説明

肝癌予防及び治療用組成物

本発明は、肝癌予防及び治療用組成物を提供するものであり、本発明は、エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を有効成分として含むことを特徴とする肝癌予防及び治療用組成物、エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物及び薬学的に許容される担体成分から成ることを特徴とする肝癌予防及び治療用薬剤、及びエンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を機能性成分として食品素材に配合したことを特徴とする機能性食品素材、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規肝癌予防及び治療用組成物に関するものであり、更に詳しくは、エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体を有効成分として含む肝癌予防及び治療用薬剤及びこれらの成分を機能性成分として含む機能性食品に関するものである。本発明は、肝癌の予防及び治療用の医薬品及びそれに関連する機能性食品の技術分野において、植物の根、葉、茎、種子、果実等に広く存在するリグナンの哺乳動物体内における主な代謝産物であるエンテロラクトン(ENL)の高い肝癌の増殖抑制作用を利用した新規肝癌予防及び治療用薬剤、制癌剤、及び新規機能性食品等を提供するものとして有用である。
【背景技術】
【0002】
リグナンは、フェニルプロパノイド単位からなるフェノール化合物であり、これらは少量ながらも、植物の根、葉、茎、種子、果実といったあらゆる部分に分布している。リグナンはエストロゲンと同様に腸肝循環し、尿中にグルクロニド抱合体又は硫酸塩抱合体として放出される(非特許文献1)。このリグナンを多く含む亜麻又は亜麻子のリグナンである〔secoisolariciresinol diglycoside(SDG)〕は、dimethylbennz〔a〕anthracene(DMBA)に起因するラット乳がん細胞の悪性化を阻止する報告があり(非特許文献2、3、4、5)、また、リグナンを含むライ麦の摂取が、前立腺がんを早期に予防するという報告もある(非特許文献6、7)。しかし、リグナンの肝癌に対する作用についてはこれまで研究報告例はない。
【0003】
【非特許文献1】Axelson M, Setchell KD, The excretion of lignans in rats -- evidence for an intestinal bacterial source for this new group of compounds. FEBS Lett. 1981 Jan 26;123(2):337-42.
【非特許文献2】Serraino M, Thompson LU. The effect of flaxseedsupplementation on early risk markers for mammary carcinogenesis. Cancer Lett. 1991 Nov;60(2):135-42.
【非特許文献3】Serraino M, Thompson LU. The effect of flaxseed supplementation on the initiation and promotional stages of mammary tumorigenesis. Nutr Cancer. 1992;17(2):153-9.
【非特許文献4】Thompson LU, Seidl MM, Rickard SE, Orcheson LJ, Fong HH. Antitumorigenic effect of a mammalian lignan precursor from flaxseed. Nutr Cancer. 1996;26(2):159-65.
【非特許文献5】Thompson LU, Rickard SE, Orcheson LJ, Seidl MM. Flaxseed and its lignan and oil components reduce mammary tumor growth at a late stage of carcinogenesis. Carcinogenesis. 1996 Jun;17(6):1373-6.
【非特許文献6】Landstrom M, Zhang JX, Hallmans G, Aman P, Bergh A, Damber JE, Mazur W, Wahala K, Adlercreutz H. Inhibitory effects of soy and rye diets on the development of Dunning R3327 prostate adenocarcinoma in rats. Prostate. 1998 Aug 1;36(3):151-61.
【非特許文献7】Zhang JX, Hallmans G, Landstrom M, Bergh A, Damber JE, Aman P, Adlercreutz H. Soy and rye diets inhibit the development of Dunning R3327 prostatic adenocarcinoma in rats. Cancer Lett. 1997 Mar 19;114(1-2):313-4.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、リグナン及びその代謝産物の各種化合物の肝癌に対する作用について種々研究を重ねた結果、松の木由来のリグナンであるハイドロキシマタイレシノール(HMR)の哺乳動物体内における主な代謝産物であるエンテロラクトン(ENL)が高い肝癌増殖抑制作用を有することを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。本発明は、新規肝癌予防及び治療用組成物、肝癌予防及び治療用薬剤、及び機能性食品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を有効成分として含むことを特徴とする肝癌予防及び治療用組成物。
(2)エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物及び薬学的に許容される担体成分から成ることを特徴とする肝癌予防及び治療用薬剤。
(3)エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を機能性成分として食品素材に配合したことを特徴とする機能性食品素材。
(4)エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を機能性成分として含むことを特徴とする機能性食品。
(5)前記食品が、栄養補助食品、栄養剤、治療用食品、栄養補助食品、又は健康食品であることを特徴とする前記(4)に記載の機能性食品。
【0006】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体を有効成分として含むことを特徴とする肝癌予防及び治療用組成物、特に、肝癌予防及び治療用薬剤、及び機能性食品、に係るものである。本発明で有効成分として使用されるエンテロラクトン(enterolactone,ENL)は、ママリアンリグナン(mammalian lignans)の一種として知られている植物リグナン代謝産物であり、例えば、松の木由来の植物リグナンであるハイドロキシマタイレシノール(hydroxymatairesinol,HMR)の主な代謝産物として知られている。本発明では、好適には、このエンテロラクトンが使用されるが、これに制限されるものではなく、その植物リグナン前駆体を使用することが可能である。
【0007】
本発明では、上記植物リグナン前駆体として、エンテロジオール(enterodiol,END)、マタイレシノール(matairesinol,MR)、セコイソラリシレシノール(secoisolariciresinol,SECO)、セコイソラリシレシノールジグリコシド(secoisolarisiresinol diglycoside,SDG)、シリンガレシノール(syringaresinol)、アークチゲニン(arctigenin)、ラリシレシノール(lariciresinol)、ピノレシノール(pinoresinol)、セサミン(sesamin)が用いられる。これらの植物リグナン前駆体は、腸内細菌により、所定の代謝経路を経てその代謝産物である、エンテロラクトンに変換され、エンテロラクトンの有する肝癌増殖抑制作用を発揮する。
【0008】
植物リグナン前駆体は、生体内で腸内細菌によって、その代謝産物のエンテロラクトンへと変換される。例えば、代謝の過程で、SDGは、糖がとれてSECOとなり、このSECOはENDを経てENLへと変換される。MRは直接ENLへ変換される。従来、松の木由来のリグナンとして知られているハイドロキシマタイレシノールをヒトに投与することにもとづく、ヒトの血清中のエンテロラクトン又はハイドロキシマタイレシノールのほかの代謝産物の濃度を増加させる方法によって、ヒトの癌、ある種の非癌性ホルモン依存性疾患及び/又は心疾患の予防をもたらす方法等が報告されている(特表2002−541158号公報)。
【0009】
しかし、そこで、実際に検討されているのは、例えば、癌については、乳癌、前立腺癌及び結腸癌についてのみであり、肝癌については何も検討されていない。すなわち、従来、ハイドロキシマタイレシノールをヒトに投与することにもとづく、ヒトの血清中のエンテロラクトン又はハイドロキシマタイレシノールのほかの代謝産物の濃度を増加する方法が肝癌増殖抑制作用を有するかどうかは未知であった。
【0010】
本発明で使用される上記エンテロラクトン(ENL)及びその植物リグナン前駆体は、いずれも公知の化合物であり、例えば、エンテロラクトン(ENL)については、市販品を使用することが可能であり、また、公知の方法で合成することができる。本発明は、有効成分のエンテロラクトン(ENL)を直接ヒトに投与する方法の他、有効成分として、その植物リグナン前駆体を直接ヒトに投与する方法を包含しており、本発明では、これらの方法に適合した医薬組成物がその発明の範囲に含まれる。本発明の組成物としては、例えば、有効量の上記有効成分を濃縮した液体又は固体材料からなる組成物が例示される。本発明の医薬組成物では、これらの有効成分の他に、例えば、薬学的に許容される担体等の任意の成分を配合して製剤化することができ、その方法及び薬剤の形態等は特に制限されない。また、本発明では、上記有効成分を機能性成分として所定量添加して、例えば、食品添加物、栄養補助食品、栄養剤、治療用食品、栄養補給食品、健康食品等の任意の種類及び形態の機能性食品素材、機能性食品を製造することができる。
【0011】
本発明では、例えば、医薬組成物に配合する有効量のエンテロラクトン(ENL)として1〜10mg/kg体重が例示されるが、これらに制限されるものではない。また、機能性食品に配合する上記有効成分の配合量等は目的とする食品の種類等に応じて任意に設計することができる。更に、天然由来の体内代謝産物であるエンテロラクトン(ENL)、またその前駆体である植物リグナンの生体に対する安全性等は、これまで多くの論文で確認されている。
【0012】
従来、ヒトの血清中のエンテロラクトン又はハイドロキシマタイレシノールのほかの代謝産物の濃度を増加させる方法によって、ヒトの癌、非癌性ホルモン依存性疾患及び/又は心疾患の予防方法等が報告されているが、実際に、検討されているのは、癌については、乳癌、前立腺癌及び結腸癌の特定の癌についてのみであり、それ以外の癌への有効性については全く未知であった。本発明では、実際に、従来、未検討であったエンテロラクトン等の肝癌への影響について試験を行なった結果、その有効性が実証されたものであり、エンテロラクトン等の肝癌に対する有効性は、本発明者らの実施した格別の実験によってはじめて実証されたものである。当該技術分野においては、ある成分が、例えば、乳癌、前立腺癌、結腸癌へ有効であるとしても、該成分が同様に、肝癌にも有効であるとは限らず、それらを解明するには、格別の実験が必要とされるのが実情であり、エンテロラクトン等の肝癌への有効性が実証されていない状況では、エンテロラクトン等の肝癌増殖抑制作用を予期することは困難である。本発明は、従来のヒトの一部の癌の予防方法の選択発明を構成するものであることが明らかである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、(1)肝癌の増殖抑制作用を有する新規肝癌予防及び治療用組成物、肝癌予防及び治療用医薬組成物、及び機能性食品を提供することができる、(2)植物リグナン由来の代謝産物であるエンテロラクトンを有効成分とする新しい制癌剤等を提供することができる、(3)この化合物は、低用量で高い肝癌増殖抑制作用を有する、(4)この化合物は、肝癌性脂質代謝異常も改善できる、という効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
本実施例では、肝癌細胞の増殖と浸潤に対するENLの作用を解析(In vitro/Ex vivo)するために、ENLを用いて、AH109A細胞に対する抗腫瘍作用の検討を行った。
1.材料及び方法
(1)材料
本実施例で使用したENLの化学構造式を化1に示した。
【0016】
【化1】

【0017】
(2)肝癌細胞の培養
ラット腹水肝癌AH109A細胞(東北大学加齢医学研究所(仙台))は、Donryu系雄ラット(NRC榛名、群馬)の腹腔内に継続的に移植し続けることで維持した。ラットの腹水が充分に蓄積した時点で腹水からAH109A細胞を精製した。精製は、腹水を1000rpm(190×g)、4℃で10分間遠心分離した後、上清を除去し、溶血緩衝液〔0.16M NHCl:0.17M Tris(hydroxymethyl)aminomethan=9:1、pH7.2(すべて Wako Pure Chemical Industries, Osaka Japanから購入)〕を同量加え、ピペッティングして懸濁した後、氷中に約20分間放置して赤血球を破壊することにより行った。
【0018】
更に、1000rpm(190×g)、4℃で10分間遠心分離後の上清を除去して血球を取り除く作業を2回行い、リン酸緩衝液〔Phosphate buffered saline(−)(PBS(−))NaCl 8g、KCl 0.2g、KH2 PO4 0.2g、Na2 HPO4 ・12H2 O 2.9g(すべて Wako Pure Chemical Industries,Osaka Japanから購入)をMQ水1Lに溶解し、pH7.4に調整したもの〕にて2回洗浄した。精製されたAH109A細胞は、10%牛血清(CS,JRH BIOSCIENCES,Lenexa,KS,USA)を含むEagle MEM培地(NISSUI PHARMACEUTICAL CO,LTD.,Tokyo,Japan)で、細胞培養用6cm dish(NUNC、Roskilde,Denmark)に1×106 個となるように播種し、培養した。CSは使用前に56℃で30分間、水浴中にて非働化を行ったものを用いた。
【0019】
(3)肝癌細胞の増殖能測定
AH109A細胞の増殖能は、DNAへ取り込まれた〔3 H〕thymidine (20 Ci/mmol,New England Nuclear,Boston,USA)の放射能を測定することにより(Yagasaki K., Tanabe T., Ishihara K., and Funabiki R., (1992) Modulation of the proliferation of cultured hepatoma cells by urea cycle-related amino acids. In: Murakami, H., Shirahata S., and Tachibanana H., (ed.) Animal Cell Technology: Basic and Applied Aspects. Vol. 4 (pp. 257-263). Kluwer Academic Publisher, Dordrecht/Boston London)評価した。
【0020】
すなわち、組織培養用48穴プレート(Nunc)にAH109A細胞を1穴あたり2.5×104 個となるように播種し、各実験培地を加え最終的に1穴あたり400μlとして20時間培養した後、各穴に0.15μCi/wellとなるように〔3 H〕thymidineを添加し、CO2 インキュベーター内でさらに4時間培養した。その後、1M ascorbic acid(Wako Pure Chemical Industries)を50μl/穴添加し、各穴の培地をそれぞれマルエムチューブ(Maruemu Corporation Co.,Ltd.)に回収し、48穴プレートをPBS(−)で2回洗浄し、その洗浄液もマルエムチューブに回収した。1500rpm(400×g)4℃で5分間遠心分離し、上清を吸引除去した。
【0021】
プレートについては400μlの10%TCAで2回洗浄し、その洗浄液についてはマルエムチューブに回収して再度3000rpm(1500×g)、4℃、5分間遠心分離し、上清を除去した。48穴プレート、マルエムチューブに残った細胞は0.2N NaOH/0.1% SDSをそれぞれ150μl、50μlずつ添加し、37℃のインキュベーター内に30分間放置し、細胞を完全に溶解した。細胞溶解液は48穴プレート、マルエムチューブの両者を合わせてミニバイアルへ移し、NTシンチレーター〔トルエン700ml、ノニオン 300ml、DPO 4g〕を5ml添加し、更に150μlの1N HClを添加し、良く振り混ぜて、液体が透明になったことを確認し、液体シンチレーションカウンター(LS6500;Beckman、Fullerton、CA、USA)で放射能を測定した。対照値を100とした時の割合(%)を求め、これを増殖能の指標とした。
【0022】
(4)肝癌細胞の浸潤能測定
浸潤能測定法は、AkedoらによるIn vitro invasion assay法(Akedo H, Shinkai K, Mukai M, Mori Y, Tateishi R, Tanaka K, Yamamoto R, Morishita T. Interaction of rat ascites hepatoma cells with cultured mesothelial cell layers: a model for tumor invasion. Cancer Res. 1986 May;46(5):2416-22 )を一部改変して行った(Miura Y., Shiomi H., Sakai F., and Yagasaki K. 1997 Assay systems for screening food components that have anti-proliferative and anti-invasive activity to rat ascites hepatoma cells: In vitro and ex vivo effects of green tea extract. Cytotechnology 23: 127-132 )。
【0023】
ラットより初代培養した腸間膜由来中皮細胞(M−cell)がコンフルエントな単層を形成するまで7〜10日培養した後、各実験培地3mlに交換し、AH109A細胞を2.4×104 個となるように中皮細胞上に重層し静かに攪拌後、CO2 インキュベーター内で培養した。24時間後にPBS(−)にて洗浄し、0.25% glutalaldehyde/PBS(−)で細胞を固定した。中皮細胞層下に潜り込んだAH109A細胞の細胞数及びコロニー数をdish 1枚につき無作為に選んだ2mm四方区画を10ヶ所数え、これらを1cm2 あたりに換算した数の平均値を浸潤能の指標とした。
【0024】
(5)腸間膜由来中皮細胞(M−cell)の精製
Donryu系雄ラット(4〜10週齢)にネンブタールを5mg/0.1ml/100g body weightとなるように腹腔内注射することで麻酔した後、頚動脈を切断し血液を採取した。その後、ヒビテン液にて消毒した後、クリーンベンチ内で開腹し、腸間膜を一枚ずつ切り取りPBS(−)で洗い、15mlのPBS(−)に回収した。同量の0.5% trypsin/PBS(−)を加え、37℃で20分間攪拌した。その後、10% CS/MEM培地5mlを加え、trypsinの反応を停止させ、駒込ピペットによりよくピペッティングした後、金属製メッシュで濾過した。濾液は1500rpm(440×g)、4℃、10分間遠心分離し、PBS(−)により洗浄を行った。採取した細胞は、グリッド付き(2mm四方)6cm dishに1.5〜2.0×105 個となるように播種した。培地は10% CS/MEMを用いて、採取した翌日とその後1日おきに培地交換を行った。
【0025】
(6)M−cellの増殖能測定
M−cellがサブコンフルエントな状態に達するまで培養した後、PBS(−)にて洗浄し、1mlの0.1% trypsinを添加し細胞を分散させた後、10%CS/MEMでtrypsin反応を停止し、細胞を回収し、48穴プレートに1.25×105 cell/400μl/穴となるように播種し、24時間培養した。充分に細胞が接着していることを確認して、培地を除去し、サンプルを添加し、20時間37℃で培養した。各実験培地を加え、最終的に1穴あたり400μlとし、20時間培養した後、各穴に〔3 H〕thymidine(NEN,Boston,MA,USA)を0.15μCi/穴添加し、CO2 インキュベーター内でさらに4時間培養した。その後は上記(3)に準じて増殖能の測定を行った。
【0026】
(7)肝癌細胞の細胞周期解析
6.25μMと12.5μMのENLがAH109A細胞の細胞周期に与える影響を経時的に解析した。細胞培養用の6穴プレート(NUNC)にAH109A細胞を1穴あたり2.5×105 個となるように播種し、37℃、CO2 インキュベーター内で0、24及び48時間培養した。それぞれの処理条件にて培養を行ったAH109A細胞を、2mlサンプリングチューブ(日本ジェネティックス、東京)へ回収し、1000rpm(190×g)、4℃で5分間遠心分離し、PBS(−)にて2度洗浄を行った。その後、PI溶液[1mg Propidium iodide(SIGMA)/20ml 0.1% Triton X−100、0.1% Sodium citrate(Wako Pure Chemical Industries)]を300μl加え、遮光し氷中にて30分間静置することで染色した。Flow Cytometer(EPICS ELITE ESP;Beckman−Coulter,Hialeah,FL,USA)でCell Cycleの解析を行った。
【0027】
(8)Annexin V/PI二重染色法を用いたFlow cytometryによるAH109A細胞のアポトーシス解析
解析はANNEXIN V FITC kit(IMMUNOTECH、Marseille、France)を用いて行った。細胞培養用の6cm dish(NUNC)に実験培地を3ml添加し、AH109A細胞を1×106 個となるように播種し、37℃、CO2 インキュベーター内で0、3、6時間培養した。それぞれの処理条件にて培養を行ったAH109A細胞を回収し、1000rpm(90×g)、4℃で5分間遠心分離し、PBS(−)にて1度洗浄を行った。その後、binding bufferを490μl加え、更にPI溶液を5μlとannexin V FITCを5μl加え、穏やかに混和した。遮光した氷中にて10分間静置することで染色し、Flow Cytometer(EPICS ELITE ESP;Beckman−Coulter,Hialeah,FL,USA)でアポトーシスの解析を行った。
【0028】
(8)統計処理
統計処理は、One−way Analysis of Varianceの後、Tukey−Kramer multiple comparisons testを行った。
【0029】
2.試験結果
(1)AH109A細胞および正常細胞に対するENLの作用について
ENLは濃度依存的にAH109A細胞に対する浸潤抑制作用を示した。しかし、ENLの濃度が25μM以上では、浸潤能測定系で用いるM−cellに細胞毒性を示し、浸潤能の解析が不可能になってしまう為、12.5μMまでの濃度で解析を行った。更に、ENLは癌細胞であるAH109A細胞の増殖も強く抑制したので、正常細胞としてM−cellを用いて、正常細胞の増殖に対する影響の検討も行い、比較した。その結果、in vitroにおいてENLは濃度依存的にM−cellの増殖を抑制したが、AH109A細胞に対してはそれよりも強い効果を示し、濃度50μMではAH109A細胞の増殖をほぼ完全に抑制することが明らかとなった。そこで、この細胞増殖抑制は、細胞分裂が停止しているのか、細胞がアポトーシス又はネクローシスを起こしているのかという細胞増殖抑制機構を明らかにするため、PI染色による細胞周期の解析とannexin V FITC/PIによるアポトーシス誘導性の観察により、ENLのAH109A細胞に対する増殖抑制機構の検討を行った。
【0030】
(2)細胞周期の解析について
図1に、解析結果を示した。ENL 0時間処理であるグラフのAより、各濃度におけるENL処理はAH109A細胞の細胞周期に影響はなかった。しかし、ENL 24時間処理グラフBより、0μM処理のコントロールに比較して、ENL処理したものはG1期の割合が増加し、S期の割合が減少した。
【0031】
(3)アポトーシスについて
解析結果を図2に示した。濃度6.25μM及び12.5μMのENLによりAH109A細胞にアポトーシス誘導が起こるかどうかを経時的に検討した。0μMのENLで3時間処理を行ったAH109A細胞において、第3象現は90.7%、第4象現は6.2%、第2象現は2.5%であったが、6.25μMのENLで3時間処理を行ったAH109A細胞においては、第3象現は88.1%、第4象現は8.4%、第2象現は2.8%であり、更に、12.5μMのENLで3時間処理を行ったAH109A細胞においては、第3象現は86.1%、第4象現は11.4%、第2象現は2.3%であり、ENL処理をすることで、濃度依存的に生細胞の割合が減少し、アポトーシス初期細胞の割合が増加した。また、6時間処理を行ったAH109A細胞もほぼ同様の結果を示したが、加えて、二次的ネクローシス細胞の割合もやや増加した。
【実施例2】
【0032】
本実施例では、肝癌移植時のがん増殖・転移・高脂血症に対するENLの作用を解析(In vivo)するために、実際にENLを摂取させて、担癌ラットモデルにおける、癌の増殖・転移、癌性悪液質に対する効果を検討した。
1.材料及び方法
(1)動物飼育
Donryu系雄ラット(NRC榛名、群馬)を4週齢で購入後、5連ケージで明期8:00〜20:00、室温22±1℃、相対湿度60±5%の環境制御室内で6日間予備飼育を行った。最初の3日間は固形飼料(CE−2;CLEA Japan,Tokyo)を、次の3日間は20%ミルクカゼインを含む基本飼料(20C)(表1)をガラス容器に入れ、水道水とともに自由摂取させた。予備飼育終了後、各群の体重が等しくなるように3群(11頭/群)に分け、全ラットの背部皮下にPBS(−)に懸濁したAH109A細胞をラット1頭あたり1.0×107 個移植した。それぞれの実験群には移植直後から、表2に示された飼料を摂取させた。
【0033】
実験期間中、毎日の体重と食下量及び固型癌の大きさ(縦、横、高さの長さ)を測定した。屠殺当日は9:00に飼料を抜き取り、その4時間後から屠殺を行った。なお、この間も水は自由摂取させた。頚動脈から放血させて血液サンプルを採取するとともに、肝臓及び固型癌を摘出した。採取した血液は、約2時間室温で放置後、3000rpm(1750×g)、4℃で10分間遠心分離して血清を調製し、−20℃に冷凍保存した。肝臓及び固型癌は氷冷生理食塩水で洗浄後、濾紙で拭き取り、総重量を測定した。更にステロイド排泄量測定のために移植後19−21日目の糞を採取し、−20℃にて冷凍保存した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
(2)固型癌の経時的変化の測定
固型癌の大きさは、縦、横、高さの長さを測定し、その値の総和を用いた。
【0037】
(3)血清脂質レベルの測定
血中のCholesterol(Ch)及びTriglyceride (TG)の濃度を測定した。測定はTotal cholesterol (T−Ch)レベル、リンタングステン酸沈殿法を用いてVery−low−density−lipoprotein+low−density−lipoprotein〔(VLDL+LDL)−Ch〕を沈殿させた上清画分であるhigh−density−lipoprotein (HDL−Ch)レベル、及びTGレベルについて行った。(VLDL+LDL)−Chレベルは、T−ChレベルとHDL−Chレベルの差とした。また、動脈硬化指数として、Atherogenic index〔AI:(VLDL+LDL)−Ch/HDL−Ch〕を算出した。
【0038】
(4)血清過酸化脂質レベルの測定
LPOレベルは過酸化脂質−テストワコー(Wako Pure Chemical Industries)を用いて八木式蛍光法により、チオバルビツール酸反応物質(TBARS)を測定することにより求めた。
【0039】
(5)肝臓中脂質レベルの測定
1)総脂質の抽出
脂質レベル測定のために肝臓からFolchらの方法(FOLCH J, LEES M, SLOANE−STANLEY GH,A simple method for the isolation and purification of total lipides from animal tissues. J. Biol. Chem. 226: 497-509,1957)によって、総脂質を抽出した。肝臓を約0.5g精秤後、Methanol 5mlとともにポリトロン(Type PT10/35、Kinematica、Switzerland)でホモジナイズし、Chloroform 10mlを加えて攪拌し、一昼夜放置後、濾過し、残渣をChloroform−methanol(2:1)混合液で更に洗浄後、両者をあわせて25mlとし、脂質抽出液とした。
【0040】
2)総コレステロールレベルの測定
Ch含量はZak法(Zak B., Simple rapid microtechnic for serum total cholesterol. Am. J. Clin. Path. 27, 583-588, 1957)により測定した。脂質抽出液(2ml)をネジ口試験管に入れ、乾固後、50%(w/v)水酸化カリウム−エタノール溶液3mlを加えて45℃、1時間けん化した。蒸留水3mlを添加して希釈後、n−ヘキサン3mlを添加して振とうし、Chを抽出した。ヘキサン層2mlを試験管に入れ、乾固後、0.08%塩化第二鉄−酢酸溶液(塩化第二鉄1.33gを酢酸に溶解し、1Lとする)2ml、硫酸2mlを加えて攪拌し、放冷後、560nmで吸光度をChをStandardとして測定した。
【0041】
3)トリグリセリドレベルの測定
TGレベルはVan Handel法(VAN HANDEL E. Suggested modifications of the micro determination of triglycerides. Clin. Chem. 7:249-51, 1961 )により測定した。脂質抽出液を、ネジ口試験管に入れ、乾固後、Zeolite(Wako Pure Chemical Industries)0.5g、Chloroform 10mlを入れ振とうし、Phospholipid(PL)を除去した。その後、濾過し、濾液2mlをネジ付き試験管に入れ乾固した。0.4%(w/v)水酸化カリウム−エタノール溶液0.5mlを加えて65℃、20分間けん化し、0.2N硫酸0.5mlを加えて反応を停止した。沸騰湯浴中でEthanolを除去した後、0.5%メタ過ヨウ素酸ナトリウム0.005mlを添加して酸化分解し、10分後、5%亜硫酸水素ナトリウム0.05mlを添加して反応を停止した。これにクロモトロプ酸−硫酸溶液[クロモトロプ酸二水和物(DOJINDO,Kumamoto)2.24gを蒸留水に溶解し、200mlとした後、24N硫酸900mlを氷冷しながら添加する]を5ml加えて、沸騰湯浴中で30分間加熱し、冷却後、570nmでの吸光度をトリパルミチンをStandardとして測定した。
【0042】
(6)糞中ステロイドの測定
糞中ステロイド排泄量の測定は、Neutral Sterol(NS)及びBile acid(BA)について行った。糞を60℃で乾燥させ、乾燥重量を測定後、ミキサー及び乳鉢を用いて粉砕し、約100 mgを精秤後、ネジ口試験管に入れ、4N水酸化カリウム1.5ml、エタノール1mlを添加して70℃で1時間けん化した。n−ヘキサン3mlを添加して振とうし、3000rpm(1750×g)、10分間遠心分離し、n−ヘキサン層を試験管に移すことによってNSを抽出した。同じ操作を3回行った。その後、蒸留水2.5 mlを添加して、水酸化カリウム濃度を1.2Nに希釈し、121℃、3時間高圧処理(オートクレーブ)し、抱合BAを脱抱合させた。
【0043】
放冷後、塩酸0.8mlを添加して溶液のpHを1にし、ジエチルエーテル3mlを添加して振とうし、3000rpm(1750×g)、10分間遠心分離し、ジエチルエーテル層を試験管に移すことによってBAを抽出した。この操作も3回行った。n−ヘキサン抽出液は乾固後、イソプロパノール0.4ml、10%Triton X−100 1.6mlを添加してNSを溶解し、このうち0.24mlをサンプリングしてコレステロールC−テストワコーを用いて測定した。ジエチルエーテル抽出液は乾固後、メタノール2mlを添加してBAを溶解し、このうち0.02mlをサンプリングして総胆汁酸−テストワコーを用いて、3α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素を用いた酵素法により測定した。最終的に2日間に排出された総量で表した。
【0044】
(7)統計処理
統計処理は、One−way Analysis of Varianceの後、Tukey−Kramer multiple comparisons testで行った。
【0045】
2.試験結果
固型癌の大きさを経時的に比較した結果を図3に示した。固型癌の形成は肝癌移植後5日目から見られ始めた。コントロール食群に比べて、ENLを摂取している群、特に100ppm摂取群では、肝癌移植後、7、8日目、更に、18日目以降で、固型癌の成長が有意に抑制された。次に、表3に示されたとおり、がんを背部皮下に移植してから、21日間で転移した腫瘍について比較したところ、癌転移したラットの割合はコントロール食群で11頭中3頭の27.3%であったが、ENL食群では転移は観察されなかった。
更に、食下量、肝臓重量、過酸化脂質、そして肝臓中の脂質には、各群間における有意な差はなかったが、体重増加量においてはENL 100 ppm摂取群で有意に増加し、また、固型癌重量においてはENL摂取両群で、有意に低下した(表4)。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
次に、図4に、血清中のコレステロール濃度をグラフとして表した。ENL食群では、コントロール食群にくらべ、有意ではないものの、血清中のHDL−Chの上昇傾向がみられた。逆に、(VLDL+LDL)−ChはENL食群で、濃度依存的に有意に低下し、その結果、HDL−Chと(VLDL+LDL)−Chの比であるAI値も低下傾向を示した。次に、糞中の中性ステロール及び胆汁酸排泄を図5に示した。コントロール食群に比べ、ENL食群では用量依存的に、中性ステロールと胆汁酸の排泄量が有意に増加した。
【実施例3】
【0049】
有効成分としてのエンテロラクトン(ENL)と薬学的に許容される担体成分を所定量配合し、次いで、これを製剤することにより肝癌予防及び治療用組成物を製造した。
【実施例4】
【0050】
エンテロラクトン(ENL)を有効成分とし、他に栄養成分を配合して肝癌増殖抑制作用を有する機能性食品を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように、本発明は、肝癌予防及び治療用組成物に係るものであり、本発明により、エンテロラクトンの肝癌に対する増殖抑制作用を利用した新しい肝癌予防及び治療用医薬組成物、及び機能性食品等を提供することができる。本発明により、肝癌予防及び治療用薬剤の他に、例えば、肝癌増殖抑制効果を発揮する、食品添加物、栄養補助食品、栄養剤、治療用食品、栄養補助食品、健康食品等の機能性食品素材、機能性食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図は、エンテロラクトンの細胞周期に対する影響を解析した結果を示す。
【図2】図は、エンテロラクトンのアポトーシスに対する影響を解析した結果を示す。
【図3】図は、固型癌の大きさを経時的に比較した結果を示す。
【図4】図は、血清中のコレステロール濃度を示す。
【図5】図は、糞中の中性ステロール及び胆汁酸排泄を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を有効成分として含むことを特徴とする肝癌予防及び治療用組成物。
【請求項2】
エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物及び薬学的に許容される担体成分から成ることを特徴とする肝癌予防及び治療用薬剤。
【請求項3】
エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を機能性成分として食品素材に配合したことを特徴とする機能性食品素材。
【請求項4】
エンテロラクトン(ENL)又はその植物リグナン前駆体であって、肝癌の増殖抑制作用を有する化合物を機能性成分として含むことを特徴とする機能性食品。
【請求項5】
前記食品が、栄養補助食品、栄養剤、治療用食品、栄養補助食品、又は健康食品であることを特徴とする請求項4に記載の機能性食品。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/063233
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516676(P2005−516676)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019437
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】