説明

肝細胞癌の治療法

肝細胞癌を治療するための治療法であって、治療を必要としている患者にルテニウム錯塩を投与する段階を含む方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許出願
本出願は、2009年4月17日提出の米国特許仮出願第61/170,534号、および2009年12月4日提出の米国特許仮出願第61/266,926号の恩典およびそれらに対する優先権を主張し、その両方の全内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般には癌の治療法、特に肝細胞癌の治療法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
原発性肝臓癌は、世界中で最もよく見られる癌の形態の1つである。肝臓癌には、悪性ヘパトームとしても公知の肝細胞癌(HCC)、および胆管細胞癌の2つの主な型がある。HCCは原発性肝臓癌の最も一般的な形で、肝細胞内で発生する。HCCはほとんど男性および肝硬変を患っている患者で生じる。対照的に、胆管細胞癌または胆管癌は、肝臓内の小胆管で発生する。この型の癌は女性でより多く見られる。
【0004】
肝細胞癌の治療の選択肢は、特に進行性または反復性肝細胞癌の場合には限られていた。手術および放射線療法は早期肝臓癌に対する選択肢であるが、進行性または反復性肝細胞癌にはあまり有効ではない。全身性化学療法は特に有効ではなく、使用可能な薬物の数は非常に限られている。最近承認されたキナーゼ阻害剤ソラフェニブは、肝細胞癌を治療する際に有効であることが明らかにされている。しかし、この薬物は治療しない場合に比べて、ほんの2〜3ヶ月長く進行性肝臓癌の進行を減速または停止しうるにすぎない。事実、肝臓機能は十分に保存されている後期HCC患者におけるスペインの第III相臨床試験において、寿命を平均2ヶ月延ばしただけであった。
【0005】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは、結腸癌細胞SW480およびHT29において腫瘍細胞を死滅させる際に有効であることが明らかにされている。Kapitza et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 131(2):101-10 (2005)(非特許文献1)。しかし、これが肝細胞癌を治療する際に有効であるかどうかは不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kapitza et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 131(2):101-10 (2005)
【発明の概要】
【0007】
化合物トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは肝細胞癌を治療する際に特に有効であることが今回判明した。意外なことに、化合物トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは、ソラフェニブ、ドキソルビシン、シスプラチン、オキサリプラチン、および5-FUなどの薬物に感受性および非感受性の両方の肝細胞癌細胞株において同等に有効であることも判明した。したがって、第一の局面において、本発明は、肝細胞癌の治療法であって、肝細胞癌を有すると特定された患者をトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムの治療上有効な量で治療する段階を含む方法を提供する。
【0008】
第二の局面において、本発明は、肝細胞癌の発症を予防する、または遅らせる方法であって、肝細胞癌の発症を予防する、または遅らせることが必要であると特定された患者に、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムの予防上有効な量を投与することを含む方法を提供する。
【0009】
本発明はさらに、肝細胞癌を治療する、予防する、またはその発症を遅らせるために有用な薬剤を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムの使用を提供する。
【0010】
さらにもう一つの局面において、本発明は、抗療性または抵抗性肝細胞癌の治療法であって、抗療性肝細胞癌を有する患者を特定する段階、および患者をトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムの治療上有効な量で治療する段階を含む方法を提供する。具体的な態様において、患者は、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、ドキソルビシン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、5-FUおよびカペシタビンからなる群より選択される1つまたは複数の薬物を含む治療に抗療性である肝細胞癌を有する。
【0011】
本発明の前述および他の利点および特徴、ならびに本発明が達成される様式は、以下の本発明の詳細な説明を、好ましい例示的態様を示す添付の実施例と共に考察することで、より容易に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、異なる肝細胞癌細胞株におけるトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のナトリウム塩の細胞毒性を示すグラフである。
【図2】図2は、Hep3B細胞株においてアポトーシスを誘導する際のトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のナトリウム塩の活性を示すグラフである。
【図3】図3は、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムによって誘導されたアポトーシス細胞死がPARP切断によってさらに特徴付けられることを示すゲル画像である。
【図4】図4は、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムによる処置が3H-チミジン取り込みによって測定したDNA合成速度を著しく低減すると判明したことを示すプロットである。
【図5】図5は、雌SCIDマウスの異種移植肝細胞癌(Hep3B細胞から)に対するトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウム(「試験薬」)の、ソラフェニブによる治療と比べての、活性を示すプロットである。
【図6】図6は、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウム(「試験薬」)が、Hep3B細胞から生成した肝細胞癌を異種移植した雌SCIDマウスの寿命を著しく延長したことを示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも部分的には、化合物トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムが肝細胞癌を治療する際に特に有効であるという発見に基づいている。したがって、本発明の第一の局面に従い、肝細胞癌(または悪性ヘパトーム)の治療法が提供される。具体的には、この方法は、肝細胞癌を有する患者を、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]または、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)およびトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]インダゾリウムなどの、その薬学的に許容される塩の治療上有効な量で治療する段階を含む。すなわち、本発明は、肝細胞癌を有すると特定または診断された患者の肝細胞癌を治療するための薬剤を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]またはその薬学的に許容される塩(アルカリ金属塩またはインダゾリウム塩)の使用を目的とする。
【0014】
本発明のこの局面の様々な態様において、治療法は任意に患者を肝細胞癌を有すると診断または特定する段階も含む。次いで、特定した患者を、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の治療上有効な量で治療する、またはこれを投与する。肝細胞癌は、超音波、CTスキャン、MRI、アルファ-フェトプロテイン試験、デス-ガンマカルボキシプロトロンビンスクリーニング、および生検を含む、当技術分野において公知の任意の通常の診断法で診断することができる。
【0015】
加えて、意外なことに、化合物トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは、ソラフェニブ、ドキソルビシン、シスプラチン、オキサリプラチン、および5-FUなどの薬物に感受性および非感受性の両方の肝細胞癌細胞株において同等に有効であることも判明している。したがって、本発明は、抗療性肝細胞癌または肝細胞癌の治療法であって、抗療性肝細胞癌を有すると特定された患者をトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]またはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のインダゾリウム塩もしくはアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのその薬学的に許容される塩の治療上有効な量で治療する段階を含む方法も提供する。具体的な態様において、患者は、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン)、白金剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン)、5-FUおよびカペシタビンからなる群より選択される1つまたは複数の薬物を含む治療に抗療性である肝細胞癌を有する。すなわち、本発明は、抗療性肝細胞癌、例えば、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン)、白金剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン)、5-FUおよびカペシタビンから選択される1つまたは複数の薬物に対して抗療性の肝細胞癌を治療するための薬剤を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)の使用も目的とする。
【0016】
本明細書において用いられる「抗療性肝細胞癌]なる用語は、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]もしくはその薬学的に許容される塩を含まない抗新生物治療に順調に反応することができないか、またはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]もしくはその薬学的に許容される塩を含まない抗新生物治療に順調に反応した後に反復する、もしくは再発する、肝細胞癌を意味する。したがって、本明細書において用いられる「治療に対して抗療性の肝細胞癌」は、治療に順調に反応することができないか、もしくは抵抗性、または治療に順調に反応した後に反復する、もしくは再発する、肝細胞癌を意味する。
【0017】
したがって、本発明の方法のいくつかの態様において、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムを用いて、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン)、白金剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン)、5-FUおよびカペシタビンからなる群より選択される1つまたは複数の薬物を含む治療に抵抗性を示す腫瘍を有する肝細胞癌患者を治療する。すなわち、この方法を用いて、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン)、白金剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン)、5-FU、テガフールおよびカペシタビンからなる群より選択される1つまたは複数の薬物を含む治療法で以前に治療しており、その肝細胞癌が治療法に不応性であると判明したか、または治療法に対して抵抗性を生じた、肝細胞癌患者を治療する。他の態様において、この方法を用いて、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン)、白金剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン)、5-FUおよびカペシタビンからなる群より選択される1つまたは複数の薬物を含む治療で以前に治療したが、肝細胞癌が反復した、または再発した、肝細胞癌患者、すなわち、1つまたは複数のそのような薬物で以前に治療しており、その癌は最初は以前に投与した1つまたは複数のそのような薬物に反応性であったが、後に再発したことが判明した、肝細胞癌患者を治療する。具体的な態様において、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムを用いて、ソラフェニブまたはレゴラフェニブで以前に治療した、すなわち、ソラフェニブもしくはレゴラフェニブに対して抵抗性を示す、またはこれを含む治療後に再発した腫瘍を有する肝細胞癌患者を治療する。他の具体的な態様において、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムを用いて、ドキソルビシンで以前に治療した、すなわち、ドキソルビシンに対して抵抗性を示す、またはこれを含む治療後に再発した肝細胞癌を有する肝細胞癌患者を治療する。さらに他の具体的な態様において、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムを用いて、白金細胞毒性剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン)で以前に治療した、すなわち、白金細胞毒性剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ピコプラチン、オキサリプラチン、またはピコプラチン)に対して抵抗性を示す、またはこれを含む治療後に再発した肝細胞癌を有する肝細胞癌患者を治療する。さらに他の具体的な態様において、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムを用いて、5-FUまたはそのプロドラッグ(例えば、テガフールまたはカペシタビンまたはS1)で以前に治療した、すなわち、5-FUもしくはそのプロドラッグ(例えば、テガフールまたはカペシタビンまたはS1)に対して抵抗性を示す、またはこれを含む治療後に再発した肝細胞癌を有する肝細胞癌患者を治療する。
【0018】
抗療性肝細胞癌を検出するために、初期治療を受けている患者を抵抗性、不応性または反復性肝細胞癌の徴候について注意深くモニターすることができる。これは、例えば、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、5-FU、テガフールおよびカペシタビンからなる群より選択される1つまたは複数の薬物を含みうる初期治療に対する患者の癌の反応をモニターすることにより達成することができる。初期治療に対する反応、反応の欠如または癌の再発を、当技術分野において実施される任意の適当な方法によって判定することができる。例えば、これは腫瘍のサイズおよび数の評価によって達成することができる。腫瘍のサイズまたは腫瘍の数の増大は、腫瘍が化学療法に反応していないこと、または再発が起こったことを示す。判定は、Therasse et al, J. Natl. Cancer Inst. 92:205-216 (2000)に詳細に記載されている「RECIST」基準に従って行うことができる。
【0019】
本発明のさらにもう一つの局面に従い、肝細胞癌の発症(または肝細胞癌)を予防する、もしくは遅らせる、または肝細胞癌の反復を予防する、もしくは遅らせる方法であって、予防または遅延を必要としている患者を、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の予防上有効な量で治療する段階を含む方法が提供される。
【0020】
B型肝炎もしくはC型肝炎感染を有する、または肝硬変を有する人は、肝細胞癌を発生する危険度が高いことが知られている。加えて、急性および慢性肝性ポルフィリン症(急性間欠性ポルフィリン症、晩発性皮膚ポルフィリン症、遺伝性コプロポルフィリン症、異型ポルフィリン症)ならびにチロシン血症I型を有する人も、肝細胞癌発生の危険度が高い。これらの人はすべて、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の予防上有効な量を用いての、肝細胞癌の発症を予防する、または遅らせるための、本発明の方法の候補でありうる。加えて、肝細胞癌の家族歴がある患者を、肝細胞癌の発症を予防する、または遅らせる、本発明の方法の適用のために特定することもできる。
【0021】
肝細胞癌の反復を予防する、または遅らせるために、治療を受けて、緩解期にある、または安定状態もしくは進行しない状態にある肝細胞癌患者を、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の予防上有効な量で治療して、肝細胞癌の反復または再発を有効に予防し、または遅らせてもよい。
【0022】
本明細書において用いられる「・・・により・・・を治療すること」なる語句またはその言い換えは、化合物を患者に投与すること、または患者の体内で化合物の生成を引き起こすことのいずれかを意味する。
【0023】
本発明の方法に従い、肝細胞癌を、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の治療上有効な量を単剤として単独で、または1つもしくは複数の他の抗癌剤との組み合わせで用いて、治療することができる。
【0024】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩を、当技術分野において公知の任意の方法で作成することができる。例えば、PCT公報WO/2008/154553はトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムの効率的な作成法を開示している。
【0025】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムなどの薬学的化合物を、静脈内注射または任意の他の手段により、患者の全体重に基づく体重1kgあたり0.1mgから1000mgの量で投与することができる。活性成分を一度に投与してもよく、またはいくつかの少量に分割して、あらかじめ決められた間隔で、例えば、1日1回または2日に1回投与してもよい。前述の用量範囲は例示にすぎず、本発明の範囲を限定する意図はないことが理解されるべきである。活性化合物の治療上有効な量は、当業者には明らかであろうとおり、用いる化合物の活性、患者体内での活性化合物の安定性、軽減する状態の重症度、治療する患者の全体重、投与経路、体による活性化合物の吸収、分布、および排出の容易さ、治療する患者の年齢および感受性などを含むが、それらに限定されるわけではない、因子によって変動しうる。投与の量は、経時的に様々な因子が変化するのに合わせて調節することができる。
【0026】
本発明に従い、肝細胞癌を治療するために有用な薬剤を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の使用が提供される。薬剤は、例えば、静脈内、動脈内、皮内、または筋肉内投与に適した、例えば、注射用剤形でありうる。例えば、緩衝化溶液または懸濁液中の注射用剤形は一般に当技術分野において公知である。
【0027】
加えて、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩を化学塞栓において用いることもでき、ここで薬物を腫瘍内に直接投与する一方で、塞栓剤を用いて腫瘍への血液供給を阻止し、それにより薬物を腫瘍内にトラップする。例えば、リピオドール(ヨード化油)および131I-リピドールは、化学塞栓においてトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩と共に用いるのに適した塞栓剤である。他の有用な塞栓剤には、ゼラチン(例えば、GelFoam)または規定のサイズ範囲の分解性デンプンミクロスフェアが含まれる。これらの塞栓剤は、「肝動脈経カテーテル治療」として公知の、同じ経路によるトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩と共に、肝内動脈から投与することができる。
【0028】
したがって、本発明の方法は、肝細胞癌を治療する、抗療性または反復性肝細胞癌の発症を予防する、または遅らせる方法であって、患者にトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩および塞栓剤を投与する段階を含む方法も提供する。トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩ならびにリピオドール(ヨード化油)、131I-リピドールおよびゼラチンなどの塞栓剤を、肝動脈注射または動脈内注入により投与することができる。肝細胞癌を治療するためのリピオドールまたは131I-リピドールの投与は一般に当技術分野において公知である。
【0029】
本発明のもう一つの局面に従い、容器内にトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の単位剤形、および任意に本発明の方法においてキットを用いる、例えば、肝細胞癌を治療する、予防する、もしくはその発症を遅らせる、または肝細胞癌の反復を予防する、もしくは遅らせる、または抗療性肝細胞癌を治療するための説明書を含む、薬学的キットが提供される。当業者には明らかであろうとおり、単位剤形中の治療化合物の量は、本発明の方法において患者に用いる用量によって決定される。キットにおいて、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩は、アンプル中、例えば、25mgの量の凍結乾燥剤形でありうる。診療所において、凍結乾燥剤形を溶解し、本発明の治療を必要としている患者に投与することができる。加えて、キットは任意に、リピオドール(ヨード化油)または131I-リピドールなどの塞栓剤の単位剤形をさらに含み、これは、例えば、それぞれ1から1000mlのリピオドール(ヨード化油)または131I-リピドールまたはゼラチンまたはミクロスフェアを有するバイアル中でありうる。加えて、本発明は、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩(例えば、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムまたはトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]カリウム)などのトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の治療上有効な量を、塞栓剤(例えば、リピオドール(ヨード化油)または131I-リピドール、またはゼラチン)との混合物で含む薬学的組成物も提供する。
【実施例】
【0030】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウム(「薬物」)の活性を試験するために、選択した肝細胞癌細胞株を用いてMTT検定を実施した。細胞を96穴プレートに蒔き(100μl/ウェル中に2×103細胞)、24時間回復させた。薬物を別の100μl成長培地に加え、培養した細胞と共に3時間インキュベートした後、細胞培養培地を交換して薬物を除去した。細胞死を最初のインキュベーションの72時間後に、MTT検定により製造者の推奨に従って測定した(EZ4U, Biomedica, Vienna, Austria)。72時間の処理後、平均IC50値は124.4μMで、HCC1.2およびHCC3が最も感受性が高かった(それぞれIC50値62.9μMおよび67.5μM)(図1)。注目に値することに、IC50値は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)測定により求めた細胞内薬物レベルと相関しなかった。すべての試験した細胞株は、1時間の薬物曝露後にほぼ同等のRu含有量(約5ng Ru/105細胞)を示した。
【0031】
薬物活性の根元にあるメカニズムを評価するために、Hep3B細胞のアポトーシス誘導ならびに細胞周期分布および増殖に対する影響を評価した(図2)。具体的には、ヘパトーム細胞株Hep3BをAmerican Type Culture Collection (ATCC), Manassas, VAから購入した。すべての細胞を、10%FCSを補充したRPMI 1640中で培養した。培養物をマイコプラズマ(Mycoplasma)混入について定期的にチェックした。24時間の薬物処理後、細胞を回収し、PBS中で洗浄し、サイトスピンを調製した。メタノール/アセトン1:1溶液で固定後、スライドを退色防止溶液(Vector Laboratories, Inc., USA)を含む4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色した。細胞の核の形態を、適当な落射蛍光フィルターおよびCOHU電荷結合素子カメラを装備したLaica DMRXA蛍光顕微鏡(Laica Mikroskopie and System, Wetzlar, Germany)を用いて調べた。各細胞型/処理群について二つ組のスライドを調製し、各試料について300〜500個の細胞を計数した。トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムはHep3B細胞において著しいアポトーシスを引き起こした。
【0032】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムによる処理は、細胞収縮、クロマチン凝縮およびアポトーシス小体の形成のようなプログラムされた細胞死の典型的な形態学的徴候を引き起こした。トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムによって誘導されたアポトーシス細胞死は、ウェスタンブロット分析によって調べたPARP切断によってさらに特徴付けられた。具体的には、24時間の薬物処理後、タンパク質抽出物を調製し、ウェスタンブロット分析を行った。Apoptosis Samplerキット(Cell Signaling Technology, Beverly, MA)からのウサギ抗PARP(希釈1:1000)000)を用いた。ローディング対照のために、β-アクチンモノクローナルマウスAC-15(Sigma, USA、希釈1:1000)を用いた。すべての二次ペルオキシダーゼ標識抗体はSanta Cruz Biotechnologyから購入し、1:10000の標準希釈で用いた。図3は、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムによって誘導されたPARP切断を示している。
【0033】
ミトコンドリア膜が脱分極した細胞の増加(JC-1染色よびFACS分析によって測定)は、観察されたアポトーシス細胞死の少なくとも一部はミトコンドリア経路によって誘導されることを示唆していた。さらに、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムによる処理は、3H-チミジン取り込みによって測定したDNA合成速度を著しく低減することが見いだされた(図4)。
【0034】
細胞周期分布に関して、24時間の処理はG2/M期の細胞の増加を引き起こした(PI染色と、続くFACS分析によって検出)。これは、ストレスキナーゼP38および細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)の強いリン酸化を伴い、P38は後期アポトーシス移行に関与している可能性が示唆された。
【0035】
別に、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムのHep3B細胞に対する活性を、雌SCIDマウスを用いての異種移植片実験で、標準の治療法ソラフェニブに比べて評価した。トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムを30mg/kgで1週間に1回、2週間、IV投与した。ソラフェニブは1日25mg/kg、1週間に5回、2週間、P.O.投与した。トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムはよく耐容された。Hep3Bモデルにおいて、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは腫瘍の成長を有効に抑制した(図5)。
【0036】
加えて、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは寿命の2.4倍の延長をもたらし(平均生存期間は対照群の33日に対して80日)、したがって、ソラフェニブ単剤療法(生存の1.9倍の延長;対照の33日に対して60日)よりも優れていた(図6)。合わせて考えると、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは、インビトロおよびインビボでヒト肝細胞癌細胞株に対して著しい活性を有する、非常に有望な抗癌薬である。
【0037】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムの細胞毒性が、他の薬物に対して感受性および非感受性(または著しく感受性が低い)肝細胞癌細胞において変動するかどうかを調べるために、様々な肝細胞癌細胞株におけるソラフェニブ、ドキソルビシン、およびオキサリプラチンのIC50値も求めた。加えて、Hep3BおよびHepG2細胞株における5-FUおよびシスプラチンのIC50値を、Kogure et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 53(4):296-304 (2004)から入手した。他の薬物の1つに対して感受性の細胞株および同じ薬物に対して非感受性の細胞株におけるトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムのIC50値の比を計算した。結果を以下の表1〜5に示す(表の「試験薬物」はトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムを意味する)。データは、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムが、ソラフェニブ、ドキソルビシン、5-FU、ならびにオキサリプラチン、およびシスプラチンなどの白金剤などの他の薬物に対して感受性または抵抗性の肝細胞癌において同等に有効であることを示している。したがって、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムは、そのような他の薬物に対して抵抗性の肝細胞癌を治療する際に有効である可能性がある。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
本明細書において言及するすべての出版物および特許出願は、本発明が属する分野の技術者のレベルを示している。すべての出版物および特許出願は、それぞれ個々の出版物または特許出願が参照により本明細書に組み入れられると具体的かつ個別に示されているのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。出版物および特許出願の単なる言及は必ずしも、それらが本出願の先行技術であるとの容認をなすものではない。
【0044】
前述の発明を、理解を明確にするために、例示および実施例によって幾分詳細に記載してきたが、添付の特許請求の範囲内で特定の変更および改変を行いうることが明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞癌を治療する、予防する、またはその発症を遅らせるための薬剤を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項2】
肝細胞癌を治療する、予防する、またはその発症を遅らせるための薬剤を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩の使用。
【請求項3】
前記トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]のアルカリ金属塩がトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム酸(III)]ナトリウムである、請求項2記載の使用。
【請求項4】
肝細胞癌が抗療性または反復性肝細胞癌である、請求項1または2または3記載の使用。
【請求項5】
肝細胞癌がソラフェニブ、レゴラフェニブ、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン)、白金剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、5-FUまたはカペシタビンに対して抗療性または抵抗性である、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
肝細胞癌を治療する、予防する、またはその発症を遅らせるための薬剤を製造するための、トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の、塞栓剤と組み合わせての使用。
【請求項7】
以下の段階を含む、肝細胞癌の治療法:
肝細胞癌を有する患者を特定する段階;および
患者をトランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の治療上有効な量で治療する段階。
【請求項8】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の単位剤形と、リピオドール(ヨード化油)または131I-リピドールなどの塞栓剤の単位剤形とを含む、キット。
【請求項9】
トランス-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテネート(III)]の薬学的に許容される塩の治療上有効な量と、リピオドール(ヨード化油)または131I-リピドールなどの塞栓剤とを含む、薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−524078(P2012−524078A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505994(P2012−505994)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/031591
【国際公開番号】WO2010/121245
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(509023584)ニッキ ファーマ インク. (7)
【Fターム(参考)】