説明

肝線維化抑制剤

【課題】肝線維化抑制剤並びに、該薬剤のスクリーニング方法、肝線維化の抑制方法、及び該方法に基づく肝線維化疾患の治療又は予防方法を提供する。
【解決手段】コンドロイチン硫酸プロテオグリカン分解酵素であるコンドロイチナーゼABC、または、ADAMTS-4をはじめとしたコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する物質、更にコンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸転移酵素であるC4ST-1、C6ST-1、C6ST-2の発現の抑制剤であるsiRNAなどを有効成分として含む、肝硬変などの肝線維化疾患の治療又は予防に好適な、肝線維化抑制剤、並びに、該薬剤のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝線維化抑制剤、肝線維化の抑制方法、及び該方法に基づく肝線維化疾患の治療又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の慢性線維化疾患は、肝臓で発症しうる慢性炎症状態の終末像の総称であり、組織の過剰な線維化を伴う。肝臓の慢性線維化疾患は、進行性の肝臓機能不全を経て死に至ることが多い重篤な疾患群であるが、未だに決定的な治療法が存在しない。現時点では、肝硬変症に対して肝移植による治療が行われているものの、それらの治療法では患者のQOL(quality of life)が著しく阻害されるばかりか、移植した臓器が再度線維化に陥るケースも多い。最近では、TGF-β阻害剤やアンギオテンシン阻害剤などが線維化疾患に対する新規の治療剤として期待されているが、その有効性は確立されていない。このため、患者のQOLを向上させ、肝線維化の進行を有効に阻止又は遅延させることができる新しい薬剤の開発が切に望まれている。
【0003】
現在、肝線維化疾患の候補治療薬として、慢性炎症を抑制する副腎皮質ステロイド、コルヒチン、IL-10など;線維芽細胞を活性化するTGF-β阻害剤、HGF(TGF-βの作用を抑制)、エンドセリン阻害剤、アンギオテンシン阻害剤など;コラーゲンを除去するMMP(matrix metalloproteinase;マトリックス・メタロプロテイナーゼ)などが期待されているが、いずれも治療法の確立には至っていない(非特許文献1[最新総説]、並びに非特許文献2及び3)。
【0004】
プロテオグリカン(PG)は、コア蛋白質とよばれる蛋白質に、1本以上のグリコサミノグリカン(GAG)鎖が共有結合している構造をもつ分子である。GAG鎖の特異的な糖鎖構造がPGの多彩な機能を担うと考えられている。PGは、GAG鎖の種類に基づいて、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、ケタラン硫酸プロテオグリカン(KSPG)と4つに大別される(非特許文献4及び5[総説])。とくにHSPGは多彩なサイトカイン、ケモカインと結合し、その機能を大きく修飾することから良く研究されてきた。
【0005】
一方、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)については、胎生期には必須の分子であり、各臓器に豊富に存在するが出生・成長・老化に伴い徐々に減少することが知られている。しかし驚くべきことに、その特性の多彩さからか、CSPGの生体内機能は未だ明らかにされていない。一方、CSPGについて、肝硬変や肺線維症などの病変臓器で増加しているとの報告(非特許文献6及び7)がある。しかし、それら疾患におけるCSPG増加の意義は全く明らかになっていない。近年では、CSPGを遺伝的に欠損させたマウスが胎生致死や器官形成不全に陥ることが判明したことから、CSPGは生体に必須の分子であるとの認識が強まっている。
【0006】
コンドロイチナーゼは、コンドロイチン硫酸(コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)を分解する活性を有する細菌性の酵素として知られている。コンドロイチナーゼを用いた治療薬としては、コンドロイチナーゼABCを用いる椎間板ヘルニアの治療薬(特許文献1)、コンドロイチナーゼAC又はコンドロイチナーゼB創傷治癒促進薬(特許文献2)、コンドロイチナーゼAC又はコンドロイチナーゼBを用いた強皮症、乾癬、ケロイド及び肺線維症の治療薬(特許文献3)などが知られている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,001,630号明細書
【特許文献2】米国特許第5,997,863号明細書
【特許文献3】国際公開第2001/039795号パンフレット
【非特許文献1】Bataller R & Brenner DA, J. Clin. Invest. (2005) 115:209-218
【非特許文献2】Iredale JP, BMJ (2004) 327:143-147
【非特許文献3】Bissell DM, Exp. Mol. Med. (2001) 33:179-190
【非特許文献4】Lin X, Development (2004) 131:6009-6021
【非特許文献5】Hacker U et al. Nature Rev. Cell Biol. (2005) 6:530-541
【非特許文献6】Kovalski I et al., Orv Hetil. (1993) 134:p.2019-2026
【非特許文献7】Westergren-Thorsson G et al., J Clin Invest. (1993) 92:p.632-637
【発明の開示】
【0008】
本発明は、肝線維化疾患の治療又は予防に有用な、肝組織における線維化を抑制できる薬剤、および該薬剤を有効成分とする肝線維化疾患の治療剤、並びに、肝線維化抑制剤のスクリーニング方法を提供することを1つの目的とする。
【0009】
本発明者らは、そのような薬剤を開発するため鋭意研究を重ねるうち、これまで肝線維化疾患の病因とはされていなかったコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の過剰な蓄積が、肝の組織の線維化を促進するのではないかと考えた。本発明者らは、この考えに基づいて研究を進めた結果、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン分解酵素であるコンドロイチナーゼ(コンドロイチネース)ABCが線維化肝に蓄積したCSPGを効率よく分解できること、そしてコンドロイチナーゼABCをin vivo投与することにより肝組織の線維化を顕著に抑制できることを見出した。さらに、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの一つであるversicanのコアタンパク質を切断する機能を有する、ADAMTS-4(A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)という蛋白質の組み替えペプチドを投与することによっても、同様の治療効果を獲得できた。即ち、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの蓄積あるいは生合成を阻害することによって、肝線維化を抑制させることができることを実証し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、肝線維化抑制剤、および該薬剤を有効成分とする肝線維化疾患の治療剤、並びに、肝線維化抑制剤のスクリーニング方法等に関し、より具体的には、
〔1〕コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する物質を有効成分として含む、肝線維化抑制剤、
〔2〕前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン分解促進作用を有する物質である、〔1〕に記載の薬剤、
〔3〕前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成阻害作用を有する物質である、〔1〕に記載の薬剤、
〔4〕前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化作用を有する物質である、〔1〕に記載の薬剤、
〔5〕前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸化阻害作用を有する物質である、〔1〕に記載の薬剤、
〔6〕肝においてコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積が阻害されることを特徴とする、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の薬剤、
〔7〕肝線維化疾患の治療用または予防用の、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の薬剤、
〔8〕前記肝線維化疾患が、慢性肝疾患である、〔7〕に記載の薬剤、
〔9〕前記肝線維化疾患が、慢性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝不全、または肝癌である、〔7〕に記載の薬剤、
〔10〕被検試料から、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する作用を有する物質を選択することを特徴とする、肝線維化抑制剤のスクリーニング方法、
〔11〕以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の作用を有する物質を選択する工程を含む、〔10〕に記載のスクリーニング方法、
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進作用
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成阻害作用
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの脱硫酸化作用
(d)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸化阻害作用
〔12〕前記肝線維化抑制剤が、肝線維化疾患の治療用または予防用である、〔10〕または〔11〕に記載のスクリーニング方法、
を、提供するものである。
また、本発明は以下を包含する。
〔13〕コンドロイチナーゼABCを有効成分として含む、肝線維化抑制剤。
〔14〕慢性肝疾患の治療用又は予防用の、上記〔13〕に記載の肝線維化抑制剤。
〔15〕慢性肝疾患が肝硬変である、上記〔14〕に記載の肝線維化抑制剤。
〔16〕コンドロイチナーゼABCがプロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)由来である、上記〔13〕〜〔15〕のいずれかに記載の肝線維化抑制剤。
さらに本発明は、以下に関する。
〔17〕〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の薬剤の、肝線維化抑制剤の製造における使用、
〔18〕〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の薬剤を、個体(患者等)へ投与する工程を含む、肝線維化の治療方法、
〔19〕〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の薬剤および薬学的に許容された担体を含んでなる組成物。
【0011】
本発明によって、肝硬変の発症にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成や蓄積が関係していることが明らかになった。コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成や蓄積を阻害することにより肝線維化が抑制されることが示された。これまでにない新しいコンセプトの肝線維化疾患の治療薬が提供できることになる。特に肝線維化は現代社会で患者数が増大している、慢性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝不全、肝癌など慢性肝疾患と密接に関連しており、新しいコンセプトの治療薬剤は医療上また産業上も重要な意義を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
代表的な慢性肝疾患の一つである肝硬変に伴う病態として、肝における線維化がある。本発明者らは、肝における線維化状態の改善を肝硬変治療の有効な方法の一つとするため、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの機能に着目した。そして、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの蓄積を抑制する状態を肝硬変モデルマウスにおいて作出し、詳細に解析したところ、野生型の肝に比してコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの蓄積が改善している細胞が多数観察されるとともに、肝硬変の病態が改善された。即ち、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害すると、肝硬変に深く関与している肝におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの異常蓄積状態の改善が促進され、肝線維化の改善につながることを見出した。
【0013】
本発明は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する物質を有効成分として含む、肝線維化抑制剤に関する。
本発明の「コンドロイチン硫酸プロテオグリカン」は、プロテオグリカンの一つであり、代表的な硫酸化ムコ多糖であるコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸とタンパク質(コアタンパク質)との共有結合化合物の総称である。本発明における「コンドロイチン硫酸プロテオグリカン」は、ヒトのコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであることが好ましいが、その由来する生物種は特に制限されず、ヒト以外の生物におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンと同等なタンパク質(ホモログ・オルソログ等)も本発明における「コンドロイチン硫酸プロテオグリカン」に含まれる。例えば、ヒトコンドロイチン硫酸プロテオグリカンに相当するタンパク質を有し、かつ、ヒトのコンドロイチン硫酸プロテオグリカンと同等なタンパク質を有する生物であれば、本発明を実施することは可能である。また本発明におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンには、炎症などで一時的にグリコサミノグリカン(GAG)鎖が結合しプロテオグリカンになるもの、いわゆるパートタイムプロテオグリカンも含まれる。
【0014】
以下の記載において、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンとして、aggrican、versican、neurocan、brevican、βglycan、Decorin、Biglycan、Fibromodulin、PG-Lbを例示する。本発明におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンはこれらに限られず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンとしての活性を持つ物質であればよい。ここでコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの活性とは、例えば細胞接着能、または細胞増殖促進などがあげられる。当業者は次のような方法でコンドロイチン硫酸プロテオグリカンとしての活性を評価することができる。コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのアミノ酸配列の一部の領域を含むタンパク質、または一部の領域と高い相同性(通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有するタンパク質の存在下で腫瘍細胞(例えばCaco-2、HT-29細胞など)の分裂増殖を測定する。分裂増殖を促進する効果を持つタンパク質をコンドロイチン硫酸プロテオグリカン活性を有するタンパク質として判定できる(Int J Exp Pathol. 2005 Aug;86(4):219-29およびHistochem Cell Biol. 2005 Aug;124(2):139-49)。ここで高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、 97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。
【0015】
本発明における「肝線維化」とは、肝組織における線維化状態を指す。例えば、肝組織におけるコラーゲンなどの細胞外基質の蓄積、線維芽細胞の活性化などがあげられるが、これらには限られない。
本発明におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「生成もしくは蓄積を阻害する」とは、例えば、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「分解促進」、「合成阻害」、「脱硫酸化」、「硫酸化阻害」などがあげられるが、これには限らず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの存在量、機能または活性が比較対象よりも低下または消失させることをいう。本発明において、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「生成もしくは蓄積を阻害する物質」とは、特に制限されないが、好ましくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「分解促進作用を有する物質」、「合成阻害作用を有する物質」、「脱硫酸化作用を有する物質」、または「硫酸化阻害作用を有する物質」である。
【0016】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「分解促進」とは、たとえばコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアとなるタンパク質の発現の阻害・存在の減少が上げられる。ここで「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアとなるタンパク質」とは、例えば、matrix typeコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであれば、aggrican、versican、neurocan、brevicanなどのコアタンパク質があげられる。また膜型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであれば、例えばβglycan、Decorin、Biglycan、Fibromodulin、PG-Lbなどのコアタンパク質があげられる。これらはいずれも例示であり、これらに限らず広くコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアとなるタンパク質であればよい。
【0017】
「発現」とは遺伝子からの「転写」あるいはポリペプチドへの「翻訳」及びタンパク質の「分解抑制」によるものが含まれる。「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアとなるタンパク質の発現」とは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアとなるタンパク質をコードする遺伝子の転写および翻訳が生じること、またはこれらの転写・翻訳によりコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアとなるタンパク質が生成されることを意味する。また、「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアとなるタンパク質の機能」とは、例えば、該タンパク質がコンドロイチン硫酸と結合する機能や、その他の細胞中の構成要素との結合等を挙げることができる。上述の各種機能は、当業者においては、一般的な技術を用いて、適宜、評価(測定)することが可能である。具体的には、後述の実施例に記載の方法、あるいは該方法を適宜改変して実施することができる。
【0018】
さらにまた、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「分解促進」は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンを切断あるいは分解する酵素またはこれらに関連する酵素の発現の上昇であってもよい。これらの酵素の例としては、メタロプロテイナーゼ(例えばADAMTS-1、ADAMTS-4、ADAMTS-5など)やコンドロイチナーゼ、Calpain Iなどがあげられるが、これらには限られない。また「分解促進」は、これらの酵素または酵素の一部の投与により生ずる、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの存在量の減少であってもよい。
【0019】
また「分解促進」は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの発現の抑制を促す物質の投与により生じるものであってもよい。これらの物質には例えばn-butylate、Diethylcarbamazepine、Tunicamycin、non-steroidal estrogen、Cyclofenil deiphenolなどがあげられるが、これらには限られない。
【0020】
「分解促進作用を有する物質」の好ましい態様としては、例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物(核酸)を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質をコードする遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質をコードする遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質をコードする遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸
【0021】
また「分解促進作用を有する物質」としては例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質と結合する抗体
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有するコンドロイチン硫酸プロテオグリカン変異体
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質と結合する低分子化合物
【0022】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「合成阻害」とは、たとえばグリコサミノグリカンの生合成の阻害、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成に関わる酵素の阻害などがあげられるが、必ずしもこれらに限らず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンが合成される過程のいずれかを阻害することを指す。
【0023】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成を阻害する物質として、グリコサミノグリカンの生合成を阻害する物質としては、たとえば、β-D-xyloside、2-deoxy-D-glucose (2-DG)、ethane-1-hydroxy-1,1-diphosphonate (ETDP)、5-hexyl-2-deoxyuridine (HUdR)などがあげられる。これらをはじめとした物質によりグリコサミノグリカンの生合成が阻害され、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成が阻害される。
【0024】
一方、コンドロイチン合成に関わる酵素としては、例えば、GalNAc4ST-1、GalNAc4ST-2、GALNAC4S-6ST、UA2OST、GalT-I、GalT-II、GlcAT-I、XylosylTなどがあげられる。これらをはじめとした酵素を阻害、発現の抑制等を行うことにより、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成が阻害される。
【0025】
「合成阻害作用を有する物質」の好ましい態様としては、例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物(核酸)を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成酵素をコードする遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成酵素をコードする遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成酵素をコードする遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸
【0026】
また「合成阻害作用を有する物質」としては例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成酵素と結合する抗体
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成酵素に対してドミナントネガティブの性質を有するコンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成酵素変異体
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成酵素と結合する低分子化合物
【0027】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「脱硫酸化」とは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン中の硫酸基が除かれることを指し、例えば内在性あるいは外部から投与される脱硫酸化酵素による脱硫酸化、または硫酸化を抑制する化合物による硫酸化の抑制などがあげられるが、これらに限られず、硫酸基が除去される過程を指す。
【0028】
脱硫酸化酵素としては、例えば、Chondroitin-4-sulfatase、Chondroitin-6-sulfataseがあげられる。また、硫酸化を抑制する化合物としては、たとえばChlorate、EGF receptor antagonistなどがあげられる。
【0029】
「脱硫酸化作用を有する物質」の好ましい態様としては、例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物(核酸)を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化酵素抑制タンパク質をコードする遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化酵素抑制タンパク質をコードする遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化酵素抑制タンパク質をコードする遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸
【0030】
また「脱硫酸化作用を有する物質」としては例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化酵素抑制化合物と結合する抗体
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化酵素抑制タンパク質に対して、ドミナントネガティブの性質を有するコンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化抑制タンパク質変異体
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化酵素抑制化合物と結合する低分子化合物
ここで「脱硫酸化抑制化合物」は、タンパク質には限られず、例えば補酵素など非タンパク質化合物を含む。
【0031】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの「硫酸化阻害作用」とは、例えば、硫酸基転移酵素の阻害があげられるが、これに限らず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンが合成される過程に生じる硫酸化が阻害されることを指す。
硫酸基転移酵素としては、例えば、C4ST-1(Chondroitin D-N-acetylgalactosamine-4-O-sulfotransferase 1)、C4ST-2(Chondroitin D-N-acetylgalactosamine-4-O-sulfotransferase 2)、C4ST-3(Chondroitin D-N-acetylgalactosamine-4-O-sulfotransferase 3)、D4ST、C6ST-1、C6ST-2などがあげられる。
【0032】
「硫酸化阻害作用を有する物質」の好ましい態様としては、例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物(核酸)を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の発現をRNAi効果により阻害する作用を有する核酸
【0033】
また「硫酸化阻害作用を有する物質」としては、例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を挙げることができる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸基転移酵素と結合する抗体
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸基転移酵素変異体
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸基転移酵素と結合する低分子化合物
【0034】
上記例示した酵素は、一遺伝子に対応する一酵素を示すのみならず、ある特徴を共有する酵素群をも含む。例えばコンドロイチナーゼは、ムコ多糖分解酵素という特徴は共有するが基質特異性などの異なるABC、AC、Bなどの酵素の総称である。例えば、コンドロイチナーゼAC Iは、コンドロイチン硫酸類 (A、CまたはE)、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸-デルマタン硫酸ハイブリッド型およびヒアルロン酸のN-アセチルヘキソサミニド結合を脱離反応的に切断して、非還元末端にΔ4-グルクロン酸残基を持つオリゴ糖を生成する。本酵素はデルマタン硫酸 (コンドロイチン硫酸B,ヘキスロン酸としてL-イズロン酸を持つもの)、ケタラン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンには作用しない。また、コンドロイチナーゼAC II は、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸Aおよびコンドロイチン硫酸CのN-アセチルヘキソサミニド結合を脱離反応的に切断して、Δ4-不飽和二糖(ΔDi-0S、ΔDi-4SおよびΔDi-6S)を生成する。本酵素はヒアルロン酸にもよく作用する。デルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B)には作用せず、本酵素の競合的阻害剤となる。コンドロイチナーゼB(デルマタナーゼ)は、デルマタン硫酸のL-イズロン酸に結合したN-アセチルガラクトサミニド結合を脱離反応的に切断し、非還元末端にΔ4-ヘキスロン酸残基を持つオリゴ糖(2糖および4糖)を生成する。本酵素はL-イズロン酸を含まないコンドロイチン硫酸Aおよびコンドロイチン硫酸Cには作用しない。デルマタン硫酸の硫酸基を除去した誘導体であるデルマタンは、この酵素の基質とはならない。デルマタン硫酸のL-イズロン酸単位の第2位が硫酸化されている箇所はこの酵素によってよりよく切断される。コンドロイチナーゼABCは、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸、コンドロイチンおよびヒアルロン酸のN-アセチルヘキソサミニド結合を脱離反応的に切断して、非還元末端にΔ4-ヘキスロン酸残基を持つ二糖を主に生成する。本酵素はケタラン硫酸、ヘパリンおよびヘパラン硫酸には作用しない。コンドロイチナーゼはこのような、異なる性質を持っていながらもムコ多糖分解酵素という共通の性質を持つ酵素の総称であり、必ずしもここで例示したChondroitinase ACI、Chondroitinase AC II、Chondrotinase B、Chondroitinase ABCには限られない。
【0035】
また、このような特徴を共有する酵素群は、必ずしもゲノムDNA上の一遺伝子に対応するものではない。例えば、chondroitin-4-sulfatase、chondroitin-6-sulfataseは、ともにゲノムデータベース上の複数のアクセッション番号で参照される配列(例えばGenbankアクセッション番号NT_039500(その一部はアクセッション番号CAAA01098429(配列番号:68)としてあらわされる)、NT_078575、NT_039353、NW_001030904、NW_001030811、NW_001030796、NW_000349)として公共遺伝子データベースGenbank上で検索される。
【0036】
上記に例示したもののうち個別の遺伝子に対応しているものは下記のように示される。すなわち、上記のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンとして例示した、aggrican、versican、neurocan、brevican、βglycan、Decorin、Biglycan、Fibromodulin、PG-Lb、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンを切断あるいは分解する酵素またはこれらに関連する酵素として例示した、ADAMTS-1、ADAMTS-4、ADAMTS-5、Calpain I、コンドロイチン合成に関わる酵素として例示した、GalNAc4ST-1、GalNAc4ST-2、GALNAC4S-6ST、UA2OST、GalT-I、GalT-II、GlcAT-I、XylosylT、硫酸基転移酵素として例示した、C4ST-1、C4ST-2、C4ST-3、D4ST、C6ST-1、C6ST-2をそれぞれヒトにおいてコードする遺伝子の公共遺伝子データベースGenbankにおけるアクセッション番号、塩基配列、アミノ酸配列は、次の通りである。
aggrican(アクセッション番号NM_007424、塩基配列の配列番号:1、アミノ酸配列の配列番号:2)
versican(アクセッション番号BC096495、塩基配列の配列番号:3、アミノ酸配列の配列番号:4)
neurocan(アクセッション番号NM_010875、塩基配列の配列番号:5、アミノ酸配列の配列番号:6)
brevican(アクセッション番号NM_007529、塩基配列の配列番号:7、アミノ酸配列の配列番号:8)
βglycan(アクセッション番号AF039601、塩基配列の配列番号:9、アミノ酸配列の配列番号:10)
Decorin(アクセッション番号NM_007833、塩基配列の配列番号:11、アミノ酸配列の配列番号:12)
Biglycan(アクセッション番号BC057185、塩基配列の配列番号:13、アミノ酸配列の配列番号:14)
Fibromodulin(アクセッション番号NM_021355、塩基配列の配列番号:15、アミノ酸配列の配列番号:16)
PG-Lb(アクセッション番号NM_007884、塩基配列の配列番号:17、アミノ酸配列の配列番号:18)
ADAMTS-1(アクセッション番号NM_009621、塩基配列の配列番号:19、アミノ酸配列の配列番号:20)
ADAMTS-4(アクセッション番号NM_172845、塩基配列の配列番号:21、アミノ酸配列の配列番号:22)
ADAMTS-5(アクセッション番号AF140673、塩基配列の配列番号:23、アミノ酸配列の配列番号:24)
Calpain I(アクセッション番号NM_007600、塩基配列の配列番号:25、アミノ酸配列の配列番号:26)
GalNAc4ST-1(アクセッション番号NM_175140、塩基配列の配列番号:27、アミノ酸配列の配列番号:28)
GalNAc4ST-2(アクセッション番号NM_199055、塩基配列の配列番号:29、アミノ酸配列の配列番号:30)
GALNAC4S-6ST(アクセッション番号NM_029935、塩基配列の配列番号:31、アミノ酸配列の配列番号:32)
UA2OST(アクセッション番号NM_177387、塩基配列の配列番号:33、アミノ酸配列の配列番号:34)
GalT-I(アクセッション番号NM_016769、塩基配列の配列番号:35、アミノ酸配列の配列番号:36)
GalT-II(アクセッション番号BC064767、塩基配列の配列番号:37、アミノ酸配列の配列番号:38)
GlcAT-I(アクセッション番号BC058082、塩基配列の配列番号:39、アミノ酸配列の配列番号:40、またはアクセッション番号NM_024256、塩基配列の配列番号:41、アミノ酸配列の配列番号:42)
XylosylT(アクセッション番号NM_145828、塩基配列の配列番号:43、アミノ酸配列の配列番号:44)
C4ST-1(アクセッション番号NM_021439、塩基配列の配列番号:45、アミノ酸配列の配列番号:46)
C4ST-2(アクセッション番号NM_021528、塩基配列の配列番号:47、アミノ酸配列の配列番号:48)
C4ST-3(アクセッション番号XM_355798、塩基配列の配列番号:49、アミノ酸配列の配列番号:50)
D4ST(アクセッション番号NM_028117、塩基配列の配列番号:51、アミノ酸配列の配列番号:52)
C6ST-1(アクセッション番号NM_016803、塩基配列の配列番号:53、アミノ酸配列の配列番号:54)
C6ST-2(アクセッション番号AB046929、塩基配列の配列番号:55、アミノ酸配列の配列番号:56)
【0037】
上記以外のタンパク質であっても、例えば配列表に記載された配列と高い相同性(通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有し、かつ、上記タンパク質が有する機能(例えば細胞内の構成成分と結合する機能等)を持つタンパク質は、本発明の上記タンパク質に含まれる。上記タンパク質とは、例えば、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が付加、欠失、置換、挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、通常変化するアミノ酸数が30アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内である。
【0038】
本発明における上記遺伝子には、例えば、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物における内在性の遺伝子(ヒトの上記遺伝子のホモログ等)が含まれる。
【0039】
また、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物の内在性のDNAは、一般的に、それぞれ配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55のいずれかに記載のDNAと高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、該DNAは、生体内から単離した場合、それぞれ配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件を挙げることができる。
【0040】
当業者は、上記の高い相同性を持つタンパク質から、上記のタンパク質に機能的に同等なタンパク質を、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進作用、合成阻害作用、脱硫酸化作用または硫酸化阻害作用の活性測定方法を用いることにより適宜取得することができる。具体的な活性測定方法は、後出の本発明におけるスクリーニング方法の項にて記載される。また当業者においては、他の生物における上記遺伝子に相当する内在性の遺伝子を、上記遺伝子の塩基配列を基に適宜取得することが可能である。なお、本明細書においては、ヒト以外の生物における上記タンパク質および遺伝子に相当する上記タンパク質および遺伝子、あるいは、上述のタンパク質および遺伝子と機能的に同等な上記タンパク質および遺伝子も、単に上記の名称で記載する場合がある。
【0041】
本発明の上記タンパク質は、天然のタンパク質としてのほか、遺伝子組み換え技術を利用した組換えタンパク質として調製することができる。天然のタンパク質としては、例えば上記タンパク質が発現していると考えられる細胞(組織)の抽出液に対し、上記タンパク質に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを用いる方法により調製することが可能である。一方、組換えタンパク質は、例えば、上記タンパク質をコードするDNAで形質転換した細胞を培養することにより、調製することが可能である。本発明の上記タンパク質は、例えば、後述のスクリーニング方法において好適に用いられる。
【0042】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。また所謂PNA (peptide nucleic acid)等の化学合成核酸アナログも、本発明の核酸に含まれる。PNAは、核酸の基本骨格構造である五単糖・リン酸骨格を、グリシンを単位とするポリアミド骨格に置換したもので、核酸によく似た3次元構造を有する。
【0043】
特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。即ち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319-347.)。
【0044】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用により、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素のいずれかをコードする遺伝子の発現および/または機能を阻害してもよい。一つの態様としては、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは 3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで所望の動物(細胞)に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物(細胞)が有する内在性のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず、例えば100塩基以上、または500塩基以上であってもよい。
【0045】
本発明のアンチセンス核酸は特に制限されないが、例えばVersican遺伝子の塩基配列(GenBankのアクセッション番号BC096495、配列番号:3)、C4ST-1(GenBankのアクセッション番号NM_021439、配列番号:45)、C4ST-2(GenBankのアクセッション番号NM_021528、配列番号:47)、C4ST-3(GenBankのアクセッション番号XM_355798、配列番号:49)等をもとに作成することができる。
【0046】
上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0047】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.、Koizumi, M. et al., Nucl Acids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0048】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y.& Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザイムを用いて上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。
【0049】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interference、以下「RNAi」と略称する)によっても行うことができる。
近年のゲノムプロジェクトの完了によってヒトの全塩基配列が解読され数多くの疾患関連遺伝子が盛んに同定されている現在、特定の遺伝子を標的とした治療法、創薬開発が盛んに実施されている。中でも特異的転写後抑制効果を発揮するsmall interfering RNA(siRNA)の遺伝子治療への応用が注目されている。RNAiは、2本鎖RNA(dsRNA)が直接細胞内に取り込まれると、このdsRNAと相同な配列を持つ遺伝子の発現が抑えられ現在注目を浴びている手法である。哺乳類細胞においては、短鎖dsRNA(siRNA)を用いることにより、RNAiを誘導する事が可能で、RNAiは、ノックアウトマウスと比較して、効果が安定、実験が容易、費用が安価であるなど、多くの利点を有している。
【0050】
RNAi効果による阻害作用を有する核酸は、一般的にsiRNAもしくはshRNAとも呼ばれる。RNAiは、標的遺伝子のmRNAと相同な配列からなるセンスRNAとこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる短鎖二本鎖RNA(以下、「dsRNA」と略称する)を細胞等に導入することにより、標的遺伝子mRNAに特異的かつ選択的に結合して破壊を誘導し、当該標的遺伝子を切断することにより標的遺伝子の発現を効率よく阻害する(抑制する)現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。このようにRNAiは、標的遺伝子の発現を抑制し得ることから、従来の煩雑で効率の低い相同組換えによる遺伝子破壊方法に代わる簡易な遺伝子ノックアウト方法として、または、遺伝子治療への応用可能な方法として注目されている。RNAiに用いるRNAは、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
【0051】
siRNAの設計にあたっては、ターゲットとしては上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全てターゲット候補とすることが可能である。例えば、Versican遺伝子の塩基配列(配列番号:3)、C4ST-1遺伝子の塩基配列(配列番号:45)、C4ST-2遺伝子の塩基配列(配列番号:47)、C4ST-3遺伝子の塩基配列(配列番号:49)等をもとに作成することができる。より具体的には、その配列の一部の領域をターゲット候補とすることが可能であり、例えば、Versican遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:57)、C4ST-1遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:58)、C4ST-2遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:59)、C4ST-3遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:60)、C6ST-1遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:61)、C6ST-2遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:62)、GalNAc4ST-1遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:63)、GalNAc4ST-2遺伝子の塩基配列の一部領域(配列番号:64)、GALNAC4S-6STの塩基配列の一部領域(配列番号:65)等をもとに作成することができる。
【0052】
siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本のRNAをアニールする方法などを採用することができる。
また上記2本のRNA分子は、ここで一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)であってもよい。shRNAとは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。即ち、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る分子もまた本発明のsiRNAに含まれる。
【0053】
また本発明の好ましい態様としては、Versican、C4ST-1、C4ST-2、C4ST-3等の発現をRNAi効果により抑制し得るRNA(siRNA)であって、本明細書によって具体的に示されたDNA配列(配列番号:57〜65)を標的とするsiRNAにおいて、例えば、1もしくは少数のRNAが付加もしくは欠失された構造の二本鎖RNAであっても、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の発現を抑制する機能を有するものであれば、本発明のsiRNAに含まれる。
RNAi(siRNA)のために使用されるRNAは、上記タンパク質をコードする遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と完全に同一(相同)である必要はないが、完全な同一(相同)性を有することが好ましい。
【0054】
RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNAまたはsiRNAと呼ばれる小さな断片に分解されるものと考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、このようにDICERによって分解される前の二本鎖RNAも含まれる。即ち、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞においてRNAi効果を有するsiRNAへ分解されることが期待されるため、本発明における二本鎖RNAの長さは、特に制限されない。
【0055】
例えば、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子のmRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を本発明の薬剤として利用することが可能である。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれることが期待される。この方法によれば、RNAi効果を有することが期待されるmRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。即ち、RNAi効果を有する本発明の上述の遺伝子のmRNA上の領域は、必ずしも正確に規定される必要はない。
【0056】
本発明の上記「RNAi効果により抑制し得る二本鎖RNA」は、当業者においては、該二本鎖RNAの標的となる上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の塩基配列を基に、適宜作製することができる。一例を示せば、配列番号:57に記載の塩基配列をもとに、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。即ち、配列番号:57に記載の塩基配列をもとに、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。siRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
【0057】
また、本発明におけるsiRNAは、必ずしも標的配列に対する一組の2本鎖RNAである必要はなく、標的配列を含んだ領域に対する複数組の2本鎖RNAの混合物であってもよい。ここで標的配列に対応した核酸混合物としてのsiRNAは、当業者においては市販の核酸合成機およびDICER酵素を用いて適宜作成することが可能であり、また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。なお、本発明のsiRNAには、所謂「カクテルsiRNA」が含まれる。
【0058】
また、本発明におけるsiRNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくともよい。即ち、本発明において、siRNAを構成する1もしくは複数のリボヌクレオチドは、対応するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。この「対応する」とは、糖部分の構造は異なるものの、同一の塩基種(アデニン、グアニン、シトシン、チミン(ウラシル))であることを指す。例えば、アデニンを有するリボヌクレオチドに対応するデオキシリボヌクレオチドとは、アデニンを有するデオキシリボヌクレオチドのことを言う。また、前記「複数」とは特に制限されないが、好ましくは2〜5個程度の少数を指す。
【0059】
さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、本発明の上述のタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制し得る化合物の好ましい態様に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0060】
また、本発明の発現阻害物質には、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の発現調節領域(例えば、プロモーター領域。具体的な例としては、PG-Lbのプロモーター領域である配列番号:66で表される塩基配列があげられる。)と結合することにより、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の発現を阻害する化合物が含まれる。該化合物は、例えば上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子のプロモーターDNA断片を用いて、該DNA断片との結合活性を指標とするスクリーニング方法により、取得することが可能である。また当業者においては、所望の化合物について、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の発現を阻害するか否かの判定を公知の方法、例えばレポーターアッセイ法等により適宜実施することができる。
【0061】
さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、本発明の上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の発現を阻害し得る化合物の好ましい態様に含まれる。例えば本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0062】
本発明の上記ベクターの好ましい態様としては、Versican、C4ST-1、C4ST-2、C4ST-3等の発現をRNAi効果により抑制し得るRNA(siRNA)を発現するベクターを挙げることができる。
上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素に結合する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然の上述のタンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として微生物において発現させたリコンビナント(組み換え)タンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素やその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素のタンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0063】
本発明の抗体は、本発明の上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素に結合するものであれば特に制限はなく、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかにヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物であってもよい。
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のタンパク質はその由来となる動物種について制限されないが、哺乳動物、例えばマウスやヒト由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。ヒト由来のタンパク質は、当業者においては本明細書に開示される遺伝子配列またはアミノ酸配列を用いて適宜取得することができる。
【0064】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質あるいはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。本明細書における「抗体」とはタンパク質の全長または断片に反応する抗体を意味する。
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞またはその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0065】
本発明の上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素に対する抗体は、該タンパク質と結合することにより、該タンパク質の発現もしくは機能を阻害する効果が期待される。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型化抗体が好ましい。
【0066】
さらに本発明は、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素の機能を阻害し得る物質として、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、または硫酸基転移酵素に結合する低分子量物質(低分子化合物)も含有する。該低分子量物質は、天然または人工の化合物であってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得可能な化合物である。また本発明の化合物は、後述のスクリーニング方法によって、取得することも可能である。
【0067】
さらに本発明の上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素の発現もしくは機能を阻害し得る物質として、上述のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素に対してドミナントネガティブの性質を有する変異体(ドミナントネガティブタンパク質)を挙げることができる。「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素に対してドミナントネガティブの性質を有する該タンパク質変異体」とは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子を発現させることによって、内在性の野生型タンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質を指す。このようなドミナントネガティブタンパク質としては、例えば、コンドロイチン硫酸との結合を野生型Versicanコアタンパク質と競合阻害するようなVersicanコアタンパク質変異体を挙げることができる。
【0068】
また本発明において、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する組織または細胞は特に限定はされないが、好ましくは肝組織である。
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する化合物は、肝線維化疾患の治療または予防のための薬剤となることが期待される。ここで「治療または予防」は、肝線維化を呈する組織、または細胞に対して、必ずしも完全な治療効果または予防効果を有する必要はなく、部分的な効果を有する場合であってよい。
【0069】
本発明において肝線維化疾患は、肝線維化を伴う疾患であれば特に限定はされないが、好ましくは慢性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝不全、肝癌などの慢性肝疾患があげられる。また、これら疾患の合併症も本発明の肝線維化疾患に含まれる。
本発明の肝線維化抑制剤は、肝線維化の原因であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害することにより肝線維化を抑制する作用を有する。従って、本発明の好ましい態様としては、例えば、本発明の肝線維化抑制剤を有効成分とする、慢性肝疾患治療剤または肝硬変治療剤を提供する。
【0070】
また本発明の「肝線維化抑制剤」は、「肝線維化治療剤」、または「肝線維化改善剤」等と表現することも可能である。また、本発明において「抑制剤」は、「医薬品」、「医薬組成物」、「治療用医薬」等と表現することもできる。
なお、本発明における「治療」には、肝線維化の発生を予め抑制し得る予防的な効果も含まれる。また、肝線維化発現細胞(組織)に対して、必ずしも、完全な治療効果を有する場合に限定されず、部分的な効果を有する場合であってもよい。
【0071】
本発明の薬剤は、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等と混合し、医薬組成物として経口、あるいは非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型とすることができる。非経口剤としては、注射剤、点滴剤、外用薬剤、吸入剤、あるいは座剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。外用薬剤には、経鼻投与剤、あるいは軟膏剤等を示すことができる。主成分である本発明の薬剤を含むように、上記の剤型とする製剤技術は公知である。
【0072】
例えば、経口投与用の錠剤は、本発明の薬剤に賦形剤、崩壊剤、結合剤、および滑沢剤等を加えて混合し、圧縮整形することにより製造することができる。賦形剤には、乳糖、デンプン、あるいはマンニトール等が一般に用いられる。崩壊剤としては、炭酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウム等が一般に用いられる。結合剤には、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、あるいはポリビニルピロリドンが用いられる。滑沢剤としては、タルクやステアリン酸マグネシウム等が公知である。
【0073】
本発明の薬剤を含む錠剤は、マスキングや、腸溶性製剤とするために、公知のコーティングを施すことができる。コーティング剤には、エチルセルロースやポリオキシエチレングリコール等を用いることができる。
また注射剤は、主成分である本発明の薬剤を適当な分散剤とともに溶解、分散媒に溶解、あるいは分散させることにより得ることができる。分散媒の選択により、水性溶剤と油性溶剤のいずれの剤型とすることもできる。水性溶剤とするには、蒸留水、生理食塩水、あるいはリンゲル液等を分散媒とする。油性溶剤では、各種植物油やプロピレングリコール等を分散媒に利用する。このとき、必要に応じてパラベン等の保存剤を添加することもできる。また注射剤中には、塩化ナトリウムやブドウ糖等の公知の等張化剤を加えることができる。更に、塩化ベンザルコニウムや塩酸プロカインのような無痛化剤を添加することができる。
【0074】
また、本発明の薬剤を固形、液状、あるいは半固形状の組成物とすることにより外用剤とすることができる。固形、あるいは液状の組成物については、先に述べたものと同様の組成物とすることで外用剤とすることができる。半固形状の組成物は、適当な溶剤に必要に応じて増粘剤を加えて調製することができる。溶剤には、水、エチルアルコール、あるいはポリエチレングリコール等を用いることができる。増粘剤には、一般にベントナイト、ポリビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはポリビニルピロリドン等が用いられる。この組成物には、塩化ベンザルコニウム等の保存剤を加えることができる。また、担体としてカカオ脂のような油性基材、あるいはセルロース誘導体のような水性ゲル基材を組み合わせることにより、座剤とすることもできる。
【0075】
本発明の薬剤を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の薬剤を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。
【0076】
また、本発明の薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAやshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等に全身投与する。肝線維化組織等に局所的に投与することもできる。siRNAはin vitroにおいては非常に優れた特異的転写後抑制効果を示すが、in vivoにおいては血清中のヌクレアーゼ活性により速やかに分解されてしまうため持続時間が限られるためより最適で効果的なデリバリーシステム開発が求められてきた。一つの例としては、Ochiya, TらのNature Med.,5:707-710,1999、Curr.Gene Ther.,1 :31-52, 2001より生体親和性材料であるアテロコラーゲンが核酸と混合し複合体を形成させると、生体中の分解酵素から核酸を保護する作用がありsiRNAのキャリアーとして非常に適しているキャリアーであると報告されているが、本発明の薬剤の導入の方法はこれには限られない。
【0077】
本発明の薬剤は、安全とされている投与量の範囲内において、ヒトを含む哺乳動物に対して、必要量(有効量)が投与される。本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。一例を示せば、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合の投与量は1日1回あたり106〜1013個程度であり、1週〜8週間隔で投与される。
【0078】
また、siRNAまたはshRNAを目的の組織または器官に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えばアデノエクスプレス:クローンテック社)を用いることもできる。
本発明の薬剤を使用する場合は、肝線維化を発現する疾患であれば適用部位もしくは疾患の種類は特に限定されず、例えば慢性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝不全、肝癌等を対象として適用される。上記疾患は、他の疾患と併発したものであってもよい。
【0079】
また、本発明の好ましい態様としては、コンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤に関する。
ここで、コンドロイチナーゼABCは、酵素番号EC 4.2.2.4に分類されるリアーゼ(コンドロイチンABCリアーゼ)である。コンドロイチナーゼABCは、1,4-β-D-ヘキソサミニド結合、及び1,3-β-D-グルクロノシル結合若しくは1,3-α-L-イズロノシル結合を含有する多糖を、4-デオキシ-β-D-グルク-4-エヌロノシル基を含有する二糖へと分解除去する活性を有する。コンドロイチナーゼABCは、コンドロイチン硫酸A(コンドロイチン-4-硫酸)、コンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸)、及びコンドロイチン硫酸C(コンドロイチン-6-硫酸)、並びにヒアルロン酸に作用してそれらを分解する。
【0080】
本発明で用いるコンドロイチナーゼABCとしては、限定するものではないが、例えば、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)などのプロテウス(Proteus)属細菌、及びバクテロイデス・ステルコリス(Bacteroides stercoris)などのバクテロイデス(Bacteroides)属細菌由来のものが好ましい。本発明で用いるコンドロイチナーゼABCは、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)由来であることがより好ましい。本発明のコンドロイチナーゼABCは、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)の抽出物から硫安沈殿及びDEAE-セルロースクロマトグラフィーによって精製されたものであってよい(Yamagata, T. et al., J. Biol. Chem., (1968) 243, p.1523-1535)。本発明のプロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)由来のコンドロイチナーゼABCの例としては、特開平06-098769に開示されている配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質や、DDBJ/EMBL/GenBank国際塩基配列データベース(例えば、DNA Data Bank of Japan (DDBJ)のウェブサイト http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.htmlからアクセスできる)にアクセッション番号E07183で登録されている塩基配列にコードされたタンパク質が挙げられる。本発明のコンドロイチナーゼABCは、コンドロイチン硫酸A(コンドロイチン-4-硫酸)、コンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸)、及びコンドロイチン硫酸C(コンドロイチン-6-硫酸)並びにヒアルロン酸を分解する活性を少なくとも有することが好ましい。
【0081】
本発明のコンドロイチナーゼABCとしては、市販品、例えばコンドロイチナーゼABC(Proteus vulgaris)(生化学工業株式会社、東京、日本)、又はコンドロイチナーゼABC (Proteus vulgaris)(Sigma-Aldrich社、Saint Louis, Missouri, USA)を用いることができる。さらに本発明のコンドロイチナーゼABCは、当業者であれば、コンドロイチナーゼABCをコードするDNA(例えば、アクセッション番号E07183で登録されている塩基配列を有するもの)から組換え法によりタンパク質を発現させることによって、容易に製造することができる。組換え法などの分子生物学の慣用手法については、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual/ Volume 3. Joseph Sambrook and David W Russell. 第3版 New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001等に詳述されている。
【0082】
本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤は、肝組織の線維化(肝線維化)を効果的に抑制することができる。本発明において「線維化を抑制する」とは、線維化が生じた組織における線維化病変を減少若しくは消失させるか、又はそれ以上の線維化の進行を遅延若しくは阻止する(線維化病変の増大を抑制する)ことを意味する。
【0083】
肝組織における線維化の程度は、当業者に公知の様々な方法によって評価することができる。最も基本的な方法としては、肝生検における線維化所見、例えば肝生検サンプルの特殊染色(アニリンブルー、トリクローム、又は銀染色など)によって強調された線維化組織の像を、組織学的に評価すればよい。線維化の具体的な評価は、例えば、Dai K, et al. World J Gactroenterol. 31:4822-4826, 2005、Hillebrandt S, et al. Nature Genetics 37:835-843, 2005に従って、免疫組織学的染色に基づき各試料の肝線維化レベルを線維化度数で表すことによって行うことができる。またヒアルロン酸、I型、III型、及びIV型等のコラーゲン、線維芽細胞、マクロファージ等の肝線維化マーカーを用いて、より簡便に肝組織における肝線維化の程度を評価してもよい。簡便だが肝線維化の程度を鋭敏に反映する血小板数の計測に基づく検査も都合よく利用することができる。腹部超音波検査などの肝画像診断によっても肝線維化の程度を大まかに予測することが可能である。さらに、近年エコセンス社(EcoSence、フランス)によって開発されたトランジエンド・エラストグラフィー技術に基づく非侵襲的肝線維化測定法のための測定機器(Fibro Scan502など)を用いて、肝線維化の程度を評価することもできる。本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤による肝線維化の抑制レベルは、これらの方法によって得られる肝線維化の程度の評価に基づいて決定すればよい。
【0084】
本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤による肝線維化抑制効果は、特に、肝組織におけるIII型コラーゲンの伸長抑制、I型コラーゲンの沈着抑制、線維芽細胞の集積抑制、及びマクロファージの集積抑制のうち少なくとも1つを伴うことが好ましく、これら全てを伴うことがより好ましい。本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤による肝線維化抑制レベルは、これらの抑制効果のうちの1つ以上を指標として決定してもよい。
【0085】
本発明は、本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤の有効成分であるコンドロイチナーゼABCが、後述の実施例で実証しているように、非常に高い肝線維化抑制効果を奏するという全く新しい知見に基づくものである。このコンドロイチナーゼABCの肝線維化抑制効果は、他のコンドロイチナーゼと比較しても顕著に優れている。このコンドロイチナーゼABCの優れた効果は、線維化肝組織にコンドロイチナーゼACやコンドロイチナーゼB等では切断されにくい種類又は量のコンドロイチン硫酸が蓄積しており、それがコンドロイチナーゼABCによって初めてうまく切断されることに起因すると考えることもできる。近年、硫酸化のグレードが異なるものや硫酸基の付加位置が異なるものなど、様々な種類のコンドロイチン硫酸の存在が報告されてきていることからも、この仮説はかなり説得力があるものと言える。但し本発明は、このような仮説によって何ら限定されるものではない。
【0086】
本発明では、本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤を肝組織試料に添加して反応させることにより、その肝組織における線維化の程度を低減させることができる。
また本発明では、本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤を被験体に投与することにより、被験体の肝臓の組織の線維化を効果的に抑制することができる。コンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤の投与経路としては、限定されるものではないが、非経口経路が好ましい。非経口経路の好適な例としては、静脈内、動脈内、腹腔内、肝臓内、直腸内、及び皮下経路が挙げられる。本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤は、全身投与してもよいし、局所投与(例えば肝臓の線維化組織に直接投与)してもよい。
【0087】
本発明は、本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤を被験体に投与することによる、被験体の肝臓における線維化を抑制する方法にも関する。
さらに本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤は、肝組織の線維化を効果的に抑制できることから、肝線維化疾患(肝組織の過剰な線維化を伴う疾患)の治療及び予防のために有利に使用することができる。本発明においてより好適な肝線維化疾患の例は、限定するものではないが、慢性肝疾患である。慢性肝疾患は、一般的に肝線維化を伴う。本発明に係る慢性肝疾患の具体例としては、慢性肝炎(慢性B型肝炎、慢性C型肝炎等)、肝線維症、肝硬変、肝不全、肝癌などが挙げられる。本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤は、特に、肝硬変の治療及び予防のために有用である。本発明において「肝硬変」とは、肝臓に広範な線維化が生じており、かつ正常な肝小葉構造が失われて異常な構造(偽小葉/再生結節)に改築されている肝臓の状態を言う。肝硬変は、その病因や偽小葉の特性などによって多くの種類に分類されている。またこのような状態の肝臓を、硬変肝と呼ぶ。これに対し、「肝線維症」は、異常な線維化を呈しているが肝小葉の改築は生じていない状態であり、一般的には肝硬変の前段階と言える。本発明における肝硬変の具体例としては、ウイルス性肝硬変、寄生虫性肝硬変、中毒性肝硬変、栄養障害性肝硬変、アルコール性肝硬変、うっ血性肝硬変、肝硬化症、シャルコー肝硬変、トッド肝硬変、原発性胆汁性肝硬変、続発性胆汁性肝硬変、単葉性肝硬変、慢性非化膿性破壊性胆管炎から移行した肝硬変、閉塞性肝硬変、胆細管性肝硬変、胆汁性肝硬変、萎縮性肝硬変、壊死後性肝硬変、肝炎後肝硬変、結節性肝硬変、混合型肝硬変、小結節性肝硬変、代償性肝硬変、非代償性肝硬変、大結節性肝硬変、中隔性肝硬変、特発性肝硬変、門脈周囲性肝硬変、門脈性肝硬変等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0088】
本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤を投与すべき被験体としては、ヒト、家畜、愛玩動物、実験動物等を含む哺乳動物が好ましい。特に、肝線維化疾患、例えば肝硬変や肝線維症などに罹患している哺乳動物(患者)が、本発明に係る被験体として好ましい。別の実施形態では、将来的に肝硬変に移行しやすい肝線維化疾患(例えば慢性非化膿性破壊性胆管炎など)に罹患している哺乳動物(患者)も被験体として好ましい。本発明では、被験体に本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤を投与することにより、肝臓の線維化の程度を低減するか又はその線維化の進行を遅延若しくは阻止して、その結果、線維化による肝臓障害を低減し、肝機能がより高レベルに維持又は改善されるようにすることにより、肝線維化疾患を治療又は予防することができる。
【0089】
本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤の投与量は、当業者が適宜定めることができるが、一般的には、コンドロイチナーゼABCの量で体重1kg当たり10μg〜1mgである。
本発明は、このようにして本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤を被験体(例えば患者)に投与することによる、慢性肝疾患を始めとする肝線維化疾患(特に、肝硬変等)の治療又は予防方法にも関する。
【0090】
本発明のコンドロイチナーゼABCを有効成分として含む肝線維化抑制剤は、コンドロイチナーゼABCに加えて、製薬上許容される(薬学的に不活性な)担体、賦形剤、及び/又は希釈剤を任意に含む医薬組成物であってもよい。そのような担体、賦形剤、及び/又は希釈剤の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝バッファー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の医薬組成物は、保存剤等の添加剤をさらに含んでもよい。本発明の医薬組成物は、さらに他の薬理成分を含有していてもよい。
【0091】
本発明の医薬組成物は、経口製剤又は非経口製剤として提供してもよいが、非経口製剤として提供することがより好ましい。非経口製剤としては、液剤、懸濁剤等の液体製剤が好ましく、特に注射剤が好ましい。
また本発明は、被検試料からコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する作用を有する物質を選択することを特徴とする肝線維化抑制剤のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法によって、肝線維化抑制剤もしくは肝線維化抑制剤のための候補化合物を効率的に取得することができる。
【0092】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様は、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の作用を有する物質を選択する工程を含む、肝線維化抑制剤のスクリーニング方法である。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進作用
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成阻害作用
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの脱硫酸化作用
(d)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸化阻害作用
【0093】
これらに共通したスクリーニングの基本的な原理として、代表的な例として、下記の工程を含むものがあげられる。
(1) コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)そのもの/もしくはグリコサミノグリカン(GAG)鎖/もしくはCSPGやGAG鎖を合成(生成)する細胞
(2) 被検化合物(例えば、製薬企業の有する莫大な化合物ライブラリー)
(3) コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の切断断面/コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)量/遊離グリコサミノグリカン(GAG)量を検出する方法
上記3種のツールを用いる。(1)と(2)を試験管内、もしくは培養皿上で混合させ、その効果を(3)により簡便に検出するという手順が望ましい。
【0094】
以下、本発明のスクリーニング方法の態様を例示する。なお、以下に記載の態様においては、用いられるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、脱硫酸化酵素の由来としては、ヒト、マウス、ラット等に由来するものが挙げられるが、これらに由来するものに特に制限されない。コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの一部とは、グリコサミノグリカン鎖、コアタンパク質などの構成要素またはその一部であり、特に限定されない。
【0095】
また以下に記載の態様に用いる被検化合物としては、特に制限されないが、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられる。
また以下に記載の態様における被検化合物への「接触」は、通常、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、その一部、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制化合物、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素を被検化合物と混合することによって行うが、この方法に限定されない。例えば、これらのタンパク質またはその一部を発現する細胞を被検化合物と接触させることにより、上記「接触」を行うことができる。
【0096】
また以下に記載の態様における「細胞」の由来としては、ヒト、マウス、ラット等に由来する細胞が挙げられるが、これらに由来する細胞に特に制限されず、それぞれの態様において用いられるタンパク質を発現するように形質転換された大腸菌、酵母等の微生物細胞を利用することも可能である。例えば、「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンを発現する細胞」としては、内在性のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン遺伝子を発現している細胞、または外来性のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外来性のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン遺伝子が発現した細胞は、通常コンドロイチン硫酸プロテオグリカン遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
【0097】
また以下の記載において、「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質」とは、例えば、matrix typeコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであれば、aggrican、versican、neurocan、brevicanなどのコアタンパク質、また膜型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであれば、例えばDecorin、Biglycan、Fibromodulin、PG-Lbなどのコアタンパク質である。また「合成酵素」は、例えば、GalNAc4ST-1、GalNAc4ST-2、GALNAC4S-6ST、UA2OST、GalT-I、GalT-II、GlcAT-I、XylosylTなどである。また「硫酸基転移酵素」は、例えば、C4ST-1(Chondroitin D-N-acetylgalactosamine-4-O-sulfotransferase 1)、C4ST-2(Chondroitin D-N-acetylgalactosamine-4-O-sulfotransferase 2)、C4ST-3(Chondroitin D-N-acetylgalactosamine-4-O-sulfotransferase 3)、D4ST、C6ST-1、C6ST-2などである。また、「分解促進酵素」とは、例えば、ADAMTS-1、ADAMTS-4、ADAMTS-5、Chondroitinase ABC (ChABC)、Chondroitinase AC、Chondroitinase B、Calpain Iなどである。また「脱硫酸化酵素」は、例えば、Chondroitin-4-sulfatase、Chondroitin-6-sulfataseなどである。
【0098】
本発明のスクリーニング方法の態様として、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進作用を有する化合物を選択する工程を含む方法を挙げることができる。本発明の上記方法は例えば以下の工程からなる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部と被検化合物を接触させる工程
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の存在量を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、存在量を低下させる物質を選択する工程
【0099】
上記方法においてはまず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部に被検化合物を接触させる。
本方法においては次いで、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の量を測定する。測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部に結合する標識された化合物または抗体を用い、標識量を測定することにより検出することができる。また、クロマトグラフィー法や質量分析法などを用いて検出することもできる。
【0100】
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の存在量を低下させる化合物を選択する。低下させる化合物は肝線維化治療のための薬剤となる。
被検化合物が上記(a)分解促進作用の活性を有しているか否かについて評価(測定)可能な方法、具体例の簡単な一例を以下に示す。
【0101】
上記(a) コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進作用に関するスクリーニング方法態様:
CS-GAGとして、コンドロイチン硫酸A(CS-A)、CS-B、CS-C(生化学工業社、ICN社、Sigma社など)、ヒト由来プロテオグリカン(BGN社、ISL社など)などを準備し、96穴プレートに10μg/mLの濃度でコーティングする(Kawashima H et al.; J. Biol. Chem. 277:12921-12930, 2002.など、既知の方法による)。本プレートの各ウェルに各種の被検化合物を添加し、37℃で2時間反応後にCS-GAGの変化を検出する。
検出方法としては、例えばWFAレクチン(ノダフジレクチン)結合法が簡便な手法として挙げられる。WFAレクチンはCS-GAG鎖のGalNAc残基に結合するため、CS-GAGを簡便に検出できる。被検化合物の陽性コントロールとしてはコンドロイチナーゼABCを使用する。コンドロイチナーゼABC添加により、CS-GAG鎖が分解されるとWFAレクチンが結合できなくなるため、その原理を利用する。より具体的には、FITC標識WFAレクチン(EY社など)を、被検化合物混合前後でCSコーティング・ウェルに添加し、CS-GAGが分解される事により、ウェル中のFITC蛍光強度の変化を蛍光プレートリーダーあるいは蛍光顕微鏡などの検出機器により極めて簡便に定量・数値化できる。混合前後で最も蛍光数値を減少させた化合物が、本コンセプトを満たす新規の治療候補化合物として判定できる。
【0102】
また、他の検出方法として、CS-GAGそのものを直接的に標識する抗CS抗体(クローン:CS56、生化学工業社製)を使用する事ができる。WFAレクチンと同様に、FITC標識抗CS抗体をCSコーティング・ウェルに添加する事で、蛍光数値の変化を見れば、極めて短時間かつ簡便に大量スクリーニングができる。
より詳細な検出方法として、被検化合物混合前後のプレートをそのまま使用し、sGAG Assay Kit(WIESLAB社製)、Sulphanated Glycosaminoglycans, ELISA Kit(FUNAKOSHI社製)などを適用するにより、GAG含有量を正確に定量・数値化する方法がある。
【0103】
さらに詳細には、被検化合物混合前後のプレートに2-AB(2-aminobenzamide)や2-AP(2-aminopyridine;いずれもLUD社製など)を添加することにより、遊離GAG鎖の還元末端を簡便に蛍光標識し、糖鎖の各タイプや、各タイプの含有率までを、HPLC、MALDI-MS、LC-MSなどで解析する事により、より詳細な解析が可能である。候補化合物の特性を詳細に調べるという、スクリーニングの次の段階の方法である。
【0104】
本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成阻害作用を有する物質を選択する工程を含む方法を挙げることができる。本発明の上記方法は例えば以下の工程からなる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部を発現する細胞、該細胞抽出液、もしくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成過程を構成する酵素および基質などを含む物質群と被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞、細胞抽出液または物質群における、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその合成過程における中間体の合成量を測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、前記合成量を低下させる化合物を選択する工程
上記方法においてはまず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部を発現する細胞、該細胞抽出液、もしくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成過程を構成する酵素および基質などを含む物質群と被検化合物を接触させる。
次いで、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその合成過程における中間体の合成量を測定する。測定は当業者においては公知の手法、例えば、標識した抗体による方法、質量分析法、クロマトグラフィー法等によって適宜実施することができる。
さらに被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、合成量を低下(抑制)させる化合物を選択する。低下(抑制)させる化合物は肝線維化治療のための薬剤となる。
被検化合物が上記(b)合成阻害作用の活性を有しているか否かについて評価(測定)可能な方法、具体例の簡単な一例を以下に示す。
【0105】
上記(b) コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成阻害作用に関するスクリーニング方法態様:
コンドロイチン硫酸を合成する細胞、細胞株は当該研究者には既知である。ヒトでは例えば、健常人の末梢血を採取後、単核球を分離・培養するという標準的な方法により、16時間の細胞培養でコンドロイチン硫酸を産生してくる(Uhlin-Hansen L et al., Blood 82:2880, 1993.など)。また、より簡便には、既知の細胞株、例えば、線維芽細胞株NIH3T3(Phillip HA, et al. J. Biol. Chem. 279:48640, 2004など)、腎尿細管由来癌細胞株ACHN(Kawashima H et al., J. Biol. Chem. 277:12921, 2002)、腎遠位尿細管由来細胞株MDCK(Borges FT et al., Kidney Int. 68:1630, 2005.など)、血管内皮細胞株HUVEC(Schick BP et al., Blood 97:449, 2001など)など、多数挙げられる。このような細胞株を一定時間培養する過程において各種被検化合物を混合し、培養前後のCS-GAG量の変化を上記(a)の方法で簡便に数値化できる。細胞培養後のCS-GAG量の増加(すなわち、CS-GAG合成量を反映する)を抑制する化合物が、本コンセプトを満たす治療候補化合物として、容易に判定できる。
【0106】
さらに、より選択的には、例えばGalNAc4ST-1やXylosylTなどのCS-GAG合成酵素の遺伝子をCHO細胞やL細胞などへ周知の方法で導入、恒常的に発現させた細胞株を作成する事ができる。このような恒常的にCS-GAGを合成する細胞株を使用する事により、よりクリアーに治療候補化合物を判定する事ができる。
【0107】
本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの脱硫酸化作用を有する物質を選択する工程を含む方法を挙げることができる。本発明の上記方法は例えば以下の工程からなる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部と被検化合物を接触させる工程
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の硫酸化を受けていた量を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、硫酸化を受けていた量を低下させる物質を選択する工程
上記方法においてはまず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部に被検化合物を接触させる。
本方法においては次いで、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の硫酸化を受けていた量を測定する。測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部に残存する脱硫酸化の構造に結合する、標識された化合物または抗体を用い、標識量を測定することにより検出することができる。また、クロマトグラフィー法や質量分析法などを用いて検出することもできる。
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の存在量を低下させる化合物を選択する。低下させる化合物は肝線維化治療のための薬剤となる。
被検化合物が上記(c)脱硫酸化作用の活性を有しているか否かについて評価(測定)可能な方法、具体例の簡単な一例を以下に示す。
【0108】
上記(c) コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの脱硫酸化作用に関するスクリーニング方法態様:
基本的に上記(a)の方法と同様、ヒト由来プロテオグリカン(BGN社、ISL社など)などを準備し、96穴プレートに10μg/mLの濃度でコーティングする(Kawashima H et al.; J. Biol. Chem. 277:12921-12930, 2002.など、既知の方法による)。本プレートの各ウェルに各種の被検化合物を添加し、37℃で2時間反応後にCS-GAGの変化を検出する。
検出方法は、脱硫酸化する事により、プロテオグリカンのコア蛋白側に残存した脱硫酸化断片の2糖構造を、抗プロテオグリカンΔdi4S抗体(クローン;2-B-6、4位に硫酸化を受けていた部分を認識する) あるいは抗プロテオグリカンΔdi6S(クローン;3-B-3、6位に硫酸化を受けていた部分を認識する。ともに生化学工業社製)と反応させることで、脱硫酸化を受けた部分の検出が容易にできる。したがって、混合培養前後のプレートにおいて、FITC標識した2-B-6や3-B-3抗体を反応させ、その蛍光数値の変化を簡便に検出できる。反応前後の蛍光強度を増加させた化合物が、より脱硫酸化を促進する物質であると判定でき、本コンセプトを満たす新規治療候補化合物として簡便に同定できる。
本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸化阻害作用を有する物質を選択する工程を含む方法を挙げることができる。本発明の上記方法は、例えば以下の工程からなる。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部を発現する細胞もしくは細胞抽出液あるいはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸化過程を構成する酵素、基質などを含む物質群と被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞、細胞抽出液または物質群におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸化活性を測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、前記活性を低下させる化合物を選択する工程
上記方法においてはまず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部に被検物質を接触させる。
本方法においては次いで、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の硫酸化を受けていた量を測定する。測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の硫酸化構造に結合する、標識された化合物または抗体を用い、標識量を測定することにより検出することができる。また、クロマトグラフィー法や質量分析法などを用いて検出することもできる。
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該コンドロイチン硫酸プロテオグリカンまたはその一部の存在量を低下させる化合物を選択する。低下させる化合物は肝線維化治療のための薬剤となる。
被検化合物が上記(d)硫酸化阻害の活性を有しているか否かについて評価(測定)可能な方法、具体例の簡単な一例を以下に示す。
【0109】
上記(d) コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸化阻害作用に関するスクリーニング方法態様:
コンドロイチン硫酸の硫酸化を促進する細胞、細胞株は上記(c)に記載の細胞、細胞株と一致する。このような細胞株を一定時間培養する過程において各種被検化合物を混合し、培養前後の硫酸化の程度を、例えば、4位硫酸化を検出する抗体(クローン;LY111)や6位硫酸化を検出する抗体(クローン;MC21C、いずれも生化学工業社製)で簡便に確認できる。蛍光標識抗体を用いて、培養前後の蛍光数値を比較しても良いし、上記(c)同様に、培養前後で2-B-6や3-B-3抗体を使用した検出法を行っても良い。細胞培養後の硫酸化の増加(LY111やMC21Cの蛍光数値増加)を抑制する化合物、もしくは細胞培養後の脱硫酸化の進行(2-B-6や3-B-3の蛍光数値増加)を促進する化合物が、本コンセプトを満たす治療候補化合物として、容易に判定できる。
【0110】
さらに、より選択的には、例えばC4ST-1やC6ST-1などの硫酸基転移酵素の遺伝子をCHO細胞やL細胞などへ周知の方法で導入、恒常的に発現させた細胞株を作成する事ができる。このような恒常的に硫酸基を付加する細胞株を使用する事により、よりクリアーに治療候補化合物を判定する事ができる。
【0111】
本発明の他の好ましい態様は、本発明のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素の遺伝子の発現レベルを低下させる化合物、あるいはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進酵素または脱硫酸化酵素の遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する、以下の(a)〜(d)の工程を含む肝線維化抑制剤のスクリーニング方法である。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記細胞における遺伝子の発現量を測定する工程
(c)該発現量を被検化合物の非存在下において測定した場合(対照)と比較する工程
(d)前記遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素である場合には、前記遺伝子の発現量が対照と比較して低下している化合物、前記遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進酵素、または脱硫酸化酵素である場合には、前記遺伝子の発現量が対照と比較して上昇している化合物を選択する工程
【0112】
上記方法においてはまず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる。
本方法においては次いで、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の発現量を測定する。ここで「遺伝子の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。遺伝子の発現量の測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。
【0113】
例えば、上記いずれかのタンパク質を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、RT- PCR法、DNAアレイ法等を実施することによって該遺伝子の転写量の測定を行うことができる。また、上記いずれかのタンパク質をコードする遺伝子を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、上記いずれかのタンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳量の測定を行うこともできる。さらに、上記いずれかのタンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施することにより該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳量の測定を行うことも可能である。該タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0114】
本方法においては、次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と該遺伝子の発現量を比較する。
本方法においては、次いで、前記遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素である場合には、前記遺伝子の発現量が対照と比較して低下(抑制)させている化合物を選択する。低下(抑制)させる化合物は、肝線維化抑制のための薬剤もしくは肝線維化治療のための候補化合物となる。
【0115】
また、前記遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進酵素、または脱硫酸化酵素である場合には、前記遺伝子の発現量が対照と比較して上昇(増強)させている化合物を選択する。上昇(増強)させる化合物は、肝線維化抑制のための薬剤もしくは肝線維化治療のための候補化合物となる。
また、本発明のスクリーニング方法の一態様としては、本発明のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素の遺伝子の発現レベルを低下させる化合物、あるいはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進酵素または脱硫酸化酵素の遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を、レポーター遺伝子の発現を指標として選択する方法である。本発明の上記方法は例えば以下の(a)〜(d)の工程を含む。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合(対照)と比較する工程
(d)前記レポーター遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素と機能的に結合している場合には、前記レポーター遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下している化合物、前記レポーター遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進酵素、または脱硫酸化酵素に機能的に結合している場合には、前記レポーター遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇している化合物を選択する工程
【0116】
本方法においてはまず、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。
ここで「機能的に結合した」とは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においては、ゲノム中に存在するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
【0117】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0118】
「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0119】
ここで「接触」は、「コンドロイチン硫酸プロテオグリカンコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、硫酸基転移酵素、分解促進酵素、または脱硫酸化酵素をコードする遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0120】
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0121】
本方法においては、次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを被検化合物の非存在下において測定した場合(対照)と比較する。
本方法においては、次いで、前記レポーター遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、合成酵素、脱硫酸化酵素抑制タンパク質、または硫酸基転移酵素をコードする遺伝子と機能的に結合している場合には、前記レポーター遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下(抑制)させている化合物を選択する。低下(抑制)させる化合物は、肝線維化抑制のための薬剤もしくは肝線維化治療のための候補化合物となる。
また、前記レポーター遺伝子がコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進酵素、または脱硫酸化酵素にと機能的に結合している場合には、前記レポーター遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇(増強)させている化合物を選択する。上昇(増強)させる化合物は、肝線維化抑制のための薬剤もしくは肝線維化治療のための候補化合物となる。
【0122】
本発明のスクリーニング方法において見出される肝線維化抑制剤は、好ましくは、肝線維化疾患の治療用または予防用のものである。
また本発明は、本発明のスクリーニング方法を実施するために用いられる、各種薬剤・試薬等を含むキットを提供する。
本発明のキットは、例えば本発明の上述の各種試薬の中から、実施するスクリーニング方法にあわせて適宜選択することができる。例えば本発明のキットは、本発明のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを構成要素とすることができる。本発明のキットには、さらに、本発明の方法において使用される各種試薬、容器等を含めることができる。例えば、抗コンドロイチン硫酸プロテオグリカン抗体、プローブ、各種反応試薬、細胞、培養液、対照サンプル、緩衝液、使用方法を記載した指示書等を適宜含めることができる。
【0123】
本発明の好ましい態様においては、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積が阻害されているかどうかを検出する工程を含む、肝線維化抑制剤のスクリーニング方法である。従って、該スクリーニング方法において、例えばコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの検出の際に利用可能な、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質をコードする遺伝子に対するプローブもしくは該遺伝子の任意の領域を増幅するためのプライマー等のオリゴヌクレオチド、または、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンを認識する抗体(抗コンドロイチン硫酸プロテオグリカン抗体)も、本発明の肝線維化抑制剤スクリーニング用キットの構成要素に含めることができる。
【0124】
上記オリゴヌクレオチドは、例えば、本発明のVersicanコアタンパク質遺伝子のDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら, Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、本発明のVersicanコアタンパク質遺伝子の塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0125】
本発明においてハイブリダイゼーションの条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1 ×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、 42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer (Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回行い、最後に1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回行うことができる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、標識プローブを添加して37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度をより高く設定することにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、プローブの塩基配列構成、反応時間等のその他の条件を加味し、条件を設定することができる。
【0126】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明のスクリーニング用キットにおけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、上記本発明中の遺伝子のDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
また本発明は、本発明の薬剤を個体(例えば、患者等)へ投与する工程を含む、肝線維化疾患の治療もしくは予防方法を提供する。
本発明の予防もしくは治療方法の対象となる個体は、肝線維化疾患を発症し得る生物であれば特に制限されないが、好ましくはヒトである。
【0127】
個体への投与は、一般的には、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射など当業者に公知の方法により行うことができる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者(医師、獣医師、薬剤師等)であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
さらに本発明は、本発明の薬剤の、肝線維化抑制剤の製造における使用に関する。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0128】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1:マウス肝硬変モデルにおけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)発現の増加
この実施例では、慢性線維化疾患モデルマウスの典型例として四塩化炭素(CCl4)で誘導されるマウス肝線維症モデルを用いて、マウス肝硬変モデルを作製し、プロテオグリカンの蓄積状態を免疫組織学的染色法によって調べた。このマウス肝線維症モデルは再現性に優れており、肝硬変モデルの実験系としても広く使用されている(Sakaida I, et al. Hepatology 40:1304-1311, 2004)。
まず、C57BL/6JcLマウス(雌、5〜6週齢、日本クレア社製)に、四塩化炭素(25μL/100g体重;Sigma-Aldrich社製)を、週2回ずつ4週間にわたり(8回)、腹腔内に注射し、肝線維症を惹起した。さらに四塩化炭素を週2回ずつ2週間にわたって追加投与し(総計12回)、肝硬変を誘導した。肝硬変が誘導されたマウスを屠殺し、その肝臓を採取した(硬変肝)。一方、対照実験では、四塩化炭素の投与を行っていない同週齢のC57BL/6JcLマウス(雌、日本クレア社製)から肝臓を採取した(正常肝)。
採取した肝臓の第2葉の一部を凍結用包埋剤OCTコンパウンド(Miles社製)に包埋し、液体窒素で凍結ブロックを作製した。その凍結ブロックからクライオスタット(Microm社製)を用いて厚さ6μmの切片を作製した。
得られた切片をアセトン(和光社製)で10分間固定後、リン酸緩衝液で洗浄し、さらに一次抗体として抗コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)抗体(クローンCS56、マウスモノクローナル抗体、10μg/mL;生化学工業社製)、抗コンドロイチン-4-硫酸プロテオグリカン(C4SPG)抗体(クローンLY111、マウスモノクローナル抗体、10μg/mL;生化学工業社製)、抗コンドロイチン-6-硫酸プロテオグリカン(C6SPG)抗体(クローンMC21C、マウスモノクローナル抗体、10μg/mL;生化学工業社製)、又は抗ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)/パールカン(Perlecan)抗体(ラットモノクローナル抗体、10μg/mL;大日本製薬社製)を添加し、室温で1時間反応させた。続いて、ヒストファインマウスステインキット(ニチレイ社製;マウスモノクローナル抗体に対して使用)、又はペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG(バイオソース社製;1:200希釈;ラットモノクローナル抗体に対して使用)を用いて二次抗体反応を行った後、DAB基質(ニチレイ社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。
【0129】
得られた肝組織の免疫染色像の例を図1に示す。図1中、左側の列が正常肝、右側の列が硬変肝を示す。正常肝、すなわち未処置の同週齢マウスの肝臓では、CSPG(最上段)、C4SPG(二段目)について肝類洞内にわずかに陽性シグナルが認められたが、C6SPG(三段目)については全く検出されなかった。一方、硬変肝、すなわち四塩化炭素により肝硬変様の線維化が誘導された肝臓においては、CSPG(最上段)、C4SPG(二段目)、C6SPG(三段目)のいずれについても、類洞中心に、正常肝と比較してシグナル強度が著しく増強された陽性シグナルが広範に認められた。ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に関しては、正常肝において類洞中心に強い陽性シグナルが検出されたが、硬変肝でもシグナルの強度や分布に大きな差異は認められなかった。従って、本肝硬変モデルでは、肝臓内のCSPG量の増加が、HSPGと比べて劇的であることが判明した。
【0130】
実施例2:マウス硬変肝に蓄積したコンドロイチン硫酸に対する各種コンドロイチナーゼの切断能
本実施例では、各タイプのコンドロイチナーゼの、硬変肝の組織切片中のコンドロイチン硫酸(CSPG)に対する切断能を検討した。以下のように、硬変肝の組織切片をコンドロイチナーゼで処理し、その酵素反応終了後、組織切片に残存するCSPG、すなわちコンドロイチナーゼ処理によって切断されなかった分のCSPGを、免疫染色法で検出した。
まず、C57BL/6JcLマウス(雌、5〜6週齢、日本クレア社製)に、四塩化炭素(25μL/100g体重;Sigma-Aldrich社製)を週2回ずつ4週間にわたり(8回)、腹腔内に注射し、肝線維症を惹起した。さらに四塩化炭素を週2回ずつ2週間にわたって追加投与し(総計12回)、肝硬変まで誘導した。肝硬変が誘導されたマウスを屠殺し、その肝臓を採取した(硬変肝)。
採取した肝臓の第2葉の一部を凍結用包埋剤OCTコンパウンド(Miles社製)に包埋し、液体窒素で凍結ブロックを作製した。その凍結ブロックからクライオスタット(Microm社製)を用いて厚さ6μmの切片を作製した。
得られた切片をアセトン(和光社製)で10分間固定後、リン酸緩衝液で洗浄し、続いて、Tris-HCL緩衝液(20mM、pH 8.0)中、37℃にて15分インキュベートした後、コンドロイチナーゼABC溶液(生化学工業社製;5U/mL)、コンドロイチナーゼAC溶液(生化学工業社製;5U/mL)、コンドロイチナーゼB溶液(生化学工業社製;5U/mL)、又は緩衝液のみ(コンドロイチナーゼ(−))を1切片あたり100μL添加して切片を覆い、さらに37℃で1時間インキュベートした。
【0131】
酵素反応終了後、抗CSPG抗体(クローンCS56、マウスモノクローナル抗体、10μg/mL;生化学工業社製)を添加し、室温で1時間反応させた後、ヒストファイン・マウス染色キット(ニチレイ社製)を用いて反応させてから、DAB基質(ニチレイ社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。
結果を図2に示した(倍率200倍)。緩衝液のみで処理した切片(すなわち、酵素処理を行っていない切片)では、CSPG陽性シグナル(茶色)が、図1の硬変肝と同程度の著しく高い強度で広範囲に検出された(図2;最左;コンドロイチナーゼ(-))。一方、コンドロイチナーゼACで処理した切片では、コンドロイチナーゼ(-)の切片と比較してCSPG陽性シグナルが減弱しており、陽性の面積も減少していた(図2;左から2番目;コンドロイチナーゼAC)。このことは、コンドロイチナーゼACが硬変肝組織中に蓄積したCSPGを確かに切断できることを示していた。しかしコンドロイチナーゼACで処理したこの切片には、完全には切断されずに残存しているCSPGが尚も検出された。またコンドロイチナーゼBで処理した切片では、コンドロイチナーゼACで処理した切片と比較して、CSPG陽性シグナルがさらに減弱しており、陽性の面積もさらに減少していた。このことから、コンドロイチナーゼBは硬変肝組織中に蓄積したCSPGをより多く切断できることが示された。しかし、コンドロイチナーゼBで処理した切片においても、偽小葉構築に沿って残存するCSPGが検出された。このように、コンドロイチナーゼACやBによる処理では、高度に線維化した硬変肝に沈着したCSPGを完全には切断しきれなかった。
【0132】
これらの結果に対し、コンドロイチナーゼABCで処理した切片では、CSPG陽性シグナル(茶色)はほとんど検出されず、コンドロイチナーゼ(-)の切片と比較してCSPGの消失がはっきりと示された。すなわち、コンドロイチナーゼABCは、肝硬変のように高度に線維化した病巣に沈着したCSPGを非常に効率良く切断することができることが示された。
【0133】
実施例3:マウス肝硬変モデルにおけるコンドロイチナーゼABC(Chase ABC)の肝線維化抑制効果
C57BL/6JcLマウス(雌、5〜6週齢、日本クレア社製)に、四塩化炭素(25μL/100g体重;Sigma-Aldrich社製)を、週2回ずつ4週間(8回)、腹腔内に注射し、肝線維症を惹起した。さらに四塩化炭素を週2回ずつ2週間にわたって追加投与した(総計12回)。
追加投与に先立ち、マウスには予め、コンドロイチナーゼABC(Chase ABC)(20U/ml;Sigma-Aldrich社製)、コンドロイチナーゼAC(Chase AC)(20U/ml;Sigma-Aldrich社製)、コンドロイチナーゼB(Chase B)(20U/ml;Sigma-Aldrich社製)、又はPBSのみを150μlずつ注入したアルゼット浸透圧ポンプ(室町機器社製)を、腹腔内に手術的に埋め込んだ。この処置を行ったマウス群を、各々Chase ABC酵素群、Chase AC酵素群、Chase B酵素群、及び対照群と名付けた。この処置により、いずれの群も、2週間の四塩化炭素の追加投与を受ける間、体内埋め込みポンプから常に一定量の液体が注入されることになった。
四塩化炭素の追加投与終了後、各群の個々のマウスを屠殺し、その肝臓を採取した。採取した肝臓から、実施例1と同様にして肝臓の凍結切片の試料を作製し、免疫組織学的解析を行った。
【0134】
この解析では、一次抗体としてウサギ抗マウスIII型コラーゲン抗体(1:250希釈;サンタクルーズ社製)を試料に添加し、室温で1時間反応させた。続いて、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG(1:200希釈;Jackson ImmunoResearch社製)を添加し、室温で30分間更に反応させた後、アルカリフォスファターゼ発色基質(ベクター・レッド;Vector Laboratory社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、赤色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。
得られた肝組織の免疫染色像の例を図3に示す。対照群では、ウサギ抗マウスIII型コラーゲン抗体によって検出されたIII型コラーゲン・ファイバーが、一般類洞のみならず、中心静脈から門脈まで連なって伸長し、一部には偽小葉を形成していることが示された(図3の左のパネル)。これは、肝硬変に典型的な像であった。これに対しChase ABC酵素群では、III型コラーゲンの伸長はごく軽度であった(図3の右のパネル)。
【0135】
上記で行った免疫組織学的染色に基づき、各試料の肝線維化の程度を既報(Dai K, et al. World J Gactroenterol. 31:4822-4826, 2005、Hillebrandt S, et al. Nature Genetics 37:835-843, 2005)に従って、線維化度数で評価した。線維化度数の評価基準は以下の通りである。0度:正常、1度:中心静脈からの少量のコラーゲン伸長が認められる、2度:中心静脈からの明白なコラーゲン伸長が認められるが、肝臓全体を取り囲まない程度である、3度:中心静脈からの明白なコラーゲン伸長が認められ、肝臓全体を取り囲む程度である、4度:肝臓全体の瀰漫性コラーゲン伸長が認められ、偽小葉を形成している。
結果を図4にグラフで示す。各バーは、各群における線維化度数の平均値±標準偏差を示している。図4にも示されるように、対照群は5.3±0.4(n=6)であるのに対し、Chase ABC酵素群は2.0±0.6(n=6)、Chase AC酵素群は2.9±0.7(n=6)、Chase B酵素群は2.6±0.5(n=6)であった。対照群と比較すると、Chase ABC酵素群(p=0.00018、t検定)及びChase B酵素群(p=0.0029、t検定)で統計学的に有意に線維化が軽減されていた。とりわけChase ABC酵素群は、Chase AC酵素群(p=0.0019、t検定)やChase B酵素群(p=0.018、t検定)に比較しても統計学的に有意に線維化抑制効果が高かった。一方、Chase AC酵素群とChase B酵素群の比較では、統計学的な有意差は認めなかった(p=0.15、t検定)。なお四塩化炭素を投与しない正常マウスから採取した正常肝でも同様の免疫組織学的解析を行ったが、線維化度数は0であった。このように、コンドロイチナーゼABCの投与は、臨床的に優れた肝線維化抑制効果を発揮することが示された。
【0136】
実施例4:マウス肝硬変モデルにおけるコンドロイチナーゼABC(Chase ABC)のI型コラーゲン沈着抑制効果
肝硬変を含む線維化疾患においては、I型コラーゲン量の増加が、病変構成線維の形成における最重要因子であると考えられている。そこで、実施例3で作製した各群由来の肝組織試料について、I型コラーゲンの免疫染色実験を行った。
実施例3で作製した対照群、Chase ABC酵素群、Chase AC酵素群、及びChase B酵素群由来の切片試料に、一次抗体としてウサギ抗マウスI型コラーゲン抗体(1:100希釈;Rockland社製)を添加し、室温で1時間反応させた。続いて、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG(1:200希釈;Jackson ImmunoResearch社製)を試料に添加し、室温で30分間更に反応させた後、アルカリフォスファターゼ発色基質(ベクター・レッド;Vector Laboratory社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、赤色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。
得られた肝組織の免疫染色像の例を図5に示す。図5に示される通り、対照群では偽小葉用構築に沿ってI型コラーゲンがはっきりと検出されたのに対し、Chase ABC酵素群では、わずかに散見されるのみであった。
【0137】
そこで、上記で行った免疫組織学的染色に基づき、I型コラーゲン陽性の面積を、ウンルーフ画像解析ソフトウエア(Win ROOF;三谷商事株式会社)を使用して算出した。肝臓切片上の少なくとも15mm2の範囲にわたり計測し、結果は計測した肝臓面積に対する陽性面積率(%)で示した。結果は図6にグラフで示した。図6にも示されるように、I型コラーゲンの陽性面積率(%)は、対照群で5.16±0.98%であったのに対し、Chase ABC酵素群では1.61±0.29%、Chase AC酵素群では4.30±0.18%、Chase B酵素群では3.38±0.50%であった。対照群と比較して、全ての酵素群でI型コラーゲンの陽性面積率(%)が有意差をもって減少していた(Chase ABC酵素群:p=0.0018、Chase AC酵素群:p=0.023、Chase B酵素群:p=0.0059;全てt検定)。とりわけChase ABC酵素群では、Chase AC酵素群及びChase B酵素群と比較しても、I型コラーゲンの陽性面積率(%)が統計学的に有意に減少しており(Chase AC酵素群との有意差:p=0.0008、Chase B酵素群との有意差:p=0.003;いずれもt検定)、I型コラーゲン沈着抑制効果が極めて高いことが示された。一方、Chase AC酵素群とChase B酵素群の比較では、統計学的な有意差は認めなかった(p=0.068、t検定)。なお四塩化炭素を投与しない正常マウスから採取した正常肝でも同様の解析を行ったが、I型コラーゲンの陽性面積率は0%であった。この結果から、コンドロイチナーゼABCの投与によって、線維化肝におけるI型コラーゲンの沈着を顕著に抑制できることが示された。
【0138】
実施例5:マウス肝硬変モデルにおけるコンドロイチナーゼABC(Chase ABC)のコンドロイチン硫酸(CSPG)沈着抑制効果
Chase ABCの投与によって線維化肝に沈着したコンドロイチン硫酸(CSPG)が分解されることを確認するために、実施例3で作製した対照群及びChase ABC酵素群の肝組織試料について、実施例1と同様にして、抗CSPG抗体、抗C4SPG抗体、及び抗C6SPG抗体を一次抗体として用いて免疫組織学的解析を行った。
得られた肝組織の免疫染色像の例を図7に示す。図7中、左側の列が対照群、右側の列がChase ABC酵素群である。図7に示される通り、対照群では、実施例1の硬変肝と同様に、CSPG、C4SPG、C6SPGのそれぞれに対し明瞭な陽性シグナルが観察された。一方、Chase ABC酵素群では、対照群と比較して、CSPG、C4SPG、C6SPGのいずれに対するシグナルも明白に減弱していた。とりわけC6SPGの染色像(最下段)においては、対照群において、実施例4及び5でコラーゲンの伸長が観察された偽小葉周囲に沿って、明瞭な陽性シグナルが検出されたのに対し、Chase ABC酵素群においてはそのシグナルがほぼ完全に消失していた。
以上の結果から、コンドロイチナーゼABCの投与により線維化肝に沈着したCSPGが分解されることが実証された。
【0139】
実施例6:マウス肝硬変モデルにおけるコンドロイチナーゼABC(Chase ABC)の線維芽細胞集積抑制効果
線維化を促進するコラーゲンの産生細胞としては、活性化線維芽細胞が中心的な存在である。線維芽細胞の過剰集積、定着、及び活性化は線維化病変を増悪させると言われている。そこで、肝硬変モデルにおける線維芽細胞の動態に関して、免疫組織学的検討を行った。
まず、実施例3で作製した対照群及びChase ABC酵素群由来の切片試料に、一次抗体としてラット抗マウス線維芽細胞抗体(クローンER-TR7;1:500希釈;BMA社製)を添加し、室温で1時間反応させた。続いて、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG(1:200希釈;バイオソース社製)を添加して、室温で30分更に反応させた後、DAB基質(ニチレイ社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。なお四塩化炭素を投与しない正常マウスから採取した正常肝についても同様の免疫組織学的解析を行った。
【0140】
得られた肝組織の免疫染色像の例を図8に示す。図8中、最左列が正常群(正常肝)、中間列が対照群、最右列がChase ABC酵素群を示す。上段は倍率100倍の像、下段は倍率200倍の像である。未処置の正常マウス肝臓においては、線維芽細胞に対する陽性シグナルは門脈周辺に強く分布していた。また、対照群(硬変肝)では線維芽細胞が明白に偽小葉に沿って集積していることが示されたが、Chase ABC群ではその集積の程度はごく軽度であった。このことから、線維化肝における線維芽細胞の過剰集積又は定着が、Chase ABC投与により、顕著に抑制されたことが示された。
【0141】
さらに、本実施例で硬変肝において線維芽細胞が偽小葉(線維化層)に沿って集積したこと、及び前述の実施例でも対照群の硬変肝において偽小葉周囲に沿って明瞭なCSPG陽性シグナルが検出されたことから、肝臓の線維化においてはCSPGが線維芽細胞の足場を提供することが考えられた。
【0142】
実施例7:マウス肝硬変モデルにおけるコンドロイチナーゼABC(Chase ABC)のマクロファージ集積抑制効果
線維芽細胞を活性化させる因子を産生する細胞は、主にマクロファージであると考えられている。そこで、肝硬変モデルにおけるマクロファージの動態に関しても免疫組織学的検討を行った。
まず、実施例3で作製した対照群及びChase ABC酵素群由来の切片試料に、一次抗体としてラット抗マウスマクロファージ抗体(クローンF4/80;1:500希釈;BMA社製)を添加し、室温で1時間反応させた。続いて、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG(1:200希釈;バイオソース社製)を添加して、室温で30分更に反応させた後、DAB基質(ニチレイ社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。なお四塩化炭素を投与しない正常マウスから採取した正常肝についても同様の免疫組織学的解析を行った。
【0143】
得られた肝組織の免疫染色像の例を図9に示す。図9中、最左列が正常群(正常肝)、中間列が対照群、最右列がChase ABC酵素群を示す。図9に示される通り、正常肝では陽性シグナルは類洞に広く分布しており、これはクッパー細胞と考えられた。一方、対照群の硬変肝では明らかにマクロファージの数が増加しており、実施例4及び5で偽小葉を取り囲むように観察されたコラーゲンの脇にも、数多く認められた。一方、Chase ABC酵素群では、マクロファージ数が対照群に比べて明白に減少していた。すなわち、Chase ABC酵素群では、硬変肝におけるマクロファージの集積が抑制されることが示された。この結果から、対照群(硬変肝)では未だ進行性の線維化病変形成過程にあるのに対し、Chase ABC酵素群では線維化の進行が抑制されていることが示唆された。
【0144】
実施例8:ADAMTS-4ペプチド投与によるマウス肝硬変モデルの治療効果(線維芽細胞浸潤の抑制):
マウス四塩化炭素誘発肝硬変モデルは、実施例1と同様の方法で惹起した。また、治療に使用したADAMTS-4ペプチド配列は、NH2-DRARSCAIVEDDGLQSAFTA-COOH(配列番号:67)(マウスADAMTS-4のメタロプロテイナーセ活性を有するドメインである、336-355番目のペプチドを合成したもの;ジーンワールド社製、1μg/匹)であり、対照群にはvehicle(PBS)を用いた。四塩化炭素の追加投与(9回目から12回目までの合計4回)と同様に、合計4回、ペプチドもしくはvehicleを腹腔内投与した。追加投与終了後、両群のマウスを屠殺し、肝臓組織切片を作成、免疫組織学的検討を行った。
線維化を促進するコラーゲンの産生細胞としては、活性化線維芽細胞が中心的な存在である。線維芽細胞の過剰集積、定着、及び活性化は線維化病変を増悪させると言われている。そこで、肝硬変モデルにおける線維芽細胞の動態に関して、免疫組織学的検討を行った。
【0145】
対照群及びADAMTS-4治療群由来の切片試料に、一次抗体としてラット抗マウス線維芽細胞抗体(クローンER-TR7;1:500希釈;BMA社製)を添加し、室温で1時間反応させた。続いて、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG(1:200希釈;バイオソース社製)を添加して、室温で30分更に反応させた後、DAB基質(ニチレイ社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、茶色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。
得られた肝組織の免疫染色像の例を図10に示す。対照群(硬変肝)では線維芽細胞が明白に偽小葉に沿って集積していることが示されたが、ADAMTS-4治療群ではその集積の程度はごく軽度であった。このことから、線維化肝における線維芽細胞の過剰集積又は定着が、ADAMTS-4投与により、顕著に抑制されたことが示された。
【0146】
実施例9:ADAMTS-4ペプチド投与によるマウス肝硬変モデルの治療効果(III型コラーゲンの抑制):
実施例8と同様にして肝臓の凍結切片の試料を作製し、免疫組織学的解析を行った。一次抗体としてウサギ抗マウスIII型コラーゲン抗体(1:250希釈;サンタクルーズ社製)を試料に添加し、室温で1時間反応させた。続いて、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG(1:200希釈;Jackson ImmunoResearch社製)を添加し、室温で30分間更に反応させた後、アルカリフォスファターゼ発色基質(ベクター・レッド;Vector Laboratory社製)を添加した。光学顕微鏡(ライカ社製)下で試料を観察し、赤色のシグナルで可視化された抗体結合を確認した。
得られた肝組織の免疫染色像の例を図11に示す。対照群では、ウサギ抗マウスIII型コラーゲン抗体によって検出されたIII型コラーゲン・ファイバーが、類洞のみならず、中心静脈から門脈まで連なって伸長し、一部には偽小葉を形成していることが示された。これは、肝硬変に典型的な像であった。これに対しADAMTS-4群では、III型コラーゲンの伸長はほとんど認められなかった。
【0147】
実施例10:ADAMTS-4ペプチド投与によるマウス肝硬変モデルの治療効果(線維化スコアの抑制):
実施例9で行った免疫組織学的染色に基づき、各試料の肝線維化の程度を既報(Dai K, et al. World J Gactroenterol. 31:4822-4826, 2005、Hillebrandt S, et al. Nature Genetics 37:835-843, 2005)に従って、線維化度数で評価した。線維化度数の評価基準は以下の通りである。0度:正常、1度:中心静脈からの少量のコラーゲン伸長が認められる、2度:中心静脈からの明白なコラーゲン伸長が認められるが、肝臓全体を取り囲まない程度である、3度:中心静脈からの明白なコラーゲン伸長が認められ、肝臓全体を取り囲む程度である、4度:肝臓全体の瀰漫性コラーゲン伸長が認められ、偽小葉を形成している。
結果を図12にグラフで示す。各バーは、各群における線維化度数の平均値±標準偏差を示している。対照群は3.9±0.4(n=6)であるのに対し、ADAMTS-4治療群は2.3±0.4(n=6)であった。対照群と比較すると、ADAMTS-4治療群(p<0.001、t検定)で統計学的に有意に線維化が軽減されていた。以上より、ADAMTS-4ペプチドの投与は、臨床的に優れた肝線維化抑制効果を発揮することが示された。
【0148】
〔産業上の利用の可能性〕
本発明に係る、コンドロイチナーゼABCを有効成分として含有する肝線維化抑制剤は、肝組織の線維化を抑制することにより、肝組織の過剰な線維化を伴う疾患(肝線維化疾患)の治療又は予防に効果を有する。本発明に係る肝線維化抑制剤は、線維化した肝組織において、III型コラーゲンの伸長を抑制する効能、I型コラーゲンの沈着を抑制する効能、線維芽細胞の集積を抑制する効能、マクロファージの集積を抑制する効能などの線維化に関連する様々な徴候を多面的に抑制する効能を有することから、肝臓の線維化を抑制する上で非常に有用である。本発明の肝線維化抑制剤を投与することによる肝線維化疾患の治療又は予防方法は、薬剤療法によって線維化病変を有効に改善できることから、患者のQOLの向上に役立つ優れた療法となりうる。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はその全体を参照により本明細書中に組み入れるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおけるCSPG、C4SPG、C6SPG、及びHSPGの検出結果(茶色シグナル)を示す写真である。倍率100倍。括弧内は、検出に用いた抗体クローン名を示す。
【図2】四塩化炭素によって誘導された硬変肝における、PBS(コンドロイチナーゼ(−))、Chase AC、Chase B、又はChase ABCでの処理後のCSPGの検出結果(茶色シグナル)を示す写真である。倍率200倍。
【図3】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおけるChase ABC投与後のIII型コラーゲン(赤色シグナル)の減少効果を示す写真である。倍率100倍。
【図4】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおけるChase ABC、Chase AC、又はChase B投与後の線維化度数を示すグラフである。*p<0.05、**p<0.01(t-検定)。
【図5】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおけるChase ABC投与後のI型コラーゲン(赤色シグナル)の減少効果を示す写真である。倍率100倍。
【図6】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおけるChase ABC、Chase AC、又はChase B投与後のIII型コラーゲン陽性面積率(%)を示すグラフである。*p<0.05、**p<0.01(t-検定)。
【図7】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおけるChase ABC投与後のCSPG、C4SPG、C6SPGの検出結果(茶色シグナル)を示す写真である。倍率200倍。
【図8】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおける線維芽細胞の分布(茶色シグナル)とChase ABC投与後の分布の変化を示す写真である。倍率100倍(上段)、200倍(下段)。
【図9】四塩化炭素によって誘導された肝硬変モデルマウスにおけるマクロファージの分布(茶色シグナル)とChase ABC投与後のその分布の変化を示す写真である。倍率200倍。
【図10】ADAMTS-4機能的ペプチド投与による線維芽細胞浸潤の抑制を示す写真である。肝硬変モデル肝組織におけるER-TR7染色像(茶)。上段、100倍。下段、400倍。ADAMTS-4機能的ペプチド投与により、細胞浸潤の抑制の他、偽小葉の形成が抑制されている像である。
【図11】ADAMTS-4機能的ペプチド投与によるIII型コラーゲン増生の抑制を示す写真である。肝硬変モデル肝組織におけるIII型コラーゲン染色像(茶)。100倍。ADAMTS-4機能的ペプチド投与により、偽小葉の形成が抑制されている像である。
【図12】ADAMTS-4機能的ペプチド投与による線維化の抑制を示す図である。III型コラーゲン染色所見を、線維化スコアとして数値化したグラフである。ADAMTS-4機能的ペプチド投与により、肝線維化が有意に抑制されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する物質を有効成分として含む、肝線維化抑制剤。
【請求項2】
前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン分解促進作用を有する物質である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン合成阻害作用を有する物質である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン脱硫酸化作用を有する物質である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
前記物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸化阻害作用を有する物質である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項6】
肝においてコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積が阻害されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の薬剤。
【請求項7】
肝線維化疾患の治療用または予防用の、請求項1〜6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項8】
前記肝線維化疾患が、慢性肝疾患である、請求項7に記載の薬剤。
【請求項9】
前記肝線維化疾患が、慢性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝不全、または肝癌である、請求項7に記載の薬剤。
【請求項10】
被検試料から、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成もしくは蓄積を阻害する作用を有する物質を選択することを特徴とする、肝線維化抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の作用を有する物質を選択する工程を含む、請求項10に記載のスクリーニング方法。
(a)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分解促進作用
(b)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの合成阻害作用
(c)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの脱硫酸化作用
(d)コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸化阻害作用
【請求項12】
前記肝線維化抑制剤が、肝線維化疾患の治療用または予防用である、請求項10または11に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−108033(P2009−108033A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228976(P2008−228976)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【分割の表示】特願2007−542281(P2007−542281)の分割
【原出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(505156709)株式会社ステリック再生医科学研究所 (16)
【Fターム(参考)】