肝線維化抑制剤
【課題】本発明の目的は、肝線維化に対する有効な予防手段または治療手段を提供し、また当該治療手段となりうる肝線維化抑制剤、医薬組成物、食品組成物、食品および飲料を提供することである。
【解決手段】本発明により、ビタミンB12またはその類縁体を含む、肝線維化抑制剤が提供される。また本発明により、肝線維化抑制効果を有し、ビタミンB12またはその類縁体を含む、肝臓保護剤も提供される。さらに本発明により、当該肝線維化抑制剤を含む医薬組成物、食品組成物、食品、飲料などが提供される。
【解決手段】本発明により、ビタミンB12またはその類縁体を含む、肝線維化抑制剤が提供される。また本発明により、肝線維化抑制効果を有し、ビタミンB12またはその類縁体を含む、肝臓保護剤も提供される。さらに本発明により、当該肝線維化抑制剤を含む医薬組成物、食品組成物、食品、飲料などが提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ビタミンB12またはその類縁体を含む肝臓保護剤、特に肝線維化抑制剤に関する。さらに本発明は、当該肝線維化抑制剤を含む経口摂取用組成物、医薬組成物、食品組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変などの肝臓疾患において、肝線維化の進行が観察される。肝線維化は細胞外マトリックスの沈着により引き起こされ、慢性肝炎から肝硬変への移行における病因の一つでもある。
【0003】
肝線維化における細胞外マトリックスの生産には、肝星細胞(伊東細胞、脂肪摂取細胞ともいう)の活性化が関与している。すなわち、肝星細胞は、前記肝臓疾患に伴う炎症、薬物などによる肝障害に起因する肝細胞の壊死になどより産生される各種サイトカインにより活性化され、筋線維芽細胞へと変化し、この筋線維芽細胞が細胞外マトリックスを生産することにより、肝線維化が進行する。
【0004】
一方で、肝細胞の壊死の有無に関わらず、アルコールやビタミンAなどの過剰摂取による肝星細胞(線維化の原因細胞)への直接的な作用によっても肝線維化は進行すると考えられている。したがって、肝線維化を予防または治療するためには、肝細胞の障害による肝線維化および肝星細胞の障害による肝線維化の双方に対し有効な手段を講じる必要がある。
【0005】
肝星細胞の活性化を阻害する物質を探索するための実験動物を用いた肝線維化の病態モデルについて、いくつかの報告がなされている。例えば、肝細胞壊死に起因する一連の肝線維化の病態は、生体内でCCl3ラジカルを発生する四塩化炭素(CCl4)を実験動物に長期間投与し、肝細胞の炎症性壊死を長期間持続することにより再現することができる(非特許文献1参照)。このような病態モデルにおいては、肝細胞の壊死の原因物質であるCCl3ラジカルの消去活性を有する抗酸化物質の投与により、各種サイトカインの生成およびそれに続く肝星細胞の活性化を抑制することができ、結果として肝線維化の進行を抑制することができると考えられている。
【0006】
一方で、ジメチルニトロソアミン(DMN)を実験動物に一定期間投与することにより、肝細胞壊死を伴わない肝線維化が発症することが知られている(非特許文献1参照)。このDMNを用いる病態モデルにおける肝線維化が進行する機序は、CCl4を用いる場合と明らかに異なっており、CCl4の場合は肝細胞の壊死に起因して肝線維化が進行するのに対し、DMNは静止期にある肝星細胞に働きかけ、活性化を促すことにより肝線維化を進行させるものと考えられる。したがって、肝星細胞の活性化を阻害する物質は、肝線維化症の予防および治療、さらには肝線維化を伴う肝疾患の予防および治療において有用であると考えられ、特に、DMNの投与による肝障害モデルにおいて肝線維化を抑制する物質は、肝星細胞に直接作用する肝線維化抑制剤となりうる可能性がある。
【0007】
天然物由来の食品に含まれる成分や長年にわたって使用されている漢方薬の成分は、一般に副作用が少ないなどの利点を有することから、近年において発生が増加している各種難治疾患に対してのその有用性が注目されている。雨谷らは、実験動物に四塩化炭素を投与した肝障害モデル、およびDMNを投与した肝障害モデルの双方において、生薬を有効成分とする漢方薬「小柴胡湯」が肝線維化抑制効果を有することを報告している(非特許文献1を参照)。しかし、小柴胡湯は漢方薬でありながら多くの副作用例が報告されている薬剤であり、死亡例も報告されている。また、医療用として使用されている小柴胡湯の使用禁忌として、肝硬変および肝癌の患者への投与が挙げられている。したがって、肝臓疾患の患者への投与において、より安全性の高い薬剤が強く求められている。
【0008】
レバー、卵、チーズなどの食品に含まれるビタミンB12は、シアノコバラミンとも呼ばれ、コリン環の中にコバルトイオンを含む構造を有し、いくつかの類縁体の存在も知られている(式I)。
【0009】
【化1】
【0010】
ビタミンB12は造血機能の促進効果を有するほか、DNA合成やタンパク質合成にも関与し、また調節性眼精疲労を改善する効果も知られている(非特許文献2)。また、ビタミンB12は水溶性ビタミンであるため体内に蓄積しにくい性質を有し、過剰症も報告されていないため、比較的高濃度で摂取することが可能である。
【0011】
さらに、ビタミンB12は肝臓に含まれる成分であることから、ビタミンB12の摂取は、肝機能異常・肝障害の際に、肝機能の回復を助けることが報告されている(例えば、特許文献1および2などを参照)。しかし、ビタミンB12の肝障害に対する治療効果が、具体的にどのような作用に基づくものであるのかについては報告されていなかった。特に、ビタミンB12およびその類縁体の、肝線維化に対する効果や、肝星細胞に対する作用についてはこれまで知られていなかった。
【特許文献1】特開平4−49239号公報
【特許文献2】特開平2−96532号公報
【非特許文献1】雨谷ら、漢方医学、第13巻、第8号、第233−242頁、1989年
【非特許文献2】第十三改正日本薬局方解説書(縮刷版)、廣川書店、第C−1272〜C−1279頁、1996年
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、かかる課題を解決する為に鋭意研究を進めたところ、ビタミンB12およびその類縁体が肝線維化抑制作用を有することを発見して本発明を完成させた。
本発明の目的は、肝線維化抑制作用を有するビタミンB12およびその類縁体を含む肝線維化抑制剤、肝臓保護剤、経口摂取用組成物、医薬組成物、食品組成物、食品および飲料を提供することである。
【0013】
すなわち本発明の一つの側面によれば、ビタミンB12、またはビタミンB12類縁体を含む肝線維化抑制剤が提供される。当該肝線維化抑制剤には、好ましくはビタミンB12が含まれる。
【0014】
ここで、ビタミンB12類縁体には、ビタミンB12分子中の1以上の二重結合の還元体、コバルト上の配位子の変換体、および分子中の水酸基などの官能基の変換体などが含まれる。本発明におけるのビタミンB12類縁体は、好ましくはメチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アクアコバラミンおよびアデノシルコバラミンから選択される。
【0015】
さらに本発明の別の側面によれば、肝線維化を伴う疾患を治療または予防するための、上記の肝線維化抑制剤を含む医薬組成物が提供される。
本発明の他の側面によれば、すなわち本発明の一つの側面によれば、ビタミンB12、またはビタミンB12類縁体を含む肝臓保護剤が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、肝線維化抑制効果を有し、ビタミンB12、またはその類縁体であるメチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アクアコバラミンおよびアデノシルコバラミンから選択される化合物を含む、肝臓保護剤が提供される。
【0016】
本発明の別の側面によれば、肝線維化を伴う疾患を治療または予防するための、前記肝線維化抑制剤を含む医薬組成物が提供される。
さらに本発明のその他の側面によれば、肝線維化を伴う疾患が、線維症、肝炎、肝硬変または肝癌である、前記医薬組成物が提供される。
【0017】
さらに本発明の別の側面によれば、前記肝線維化抑制剤を含む食品組成物または飲食物が提供される。
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
【0018】
本発明で用いられるビタミンB12およびその類縁体は、市販されているものを使用することができ、例えばロシュ・ビタミン・ジャパン株式会社、BASF武田ビタミン株式会社、和光純薬工業株式会社などから購入したものを使用することができる。購入したビタミンB12およびその類縁体はそのまま使用することもできるが、当該技術分野で通常知られた方法により精製した後に使用してもよい。また、例えば肝臓などの動物の組織からの抽出、またはB.megatherium、Flavobacterium solareまたはFl.devaransなどの微生物による発酵法により製造することができる。
【0019】
本明細書で用いられる用語「肝線維化抑制剤」とは、一般的には、肝星細胞の活性化の抑制、コラーゲン産生の抑制、マトリックスの産生の阻害などの、肝臓の線維化を抑制する働きを持つものを意味する。肝線維化を伴う疾患としては、限定はされないが、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変および肝癌などの各種肝疾患を挙げることができる。例えば、本発明の肝線維化抑制剤は、上記各種肝疾患の予防および/または治療における効果、ならびに肝臓保護効果が期待できる。
【0020】
本明細書で用いられる用語「肝臓保護剤」とは、一般的には、薬物や有害物質による肝障害、免疫学的肝障害、ウィルス性肝障害、脂肪肝、肝癌、アルコール性肝障害、肝硬変などによる肝臓機能の低下を抑制するもの、肝臓を保護するもの全般を意味する。
【0021】
本発明の肝線維化抑制剤は、複数の作用機序による肝線維化抑制作用、およびそれに起因する肝保護作用を発揮するものであってもよい。当該作用機序の例としては、i)炎症性の肝細胞の壊死を抑制し、肝臓組織内でのサイトカインの放出およびそれに起因する肝星細胞の活性化を抑制し、細胞外マトリックスの産生を抑制する;ii)肝星細胞に直接作用することにより当該細胞の活性化を抑制し、細胞外マトリックスの産生を抑制する;iii)産生された細胞外マトリックスの代謝を活性化する、などが考えられるが、本発明の肝線維化抑制剤の効果がその他の作用機序によるものであってもよい。一方で、本発明の肝線維化抑制剤は、主に単一の作用機序により、その効果を発揮するものであってもよい。
【0022】
本発明の肝線維化抑制剤は、医薬組成物の有効成分として使用することができる。当該医薬組成物は、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができ、非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0023】
当該医薬組成物は、一般に用いられる各種成分を含みうるものであり、例えば、1種もしくはそれ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤等を含みうる。また本発明の医薬組成物は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0024】
本発明の肝線維化抑制剤の投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い、発症後の経過時間等により、適宜選択することができ、本発明の医薬組成物は、治療有効量および/または予防有効量の肝線維化抑制剤を含むことができる。ビタミンB12およびその類縁体は過剰症に対する懸念の少ない比較的安全な化合物であるので、必要に応じて高濃度で摂取することも可能である。本発明においてビタミンB12またはその類縁体は、一般に0.00001〜10000mg/日/成人、好ましくは0.0001〜1000mg/日/成人の用量で使用されうる。当該医薬組成物の投与は、単回投与または複数回投与であってもよく、たとえば他の肝疾患治療剤、肝臓保護剤、肝線維化抑制剤などの他の薬剤と組み合わせて使用することもできる。
【0025】
本発明の食品組成物は、機能性飲料などの液体飲料を含む。当該食品組成物は、機能性食品として使用できるほか、医薬部外品、飲食物などの成分、食品添加物などとして使用することができる。また本明細書における食品組成物は、そのまま機能性食品として使用できるほか、飲食物、医薬品、医薬部外品、飲食物等の成分、食品添加物などとして使用することができる。当該使用により、肝線維化抑制効果および肝臓保護効果を有する飲食物、食品組成物または経口摂取用組成物の日常的および継続的な摂取が可能となり、効果的な肝線維化抑制効果および肝臓保護効果による体質改善、各種肝臓疾患の治療および発症の予防が可能となる。本発明の肝線維化抑制剤または肝臓保護剤を含む食品組成物、食品または飲料の例としては、肝線維化抑制効果もしくは肝臓保護効果を有する機能性食品、健康食品、一般食品(ジュース、菓子、加工食品等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)などが含まれる。本明細書における食品または飲料は、限定はされないが、ビタミンB12およびその類縁体の他に、鉄およびカルシウムなどの無機成分、ビタミンB12以外の種々のビタミン類、オリゴ糖およびキトサンなどの食物繊維、大豆抽出物などのタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖および乳糖などの糖類、椎茸などの植物抽出物などを含むことができる。
【発明の効果】
【0026】
以下の実施例で示すように、本発明の肝線維化抑制剤は、肝細胞障害に起因する肝線維化の抑制効果と、肝星細胞に直接作用することによる肝線維化の抑制効果の双方を有する。したがって本発明により、肝線維化を伴う各種肝臓疾患に対する治療および/または予防のための有効な手段が提供される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例で用いたビタミンB12、ブロモベンゼンおよびD−ガラクトサミンは、和光純薬工業株式会社より購入したものを使用した。またジメチルニトロソアミンは、シグマ社より購入したものを使用した。これらの試薬を投与する際には、必要に応じて蒸留水を溶媒として使用した。
【0028】
[実施例1]肝毒に対する肝細胞保護効果
ラットより単離した肝細胞を1×105cells/cm2の密度でポリスチレン培養プレートに播種し、10%血清入りWE培地で24時間初代培養した。播種後24時間の培地交換の際に、肝毒素としてブロモベンゼン(以下、BBとも称す)1mMおよび肝保護物質としてビタミンB12(0.4mM、0.2mM、0.1mM、0.05mM)を加えた。添加溶媒を加えてから24時間後にトリパンブルーを用いた細胞数計測法を用いて、生細胞数を計測した。
【0029】
結果を図1に示す。BB添加により、生細胞数は対照と比べて半分にまで減少したのに対し、ビタミンB12の添加によって、0.4mM、0.2mM、および0.1mMの濃度で有意に生細胞数が上昇した。つまり、ビタミンB12にはBBによる肝細胞障害に対する保護効果があること、その保護効果は濃度依存的であることが確認された。
【0030】
[実施例2]急性肝障害に対するビタミンB12の肝保護効果
6週齢、雄性、BALB/cマウスにジメチルニトロソアミン(以下、DMNとも称す)20mg/kg体重を腹腔内投与することにより、急性肝障害モデルを作製した。また、DMN(20mg/kg体重)と、肝保護物質としてビタミンB12(10mg/kg体重)とを同時に腹腔内投与したモデルを作製した。24時間後および72時間後に採血を行い、血清中ASTおよびALTの測定を行った。
【0031】
結果を図2および図3に示す。DMN投与により72時間後にASTおよびALTが対照と比べて、有意に上昇した。このことより、急性肝障害が誘導されていることが確認された。さらに、ビタミンB12(10mg/kg体重)を腹腔内投与するとAST、ALTともに上昇が抑制された。このことより、ビタミンB12はDMN投与による急性肝障害モデルに対して、肝保護効果を示すことが確認された。
【0032】
[実施例3]慢性肝障害に対するビタミンB12の肝保護効果
急性肝障害におけるビタミンB12の肝保護効果をふまえて、肝硬変や肝がんなどの重篤な肝疾患の原因になる慢性肝障害(肝線維化)におけるビタミンB12の効果を以下の方法により検討した。6週齢、雄性、BALB/cマウスにジメチルニトロソアミン(DMN)10mg/kg体重を週の最初3日間腹腔内投与し、それを4週間継続し、慢性肝障害(肝線維化)モデルを作製した。また、DMN(10mg/kg体重)と、肝保護物質としてビタミンB12(10mg/kg体重)とを同時に腹腔内投与したモデルを作製した。4週目の終りに採血を行い、血清中のASTおよびALTの測定を行った。
【0033】
結果を図4および図5に示す。DMN投与により4週間後にAST、ALTが対照と比べて、有意差があるまで上昇した。このことより、慢性肝障害が誘導されたことが確認された。さらに、ビタミンB12(10mg/kg体重)を腹腔内投与するとAST、ALTともに上昇が抑制された。このことより、DMN投与による慢性肝障害(肝線維化)についてもビタミンB12が肝保護効果を示すことが確認された。
【0034】
[実施例4]慢性肝障害マウスの肝臓組織切片の観察
実施例3の手順で作成したDMN投与慢性肝障害マウス及び、DMNと同時に肝保護物質として、ビタミンB12(10mg/kg体重)を同時に腹腔内投与したマウスにおいて、4週目の終りに肝臓を採取し、PBSでよく洗浄後、脱水を行った。その後、10%ホルマリンに肝臓を浸して、固定し、肝臓組織切片の作製とEV(エラスチカ・ワーギンソン)染色を行った。
【0035】
その結果を図6および図7に示す。対照では中心静脈の周り1層の細胞だけが赤く染まっており、線維化がまったく起こっていない事が観察された。DMN投与マウスの肝臓では、中心静脈から線維化が進行し、組織の方へ線維化が広がっていることが観察された。それに比べて、ビタミンB12投与マウスの肝臓では中心静脈から内部に少し線維化が観察されるが、組織の方に広がっていることは無く、肝線維化が抑制されていることが観察された。
【0036】
[実施例5] 肝臓より抽出したmRNAを用いたRT−PCR法
実施例3の手順で作成したDMN投与慢性肝障害マウス及び、DMNと同時に肝保護物質として、ビタミンB12(10mg/kg体重)を同時に腹腔内投与したマウスにおいて、4週目の終りに肝臓を採取し、その半分をホモジナイズし、セパゾールで処理することでmRMAを抽出した。mRNA抽出後RT反応を行い、cDNAとした。その後、PCRキット(TAKARA)を用いて、肝線維化の指標であるHSP47、α−平滑筋アクチン(alpha smooth muscle actin:α−SMA)の発現を確認した。
【0037】
その結果を図8に示す。DMN投与慢性肝障害マウスから取り出した肝臓のmRNAにおいて、HSP47とα−SMAの強い発現が確認された。HSP47、α−SMAは共に肝線維化のマーカーであり、特にα−SMAは肝星細胞の活性化のマーカーとして知られている。
【0038】
今回、ビタミンB12を投与することでHSP47とα−SMAの発現が両方抑制された。特に、α−SMAの発現は強く抑制されており、ビタミンB12は肝線維化抑制に効果を示すことが示唆された。
【0039】
[実施例6] 肝細胞活性化効果
ラットより単離した肝細胞を1×105cells/cm2の密度でポリスチレン培養プレートに播種し、10%血清入りWE培地で初代培養した。播種後4時間の培地交換の際に、肝細胞活性化物質としてビタミンB12(1.0、0.5、0.25mg/ml)を加えた。添加溶媒を加えてから24時間後に、生細胞数を計測した。
【0040】
その結果を図9に示す。ビタミンB12添加群のいずれにおいても肝細胞の生存率の増加が確認された。このことより、ビタミンB12は肝細胞を活性化しその増殖を促進することが示唆された。
【0041】
[実施例7] 肝毒素(GalN)を用いたビタミンB12による肝細胞保護効果
ラットより単離した肝細胞を1×105cells/cm2の密度でポリスチレン培養プレートに播種し、10%血清入りWE培地で初代培養した。播種後4時間の培地交換の際に、アポトーシス性の肝毒素としてD−ガラクトサミン(GalN)1mM及び、肝保護物質としてビタミンB12(1.0、0.5、0.25mg/ml)を加えた。添加溶媒を加えてから24時間後に、Cell Counting Kit−8(和光純薬工業(株))を用いて、生細胞数を計測した。
【0042】
その結果を図10に示す。ビタミンB12の添加濃度が0.5mg/ml以上の群において細胞の生存率の向上が確認された。このことより、ビタミンB12の肝細胞保護効果が確認された。
【0043】
[実施例8] ウィルス性肝炎モデルラットを用いた肝炎抑制効果
Wistar系ラット(雄性、9週齢)に被検物質として水(Normal群、Control群)、ビタミンB12(27mg/Kg)を10日間経口投与(VB12投与群)し、10日後にガラクトサミン(GalN)を腹腔内投与することで、肝炎モデルを作製した(Normal群には生理食塩水を腹腔内投与した)。GalN投与から6時間、24時間、および48時間後に採血を行い、血清中ASTおよびALTの測定を行った(日本臨床化学会(JSCC)標準化対応法により測定した)。
【0044】
その結果を図11に示す。GalN投与により24時間後には、Control群およびVB12投与群のいずれにおいてもASTおよびALTの値はともに上昇したが、VB12投与群においてその上昇が抑制されることが確認された。また、48時間後には、Control群およびVB12投与群のいずれにおいてもASTおよびALTの値はともに回復傾向を示したが、Control群よりもVB12投与群においてASTおよびALTはより低い値であった。これより、ビタミンB12の投与により肝炎の発生が抑制され、また肝炎により発生する肝細胞の損傷が早期に回復することが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】肝毒素としてブロモベンゼンを添加した肝細胞におけるVB12の肝細胞保護効果を示す試験結果の一例である。
【図2】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した急性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のAST量の変化を示す試験結果の一例である。
【図3】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した急性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のALT量の変化を示す試験結果の一例である。
【図4】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した慢性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のAST量の変化を示す試験結果の一例である。
【図5】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した慢性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のALT量の変化を示す試験結果の一例である。
【図6】慢性肝障害モデルマウスおよび対照のマウスの肝臓組織切片の写真の一例である。
【図7】ビタミンB12を投与した慢性肝障害モデルマウスの肝臓組織切片の写真の一例である。
【図8】DMNおよびビタミンB12の投与によるHSP47およびα−SMAの発現変化を表す試験結果の一例である。
【図9】肝細胞におけるビタミンB12の肝細胞活性化効果を示す試験結果の一例である。
【図10】肝毒素としてD−ガラクトサミンを添加した肝細胞におけるビタミンB12の肝細胞保護効果を示す試験結果の一例である。
【図11】D−ガラクトサミンの投与により作製したウィルス性肝障害モデルラットにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のASTおよびALT量の変化を示す試験結果の一例である。
【技術分野】
【0001】
本出願は、ビタミンB12またはその類縁体を含む肝臓保護剤、特に肝線維化抑制剤に関する。さらに本発明は、当該肝線維化抑制剤を含む経口摂取用組成物、医薬組成物、食品組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変などの肝臓疾患において、肝線維化の進行が観察される。肝線維化は細胞外マトリックスの沈着により引き起こされ、慢性肝炎から肝硬変への移行における病因の一つでもある。
【0003】
肝線維化における細胞外マトリックスの生産には、肝星細胞(伊東細胞、脂肪摂取細胞ともいう)の活性化が関与している。すなわち、肝星細胞は、前記肝臓疾患に伴う炎症、薬物などによる肝障害に起因する肝細胞の壊死になどより産生される各種サイトカインにより活性化され、筋線維芽細胞へと変化し、この筋線維芽細胞が細胞外マトリックスを生産することにより、肝線維化が進行する。
【0004】
一方で、肝細胞の壊死の有無に関わらず、アルコールやビタミンAなどの過剰摂取による肝星細胞(線維化の原因細胞)への直接的な作用によっても肝線維化は進行すると考えられている。したがって、肝線維化を予防または治療するためには、肝細胞の障害による肝線維化および肝星細胞の障害による肝線維化の双方に対し有効な手段を講じる必要がある。
【0005】
肝星細胞の活性化を阻害する物質を探索するための実験動物を用いた肝線維化の病態モデルについて、いくつかの報告がなされている。例えば、肝細胞壊死に起因する一連の肝線維化の病態は、生体内でCCl3ラジカルを発生する四塩化炭素(CCl4)を実験動物に長期間投与し、肝細胞の炎症性壊死を長期間持続することにより再現することができる(非特許文献1参照)。このような病態モデルにおいては、肝細胞の壊死の原因物質であるCCl3ラジカルの消去活性を有する抗酸化物質の投与により、各種サイトカインの生成およびそれに続く肝星細胞の活性化を抑制することができ、結果として肝線維化の進行を抑制することができると考えられている。
【0006】
一方で、ジメチルニトロソアミン(DMN)を実験動物に一定期間投与することにより、肝細胞壊死を伴わない肝線維化が発症することが知られている(非特許文献1参照)。このDMNを用いる病態モデルにおける肝線維化が進行する機序は、CCl4を用いる場合と明らかに異なっており、CCl4の場合は肝細胞の壊死に起因して肝線維化が進行するのに対し、DMNは静止期にある肝星細胞に働きかけ、活性化を促すことにより肝線維化を進行させるものと考えられる。したがって、肝星細胞の活性化を阻害する物質は、肝線維化症の予防および治療、さらには肝線維化を伴う肝疾患の予防および治療において有用であると考えられ、特に、DMNの投与による肝障害モデルにおいて肝線維化を抑制する物質は、肝星細胞に直接作用する肝線維化抑制剤となりうる可能性がある。
【0007】
天然物由来の食品に含まれる成分や長年にわたって使用されている漢方薬の成分は、一般に副作用が少ないなどの利点を有することから、近年において発生が増加している各種難治疾患に対してのその有用性が注目されている。雨谷らは、実験動物に四塩化炭素を投与した肝障害モデル、およびDMNを投与した肝障害モデルの双方において、生薬を有効成分とする漢方薬「小柴胡湯」が肝線維化抑制効果を有することを報告している(非特許文献1を参照)。しかし、小柴胡湯は漢方薬でありながら多くの副作用例が報告されている薬剤であり、死亡例も報告されている。また、医療用として使用されている小柴胡湯の使用禁忌として、肝硬変および肝癌の患者への投与が挙げられている。したがって、肝臓疾患の患者への投与において、より安全性の高い薬剤が強く求められている。
【0008】
レバー、卵、チーズなどの食品に含まれるビタミンB12は、シアノコバラミンとも呼ばれ、コリン環の中にコバルトイオンを含む構造を有し、いくつかの類縁体の存在も知られている(式I)。
【0009】
【化1】
【0010】
ビタミンB12は造血機能の促進効果を有するほか、DNA合成やタンパク質合成にも関与し、また調節性眼精疲労を改善する効果も知られている(非特許文献2)。また、ビタミンB12は水溶性ビタミンであるため体内に蓄積しにくい性質を有し、過剰症も報告されていないため、比較的高濃度で摂取することが可能である。
【0011】
さらに、ビタミンB12は肝臓に含まれる成分であることから、ビタミンB12の摂取は、肝機能異常・肝障害の際に、肝機能の回復を助けることが報告されている(例えば、特許文献1および2などを参照)。しかし、ビタミンB12の肝障害に対する治療効果が、具体的にどのような作用に基づくものであるのかについては報告されていなかった。特に、ビタミンB12およびその類縁体の、肝線維化に対する効果や、肝星細胞に対する作用についてはこれまで知られていなかった。
【特許文献1】特開平4−49239号公報
【特許文献2】特開平2−96532号公報
【非特許文献1】雨谷ら、漢方医学、第13巻、第8号、第233−242頁、1989年
【非特許文献2】第十三改正日本薬局方解説書(縮刷版)、廣川書店、第C−1272〜C−1279頁、1996年
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、かかる課題を解決する為に鋭意研究を進めたところ、ビタミンB12およびその類縁体が肝線維化抑制作用を有することを発見して本発明を完成させた。
本発明の目的は、肝線維化抑制作用を有するビタミンB12およびその類縁体を含む肝線維化抑制剤、肝臓保護剤、経口摂取用組成物、医薬組成物、食品組成物、食品および飲料を提供することである。
【0013】
すなわち本発明の一つの側面によれば、ビタミンB12、またはビタミンB12類縁体を含む肝線維化抑制剤が提供される。当該肝線維化抑制剤には、好ましくはビタミンB12が含まれる。
【0014】
ここで、ビタミンB12類縁体には、ビタミンB12分子中の1以上の二重結合の還元体、コバルト上の配位子の変換体、および分子中の水酸基などの官能基の変換体などが含まれる。本発明におけるのビタミンB12類縁体は、好ましくはメチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アクアコバラミンおよびアデノシルコバラミンから選択される。
【0015】
さらに本発明の別の側面によれば、肝線維化を伴う疾患を治療または予防するための、上記の肝線維化抑制剤を含む医薬組成物が提供される。
本発明の他の側面によれば、すなわち本発明の一つの側面によれば、ビタミンB12、またはビタミンB12類縁体を含む肝臓保護剤が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、肝線維化抑制効果を有し、ビタミンB12、またはその類縁体であるメチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アクアコバラミンおよびアデノシルコバラミンから選択される化合物を含む、肝臓保護剤が提供される。
【0016】
本発明の別の側面によれば、肝線維化を伴う疾患を治療または予防するための、前記肝線維化抑制剤を含む医薬組成物が提供される。
さらに本発明のその他の側面によれば、肝線維化を伴う疾患が、線維症、肝炎、肝硬変または肝癌である、前記医薬組成物が提供される。
【0017】
さらに本発明の別の側面によれば、前記肝線維化抑制剤を含む食品組成物または飲食物が提供される。
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
【0018】
本発明で用いられるビタミンB12およびその類縁体は、市販されているものを使用することができ、例えばロシュ・ビタミン・ジャパン株式会社、BASF武田ビタミン株式会社、和光純薬工業株式会社などから購入したものを使用することができる。購入したビタミンB12およびその類縁体はそのまま使用することもできるが、当該技術分野で通常知られた方法により精製した後に使用してもよい。また、例えば肝臓などの動物の組織からの抽出、またはB.megatherium、Flavobacterium solareまたはFl.devaransなどの微生物による発酵法により製造することができる。
【0019】
本明細書で用いられる用語「肝線維化抑制剤」とは、一般的には、肝星細胞の活性化の抑制、コラーゲン産生の抑制、マトリックスの産生の阻害などの、肝臓の線維化を抑制する働きを持つものを意味する。肝線維化を伴う疾患としては、限定はされないが、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変および肝癌などの各種肝疾患を挙げることができる。例えば、本発明の肝線維化抑制剤は、上記各種肝疾患の予防および/または治療における効果、ならびに肝臓保護効果が期待できる。
【0020】
本明細書で用いられる用語「肝臓保護剤」とは、一般的には、薬物や有害物質による肝障害、免疫学的肝障害、ウィルス性肝障害、脂肪肝、肝癌、アルコール性肝障害、肝硬変などによる肝臓機能の低下を抑制するもの、肝臓を保護するもの全般を意味する。
【0021】
本発明の肝線維化抑制剤は、複数の作用機序による肝線維化抑制作用、およびそれに起因する肝保護作用を発揮するものであってもよい。当該作用機序の例としては、i)炎症性の肝細胞の壊死を抑制し、肝臓組織内でのサイトカインの放出およびそれに起因する肝星細胞の活性化を抑制し、細胞外マトリックスの産生を抑制する;ii)肝星細胞に直接作用することにより当該細胞の活性化を抑制し、細胞外マトリックスの産生を抑制する;iii)産生された細胞外マトリックスの代謝を活性化する、などが考えられるが、本発明の肝線維化抑制剤の効果がその他の作用機序によるものであってもよい。一方で、本発明の肝線維化抑制剤は、主に単一の作用機序により、その効果を発揮するものであってもよい。
【0022】
本発明の肝線維化抑制剤は、医薬組成物の有効成分として使用することができる。当該医薬組成物は、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができ、非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0023】
当該医薬組成物は、一般に用いられる各種成分を含みうるものであり、例えば、1種もしくはそれ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤等を含みうる。また本発明の医薬組成物は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0024】
本発明の肝線維化抑制剤の投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い、発症後の経過時間等により、適宜選択することができ、本発明の医薬組成物は、治療有効量および/または予防有効量の肝線維化抑制剤を含むことができる。ビタミンB12およびその類縁体は過剰症に対する懸念の少ない比較的安全な化合物であるので、必要に応じて高濃度で摂取することも可能である。本発明においてビタミンB12またはその類縁体は、一般に0.00001〜10000mg/日/成人、好ましくは0.0001〜1000mg/日/成人の用量で使用されうる。当該医薬組成物の投与は、単回投与または複数回投与であってもよく、たとえば他の肝疾患治療剤、肝臓保護剤、肝線維化抑制剤などの他の薬剤と組み合わせて使用することもできる。
【0025】
本発明の食品組成物は、機能性飲料などの液体飲料を含む。当該食品組成物は、機能性食品として使用できるほか、医薬部外品、飲食物などの成分、食品添加物などとして使用することができる。また本明細書における食品組成物は、そのまま機能性食品として使用できるほか、飲食物、医薬品、医薬部外品、飲食物等の成分、食品添加物などとして使用することができる。当該使用により、肝線維化抑制効果および肝臓保護効果を有する飲食物、食品組成物または経口摂取用組成物の日常的および継続的な摂取が可能となり、効果的な肝線維化抑制効果および肝臓保護効果による体質改善、各種肝臓疾患の治療および発症の予防が可能となる。本発明の肝線維化抑制剤または肝臓保護剤を含む食品組成物、食品または飲料の例としては、肝線維化抑制効果もしくは肝臓保護効果を有する機能性食品、健康食品、一般食品(ジュース、菓子、加工食品等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)などが含まれる。本明細書における食品または飲料は、限定はされないが、ビタミンB12およびその類縁体の他に、鉄およびカルシウムなどの無機成分、ビタミンB12以外の種々のビタミン類、オリゴ糖およびキトサンなどの食物繊維、大豆抽出物などのタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖および乳糖などの糖類、椎茸などの植物抽出物などを含むことができる。
【発明の効果】
【0026】
以下の実施例で示すように、本発明の肝線維化抑制剤は、肝細胞障害に起因する肝線維化の抑制効果と、肝星細胞に直接作用することによる肝線維化の抑制効果の双方を有する。したがって本発明により、肝線維化を伴う各種肝臓疾患に対する治療および/または予防のための有効な手段が提供される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例で用いたビタミンB12、ブロモベンゼンおよびD−ガラクトサミンは、和光純薬工業株式会社より購入したものを使用した。またジメチルニトロソアミンは、シグマ社より購入したものを使用した。これらの試薬を投与する際には、必要に応じて蒸留水を溶媒として使用した。
【0028】
[実施例1]肝毒に対する肝細胞保護効果
ラットより単離した肝細胞を1×105cells/cm2の密度でポリスチレン培養プレートに播種し、10%血清入りWE培地で24時間初代培養した。播種後24時間の培地交換の際に、肝毒素としてブロモベンゼン(以下、BBとも称す)1mMおよび肝保護物質としてビタミンB12(0.4mM、0.2mM、0.1mM、0.05mM)を加えた。添加溶媒を加えてから24時間後にトリパンブルーを用いた細胞数計測法を用いて、生細胞数を計測した。
【0029】
結果を図1に示す。BB添加により、生細胞数は対照と比べて半分にまで減少したのに対し、ビタミンB12の添加によって、0.4mM、0.2mM、および0.1mMの濃度で有意に生細胞数が上昇した。つまり、ビタミンB12にはBBによる肝細胞障害に対する保護効果があること、その保護効果は濃度依存的であることが確認された。
【0030】
[実施例2]急性肝障害に対するビタミンB12の肝保護効果
6週齢、雄性、BALB/cマウスにジメチルニトロソアミン(以下、DMNとも称す)20mg/kg体重を腹腔内投与することにより、急性肝障害モデルを作製した。また、DMN(20mg/kg体重)と、肝保護物質としてビタミンB12(10mg/kg体重)とを同時に腹腔内投与したモデルを作製した。24時間後および72時間後に採血を行い、血清中ASTおよびALTの測定を行った。
【0031】
結果を図2および図3に示す。DMN投与により72時間後にASTおよびALTが対照と比べて、有意に上昇した。このことより、急性肝障害が誘導されていることが確認された。さらに、ビタミンB12(10mg/kg体重)を腹腔内投与するとAST、ALTともに上昇が抑制された。このことより、ビタミンB12はDMN投与による急性肝障害モデルに対して、肝保護効果を示すことが確認された。
【0032】
[実施例3]慢性肝障害に対するビタミンB12の肝保護効果
急性肝障害におけるビタミンB12の肝保護効果をふまえて、肝硬変や肝がんなどの重篤な肝疾患の原因になる慢性肝障害(肝線維化)におけるビタミンB12の効果を以下の方法により検討した。6週齢、雄性、BALB/cマウスにジメチルニトロソアミン(DMN)10mg/kg体重を週の最初3日間腹腔内投与し、それを4週間継続し、慢性肝障害(肝線維化)モデルを作製した。また、DMN(10mg/kg体重)と、肝保護物質としてビタミンB12(10mg/kg体重)とを同時に腹腔内投与したモデルを作製した。4週目の終りに採血を行い、血清中のASTおよびALTの測定を行った。
【0033】
結果を図4および図5に示す。DMN投与により4週間後にAST、ALTが対照と比べて、有意差があるまで上昇した。このことより、慢性肝障害が誘導されたことが確認された。さらに、ビタミンB12(10mg/kg体重)を腹腔内投与するとAST、ALTともに上昇が抑制された。このことより、DMN投与による慢性肝障害(肝線維化)についてもビタミンB12が肝保護効果を示すことが確認された。
【0034】
[実施例4]慢性肝障害マウスの肝臓組織切片の観察
実施例3の手順で作成したDMN投与慢性肝障害マウス及び、DMNと同時に肝保護物質として、ビタミンB12(10mg/kg体重)を同時に腹腔内投与したマウスにおいて、4週目の終りに肝臓を採取し、PBSでよく洗浄後、脱水を行った。その後、10%ホルマリンに肝臓を浸して、固定し、肝臓組織切片の作製とEV(エラスチカ・ワーギンソン)染色を行った。
【0035】
その結果を図6および図7に示す。対照では中心静脈の周り1層の細胞だけが赤く染まっており、線維化がまったく起こっていない事が観察された。DMN投与マウスの肝臓では、中心静脈から線維化が進行し、組織の方へ線維化が広がっていることが観察された。それに比べて、ビタミンB12投与マウスの肝臓では中心静脈から内部に少し線維化が観察されるが、組織の方に広がっていることは無く、肝線維化が抑制されていることが観察された。
【0036】
[実施例5] 肝臓より抽出したmRNAを用いたRT−PCR法
実施例3の手順で作成したDMN投与慢性肝障害マウス及び、DMNと同時に肝保護物質として、ビタミンB12(10mg/kg体重)を同時に腹腔内投与したマウスにおいて、4週目の終りに肝臓を採取し、その半分をホモジナイズし、セパゾールで処理することでmRMAを抽出した。mRNA抽出後RT反応を行い、cDNAとした。その後、PCRキット(TAKARA)を用いて、肝線維化の指標であるHSP47、α−平滑筋アクチン(alpha smooth muscle actin:α−SMA)の発現を確認した。
【0037】
その結果を図8に示す。DMN投与慢性肝障害マウスから取り出した肝臓のmRNAにおいて、HSP47とα−SMAの強い発現が確認された。HSP47、α−SMAは共に肝線維化のマーカーであり、特にα−SMAは肝星細胞の活性化のマーカーとして知られている。
【0038】
今回、ビタミンB12を投与することでHSP47とα−SMAの発現が両方抑制された。特に、α−SMAの発現は強く抑制されており、ビタミンB12は肝線維化抑制に効果を示すことが示唆された。
【0039】
[実施例6] 肝細胞活性化効果
ラットより単離した肝細胞を1×105cells/cm2の密度でポリスチレン培養プレートに播種し、10%血清入りWE培地で初代培養した。播種後4時間の培地交換の際に、肝細胞活性化物質としてビタミンB12(1.0、0.5、0.25mg/ml)を加えた。添加溶媒を加えてから24時間後に、生細胞数を計測した。
【0040】
その結果を図9に示す。ビタミンB12添加群のいずれにおいても肝細胞の生存率の増加が確認された。このことより、ビタミンB12は肝細胞を活性化しその増殖を促進することが示唆された。
【0041】
[実施例7] 肝毒素(GalN)を用いたビタミンB12による肝細胞保護効果
ラットより単離した肝細胞を1×105cells/cm2の密度でポリスチレン培養プレートに播種し、10%血清入りWE培地で初代培養した。播種後4時間の培地交換の際に、アポトーシス性の肝毒素としてD−ガラクトサミン(GalN)1mM及び、肝保護物質としてビタミンB12(1.0、0.5、0.25mg/ml)を加えた。添加溶媒を加えてから24時間後に、Cell Counting Kit−8(和光純薬工業(株))を用いて、生細胞数を計測した。
【0042】
その結果を図10に示す。ビタミンB12の添加濃度が0.5mg/ml以上の群において細胞の生存率の向上が確認された。このことより、ビタミンB12の肝細胞保護効果が確認された。
【0043】
[実施例8] ウィルス性肝炎モデルラットを用いた肝炎抑制効果
Wistar系ラット(雄性、9週齢)に被検物質として水(Normal群、Control群)、ビタミンB12(27mg/Kg)を10日間経口投与(VB12投与群)し、10日後にガラクトサミン(GalN)を腹腔内投与することで、肝炎モデルを作製した(Normal群には生理食塩水を腹腔内投与した)。GalN投与から6時間、24時間、および48時間後に採血を行い、血清中ASTおよびALTの測定を行った(日本臨床化学会(JSCC)標準化対応法により測定した)。
【0044】
その結果を図11に示す。GalN投与により24時間後には、Control群およびVB12投与群のいずれにおいてもASTおよびALTの値はともに上昇したが、VB12投与群においてその上昇が抑制されることが確認された。また、48時間後には、Control群およびVB12投与群のいずれにおいてもASTおよびALTの値はともに回復傾向を示したが、Control群よりもVB12投与群においてASTおよびALTはより低い値であった。これより、ビタミンB12の投与により肝炎の発生が抑制され、また肝炎により発生する肝細胞の損傷が早期に回復することが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】肝毒素としてブロモベンゼンを添加した肝細胞におけるVB12の肝細胞保護効果を示す試験結果の一例である。
【図2】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した急性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のAST量の変化を示す試験結果の一例である。
【図3】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した急性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のALT量の変化を示す試験結果の一例である。
【図4】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した慢性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のAST量の変化を示す試験結果の一例である。
【図5】ジメチルニトロソアミンの投与により作製した慢性肝障害モデルマウスにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のALT量の変化を示す試験結果の一例である。
【図6】慢性肝障害モデルマウスおよび対照のマウスの肝臓組織切片の写真の一例である。
【図7】ビタミンB12を投与した慢性肝障害モデルマウスの肝臓組織切片の写真の一例である。
【図8】DMNおよびビタミンB12の投与によるHSP47およびα−SMAの発現変化を表す試験結果の一例である。
【図9】肝細胞におけるビタミンB12の肝細胞活性化効果を示す試験結果の一例である。
【図10】肝毒素としてD−ガラクトサミンを添加した肝細胞におけるビタミンB12の肝細胞保護効果を示す試験結果の一例である。
【図11】D−ガラクトサミンの投与により作製したウィルス性肝障害モデルラットにおいて、ビタミンB12の投与による血清中のASTおよびALT量の変化を示す試験結果の一例である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB12、またはメチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アクアコバラミンおよびアデノシルコバラミンから選択されるビタミンB12類縁体を含む、肝線維化抑制剤。
【請求項2】
ビタミンB12を含む、請求項1に記載の肝線維化抑制剤。
【請求項3】
肝線維化を伴う疾患を治療または予防するための、請求項1または2に記載の肝線維化抑制剤を含む医薬組成物。
【請求項4】
肝線維化を伴う疾患が、線維症、肝炎、肝硬変または肝癌である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の肝線維化抑制剤を含む食品組成物。
【請求項1】
ビタミンB12、またはメチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アクアコバラミンおよびアデノシルコバラミンから選択されるビタミンB12類縁体を含む、肝線維化抑制剤。
【請求項2】
ビタミンB12を含む、請求項1に記載の肝線維化抑制剤。
【請求項3】
肝線維化を伴う疾患を治療または予防するための、請求項1または2に記載の肝線維化抑制剤を含む医薬組成物。
【請求項4】
肝線維化を伴う疾患が、線維症、肝炎、肝硬変または肝癌である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の肝線維化抑制剤を含む食品組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−22088(P2006−22088A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167272(P2005−167272)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】
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