物を除去するため、例えば液々分液、固液分液、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂等の公知の分離・精製方法によって、さらに精製してもよい。具体的には、抽出物末を上記抽出溶媒を用いて再度抽出することが挙げられる。
【0014】
上記の製造方法により得られた後発酵茶又はその抽出物は、抗酸化活性の一つの指標であるSOD活性を、後発酵茶固形分1g当り2,000units以上、好ましくは8,000units以上、より好ましくは9,000units以上、さらに好ましくは9,000〜500,000units有する。例えば、原料としての茶に緑茶を、Aspergillus oryzaeを用いて本発明の製造方法にて製造した後発酵茶は、SOD活性を、後発酵茶固形分1g当り9,000units以上を有している。
【0015】
優れたSOD活性を有する上記の後発酵茶又はその抽出物は、後記実施例に示すように、肝炎モデルの一つである非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Nonalcoholic Steatohepatitis)モデルに対して優れた予防治療効果を有する。具体的には、肝炎の指標であるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST:Aspartate Amino Transferase)値、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT:Alanine Amino Transferase)値及びヒアルロン酸値を顕著に回復させた。また、肝臓ミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)産生量を低下させた。さらに肝臓の病理学的組織も改善する効果を有する。従って、前記後発酵茶又はその抽出物は、種々の前記肝炎、例えば急性肝炎、慢性肝炎、各種ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎等の予防治療剤として有用である。
【0016】
本発明の肝炎予防治療剤は、医薬として、また特定保健用食品、機能性食品等として使用することができる。これらの医薬の投与形態としては、経口、注射、外用等が挙げられるが、経口投与形態が好ましい。経口用医薬及び食品の形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液剤、ゲル、気泡等の他、各種食品中に配合することもできる。これらの組成物の調製にあたっては、賦形剤、結合剤、滑沢剤等を適宜配合することができる。これらの医薬及び食品への前記後発酵茶又はその抽出物の配合量は、固形分(乾燥重量)換算で0.0001〜20重量%、0.01〜10重量%が好ましく、特に0.01〜5重量%が好ましい。
【0017】
本発明の肝炎予防治療剤の投与量は、特に制限されないが、成人1日あたり後発酵茶又はその抽出物の固形分(乾燥重量)として、10〜5,000mg、さらに50〜1,000mg、特に100〜500mgが好ましく、これらの量は1回又は数回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0019】
[参考例1]
緑茶(荒茶)500gを100重量部としてそれぞれ0重量部、50重量部、70重量部、80重量部、100重量部、200重量部、300重量部、350重量部、400重量部、500重量部、700重量部の水を加え、混合後、密閉系で、80℃で60分間加熱殺菌を行った。30℃まで冷却後、該緑茶葉を、予め殺菌済みの培養・発酵槽に移し、厚み5cmになるように堆積し、Aspergillus oryzae IFO5238を植菌した。植菌後、30℃で7日間培養した後、乾燥させ、後発酵茶を得た。該後発酵茶に5,000mLの50%(体積/体積)エタノールを添加し、撹拌抽出を行った。ろ過により固液分離を行い得られた、ろ液を固形分30%(重量/体積)まで濃縮し、80℃で30分間加熱処理を行い冷却して、後発酵茶抽出物を得た。該後発酵茶抽出物に関して、SOD Assay Kit−WST(同仁化学社製)を用いてSOD活性を測定し、後発酵茶固形分当たりに換算した。結果を表1に示す。
【0020】
SOD活性の測定は以下の通り行った。まず、試料となる後発酵茶抽出物を蒸留水で希釈し、0.075mg/mL、0.0375mg/mL、0.0075mg/mL、及び0.00375mg/mLになるようにサンプル溶液を調製した。このサンプル溶液を96well プレートの各wellに20μLずつ分注した。次に、SOD Assay Kit−WSTに同封されているTechnical Informationに従い調製したWST working solutionを200μLずつ加えよく混合した。さらに、SOD Assay Kit−WSTに付属のTechnical Informationに従い調整したEnzyme working solutionを20μLずつマルチチャンネルピペットにて加え、プレートリーダー中で37℃、20分間インキュベートし、450nmの波長で吸光度を測定した。尚、各々にはEnzyme working solutionの代わりに付属のDilution bufferを用いたブランクを設けた。さらに、サンプル溶液の代わりに蒸留水を用いたコントロール及びそのブランクを設けた。測定した吸光度から、「スーパーオキシド」と「WST−1」から「WST−1 formazan」が生成される反応の阻害率を求め、さらにサンプルのIC50値(単位:g/mL)を算出した。
また、サンプル溶液の代わりにSOD標準品を用い、SOD濃度と阻害率の関数にて検量線を作成した。作成した検量線から、SODのIC50値(単位:units/mL)を算出した。
上記の「サンプルのIC50値」及び「SODのIC50値」からサンプルのSOD活性を算出した。計算式は以下の通りである。
(サンプルのSOD活性 単位:units/g)=(SODのIC50値)÷(サンプルのIC50値)
【0021】
【表1】
【0022】
表1より、水添加量200〜500重量部の範囲で高いSOD活性を、300〜400重量部でより高いSOD活性を示すことがわかる。
【0023】
また、得られた後発酵茶抽出物を皮膚に塗布したところほとんど刺激性がなかった。また、味も渋味が低く良好であった。
【0024】
また、同様の方法で、従来から飲用されている後発酵茶のSOD活性を測定した結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
表2より、本発明の後発酵茶が、従来の後発酵茶に比べて高いSOD活性を有することがわかる。
【0027】
[参考例2]
緑茶(荒茶)500gに、1,750mLの水を加え混合後、密閉系で、80℃で60分間加熱殺菌を行った。30℃まで冷却後、該緑茶を、予め殺菌済みの培養・発酵槽に移し、厚み4cmになるように堆積し、Aspergillus oryzae IFO5238を植菌した。植菌後、30℃で7日間培養・発酵させた。培養・発酵完了後、送風乾燥機にて乾燥させ、本発明の後発酵茶486gを得た。次いで、該後発酵茶に、5,000mLの水を添加し、50℃で1時間、撹拌抽出を行った。ろ過により固液分離を行い得られた、ろ液を固形分30%まで濃縮し、80℃で30分間加熱処理を行い冷却して、後発酵茶水抽出物を得た。得られた後発酵茶水抽出物をフリーズドライヤーにて乾燥することで、後発酵茶水抽出物末を得た(108g)。得られた後発酵茶水抽出物末に関して、SOD Assay Kit−WSTを用いSOD活性を測定した結果、後発酵茶固形分1g当たり、20,062units(後発酵茶水抽出物末1g当たり80,238units)であった。得られた抽出物末は、渋味もなく、苦味もなく、皮膚刺激性もなく、良好であった。
【0028】
[実施例1]
実験的に調整された脂肪肝担持ラットに対し、酸化ストレス(OS:Oxgen Stress)を負荷し、生体内低酸素状態を形成させることにより、NASHの生化学的・病理組織学的特徴を有するNASH病態モデルラットを作出できるが、脂肪肝担持ラットに対し酸化ストレスを負荷すると同時に、後発酵茶水抽出物を投与した後、該ラットの血液の生化学検査、肝臓ミトコンドリアのROS量のESR(Electron Spin Resonance)法による定量及び肝臓組織の病理組織学観察を行うことにより、脂肪肝からNASHへの病態の進行に対する、後発酵茶水抽出物の予防効果を評価した。
【0029】
(1)実施方法
実験動物として、6週齢Wistar系雄性ラット(180−200g/匹)を用いた。動物はポリプロピレン不透明ケージ(W220×L320×H135、夏目製作所社製)内で2〜3匹ずつ飼育した。飼育室は、湿度40〜50%、室温20〜25℃に維持し、12時間の明暗サイクル(点灯;AM8:00、消灯;PM8:00)に設定した。
【0030】
脂肪肝作成のため、4週間、自由摂取にてコリン欠乏食(CDHF:Choline Deficient High−Fat Food、オリエンタル酵母社製)を与えた。その後も、病態維持のため実験終了までCDHFを与えた。
OSを負荷し生体内低酸素状態を形成させ、NASH病態を作出するため、上記脂肪肝担持ラットに対し、生理食塩水に溶解させた亜硝酸ナトリウムを30mg/kg(体重)/日、6週間にわたり腹腔内投与した。投与期間中は2週間ごとに尾静脈から採血し、病態の確認を行い、病態の進行状況に問題がないことを確認した。
【0031】
NASHに対する後発酵茶水抽出物の有効性評価のため、上記亜硝酸ナトリウム投与群に対し、同時に後発酵茶水抽出物(参考例2で得たもの)を10mg/kg(体重)/日、又は、200mg/kg(体重)/日、6週間にわたりゾンデにて強制経口投与した。投与期間終了後、犠牲死させ、該ラットの血液の生化学検査及び肝臓ミトコンドリアにおけるROSの定量を行い、肝臓組織の病理組織学的変化を観察した。
【0032】
なお、本実験は、(i)群(CDHF+OS)、(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)、(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)に群分けし、各群6匹(n=6)とした。
【0033】
血漿中AST、ALT値はトランスアミナーゼCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)にて測定した。血漿中ヒアルロン酸値はヒアルロン酸測定キット(生化学工業株式会社)にて測定した。
【0034】
肝臓ミトコンドリア由来ROS量測定は以下の手順で行った。すなわち、肝臓試料は、下大静脈より1.15%塩化カリウム溶液(5mMベンズアミジン含む)にて灌流後、採取した。肝臓組織1gに対し3mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.4、0.25Mシュークロース、0.1M塩化カリウム含む)を加え、ホモジナイズした後、3,000×g(10分間、4℃)で遠心分離し、上清を得た。次いで、この上清を9,000×g(20分間、4℃)で遠心分離し、沈殿物を1mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.4、0.25Mシュークロース、0.1M塩化カリウム含む)にて2回遠心洗浄し、ミトコンドリア画分を得た。該画分14.28mgに対し、1mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.4、0.25Mシュークロース、0.1M塩化カリウム含む)を加え、溶解し、試料溶液とした。この時の濃度はミトコンドリアのタンパク量に換算すると、500μg/mLに相当する。
【0035】
上記試料溶液35μl、0.1%dodecyl maltoside、5mM glutamate、5mM malate及び200mM succinateを含む溶液25μl、4.6M 5,5−dimethyl−1−pyrroline−1−oxide(DMPO)溶液20μl及び2mM NADH溶液20μlの合計100μlを、37℃で5分間インキュベーションした後、直ちにESR測定装置(JES−REIX/HR、日本電子株式会社製)にて、本溶液のROS量を常温で測定した。測定に当たり、あらかじめcavity内に挿入されたMnOのMn2+をラジカルの計算基準とした。ラジカル発生量はMn2+のmaximum meter deflection(hr)に対するミトコンドリア試料(hs)のそれとの比、即ち、ESR intensity(hs/hr)で算定した。
【0036】
統計学的処理として、全ての結果は平均値±標準誤差で示した。得られたデータは一元配置分散分析(analysis of variance、ANOVA)後、Turkeyの多重比較検定法を用いて統計学的処理を行った。2群間の比較にはStudents t−testを用い、危険率5%以下を優位差有りと判定した。
【0037】
(2)実験結果
投与期間終了後、犠牲死させ、該ラットの血液の生化学的検査、肝臓ミトコンドリアにおけるROS量、肝臓組織の病理組織学的変化を観察した結果を以下に示す。
【0038】
(2)−1 生化学検査
(i)群(CDHF+OS)
1)血漿中AST値(units/mL)は25±2 IU/Lから220±38 IU/Lに上昇。
2)血漿中ALT値(units/mL)は21±2 IU/Lから47±2 IU/Lに上昇。
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/mL)は95±12mg/mLから205±27mg/mLに上昇。
本結果から、酸化ストレスによって脂肪肝からNASHへ進行している事が明らかに認められた。
【0039】
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
1)血漿中AST値(units/mL)は21±2 IU/Lから157±2 IU/Lに上昇。
2)血漿中ALT値(units/mL)は22±2 IU/Lから35±2 IU/Lに上昇。
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/mL)は119±14mg/mLから184±15mg/mLに上昇。
本結果から、酸化ストレスによって誘導される脂肪肝からのNASHへの進行が、後発酵茶水抽出物粉末10mg/kg(体重)投与により改善される傾向が認められた。
【0040】
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
1)血漿中AST値(units/mL)は21±3 IU/Lから88±9 IU/Lに上昇。
2)血漿中ALT値(units/mL)は22±2 IU/Lから28±2 IU/Lに上昇(正常値に回復)。
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/mL)は119±15mg/mLから102±11mg/mLに低下(正常値に回復)。
本結果から、酸化ストレスによって誘導される脂肪肝からのNASHへの進行が、後発酵茶水抽出物粉末200mg/kg(体重)投与により大幅に改善される傾向が認められた。
【0041】
(2)−2 肝臓ミトコンドリア由来ROS産生値(シグナル相対強度)
OS負荷前のシグナル相対強度0.7±0.1に対し、
(i)群(CDHF+OS):1.0±0.1
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg):0.8±0.1
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg):0.5±0.1
であった。
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓ミトコンドリア由来ROS産生量が、後発酵茶水抽出物粉末投与により濃度依存的に低下する傾向が認められた。
【0042】
(2)−3 ヘマトキシリン・エオジン染色による肝臓組織の観察
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行い、大滴脂肪の沈着状態を観察し、下記結果を得た。
(i)群(CDHF+OS)
多くの大滴性の脂肪滴及び大きな肝細胞配列の乱れ有り。
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
中程度の大滴性の脂肪滴及び中程度の肝細胞配列の乱れ有り。
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
小程度大滴性の脂肪滴及び小程度の肝細胞配列の乱れ有り。
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓組織における大滴性の脂肪滴増大及び肝細胞配列の乱れ増大が、後発酵茶水抽出物投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0043】
(2)−4 マッソン・トリクローム染色による肝臓組織の観察
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきマッソン・トリクローム染色を行い、膠原線維の線維化状態を観察し、下記結果を得た。
(i)群(CDHF+OS)
門脈域から中心静脈域の架橋形成が生じ偽小葉形成が認められた。
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
軽度の門脈域から中心静脈域の架橋形成が認められた。
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
門脈域と中心静脈周囲に繊維化が認められるが、架橋形成は認められない。
本結果から、脂肪肝よりNASHへの進行に伴って増大する肝臓組織における架橋形成及び繊維化増大が後発酵茶水抽出物投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0044】
(2)−5 ベルリン・ブルー染色による肝臓組織の観察
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきベルリン・ブルー染色を行い、鉄イオン沈着状態を観察し、下記結果を得た。
(i)群(CDHF+OS)
門脈域から中心静脈域に大きな鉄の沈着が認められた。
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
門脈域から中心静脈域に軽度の鉄の沈着が認められた。
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
鉄の沈着は殆んど認められなかった。
本結果から、脂肪肝よりNASHへの進行に伴って増大する肝臓組織における鉄の沈着増大が、後発酵茶水抽出物投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0045】
[製剤例1]
次の処方により、顆粒を製造した。
後発酵茶エキス末(参考例2) 350(質量部)
乳糖 470
結晶セルロース 150
ヒドロキシプロピルセルロース 30
【0046】
[製剤例2]
次の処方により、湿式造粒し、打錠して錠剤を得た。
後発酵茶エキス末(参考例2) 350(質量部)
乳糖 470
結晶セルロース 140
ヒドロキシプロピルセルロース 30
ステアリン酸マグネシウム 1
タルク 9
【技術分野】
【0001】
肝炎は、急性肝炎、劇症肝炎、遅発性肝不全(LOHF:late onset hepatic failure)、慢性肝炎に分類される肝臓の炎症性疾患であり、種々の原因によって発症する。肝炎を原因によって分類すれば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎等のウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、薬剤性肝炎、自己免疫性肝炎等に分類される。
【背景技術】
【0002】
肝炎の症状は発熱、黄疸、全身倦怠感などが主症状であり、C型肝炎等においては慢性肝炎を経て肝硬変や肝臓癌になるケースが多い。
【0003】
肝炎の治療薬としては、食事療法、インターフェロン投与、肝保護薬、ステロイド剤等が挙げられる。また、最近、茶カテキンの活性酸素種消去活性、抗酸化作用に着目して、種々の報告がされている。例えば、茶カテキンの肝臓癌に対する作用として、鉄代謝の改善による慢性C型肝炎の改善効果(非特許文献1)、アテローム性動脈硬化症感受性マウス肝臓の抗脂質酸化作用の亢進(非特許文献2)、慢性肝炎・肝硬変における肝炎活動の抑制(非特許文献3)、アルコール性脂肪性肝炎による肝障害の抑制(非特許文献4)、ヒト肝ガン細胞に対する増殖抑制効果(非特許文献5)などが報告されている。また、カテキン類による肝臓への脂肪蓄積抑制(特許文献1)、過剰鉄起因肝臓障害の予防・治療(特許文献2)、顕著な肝機能の低下抑制・改善(特許文献3)などが知られている。
【非特許文献1】肝臓,Vol.47(Supplement2),A412(2006)
【非特許文献2】J.Oleo.Sci.,Vol.54(12),641−648(2005)
【非特許文献3】臨床と研究,Vol.81(9),1549−1552(2004)
【非特許文献4】Annual Review 消化器,Vol.2004,332−336(2004)
【非特許文献5】生活科学研究誌,Vol.12,39−47(2003)
【特許文献1】特開2005−179277号公報
【特許文献2】特開2003−212780号公報
【特許文献3】特開2003−26584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の茶カテキンの肝炎に対する予防治療作用は十分でなく、より強い肝炎予防治療作用を有する植物由来の成分が望まれていた。
従って本発明は、安全性が高い植物成分由来であって、より薬理作用の優れた肝炎予防治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、後発酵茶に着目して種々検討し、ある特定量の水分を茶に含浸させ、糸状菌を接種して生育させたところ、SOD活性が著しく高い後発酵茶が得られた。そして、当該SOD活性の高い後発酵茶を用いて肝炎モデルにおける肝炎予防治療効果を検討したところ、この後発酵茶を投与すれば強力な肝炎予防治療効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する肝炎予防治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の後発酵茶又はその抽出物の肝炎予防治療効果は強力であり、特に非アルコール性脂肪性肝炎に有効である。また、本発明で用いる後発酵茶又はその抽出物は安全性が高く、長期間飲用又は服用が可能であることから、特に慢性肝炎への移行の防止又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いる後発酵茶の原料としての茶は、Camellia sinensis種であれば、特に品種等には限定されない。また、収穫直後の生茶葉、殺青後の茶葉、粗揉後の茶葉、揉捻後の茶葉、中揉後の茶葉、精揉後の茶葉、荒茶等の緑茶であっても、茶茎、茶花及びこれらの粉末品等の加工品等であっても、さらに半発酵茶、完全発酵茶も使用可能であり、原料となる茶は後発酵茶の用途により、適宜選択可能である。このうち、不発酵茶を用いることが、高いSOD活性を有する後発酵茶を得る点から好ましい。
【0009】
これらの茶の発酵に用いられる微生物は、高いSOD活性を有する後発酵茶を得る点から糸状菌であるのが好ましい。糸状菌としては、醸造食品や発酵食品等の食品に使用可能な糸状菌の中から選抜することが可能である。例えば、Aspergillus属、Eurotium属、Rhizopus属等を使用することができ、より好ましくはAspergillus oryzae、Aspergillus niger、Eurotium cristatum、Rhizopus oligosporus等が挙げられ、さらには該糸状菌から誘導される変異株であっても使用することができる。これらを単独で若しくはそれらを組合せて使用してもよい。これらの菌株は、IFO、IAM、ATCC、NRRC等の菌株分譲機関、日本醸造協会や市販の種菌株販売会社等から入手可能である。
【0010】
本発明に用いる後発酵茶の製法においては、Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上、好ましくは150重量部以上、より好ましくは200重量部以上、最適には300〜400重量部の水を加える。ここでの水分量の調整は原料となる茶に、水を加え、馴染ませ、糸状菌が生育できる条件にすることを意味する。例えば、荒茶を使用した場合、該荒茶はすでに約3〜5重量%の水分を既に含んでおり、加える水分量は、茶が含んでいる水分を考慮して調整する必要がある。また、生茶葉のように水分を70〜80重量%含んでいるものについては、加水しなくても良い。上記の水分含量は、培養・発酵に用いる糸状菌が繁殖又は発酵可能な量であり、かつ本発明の高いSOD活性を有する後発酵茶を得るために重要である。該糸状菌を優先的に繁殖させることで、雑菌汚染をより防止することができる。該水分調整後に、殺菌工程を加えることが好ましい。該殺菌条件は、例えば、80〜100℃で30〜60分間、あるいは100〜121℃で15〜30分間等の条件で加熱殺菌を行うことが挙げられる。該殺菌後は、冷却し、該茶を殺菌済み培養・発酵槽に移し、下記の植菌工程を行う。なお、該殺菌工程は、茶の水分量が変化しないように密閉系で行うのが好ましい。
【0011】
水分含量を調整した茶に、糸状菌を接種し、一般に20〜40℃で3〜30日間、好ましくは25〜37℃で3〜7日間培養・発酵する。ここで培養・発酵方法は、通常用いられる方法であれば、液体培養・発酵法、固体培養・発酵法等いずれの方法でも良い。次いで、殺菌工程を加えることが好ましい。該殺菌条件は、例えば、80〜100℃で30〜60分間、あるいは100〜121℃で15〜30分間等の条件で加熱殺菌を行うこと、又は、80〜120℃で加熱乾燥し該糸状菌を殺菌するとともに、水分含量を10重量%以下、好ましくは5重量%以下にする。これにより、本発明のSOD活性の高い後発酵茶が製造される。
【0012】
本発明の後発酵茶は、そのままの形態でも利用可能であるが、加熱、乾熱、マイクロ波等で殺菌を行い、さらに粉砕後、粉末、ペーストの形で、あるいは溶媒を用いて抽出し、後発酵茶抽出物として利用できる。さらに、当該後発酵茶抽出物を、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、エアードライヤー等を用いて乾燥し、粉末化を行うことで、後発酵茶抽出物末とすることができる。また、必要に応じて造粒機等を用いて顆粒品とすることができる。
【0013】
上記抽出の際に用いる溶媒としては、水又は炭素数1〜6のアルコール類を単独で若しくはこれら溶媒の2つ以上の組合せが使用でき、例えば水、エタノール、含水エタノール等が挙げられる。好ましくは水単独、若しくは含水エタノールより好ましくは水とエタノールの0〜95:100〜5の混合物(v/v)が使用できる。
抽出条件としては、約20〜70℃で0.1〜5時間抽出し、ろ過を行い、さらに得られたろ液を80〜95℃で30分間の条件で加熱処理を行い、冷却することが好ましい。
上記抽出物は、適宜、不活性な不純物を除去するため、例えば液々分液、固液分液、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂等の公知の分離・精製方法によって、さらに精製してもよい。具体的には、抽出物末を上記抽出溶媒を用いて再度抽出することが挙げられる。
【0014】
上記の製造方法により得られた後発酵茶又はその抽出物は、抗酸化活性の一つの指標であるSOD活性を、後発酵茶固形分1g当り2,000units以上、好ましくは8,000units以上、より好ましくは9,000units以上、さらに好ましくは9,000〜500,000units有する。例えば、原料としての茶に緑茶を、Aspergillus oryzaeを用いて本発明の製造方法にて製造した後発酵茶は、SOD活性を、後発酵茶固形分1g当り9,000units以上を有している。
【0015】
優れたSOD活性を有する上記の後発酵茶又はその抽出物は、後記実施例に示すように、肝炎モデルの一つである非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Nonalcoholic Steatohepatitis)モデルに対して優れた予防治療効果を有する。具体的には、肝炎の指標であるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST:Aspartate Amino Transferase)値、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT:Alanine Amino Transferase)値及びヒアルロン酸値を顕著に回復させた。また、肝臓ミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)産生量を低下させた。さらに肝臓の病理学的組織も改善する効果を有する。従って、前記後発酵茶又はその抽出物は、種々の前記肝炎、例えば急性肝炎、慢性肝炎、各種ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎等の予防治療剤として有用である。
【0016】
本発明の肝炎予防治療剤は、医薬として、また特定保健用食品、機能性食品等として使用することができる。これらの医薬の投与形態としては、経口、注射、外用等が挙げられるが、経口投与形態が好ましい。経口用医薬及び食品の形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液剤、ゲル、気泡等の他、各種食品中に配合することもできる。これらの組成物の調製にあたっては、賦形剤、結合剤、滑沢剤等を適宜配合することができる。これらの医薬及び食品への前記後発酵茶又はその抽出物の配合量は、固形分(乾燥重量)換算で0.0001〜20重量%、0.01〜10重量%が好ましく、特に0.01〜5重量%が好ましい。
【0017】
本発明の肝炎予防治療剤の投与量は、特に制限されないが、成人1日あたり後発酵茶又はその抽出物の固形分(乾燥重量)として、10〜5,000mg、さらに50〜1,000mg、特に100〜500mgが好ましく、これらの量は1回又は数回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0019】
[参考例1]
緑茶(荒茶)500gを100重量部としてそれぞれ0重量部、50重量部、70重量部、80重量部、100重量部、200重量部、300重量部、350重量部、400重量部、500重量部、700重量部の水を加え、混合後、密閉系で、80℃で60分間加熱殺菌を行った。30℃まで冷却後、該緑茶葉を、予め殺菌済みの培養・発酵槽に移し、厚み5cmになるように堆積し、Aspergillus oryzae IFO5238を植菌した。植菌後、30℃で7日間培養した後、乾燥させ、後発酵茶を得た。該後発酵茶に5,000mLの50%(体積/体積)エタノールを添加し、撹拌抽出を行った。ろ過により固液分離を行い得られた、ろ液を固形分30%(重量/体積)まで濃縮し、80℃で30分間加熱処理を行い冷却して、後発酵茶抽出物を得た。該後発酵茶抽出物に関して、SOD Assay Kit−WST(同仁化学社製)を用いてSOD活性を測定し、後発酵茶固形分当たりに換算した。結果を表1に示す。
【0020】
SOD活性の測定は以下の通り行った。まず、試料となる後発酵茶抽出物を蒸留水で希釈し、0.075mg/mL、0.0375mg/mL、0.0075mg/mL、及び0.00375mg/mLになるようにサンプル溶液を調製した。このサンプル溶液を96well プレートの各wellに20μLずつ分注した。次に、SOD Assay Kit−WSTに同封されているTechnical Informationに従い調製したWST working solutionを200μLずつ加えよく混合した。さらに、SOD Assay Kit−WSTに付属のTechnical Informationに従い調整したEnzyme working solutionを20μLずつマルチチャンネルピペットにて加え、プレートリーダー中で37℃、20分間インキュベートし、450nmの波長で吸光度を測定した。尚、各々にはEnzyme working solutionの代わりに付属のDilution bufferを用いたブランクを設けた。さらに、サンプル溶液の代わりに蒸留水を用いたコントロール及びそのブランクを設けた。測定した吸光度から、「スーパーオキシド」と「WST−1」から「WST−1 formazan」が生成される反応の阻害率を求め、さらにサンプルのIC50値(単位:g/mL)を算出した。
また、サンプル溶液の代わりにSOD標準品を用い、SOD濃度と阻害率の関数にて検量線を作成した。作成した検量線から、SODのIC50値(単位:units/mL)を算出した。
上記の「サンプルのIC50値」及び「SODのIC50値」からサンプルのSOD活性を算出した。計算式は以下の通りである。
(サンプルのSOD活性 単位:units/g)=(SODのIC50値)÷(サンプルのIC50値)
【0021】
【表1】
【0022】
表1より、水添加量200〜500重量部の範囲で高いSOD活性を、300〜400重量部でより高いSOD活性を示すことがわかる。
【0023】
また、得られた後発酵茶抽出物を皮膚に塗布したところほとんど刺激性がなかった。また、味も渋味が低く良好であった。
【0024】
また、同様の方法で、従来から飲用されている後発酵茶のSOD活性を測定した結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
表2より、本発明の後発酵茶が、従来の後発酵茶に比べて高いSOD活性を有することがわかる。
【0027】
[参考例2]
緑茶(荒茶)500gに、1,750mLの水を加え混合後、密閉系で、80℃で60分間加熱殺菌を行った。30℃まで冷却後、該緑茶を、予め殺菌済みの培養・発酵槽に移し、厚み4cmになるように堆積し、Aspergillus oryzae IFO5238を植菌した。植菌後、30℃で7日間培養・発酵させた。培養・発酵完了後、送風乾燥機にて乾燥させ、本発明の後発酵茶486gを得た。次いで、該後発酵茶に、5,000mLの水を添加し、50℃で1時間、撹拌抽出を行った。ろ過により固液分離を行い得られた、ろ液を固形分30%まで濃縮し、80℃で30分間加熱処理を行い冷却して、後発酵茶水抽出物を得た。得られた後発酵茶水抽出物をフリーズドライヤーにて乾燥することで、後発酵茶水抽出物末を得た(108g)。得られた後発酵茶水抽出物末に関して、SOD Assay Kit−WSTを用いSOD活性を測定した結果、後発酵茶固形分1g当たり、20,062units(後発酵茶水抽出物末1g当たり80,238units)であった。得られた抽出物末は、渋味もなく、苦味もなく、皮膚刺激性もなく、良好であった。
【0028】
[実施例1]
実験的に調整された脂肪肝担持ラットに対し、酸化ストレス(OS:Oxgen Stress)を負荷し、生体内低酸素状態を形成させることにより、NASHの生化学的・病理組織学的特徴を有するNASH病態モデルラットを作出できるが、脂肪肝担持ラットに対し酸化ストレスを負荷すると同時に、後発酵茶水抽出物を投与した後、該ラットの血液の生化学検査、肝臓ミトコンドリアのROS量のESR(Electron Spin Resonance)法による定量及び肝臓組織の病理組織学観察を行うことにより、脂肪肝からNASHへの病態の進行に対する、後発酵茶水抽出物の予防効果を評価した。
【0029】
(1)実施方法
実験動物として、6週齢Wistar系雄性ラット(180−200g/匹)を用いた。動物はポリプロピレン不透明ケージ(W220×L320×H135、夏目製作所社製)内で2〜3匹ずつ飼育した。飼育室は、湿度40〜50%、室温20〜25℃に維持し、12時間の明暗サイクル(点灯;AM8:00、消灯;PM8:00)に設定した。
【0030】
脂肪肝作成のため、4週間、自由摂取にてコリン欠乏食(CDHF:Choline Deficient High−Fat Food、オリエンタル酵母社製)を与えた。その後も、病態維持のため実験終了までCDHFを与えた。
OSを負荷し生体内低酸素状態を形成させ、NASH病態を作出するため、上記脂肪肝担持ラットに対し、生理食塩水に溶解させた亜硝酸ナトリウムを30mg/kg(体重)/日、6週間にわたり腹腔内投与した。投与期間中は2週間ごとに尾静脈から採血し、病態の確認を行い、病態の進行状況に問題がないことを確認した。
【0031】
NASHに対する後発酵茶水抽出物の有効性評価のため、上記亜硝酸ナトリウム投与群に対し、同時に後発酵茶水抽出物(参考例2で得たもの)を10mg/kg(体重)/日、又は、200mg/kg(体重)/日、6週間にわたりゾンデにて強制経口投与した。投与期間終了後、犠牲死させ、該ラットの血液の生化学検査及び肝臓ミトコンドリアにおけるROSの定量を行い、肝臓組織の病理組織学的変化を観察した。
【0032】
なお、本実験は、(i)群(CDHF+OS)、(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)、(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)に群分けし、各群6匹(n=6)とした。
【0033】
血漿中AST、ALT値はトランスアミナーゼCII−テストワコー(和光純薬工業株式会社)にて測定した。血漿中ヒアルロン酸値はヒアルロン酸測定キット(生化学工業株式会社)にて測定した。
【0034】
肝臓ミトコンドリア由来ROS量測定は以下の手順で行った。すなわち、肝臓試料は、下大静脈より1.15%塩化カリウム溶液(5mMベンズアミジン含む)にて灌流後、採取した。肝臓組織1gに対し3mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.4、0.25Mシュークロース、0.1M塩化カリウム含む)を加え、ホモジナイズした後、3,000×g(10分間、4℃)で遠心分離し、上清を得た。次いで、この上清を9,000×g(20分間、4℃)で遠心分離し、沈殿物を1mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.4、0.25Mシュークロース、0.1M塩化カリウム含む)にて2回遠心洗浄し、ミトコンドリア画分を得た。該画分14.28mgに対し、1mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.4、0.25Mシュークロース、0.1M塩化カリウム含む)を加え、溶解し、試料溶液とした。この時の濃度はミトコンドリアのタンパク量に換算すると、500μg/mLに相当する。
【0035】
上記試料溶液35μl、0.1%dodecyl maltoside、5mM glutamate、5mM malate及び200mM succinateを含む溶液25μl、4.6M 5,5−dimethyl−1−pyrroline−1−oxide(DMPO)溶液20μl及び2mM NADH溶液20μlの合計100μlを、37℃で5分間インキュベーションした後、直ちにESR測定装置(JES−REIX/HR、日本電子株式会社製)にて、本溶液のROS量を常温で測定した。測定に当たり、あらかじめcavity内に挿入されたMnOのMn2+をラジカルの計算基準とした。ラジカル発生量はMn2+のmaximum meter deflection(hr)に対するミトコンドリア試料(hs)のそれとの比、即ち、ESR intensity(hs/hr)で算定した。
【0036】
統計学的処理として、全ての結果は平均値±標準誤差で示した。得られたデータは一元配置分散分析(analysis of variance、ANOVA)後、Turkeyの多重比較検定法を用いて統計学的処理を行った。2群間の比較にはStudents t−testを用い、危険率5%以下を優位差有りと判定した。
【0037】
(2)実験結果
投与期間終了後、犠牲死させ、該ラットの血液の生化学的検査、肝臓ミトコンドリアにおけるROS量、肝臓組織の病理組織学的変化を観察した結果を以下に示す。
【0038】
(2)−1 生化学検査
(i)群(CDHF+OS)
1)血漿中AST値(units/mL)は25±2 IU/Lから220±38 IU/Lに上昇。
2)血漿中ALT値(units/mL)は21±2 IU/Lから47±2 IU/Lに上昇。
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/mL)は95±12mg/mLから205±27mg/mLに上昇。
本結果から、酸化ストレスによって脂肪肝からNASHへ進行している事が明らかに認められた。
【0039】
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
1)血漿中AST値(units/mL)は21±2 IU/Lから157±2 IU/Lに上昇。
2)血漿中ALT値(units/mL)は22±2 IU/Lから35±2 IU/Lに上昇。
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/mL)は119±14mg/mLから184±15mg/mLに上昇。
本結果から、酸化ストレスによって誘導される脂肪肝からのNASHへの進行が、後発酵茶水抽出物粉末10mg/kg(体重)投与により改善される傾向が認められた。
【0040】
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
1)血漿中AST値(units/mL)は21±3 IU/Lから88±9 IU/Lに上昇。
2)血漿中ALT値(units/mL)は22±2 IU/Lから28±2 IU/Lに上昇(正常値に回復)。
3)血漿中ヒアルロン酸値(mg/mL)は119±15mg/mLから102±11mg/mLに低下(正常値に回復)。
本結果から、酸化ストレスによって誘導される脂肪肝からのNASHへの進行が、後発酵茶水抽出物粉末200mg/kg(体重)投与により大幅に改善される傾向が認められた。
【0041】
(2)−2 肝臓ミトコンドリア由来ROS産生値(シグナル相対強度)
OS負荷前のシグナル相対強度0.7±0.1に対し、
(i)群(CDHF+OS):1.0±0.1
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg):0.8±0.1
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg):0.5±0.1
であった。
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓ミトコンドリア由来ROS産生量が、後発酵茶水抽出物粉末投与により濃度依存的に低下する傾向が認められた。
【0042】
(2)−3 ヘマトキシリン・エオジン染色による肝臓組織の観察
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行い、大滴脂肪の沈着状態を観察し、下記結果を得た。
(i)群(CDHF+OS)
多くの大滴性の脂肪滴及び大きな肝細胞配列の乱れ有り。
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
中程度の大滴性の脂肪滴及び中程度の肝細胞配列の乱れ有り。
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
小程度大滴性の脂肪滴及び小程度の肝細胞配列の乱れ有り。
本結果から、NASHの進行に伴って増大する肝臓組織における大滴性の脂肪滴増大及び肝細胞配列の乱れ増大が、後発酵茶水抽出物投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0043】
(2)−4 マッソン・トリクローム染色による肝臓組織の観察
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきマッソン・トリクローム染色を行い、膠原線維の線維化状態を観察し、下記結果を得た。
(i)群(CDHF+OS)
門脈域から中心静脈域の架橋形成が生じ偽小葉形成が認められた。
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
軽度の門脈域から中心静脈域の架橋形成が認められた。
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
門脈域と中心静脈周囲に繊維化が認められるが、架橋形成は認められない。
本結果から、脂肪肝よりNASHへの進行に伴って増大する肝臓組織における架橋形成及び繊維化増大が後発酵茶水抽出物投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0044】
(2)−5 ベルリン・ブルー染色による肝臓組織の観察
肝臓組織の病理組織学的変化を確認するため、公知の手法に基づきベルリン・ブルー染色を行い、鉄イオン沈着状態を観察し、下記結果を得た。
(i)群(CDHF+OS)
門脈域から中心静脈域に大きな鉄の沈着が認められた。
(ii)群(CDHF+OS+茶10mg/kg)
門脈域から中心静脈域に軽度の鉄の沈着が認められた。
(iii)群(CDHF+OS+茶200mg/kg)
鉄の沈着は殆んど認められなかった。
本結果から、脂肪肝よりNASHへの進行に伴って増大する肝臓組織における鉄の沈着増大が、後発酵茶水抽出物投与により濃度依存的に抑制される傾向が認められた。
【0045】
[製剤例1]
次の処方により、顆粒を製造した。
後発酵茶エキス末(参考例2) 350(質量部)
乳糖 470
結晶セルロース 150
ヒドロキシプロピルセルロース 30
【0046】
[製剤例2]
次の処方により、湿式造粒し、打錠して錠剤を得た。
後発酵茶エキス末(参考例2) 350(質量部)
乳糖 470
結晶セルロース 140
ヒドロキシプロピルセルロース 30
ステアリン酸マグネシウム 1
タルク 9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する肝炎予防治療剤。
【請求項2】
肝炎が、急性肝炎又は慢性肝炎である請求項1記載の肝炎予防治療剤。
【請求項3】
肝炎が、慢性肝炎である請求項1記載の肝炎予防治療剤。
【請求項4】
肝炎が、非アルコール性脂肪性肝炎である請求項1記載の肝炎予防治療剤。
【請求項1】
Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する肝炎予防治療剤。
【請求項2】
肝炎が、急性肝炎又は慢性肝炎である請求項1記載の肝炎予防治療剤。
【請求項3】
肝炎が、慢性肝炎である請求項1記載の肝炎予防治療剤。
【請求項4】
肝炎が、非アルコール性脂肪性肝炎である請求項1記載の肝炎予防治療剤。
【公開番号】特開2009−29735(P2009−29735A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194115(P2007−194115)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月28日 The Japanese Pharmacological Society発行の「Journal of Pharmacological Sciences Vol.103,No.Supplement I,2007.」において発表、及び平成19年3月15日 名古屋国際会議場にて社団法人 日本薬理学会主催の「第80回日本薬理学会年会」において発表
【出願人】(000210067)池田食研株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月28日 The Japanese Pharmacological Society発行の「Journal of Pharmacological Sciences Vol.103,No.Supplement I,2007.」において発表、及び平成19年3月15日 名古屋国際会議場にて社団法人 日本薬理学会主催の「第80回日本薬理学会年会」において発表
【出願人】(000210067)池田食研株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
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